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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F01N
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F01N
管理番号 1333199
異議申立番号 異議2016-700287  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-07 
確定日 2017-08-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5791569号発明「排気システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5791569号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし13〕について訂正することを認める。 特許第5791569号の請求項1ないし3及び5ないし13に係る特許を維持する。 特許第5791569号の請求項4に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5791569号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成24年6月6日(パリ条約による優先権主張2011年6月7日 ドイツ(DE))の出願であって、平成27年8月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人徳田あけみ(以下、単に「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年7月7日付けで取消理由が通知され、平成28年10月31日に意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、平成29年1月16日に特許異議申立人により意見書が提出され、平成29年3月7日付けで取消理由(決定の予告)(以下、単に「取消理由」という。)が通知され、平成29年6月12日に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「凹状に湾曲していることを特徴とする排気システム。」とあるのを、「凹状に湾曲し、前記インジェクタ(7)は、前記還元剤(8)を円錘状スプレー(22)の形状で導き、前記還流板(14)は、その長手方向が前記円錘状スプレー(22)の表面線(23)に実質的に平行に延在することを特徴とする排気システム。」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2、3及び5?13も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「排気ガス流(3)を導く曲り配管部(2)」を「排気ガス流(3)を導く湾曲している曲り配管部(2)」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「その長手方向(21)が、前記出口領域(5)への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域(4)から前記長手方向(21)を横切る方向に流れる排気ガス流(3)を受ける、還流板(14)と、」を、
「その長手方向(21)が、前記入口領域(4)から流入する排気ガス流(3)に対して斜めの角度をなし、前記出口領域(5)への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域(4)から前記長手方向(21)を横切る方向に流れる排気ガス流(3)を受ける、還流板(14)と、」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「還流板(14)と、を備え、」と「前記還流板(14)は、前記入口領域(4)に流入する」との間に、
「前記還流板(14)は、前記排気ガス流(3)の流出側が前記配管部(2)の外側円弧部に面し、前記排気ガス流(3)の流入側が前記配管部(2)の内側円弧部であって前記外側円弧部よりも円弧半径が小さい内側円弧部に面し、」を挿入する訂正を行う。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3の「前記長手方向(21)を横切る方向の幅が、前記プレート終端(19)の方向において増大している」を「前記長手方向(21)を横切る方向の前記2つのプレート側縁(20)の幅が、前記プレート終端(19)の方向において前記プレート終端(19)に近づくにつれて増大している」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4」を「請求項1?3」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1?5」を「請求項1?3および5」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?6」を「請求項1?3および5?6」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項10の「請求項1?9」を「請求項1?3および5?9」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項11の「請求項1?10」を「請求項1?3および5?10」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項12の「請求項1?11」を「請求項1?3および5?11」に訂正する。
特許請求の範囲の請求項13の「請求項1?12」を「請求項1?3および5?12」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1における「凹状に湾曲していることを特徴とする排気システム。」を、本件訂正後に「凹状に湾曲し、前記インジェクタ(7)は、前記還元剤(8)を円錘状スプレー(22)の形状で導き、前記還流板(14)は、その長手方向が前記円錘状スプレー(22)の表面線(23)に実質的に平行に延在することを特徴とする排気システム。」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2の、請求項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1における「排気ガス流(3)を導く曲り配管部(2)」を、本件訂正後に「排気ガス流(3)を導く湾曲している曲り配管部(2)」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3の、請求項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1における「その長手方向(21)が、前記出口領域(5)への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域(4)から前記長手方向(21)を横切る方向に流れる排気ガス流(3)を受ける、還流板(14)と、」を、本件訂正後に「その長手方向(21)が、前記入口領域(4)から流入する排気ガス流(3)に対して斜めの角度をなし、前記出口領域(5)への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域(4)から前記長手方向(21)を横切る方向に流れる排気ガス流(3)を受ける、還流板(14)と、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項3の、請求項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4の、請求項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1における「還流板(14)と、を備え、前記還流板(14)は、前記入口領域(4)に流入する」を、本件訂正後に「還流板(14)と、を備え、前記還流板(14)は、前記排気ガス流(3)の流出側が前記配管部(2)の外側円弧部に面し、前記排気ガス流(3)の流入側が前記配管部(2)の内側円弧部であって前記外側円弧部よりも円弧半径が小さい内側円弧部に面し、前記還流板(14)は、前記入口領域(4)に流入する」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項4の、請求項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5の、請求項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項3における「前記長手方向(21)を横切る方向の幅が、前記プレート終端(19)の方向において増大している」を、本件訂正後に「前記長手方向(21)を横切る方向の前記2つのプレート側縁(20)の幅が、前記プレート終端(19)の方向において前記プレート終端(19)に近づくにつれて増大している」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項5の、請求項3に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6の、請求項4に係る訂正は、本件訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7の、請求項5に係る訂正は、上記訂正事項6に伴い、本件訂正前には本件訂正前の1?4のうちいずれか一項を引用していたものを、本件訂正後には本件訂正後の請求項1?3のうちいずれか一項を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7の、請求項6に係る訂正は、上記訂正事項6に伴い、本件訂正前には本件訂正前の1?5のうちいずれか一項を引用していたものを、本件訂正後には本件訂正後の請求項1?3および5のうちいずれか一項を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7の、請求項7に係る訂正は、上記訂正事項6に伴い、本件訂正前には本件訂正前の1?6のうちいずれか一項を引用していたものを、本件訂正後には本件訂正後の請求項1?3および5?6のうちいずれか一項を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7の、請求項10に係る訂正は、上記訂正事項6に伴い、本件訂正前には本件訂正前の1?9のうちいずれか一項を引用していたものを、本件訂正後には本件訂正後の請求項1?3および5?9のうちいずれか一項を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7の、請求項11に係る訂正は、上記訂正事項6に伴い、本件訂正前には本件訂正前の1?10のうちいずれか一項を引用していたものを、本件訂正後には本件訂正後の請求項1?3および5?10のうちいずれか一項を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7の、請求項12に係る訂正は、上記訂正事項6に伴い、本件訂正前には本件訂正前の1?11のうちいずれか一項を引用していたものを、本件訂正後には本件訂正後の請求項1?3および5?11のうちいずれか一項を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7の、請求項13に係る訂正は、上記訂正事項6に伴い、本件訂正前には本件訂正前の1?12のうちいずれか一項を引用していたものを、本件訂正後には本件訂正後の請求項1?3および5?12のうちいずれか一項を引用するようにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)一群の請求項について
訂正事項1ないし7の、請求項1ないし13に係る訂正は、訂正後の請求項〔1ないし13〕の一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
したがって、本件訂正の請求による訂正事項1ないし7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし13〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし3及び5ないし13に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明1ないし3及び5ないし13」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3及び5ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

ア 本件訂正発明1
「燃焼機関の排気システムにおいて、
入口領域(4)および出口領域(5)を含み、排気ガス流(3)を導く湾曲している曲り配管部(2)と
前記排気ガス流(3)の中に液体還元剤(8)を導入するためのインジェクタ(7)であって、接続導管(10)を介して配管部(2)に接続されており、これにより、前記接続導管(10)を介して前記還元剤(8)を、前記入口領域(4)と前記出口領域(5)との間に位置する前記配管部(2)の導入領域(13)の中で、前記出口領域(5)の方向に前記排気ガス流(3)の中に導入することができる、インジェクタ(7)と、
前記導入領域(13)の上流側で前記配管部(2)の中に配置される還流板(14)であって、その長手方向(21)が、前記入口領域(4)から流入する排気ガス流(3)に対して斜めの角度をなし、前記出口領域(5)への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域(4)から前記長手方向(21)を横切る方向に流れる排気ガス流(3)を受ける、還流板(14)と、
を備え、
前記還流板(14)は、前記排気ガス流(3)の流出側が前記配管部(2)の外側円弧部に面し、前記排気ガス流(3)の流入側が前記配管部(2)の内側円弧部であって前記外側円弧部よりも円弧半径が小さい内側円弧部に面し、
前記還流板(14)は、前記入口領域(4)に流入する前記排気ガス流(3)が該還流板(14)の底部から周囲に流れるように該長手方向(21)を横切る方向の断面において凹状に湾曲し、
前記インジェクタ(7)は、前記還元剤(8)を円錘状スプレー(22)の形状で導き、前記還流板(14)は、その長手方向が前記円錘状スプレー(22)の表面線(23)に実質的に平行に延在することを特徴とする排気システム。」

イ 本件訂正発明2
「前記還流板(14)は、流入表面(16)および流出表面(17)を含み、前記接続導管(10)に面するプレート始端(18)、前記出口領域(5)に面するプレート終端(19)、および前記プレート始端(18)から前記プレート終端(19)まで延在する2つのプレート側縁(20)によって包囲されている、ことを特徴とする請求項1記載の排気システム。」

ウ 本件訂正発明3
「前記還流板(14)は、その前記長手方向(21)を横切る方向の前記2つのプレート側縁(20)の幅が、前記プレート終端(19)の方向において前記プレート終端(19)に近づくにつれて増大していることを特徴とする請求項2に記載の排気システム。」

エ 本件訂正発明5
「前記インジェクタ(7)は、円錘状スプレー(22)の形態で前記還元剤(8)を導入し、前記還流板(14)は、その長手方向(21)において、前記円錘状スプレー(22)の円錐角(24)にほぼ等しい角度で広がることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の排気システム。」

オ 本件訂正発明6
「前記還流板(14)は、前記接続導管(10)に面するプレート始端(18)にて前記配管部(2)に固定されており、還流板(14)は、プレート始端(18)に固定コンソール(27)を含み、この固定コンソール(27)を介して前記還流板(14)が前記配管部(2)に固定されていることを特徴とする請求項1?3および5のいずれか一項に記載の排気システム。」

カ 本件訂正発明7
「前記還流板(14)は、前記接続導管(10)に面するプレート始端(18)に配管部(2)に対する間隙(30)を含み、還流板(14)は、前記プレート始端(18)に偏向板(31)を含み、前記偏向板(31)は、前記間隙(30)を介して前記接続導管(10)の中に流れようとする前記排気ガス流を偏向する、ことを特徴とする請求項1?3および5?6のいずれか一項に記載の排気システム。」

キ 本件訂正発明8
「前記出口領域(5)に面するプレート終端(19)における前記還流板(14)は、自立状態にて、または前記配管部(2)に緩やかに接触して、前記出口領域(5)に配置されていることを特徴とする請求項2または3のいずれか一項に記載の排気システム。」

ク 本件訂正発明9
「前記プレート終端(19)における前記還流板(14)は、前記配管部(2)に緩やかに接触する支持構造(32)を含み、前記支持構造(32)は、リング形状、または一部リング形状に形成され、前記出口領域(5)にて前記配管部(2)の周方向に延在することを特徴とする請求項8に記載の排気システム。」

ケ 本件訂正発明10
「前記還流板(14)は、前記還流板(14)を通過する流れを可能とする、少なくとも1つの辺縁クリアランス(33)および/または少なくとも1つの開口(34)を含み、前記開口(34)は前記還流板(14)を穿孔することにより形成できることを特徴とする請求項1?3および5?9のいずれか一項に記載の排気システム。」

コ 本件訂正発明11
「前記還流板(14)は、その流入表面(16)および/またはその流出表面(17)に、機械的および/または化学的影響から前記還流板(14)を保護するための保護コーティング(35)が形成されていることを特徴とする請求項1?3および5?10のいずれか一項に記載の排気システム。」

サ 本件訂正発明12
「前記還流板(14)は、機械的接続、プラグ接続、溶接接続またはクランプ接続を介して前記配管部(2)に固定されていることを特徴とする請求項1?3および5?11のいずれか一項に記載の排気システム。」

シ 本件訂正発明13
「請求項1?3および5?12のいずれか一項に記載の排気システム(1)のための還流板。」

2 取消理由の概要
本件訂正前の、平成28年10月31日提出の訂正請求書により訂正された請求項1ないし3及び5ないし13に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」及び「本件発明5」ないし「本件発明13」という。)に対して平成29年3月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)本件発明1は、引用発明(甲第2号証に記載された発明)、引用文献2(甲第3号証)記載の技術1、周知技術1及び引用文献3(甲第5号証)記載の技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)本件発明2は、引用発明、引用文献2記載の技術1及び2並びに引用文献3記載の技術2及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)本件発明3は、引用発明、引用文献2記載の技術1ないし3、引用文献3記載の技術2及び3並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項3に係る特許は、取り消されるべきものである。

(4)本件発明5は、引用発明、引用文献2記載の技術1ないし3、引用文献3記載の技術2及び3並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項5に係る特許は、取り消されるべきものである。

(5)本件発明6は、引用発明、引用文献2記載の技術1ないし4、引用文献3記載の技術2及び3並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項6に係る特許は、取り消されるべきものである。

(6)本件発明7は、引用発明、引用文献2記載の技術1ないし4、引用文献3記載の技術2及び3、引用文献4(甲第4号証)記載の技術1及び2並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項7に係る特許は、取り消されるべきものである。

(7)本件発明8は、引用発明、引用文献1(甲第2号証)記載の技術1、引用文献2記載の技術1ないし3、引用文献3記載の技術2及び3並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項8に係る特許は、取り消されるべきものである。

(8)本件発明9は、引用発明、引用文献1記載の技術1及び2、引用文献2記載の技術1ないし3、引用文献3記載の技術2及び3並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項9に係る特許は、取り消されるべきものである。

(9)本件発明10は、引用発明、引用文献1記載の技術1ないし3、引用文献2記載の技術1ないし4、引用文献3記載の技術2及び3、引用文献4記載の技術1及び2並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項10に係る特許は、取り消されるべきものである。

(10)本件発明11は、引用発明、引用文献1記載の技術1ないし3、引用文献2記載の技術1ないし4、引用文献3記載の技術2及び3、引用文献4記載の技術1及び2、引用文献5(甲第8号証)記載の技術並びに周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項11に係る特許は、取り消されるべきものである。

(11)本件発明12は、引用発明、引用文献1記載の技術1ないし3、引用文献2記載の技術1ないし4、引用文献3記載の技術2及び3、引用文献4記載の技術1及び2、引用文献5記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項12に係る特許は、取り消されるべきものである。

(12)本件発明13は、引用発明、引用文献1記載の技術1ないし3、引用文献2記載の技術1ないし4、引用文献3記載の技術2及び3、引用文献4記載の技術1及び2、引用文献5記載の技術並びに周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項13に係る特許は、取り消されるべきものである。

3 引用文献の記載等
(1) 引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である引用文献1(甲第2号証。米国特許出願公開第2010/0263359号明細書)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「[0001] The invention relates to devices for aftertreatment of exhaust gases of diesel engines according to the preamble of Claim 1 .
(当審仮訳):その発明は、クレーム1の前文におけるディーゼルエンジンの排気ガスの後処理用デバイスに関する。」(段落[0001])

(イ)「[0002]Modern aftertreatment methods for the exhaust gases of diesel engines require the addition of additives to the exhaust gas to allow the respective chemical reactions to take place with optimal effect . Thus , to improve and maintain selective catalytic reduction in the so-called SCR method , ammonia , usually in the form of an aqueous urea solution , must be added to the exhaust gas in a downstream SCR catalyst . Hydrocarbons are added to the exhaust gases to improve and maintain the catalytic function of a diesel oxidation catalyst. Hydrocarbons are also added to the exhaust gases to initiate regeneration of a loaded diesel soot particulate filter .
(当審仮訳):ディーゼルエンジンの排気ガスのための現代の後処理方法は、化学反応が最適な効果で生じるように、添加剤を排気ガスに追加することを要求する。従って、いわゆるSCR法と呼ばれる選択的触媒還元法を改善及び維持するために、通常は尿素水溶液の形で、アンモニアを下流のSCR触媒中の排気ガスに加えなければならない。ディーゼル機関の酸化触媒の触媒作用を改善し維持するために、炭化水素は排気ガスに加えられる。」(段落[0002])

(ウ)「[0004] In addition , it is necessary to ensure that the additives do not come in contact with the pipe wall until it is completely evaporated. Since the pipe wall is usually colder than the exhaust gas itself , the additive would be deposited there. This might result in attack on the pipe but in particular then the proper amount of additive would be missing from the exhaust gas aftertreatment reaction , which would then only take place incompletely . This is unsatisfactory .
(当審仮訳):さらに、添加剤が完全に蒸発するまで、添加剤が管壁に接しないことを確実にすることが必要である。管壁は、通常、排気ガス自体より低温なので、添加剤は、管壁にて堆積する恐れがある。この堆積は、パイプへの攻撃をもたらす恐れがあり、特に、完璧に行われるべき排気ガスの後処理における化学反応に対し、適量の添加物を加えることができなくなる。これでは、満足な結果が得られない。」(段落[0004])

(エ)「[0006] The object of the present invention is to provide a device for aftertreating the exhaust gases of diesel engines, said device being capable of achieving complete evaporation of additives even with a short mixing zone and the most homogeneous possible mixing of exhaust gas and additives as well as preventing additives from being deposited on the inside wall of the pipe of the mixing zone.
(当審仮訳):本発明の目的はディーゼルエンジンの排気ガスを後処理するためのデバイス、すなわち、短い混合空間で添加剤の完全な蒸発を達成でき、混合空間をなすパイプの内壁に添加剤が堆積されるのを防ぎつつ、排気ガスと添加剤とを最も均質に混合することができるデバイスを提供することである。」(段落[0006])

(オ)「[0017] FIG. 1 shows an isometric diagram of a mixing pipe 20 . The mixing pipe 20 is open at one end 21 , with a conical or bell-shaped widened portion 23 at the other end. The pipe jacket is provided with large-area perforations 22 . Another ring of perforations 24 is provided on the conical part of the widened portion 23 .
(当審仮訳):図1は、ミキシングパイプ20の等角の略図を示す。ミキシングパイプ20は、?方の端部21が開放されていると共に、他方の端部には、円錐形か鐘形に広げられた拡径部23が設けられている。パイプ・ジャケットには、大きなエリアの孔部22が設けられている。別の孔部24の輪が、拡径部23の円錐部に設けられている。」(段落[0017])

(カ)「[0018] FIG. 2 shows the mixing pipe 20 inserted into a pipe 2 carrying exhaust gases, represented by an arrow 1 , here in the form of a 90° pipe bend. The open end 21 of the mixing pipe 20 is provided with a closing cover 25 , which has a receptacle 26 for a nozzle (not shown) which injects an additive into the mixing pipe 20 and/or the exhaust gases 1 . The nozzle may inject an aqueous urea solution, hydrocarbons or other additives into the exhaust gas 1 as needed.
(当審仮訳):図2は、矢印1が示す排気ガスを流下させ、ここでは90°に曲がっているパイプ2に挿入されたミキシングパイプ20を示す。ミキシングパイプ20の開放端21は、閉鎖カバー25が設けられており、それには、ミキシングパイプ20及び/又は排気ガス1に、添加剤を噴射するノズル(図示せず)用の受け部26が設けられている。ノズルは、必要に応じて、排気ガス1に尿素水溶液、炭化水素、あるいは他の添加剤を噴射可能である。」(段落[0018])

(キ)「[0019] As FIG. 2 also shows, the widened portion 23 on the end of the mixing pipe is of such dimensions that it is in close contact with the inside of the pipe 2 carrying the exhaust gas. In this way, the exhaust gas 1 flowing into the pipe must flow through the perforations 22 , 24 . The part of the exhaust gases flowing into the perforations 22 in the pipe jacket leads to a concentration of the exhaust gas flow at the center of the mixing pipe 20 and the mixing zone 3 , which follows the latter ( FIG. 3 ). However, the part of the exhaust gases flowing through the perforations 24 forms a jacket flow in the downstream mixing zone 3 , which effectively protects the mixture of the exhaust gas and the additive from coming in contact with the wall.
(当審仮訳):図2が示すように、ミキシングパイプの端の拡径部23は、それが排気ガスを運ぶパイプ2の内部に近接する程度の大きさである。このように、パイプに流れ込む排気ガス1は、孔部22及び24を通って流れるはずである。孔部22を通過してパイプのジャケットの内部に流入した一部の排気ガスの流れは、図3に示すように、ミキシングパイプ20及びミキシングゾーン3の中心に、排気ガスの流れの集中を導く。しかしながら、孔部24を通過した一部の排気ガスの流れは、ミキシングゾーン3の下流で、ジャケット・フローを形成する、ジャケット・フローは、排気ガスと添加剤の混合物が壁に接触するのを有効に防御する。」(段落[0019])

(ク)「[0020] FIG. 3 shows the diagram of the flow paths of the mixture of exhaust gas and additive through the mixing pipe 20 and the downstream mixing zone 3 according to a simulation. The flow paths form a helical eddy but do not reach the wall of the mixing zone 3 , so nothing is deposited on the wall.
(当審仮訳):図3は、シミュレーションにより得られた、ミキシングパイプ20および下流のミキシングゾーン3を通過する排気ガスと添加剤の混合物の流路の略図を示す。この流路は、螺旋形の渦を形成するが、ミキシングゾーン3の壁に達しない。したがって、この壁には、蓄積物が生成されない。」(段落[0020])

(ケ)「[0021] FIG. 4 shows purely schematically a cross section through the pipe 2 carrying the exhaust gas and through the mixing pipe 20 in a simplified diagram of the exhaust gas flow 1 . It can be seen here that based on the symmetrical flow around the mixing pipe 20 , a double eddy 1' develops in the interior of the mixing pipe 20 , ensuring a homogeneous mixing of the exhaust gas and the additive on the one hand and on the other hand ensuring the concentration of the mixture of exhaust gas and additive at the center of the mixing pipe 20 and the downstream mixing zone 3 .
(当審仮訳):図4は、排気ガス流1の単純化された略図中でミキシングパイプ20を通り排気ガスを運ぶパイプ2を通る純粋に概略的な断面を示す。ミキシングパイプ20の周りの対称的な流れに基づいて、二つの渦1’は、ミキシングパイプ20の内部に広がり、一方では排気ガスと添加剤の均一な混合を確実にするとともに、他方ではミキシングパイプ20及び下流のミキシングゾーン3の中心における排気ガスと添加剤との集中を確実にすることが理解できる。」(段落[0021])

(コ)Fig.2(図2)から、「パイプ2は、その一端をなす入口領域と、その他端をなす出口領域と、入口領域と出口領域の間に位置する導入領域とを有する」こと、「受け部26は筒状である」こと、「受け部26、閉鎖カバー25、及び、ミキシングパイプ20の端部を介して、ノズルがパイプ2に接続される」こと、「添加剤が、導入領域の中で出口領域の方向に噴射される」こと、「ミキシングパイプ20は、導入領域の上流側でパイプ2の中に配置される」こと、「ミキシングパイプ20の長手方向が、入口領域から流入する排気ガス流に対して直角の角度をなす」こと、排気ガス流れ方向は入口と出口を結ぶ方向であるから「ミキシングパイプ20は、その長手方向が、出口領域への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在する」こと、「ミキシングパイプ20は、入口領域から長手方向を横切る方向に流れる排気ガス流を受ける」こと、「ミキシングパイプ20は、上流側側面(ミキシングパイプ20の側面における上流側の部分)と、下流側側面(ミキシングパイプ20の側面における下流側の部分)と、受け部26に面する始端と、出口領域に面する終端とを有する」こと、「ミキシングパイプ20は、上流側側面と下流側側面との境界をなす対面する2つの側縁を有する」こと、「2つの側縁は、ミキシングパイプ20の始端から終端まで延在する」こと、「ミキシングパイプ20は、始端、終端、及び、2つの側縁により包囲されている」こと、「ミキシングパイプ20の上流側側面は、入口領域に流入する排気ガス流が、当該上流側側面の底部(上流側側面における長手方向に延びる部分であって、上流側側面の最も入口領域側に位置する部分)から周囲に流れるように、長手方向を横切る方向の断面において凹状に湾曲している」こと、及び、「ミキシングパイプ20の始端にパイプ2との接続部分が設けられており、該接続部分により、ミキシングパイプ20がパイプ2に固定されている」ことが看取できる。

イ 引用発明
上記ア(ア)ないし(コ)及び図1ないし4によれば、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ディーゼルエンジンの排気システムにおいて、
入口領域および出口領域を含み、排気ガス流を導く90°に曲がったパイプ2と
前記排気ガス流の中に添加剤を導入するためのノズルであって、受け部26を介してパイプ2に接続されており、これにより、前記受け部26を介して前記添加剤を、前記入口領域と前記出口領域との間に位置する前記パイプ2の導入領域の中で、前記出口領域の方向に前記排気ガス流の中に噴射することができる、ノズルと、
前記導入領域の上流側で前記パイプ2の中に配置されるミキシングパイプ20であって、その長手方向が、前記入口領域から流入する排気ガス流に対して直角の角度をなし、前記出口領域への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域から前記長手方向を横切る方向に流れる排気ガス流を受ける、ミキシングパイプ20と、
を備え、
前記ミキシングパイプ20は、前記入口領域に流入する前記排気ガス流が該ミキシングパイプ20の底部から周囲に流れるように該長手方向を横切る方向の断面において凹状に湾曲し、
前記ノズルは、前記添加剤を噴射の形状で導く、排気システム。」

ウ 引用文献1記載の技術1ないし3
上記ア(ア)ないし(コ)及び図1ないし4によれば、引用文献1には以下の技術が記載されていると認められる。

「出口領域に面する拡径部23におけるミキシングパイプ20は、配管部に緩やかに接触して、出口領域に配置されている技術。」(以下、「引用文献1記載の技術1」という。)

「拡径部23におけるミキシングパイプ20は、配管部に緩やかに接触する支持構造を含み、支持構造は、リング形状に形成され、出口領域にて配管部の周方向に延在する技術。」(以下、「引用文献1記載の技術2」という。)

「ミキシングパイプ20は、ミキシングパイプ20を通過する流れを可能とする、少なくとも1つの孔部22を含む技術。」(以下、「引用文献1記載の技術3」という。)

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である引用文献2(甲第3号証。特開2010-221084号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
本発明は、第1流体が流通する流通路に、前記流通路に配置された噴出口から、第2流体を噴出して、前記第1流体に前記第2流体を混合する流体混合装置、及び、燃焼機関から排出され流通路を流通する排ガスに対して還元剤を混合する流体混合装置を備え、前記流体混合装置により混合された混合ガスを触媒反応により脱硝する脱硝装置に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0008】
本発明の目的は、流通路を流通する第1流体に噴出口から第2流体を噴出して混合する際に、流通路全体に渡って第2流体を均一に混合可能な流体混合装置を提供し、特に、このような流体混合装置を備えることで、窒素酸化物の分解性能及び触媒寿命を向上させ、且つ、燃焼機関の運転に支障を与えない脱硝装置を提供する点にある。」(段落【0008】)

(ウ)「【0011】
また、上記のように噴出口を壁面に設けることにより、第2流体の偏在が発生する可能性がある。しかし、噴出口は、邪魔板を設けることにより当該邪魔板の下流側に形成される、流れが上流方向に向かう帰還領域に設けられるため、当該噴出口から噴出した第2流体は、上流方向に向かう第1流体に取り込まれ、この部位で混合された後、この帰還領域に新たに流入してくる流体量に従って、下流側に流れる。そのため、偏在は解消され、上流からの第1流体と充分な拡散混合を起こさせることができる。」(段落【0011】)

(エ)「【0014】
本発明に係る流体混合装置の更なる特徴構成は、前記第1方向視で、前記邪魔板の断面形状が下流側に曲率中心を有する弧状に形成され、前記第2方向の端部側程、下流側とされている点にある。」(段落【0014】)

(オ)「【0015】
上記特徴構成によれば、第1方向視で、邪魔板の断面形状が下流側に曲率中心を有する弧状に形成され、第2方向の端部側程、下流側とされているため、第1流体に対して発生する圧力損失を低減することができる。このように邪魔板を構成した場合でも、当該邪魔板の下流側において帰還領域が形成されるため、充分な拡散混合の効果が得られる。」(段落【0015】)

(カ)「【0021】
以下、第1実施形態、第2実施形態に共通する共通事項から説明する。
〔共通事項〕
図1は、本願に係る脱硝装置200の構成を示す図であり、図2(a)(第1実施形態)、図4(a)(第2実施形態)は、この脱硝装置200の一部に組込まれている本願に係る流体混合装置100の構成を模式的に示した図である。
図1に示すように、当該脱硝装置200は、燃焼機関201(図示する例にあっては、発電機202を回転駆動させるためのエンジン203)から排出される排ガスに、本願に係る流体混合装置100を使用して還元剤を混合し、当該流体混合装置100により均一に混合された混合ガスを、触媒(還元触媒及び酸化触媒)204が配設される触媒部205に導いて、排ガスを無害化するものである。従って、本構成にあっては、燃焼機関201からの排ガスが本願における第1流体Aに該当し、排ガスに混合される還元剤が第2流体Bとなる。ここで、排ガスには無害化対象の窒素酸化物が含まれ、この窒素酸化物を無害化するための還元剤は、具体的には尿素と水との混合物となる。これら還元剤はガス状態で流通路4に供給してもよいし、ミスト状態で流通路4に供給してもよい。」(段落【0021】)

(キ)「【0024】
上記噴出口5は、流通路4の壁面6に穿設されており、その開口から第2流体Bを、流通路4に噴出させる。この第2流体Bの噴出方向は、壁面6に対してほぼ直交する流通路4の径方向とされている。ここで、噴出口5の開口方向は実施形態で示すように径方向としてもよいし、径方向から上流側若しくは下流側に傾いた方向としてもよい。後述するように、噴出口5は、邪魔板1の下流側に形成される、流れが上流側に向かう領域に設けられている。そのため、噴出口5を下流側に傾けた構造とすると、上流側に逆流している第1流体Aに対向して第2流体Bが噴出されるため、両流体の混合を促進できる。一方、噴出口5を上流側に傾けた構造とすると、上流側に逆流している第1流体Aの流れに沿って第2流体Bが噴出されるため、流通路4内に第2流体Bを吸引することができる。そのため、この構成では第2流体Bの噴出に要する動力を低減できる。また、上流に向かって噴出された第2流体Bは、流れの向きを下流側に変える中で第1流体Aと混合しながら拡散していくので、このように噴出口5を上流側に傾けた場合も、充分な拡散混合を起こさせることができる。」(段落【0024】)

(ク)「【0028】
〔第2実施形態〕
図4(a)は、本願に係る流体混合装置100の第2実施形態を示した図面である。
基本的な構成は上記第1実施形態と同じであるが、第2実施形態では、邪魔板1によって複数の流路が形成されるように構成されている。すなわち、本実施形態では、図4に模式的に示すように、流通路4内の邪魔板1と壁面6との間には、第1流路2及び第2流路3が形成されている。」(段落【0028】)

(ケ)「【0030】
本実施形態のように邪魔板1を構成することで、流通路4の連通方向視で、流通路4の全断面積に対して邪魔板1が占有する面積比が小さくなり、第1実施形態と比べ、圧力損失を大幅に低減することができる。また、上述したように、本構成においても、邪魔板1の下流側において帰還領域が形成されるため、第1実施形態の場合と同様、良好な混合状態を得ることができる。図5は、本実施形態の流体混合装置100の混合状態を、数値解析手法にてシミュレーションしたものであり、図5(a)は、図8(a)に対応する流通路4に沿った分布を示す図面であり、図5(b)は、図8(b)に対応する触媒部205の入口における断面方向の分布を示す図である。これらの図から判明するように、触媒部205の入口で第2流体Bが断面全体にほぼ均一に分散されていることが判る。」(段落【0030】)

(コ)「【0032】
〔別実施形態〕
(1)上記二つの実施形態において説明した邪魔板1は、第1方向D1視で、当該邪魔板1の断面形状が直線であったが、図7(a)、(b)のように、断面形状が半円形状、或いは、三角形状となるように構成することができる。すなわち、このように構成する場合は、邪魔板1によって混合部で発生する、第1流体Aに対する圧力損失をさらに低減することができる。なお、このような構成であっても、邪魔板1の下流側には帰還領域が形成されるため、充分な拡散混合の効果が得られる。」(段落【0032】)

(サ)図7から、「邪魔板1は、第1流体A(排ガス)の流通路4の上流側に面する流入表面、及び、流通路4の下流側に面する流出表面を有する」ことと、「邪魔板1は、噴出口5側に位置する始端、噴出口5の反対側に位置する終端、始端から終端まで延在する2つの側縁によって包囲されている」こと、「邪魔板1は、その長手方向を横切る方向の幅が、邪魔板終端の方向において増大していること」、「邪魔板1は、その長手方向を横切る方向の幅が、邪魔板終端の方向において増大していること」が看取できる。

イ 引用文献2記載の技術1ないし4
上記ア(ア)ないし(サ)及び図1ないし8から、引用文献2には、以下の技術が記載されていると認められる。

「第2流体Bの噴出口5の上流側に、断面が弧状である邪魔板1が設けられる技術。」(以下「引用文献2記載の技術1」という。)

「邪魔板1は、流入表面および流出表面を含み、上流端、下流端、および上流端から下流端まで延在する2つの邪魔板側縁によって包囲されている技術。」(以下、「引用文献2記載の技術2」という)

「邪魔板1は、その長手方向を横切る方向の幅が、邪魔板終端の方向において増大している技術。」(以下、「引用文献2記載の技術3」という)

「邪魔板1は、管の壁面6に接する部分にて管に固定されている技術。」(以下、「引用文献2記載の技術4」という。)

(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である引用文献3(甲第5号証。米国特許出願公開第2011/0094206号明細書)には、次の事項が記載されている。

(ア)「[0001] This invention relates to exhaust systems for internal combustion engines, and more particularly to a reductant injection system for a selective catalytic reduction (SCR) catalyst of an exhaust aftertreatment system.
(当審仮訳):この発明は、内燃機関用排気系統、およびより詳しくは排気後処理システムの選択的接触還元法(SCR)触媒用の還元剤注入システムに関する。」(段落[0001])

(イ)「[0007] Some prior art exhaust aftertreatment systems, however, do not provide adequate decomposition and mixing of injected urea. Often, conventional systems cause exhaust gas recirculation or low temperature regions within the decomposition space. Exhaust gas recirculation and low temperature regions may result in inadequate mixing or decomposition, which may lead to the formation of solid urea deposits on the inner walls of the decomposition space and urea injector. Additionally, inadequate mixing may result in a low ammonia vapor uniformity index, which can lead to uneven distribution of the ammonia across the SCR catalyst surface, lower NOx conversion efficiency, and other shortcomings.
(当審仮訳):しかしながら、いくつかの先行技術における排気後処理システムは、注入された尿素の適切な分解および混合を提供しない。しばしば、従来方式は、分解スペース内の排気ガス再循環、あるいは、低温域を引き起こす。排気ガス再循環と低温域は、不適当な混合、あるいは、分解を招く可能性がある。これらは、分解スペースおよび尿素インジェクターの内壁における尿素の固形蓄積物の形成をもたらす可能性がある。さらに、不適当な混合は、SCR触媒表面を通過するアンモニアを不均等に分布させ、NOX変換効率を低下させると共に、他の欠点を生じさせる恐れがあるアンモニア蒸気の均一度の低下を招く恐れがある。」(段落[0007])

(ウ)「[0008] The formation of solid urea deposits and uneven ammonia distribution may also be caused by urea spray being deflected away from an intended target. Following injection, the urea spray typically rapidly decelerates due to entrainment of exhaust gas into the spray. Rapid deceleration reduces urea spray penetration and momentum, which makes the injected urea spray susceptible to substantial redirection when contacted by exhaust flow gases. Undesirable redirection of urea spray may result in urea spray unintentionally contacting certain surfaces of the decomposition space (e.g., an inner wall of a decomposition tube and an upper portion of a mixer) and forming solid urea deposits thereon. The formation of solid urea deposits within the decomposition space typically results in a lower amount of ammonia concentration and a lower ammonia distribution uniformity index at the inlet face of the SCR catalyst, which can degrade the performance and control of the SCR catalyst.
(当審仮訳):尿素の固形蓄積物の形成、および、アンモニア蒸気の不均一な分布は、尿素のスプレーが、意図した目標からそれることにより引き起こされる可能性がある。注入後、尿素スプレーは、典型的には、スプレーの中へ排気ガスが取り込まれることにより、急速に減速する。急速な減速は、尿素スプレーの貫通力および運動量を減少させ、これにより、注入された尿素スプレーが排ガスの流れに衝突した時に実質的に進路変更し易くなる。尿素スプレーの不適当な進路変更は、尿素スプレーを、分解スペース(例えば分解管の内壁、および混合部の上部)の表面に意図に反して接触させ、尿素の固形蓄積物を形成させる恐れがある。分解スペース内での尿素の固形蓄積物の形成は、典型的には、SCR触媒の上流側に対面する位置において、アンモニア濃度の低下、および、アンモニアの均一分布の低下を招き、SCR触媒のパフォーマンスおよびコントロールを下げる可能性が高い。」(段落[0008])

(エ)「[0016] In certain implementations, the perforated tubular portion has a cross-sectional shape corresponding to a cross-sectional shape of a reductant spray pattern associated with the reductant injector. The perforated tubular portion can be substantially conical-shaped.
(当審仮訳):ある実装では、穿孔された管状の部分は、還元剤インジェクタからの還元剤噴射パターンの断面形状に応じた断面形状を有する。穿孔された管状の部分は、実質的に円錐形とすることができる。」(段落[0016])

(オ)「[0043] … In some implementations, the reductant injection tube 130 extends into the decomposition chamber 102 beyond the injector portion 112 as shown in FIG. 2 . As defined herein, the reductant injection tube 130 can have any of various shapes resembling a hollow tube or cone, i.e., having an inlet with a first area, an outlet with a second area larger than the first cross-sectional area, and a substantially diverging sidewall extending from the inlet to the outlet. The reductant injection tube 130 illustrated in FIG. 2 has a substantially circular cross-sectional area and has a substantially conical shape. However, in other embodiments, the reductant injection tube 130 can have any of various cross-sectional shapes, such as ovular, triangular, and rectangular. Generally, the cross-sectional shape of the reductant injection tube 130 corresponds with the cross-sectional shape of a spray pattern of the reductant injector 46 .
(当審仮訳):いくつかの実施形態では、還元剤噴射筒130は、図2に示されるようなインジェクタ部112から分解チャンパ102に伸びる。ここに定義されるように、還元剤噴射筒130は、例えば、中空チューブや円錐等に似た様々な形のうちのいずれかとすることができる、つまり、還元剤噴射筒130は、第1エリアを備えた入口、第1エリアよりも大きな断面をもつ第2エリアを備えた出口、および入口から出口に向かって実質的に放射状に広がるサイドウォールを持っている。図2に示された還元剤噴射筒130は、実質的に円形の断面を持ち、実質的に円錐形となっている。しかしながら、他の実施形態では、還元剤噴射筒130は、矩形、三角形、卵型等、様々な形状の断面を有する可能性がある。一般に、還元剤噴射筒130の断面形状は、還元剤インジェクター46の噴霧パターンの断面形状に応じたものとなる。」(段落[0043])

(カ)「[0044] Referring to FIGS. 3 and 4 , the reductant injection tube 130 includes a perforated tubular portion 132 extending from an attachment portion 134 .
(当審仮訳):図3および4を参照すると、還元剤噴射筒130は、取付け部分134から伸びる、穿孔された管状の部分132を含んでいる。」(段落[0044])

(キ)「[0074] According to one additional embodiment, the reductant injection tube 130 is configured to avoid or reduce impingement of reductant spray on the inner surface of the perforated tubular portion 132 along the reductant spray channel 142 . More specifically , in certain implementations, the perforated tubular portion 132 defines an included angle β expressed as follows:
β=α+δ (9)
where α is the included angle of the reductant spray 220 and δ is an angle between about 5-degrees and about 15-degrees (see FIG. 5 ). In more specific implementations, the angle δ is greater than 15-degrees.
(当審仮訳):1つの追加の実施形態によれば、還元剤噴射筒130は、還元剤スプレー・チャネル142に沿って配された穿孔された管状部132の内表面に、還元剤スプレーが衝突するのを回避するか縮小するように構成される。より具体的には、ある実施形態では、穿孔された管状部132は、以下のように表現された開先角度βを定義する。
β=α+δ (9)
αは、還元剤スプレー220の開先角度であり、δは、およそ5度とおよそ15度の角である(図5を参照)。より特殊な実施形態では、δが15度を超える。」(段落[0074])

(ク)FIG.2から、「還元剤噴射筒130は、入口から出口に向かって広がる円錐状である」こと、及び、「還元剤噴射筒130の出口側の端部から入口側の端部にかけて穿孔されている」こと、が看取できる。

(ケ)上記(キ)及びFIG.5から、「還元剤スプレー220が円錐状に広がること」、「還元剤噴射筒130が、還元剤スプレー220の開先角度αとほぼ等しい角度で広がること」、及び、「還元剤噴射筒130は、還元剤インジェクター46からの還元剤スプレー220の表面に実質的に平行に延在すること」が看取できる。

イ 引用文献3記載の技術1ないし3
上記ア(ア)ないし(ケ)から、引用文献3には、以下の技術が記載されていると認められる。

「還元剤インジェクター46は、円錘状スプレーの形態で還元剤を導入する技術。」(以下、「引用文献3記載の技術1」という。)

「還元剤噴射筒130は、その長手方向において、円錘状スプレーの円錐角にほぼ等しい角度で広がる技術。」(以下、「引用文献3記載の技術2」という。)

「還元剤噴射筒130は、入口から出口に向かって広がる円錐状であり、還元剤噴射筒130の出口側の端部から入口側の端部にかけて穿孔されている技術。」(以下、「引用文献3記載の技術3」という。)

(4)引用文献4
ア 引用文献4の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である引用文献4(甲第4号証。特表2002-523228号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
(技術分野)
本発明は、異種の流れを合わせる装置及び方法に関し、より詳細には、材料の2つの(又は、それより多い)異種の流れ(例えば、異なる温度の2つの空気流)を結合して一様な流れを形成し得る時、その効率を上げるためにダクト又は類似の囲壁内で利用されるバッフル形態に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0002】
(背景技術)
多くの産業環境において、いくつかの異なる気体(又は、液体)材料を合わせることが、しばしば必要である。例えば、従来型のバーナ(ガス又はオイル燃焼式)から出る燃焼・高温気体を比較的低温の処理気体(除湿器で遭遇し得るような)と混合することが必要になることがある。代わりに、ガスタービンの排気口から出た排気ガス(高温)を、例えば除湿器からの処理気体と混合することが必要になることもある。これらの装置の構造は、通常、ダクト(又は、類似の囲壁)を通って流れる第1の空気流を含み、第2の流れが投入口を経由してダクト内に導入される。」(段落【0002】)

(ウ)「【0004】
(発明の開示)
異種の流れを合わせる装置及び方法に関し、より詳細には、材料の2つの(又は、それより多い)異種の流れ(例えば、異なる温度の2つの空気流)を結合して一様な流れを形成し得る時にその効率を上げるためにダクト又は類似の囲壁内で利用されるバッフル形態に関する本発明により、従来技術に残されたこの必要性は対処される。
本発明の好ましい実施形態において、先細りのバッフルは、第2の空気流の投入源の上流にダクト内部の配置され、第2の空気流は、ダクト内を通って流れる第1の空気流と結合される。該ダクトは、ダクトの床及び上部壁を形成する平行間隔が開いた壁を備えるように形成されている。第2の流れの投入口は、ダクトの床を通って挿入されており、バッフルは、その最も幅広い部分が投入口に最も近く、ダクトの上部壁に近づくにつれてダクトの幅に亘って狭くなる方法で先細りになっている。第1の空気流(例えば、低温)は、ダクトを通って流れており、第2の空気流(例えば、高温)は、投入口を介して導入される。バッフルを横切る第1の空気流の流れは、投入口に最も近いバッフル面に沿って低圧区域の形成をもたらす。次に、投入口により導入された第2の流れは、本発明のバッフル形態により作り出された低圧区域内に自然に流れ込み、第1の流れとの効率的な混合をもたらす。」(段落【0004】)

(エ)「【0006】
本発明の更に別の実施形態によれば、2つ以上の材料の流れの結合をもたらすのに、先細りでないバッフルを利用してもよい。先細りでないバッフルは、特に第1の高速流が第2の低速流と結合される状況で使用され得る。従来技術においては、もし低速流が高速流の通路に注入されるとすると、低速流の投入口が歪むことがあり、材料の低速流をダクトの床面に亘って正しく方向付けできず、不適切な混合を作り出す。本発明の教えるところに従えば、先細りでない板として形成されたバッフルは、投入口を高速流の通路から遮断するように機能する。すなわち、低速の材料は、ダクトの幅に亘って拡がることができ、下流でより効率的な混合をもたらす。」(段落【0006】)

(オ)「【0008】
(発明を実施するための最良の形態)
図1は、本発明の例示的混合装置10を示す。図示のように、装置は、バッフル12の最大幅の縁部16がダクト14の床壁18と近接するようにダクト14に配置された先細りのバッフル12を備える。バッフル12は、次に、ダクト14の上部壁22に近接する先端20へと先細りになる。本実施形態のダクト14が矩形断面を含むものとして示されているが、任意の所定形状のいかなる適切な囲壁でも利用して得ることを理解されたい。更に、バッフル12の形状は、特定な状況においては異なってもよい。図1の装置の場合、バッフル12は、円錐断面を持つように示されている。他の先細り又は先細りしない形態が利用されてもよく、それらは、本発明の精神及び範囲に包含される。
投入口24は、ダクト14の底壁18を通して突き出ており、バッフル12の下流(ダクト14を通る流れの方向に対して)に位置する。投入口24の中心とバッフル12との間の距離d(図2に示す)は、設計上の問題であり、その間の区域に分離dの関数として、より大きいか又はより小さいかのいずれかの空気圧を準備する。」(段落【0008】)

(カ)「【0009】
図に示す実施形態において、第1の気体流G1は、ダクト14の長さlに沿って流れる。気体流G1は、酸素、窒素、空気流、又は、他の任意の気体の流れを含んでもよい。第2の気体流G2は、配管26を通って移動し、投入口24を経てダクト14内に導入される。本発明の教えるところによれば、第1の気体流G1の流れは、先細りバッフル12を過ぎてバッフル12の下流側部28上に低圧の空洞を作り出す。すなわち、第2の気体流G2の通路は、図1に示すように低圧区域に入る。注入気体の噴流が注入点からの距離に従って広がる自然な傾向により、低圧空洞の外に流れ、第1の気体流G1の流れの中に押し流される第2の気体流G2の量は、増大し、それにより、第1の気体流G1の面(幅)に亘って均等に分布される。先細りバッフル構造により作り出される乱流は、こうして第1の気体流G1の流れの前面に亘る混合作用を拡げることに貢献する。」(段落【0009】)

(キ)「【0011】
図2は上記の図1で説明した装置の側面を示している。この図で示されているように、投入口24は、ダクト14の底面18を貫通して所定の高さhだけ突き出ている。投入口24の中心は、バッフル12の後縁30から所定の距離dだけ下流に配置されているものとして示されている。高さh及び距離dの両方とも2つの流れが最も効率よく混合されるように制御でき、その場合、これらのパラメータは、これら2つの流れに付随する様々な条件(例えば、温度、組成、湿度、流速など)の関数となろう。この図で明瞭に見られるように、バッフル12は、先端20がダクト14の上部壁22に接触しないように寸法を決められる。バッフル12の周囲の気体流G1の流れは、こうして低圧空洞区域32を生成する。すなわち、気体流G2は、投入口24を出ると自然に空洞32に入る傾向があり、気体流G1及びG2の混合の効率における増加をもたらす。
上記のように、本発明の装置の効率に影響する別の要因は、バッフルの幾何学的形状である。図3は、混合装置の上面の透視図を示している。図のように、バッフル12の側壁34は、半径rの弧を備えるように形成され、この場合、この角変位は、空洞区域内の実際の圧力のほか、低圧空洞32の全体寸法を制御することが分かっている。」(段落【0011】)

(ク)「【0013】
図6は、装置50の平面図を示す。この特別の実施形態に示されているように、先細りバッフル52は、三角形の形状を備え、所定の角度シータ(θ)だけ変位した1対の側壁62及び64を持っている。低温の空気流A低は、バッフル52を越して流れ、投入口56とバッフル52との間に低圧領域66を作り出す。従って、高温空気流A高は、自然にこの低圧空洞に入り、効率的に流れA低と混合して出力空気流A混合を形成するであろう。
図7は、図5の装置を線7-7で切った透視図を含む。この図で明らかなのは、バッフルと導管54の下面60との間の間隙区域55である。図のように、バッフル52のほんの小さな脚部分57及び59が表面60と接触している(安定のため)のみで、A低の定常流が間隙区域55を通過してバッフル52に冷却をもたらすことを可能にしている。」(段落【0013】)

(ケ)図1から、「ダクト14の床壁18に設けられた投入口24から第2の気体流G2がダクト14内に導入される」こと、「バッフル12の下流側に投入口24が配置される」こと、「バッフル12の側壁34は、第1の気体流G1の上流側に面する流入表面、及び、第1の気体流の下流側に面する流出表面を含む」こと、及び、「バッフル12が、先端20、投入口24に面する縁部16、及び先端20から縁部16まで延在する2つの側縁によって包囲されている」ことが看取できる。

(コ)図1及び3から、「バッフル12の側壁34の断面が弧である」ことが看取できる。

(サ)図4及び5から、「バッフル52における導管54の下面60側(始端側)に、間隙区域55が形成されていること」ことが看取できる。

イ 引用文献4記載の技術1ないし3
上記ア(ア)ないし(サ)及び図1ないし10から、引用文献4には、次の技術が記載されているといえる。

「第2の気体流G2の投入口24の上流側に設けられ、断面が弧状であるバッフル12の技術。」(以下、「引用文献4記載の技術1」という。)

「バッフル52の始端に間隙区域55を設ける技術。」(以下、「引用文献4記載の技術2」という。)

「バッフル12をその縁部16がダクト14の床壁18と近接するように固定する技術。」(以下、「引用文献4記載の技術3」という。)

(5)引用文献5
ア 引用文献5の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物である引用文献5(甲第8号証。特開2008-223345号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【0080】
さらに、センタジョイント34には、ボディ35の収容空間部35B全体と、該収容空間部35Bに対応するスピンドル38の外面と、尿素水溶液が流通する連通路38Dとを覆うように腐食防止皮膜44を設けている。これにより、センタジョイント34全体を腐食防止皮膜44により尿素水溶液から保護することができ、センタジョイント34の寿命を延ばすことができる。」(段落【0080】)

イ 引用文献5記載の技術
上記ア(ア)から、引用文献5には次の技術が記載されているといえる。

「部品を尿素水溶液から保護するための腐食防止皮膜44を形成する技術。」(以下、「引用文献5記載の技術」という。)

4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1
本件訂正発明1は、上記第3の1のアにおいて示したとおりのものである。

(イ)対比
本件訂正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「ディーゼルエンジン」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件訂正発明1における「燃焼機関」に相当し、以下同様に、「90°に曲がったパイプ2」は「曲り配管部」に、「添加剤」は「液体還元剤」及び「還元剤」に、「ノズル」は「インジェクタ」に、「受け部26」は「接続導管」に、「パイプ2」は「配管部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「ミキシングパイプ20」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、「還流部材」という限りにおいて、本件訂正発明1における「還流板」に相当し、同様に、引用発明における「噴射」は、「スプレー」という限りにおいて、本件訂正発明1における「円錘状スプレー」に相当する。

よって、本件訂正発明1と引用発明とは、
「燃焼機関の排気システムにおいて、
入口領域および出口領域を含み、排気ガス流を導く曲り配管部と
前記排気ガス流の中に液体還元剤を導入するためのインジェクタであって、接続導管を介して配管部に接続されており、これにより、前記接続導管を介して前記還元剤を、前記入口領域と前記出口領域との間に位置する前記配管部の導入領域の中で、前記出口領域の方向に前記排気ガス流の中に導入することができる、インジェクタと、
前記導入領域の上流側で前記配管部の中に配置される還流部材であって、その長手方向が、前記出口領域への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域から前記長手方向を横切る方向に流れる排気ガス流を受ける、還流部材と、
を備え、
前記還流部材は、前記入口領域に流入する前記排気ガス流が該還流部材の底部から周囲に流れるように該長手方向を横切る方向の断面において凹状に湾曲し、
前記インジェクタは、前記還元剤をスプレーの形状で導く、排気システム。」
という点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
a 「曲り配管部」に関して、本件訂正発明1においては、「湾曲している曲り配管部」であるのに対し、引用発明においては、「90°に曲がったパイプ」である点(以下、「相違点a」という。)。

b 「還流部材」に関して、本件訂正発明1においては、「環流板」であって、「その長手方向が、入口領域から流入する排気ガス流に対して斜めの角度をなし」、「排気ガス流の流出側が配管部の外側円弧部に面し、排気ガス流の流入側が配管部の内側円弧部であって外側円弧部よりも円弧半径が小さい内側円弧部に面し」、「その長手方向が円錘状スプレーの表面線に実質的に平行に延在する」のに対し、引用発明においては、「ミキシングパイプ20」であって、「その長手方向が、入口領域から流入する排気ガス流に対して直角の角度をなし」ている点(以下、「相違点b」という。)。

c 「スプレー」に関して、本件訂正発明1においては、インジェクタは、還元剤を「円錘状スプレー」の形状で導くのに対し、引用発明においては、ノズルは、添加剤を「噴射」の形状で導くものの、「円錐状」であるか否か明らかでない点(以下、「相違点c」という。)。

(ウ)判断
事案に鑑み、まず相違点bについて検討する。
本件訂正発明1においては、環流部材が「環流板」であって、その長手方向が「入口領域から流入する排気ガス流に対して斜めの角度をなし」、「排気ガス流の流出側が配管部の外側円弧部に面し、排気ガス流の流入側が配管部の内側円弧部であって外側円弧部よりも円弧半径が小さい内側円弧部に面し」、「その長手方向が円錘状スプレーの表面線に実質的に平行に延在する」ものであるが、引用発明においては、環流部材が「ミキシングパイプ20」であって、その長手方向が、入口領域から流入する排気ガス流に対して斜めの角度ではなく直角の角度をなしており、また、ミキシングパイプであるため、「排気ガス流の流出側が配管部の外側円弧部に面し、排気ガス流の流入側が配管部の内側円弧部であって外側円弧部よりも円弧半径が小さい内側円弧部に面し」という構成をとり得ない。
さらに、円錘状スプレーの表面線は円錐状に拡がっているが、ミキシングパイプ20は円筒状であるから、「その長手方向が円錘状スプレーの表面線に実質的に平行に延在する」ものでもない。
したがって、引用文献2ないし5記載の技術を考慮しても、引用発明に基づいて、相違点bに係る本件訂正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

したがって、本件訂正発明1は、引用文献1ないし引用文献5に記載された発明又は技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件訂正発明2、3及び5ないし13について
本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2、3及び5ないし13は、本件訂正発明1に記載された環流板を有するものであるから、本件訂正発明1と同様に、引用文献1ないし引用文献5に記載された発明又は技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし3及び5ないし13は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

ア 異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、6及び13に係る特許に対し、甲第1号証(特開2006-329019号公報)に基づく特許法第29条第1項第3号違反を主張している。
また、異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3、6及び13に係る特許に対し、甲第2号証(引用文献1)に基づく特許法第29条第1項第3号違反を主張している。
また、異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項2ないし13に係る特許に対し、甲第1号証ないし甲第8号証に基づく特許法第29条第2項違反を主張している。

イ 検討
上記(1)において検討したように、本件訂正発明1と甲第2号証に記載された発明(引用発明)とを対比すると、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と、上記相違点aないしcにおいて相違している。
したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。
同様に、本件訂正発明2、3、6及び13は、本件訂正発明1に記載された環流板を有するものであるところ、甲第2号証に記載された発明と、少なくとも上記相違点bにおいて相違しているから、甲第2号証に記載された発明ではない。

同様に、本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載された発明は、インジェクタ21aが噴射した液体還元剤21を案内する案内管34を、90°に曲がった管本体31に設けたものであるから、本件訂正発明1は、少なくとも上記相違点aないしcに係る本件訂正発明1の発明特定事項において甲第1号証に記載された発明とも相違している。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
同様に、本件訂正発明2、6及び13は、本件訂正発明1に記載された環流板を有するものであるところ、甲第1号証に記載された発明と、少なくとも上記相違点bに係る本件訂正発明1の発明特定事項において相違しているから、甲第1号証に記載された発明ではない。

また、本件訂正発明2、3及び5ないし13は、本件訂正発明1の相違点2に係る発明特定事項である環流板を有するものであるところ、甲第1号証ないし甲第8号証には、相違点bに係る本件訂正発明1の発明特定事項が記載も示唆もされていないから、本件訂正発明2、3及び5ないし13は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1ないし3、6及び13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。
また、本件訂正後の請求項2、3及び5ないし13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

第4 結語
上記第3のとおりであるから、平成29年3月7日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1ないし3及び5ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3及び5ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4に係る特許は、本件訂正により、削除されたため、本件特許の請求項4に対して異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼機関の排気システムにおいて、
入口領域(4)および出口領域(5)を含み、排気ガス流(3)を導く湾曲している曲り配管部(2)と
前記排気ガス流(3)の中に液体還元剤(8)を導入するためのインジェクタ(7)であって、接続導管(10)を介して配管部(2)に接続されており、これにより、前記接続導管(10)を介して前記還元剤(8)を、前記入口領域(4)と前記出口領域(5)との間に位置する前記配管部(2)の導入領域(13)の中で、前記出口領域(5)の方向に前記排気ガス流(3)の中に導入することができる、インジェクタ(7)と、
前記導入領域(13)の上流側で前記配管部(2)の中に配置される還流板(14)であって、その長手方向(21)が、前記入口領域(4)から流入する排気ガス流(3)に対して斜めの角度をなし、前記出口領域(5)への排気ガス流れ方向に対して傾斜して延在し、前記入口領域(4)から前記長手方向(21)を横切る方向に流れる排気ガス流(3)を受ける、還流板(14)と、
を備え、
前記還流板(14)は、前記排気ガス流(3)の流出側が前記配管部(2)の外側円弧部に面し、前記排気ガス流(3)の流入側が前記配管部(2)の内側円弧部であって前記外側円弧部よりも円弧半径が小さい内側円弧部に面し、
前記還流板(14)は、前記入口領域(4)に流入する前記排気ガス流(3)が該還流板(14)の底部から周囲に流れるように該長手方向(21)を横切る方向の断面において凹状に湾曲し、
前記インジェクタ(7)は、前記還元剤(8)を円錘状スプレー(22)の形状で導き、前記還流板(14)は、その長手方向が前記円錘状スプレー(22)の表面線(23)に実質的に平行に延在することを特徴とする排気システム。
【請求項2】
前記還流板(14)は、流入表面(16)および流出表面(17)を含み、前記接続導管(10)に面するプレート始端(18)、前記出口領域(5)に面するプレート終端(19)、および前記プレート始端(18)から前記プレート終端(19)まで延在する2つのプレート側縁(20)によって包囲されている、ことを特徴とする請求項1記載の排気システム。
【請求項3】
前記還流板(14)は、その前記長手方向(21)を横切る方向の前記2つのプレート側縁(20)の幅が、前記プレート終端(19)の方向において前記プレート終端(19)に近づくにつれて増大していることを特徴とする請求項2に記載の排気システム。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記インジェクタ(7)は、円錘状スプレー(22)の形態で前記還元剤(8)を導入し、前記還流板(14)は、その長手方向(21)において、前記円錘状スプレー(22)の円錐角(24)にほぼ等しい角度で広がることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項6】
前記還流板(14)は、前記接続導管(10)に面するプレート始端(18)にて前記配管部(2)に固定されており、還流板(14)は、プレート始端(18)に固定コンソール(27)を含み、この固定コンソール(27)を介して前記還流板(14)が前記配管部(2)に固定されていることを特徴とする請求項1?3および5のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項7】
前記還流板(14)は、前記接続導管(10)に面するプレート始端(18)に配管部(2)に対する間隙(30)を含み、還流板(14)は、前記プレート始端(18)に偏向板(31)を含み、前記偏向板(31)は、前記間隙(30)を介して前記接続導管(10)の中に流れようとする前記排気ガス流を偏向する、ことを特徴とする請求項1?3および5?6のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項8】
前記出口領域(5)に面するプレート終端(19)における前記還流板(14)は、自立状態にて、または前記配管部(2)に緩やかに接触して、前記出口領域(5)に配置されていることを特徴とする請求項2または3のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項9】
前記プレート終端(19)における前記還流板(14)は、前記配管部(2)に緩やかに接触する支持構造(32)を含み、前記支持構造(32)は、リング形状、または一部リング形状に形成され、前記出口領域(5)にて前記配管部(2)の周方向に延在することを特徴とする請求項8に記載の排気システム。
【請求項10】
前記還流板(14)は、前記還流板(14)を通過する流れを可能とする、少なくとも1つの辺縁クリアランス(33)および/または少なくとも1つの開口(34)を含み、前記開口(34)は前記還流板(14)を穿孔することにより形成できることを特徴とする請求項1?3および5?9のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項11】
前記還流板(14)は、その流入表面(16)および/またはその流出表面(17)に、機械的および/または化学的影響から前記還流板(14)を保護するための保護コーティング(35)が形成されていることを特徴とする請求項1?3および5?10のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項12】
前記還流板(14)は、機械的接続、プラグ接続、溶接接続またはクランプ接続を介して前記配管部(2)に固定されていることを特徴とする請求項1?3および5?11のいずれか一項に記載の排気システム。
【請求項13】
請求項1?3および5?12のいずれか一項に記載の排気システム(1)のための還流板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-10 
出願番号 特願2012-128862(P2012-128862)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (F01N)
P 1 651・ 121- YAA (F01N)
P 1 651・ 851- YAA (F01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 由希子  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
登録日 2015-08-14 
登録番号 特許第5791569号(P5791569)
権利者 ロバート ボッシュ ゲーエムベーハー
発明の名称 排気システム  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  
代理人 特許業務法人楓国際特許事務所  

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