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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1333202
異議申立番号 異議2016-700728  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-10 
確定日 2017-09-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5859055号発明「シリコンウェーハ研磨用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5859055号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第5859055号の請求項1、2、4、及び7-8に係る特許を維持する。 特許第5859055号の請求項3、5及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5859055号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年12月25日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 柏木 里美より請求項1?8に対して特許異議の申立てがされ、平成28年11月9日付けで取消理由が通知され、平成29年1月12日に意見書の提出及び訂正請求がされた。
これに対し、特許異議申立人からは意見書が提出されなかったものの、平成29年5月23日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年7月25日に意見書の提出及び再度の訂正請求(以下、当該再度の訂正を、単に「訂正」といい、その請求を「本件訂正請求」という。)がされた。
なお、平成29年1月12日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1ないし7のとおりである。
訂正事項1
-請求項1に係る「シリコンウェーハ研磨促進剤」を、「水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニアおよびアミンから選択されるシリコンウェーハ研磨促進剤」に訂正する。
-同じく請求項1に係る、「アミド基含有ポリマーX」を一般式を用いて特定した「式中、R^(1)は水素原子、炭素原子数1?6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルキロール基、アセチル基、フェニル基、ベンジル基、クロロ基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基またはシアノ基である。R^(2),R^(3)は、同じかまたは異なり、いずれも水素原子、炭素原子数1?18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルキロール基、アセチル基または炭素原子数6?60の芳香族基であり、これらのうち水素原子以外については、置換基を有するものを包含する。ただし、R^(2),R^(3)の両方が水素原子であるものは除く。」を、「式中、R^(1)は水素原子である。R^(2)は炭素原子数1または2のアルキロール基である。R^(3)は水素原子である。」に訂正する。
-同じく請求項1に係る、「有機化合物Y」に対して、「ポリオキシエチレンデシルエーテル、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体および、ビニルアルコール単位以外の繰返し単位として、酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位およびヘキサン酸ビニル単位から選択される繰返し単位を含んでもよいポリビニルアルコールから選択され」との特定事項を新たに加える訂正をする。
-同じく請求項1に係る、「前記アミド基含有ポリマーXの分子量M_(x)と前記有機化合物Yの分子量M_(y)との関係が次式:
200≦M_(y)<M_(x);
を満たす」を、「前記アミド基含有ポリマーXのGPCにより求められる重量平均分子量M_(x)(ポリエチレングリコール換算)と前記有機化合物YのGPCにより求められる重量平均分子量M_(y)(ポリエチレングリコール換算)または化学式から算出される分子量Myとの関係が次式:
200≦M_(y)<M_(x);
を満たし、
前記アミド基含有ポリマーXの前記分子量M_(x)は、5×10^(4)未満であり、
前記有機化合物Yの前記分子量M_(y)は、1.8×10^(4)以下である」に訂正する。(以下、これら4箇所の訂正を、各々「訂正1-ア」、「訂正1-イ」、「訂正1-ウ」、「訂正1-エ」という。)
訂正事項2 請求項3を削除する。
訂正事項3 請求項5を削除する。
訂正事項4 請求項6を削除する。
訂正事項5 請求項4に係る「請求項1から3のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」を、「請求項1または2に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」に訂正する。
訂正事項6 請求項7に係る「請求項1から6のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」を、「請求項1、2または4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」に訂正する。
訂正事項7 請求項8に係る「請求項1から7のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」を、「請求項1、2、4または7のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(訂正1-アについて)
