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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D03D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D03D
管理番号 1333181
異議申立番号 異議2016-700641  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-27 
確定日 2017-08-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5848855号発明「織物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5848855号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正することを認める。 特許第5848855号の請求項9、12?15に係る特許を維持する。 特許第5848855号の請求項1?8、10、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5848855号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成26年8月12日(優先権主張 平成25年8月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月4日にその特許権の設定登録がされた。
その後、請求項1?11に係る特許について、特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「申立人1」という。)及び特許異議申立人迫間健太郎(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年10月26日付けで取消理由が通知され、平成28年12月20日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、平成29年1月10日付けで申立人1及び2に対し訂正請求があった旨の通知がなされ、平成29年2月10日に申立人2から意見書(以下、「申立人2意見書」という。)が提出され、平成29年4月11日付けで特許権者に対し審尋がなされ、平成29年5月11日に特許権者より回答書が提出された。

2.本件訂正請求についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
キ.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
ク.訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
ケ.訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「製織後の乾燥仕上を140℃以下で行う、請求項8に記載の方法。」とあるのを、
「織物構成糸の5℃/分昇温DSC吸熱曲線における極大吸熱温度で示される融点が250℃以上のポリアミド66繊維からなる樹脂被覆されていない織物の製造方法であって、
引張強度8.5cN以上10.0cN以下の原糸を織糸として用い、製織時の経糸張力を0.40?0.65cN/dtexとして、ウォータージェット織機で製織し、引き続き精錬せずに、又は50℃以下の精錬を経て、続いて乾燥仕上を120℃以下で行う工程を含み、
得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を越え80%までであり、かつ、該織物構成糸の単糸断面が丸断面である、前記方法。」に訂正する。
コ.訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
サ.訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
シ.訂正事項12
請求項12「前記織物の構成糸の粘弾性のtanδピーク温度が115℃以上である、請求項9に記載の方法。」を追加する。
ス.訂正事項13
請求項13「前記織物の油付率が0.05重量%以上0.20重量%以下である、請求項9又は12に記載の方法。」を追加する。
セ.訂正事項14
請求項14「前記織物の構成する経糸と緯糸の集束の扁平度(平面方向の単糸の広がり/厚み方向の単糸の広がり)のうち大きいほうが3.0以上である、請求項9、12及び13のいずれか一項に記載の方法。」を追加する。
ソ.訂正事項15
請求項15「前記織物の、110℃の環境に100時間暴露後のフラジール通気度が0.5cc/cm^(2)/sec以下である、請求項9、及び12?14のいずれか一項に記載の方法。」を追加する。

(2)訂正の適否
ア.訂正前の請求項1及びそれぞれが請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?11は一群の請求項であり、訂正事項1?15による訂正は当該一群の請求項1?11に対し請求されたものである。

