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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) B65H
管理番号 1333275
判定請求番号 判定2017-600011  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 判定 
判定請求日 2017-02-14 
確定日 2017-10-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3798228号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号取扱説明書、イ号写真及びイ号動画に示す丁合機は、特許第3798228号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨

請求人の請求の趣旨は、判定請求書に添付したイ号取扱説明書、イ号写真及びイ号動画に示す丁合機(以下、「イ号物件」という。)は、特許第3798228号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 手続の経緯及び本件特許発明

1.手続の経緯
平成12年 6月21日 特許出願(特願2000-186913号)
平成18年 4月28日 特許登録
平成29年 2月14日 本件判定請求書の提出
同 年 3月20日 判定請求答弁書の提出(被請求人)
同 年 5月 1日 弁駁書の提出(請求人)
同 年 6月 8日 上申書の提出(被請求人)

2.本件特許発明
請求人が上記判定を求める特許第3798228号に係る特許発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって、その構成を構成要件毎に符号を付して分説すると、次のとおりである(以下、分説した各構成要件を「構成要件A」ないし「構成要件G」という。)。

「A 複数のシート束からシートを1枚づつ繰り出し丁合してシートセットを作成する丁合装置において、
B シート束を格納し前記シート束からシートを1枚づつ繰り出す複数段の給紙装置と、
C 前記各給紙装置から前記シートを繰り出すタイミングを調節する複数個のタイミング調節部と、
D 前記タイミング調節部による調節量を設定する複数個の給紙タイミングキーと、
E 前記タイミングキーが設置された複数個の操作パネルと、を有し、
F 前記操作パネルは前記給紙装置毎に設けられていることを特徴とする
G 丁合装置。」

3.本件特許発明の目的及び効果
ア.本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、本件特許発明が解決しようとする課題について、「捌き圧を各給送装置毎に設定することにより生じる各給紙装置82、83間の捌き圧の差は、シートSの搬送タイミングに影響を与える。」、「丁合されたシートセット75、76内のシートSの先端が不揃いとなり、新聞等にこの丁合されたシートセット75、76を組み込むときに、不揃いのシートSの先端が折れてしまい、ちらしとしての商品価値を下げていた。また、新聞等にこの丁合されたシートセット75、76を組み込むときに、組み込み辛くなり、例えば作業者が手作業でシートSの先端の不揃いを揃え直していた。」(段落【0021】及び【0022】)、「従来の新聞広告丁合装置80には、搬送ローラ92、99がシートSを再搬送する給紙(再搬送)タイミングの調節機能を備えた操作パネルがなかった。」(段落【0023】)、及び、「従来の給紙タイミングの調節は、各棚に専用キーが配置されていないため、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートSのタイミングの調節を行い、その後、通常モードに戻り、丁合作業を再開していた。このため、シートSの調節操作が複雑であり、且つ時間を要していた。また、丁合装置の稼働中には調節ができないという問題点がある。」(段落【0024】)と記載されている。
また、本件特許発明の目的について、「本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、複数の給紙装置から丁合されて給送されたシートの先端を確実に揃えることができる丁合装置を提供することを目的とする。」(段落【0025】)と記載されている。
また、本件特許発明の作用効果について、「次順の丁合においては、シートの先端が揃うようにシートの繰り出しタイミングを調節して各シートの先端が揃った状態のシートセットを容易に作成することができる。従って、シート繰り出しタイミングの調節後は、手作業でシート束の先端を揃え直す必要がなくなる。」(段落【0027】)、「本発明においては、丁合装置にて丁合が完了したシートセットのうち、シートの先端が不揃いとなったシートの修正を行うとき、棚状に複数段に配置された各給紙装置に操作パネルが設けられ、各操作パネルの表示部には給紙装置の識別番号が表示されているので、丁合が完了したシートセットのうち、先端が揃っていないシートとそのシートが格納されていた給紙装置との関連が明白である。即ち、作業者はどこの給紙装置を調節してシートセットの先端を揃えればよいか直ちにわかる。このため、丁合装置の取り扱いが容易である。」(段落【0029】)、及び、「前記操作パネルは、各給紙装置毎に設けられており、シートの不揃いを生じた給紙装置の認識及び調節が容易であると共に、この操作パネルを前記給紙装置が設けられたフレームの各給紙装置の近傍に取り付けることにより、操作性が著しく向上する。」(段落【0030】)と記載されている。

イ.本件特許発明の目的及び効果
以上を総合すると、本件特許発明は、「丁合されたシートセット75、76内のシートSの先端が不揃いとな」り、「給紙(再搬送)タイミングの調節機能を備えた操作パネルがな」く、「各棚に専用キーが配置されていないため、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートSのタイミングの調節を行い、その後、通常モードに戻り、丁合作業を再開していた」ため、「シートSの調節操作が複雑であり、且つ時間を要していた」という課題を解決することを目的とし、上記構成要件A?Gを有する丁合装置により、「各シートの先端が揃った状態のシートセットを容易に作成することができる」、「作業者はどこの給紙装置を調節してシートセットの先端を揃えればよいか直ちにわかる」ため「丁合装置の取り扱いが容易である」、及び、「前記操作パネルは、各給紙装置毎に設けられており、シートの不揃いを生じた給紙装置の認識及び調節が容易である」という効果を奏するものと認められる。

