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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1333168
異議申立番号 異議2016-700518  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-07 
確定日 2017-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5828809号発明「加熱調理可能な介護食用加工食品材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5828809号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6及び11〕、〔7?10〕について訂正することを認める。 特許第5828809号の請求項1?4、7、8及び11に係る特許を取り消す。 特許第5828809号の請求項5、6、9及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5828809号(以下「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成27年10月30日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人岡田晃明より特許異議の申立てがされ、平成28年9月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年11月25日に意見書及び実験成績証明書の提出並びに訂正の請求がされ、平成29年1月6日に特許異議申立人より意見書の提出がされた。その後、平成29年3月16日付けで取消理由(決定の予告)が通知されたが、その指定された期間内に、特許権者からは応答がなかった。

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
平成28年11月25日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5828809号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?11について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。

(1) 請求項1?6及び11からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項A(上記訂正請求書における訂正事項1及び2)
特許請求の範囲の請求項1に「(a) 食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であるペースト状食品原材料を加工食品材料の重量に対して5?60重量%含み」と記載されているのを、「(a) 野菜類である食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であるペースト状食品原材料を加工食品材料の重量に対して30?60重量%含み」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、4及び11も同様に訂正する)。

イ 訂正事項B(上記訂正請求書における訂正事項3?5)
特許請求の範囲の請求項1に「(b) ゲル化剤及び補助ゲル化剤として、マンナンを主体としたゲル化剤、及び補助ゲル化剤である加工デンプンのみを混合して含み、マンナンを主体としたゲル化剤は前記加工食品材料の重量に対して0.1?2重量%含み、補助ゲル化剤である加工デンプンは前記加工食品材料の重量に対して1?10重量%含み」と記載されているのを、「(b) ゲル化剤として、こんにゃく粉のみ、及び補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含み、こんにゃく粉は前記加工食品材料の重量に対して0.22?0.53重量%含み、補助ゲル化剤である加工デンプンは前記加工食品材料の重量に対して1?7重量%含み」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、4及び11も同様に訂正する)。

ウ 訂正事項C(上記訂正請求書における訂正事項6)
特許請求の範囲の請求項1に「(d) 加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する、」と記載されているのを、「(e) 煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、4及び11も同様に訂正する)。

エ 訂正事項D(上記訂正請求書における訂正事項7)
特許請求の範囲の請求項3に「マンナンを主体としたゲル化剤及び補助ゲル化剤である加工デンプン」と記載されているのを、「ゲル化剤であるこんにゃく粉及び補助ゲル化剤である加工デンプン」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4及び11も同様に訂正する)。

オ 訂正事項E(上記訂正請求書における訂正事項8)
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

カ 訂正事項F(上記訂正請求書における訂正事項9)
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(2) 請求項7?10からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項G(上記訂正請求書における訂正事項10)
特許請求の範囲の請求項7に「(a) 食品原材料を冷凍後裁断して得られる」と記載されているのを、「(a) 野菜類である食品原材料を冷凍後裁断して得られる」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。

イ 訂正事項H(上記訂正請求書における訂正事項11?15)
特許請求の範囲の請求項7に「(b) マンナンを主体としたゲル化剤及び補助ゲル化剤である加工デンプンのみからなるゲル化剤及び補助ゲル化剤の混合物、並びにその他の副原料を、前記ペースト状食品原材料が5?60重量%、前記マンナンを主体としたゲル化剤が0.1?2重量%、及び補助ゲル化剤である加工デンプンが1?10重量%含まれるように混合し」と記載されているのを、「(b) こんにゃく粉のみからなるゲル化剤及び加工デンプンのみからなる補助ゲル化剤の混合物、並びにその他の副原料を、前記ペースト状食品原材料が30?60重量%、前記こんにゃく粉が0.22?0.53重量%、及び補助ゲル化剤である加工デンプンが1?7重量%含まれるように混合し」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。

ウ 訂正事項I(上記訂正請求書における訂正事項16)
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

エ 訂正事項J(上記訂正請求書における訂正事項17)
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

2 訂正の適否
(1) 請求項1?6及び11からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 訂正事項Aについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項Aは、訂正前の請求項1の「食品原材料」としていたものを、訂正後の請求項1の「野菜類である食品原材料」と特定することで、当該食品原材料が野菜類であることに特定して特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、また、訂正前の請求項1の「ペースト状食品原材料を加工食品材料の重量に対して5?60重量%含み」としていたものを、訂正後の請求項1の「ペースト状食品原材料を加工食品材料の重量に対して30?60重量%含み」とすることで、ペースト状食品原材料の含有量の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項Aは、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、4及び11についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項Aは、食品原材料が野菜類であることに減縮するとともに、ペースト状食品原材料の含有量の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、4及び11に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項Aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項Aは、願書に添付した明細書の「用いる食品原材料は、限定されず、・・・、特に好ましくは野菜類である。」(【0020】)という記載及び「ペースト状食品原材料は、元々の水分含量により異なるが、・・・水分含量の多い青果類は、30?60重量%程度、・・・混ぜればよい。」(【0028】)という記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

