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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65G
管理番号 1333250
異議申立番号 異議2017-700565  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-06 
確定日 2017-10-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6040875号発明「粉体供給装置及び粉体供給装置を用いた製錬システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6040875号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6040875号の請求項1及び2に係る特許(以下、「本件特許1」及び「本件特許2」ともいう。)についての出願は、平成25年6月26日に特許出願され、平成28年11月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人鮫島正洋(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6040875号の本件特許1及び本件特許2に係る発明(以下、発明毎に「本件特許発明1」などともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
1 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2003-171021号公報
(2)甲第2号証:スクリューフィーダの内部輸送機構、日本機械学会論文集(C編)、56巻524号(1990-4)、論文No.89-0458B、85ないし90ページ、和田憲造他
(3)甲第3号証:実願昭57-85762号(実開昭58-187526号)のマイクロフィルム
(4)甲第4号証:農業機械学会誌第55巻第1号(1993)、33?41頁、御手洗正文他
(5)甲第5号証:特開2004-330610号公報
(6)甲第6号証:特開2003-160817号公報
(7)甲第7号証:特開平2-141516号公報

2 理由の概要
申立人は、証拠として、甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証記載の発明と同一であるか、又は甲第1号証記載の発明に基づき、当業者が容易に想到できたものであり、本件特許1及び本件特許2は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許1及び本件特許2は、取り消すべきものである旨主張している。
また、申立人は、本件の願書に添付された明細書(以下、単に「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載及び特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許1及び2は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許1及び本件特許2は取り消すべきものである旨主張している。

第4 刊行物の記載
1 甲第1号証
甲第1号証の、段落【0001】ないし【0024】並びに図1及び図2の記載からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「捻れ角を有する形状のスクリュ羽根を備えるスクリュ13を回転させることによって、スクリュ羽根に沿って粉体を搬送する粉体供給装置であって、
スクリュ13を内部に回転可能に配置されたスクリュフィーダ12のケーシングと、
スクリュフィーダ12のケーシングに粉体を搬入する粉体貯留槽10と、
スクリュ13の回転を制御する制御器及びモータ14と、
を有し、
粉体貯留槽10は、スクリュフィーダ12のケーシングの上方に配置され、粉体貯留部10の内部に粉体を配置され、
制御器は、粉体貯留槽10の内容物も含めた全体重量を計測可能とされた荷重センサ40の計測信号が入力され、制御器からモータ14に制御信号が与えられてスクリュ13が回転駆動され、
スクリュフィーダ12のケーシングは、搬送した粉体を搬出する排出口15を備え、
た粉体供給装置。」

2 甲第2号証
甲第2号証の86ページ左欄8行ないし14行及び同ページ右欄12行ないし16行並びに図1及び図3からみて、甲第2号証には、粉粒体の供給装置に関し、次の事項(以下、「甲2事項」という。)が記載されていると認める。

<甲2事項>
「粉粒体の供給装置においては、ホッパからの粉体圧が高いほど、スクリュー回転数が大きいほど、高排出重量となるとの事項。」

3 甲第3号証
甲第3号証の明細書4ページ8行ないし10行及び明細書5ページ7行ないし11行の記載からみて、甲第3号証には、粉粒体定量供給装置に関し、次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されていると認める。

<甲3技術>
「粉粒体定量供給装置において、水平スクリューコンベヤ7を、可変速モータ9により回転速度を多段階に可変とし、排出量を実測して作成した検量線図に基づいて、タイマーを設定するか、或いはノッチ制御を行い、単位時間当たり一定量の連続排出を行う、技術。」

4 甲第4号証
甲第4号証の、36ページ右欄下8行ないし37ページ右欄1行並びに図4及び図5の記載からみて、甲第4号証には、スクリュフィーダに関し、次の事項(以下、「甲4事項」という。)が記載されていると認める。

