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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B65D |
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管理番号 | 1333227 |
異議申立番号 | 異議2017-700043 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-19 |
確定日 | 2017-09-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5956341号発明「缶蓋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5956341号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第5956341号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5956341号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成23年9月21日(優先権主張平成22年9月22日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年1月19日に特許異議申立人太田千香子(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年4月12日付けで取消理由が通知され、指定期間内である平成29年7月3日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、その訂正自体を単に「本件訂正」という。)があり、その訂正の請求に対して申立人から平成29年8月9日に意見書が提出されたものである。 2.本件訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「缶蓋において、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」とあるのを「缶蓋において、前記カール部の最外径が64.9mm以下であり、前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて拡径しながら延びる外側壁部とにより形成され、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」と訂正する。 イ 訂正事項2 明細書の段落0006に「缶蓋において、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」とあるのを「缶蓋において、前記カール部の最外径が64.9mm以下であり、前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて拡径しながら延びる外側壁部とにより形成され、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」と訂正する。 (2)本件訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項について ア 訂正事項1 訂正事項1は、本件訂正前の「缶蓋」について、「前記カール部の最外径が64.9mm以下であり、前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて拡径しながら延びる外側壁部とにより形成され、」との構成を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、この訂正は、本件訂正前の明細書の段落0017の「缶蓋1において、公称径が204(缶体21に缶蓋1を巻き締めた後の巻き締め部25の最外径D2が56.5?56.7mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が62.0?62.4mm)の場合」、段落0018の「公称径が202(巻き締め部25の最外径D2が53.6?54.4mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が59.2?59.6mm)の場合」、段落0019の「公称径が206(巻き締めた後の巻き締め部25の最外径D2が59.2?59.4mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が64.5?64.9mm)の場合」、段落0023の「使用した缶蓋及び缶体は、その公称径が204、202、206の三種類とした。」との記載に基いて「前記カール部の最外径が64.9mm以下であり、」との事項を付加し、本件訂正前の明細書の段落0014の「カウンターシンク部5では、コーナー部3に連なる内側壁部12が鉛直下方に向かうに従ってわずかに拡径するように延びており、その内側壁部12の下縁から内側湾曲部15及びその外側に外側湾曲部16が連続している。」、「外側湾曲部16から上方に向けて若干拡径しながら外側壁部17が延びており、」との記載及び図1における該当する形状の図示に基いて「前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて拡径しながら延びる外側壁部とにより形成され、」との事項を付加するものであるから、新規事項を付加するものでなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2 訂正事項2については、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るために、明細書に訂正事項1と同じ技術事項の訂正をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項2は、訂正事項1と同様に、新規事項を付加するものでなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 ウ 一群の請求項 訂正事項1、2について、訂正前の請求項2は訂正前の請求項1を引用するものであるから、この訂正は、一群の請求項〔1-2〕に対して請求されたものである。 