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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1333173
異議申立番号 異議2016-700360  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-27 
確定日 2017-08-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5801018号発明「高分子フィルム、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置及び巻き可能ディスプレイ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5801018号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし25〕について訂正することを認める。 特許第5801018号の請求項21に係る特許を維持する。 特許第5801018号の請求項1ないし20及び22ないし25に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許5801018号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし25に係る特許についての出願は、2014年5月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2013年5月9日、韓国、2014年5月8日、韓国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年9月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年4月27日に特許異議申立人 土屋 篤志(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年8月3日付けで取消理由が通知され、同年11月4日付け(受理日:同年11月7日)で特許権者 エルジー・ケム・リミテッド(以下、「特許権者」という。)より意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年11月14日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年12月19日付け(受理日:同年12月20日)で特許異議申立人より意見書が提出され、平成29年2月7日付けで取消理由(決定の予告)(以下、取消理由(決定の予告)という。)が通知され、同年5月9日付け(受理日:同年5月10日)で特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、同年5月22日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年6月23日付け(受理日:同年6月26日)で特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
なお、平成28年11月4日付け(受理日:同年11月7日)でされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項21において、「請求項1の高分子フィルムを含む、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置。」と記載されているのを「30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及び
ラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、
前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、
全体重量中にポリロタキサンを1乃至50重量%を含み、
前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含み、
常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%であり、
92.9%の光透過度及び0.7のヘイズ値を有し、
フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板として使用され、
マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である高分子フィルムを含む、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項14を削除する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項15を削除する。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項16を削除する。

(18)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項17を削除する。

(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項18を削除する。

(20)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項19を削除する。

(21)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項20を削除する。

(22)訂正事項22
特許請求の範囲の請求項22を削除する。

(23)訂正事項23
特許請求の範囲の請求項23を削除する。

(24)訂正事項24
特許請求の範囲の請求項24を削除する。

(25)訂正事項25
特許請求の範囲の請求項25を削除する。

(26)訂正事項26
明細書の【0009】において、「本明細書では、30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及びラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が40モル%乃至70モル%であり、マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である、高分子フィルムが提供される。」と記載されているのを「本明細書では、30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及びラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、全体重量中にポリロタキサンを1乃至50重量%を含み、前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含み、常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%であり、92.9%の光透過度及び0.7のヘイズ値を有し、フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板として使用され、マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である高分子フィルムを含むフレキシブル発光素子ディスプレイ装置が提供される。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書の訂正をする場合であって、請求項ごとに訂正の請求をするときに、請求項の全てについて行っているか否か、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)一群の請求項
本件訂正の請求による訂正は、訂正後の請求項1ないし25についての訂正であるが、訂正前の請求項2ないし25は訂正前の請求項1を引用するものであるので、訂正前の請求項1ないし25は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項21を、訂正前の請求項1に記載された事項を加えることで訂正前の請求項1を引用しない形式に書き改めた上に、「高分子フィルム」が「前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、
全体重量中にポリロタキサンを1乃至50重量%を含み、
前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含み、
常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%であり、
92.9%の光透過度及び0.7のヘイズ値を有し、
フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板として使用され」るものとして、「高分子フィルム」をさらに限定して、訂正後の請求項21とするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1、明細書の【0097】、訂正前の請求項18及び19、明細書の【0117】の【表1】並びに明細書の【0016】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項2ないし25について
訂正事項2ないし25は、訂正前の請求項1ないし20及び22ないし25を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2ないし25は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項26について
訂正事項26は、訂正事項1に伴い、訂正後の請求項21の記載と明細書の記載を整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項26は、願書に添付した明細書についての訂正であるが、本件訂正の請求は、訂正前の請求項1ないし25、すなわち一群の請求項ごとの訂正であり、しかも、その全てについて訂正の請求を行っている。
さらに、訂正事項26は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4ないし6項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正の請求は適法なものであり、訂正後の請求項〔1ないし25〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし25〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし25に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明25」という。)は、平成29年5月9付け(受理日:同年5月10日)で提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】(削除)
【請求項16】(削除)
【請求項17】(削除)
【請求項18】(削除)
【請求項19】(削除)
【請求項20】(削除)
【請求項21】
30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及び
ラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、
前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、
全体重量中にポリロタキサンを1乃至50重量%を含み、
前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含み、
常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%であり、
92.9%の光透過度及び0.7のヘイズ値を有し、
フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板として使用され、
マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である高分子フィルムを含む、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置。
【請求項22】(削除)
【請求項23】(削除)
【請求項24】(削除)
【請求項25】(削除)」

2 取消理由(決定の予告)の概要
取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

「第1 手続の経緯
・・・(略)・・・
第2 訂正の適否について
・・・(略)・・・
第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
・・・(略)・・・
2 取消理由の概要
・・・(略)・・・
3 取消理由についての判断
(1)本件特許の優先日
・・・(略)・・・
(2)甲第2-1号証の記載等
甲第2-1号証(国際公開第2013/176527号)は、国際特許出願(PCT/KR2013/004604)の国際公開公報(国際公開日は2013年11月28日であり、本件特許の優先日である2014年5月8日より前である。)であるが、該国際特許出願は、日本国に国内移行されて国内書面及び翻訳文が提出され、さらに、特表2015-521210号公報(甲第2-3号証)として、国内公表された。
・・・(略)・・・
甲第2-1号証の記載(特に、甲第2-3号証の【請求項12】、【請求項13】、【請求項19】、段落【0068】、【0108】ないし【0111】及び段落【0118】ないし【0125】等を参照。)を整理すると、甲第2-1号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
・・・(略)・・・
(3)対比・判断
・・・(略)・・・
(4)むすび
したがって、本件特許発明1ないし3、5及び7ないし25は、いずれも、甲2発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第4 結語
・・・(略)・・・」

3 取消理由(決定の予告)についての判断
(1)本件特許の優先日
本件特許は、次の第1国出願及び第2国出願に基づく優先権を主張するものである。
第1国出願:韓国10-2013-0052701(出願日:2013年5月9日)
第2国出願:韓国10-2014-0054991(出願日:2014年5月8日)

しかしながら、次の理由により、本件特許発明21に対して、第1国出願に基づく優先権の効果は認められず、本件特許発明21についての新規性及び進歩性の判断の基準日、すなわち本件特許の優先日は、第2国出願の出願日である2014年5月8日である。

<理由>
本件特許発明21における「マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である」という発明特定事項は、第1国出願に係る書類(特許異議申立人が提出した特許異議申立書に添付された甲第6号証。)に記載がなく、当業者にとって自明な事項でもない。
したがって、本件特許発明21は、第1国出願には記載されているとはいえないので、第1国出願に基づく優先権の効果は認められない。

(2)甲第2-1号証の記載等
ア 甲第2-1号証の記載
甲第2-1号証(国際公開第2013/176527号)は、国際特許出願(PCT/KR2013/004604)の国際公開公報(国際公開日は2013年11月28日であり、本件特許の優先日である2014年5月8日より前である。)であるが、該国際特許出願は、日本国に国内移行されて国内書面及び翻訳文が提出され、さらに、特表2015-521210号公報(甲第2-3号証)として、国内公表された。
そして、甲第2-1号証と甲第2-3号証は、内容面での相違は認められず、甲第2-3号証は甲第2-1号証の翻訳文に相当するといえる。
以下、甲第2-1号証については、記載箇所を示し、それに続いて訳文として、甲第2-3号証の記載を摘記する(以下、総称して「甲第2-1号証の記載」という。)。

・甲第2-1号証の第23ページ第1行ないし第26ページ末行
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物、前記環状化合物を貫通する線状分子、および前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基、を含む、ポリロタキサン化合物。
【請求項2】
前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項3】
前記環状化合物は、α-シクロデキストリンおよびβ-シクロデキストリンおよびγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項4】
前記ラクトン系化合物は、直接結合または炭素数1?10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基を介して前記環状化合物に結合された、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項5】
前記ラクトン系化合物の残基は、下記化学式1の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【化3】

(前記化学式1中、mは、2?11の整数であり、nは、1?20の整数である。)
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート系化合物は、直接結合、ウレタン結合、エーテル結合、チオエステル結合またはエステル結合を通じて前記ラクトン系化合物の残基に結合された、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリレート系化合物の残基は、下記化学式2の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【化4】