<甲4事項>
「スクリュフィーダにおいて、スクリュピッチ、スクリュクリアランス及び粒径に応じて粒剤繰り出し量が変化するという事項。」

5 甲第5号証
甲第5号証の、段落【0013】及び図4の記載からみて、甲第5号証には、粉体供給装置に関し、次の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されていると認める。

<甲5技術>
「粉体供給装置において、シリンダー径を一部小さくする技術。」

6 甲第6号証
甲第6号証の、段落【0022】の記載からみて、甲第6号証には、銅精錬炉の粉体原料供給方法に関し、次の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されていると認める。

<甲6技術>
「スクリューフィーダなどの供給量に脈動を生じる可能性のある粉体輸送装置を使用する銅精錬炉の粉体原料供給方法。」

7 甲第7号証
甲第7号証の、4ページ左下欄1行ないし6行の記載からみて、甲第7号証には、鉄溶融還元精錬法に関し、次の技術(以下、「甲7技術」という。)が記載されていると認める。

<甲7技術>
「スクリューフィーダーを通して、粉粒状の石炭をロータリーキルンに押し込む技術。」

第5 対比・判断
1 本件特許発明1について
(1) 対比
甲1発明における「スクリュ13」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「スクリュー」に相当し、以下同様に、「捻れ角を有する形状のスクリュ羽根」は「螺旋形状の羽部」に、「粉体供給装置」は「粉体供給装置」に、「スクリュフィーダ12のケーシング」は「シリンダ部材」に、「制御器及びモータ14」は「制御部」に、「粉体貯留槽10」は「粉体搬入部」に、「排出口15」は「搬出部」に、それぞれ相当する。

してみると、甲1発明と本件特許発明1とは、
「螺旋形状の羽部を備えるスクリューを回転させることによって、前記羽部に沿って粉体を搬送する粉体供給装置であって、前記スクリューを内部に回転可能に配置されたシリンダ部材と、前記シリンダ部材に粉体を搬入する粉体搬入部と、前記スクリューの回転を制御する制御部とを有し、前記粉体搬入部は、前記シリンダ部材の上方に配置され、該粉体搬入部の内部に粉体を配置され、前記シリンダ部材は、搬送した粉体を搬出する搬出部を備える粉体供給装置。」
という点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1においては、「前記制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させ」るのに対し、甲1発明においては、粉体貯留槽10の内部に配置されている粉体のかさ比重より、スクリュ13とスクリュフィーダ12のケーシングとの間を搬送している粉体のかさ比重を増加させているか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
本件特許発明1においては、「前記制御部は、粉体の仕様、前記スクリューの軸径、前記羽部のピッチ、前記シリンダ部材の内径及び/又は前記粉体搬入部に配置されている粉体の量に応じて、予め定められた所定の回転数で前記スクリューを回転させ」るものであり、また、「所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数」であり、さらに、「制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」るのに対し、甲1発明においては、「制御器は、粉体貯留槽10の内容物も含めた全体重量を計測可能とされた荷重センサ40の計測信号が入力され、制御器からモータ14に制御信号が与えられてスクリュ13が回転駆動され」るところ、制御器は、粉体の使用、スクリュ13の軸径、スクリュ羽根のピッチ、スクリュフィーダ12のケーシングの内径及び/又は粉体貯留槽10に配置されている粉体の量に応じて、予め定められた所定の回転数でスクリュ13を回転させるか否か、また、スクリュ13の回転数は、粉体の搬送時に、排出口15から気体が侵入することを防止する回転数であるか否か、さらに、制御器は、排出口15から搬出された粉体の排出流量に基づいて、スクリュ13の回転数を制御するのか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

(2) 判断
ア まず、相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項の技術的意義について検討する。
本件特許についての本件明細書には、以下の記載がある。
(ア)【0009】
本発明は、上記の事情に鑑み、スクリューフィーダー式で粉体を供給する場合であって、フラッシングを防止して粉体を供給することができる粉体供給装置若しくはその粉体供給装置を用いた製錬システム、又は、粉体供給方法を提供することを目的とする。(段落【0009】