したがって、訂正事項1、2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。 (3)申立人の意見について 申立人が提出した平成29年8月9日付け意見書(以下、単に「申立人意見書」という。)の3.(2)(ア)において申立人は、訂正事項1、2の「カール部の最外径が64.9mm以下であり」について、本件特許の明細書に明記された数値範囲に含まれない64.5?62.4mm、62.0?59.6mm及び59.2mm未満の範囲も含むものであることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内ではない旨を主張する。 しかし、本件訂正前には請求項1及び段落0006において、カール部の最外径について何の特定も存在しなかったところ、訂正事項1及び2はカール部の最外径について64.9mmより大きいものを除外する訂正である。 そして、明細書にはカール部の最外径について59.2?59.6mm(段落0018)、62.0?62.4mm(段落0017)、64.5?64.9mm(段落0019)のものが記載されているところ、単にこれら数値範囲に含まれる最外径を有するカール部に加えて、これら数値範囲の間のものにおいても、本件発明の課題が解決できるであろうことは当業者であれば容易に理解できる。そうすると、上記訂正事項は、上記数値範囲のうち最大値である64.9mmをカール部の最外径の上限値として定めるものであって、新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正が認められることにより、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2にそれぞれ記載された以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、前記カール部の最外径が64.9mm以下であり、前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて拡径しながら延びる外側壁部とにより形成され、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、前記第1湾曲部外面の曲率半径が1.2mm?4.0mm、前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.6mm?3.0mm、前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°とされ、前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mmとされ、前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mmとされ、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であることを特徴とする缶蓋。 【請求項2】 前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の缶蓋。」 (2)取消理由の概要 本件訂正前の請求項1、2に係る特許に対して平成29年4月12日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された理由は、すべて通知した。 ア 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明(以下、甲第1号証等を「甲1」等という。また、「甲第1号証に記載された発明」を「甲1発明」という。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。 イ 請求項2に係る発明は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。 記 甲1:特許第4388726号公報 甲2:特表2007-526859号公報 (3)甲号証の記載事項 ア 甲1の記載事項、甲1発明 甲1の段落0011-0022、図1-4、特に段落0020、0021、図1の実施例には、以下の甲1発明が記載されている(なお、缶蓋外径D_(2)および外側壁13の傾斜角度については、段落0021を参照)。 「タブが取り付けられるパネル部(センターパネル2)の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部(強化環状溝3)が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部(チャックウォール4)が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部(カール部5の内方)を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部(カール部5の外方)が連続形成された缶蓋において、 前記カール部の最外径(缶蓋外径D_(2))が67.5mmであり、 前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて0度の角度で垂直に立ち上がりながら延びる外側壁部(外側壁13)とによる形成され、 前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部(湾曲部17)と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部(湾曲部18)とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、 前記第1湾曲部外面の曲率半径が2.1mm、 前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.65mm、 前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.52mmであり、 かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.42%で、 かつ缶蓋の全体高さが7.09mmである缶蓋。」 