(前記化学式2中、R_(1)は、水素またはメチルであり、R_(2)は、炭素数1?12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、炭素数4?20のシクロアルキレン基または炭素数6?20のアリーレン基である。)
【請求項8】
前記線状分子は、ポリオキシアルキレン系化合物またはポリラクトン系化合物である、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項9】
前記線状分子は、1,000?50,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項10】
前記封鎖基は、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基およびピレン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項11】
100,000?800,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリロタキサン化合物。
【請求項12】
末端に(メタ)アクリレート系化合物が40モル%?70モル%導入されたラクトン系化合物が結合された環状化合物と、前記環状化合物を貫通する線状分子と、前記線状分子の両末端に配置されて前記環状化合物の離脱を防止する封鎖基と、を含むポリロタキサン化合物、
高分子樹脂またはその前駆体、および
光開始剤、を含む光硬化性コーティング組成物。
【請求項13】
前記ラクトン系化合物の末端に導入される(メタ)アクリレート系化合物の比率は、45モル%?65モル%である、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項14】
前記高分子樹脂は、ポリシロキサン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂およびウレタン(メタ)アクリレート系樹脂からなる群より選ばれた1種以上の高分子樹脂またはこれらの共重合体を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項15】
前記高分子樹脂の前駆体は、(メタ)アクリレート基、ビニル基、シロキサン基、エポキシ基およびウレタン基からなる群より選ばれた1種以上の作用基を含む単量体またはオリゴマーを含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項16】
前記光開始剤は、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物およびオキシム系化合物からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項17】
前記ポリロタキサン化合物1?95重量%、
前記高分子樹脂またはその前駆体1?95重量%、および
光開始剤0.01?10重量%、を含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項18】
有機溶媒をさらに含む、請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物。
【請求項19】
請求項12に記載の光硬化性コーティング組成物の光硬化物を含むコーティングフィルム。」

・甲第2-1号証の第1ページ第5ないし18行
「【0001】
本発明は、ポリロタキサン化合物、光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルムに関し、より詳しくは、特定の化学構造を有する新規なポリロタキサン化合物と、高い耐スクラッチ性、耐薬品性および耐摩耗性などの優れた機械的物性を有すると共に、優れた自己治癒能力を有するコーティング材料を提供できる光硬化性コーティング組成物と、前記光硬化性コーティング組成物から得られるコーティングフィルムとに関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの機械的、物理的、化学的影響による製品の損傷を保護するために、多様なコーティング層またはコーティングフィルムが携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品の表面に適用されている。しかし、製品コーティング表面のスクラッチや外部衝撃による亀裂は、製品の外観特性、主要性能および寿命を低下させるため、製品表面を保護して長期的な製品の品質維持のために多様な研究が進められている。」

・甲第2-1号証の第12ページ第26行ないし第13ページ第2行
「【0068】
前記高分子樹脂は、20,000?800,000の重量平均分子量、好ましくは50,000?700,000の重量平均分子量を有することができる。前記高分子樹脂の重量平均分子量が過度に小さい場合、前記コーティング組成物から形成されるコーティング材料が十分な機械的物性や自己治癒能力を持ち難いことがあり、前記高分子樹脂の重量平均分子量が過度に大きい場合、前記コーティング組成物の形態や物性が均質度が低下することがあり、製造されるコーティング材料の最終物性も低下することがある。」

・甲第2-1号証の第17ページ第9行ないし第22ページ末行
「【0091】
<実施例1?2および比較例1:ポリロタキサンの合成>
実施例1
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]4.53g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール(Hydroquinone monomethylene ether)110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0092】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン(n-Hexane)溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0093】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0094】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0095】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0096】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0097】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は46.8%であった。
【0098】
実施例2
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]9.06g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0099】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン溶媒に落として高分子を沈殿させ、これを濾過して白色の固体高分子(重量平均分子量:500,000)を得ることができた。
【0100】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1のとおりであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状化合物に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0101】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0102】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状化合物に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8と想定すると、図3の7番ピークは、16.00(2H×8)の強度を有することが分かる。
【0103】
そのために、カプロラクトン繰り返し単位の末端が「OH」で100%置換されると、アクリレート作用基と関係する図3の1番ピークは、4.00(2H×2)になるべきであるため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。
【0104】
前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は60.0%であった。
【0105】
比較例1
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、Karenz-AOI[2-acryloylethyl isocyanate、Showadenko(株)]13.58g、ジブチル錫ジラウレート[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドラキノンモノメチレンエテール110mgおよびメチルエチルケトン315gを添加して70℃で5時間反応させて、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状化合物として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0106】
実施例1および2と同様な方法で、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれているポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有することを確認した[ピークの強度(intensity)などは異なり得る]。
【0107】
また、実施例1および2と同様な方法で、ポリロタキサンの環状化合物に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めた結果、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は約100%に近接した。
【0108】
<実施例3?4および比較例2:光硬化性コーティング組成物およびコーティングフィルムの製造>
実施例3
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記実施例1で得られたポリロタキサン100重量部に対してUA-200PA(多官能ウレタンアクリレート、新中村社)15重量部、PU-3400(多官能ウレタンアクリレート、MIWON社)40重量部、Miramer SIU2400(多官能ウレタンアクリレート、MIWON社)10重量部、Estane-5778(ポリエステル系ポリウレタン、Lubrizol社)15重量部、光重合開始剤であるIrgacure-184 1.5重量部、光重合開始剤であるIrgacure-907 1.55重量部、イソプロピルアルコール(IPA)12.5重量部、エチルセルソルブ12.5重量部を混合して光硬化性コーティング組成物を製造した。
【0109】
(2)コーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物をそれぞれPETフィルム(厚さ188μm)にワイヤーバー(70号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm^(2)の紫外線を5秒間照射して30μmの厚さを有するフィルムを製造した。
【0110】
実施例4
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記実施例2で得られたポリロタキサンを使用した点を除いては、実施例3と同様な方法で光硬化性コーティング組成物を製造した。
【0111】
(2)コーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物をそれぞれPETフィルム(厚さ188μm)にワイヤーバー(70号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm^(2)の紫外線を5秒間照射して30μmの厚さを有するフィルムを製造した。
【0112】
比較例2
(1)光硬化性コーティング組成物の製造
前記比較例1で得られたポリロタキサンを使用した点を除いては、実施例3と同様な方法で光硬化性コーティング組成物を製造した。
【0113】
(2)コーティングフィルムの製造
前記光硬化性コーティング組成物をそれぞれPETフィルム(厚さ188μm)にワイヤーバー(70号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm^(2)の紫外線を5秒間照射して30μmの厚さを有するフィルムを製造した。
【0114】
<実験例:コーティングフィルムの物性評価>
前記実施例3および4と比較例2で得られたコーティングフィルムの物性を下記のように評価した。
【0115】
1.光学的特性:Haze meter(村上社製のHR-10)を用いて光透過度とヘーズを測定した。
【0116】
2.自己治癒能力:コーティングフィルムの表面を500gの荷重で銅ブラシで擦った後、スクラッチの回復にかかる時間を測定した。
【0117】
3.耐スクラッチ特性の測定
スチールウール(steel wool)に一定の荷重をかけて往復でスクラッチを作った後、コーティングフィルムの表面を肉眼で観察した。
【0118】
4.マンドレルテスト(Mandrel test)
厚さが異なる円筒形テスト(Cylindrical Mandrel)に前記実施例および比較例で得られたコーティングフィルムをそれぞれ180度巻いて1秒間維持した後、クラックの発生を肉眼で観察し、円筒形テストマンドレルのパイ(Φ)値を低めながらクラックが発生しない時点を確認した。
【0119】
5.硬度:荷重500gで鉛筆硬度を測定した。
【0120】
前記測定結果を下記表1に示した。
【0121】
【表1】

【0122】
前記表1に示されているように、実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、比較例2で得られたコーティングフィルムに比べて、高い透過度を有しながらも低いヘーズを示して優れた外観特性を有する点が確認された。
【0123】
また、銅ブラシで擦った以降に1分以内に表面が元の状態に回復する自己治癒能力に関する実験例でも、前記実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、比較例2で得られたコーティングフィルムに比べて、より優れた自治治癒能力を有する点が確認された。
【0124】
そして、前記実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、一定の荷重がかかるスチールウールの200gまたは300gdの荷重がかかった状態でもスクラッチがほとんど発生せず、優れた耐スクラッチ特性を有する点が確認された。
【0125】
また、前記実施例3および4で製造されたコーティングフィルムは、より低いパイ(Φ)値を有するマンドレルシリンダーでもクラックが発生せず、比較例に比べてより高い弾性と共に耐久性を有する点が確認された。」

