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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41G
審判 全部申し立て 2項進歩性  A41G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A41G
管理番号 1333179
異議申立番号 異議2016-700860  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-13 
確定日 2017-08-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5955355号発明「まつげエクステンション用人工毛の装着方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5955355号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[3-5]について訂正することを認める。 特許第5955355号の請求項1ないし2、4ないし5に係る特許を維持する。 特許第5955355号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5955355号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年7月31日に特許出願され、平成28年6月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人株式会社松風、一般社団法人日本アイリスト協会、林宏和により特許異議の申立てがされ、平成29年3月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年6月2日に意見書の提出及び訂正の請求(一部の請求項の削除)がされたものである。
なお、平成29年7月21日付けで特許異議申立人林宏和より上申書が提出されている。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?3のとおりである。
[訂正事項1] 請求項3を削除する。
[訂正事項2] 請求項4の「請求項1?3にいずれか1項に記載の」との記載を、「請求項1又は2に記載の」との記載に訂正する。
[訂正事項3] 請求項5の「請求項1?4のいずれか1項に記載の」との記載を、「請求項1、2又は4に記載の」との記載に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、請求項3を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記訂正事項2は、訂正前の請求項4が請求項1?3を引用する記載であるところ、訂正前の請求項3を削除したことに伴い、これを請求項1?2を引用するという記載とし、上記訂正事項3は、訂正前の請求項5が請求項1?4を引用する記載であるところ、訂正前の請求項3を削除したことに伴い、これを請求項1?2、及び4を引用するという記載とし、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、訂正前の請求項4及び5は、それぞれ請求項1?3及び1?4を引用しているものであって、訂正事項2及び訂正事項3は訂正事項1によって削除される請求項3に連動して訂正されるものであり、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔3?5〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
まつげに装着されるまつげエクステンション用人工毛の装着方法であって、
上記まつげエクステンション用人工毛は、最大径部の直径が上記まつげよりも細径に形成されており、
上記まつげエクステンション用人工毛が、上記まつげに対して、所定の角度を有するように、上記まつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向において互いに異なる位置に固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行うことにより、複数本の上記まつげエクステンション用人工毛が装着されることを特徴とするまつげエクステンション用人工毛の装着方法。
【請求項2】
まつげに装着されるまつげエクステンション用人工毛の装着方法であって、
上記まつげエクステンション用人工毛は、最大径部の直径が上記まつげよりも細径に形成されており、
上記まつげエクステンション用人工毛が、上記まつげに対して、所定の角度を有するように、上記まつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置に固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行うことにより、複数本の上記まつげエクステンション用人工毛が装着されることを特徴とするまつげエクステンション用人工毛の装着方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
上記まつげエクステンション用人工毛は、最大径部の直径が0.01mmから0.12mmで形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のまつげエクステンション用人工毛の装着方法。
【請求項5】
上記まつげエクステンション用人工毛は、接着剤により固定されることを特徴とする請求項1、2又は4に記載のまつげエクステンション用人工毛の装着方法。」

(2)取消理由の概要
本件発明1?5は、引用例1?3に開示された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用例1:「まつ毛エクステンション・パーフェクトマスター」、枝折 繁著、平成21年6月23日第1刷発行、長尾明美、表紙、32頁、40?43頁、73頁、奥付(申立番号3、特許異議申立人林宏和による平成29年1月13日付け特許異議申立書の甲第1号証)
引用例2:「ボリュームFX秘密解明2014フリートレーニング(Volume FX Secrets Revealed 2014-FREE Training)」、2014年1月16日、[online]、[検索日 2017年3月24日]、URL: https://www.youtube.com/watch?v=-a01UWjCYxc(申立番号3、特許異議申立人林宏和による平成29年1月13日付け特許異議申立書の甲第6号証)
引用例3:米国特許第8113218号明細書(申立番号2、特許異議申立人一般社団法人日本アイリスト協会による平成28年9月28日付け特許異議申立書の甲第1号証)

(3)引用例の記載
(3-1)引用例1(「まつ毛エクステンション・パーフェクトマスター」)には、次の事項が記載されている。
(ア)シングル・テクニックの手順として、
「1 エクステを付けるまつ毛をピンセットで分けます。
2 カールを上向きにしてエクステの根元?3分の1あたりまでに適量のグルーを付け、
3 エクステの根元を、まつ毛の根元近くに置き、
4 まつげの根元?中間まで、カールを上向きにしてエクステを数回滑らせ、グルーをなで付けていきます。
5 i)再度、エクステの根元をまつ毛の根元近くまで戻し、ii)まつ毛の毛先方向に少し押し出し、iii)全体を軽く押し付けます。
6 エクステを付けたところで、カールの向きを確認します。ちゃんと上向きになるように、手早くエクステを上向きに修正します。※グルーが乾くまでの数秒で行います。」(40頁、写真1?6及びこれらの説明文)
(イ)ダブル・テクニックの手順として、
「シングル・テクでエクステされたまつ毛に、さらにエクステを乗せて立体感やボリュームを出します
※エクステの方法はシングル・テクと同様です。
1 シングル・テクニックでエクステされたまつ毛をピンセットで分け、適量のグルーを付けたエクステが上向きになるようにして、
2 (エクステの根元を)まつ毛の根元近くに置き、
3 まつ毛の中間あたりまで数回滑らせてグルーをなで付け、
4 i)再度、エクステの根元をまつ毛の根元近くまで戻し、ii)まつ毛の毛先方向に少し押し出し、iii)全体を軽く押し付けます。
5 エクステを付けたら、カールが上向きになるように、手早くエクステの方向を修正します。」(42頁、タイトル表示、写真1?5及びこれらの説明文)

まつげに「エクステ」を取り付けるための「グルー」は接着剤であると認められ、以上の記載によれば、上記引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用例1発明」という。)。
「まつげに接着剤で装着されるエクステの装着方法であって、
上記エクステを上記まつげに固定する作業を1本のまつげに対して2回行うことにより、2本の上記エクステが装着されるエクステの装着方法。」

(3-2)引用例2(「ボリュームFX秘密解明2014フリートレーニング」)には、まつげエクステンション用人工毛をまつげに複数本装着する技術について次の事項が開示されている(和訳は申立番号3の特許異議申立書の記載を参照して付与した。)。
(ア)「Benefits of Volume Lashing versus Classic・・・THEY LAST LONGER![従来のエクステに対するボリュームラッシュの利点
3重、4重(それ以上!)完全にカールされたまつげの数(全ての最新マスカラのコマーシャルがこの点を約束しているが、達成できているものはない)
より快適 今までよりも使用される接着剤の量が少ないため、以前の従来のまつげエクステンションによる“硬直作用”やマスカラコーティングの感覚さえもが除去されたように感じられる
ボリュームFXラッシュは事実上重量がなく超柔軟であるため、長持ちする]」(静止画26分42秒右欄)
(イ)従来のエクステ(Classic Lash Extension Cross Section:左欄)では、地まつげ(Natural Lash)より太いエクステンション用まつげ(Extension Lash)が装着されていたのと対比して、ボリュームラッシュ(右欄)では、地まつげ(Natural Lash)より細いエクステンション用まつげ(.07 Lash)を複数装着することを示す模式図が示されている。(静止画29分58秒)
(ウ)「This is a diagragm of・・・natural and extension lashes.[この図は、ボリュームFX多重まつげの間の接着剤ラップ(間を埋める性質)が、どのように地まつげとエクステンション用まつげの強固な結合を形成しているかを示す模式図である。]」(静止画29分58秒右欄)

