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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1333242
異議申立番号 異議2016-701151  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-16 
確定日 2017-10-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6010298号発明「葉肉含有炭酸飲料」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6010298号の請求項1,2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許は,平成23年12月28日に出願され,平成28年9月23日に特許権の設定登録がなされたところ,平成28年12月16日に特許異議申立人萩原真紀より特許異議の申立てがなされた。そして,平成29年6月12日付けで取消理由が通知され,それに対し,特許権者より平成29年8月8日付けで意見書が提出され,特許異議申立人より平成29年9月8日付けで上申書が提出された。

第2 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許の請求項1,2に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりである(以下,それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。)。
【請求項1】
アロエである多肉植物の葉肉裁断物と,炭酸ガスとを含む容器詰め飲料であって,
(a)当該葉肉裁断物の長径が3?10mmであり,葉肉裁断物が当該飲料中に1?2w/v%含まれ,
(b)炭酸ガス圧が1.0?2.0kg/cm^(2)であり,そして
アルコール度数が1?9%である
ことを特徴とする,飲料。
【請求項2】
アロエである多肉植物の葉肉裁断物と,炭酸ガスとを含み,アルコール度数が1?9%である容器詰め飲料において,
(a)当該葉肉裁断物の長径を3?10mmとして飲料中に1?2w/v%含有させ,
(b)当該飲料の炭酸ガス圧を1.0?2.0kg/cm^(2)に調節する,
ことを特徴とする,当該多肉植物の葉肉裁断物の飲料中の分散安定性向上方法。

2 取消理由の概要
本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。すなわち,本件発明1,2は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲1?3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。

3 証拠方法
(1) 甲号証
甲1号証:ニュースリリースNo.11245「『カクテルカロリ。<アロエヨーグリート>』新発売-アロエ葉肉が入った,新食感の『カクテルカロリ。』が新登場-」のウェブページの印字物,2011年11月15日,[2016年12月15日検索]
<URL:http://www.suntory.co.jp/news/2011/11245.html>,<URL:http://www.suntory.co.jp/news/2011/l_img/l_11245-1.jpg>
甲2号証:特開平5-3775号公報
甲3号証:特開平10-243779号公報
甲4号証:コトバンク「葉肉(ヨウニク)とは」のウェブページの印字物,[2017年8月31日検索]
<URL:https://kotobank.jp/word/%E8%91%89%E8%82%89-653287>
甲5号証:「葉の内部構造」,朝日百科植物の世界,朝日新聞社,1997年10月1日,第12巻,p.340

(2) 乙号証
乙1号証:再公表特許第2011/096122号
乙2号証:「Leaves Organization of Tissues into Tissue Systems」のウェブページの印字物,[2017年8月1日検索]
<URL:http://blogs.ubc.ca/biol343/leaves/>
乙3号証:「best of ALOE VERA Aloe Vera Leaf Structure」のウェブページの印字物,[2017年8月1日検索]
<URL:http://bestofaloevera.com/aloe-vera-leaf-structure/>

なお,以下,証拠番号に従って「甲1」,「乙1」などという。

4 甲1に記載された事項
甲1には,以下の事項が記載されている。
・「『カクテルカロリ。<アロエヨーグリート>』新発売-アロエ葉肉が入った,新食感の『カクテルカロリ。』が新登場-」
・「今回は,ジュレタイプの調味料など新しい食感を加えた商品が人気を集める中,お酒でも“食感を楽しみたい”といったお客様のニーズにお応えするため,新たにアロエ葉肉入りの<アロエヨーグリート>を発売するものです。」
・「●中身の特長
アロエ葉肉特有のやわらかな“つぶつぶ食感”をお楽しみいただけます。」
・「▼商品名,容量,希望小売価格(税別),アルコール度数および梱包
『カクテルカロリ。<アロエヨーグリート>』
330ml 141円 3% 24本」
また,容器の拡大画像(3頁)において,「つぶつぶアロエ入り」,「リキュール(発泡性)」,「アルコール分3%」の記載が認められる。