イ 甲2発明
甲第2-1号証の記載(特に、甲第2-3号証の【請求項12】、【請求項13】、【請求項19】、【0002】、【0068】、【0091】ないし【0097】、【0108】ないし【0111】及び【0118】ないし【0125】等を参照。)を整理すると、甲第2-1号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「50,000?700,000の重量平均分子量を有する高分子樹脂;及び
ラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン化合物;を含み、
前記ポリロタキサン化合物の中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、
92.3%の光透過度及び0.9のヘイズ値を有し、
携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品の表面に適用され、
マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラックが発生しない時点の円筒形テストマンドレルのΦ値が4である、光硬化性コーティング組成物を含むコーティングフィルムを含む、携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品。」

(3)対比・判断
ア 対比
本件特許発明21と甲2発明を対比する。
甲2発明における「50,000?700,000の重量平均分子量を有する高分子樹脂」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本件特許発明21における「30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂」に相当し、以下、同様に、「ポリロタキサン化合物」は「ポリロタキサン」に、「クラックが発生しない時点の円筒形テストマンドレルのΦ値が4である」は「クラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である」に、「光硬化性コーティング組成物を含むコーティングフィルム」は「高分子フィルム」に、それぞれ、相当する。
また、甲2発明における「携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品の表面に適用され」は、本件特許発明21における「フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板に使用され」と、「電気電子機器に使用され」という限りにおいて一致する。
さらに、甲2発明における「携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品」は、本件特許発明21における「フレキシブル発光素子ディスプレイ装置」と、「電気電子機器」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及び
ラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、
前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、
電気電子機器に使用され、
マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である、高分子フィルムを含む、電気電子機器。」

そして、次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明21においては、「全体重量中にポリロタキサンを1乃至50重量%を含」むのに対し、甲2発明においては、そのようなものであるか不明な点。

<相違点2>
本件特許発明21においては、「前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含」むのに対し、甲2発明においては、そのようなものであるか不明な点。

<相違点3>
本件特許発明21においては、「常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%であ」るのに対し、甲2発明においては、そのようなものであるか不明な点。

<相違点4>
本件特許発明21においては、「92.9%の光透過度及び0.7のヘイズ値を有」するのに対し、甲2発明においては、「92.3%の光透過度及び0.9のヘイズ値を有」する点。

<相違点5>
本件特許発明21においては、「高分子フィルム」は「フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板として使用され」るものであり、そのような「高分子フィルム」を含む「フレキシブル発光素子ディスプレイ装置」であるのに対し、甲2発明においては、「高分子フィルム」は「携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品の表面に適用され」るものであり、そのような「高分子フィルム」を含む「携帯電話などの電気電子機器、電子材料部品、家電製品、自動車の内外装、プラスチック成形品」である点。

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点3及び5について検討する。
明細書の【0118】の「前記表1に示されているように、実施例1及び2の高分子コーティングフィルムは、透明な外観特性を有しながらも高い伸び率及び弾性を確保することができ、優れた耐スクラッチ性などの機械的物性を有し得る。これにより、前記高分子フィルムは強化ガラスなどを代替することができる物性を有し得るため、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置で基板、外部保護フィルムまたはカバーウィンドウとして使用することができる。」との記載によると、本件特許発明21は、特定の「高分子フィルム」が、「高い伸び率」すなわち「常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%」という未知の属性を有することを発見し、該「高分子フィルム」を「フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板」としての使用に適することを見いだして、該「高分子フィルム」を含む「フレキシブル有機発光ダイオードディスプレイ装置」という発明としたものである。
他方、甲第2-1号証には、甲2発明が、「常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%」という属性を有することは記載されていないし、「高い伸び率」という属性を有することすら記載されていない。また、甲第2-1号証の記載から、甲2発明がこれらの属性を有していることが、当業者にとって自明な事項であるとも認められない。さらに、甲第2-1号証には、甲2発明における「高分子フィルム」及び甲2発明の用途として、「フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板」及び「フレキシブル発光素子ディスプレイ装置」は記載されていないし、甲第2-1号証の記載から、甲2発明における「高分子フィルム」及び甲2発明の用途として、「フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板」及び「フレキシブル発光素子ディスプレイ装置」が、当業者にとって自明な事項であるとも認められない。
したがって、高いスクラッチ性や高い耐久性等の性質が、フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイに要求されるものであることが、本件特許の優先日前に周知である(必要であれば、特表2010-506168号公報、特表2011-510905号公報、特表2010-507899号公報及び特開2008-145840号公報の記載等を参照。以下、「周知事項」という。)としても、甲2発明において、相違点3に係る発明特定事項を有することを見いだし、相違点5に係る発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

よって、相違点1、2及び4について検討するまでもなく、本件特許発明21は、甲2発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、平成29年6月23日付け(受理日:同年6月26日)で特許異議申立人が提出した意見書を検討したが、上記判断は左右されない。

(4)むすび
したがって、本件特許発明21は、甲2発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許発明21は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、その特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の内、取消理由(決定の予告)において、取消理由として採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の内、取消理由(決定の予告)において、取消理由として採用しなかった特許異議申立理由は、おおむね次の(1)ないし(3)のとおりである。
また、特許異議申立書においては、証拠方法として、次の文献も挙げられている。
甲第1号証:特開2011-46917号公報
甲第2-2号証:国際公開第2013/176527号(PCT/KR2013/004604号)についての、特許権者が提出した、特許法第184条の3の規定による国内書面及び特許法第184条の4の規定による翻訳文
甲第3号証:SeRM Super Polymer セルムスーパーポリマー ユーザーガイド 2011.09.07 Version アドバンスト・ソフトマテリアルズ社発行
甲第4号証:昭和電工株式会社発行、カレンズAOI○R(当審注:○Rは、Rを○で囲ったもので登録商標であることを表す記号である。)のホームページ(www.karenz.jp/ja/aoi/)からの抜粋
甲第5号証:ASTM D522-93a 付着した有機コーティングのマンドレル屈曲テストのための標準試験方法及びその部分翻訳文
甲第6号証:第1国韓国出願(出願番号:10-2013-0052701、出願日:平成25(2013)年5月9日)及びその部分翻訳文
甲第7号証:本件特許に係る国際特許出願(PCT/KR2014/004164、出願日:平成26(2014)年5月9日)の国際公開公報(国際公開第2014/182127号)

(1)訂正前の請求項1ないし25に係る発明ついての甲第1号証に基づく新規性進歩性違反(特許法第29条第1項第3号及び第2項)

(2)訂正前の請求項1ないし25に係る発明についての甲第2-1号証に基づく新規性違反(特許法第29条第1項第3号)

(3)訂正前の請求項1ないし25に係る発明についての実施可能要件違反、サポート要件違反及び明確性要件違反(特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第6項第2号)

そこで、検討する。
(1)訂正前の請求項1ないし25に係る発明についての甲第1号証に基づく新規性進歩性違反(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について
上記第3 3(3)アで指摘した相違点1ないし5に係る本件特許発明21の発明特定事項については、甲第1号証には記載されていないし、本件特許の優先日前において周知でもない。
したがって、本件特許発明21についての甲第1号証に基づく新規性進歩性違反は理由がない。

(2)訂正前の請求項1ないし25に係る発明についての甲第2-1号証に基づく新規性違反(特許法第29条第1項第3号)について
上記第3 3(3)アで指摘したとおり、本件特許発明21と甲2発明を対比すると、両者は、少なくとも相違点3及び5の点で相違する。
したがって、本件特許発明21についての甲第2-1号証に基づく新規性違反は理由がない。

(3)訂正前の請求項1ないし25に係る発明についての実施可能要件違反、サポート要件違反及び明確性要件違反(特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第6項第2号)について
発明の詳細な説明には、本件特許発明21の実施例が、具体的な製造方法及び具体的なデータをもってして記載されており、本件特許発明21は、発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許発明21についての実施可能要件違反は理由がない。
また、同様の理由により、本件特許発明21は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであり、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件特許発明21についてのサポート要件違反は理由がない。
さらに、請求項21の記載はそれ自体明確であり、また、請求項21に記載された事項に基づいて一の発明が明確に把握できることから、本件特許発明21についての明確性要件違反は理由がない。