イ 訂正事項Bについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項Bは、訂正前の請求項1の「マンナンを主体としたゲル化剤」としていたものを、訂正後の請求項1の「こんにゃく粉のみ」に特定するとともに、訂正前の請求項1の「マンナンを主体としたゲル化剤は前記加工食品材料の重量に対して0.1?2重量%含み」としてたものを、訂正後の請求項1の「こんにゃく粉は前記加工食品材料の重量に対して0.22?0.53重量%含み」に限定し、かつ、訂正前の請求項1の「補助ゲル化剤である加工デンプンは前記加工食品材料の重量に対して1?10重量%含み」としていたものを、訂正後の請求項1の「補助ゲル化剤である加工デンプンは前記加工食品材料の重量に対して1?7重量%含み」と限定して、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項Bは、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、4及び11についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項Bは、訂正前の請求項1の「ゲル化剤及び補助ゲル化剤として、マンナンを主体としたゲル化剤、及び補助ゲル化剤である加工デンプンのみを混合して含み」としていたものを、訂正後の請求項1の「ゲル化剤として、こんにゃく粉のみ、及び補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含み」とすることで、ゲル化剤としてこんにゃく粉のみを含み、補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含むことを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
同様に、訂正事項Bは、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、4及び11についても上記のとおり明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項Bは、マンナンを主体としたゲル化剤をこんにゃく粉のみに限定するとともに、こんにゃく粉は加工食品材料の重量に対して0.22?0.53重量%含むことを特定し、かつ、補助ゲル化剤である加工デンプンは加工食品材料の重量に対して1?7重量%含むことを特定し、併せて、ゲル化剤としてこんにゃく粉のみを含み、補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含むことを明確にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項2、3、4及び11に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。よって、訂正事項Bは、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項Bは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項5の「マンナンを主体としたゲル化剤が、こんにゃく粉又はグルコマンナンである」という記載、願書に添付した明細書に記載された介護食用加工食品材料を製造した実施例1及び2で用いられているこんにゃく粉の加工食品材料に対する含有割合の下限値0.22重量%及び上限値0.53重量%(【0044】?【0064】)、及び、願書に添付した明細書の「補助ゲル化剤としての加工デンプンは、本発明の加工食品材料を製造するための配合材料全体に対して、1?10重量%、好ましくは1?7重量%混ぜる。」(【0027】)という記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

エ 訂正事項Cについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項Cは、訂正前の請求項1の「加熱調理」について、訂正後の請求項1の「煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理」と特定することで、加熱調理の内容を特定して特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項Cは、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、4及び11についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項Cは、訂正前の請求項1の「(d)」を、訂正後の請求項1の「(e)」とし、請求項中の箇条書きが「(a)・・・、(b)・・・、(c)・・・、(d)・・・、(d)・・・」となっていたものを「(a)・・・、(b)・・・、(c)・・・、(d)・・・、(e)・・・」へと、その誤記を訂正しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
同様に、訂正事項Cは、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、4及び11についても上記のとおり誤記を訂正しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項Cは、加熱調理の内容を特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、4及び11に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項Cは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項Cは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項4の「煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理することができる」という記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

オ 訂正事項Dについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項Dは、訂正前の請求項3の「マンナンを主体としたゲル化剤」としていたものを、訂正後の請求項3の「ゲル化剤であるこんにゃく粉」に特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項Dは、訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4及び11についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項Dは、マンナンを主体としたゲル化剤をこんにゃく粉に特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項3を引用する訂正後の請求項4及び11に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項Dは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項Dは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項5の「マンナンを主体としたゲル化剤が、こんにゃく粉又はグルコマンナンである」という記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

カ 訂正事項E及びFについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項E及びFは、訂正前の請求項5及び6を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項E及びFは、訂正前の請求項5及び6を削除するのみであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない。よって、訂正事項E及びFは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項E及びFは、訂正前の請求項5及び6を削除するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

(2) 請求項7?10からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 訂正事項Gについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項Gは、訂正前の請求項7の「食品原材料」としていたものを、訂正後の請求項7の「野菜類である食品原材料」と特定することで、当該食品原材料が野菜類であることに特定して特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項Gは、訂正後の請求項7を引用する訂正後の請求項8についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項Gは、食品原材料が野菜類であることに減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項7を引用する訂正後の請求項8に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項Gは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項Gは、願書に添付した明細書の「用いる食品原材料は、限定されず、・・・、特に好ましくは野菜類である。」(【0020】)という記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項に適合する。

イ 訂正事項Hについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項Hは、訂正前の請求項7の「マンナンを主体としたゲル化剤」としていたものを、訂正後の請求項7の「こんにゃく粉のみからなるゲル化剤」に特定するとともに、訂正前の請求項7の「前記ペースト状食品原材料が5?60重量%、前記マンナンを主体としたゲル化剤が0.1?2重量%、及び補助ゲル化剤である加工デンプンが1?10重量%含まれるように混合し」としてたものを、訂正後の請求項1の「前記ペースト状食品原材料が30?60重量%、前記こんにゃく粉が0.22?0.53重量%、及び補助ゲル化剤である加工デンプンが1?7重量%含まれるように混合し」として、それぞれの含有量の範囲を限定して、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正事項Hは、訂正後の請求項7を引用する訂正後の請求項8についても上記のとおり減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項Hは、訂正前の請求項7の「マンナンを主体としたゲル化剤及び補助ゲル化剤である加工デンプンのみからなるゲル化剤及び補助ゲル化剤の混合物」としていたものを、訂正後の請求項7の「こんにゃく粉のみからなるゲル化剤及び加工デンプンのみからなる補助ゲル化剤の混合物」とすることで、ゲル化剤がこんにゃく粉のみからなること及び補助ゲル化剤が加工デンプンのみからなることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
同様に、訂正事項Hは、訂正後の請求項7を引用する訂正後の請求項8についても上記のとおり明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項Hは、マンナンを主体としたゲル化剤をこんにゃく粉のみからなるゲル化剤に限定するとともに、ペースト状食品原材料が30?60重量%、こんにゃく粉が0.22?0.53重量%、補助ゲル化剤である加工デンプンが1?7重量%含まれるように混合しすることを限定し、併せて、ゲル化剤がこんにゃく粉のみからなること、補助ゲル化剤が加工デンプンのみからなることを明確にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項8に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。よって、訂正事項Hは、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項Hは、願書に添付した特許請求の範囲の請求項9の「マンナンを主体としたゲル化剤が、こんにゃく粉又はグルコマンナンである」という記載、願書に添付した明細書の「ペースト状食品原材料は、元々の水分含量により異なるが、・・・水分含量の多い青果類は、30?60重量%程度、・・・混ぜればよい。」(【0028】)という記載、願書に添付した明細書に記載された介護食用加工食品材料を製造した実施例1及び2で用いられているこんにゃく粉の加工食品材料に対する含有割合の下限値0.22重量%及び上限値0.53重量%(【0044】?【0064】)、及び、願書に添付した明細書の「補助ゲル化剤としての加工デンプンは、本発明の加工食品材料を製造するための配合材料全体に対して、1?10重量%、好ましくは1?7重量%混ぜる。」(【0027】)という記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項I及びJについて
(ア) 訂正の目的について
訂正事項I及びJは、訂正前の請求項9及び10を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項I及びJは、訂正前の請求項9及び10を削除するのみであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない。よって、訂正事項I及びJは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(ウ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
訂正事項I及びJは、訂正前の請求項9及び10を削除するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