イ.訂正事項1?8、10、11について
訂正事項1?8、10、11は、各々請求項1?8、10、11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ.訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項9が、訂正前の請求項6?8を介して請求項1を引用するものであったところ、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項2?5を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項9は、(a)訂正前の請求項1に記載の「ポリアミド66繊維からなる織物」、(b)訂正前の請求項6に記載の「製織に用いる織糸原糸の強度が8.0cN/dtex以上である」こと、(c)訂正前の請求項7に記載の「製織時の経糸張力が0.20?0.65cN/dtexである」こと、(d)訂正前の請求項8に記載の「ウォータージェット織機で製織し、引き続き精練せずに、又は80℃以下の精練を経て、続いて乾燥仕上を行う工程を含む」こと、(e)訂正前の請求項1に記載の「織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を超え」ることの各々を、以下に詳述するとおり、本件特許明細書の記載に基づいて、技術的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
さらに、上記(a)は、ポリアミド66繊維の融点、昇温DSCの昇温条件及び樹脂被覆されていない織物であることを明瞭にするとともに、本件特許明細書の記載との整合を図るものであり、上記(e)は、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率を明瞭にするとともに、本件特許明細書の記載との整合を図るものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項9による訂正は、以下に詳述するように、本件特許明細書の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(a)訂正前の請求項1に記載の「ポリアミド66繊維からなる織物」について
「ポリアミド66繊維」が「織物構成糸の5℃/分昇温DSC吸熱曲線における極大吸熱温度で示される融点が250℃以上」であることを、本件特許明細書の段落【0012】の「特にポリアミド6・6繊維としては、主としてポリヘキサメチレンアジパミド樹脂からなる繊維である事が好ましい。ポリヘキサメチレンアジパミド樹脂とは100%のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸とから構成される融点が250℃以上のポリアミド樹脂を指すが・・・」との記載及び【0016】の「本発明の織物は、昇温DSC(示差走査熱量計)で計測される溶融吸熱曲線において・・・。織物試料を室温から5℃/分で昇温し、溶融による吸熱曲線を観測し、この溶融挙動を基準温度の低温度側溶融と高温度側溶融に分け・・・。基準温度は、織物を解体して得られた織物構成糸を同じ昇温条件でDSC観測した際の極大吸熱温度である。この極大吸熱温度は、通常、融点として観測されるものである。」との記載に基づき、技術的に限定するとともに、「織物」が、「樹脂被覆されていない織物」であることを、訂正前の請求項10の「樹脂被覆されていない」との記載、本件特許明細書の段落【0007】の「本発明は、エアバッグ用途などに有用な、エラストマーや樹脂の被膜や含浸のない軽量な織物において熱安定性を改善することを目的とするものである。」との記載及び【0025】の「本発明の織物は、樹脂加工せずにそのまま裁断縫製してエアバッグに用いるのに適している。」との記載に基づき、技術的に限定するものである。
(b)訂正前の請求項6に記載の「製織に用いる織糸原糸の強度が8.0cN/dtex以上である」ことについて
「製織に用いる織糸原糸の強度」が、「引張強度8.5cN以上10.0cN以下」であることを、本件特許明細書の段落【0013】の「製織に用いられる合成繊維からなる織糸原糸は、引張強度が8.0cN/dtex以上が好ましい。より好ましくは、8.5cN/dtex以上である。・・・一方、合成繊維からなる織糸原糸の引張強度は、10.0cN/dtex以下が好ましい。」との記載に基づき、技術的に限定するものである。
(c)訂正前の請求項7に記載の「製織時の経糸張力が0.20?0.65cN/dtexである」ことについて
「製織時の経糸張力」が「0.40?0.65cN/dtex」であることを、本件特許明細書の段落【0013】の「経糸張力は0.20?0.65cN/dtexとするのが好ましい。・・・より好ましくは、0.25?0.55cN/dtexである。」との記載及び段落【0040】の【表1】に記載された実施例1、3?5の経糸張力が0.40cN/dtexであることに基づき、技術的に限定するものである。
(d)訂正前の請求項8に記載の「ウォータージェット織機で製織し、引き続き精練せずに、又は80℃以下の精練を経て、続いて乾燥仕上を行う工程を含む」ことについて
「精錬」が「50℃以下」で行われること及び「乾燥仕上」が「120℃以下」で行われることを、本件特許明細書の段落【0021】の「製織後の精練工程では・・・好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下の温度で・・・精練方法を用いるべきである。」との記載及び段落【0022】の「乾燥仕上工程でも・・・好ましくは140℃以下、さらに好ましくは120℃以下で乾燥処理する。」との記載に基づき、技術的に限定するものである。
(e)訂正前の請求項1に記載の「織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を超え」ることについて
「織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率」が、「45%を越え80%まで」であることを、本件特許明細書の段落【0017】の「高温度側吸熱量の比率が高く100%であることが好ましいが、織物構造による織糸拘束に限りがあり、80%程度までである。」との記載に基づき、技術的に限定するものである。

エ.訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項2が請求項1を引用するものであったところ、訂正後の請求項9を引用し、さらに、訂正前の請求項2の記載に基づいて、技術的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ.訂正事項13について
訂正事項13は、訂正前の請求項3が請求項1を引用するものであったところ、訂正後の請求項9を引用し、さらに、訂正前の請求項3の記載に基づいて、技術的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

カ.訂正事項14について
訂正事項14は、訂正前の請求項4が請求項1を引用するものであったところ、訂正後の請求項9を引用し、さらに、訂正前の請求項4の記載に基づいて、技術的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