よって、上記特許異議申立理由(1)ないし(3)は、いずれも理由がない。

第4 結語
上記第3のとおりであるから、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項21に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1ないし20及び22ないし25は、訂正により削除されたため、請求項1ないし20及び22ないし25に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高分子フィルム、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置及び巻き可能ディスプレイ装置
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子フィルム、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置及び巻き可能ディスプレイ装置に関するものであって、より詳しくは、優れた耐スクラッチ性、耐化学性及び耐摩耗性などの機械的物性と共に高い伸張率または弾性を有しフレキシブルディスプレイ装置または巻き可能ディスプレイ装置などに適用可能な高分子フィルムと、前記高分子フィルムを適用したフレキシブル発光素子ディスプレイ装置及び巻き可能ディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルディスプレイ(Flexible Display)は紙のように薄く柔軟な基板を通じて損傷なく撓めるか曲げるか巻くことができるディスプレイをいう。このようなフレキシブルディスプレイはプラスチック素材またはプラスチックフィルムなどを基板として使用するので軽く、厚さが薄いだけでなく、衝撃にも壊れない長所がある。これによって、モバイル機器用ディスプレイとしての採択が検討されており、曲げるなどディスプレイ形状を変形することができるため、今後生活用品や自動車分野などに拡散する場合、爆発的な需要が期待される未来有望産業である。
【0003】
フレキシブルディスプレイは製品の重量を減らすためにプラスチック基板を使用しているが、曲がり程度が十分でなかったりスクラッチに弱く、また曲がる程度が大きくなると壊れる限界があるため、現在知られたフレキシブルディスプレイにはカバーウィンドウとして強化ガラスなどが共に使用されているのが実情である。
【0004】
本当の意味のフレキシブルディスプレイとして商用化されるためには強化ガラスなどを代替することができる物性を有する材料として代替が必要であり、特にフレキシブルディスプレイが携帯用ディスプレイ装置などの多様な分野で商用化されるためには、外部から加えられる圧力や力によって壊れないだけでなく、十分に曲がり折り畳まれる程度の特性を有しなければならない。
【0005】
これにより、高い弾性を有するだけでなく、外部からの機械的、物理的、化学的影響による製品の損傷を保護することができるフレキシブルディスプレイまたは巻き可能ディスプレイ装置外部材料に対して多様な研究が行なわれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた耐スクラッチ性、耐化学性及び耐摩耗性などの機械的物性と共に高い伸び率または弾性を有し、フレキシブルディスプレイ装置または巻き可能ディスプレイ装置などに適用可能な高分子フィルムを提供するためのものである。
【0007】
また、本発明は、前記高分子フィルムを適用したフレキシブル発光素子ディスプレイ装置を提供するためのものである。
【0008】
また、本発明は前記高分子フィルムを適用した巻き可能ディスプレイ装置を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及びラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、全体重量中にポリロタキサンを1乃至50重量%を含み、前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含み、常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%であり、92.9%の光透過度及び0.7のヘイズ値を有し、フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板として使用され、マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である高分子フィルムを含むフレキシブル発光素子ディスプレイ装置が提供される。
【0010】
また、本明細書では、前記高分子フィルムを含むフレキシブル発光素子ディスプレイ装置が提供される。
【0011】
また、本明細書では、前記高分子フィルムを含む巻き可能ディスプレイ装置が提供される。
【0012】
以下、発明の具体的な実施形態による高分子フィルム、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置及び巻き可能ディスプレイ装置についてより詳細に説明する。
【0013】
本明細書で、‘(メタ)アクリレート’はアクリレート及び(メタ)クリルレート両側を含む意味として使用された。
【0014】
発明の一実施形態によれば、30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及びラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が40モル%乃至70モル%であり、マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である、高分子フィルムを提供することができる。
【0015】
本発明者は発光素子ディスプレイ装置に適用できるコーティング材料、層間材料、基板材料などについて研究を行なって、所定の高分子バインダー樹脂に前記特定構造のポリロタキサン化合物を混合して製造される高分子フィルムが優れた耐スクラッチ性、耐化学性及び耐摩耗性などの機械的物性と共に高い伸び率または弾性を有しフレキシブルまたは巻き可能ディスプレイ装置などに容易に適用できるという点を実験を通じて確認して発明を完成した。
【0016】
前述の特性によって、前記一実施形態の高分子フィルムは、LCD、PDPまたはOLEDなどの発光素子ディスプレイ装置または巻き可能なディスプレイ装置(Rollable Display device)で基板、外部保護フィルムまたはカバーウィンドウとして用いることができる。具体的に、前記発光素子ディスプレイ装置はフレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイであり得、このようなOLEDディスプレイ装置は前記高分子フィルムをカバーウィンドウとして使用することができる。
【0017】
前記高分子フィルムをマンドレルテスト(Mandrel test)に適用時、クラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下、または1Φ乃至8Φまたは3Φ乃至7Φであり得る。即ち、前記高分子フィルムは相対的に低い数値範囲の直径値を有するマンドレルシリンダー上でも曲げられる可撓性や弾性を有し得る。前記Φはマンドレルテストで用いたマンドレルの直径単位を意味し、mmと同一な大きさを有する。
【0018】
また、前記高分子フィルムは、ASTM標準D522-93aの方法Bによって測定した時、クラッキングなく直径が7.0mm以下、または3.0mm乃至7.0mmである円筒形スチールマンドレルの上で曲げられる可撓性または弾性を有し得る。
【0019】
また、前記一実施形態の高分子フィルムは常温で5%乃至500%の伸び率を有し得る。前記高分子フィルムの伸び率は常温で外部圧力または外部力が加えられる時に伸びる程度を意味し、具体的にASTM D638の方法によって測定することができる。このような伸び率の範囲では前記高分子フィルムが外部の圧力や力によって伸張変形しても物理的または化学物性の変化が実質的に起こらないこともある。即ち、前記高分子フィルムは外部から加えられる圧力や力によって壊れないだけでなく、十分に曲がり折り畳まれる程度の弾性または柔軟性を有し得る。
【0020】
前記一実施形態の高分子フィルムが有する高い弾性や伸び率と高い可撓性、折り畳み性(foldable)または巻き性(rollable)の性質は、前記バインダー樹脂に前述の特定の前記ポリロタキサンが共に使用されることによるものである。
【0021】
前記一実施形態の高分子フィルムの厚さは最終適用される製品や用途によって決定することができ、十分な機械的物性を確保しながら高い弾性や伸び率と高い可撓性、折り畳み性(foldable)または巻き性(rollable)の性質を実現するために前記高分子フィルムは5μm乃至100μmの厚さを有し得る。
【0022】
前記一実施形態の高分子フィルムは-80℃乃至100℃、または-60℃乃至80℃のガラス転移温度を有し得る。
【0023】
一方、前記ポリロタキサン(Poly-rotaxane)はダンベル形状の分子(dumbbell shaped molecule)と環状分子(macrocycle)が構造的にはめられている化合物を意味し、前記ダンベル形状の分子は一定の線状分子及びこのような線状分子の両末端に配置された封鎖基を含み、前記線状分子が前記環状分子の内部を貫通し、前記環状分子が前記線状分子に沿って移動可能であり、前記封鎖基によって離脱が防止される。
【0024】
より好ましくは、前記ポリロタキサンは、末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入されたラクトン系化合物が結合された環状分子;前記環状分子を貫通する線状分子;及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基;を含むことができる。即ち、前記ポリロタキサンは前記環状分子にラクトン系化合物が結合されており、このように結合されたラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物が結合さてたことを特徴とする。そして、前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が40モル%乃至70モル%であり得る。
【0025】
特に、前記ポリロタキサンに含まれている環状分子の末端には(メタ)アクリレート系化合物が前記ラクトン系化合物を媒介として結合されていて、架橋反応または重合反応に用いることができる二重結合が存在する。これにより、前記高分子フィルムで前記ポリロタキサンが一定の架橋網状構造を形成することができ、前記一実施形態の高分子フィルムは前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含むことができる。したがって、前記高分子フィルムはより高い耐スクラッチ性、耐化学性及び耐摩耗性などの機械的物性を確保しながらも、高い弾性や伸び率と高い可撓性、折り畳み性(foldable)または巻き性(rollable)の性質を有し得る。
【0026】
前記ポリロタキサン化合物は前記環状分子にラクトン系化合物が結合されており、前記環状分子に結合されたラクトン系化合物の末端には(メタ)アクリレート系化合物が40モル%乃至70モル%の比率で結合されたことを特徴とする。即ち、前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換されているポリロタキサンの比率が40モル%乃至70モル%、好ましくは45モル%乃至65モル%であり得る。
【0027】
前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換されているポリロタキサンの比率が40モル%未満であれば、前記ポリロタキサンがバインダー樹脂と十分に架橋反応せず、前記一実施形態の高分子フィルムが十分な耐スクラッチ性、耐化学性または耐摩耗性などの機械的物性を確保することができないこともあり、またラクトン系化合物の末端に残留しているヒドロキシ官能基が多くなり前記ポリロタキサン化合物の極性(polarity)が高くなることもあり、前記高分子フィルムの製造過程で使用できる非極性溶媒(non polar solvent)との相溶性が低くなり最終製品の品質や外観特性が低下することがある。
【0028】
また、前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換されているポリロタキサンの比率が70モル%超過であれば、前記ポリロタキサンがバインダー樹脂と過度な架橋反応を起こし、前記一実施形態の高分子フィルムが十分な弾性や自己治癒能力を確保するのが難しいこともあり、前記コーティング材料の架橋度が非常に高くなり弾性が低下することがあり[脆性(brittleness)大きく増加]、前記実施形態の高分子フィルムの伸び率、可撓性、折り畳み性(foldable)または巻き性(rollable)の性質が低下することがある。
【0029】
前記(メタ)アクリレート系化合物の導入率または置換率は前記ポリロタキサン化合物の環状分子に結合されたラクトン系化合物の残基と(メタ)アクリレート系化合物の残基の比率から測定することができる。例えば、前記ラクトン系化合物に含まれている一定の官能基(例えば、特定位置の-CH2-のmol数またはNMRピーク強度)と(メタ)アクリレート系化合物に含まれている一定の官能基(例えば、特定位置の-CH2-のmol数またはNMRピーク強度)を比較して、前記導入率または置換率を求めることができる。
【0030】
前記環状分子は前記線状分子を貫通または囲むことができる程度の大きさを有するものであれば特別な制限なく使用することができ、他の重合体や化合物と反応可能な水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基またはアルデヒド基などの官能基を含むこともできる。このような環状分子の具体的な例として、α-シクロデキストリン及びβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンまたはこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
前記環状分子に結合されたラクトン系化合物は、前記環状分子に直接結合されるか、炭素数1乃至10の直鎖または分枝鎖のオキシアルキレン基を媒介として結合されてもよい。このような結合を媒介する官能基は、前記環状分子または前記ラクトン系化合物に置換された官能基の種類や、前記環状分子及びラクトン系化合物の反応に使用される化合物の種類によって決定されてもよい。
【0032】
前記ラクトン系化合物は、炭素数3乃至12のラクトン系化合物または炭素数3乃至12のラクトン系繰り返し単位を含むポリラクトン系化合物を含むことができる。これにより、前記ラクトン系化合物が前記環状化合物及び前記(メタ)アクリレート系化合物と結合されると、即ち、前記ポリロタキサンで前記ラクトン系化合物の残基は下記化学式1の官能基を含むことができる。
【0033】
【化1】

