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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1333197
異議申立番号 異議2015-700161  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-09 
確定日 2017-08-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5718745号発明「非開裂リンカーを介して連結した細胞結合物質メイタンシノイド複合体を用いて特定の細胞集団を標的とする方法、前記複合体、および前記複合体の製造法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5718745号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、30?41〕〔3?29〕について訂正することを認める。 特許第5718745号の請求項9、10、23に係る発明についての特許異議の申立てを却下する。 特許第5718745号の請求項1、3?4、11?22、24?41に係る発明についての特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5718745号の請求項1?41に係る発明についての特許出願は、平成16年10月12日(パリ条約による優先権主張 2003年10月10日 (US)アメリカ合衆国、2004年10月 8日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2006-533951号の一部を平成23年 7月 4日に新たな特許出願としたものであって、平成27年 3月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、そのうち、請求項1、3?4、9?41に係る発明についての特許に対し、特許異議申立人 ▲高▼畑(以下、「高畑」と記す。)豪太郎により特許異議の申立てがされ、平成28年 7月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年10月18日に意見書の提出があり、平成28年12月 5日に上申書、平成28年12月 9日に上申書が提出された。その後、平成29年 1月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 4月19日に意見書の提出及び訂正の請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?キのとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)又はN-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」と記載されているのを、「ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2、請求項36、及び請求項38?41も実質的に同様に訂正する。請求項1を引用する請求項36を引用する請求項37も実質的に同様に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項30に、「ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)又はN-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」と記載されているのを、「ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される」に訂正する。
請求項30を引用する請求項31?35、請求項38も実質的に同様に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3及び4に、「ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)又はN-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」と記載されているのを、「ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される」に訂正する。
請求項3又は4を引用する請求項5?8、請求項11、12、及び請求項24?29も実質的に同様に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9及び10を削除する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項23を削除する。

(2)一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件の適否
ア.一群の請求項について
訂正事項1、2に係る訂正は、訂正前の請求項1、2、30?41について訂正するものであるところ、請求項2、36、39?41は請求項1を、請求項38は請求項1、2、30?37のいずれかの請求項を、また、請求項31?35は、請求項30をそれぞれ引用している関係にあるから、訂正前の請求項1、2、30?41は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
また、訂正事項3?5に係る訂正は、訂正前の請求項3?29について訂正するものであるところ、請求項5?8、11?29は請求項3または4を引用している関係にあるから、訂正前の請求項3?29は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1及び2、並びに3?5に係る訂正は、それぞれ一群の請求項ごとにされたものである。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件の存否について
(ア)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に対して、リンカーが「N-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」ものを削除するものである。また、訂正前の請求項2、36、及び39?41は請求項1を引用するものであり、請求項37は請求項1を引用する請求項36を引用するものであり、請求項38は請求項1または請求項1を引用する請求項2、請求項36または請求項36を引用する請求項37のいずれかの請求項を引用するものであって、訂正事項1は、請求項2、36?41に係る発明についても、リンカーが「N-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」ものを削除するものである。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、下記3(4)において説示するとおり、特許異議申立ての対象とされていない請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、訂正事項1による訂正後の請求項2に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

(イ)訂正事項2
訂正事項2は、請求項30に係る発明に対して、リンカーが「N-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」ものを削除するものである。また、訂正前の請求項31?35、請求項38は請求項30を引用するものであって、訂正事項2は、請求項31?35、38に係る発明についても、リンカーが「N-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」ものを削除するものである。
よって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)訂正事項3
訂正事項3は、請求項3及び4に係る発明に対して、リンカーが「N-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」ものを削除するものである。また、訂正前の請求項5?8、11、12、24?29は請求項3または4を引用するものであって、訂正事項3は、請求項5?8、11、12、24?29に係る発明についても、リンカーが「N-スクシンイミジル-4-(ヨードアセチル)-アミノベンゾエート(SIAB)から誘導される」ものを削除するものである。
よって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、下記3(4)において説示するとおり、特許異議申立ての対象とされていない請求項5?8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、訂正事項3による訂正後の請求項5?8に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

(エ)訂正事項4
訂正事項4は、請求項9及び10を削除するものである。
よって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(オ)訂正事項5
訂正事項5は、請求項23を削除するものである。
よって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2、30?41〕〔3?29〕について訂正することを認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1?41に係る発明(以下、請求項順に、各々、「本件発明1」、「本件発明2」・・・、「本件発明41」、または、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?41に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
非開裂リンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを有する細胞結合物質メイタンシノイド複合体であって、
ここで、該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
前記複合体。
【請求項2】
以下の式:
huC242-SMCC-メイタンシノイド
を有する、請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項3】
選択された細胞集団を標的としてメイタンシノイドを向かわせるためのin vitroの方法であって、当該方法は選択された細胞集団を含有すると推測される細胞集団または組織を、細胞結合物質メイタンシノイド複合体と接触させることを包含し、ここで1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは、非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質が選択された細胞集団の細胞に結合する、
ここで、当該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
前記方法。
【請求項4】
細胞を排除するin vitroの方法であって、当該方法はサンプル中の細胞を、細胞結合物質メイタンシノイド複合体と接触させることを包含し、ここで、1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質が細胞に結合する、
ここで、当該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
ここで、上記処理されたサンプルを人体に導入することはない、
前記方法。
【請求項5】
細胞結合物質が、抗PSMA抗体、抗CanAg抗体、抗CD19抗体、抗CD33抗体、抗CALLA抗体、抗CD56抗体、または抗IGF-IR抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
細胞結合物質が、表面再修飾した抗体であるMy9-6またはN901である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
細胞結合物質が、B4抗体またはhuC242抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項8】
細胞結合物質がhuC242抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、表面再修飾した(resurfaced)抗体、または表面再修飾した単鎖抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項12】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項13】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項14】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、ヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項15】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体より毒性が低い、請求項3または4に記載の方法。
【請求項16】
細胞結合物質メイタンシノイド複合体が、抗体単独の血漿クリアランスとほぼ等しい値を有する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項17】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の最大耐薬用量が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の値より大きい、請求項3または4に記載の方法。
【請求項18】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の生物学的活性の持続性が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の値より大きい、請求項3または4に記載の方法。
【請求項19】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の抗原陰性細胞に対する活性が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の値より低い、請求項3または4に記載の方法。。
【請求項20】
細胞結合物質メイタンシノイド複合体が最小のバイスタンダー活性を示す、請求項3または4に記載の方法。
【請求項21】
細胞結合物質が、腫瘍細胞;ウイルスに感染した細胞、微生物に感染した細胞、寄生体に感染した細胞、自己免疫細胞、移植片対宿主病における活性化細胞、骨髄細胞、活性化T細胞、B細胞、もしくはメラノサイト;CD33、CD19、CanAg、もしくはCALLA抗原を発現する細胞;またはインスリン増殖因子受容体、もしくは葉酸受容体を発現する細胞;に結合する、請求項3または4の方法。
【請求項22】
細胞結合物質が、乳癌細胞、腎臓癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、結腸直腸癌細胞、胃癌細胞、扁平上皮癌細胞、小細胞肺癌細胞、非小細胞肺癌細胞、膵臓癌細胞、精巣癌細胞、神経芽腫細胞、メラノーマ細胞、およびリンパ系器官の癌由来の細胞に結合する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
細胞結合物質が、腫瘍細胞に特異的に結合する、表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項25】
細胞結合物質が、腫瘍細胞に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項26】
細胞結合物質が、結腸直腸癌細胞または乳癌細胞に特異的に結合する表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項27】
細胞結合物質が、結腸直腸癌細胞または乳癌細胞に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項28】
細胞結合物質が、乳癌細胞に特異的に結合する表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項29】
細胞結合物質が、乳癌細胞に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項30】
腫瘍、自己免疫疾患、移植片拒絶、移植片対宿主病、ウイルス感染、および寄生体感染から成る群より選択される病気の治療法に用いるための細胞結合物質メイタンシノイド複合体であって、
ここで当該治療法は、細胞結合物質メイタンシノイド複合体の有効量を、治療を必要とする被験者に投与することを包含し、そしてここで1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質は当該病気の罹患した細胞または感染した細胞に結合する、
ここで、該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
前記細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項31】
腫瘍が、肺、乳房、結腸、前立腺、腎臓、膵臓、卵巣、およびリンパ系器官の癌から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項32】
自己免疫疾患が、全身性狼瘡、慢性関節リウマチ、および多発性硬化症から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項33】
移植片拒絶が、腎移植拒絶、心移植拒絶、および骨髄移植拒絶から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項34】
ウイルス感染が、CMV、HIV、AIDSから成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項35】
寄生体感染が、ランブル鞭毛虫症、アメーバ症、住血吸虫症から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項36】
細胞結合物質が、腫瘍細胞;ウイルスに感染した細胞、微生物に感染した細胞、寄生体に感染した細胞、自己免疫細胞、移植片対宿主病における活性化細胞、骨髄細胞、活性化T細胞、B細胞、もしくはメラノサイト;CD33、CD19、CanAg、もしくはCALLA抗原を発現する細胞;またはインスリン増殖因子受容体、もしくは葉酸受容体を発現する細胞;に結合する、請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項37】
細胞結合物質が、乳癌細胞、腎臓癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、結腸直腸癌細胞、胃癌細胞、扁平上皮癌細胞、小細胞肺癌細胞、非小細胞肺癌細胞、膵臓癌細胞、精巣癌細胞、神経芽腫細胞、メラノーマ細胞、およびリンパ系器官の癌に由来する細胞、に結合する、請求項36に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項38】
請求項1-2および30-37のいずれか1項に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体、及び担体を包含する組成物。
【請求項39】
請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法であって、当該方法は以下:
(a)細胞結合物質を提供する
(b)細胞結合物質を非開裂リンカーで修飾する、そして
(c)修飾された細胞結合物質を、メイタンシノイドと複合体化させ、それにより細胞結合物質、およびメイタンシノイドの間に非開裂リンカーを提供して、複合体を生成する
を包含する前記方法。
【請求項40】
請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法であって、当該方法は以下:
(a)メイタンシノイドを提供する
(b)メイタンシノイドを非開裂リンカーで修飾し、それにより非開裂リンカーを形成する、そして
(c)修飾されたメイタンシノイドを、細胞結合物質と複合体化させ、それにより細胞結合物質、およびメイタンシノイドの間に非開裂リンカーを提供して、複合体を生成する
を包含する前記方法。
【請求項41】
請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法であって、当該方法は以下:
(a)メイタンシノイドを提供する、
(b)メイタンシノイドを、イオウを含有しない非開裂リンカーで修飾して、メイタンシノイドエステルを得る、そして
(c)メイタンシノイドエステルを細胞結合物質と複合体化させ、それにより細胞結合物質およびメイタンシノイド間に非開裂リンカーを提供して、複合体を生成する
を包含する前記方法。」

(2)取消理由の概要
(2)-1 平成28年 7月14日付け取消理由
訂正前の請求項1?41に係る特許に対して、平成28年 7月14日付けで特許権者に通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。

ア.請求項1、3、4、9?14、21?39に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された、以下の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、同請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

刊行物一覧
1.特許第3155998号公報(平成27年11月9日に提出された異議申立書に添付された「甲第5号証」。以下、「引用例1」という。)
2.特表2003-528034号公報(平成27年11月9日に提出された異議申立書に添付された「甲第2号証」。以下、「引用例2」という。)
3.特開平10-84959号公報(原審で引用された引用文献4に相当。以下、「引用例3」という。)
4.Journal of Clinical Oncology,Vol.21,No.2,(Jan 15),2003,p211-222(平成27年11月9日に提出された異議申立書に添付された「甲第16号証」。以下、「引用例4」という。)
5.特表2003-515330号公報(平成27年11月9日に提出された異議申立書に添付された「甲第18号証」。以下、「引用例5」という。)

イ.本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、同特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)-2 平成29年 1月16日付け取消理由
訂正前の請求項1?41に係る特許に対して、平成29年 1月16日付けで特許権者に通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。

ウ.本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、同特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

エ.本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、同特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)刊行物の記載事項
(3)-1 引用例1の記載事項
引用例1には、以下の記載がある。
・記載事項1-1
「抗体、リンホカイン、ホルモン、成長因子及びトランスフェリンからなる群から選択される少なくとも1種の細胞結合剤に、化学的に連結した又は結合基を介して連結した1又は2以上のメイタンシノイドを含む細胞障害剤。」(請求項1)

・記載事項1-2
「発明が解決しようとする課題
メイタンシノイドは、高度の細胞障害性を有するので、ガンのような多くの病気の処置に使用されることが期待されている。この期待は、未だ実現されていない。メイタンシンの臨床試験は、多くの副作用のために有望なものではない〔イゼル(Issel)ら、5、Can.Trtmnt.Rev.199-207(1978)〕。中枢神経系及び胃腸症状に対する有害な効果は、一部の患者がそれ以上の治療を拒否する原因となっている(イゼル(Issel)ら、204頁)。メイタンシンは、累積的な抹消神経障害にも関与しているようである(イゼル(Issel)ら、207頁)。
結果として、メイタンシノイドにより病気を処置するには、その細胞障害性を低下させることなく副作用を減少させることが非常に望まれている。」(p6 11欄末行?12欄13行)

・記載事項1-3
「本発明は、高い細胞障害性を保持すると共に細胞結合剤と効果的に結合し得る新規なメイタンシノイド誘導体の合成に基づくものである。従来、既存の薬物を、その細胞障害作用を減弱することなく修飾するのは極めて困難であった。本発明は、適当な細胞結合剤が結合し得る化学作用部分(chemical moiety)、特にチオール又はジスルフィド基を含む化学作用部分でここに開示されたメイタンシノイド誘導体を修飾することによりこの問題を解決するものである。その結果として、本発明の新規なメイタンシノイド誘導体は、天然から見出されるメイタンシノイドの細胞障害能力を保持し、ある場合には高めさえする。細胞結合剤とメイタンシノイド誘導体との結合体により、望ましくない細胞に対してのみ標的様式でメイタンシノイド誘導体の最大の細胞障害活性を適用することが可能となる。それゆえ、非標的の健常細胞に障害を与えることによる副作用を避けることができる。」(p6 11欄47行?p7 13欄12行)

・記載事項1-4



(式中、Z_(0)は、水素原子又はSRを示し、Rは、直鎖アルキル基、分枝アルキル基、環状アルキル基、非置換の又は置換基を有するアリール基又は複素環基を示す。lは、1?10の整数を示す。mayは、メイタンシノイドを示す。)」(p9 式(I))

・記載事項1-5
「メイタンシノイド(6e)の還元
フェニルジスルフィドエステル6e(0.463μmol)のエタノール(0.22ml)溶液及び2mMのエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)を含む0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH7.5)(0.18ml)を氷冷し、20mlのジチオスレイトール(0.69μmol、0.035ml)溶液と処理した。反応の進行をHPLCでモニターし、40分で反応は完結すると判断した。この方法で生成したチオール基を含有するメイタンシノイドは、上記と同様にして精製され、7bと一致することが確認された。」(p19 37欄23行?38欄6行)

・記載事項1-6
「チオール基を含有するメイタンシノイド7bの結合は、2つの段階によりなされた。抗体を、最初にスクシンイミジルマレイミドメチルシクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)と反応させてマレイミド基を導入した。次に、修飾された抗体をチオエーテル結合を形成するメイタンシノイド7bと反応させた。
抗体-メイタンシノイド結合体(非開裂性)の調製
抗体(抗-B4、抗-T9及びA7)は文献の記載に従ってSMCCで修飾した。
修飾された抗体を、メイタンシノイド7b(1.25モル当量/マレイミド基)で処理した。混合物を4℃で一夜インキュベートし、抗体-メイタンシノイド結合体を上記記載と同様にして精製した。典型的には、抗体1分子当たり平均1?10個のメイタンシノイド分子が連結された。」(p22 43欄27?43行)

・記載事項1-7
「実施例5
細胞培養及びインビトロでの細胞傷害性試験
・・・・・
チオール基を含有するメイタンシノイドをジスルフィド結合を介して結合させるべく、3つの異なる抗体を使用した。これら全ての実施例において、メイタンシノイド誘導体7bが結合用に使用された。結合体は、B-細胞抗原であるCD19に対する抗-B4抗体、抗ヒトトランスフェリンレセプター抗体である抗-T9(5E9)及び抗ヒト結腸ガン抗体であるA7を用いて調製した。
・・・・・
ジスルフィド基で連結した抗-B4-メイタンシノイド結合体(抗-B4-SS-May)及び抗-T9-薬物結合体(抗-T9-SS-May)は、両方ともナマルワ(Namalwa)細胞に対して細胞障害性がある(各々、IC_(50)=7×10^(-9)M及び2×10^(-9)M)。ジスルフィド基で連結した抗T9結合体は、KB細胞に対するIC_(50)値が2×10^(-10)Mであり、KB細胞に対して障害性がより強い。抗体-薬物間の細胞内開裂性ジスルフィド結合の重要性を証明するため、メイタンシノイドを非開裂性チオエーテル結合を介して抗体に連結した結合体を調製した。そのような非開裂性方式で連結された抗-T9-薬物結合体(IC_(50)=4×10^(-9)M)は、対応するジスルフィド基で連結した結合体よりも少くとも20倍細胞障害性が低かった。」(p23 46欄12行? p24 48欄41行)

・記載事項1-8


」(p24 第3表)

・記載事項1-9


」(p27 第3図)

上記記載事項1-9の7bの化合物を表す式中のR^(2)は、第3図の製造原料からみて、OHであるといえる。

これら記載から、引用例1には、
「細胞結合剤である抗-T9抗体に、非開裂チオエーテル結合基を介して連結した1?10個のメイタンシノイドを含む細胞傷害剤であって、
ここで、前記メイタンシノイドは、下記式7bで表される化合物であり、そして、
ここで、前記非開裂チオエーテル結合基が、前記抗体をスクシンイミジルマレイミドメチルシクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)と反応させて得られる、
前記細胞傷害剤

7b


(式中、n=2,R^(2)=OH)」の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されていると認める。

(4)判断
(4)-1 取消理由通知に記載した取消理由について
以下においては、取消理由を通知していない請求項、及び特許異議申立の対象とされていない請求項についてもあわせて説示する。
なお、請求項9、10、23を削除することを含む平成29年 4月19日付け訂正請求は、前記2(3)記載のとおり認められたから、同請求項に係る発明についての特許異議申立を却下する。

ア.前記(2)-1のアについて
ア-1 請求項1、2、30?41
引用発明1の細胞結合剤、細胞障害剤は、各々、本件発明1の細胞結合物質、複合剤に相当する。そして、引用発明1の非開裂チオエーテル結合基、すなわちSMCCは、本件発明1のリンカーがN-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)である場合に相当する。さらに、引用発明1の抗-T9抗体が抗erbB抗体ではないことは明らかである。
また、引用発明1の式7bで表されるメイタンシノイドは、その化学構造から、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシンと表記することができる分子であり、本件発明1のDM1に相当する。

そうすると、本件発明1と、引用発明1とは、
「非開裂リンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを有する細胞結合物質メイタンシノイド複合体であって、
ここで、該細胞結合物質は、抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、
そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
前記複合体。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
1.細胞結合物質について、本件発明1は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、と規定するのに対し、引用発明1は、抗-T9抗体である点、

(i)特異的に結合する、と規定する点について
引用例1には、引用発明1が標的細胞に特異的に結合する旨の明示の記載はないが、適当な細胞結合剤が結合しうる化学作用部分で修飾されたメイタンシノイド誘導体が、望ましくない細胞に対してのみ標的様式で最大の細胞傷害活性を適用できる旨が記載されていることは前記(3)-1 記載事項1-3に記載のとおりであり、該細胞結合剤としてモノクローナル抗体が含まれることも記載されている(p11 22欄5行?p12 24欄46行)。そして、引用発明1は、抗体を細胞結合剤とする細胞傷害剤であり、抗体は標的細胞に特異的に結合する性質を持つものであるといえるから、この点は、実質的な相違点ではない。

(ii)完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、と規定する点について
引用例1には、引用発明1の抗-T9抗体が、抗ヒトトランスフェラーゼレセプター抗体であることは記載されているが(p23 46欄35、36行)、該抗体の製造方法について具体的な記載はないし、また、該抗体がヒト抗体、ヒト化抗体であるとか、表面再修飾した抗体であるとの記載はない。引用例1には、さらに、抗原で、マウス、ラット、ハムスターまたは他の哺乳動物を免疫化することによりモノクローナル抗体を製造する方法が極めてよく知られていることが記載されているものの(p12 23欄6?16行)、該記載をもって、ただちに、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくは表面再修飾抗体について記載があるということはできない。そうすると、引用発明1の抗-T9抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、あるいは表面再修飾した抗体であると認めることはできない。
引用例1には、さらに、メイタンシノイドは、高度の細胞傷害性を有することから、ガンのような多くの病気の処置に使用されることが期待されているものの、副作用の存在のためにその期待が未だ実現されておらず、その細胞傷害性を低下させることなく副作用を減少させることが望まれていること(記載事項1-2)、適当な細胞結合剤が結合し得る化学作用部分、特にチオール又はジスルフィド基を含む化学作用部分でここに開示されたメイタンシノイド誘導体を修飾することによりこの問題を解決することができること、望ましくない細胞に対してのみ標的様式でメイタンシノイドの最大の細胞傷害活性を適用することが可能となること(記載事項1-3)が記載されている。そして、メイタンシノイド誘導体として、式(I)の化合物が記載され(記載事項1-4)、具体的には、第3図の化合物7bを製造したことが記載されている(記載事項1-5、1-9)。
しかし、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、非開裂リンカーを介して細胞結合剤に連結した少なくとも1つの化合物7b、すなわちメイタンシノイド(DM1)を含む、引用発明1の細胞傷害剤は、「抗体-薬物間の細胞内開裂性ジスルフィド結合の重要性を証明するため調製した結合体」であって、その細胞傷害性は、ジスルフィド基で連結した対応する結合体よりも少なくとも20倍低かったことが本件明細書に記載されている(記載事項1-7)。上記記載に接した当業者は、引用例1には、特にチオール又はジスルフィド基を含む化学作用部分でここに開示されたメイタンシノイド誘導体を修飾することにより細胞傷害性を低下させることなく副作用を減少させるなどの問題を解決することができる、と記載されているものの(記載事項1-3)、実際には、細胞結合剤とチオエーテル結合により連結されたメイタンシノイド細胞傷害剤は、ジスルフィド結合により連結されたものに劣る細胞傷害性を示すにとどまること、及び、ジスルフィド結合の重要性を証明するために、いわば参照のために調製されたにすぎないことを理解するものと認める。よって、細胞結合剤とチオエーテル結合により連結されたメイタンシノイド細胞傷害剤、すなわち、引用発明1を、ガンのような病気の処置に使用する薬剤の候補として、当業者が着目することはないといえる。
そして、細胞傷害剤において、細胞結合剤として、ヒト抗体やヒト化抗体を用いることは、細胞傷害剤をヒトの治療に用いるにあたり、免疫応答の観点から細胞傷害剤を好適化するためになされる処置であることは明らかであるといえるから、上記説示のとおり、ガンのような病気の処置に使用する薬剤候補として当業者が着目すると認めることができない引用発明1について、そもそも、ヒト治療へ適用するために、その細胞結合剤を、ヒト抗体やヒト化抗体に換える動機付けは見いだせない。
そうである以上、たとえ、メイタンシノイド複合体においてヒト化抗体またはその断片を用いることが本件優先日当時すでに知られていたとしても(引用例2の請求項11、14、段落0007?0009、0052、実施例1など)、引用発明1の細胞結合剤である抗-T9抗体を、本件発明1に記載されている「完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体」に換えることは、当業者といえども容易に想到しうるものではない。
また、本件発明1の「表面再修飾した」とは、本件発明1においては、ヒト化するためになされる処理を意味することは、後記(4)-1 ウ-3で説示したとおりである。そうすると、上記と同様の理由により、引用発明1の細胞結合剤である抗-T9抗体を、本件発明1に記載されている「表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体」に換えることも上記説示したのと同様の理由により、当業者といえども容易に想到しうるものではない。

なお、平成28年 7月14日付け取消理由において、相違点2として挙げていたSIABから誘導されるリンカーは、本件訂正によって本件発明1の発明特定事項でなくなったから、SIABはもはや相違点ではなく、SIABから誘導されるリンカーに関する引用例3の記載は上記判断に影響しない。
そして、本件特許発明1の複合体の効果についてみても、本件明細書の段落0121?0132に、huC242抗体を細胞結合物質とする複合体について、SMCCから誘導されるリンカーを用いた場合は、非開裂リンカーであるSPPを用いた場合と比べて、等しいかそれより高い効能があったこと(図6B、6C)、血漿クリアランス速度のより大きな低下及び毒性のより大きな低減(図11、12A?D)、より大きな持続的な活性(図13)、より小さなバイスタンダー効果(図14A?C)がみられたことが示されている。

また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明における「細胞結合物質」をhuC242に、本件請求項30に係る発明は、請求項1に係る発明における複合体を「非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され」た、請求項30に列挙されている病気の治療法に用いるためのものに、本件請求項36は、請求項1に係る発明における「細胞結合物質」が結合する細胞を請求項36に列挙されているものにそれぞれ限定するものである。また、本件請求項31?35、37に係る発明は、それぞれ請求項30に係る発明の発明特定事項を限定するものである。そして、本件請求項38に係る発明は、請求項1、2、30?37のいずれかに係る発明における「複合体」を包含する組成物の発明であり、本件請求項39?41に係る発明は、請求項1に係る発明における「複合体」を製造する方法に係るものであって、請求項1に係る発明について当業者が容易に想到し得たものと認められない以上、請求項1に係る発明における発明特定事項をさらに限定する発明、あるいは、該発明に係る化合物の製造方法に係る発明についても当業者が容易に発明することができたものと認めることはできない。
そして、引用例4には、再表面化手法によりヒト化したモノクローナル抗体であるhuC242やキメラ抗体をメイタンシノイド誘導体であるDM1と複合体を作る抗体として用いることが(要約の目的、p221右欄 第2パラグラフの下から3行目?最下行)、また、引用例5には、キメラ抗体をメイタンシノイド誘導体であるDM1と複合体をつくる抗体として用いることが(段落0115)記載されているにすぎず、そもそも、引用発明1における細胞結合剤をヒト抗体やヒト化抗体、また、表面再修飾した抗体に換えるとの動機付けが見いだせないことは上記説示のとおりであるから、引用例4、5の記載は上記判断に影響しない。
したがって、本件発明1、2、30?41は、引用発明1及び引用例2?5に記載された事項から当業者が容易に想到することができた発明ではない。

ア-2 請求項3?29
請求項3に係る発明は、「選択された細胞集団を標的としてメイタンシノイドを向かわせるためのin vitroの方法であって、当該方法は選択された細胞集団を含有すると推測される細胞集団または組織を、細胞結合物質メイタンシノイド複合体と接触させることを包含し、ここで1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは、非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質が選択された細胞集団の細胞に結合する」ことを発明特定事項とする発明である。そして、請求項3に係る発明におけるメイタンシノイド複合体は、請求項1のメイタンシノイド複合体を、「細胞結合物質に共有結合で連結され」、「細胞結合物質が選択された細胞集団の細胞に結合する」ものに限定したものである。
また、請求項4に係る発明は、「細胞を排除するin vitroの方法であって、当該方法はサンプル中の細胞を、細胞結合物質メイタンシノイド複合体と接触させることを包含し、ここで、1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質が細胞に結合する」ことを発明特定事項とする発明である。そして、請求項4に係る発明におけるメイタンシノイド複合体は、請求項1のメイタンシノイド複合体を、「細胞結合物質に共有結合で連結され」たものに限定したものである。
そして、本件発明1のメイタンシノイド複合体を当業者が容易に想到し得たものといえないことは前記ア-1においてすでに説示したとおりである。
よって、本件発明1のメイタンシノイド複合体をさらに限定したメイタンシノイド複合体を発明特定事項とする請求項3または請求項4に係る発明を当業者が容易に発明することができたものと認めることはできない。
そして、請求項3または請求項4に係る発明について当業者が容易に想到し得たものと認められない以上、請求項3又は請求項4に係る発明をさらに限定する本件発明5?29についても当業者が容易に発明することができたものと認めることはできないといえる。
したがって、本件発明3?29は、引用発明1及び刊行物2?5に記載された事項から当業者が容易に想到することができた発明ではない。

イ.前記(2)-1のイについて
イ-1 本件発明1?41
本件発明1?41は、本件発明に係る細胞結合物質メイタンシノイド複合体、選択された細胞集団を標的としてメイタンシノイドを向かわせるためのin vitroの方法、細胞を排除するin vitroの方法、腫瘍、自己免疫疾患、移植片拒絶、移植片対宿主病、ウイルス感染、および寄生体感染から成る群より選択される病気の治療法に用いるための細胞結合物質メイタンシノイド複合体、細胞結合物質メイタンシノイド複合体、及び担体を包含する組成物、または細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法に係る発明である。そこで、上記本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明にその記載や示唆がなくとも出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものであるか否かについて検討する。

イ-2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題に関連して、以下の記載がある。
(1)「今回意外にも、非開裂リンカーを介して連結したメイタンシノイドおよび細胞結合物質の細胞毒性複合体が極めて効能があり、多くの場合において、開裂可能なリンカーを用いたメイタンシノイドおよび細胞結合物質の複合体を上回る予想外の有利な点を有することを発見した。」(段落0015)
(2)「本発明者らは非開裂リンカーを介して細胞結合物質に連結したメイタンシノイドが、いくつかの重要な点において開裂可能なリンカーを介して連結したメイタンシノイドより優れていることを、意外にも発見した。特に開裂可能なリンカーを含有する複合体と比較した場合、非開裂リンカーを用いた複合体は、in vitro およびin vivoの双方において等しい抗腫瘍活性を示すが、血漿クリアランスの速度および毒性においては著明な低減が立証されている。」(段落0022)
(3)「開裂可能なジスルフィドリンカーを有する複合体と比較しての、非開裂リンカーを用いて調製した複合体の付加的な側面は、本明細書でバイスタンダー効果と言う、抗原陽性細胞に近接している場合に抗原陰性細胞に対する活性、を示さないことである。・・・・・このin vitroアッセイで測定した際の、非開裂複合体のこの最小のバイスタンダー活性が、急性毒性試験で観察された非開裂リンカーを用いた複合体の増加した許容性に寄与しているのかもしれない。
上の実験の結果は、本発明の非開裂リンカーを用いたメイタンシノイド複合体が、以前に記載された細胞結合物質メイタンシノイド複合体と比較して、大幅に改善された抗腫瘍活性を保有することを立証している。」(段落0131、0132)

イ-3 当審の判断
本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて,本件発明の課題は、極めて効能があり、多くの場合において、開裂可能なリンカーを用いたメイタンシノイドおよび細胞結合物質の複合体や、該複合体を用いた場合を上回る予想外の有利な点を有する、非開裂リンカーを介して連結した細胞結合物質メイタンシノイド複合体、選択された細胞集団を標的としてメイタンシノイドを向かわせるためのin vitroの方法、細胞を排除するin vitroの方法、腫瘍、自己免疫疾患、移植片拒絶、移植片対宿主病、ウイルス感染、および寄生体感染から成る群より選択される病気の治療法に用いるための細胞結合物質メイタンシノイド複合体、細胞結合物質メイタンシノイド複合体、及び担体を包含する組成物、または細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法を提供することである(上記イ-2(1))。該メイタンシノイド複合体が極めて効能があり、多くの場合において、開裂可能なリンカーを用いたメイタンシノイド複合体を上回る有利な点を有することが記載されており(段落0015)、ここで、有利な点とは、たとえば、非開裂リンカーを介して細胞結合物質に連結したメイタンシノイドが、(a)in vitro およびin vivoの双方において等しい抗腫瘍活性を示すこと、(b)血漿クリアランスの速度および毒性においては著明な低減が見られること、(c)最小のバイスタンダー活性を有すること(上記イ-2(2)、(3))、のように、大幅に改善された抗腫瘍活性を保有することである、と理解することができる。
本件明細書の発明の詳細な説明の記載(段落0121?0132)によれば、huC242抗体を細胞結合物質とする、SMCCから誘導されるリンカーを用いた複合体について、in vitroとin vivoの双方において細胞毒性活性があったこと(図6B、6C、図10A、10B)、血漿クリアランスの速度及び毒性において、開裂型リンカーを用いた複合体と比べて低減がみられること(図11、12A?D)、持続的な活性がみられること(図13),バイスタンダー効果が小さいこと(図14A?C)が認められる。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、細胞結合物質が、huC242のほか(図4)、My9-6、KS77、N901である場合などの複数の複合体について、抗原陽性細胞に特異的なin vitroの細胞毒性を有することも記載されている(図8A?D、図25)。それら複合体はいずれも、大幅に改善された抗腫瘍活性を保有すると認められる複合体と同じく、SMCCから誘導される非開裂リンカーを介して連結されているのであるから、上記した大幅に改善された抗腫瘍活性を保有することが具体的に確認された細胞結合物質以外の物質を用いた場合にあっても同様の活性を有するものと推測される。そして、後述のとおり、この認定を覆すに足る証拠は見いだせない。
以上のとおり、発明の詳細な説明は,本件特許発明1?41について、その発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載しているといえるから、同発明は発明の詳細な説明に記載されていると認める。

ウ.前記(2)-2のウについて
ウ-1 本件発明1?41
本件発明1?41は、前記イ-1において説示したとおりの発明である。そこで、上記本件発明の範囲が明確であるか、すなわち、具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されているか否か、またその前提として、発明特定事項の記載が明確であるといえるか否かについて検討する。

ウ-2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明において、「完全なヒトの単鎖抗体」、「ヒト化単鎖抗体」、「表面再修飾した抗体」、及び「表面再修飾した単鎖抗体」に関して、以下の記載がある。
(1)「使用することのできる細胞結合物質のより具体的な例は以下を含むことができる:
完全なヒトの抗体を含む、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体;
単鎖の抗体(ポリクローナルおよびモノクローナル);
抗体のフラグメント(ポリクローナルおよびモノクローナル)、例えばFab、Fab’、F(ab’)2、およびFv(Parham, 131 J. Immunol. 2895-2902 (1983); Spring et al., 113 J. Immunol. 470-478 (1974); Nisonoff et al., 89 Arch. Biochem. Biophys. 230-244 (1960));・・・」(段落0065)
(2)「モノクローナル抗体の技術により、特異的なモノクローナル抗体の形で極めて特異的な細胞結合物質を産生することができる。当該技術分野において特に周知なのは、対象の抗原 例えば標的細胞そのもの、標的細胞から単離した抗原、ウイルス全体、弱毒化ウイルス全体、およびウイルスのタンパク質 例えばウイルスのコートタンパク質を用いて、マウス、ラット、ハムスターまたはその他のあらゆる哺乳動物を免疫することにより産生されるモノクローナル抗体を作成するための技術である。感作されたヒトの細胞もまた使用することができる。モノクローナル抗体を作成するもう1つの方法は、scFv(一本鎖可変部断片)、具体的にはヒトscFvのファージライブラリ(例えばGriffiths et al., 米国特許第5,885,793号および5,969,108号;McCafferty et al., WO 92/01047;Liming et al., WO 99/06587を参照のこと)を使用することである。加えて、米国特許第5,639,641号に開示された表面再修飾した(resurfaced)抗体もまた、ヒト化抗体として使用してよい。」(段落0066)

ウ-3 当審の判断
前記ウ-2(1)の記載によれば、本件発明の単鎖抗体には、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体が包含されること、ここで、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体には、完全なヒトの抗体が包含されるものであることが理解される。そして、モノクロナール抗体は、たとえば、感作されたヒトの細胞を使用するか、あるいはヒトscFvのファージライブラリを使用することにより作成されたものであること、上記ヒトscFvのファージライブラリの具体例として、本件明細書中に引用されている文献に記載されているものを使用することが記載されている(前記ウ-2(2))。該引用文献の一つである米国特許第5885793号(乙第10号証)には、ヒト抗原に対する一本鎖Fvフラグメントのファージライブラリの製造及び単離方法が記載されており(括弧内に、米国特許第5885793号のファミリーである特表平7-502167号公報の該当箇所を示す。以下、同じ。p13右下欄24行?p18左下欄6行)、ファージライブラリの表面に表示される抗体フラグメントが、scFvフラグメント、Fabフラグメント、抗体の単一アームのV_(L)とV_(H)の領域からなるFvフラグメント、特に重鎖可変領域(Fd)で構成されているかもしくはFdを含有しているリガンドを捕捉する単一領域、またはエピトープもしくは抗原を捕捉することができる他のフラグメントであることが記載されている(同p4右下欄p19?23行)。
また、同じく本件明細書に引用されている別の文献である米国特許第5969108号(乙第11号証)には、抗原-抗体などの特異的結合対のライブラリーを作成する方法や(米国特許第5969108号のファミリーである特表平5-508076号公報 請求の範囲)、結合分子は抗体又は免疫グロブリンに対して相同性であるドメインであることができること、抗体および/またはドメインは天然に由来するか、あるいは合成的であるか又は両者の組み合わせであることができること、そして、ドメインはFab、scFv、Fv dAb又はFd分子であることができることが記載されている(特表平5-508076号公報 p8右下欄4?12行、p12左下欄4?12行)。
そうすると、上記本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明の「完全なヒトの単鎖抗体」、「ヒト化単鎖抗体」について、具体例を含め、該用語の意味するものを理解することができると認められるから、本件発明の「完全なヒトの単鎖抗体」、「ヒト化単鎖抗体」との記載は不明確であるとはいえない。また、他に、訂正後の各請求項の記載に不明確な点も見いだせない。

さらに、本件明細書の段落0066には、米国特許第5639641号(乙第12号証)を引用して、同文献に開示された表面再修飾した抗体もまた、ヒト化抗体として使用してよい、と記載されている。該記載、及び、本件明細書の発明の詳細な説明において、メイタンシノイド複合体が治療薬として記載されていることに照らせば、「表面再修飾」とは、本件明細書の発明の詳細な説明においては、「ヒト化」するためになされる処理を意味すると理解できるといえる。そして、本件明細書に引用されている上記文献に、「表面再処理によって、げっ歯類抗体またはそのフラグメントからヒト化されたげっ歯類抗体またはそのフラグメントを生成する方法が記載されていることを確認することができる(米国特許第5639641号のファミリーである特開平7-67688号公報 特許請求の範囲、段落0016?0018)。
そうすると、上記本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明の「表面再修飾した抗体」「表面再修飾した単鎖抗体」について、具体例を含め、該用語の意味するものを理解することができると認められるから、本件発明の「表面再修飾した抗体」「表面再修飾した単鎖抗体」との記載は不明確であるとはいえない。また、他に、訂正後の各請求項の記載に不明確な点も見いだせない。
したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。

エ.前記(2)-2のエについて
本件発明1?41は、前記イ-1記載のとおりであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び当審の判断は、前記イ-2、イ-3で説示したとおりである。

(4)-2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.特許異議申立人 高畑豪太郎の申立理由について
特許異議申立人 高畑豪太郎は、特許異議申立書において、以下の甲第1号証?甲第28号証を提出の上、訂正前の請求項1、3、4、9?41に係る発明に関して、(i)進歩性欠如、(ii)実施可能要件違反、及び(iii)サポート要件を主張する。また、平成28年12月 8日付け上申書を提出し、同上申書とともに、甲第29号証を提出する。
なお、請求項9、10、23を削除することを含む平成29年 4月19日付け訂正請求は、前記2(3)記載のとおり認められたから、同請求項に係る発明についての特許異議申立を却下する。

甲第1号証:Cancer Research,Vol.52,p127?131,Jan.1,1992
甲第2号証:特表2003-528034号公報(前記(2)-1の引用例2に相当。)
甲第3号証:特表2003-503365号公報
甲第4号証:Chemical and Pharmaceutical Bulletin,Vol.32,No.9,p3441?3451,1984
甲第5号証:特許第3155998号公報(前記(2)-1の引用例1に相当。)
甲第6号証:Cancer Research(Supplement),Vol.55,p5714s?5720s,Dec.1,1995
甲第7号証:Bioconjugate Chemistry,Vol.12,No.2,p264?270,2001
甲第8号証:Cancer(Supplement),Vol.73,No.3,p787?793,Feb.1994
甲第9号証:Molecular Immunology,Vol.27,No.3,p273?282,1990
甲第10号証:米国特許第4867973号明細書
甲第11号証:米国特許第5154924号明細書
甲第12号証:国際公開02/13843号明細書
甲第13号証:Bioconjugate Chemistry,Vol.7,No.2,p255?264,1996
甲第14号証:Cancer Research,Vol.53,p5683?5689,Dec.1,1993
甲第15号証:米国特許第6217869号明細書
甲第16号証:Journal of Clinical Oncology,Vol.21,No.2,p211?222,Jan.2003(前記(2)-1の引用例4に相当。)
甲第17号証:Nucleic Acids Research, Vol.28,No.20e87,p1?8,2000
甲第18号証:特表2003-515330号公報(前記(2)-1の引用例5に相当。)
甲第19号証:Cancer Research,Vol.66,No.6,p3214?3221,Mar.15,2006
甲第20号証:European Journal of Cancer,Vol.47,p1736?1746,Mar.2011
甲第21号証:米国特許第8765917号明細書
甲第22号証:Molecular Cancer,Vol.11,No.10,p2222?2232,Oct.2012
甲第23号証:Molecular Pharmaceutics,Vol.12,No.6,p1703?1716,2015,Apr.
甲第24号証:欧州特許第2135881号明細書
甲第25号証:Cancer Research,Vol.69,No.6,p2358?2364,Mar.15,2009
甲第26号証:国際公開2005/117986号明細書
甲第27号証:Bioconjugate Chemistry,Vol.21,No.1,p84?92,2010
甲第28号証:AAPS National Biotechnology Conference,2010年5月19日資料
甲第29号証:Molecular Cancer Therapeutics,Vol.14,No.7,p1605?1613,Jul.2015

申立理由(i)について
特許異議申立人 高畑豪太郎が主張する進歩性欠如の理由は、より具体的には概略以下のとおりである。
(i)-1 甲第1号証又は甲第5号証記載の発明、及び甲第2号証の記載事項に基づいて容易想到である。
(i)-2 甲第2号証記載の発明、及び技術常識(甲第9号証?甲第12号証)に基づいて容易想到である。
(i)-3 甲第1号証又は甲第2号証記載の発明、及び甲第4号証又は甲第5号証の記載事項、及び技術常識(甲第6号証?甲第8号証)に基づいて容易想到である。
(i)-4 甲第3号証記載の発明、及び技術常識(erbB抗体とそれ以外の抗体を区別する必要性は高くなく、むしろ共通に取り扱う方が多い)に基づいて容易想到であるか、設計事項である。

・(i)-1について
まず、特許異議申立人 高畑豪太郎が提出した、甲第2号証、甲第5号証は、共に平成28年 7月14日付け取消理由通知で引用した刊行物であり、各々、前記(2)-1の引用例2、1に相当するものである。そして、引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基いて当業者が本件発明1を容易に発明することができたものといえないことは、前記(4)-1 アにおいて説示したとおりである。
したがって、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

また、甲第1号証には、モノクローナル抗体に結合した従来の抗腫瘍薬で腫瘍を標的化しようとする試みが、その細胞毒性が不十分であり、成功していない(要約)、あるいは、薬物の抗体への結合に使用されたリンカーの大部分が細胞内で活性薬物を効率的に放出しないことなどから、標的細胞を死滅させるために必要な薬物の細胞内濃度を達成するのが困難である(p127 はじめに 第2パラグラフ)との問題認識の下、現在の抗癌剤候補を100?1000倍高い細胞傷害性の化合物で置き換えることによって、そして、これらの化合物を、細胞内で切断されて活性薬物を放出することができるジスルフィドリンカーを介して抗体と結合させることによって、これらの問題を克服しようとするアプローチをここに記す、との記載があり(p127 はじめに 第3パラグラフ)、さらに、メイタンシノイド(DM1)がSMCCから誘導される非開裂チオエーテル結合を介してマウスモノクローナル抗体に連結された免疫複合体の細胞毒性が、SPDPから誘導されるジスルフィド結合を介して連結された免疫複合体の細胞毒性の1/200であること(p129左欄36?38行、図3(C))が記載されている。
これらの記載に接した当業者は、標的細胞を死滅させるために必要な薬物の細胞内濃度を達成するには、ジスルフィド結合を介して連結されたメイタンシノイド免疫複合体を使用するべきことを理解するものといえ、甲第1号証に記載された免疫複合体のうち、メイタンシノイド(DM1)がジスルフィドよりその細胞毒性が劣るSMCCから誘導される結合を介してマウスモノクローナル抗体に連結された免疫複合体を薬剤の候補として、当業者が着目することはないといえる。
そうすると、前記(4)-1 ア ア-1で説示したのと同様、たとえ、メイタンシノイド複合体においてヒト化抗体を用いることが本件優先日当時すでに知られていたとしても、薬剤候補として当業者が着目するとはいえない甲第1号証記載の免疫複合体について、そもそも、ヒト治療へ適用するために、そのマウス抗体をヒト抗体やヒト化抗体に換えることは当業者といえども容易に想到しうるものではない。
そして、本件発明1の複合体は、前記(4)-1において説示したとおり、当業者が予想しえない効果を奏したものである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。
そして、本件発明2、本件発明30が本件発明1をさらに限定した発明であること、本件発明31?35、37が本件発明30をさらに限定した発明であること、本件発明36、本件発明39?41が本件発明1を発明特定事項とする発明であること、本件発明38が本件発明1、2、30?37を発明特定事項とする発明であることは、前記(4)-1 ア ア-1で説示したとおりである。また、本件発明3、4が、限定した本件発明1におけるメイタンシノイド複合体を発明特定事項とする発明であること、本件発明5?29が本件発明3、4をさらに限定した発明であることは、前記(4)-1 ア ア-2で説示したとおりである。
したがって、上記のとおり、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたとも、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたともいえない以上、本件発明1、または本件発明1の発明特定事項をさらに限定した本件発明3?4、11?22、24?41も、甲第5号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたとも、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたともいえず、本件発明3?4、11?22、24?41の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。

・(i)-2について
甲第2号証には、メイタンシノイド(DM1)をSPPまたはSPDPから誘導されたジチオピリジル基を介して、ヒト化N901に結合させた免疫複合体が記載されている(段落0078?0095)。ここで、ヒト化N901は細胞結合物質である。同号証には、細胞結合物質に関して、ジスルフィド結合のほか、チオエーテル基、酸に不安定な基、光に不安定な基が含まれることが記載されており(段落0016)、好ましくは、メイタンシノイド分子の送達が可能であるような、ジスルフィド結合により一緒にされたものであるが(段落0057)、切断不能の連結を伴う抗体-メイタンシノイド複合体も生成することができるとして、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、その他の架橋剤が挙げられている(段落0059)。
しかし、甲第2号証に記載された発明は、「少なくとも1種の化学療法剤及び少なくとも1種の免疫複合体の治療有効量を患者に投与することを含む、治療を必要とする患者において癌を治療する方法であって、免疫複合体が、少なくとも1種の細胞結合物質及び少なくとも1種の有糸分裂阻害剤を含む方法。」(請求項1)の発明である。甲第2号証には、同号証記載の発明が、少なくとも1種の化学療法剤及び少なくとも1種の免疫複合体の投与が、癌の治療において優れた結果をもたらすという予想外の発見を基になされたものであることが記載されており(段落0011)、低量の治療用ではない投与量の、huN901がジスルフィド結合を介してDM1に連結したhuN901-DM1と、最適の投与量のパクリタキセル、シスプラチンなどの化学療法剤の組合わせでの処置が予期しない卓越した(たとえば、相乗作用)抗腫瘍効果を持つことが記載されている(実施例2?7、図5?10)。同号証記載の試験において、免疫複合体は、治療用ではない量で投与されているから、甲第2号証には、化学療法剤との組合せを前提とした、ジスルフィド結合をリンカーとする複合体に係る発明が記載されていると理解される。
そして、甲第2号証記載の発明から本件発明1をなすには、化学療法剤との組合せを離れて、免疫複合体単独で治療用に供するに足る優れた性質を持つ化合物を提供することを着想した上で、さらに、上記のとおり、甲第2号証において好ましいと記載され、また、唯一の具体的製造例であるジスルフィド結合を別のリンカーによるものに置換しなければならないが、甲第2号証記載の発明は、化学量療法剤との組合せを前提とし、かつ、リンカーとしてジスルフィド結合を用いることが好ましいとされているのであるから、甲第2号証記載の発明において、ジスルフィド結合以外のリンカーで連結された免疫複合体の単独の使用を検討することは、当業者といえども容易に想到しえたものであるとはいえない。
特許異議申立人は、甲第9号証には、非開裂リンカー(SMCC)及び開裂リンカー(SPDP)を用いてPseudomonas ExotoxinAを抗体に結合した、抗体複合体が記載されているが、非開裂リンカーのほうが特異性が高く効果的であることが示されているとして、甲第9号証は、本件特許の優先日時点において、当業者が抗体に非開裂型リンカーを介して薬物を結合させるという動機付けを十分に有していることを裏付けるものと主張する。
しかし、甲第9号証には、安定した結合を有するトキシン複合体が減弱した効力を有する旨を論証した既報とは異なり、チオエーテル結合を介して連結したPseudomonas ExotoxinA複合体が抗原陽性細胞に対して、ジスルフィド結合複合体と同等な効力を示し、より選択的であったこと(p274左欄 第2パラグラフ)、及び、Pseudomonas ExotoxinAは、ほとんどのヒト細胞上に存在するPseudomonas ExotoxinA受容体がより少ないために、リシンやアブリンに比べてより選択的な複合体を構成するようにみえたことが記載されている(p281左欄 第3パラグラフ)。
上記記載によれば、Pseudomonas ExotoxinA複合体の、従来技術とは異なる性質は、Pseudomonas ExotoxinAに固有のものと理解するのが相当である。よって,ジスルフィド結合を介して抗体に連結した免疫複合体に比べて、高い効力と選択性を有するチオエーテル結合を介して抗体に連結した免疫複合体であるが、メイタンシノイドとは異なるトキシン複合体の例がわずかに一例あるからといって、甲第2号証記載の、化学療法剤と組合わせて用いるとされている、メイタンシノイド(DM1)をSPPまたはSPDPから誘導されたジチオピリジル基を介して、ヒト化N901に結合させた免疫複合体において、SMCCから誘導されたチオエーテル結合を介して連結された免疫複合体を製造する動機付けとなるとの特許異議申立人の主張は根拠がない。
また、特許異議申立人は、甲第10号証?甲第12号証には、薬剤を抗体に結合するに際し、非開裂型リンカーも開裂型リンカーも等しく記述されていることから、出願当時の技術常識として特に非開裂型を避ける動機付けはない、また、甲第11号証には、抗体と薬剤を非開裂型リンカーを介して連結する旨の記載があり、甲第12号証にもp97タンパク質と薬剤が非開裂型リンカーSMCCを介して連結されていると主張する。
しかし、甲第10号証?甲第12号証のいずれをみても、メイタンシノイド類に関する技術事項も、SMCCをリンカーとする複合体も記載されていない。また、甲第12号証には、脳内若しくは周辺部への薬剤の改善された送達を可能にするための複合体が記載されているが、該複合体において、リンカーを介して薬剤に連結しているのは、抗体ではなく、p97抗原である(p1 8、9行、p2 15?23行、p9 1行?p10 末行)。
一方、メイタンシノイド(DM1)が、SMCCから誘導される非開裂チオエーテル結合を介して抗体に連結された免疫複合体が、SPDPから誘導される開裂ジスルフィド結合を介して抗体に連結された免疫複合体に比べて低い細胞傷害性を有することは、前記(4)-1 ア ア-1、及び前記(i)-1について、において説示したとおりである(甲第1号証、甲第5号証)。
そうすると、たとえ、甲第10号証、甲第11号証に記載の複合体におけるリンカーとして、開裂型リンカーと非開裂型リンカーとを特段区別なく使用しうることが記載されているとしても、当業者は、メイタンシノイドの免疫複合体については、そのようなリンカーについての一般的な理解ではなく、むしろ、リンカーの種類によってその効力に差があるとの理解するのが自然といえる。そして、メイタンシノイドに関するものでも、SMCCリンカーに関するものでもない、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項が、上記に説示した知見があるにもかかわらず、あえて効力の劣るとされているリンカーを当業者が選択する根拠足りうるものであるとまで認めることはできないから、上記特許異議申立人の主張は、上記判断を覆すものではない。
そして、本件発明1の複合体は、前記(4)-1 ア ア-1において説示したとおり、当業者が予想しえない効果を奏したものである。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識(甲第9号証?甲第12号証)に基いて、当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。
そして、本件発明2?4、11?22、24?41はいずれも本件発明1をさらに限定したものといえることは前記(i)-1について、の項で説示したとおりである。
したがって、上記のとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識(甲第9号証?甲第12号証)に基いて、当業者が容易に発明することができたとはいえない以上、本件発明1、または本件発明1の発明特定事項をさらに限定した本件発明3?4、11?22、24?41も、甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識(甲第9号証?甲第12号証)に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえず、本件発明3?4、11?22、24?41の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。

・(i)-3について
特許異議申立人は、メイタンシノイド(DM1)がSMCCから誘導される非開裂リンカーを介して抗体に連結された複合体は、細胞外でLys-SMCC-DM1として遊離してチューブリン重合を阻害するとの薬効を奏することは、甲第6号証?甲第8号証の記載から理解されるとおり、本件優先日当時の当業者の技術常識であったと主張するとともに(特許異議申立書p58?59)、甲第1号証又は甲第2号証に接した当業者は、甲第4号証又は甲第5号証の知見を参照することにより、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明において、非開裂リンカーを試してみようとする動機付けを有するはずであると主張し、その根拠として、甲第4号証の表1の記載は、メイタンシノールのRの置換基、すなわち、C_(3)位の置換基の種類及び大きさは、増殖活性に大きな影響を与えるものではないことを、また、甲第5号証の特許請求の範囲の記載は、N-メチル-アラニル残基を含有するメイタンシノイドエステルについて、N-メチル-アラニル残基より先の部分の長さは延伸させても細胞傷害剤としては有用であることを教示しており、メチレン基を含む官能基が連結している(メイタンシノイド上の)部位は、メイタンシノイドの活性の発現にとって重要ではないことは甲第4号証及び甲第5号証の記載からみても本件優先日当時の当業者の技術常識であったことが明らかといえるから、開裂リンカーの場合に遊離するHS-DM1と非開裂リンカーの場合に遊離するLys-SMCC-DM1とが同等の活性を有することを当業者は認識できることを挙げる(特許異議申立書p61)。
まず、甲第6号証?甲第8号証には、DTPA-抗体の代謝物がDTPA-リシンであること、DOTA-抗体の代謝物がDOTA-リシンであることが記載されているが、非開裂リンカーSMCCを介して連結した免疫複合体の作用機序が遊離したLys-SMCC-DM1であるとの記載はなく、また、そのような技術常識が本件優先日当時存在していたとも認められないから、上記特許異議申立人の技術常識についての記載は根拠を欠くものである。
仮に、甲第4号証、甲第5号証の記載、及び甲第6号証?甲第8号証から把握される技術常識が、特許異議申立人主張のとおりであるとしても、前記(i)-1において説示したとおり、甲第1号証に記載された発明から本件発明1をなすには、マウス抗体をヒト抗体やヒト化抗体に換えなければならないが、該置換が当業者が容易に想到しえたものであるといえないことは前記(i)-1について、の項ですでに説示したとおりであるから、甲第1号証に基づく特許異議申立理由は、同様に理由があるものとはいえない。

甲第2号証には、前記(i)-2について、の項で説示した事項が記載されている。
そして、甲第4号証には、直鎖脂肪族アシル基を有するC_(3)エステル化合物11、12、シクロアルカンカルボニル基を有するC_(3)エステル化合物18?20、フェニルアセチル基を有するC_(3)エステル化合物22、及び2-(N-アセチル-N-メチル)アミノへキサノイル基を有するC_(3)エステル化合物7、(2-(N-アセチル-N-メチル)アミノフェニルプロピオニル基を有するC_(3)エステル化合物8が、線毛虫テトラヒメナ属の繊毛中やマウスのB16メラノーマに対して有力な活性を示したことや(要約)、N-アシル-N-アルキルアミノ酸部分のN-アシル基の、ベンゾイル又はフェノキシアセチルへの変化が繊毛虫テトラヒメナ属に対する強力な活性を保持する産物をもたらすのに対し、N-アルキル基の、ベンジルまたはシクロアルキルなど高級アルキルへの変化は活性を大幅に低減することが記載されている(p3443 26?34行)。そして、該記載は表1、2の結果と整合している。これら記載によれば、メイタンシノイド化合物について、置換基の種類に応じてその活性が変化することを当業者は理解するものといえる。また、甲第5号証の特許請求の範囲に記載されている化合物が実際に同等の活性を有することが確認されているものでもない。よって、メチレン基を含む官能基が連結している(メイタンシノイド上の)部位は、メイタンシノイドの活性の発現にとって重要ではないとの技術常識が本件優先日当時に存在していたということはできない。
また、甲第6号証?甲第8号証の記載をみても特許異議申立人が主張するような技術常識が本件優先日当時存在していたとも認められないことは上記説示のとおりである。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の、開裂リンカーの場合に遊離するHS-DM1と非開裂リンカーの場合に遊離するLys-SMCC-DM1とが同等の活性を有するとの上記主張は、その前提において正しいとはいえないから、採用し得ない。
よって、本件発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、甲第4号証又は甲第5号証の記載事項、及び特許異議申立人が主張する技術常識(甲第6号証?甲第8号証)に基いて当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。
そして、本件発明2?4、11?22、24?41はいずれも本件発明1、または本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものといえることは前記(i)-1について、の項で説示したとおりである。
したがって、上記のとおり、本件発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、甲第4号証又は甲第5号証の記載事項、及び特許異議申立人が主張する技術常識(甲第6号証?甲第8号証)に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない以上、本件発明1をさらに限定した本件発明3?4、11?22、24?41も、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、甲第4号証又は甲第5号証の記載事項、及び特許異議申立人が主張する技術常識(甲第6号証?甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえず、本件発明3?4、11?22、24?41の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。

・(i)-4について
甲第3号証には、抗-ErbB抗体-メイタンシノイド複合体が記載されている(段落0154)。該複合体作成用の連結基として、ジスルフィド基およびチオエーテル基が好ましいと記載されており(段落0155)、カップリング剤として、SPDPやSPPのほか、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(合議体注:本件発明のSMCCに相当)が含まれることが記載されている。
しかし、甲第3号証には、抗-ErbB抗体以外の抗体を用いてメイタンシノイド複合体を製造することは記載されていない。また、複合体を構成するカップリング剤についても、特に好ましいカップリング剤は、SPDP及びSPPであると記載されており(段落0156)、具体的に作成された複合体は、HERSEPTIN(登録商標)-SPP-PyとDM1の複合体である(段落0192)。
特許異議申立人は、erbB抗体とそれ以外の抗体を区別する必要性は高くなく、むしろ共通により扱う方が多いということは技術常識であると主張するが、該主張を裏付ける証拠は具体的に示されておらず、特許異議申立人の該主張が本件出願優先日当時の技術常識であるとは認められない。甲第3号証が、ErbB受容体を標的とする癌治療に関する発明であることを考慮すると、いかに当業者といえども、抗-ErbB抗体をErbBとは異なる標的に対する他の抗体に換える動機付けは見いだせない。
よって、本件発明1は、甲第3号証、及び特許異議申立人が主張する技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。
そして、本件発明2?4、11?22、24?41はいずれも本件発明1、または本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものといえることは前記(i)-1について、の項で説示したとおりである。
したがって、上記のとおり、本件発明1は、甲第3号証、及び特許異議申立人が主張する技術常識に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない以上、本件発明1をさらに限定した本件発明3?4、11?22、24?41も、甲第3号証、及び特許異議申立人が主張する技術常識に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえず、本件発明3?4、11?22、24?41の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許異議申立人 高畑豪太郎による進歩性欠如との主張は理由がない。

申立理由(ii)及び(iii)について
特許異議申立人は、特許請求の範囲の請求項1、3?4、11?22、24?41には、同請求項に係る発明の効果を達成できない態様が多数包含されているから、本件発明1、3?4、11?22、24?41に係る特許は、実施要件、サポート要件を満足しない、と主張し、該主張を裏付ける証拠として甲第19号証?甲第29号証を挙げる。
そして、特許異議申立人 高畑豪太郎は、特許異議申立書p17下から7行?p18 4行 3(4)ア 本件特許発明、の項に、本件明細書の段落0015、0132の記載からみて、本件発明の複合体の効果は、開裂可能なリンカーを用いたメイタンシノイド及び細胞結合物質の複合体を上回る細胞毒性を有することにあると記載されていることや、同p42 13行?p53 4行 3(4)イ 引用発明の説明、の項に、上記各甲号証には、種々のヒト化抗体とDM1との複合体におけるリンカーとして、SPP(開裂型)を用いた場合のほうがSMCC(非開裂型)を用いた場合よりも高い効果が記載もしくは示唆されていることから、本件発明は、リンカーとして開裂型を用いた場合を上回る細胞毒性を有することを効果とするものであり、また、解決すべき課題とするものであると認識していることがうかがわれる。
そこで、本件明細書の記載をみると、段落0015には、「非開裂リンカーを介して連結したメイタンシノイドおよび細胞結合物質の細胞毒性複合体が極めて効能があり、多くの場合において、開裂可能なリンカーを用いたメイタンシノイドおよび細胞結合物質の複合体を上回る予想外の有利な点を有することを発見した。」との記載があり、また、段落0132には、「上の実験の結果は、本発明の非開裂リンカーを用いたメイタンシノイド複合体が、以前に記載された細胞結合物質メイタンシノイド複合体と比較して、大幅に改善された抗腫瘍活性を保有することを立証している。」と記載されている。
段落0015の記載は、多くの場合において、非開裂リンカーを介して連結したメイタンシノイド複合体が、開裂リンカーを用いたメイタンシノイド複合体を上回る有利な点を有することが多い、と記載するものであり、非開裂リンカーを有する複合体が、常に、開裂リンカーを用いた複合体を上回る細胞毒性を有することを記載するものではない。このことは、段落0022の「本発明者らは非開裂リンカーを介して細胞結合物質に連結したメイタンシノイドが、いくつかの重要な点において開裂可能なリンカーを介して連結したメイタンシノイドより優れていることを、意外にも発見した。特に開裂可能なリンカーを含有する複合体と比較した場合、非開裂リンカーを用いた複合体は、in vitro およびin vivoの双方において等しい抗腫瘍活性を示すが、血漿クリアランスの速度および毒性においては著明な低減が立証されている。」との記載とも整合する。すなわち、段落0022の冒頭の一文によれば、非開裂リンカーを用いた複合体の開裂型リンカーを用いた複合体に対する優れた点は、一つに限られるのでなく、「いくつかの重要な点」においてみられることがうかがわれる。そして、つづく一文は、優れた点の具体的な記述であるから、その文脈からみて、前文の「いくつかの重要な点」の例示であると理解するのが妥当である。そして、fuC242抗体を細胞結合物質とする複合体について、SMCCから誘導されるリンカーを用いた場合は、被開裂リンカーであるSPPを用いた場合と比べて、等しいかそれより高い効能があったこと、血漿クリアランス速度のより大きな低下及び毒性のより大きな低減、より大きな持続的な活性、より小さなバイスタンダー効果がみられたことが確認されていることは前記(4)-1 ア ア-1においてすでに説示したとおりである。
また、段落0132は、ある実験結果を受けて、その具体的事例において改善された抗腫瘍活性が確認されたことを記載したものであり、本件発明全体の効果をいうものではない。
以上の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明1、3?4、11?22、24?41は、本件明細書の記載からみて、特許異議申立人が主張する、リンカーとして開裂型を用いた場合を上回る細胞毒性を有するメイタンシノイド複合体を提供することを唯一の解決すべき課題とするものではなく、リンカーとして開裂型を用いた場合を上回る有利な点、たとえば、細胞毒性、in vitro およびin vivoの双方における等しい抗腫瘍活性、あるいは血漿クリアランスの速度および毒性における著明な低減を有するメイタンシノイド複合体を提供することもまた解決すべき課題とするものであると認める。
そうすると、SMCCから誘導されたリンカーを用いたメイタンシノイド複合体が、開裂型リンカーを用いた複合体を上回る細胞毒性を有しないからといって、ただちに、本件発明1、3?4、11?22、24?41が、なんらの有利な点も有しないとまでいえるものではないから、本件発明1、3?4、11?22、24?41は、当業者が発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、本件発明の課題を解決できることを認識できないものであるということはできない。
そこで、特許異議申立人が提出した甲第19?29号証の記載事項をみると、リンカーのみならず薬剤が違う複合体の細胞毒性の比較試験結果に関する甲第22号証の記載や、ヒト化抗体を用いていない複合体についての試験結果に関する甲第25号証の記載をもって、本件発明1、3?4、11?22、24?41には、当業者が発明の課題を解決できると認識できない範囲が包含されるということはできない。
甲第19号証?甲第21号証、甲第23号証、甲第24号証、甲第26号証?甲第28号証には、非開裂型SMCCから誘導されるリンカーで連結された複合体の腫瘍増殖作用が開裂型SPPなどから誘導されるジスルフィドリンカーで連結された複合体の腫瘍増殖作用に劣ることが、また、甲第29号証には、SMCCリンカー複合体が、SPPリンカー複合体との比較において、in vitro およびin vivoにおける効果が異なること、すなわち、in vitro およびin vivoの双方において等しい抗腫瘍活性を示さないことが記載されているものの、上記各号証に記載される複合体が、上記以外の本件明細書に記載されている有利な点をなんら有しないことを示す証拠は提出されていないから、本件発明1、3?4、11?22、24?41は、当業者が発明の課題を解決できると認識できない場合を包含しているものとまでいうことはできない。
したがって、特許請求の範囲の請求項1、3?4、11?22、24?41の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものであり、特許特許異議申立人 高畑豪太郎によるサポート要件違反との主張は理由がない。

イ.本件発明2、5?8
本件発明2、5?8は、特許異議申立の対象とされていない。
しかし、同発明は、上記アに説示したとおり、本件発明1、または本件発明3、4をさらに限定した発明であるから、特許異議の申立理由(i)(ii)(iii)についても同様に判断される。
そうすると、本件発明2、5?8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないし、また、特許請求の範囲の請求項2、5?8の記載も、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。
そして、他に本件発明2、5?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、本件発明2、5?8は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、
請求項9、10、23に係る発明についてする特許異議申立は、不適法な申立であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項の規定において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人 高畑豪太郎が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3?4、11?22、24?41に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3?4、11?22、24?41に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非開裂リンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを有する細胞結合物質メイタンシノイド複合体であって、
ここで、該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
前記複合体。
【請求項2】
以下の式:
huC242-SMCC-メイタンシノイド
を有する、請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項3】
選択された細胞集団を標的としてメイタンシノイドを向かわせるためのin vitroの方法であって、当該方法は選択された細胞集団を含有すると推測される細胞集団または組織を、細胞結合物質メイタンシノイド複合体と接触させることを包含し、ここで1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは、非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質が選択された細胞集団の細胞に結合する、
ここで、当該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
前記方法。
【請求項4】
細胞を排除するin vitroの方法であって、当該方法はサンプル中の細胞を、細胞結合物質メイタンシノイド複合体と接触させることを包含し、ここで、1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質が細胞に結合する、
ここで、当該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
ここで、上記処理されたサンプルを人体に導入することはない、
前記方法。
【請求項5】
細胞結合物質が、抗PSMA抗体、抗CanAg抗体、抗CD19抗体、抗CD33抗体、抗CALLA抗体、抗CD56抗体、または抗IGF-IR抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
細胞結合物質が、表面再修飾した抗体であるMy9-6またはN901である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
細胞結合物質が、B4抗体またはhuC242抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項8】
細胞結合物質がhuC242抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、表面再修飾した(resurfaced)抗体、または表面再修飾した単鎖抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項12】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項13】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項14】
細胞結合物質が、標的細胞に特異的に結合する、ヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項15】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体より毒性が低い、請求項3または4に記載の方法。
【請求項16】
細胞結合物質メイタンシノイド複合体が、抗体単独の血漿クリアランスとほぼ等しい値を有する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項17】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の最大耐薬用量が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の値より大きい、請求項3または4に記載の方法。
【請求項18】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の生物学的活性の持続性が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の値より大きい、請求項3または4に記載の方法。
【請求項19】
非開裂リンカーを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の抗原陰性細胞に対する活性が、開裂可能なリンカーを介して細胞結合物質に連結した少なくとも1つのメイタンシノイドを包含する細胞結合物質メイタンシノイド複合体の値より低い、請求項3または4に記載の方法。。
【請求項20】
細胞結合物質メイタンシノイド複合体が最小のバイスタンダー活性を示す、請求項3または4に記載の方法。
【請求項21】
細胞結合物質が、腫瘍細胞;ウイルスに感染した細胞、微生物に感染した細胞、寄生体に感染した細胞、自己免疫細胞、移植片対宿主病における活性化細胞、骨髄細胞、活性化T細胞、B細胞、もしくはメラノサイト;CD33、CD19、CanAg、もしくはCALLA抗原を発現する細胞;またはインスリン増殖因子受容体、もしくは葉酸受容体を発現する細胞;に結合する、請求項3または4の方法。
【請求項22】
細胞結合物質が、乳癌細胞、腎臓癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、結腸直腸癌細胞、胃癌細胞、扁平上皮癌細胞、小細胞肺癌細胞、非小細胞肺癌細胞、膵臓癌細胞、精巣癌細胞、神経芽腫細胞、メラノーマ細胞、およびリンパ系器官の癌由来の細胞に結合する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
細胞結合物質が、腫瘍細胞に特異的に結合する、表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項25】
細胞結合物質が、腫瘍細胞に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項26】
細胞結合物質が、結腸直腸癌細胞または乳癌細胞に特異的に結合する表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項27】
細胞結合物質が、結腸直腸癌細胞または乳癌細胞に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項28】
細胞結合物質が、乳癌細胞に特異的に結合する表面再修飾したモノクローナル抗体、または表面再修飾した単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項29】
細胞結合物質が、乳癌細胞に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体、またはヒト化単鎖モノクローナル抗体である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項30】
腫瘍、自己免疫疾患、移植片拒絶、移植片対宿主病、ウイルス感染、および寄生体感染から成る群より選択される病気の治療法に用いるための細胞結合物質メイタンシノイド複合体であって、
ここで当該治療法は、細胞結合物質メイタンシノイド複合体の有効量を、治療を必要とする被験者に投与することを包含し、そしてここで1つまたはそれより多くのメイタンシノイドは非開裂リンカーを介して細胞結合物質に共有結合で連結され、そして当該細胞結合物質は当該病気の罹患した細胞または感染した細胞に結合する、
ここで、該細胞結合物質は、標的細胞に特異的に結合する、完全なヒトの抗体、完全なヒトの単鎖抗体、表面再修飾した抗体、表面再修飾した単鎖抗体、ヒト化抗体、またはヒト化単鎖抗体である、ただし、該細胞結合物質は、抗erbB抗体ではなく、
ここで、該メイタンシノイドは、N^(2’)-デアセチル-N^(2’)-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシン(DM1)であり、そして、
ここで、該リンカーは、N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキシレート(SMCC)から誘導される、
前記細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項31】
腫瘍が、肺、乳房、結腸、前立腺、腎臓、膵臓、卵巣、およびリンパ系器官の癌から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項32】
自己免疫疾患が、全身性狼瘡、慢性関節リウマチ、および多発性硬化症から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項33】
移植片拒絶が、腎移植拒絶、心移植拒絶、および骨髄移植拒絶から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項34】
ウイルス感染が、CMV、HIV、AIDSから成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項35】
寄生体感染が、ランブル鞭毛虫症、アメーバ症、住血吸虫症から成る群より選択される、請求項30に記載の複合体。
【請求項36】
細胞結合物質が、腫瘍細胞;ウイルスに感染した細胞、微生物に感染した細胞、寄生体に感染した細胞、自己免疫細胞、移植片対宿主病における活性化細胞、骨髄細胞、活性化T細胞、B細胞、もしくはメラノサイト;CD33、CD19、CanAg、もしくはCALLA抗原を発現する細胞;またはインスリン増殖因子受容体、もしくは葉酸受容体を発現する細胞;に結合する、請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項37】
細胞結合物質が、乳癌細胞、腎臓癌細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞、卵巣癌細胞、結腸直腸癌細胞、胃癌細胞、扁平上皮癌細胞、小細胞肺癌細胞、非小細胞肺癌細胞、膵臓癌細胞、精巣癌細胞、神経芽腫細胞、メラノーマ細胞、およびリンパ系器官の癌に由来する細胞、に結合する、請求項36に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体。
【請求項38】
請求項1-2および30-37のいずれか1項に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体、及び担体を包含する組成物。
【請求項39】
請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法であって、当該方法は以下:
(a)細胞結合物質を提供する
(b)細胞結合物質を非開裂リンカーで修飾する、そして
(c)修飾された細胞結合物質を、メイタンシノイドと複合体化させ、それにより細胞結合物質、およびメイタンシノイドの間に非開裂リンカーを提供して、複合体を生成するを包含する前記方法。
【請求項40】
請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法であって、当該方法は以下:
(a)メイタンシノイドを提供する
(b)メイタンシノイドを非開裂リンカーで修飾し、それにより非開裂リンカーを形成する、そして
(c)修飾されたメイタンシノイドを、細胞結合物質と複合体化させ、それにより細胞結合物質、およびメイタンシノイドの間に非開裂リンカーを提供して、複合体を生成するを包含する前記方法。
【請求項41】
請求項1に記載の細胞結合物質メイタンシノイド複合体を製造する方法であって、当該方法は以下:
(a)メイタンシノイドを提供する、
(b)メイタンシノイドを、イオウを含有しない非開裂リンカーで修飾して、メイタンシノイドエステルを得る、そして
(c)メイタンシノイドエステルを細胞結合物質と複合体化させ、それにより細胞結合物質およびメイタンシノイド間に非開裂リンカーを提供して、複合体を生成する
を包含する前記方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-17 
出願番号 特願2011-148625(P2011-148625)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (A61K)
P 1 652・ 537- YAA (A61K)
P 1 652・ 536- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加藤 文彦  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 穴吹 智子
前田 佳与子
登録日 2015-03-27 
登録番号 特許第5718745号(P5718745)
権利者 イミュノジェン・インコーポレーテッド
発明の名称 非開裂リンカーを介して連結した細胞結合物質メイタンシノイド複合体を用いて特定の細胞集団を標的とする方法、前記複合体、および前記複合体の製造法  
代理人 山本 修  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 廣瀬 しのぶ  
代理人 廣瀬 しのぶ  
代理人 竹内 茂雄  

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