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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L 審判 一部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件 H01L |
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管理番号 | 1333195 |
異議申立番号 | 異議2016-700881 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-16 |
確定日 | 2017-08-24 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5889294号発明「微細構造を有する表面を作製する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5889294号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5889294号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5889294号は、平成23年7月6日(パリ条約による優先権主張 平成22年7月7日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月26日に特許の設定登録がなされ、同年3月22日に特許掲載公報が発行され、その後、平成28年9月16日付けで、その請求項1に係る特許に対し、特許異議申立人加藤洋平により特許異議の申立てがなされ、同年12月6日付けで取消理由が通知され、平成29年3月10日付けで意見書が提出されるとともに訂正の請求がなされ、同年6月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年7月27日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成29年3月10日になされた訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項のとおりである。 特許請求の範囲の請求項1に 「c)得られた微細構造を有する放射線硬化性コーティング化合物を硬化させるとともに、実質的に硬化したコーティングを得る工程と、 d)前記微細構造を有するコーティングを前記金型から分離する工程と、 を含み、工程d)と工程c)とを逆の順序で行ってもよく、」 と記載されているのを、 「c)得られた微細構造を有する放射線硬化性コーティング化合物を硬化させるとともに、実質的に硬化したコーティングを得る工程と、 d)前記微細構造を有するコーティングを前記金型から分離する工程と、 を含み、工程c)及び工程d)はこの順序で行われ、」 に訂正する。(下線は訂正個所を示す。) 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記の訂正事項は、工程c)及び工程d)をこの順序で行うものと逆の順序で行うものを含んでいたものから、工程c)及び工程d)をこの順序で行うものに限定したものである。 よって、上記訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正前の請求項1?3について、請求項2及び3はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、上記の訂正事項によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 独立特許要件 (1)訂正後の請求項2及び3に係る発明の独立特許要件について 上記2で示したように、請求項2及び3は、訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるが、請求項2及び3は、特許異議の申立てがされていない請求項であるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定により、請求項2及び3に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する必要がある。 (2)訂正拒絶理由 上記の訂正後の請求項2及び3に係る発明の独立特許要件に関して、平成29年6月5日付けで通された訂正拒絶理由の概要は、訂正前の請求項1に係る発明に対して平成28年12月6日付けで特許権者に通知した取消理由における特許法第36条第4項第1号の取消理由が、本件訂正によって解消しておらず、本件訂正後の請求項1に係る発明並びに請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明について、上記と同じ36条4項1号違反の拒絶理由を有するとするものである。 