【0034】
上記化学式1で、mは2乃至11の整数であり、好ましくは3乃至7の整数であり、前記nは1乃至20の整数であり、好ましくは1乃至10の整数である。
【0035】
前記環状分子に結合されたラクトン系化合物の末端には(メタ)アクリレート系化合物が導入されてもよい。前記‘導入’は置換または結合された状態を意味する。
【0036】
具体的に、前記(メタ)アクリレート系化合物は、前記ラクトン系化合物の末端に直接結合されるか、ウレタン結合(-NH-CO-O-)、エーテル結合(-O-)、チオエステル(thioester、-S-CO-O-)結合またはエステル結合(-CO-O-)を通じて結合されてもよい。前記(メタ)アクリレート系化合物と前記ラクトン系化合物の結合を媒介する官能基の種類は、前記(メタ)アクリレート系化合物と前記ラクトン系化合物のそれぞれに置換された官能基の種類や、前記(メタ)アクリレート系化合物と前記ラクトン系化合物の反応に使用される化合物の種類によって決定されてもよい。
【0037】
例えば、イソシアネート基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオエート基(thioate)またはハロゲン基を1以上含む(メタ)アクリレート系化合物をラクトン系化合物が結合された環状分子と反応させる場合、直接結合、ウレタン結合(-NH-CO-O-)、エーテル結合(-O-)、チオエステル(thioester、-S-CO-O-)結合またはエステル結合(-CO-O-)が生成できる。また、ラクトン系化合物が結合された環状分子にイソシアネート基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、チオエート基(thioate)またはハロゲン基を2以上含む化合物と反応させた結果物を、1以上のヒドロキシ基またはカルボキシル基を含む(メタ)アクリレート系化合物と反応させれば、ウレタン結合(-NH-CO-O-)、エーテル結合(-O-)、チオエステル(thioester、-S-CO-O-)結合またはエステル結合(-CO-O-)が1以上形成できる。
【0038】
前記(メタ)アクリレート系化合物は、イソシアネート基、カルボキシル基、チオエート基(thioate)、ヒドロキシ基またはハロゲン基が1以上が末端に結合された(メタ)アクリロイルアルキル化合物[(meth)acryloylakyl compound]、(メタ)アクリロイルシクロアルキル化合物[(meth)acryloylcycloakyl compound]または(メタ)アクリロイルアリール化合物[(meth)acryloylaryl compound]であり得る。
【0039】
この時、前記(メタ)アクリロイルアルキル化合物には炭素数1乃至12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基が含まれてもよく、前記(メタ)アクリロイルシクロアルキル化合物[(meth)acryloylcycloakyl compound]には炭素数4乃至20のシクロアルキレン基(cycloalkylene)が含まれてもよく、前記(メタ)アクリロイルアリール化合物[(meth)acryloylaryl compound]には炭素数6乃至20のアリーレン基(arylene)が含まれてもよい。
【0040】
これにより、前記(メタ)アクリレート系化合物が前記ラクトン系化合物の末端に結合されると、即ち、前記ポリロタキサンで前記(メタ)アクリレート系化合物の残基は下記化学式2の官能基を含むことができる。
【0041】
【化2】