(イ)【0027】
制御部4は、本実施形態では、スクリュー3の回転動作を制御する。制御部4は、供給(搬送)する粉体の仕様、スクリュー3の軸径、羽部3aのピッチ、シリンダ部材2の内径及び/又は粉体搬入部1に配置されている粉体の量(例えば安息角)に応じて、予め定められた所定の回転数でスクリュー3を回転する。具体的には、制御部4は、スクリュー3の回転時(粉体の搬送時)に、粉体搬入部1の内部に配置されている粉体のかさ比重より、スクリュー3とシリンダ部材2との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させるように、スクリュー3の回転動作を制御する。
【0028】
ここで、所定の回転数とは、粉体の搬送時に粉体の量(切り出し量)が不安定となる現象(以下、「フラッシング」という)が発生することを防止する回転数である。所定の回転数は、粉体搬入部1、シリンダ部材2、スクリュー3又はその他粉体供給装置100の仕様に対応する回転数とする。また、所定の回転数とは、粉体の仕様(種類、粒径、温度など)に基づいて定められる回転数とすることができる。更に、所定の回転数は、実験又は計算等によって予め定められた回転数とすることができる。(段落【0027】及び【0028】)

(ウ)【0034】
更に、解析部11は、測定部12の測定結果及び撮像部13の撮像結果に基づいて、「フラッシングが発生しない条件」を特定することができる。すなわち、解析部11は、「フラッシングが発生しない条件」として、シリンダ部材2の搬出部2eから気体が侵入(逆流)しない場合であって、スクリュー3とシリンダ部材2との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させる条件を特定する。これにより、粉体供給装置100は、「フラッシングが発生しない条件」を用いて、シリンダ部材2の搬出部2eから気体Afが侵入することを防止し、その結果、フラッシングが発生することを防止することができる。
【0035】
本発明に係る粉体供給装置100は、制御部4を用いて、解析部11が予め特定した「フラッシングが発生しない条件」に基づいて、スクリュー3の回転数などを制御する。これにより、粉体供給装置100は、フラッシングの発生を防止することができる。また、粉体供給装置100は、解析部11等を用いて、供給(搬送)する粉体の仕様、スクリュー3の軸径、羽部3aのピッチ、シリンダ部材2の内径などに対応する「フラッシングが発生しない条件」を予めそれぞれ特定することができる。更に、粉体供給装置100は、制御部4を用いて、「フラッシングが発生しない条件」に対応する所定の回転数(制御マップなど)を予め記憶することができる。
【0036】
[3.粉体供給方法]
本発明に係る粉体供給方法は、螺旋形状の羽部3aを備えるスクリュー3(図1)を回転させることによって、羽部3aに沿って粉体を搬送する粉体供給方法であって、シリンダ部材2の上方に配置された粉体搬入部1の内部の粉体をシリンダ部材2に流入させる粉体搬入ステップと、スクリュー3を回転して、シリンダ部材2に流入した粉体を搬送する粉体搬送ステップと、粉体搬送ステップで搬送した粉体をシリンダ部材3の搬出部3eから搬出する粉体搬出ステップとを含む。また、本発明に係る粉体供給方法では、粉体搬送ステップは、粉体搬入部1の内部に配置されている粉体のかさ比重より、スクリュー3とシリンダ部材2との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させることによって、搬出部2eから気体が侵入することを防止する。これによれば、本発明に係る粉体供給方法では、前述の粉体供給装置の100と同等の効果が得られる。(段落【0034】ないし【0036】)