5 甲1に記載された発明
甲1の記載からすると(前記4),甲1には次の発明が記載されているといえる(以下,それぞれ「甲1発明の1」,「甲1発明の2という。)。
(甲1発明の1)
「つぶつぶのアロエ葉肉を含む,缶入りの発泡性リキュールであって,アルコール度数が3%である,発泡性リキュール」
(甲1発明の2)
「リキュール中につぶつぶのアロエ葉肉を含有させ,リキュールに発泡性を持たせることを含む,アルコール度数が3%の缶入り発泡性リキュールの製造方法」

6 甲2,3,乙1に記載された事項
(1) 甲2
・「【請求項1】 多数のゼリー小片を含む飲料が,ガスとともに加圧密封されてなることを特徴とするゼリー含有飲料。
【請求項2】 ガスの内圧力が,0.5kg/cm^(2)以上である請求項1記載のゼリー含有飲料。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,ゼリー含有飲料に関し,詳しくは,ゼラチンや寒天等で作製されたゼリーの小片を,ジュースや酒などの飲料に含有させてなるゼリー含有飲料に関するものである。」
・「【0002】
【従来の技術】従来,ジュースや酒などの飲料に,ゼラチンや寒天等からなるゼリーの小片を含有させたゼリー含有飲料が知られている。ゼリー含有飲料は,ゼリー独特の舌触りやのどごし感あるいは風味を飲料に付け加えることによって,通常の飲料にはない新しい飲み心地を与えることができる。また,ゼリーの材料に含まれる繊維質や蛋白質,アミノ酸などの有効成分で,人体に好ましい作用を発揮させることもできる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが,従来のゼリー含有飲料は,飲料中に含有させたゼリー小片が,飲料の底に沈んでしまっているので,飲用する前に,飲料全体を振ったり攪拌したりして,ゼリー小片が飲料中に均一に分散した状態にしないと,飲み始めと飲み終わりで,飲み込まれる飲料とゼリー小片の比率が変わり,飲用感が一定しないという問題があった。また,飲用している間にもゼリー小片が沈んでいき,最後に容器の底にゼリー小片のみが残ってしまい,ゼリーを含有させた目的が十分に果たせない場合があった。
【0004】また,一般に,ゼリー小片は透明もしくは半透明の状態に作製されているので,瓶やグラスに入れた状態では,ゼリー小片が飲料中に沈んでいるのか,十分に攪拌されて均一に分散しているのかを確かめることができないとともに,視覚的には,ゼリー小片を含有しない飲料のみの場合とあまり変わりがないので,消費者に強くアピールすることができず,商品価値の点でも今一歩の感があった。
【0005】そこで,この発明の課題は,前記したゼリー含有飲料において,飲料を振ったり攪拌したりしなくても,ゼリー小片が飲料全体に均一に分散して,飲用の当初から最後まで一定した飲み心地を与えることのできるとともに,飲用時に,極めてユニークな視覚効果を発揮できることによって,商品価値を大いに高めることのできるゼリー含有飲料を提供することにある。」
・「【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する,この発明にかかるゼリー含有飲料は,多数のゼリー小片を含む飲料が,ガスとともに加圧密封されてなる。ゼリー小片は,従来のゼリー含有飲料と同様のゼリー材料および製造方法で作製されたものが使用できる。ゼリー小片の材料としては,通常のゼリー材料が自由に使用できるが,・・・具体的には,カラギーナン,寒天,ゼラチン,ペクチン,アルギン酸(塩),ローカストビーンガム,キサンタンガム,ジェランガム,タマリンドガム,CMC(カルボキシメチルセルロース)(塩),カードラン,サイリウムシードガム,澱粉,コンニャクマンナンなどが使用できる。
・・・
【0008】・・・ゼリー小片の大きさも,好ましい飲み心地を発揮できれば,任意の大きさでよく,例えば,数mmから数10mmの直径もしくは全長を有するものが用いられる。・・・
