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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1333273
異議申立番号 異議2017-700125  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-10 
確定日 2017-10-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第5965539号発明「FePt-C系スパッタリングターゲット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5965539号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第5965539号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2014年1月31日(優先権主張2013年3月1日、同年月2日、日本国)を国際出願日とするものであり、平成28年7月8日に特許権の設定登録がなされ、平成29年2月10日付けで特許異議申立人の特許業務法人藤央特許事務所より特許異議申立書が提出され、同年5月16日付けの取消理由を特許権者の田中貴金属工業株式会社に通知し、特許権者より同年7月18日付けで意見書が提出されたものである。

II.本件特許発明について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下「本件特許発明1ないし10」といい、これらを纏めて「本件特許発明」という。)は、本件請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものでと認める。
「【請求項1】
Fe、PtおよびCを含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33at%以上60at%以下含有して残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金相中に、不可避的不純物を含む1次粒子のC同士がお互いに接触しないように分散した構造を有するFePt-C系スパッタリングターゲットであり、
前記1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であり、かつ、前記Cの全表面積のうち前記FePt系合金相に覆われている表面積は前記Cの全表面積の80%以上であることを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Fe、PtおよびCを含有し、さらにFe、Pt以外の1種以上の金属元素を含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33at%以上60at%未満、Fe、Pt以外の前記1種以上の金属元素を0at%よりも多く20at%以下含有し、かつ、Ptと前記1種以上の金属元素の合計が60at%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金相中に、不可避的不純物を含む1次粒子のC同士がお互いに接触しないように分散した構造を有するFePt-C系スパッタリングターゲットであり、
前記1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であり、かつ、前記Cの全表面積のうち前記FePt系合金相に覆われている表面積は前記Cの全表面積の80%以上であることを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Fe、Pt以外の前記1種以上の金属元素は、Cu、Ag、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bのうちの1種以上であることを特徴とする請求項2に記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記Cの結晶構造は、非晶質構造もしくはダイヤモンド構造であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記Cのターゲット全体に対する体積分率が5vol%以上60vol%以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記FePt系合金相中にさらに酸化物相が分散していることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記Cのターゲット全体に対する体積分率が5vol%以上60vol%未満であり、前記酸化物相のターゲット全体に対する体積分率が3vol%以上55vol%未満であり、かつ、前記Cと前記酸化物相との合計のターゲット全体に対する体積分率が8vol%以上60vol%以下であることを特徴とする請求項6に記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記酸化物相は、SiO_(2)、TiO_(2)、Ti_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)、Cr_(2)O_(3)、CoO、Co_(3)O_(4)、B_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、CuO、Cu_(2)O、Y_(2)O_(3)、MgO、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、Nb_(2)O_(5)、MoO_(3)、CeO_(2)、Sm_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、WO_(2)、WO_(3)、HfO_(2)、NiO_(2)のうちの少なくとも1種を含んでなることを特徴とする請求項6または7に記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記Cは、長径を短径で除した値が2以下の略球形であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項10】
相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。」

IV.特許異議申立について
特許異議申立人は、以下で示す甲第1号証を証拠方法として提出すると共に、以下で示す(A)ないし(H)を特許異議申立理由として主張する、ものと認める。
ア 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2012/086335号

イ 特許異議申立理由の概略
(A)本件特許明細書および図面には、FePt合金相の面に現れているC粒子について、【図1】の図示があるとしても、「(円形に限られない)Cの全表面積」、「(円形に限られない)Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積」を測定する方法、評価する方法に関する記載は一切なく、また、これらの方法が技術常識(標準的な手法)でもないので、本件請求項1、2に記載の「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」こと(発明特定事項)について当業者は理解することができない。
したがって、本件請求項1、2の記載は、本件特許発明1、2を明確に記載するものではないので、特許法第36条第6項第2項の規定を満たすものではない。。
また、本件請求項1又は2を引用する本件請求項3ないし10の記載も、同様である。(以下、「申立理由(A)」という。)