第3 請求人の主張

1.請求人が提出した証拠方法
請求人からは、以下の書証が提出されている。
(1) 甲第1号証 本件特許公報(特許第3798228号)
(2) 甲第2号証 特開平11-79417号公報
(3) 甲第3号証 特開2005-330097号公報
(4) 甲第4号証 ‘’ニュースリリース 2011年ニュースリリース一覧‘’、[online]、株式会社日立製作所、[2017年2月13日検索]、インターネット<URL:http://pressio.co.jp/news/news_list2011.html>
(5) 甲第5号証 ‘’針に頼らない丁合機 プレッシオが「TZシリーズ」発表 23段機、25段機を先行発売‘’、新聞情報すぺしある版、第5281号、新聞情報社、2011年7月9日、第1面

2.請求人の主張するイ号物件
請求人は、平成29年2月14日付け判定請求書において、イ号物件の構成について以下のとおり分説して記載している(第5ページ第14行?第6ページ第1行。以下、分説した各構成を「構成a」ないし「構成g」という。)。

「a 複数の広告の束から広告を1枚づつ繰り出し丁合して広告セットを作成する丁合装置において、
b 広告の束を格納し前記広告の束から広告を1枚づつ繰り出す複数段のテーブルと、
c 前記テーブルから前記広告を繰り出すタイミングを調節する複数個の電磁クラッチと、
d 前記電磁クラッチによる調節量を設定する複数個の給紙タイミングキーと、
e 前記給紙タイミングキーが設置された紙揃え調整テーブル専用画面と、を有し、
f 前記紙揃え調整テーブル専用画面は前記テーブル毎に設けられていることを特徴とする
g 丁合機。」

3.請求人の主張の概要
請求人は、判定請求書及び弁駁書において、概ね次の理由により、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する旨を主張している。
(1)イ号物件は構成aないしgを備えるものであって、構成aないしgは本件特許発明の構成要件AないしGにそれぞれ一致する(判定請求書第5ページ第14行?第71ページ第15行)。
ア.イ号物件の「進む」及び「遅れる」ボタンは実質的にテーブルの数分用意されているといえるから、構成dは構成要件Dに一致する(判定請求書第70ページ第9?15行)。
イ.イ号物件の「紙揃え調整画面」はテーブル毎に複数個の「紙揃えテーブル専用画面」を備えているといえ、個々の「紙揃えテーブル専用画面」はテーブルと1対1で対応しており、ユーザの「操作」に供されるものであるから、構成要件E及びFの「操作パネル」に相当する。したがって、構成e及びfは、それぞれ構成要件E及びFに相当する(判定請求書第70ページ第16行?第71ページ第9行)。
(2)仮にイ号物件が「給紙タイミングキー」を複数個備えていないという点で構成要件Dと文言上相違するとしても、イ号物件の「給紙タイミングキー」は構成要件Dと均等なものであり、仮に構成e及びfが構成要件E及びFとそれぞれ文言上相違するとしても、当該相違点は構成要件E及びFとそれぞれ均等なものである(判定請求書第71ページ第16行?第79ページ第28行)。

第4 被請求人の主張

1.被請求人が提出した証拠方法
被請求人からは、以下の書証が提出されている。
(1) 乙第1号証 特開平4-323163号公報
(2) 乙第2号証 本件特許出願の平成18年4月10日付け特許メモ
(3) 乙第3号証 イ号丁合機写真
(4) 乙第4号証の1 イ号丁合機動画1(通常カウンター画面)
(5) 乙第4号証の2 イ号丁合機動画2(区域カウンター画面)
(6) 乙第5号証 Duplo 取扱説明書 折込広告丁合機 EPコレータ

2.被請求人の主張の概要
被請求人は、判定請求答弁書及び上申書において、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属さない理由を概ね次のように主張している。
(1)本件特許発明では「複数」の文言を物理的な個数を意味するものとして用いている。また、実施例として、複数個の「操作パネル」を複数段ある「給紙装置」毎に物理的に設けたものが示され、それ以外は記載されていない。これに対し、イ号物件は液晶モニターが1つあるのみで、給紙タイミングキーが設置された複数個の操作パネルが給紙装置毎に設けられていないから、構成要件D、E及びFを充足しない(判定請求答弁書第2ページ第24行?第7ページ第3行)。
(2)本件特許発明の作用効果を奏するためには、給紙タイミングキーが設置された複数個の操作パネルが、複数段ある給紙装置毎に物理的に設けられる必要があることは、本件特許明細書の記載から明らかである。したがって、構成要件D、E及びFは本件特許発明の本質的部分であり、これらの構成要件を欠くイ号物件は均等論の第1要件を充足しない。また、イ号物件は本件特許発明と同一の作用効果を奏するとはいえないから、第2要件も充足しない(判定請求答弁書第7ページ第6行?第15ページ第12行)。

