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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C23C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C23C |
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管理番号 | 1333253 |
異議申立番号 | 異議2017-700755 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-08-01 |
確定日 | 2017-10-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6069214号発明「スパッタリングターゲットおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6069214号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6069214号は、平成24年10月25日(優先権主張 平成23年11月4日)を国際出願日とする特願2013-541734号について、平成29年1月6日に設定登録がされ、その後、その請求項1-11に係る特許に対し、特許異議申立人 笹倉 康助により特許異議の申立てがなされたものである。 第2.本件特許発明の認定 上記特許に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された次の事項により特定されるとおりのもの(以下、請求項ごとに「本件特許発明1」?「本件特許発明11」という。)と認められる。 【請求項1】 質量%で、純度が99.99%以上であり、相対密度が98%を超え、かつ平均結晶粒径が8μm以下であり、X線回折によるピーク強度比I(111)/I(200)が8%以上25%未満である酸化マグネシウム焼結体を用いたことを特徴とするスパッタリングターゲット。 【請求項2】 質量%で、純度が99.995%以上の酸化マグネシウム焼結体を用いたことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。 【請求項3】 質量%で、純度が99.999%以上の酸化マグネシウム焼結体を用いたことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。 【請求項4】 平均結晶粒径が5μm以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のスパッタリングターゲット。 【請求項5】 平均結晶粒径が2μm以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のスパッタリングターゲット。 【請求項6】 平均結晶粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のスパッタリングターゲット。 【請求項7】 X線回折によるピーク強度比I(111)/I(200)が8%以上25%未満である面が、スパッタ時のエロージョン面となるように研削加工したことを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載のスパッタリングターゲット。 【請求項8】 1250?1350℃でのホットプレス焼結を実施して焼結体を得た後、大気中で1250?1400℃のアニール処理を実施することを特徴とする、質量%で、純度が99.99%以上の酸化マグネシウム焼結体を使用したスパッタリングターゲットの製造方法。 【請求項9】 1250?1350℃でのホットプレス焼結を実施した後、大気中で1250?1400℃のアニール処理を実施して、ホットプレス面のX線回折によるピーク強度比I(111)/I(200)が8%以上25%未満である焼結体を得た後、ホットプレス面が、スパッタ時のエロージョン面となるように研削加工することを特徴とする、請求項8に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。 【請求項10】 1250?1350℃でのホットプレス焼結を実施して焼結体を得た後、大気中で1000?1250℃で、10時間以上のアニール処理を実施することを特徴とする、質量%で、純度が99.99%以上の酸化マグネシウム焼結体を使用したスパッタリングターゲットの製造方法。 【請求項11】 1250?1350℃でのホットプレス焼結を実施した後、大気中で1000?1250℃で、10時間以上のアニール処理を実施して、ホットプレス面のX線回折によるピーク強度比I(111)/I(200)が8%以上25%未満である焼結体を得た後、ホットプレス面が、スパッタ時のエロージョン面となるように研削加工することを特徴とする、請求項10に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。 第3.