(B)本件特許明細書および図面には、原料粉末の粒径を測定するレーザー回析法についての記載があるとしても、この回析法で測定された平均粒径が、FePt合金相の面に現れているC粒子の平均粒径と同等であることを示す(立証する)記載はなく、また、FePt合金相の面に現れているC粒子について、【図1】の図示があるものの、「1次粒子のCの平均粒径」を測定する方法、評価する方法に関する記載は一切なく、さらに、この方法が技術常識でもないので、本件請求項1、2に記載の「1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」ること(発明特定事項)について当業者は理解することができない。
したがって、本件請求項1、2の記載は、本件特許発明1、2を明確に記載するものではないので、特許法第36条第6項第2項の規定を満たすものではない。
また、本件請求項1又は2を引用する本件請求項3ないし10の記載も、同様である。(以下、「申立理由(B)」という。)

(C)本件特許明細書および図面には、FePt合金相の面に現れているC粒子について、「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積」を測定する方法、評価する方法に関する記載は一切ないので、当業者は、どのような測定方法を用いて、本件特許発明1、2の発明特定事項の「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」ことを特定(実現)すればよいのか分からない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1、2を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないので、特許法第36条第4項第1項の規定を満たすものではない。
また、本件請求項3ないし10は、本件請求項1又は2を引用するものであるので、本件特許発明3ないし10も、同様である。(以下、「申立理由(C)」という。)

(D)本件特許明細書および図面には、原料粉末の粒径を測定するレーザー回析法についての記載があるとしても、この回析法を、FePt合金相の面に現れているC粒子の平均粒径の測定に利用することは、当業者に期待し得る程度を超える実験等を必要とするものであるので、当業者は、本件特許発明1、2の発明特定事項の「1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」ることを実施(実現)することはできない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1、2を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないので、特許法第36条第4項第1項の規定を満たすものではない。
また、本件請求項3ないし10は、本件請求項1又は2を引用するものであるので、本件特許発明3ないし10も、同様である。(以下、「申立理由(D)」という。)

(E)本件特許明細書および図面には、FePt-C系スパッタリングターゲットについて、「Fe、Pt以外の1種以上の金属元素」を用いた具体例の記載がないので、本件請求項2に記載の「Fe、PtおよびCを含有し、さらにFe、Pt以外の1種以上の金属元素(本件請求項3では、Cu、Ag、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bのうちの1種以上)を含有するFePt-C系スパッタリングターゲット」(発明特定事項)については、本願発明の課題が解決できると認識できる程度に具体例を開示して記載するものであるとはいえない。
したがって、本件請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1項の規定を満たすものではない。
また、本件請求項2を引用する本件請求項3ないし10の記載も、同様である。(以下、「申立理由(E)」という。)

(F)本件特許明細書および図面には、「Cの結晶構造は、非晶質もしくはダイヤモンド構造である」こと(発明特定事項)の具体例の記載がないので、本件請求項4に記載の「Cの結晶構造は、非晶質もしくはダイヤモンド構造である」こと(発明特定事項)については、本願発明の課題が解決できると認識できる程度に具体例を開示して記載するものであるとはいえない。
したがって、本件請求項4の記載は、特許法第36条第6項第1項の規定を満たすものではない。
また、本件請求項4を引用する本件請求項5ないし10の記載も、同様である。(以下、「申立理由(F)」という。)

(G)本件特許発明1ないし10は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。(以下、「申立理由(G)」という。)

V.取消理由通知に記載した取消理由の概要
平成29年5月16日付けの取消理由通知は、上記「IV」で示した、申立理由(A)ないし(E)および(G)を、取消理由(A)ないし(E)および(G)にするものである。