第5 当審の判断

1.本件特許発明について
(1)本件特許発明の「丁合装置」は、「複数段の給紙装置」、「複数個のタイミング調節部」、「複数個の給紙タイミングキー」及び「複数個の操作パネル」を有するところ、「複数」の一般的な語義は「二つ以上の数」であり、「個」の一般的な語義は「ものを数える語」であるところ(株式会社岩波書店『広辞苑第六版』)、ものを数えることは,ある一時点における「もの」の状態を念頭に観念することが通常であるから、ものが「複数個」あるとは、ものが、ある一時点において(すなわち、同時に)、二つ以上の個数存在していることを要すると解するのが自然である。また、「段」も「個」と同様にものを数える語として用いられていることは明らかであるから、「複数段」についても「複数個」と同様に解するのが自然である。
そうすると、本件特許発明の構成要件BないしEの「複数段の給紙装置と、……複数個のタイミング調節部と、……複数個の給紙タイミングキーと、……複数個の操作パネルと、を有し」は、「同時に二つ以上の段数の給紙装置と、……同時に二つ以上の個数のタイミング調節部と、……同時に二つ以上の個数の給紙タイミングキーと、……同時に二つ以上の個数の操作パネルと、を 有し」を意味し、構成要件Fの「前記操作パネルは前記給紙装置毎に設けられている」は、「給紙装置」が「同時に二つ以上の段数」あるとともに「操作パネル」が「同時に二つ以上の個数」あるのだから、「同時に二つ以上の個数の操作パネルが同時に二つ以上の段数の給紙装置に対して給紙装置毎に設けられている」ことを意味すると解される。
そして、構成要件Eの「前記タイミングキーが設置された複数個の操作パネル」との事項を踏まえると、給紙タイミングキーと給紙装置との関係について、本件特許発明は、「同時に二つ以上の個数の給紙タイミングキーが同時に二つ以上の段数の給紙装置に対して給紙装置毎に設けられている」ことを要するといえる。

また、「パネル」の一般的な語義は「鏡板。羽目板。」、「配電盤の基板。列盤。」等であって(株式会社岩波書店『広辞苑第六版』)、これらは板状の部材からなる点で共通するから、本件特許発明の「操作パネル」も板状の部材を含むものと解される。そうすると、「複数個の操作パネル」、すなわち、「同時に二つ以上の個数の操作パネル」があるといえるためには、板状の部材を含む「操作パネル」が同時に二つ以上の個数あることを要するというべきであって、1個の板状の部材を含む「操作パネル」に複数パターンの画面が表示されるものまでを含むものではないと解するのが自然であり、この理解に反する本件特許明細書の記載はない。

(2)一方、請求人は、本件特許明細書の段落【0024】の記載について、「ウ.ここで、上記従来の給紙タイミングの調節方法について、簡単に説明しておくと、従来は、各棚に専用キーがなかったため、ユーザーは調節対象の棚に直接アクセスすることができず、1つの棚指定キーを操作して、棚指定キーによって指定される棚を1つずつ切り換えるということを、調節対象の棚に達するまで繰り返すことにより、調節対象となる棚を「選択」する(以下単に「選択」とも表記する)、といった非常に煩わしい作業が必要であった。」(判定請求書第4ページ第21?26行)とした上で、本件特許発明について、「エ.本件特許発明では、この煩わしい「選択」を不要とするために、棚毎に専用キーを設け、専用キーの操作により、対応する棚の給紙タイミングを調節するという、専用キーと棚との1対1の対応関係を実現したのである。そうすれば、ユーザが調節対象の棚に直接アクセスできるから、調節対象の棚の「選択」を不要とすることができるのである。」及び「オ.すなわち、本件特許発明は、各棚に対応して給紙タイミングの調節を行う専用キーが配置されておらず、調節操作が複雑で、且つ時間を要していたという従来技術の課題を解決するために、上記専用キーに相当する操作パネルを給紙装置毎に対応させて設けたことを特徴とするものである。」(判定請求書第5ページ第1?9行)と主張している。

しかしながら、上記の検討のとおり、本件特許発明は、「同時に二つ以上の個数の給紙タイミングキー」を備えるとともに、「同時に二つ以上の個数の操作パネルが同時に二つ以上の段数の給紙装置に対して給紙装置毎に設けられている」と解される、すなわち、「給紙タイミングキー」と「操作パネル」が、それぞれ、同時に、二つ以上の個数存在していることを要すると解されるのであって、請求人が主張する「操作パネルを給紙装置毎に対応させて設けた」ものや、「専用キーに相当する操作パネルを給紙装置毎に対応させて設けた」ことのように、操作パネルや専用キーといった要素が各給紙装置に1対1で対応することを観念できれば足りると解することは、各構成要件の文言上、不自然である。

この点に関し、請求人は、本件特許明細書の段落【0024】の記載について、「1つの棚指定キーを操作して、棚指定キーによって指定される棚を1つずつ切り換えるということを、調節対象の棚に達するまで繰り返す」という特定の態様で棚を選択するものを挙げて「非常に煩わしい作業が必要であった」とも主張している。しかしながら、同段落には「従来の給紙タイミングの調節は、各棚に専用キーが配置されていないため、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートSのタイミングの調節を行い、その後、通常モードに戻り、丁合作業を再開していた。このため、シートSの調節操作が複雑であり、且つ時間を要していた。」と記載されているにとどまるから、請求人が主張する上記の特定の態様が従来技術であることについては明記されておらず、むしろ、本件特許発明は、請求人が主張する上記の特定の態様のものではなく、各棚に専用キーが配置されていないため、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択するものすべてを、解決すべき課題を有する従来の技術とするものであると認められる。
したがって、操作パネルや専用キーといった要素が各給紙装置に1対1で対応することを観念できれば足りるとの趣旨と解される請求人の主張が、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調整モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択する態様であっても、本件特許発明の技術的範囲に含まれ得るとのことであるならば、請求人の主張は、本件特許発明における従来の技術を、本件特許発明の技術的範囲に含めるものにほかならず、失当というべきである。

(3)そして、以上のことは、以下の点からも裏付けられる。

すなわち、本件特許明細書を参酌すると、本件特許発明は、上記「第2 3.」のとおり、「各棚に専用キーが配置されていないため、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートSのタイミングの調節を行い、その後、通常モードに戻り、丁合作業を再開していた」ため、「シートSの調節操作が複雑であり、且つ時間を要していた」(段落【0024】)という課題を解決することを目的のひとつとし、「前記操作パネルは、各給紙装置毎に設けられており、シートの不揃いを生じた給紙装置の認識及び調節が容易である」(段落【0030】)という効果を奏するものである。

また、本件特許明細書の【発明の実施の形態】の欄には、以下の記載がある。
「【0061】
次に、このように不揃いとなった丁合セット内のシートS4の修正方法について説明する。先ず、図18に示すように、丁合が完了したシートセット75は、シートS4が他の給紙装置7(7a乃至7j)及び8(8a乃至8j)から給送されたシートSに対して遅れた状態なので、各給紙装置7a乃至7j及び8a乃至8jに夫々配置されている操作パネル14(14a乃至14t)のうち、第4の給紙装置7dの操作パネル14d(図2参照)を選択する。
【0062】
図10(a)は本実施例の操作パネルの操作手順を示す模式図、(b)は(a)の次の工程を示す模式図、図11(a)及び(b)はその次ぎの操作手順を工程順に示す模式図である。先ず、図10(a)に示すように、操作パネル14dの表示部15に給紙装置の棚番号が「4」が表示されているので、作業者はこの操作パネル14dを簡単に選択することができる。
【0063】
次に、図10(b)に示すように、この選択した棚番号「4」の操作パネル14dの給紙タイミングキー18の進むキー18bを1回押す。すると、操作パネル14dの表示部15の表示は棚番号の表示から給紙タイミングレベル表示に切り替わり、操作パネル14dの表示部15に現状の給紙タイミング(図8参照)である「0」(基準値)が表示される。
【0064】
そして、操作パネル14dの表示部15に「0」が表示されている間にもう1度、給紙タイミングキー18の進むキー18bを押すと、図11(a)に示すように、操作パネル14dの表示部15の表示(給紙タイミングレベル)が「1」に変わる。即ち、第4の給紙装置7dの給紙制御タイミングが基準値から給紙タイミングレベル1に変更される。
【0065】
更にもう1度、給紙タイミングキー18の進むキー18bを押すと、図11(b)に示すように、操作パネル14dの表示部15の表示(給紙タイミングレベル)が「2」に変わる。即ち、第4の給紙装置7dの給紙制御タイミングが給紙タイミングレベル1から給紙タイミングレベル2に変更される。」

上記の実施の形態は、「各給紙装置7a乃至7j及び8a乃至8jに夫々配置されている操作パネル14(14a乃至14t)のうち、第4の給紙装置7dの操作パネル14d(図2参照)を選択する。」、及び、「次に、図10(b)に示すように、この選択した棚番号「4」の操作パネル14dの給紙タイミングキー18の進むキー18bを1回押す。」との記載から見て、 本件特許明細書に記載された実施の形態は,メインの操作パネル上で給紙タイミングの調整モードに入り,給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択する態様ではなく,「操作パネルが各給紙装置に夫々配置されている」ことによって、本件特許発明の上記の課題を解決するものであると認められる。そして、当該実施の形態の「操作パネルが各給紙装置に夫々配置されている」との技術事項は、本件特許発明において「同時に二つ以上の個数の操作パネルが同時に二つ以上の段数の給紙装置に対して給紙装置毎に同時に設けられている」、すなわち、「給紙タイミングキー」と「操作パネル」が、それぞれ、同時に、二つ以上の個数存在しているとの上記解釈に整合するものである。
他方,本件特許明細書には,このような実施の形態のみ記載されており,請求人が主張する解釈を裏付ける実施の形態の記載はない。
そうすると,上記(1)で示した本件特許発明の解釈は,本件特許明細書によって裏付けられているといえる。

2.請求人提出書類等について
(1)イ号取扱説明書について
ア.表紙には、「新聞広告自動丁合機」と記載されている。

イ.第5ページには、上部に「1 各部の名称と機能」と記載されている。また、右下に装置が図示されており、当該装置の図からは引き出し線が引かれてその各部が図示されるとともに、「(D)液晶モニター」及び「(I)ミス給紙スイッチ」等の説明が付されている。そして、上記ア.を踏まえると図示された装置が「新聞広告自動丁合機」であることは明らかであり、図と説明との対応関係から見て、「新聞広告自動丁合機」に1個の「液晶モニター」及び複数の「ミス給紙スイッチ」が設けられていることが看取できる。

ウ.第7ページの「名称と機能一覧」の表には、「液晶モニター」について「折込み枚数の設定、区域の設定、区域の作業時や紙揃え調整に使用します。」と記載されるとともに、「ミス給紙スイッチ」について「押すとランプが点灯して、その棚のチラシを給紙する状態になります。止める時は再度押すとランプが消灯します。給紙ミス・紙の有無を検知します。」と記載されている。

エ.第8ページには、「4.各段のテーブルにそれぞれの広告をセットします。\・1段当たり600?1000枚程度セットが可能です。」(「\」は原文における改行箇所を示す。以下、同様。)及び「2)広告は良くそろえて積んで下さい。」と記載されている。

オ.第10ページには、「9.テスト給紙したい段のミス(又は給紙)スイッチ(I又はJ)を押して下さい。\・広告が送り込まれる状態を観察します。\1)多重送りの発生する恐れがある広告に対しては、「紙サバキダイヤル」(L)を数字の大きい方へ回して下さい。」と記載されている。

カ.第11ページには、「12.液晶モニター(D)のカウンターをお好みのカウンターに設定し、スタートスイッチ(E)を押して下さい。\・2?3セットできあがった時に機械を止めて、セットされた広告を確認することをお勧めします。」と記載されている。

キ.第13ページの「(3)液晶パネル(D)画面種類の説明」の項には、「・紙揃い調整画面 (各テーブルの紙の先行・遅れを調整する場合)」と記載されている。

ク.第14ページには「(1)電源の投入\<1>電源スイッチ(H)をONにすると待機画面がでます。\メイン基板と液晶パネルの間で基本データーの確認(通信)を行っている状態なのでしばらくお待ちください。(この間、『スタート』及び『テスト』スイッチは使えません。)\↓\↓\電源を切った時の[カウンタ画面]を表示([通常カウンタ]又は[区域カウンタ])」と記載され、その右側には「[(D)液晶モニターの表示]」との説明が付された図が配されている。

ケ.第26ページの「(7)紙揃え調整」の「<1>」の項には、左側に「[通常カウンター画面]から\《調整》を押して下さい。」(《調整》は原文において「調整」の文字が網掛けされていることを示す。以下、同様。)と記載されるとともに、右側に「[区域カウンター画面]から\《調整》を押して下さい。」と記載されている。また、それぞれの「《調整》」の記載の下には「↓」を介して図が配されて、当該図にはそれぞれの右上部に《調整》と表示され、それぞれの《調整》の表示には吹き出しで「押す」と記載され、当該吹き出しから同ページ右側の上から2番目の「紙揃え調整画面(8)」と表示された図まで矢印が引かれている。

コ.第26ページの「(7)紙揃え調整」の「<2>」の項には、「[紙揃え調整画面]から\○1調整したいテーブルの\《01 00》を押す。\(番号が黄色に変化し変更可能に)\《01 00》入力可能状態\↓○2《遅れる》又は《進む》を押してタイミングを調整」(「○1」は1を○で囲んだ丸数字を示す。以下、同様。)、「一回押すことで《遅れる》は[+1]、《進む》は[-1]ずつ値が変化します。」、「○3調整が終わったら\《終了》を押して\もとの画面に戻します。」及び「・この調整は紙の紙質等による送りの違いを調整するためのものです。」と記載されている。また、右側の上から2番目の「紙揃え調整画面(8)」と表示された図に、《遅れる》及び《進む》と表示されるとともに、《01 00》、《02 00》…《11 00》が下から上へ並んで表示され、このうち、左側の《01》、《02》…《11》の列には吹き出しで「テーブルNo.」と、右側の《00》、《00》…《00》の列には吹き出しで「調整値」とそれぞれ記載されるとともに、左側の《01》には吹き出しで「○1押す」と記載されている。

(2)イ号写真及びイ号動画について
サ.イ号写真2eからは、イ号物件が、複数の棚と各々の棚に対応する軸を有し、軸にベルトが掛け回された点を看取することができる。

シ.イ号写真2gないし2jからは、イ号物件が、複数の軸を有し、軸にはベルトが掛け回されるとともに、電磁クラッチが設けられた点を看取することができる。

ス.イ号取扱説明書第5ページの図を参照すると、イ号写真2h並びにイ号動画1及び2からは、イ号物件が1個の「液晶モニター」を備えることを看取することができる。

セ.イ号写真3及びイ号動画2からは、イ号物件がシートの束からシートを給紙することを看取することができる。

3.イ号取扱説明書、イ号写真及びイ号動画により認められる事項
(a)上記ア.によれば、イ号物件は新聞広告自動丁合機であるといえる。
上記ウ.及びエ.の記載を照合すると、「段」は「棚」を指すといえ、また、「広告」は「チラシ」を指すとともに上記セ.の「シート」に対応するといえる。上記セ.によれば、シートは束をなし、上記エ.によれば、各段(棚)のテーブルには1段当たり600?1000枚程度の広告がセット可能であり、広告は良くそろえて積まれているから、広告は束をなし、広告の束は複数あるといえる。
上記オ.によれば、広告が送り込まれる状態を観察し、多重送りが発生する恐れがある場合には紙サバキダイヤル(L)の調整が行われるのだから、通常の状態では広告が送り込まれる際に多重送りは発生せず、広告は1枚ずつが送り込まれると認められる。
上記ア.によれば、イ号物件が新聞広告を丁合することは明らかであり、上記カ.によればセットされた広告ができあがるのだから、イ号物件は丁合して広告のセットを作成するといえる。

(b)上記(a)のとおり、各段(棚)のテーブルには広告の束がセットされ、広告は広告の束から1枚ずつ送り込まれるから、イ号物件が、各段(棚)に、テーブルに広告の束がセットされ、広告の束から広告が1枚ずつ送り込まれる機構を備えていることは明らかである。そして、広告をセットし送り込むことは給紙の一部に他ならないから、当該機構は広告を給紙する機構(以下、「給紙機構」という。)であるといえる。