キ.訂正事項15について
訂正事項15は、訂正前の請求項5が請求項1を引用するものであったところ、訂正後の請求項9を引用し、さらに、訂正前の請求項5の記載に基づいて、技術的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項9、12?15に係る発明(以下「本件発明9、12?15」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項9、12?15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項9】
織物構成糸の5℃/分昇温DSC吸熱曲線における極大吸熱温度で示される融点が250℃以上のポリアミド66繊維からなる樹脂被覆されていない織物の製造方法であって、
引張強度8.5cN以上10.0cN以下の原糸を織糸として用い、製織時の経糸張力を0.40?0.65cN/dtexとして、ウォータージェット織機で製織し、引き続き精錬せずに、又は50℃以下の精錬を経て、続いて乾燥仕上を120℃以下で行う工程を含み、
得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を越え80%までであり、かつ、該織物構成糸の単糸断面が丸断面である、前記方法。
【請求項12】
前記織物の構成糸の粘弾性のtanδピーク温度が115℃以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記織物の油付率が0.05重量%以上0.20重量%以下である、請求項9又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記織物の構成する経糸と緯糸の集束の扁平度(平面方向の単糸の広がり/厚み方向の単糸の広がり)のうち大きいほうが3.0以上である、請求項9、12及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記織物の、110℃の環境に100時間暴露後のフラジール通気度が0.5cc/cm^(2)/sec以下である、請求項9、及び12?14のいずれか一項に記載の方法。

(2)取消理由の概要
本件特許の訂正前の請求項1?11に係る特許に対する、平成28年10月26日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
なお、上記取消理由通知においては、申立人1及び申立人2が申し立てた全ての特許異議申立理由を採用した。

<理由1>本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
<理由2>本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<理由3>本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


以下、申立人1による特許異議申立書を「申立書1」、申立人2による特許異議申立書を「申立書2」とする。

刊行物1.特開2004-149992号公報(申立書1の甲第1号証、申立書2の甲第8号証)
刊行物2.特開2009-256860号公報(申立書1の甲第2号証)
刊行物3.特開2011-58118号公報(申立書1の甲第3号証)
刊行物4.特開平11-158743号公報(申立書1の甲第4号証)
刊行物5.国際公開第2011/055562号(申立書1の甲第5号証、申立書2の甲第13号証)
刊行物6.特開2003-171841号公報(申立書1の甲第6号証)
刊行物7.特開2009-243030号公報(申立書2の甲第1号証)
刊行物8.特開2002-363836号公報(申立書2の甲第12号証)

<理由1:特許法第29条第1項第3号違反>
請求項1、2、4?6、11に対し 、刊行物1記載発明と同一
請求項1?11に対し 、刊行物2、3、又は7記載発明と同一

<理由2:特許法第29条第2項違反>
請求項1、2、4?6、11に対し 、刊行物1記載発明から容易
請求項1?11に対し 、刊行物2、3、又は7記載発明から容易
請求項1に対し、刊行物2、3、又は7記載発明に、刊行物1記載事項を組み合わせて容易
請求項2に対し、刊行物1、2、3、又は7記載発明に、刊行物4記載事項を組み合わせて容易
請求項3に対し、刊行物1、2、3、又は7記載発明に、刊行物5又は8記載事項を組み合わせて容易
請求項4に対し、刊行物1、2、3、又は7記載発明に、刊行物6記載事項を組み合わせて容易
請求項6に対し、刊行物1記載発明に、刊行物3、5又は7記載事項を組み合わせて容易
請求項7に対し、刊行物1記載発明に、刊行物2、3又は7記載事項を組み合わせて容易
請求項8?10に対し、刊行物1記載発明に、刊行物2、3、5又は7記載事項を組み合わせて容易

<理由3:特許法第36条違反>
1.請求項1には「織物構成糸の単糸断面が丸断面である」という記載があるが、当該記載が意味することを明確に把握することができない。特に、「織物構成糸の単糸断面」が、製織前の単糸の断面形状を意味するのか、製織後の単糸の断面形状を意味するのか不明であり、明確性要件違反である。

2.請求項1の「織物構成糸の単糸断面」が、製織後の単糸の断面形状を意味するのであれば、発明の詳細な説明には、製織後の単糸の断面形状を丸断面とする方法が記載されていないから、実施可能要件違反であり、サポート要件違反である。