【0042】
上記化学式2で、R_(1)は水素またはメチルであり、R_(2)は炭素数1乃至12の直鎖または分枝鎖のアルキレン基、炭素数4乃至20のシクロアルキレン基(cycloalkylene)または炭素数6乃至20のアリーレン基(arylene)であり得る。前記*は結合地点を意味する。
【0043】
一方、前記線状分子としては一定以上の分子量を有すれば直鎖形態を有する化合物は大きな制限なく使用することができるが、ポリアルキレン系化合物またはポリラクトン系化合物を使用するのが好ましい。具体的に、炭素数1乃至8のオキシアルキレン繰り返し単位を含むポリオキシアルキレン系化合物または炭素数3乃至10のラクトン系繰り返し単位を有するポリラクトン系化合物を使用することができる。
【0044】
そして、このような線状分子は1,000乃至50,000の重量平均分子量を有し得る。前記線状分子の重量平均分子量が過度に小さければ、これを使用して前記高分子フィルムの機械的物性または自己治癒能力が十分でないこともあり、前記重量平均分子量が過度に大きければ、製造される前記高分子フィルムの外観特性や材料の均一性が大きく低下することがある。
【0045】
一方、前記封鎖基は製造されるポリロタキサンの特性によって適切に調節することができ、例えばジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基及びピレン基からなる群より選択された1種または2種以上を使用することができる。
【0046】
前述の特定構造を有するポリロタキサンは100,000乃至800,000、好ましくは200,000乃至700,000、より好ましくは350,000乃至650,000の重量平均分子量を有し得る。前記ポリロタキサンの重量平均分子量が過度に小さければ、これを用いて製造される前記高分子フィルムの機械的物性または自己治癒能力が十分でないこともあり、前記重量平均分子量が過度に大きければ、前記弾性高分子樹脂層の外観特性や材料の均一性が大きく低下することがある。
【0047】
また、前記ポリロタキサンは、前記(メタ)アクリレート系化合物が環状分子の末端に導入され相対的に低い水酸基価(OH value)を有し得る。即ち、前記環状分子にラクトン系化合物のみが結合されている場合、多数のヒドロキシ(-OH)が前記ポリロタキサン分子内に存在するようになり、このようなラクトン系化合物の末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入され、前記ポリロタキサンの水酸基価(OH value)が低くなり得る。
【0048】
前記高分子フィルムは、前記ポリロタキサン1乃至50重量%を含むことができる。前記高分子フィルムの中の前記ポリロタキサンの含量が過度に小さければ、前述の高分子フィルムの物性が確保されにくいこともある。前記ポリロタキサンの含量が過度に大きければ、前記高分子フィルムの機械的物性がむしろ低下することがある。
【0049】
一方、前記バインダー樹脂は一定水準以上の機械的物性及び弾性などを有する高分子樹脂を含むことができる。そして、前記バインダー樹脂は30,000乃至800,000、または50,000乃至500,000の重量平均分子量を有し得る。前記バインダー樹脂が前述の重量平均分子量を有することによって適切な機械的物性及び前述の特性を確保することができる。
【0050】
具体的に、前記バインダー樹脂は、(メタ)アクリレート系高分子、ウレタン(メタ)アクリレート系高分子、ポリウレタン樹脂、末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体、これらの2種以上の混合物、またはこれらの2種以上の共重合体を含むことができる。
【0051】
前記末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体を除いた他の高分子は30,000乃至500,000の重量平均分子量を有し得る。
【0052】
前記(メタ)アクリレート系高分子の具体的な例としては、アクリリック(メタ)アクリレート(acrylic (meth)acrylate)、エポキシ(メタ)アクリレート(epoxy (meth)acrylate)、ポリエステル(メタ)アクリレート(polyester (meth)acrylate)、ポリエーテル(メタ)アクリレート(polyether (meth)acrylate)、ポリシロキサン(メタ)アクリレート(polysiloxane (meth)acrylate)が挙げられる。
【0053】
前記ウレタン(メタ)アクリレート系高分子の具体的な例としては、ポリエステルウレタン(メタ)アクリレート(polyester urethane (meth)acrylate)、ポリエーテルウレタン(メタ)アクリレート(polyether urethane (meth)acrylate)、カプロラクトンウレタン(メタ)アクリレート(caprolatone urethane (meth)acrylate)、ポリブタジエンウレタン(メタ)アクリレート(polybutadiene urethane (meth)acrylate)、シロキサンウレタン(メタ)アクリレート(siloxane urethane (meth)acrylate)、ポリカーボネートウレタン(メタ)アクリレート(polycarbonate urethane (meth)acrylate)が挙げられる。
【0054】
前記ポリウレタン樹脂の例としては、ポリエステル系ポリウレタンまたはポリエーテル系ポリウレタンなどが挙げられる。
【0055】
前記末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体で、シリコン成分は前記弾性高分子樹脂層が高い弾性及び伸び率を有するようにすることができ、エポキシ成分は前記弾性高分子樹脂層が高い耐化学性、耐スクラッチ性及び耐摩耗性などの機械的物性を有し得るようにする。
【0056】
一般に、シリコン成分またはエポキシ化合物は柔軟性が高く熱安定性が優れるが、それ自体では十分な機械的物性を確保することができず、エポキシ成分は機械的強度及び耐化学性が優れているが、柔軟性が十分でないため硬化時間が長く単独で硬化しにくい。また、前記シリコン成分及びエポキシ成分は互いに相溶性(compatibility)が良くないため、これらを物理的に混合してコーティングをすれば、形成される塗膜で各成分が均一に混合されず相分離されるだけでなく、フィルムの光学特性が大きく低下する。
【0057】
これに反し、前記末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体はシリコン成分またはエポキシ成分が有するそれぞれの特性を実現することができるだけでなく、シリコン化合物及びエポキシ化合物が物理的に混合されている場合と異なり共重合されている一つの成分として単純混合以上の上昇効果を確保することができる。
【0058】
また、前記シリコン-エポキシ共重合体は、末端に(メタ)アクリレート基が導入され紫外線照射時に他のアクリレート系バインダー樹脂と化学的結合することができるため、優秀な機械的物性及び自己治癒能力(Self-healing)を有するようにすることができる。
【0059】
前記末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体はシリコン5乃至50重量%を含むことができる。前記シリコン成分の含量が5重量%未満であれば、前記高分子フィルムが十分な柔軟性と弾性力を確保するのが難しいこともある。また、前記シリコン成分の含量が50重量%超過であれば、弾性高分子樹脂層の物性がむしろ低下したり外部光学特性が低下することがある。
【0060】
前記末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体の重量平均分子量は1,000乃至30,000であり得る。前記シリコン-エポキシ共重合体の重量平均分子量が1,000未満であれば、前記高分子フィルムの弾性または柔軟性と機械的物性が十分に確保されにくいこともある。また、前記シリコン-エポキシ共重合体の重量平均分子量が30,000超過であれば、高分子フィルムの物性がむしろ低下したり外部光学特性が低下することがある。
【0061】
一方、前記末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体は下記化学式3の繰り返し単位及び下記化学式4の繰り返し単位を含む高分子であり得る。
【0062】
【化3】