VI.当審の判断
以下、取消理由通知に記載した取消理由および申立理由(A)ないし(E)および(G)、並びに、取消理由通知に記載しなかった申立理由(F)のそれぞれについて検討する。
VI-1 取消理由および申立理由(A)について
本件特許明細書には、「得られた焼結体の組織観察を金属顕微鏡で行った。図1に本実施例1の焼結体の金属顕微鏡写真(撮影時の写真倍率は1000倍、写真中の縮尺目盛りは50μm)を示す。図1において濃い灰色の円形の部分が非晶質カーボンであり、薄い灰色の部分がFePt合金相である。また、円形のC相同士の間に黒色の部位(図1において矢印で示す部位)がいくつかあるが、この黒色の部位はボイド(空隙)である。なお、図1から明らかなように、C相は長径を短径で除した値が2以下の略球形であった。」(【0118】)との記載があり、これからして、本件特許発明の「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」こと(発明特定事項)は、金属顕微鏡写真をベースに算出されるものであるということができる。
ここで、特許権者が提出した、本件出願前に頒布された乙第1号証(特許第5714249号公報)には、「セラミックス粗大粒子1の面積は、例えば、次のような方法で求めることができる。切断面を光学顕微鏡で200倍の倍率で1.0×1.5mmの範囲について観察し、断面に現れたセラミックス粒子のうち、長径が100μm以上のセラミックス粒子をセラミックス粗大粒子として、その面積を求める。面積の求め方は、光学顕微鏡写真を画像ファイルとしてパソコンに取り込む。セラミックス粒子はマトリックスである金属と比較して黒く観察されることから、市販の画像処理ファイルにてセラミックス粗大粒子の範囲を指定し、そこから面積を計算することができる。」(【0013】)、「シリカ被覆率は、例えば次のような方法で求めることができる。まず、セラミックス粗大粒子について、走査型顕微鏡(SEM)で5000?7000倍の倍率で断面を観察し、粒子の外周部をEDXで分析する。分析は酸素について行い、セラミックス粗大粒子を被覆しているシリカを特定する。シリカの被覆層が0.5μm以上の厚さである箇所を被覆部分とし、観察したセラミックス粗大粒子の全周に対して被覆部分の割合を求め、これをシリカ被覆率とすることができる。測定は例えば、20個のセラミックス粗大粒子について行い、これらの平均値とすることができる。」(【0018】)等の記載があり、これらからして、市販の画像処理ファイル(ソフト)を用いることにより、切断面の光学顕微鏡写真を画像ファイルとしてパソコンに取り込み、切断面に現れた粒子の範囲を指定し、そこから面積、および、粒子の全周に対する被覆部分の割合を求めることは、本件出願前の周知技術であるということができる。
そうすると、本件特許発明の『金属顕微鏡写真をベースに「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」こと(発明特定事項)の算出』は、本件出願前の周知技術(市販の画像処理ファイル(ソフト)を用いる技術)に基くものであると見るのが妥当であるので、本件請求項1、2および本件請求項1又は2を引用する本件請求項3ないし10に記載の「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」こと(発明特定事項)について当業者は理解することができる。
したがって、取消理由および申立理由(A)に理由はない。

VI-2 取消理由および申立理由(B)について
本件特許明細書には、上記「VI-1」で示した【0018】の記載があり、これからして、本件特許発明の「1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」ること(発明特定事項)は、金属顕微鏡写真をベースに算出されるものであるということができる。
ここで、特許権者が提出した、本件出願前に頒布された乙第1号証(特許第5714249号公報)には、上記「VI-1」で示した【0013】、【0018】等の記載があり、これらからして、市販の画像処理ファイル(ソフト)を用いることにより、切断面の光学顕微鏡写真を画像ファイルとしてパソコンに取り込み、切断面に現れた粒子の範囲を指定すること、つまり、粒子の範囲が指定される以上、その径についても指定されることは、本件出願前の周知技術であるということができる。
そうすると、本件特許発明の『金属顕微鏡写真をベースに「1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」ること(発明特定事項)の算出』は、本件出願前の周知技術(市販の画像処理ファイル(ソフト)を用いる技術)に基くものであると見るのが妥当であるので、本件請求項1、2および本件請求項1又は2を引用する本件請求項3ないし10に記載の「1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」ること(発明特定事項)について当業者は理解することができる。
したがって、取消理由および申立理由(B)に理由はない。

VI-3 取消理由および申立理由(C)について
上記「VI-1」で示したように、本件特許発明の『金属顕微鏡写真をベースに「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」こと(発明特定事項)の算出』は、本件出願前の周知技術(市販の画像処理ファイル(ソフト)を用いる技術)に基くものであると見るのが妥当である。
そうすると、当業者であれば、どのような測定方法を用いて、本件特許発明の発明特定事項の「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」ことを特定(実現)すればよいのか理解することができる。
したがって、取消理由および申立理由(C)に理由はない。

VI-4 取消理由および申立理由(D)について
上記「VI-2」で示したように、本件特許発明の『金属顕微鏡写真をベースに「1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」ること(発明特定事項)の算出』は、本件出願前の周知技術(市販の画像処理ファイル(ソフト)を用いる技術)に基くものであると見るのが妥当である。
そうすると、当業者であれば、本件特許発明の発明特定事項の「1次粒子のCの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」ることを実施(実現)することができる。
したがって、取消理由および申立理由(D)に理由はない。

VI-5 取消理由および申立理由(E)について
本件特許明細書には、「本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであって、複数のターゲットを用いることなく、磁気記録媒体として使用可能なFePt系合金を含む薄膜を単独で形成することができ、かつ、スパッタリング時に発生するパーティクルの少ないFePt-C系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。」(【発明が解決しようとする課題】【0009】)との記載があり、これからして、本件特許発明が解決しようとする課題は、「複数のターゲットを用いることなく、磁気記録媒体として使用可能なFePt系合金を含む薄膜を単独で形成することができ、かつ、スパッタリング時に発生するパーティクルの少ないFePt-C系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する」こと(以下、「本願課題」という。)であるということができる。
ここで、本件特許明細書の【0057】ないし【0061】には、FePt系合金相においてfct(面心直方)構造を確実に発現させるものとして、例えばCu、Ag、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bを添加することの記載があり、これからして、これらの金属を添加することの技術的意義(作用機序)が示されており、また、特許権者が提出した乙第2号証(特許第5965539号 追試結果)には、Agを添加したスパッタリング(単一)ターゲット(4Fe-45Pt-10Ag)から発生するパーティクル数が有意な数であることを示す実験データ、つまり、本願課題を解決する具体例(Agを使用する例)の記載があり、さらに、上記技術的意義(作用機序)が認識された上で、Cu、Ag、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bが選択されることからして、Agと同様に、Cu、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bも本願課題を解決し得るものであると推認することができる。
したがって、本件特許明細書および図面には、本件請求項2および本件請求項2を引用する本件請求項3ないし10に記載の「Fe、PtおよびCを含有し、さらにFe、Pt以外の1種以上の金属元素(本件請求項3では、Cu、Ag、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bのうちの1種以上)を含有するFePt-C系スパッタリングターゲット」(発明特定事項)については、実質的に、本願発明の課題が解決できると認識できる程度に具体例を開示して記載するものであるということができる。
よって、取消理由および申立理由(E)に理由はない。

VI-6 申立理由(F)について
本願課題は、上記「VI-5」で示したとおりである。
本件特許明細書の【0055】には、結晶内におけC原子同士の結合力が強いため、スパッタリング時に、C(炭素)の1次粒子が崩壊してしまうおそれが小さく、C(炭素)の1次粒子の崩壊によるパーティクルの発生が少ない非晶質もしくはダイヤモンド構造の炭素を用いることの記載があり、これからして、非晶質もしくはダイヤモンド構造の炭素を用いることの技術的意義(作用機序)が示されており、また、本件特許明細書の【0115】(実施例1)、【0124】(実施例2)、【0126】(実施例3)、【0153】(実施例4)および【0187】【表1】等には、非晶質カーボンを用いた実施例1ないし4のFePt-C系スパッタリングターゲットから発生するパーティクル数が有意な数であることを示すデータ、つまり、本願課題を解決する具体例(非晶質の炭素を使用する例)の記載があり、さらに、上記技術的意義(作用機序)を認識した上で、非晶質もしくはダイヤモンド構造の炭素が選択されることからして、非晶質の炭素と同様に、ダイヤモンド構造の炭素も本願課題を解決し得るものであると推認することができる。
したがって、本件特許明細書および図面には、本件請求項4および本件請求項4を引用する本件請求項5ないし10に記載の「Cの結晶構造は、非晶質もしくはダイヤモンド構造である」こと(発明特定事項)については、実質的に、本願発明の課題が解決できると認識できる程度に具体例を開示して記載するものであるということができる。
よって、申立理由(F)に理由はない。

VI-7 取消理由および申立理由(G)について
VI-7-1 甲第1号証に記載の発明
甲第1号証には、以下の記載がある。
(a)「[0009] 本発明の課題は、高価な同時スパッタ装置を用いることなくグラニュラー構造磁性薄膜の作製を可能にする、C粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲットを提供することであり、さらには、スパッタリング時に発生するパーティクル量を低減した高密度なスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。」

(b)「[0011] このような知見に基づき、本発明は、
1)原子数における組成比が式:(Fe_(100-X)-Pt_(X))_(100-A)C_(A)(但し、Aは20≦A≦50、Xは35≦X≦55を満たす数)で表される焼結体スパッタリングターゲットであって、合金中に微細分散したC粒子を有し、かつ相対密度が90%以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット
・・・中略・・・
スパッタリングターゲット、を提供する。」

(c)「[0014] 本発明のC粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲットは、原子数における組成比が式:(Fe_(100-X)-Pt_(X))_(100-A)-C_(A)(但し、Aは20≦A≦50、Xは35≦X≦55を満たす数)で表され、強磁性母材合金中に非磁性のC粒子が均一に微細分散し、かつ相対密度が90%以上である。これが、本発明の基本となるものである。」

(d)「[0021] また、本発明のスパッタリングターゲットは、合金中に、平均面積が4μm^(2)以下のC粒子を分散させることが、特に有効である。平均面積が4μm^(2)を超えると、作製されたスパッタリングターゲットは、スパッタ時のパーティクル発生を効果的に抑制できない。なお、平均面積はスパッタリングターゲットを切り出した端材の研磨面において観察されたC粒子の面積をその個数で割り返した値として導出する。」

上記(a)ないし(d)からして、甲第1号証には、「原子数における組成比が式:(Fe_(100-X)-Pt_(X))_(100-A)C_(A)(但し、Aは20≦A≦50、Xは35≦X≦55を満たす数)で表される焼結体スパッタリングターゲットであって、C粒子が微細分散し、C粒子の平均面積が4μm^(2)(平均粒径が2.26μm)以下である、焼結体スパッタリングターゲット。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されているということができる。

VI-7-2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とを対比する。
○甲第1号証記載の発明の「原子数における組成比が式:(Fe_(100-X)-Pt_(X))_(100-A)C_(A)(但し、Aは20≦A≦50、Xは35≦X≦55を満たす数)で表される焼結体スパッタリングターゲット」は、本件特許発明1の「Fe、PtおよびCを含有するFePt-C系スパッタリングターゲット」に相当する。

○甲第1号証記載の発明の「原子数における組成比が式:(Fe_(100-X)-Pt_(X))_(100-A)C_(A)(但し、Aは20≦A≦50、Xは35≦X≦55を満たす数)で表される焼結体スパッタリングターゲット」と、本件特許発明1の「Ptを33at%以上60at%以下含有して残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金相中に、不可避的不純物を含む1次粒子のC同士がお互いに接触しないように分散した構造を有するFePt-C系スパッタリングターゲット」とは、「Ptを35at%以上55at%以下含有して残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金相中に、不可避的不純物を含むC同士が分散した構造を有するFePt-C系スパッタリングターゲット」という点で一致する。

○甲第1号証記載の発明の「C粒子の平均面積が4μm^(2)(平均粒径が2.26μm)以下であ」ると、本件特許発明1の「Cの平均粒径が1μm以上30μm以下であ」りとは、「Cの平均粒径が1μm以上2.26μm以下であ」るという点で一致する。

上記より、本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とは、
「Fe、PtおよびCを含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、Ptを35at%以上55at%以下含有して残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金相中に、不可避的不純物を含むC同士が分散した構造を有するFePt-C系スパッタリングターゲットであり、1次粒子のCの平均粒径が1μm以上2.26μm以下である、FePt-C系スパッタリングターゲット」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件特許発明1は、「1次粒子の」C同士が「お互いに接触しないように」分散した構造を有するのに対して、甲第1号証記載の発明は、C粒子(C同士)が微細分散する点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」のに対して、甲第1号証記載の発明は、この点の特定がない点。

上記両相違点をまとめて検討する。
本件特許明細書の実施例1ないし4における「C原料粉の径」、同「混合方法」は、「8μm、8μm、8μm、8μm」、「ボールを用いたタンブラーミキサーでの弱混合(15分間)、ボールを用いたタンブラーミキサーでの弱混合(15分間)、ボールを用いたタンブラーミキサーでの弱混合およびボールミルでの累積回転回数9000回、ボールミルでの累積回転回数1330560回およびボールを用いたタンブラーミキサーでの弱混合(15分間)」である。
一方、甲第1号証には、「原料粉末として平均粒径3μmのFe粉末、平均粒径3μmのPt粉末、平均粒径1μmのC粉末を用意した。C粉末は市販の無定形炭素を用いた。」([0031])(実施例1)、「次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。」([0032])(実施例1)、「次に得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨してその組織を光学顕微鏡で観察した。そして組織面上の任意に選んだ4箇所で、108μm×80μmの視野サイズで組織画像を撮影した。撮影された画像を画像処理ソフトで2値化しC粒子に該当する部分(組織観察画像の黒っぽいところ)の個数と面積を求めた。こうしてC粒子1個あたりの平均面積を計算したところ、2.9μm^(2)であった。」([0033])(実施例1)、「原料粉末として平均粒径3μmのFe粉末、平均粒径3μmのPt粉末、平均粒径3μmのCu粉末、平均粒径1μmのC粉末を用意した。C粉末は市販の無定形炭素を用いた。」([0043])(実施例2)、「次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。」([0044])(実施例2)、「次に得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨してその組織を光学顕微鏡で観察した。そして組織面上の任意に選んだ4箇所で、108μm×80μmの視野サイズで組織画像を撮影した。撮影された画像を画像処理ソフトで2値化しC粒子に該当する部分(組織観察画像の黒っぽいところ)の個数と面積を求めた。こうしてC粒子1個あたりの平均面積を計算したところ、2.7μm^(2)であった。」([0045])(実施例2)、「原料粉末として平均粒径3μmのFe粉末、平均粒径3μmのPt粉末、平均粒径1μmのC粉末を用意した。C粉末は市販の無定形炭素を用いた。」([0051])(実施例3)、「次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、16時間回転させて混合・粉砕した。」([0052])(実施例3)、「次に得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨してその組織を光学顕微鏡で観察した。そして組織面上の任意に選んだ4箇所で、108μm×80μmの視野サイズで組織画像を撮影した。撮影された画像を画像処理ソフトで2値化しC粒子に該当する部分(組織観察画像の黒っぽいところ)の個数と面積を求めた。こうしてC粒子1個あたりの平均面積を計算したところ、1.0μm^(2)であった。」([0053])(実施例3)、「原料粉末として平均粒径3μmのFe粉末、平均粒径3μmのPt粉末、平均粒径5μmのC粉末を用意した。C粉末は真比重が2.25g/ccのグラファイト粉末を用いた。」([0056])(実施例4)、「次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。」([0057])(実施例4)、「次に得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨してその組織を光学顕微鏡で観察した。そして組織面上の任意に選んだ4箇所で、108μm×80μmの視野サイズで組織画像を撮影した。撮影された画像を画像処理ソフトで2値化しC粒子に該当する部分(組織観察画像の黒っぽいところ)の個数と面積を求めた。こうしてC粒子1個あたりの平均面積を計算したところ、3.2μm^(2)であった。」([0058])(実施例4)、「原料粉末として平均粒径10μmのFe-Pt合金粉末、平均粒径1μmのC粉末を用意した。C粉末は市販の無定形炭素を用いた。」([0060])(実施例5)、「次に、秤量した粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、8時間回転させて混合・粉砕した。」([0061])(実施例5)、「次に得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨してその組織を光学顕微鏡で観察した。そして組織面上の任意に選んだ4箇所で、108μm×80μmの視野サイズで組織画像を撮影した。撮影された画像を画像処理ソフトで2値化しC粒子に該当する部分(組織観察画像の黒っぽいところ)の個数と面積を求めた。こうしてC粒子1個あたりの平均面積を計算したところ、2.6μm^(2)であった。」([0062])(実施例5)との記載があり、これらからして、実施例1ないし5における「C粉末(C原料粉)の平均粒径」、同「ターゲットの切り出し断面に現れたC粒子の平均粒径(平均面積から算出)」、同「ボールミルポットにおける混合・粉砕時間」は、「1μm、1μm、1μm、5μm、1μm」、「1.92μm、1.85μm、1.13μm、2.0μm、1.82μm」、「4時間、4時間、16時間、4時間、8時間」である。
なお、甲第1号証における実施例6はSiO_(2)粉末を原料粉として含み、同実施例7はMgO粉末を原料粉として含み、同実施例8はCr_(2)O_(3)粉末を原料粉として含むものであるので、上記においては摘示をしなかった。
上記からして、本件特許明細書における実施例1ないし4における「C原料粉の平均粒径」は、甲第1号証における実施例1ないし5の「C粉末(C原料粉)の平均粒径」よりも総じて大きく、本件特許明細書における実施例1ないし4における「混合方法(混合)」は、甲第1号証における実施例1ないし5の「混合・粉砕」よりも総じて弱いものであるので、両者は、同様の操作によって製造されたものとは言えず、両者の「ターゲットの切り出し断面に現れたC粒子の状態」が同じであるとは言い難い。
また、甲第1号証の[図1](実施例3)は、不鮮明であることからして、「ターゲットの切り出し断面に現れたC粒子の状態」を明確に把握することはできない。
そうすると、甲第1号証記載の発明は、ターゲットの切り出し断面に現れたC粒子が微細分散するものであるとしても、「1次粒子の」C同士が「お互いに接触しないように」分散した構造を有し、「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」FePt-C系スパッタリングターゲットであると断言することはできない。
さらに、一般に、「1次粒子の」C同士が「お互いに接触しないように」分散した構造を有し、「Cの全表面積のうちFePt系合金相に覆われている表面積はCの全表面積の80%以上である」FePt-C系スパッタリングターゲットが、本件特許に係る出願前の自明の事項であるともいえない。
したがって、上記両相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を構成することは、甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に想到し得るものである、とはいえない。
よって、本件特許発明1は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

VI-7-3 本件特許発明2ないし10について
本件特許発明2ないし10と甲第1号証記載の発明とを対比すると、上記「VI-7-2」で示した両相違点があるということができる。
そうすると、上記「VI-7-2」で示した理由と同じ理由より、本件特許発明2ないし10も、本件特許発明1と同じく、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

VI-7-4 小活
上記「VI-7-1」ないし「VI-7-3」より、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定に違反するものである、とはいえない。
したがって、取消理由および申立理由(G)に理由はない。

VI-8 まとめ
上記「VI-1」ないし「VI-7」からして、特許異議申立理由および取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許発明1ないし10を取り消すことはできない。

VII むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできず、また、他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-10-13 
出願番号 特願2015-502823(P2015-502823)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C23C)
P 1 651・ 537- Y (C23C)
P 1 651・ 536- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子吉野 涼  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 豊永 茂弘
宮澤 尚之
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5965539号(P5965539)
権利者 田中貴金属工業株式会社
発明の名称 FePt-C系スパッタリングターゲット  
代理人 藤田 崇  
代理人 牧野 剛博  
代理人 松山 圭佑  
代理人 高矢 諭  

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