3 まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同法同条第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1?6及び11〕、〔7?10〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?11に係る発明(以下「本件発明1?11」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】
加熱調理可能なゼリータイプの介護食用加工食品材料であって、
(a) 野菜類である食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であるペースト状食品原材料を加工食品材料の重量に対して30?60重量%含み、さらに
(b) ゲル化剤として、こんにゃく粉のみ、及び補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含み、こんにゃく粉は前記加工食品材料の重量に対して0.22?0.53重量%含み、補助ゲル化剤である加工デンプンは前記加工食品材料の重量に対して1?7重量%含み、
(c) 加熱凝固させた後に、テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値が20,000N/m^(2)以下であり、
(d) 加熱凝固させた後に、テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込むことにより測定したときの凝集性が0?1.0であり、付着性が1,000J/m^(3)以下であり、口腔内に誤嚥性肺炎の原因となる食品残渣が残存しにくい、
(e) 煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する、
介護食用加工食品材料。
【請求項2】
150℃以上の温度で加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する、請求項1記載の介護食用加工食品材料。
【請求項3】
食品原材料を裁断して得られるペースト状食品原材料の裁断粒子がゲル化剤であるこんにゃく粉及び補助ゲル化剤である加工デンプンを介して結合している、請求項1又は2に記載の介護食用加工食品材料。
【請求項4】
150℃以上の温度で煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理することができる、請求項1?3のいずれか一項に記載の介護食用加工食品材料。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値が20,000N/m^(2)以下であるという特性を有し、加熱調理可能なゼリータイプの介護食用加工食品材料の製造方法であって、
(a) 野菜類である食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であるペースト状食品原材料、
(b) こんにゃく粉のみからなるゲル化剤及び加工デンプンのみからなる補助ゲル化剤の混合物、並びにその他の副原料を、前記ペースト状食品原材料が30?60重量%、前記こんにゃく粉が0.22?0.53重量%、及び補助ゲル化剤である加工デンプンが1?7重量%含まれるように混合し、加熱し凝固させることを含む、製造方法。
【請求項8】
食品原材料を完全に冷凍した後に半冷凍状態とし、押し出し・剪断式粉砕方式を用いて10mm以下のメッシュを通過させることにより食品原材料をペースト状にする、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
請求項1?4のいずれか1項に記載の介護食用加工食品材料を材料として用いて調理し、介護食用食品を製造する方法。

第4 取消理由の概要
[理由1]
本件特許の請求項1?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特開2003-259820号公報
甲第2号証:特開平6-296475号公報
甲第3号証:藤原弘史・菱川康利、加工澱粉を用いた「冷凍耐性コンニャク」の製造に関する基礎的研究、大阪城南女子短期大学研究紀要、32、1998年3月10日、第37頁?第53頁
甲第4号証:大分県の物産・特産品の紹介サイト 物産おおいた、くろこん(とろ?り黒胡麻コンニャクデザート)、http://bussan-oita.jp/item-32-123.html、2012年7月3日
甲第5号証:おとなの週末 お取り寄せ倶楽部、【クマガエ】黒ごまこんにゃくデザート、http://www.otoshu.com/O_detail/item_detail.php?katework=SANCHI10&shopwork=SHOP_S449&codework=8500078、2010年
甲第6号証:特開2011-92216号公報
甲第7号証:厚生労働省通知 食安発第0212001号、特別用途食品の表示許可等について、平成21年2月12日
甲第8号証:坂井真奈美・江頭文江・金谷節子・栢下 淳、嚥下食の段階的な物性評価について、日本病態栄養学会誌10(3)、第269頁?第279頁、2007年

[理由2]
本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

[理由3]
本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[理由4]
本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 取消理由についての判断
1 理由1について
1-1 本件発明1について
(1) 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、
「食材原料が、切断、粉砕、磨砕などの公知の方法で平均粒径1mm以下のペースト状の食材原料にされてから、しょうゆ、みりん、酒、砂糖、鰹節粉末、塩等の調味料と共に加熱調理されたもの、又は、上記調味料と共に加熱調理された食材原料が上記公知の方法で平均粒径1mm以下のペースト状の食材原料にされたものに、ゲル化剤と、ゲル化直前の総重量に対し0.2乃至2.0%の冷凍耐性のある澱粉を添加し、ゲル化させ、加熱調理しても煮崩れせず、咀嚼機能の弱い高齢者、幼児、咀鳴困難者及び嚥下困難者にとって食べ易く、冷凍・解凍時の離水が効果的に抑制されるゲル状食品であって、食材原料がにんじん、ほうれん草、大根、玉ねぎ、タケノコ、こんにゃくなどの植物性食材であり、ゲル化剤がカラギーナン、ファーセレラン、寒天、ゼラチン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、タマリンドガム、キサンタンガム、カードラン、ローカストピーンガム等の一種又は二種以上であり、冷凍耐性のある澱粉がコーンスターチ、小麦粉澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉や、それらを加工した加工澱粉である、ゲル状食品。」の発明(以下「甲1発明」という。)
が記載されている(【請求項1】、【請求項5】、【請求項6】、【請求項7】、【0013】、【0019】、【0023】、【0024】、【0027】、【0028】、【0030】?【0044】等参照)。