3.請求項1には、織物の昇温DSC吸熱曲線における、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率の上限値が特定されておらず、本件特許明細書の段落【0017】に記載されている実現可能な上限値を超える範囲や、本件特許明細書の実施例1?5に開示されている値を超える範囲までを含むものとなっているから、実施可能要件違反であり、サポート要件違反である。

4.請求項1には、昇温DSCの昇温条件が特定されておらず、発明の範囲が不明確である。また、発明の詳細な説明には、昇温条件が5℃/分のみしか記載されておらず、サポート要件違反である。

5.請求項1?9、11は、織物が樹脂被覆されているものも含むところ、このようなものは発明の詳細な説明に記載されておらず、また、本件特許明細書の段落【0007】に記載されている課題を解決するものでもないから、サポート要件違反である。

6.請求項1には、ポリアミド66繊維の融点が特定されておらず、サポート要件違反である。

(3)判断
ア.<理由1>について
(ア)刊行物1記載発明との対比、判断
a.刊行物1記載発明
刊行物1の【請求項1】、段落【0001】、【0009】、【0015】、【0017】?【0034】、【0053】及び【図1】の記載を踏まえると、刊行物1には、以下の刊行物1記載発明が記載されている。
《刊行物1記載発明》
示差走査熱量計により測定される融解温度が 260℃近傍のナイロン66繊維からなる、シリコン組成物がコーティングされた織物の製造方法であって、
引張強度8.5cNの原糸を織糸として用い、製織し、引き続き精錬せずに、乾燥機内で180℃、3分間、熱処理を行ない、
得られた基布の示差走査熱量計による200℃/min昇温時の最高温側融点T(200)と10℃/min昇温時の最高温側融点T(10)とが、T(200)-T(10)≧10の関係を満足する、前記方法。
b.対比、判断
本件発明9と刊行物1記載発明とを対比すると、刊行物1記載発明の「ナイロン66繊維」、「乾燥機内で」「熱処理を行う」は、各々、本件発明9の「ポリアミド66繊維」、「乾燥仕上を」「行う」に相当し、本件発明9と刊行物1記載発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。
《相違点1a》
本件発明9は、樹脂被覆されていない織物の製造方法であるのに対し、刊行物1記載発明では、シリコン組成物がコーティングされた織物の製造方法である点。
《相違点1b》
本件発明9は、得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を越え80%までである(以下、「本件発明9特定事項」という。)のに対し、刊行物1記載発明は、得られた基布の示差走査熱量計による200℃/min昇温時の最高温側融点T(200)と10℃/min昇温時の最高温側融点T(10)とが、T(200)-T(10)≧10の関係を満足するものである(以下、「刊行物1記載発明事項」という。)点。
そして、この《相違点1a》及び《相違点1b》は、単なる表現の相違等ではなく、実質的な相違点であるから、本件発明9は刊行物1記載発明ではない。
また、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、刊行物1記載発明ではない。

(イ)刊行物2記載発明との対比、判断
a.刊行物2記載発明
刊行物2の段落【0001】、【0006】、【0013】、【0017】、【0018】、【0025】、【0047】?【0052】、【0067】、【0072】及び【0076】?【0082】の記載(特に、実施例5に関する記載)を踏まえると、刊行物2には、以下の刊行物2記載発明が記載されている。
《刊行物2記載発明》
ナイロン66繊維からなる織物の製造方法であって、
引張強度8.5cNの原糸を織糸として用い、製織時の経糸張力を0.34cN/本・dtexとして、ウォータージェットルーム内で製織し、55℃の熱水収縮槽を20秒間通過させ、ノンタッチドライヤーを用いて120℃で10秒間乾燥させ、前記原糸が円形の断面形状を有する、前記方法
b.対比、判断
本件発明9と刊行物2記載発明とを対比すると、刊行物2記載発明の「ナイロン66繊維」、「ウォータージェットルーム内で製織し」、「熱水収縮槽を」「通過させ」、「ノンタッチドライヤーを用いて」「乾燥させ」は、各々、本件発明9の「ポリアミド66繊維」、「ウォータージェット織機で製織し」、「精錬を経て」、「乾燥仕上を」「行う」に相当し、本件発明9と刊行物2記載発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。
《相違点2a》
製織時の経糸張力が、本件発明9では、0.40?0.65cN/dtexであるのに対し、刊行物2記載発明では、0.34cN/本・dtexである点。
《相違点2b》
本件発明9は、本件発明9特定事項を発明特定事項としているのに対し、刊行物2記載発明は、本件発明9特定事項に対応する事項の有無が不明である点。
そして、これらの《相違点2a》及び《相違点2b》は、単なる表現の相違等ではなく、実質的な相違点であるから、本件発明9は刊行物2記載発明ではない。
また、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、刊行物2記載発明ではない。