イ 甲2の記載事項 甲2の段落0008-0035、図1-13、特に段落0028-0032、図13には、以下の事項が記載されている。 「タブが取り付けられるパネル部(円形中央パネル212)の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部(カウンターシンク218)が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部(チャック壁)が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部(内壁部分238)を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部(外壁244)が連続形成された缶蓋において、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部(R12とR14)と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部(R15)とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、 前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部(R8)と、 前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部(R13)と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部(斜面のパネル壁216)とから構成されている缶蓋。」 (4)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の5点で相違する。 <相違点1> 「ショルダー部外面と第1湾曲部外面との共通接線がパネル部外面となす角度」について、本件発明1では55°?70°とされているのに対し、甲1発明では特に限定されていない点。 <相違点2> 「共通接線から第2湾曲部外面までの最大距離」について、本件発明1では0.3mm?0.6mmとされているのに対し、甲1発明では特に限定されていない点。 <相違点3> 「第2湾曲部外面とカウンターシンク部のない底面との共通接線から第1湾曲部外面までの最大距離」について、本件発明1では0.4mm?0.7mmとされているのに対し、甲1発明では特に限定されていない点。 <相違点4> 「カール部の最外径」について、本件発明1では64.9mm以下であるのに対し、甲1発明では67.5mmである点。 <相違点5> 「カウンターシンク部」の「外側壁部」について、本件発明1では「上方に向けて拡径しながら延びる」ものであるのに対し、甲1発明では外側壁13は0度の角度で垂直に立ち上がるものである点。 (イ)判断 本件発明1は、耐圧性を高めてバルジ不良や輸送時の漏えいの発生を防止することを課題とし(段落0005)、缶蓋の変形を吸収することでパネル部の変形を抑制し(段落0007等)、耐圧性を高めてバルジ不良やバックリング、輸送時の漏えいの発生を防止する(段落0009等)という効果を得るために、相違点1?5に係る構成を採用したものである。 甲1には、相違点1?5の全ての構成を採用することで、このような課題を解決し、効果を得るという技術思想は、記載されていない。他の甲号証にも、この点は記載がない。 特に、相違点5について検討する。甲1の段落0011の記載には、「強化環状溝の外側壁13及び内側壁11は互いに軸線に対して平行(即ち、垂直壁)であることが望ましいが、外側壁13は軸線に対して外側に0°?2°・・・傾斜しても良い。」とある。そして、上記(4)ア(イ)に示したように、甲1発明は、強化環状溝を垂直にして高くし、センターパネル径を小さくしつつ、巻締時のチャックウォールとの係合性を向上し、巻締安定性、密着性を確保するとの課題を解決しようとするものである。したがって、甲1には、外側壁13を積極的に傾斜させようとの技術的思想が開示されているとはいえない。甲1発明の外側壁13の傾斜については、あくまでも0°、すなわち垂直壁とすることが甲1発明の課題解決の上で望ましいことが理解できる。そうすると、外側壁13の傾斜が0°である甲1発明において、外側壁13を外側へ傾斜させて拡径させることの動機が存することは、甲1発明には認められない。また、甲1発明は、実施例として、外側壁13が0度の角度で垂直に立ち上がるものであり、それによって、強化環状溝を垂直にして高くし、センターパネル径を小さくしつつ、巻締時のチャックウォールとの係合性を向上し、巻締安定性、密封性を確保するとの課題を解決しようとするものである(段落0006-0008等参照)。したがって、甲1発明において、上記相違点5に係る本件発明1の構成を採用しようとすることは、当該甲1発明の課題の解決を妨げることとなり、阻害事由があるといえる。 したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の特定事項をすべて含むものである。そして、上記アに示したとおり本件発明1は、甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、甲2にも相違点1?5のようにすることで上記3.(4)ア(イ)のように課題を解決し効果を得るという技術思想は記載されていない。したがって、本件発明1の特定事項を全て含みさらに限定された本件発明2は、甲1発明及び甲2に記載される事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。 (5)申立人の意見について 申立人は、申立人意見書の第3頁下から2行-第4頁第5行において、外側壁部が「上方に向けて拡径しながら延びる」ことについて、甲1の比較例2(c)には14.67°のもの(表1)、甲2には3?19°のもの(段落0028)が記載されるように、周知である旨も主張する。 しかし、上記甲1の「14.67°」は比較例であるから、むしろ甲1発明が採用し得ない数値であると理解すべきである。