上記(イ)の模式図より、ボリュームラッシュのエクステンションまつげ(.07 Lash)が地まつげ(Natural Lash)よりも細径であると認められ、以上の記載によれば、上記引用例2には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用例2発明」という。)。
「1本のまつげに対して、周方向に異なる位置に、接着剤を用いて、まつげよりも細径である0.07mmに形成されているまつげエクステンション用人工毛を複数本固定し、まつげとエクステンション用人工毛の強固な結合を形成する発明。」

(3-3)引用例3(米国特許第8113218号明細書)には、次の事項が記載されている(和訳は申立番号2の特許異議申立書の記載を参照して付与した。)。
(ア)「Referring to FIGS.1-2・・・extensions 1 last longer.[図1-図2に示されるように、4本の対称形である先細の毛束(1a,1b,1c,1d)を有する個々のまつげ1は、取付部11でV字状に取り付けられる。まつげは、両側における4本の毛束(1a,1b,1c,1d)から構成されており、V字状を形成している。各々の2本の毛束(1a-1b)と(1c-1d)は、各側に存在する。拡がっているV字形状は、160度以下の角度に対応している。・・・つけまつげ1は、両側における2本の毛束(1a,1b)又は(1c、1d)を備えるV字形状であるため、その両側及びつけまつげ1を長時間保持するための保持部としての天然まつげ13に、重量を均等に分散させることになる。]」(第3欄59行?第4欄6行)[翻訳文第4頁13?24行]
(イ)「As shown in FIGS.1 and 6・・・e.g. a glue.[図1及び図6に示すように、個々のつけまつげ1は、使用者のまつげに接着剤2(例えばグルー)を使用して付けられる。]」(第4欄52?54行)[翻訳文第5頁19?20行]と記載され、また、図1-図2、図6が示されている。
さらに、
(ウ)「Because the eyelash extension・・・on each side.[つけまつげは、各側に2本の手束(注.「毛束」の誤りと認める)を有するV字状であるため、まつげは、各側において、重量を均等に配分することができる。]」(「ABSTRACT」8?10行)[翻訳文「要約」5?7行]
(エ)「The V-shape・・・looks natural.[V字状のまつげ1は自然に見える。]」(第4欄13?14行)[翻訳文第4頁28?29行参照]
(オ)「Each strand・・・free end flared outwardly.[各毛束(1a,1b,1c,1d)は、天然まつげと同様の形状に形成されている。つまり、各々のまつげの毛束(1a,1b,1c,1d)は、下記に参照されるように、自由端として、外見上拡がり、一端部を有するように形成されている。]」(第5欄30?33行)[翻訳文第6頁7?10行]
(カ)「Such a flared strand・・・long, beautiful, luscious eyelashes.[そのような拡がった毛束(1a,1b,1c,1d)は、長く、美しく、魅力的なまつげの容貌を提供する。]」(第5欄第46?48行)[翻訳文第6頁17?18行]
と記載されている。
したがって、引用例3には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用例3発明」という。)。
「人工まつげを、各々2本の毛束が各側に存在するV字状を形成する4本の対称形である毛束とし、1本の天然まつげに対して接着剤を用いて固定する発明。」

(4)判断
(4-1)本件発明1について
本件発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明は、まつげエクステンション用人工毛が、「まつげの長さ方向において互いに異なる位置」に固定されているという事項を有していない点で相違する。
一方、引用例2には引用例2発明が記載されているが、まつげエクステンション用人工毛が、「まつげの長さ方向において互いに異なる位置」に固定されるという事項について開示または示唆されているとは認められない。
また、引用例3には、引用例3発明が記載され、その引用例3発明は本件発明1と、まつげに外見上の広がりを形成し、ボリューム感を与えることができる点においては共通すると認められるが、引用例3には、まつげエクステンション用人工毛が「まつげの長さ方向において互いに異なる位置」に固定されるという事項について、記載または示唆されているとは認められない。
そして、本件発明1は当該事項により、「被施術者の自然まつ毛の本数・自然まつ毛間の間隔の個人差からくる装着本数の限界を引き上げることによるまつ毛の立体化、ボリューム感の増大を実現し、被施術者による千差万別の美的要求に柔軟に応える施術を行うことが可能」(平成29年6月2日付け意見書第6頁9?12行)という顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は引用例1発明?引用例3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4-2)本件発明2について
本件発明2と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明は、まつげエクステンション用人工毛が、「まつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置」に固定されているという事項を有していない点で相違する。
一方、引用例2には引用例2発明が記載されているが、まつげエクステンション用人工毛が、「まつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置」に固定されるという事項について開示または示唆されているとは認められない。
また、引用例3には、引用例3発明が記載され、その引用例3発明は本件発明1と、まつげに外見上の広がりを形成し、ボリューム感を与えることができる点においては共通すると認められるが、引用例3には、まつげエクステンション用人工毛が「まつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置」に固定されるという事項について、記載または示唆されているとは認められない。
そして、本件発明2は当該事項により、「被施術者の自然まつ毛の本数・自然まつ毛間の間隔の個人差からくる装着本数の限界を引き上げることによるまつ毛の立体化、ボリューム感の増大を実現し、被施術者による千差万別の美的要求に柔軟に応える施術を行うことが可能」(平成29年6月2日付け意見書第6頁9?12行)という顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明2は引用例1発明?引用例3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4-3)本件発明4、5について
上記のように本件発明1?2は引用例1発明?引用例3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、これらの発明特定事項を全て有しつつ、更に限定した本件発明4?5も引用例1発明?引用例3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4-4)特許異議申立人の主張について
(4-4-1)申立番号1:特許異議申立人株式会社松風の主張する特許異議申立理由について
(a)特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証(「ロシアンボリュームテクニック」または「Volumme lash」の施術の様子を示すインターネット上の動画:URL https://www.youtube.com/watch?v=9yr_n8DTSBA)について、「まつげエクステンション用人工毛の装着位置は、手際の良い施術者の手作業によって、まつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向において互いに異なる位置、あるいは、まつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置となる。甲第1号証からはっきりとはわからないが、多数(例えば、4本)を1本のまつげに対して装着する場合は、まつげエクステンション用人工毛の装着位置は、まつげの長さ方向において同一の位置、且つ周方向において異なる位置になる場合もあり得ると想定される。」(特許異議申立書第9頁8?15行)とし、甲第1号証には「まつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置に固定する」点が開示されているとし、これを前提として、本件請求項1、2、5に係る発明は新規性がないと、また、請求項4?5に係る発明は甲1号証開示の発明、甲第2号証の開示事項から当業者が容易に想到できたと主張している。
しかしながら、特許異議申立人の指摘する甲第1号証の時刻8:07あたりの動画をみても、まつげエクステンション用人工毛を固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行うに際して、そのまつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向において互いに異なる位置とすることが開示されているといえない。むしろ、甲第1号証の動画の全体の流れから見ると、当該作業を行うに際してまつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向において同じ位置とすることも妨げないと認められる。
よって、甲第1号証には、少なくとも、まつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向において互いに異なる位置に固定する点が開示されているといえないから、特許異議申立人の上記主張はその前提において理由がない。
したがって、本件請求項1、2、5に係る発明は新規性がなく特許法第29条第1項第3号発明に該当する、及び請求項4?5に係る発明は甲第1号証開示の発明、甲第2号証の開示事項から当業者が容易に想到できたので特許法第29条第2項の規定に違反するという特許異議申立人の主張は理由がない。
(b)特許異議申立人は、特許異議申立書において、「固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行う」、「所定の角度」の用語が不明確であるので、請求項1?5の記載は不明確であり、また発明の詳細な説明に記載されたものでないと主張している(特許異議申立書第5頁「理由の要点」の(2))。
しかし、「繰り返し」とは、「くりかえすこと」(株式会社岩波書店、広辞苑第六版)を意味し、「くりかえす」とは「同じことを何回もする。反復する。」(株式会社岩波書店、広辞苑第六版)を意味し、本件特許発明の「固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行う」も「固定する作業を1本のまつげに対して反復して行う」の意味に解されるから、不明確とはいえない。また、「固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行う」具体的な技術内容として発明の詳細な説明の段落【0033】に「まつげエクステンション用人工毛10は、まつげ11の径方向外方に向って湾曲(カール)するように揃えて固定される。この作業を1本のまつげ11に対して繰り返し行うことにより、複数本のまつげエクステンション用人工毛10が装着される。」と記載されていることから、発明の詳細な説明に記載された事項であると認められる。
また、「所定」とは、「定まっていること。定めてあること。」(株式会社岩波書店、広辞苑第六版)を意味し、本件特許発明の「上記まつげエクステンション用人工毛が、上記まつげに対して、所定の角度を有するように」は「上記まつげエクステンション用人工毛が、上記まつげに対して、定まった角度を有するように」の意味に解されるから、その記載自体不明確とはいえない。また、「上記まつげエクステンション用人工毛が、上記まつげに対して、所定の角度を有するように、」「固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行う」具体的な技術内容として、発明の詳細な説明の段落【0030】に「上記まつげエクステンション用人工毛10が、上記まつげ11に対して、所定の角度αを有するように固定されている。図1及び図2においては、まつげエクステンション用人工毛胴部18とまつげエクステンション用人工毛長さ方向端部13とまつげ胴部19によって形成される所定の角度αは10°に形成されている。」と記載されており、図1及び図2には、まつげ11に対して所定の角度αを有するように固定された複数のまつげエクステンション用人工毛10が図示されていることから、「毎回、任意の角度で繰り返し行われる」(特許異議申立書第15頁15行)ものと解することはできず、発明の詳細な説明に記載された事項であると認められる。
したがって、請求項1?5の記載は不明確であり、また発明の詳細な説明に記載されたものでなく、特許法第36条第6項第2号及び第1号に違反するという特許異議申立人の主張は理由がない。

(4-4-2)申立番号2:特許異議申立人一般社団法人日本アイリスト協会の主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件請求項1、2、4、5に係る発明は甲第1号証(米国特許第8113218号明細書)に記載の発明及び甲第2号証(米国特許第8127774号明細書)に記載された発明から当業者が容易に想到し得たと主張している。
しかし、甲第1号証は引用例3に相当するものであり、当該甲第1号証には上記(4-1)、(4-2)に示したとおり、まつげエクステンション用人工毛が、「まつげの長さ方向において互いに異なる位置」、「まつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置」に固定されるという事項を記載又は示唆しているとは認められない。
この点について、特許異議申立人は、甲第2号証のFig.1Fの図示内容等に基づき、甲第2号証に「d” 一本のまつげに接着剤を用いて接着させるためのまつげエクステンション用人工毛であって、1本の基端部から分岐して、その長さ方向において及びその周方向において互いに異なる位置に複数の枝部が配置されているまつげエクステンション用人工毛」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているから、当業者が、「1本の基端部から分岐して、その長さ方向において及びその周方向において互いに異なる位置に複数の枝部が配置されているまつげエクステンション用人工毛」であることを発明の特徴としている甲2発明に接することにより、「まつげエクステンション用人工毛を、まつげの長さ方向において、互いに異なる位置に固定する作業を行う」ことに想到することは容易になしうることである(特許異議申立書第10?11頁、第13頁、第15頁)と主張するが、甲2発明の基端部と枝部は何れも、「まつげ」でなく「まつげエクステンション用人工毛」であり、当該発明には「まつげエクステンション用人工毛を、まつげの長さ方向において、互いに異なる位置に固定する」ことについて開示も示唆もあるとはいえないから、当該主張は理由がない。
また、甲第2号証には、枝分かれしたつけまつげを作成する方法が記載されているが(甲第2号証の第1欄61?64行、特許異議申立書の第10頁(イ)参照)、まつげに対してつけまつげ(本願の「まつげエクステンション用人工毛」に相当)を繰り返し固定する方法について記載も示唆もされていない。そうすると、甲第1号証に甲第2号証を適用してみても、せいぜい枝分かれしたつけまつげをまつげに複数固定することが想到できるにすぎないから、その際にまつげの長さ方向や長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置に固定することを当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件請求項1、2、4、5に係る発明は甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法29条第2項の規定に違反するという特許異議申立人の主張は理由がない。

(4-4-3)申立番号3:特許異議申立人林宏和の主張する特許異議申立理由について
(a)特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1号証(引用例1に相当)に記載された発明について「1本のまつげに対して、グルー(接着剤)を付けた状態の2本目のまつげエクステンション用人工毛を取り付ける際に、1本目のまつげエクステンション用人工毛と全く同じ位置に取り付けることは至難の技であり、通常はまつげの長さ方向及び周方向の少なくとも一方が異なる位置となることは自明である。したがって、甲第1号証に記載のダブル・テクニックは、『まつげエクステンション用人工毛が、まつげに対して、所定の角度を有するように、まつげエクステンション用人工毛を接着剤で固定する』シングル・テクニックを1本のまつげに対して繰り返し行ない、『複数のまつげエクステンション用人工毛を1本のまつげの長さ方向及び周方向の少なくともいずれかにおいて互いに異なる位置に固定する』方法である。」(特許異議申立書第16頁12?22行)とし、また、平成29年7月21日付け上申書において「2本目のエクステを装着する位置は、1本目のエクステと長さ方向及び周方向において同一位置に限定されておらず、また施術者が同一位置に装着することは困難であるから、異なる位置に装着する態様が当然に含まれる。」(第3頁14?16行)とし、本件請求項1、2、及び5に係る発明は甲第1号証に記載された発明であると主張している。
しかし、引用例1にはシングル・テクニック及びダブル・テクニックのいずれにおいてもエクステの装着方法として「i)再度、エクステの根元をまつ毛の根元近くまで戻し、ii)まつ毛の毛先方向に少し押し出し、iii)全体を軽く押し付けます。」という同一の手順(上記(3-1)参照)が記載されているにすぎず、また、特許異議申立人の指摘する、第43頁に記載された「シングル・テクニックとダブル・テクニックとの対比写真」から、「まつげの径方向の立体化」(前記上申書第4頁3行参照)が認められるとしても、1本目の装着エクステと2本目のエクステの装着位置を意図的に異ならせる技術思想が記載されているとまでは認められない。
また、特許異議申立人が主張するように、ダブル・テクニックにおいて、1本目のエクステと2本目のエクステのまつげへの固定位置が結果的に異なってしまうことがあるとしても、それは技術適用上の不可避な誤差にすぎず、意図的に固定位置を異ならせる技術思想を現したものではないので、(例えば、エクステンション用人工毛をピンセットで一度に掴んでまつげに装着した場合のように)それぞれの固定位置は互いに近傍の限られた範囲に集中し、実質的にまつげの長さ方向において略同一の位置に固定されるものと認められる。
したがって、意図的に固定位置を異ならせることが明示されていない引用例1に記載された発明を、特許異議申立人の主張のように認定して、本件請求項1、2、及び5に係る発明であるとすることはできない。
したがって、本件請求項1、2、及び5に係る発明は引用例1に記載された発明であるから特許法29条第1項第3号発明に該当するという特許異議申立人の主張は理由がない。
また、甲第2号証(甲第1号証の付属DVD)及び甲第3号証(同ダイジェスト動画)は甲第1号証に記載の発明と同一内容のものを示したにすぎず(特許異議申立書第18頁(イ)、第20頁(ウ)参照)、甲第1号証同様、「複数のまつげエクステンション用人工毛を1本のまつげの長さ方向及び周方向の少なくともいずれかにおいて互いに異なる位置に固定する」点が開示されているとは認められず、本件請求項1に係る発明は甲第1号証?甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条第2項の規定に違反するという特許異議申立人の主張は理由がない。
(b)さらに、同特許異議申立人林宏和は、甲第4号証(米国特許出願公開第2014/0026913号明細書)には、「1本のまつげに対して、複数本のまつげエクステンション用人工毛を固定する技術であって、各まつげエクステンション用人工毛のまつげへの固定角度や固定位置を任意に変えることができることが記載されている。」(特許異議申立書第25頁4?7行)とし、本件請求項2に係る発明は甲第1?3号証の開示事項(いずれも引用例1発明に関する事項)及び甲第4号証に記載された事項から当業者が容易になし得たと主張している。
しかし、上記甲第4号証に記載された発明は、複数のフィラメントから分岐まつげエクステンションを作成する方法であり(段落[0044]:特許異議申立書第23頁適示事項4D参照)、まつげに対してまつげエクステンション用人工毛を繰り返し固定する方法ではない。
そうすると、甲第1?3号証の開示事項に甲第4号証に記載された事項を適用してみても、せいぜい、まつげに分岐まつげエクステンションを複数取り付けることが想到できるにすぎず、その際にまつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置に固定することを当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、本件請求項2に係る発明は甲第1?3号証に記載の事項(甲1発明に相当)及び甲第4号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものであるから特許法29条第2項の規定に違反するという特許異議申立人の主張は理由がない。
また、甲第5?7号証に、1本のまつげに対して、直径0.07mmのまつげエクステンション用人工毛を複数本固定するまつげエクステンション用人工毛の装着方法が示されており、甲第8号証には1本のまつげに対して、直径0.03?0.07mmのまつげエクステンション用人工毛を複数本固定するまつげエクステンション用人工毛の装着方法が示されている(特許異議申立書第36頁1?5行参照)としても、まつげエクステンション用人工毛が、「まつげの長さ方向において互いに異なる位置」又は「まつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置」に固定されるという事項を開示又は示唆しているとは認められないので、本件請求項4、5に係る発明は甲第1?8号証の開示事項から当業者が容易になし得たものであるから特許法29条第2項の規定に違反するという特許異議申立人の主張は理由がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?2、4?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、請求項3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人株式会社松風、一般社団法人日本アイリスト協会、林宏和がしたそれぞれの特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
また、他に本件請求項1?2、4?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
まつげに装着されるまつげエクステンション用人工毛の装着方法であって、
上記まつげエクステンション用人工毛は、最大径部の直径が上記まつげよりも細径に形成されており、
上記まつげエクステンション用人工毛が、上記まつげに対して、所定の角度を有するように、上記まつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向において互いに異なる位置に固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行うことにより、複数本の上記まつげエクステンション用人工毛が装着されることを特徴とするまつげエクステンション用人工毛の装着方法。
【請求項2】
まつげに装着されるまつげエクステンション用人工毛の装着方法であって、
上記まつげエクステンション用人工毛は、最大径部の直径が上記まつげよりも細径に形成されており、
上記まつげエクステンション用人工毛が、上記まつげに対して、所定の角度を有するように、上記まつげエクステンション用人工毛をまつげの長さ方向と共に周方向において互いに異なる位置に固定する作業を1本のまつげに対して繰り返し行うことにより、複数本の上記まつげエクステンション用人工毛が装着されることを特徴とするまつげエクステンション用人工毛の装着方法。
【請求項3】
削除
【請求項4】
上記まつげエクステンション用人工毛は、最大径部の直径が0.01mmから0.12mmで形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のまつげエクステンション用人工毛の装着方法。
【請求項5】
上記まつげエクステンション用人工毛は、接着剤により固定されることを特徴とする請求項1、2又は4に記載のまつげエクステンション用人工毛の装着方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-04 
出願番号 特願2014-155837(P2014-155837)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A41G)
P 1 651・ 113- YAA (A41G)
P 1 651・ 121- YAA (A41G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 青木 良憲  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 熊倉 強
二階堂 恭弘
登録日 2016-06-24 
登録番号 特許第5955355号(P5955355)
権利者 株式会社國井
発明の名称 まつげエクステンション用人工毛の装着方法  
代理人 山浦 昂  
代理人 手島 勝  
代理人 高須 和之  
代理人 宮西 英輔  
代理人 宮西 英輔  
代理人 笠原 基広  
代理人 笠原 基広  
代理人 高須 和之  
代理人 山浦 昂  
代理人 松山 美奈子  
代理人 吉田 樹里  
代理人 伊藤 卓  

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