(c)上記キ.によれば、「紙揃い調整画面」は各テーブルの紙の先行・遅れを調整する場合に用いるものであり、上記キ.及びコ.を照合すると「紙揃い調整画面」が「紙揃え調整画面」を指すことは明らかであり、上記エ.によれば、テーブルには広告がセットされるから「各テーブルの紙」が広告であることも明らかである。上記コ.によれば、紙揃え調整においては《遅れる》又は《進む》を押してタイミングを調整しており、紙揃え調整は紙の紙質等による送りの違いを調整するためのものである。そうすると、紙揃え調整においては、紙送りのタイミングを調整するといえる。
また、上記サ.及びシ.によれば、イ号物件は、各々の棚に対応する軸、軸に掛け回されたベルト、及び、軸に設けられた電磁クラッチを有しているといえる。そして、上記(b)のとおりイ号物件が給紙機構を備えることに照らせば、これらの軸、ベルト及び電磁クラッチが給紙機構を構成することは明らかであって、その通常の機能・作用を踏まえると、電磁クラッチが軸を回転及び停止させて給紙を制御するものであることも当業者にとって明らかであるから、イ号物件は給紙を制御するための機構を備えているといえる。
そうすると、イ号物件は各テーブルの広告の紙送りのタイミングを調整しており、そのための機構(以下、「タイミング調整機構」という。)を有しているといえる。また、タイミングの調整は各テーブルの紙に対して行われており、上記(b)のとおり、テーブルは給紙機構の一部であるから、タイミング調整機構は、各々の給紙機構からの広告の紙送りのタイミングを調整するものであり、複数設けられているといえる。

(d)上記コ.によれば、紙揃え調整において、《遅れる》又は《進む》を押してタイミングを調整しており、一回押すことで《遅れる》は[+1]、《進む》は[-1]ずつ値が変化するから、《遅れる》及び《進む》はタイミングの調整の量を設定するキーであるといえる。

(e)上記キ.ないしコ.によれば、「通常カウンター画面」、「区域カウンター画面」及び「紙揃え調整画面」は「液晶モニター」に表示される画面であるといえる。上記コ.によれば、《遅れる》及び《進む》は1個ずつが紙揃え調整画面に表示される。そうすると、《遅れる》及び《進む》キーは液晶モニターに表示される紙揃え調整画面に設けられているといえる。

(f)上記イ.、ウ.及びキ.の記載を照合すると、「液晶モニター」と「液晶パネル」とが同じものを指すことは明らかであり、上記イ.及びス.によれば、イ号物件は1個の液晶モニター(液晶パネル)が設けられたものであるといえる。そして、上記コ.によれば、「液晶モニター」に表示される「紙揃え調整画面」において、調整したいテーブルの《01 00》を押し、《遅れる》又は《進む》を押してタイミングを調整するから、上記(c)での検討も踏まえると、液晶モニター(液晶パネル)は複数の給紙機構に対して設けられているといえる。

4.当審によるイ号物件の認定
上記(a)ないし(f)の事項からみて、イ号物品の構成を、本件特許発明の構成要件の分説と対応するように分説すると、イ号物品は次の構成を具備するものである(以下、分説した各構成を「構成A2」ないし「構成G2」という。)。

「A2 複数の広告の束から広告を1枚ずつ送り込み丁合して広告のセットを作成する新聞広告自動丁合機において、
B2 広告の束をセットし広告の束から広告を1枚ずつ送り込む各段の給紙機構と、
C2 各々の給紙機構からの広告の紙送りのタイミングを調整する複数のタイミング調整機構と、
D2 タイミング調整機構によるタイミングの調整の量を設定する1個の《遅れる》及び1個の《進む》キーと、
E2 《遅れる》及び《進む》キーが設けられた紙揃え調整画面が表示される1個の液晶パネルと、を有し、
F2 1個の液晶パネルが複数の給紙機構に対して設けられている
G2 新聞広告自動丁合機。」

5.当審の対比・判断
(1)本件特許発明の各構成要件とイ号物件の各構成との対比・判断
イ号物件が本件特許発明の構成要件AないしGを充足するか否かについて、構成要件AないしGをイ号物件の構成A2ないしG2にそれぞれ対応させて、対比検討する。

ア.構成要件Aについて
イ号物件の「広告」は本件特許発明の「シート」に相当し、同様に「広告の束」は「シート束」に、「新聞広告自動丁合機」は「丁合装置」にそれぞれ相当する。
イ号物件の構成A2の「広告を1枚ずつ送り込み丁合して」は本件特許発明の構成要件Aの「シートを1枚づつ繰り出し丁合して」に相当し、同様に「広告のセットを作成する」は「シートセットを作成する」に相当する。
したがって、イ号物件の構成A2は、本件特許発明の構成要件Aを充足する。

イ.構成要件Bについて
イ号物件の構成B2の「広告の束をセットし」は本件特許発明の構成要件Bの「シート束を格納し」に相当し、同様に「広告の束から広告を1枚ずつ送り込む」は「シート束からシートを1枚づつ繰り出す」に、「各段の給紙機構」は「複数段の給紙装置」にそれぞれ相当する。
したがって、イ号物件の構成B2は、本件特許発明の構成要件Bを充足する。

ウ.構成要件Cについて
イ号物件の構成C2の「各々の給紙機構からの広告の紙送りのタイミングを調整する」は本件特許発明の構成要件Cの「各給紙装置から前記シートを繰り出すタイミングを調節する」に相当し、同様に「複数のタイミング調整機構」は「複数個のタイミング調節部」に相当する。
したがって、イ号物件の構成C2は、本件特許発明の構成要件Cを充足する。

なお、上記構成要件AないしCの充足性について、当事者の間に争いはない。

エ.構成要件DないしFについて
イ号物件の構成D2の「タイミング調整機構によるタイミングの調整の量を設定する」は、本件特許発明の構成要件Dの「タイミング調節部による調節量を設定する」に相当する。

本件特許発明の明細書には、「各給紙装置7及び8の給紙タイミングを調整するための給紙タイミングキー18(18a及び18b)」(段落【0034】)、「給紙タイミングキー18の進むキー18b」(段落【0063】)及び「給紙タイミングキー18の遅れるキー18a」(段落【0069】)と記載されているから、本件特許発明の「給紙タイミングキー」は「遅れるキー18a」及び「進むキー18b」の総称であるといえる。そうすると、イ号物件の構成D2の「タイミング調整機構によるタイミングの調整の量を設定する1個ずつの《遅れる》及び《進む》キー」は、「タイミング調節部による調節量を設定する1個の給紙タイミングキー」といえ、構成E2の「《遅れる》及び《進む》キーが設けられた紙揃い調整画面が表示される1個の液晶パネル」は、「給紙タイミングキーが設置された紙揃え調整画面が表示される1個の液晶パネル」といえる。
そうすると、本件特許発明は、上記1.での検討のとおり、「二つ以上の個数の給紙タイミングキー」及び「二つ以上の個数の操作パネル」とを同時に有し、「二つ以上の個数の操作パネルが二つ以上の段数の給紙装置に対して給紙装置毎に同時に設けられている」と解されるのに対して、イ号物件は、1個の給紙タイミングキー及び1個の液晶パネル(操作パネル)が設けられており、また、構成F2のとおり、1個の液晶パネル(操作パネル)が複数の給紙機構に対して設けられているから、二つ以上の個数の給紙タイミングキー及び操作パネルを同時に有するものではなく、操作パネルが給紙装置毎に同時に設けられているものでもない。

請求人は、構成要件Dの充足性について、判定請求書において、「そうすると、「テーブルボタン」と「進む」「遅れる」ボタンとが、指定されたテーブルごとに1対1で連携して、「電磁クラッチによる変化の幅の調整」、すなわち、「給紙タイミング」を調整するという機能を実現することになる。上記連携は、22個のテーブルごとに存在するのであるから、「進む」「遅れる」ボタンは、テーブルごとに、複数個設けられていることに他ならない。」(判定請求書第64ページ第10?14行)、及び、「(f)もっとも、イ号丁合装置の「液晶モニター」に表示される1組の「「進む」「遅れる」ボタン」は、いずれの「テーブルボタン」が指定されても外観上は変わらないから、見かけ上、「「進む」「遅れる」ボタン」は1組しか有していないようにも見える。しかし、上記した通り「テーブルボタン」と「進む」「遅れる」ボタンとは1対1で連携しており、「テーブルボタン」を指定すると、指定したテーブルに対応する「「進む」「遅れる」ボタン」が表示されると考えるのが自然であるから、「「進む」「遅れる」ボタン」は、実質的に、複数個(テーブルの数分)用意されているといえる。(g)したがって、イ号丁合装置は「前記電磁クラッチによる調整量を設定する複数個の給紙タイミングキーと」という構成dを備えている。」(同第15?24行)と主張した上で、イ号丁合装置は、本件特許発明でいう「複数個の給紙タイミングキー」を備えている(判定請求書第70ページ第9?15行)旨主張している。
しかしながら、上記1.での検討のとおり、本件特許発明は、二つ以上の個数の給紙タイミングキーを同時に有すると解されるのであって、給紙タイミングキーが各給紙装置に1対1で対応することを観念できれば足りるものではない。したがって、請求人の当該主張は採用することができない。

また、請求人は、構成要件E及びFの充足性について、判定請求書において、「上記したとおり、イ号丁合装置において、まず「テーブルボタン」により、調整対象のテーブルを指定し、次いで、「遅れる」「進む」ボタンにより、指定したテーブルの給紙タイミングを調整するようにされており、このことから、「進む」「遅れる」ボタンは、実質的に、テーブルごとに、複数個設けられているといえる。そうであれば、「テーブルボタン」と、これに対応する「進む」「遅れる」ボタンの組は、複数個備わっていることになり、複数個の組の各々は、「テーブルボタンにより指定されたテーブル専用の画面」すなわち「紙揃えテーブル専用画面」といえるから、「液晶モニター」に表示される「紙揃え調整画面」は、テーブルごとの、複数個の「紙揃えテーブル専用画面」を備えているといえる。」(判定請求書第67ページ第1?9行)及び「(4)カにおいて前記したとおり、テーブルを指定して、指定したテーブルのタイミングを調整するために、テーブルごとに独立した別個の「紙揃えテーブル専用画面」を「液晶モニター」に表示させているのであるから、「紙揃えテーブル専用画面」はテーブルごとに設けられている。」(同第13?16行)と主張した上で、イ号丁合装置は、本件特許発明でいう「複数個の操作パネル」を備えているとともに、「操作パネルは給紙装置毎に設けられている」(判定請求書第70ページ第16行?第71ページ第2行)旨主張している。
しかしながら、上記1.での検討のとおり、本件特許発明の「複数個の操作パネル」は1個の板状の部材を含む「操作パネル」に複数パターンの画面が表示されるものまでを含むものではないと解されるから、イ号物件の「紙揃え調整画面」は本件特許発明の「複数個の操作パネル」に相当するとはいえない。
また、上記1.での検討のとおり、本件特許発明は、二つ以上の個数の操作パネルを同時に有し、二つ以上の個数の操作パネルが二つ以上の段数の給紙装置に対して給紙装置毎に同時に設けられていると解されるのであって、操作パネルが各給紙装置に1対1で対応することを観念できれば足りるものではない。
また、イ号物件が「テーブルボタン」により、調整対象のテーブルを指定し、次いで、「遅れる」「進む」ボタンにより、指定したテーブルの給紙タイミングを調整する」点は、上記1.での検討を踏まえれば、本件特許明細の段落【0024】に従来の技術として記載され「給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートSのタイミングの調節を行」う点に相当する。
したがって、請求人の当該主張は採用することができない。