また仮に、上方に向けて拡径しながら延びることが周知であったとしても(4)アで示したように、甲1発明が外側壁13を外側へ傾斜させて拡径させることの動機づけはない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (6)小括 したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された理由をすべて含む取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 缶蓋 【技術分野】 【0001】 本発明は、飲料用缶に用いられる缶蓋に係り、特に、内圧が作用する陽圧缶に用いられる缶蓋に関する。 本願は、2010年9月22日に出願された特願2010-212852号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。 【背景技術】 【0002】 内容物としてビールや炭酸飲料等の発泡性飲料を充填する場合、あるいは、お茶やコーヒー等の非発泡性飲料でも充填時に液体窒素が封入される場合など、密封した後に内圧が作用する、いわゆる陽圧缶では、その内圧に耐え得る強度を有することが要求される。例えば、缶蓋の耐圧強度を高めるために、カウンターシンク部の幅を小さくしたり、チャック壁部の形状を工夫したりするなど、種々の提案がなされている。 特許文献1記載の缶蓋は、鉛直方向に対するチャック壁部の傾斜角度を大きくして、カウンターシンク部の直径を小さくするとともに、そのカウンターシンク部の幅を狭くした形状とされている。 また、特許文献2記載の缶蓋は、チャック壁部を複数の湾曲部の連続形状とするとともに、カウンターシンク部の内側のパネル部との間のコーナー部を大きく傾斜させることにより、パネル部の直径を小さくした形状とされている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特許第3809190号公報 【特許文献2】特表2007-526859号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで、内容物が充填された缶は、殺菌のため熱処理された後、複数本ずつカートンに詰められた状態で各地に輸送されるが、その熱処理時に内圧が高まることにより、缶蓋中央のパネル部が膨出する現象が生じる。その膨出により、缶蓋のタブが缶の上端よりも突出する状態になると、タブを外力から保護できなくなるので、不良品(いわゆるバルジ不良)として処分される。また、パネル部がさらに膨出すると、カウンターシンク部が反転するバックリング現象が生じる場合もある。そのようなバルジ不良やバックリングとなるほどの膨出が生じない場合でも、カートンに詰められて長距離輸送される際に、その振動によりタブがカートンに接触するなどの原因で漏れが生じるおそれがある。 また一方では、材料コストの低減のため、缶蓋の板厚を薄肉化することも求められており、このため、さらなる耐圧性の向上が求められている。 【0005】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐圧性を高めて、バルジ不良や輸送時の漏えいの発生を防止することができる缶蓋を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の缶蓋は、タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、前記カール部の最外径が64.9mm以下であり、前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて拡径しながら延びる外側壁部とにより形成され、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、前記第1湾曲部外面の曲率半径が1.2mm?4.0mm、前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.6mm?3.0mmとされ、前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°とされ、前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mmとされ、前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mmとされ、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であることを特徴とする。 【0007】 つまり、タブが缶の上端より上方に突出するのは、パネル部が上方に持ち上がるように変位することによるものであり、したがって、このパネル部の変位を抑制することにより、バルジ不良や輸送時の漏れを防止することができる。このため、本発明の缶蓋では、カウンターシンク部の内底面の曲率半径を0.75mm以下と小さくして、カウンターシンク部の変形強度を高めることにより、カウンターシンク部を起点とするパネル部の変位を抑制するとともに、パネル部の外径とパネル深さとの比率を10.17%以上とすることにより、パネル部の外径に対するパネル深さを比較的大きい設計として、パネル部が膨出してもタブが缶の上端から突出しにくくした。その効果を得るには10.17%以上必要であるが、缶蓋の全体高さが7.2mmを超えると、充填時の缶蓋供給の際にトラブルが発生したり、充填速度の高速化を妨げるなどの不都合が生じる。 また、チャック壁部については、半径方向内方に凸となる第1湾曲部と半径方向外方に凸となる第2湾曲部とにより、内圧が作用すると、湾曲部の曲率を拡大又は縮小することによって変形を吸収して、パネル部の膨出やバックリングの発生を防止することができる。 【0008】 また、本発明の缶蓋において、前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されているとよい。 コーナー部に傾斜部を有する分、パネル部の外周縁がカウンターシンク部から離間させられる。したがって、カウンターシンク部及びその外側のチャック壁部の形状、寸法を変えることなく、パネル部の外径を小さくすることができ、パネル部の膨出をさらに抑制することができる。 【発明の効果】 【0009】 本発明の缶蓋によれば、カウンターシンク部の曲率半径を小さくして、カウンターシンク部の変形強度を高めることにより、カウンターシンク部を起点とするパネル部の変位を抑制するとともに、パネル部の外径に対するパネル深さを比較的大きい設計としてタブが缶の上端から突出しにくくしている。