本件訂正前の請求項1に係る発明についての36条4項1号違反の拒絶理由は、次のとおりである。 「本件特許の請求項1には『前記放射線硬化性コーティング化合物が、多くとも6.0mol/kgの二重結合密度を有し』と記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明には、二重結合密度を上記の範囲に特定することの技術的意義についての説明がなく、また、その技術的意義が説明がなくても当業者にとって自明のものであるということもできない。すなわち、二重結合密度を上記の範囲に特定することが、本件特許発明が解決しようとする課題を解決することとどのように技術的に関連しているのか不明であり、当業者は本件特許発明の技術的意義を理解することができない。したがって、本件特許発明は、特許法第36条第4項第1号における『経済産業省令にさだめるところにより、・・・・記載したものであること。』の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。」 (3)特許権者の主張 上記の訂正拒絶理由に対して特許権者は、平成29年7月27日付けで提出された意見書において、次のように主張している。 「二重結合密度と硬度(脆性)との関係については、本件特許明細書の段落[0010]に『これらは高密度の重合性基を有するため、ポリマーに高い架橋度をもたらし、それにより高い硬度が生じ、これは一般に、高い脆性に相当する』と記載されています。ここで、上記の『これら』は低分子重合性化合物を指しています二重結合道度が高い、すなわち硬化時に架橋する二重結合の数が多いことで、ポリマーの架橋度が高くなり、硬化したコーティングの硬度(脆性)が高くなります。よって、当業者であれば、上記の記載より、二重結合密度と硬度(脆性)との関係を理解することができます。」 「コーティング化合物における粘度と二重結合密度との関係だけをみれば、両者は反比例の関係にあります。しかしながら、コーティング化合物の二重結合密度は、粘度を低くするためだけでなく、硬化後のコーティングの弾性係数との関係も考慮した上で設定することが必要です。このことは、粘度と弾性係数との関係に関する、本件特許明細書の段落[0025]の『無溶媒コーティング化合物の上述の粘度及び硬化したコーティング化合物の弾性係数によって、本発明による好ましい所要のアスペクト比が少なくとも0.5・・・のミクロ構造を得ることが初めて可能となる。』の記載から明らかです。すなわち、硬化後の弾性係数を少なくとも1MPa、最大で20KPaの範囲にするためには、二重結合密度をある程度低くする必要があるといことです。そこで、本件特許発明では、金型への完全かつ一様な流入を可能にする粘度(600mPa以下)と、金型からの分離を可能とし、微細構造を有するコーティング表面を得るための弾性係数(少なくとも1MPあ、最大で20MPa)を両立させるために、コーティング化合物の二重結合密度を多くとも6.0mol/kgに設定しているのです。」 (4)当審の判断 上記の特許権者の意見書でも主張されているように、放射線硬化性コーティング化合物の二重結合密度は、硬化する前の粘度との間で反比例の関係にあり、また、硬化後の硬度(脆性)との間で比例関係にあるものと認められ、それらは、当業者であれば、技術常識を参酌して理解できるところである。 したがって、放射線硬化性コーティング化合物の二重結合密度の数値範囲を「多くとも6.0mol/kg」と限定することに技術的意義を認めることができる。そして、放射線硬化性コーティング化合物の特性について、その「粘度」及び硬度と関係する「弾性係数」についての特定が別途なされていたとしても、それとともに、放射線硬化性コーティング化合物の構造上の特徴として「二重結合密度」の数値範囲を特定することに技術的意義が認められないということはできない。 すなわち、上記の特許権書の意見書での主張を参酌すれば、上記の訂正拒絶理由は解消されたものということができる。また、他に請求項2及び3が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由が発見されない。よって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項で規定される独立特許要件も満たすものである。 