(2) 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「加熱調理しても煮崩れせず、咀嚼機能の弱い高齢者、幼児、咀鳴困難者及び嚥下困難者にとって食べ易く、冷凍・解凍時の離水が効果的に抑制されるゲル状食品」は、本件発明1の「加熱調理可能なゼリータイプの介護食用加工食品材料」に相当する。
また、甲1発明の「にんじん、ほうれん草、大根、玉ねぎ、タケノコ、こんにゃくなどの植物性食材」である「食材原料」は、本件発明1の「野菜類である食品原材料」に相当する。
また、甲1発明の「ペースト状の食材原料」は、本件発明1の「ペースト状食品原材料」に相当する。
また、甲1発明の「ゲル化剤」と「冷凍耐性のある澱粉を添加し、ゲル化させ」ることは、本件発明1の「ゲル化剤」及び「補助ゲル化剤」を「混合して含み」、「加熱凝固させ」ることに相当する。
また、甲1発明の「加熱調理しても煮崩れせず」ということは、本件発明1の「煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する」ことに相当する。

よって、本件発明1と甲1発明とは、
「加熱調理可能なゼリータイプの介護食用加工食品材料であって、
(a) 野菜類である食品原材料であるペースト状食品原材料を含み、さらに
(b) ゲル化剤及び補助ゲル化剤を混合して含み、
(c) 加熱凝固させ、
(e) 煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する、
介護食用加工食品材料。」
である点で一致し、以下の点において相違する。

(相違点1)
野菜類であるペースト状食品原材料について、本件発明1は、食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であり、加工食品材料の重量に対して30?60重量%含むのに対し、甲1発明は、平均粒径は1mm以下であって、ゲル状食品の重量に対する含有量は特定されていない点。

(相違点2)
ゲル化剤及び補助ゲル化剤について、本件発明1は、ゲル化剤としてこんにゃく粉のみ、及び補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含み、こんにゃく粉は前記加工食品材料の重量に対して0.22?0.53重量%含み、補助ゲル化剤である加工デンプンは前記加工食品材料の重量に対して1?7重量%含むのに対し、甲1発明は、ゲル化剤はカラギーナン、ファーセレラン、寒天、ゼラチン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、タマリンドガム、キサンタンガム、カードラン、ローカストピーンガム等の一種又は二種以上から選択され、補助ゲル化剤である冷凍耐性のある澱粉はコーンスターチ、小麦粉澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉や、それらを加工した加工澱粉であり、ゲル化剤の含有量の特定はないが、補助ゲル化剤はゲル化直前の総重量に対し0.2乃至2.0%含むものである点。

(相違点3)
加工食品材料のかたさについて、本件発明1は、テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値が20,000N/m^(2)以下であり、テクスチャーアナライザーを用い、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値が20,000N/m^(2)以下であるのに対し、甲1発明は、そのような方法によるゲル状食品のかたさは特定されていない点。

(相違点4)
加工食品材料の凝集性及び付着性について、本件発明1は、テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込むことにより測定したときの凝集性が0?1.0であり、付着性が1,000J/m^(3)以下であり、口腔内に誤嚥性肺炎の原因となる食品残渣が残存しにくいのに対し、甲1発明は、そのような方法によるゲル状食品の凝集性及び付着性は特定されていない点。