また、チャック壁に半径方向内方に凸となる第1湾曲部と半径方向外方に凸となる第2湾曲部とを設けたことにより、内圧に対する変形を吸収することができる。これらの相乗作用により、耐圧性を高めて、バルジ不良やバックリング、輸送時の漏えいの発生を防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】本発明の実施形態における缶蓋の要部の縦断面図である。 【図2】図1における缶蓋を缶体に巻き締めた状態を示す縦断面図である。 【図3】缶蓋の振動漏れ試験を実施する際のカートンの積載状態を示すモデル図である。 【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、本発明に係る缶蓋の実施形態を図面を参照しながら説明する。 この実施形態の缶蓋1は、図1及び図2に示すように、その中央部分に配置される円板状をなすパネル部2と、パネル部2の外周縁からコーナー部3を介して連続し下方に向けた環状凹部4を形成するカウンターシンク部5と、カウンターシンク部5の外周縁から上方に向けてほぼ拡径しながら延在するチャック壁部6と、チャック壁部6の外周縁から連なるショルダー部7と、ショルダー部7に連続するカール部8とから構成されている。 【0012】 パネル部2は、全体としては円板状に形成され、その中心にタブが取り付けられるとともに、上面に、このタブを起こすことによって開口され飲み口となるスコア及びそのスコアの周辺を補強するビード、タブを起こす際の指掛け部を形成するための凹部等(いずれも図示略)が形成されていることにより、若干の凹凸が形成される。 【0013】 パネル部2とカウンターシンク部5との間のコーナー部3は、パネル部2の外周縁に連なる上向き凸状の内側屈曲部11と、カウンターシンク部5の内側壁部12に連なる上向き凸状の外側屈曲部13と、これら両屈曲部11,13の間を連結する傾斜部14とが連続して形成された形状とされている。 【0014】 カウンターシンク部5では、コーナー部3に連なる内側壁部12が鉛直下方に向かうに従ってわずかに拡径するように延びており、その内側壁部12の下縁から内側湾曲部15及びその外側に外側湾曲部16が連続している。これら湾曲部15,16は、カウンターシンク部5の底部を半分ずつ形成するように、内側湾曲部15は、下方かつ半径方向内方に向けて凸となる形状とされ、外側湾曲部16は、下方かつ半径方向外方に向けて凸となる形状とされている。そして、その外側湾曲部16から上方に向けて若干拡径しながら外側壁部17が延びており、これら内側壁部12、内側湾曲部15、外側湾曲部16、外側壁部17によってほぼU字状の断面のカウンターシンク部5が構成されている。 この場合、内側湾曲部15及び外側湾曲部16とも、その内周面の曲率半径R1,R2はほぼ同じ寸法に形成されている。また、内側壁部12及び外側壁部17が下方に向かうにしたがって徐々に接近するように傾斜していることにより、環状凹部4は、下方に向かうにしたがって徐々に幅が狭くなっている。 【0015】 チャック壁部6は、カウンターシンク部5の外側壁部17の上端縁に連続し半径方向内方に向けて凸となるように湾曲した第1湾曲部18と、第1湾曲部18の上端縁に連続し半径方向外方に向けて凸となるように湾曲した第2湾曲部19とからなる形状とされており、これら第1湾曲部18及び第2湾曲部19の連続形状により、全体としては上方に向けて拡径する形状とされている。 ショルダー部7は、チャック壁部6の第2湾曲部19の上端縁(外周縁)に連続し、上方に向けて凸となるように湾曲しながら拡径して半径方向外方に延びている。この場合、チャック壁部6の第2湾曲部19は、その内周面(缶蓋1としては外面)を斜め上方に向けた状態に湾曲していることから、全体としては下方から上方に向かうにしたがって漸次拡径する形状とされており、この第2湾曲部19に連続するショルダー部7も下方から上方に向けて拡径している。 カール部8は、ショルダー部7の外周縁に連続して半径方向外方に延在し、その外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなる形状とされている。 【0016】 一方、この缶蓋1が巻き締められる缶体21は、有底筒状の胴部(図示略)から縮径したネック部22の上端に、屈曲部23を介して外向きのフランジ部24が連続して形成された形状とされている。 この缶体21に缶蓋1が被せられると、缶体21の屈曲部23に缶蓋1のショルダー部7における外周面(缶蓋1としては内面)側の凹面が対向するように配置され、フランジ部24の上面にショルダー部7からカール部8にかけた裏面が対向して配置される。そして、その状態で、缶蓋1のカール部8を缶体21のフランジ部24と一体に巻き込みながら円周方向に沿って巻き締めると、カール部8の巻き込み部の中に折り返された状態のフランジ部24が入り込んで缶蓋1と缶体21とが相互に相手を挟み込んでなる二重巻き締め部25が形成される。 【0017】 このように構成される缶蓋1において、公称径が204(缶体21に缶蓋1を巻き締めた後の巻き締め部25の最外径D2が56.5?56.7mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が62.0?62.4mm)の場合、パネル部2の外径D1は、40.0?48.69mmとされ、パネル深さPは、4.25?5.05mmとされる。パネル深さPとは、缶蓋1を缶体21に巻き締める前のショルダー部7からカール部8にかけた部分の頂点からパネル部2表面までの鉛直方向寸法をいう。また、カウンターシンク部5の内底面を形成している両湾曲部15,16の曲率半径(缶蓋1としての外面側の曲率半径)R1,R2は、両方とも0.15?0.75mmとされる。その範囲であれば、両湾曲部15,16とも同じ曲率半径としてもよいし、異なる曲率半径としてもよい。 また、第1湾曲部18外面の曲率半径R3は1.2mm?4.0mm、第2湾曲部19外面の曲率半径R4は0.6mm?3.0mmに設定される。また、ショルダー部7外面の曲率半径R5は1.2mm?4.0mmに設定される。そして、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θが55°?70°とされ、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1が0.3mm?0.6mmとされる。