【0009】飲料は,内部のゼリーに生成される気泡が見える程度の透明性があれば,任意の飲料が用いられる。具体的には,・・・酒類,・・・などの通常の飲料・・・用いられる。
【0010】飲料に含有させるゼリー小片の量は,飲み心地や気泡の発生状態などを考慮して,任意に設定することができるが,通常は,飲料全体に対してゼリーを,5?50重量%程度含有させておくのが好ましい。ガスは,炭酸ガスや窒素ガスなど,従来の清涼飲料あるいは酒類用の充填ガスをそのまま用いることができる。また,ビールのような発泡酒等であれば,飲料自体からガスが発生するので,外部からガスを充填しなくてもよい場合もある。飲料に充填するガスの圧力,すなわち密封状態におけるガスの内圧力は,内圧力が低すぎると気泡が十分に発生せず,ゼリー小片を飲料中に均一に分散させて浮遊させることができない。また,内圧力が高すぎると,ゼリー小片中で気泡が発生し過ぎて,ゼリー小片が飲料の液面に浮き上がってしまい,ゼリー小片を飲料中に均一に分散させることができない。好ましいガスの内圧力は,ゼリー小片の材料や形状寸法,あるいは飲料の種類などの条件によっても異なるが,通常,0.5kg/cm^(2)以上であれば十分な性能が発揮でき,より良好な性能を発揮させるには,0.7?2.0kg/cm^(2)の範囲が好ましい。」
・「【0012】
【作用】飲料中に多数のゼリー小片を含有させた状態で,瓶や缶などの密封容器にガスとともに飲料を加圧密封すると,ガスは飲料中に溶け込む。飲料中に溶け込んだガスは,水分を多量に含むゼリー小片の内部にも拡散あるいは浸透して,ゼリー小片に含まれる水分中にもガスが溶け込んだ状態になる。・・・
【0013】飲料を飲むために,瓶や缶の密封蓋を開栓すると,大気との圧力差で,飲料中に溶け込んでいたガスが発泡して,飲料中に気泡を生じる。前記したように,ゼリー小片の内部の水分にもガスが溶け込んでいるので,このガスも発泡してゼリー小片の内部で気泡を生じることになる。・・・
【0014】しかし,この発明の場合,ゼリー小片は,微視的にみると,ゼリーの組織が網目状もしくは多孔質状の三次元構造を構成しているので,ゼリー小片の内部に発生した気泡は,ゼリーの組織構造内に閉じ込められてしまう。そして,気泡の浮力でゼリー小片が持ち上げられ,飲料中を浮上することになる。ゼリー小片の重量と,気泡の浮力が釣り合ったところで,ゼリー小片は飲料中にただよう状態になる。・・・
【0015】その結果,飲料を振ったり攪拌したりしなくても,密封された飲料を開栓するだけで,ゼリー小片の内部に発生する気泡の作用で,ゼリー小片が飲料中に均一に分散することになる。・・・
・・・
【0017】ところが,この発明のように,ゼリー小片の内部に気泡が閉じ込められた状態であれば,ガスが大気中に容易に抜け出さず,長時間にわたって,飲料内に気泡が存在することになる。その結果,この発明の飲料では,開栓した後も長い間,気泡の存在による視覚効果および飲用時の気泡による刺激感などを楽しめることになる。
【0018】この発明の飲料を飲用したときには,ゼリー小片と同時に内部の気泡を飲むことになるので,ゼリー特有の食感と気泡による刺激感などが一体となって,従来の単なるゼリー含有飲料あるいは発泡性飲料とは全く異なる新しい感覚の飲み心地を与えることができる。」
・「【0020】図1(a)に示すように,飲料10を飲むために,密封キャップ32を取り去ると,飲料10内に加圧状態で溶け込んでいたガスによる気泡40が発生する。ゼリー小片20以外の部分で飲料10中に発生した気泡40は,通常の発泡性飲料の場合と同様に,液面に浮上して大気中に抜け出してしまう。ところが,図1(b)に示すように,ゼリー小片20の内部に発生した気泡40は,ゼリー組織に閉じ込められた状態になる。そして,気泡40の浮力によって,ゼリー小片20が浮き上がり,ゼリー小片20の重量と気泡40の浮力が釣り合ったところで,飲料10内にゼリー小片20が浮遊する状態になる。各ゼリー小片20によって,重量および気泡40の浮力が異なるので,多数のゼリー小片20が,それぞれの重量と気泡40の浮力が釣り合った位置で浮遊し,気泡40を閉じ込めたゼリー小片20が飲料10全体に均一に分散されることになる。・・・」