以上のとおりであるから、イ号物件は「複数個の」給紙タイミングキーと、「複数個の」操作パネルと有するものではなく、操作パネルは「給紙装置毎に」設けられたものではない。

したがって、イ号物件の構成D2ないしF2は、本件特許発明の構成要件DないしFを充足するとは認められない。

オ.構成要件Gについて
イ号物件の構成G2は、本件特許発明の構成要件Gを充足する。

(2)まとめ
したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件DないしFを充足しない。

(3)均等について
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)前記異なる部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)前記異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)前記のように置き換えることに、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから前記出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、前記対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解される(最高裁平成6年(オ)第1083号。以下、(1)ないし(5)の要件を「第1要件」ないし「第5要件」という。)。

ア.均等の第1要件(非本質的部分)について
本件特許発明とイ号物件とは、上記4.のとおり、本件特許発明は、「複数個の給紙タイミングキーと、……複数個の操作パネルと、を有し、操作パネルは給紙装置毎に設けられている」のに対し、イ号物件は、「タイミングの調整の量を設定する《遅れる》及び《進む》キーと、……液晶パネルと、を有し、1つの液晶パネルが設けられている」点で異なっている。したがって、以下、本件特許発明の、イ号物件と異なる部分に対応する構成要件である「複数個の給紙タイミングキーと、……複数個の操作パネルと、を有し、操作パネルは給紙装置毎に設けられている」点が、本件特許発明の非本質的部分であるか否かについて検討する。

上記4.(1)エ.での検討のとおり、本件特許発明は、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートSのタイミングの調節を行い、その後、通常モードに戻り、丁合作業を再開していたため」に複雑であったシートの調節操作を容易にするという課題を、操作パネルを各給紙装置毎に設けることにより、解決したものといえる。

一方、従来技術について検討すると、本件特許明細書には、特開平9-208071号公報(以下「先行技術1」という。)、及び、特開平4-323163号公報(以下「先行技術2」という。)の先行技術が示されている。先行技術1は、複数の給紙装置が設けられ、給紙装置には夫々給紙トレイが設けられ、各給紙トレイの上のシート束からシートを1枚づつ繰り出し、送給して丁合装置内に送りこむ新聞広告丁合装置を開示している。先行技術2は、複数の給紙装置から給送されたシートの先端を一致させるために、各給紙装置において所定位置でシートを一旦停止させ、これらのシートを所定のタイミングで給送を開始して、各給紙装置からのシートを集合させてシートの先端を整合させる新聞広告丁合装置における給紙装置を開示している。

しかしながら、上記の先行技術には、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートのタイミングの調節を行い、その後、通常モードに戻り、丁合作業を再開していたために複雑であったシートの調節操作を容易にするという課題に対し、操作パネルを各給紙装置毎に設けるという解決手段は開示されていない。

してみると、本件特許発明の「複数個の給紙タイミングキーと、……複数個の操作パネルと、を有し、操作パネルは給紙装置毎に設けられている」点は、上記本件特許発明特有の技術的思想に基づく解決手段を構成するものであるから、当該構成要件は本件特許発明の本質的部分であるといえる。

したがって、本件特許発明のイ号物件と異なる部分は、本件特許発明の本質的部分であるから、イ号物件の構成均等の第1要件を充足しない。

イ.均等の第2要件(置換可能性)について
本件特許発明は、タイミング調節部による調節量を設定する複数個の給紙タイミングキーと、タイミングキーが設置された複数個の操作パネルと、を有し、操作パネルが給紙装置毎に設けられていることにより、メインの操作パネル上で給紙タイミングの調節モードに入り、給紙タイミングを調節する棚(給紙装置)を選択し、シートのタイミングの調節を行い、その後、通常モードに戻り、丁合作業を再開していたために複雑であったシートの調節操作を容易にするという目的を達成するものである。

一方で、イ号物件においては、「タイミングの調整の量を設定する《遅れる》及び《進む》キーと、……液晶パネルと、を有し、1つの液晶パネルが設けられていることにより、紙揃え調整画面に遷移し、調整したいテーブルを選択してからシートの調節操作をしているものである。

してみると、本件特許発明の構成中のイ号物件と異なる部分を、イ号物件におけるものと置き換えると、特許発明の目的を達することができず、同一の作用効果を奏するとはいえない。

したがって、均等の第2要件は充足しない。

ウ.均等についてのまとめ
イ号物件は、均等の第1要件および第2要件を充足しないから、第3要件ないし第5要件について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明の均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2017-09-29 
出願番号 特願2000-186913(P2000-186913)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蓮井 雅之  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 畑井 順一
森次 顕
登録日 2006-04-28 
登録番号 特許第3798228号(P3798228)
発明の名称 丁合装置  
代理人 飯野 茂  
代理人 井上 正  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
代理人 峰 隆司  

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