また、第2湾曲19部外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2が0.4mm?0.7mmとされている。 【0018】 公称径が202(巻き締め部25の最外径D2が53.6?54.4mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が59.2?59.6mm)の場合は、パネル部2の外径D1は、38.0?46.36mmとされ、パネル深さPは、3.8?4.79mmとされる。カウンターシンク部5の内底面における両湾曲部15,16の曲率半径R1,R2は、204の場合と同様、両方とも0.15?0.75mmとされる。また、ショルダー部7外面の曲率半径R5、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θ、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1、第2湾曲部19外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2も204の場合と同様の寸法設定とされる。 【0019】 公称径が206(巻き締めた後の巻き締め部25の最外径D2が59.2?59.4mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が64.5?64.9mm)の場合は、パネル部2の外径D1は、42.0?48.9mmとされ、パネル深さPは、4.3?5.05mmとされる。カウンターシンク部5の内底面における両湾曲部15,16の曲率半径R1,R2は、両方とも0.15?0.75mmとされる。ショルダー部7外面の曲率半径R5、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θ、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1、第2湾曲部19外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2も204の場合と同様の寸法設定とされる。 【0020】 いずれの場合も、内圧によってパネル部2が図1の鎖線で示すようにわずかに膨出するが、その膨出変形によってタブが缶の上端面から突出しないようにするためには、パネル部2の外径D1に対するパネル深さPの比率(P/D1)が重要な要因であり、これを10.17%以上とすることが好ましい。10.17%未満の場合は、内圧によってパネル部2が膨出したときに、タブの一部が缶の上端から突出し易く、一方、この比率(P/D1)が大きくなり過ぎることにより、缶蓋1の全体高さhが7.2mmを超えると、巻き締め機において缶体21に缶蓋1を供給するときのパスラインを高さが大きくなった分、調整する必要があるとともに、供給時にジャム発生などの不都合が生じ易く、また、缶体21の上方に送られた缶蓋1が缶体21のフランジ部24に載置されるまでのストロークも大きくなり、その分、高速充填を妨げるおそれがある。したがって、この缶蓋1の全体高さhは7.2mm以内が好ましい。 【0021】 また、チャック壁部6が第1湾曲部18及び第2湾曲部19により構成されているため、外力が加わった場合においても、各湾曲部18,19の曲率が拡大または縮小することで外力による変形を吸収し、缶蓋1の変形を抑制することが可能になり、パネル部2の膨出、又はバックリングの発生を抑えることができる。 特に、缶蓋1が膨出変形し、カウンターシンク部5が反転しようとした場合に、第1湾曲部18外面の曲率半径R3が1.2mm?4.0mm、第2湾曲部19外面の曲率半径R4が0.6mm?3.0mmに設定されているため、バックリング時の応力集中を避けることができる。第1湾曲部18の曲率半径R3が1.2mm未満、あるいは第2湾曲部19の曲率半径R4が0.6mm未満であると、バックリング強度が高まり、バックリングは起こりにくくなるが、湾曲部形成のためのプレス加工が厳しくなるとともに、万一バックリングした場合に応力集中し易く、このため亀裂が入り易く、内容物が漏出するおそれがある。一方、第1湾曲部18の曲率半径R3が4.0mmを超え、あるいは第2湾曲部19の曲率半径R4が3.0mmを超えると、バックリング時の衝撃を緩衝するためのバネ作用が低下してしまう。 また、第1湾曲部18及び第2湾曲部19が交互に逆方向に湾曲しているため、これら湾曲部18,19が缶の半径方向内方あるいは半径方向外方のいずれに変形しても、弾性変形によるバネ作用によって、変形を吸収することができ、膨出変形又はバックリングが生じにくくなる。また、仮に、缶内圧が上昇し、カウンターシンク部5が反転した場合においても、その変形速度を両湾曲部18,19の弾性により緩和させながら変形し、すなわち、この部分に作用するエネルギーを緩和させることが可能になり、亀裂が発生することを抑制することができ、内容物の漏出を抑えることが可能なる。 【0022】 この場合、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θが55°?70°としたが、この角度θが小さいと、パネル部2が小径となって耐圧強度は高まるが、パネル部2の径が小さくなり、小径となったパネル部2に設けた飲み口も同様に小さくなり、内容物の注ぎ性が著しく低下する。また、角度θが大きいと、パネル部2の径が大きくなり、耐圧強度の低下を招く。したがって、この角度θは、55°?70°が好ましい。 また、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1が0.3mm?0.6mmとしたが、この距離L1が大きいとパネル部2の膨出は小さくなるが、バックリング強度は低下する。距離L1が小さいと缶体21との隙間が大きくなって密封性を損なうおそれがある。このため、距離L1は0.3mm?0.6mmとするのがよい。 さらに、第2湾曲19部外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2は0.4mm?0.7mmとしたが、この距離L2が小さいと耐圧強度が低下し、大きいとカウンターシンク部5を狭めることになって巻き締め不良となり易い。