・「【0022】ゼリー含有飲料として,バナナフィズを製造した。飲料の配合は以下のとおりである。
〔配合〕
シロップ部: ゼリー部:
異性化糖液糖 34.0% 異性化糖液糖 18.0
バナナリキュール 20.0% FJA-3200※ 2.0
ウオッカ 20.0% クエン酸(結晶) pH3.8
クエン酸ナトリウム 0.3% 水 残 量
クエン酸 0.4% 合 計 100.0
着色料・着香料 適 量
水 残 量
合 計 100.0%
※FJA-3200(商品名,新田ゼラチン株式会社製ジェランガム製剤)
〔製造工程〕
ゼリー小片の調製:前記ゼリー部の配合で,常法によりゼリー液を調製した。ゼリー液を冷却固化させた後,5mm角のダイス状にカッティングした。
【0023】飲料の調製:前記シロップ部の配合で,常法によりシロップ液を調製した。シロップ液40容量部と,ゼリー小片の適当量をガラスボトルに充填した。ついで,カーボネータで炭酸水80容量部を充填し,密封した後,加熱殺菌し冷却した。
〔評価〕上記のようにして製造された飲料(バナナフィズ)を,冷蔵庫で飲み頃の温度に冷却した後,開栓したところ,飲料中に気泡が発生し,透明感のあるクリスタル状の気泡が飲料全体に均一に分散して浮遊した状態になった。飲料を詳細に観察すると,気泡はゼリー小片の内部に閉じ込められた形で存在し,気泡とともにゼリー小片が飲料全体に均一に分散していることが確認できた。」
・「【0025】つぎに,飲料に充填するガスの加圧圧力を変えて,性能の違いを比較した。その結果を下表に示す。
表1.ガス内圧力の違いによる性能の比較結果
ガス内圧力 ゼリ-小片中の
kg/cm^(2) 気泡の発生状態 ゼリー小片の浮遊状態
0.2 × 底に沈んでいる。
0.5 △ 半分程度浮遊した。底から1/2の範囲に
分散している。
0.7 ○ ほとんど浮遊した。均一分散。
1.0 ○ 浮遊した。均一分散。
1.5 ○ 浮遊した。均一分散。
2.0 ○ 浮遊した。上から2/3程度に分散。
2.5 ○ 浮遊した。液面近くに集中。
表中,気泡の発生状態は,下記の評価基準で評価した。
×:気泡の発生がほとんどない。
△:気泡の発生が認められる。
○:気泡が十分に発生している。
以上の結果,ガス内圧力によって,飲料の特性に違いが生じることが判る。この実施例の飲料の場合,0.5kg/cm^(2)以上であれば気泡が発生している。また,0.7kg/cm^(2)以上で,十分な量の気泡が発生し,ゼリー小片の浮遊状態も良好になっている。しかし,2.0kg/cm^(2)を超えると,ゼリー小片中の気泡が大きくなって,比重が軽くなり過ぎるために,気泡を含むゼリー小片が飲料の液面近くに集中する傾向がある。但し,飲料の配合およびゼリー小片の材料や形状が変わると,上記した好ましいガス内圧力の数値範囲も変わる。」
・「【0026】
【発明の効果】以上に述べた,この発明にかかるゼリー含有飲料によれば,多数のゼリー小片が,ガスとともに飲料中に加圧密封されているので,飲料の密封を開放したときに,ゼリー小片の内部で発生した気泡が,ゼリー小片のゼリー組織内に閉じ込められた状態になり,このゼリー小片内に存在する気泡の作用で,ゼリー小片が飲料中に均一に分散することになる。
【0027】その結果,飲料を振ったり攪拌しなくても,ゼリー小片を均一に分散させることができ,飲み始めから飲み終わりまで,飲料とともに同じ割合でゼリー小片を食することが可能になり,ゼリー含有飲料の飲み心地をより高めることになる。」

(2) 甲3
・「【請求項1】 浮遊分散した飲食可能な固形物を含有する液状飲食品であって,飲食品調合液100重量部に対してジェランガムを0.03超?0.05未満重量部,タマリンドシードガムを0.002超?0.05重量部,及びカルシウム及び/又はマグネシウム換算で0.001?0.010未満重量部の可溶性の,カルシウム塩及び/又はマグネシウム塩を含有する固形物入り液状飲食品を製造する方法において,該飲食品調合液へ飲食可能な固形物を入れる前に,該調合液をホモゲナイズ処理する工程を包含することを特徴とする固形物入り液状飲食品の製造方法。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ゼリー片や果実の組織等の飲食可能な固形物を含有させた液状飲食品の製造方法に関し,飲食品調合液が更に,浮遊性に優れ,特に低粘度性,流動性のよい固形物が飲食品調合液部と一体となり飲用できかつ,全体に滑らかな飲み心地である,飲食品としての触感の向上した固形物入り液状飲食品の製造方法に関する。」
・「【0002】
【従来の技術】固形物入り液状飲食品において飲食品調合液の固形物分散安定性を向上させることにより固形物を飲食品調合液部と一体として飲食可能とするために従来例えば,耐熱性及び耐酸性のある増粘多糖類の使用が考えられている。・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】固形物入り液状飲食品において,飲食品調合液と固形物が一体となり固形物の浮遊分散性の向上した外観上の美しさのみならず嗜好品としての飲食品調合液が浮遊性に優れ,特に,低粘度性,流動性がよく,飲み心地等の触感を向上させた飲食品が要望されていた。しかしながら,そのような飲食品はいまだ開発されていない。本発明の目的は,上記のような課題を解決した,浮遊分散した飲食可能な固形物を含有する液状飲食品を製造する方法を提供することにある。」
・「【0007】本発明でいう飲食品調合液とは,水,果汁飲料,果肉飲料,清涼飲料,乳飲料,豆乳飲料,茶飲料,紅茶飲料,栄養飲料,野菜ジュース,めんつゆ,ラーメンスープ,液体ドレッシング,スープ,味噌汁等外観上液体の形態をとるものを示すが,飲用可能であればこれらに限定されるものではない。・・・更に必要により内容物の沈殿が生じない範囲でアルコールを含有させることも可能である。」
・「【0009】本発明でいう固形物においては,飲食可能なものの内,ゼリー,柑橘類さのう,柑橘類パルプ,リンゴピューレ,リンゴパルプ,パイナップル果肉,桃果肉,ぶどう果肉,いちご果肉,人参ピューレ,小豆,大豆,胡麻,野菜類細断物,野菜類パルプ,畜肉等の動植物組織や乳酸菌等の飲食可能な菌,酵母,米麹等のかび,しいたけ等のきのこ類等の微生物組織が好適である。」
・「【0010】本発明において,固形物がゼリーである場合のゼリーの製造には従来より採用されている技術を使用することが可能であり,具体的には,その原材料として,ジェランガム,ローカストビーンガム,タマリンドシードガム,キサンタンガム,カラギーナン,グアーガム,ペクチン,結晶セルロース,カルボキシメチルセルロース,コンニャクマンナン,寒天,アルギン酸ナトリウム,キチン,グルコサミン等を単独又は組合せて使用することが可能である。」
・「【0011】本発明において,固形物の形状は,立方体,直方体,多面体,球形,楕円状,さのう状等をとることができるがこれらに限定されるものではなく,更に組合せ使用及び組合せた形状をとることも可能である。また,固形物の大きさとしては一辺10mmのメッシュを通過するものが使用可能であり,好ましくは一辺0.3mmのメッシュを通過せず一辺8mmのメッシュを通過するものが触感の上から好ましく,更には一辺1mmのメッシュを通過せず一辺5mmのメッシュを通過するものが最も好ましい。本発明における固形物の飲食品調合液部への添加量は,飲食品調合液100重量部に対して0.5?40重量部,好ましくは1?30重量部,更に好ましくは外観上から2?20重量部である。」
・「【0015】・・・本方法により製造された飲食品調合液は固化(ゲル化)せず成分中の多糖類は増粘安定剤として機能していた。これとは別に固形物として直径約3mmのゼリー球を常法により作製した。これらを用いて,加温した飲食品調合液にゼリー球を添加し均一にかくはん後,熱ショックで破損しないようにあらかじめ加温した瓶に充てん後打栓した。」
・「【0019】実施例1
固形物入り液状飲食品の触感及び該飲食品における固形物の浮遊分散性の評価を行うために飲食品調合液中のジェランガム,タマリンドシードガム及びカルシウム又はマグネシウム源としての乳酸カルシウム・5水和物又は硫酸マグネシウムの混合割合を変化させて飲食品調合液を調製した。・・・
【0020】これとは別に固形物として直径約3mmのゼリー球を常法により調製した。・・・更に,95℃に加温した各飲食品調合液96.5重量部にゼリー球3.5重量部を添加し均一にかくはん後あらかじめ60℃に加温した190ml容瓶に充てん後打栓した。」
・「【0033】実施例2
・・・ゼリー片入り溶液(I)10191gを得た。
【0034】これとは別に固形物として直径約3mmのゼリー球を常法により調製した。・・・更に,95℃に加温した各飲食品調合液96.5重量部にゼリー球3.5重量部を添加し均一にかくはん後あらかじめ60℃に加温した190ml容瓶に充てん後打栓した。」
・「【0038】実施例4
実施例3のリンゴピューレの代替として(A)3mm角の桃果肉,(B)オレンジさのう,(C)クラッシュぶどう果肉を用いてジェランガム及びタマリンドシードガムの効果を比較した。」
・「【0039】
【発明の効果】以上述べたように,本発明による固形物入り液状飲食品は,固形物の浮遊性に優れ,特に低粘度性,流動性がよく,口に含んだとき飲食品調合液と固形物が一体となって飲み込め,のどごし感が良好である。また,外観的にも大部分の固形物が浮遊しており見栄えのする製品を提供することができる。」

(3) 乙1
・「【0034】
・・・
アロエは,葉を横にスライスすると,厚いクチクラ層に覆われた表皮の外壁が現れる。表皮の下方には,緑色組織細胞と,柔組織として知られる細胞壁の薄い細胞とに分化した葉肉がある。柔組織細胞は,透明な粘液のようなゼリーをためている。内部維管束鞘細胞を持つ維管束は緩下薬の性質を持つ黄色い液汁を含み,2つの大きな細胞の間に挟まれている。すなわち,アロエは2種類の主要な液源,黄色液汁(浸出液)及び透明ゲル(粘液)を有している。尚,透明ゲル(粘液)はアロエ葉肉(アロエゲル)と呼ばれる。このように,アロエの葉は,(A)黄色液汁,(B)アロエ葉肉,(C)外皮,先端,基部及び棘からなる葉皮の3つの部分に分けることができる。」

7 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と甲1発明の1とを,その有する機能に照らして対比すると,甲1発明の1における「つぶつぶのアロエ葉肉」は,本件発明1の「アロエである多肉植物の葉肉裁断物」に相当する。
そして,甲1発明の1は,「缶入りの発泡性リキュール」であるから,本件発明1と同様に,「アロエである多肉植物の葉肉裁断物と,炭酸ガスとを含む容器詰め飲料」である。
また,甲1発明の1は「アルコール度数が3%」であるから,本件発明1のアルコール度数(1?9%)の範囲内に含まれる。
そうすると,本件発明1と甲1発明の1とは以下の点で一致し相違する。
(一致点1)
「アロエである多肉植物の葉肉裁断物と,炭酸ガスとを含む容器詰め飲料であって,
アルコール度数が1?9%である
飲料。」
(相違点1の1)
本件発明1は,「当該葉肉裁断物の長径が3?10mmであり,葉肉裁断物が当該飲料中に1?2w/v%含まれ(る)」のに対し,甲1発明の1においては,その点が不明である点。
(相違点1の2)
本件発明1は,「炭酸ガス圧が1.0?2.0kg/cm^(2)であ(る)」のに対し,甲1発明においては,その点が不明である点。

(2) 判断
ア そこで,相違点1の2についてみるに,甲2には,ゼラチンや寒天等の「多数のゼリー小片を含む飲料が,ガスとともに加圧密封されてなることを特徴とするゼリー含有飲料」(【請求項1】)が記載されており,飲料として酒類も想定されている(【0009】,【0010】)。
甲2に記載された当該飲料は,多数のゼリー小片を含む飲料が,ガスとともに加圧密封されることにより,飲料中に溶け込んだガスが,水分を多量に含むゼリー小片の内部にも拡散あるいは浸透し,ゼリー小片に含まれる水分中にもガスが溶け込んだ状態になり,開栓すると,ゼリー小片の内部の水分にも溶け込んでいるガスが発泡してゼリー小片の内部で気泡を生じ,気泡の浮力でゼリー小片が持ち上げられ,飲料中にただよう状態になるものであって,その結果,飲料を振ったり攪拌したりしなくても,開栓するだけで,ゼリー小片の内部に発生する気泡の作用で,ゼリー小片が飲料中に均一に分散することになるものである。これは,ゼリー小片が,微視的にみると,ゼリーの組織が網目状もしくは多孔質状の三次元構造を構成しているので,ゼリー小片の内部に発生した気泡が,ゼリーの組織構造内に閉じ込められ,気泡の浮力でゼリー小片が持ち上げられて,飲料中を浮上することになり,ゼリー小片の重量と,気泡の浮力が釣り合ったところで,ゼリー小片は飲料中にただよう状態になるからである(【0012】?【0015】)。
そして,甲2には,飲料中のゼリー小片を均一に分散させるために,炭酸ガス圧を0.7?2.0kg/cm^(2)とすることが好ましい旨記載されている(【0010】)。
なお,甲2には,アロエ葉肉裁断物を含ませる点については記載がない。
これに対し,甲1発明の1は,「つぶつぶのアロエ葉肉を含む,缶入りの発泡性リキュール」であり,アロエ葉肉は,ゼラチンや寒天等のゼリー小片とは,その組織の具体的な構造が異なるから(乙1?3),甲2に記載された機序がアロエ葉肉裁断物においても当然成り立つとは認められない。
よって,甲1発明の1において,炭酸ガス圧を設定する際に,甲2に記載された機序を期待して,甲2に記載された事項を適用することに関し,動機付けは特段認められない。
甲3をみても,アロエ葉肉裁断物と炭酸ガス圧との関係について,特段記載はない。
そうすると,甲1発明の1において,相違点1の2に係る本件発明1の構成,すなわち,炭酸ガス圧を1.0?2.0kg/cm^(2)程度にすることは,当業者が容易に想到できる事項であるとは認められない。
この点に関し,特許異議申立人は,アロエ葉肉は構成している細胞間に豊富に間隙を有し,またこれら間隙と外部とを連絡する気孔を有しており(甲4,5),ゼリー小片と同様にその内部までガスが浸透できる構造を有しているといえ,ゼラチンや寒天等で作製されたゼリーはゲルであり,水を含む非流動性固体である点でアロエ葉肉裁断物と性状が共通しているから,甲2に記載された事項を甲1発明の1に適応することは,当業者であれば当然試みる程度の工夫である,と主張している(上申書1?2頁)。
しかしながら,アロエ葉肉が構成している細胞間に豊富に間隙を有しているとしても,アロエ葉肉裁断物の組織構造(乙1?3)と,ゼラチンや寒天等のゼリー小片の組織構造(網目状もしくは多孔質状の三次元構造)が異なることは明らかであるから,甲1発明の1において,甲2に記載された機序を期待して,甲2に記載された事項を適用することは,当業者にとって困難であると認められる。
イ そして,本件発明1は,相違点1の2に係る構成を,相違点1の1に係る構成とともに有することによって,アロエの葉肉裁断物による飲みごたえと喉越しの良さを保持しながら,容器詰め飲料中でのアロエの葉肉裁断物の分散安定性と飲みやすさを改善又は向上することができる,といった格別の効果を奏するものである(本件特許明細書【0016】)。

(3) まとめ
したがって,相違点1の1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明の1及び甲2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

8 本件発明2について
(1) 対比
本件発明2と甲1発明の2とを,その有する機能に照らして対比すると,甲1発明の2における「つぶつぶのアロエ葉肉」は,本件発明2の「アロエである多肉植物の葉肉裁断物」に相当する。
そして,甲1発明の2は「発泡性リキュール」に係る製造方法の発明であるから,本件発明2と,「アロエである多肉植物の葉肉裁断物と,炭酸ガスとを含む容器詰め飲料」に係る方法の発明である点で共通する。
また,甲1発明の2は「アルコール度数が3%」であるから,本件発明2のアルコール度数(1?9%)の範囲内に含まれる。
そうすると,本件発明2と甲1発明の2とは以下の点で一致し相違する。
(一致点2)
「アロエである多肉植物の葉肉裁断物と,炭酸ガスとを含み,アルコール度数が1?9%である容器詰め飲料に係る方法。」
(相違点2の1)
本件発明2は,「当該葉肉裁断物の長径を3?10mmとして飲料中に1?2w/v%含有させ(る)」のに対し,甲1発明の2においては,その点が不明である点。
(相違点2の2)
本件発明2は,「当該飲料の炭酸ガス圧を1.0?2.0kg/cm^(2)に調節する」のに対し,甲1発明の2においては,その点が不明である点。
(相違点2の3)
本件発明2は,「当該多肉植物の葉肉裁断物の飲料中の分散安定性向上方法」であるのに対し,甲1発明の2は「発泡性リキュールの製造方法」である点

(2) 判断
ア そこで,相違点2の2についてみるに,実質的に前記相違点1の2と同じであるから,同様の理由により,甲1発明の2において,相違点2の2に係る本件発明2の構成にすることは,当業者が容易に想到できる事項であるとは認められない(前記7(2))。
イ そして,本件発明2は,相違点2の2に係る構成を,相違点2の1,2の3に係る構成とともに有することによって,容器詰め飲料中でのアロエの葉肉裁断物の分散安定性を改善又は向上することができる,といった格別の効果を奏するものである(本件特許明細書【0016】)。

(3) まとめ
したがって,相違点2の1,2の3について検討するまでもなく,本件発明2は,甲1発明の2及び甲2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

第3 むすび
以上のとおりであるから,前記取消理由によっては本件特許(請求項1,2に係る特許)を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-22 
出願番号 特願2011-290139(P2011-290139)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 薫吉門 沙央里田中 晴絵  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 窪田 治彦
佐々木 正章
登録日 2016-09-23 
登録番号 特許第6010298号(P6010298)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 葉肉含有炭酸飲料  
代理人 梶田 剛  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  

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