4 小活 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件訂正発明 本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「アスペクト比が少なくとも0.5の微細構造を有するコーティング表面を作製する方法であって、 a)少なくとも1つの放射線硬化性コーティング化合物を、少なくとも1つの基板上に塗布する工程と、 b)微細構造のネガを有する金型を用いて微細構造を形成する工程であって、 b1)前記金型を前記基板上の前記放射線硬化性コーティング化合物に押し付けるか、又は b2)工程a)の前記基板が前記金型を含有する、 微細構造を形成する工程と、 c)得られた微細構造を有する放射線硬化性コーティング化合物を硬化させるとともに、実質的に硬化したコーティングを得る工程と、 d)前記微細構造を有するコーティングを前記金型から分離する工程と、 を含み、工程c)及び工程d)はこの順序で行われ、 前記放射線硬化性コーティング化合物が、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又は不飽和ポリエステル樹脂であり、 前記放射線硬化性コーティング化合物が、無溶媒状態で、600mPas以下の粘度(25℃でのプレート/円錐形状を用いたDIN 53018-1に従う回転粘度測定法、温度制御:ペルチェ、測定装置:10?1000 l×s-1の剪断勾配DでのHC 60/1)を有し、 前記放射線硬化性コーティング化合物が、多くとも6.0mol/kgの二重結合密度を有し、 前記硬化したコーティングが、少なくとも1MPa、最大で20MPaの弾性係数(ベルコビッチチップ、試験片の係数に応じて0.1mN?1mNの予荷重を用いた押込み、押込み時間:10秒、保持時間:30秒、及び後退時間:10秒、ポリカーボネートに対する較正)を有する、 アスペクト比が少なくとも0.5の微細構造を有するコーティング表面を作製する方法。」 2 当審で通知した取消理由の概要 本件訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)に対する、平成28年12月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)本件特許発明は、下記の甲第1号証に記載の発明、甲第2号証に記載された技術事項、甲第3号証に記載された技術事項、及び、甲第4,5号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 [甲第1号証ないし甲第5号証(以下「甲1」ないし「甲5」という。)一覧] 甲1:特開2006-274279号公報 甲2:特開平3-135501号公報 甲3:特開2010-18644号公報 甲4:日立化成(株)「FANCRYL」商品カタログ、2011年7月作成 甲5:新中村化学工業(株)「NKエステル」商品カタログ、ウエブサイト (http://www.shin-nakamura.com/products/monomer-oligomer.html) (2)本件特許発明には「工程d)と工程c)とを逆の順序で行ってもよく」と特定されている。 しかしながら、発明の詳細な説明には、実施例において、分離工程がコーティング硬化工程の先に行われるものは記載されておらず、また、分離工程の後にコーティング硬化工程を行う順で微細構造のパターンができるできることが示されていないから、課題を解決するものではない。 また、本件特許の出願の優先日当時の技術常識に照らしても、分離工程がコーティング硬化工程の先に行われることが当業者にとって自明の事項であるということはできない。 したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものということができないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。 (3)本件特許発明には「前記放射線硬化性コーティング化合物が、多くとも6.0mol/kgの二重結合密度を有し」と特定されている。 しかしながら、発明の詳細な説明には、二重結合密度を上記の範囲に特定することの技術的意義についての説明がなく、また、その技術的意義が説明がなくても当業者にとって自明のものであるということもできない。 すなわち、二重結合密度を上記の範囲に特定することが、本件特許発明が解決しようとする課題を解決することとどのように技術的に関連しているのか不明であり、当業者は本件特許発明の技術的意義を理解することができない。 したがって、本件特許発明は、特許法第36条第4項第1号における「経済産業省令に定めるところにより、・・・・記載したものであること。」の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。 3 本件訂正発明に対する取消理由の理由(1)についての当審の判断 (1)甲各号証の記載について ア 甲1について (ア)甲1の記載事項 甲1には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。) a 「【請求項1】 微細構造化面を有する感圧接着剤の連続層を少なくとも一つの面にコーティングした支持体を含んでなるコーティングされた支持体であって、前記微細構造化面が一連の形状を含んでなり、且つ前記形状の間隔アスペクト比が1?1.1であり、前記形状の横アスペクト比が0.1?10であり、各形状の高さが25?250μmである、コーティングされた支持体。」 