このため、この距離L2は0.4mm?0.7mmとするのがよい。 【0023】 次に、このように構成した缶蓋1について、そのパネル部2の外径D1、パネル深さP等の各部寸法を変えた種々のサンプルを作成し、振動漏れ試験、耐圧試験等を実施した。 使用した缶蓋及び缶体は、その公称径が204、202、206の三種類とした。缶蓋の板厚Tは、204の場合が0.215?0.230mm、202の場合が0.215?0.230mm、206の場合が0.215?0.250mmとした。カウンターシンク部5の内底面の曲率半径は、内側湾曲部も外側湾曲部も同じ曲率半径としたので、各表ではRとして統一した。また、第1湾曲部の曲率半径R3、第2湾曲部の曲率半径R4、ショルダー部の曲率半径R5、共通接線Aの角度θ、共通接線Aからの最大距離L1、共通接線Bからの最大距離L2は、前述した数値範囲内のものとした。 表1は公称径204、表2が公称径202、表3が公称径206の場合をそれぞれ示している。 【0024】 振動漏れ試験は、株式会社振研製の三方向同時振動試験装置を用い、図3に示すように、内容物を充填した缶31を24缶カートン32に入れ、その上にダミー用の缶33を入れたカートン34を2ケース載せ、さらにその上に錘35を載せた状態とする。これらカートン32,34は、24個並べた缶を周回するように組み立てられており、その周回方向には一箇所にのみ折り込み部32a,34aが形成される。そして、各カートン32,34の折り込み部32a,34aを同じ方向に合わせた状態に配置する。錘35は、51kg、振動数は10Hz、振幅は5mm、振動方向は上下方向のみとし、5分毎に漏れ発生を確認し、カートン32内のいずれかの缶31で漏れが生じた時間により評価した。30分以上漏れが発生しなかったものを良品とする。図3の符号36はカートン32,34の周囲に配置されるガイドである。 【0025】 耐圧試験は、空の缶体に缶蓋を巻き締めた状態とし、缶体を中間部で切断した後、有限会社フローリスエンタープライズ製の耐圧試験装置を使用し、100kPa/30秒の昇圧速度で水圧をかけて、缶蓋の一部が部分的に突出する角出しと呼ばれるバックリング現象やスコア割れが生じたときの圧力を測定した。570kPaまでバックリングやスコア割れが生じなかったものを良品とする。 総合判定は、これら振動漏れ試験及び耐圧試験で良品とされ、かつ、缶蓋の全体高さが7.2mm以内のものを○、これらのうちのいずれかの基準を満たさなかったものを×とした。 【0026】 【表1】 【0027】 【表2】 【0028】 【表3】 【0029】 これらの結果から明らかなように、パネル部2の外径D1に対するパネル深さPの比率(P/D1)が10.17%以上である缶蓋においては、振動漏れ試験でも30分以上という基準を満たしており、また、耐圧試験においても良好な耐圧性を発揮し、さらに缶蓋の全体高さが7.2mm以下に抑えられていると、充填時のトラブル発生や充填速度低下を招くおそれはない。 【0030】 なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。 例えば、パネル部とカウンターシンク部との間のコーナー部を二つの屈曲部の間に傾斜部を形成した形状としたが、パネル部とカウンターシンク部の内側壁部との間を一つの曲率半径の屈曲部で連続させた形状としてもよい。 【産業上の利用可能性】 【0031】 本発明の缶蓋は、飲料用缶、特に内圧が作用する陽圧缶に好適に用いられる。 【符号の説明】 【0032】 1 缶蓋 2 パネル部 3 コーナー部 4 環状凹部 5 カウンターシンク部 6 チャック壁部 7 ショルダー部 8 カール部 11 内側屈曲部 12 内側壁部 13 外側屈曲部 14 傾斜部 15 内側湾曲部 16 外側湾曲部 17 外側壁部 18 第1湾曲部 19 第2湾曲部 21 缶体 22 ネック部 23 屈曲部 24 フランジ部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、前記カール部の最外径が64.9mm以下であり、前記カウンターシンク部は、前記パネル部の外周縁からコーナー部を介して下方に延びる内側壁部と、該内側壁部の下縁に連続する湾曲部と、該湾曲部から上方に向けて拡径しながら延びる外側壁部とにより形成され、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、前記第1湾曲部外面の曲率半径が1.2mm?4.0mm、前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.6mm?3.0mm、前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°とされ、前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mmとされ、前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mmとされ、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であることを特徴とする缶蓋。 【請求項2】 前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の缶蓋。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-01 |
出願番号 | 特願2012-535055(P2012-535055) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B65D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 植前 津子 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
蓮井 雅之 谿花 正由輝 |
登録日 | 2016-06-24 |
登録番号 | 特許第5956341号(P5956341) |
権利者 | コンテナ・ディベロップメント・リミテッド ユニバーサル製缶株式会社 |
発明の名称 | 缶蓋 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 青山 正和 |