(ウ)刊行物3記載発明との対比、判断
a.刊行物3記載発明
刊行物3の段落【0001】、【0003】、【0015】、【0024】、【0051】、【0054】、【0100】?【0106】及び【0138】の記載(特に、実施例11に関する記載)を踏まえると、刊行物3には、以下の刊行物3記載発明が記載されている。
《刊行物3記載発明》
ナイロン66繊維からなる織物の製造方法であって、
引張強度9.23cNの原糸を織糸として用い、製織時の経糸張力を0.43cN/dtex(=(タテ糸張力:150cN/本)/(総繊度:350dtex))として、ウォータージェットルームを用いて製織し、精錬槽温度80℃、水洗槽温度40℃で精錬し、引き続き120℃で乾燥し、前記原糸の単糸断面形状が円形である、前記方法
b.対比、判断
本件発明9と刊行物3記載発明とを対比すると、刊行物3記載発明の「ナイロン66繊維」、「ウォータージェットルームを用いて製織し」、「精錬し」、「乾燥し」は、各々、本件発明9の「ポリアミド66繊維」、「ウォータージェット織機で製織し」、「精錬を経て」、「乾燥仕上を」「行う」に相当し、本件発明9と刊行物3記載発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。
《相違点3》
本件発明9は、本件発明9特定事項を発明特定事項としているのに対し、刊行物3記載発明は、本件発明9特定事項に対応する事項の有無が不明である点
そして、この《相違点3》は、単なる表現の相違等ではなく、実質的な相違点であるから、本件発明9は刊行物3記載発明ではない。
また、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、刊行物3記載発明ではない。

(エ)刊行物7記載発明との対比、判断
a.刊行物7記載発明
刊行物7の段落【0001】、【0045】、【0080】、【0086】、【0097】、【0099】、【0109】?【0111】、【0129】及び【0137】の記載(特に、比較例11に関する記載)を踏まえると、刊行物7には、以下の刊行物7記載発明が記載されている。
《刊行物7記載発明》
ナイロン66繊維からなる織物の製造方法であって、
引張強度8.5cNの原糸を織糸として用い、製織時の経糸張力を0.38cN/dtex(=(タテ糸張力:180cN/本)/(総繊度:470dtex))として、ウォータージェットルームを用いて製織し、精錬槽温度65℃、水洗槽温度40℃で精錬し、引き続き120℃で乾燥し、前記原糸の単糸断面形状が円形である、前記方法
b.対比、判断
本件発明9と刊行物7記載発明とを対比すると、刊行物7記載発明の「ナイロン66繊維」、「ウォータージェットルームを用いて製織し」、「精錬し」、「乾燥し」は、各々、本件発明9の「ポリアミド66繊維」、「ウォータージェット織機で製織し」、「精錬を経て」、「乾燥仕上を」「行う」に相当し、本件発明9と刊行物7記載発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。
《相違点4》
本件発明9は、本件発明9特定事項を発明特定事項としているのに対し、刊行物7記載発明は、本件発明9特定事項に対応する事項の有無が不明である点
そして、この《相違点4》は、単なる表現の相違等ではなく、実質的な相違点であるから、本件発明9は刊行物7記載発明ではない。
また、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、刊行物7記載発明ではない。

イ.<理由2>について
(ア)刊行物1記載発明との対比、判断
刊行物1記載発明、本件発明9と刊行物1記載発明との相違点は、上記3.(3)ア.(ア)のとおりである。
以下、相違点について検討する。
《相違点1a》について
刊行物1の段落【0015】には「・・・インフレーターの発生するホットガスによりエアバッグ基布の損傷によるバーストの発生を防止する必要がある。・・・本発明では、このための手段としてエラストマー膜を基布表面に設けることが必要であり、各種のエラストマーが用いられるが、中でも、好ましくは、後で詳しく述べる特定のシリコン組成物である。」と記載されており、刊行物1記載発明は、シリコン組成物がコーティングされていない織物をその製造対象とすることは、全く想定しておらず、このことには、阻害要因があるといえる。
そして、この阻害要因があるにも関わらず、刊行物1記載発明において、シリコン組成物がコーティングされていない織物をその製造対象とするようにすべき動機付けとなる事項等があることについて、刊行物2?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1には、記載や示唆はされていない。
ゆえに、シリコン組成物がコーティングされた織物の製造方法に関する刊行物1記載発明を、シリコン組成物がコーティングされていない、すなわち、樹脂被覆されていない、織物の製造方法に変更することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
《相違点1b》について
本件発明9特定事項の技術的意義について、本件特許明細書には、「構成糸の融点より高温で溶融する比率が高いことにより、エアバッグの高温展開における通気抑制や損傷回避性が高まる」(段落【0016】)、「構成糸の融点より低温での吸熱量が少なければ、熱経時による通気度変化が少なく、許容できる通気度範囲を超えることがなくなる」(段落【0016】)、「高温側吸熱量の比率が高く、織糸の相互拘束性が高いと、織物のバイアス方向の伸びが抑制され」、「ガス漏洩が抑制されたエアバッグとなる」(段落【0017】)、「高温側吸熱量の比率が高い織物は、応力集中による縫製部損傷が抑制されたエアバッグとなる」(段落【0017】)といった作用効果が奏されることが説明されている。
一方、刊行物1記載発明事項の技術的意義について、刊行物1には、「繊度が100?350dtexのポリヘキサメチレンアジパミド繊維を用いた織物にエラストマーを付与した基布は、昇温速度が200℃/分による示差走査熱量計の融解温度(T(200))と、通常の測定温度である10℃/minの昇温速度での融解温度(T(10))との間に、T(200)?T(10)≧10の関係が満足された場合に、耐溶融性に優れ、高温下での展開時の耐バーストが向上した、小型で、軽量、かつ、柔軟なエアバッグ用基布がえられる」(段落【0018】)、「特に、T(200)は、基布としての高速昇温過程での融点の程度を示す指標であり、このT(200)を大きくすることにより、エアバッグ基布として用いたときに、耐溶融性に優れ、耐バースト性が向上するものである」(段落【0018】)といった作用効果が奏されることが説明されている。
これらの説明から、本件発明9特定事項の技術的意義と刊行物1記載発明事項の技術的意義とは、異なるものと解されるところ、申立人1は、本件発明9特定事項が有する技術的意義と、刊行物1発明事項が有する技術的意義は、同じであることを示す証拠等を提出していない。
さらに、刊行物1記載発明において、刊行物1発明事項に代えて本件発明9特定事項を採用することについて、刊行物2?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1には、記載や示唆はされていない。
したがって、刊行物1記載発明において、刊行物1発明事項に代えて本件発明9特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

以上のとおり、本件発明9は、刊行物1記載発明に基いて、又は、刊行物1記載発明、刊行物2?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)刊行物2記載発明との対比、判断
刊行物2記載発明、本件発明9と刊行物2記載発明との相違点は、上記3.(3)ア.(イ)のとおりである。
以下、相違点について検討する。
《相違点2a》について
刊行物2の段落【0048】には「次に、製織において低平均動的通気度および小さな動的通気度曲線指数のエアバッグ用織物を得るためにタテ糸張力を0.11?0.34cN/本・dtexに調整して行うことが好ましく、より好ましくは0.15?0.28cN/本・dtexである。タテ糸張力を・・・0.34cN/本・dtex以下とすることで、前述のように織物に圧縮ガスが当たる際にマルチフィラメント糸が織物面に対し扁平に広がる遊びを残し、動的通気度曲線指数を下げることができる。」と記載されており、刊行物2記載発明は、製織時の経糸張力を0.34cN/本・dtexよりも大きな値とすることを意図しておらず、このことには阻害要因があるといえる。
そして、この阻害要因があるにも関わらず、刊行物2記載発明において、、製織時の経糸張力を、0.34cN/本・dtexよりも大きな値とすることについて、刊行物1、3?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1には、記載や示唆はされていない。
ゆえに、刊行物2記載発明における、製織時の経糸張力を、0.34cN/本・dtexよりも大きな値とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
《相違点2b》について
刊行物2には、織物の製造方法において、得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量に着目すべきことが記載されていないところ、刊行物2記載発明において、本件発明9特定事項を採用することについて、刊行物1、3?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1には、記載や示唆はされていない。
一方、本件発明9は、本件発明9特定事項を発明特定事項とすることにより、上記3.(3)イ.(ア)の「《相違点1b》について」で示した作用効果が奏されるものである。
したがって、刊行物2記載発明において、本件発明9特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