訂正1-アに関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明の【0051】には、「シリコンウェーハ研磨促進剤」が「典型的には塩基性化合物である」ことが記載され、これを受けて【0052】には、「塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。・・・水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、・・・が挙げられる。このような塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。」との記載がなされ、【0053】には、「研磨速度向上等の観点から好ましい塩基性化合物として、アンモニア、・・・が挙げられる。なかでも好ましいものとして、アンモニア、・・・が例示される。より好ましいものとしてアンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。特に好ましい塩基性化合物としてアンモニアが挙げられる。」と列挙されていることから、「シリコンウェーハ研磨促進剤」として「水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニアおよびアミンから選択されるシリコンウェーハ研磨促進剤」を用いてなる発明は明細書に記載されているものと認められる。
また、係る訂正は、任意の「シリコンウェーハ研磨促進剤」とされる対象の範囲を訂正前の範囲に比して狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正1-イについて)
訂正1-イに係る事項、すなわち「有機化合物Y」がどのような物質であるかについて、関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、【0024】に「かかる有機化合物Yは、典型的には分子量(My)が200以上であることが好ましい。また、炭素原子数が5以上(好ましくは6以上、より好ましくは10以上)である有機化合物を用いることが好ましい。このような条件を満たす有機化合物Yを特に限定することなく用いることができる。かかる有機化合物Yの一例としては、アミド基を含有しない界面活性剤もしくは水溶性ポリマーが挙げられる。」との記載がされつつ、【0025】に「例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン付加物;複数種のオキシアルキレンの共重合体(ジブロック型、トリブロック型、ランダム型、交互型);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。」との記載、【0026】に「ノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体・・・、ポリオキシエチレンデシルエーテル、・・・等が挙げられる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO-PPO-PEO型のトリブロック体)、EOとPOとのランダム共重合体およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。」との記載、【0028】の「ここに開示される研磨用組成物における任意ポリマーの好適例として、オキシアルキレン単位を含むポリマーや窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が例示される。」の記載を受けて【0031】には「ビニルアルコール系ポリマーは、典型的には、主たる繰返し単位としてビニルアルコール単位を含むポリマー(PVA)である。・・・PVAにおいて、ビニルアルコール単位以外の繰返し単位の種類は特に限定されず、例えば酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等から選択される1種または2種以上であり得る。」が記載されている。そうすると、「有機化合物Y」を「ポリオキシエチレンデシルエーテル、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体および、ビニルアルコール単位以外の繰返し単位として、酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位およびヘキサン酸ビニル単位から選択される繰返し単位を含んでもよいポリビニルアルコールから選択され」るとする発明は明細書に記載されているものと認められる。
また、係る訂正は、任意の「有機化合物Y」とされる対象の範囲を訂正により具体的な物質複数種に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正1-ウについて)
訂正1-ウに係る事項、すなわち「アミド基含有ポリマーX」がどのような物質であるかについて、関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、【0015】に「ここで上記一般式(1)中、R^(1)は水素原子、・・・水素原子が特に好ましい。」が記載されている。そうすると、「アミド基含有ポリマーX」の一般式(1)中の「R^(1)」を「水素原子」とする発明は明細書に記載されているものと認められる。
また、同様に「R^(2)」及び「R^(3)」について、【0015】には「R^(2),R^(3)は、水素原子、置換基を有してよい・・・、アルキロール基、・・・から選択される基である。上記置換基を有してよい・・・、アルキロール基およびアセチル基における炭素原子の総数は1?40(好ましくは1?24、より好ましくは1?14、さらに好ましくは1?10)であり、置換基を除いた場合の上記・・・、アルキロール基およびアセチル基における炭素原子数は1?18(好ましくは1?8、より好ましくは1?4)である。・・・上記アルキロール基は、より好ましくは炭素原子数1?8(例えば1?6、好ましくは1?3、より好ましくは1または2)のアルキロール基(例えば、・・・プロピロール基)である。・・・R^(2),R^(3)は同じであってもよく異なっていてもよい。ただし、R^(2),R^(3)の両方が水素原子であるものは除く。」と記載されているので、同じく「アミド基含有ポリマーX」の一般式(1)中の「R^(2)」及び「R^(3)」を、「R^(2)は炭素原子数1または2のアルキロール基である。R^(3)は水素原子である。」とする発明は明細書に記載されているものと認められる。
また、係る訂正は、「アミド基含有ポリマーX」とされる対象の範囲を訂正前の範囲に比して狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正1-エについて)
訂正1-エに係る事項は、本件明細書で「分子量」を扱った関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明の【0019】には「なお、アミド基含有ポリマーXの分子量としては、GPCにより求められる重量平均分子量(M_(w))(水系、ポリエチレングリコール換算)を採用することができる。」との記載がなされ、【0035】には「なお、有機化合物Yの分子量M_(y)としては、GPCにより求められる重量平均分子量(水系、ポリエチレングリコール換算)または化学式から算出される分子量を採用することができる。」が記載されていることから、「分子量」とされた内容として、アミド基含有ポリマーX及び有機化合物Yの双方に対して、「GPCにより求められる重量平均分子量」を用いてなる発明は明細書に記載されているものと認められる。
同時に、前記「分子量」に付随して、「ポリエチレングリコール換算」を用いて数量を示すこと、及び、「有機化合物Yの分子量M_(y)」の「分子量」の算出に関して「化学式から算出される分子量」をも含めることは、各々明細書の、前出の【0019】及び【0035】に記載されていることから、かかる内容を伴う発明もまた明細書に記載されているものと認められる。
また、係る訂正は、「アミド基含有ポリマーX」の「分子量M_(x)」と「有機化合物Y」の「分子量M_(y)」との関係を特定するための事項に対して、分子量の正確な定義を補うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2ないし4について
上記訂正事項2ないし4の訂正は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項5ないし7について
上記訂正事項5ないし7の訂正は、先行する多数の請求項を引用するとした訂正前の記載から、引用先の一部の請求項を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 本件訂正請求の単位について
そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」などという。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
本件発明1「砥粒の存在下で用いられ、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの研磨に用いられるシリコンウェーハ研磨用組成物であって、
水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニアおよびアミンから選択されるシリコンウェーハ研磨促進剤と、
アミド基含有ポリマーXと、
アミド基を含有しない有機化合物Yと、
水と
を含み、
前記アミド基含有ポリマーXは、下記一般式(1):
【化1】

(式中、R^(1)は水素原子である。R^(2)は炭素原子数1または2のアルキロール基である。R^(3)は水素原子である。);で表わされる単量体に由来する構成単位Aを主鎖に有しており、
前記有機化合物Yは、ポリオキシエチレンデシルエーテル、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体および、ビニルアルコール単位以外の繰返し単位として、酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位およびヘキサン酸ビニル単位から選択される繰返し単位を含んでもよいポリビニルアルコールから選択され、
前記アミド基含有ポリマーXのGPCにより求められる重量平均分子量M_(x)(ポリエチレングリコール換算)と前記有機化合物YのGPCにより求められる重量平均分子量M_(y)(ポリエチレングリコール換算)または化学式から算出される分子量M_(y)との関係が次式:
200≦M_(y)<M_(x);
を満たし、
前記アミド基含有ポリマーXの前記分子量M_(x)は、5×10^(4)未満であり、
前記有機化合物Yの前記分子量M_(y)は、1.8×10^(4)以下である、シリコンウェーハ研磨用組成物。」
本件発明2「前記アミド基含有ポリマーXの分子量M_(x)に対する前記有機化合物Yの分子量M_(y)の比(M_(y)/M_(x))が0.5より小さい、請求項1に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」
本件発明4「前記アミド基含有ポリマーXはノニオン性である、請求項1または2に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」
本件発明7「前記砥粒はシリカ粒子である、請求項1、2または4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」
本件発明8「pHが9.5?12.0である、請求項1、2、4または7のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。」
(請求項3、5、6については訂正により削除されたため省略する。)

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1-8に係る特許に対して平成28年11月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由1:本件の請求項1?2、4?8に記載された発明が甲第1号証(国際公開第2013/157554号)に記載された発明であるとする、特許法第29条第1項第3号違反。
理由2:本件の請求項1ないし8に記載された発明が、いずれも甲第1号証及び甲第2号証あるいは甲第3号証に基づいて、当業者が容易に発明できたとする特許法第29条第2項違反。
理由3:明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号、第2号、及び第4項第1号に規定する要件を満たしていないとするもの。

また、取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ただし、以下の文中の「本件発明1」等は、上記「1.手続の経緯」のなお書きにて取り下げられたとみなす平成29年1月12日の訂正請求に係る発明を指すため、上記「3.特許異議の申立てについて」の(1)でいう本件発明とは内容を異にする。

決定の予告の理由:本件発明1、2、4、5、7、8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件発明1、2、4、5、7、8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)甲号証の記載
甲第1号証(国際公開第2013/157554号)には、特許異議申立書(4)のイの(ア)にて摘記した記載事実が認められ、当該摘記を総合すると、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「従来のシリコンウェーハ用研磨液組成物よりも、研磨液組成物の保存安定性に優れ、且つ、良好な生産性が担保される研磨速度を確保しながらシリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)を低減できる、シリコンウェーハ用研磨液組成物であって、
シリカ粒子(成分A)と、
アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種類以上の含窒素塩基性化合物(成分B)であって、具体的物質としてアンモニアとされるものと、
下記一般式(1)で表されるアミド基を含む構成単位Iを10重量%以上含み、重量平均分子量が50,000以上1,500,000以下の水溶性高分子化合物(成分C)であって、具体的物質としてHEAA(N-ヒドロキシエチルアクリルアミド)とされるものと、
ポリビニルアルコール、ペンタエリスリトールEO付加物、グリセリンEO付加物、エチレングリコールのEO付加物のいずれかを具体的物質とするものとを含有し、
25℃におけるpHが8.0?12.0である
シリコンウェーハ用研磨液組成物。
[化1]


ただし、上記一般式(1)において、R_(1)、R_(2)は、それぞれ独立して、水素、炭素数が1?8のアルキル基、又は炭素数が1?2のヒドロキシアルキル基を示し、R_(1)、R_(2)の両方が水素であることはない。」
甲第2号証(国際公開第2013/061771号)には、同じく特許異議申立書(4)のイの(イ)にて摘記した記載事実が認められ、当該摘記を総合すると、甲第2号証には
研磨用組成物中に、そのろ過性を向上させるための凝集抑制剤を含有させること、
凝集抑制剤とは、実施例としてPVP(ポリビニルピロリドン)、Si oil(ポリエーテル変性シリコーン)、A1(ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリエキシエチレンのトリブロック共重合体)が記載されていること、
[0036]に凝集抑制剤として使用可能な候補が列挙され、[0037]には研磨用組成物中の凝集抑制剤の重量平均分子量として、「好ましくは300以上であり、より好ましくは1,000以上であり、更に好ましくは3,000以上である。また、好ましくは2,000,000以下であり、より好ましくは1,000,000以下であり、更に好ましくは500,000以下であり、最も好ましくは100,000以下である。」こと、
研磨用組成物は水溶性高分子を含み、[0030]に使用可能な候補が列挙され、[0032]に水溶性高分子の重量平均分子量として「好ましくは2,000,000以下であり、より好ましくは1,000,000以下であり、更に好ましくは500,000以下であり、最も好ましくは300,000以下である。」こと、
が記載されている。
甲第3号証(特開2014-41978号公報)には、同じく特許異議申立書(4)のイの(ウ)にて摘記した記載事実が認められ、当該摘記を総合すると、甲第3号証には
研磨用組成物中に界面活性剤を含ませると、基板表面のヘイズレベルを低減させることが容易となること、
界面活性剤の重量平均分子量としては、200以上であり、10000未満であること、基板表面に生じる荒れが抑制される傾向となること、
が記載されている。

(4)判断
事案に鑑み、決定の予告で通知した理由(特許法第36条第6項第1号)について、取消理由の解消の有無を検討する。
ア 特許法第36条第6項第1号について
決定の予告で説示した趣旨を通知書中の記号で示すと、
(ア-1)「アミノ基含有ポリマーX」として特定した物質、(ア-2)「有機化合物Y」として特定した物質、及び(ア-4)「シリコンウェーハ研磨促進剤」は、実施例として効果が確認された、各々「HEAAのホモポリマー」、「Mwが9×10^(3)のPEO-PPO-PEO型のトリブロック共重合体」「分子量が378のポリオキシエチレン(エチレンオキサイド付加モル数5)デシルエーテル」「Mwが1.2×10^(4)のポリビニルアルコール」、「アンモニア」以外の物質を含み、実施例以外の物質を含み得ることに対して、自明と扱える根拠を示していないので、拡張ないし一般化に該当する記載不備がある、としたものである。
これに対し特許権者は、平成29年7月25日付けで再度の訂正請求を行った上で、上記(ア-1)、(ア-2)、(ア-4)に係る物質の特定事項を改めるとともに、同日付け提出の意見書にて特定事項で示した各物質の範囲を当業者に自明な事項の範囲であるとする根拠として、特開2013-222863号公報、特表2010-519779号公報、特許第3841995号公報、特開2004-297035号公報、国際公開第2011/111421号、国際公開第2013/18079号、特開2000-109802号公報を示し、訂正後の本件発明1ないし8の記載が、拡張ないし一般化したものでないとした。
これら参考となる公知文献の記載から見て、訂正後の本件発明1ないし8の記載は、研磨用組成物を構成し、解決しようとする課題を解決できる自明の範囲の物質を適切に特定したものと認められるので、特許法第36条第6項第1号に関する取消理由は解消したものと認められる。

次に、平成28年11月9日付け取消理由通知で示した他の理由について、同様に順に検討する。
イ 特許法第29条第2項について
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明は、
(相違点)
- 200≦M_(y)<M_(x) であること
- 前記アミド基含有ポリマーXの前記分子量M_(x)は、5×10^(4)未満であり、前記有機化合物Yの前記分子量M_(y)は、1.8×10^(4)以下であること、
とする事項を有していない。
また、本件でいう「有機化合物Y」にあたる物質と、「アミド基含有ポリマーX」にあたる物質とを同時に研磨用組成物中に含有する態様を示す証拠は、甲第1号証と甲第2号証のみであり、このどちらの証拠にも「有機化合物Y」にあたる物質と、「アミド基含有ポリマーX」にあたる物質との、互いの重量平均分子量が、M_(y)<M_(x) とされる関係を示した開示、及びその場合の両物質の重量平均分子量の上限値を、同時に示した開示はない。
また、甲第3号証は研磨用組成物に関して濾過性の向上を目的とした技術的事項を開示するものではあるが、本件でいう「アミド基含有ポリマーX」にあたる物質を含有しておらず、単に「有機化合物Y」にあたる物質である界面活性剤の重量平均分子量の適値範囲を開示したものである。
そして、当該相違点に挙げた事項により、本件発明1は、ヘイズを低減できるとともに濾過性のよい研磨用組成物を提供するという顕著な効果を奏するものであり、本件発明1は、引用発明及び甲第2号証ないし第3号証に記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人が挙げた明確性不備の理由は、平成28年11月9日付け取消理由通知書の(イ-1)?(イ-4)を根拠とする主張であるが、当該通知書に記載したとおり、(イ-1)?(イ-4)いずれの事項も、訂正により解消されるか、または前提を欠くものであり、いずれも成り立たない。
エ 特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立書を引用して示した具体的な理由は、概略以下のとおり。
(ウ-1) 本件明細書の発明の詳細な説明には、アミド基含有ポリマーXや有機化合物Yの各分子量に関し、GPCにより求められる重量平均分子量であるとし、括弧書きでポリエチレングリコール換算と付されているが、GPC測定法は、既知の分子量が異なる数点の標準ポリマーの溶出時間をもとにした検量線を作成し、当該検量線を用いて試料ポリマーの分子量を求める手法である以上、標準ポリマーの分子量がいくつのものを用いたのかを明らかとすべきところ、本件明細書の発明の詳細な説明には標準試料に関する記述が不足し、当業者が実施できない。(同じく、第36ページ第5行から同ページ末行「(オ)」)
(ウ-2) 本件明細書には、濾過性の評価方法が記載されているが、【0091】、【0092】に記載された濾過性評価では、実施例1の判定Aと比較例3の判定Cとの差異が不明確であり、更に比較例3の濾過性の評価結果が分子量の粘度への影響、HECに含まれる不純物の影響を受けた上でのものとされることが考えられること、実施例1のヘイズが比較例3のヘイズより悪いこと、からみて、本発明の効果を説明、立証したものではないといえ、課題が解決された立証が足らないから、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。(同じく、第37ページ第1行から第38ページ下から7行「(カ)」)
そして、当該発明の詳細な説明で不備とした根拠に関して、検討した結果は以下のとおりであって、いずれも本件特許を取り消すには当たらない。
(ウ-1)本件明細書の発明の詳細な説明には、重量平均分子量の測定に関し、GPCにより求められること、及び、ポリエチレングリコール換算値であること、の2点が記載されている。
そして、GPCにより分子量を測定する場合には、分子量が既知の標準ポリマーを使用して測定を行うことが必要であり、重量であれ数平均であれ、何による換算値なのかが明記されていれば、用いるべき標準ポリマーの種別は指定されたこととなるのが当業者は十分に理解できる。
本件の場合、換算に使用する物質はポリエチレングリコールであることが明記され、GPC用標準物質としてもポリエチレングリコールは分子量を異にする(重量平均分子量であれば、194、331、400、580・・・・22500など)標準規格品として多数の企業が提供準備している状況である。
そうすると、本件特許の特許請求の範囲に記載されている複数の材料で重量平均分子量の特定がされているものについて、当業者が特許発明を実施する上で困難である事情はなんら見受けられない。
よって、(ウ-1)に基づく取消理由は、特許異議申立人が主張する理由によっては成り立たない。
(ウ-2)本件明細書の【0091】には、濾過性の判定に関して評価用フィルタの通過体積の閾値を200mLとし、閾値以上か未満かによって判定指標をA/Cとしている。そうすると、AなのかCなのかで迷う、あるいは紛らわしい、といった不具合が生じるとは解せず、当業者の実施に困難な場面が生じるとは思えない。
また、HECが不純物を含むため、濾過性が左右されることがあるとの特許異議申立人の指摘について検討してみたが、特許異議申立人が根拠として挙げた国際公開2014/097887号の該当箇所には、HEC自体が不純物を含むとした記述は無く、セルロース誘導体を含む水溶液、より正確に言えば、[0037]-[0041]、[0046]に記載の“アルカリ処理や酸による中和工程や消泡やセルロース誘導体変換工程といった製造工程由来の、難溶性無機塩、凝集物、未反応セルロースである不純物”を含んだ場合の水溶液には、不純物が含まれることを開示したものである。