【0063】
上記化学式3で、nは1乃至150の整数であり得る。
【0064】
【化4】

【0065】
上記化学式4で、R_(1)及びR_(2)は互いに同一または異なっていてもよく、それぞれ水素、メチル基またはエチル基である。
【0066】
前記一実施形態の高分子フィルムは、前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含むことができる。後述のように、前記高分子フィルムは、バインダー樹脂及びポリロタキサンを含む樹脂組成物から形成することができ、前記樹脂組成物が熱硬化、光硬化、または熱硬化及び光硬化の両方を経て前記バインダー樹脂及びポリロタキサン間には架橋結合を形成することができる。
【0067】
前記高分子フィルムは、前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサンのうちの少なくとも一つと架橋結合を形成する多官能性アクリレート系化合物を含むことができる。前記多官能性アクリレート系化合物は、官能基が2つ以上である多官能性アクリレート系化合物を意味し、前記バインダー樹脂及びポリロタキサンを含む樹脂組成物に追加的にさらに含まれる成分である。そして、前記樹脂組成物が熱硬化、光硬化、または熱硬化及び光硬化の両方を経る過程で、前記多官能性アクリレート系化合物はバインダー樹脂及びポリロタキサンのうちの少なくともいずれか一つまたは両方に全て架橋結合することができる。前記多官能性アクリレート系化合物の具体的な例は後述の通りである。
【0068】
一方、前記高分子フィルムはバインダー樹脂及びポリロタキサンを含む樹脂組成物から形成することができる。前記樹脂組成物を所定の基材上に塗布及び硬化することによって前記高分子フィルムを形成することができる。前記樹脂組成物を前記バインダー樹脂自体を含むこともでき、前記バインダー樹脂の前駆体、例えば前記バインダー樹脂を形成する単量体またはオリゴマーを含むこともできる。
【0069】
前記樹脂組成物を塗布することに通常使用される方法及び装置を特別な制限なく使用することができ、例えば、メイヤーバー(Meyer bar)コーティング法、アプリケーター(applicator)コーティング法、ロール(roll)コーティング法などを使用することができる。
【0070】
前記バインダー樹脂及びポリロタキサンを含む樹脂組成物は、熱硬化性であるか、光硬化性であるか、または熱硬化性及び光硬化性の両方の特性を全て有し得る。
【0071】
前記樹脂組成物が熱硬化性である場合、熱開始剤を含むことができ、選択的に熱硬化性単量体を含むことができる。前記熱硬化性単量体は前記樹脂組成物に熱が加えられた時に架橋反応または重合反応を起こすことができる反応性官能基を1以上含む単量体化合物を含むことができる。前記反応性官能基としては炭素-炭素二重結合、(メタ)アクリレート基、ヒドロキシ基またはオキシド基などが挙げられる。
【0072】
前記樹脂組成物を熱硬化させる場合には、使用されるバインダー樹脂の種類によって熱硬化温度及び時間を決定することができ、例えば、25℃乃至200℃の温度を適用することができる。
【0073】
一方、前記樹脂組成物が光硬化性である場合、光開始剤を含むことができ、選択的に光硬化性単量体をさらに含むことができる。
【0074】
前記光開始剤としては、当業界で通常使用されると知られた化合物を特別な制限なく使用することができ、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、ビイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物、オキシム系化合物またはこれらの混合物を使用することができる。前記光開始剤の具体的な例としては、ベンゾフェノン(Benzophenone)、ベンゾイルメチルベンゾエート(Benzoyl methyl benzoate)、アセトフェノン(acetophenone)、2,4-ジエチルチオキサントン(2,4-diehtyl thioxanthone)、2-クロロチオキサントン(2-chloro thioxanthone)、エチルアントラキノン(ethyl anthraquinone)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(1-Hydroxy-cyclohexyl-phenyl-ketone、市販製品としてはCiba社のIrgacure184)または2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(2-Hydroxy-2-methyl-1-phenyl-propan-1-one)などがある。
【0075】
前記光硬化性単量体は、紫外線照射によって前記樹脂組成物の硬化される時、バインダー樹脂と架橋構造をなすことにより網状架橋構造がより緻密に形成されるようにする。また、前記光硬化性単量体の使用によって、前記樹脂組成物の作業性がより向上でき、前記製造される高分子フィルムの機械的物性及び自己治癒能力がより向上できる。
【0076】
前記光硬化性単量体は、官能基が2つ以上である多官能性アクリレート系化合物を含むことができる。このような光架橋剤の具体的な例として、ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(pentaerythritol tri/tetraacrylate;PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(dipentaerythritol hexa-acrylate、DPHA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(trimethylolpropane triacrylate;TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート(Ethylenegycol diacrylate、EGDA)、ヘキサメチレンジアクリレート(hexamethylene diacrylate;HDDA)またはこれらの混合物が挙げられる。
【0077】
前記樹脂組成物をUV硬化させる段階では200?400nm波長の紫外線または可視光線を照射することができ、照射時の露光量は100乃至4,000mJ/cm^(2)が好ましい。露光時間も特に限定されるのではなく、使用される露光装置、照射光線の波長または露光量によって適切に変化させることができる。
【0078】
前記樹脂組成物は有機溶媒を含むことができる。前記有機溶媒としてはコーティング組成物に使用可能であると当業界に知らされたものであれば特別な制限なく使用可能である。例えば、メチルイソブチルケトン(methyl isobutyl ketone)、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone)、ジメチルケトン(dimethyl ketone)などのケトン系有機溶媒;イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、イソブチルアルコール(isobutyl alcohol)またはノルマルブチルアルコール(normal butyl alcohol)などのアルコール有機溶媒;エチルアセテート(ethyl acetate)またはノルマルブチルアセテート(normal butyl acetate)などのアセテート有機溶媒;エチルセロソルブ(ethyl cellusolve)またはブチルセロソルブ(butyl cellusolve)などのセロソルブ有機溶媒などを使用することができるが、前記有機溶媒が前述の例に限定されるのではない。
【0079】
前述の樹脂組成物を前記光開始剤、熱開始剤、熱硬化性単量体、光硬化性単量体、有機溶媒などのその他の成分を含むことによって、前記高分子フィルムは前記その他の成分の残留物が含まれてもよい。
【0080】
このようなその他の成分の残留物の含量は前記樹脂組成物に使用された量によって決定することができる。前記光開始剤または熱開始剤は前記高分子フィルムの中の0.001乃至1重量%程度含まれてもよい。前記熱硬化性単量体または光硬化性単量体は前記高分子フィルムの中の0.01乃至20重量%で含まれてもよい。前記高分子フィルムは前記その他の成分及びポリロタキサンを除いた残量のバインダー樹脂を含むことができる。
【0081】
一方、発明の他の実施形態によれば、前記一実施形態の高分子フィルムを含むフレキシブル発光素子ディスプレイ装置を提供することができる。
【0082】
前記発光素子ディスプレイ装置は、前記一実施形態の高分子フィルムを基板、外部保護フィルムまたはカバーウィンドウとして使用することができる。具体的に、前記発光素子ディスプレイ装置は、前記一実施形態の高分子フィルムをカバーウィンドウとして使用する有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイであり得る。前記高分子フィルムをカバーウィンドウとして使用することを除いては、通常の有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの構成成分として知られた装置部を含むことができる。
【0083】
例えば、前記有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイは、高分子フィルムを含むカバーウィンドウが光や画面が出る方向の外殻部に配置されてもよく、電子を提供する陰極(cathode)、電子輸送層(Eletron Transport Layer)、発光層(Emission Layer)、正孔輸送層(Hole Transport Layer)、正孔を提供する陽極(anode)が順次に形成されていてもよい。
【0084】
また、前記有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイは、正孔注入層(HIL、Hole Injection Layer)と電子注入層(EIL、Electron Injection Layer)をさらに含むことができる。
【0085】
前記有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイがフレキシブルディスプレイの役割及び作動をするためには、前記高分子フィルムをカバーウィンドウとして使用することに加えて、前記陰極及び陽極の電極と、各構成成分を所定の弾性を有する材料で使用することができる。
【0086】
一方、発明の他の実施形態によれば、前記一実施形態の高分子フィルムを含む巻き可能ディスプレイ装置(rollable display or foldable display)を提供することができる。
【0087】
前述の一実施形態の高分子フィルムは、巻き可能なディスプレイ装置(Rollable Display device)で基板、外部保護フィルムまたはカバーウィンドウとして使用することができる。前記高分子フィルムは外部から加えられる圧力や力によって壊れないだけでなく、十分に曲がり折り畳まれる程度の弾性または柔軟性を有し得る。
【0088】
前記巻き可能ディスプレイ装置は発光素子及び前記発光素子が位置するモジュールと共に前記一実施形態の高分子フィルムを含むことができ、前記発光素子及びモジュールも十分に曲がり折り畳まれる程度の弾性または柔軟性を有し得る。
【0089】
前記巻き可能ディスプレイ装置は適用分野及び具体的な形態などによって多様な構造を有し得、例えば、カバープラスチックウィンドウ、タッチパネル、偏光板、バリアフィルム、発光素子(OLED素子など)、透明基板などを含む構造であり得る。
【発明の効果】
【0090】
本発明によれば、優れた耐スクラッチ性、耐化学性及び耐摩耗性などの機械的物性と共に高い伸び率または弾性を有し、フレキシブルまたは巻き可能ディスプレイ装置などに適用可能な高分子フィルムと、前記高分子フィルムを適用したフレキシブル発光素子ディスプレイ装置及び巻き可能ディスプレイ装置を提供することができる。
【0091】
前記高分子フィルムは強化ガラスなどを代替することができる物性を有し得るため、外部から加えられる圧力や力によって壊れないだけでなく、十分に曲がり折り畳まれる程度の特性を有するフレキシブルディスプレイまたは巻き可能ディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】合成例1のポリロタキサンポリマーの1H NMRデータを示したものである。
【図2】合成例1のポリロタキサンポリマーに含まれているカプロラクトンの構造を確認したgCOSY NMRスペクトルを示したものである。
【図3】末端に(メタ)アクリレート系化合物が導入されたラクトン系化合物が結合された環状分子を含むポリロタキサンの1H NMRデータの一例を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0093】
発明を下記の実施例でより詳細に説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【実施例】
【0094】
<合成例1乃至3:ポリロタキサンの合成>
合成例1
100mlのフラスコにカプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]5gを投入した後、2-イソシアナトエチルアクリレート(2-Isocyanatoethyl acrylate)(AOI-VM、Showadenko(株))0.453g、ジブチル錫ジラウレート(Dibutyltin dilaurate)[DBTDL、Merck社]2mg、ヒドロキノンモノメチレンエーテル(Hydroquinone monomethylene ether)11mg及びメチルエチルケトン31.5gを添加し、70℃で5時間反応させ、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状分子として含むポリロタキサンポリマー液(固形分14.79%)を得た。
【0095】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン(n-Hexane)溶媒に落として高分子を沈殿させ、これをろ過して白色の固体高分子(重量平均分子量:約500,000)を得ることができた。前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液の1H NMRは図1の通りである。
【0096】
前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1の通りであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状分子に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれるポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なってもよい]。
【0097】
前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状分子に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8とすれば図3の7番ピークは16.00(2H*8)の強度(intensity)を有するという点が分かる。これにより、カプロラクトン繰り返し単位の末端が‘OH’に100%置換されると、アクリレート官能基と関係する図3の1番ピークは4.00(2H*2)にならなければならないため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状分子に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は46.8%であった。
【0098】
合成例2
100mlのフラスコにカプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]5gを投入した後、2-イソシアナトエチルアクリレート(2-Isocyanatoethyl acrylate)(AOI-VM、昭和電工(株))0.906g、ジブチル錫ジラウレート(Dibutyltin dilaurate)[DBTDL、Merck社]2mg、ヒドロキノンモノメチレンエーテル(Hydroquinone monomethylene ether)12mg及びメチルエチルケトン33gを添加し、70℃で5時間反応させ、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状分子として含むポリロタキサンポリマー液(固形分15.21%)を得た。
【0099】
このようなポリロタキサンポリマー液をn-ヘキサン(n-Hexane)溶媒に落として高分子を沈殿させ、これをろ過して白色の固体高分子(重量平均分子量:約500,000)を得ることができた。前記で反応物として使用したポリロタキサンポリマー[A1000]の1H NMRデータは図1の通りであり、図2のgCOSY NMRスペクトルを通じてポリロタキサンの環状分子に結合されたカプロラクトンの構造を確認した。
【0100】
そして、前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれるポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有する[ピークの強度(intensity)などは異なってもよい]。前記図2のNMRデータを通じてポリロタキサンの環状分子に含まれているカプロラクトン繰り返し単位の数(図1のm+N)が8.05であることを確認し、繰り返し単位数を8とすれば、図3の7番ピークは16.00(2H*8)の強度(intensity)を有するという点が分かる。
【0101】
これにより、カプロラクトン繰り返し単位の末端が‘OH’に100%置換されると、アクリレート官能基と関係する図3の1番ピークは4.00(2H*2)にならなければならないため、実際測定された1H NMR値を比較してポリロタキサンの環状分子に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めることができる。前記で最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は60.0%であった。
【0102】
合成例3
カプロラクトンがグラフティングされているポリロタキサンポリマー[A1000、Advanced Soft Material INC]50gを反応器に投入した後、カレンズAOI(Karenz-AOI)[2-イソシアナトエチルアクリレート(2-acryloylethyl isocyanate)、昭和電工(株)]13.58g、ジブチル錫ジラウレート(Dibutyltin dilaurate)[DBTDL、Merck社]20mg、ヒドロキノンモノメチレンエーテル(Hydroquinone monomethylene ether)110mg及びメチルエチルケトン315gを添加し、70℃で5時間反応させ、末端にアクリレート系化合物が導入されたポリラクトン系化合物が結合されたシクロデキストリンを環状分子に含むポリロタキサンポリマー液(固形分15%)を得た。
【0103】
実施例1及び2と同様な方法で、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液に含まれるポリロタキサンの1H NMRは図3のような形態を有することを確認した[ピークの強度(intensity)などは異なってもよい]。
【0104】
また、実施例1及び2と同様な方法で、ポリロタキサンの環状分子に結合されたラクトン系化合物の末端置換率を求めた結果、最終的に得られたポリロタキサンポリマー液(固形分15%)の置換率は約100%に近接した。
【0105】
<合成例4:末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体の合成>
FM-7771(チッソ社、前記化学式10の化合物、重量平均分子量1,000)及びbis-GMA(前記化学式11の化合物)をメチルエチルケトン(MEK)の溶媒に分散させた後、熱開始剤のAIBN(α,α’-アゾビスイソブチロニトリル(α,α’-azobisisobutylonitrile))を添加し、80℃で5時間重合反応を行なって、末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体を合成した。
【0106】
<実施例:高分子フィルムの製造>
実施例1
(1)樹脂組成物の製造
前記合成例1で得られたポリロタキサン100重量部に対してUA-200PA(多官能ウレタンアクリレート、新中村社)15重量部、PU-3400(多官能ウレタンアクリレート、MIWON社)40重量部、Miramer SIU2400(多官能ウレタンアクリレート、MIWON社)10重量部、Estane-5778(ポリエステル系ポリウレタン、Lubrizol社)15重量部、光重合開始剤のイルガキュア-184(Irgacure-184)1.5重量部、光重合開始剤のイルガキュア-907(Irgacure-907)1.55重量部、イソプロピルアルコール(IPA)12.5重量部、エチルセルソルブ12.5重量部を混合してUV硬化型コーティング組成物を製造した。
【0107】
(2)高分子フィルムの製造
前記UV硬化型コーティング組成物をそれぞれPETフィルム(厚さ188μm)にワイヤーバー(70号)を用いてコーティングした。そして、コーティング物を90℃で2分間乾燥した後、200mJ/cm^(2)の紫外線を5秒間照射して30μmの厚さを有する高分子フィルムを製造した。
【0108】
実施例2
前記合成例2で得られたポリロタキサンを用いた点を除いては実施例1と同様な方法で樹脂組成物及び高分子フィルムを製造した。
【0109】
比較例
前記合成例3で得られたポリロタキサンを用いた点を除いては実施例1と同様な方法で樹脂組成物及び高分子フィルムを製造した。
【0110】
実施例3
(1)樹脂組成物の製造
前記合成例4で得られた末端に(メタ)アクリレート基が導入されたシリコン-エポキシ共重合体(MEK溶媒に分散された状態で固形分含量50重量%)60重量%、PETA10重量%、光開始剤4重量%、メチルエチルケトン6重量%及びイソプロピルアルコール(IPA)20重量%を混合して、紫外線硬化型組成物を製造した。
【0111】
(2)高分子フィルムの製造
前記製造された紫外線硬化型組成物をメイヤーバー(Meyer bar)50番を用いてPETフィルムの上にコーティングした後、前記コーティング物に250乃至350nm波長の紫外線を200mJ/cm^(2)の量で照射して、高分子フィルムを製造した。
【0112】
<実験例:高分子フィルムの物性評価>
前記実施例1乃至3及び比較例で得られた高分子フィルムの物性を下記のように評価した。
【0113】
実験例1:光学的特性
ヘイズメーター(Haze meter)(村上社HR-10)を用いて光透過度とヘイズを測定した。
【0114】
実験例2:伸び率
ASTM D638の引張応力-変形試験法によって引張による変形率(%)を測定した。具体的に、ASTM D638の基準によって引張試片を製作し、TA(texture analyser)装備を用いて試片を一定速度(1cm/sec)に引張って、初期試片長さに対する引張られた試片の長さの比率から伸び率(%)を決定した。
【0115】
実験例3:耐スクラッチ特性測定
スチールウール(steel wool)に一定の荷重をかけて往復にスクラッチを作った後、コーティングフィルムの表面を肉眼で観察した。
【0116】
前記測定結果を下記表1に示した。
【0117】
【表1】