以上のとおり、本件発明9は、刊行物2記載発明に基いて、又は、刊行物2記載発明、刊行物1、3?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)刊行物3記載発明との対比、判断
刊行物3記載発明、本件発明9と刊行物3記載発明との相違点は、上記3.(3)ア.(ウ)のとおりである。
以下、相違点について検討する。
《相違点3》について
刊行物3には、織物の製造方法において、得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量に着目すべきことが記載されていないところ、刊行物3記載発明において、本件発明9特定事項を採用することについて、刊行物1、2、4?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1には、記載や示唆はされていない。
一方、本件発明9は、本件発明9特定事項を発明特定事項とすることにより、上記3.(3)イ.(ア)の「《相違点1b》について」で示した作用効果が奏されるものである。
したがって、刊行物3記載発明において、本件発明9特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

以上のとおり、本件発明9は、刊行物3記載発明に基いて、又は、刊行物3記載発明、刊行物1、2、4?8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)刊行物7記載発明との対比、判断
刊行物7記載発明、本件発明9と刊行物7記載発明との相違点は、上記3.(3)ア.(エ)のとおりである。
以下、相違点について検討する。
《相違点4》について
刊行物7には、織物の製造方法において、得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量に着目すべきことが記載されていないところ、刊行物7記載発明において、本件発明9特定事項を採用することについて、刊行物1?6、8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1には、記載や示唆はされていない。
一方、本件発明9は、本件発明9特定事項を発明特定事項とすることにより、上記3.(3)イ.(ア)の「《相違点1b》について」で示した作用効果が奏されるものである。
したがって、刊行物7記載発明において、本件発明9特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

以上のとおり、本件発明9は、刊行物7記載発明に基いて、又は、刊行物7記載発明、刊行物1?6、8、申立人2が提出した甲第2号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証及び参考資料1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明9の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明12?15は、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.<理由3>について
(ア)<理由3>の1.について
本件発明9において、「織物構成糸の単糸断面が丸断面である」ことに関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】には、「織物を構成する合成繊維は多数の単糸からなるマルチフィラメント繊維であり・・・単糸の断面形状は、実質的に丸断面であることが好ましい。単糸断面形状が扁平状になるほど織物の動的な高圧通気度が抑制しにくい。ここで、丸断面とは断面の長径と短径の比(アスペクト比)が0.8?1.0のものを言う。」と記載されている。
本件発明9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】に記載された「樹脂被膜のない軽量な織物であって、エアバッグに用いた場合、経熱後の高圧通気度の抑制に優れ、高温高圧展開時の損傷回避性が高いなど、優れた熱安定性を有する。」という効果を得るべきものであることから、上記段落【0015】の「織物の動的な高圧通気度」は、製織後の織物の動的な高圧通気度を意味することが明らかであり、上記段落【0015】の記載は、「単糸断面形状が扁平状になるほど織物の動的な高圧通気度が抑制しにくい」から、製織後の「単糸の断面形状は、実質的に丸断面であることが好ましい。」旨を説明しているものと解するのが自然である。
したがって、本件発明9において、「織物構成糸の単糸断面が丸断面である」ことは、製織後の単糸断面が丸断面であることを意味することが明らかであるから、<理由3>の1.により、本件発明9が不明確であるとはいえない。