b 「【0001】 本発明は、微細構造化面を有するテープ及びトランスファー被膜を含む感圧接着剤(PSA)塗布物品並びにこのような微細構造化面を有する感圧接着性物品の製造方法に関する。感圧接着性物品の性能は、感圧接着剤の微細構造及びレオロジー特性を独立的に変化させることにより変更できる。」 c 「【0011】 本発明は、微細構造化面を有する連続感圧接着剤層を担持した感圧接着テープ及びトランスファー被膜を含む物品であって、前記微細構造化面が一連の形状を含んでなり、且つ前記形状の横アスペクト比が約0.1?約10の範囲である物品に関する。前記形状寸法(高さ、幅及び長さ)のうちの少なくとも2つは、微視的でなければならない。形状寸法(高さ、幅及び長さ)の3つ全てが微視的であってもよい。微細構造化パターン接着剤は、種々のターゲット支持体に付着させたときに初期再配置可能性を示すとともに、微細構造化パターンを独立的に変化及び選択すること並びに微細構造化感圧接着剤の化学的性質及びレオロジー特性により、意図する用途に応じて減少、一定又増加の長期粘着性を示す。 【0012】 本発明の別の態様によれば、 (a)微細構造化成形用具を準備する工程と; (b)エンボス加工性感圧接着剤の連続層を塗布した基材を含んでなる接着テープの接着剤層を微細構造化成形用具によりエンボス加工する工程であって、前記接着剤層が微細構造化成形用具のパターンを受容することができ且つ微細構造化成形用具からとったときに微細構造化面を保持することができるものである工程と; (c)微細構造化成形用具を接着剤層から分離して微細構造化感圧接着テープを形成する工程と、 を含んでなる微細構造化感圧接着テープの第一の製造方法が提供される。 【0013】 本発明の別の態様によれば、 (a)微細構造化成形用具を準備する工程と; (b)微細構造化成形用具に対して感圧接着剤層を塗布する工程であって、前記感圧接着剤層が微細構造化成形用具のパターンを受容することができ且つ微細構造化成形用具から除去したときに微細構造化パターンを保持することができるものである工程と; (c)微細構造化成形用具と接触している感圧接着剤層の表面に基材を適用する工程と; (d)微細構造化成形用具と感圧接着剤層とを分離して微細構造化粘着テープを形成する工程と、 を含んでなる微細構造化感圧接着テープの第二の製造方法が提供される。 【0014】 本発明の別の態様によれば、 (a)感圧接着剤剥離微細構造化面と、前記微細構造化側よりも剥離特性の小さい平面とを有する微細構造化基材を準備する工程と; (b)基材の微細構造化面に感圧接着剤層を塗布する工程と; (c)微細構造化基材と接触している感圧接着剤層の表面を微細構造化基材の平面に付着させる工程と; (d)基材の微細構造化面を接着層の微細構造化面から除去して微細構造化感圧接着テ ープを形成する工程と、 を含んでなる微細構造化感圧接着テープの第三の製造方法が提供される。 【0015】 本発明の別の態様によれば、 (a)感圧接着剤剥離微細構造化面と、前記微細構造化側よりも剥離特性の小さい平面とを有する微細構造化基材を準備する工程と; (b)エンボス加工性感圧接着剤層を基材の平面に塗布する工程と; (c)微細構造化基材と接触している感圧接着剤層の表面と、基材の微細構造化面とを接触させて感圧接着剤層をエンボス加工する工程と; (d)微細構造化基材と感圧接着剤層とを分離して微細構造化感圧接着テープを得る工程と、 を含んでなる微細構造化感圧接着剤テープの第四の製造方法が提供される。」 d 「【0059】 形状の横寸法の限界は、突起形状の高さか窪み形状の深さに対する接着剤の連続層の平面に平行な形状の最大顕微鏡的寸法の比として定義される横アスペクト比(LAR)を使用することにより説明できる。LARが大きすぎると、微細構造化の利点が得られない短いスクワット形状となる。LARが小さすぎると、感圧接着剤の低い曲げ弾性率(及びしたがって形状の低曲げ剛性)のために直立しない高くて狭い形状となるであろう。即ち、LARが小さすぎると典型的な感圧接着剤のレオロジー特性とならず、一方、LARが大きすぎると、従来の感圧接着テープの範囲に近づく。LARの典型的な限界は約0.1?約10であり,最も好ましくは約0.2?約5である。」 e 「【0102】 実施例13-紫外線硬化性感圧接着剤の調製 微細構造化成形用具、ライナー及び/又は基材に対して放射線硬化することにより微細構造化PSAテープを製造するのに使用される放射線硬化性感圧接着剤を、以下のようにして調製した:イソオクチルアクリレート90部と、アクリル酸10部と、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Escacure(商標)-KB-1、Sartomer社より入手)0.04部との混合物を、不活性化し、紫外線(UV)照射下(300?400nm放出90%及び最大351nmであり、放射線強度約1?2mW/cm^(2) の40ワット蛍光ブラックランプ)、約7%の転化率に部分光重合して、約3,000cPsの塗布性シロップを得た。