(エ)【0040】
実施例に係る製錬システム(粉体供給装置100)に用いた3種類のスクリューの例を図4に示す。また、3種類のスクリューをそれぞれ用いて粉体を供給する場合の動作条件を表1に示す。更に、3種類のスクリューをそれぞれ用いて粉体を供給した実験結果を図5に示す。なお、図4に示す3種類のスクリューは一例であり、製錬システムに用いることができる本発明に係るスクリューは図4に示すものに限定されるものではない。
【0041】
図4に示すように、製錬システム(粉体供給装置100)は、本実施例では、(1)基準スクリュー3Aとして、スクリュー軸径27mm、羽根(羽部)高さ5mm、羽根(羽部)ピッチ32mm、トラフ(シリンダ部)と羽根(羽部)とのクリアランス7mmを用いる。また、製錬システムは、(2)スクリュー3Bとして、基準スクリュー3Aよりも軸径を細くしたスクリューであり、スクリュー軸径16mm、羽根高さ10.5mm、羽根ピッチ32mm、トラフと羽根のクリアランス7mmを用いる。更に、製錬システムは、(3)スクリュー3Cとして、基準スクリュー3Aに対してピッチを1.6倍に広げた羽根(羽部)を2条巻きにしたスクリューであり、スクリュー軸径27mm、羽根(羽部)高さ5mm、羽根(羽部)ピッチ51mm、トラフと羽根のクリアランス7mmを用いる。すなわち、スクリュー3Cは、基準スクリュー3Aに対してピッチが0.8倍となる。なお、ピッチとは、羽根(羽部)の先端から次の羽根の先端までの距離をいう。
【0042】
表1に示すように、本実施例に係る製錬システム(粉体供給装置100)は、スクリュー3A、3B、3Cをそれぞれ回転数400、230、320rpmで回転した。すなわち、スクリューごとに回転数を調整して、粉体の切り出し量を調整した。このとき、製錬システムは、表1に示すように、スクリューとトラフとの間(図4(a)乃至図4(c)の搬出部の近傍の領域Ra乃至Rc)のかさ比重がそれぞれ1.7、1.5、2.3となった。
【0043】
【表1】
図5に示すように、本実施例に係る製錬システム(粉体供給装置100)は、基準スクリュー3A又はスクリュー3Bを用いた場合に、タイミングt1又はタイミングt2で切り出し量Qが増大した。すなわち、製錬システムは、基準スクリュー3Aのタイミングt1で切り出し量3Aqが増加し、フラッシングが発生した。また、製錬システムは、スクリュー3Bのタイミングt2で切り出し量3Bqが増加し、フラッシングが発生した。
【0044】
一方、製錬システムは、スクリュー3Cを用いた場合に、図5に示すように、切り出し量Q(3Cq)が一定となり、フラッシングが発生しなかった。すなわち、本実施例に係る製錬システムは、スクリュー3Cを用いた場合に、フラッシングの発生を防止し、粉体を安定して供給する(切り出す)ことができた。(段落【0040】ないし【0044】)

(オ)上記(ア)の記載から、本件特許発明1の課題は、「フラッシングを防止して粉体を供給する」ことであると認められる。

(カ)上記(イ)及び(ウ)の記載から、「予め定められた所定の回転数」とは、「フラッシングを防止して粉体を供給する」という本件特許発明1の課題に対応して、供給(搬送)する粉体の仕様、スクリュー3の軸径、羽部3aのピッチ、シリンダ部材2の内径などに対応する「フラッシングが発生しない条件」を予めそれぞれ特定し、「フラッシングが発生しない条件」に対応する所定の回転数(制御マップなど)であると認められる。

(キ)上記(ウ)の記載から、「フラッシングを防止して粉体を供給する」という本件特許発明1の課題に対応して、粉体搬送ステップは、粉体搬入部1の内部に配置されている粉体のかさ比重より、スクリュー3とシリンダ部材2との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させることによって、搬出部2eから気体が侵入することを防止するものであると分かる。そうすると、本件特許発明1の「前記制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させ」るという発明特定事項と、「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であ」るという発明特定事項とは、制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させて、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する、所定の回転数にスクリュ13の回転数を制御するという一体不可分の発明特定事項として解するのが相当と認められる。

(ク)上記(イ)ないし(エ)の記載から、本件特許発明1の「前記制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」とは、「所定の回転数」が、供給(搬送)する粉体の仕様、スクリュー3の軸径、羽部3aのピッチ、シリンダ部材2の内径などに対応する「フラッシングが発生しない条件」に基づいて、予め定められたものであるところ、粉体の排出流量を検出し、かかる検出した排出流量から所定の回転数を算出することは、本件明細書全体をみても何ら記載がされていないことから、「粉体の排出流量」とは、供給(搬送)する粉体の仕様、スクリュー3の軸径、羽部3aのピッチ、シリンダ部材2の内径などと同様に、「所定の回転数」を予め定めるための「フラッシングが発生しない条件」に対応するパラメータの1つであると解するのが自然であり、このことは、本件特許発明1の「前記制御部は、粉体の仕様、前記スクリューの軸径、前記羽部のピッチ、前記シリンダ部材の内径及び/又は前記粉体搬入部に配置されている粉体の量に応じて、予め定められた所定の回転数で前記スクリューを回転させ」という発明特定事項と矛盾するものではない。

イ 上記ア(ア)ないし(エ)の記載、及び、(オ)ないし(ク)の事項を踏まえ、相違点1及び2について検討する。

(ア)特許法第29条第1項第3号について
上記ア(キ)の事項から、「フラッシングを防止して粉体を供給する」という本件特許発明1の課題を解決するために、「前記制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させ」るという発明特定事項と、「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であ」るという発明特定事項とは、一体不可分であるから、相違点1と相違点2とはあわせて検討する。
そして、甲第1号証には、「前記制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させ」こと、及び、「前記制御部は、粉体の仕様、前記スクリューの軸径、前記羽部のピッチ、前記シリンダ部材の内径及び/又は前記粉体搬入部に配置されている粉体の量に応じて、予め定められた所定の回転数で前記スクリューを回転させ」、「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であり」、「前記制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」ことは、開示も示唆もない。
甲第1号証の段落【0016】には、「前記スクリュ13の排出口15近傍は、該排出口15に近づく程小径となるテーパ形状とされている。これは排出される粉体に抵抗を与え、粉体の流動化減少を防止して定量送り出し精度を高めるためである。」との記載があり、仮に、排出口15のテーパ形状により、スクリュ13の回転時に、粉体貯留槽10の内部に配置されている粉体のかさ比重より、スクリュ13とスクリュフィーダ12のケーシングとの間を搬送している粉体のかさ比重を増加することがあり得るとしても、本件特許発明1は、スクリュ13の回転数を搬出部から気体が侵入することを防止する回転数に制御することにより、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させるものであるから、本件特許発明1と甲1発明とは、少なくともこの点において、実質的に相違する。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明ではないから、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明ではない。

(イ)特許法第29条第2項について
(ア)と同様に、相違点1及び相違点2をあわせて検討する。
甲2事項、甲3技術、甲4事項及び甲5技術ないし甲7技術は、いずれも、「前記制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させ」こと、及び、「前記制御部は、粉体の仕様、前記スクリューの軸径、前記羽部のピッチ、前記シリンダ部材の内径及び/又は前記粉体搬入部に配置されている粉体の量に応じて、予め定められた所定の回転数で前記スクリューを回転させ」、「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であり」、「前記制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」ことを備えるものではない。

そうすると、甲1発明に甲2事項、甲3技術、甲4事項及び甲5技術ないし甲7技術を適用して相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことということはできない。
そして、本件特許発明1は、相違点1及び相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、フラッシングを防止しつつ所望の量の粉体を供給することができるとの作用効果を奏するものである。
してみると、本件特許発明1は、甲1発明、甲2事項、甲3技術、甲4事項及び甲5技術ないし甲7技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 以上のとおりであるから、本件特許1は、特許法第29条の規定に違反してされたものではない。