(イ)<理由3>の2.について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、製織後の単糸の断面形状を丸断面とする方法について、特に記載されていないが、本件発明9を実施する際に、製織後の単糸の断面形状を丸断面とするための特定の製造手法が必要である等の特別な事情があるとは、認められない。
申立人2は、本件発明は、製織工程で高い経糸張力により高密度に織る手法を採用するため、単糸が製織時の圧力により変形を受けると考えるのが自然であるところ、いかにして製織後の織物構成糸の単糸断面を扁平ではなく丸断面に保持することができるのかが、明細書の記載及び出願時の技術常識をもってしても当業者に明らかではない旨、及び、同じような製造方法でも、丸断面の糸が製織後に丸断面となる場合と扁平にある場合とがある旨を特開2006-249655号公報(申立人2が提出した甲第5号証)の図8と図9を根拠に主張している(申立人2意見書3頁下から7行?4頁14行を参照。)。
しかし、申立人2は、製織工程で高い経糸張力により高密度に織る場合に、必ず単糸の断面形状が変形することについて、証拠等に基づく主張をしておらず、このことを根拠に、上記特別な事情があるとすることはできない。
また、特開2006-249655号公報には、図8、図9について「【図8】本発明の実施例2のコーティング布帛(片面コーティング布帛)におけるコーティング皮膜の断面を斜視的に示すSEM写真(150倍:スケール表示10ドット間が200μm)である。
【図9】比較例5のコーティング布帛(片面コーティング布帛)におけるコーティング皮膜の断面を斜視的に示すSEM写真(90倍:スケール表示10ドット間が500μm)である。」との説明があるのみであり、断面を得る際の切断方向や切断手段等が、図8、図9ともに同じであるのか否か不明であるから、図8、図9を根拠に、「同じような製造方法でも、丸断面の糸が製織後に丸断面となる場合と扁平にある場合とがある」とは、必ずしもいえない。
そして、エアバック織物の製造において、織物の機械特性を損なわないように、繊維の断面が変形しないような加工が望ましいこと、そのために加工温度や加工加重等の加工条件適宜設定し得ることは、本願優先日時点の技術常識であった(例示が必要であれば、特開2012-158850号公報の段落【0018】を参照。)ことを踏まえると、申立人2の上記主張は、採用できない。
したがって、製織後の単糸の断面形状を丸断面とする方法が記載されていないことを理由に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまではいえない。

(ウ)<理由3>の3.?6.について
上記2.で示した訂正の認容により、本件発明9は、「得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率」の上限が「80%」であること、昇温DSCの昇温条件が「5℃/分」であること、製造対象の織物が「樹脂被覆されていない織物」であること、「ポリアミド66繊維の融点」が「織物構成糸の5℃/分昇温DSC吸熱曲線における極大吸熱温度で示され」、「250℃以上」であることを発明特定事項とするものとなったことで、<理由3>の3.?6.は、いずれも理由のないものとなった。

(4)小括
以上のとおり、本件発明9、12?15に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項、同法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び2号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号及び第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明9、12?15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明9、12?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1?8、10、11に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1?8、10、11に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、請求項1?8、10、11に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
織物構成糸の5℃/分昇温DSC吸熱曲線における極大吸熱温度で示される融点が250℃以上のポリアミド66繊維からなる樹脂被覆されていない織物の製造方法であって、
引張強度8.5cN以上10.0cN以下の原糸を織糸として用い、製織時の経糸張力を0.40?0.65cN/dtexとして、ウォータージェット織機で製織し、引き続き精練せずに、又は50℃以下の精練を経て、続いて乾燥仕上を120℃以下で行う工程を含み、
得られた織物の5℃/分昇温DSC吸熱曲線において、織物構成糸の昇温DSC吸熱曲線の溶融吸熱極大温度に対して高温度側の吸熱量の、全体の吸熱量に対する比率が45%を超え80%までであり、かつ、該織物構成糸の単糸断面が丸断面である、前記方法。
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】
前記織物の構成糸の粘弾性のtanδピーク温度が115℃以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記織物の油付率が0.05重量%以上0.20重量%以下である、請求項9又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記織物の構成する経糸と緯糸の集束の扁平度(平面方向の単糸の広がり/厚み方向の単糸の広がり)のうち大きいほうが3.0以上である、請求項9、12、及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記織物の、110℃の環境に100時間暴露後のフラジール通気度が0.5cc/cm^(2)/sec以下である、請求項9、及び12?14のいずれか一項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-09 
出願番号 特願2015-515749(P2015-515749)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D03D)
P 1 651・ 537- YAA (D03D)
P 1 651・ 113- YAA (D03D)
P 1 651・ 536- YAA (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
蓮井 雅之
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5848855号(P5848855)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 織物及びその製造方法  
代理人 三間 俊介  
代理人 三間 俊介  
代理人 石田 敬  
代理人 齋藤 都子  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 和広  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中村 和広  

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