【0118】
前記表1に示されているように、実施例1及び2の高分子コーティングフィルムは、透明な外観特性を有しながらも高い伸び率及び弾性を確保することができ、優れた耐スクラッチ性などの機械的物性を有し得る。これにより、前記高分子フィルムは強化ガラスなどを代替することができる物性を有し得るため、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置で基板、外部保護フィルムまたはカバーウィンドウとして使用することができる。
【0119】
4.マンドレルテスト(Mandrel test)
厚さの異なる円筒形テストマンドレル(Cylindrical Mandrel)に前記実施例及び比較例で得られたコーティングフィルムをそれぞれ180度巻いて1秒間維持した後、クラックが発生するか肉眼で観察し、円筒形テストマンドレルのパイ(Φ)値を低くしながらクラックが発生しない時点を確認した。
【0120】
【表2】

【0121】
また、前記実施例1及び2で製造されたコーティングフィルムはより低いパイ(Φ)値を有するマンドレルシリンダーでもクラックが発生しないので、比較例に比べてより高い弾性や伸び率と高い可撓性、折り畳み性(foldable)または巻き性(rollable)の性質を有するという点が確認された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
【請求項15】(削除)
【請求項16】(削除)
【請求項17】(削除)
【請求項18】(削除)
【請求項19】(削除)
【請求項20】(削除)
【請求項21】
30,000乃至800,000の重量平均分子量を有するバインダー樹脂;及び
ラクトン系化合物が結合された環状分子、前記環状分子を貫通する線状分子、及び前記線状分子の両末端に配置され前記環状分子の離脱を防止する封鎖基を含むポリロタキサン;を含み、
前記ポリロタキサンの中の前記ラクトン系化合物の末端が(メタ)アクリレート系化合物に置換される比率が46.8モル%であり、
全体重量中にポリロタキサンを1乃至50重量%を含み、
前記バインダー樹脂及び前記ポリロタキサン間の架橋結合構造を含み、
常温でASTM D638によって測定した伸び率が150%であり、
92.9%の光透過度及び0.7のヘイズ値を有し、
フレキシブル有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの基板として使用され、
マンドレルテスト(Mandrel test)によってクラッキングなく曲げられるマンドレルの直径が10Φ以下である高分子フィルムを含む、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置。
【請求項22】(削除)
【請求項23】(削除)
【請求項24】(削除)
【請求項25】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-01 
出願番号 特願2015-528420(P2015-528420)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 851- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 853- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 854- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 藤原 浩子
加藤 友也
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5801018号(P5801018)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 高分子フィルム、フレキシブル発光素子ディスプレイ装置及び巻き可能ディスプレイ装置  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 廣田 浩一  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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