2 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を置換えることなく引用するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明ではなく、また本件特許発明2は、甲1発明、甲2事項、甲3技術、甲4事項及び甲5技術ないし甲7技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件特許2は、特許法第29条の規定に違反してされたものではない。

3 小括
よって、本件特許1及び本件特許2は、特許法第113条第2号に該当するものではない。

第6 特許法第36条について
1 特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号について
(1)「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であ」る点について
上記第5 1(2)ア(キ)において説示したように、本件特許発明1の「前記制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させ」るという発明特定事項と、「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であ」るという発明特定事項とは、制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させて、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する、所定の回転数にスクリューの回転数を制御するという一体不可分の発明特定事項として解するのが相当と認められ、発明の詳細な説明の段落【0036】には、「本発明に係る粉体供給方法では、粉体搬送ステップは、粉体搬入部1の内部に配置されている粉体のかさ比重より、スクリュー3とシリンダ部材2との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させることによって、搬出部2eから気体が侵入することを防止する。」と記載されているから、本件特許発明1における気体の侵入防止手段は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(2)「前記制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」点について
上記第5 1(2)ア(ク)において説示したように、本件特許発明1の「前記制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」に関して、「粉体の排出流量」とは、供給(搬送)する粉体の仕様、スクリュー3の軸径、羽部3aのピッチ、シリンダ部材2の内径などと同様に「フラッシングが発生しない条件」に対応するパラメータの1つであることが、発明の詳細な説明から読み取ることができるから、本件特許発明1における「前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」との事項は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

2 特許法第36条第6項2号について
(1)「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であ」る点について
上記第5 1(2)ア(キ)において説示したように、本件特許発明1の「前記制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させ」るという発明特定事項と、「前記所定の回転数は、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する回転数であ」るという発明特定事項とは、制御部は、前記スクリューの回転時に、前記粉体搬入部の内部に配置されている粉体のかさ比重より、前記スクリューと前記シリンダ部材との間を搬送している粉体のかさ比重を増加させて、粉体の搬送時に、前記搬出部から気体が侵入することを防止する、所定の回転数にスクリューの回転数を制御するという一体不可分の発明特定事項として明確に把握することができる。

(2)「前記制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」点について
上記第5 1(2)ア(ク)において説示したように、本件特許発明1の「前記制御部は、前記搬出部から搬出された紛体の排出流量に基づいて、前記所定の回転数を制御する」に関して、発明の詳細な説明を参酌して、「粉体の排出流量」とは、供給(搬送)する粉体の仕様、スクリュー3の軸径、羽部3aのピッチ、シリンダ部材2の内径などと同様に「フラッシングが発生しない条件」に対応するパラメータの1つであることが、明確に把握することができる。

また、本件の特許請求の範囲の請求項1における「紛体」との記載は、「粉体」の明らかな誤記であるから、当該記載により本件特許発明1が不明確になるとまではいえない。
以上のとおり、本件の特許請求の範囲の請求項1の記載は、明確である。
本件の特許請求の範囲の請求項2についても同様である。

3 以上のとおり、本件特許1及び本件特許2は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

4 小括
よって、本件特許1及び本件特許2は、特許法第113条第4号に該当するものではない。

第7 むすび
以上のとおり、請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号及び同条第4号に該当しないから、特許異議申立ての理由に及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-27 
出願番号 特願2013-133967(P2013-133967)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B65G)
P 1 651・ 537- Y (B65G)
P 1 651・ 121- Y (B65G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加藤 昌人八板 直人  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 槙原 進
三島木 英宏
登録日 2016-11-18 
登録番号 特許第6040875号(P6040875)
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 粉体供給装置及び粉体供給装置を用いた製錬システム  
代理人 森下 梓  
代理人 ▲柳▼下 彰彦  
代理人 伊東 忠重  

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