微細構造化成形用具、ライナー又は基材に塗布する前に、Escacure(商標)-KB1 0.1部及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)0.1部を、シロップに添加して十分混合した。」 (イ)甲1に記載された発明(甲1発明) 上記「(ア)甲1の記載事項」のa?eの記載から、甲1には、 「横アスペクト比(LAR)の典型的な限界は約0.1?約10である微細構造化感圧接着テープの製造方法であって、 エンボス加工性感圧接着剤層を基材の平面に塗布する工程と; 微細構造化基材と接触している感圧接着剤層の表面と、基材の微細構造化面とを接触させて感圧接着剤層をエンボス加工する工程と 微細構造化基材と感圧接着剤層とを分離して微細構造化感圧接着テープを得る工程であって、分離後に微細構造化面を保持することができるものである工程からなり、 上記感圧接着剤は、 基材に対して放射線硬化することにより微細構造化PSAテープを製造するのに使用される放射線硬化性感圧接着剤であり、 イソオクチルアクリレート90部と、アクリル酸10部と、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Escacure(商標)-KB-1、Sartomer社より入手)0.04部との混合物を、不活性化し、紫外線(UV)照射下(300?400nm放出90%及び最大351nmであり、放射線強度約1?2mW/cm^(2) の40ワット蛍光ブラックランプ)、約7%の転化率に部分光重合して、約3,000cPsの塗布性シロップを得、塗布する前に、Escacure(商標)-KB1 0.1部及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)0.1部を、シロップに添加して十分混合して調製して得た 微細構造化感圧接着テープの製造方法。」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 イ 甲2について (ア)甲2の記載事項 甲2には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。) a 「2. 特許請求の範囲 1.透明基材の少なくとも一面に、紫外線硬化型樹脂からなるレンズ部が形成されたレンズシートであって、このレンズ部を構成する紫外線硬化型樹脂の硬化するときの重合収縮率(25℃における比重差に基づき算出)が20%以下であり、かつ硬化後の25℃における弾性率が10kg/cm^(2)?1,000kg/cm^(2)であることを特徴とするレンズシート。」(第1ページ左下欄第4?11行) b 「また、硬化した後の紫外線硬化型樹脂の25℃における弾性率は、1,000kg/cm^(2)以下、10kg/cm^(2)以上でなければならない。弾性率が1,000kg/cm^(2)を超えると、レンズ型から離型する際、大きな力を必要として離型がむつかしくなり、強引に剥がそうとするとレンズ先端の欠けを生じてしまうこととなる。逆に、弾性率が10kg/cm^(2)未満であると、あまりに柔かくなりすぎてレンズ形状が保持しえないこととなる。10?l,000kg/cm^(2)の範囲の弾性率にすると、離型性が向上し、かっ、器物に接触したときもゴム弾性によって一旦凹んだ部分が復元して傷が生じなくなり、また摩擦によって擦り傷が生じることもなくなり、特に2枚以上のシートを組合せて透過型スクリーンとして使用するときに有利となる。 なお、本発明に使用する紫外線硬化型樹脂の硬化する前の樹脂組成物の25℃における粘度は、300mPa・s以下であることが好ましい。この粘度が300mPa・sを超えると、レンズ型上に流し込むときに気泡を含み易くなり、また気泡が抜けにくくなる。しかもこのように粘度が高くなると、流動性が悪くなり、レンズ型に流延しにくくなって所要時間もかかってしまう。」(第6ページ左上欄第2行?右上欄第4行) c 「〔実施例1?6、比較例1?5〕 表1に示すような組成をもった紫外線硬化型樹脂組成物を調製し、該組成物100重量部に対して2重量部の光開始剤、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(メルク社製「ダロキュア1173」)を添加した。 このような組成物600gを、900mm×1,200mmのニッケルスタンバーを総重量40kgとなるように架台に固定したレンズ型に流延させた後、#800サンドペーパーでまんべんなく表面粗面化した890mm×1190mmの透明アクリル樹脂板(三菱レイヨン社製「アクリライト」3mn:紫外線吸収剤を含まないもの)を重ね、80W/cm高圧水銀灯を用いて760mJ/cm^(2)の積算紫外線量の紫外線を照射して硬化させた。 