申立理由の概要 特許異議申立人は、上記特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「申立理由1」という)特許出願に対してされたものであり、また、上記特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「申立理由2」という)特許出願に対してされたものであるから、その特許は取り消すべきものである旨主張している。 第4.申立理由1について 本件特許明細書には、下記の記載がある。 (ア)「【0037】 焼結体は1250?1350℃でのホットプレス焼結を実施した後、大気中で1000?1400℃のアニール処理を実施することにより製造することができる。ホットプレス焼結を用いる場合、目的の焼結体と同等純度の粉末原料をカーボン製のモールド内に装填し、真空、または、窒素、アルゴン等の非酸化性雰囲気で一軸加圧焼結されることが一般的である。」 (イ)「【0038】 ホットプレス焼結の温度が1250℃未満の場合、焼結体の密度が十分に確保できず、スパッタ膜の均質性および絶縁耐圧の悪化につながる。一方、温度が1350℃を超えると、理論密度に近い緻密焼結体を得ることは可能だが、焼結中に結晶粒成長が進行し、平均結晶粒径を8μm以下に抑制することが困難となる。また、焼結温度が高くなるほど焼結体中に多数の酸素欠陥が生じ、焼結体の呈色が白色から灰色?黒色に変化する。このような酸素が欠乏した焼結体をスパッタリングターゲットに用いた場合は、スパッタ膜も同様に酸素が欠乏した状態となり、絶縁耐圧等の膜物性の悪化を招く。ただし、ホットプレス焼結体の酸素欠陥は、後から酸素を含む環境でアニーリングすることで除去が可能である。アニーリングとしては、例えば、通常の大気炉で1000?1400℃の熱処理を実施するのがよい。」 (ウ)「【0042】 大気アニール処理は、実施しないか、ホットプレス焼結後に実施したとしてもその温度が1000℃未満の場合、密度を改善できず、しかも焼結体中の酸素欠陥を十分除去できないため、前述した通りスパッタ膜の特性が低下する。一方、アニール温度が1400℃を超えると、結晶粒成長が過剰となり、スパッタ膜厚の均質性を悪化させる。また、ターゲット中に不均一な粗大結晶粒が存在すると、スパッタリングの進行に伴い大粒子が処理室内に異物として脱落することがある。脱落が生じ、ターゲット表面が荒れると、スパッタ膜の均質性を悪化させることもある。」 (エ)「【0046】 ホットプレスを用いた焼結では、一軸加圧状態で焼結と結晶成長が進行するため、材料が異方性を生じやすい。前述のように、(111)面の結晶配向が促進した酸化マグネシウムでは、均質な厚み分布を持つスパッタ膜を得にくくなる。よって、ホットプレス面のX線回折によるピーク強度比I(111)/I(200)が8%以上25%未満であるようにホットプレス焼結を行うことが好ましい。ここで、例えば、比較的高温でホットプレスをした場合には、得られた焼結体のI(111)/I(200)比が25%を超えることがある。また、例えば、平均結晶粒径が数10μm以上の水準まで粒成長を起こした焼結体の場合、I(111)/I(200)比が未満となることがある。平均結晶粒径が数10μm以上の水準まで粒成長を起こす場合としては、例えば、比較的高温条件で大気炉焼成(常圧焼成)する場合などが挙げられる。」 (オ)「【表1】 」 特許異議申立人は、本件特許発明1に係る酸化マグネシウム焼結体を得る方法について、 記載事項(ア)、(ウ)には、大気アニール温度が1000℃未満の場合、密度を改善できず、しかも焼結滞留の酸素欠陥を十分除去できないことが記載されているものの、記載事項(オ)によれば、表1のNo.14に係る酸化マグネシウム焼結体は、大気アニール温度が950℃であるにもかかわらず、相対密度が98%を超え、スパッタ特性も良好であるから、実施例の記載と発明の詳細な説明の記載とに矛盾があり、どのような温度で大気アニール処理を行えばよいかが不明である(以下、「実施可能要件1」という。)こと、及び、 記載事項(エ)には、「比較的高温でホットプレスをした場合には、得られた焼結体のI(111)/I(200)比が25%を超えることがある」に加え、「平均結晶粒径が数10μm以上の水準まで粒成長を起こした焼結体の場合、I(111)/I(200)比が未満(※「8%未満」の誤記と解される。)となることがある」と記載され、記載事項(イ)には、ホットプレスの温度が1350℃を超えると「焼結体中に結晶粒成長が進行し、平均結晶粒径を8μm以下に抑制することが困難となる」ことが記載されており、ホットプレス温度が高温となることでX線回折によるピーク強度比I(111)/I(200)が25%を超えたり、8%未満となったりするという矛盾する記載となっており、ピーク強度比I(111)/I(200)を8%以上25%未満とするために、ホットプレスの温度条件をどのように調節すれば良いかが不明である(以下、「実施可能要件2」という。)ことから、 本件特許明細書は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している(特許異議申立書第8頁第10行?第10頁第20行)。 上記の点について検討する。 (1)実施可能要件1について 記載事項(オ)によれば、本件特許明細書には、大気中で1000℃?1400℃のアニール処理を行うことで本件特許発明1に係る酸化マグネシウム焼結体が得られることが、表1のNo.5,6,8-10,12,13に記載されており、表1のNo.14に係る酸化マグネシウム焼結体は、大気アニール温度が950℃でも、本件特許発明1に係る酸化マグネシウム焼結体が得られる場合があることを示すだけであるから、当該例の記載をもって、本件特許明細書は、発明の詳細な説明において、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。 (2)実施可能要件2について 記載事項(エ)には、「平均結晶粒径が数10μm以上の水準まで粒成長を起こした焼結体の場合、I(111)/I(200)比が未満となることがある。平均結晶粒径が数10μm以上の水準まで粒成長を起こす場合としては、例えば、比較的高温条件で大気炉焼成(常圧焼成)する場合などが挙げられる。」と記載されているのであって、ホットプレス温度が高温となることで、I(111)/I(200)比が8%未満となると記載されているわけではなく、比較的高温条件で大気炉焼成(常圧焼成)する場合に、平均結晶粒径が数10μm以上の水準まで粒成長することが記載されているのである。 このことは、記載事項(オ)の表1のNo.7をみると、大気アニール(常圧と認められる)の温度が1450℃と高温である場合には、平均結晶粒径が13.5μm、プレス面のピーク強度比I(111)/I(200)が7.5%となることと整合するものである。 一方、本件特許明細書は、発明の詳細な説明において、ピーク強度比I(111)/I(200)を8%以上25%未満とするためのホットプレスの温度条件が、1250?1350℃であることが表1のNo.5,6,8-10,12,13に記載されているものであるから、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。 (3)小括 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、申立理由1には理由がない。 第5.申立理由2について 特許異議申立人は、請求項1-6には、「X線回折によるピーク強度比I(111)/I(200)が8%以上25%未満」を満たす面について、何ら規定されておらず、上記面以外の面をエロージョン面として用いた場合には、課題を解決することができない場合があることから、本件特許発明1-6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に違反する旨主張している(特許異議申立書第10頁第22行?第23行)。 そこで、本件特許発明1-6が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に違反するか否かについて検討する。 本件特許明細書の段落【0034】には、「(111)面の結晶配向が促進したスパッタリングターゲットでは、均質な厚み分布を持つスパッタ膜を得にくくなる。(111)面の結晶配向度は、酸化マグネシウムの最強ピークである(200)面とのX線回折によるピーク強度比を取ることで定量比較が可能であり、I(111)/I(200)比で8%以上、25%以下であることが好ましい。25%を超える場合は、スパッタ膜の膜厚均質性が得にくい状態となる。一方、8%未満となる場合は(200)面結晶が過成長した状態であり、スパッタ膜の絶縁耐圧と膜質均質性が損なわれる。」ことが記載されており、ピーク強度比I(111)/I(200)を所定範囲とすることで、スパッタ膜の絶縁耐圧と膜質均質性を兼ね備えるという効果が得られていることを参酌すれば、上記ピーク強度比I(111)/I(200)を満たす面がスパッタリング時のエロージョン面であることは、請求項において明記されていないとしても当業者にとって明らかであるから、本件特許発明1-6は当業者が課題を解決できると認識できるものである。 したがって、請求項1-6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、申立理由2には理由がない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1-11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-09-26 |
出願番号 | 特願2013-541734(P2013-541734) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C23C)
P 1 651・ 537- Y (C23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神▲崎▼ 賢一、今井 淳一 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 山崎 直也 |
登録日 | 2017-01-06 |
登録番号 | 特許第6069214号(P6069214) |
権利者 | 株式会社フェローテックセラミックス |
発明の名称 | スパッタリングターゲットおよびその製造方法 |
代理人 | 杉岡 幹二 |
代理人 | 特許業務法人ブライタス |
代理人 | 樺澤 聡 |
代理人 | 樺澤 襄 |
代理人 | 千原 清誠 |
代理人 | 山田 哲也 |