とすれば、当該国際公開から把握できる知見は、HECを工業的に製造する工程を経た、セルロース誘導体を含む水溶液には、HEC以外の不純物が含まれる場合があることと理解でき、HECは通常不純物を含む理解ないし結論の導出は、誤認であるというべきである。
よって、HECが不純物を含むため、濾過性が左右されることがあるとの特許異議申立人の指摘は、誤った内容に依拠したものであるため、本件特許を取り消すべき理由を形成しない。
オ 訂正請求がなされたことに関する特許異議申立人への求意見等について
上記「1.手続の経緯」に示したように、平成29年1月12日の訂正請求に対して特許異議申立人に意見を述べる機会を与えたが、意見書の提出はなかった。
そして、再度の訂正請求により請求された本件訂正事項は、上記「2.訂正の適否についての判断」の(1)で示したとおりであって、特許異議申立人に意見を述べる機会を与えた最初の訂正請求の訂正事項の内容と見比べると、研磨用組成物を構成する個々の材料を特定する範囲を更に限定するものであって、結局のところ本件訂正請求に係る訂正事項は、最初の訂正請求に係る訂正事項に内包される関係にある。
係る事情を勘案すると、本件訂正請求に対して改めて特許異議申立人へ再度意見を求めるか否かについては、特許法第120条の5第5項ただし書きで言う、特別の事情があるときに該当すると認められるので、特許異議申立人へ再度の意見書提出の機会を求めるには及ばないとした。
カ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
平成28年11月9日付けの取消理由通知は、特許異議申立の全理由に対して行ったため、採用しなかった申立理由はない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、及び7-8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4、及び7-8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3、5及び6に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3、5及び6に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒の存在下で用いられ、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの研磨に用いられるシリコンウェーハ研磨用組成物であって、
水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニアおよびアミンから選択されるシリコンウェーハ研磨促進剤と、
アミド基含有ポリマーXと、
アミド基を含有しない有機化合物Yと、
水と
を含み、
前記アミド基含有ポリマーXは、下記一般式(1):
【化1】

(式中、R^(1)は水素原子である。R^(2)は炭素原子数1または2のアルキロール基である。R^(3)は水素原子である。);で表わされる単量体に由来する構成単位Aを主鎖に有しており、
前記有機化合物Yは、ポリオキシエチレンデシルエーテル、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体および、ビニルアルコール単位以外の繰返し単位として、酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位およびヘキサン酸ビニル単位から選択される繰返し単位を含んでもよいポリビニルアルコールから選択され、
前記アミド基含有ポリマーXのGPCにより求められる重量平均分子量M_(x)(ポリエチレングリコール換算)と前記有機化合物YのGPCにより求められる重量平均分子量M_(y)(ポリエチレングリコール換算)または化学式から算出される分子量M_(y)との関係が次式:
200≦M_(y)<M_(x);
を満たし、
前記アミド基含有ポリマーXの前記分子量M_(x)は、5×10^(4)未満であり、
前記有機化合物Yの前記分子量M_(y)は、1.8×10^(4)以下である、シリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項2】
前記アミド基含有ポリマーXの分子量M_(x)に対する前記有機化合物Yの分子量M_(y)の比(M_(y)/M_(x))が0.5より小さい、請求項1に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記アミド基含有ポリマーXはノニオン性である、請求項1または2に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記砥粒はシリカ粒子である、請求項1、2または4のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
【請求項8】
pHが9.5?12.0である、請求項1、2、4または7のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ研磨用組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-28 
出願番号 特願2014-82951(P2014-82951)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平野 崇  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
渡邊 真
登録日 2015-12-25 
登録番号 特許第5859055号(P5859055)
権利者 株式会社フジミインコーポレーテッド
発明の名称 シリコンウェーハ研磨用組成物  
代理人 大井 道子  
代理人 福富 俊輔  
代理人 谷 征史  
代理人 福富 俊輔  
代理人 安部 誠  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  
代理人 安部 誠  

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