各特性の評価結果は表1のとおりであった。」(第11ページ右下欄第18行?第12ページ左上欄第13行) d「 ![]() 」(第12ページ下欄) (イ)甲2に記載された技術事項 甲2には、 「紫外線硬化型樹脂の硬化する前の樹脂組成物の25℃における粘度は、300mPa・s以下である」こと、及び、 「硬化した後の紫外線硬化型樹脂の25℃における弾性率は、1,000kg/cm^(2)以下、10kg/cm^(2)以上でなければならない。」ことが記載されているといえる。 ウ 甲3について (ア)甲3の記載事項 甲3には次の事項が記載されている。 「【0047】 本発明における成分のうち、有機溶剤以外の成分の混合物の粘度、つまり本硬化性組成物を基材に塗装し、有機溶剤が揮発した場合に残る無溶剤組成物(有効成分)の粘度が50?1100mPa・sであることが好ましい。50mPa・s以上の有効成分を用いる場合には100nmを下回る膜厚の塗装時においてハジキなどが発生せず表面平滑性良好な塗膜が得られる傾向にある。また、1100mPa・s以下の有効成分を用いる場合には、形状転写に用いるモールドの微細パターンへの追従が容易となる傾向にある。好ましくは150?1000mPa・sの範囲である。」 (イ)甲3に記載された技術事項 甲3には 「硬化性組成物を基材に塗装し、有機溶剤が揮発した場合に残る無溶剤組成物(有効成分)の粘度が50?1100mPa・sであること」が記載されているといえる。 エ 甲4について 甲4には次の事項(データ)が記載されている。 「製品名FA-321M 分子量804 官能基数2」(第22ページ) オ 甲5について 甲5には次の事項(データ)が記載されている。 「製品名A-BPE-4 分子量512 官能基数2」(第4ページ) (2)対比・判断 ア 対比 (ア)本件訂正発明と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「横アスペクト比(LAR)の典型的な限界は約0.1?約10である微細構造化感圧接着テープの製造方法」が、本件訂正発明の「アスペクト比が少なくとも0.5の微細構造を有するコーティング表面を作製する方法」に相当する。 甲1発明の「エンボス加工性感圧接着剤」は「基材に対して放射線硬化することにより微細構造化PSAテープを製造するのに使用される放射線硬化性感圧接着剤」であるので本件訂正発明の「放射線硬化性コーティング化合物」に相当するから、甲1発明の「エンボス加工性感圧接着剤層を基材の平面に塗布する工程」が、本件訂正発明の「少なくとも1つの放射線硬化性コーティング化合物を、少なくとも1つの基板上に塗布する工程」に相当する。 甲1発明の「微細構造化基材と接触している感圧接着剤層の表面と、基材の微細構造化面とを接触させて感圧接着剤層をエンボス加工する工程」が、本件訂正発明の「微細構造のネガを有する金型を用いて微細構造を形成する工程であって、前記金型を前記基板上の前記放射線硬化性コーティング化合物に押し付けるか、又は前記基板が前記金型を含有する、微細構造を形成する工程」に相当する。 甲1発明の「感圧接着剤」は「基材に対して放射線硬化することにより微細構造化PSAテープを製造するのに使用される放射線硬化性感圧接着剤」であるので本件訂正発明の「放射線硬化性コーティング化合物」に相当するから、甲1発明の「微細構造化基材と感圧接着剤層とを分離して微細構造化感圧接着テープを得る工程であって、分離後に微細構造化面を保持することができるものである工程」が、本件訂正発明の「得られた微細構造を有する放射線硬化性コーティング化合物を硬化させるとともに、実質的に硬化したコーティングを得る工程」及び「前記微細構造を有するコーティングを前記金型から分離する工程」に相当する。 甲1発明の「上記感圧接着剤」は「イソオクチルアクリレート90部と、アクリル酸10部と、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Escacure(商標)-KB-1、Sartomer社より入手)0.04部との混合物を、不活性化し、紫外線(UV)照射下(300?400nm放出90%及び最大351nmであり、放射線強度約1?2mW/cm^(2) の40ワット蛍光ブラックランプ)、約7%の転化率に部分光重合して、約3,000cPsの塗布性シロップを得、塗布する前に、Escacure(商標)-KB1 0.1部及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)0.1部を、シロップに添加して十分混合して調製して得た」ものであることが、本件訂正発明の「前記放射線硬化性コーティング化合物が、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又は不飽和ポリエステル樹脂である」ことに相当する。 (イ)一致点 よって、本件訂正発明と甲1発明とは、 「アスペクト比が少なくとも0.5の微細構造を有するコーティング表面を作製する方法であって、 a)少なくとも1つの放射線硬化性コーティング化合物を、少なくとも1つの基板上に塗布する工程と、 b)微細構造のネガを有する金型を用いて微細構造を形成する工程であって、 b1)前記金型を前記基板上の前記放射線硬化性コーティング化合物に押し付けるか、又は b2)工程a)の前記基板が前記金型を含有する、 微細構造を形成する工程と、 c)得られた微細構造を有する放射線硬化性コーティング化合物を硬化させるとともに、実質的に硬化したコーティングを得る工程と、 d)前記微細構造を有するコーティングを前記金型から分離する工程と、 を含み、 前記放射線硬化性コーティング化合物が、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又は不飽和ポリエステル樹脂である アスペクト比が少なくとも0.5の微細構造を有するコーティング表面を作製する方法。」 において一致し次の各点で相違する。 (ウ) 相違点 a 相違点1 「放射線硬化性コーティング化合物」が、本件訂正発明では「無溶媒状態で、600mPas以下の粘度(25℃でのプレート/円錐形状を用いたDIN 53018-1に従う回転粘度測定法、温度制御:ペルチェ、測定装置:10?1000 l×s-1の剪断勾配DでのHC 60/1)を有し」ているのに対して甲1発明にはそのような特定がない点。 b 相違点2 「放射線硬化性コーティング化合物」が、本件訂正発明では「多くとも6.0mol/kgの二重結合密度を有し」ているのに対して甲1発明にはそのような特定がない点。 c 相違点3 「硬化したコーティング」が、本件訂正発明では「少なくとも1MPa、最大で20MPaの弾性係数(ベルコビッチチップ、試験片の係数に応じて0.1mN?1mNの予荷重を用いた押込み、押込み時間:10秒、保持時間:30秒、及び後退時間:10秒、ポリカーボネートに対する較正)を有する」のに対して甲1発明にはそのような特定がない点。 d 相違点4 本件訂正発明においては「工程c)及び工程d)はこの順序で行われ」るのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。 (2)当審の判断 ア 各相違点についての検討 事案に鑑み相違点2について、検討する。 上記「(1)」「イ」「(ア)」のdに記載された表1から、甲2の実施例1,2の紫外線硬化樹脂の二重結合密度は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0172】記載並びに甲4及び5に示されたデータをもとに計算した結果、それぞれ、4.19mol/Kg,4.69mol/Kgとなる。そしてこの数値は、本件特許発明の「二重結合密度」についての「多くとも6.0mol/kg」の数値範囲を満たすものである。 しかしながら、甲1発明は、微細構造化面を有する感圧接着剤に関する発明であり、この感圧接着剤は、例えば、マスキングテープ、付箋、事務用メモ、保護フィルム及びメディカルテープなどに使用されるものである。そして、微細構造化パターンと、感圧接着剤の化学的性質及びレオロジー特性とを独立的に変化させることで、初期配置可能性及び長期粘着特性を調製して、用途に応じた性能を有する感圧接着性物品を製造することを特徴とするものである。 一方で、甲2発明は、透明基材の少なくとも一面に、紫外線硬化型樹脂からなるレンズ部が形成されたレンズシートに関する発明であり、レンズシートに使用される紫外線硬化型樹脂として必要な「重合収縮率」「弾性率」及び「粘度」等に関する特性が特定されたものである。 微細構造化面を有する感圧接着剤に関する甲1発明と、甲2に記載されたレンズシートとは、技術分野が異なり、課題に共通性がないことから、甲1発明に甲2に記載された技術事項を適用する動機付けは認められない。そして、甲2に記載された事項から計算で求められた樹脂の二重結合密度は甲2のレンズシートに用いられる樹脂についての構成であるから、それが、全く技術分野が異なる、甲1発明の「微細構造化面を有する感圧接着剤」の通常の特性であるということは到底いえない。 以上のとおりであるから、上記相違点2は、甲1発明及び甲2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。よって、上記相違点1,3,4について検討するまでもなく、本件訂正発明は甲1発明及び甲2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、特許法第29条第2項の規定に違反したものであるということもできない。 