(3) 相違点1?4についての検討
ア 相違点1について
咀嘔機能の弱い高齢者、幼児、咀嘔困難者及び嚥下困難者にとって食べ易いゲル状食品を口中にざらつきがなく違和感なく食せられるようにすることは、この種食品が当然に有する課題であるところ(例えば、甲第1号証【0008】参照)、甲1発明の平均粒径1mm以下のペースト状の食材原料について、より口中のざらつきをなくすようにする試み、すなわち平均粒径をより小さなものとしてみることは、当業者の通常の創作能力の範囲のことであり、実際、平均粒径が500μm以下の食材原料が、微細にすり上げられているので口中にざらつきがなく違和感なく食することができるものであることが把握できるから(甲第2号証の「微細化は生肉粒子の粒径が0.005?5mm、好ましくは0.01?2mm更に好ましくは0.05?0.5mm以下まで行われる。」(甲第2号証第4頁左欄第36行?第38行)、「微細にすり上げられているので口中にざらつきがなく違和感なく食することができる。」(甲第2号証第5頁左欄第27行?第28行)という記載等参照。)、甲1発明において、ペースト状の食材原料の平均粒径を500μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることである。そして、その際、甲1発明の植物性食材の粒径が500μm以下に粉砕、微粒化されたペースト状食材原料においては、その植物性食材に含まれる繊維質の平均粒径も500μm以下である蓋然性が高い。
また、当業者は、ゲル状食品へのペースト状の食材原料の含有量を、用いる植物性食材の種類に応じて適宜に設定し得るものであるところ、甲1発明のゲル状食品に含まれるペースト状食材原料の含有量を30?60重量%とする程度のことは、当業者が必要に応じて適宜になし得る設計的事項である。
よって、上記相違点1における本件発明1の構成は、当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点2について
甲第3号証には、グルコマンナンに、加工澱粉であるヒドロキシプロピルタピオカ澱粉をグルコマンナンの2倍量?4倍量加えると、解凍後も離水の無い冷凍耐性コンニャクが製造可能となったことが記載されている(51頁下から2行?52頁3行)。
そして、ゲル状食品について、離水量が多くなれば、嚥下困難者の誤嚥のおそれもあるため、凍結・解凍によって離水しないことが望まれていたところ、甲1発明は、凍結・解凍時の離水を抑えたゲル状食品とすることを課題のひとつとし(甲第1号証【0012】?【0013】)、ゲル化剤に冷凍耐性のある澱粉を組み合わせることにより、冷凍・解凍時の離水を効果的に抑制したものであるから(甲第1号証【0027】)、甲第3号証に接した当業者であれば、甲1発明において冷凍・解凍時の離水性を抑制し得るゲル化剤及び補助ゲル化剤として、グルコマンナンのみと加工澱粉のみの組合せを選択することは容易になし得ることである。
また、グルコマンナンはこんにゃく粉の主成分として、ゲル化を生じる成分であることが周知であって、ゲル化剤として、こんにゃく粉をグルコマンナンと同等のものとして扱い得ることは技術常識である。
そして、甲1発明において、ゲル化剤及び補助ゲル化剤の含有量は、「凍結・解凍時の離水を抑え、柔らかく、咀嚼機能の弱い高齢者や幼児は勿論のこと、咀嚼困難者や嚥下困難者であっても食べ易く、かつ外観も良好で盛り付け性の高いゲル状食品・・・を提供する」(甲第1号証【0013】)という甲1発明の目的の範囲で、用いる食材原料やゲル化剤に応じて適宜に設定し得るものであるところ、ゲル化剤及び補助ゲル化剤として、グルコマンナンのみと加工澱粉のみの組合せを選択した際にも、甲第3号証に示された、加工澱粉をグルコマンナンの2倍量?4倍量という比率において適宜に含有させ得るのであるから、当該比率での含有量の具体的な設定として、グルコマンナンを食材原料の重量に対して0.22?0.53重量%含み、加工澱粉を食材原料の重量に対して1?7重量%含むものとすることは、当業者が必要に応じて適宜になし得る設計的事項である。
よって、上記相違点2における本件発明1の構成は、当業者が容易になし得ることである。

ウ 相違点3について
甲第6号証には、介護食用の食材について、その硬さを日本介護食品協議会が定めるユニバーサルデザインフードの区分で表すこと、その硬さの測定は、テクスチャーアナライザーを使用して、直径20mmの円柱型プランジャーを進入速度10mm/secで試料を70%まで潰したときの荷重(N)から応力(N/m^(2))を算出すること、そして、当該ユニバーサルデザインフードの区分3の規格硬さは、硬さ上限値が2×10^(4)(N/m^(2))であることが記載されている(【0009】?【0010】、【0023】、【0039】?【0040】)。
そうすると、「凍結・解凍時の離水を抑え、柔らかく、咀嚼機能の弱い高齢者や幼児は勿論のこと、咀嚼困難者や嚥下困難者であっても食べ易く、かつ外観も良好で盛り付け性の高いゲル状食品・・・を提供する」(甲第1号証【0013】)ことを目的とする甲1発明において、その硬さを日本介護食品協議会が定めるユニバーサルデザインフードの区分に従って表すこと、そのために、テクスチャーアナライザーを使用して、直径20mmの円柱型プランジャーを進入速度10mm/secで試料を70%まで潰したときの荷重(N)から応力(N/m^(2))を算出することは、当業者であれば当然に想到し得ることである。
そして、甲1発明の上記目的の範囲において、甲1発明のゲル状食品の硬さは、当該ユニバーサルデザインフードの区分に従って適宜に調整することができるから、具体的に当該ユニバーサルデザインフードの区分3の規格硬さ(硬さ上限値が2×10^(4)N/m^(2))に調整することも当業者が容易になし得ることである。
よって、上記相違点3における本件発明1の構成は、当業者が容易になし得ることである。

エ 相違点4について
甲第7号証には、えん下困難者用食品の「硬さ、付着陛及び凝集性の試験方法」として、「試料を直径40mm、高さ20mm(試料が零れる可能性がない場合は、高さ15mmでも可)の容器に高さ15mmに充填し、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いて、直径20mm、高さ8mm樹脂性のプランジャーを用い、圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmで2回圧縮測定する。測定は、冷たくして食する又は常温で食する食品は10±2℃及び20±2℃、温かくして食する食品は20±2℃及び45±2℃で行う。」(20頁下から4?11行)ことが記載されている。
また、甲第8号証には、嚥下食の物性を、甲第7号証と同じ測定方法により測定していること、その測定結果から、かたさのほか、凝集性、付着性を算出していること、及び、摂食・嚥下障害者の状態に応じて嚥下食を5段階に区分し、段階5に区分される嚥下食は、かたさが40×10^(3)N/m^(2)以下、凝集性が0?1.0、付着性が10×10^(2)J/m^(3)以下であることが記載されている(270頁左欄下から10行?271頁左欄2行、図1、表1、表6等参照)。
ここで、甲第7号証及び甲第8号証に記載された測定装置及び測定方法は、甲第6号証に記載された日本介護食品協議会が定めるユニバーサルデザインフードの区分で表すための測定装置及び測定方法と同じであることを踏まえれば、甲1発明のゲル状食品の硬さを上記ユニバーサルデザインフードの区分で表すための測定を行う際に、同じ測定装置、測定方法により算出し得る、嚥下困難者用の食品として有用な物性値である凝集性及び付着性についても算出することは、当業者であれば当然に想到し得ることである。
そして、甲1発明のゲル状食品の物性(硬さ、凝集性及び付着性)は、上述した甲1発明の目的(甲第1号証【0013】)の範囲において、適宜に調整することができるから、具体的に当該ユニバーサルデザインフードの区分3の規格硬さ(硬さ上限値が2×10^(4)N/m^(2))を含む区分である甲第8号証記載の「段階5」の範囲に調整することも当業者が容易になし得ることである。
よって、上記相違点4における本件発明1の構成は、当業者が容易になし得ることである。

オ 本件発明1の奏する効果について
本件発明1の「本発明のゼリータイプの加工食品材料は、加熱調理可能であり、加熱調理後でも立体形状を保つ。また、原材料として用いる青果物や肉の配合比が高く、原材料が元々有する風味や栄養成分を保持している。さらに、ユニバーサルデザインフード3(UDF3)区分のやわらかを有する。また、咀嚼後の口腔内での凝集性に優れ、残渣が口腔内に残りにくいので、誤嚥の危険性が小さく、誤嚥性肺炎を引き起こす危険も小さい。従って、咀嚼及び嚥下能力が低下した要介護者のための介護用食品の材料として用いることができる。」(【0015】)という効果についてみても、甲1発明及び甲第2、3、6?8号証に記載された事項から当業者が予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものとは認められない。

特許権者は、平成28年11月25日付け「実験成績証明書」を提出し、実験1において「[目的]ゲル化剤としてこんにゃく粉のみ、及び補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含む介護食用加工食品材料の効果が他のゲル化剤と補助ゲル化剤との混合物に対して特に優れていることを証明する。」としているが、上記「ゲル化剤としてこんにゃく粉のみ、及び補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含む介護食用加工食品材料の効果が他のゲル化剤と補助ゲル化剤との混合物に対して特に優れている」ことに関しては、本件特許明細書に何ら記載のない事項であるから、上記実験成績証明書の実験1は、明細書の記載に基づかない主張であって、認められないものである。
また、上記実験1において、こんにゃく粉と比較されているのは「A:タラガム、B:グァーガム、C:カラギナン、D:キサンタンガム」であり、甲第1号証において好適形態のゲル化剤として例示されているジェランガムやカードランとの比較がなされたものでもない。

(4) 小括
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2、3、6?8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-2 本件発明2?4及び11について
(1) 本件発明2及び4について
請求項2において限定している「150℃以上の温度で加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する」点及び請求項4において限定している「150℃以上の温度で煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理することができる」点については、甲1発明も、加熱調理しても煮崩れない、すなわち、加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持しているものであるところ、その加熱温度を具体的に150℃以上とする点や加熱調理方法を具体的に特定する点についても、通常用いられる範囲の加熱調理温度と周知の加熱調理方法を特定したにすぎず、甲1発明に用い得る食材原料やその調理方法、加熱手段に応じて当業者が適宜に設定し得る事項であって、それにより作用効果上格段の差異を生じるものとも認められない。

(2) 本件発明3について
請求項3において限定している「食品原材料を裁断して得られるペースト状食品原材料の裁断粒子がゲル化剤であるこんにゃく粉及び補助ゲル化剤である加工デンプンを介して結合している」点についてみる。
甲1発明のゲル化剤及び補助ゲル化剤として、こんにゃく粉のみと加工澱粉のみの組合せを選択し得ることは上記相違点2の検討において示したとおりであるところ(1-1(3)イ)、当該組合せを選択した際には、甲1発明のペースト状の食材原料の結合状態は、請求項3において限定した上記の点と同様の状態となっているものと認められる。

(3) 本件発明11について
請求項11において限定している「介護食用加工食品材料を材料として用いて調理し、介護食用食品を製造する方法」は、甲第1号証に記載されている(【0035】?【0041】等参照)。

1-3 本件発明7及び8について
(1) 本件発明7について
甲第1号証には、甲1発明を製造する方法(以下「甲1’発明」という。)も記載されているところ、本件発明7と甲1’発明とを対比すると、両者は、上記相違点1?4において相違するほか、
(相違点a)
その他の副原料の添加時期について、本件発明7では、その他の副原料がゲル化剤及び補助ゲル化剤の混合物と混合されるのに対し、甲1’発明では、しょうゆ、みりん、酒、砂糖、鰹節粉末、塩等の調味料(「その他の副原料」に相当。)が、ペースト伏の食材原料と共に加熱調理されるか、又は、上記調味料が食材原料と共に加熱調理されてから公知の方法でペースト状の食材原料にされた後、ゲル化剤と冷凍耐性のある澱粉が添加される点。
において相違するものと認められる。
しかしながら、上記相違点1?4についての判断は、上記1-1(3)に示したとおりであり、また、上記相違点aについても、食材原料への調味料の添加タイミングは調理に応じて適宜に設定され得るものであるところ、甲第1号証には「食材原料は、切断、粉砕、加熱、溶解そしてゲル化の各工程において適宜調味してもよく」(【0021】)との示唆もあるから、甲1’発明のしょうゆ、みりん、酒、砂糖、鰹節粉末、塩等の調味料をゲル化剤及び補助ゲル化剤とともに混合して添加する程度のことは、当業者が適宜になし得ることである。
よって、本件発明7は、甲1’発明及び甲第2、3、6?8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(2) 本件発明8について
請求項8において限定している「食品原材料を完全に冷凍した後に半冷凍状態とし、押し出し・剪断式粉砕方式を用いて10mm以下のメッシュを通過させることにより食品原材料をペースト状にする」点についてみる。
甲第1号証には、「食材原料を微粒子状又はペースト状にする処理は、公知の方法を使用することができ、特に限定されないが、例えば、切断、粉砕、磨砕などが挙げられる。」(【0023】)と記載されるところ、甲1’発明において、食材原料をペースト状にする粉砕の方法を、食材原料を微粒子化又はペースト状にする粉砕装置として周知の押し出し・剪断式粉砕機(チョッパー)を用いて行うことに格段の困難性はなく、10mm以下のメッシュを使用することも目的とする微粒化、ペーストの程度に応じて適宜なし得ることにすぎない。
また、食材原料を微粒化してペースト状に加工するに際して、当該食材原料を凍結又は半凍結状としてから粉砕装置により粉砕、微粒化することは甲第2号証(【0005】)に記載されている。
そして、甲1’発明において、周知の押し出し・剪断式粉砕機(チョッパー)を用いること、食材原料を凍結又は半凍結状としてから粉砕装置により粉砕、微粒化することについて特段の阻害要因は見当たらないから、請求項8において限定している上記の点は、当業者が容易になし得ることといえる。

1-4 まとめ
以上のとおり、本件発明1?4及び11は、甲1発明及び甲第2、3、6?8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7及び8は、甲1’発明及び甲第2、3、6?8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1?4、7、8及び11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 理由2について
(1) 請求項1及び7に記載されている「野菜類である食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であるペースト状食品原材料」に関し、本件特許明細書には、「本発明の加工食品材料中の繊維質の平均粒径は500μm以下、好ましくは300μm以下である。平均粒径は、例えばレーザ回折式粒度分布測定装置で測定することができる。」(【0021】)という記載及び「裁断の仕方は限定されず、最終的に食品原材料が平均粒径1?5mm程度の食品原材料粉砕粒子からなるペースト状の状態にすればよい。」(【0022】)という記載があり、平均粒径1?5mm程度の食品原材料粉砕粒子からなるペースト状の食品材料をレーザ回折式粒度分布測定装置で測定することにより、繊維質の平均粒径が500μm以下であることを算出しているものと解される。
しかし、上記レーザ回折式粒度分布測定装置は粒子の外側の粒径を測定する装置であるから、食品原材料粉砕粒子からなるペースト状の食品材料の平均粒径(1?5mm程度)は当該装置で測定し得るとしても、繊維質自体をどのように上記測定装置で測定し、平均粒径を算出しているかの具体的方法や手順は何ら記載されておらず、当該繊維質の平均粒径の測定方法は不明である。
よって、本件特許明細書の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明1?4、7、8及び11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2) 特許権者は、冷凍後裁断される食品原材料を野菜類に特定することにより、冷凍後裁断されて得られるペースト状野菜類を構成する微粒子は実質的に繊維質からなり、当該繊維質の粒径をレーザ回折式粒度分布測定装置で測定できる旨主張する(平成28年11月25日付け意見書6頁19?27行)。
しかしながら、食品原材料が野菜類だとしても、平均粒径1?5mm程度の食品原材料粉砕粒子からなるペースト状のものから、どのようにして繊維質自体の平均粒子径が500μm以下であることを測定し、算出し得るかの具体的方法や手順は依然として明らかでない。
また、特許権者の主張するとおり、「冷凍後裁断されて得られるペースト状野菜類を構成する微粒子は実質的に繊維質からな」るのであれば、平均粒径1?5mm程度の野菜類粉砕粒子からなるペースト状の食品材料については、その平均粒径は1?5mm程度となるのであって、当該野菜類の繊維質の平均粒子径がなぜ500μm以下であるといえるのか、理解できない。
なお、「野菜類」は、多種多様な野菜を含み得るものであるところ、水分以外の成分組成に着目しても、本件特許明細書(【0020】)に挙げられている「ダイズ」、「ソラマメ」、「インゲン」等の豆類はたんぱく質を多く含む野菜として知られているし、食物繊維が多いとされる野菜についても一定量のたんぱく質、食物繊維以外の炭水化物や灰分等があることは技術常識であることを踏まえると、すべての野菜類の粉砕粒子が実質的に繊維質からなるということはできない。
そうすると、野菜類を冷凍後裁断して得られる粒子は、繊維質のみならず、たんぱく質、炭水化物等とともに当該粒子を構成する場合があると理解することが普通であり、その場合、繊維質自体の平均粒径は、粒子の外側の粒径を測定する装置であるレーザ回折式粒度分布測定装置によってどのように測定し得るのかは、本件特許明細書の記載からは明らかでない。
よって、特許権者の上記主張は失当であり、本件特許明細書において繊維質の平均粒径の測定方法は依然として不明である。

3 理由3について
(1) 本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書に「本発明は、加熱調理耐性があり、UDF3区分に適用するゼリータイプの介護用途に使用可能な、通常の食品材料を代替し得る代替加工食品材料(食材)を提供することを目的とする。本発明の加工食品材料は、加熱調理後でも立体形状を保ちつつ、ゼリータイプ介護用食品で問題となりがちな、口内残渣の誤嚥に起因する誤嚥性肺炎等の防止等にも、存物誤嚥等の介護上のトラブルにも配慮しており、本発明の加工食品材料の提供は高い産業応用性を持つと考えられる。」(【0009】)と記載されている。
一方、本件発明に対応する野菜類の介護食用加工食品材料の実施例(【0044】?【0055】、【0066】?【0074】)のうち、かたさ、凝集性、付着性が本件発明の範囲にある実施例についてみると、食品原材料の加工食品材料に対する含有量の範囲は、31.2?48.0%であり、同様に、こんにゃく粉の含有量の範囲は、0.44?0.49重量%であり、加工デンプンの含有量の範囲は、4.5?5.1%である。
また、いずれの実施例についても、その食品原材料の繊維質の平均粒径は測定していないし、それら実施例のものの繊維質の平均粒径が当然に500μm以下であるという技術常識もない。
更に、加熱調理後でも、形が崩れることなくもとの形状を維持し、またかたさも維持していたことを確認したのは、実施例1の食品原材料としてダイコンを用いたもの(ダイコン48.0重量%、こんにゃく粉0.45重量%、加工デンプン5.1重量%及び水46.5重量%、繊維質の粒径は不明)で、油で揚げたことによるもののみであり、その他の野菜類について、その他の煮る、蒸す、焼くという加熱調理によっても、同様に加熱調理後でも、形が崩れることなくもとの形状を維持し、またかたさも維持するものとなるかは明らかでなく、またそのような技術常識もない。
そうすると、本件出願時の技術常識に照らしても、本件発明の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとすることはできず、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
よって、請求項1?4、7、8及び11の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2) 特許権者は、上記「実験成績証明書」の実験2、実験3の結果を示して、本件発明がサポート要件を満たしている旨主張する。
しかしながら、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないところ、特許出願後に実験データを提出して、発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を本件発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないから、上記「実験成績証明書」の実験2の結果を参酌することはできない。
たとえ上記「実験成績証明書」の実験2、実験3の結果を参酌することができたとしても、上記実験2は、用いた白菜ペーストの繊維質の平均粒径が不明であること、加熱調理前の物性値が不明であること、加熱調理後の硬さのUDF区分が3ではなく4(本件特許明細書【0035】参照)であり、やわらかすぎる例(加工デンプン(3)の「蒸し」、加工デンプン(6)の「蒸し」、「焼き」、「煮る」)があること等、本件発明がサポート要件を満たすことを証明したものとはいえない。また、実験3の白菜ペーストの測定も、当該ペーストの粒子が繊維質のみからなっていて、当該繊維質を測定できているかは依然として不明であるし、そもそも、「(白菜)ペーストを蒸留水で10倍希釈し」という手順を含む測定方法は、本件特許明細書に何ら記載されていないものである。
よって、特許権者の上記主張は失当であり、本件発明がサポート要件を満たすものであるとすることはできない。

4 理由4について
本件訂正が認められたことにより、請求項1?4、7、8及び11の記載は、その記載のとおりに意味内容を明確に理解することができるものとなった。
よって、請求項1?4、7、8及び11の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第6 本件発明5、6、9及び10に係る特許異議の申立てについて
上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項5、6、9及び10は削除され、本件発明5、6、9及び10に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件発明5、6、9及び10についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?4、7、8及び11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許明細書の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明1?4、7、8及び11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、請求項1?4、7、8及び11の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理可能なゼリータイプの介護食用加工食品材料であって、
(a) 野菜類である食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であるペースト状食品原材料を加工食品材料の重量に対して30?60重量%含み、さらに
(b) ゲル化剤として、こんにゃく粉のみ、及び補助ゲル化剤として加工デンプンのみを混合して含み、こんにゃく粉は前記加工食品材料の重量に対して0.22?0.53重量%含み、補助ゲル化剤である加工デンプンは前記加工食品材料の重量に対して1?7重量%含み、
(c) 加熱凝固させた後に、テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値が20,000N/m^(2)以下であり、
(d) 加熱凝固させた後に、テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込むことにより測定したときの凝集性が0?1.0であり、付着性が1,000J/m^(3)以下であり、口腔内に誤嚥性肺炎の原因となる食品残渣が残存しにくい、
(e) 煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する、
介護食用加工食品材料。
【請求項2】
150℃以上の温度で加熱調理しても崩れることなく元の形状及びかたさを保持する、請求項1記載の介護食用加工食品材料。
【請求項3】
食品原材料を裁断して得られるペースト状食品原材料の裁断粒子がゲル化剤であるこんにゃく粉及び補助ゲル化剤である加工デンプンを介して結合している、請求項1又は2に記載の介護食用加工食品材料。
【請求項4】
150℃以上の温度で煮る、蒸す、焼く、又は揚げることにより加熱調理することができる、請求項1?3のいずれか一項に記載の介護食用加工食品材料。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
テクスチャーアナライザーを用い、介護食用加工食品材料に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値が20,000N/m^(2)以下であるという特性を有し、加熱調理可能なゼリータイプの介護食用加工食品材料の製造方法であって、
(a) 野菜類である食品原材料を冷凍後裁断して得られる繊維質の平均粒径が500μm以下であるペースト状食品原材料、
(b) こんにゃく粉のみからなるゲル化剤及び加工デンプンのみからなる補助ゲル化剤の混合物、並びにその他の副原料を、前記ペースト状食品原材料が30?60重量%、前記こんにゃく粉が0.22?0.53重量%、及び補助ゲル化剤である加工デンプンが1?7重量%含まれるように混合し、加熱し凝固させることを含む、製造方法。
【請求項8】
食品原材料を完全に冷凍した後に半冷凍状態とし、押し出し・剪断式粉砕方式を用いて10mm以下のメッシュを通過させることにより食品原材料をペースト状にする、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
請求項1?4のいずれか1項に記載の介護食用加工食品材料を材料として用いて調理し、介護食用食品を製造する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-15 
出願番号 特願2012-158819(P2012-158819)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (A23L)
P 1 651・ 536- ZAA (A23L)
P 1 651・ 537- ZAA (A23L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鳥居 敬司  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
千壽 哲郎
登録日 2015-10-30 
登録番号 特許第5828809号(P5828809)
権利者 マルハニチロ株式会社
発明の名称 加熱調理可能な介護食用加工食品材料  
代理人 田中 夏夫  
代理人 田中 夏夫  
代理人 平木 祐輔  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  
代理人 藤田 節  

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