4 取消理由の理由(2)及び理由(3)についての当審の判断 (1)理由(2)について 取消理由の理由(2)については、本件訂正請求により、請求項1における「工程d)と工程c)とを逆の順序で行ってもよく」の記載が「工程c)及び工程d)はこの順序で行われ」に訂正されたことにより、解消された。すなわち、上記の理由による特許法第36条第6項第1号違反の取消理由は解消された。 (2)理由(3)について また、取消理由の理由(3)については、上記「第2 訂正の適否についての判断」の「3 独立特許要件」の「(4)当審の判断」に記載された理由により「放射線硬化性コーティング化合物の二重結合密度の数値範囲を「多くとも6.0mol/kg」と限定することに技術的意義を認めることができる」ものと認められることから、理由は解消されているといえる。すなわち、上記の理由による特許法第36条第4項第1号違反の取消理由は解消されているといえる。 5 取消理由通知で採用されなかった異議申立書の理由についての当審の判断 特許異議申立書においては、さらに、放射線硬化性コーティング化合物の二重結合密度の数値範囲を「多くとも6.0mol/kg」と限定することに技術的意義を認めることができないから、特許法第36条第6項第1号に違反する旨が記載されているが、上記「4」の「(2)」と同様の理由で、解消されているものと認められる。 6 小活 以上のとおり、取消理由通知の理由及び証拠並びに取消理由通知で採用されなかった異議申立書の理由によっては、本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 アスペクト比が少なくとも0.5の微細構造を有するコーティング表面を作製する方法であって、 a)少なくとも1つの放射線硬化性コーティング化合物を、少なくとも1つの基板上に塗布する工程と、 b)微細構造のネガを有する金型を用いて微細構造を形成する工程であって、 b1)前記金型を前記基板上の前記放射線硬化性コーティング化合物に押し付けるか、又は b2)工程a)の前記基板が前記金型を含有する、 微細構造を形成する工程と、 c)得られた微細構造を有する放射線硬化性コーティング化合物を硬化させるとともに、実質的に硬化したコーティングを得る工程と、 d)前記微細構造を有するコーティングを前記金型から分離する工程と、 を含み、工程c)及び工程d)はこの順序で行われ、 前記放射線硬化性コーティング化合物が、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又は不飽和ポリエステル樹脂であり、 前記放射線硬化性コーティング化合物が、無溶媒状態で、600mPas以下の粘度(25℃でのプレート/円錐形状を用いたDIN 53018-1に従う回転粘度測定法、温度制御:ペルチェ、測定装置:10?1000 l×s-1の剪断勾配DでのHC 60/1)を有し、 前記放射線硬化性コーティング化合物が、多くとも6.0mol/kgの二重結合密度を有し、 前記硬化したコーティングが、少なくとも1MPa、最大で20MPaの弾性係数(ベルコビッチチップ、試験片の係数に応じて0.1mN?1mNの予荷重を用いた押込み、押込み時間:10秒、保持時間:30秒、及び後退時間:10秒、ポリカーボネートに対する較正)を有する、 アスペクト比が少なくとも0.5の微細構造を有するコーティング表面を作製する方法。 【請求項2】 前記基板がPET、PP、PE及びPMMAからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記金型が、幅2?20μmの円筒状の窪みを1以上有し、該窪みの底面に幅200nm?1μmの別の円筒状の窪みを1以上有する階層微細構造を有する金型であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-08-16 |
出願番号 | 特願2013-517380(P2013-517380) |
審決分類 |
P
1
652・
856-
YAA
(H01L)
P 1 652・ 121- YAA (H01L) P 1 652・ 537- YAA (H01L) P 1 652・ 536- YAA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松岡 智也 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 森 竜介 |
登録日 | 2016-02-26 |
登録番号 | 特許第5889294号(P5889294) |
権利者 | ライプニッツ-インスティトゥート フィア ノイエ マテリアーリエン ゲマインニュッツィゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクタ ハフトゥンク |
発明の名称 | 微細構造を有する表面を作製する方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |