• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1333551
審判番号 不服2016-10386  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-08 
確定日 2017-10-31 
事件の表示 特願2013-527350「修正されたシーク機能を用いた帯域幅割当の改善」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 8日国際公開,WO2012/031244,平成25年11月21日国内公表,特表2013-542633,請求項の数(20)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 経緯
本件出願は,2011年(平成23年)9月2日(パリ条約による優先権主張 2010年9月3日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は,以下のとおりである。

手続補正 :平成26年 9月 1日
拒絶理由通知 :平成27年 5月26日(起案日)
手続補正 :平成27年 8月27日
拒絶査定 :平成28年 3月22日(送達日)
拒絶査定不服審判の請求:平成28年 7月 8日
手続補正 :平成28年 7月 8日
拒絶理由通知(当審) :平成29年 6月 1日(起案日)
手続補正 :平成29年 9月 6日

第2 原査定の概要
原査定の理由は,概略,次のとおりである。

本件出願の出願の請求項1?20に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献A:特表平10-501389号公報
引用文献B:特開2009-21698号公報
引用文献C:特表2009-530923号公報
引用文献D:特開2007-006034号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は,概略,次のとおりである。

理由1
本件出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1に記載された,「第3の位置」の技術的な意味が明確でない。
すなわち,請求項1に係る発明は方法の発明であることから,請求項1に係る発明を,処理順に『第3の位置に基づいて第2のストリームを選択』した後に,『メディアコンテンツ内の第3の位置を決定し,第3の位置の決定に基づいて第2のストリームをストリーミングする』発明として解釈すると,ストリームの選択に用いる「第3の位置」と,その後に決定される「第3の位置」とは異なる位置になるものと認められる。しかし,異なる位置に対して,「第3の位置」という同じ表現がされているため,「第3の位置」の技術的な意味が不明確となっている。

同様の記載のある請求項11並びに請求項1又は請求項11を引用する請求項2-10及び12-20についても,同様の記載不備がある。

理由2
本件出願の出願の請求項1?20に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2008-178056号公報
引用文献2:特開平9-238313号公報

第4 本件発明
1 本件出願の請求項1?20に係る発明
本件出願の請求項1?20に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明20」という。)は,平成29年9月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

【請求項1】
複数のユーザにメディアコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法であって,
前記メディアコンテンツに対する第1のストリームを前記メディアコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすることと,ここで,メディアコンテンツに対する前記第1のストリームはユーザインタフェースで再生される,
前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求を前記第1のユーザから受信することと,ここで,シークする前記要求は,前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する,
前記第2の位置までシークする要求を受信することに応答して,前記メディアコンテンツに対する第2のストリームを,前記メディアコンテンツ内の異なる位置において複数の第2のユーザにストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームの内から選択することと,ここで,第2のストリームは,前記第2の位置および1人または複数の第2のユーザにストリーミングされる前記選択された第2のストリーム内の第3の位置に基づいて選択され,
ここで,前記第3の位置は,前記第2の位置とは異なるが,前記第2の位置と適合するように決定され,前記第3の位置は,前記メディアコンテンツ内において前記複数のユーザを誘導するための特定の地点であり,
前記第3の位置の前記決定に基づいて,前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザおよび前記1人または複数の第2のユーザにストリーミングすることと,
を備えるコンピュータにより実行される方法。

【請求項2】
前記要求は,前記メディアコンテンツに対する進行タイムラインバー上のスライダを前記ユーザインタフェースに移動させることにより,前記第1のユーザから受信される,
請求項1に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項3】
前記第3の位置は,前記メディアコンテンツのショットまたはシーンに基づく,
請求項1に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項4】
前記第3の位置は,前記1人または複数の第2のユーザにストリーミングされている前記選択された第2のストリームに加えて,他のユーザにストリーミングされている複数の第2のストリーム内の他の第2のストリームを解析することにより決定される,
請求項1に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項5】
前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザおよび前記1人または複数の第2のユーザに前記ストリーミングすることは,前記第1のユーザと前記1人または複数の第2のユーザの間で前記メディアコンテンツの視聴を同期させる,
請求項1に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項6】
前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザおよび前記1人または複数の第2のユーザに前記ストリーミングすることは,前記選択された第2のストリームをマルチキャストすることを備える,
請求項1に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項7】
前記選択された第2のストリームを前記ストリーミングすることは,ピア・ツー・ピア(P2P)・ネットワーク内で行われる,
請求項1に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項8】
前記第3の位置に基づき前記第1のユーザに広告をストリーミングすること
をさらに備える,請求項1に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項9】
前記広告は,前記第1のユーザの属性に基づき,前記第1のユーザに特に向けられた,
有向広告を備える,
請求項8に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項10】
前記第2の位置と,前記1人または複数の第2のユーザが受信している前記選択された第2のストリーム内の前記第3の位置との間の時間差に基づき前記広告を選択すること
をさらに備える,請求項8に記載のコンピュータにより実行される方法。

【請求項11】
コンピュータシステムにおいてメディアコンテンツを複数のユーザにストリーミングするための装置であって,
メモリを有するコンピュータと,
前記コンピュータ上で実行するアプリケーションであって,
前記メディアコンテンツに対する第1のストリームを前記メディアコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングし,ここで,メディアコンテンツに対する前記第1のストリームはユーザインタフェースで再生される,
前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求を前記第1のユーザから受信し,ここで,シークする前記要求は,前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する,
前記第2の位置までシークする要求を受信することに応答して,前記メディアコンテンツに対する第2のストリームを,前記メディアコンテンツ内の異なる位置において複数の第2のユーザにストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームの内から選択し,ここで,第2のストリームは,前記第2の位置および1人または複数の第2のユーザにストリーミングされる前記選択された第2のストリーム内の第3の位置に基づいて選択され,
ここで,前記第3の位置は前記第2の位置とは異なるが,前記第2の位置と適合するように決定され,前記第3の位置は,前記メディアコンテンツ内において前記複数のユーザを誘導するための特定の地点であり,
前記第3の位置の前記決定に基づいて,前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザおよび前記1人または複数の第2のユーザにストリーミングする
ように構成されたアプリケーションと,
を備える装置。

【請求項12】
前記要求は,前記メディアコンテンツに対する進行タイムラインバー上のスライダを前記ユーザインタフェースに移動させることにより,前記第1のユーザから受信される,
請求項11に記載の装置。

【請求項13】
前記第3の位置は,前記メディアコンテンツのショットまたはシーンに基づく,
請求項11に記載の装置。

【請求項14】
前記第3の位置は,前記1人または複数の第2のユーザにストリーミングされている前記選択された第2のストリームに加えて,他のユーザにストリーミングされている複数の第2のストリーム内の他の第2のストリームを解析することにより決定される,
請求項11に記載の装置。

【請求項15】
前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザおよび前記1人または複数の第2のユーザに前記ストリーミングすることは,前記第1のユーザと前記1人または複数の第2のユーザの間で前記メディアコンテンツの視聴を同期させる,
請求項11に記載の装置。

【請求項16】
前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザおよび前記1人または複数の第2のユーザに前記ストリーミングすることは,前記選択された第2のストリームをマルチキャストすることを備える,
請求項11に記載の装置。

【請求項17】
前記選択された第2のストリームを前記ストリーミングすることは,ピア・ツー・ピア(P2P)・ネットワーク内で行われる,
請求項11に記載の装置。

【請求項18】
前記アプリケーションは,
前記第3の位置に基づき前記第1のユーザに広告をストリーミングする
ようにさらに構成された,
請求項11に記載の装置。

【請求項19】
前記広告は,前記第1のユーザの属性に基づき,前記第1のユーザに特に向けられた,有向広告を備える,
請求項18に記載の装置。

【請求項20】
前記アプリケーションは,
前記第2の位置と,前記1人または複数の第2のユーザが受信している前記選択された第2のストリーム内の前記第3の位置との間の時間差に基づき前記広告を選択する
ようにさらに構成された,請求項18に記載の装置。

2 本件発明1の分説
本件発明1を分説すると,次のとおりである。なお,説明のためにA?Fの記号を当審で付与した。以下,それぞれ,「構成A」?「構成F」という。

(本件発明1)
A 複数のユーザにメディアコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法であって,
B 前記メディアコンテンツに対する第1のストリームを前記メディアコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすることと,
ここで,メディアコンテンツに対する前記第1のストリームはユーザインタフェースで再生される,
C 前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求を前記第1のユーザから受信することと,
ここで,シークする前記要求は,前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する,
D 前記第2の位置までシークする要求を受信することに応答して,前記メディアコンテンツに対する第2のストリームを,前記メディアコンテンツ内の異なる位置において複数の第2のユーザにストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームの内から選択することと,
ここで,第2のストリームは,前記第2の位置および1人または複数の第2のユーザにストリーミングされる前記選択された第2のストリーム内の第3の位置に基づいて選択され,
E ここで,前記第3の位置は,前記第2の位置とは異なるが,前記第2の位置と適合するように決定され,
前記第3の位置は,前記メディアコンテンツ内において前記複数のユーザを誘導するための特定の地点であり,
F 前記第3の位置の前記決定に基づいて,前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザおよび前記1人または複数の第2のユーザにストリーミングすることと,
A を備えるコンピュータにより実行される方法。

第5 当審拒絶理由についての判断
第5-1 理由1について
平成29年9月6日付け手続補正により,請求項1に記載されていた,『第3の位置に基づいて第2のストリームを選択』した後の,「前記メディアコンテンツ内の前記第3の位置を決定すること」について削除された。
これにより,「第3の位置」は,第2のストリームの選択に用いる位置であって,その後に決定される位置ではないことが明確となった。
よって,理由1は,解消した。

第5-2 理由2について
1 引用文献,引用発明
(1)引用文献1
(1-1)引用文献1の記載
当審の拒絶の理由に引用された引用文献1には,「コンテンツ受信装置,コンテンツ受信方法,コンテンツ配信装置,エッジルータ装置及びプログラム」(発明の名称)に関し,図面とともに次の事項が記載されている。なお,強調のために下線を当審で付与した。

【0019】
図1に示されるように,本コンテンツ配信システムには,コンテンツ配信装置1と,このコンテンツ配信装置1からコンテンツ配信サービスを受ける複数のコンテンツ受信装置2とが含まれている。
【0020】
コンテンツ配信装置1及び各々のコンテンツ受信装置2は,ネットワーク8を介した通信を行うことが可能である。ネットワーク8としては,例えばCDN(Contents Delivery Network)のようなコンテンツ配信用のIP通信ネットワークを想定して説明するが,これに限定されるものではない。なお,ネットワーク8中には1以上のエッジルータ装置9が存在し(図1では3台例示している),各エッジルータ装置9にそれぞれ1以上のコンテンツ受信装置2が接続され,各コンテンツ受信装置2はそれぞれ対応するエッジルータ装置9を介してネットワーク8に接続される。
【0021】
コンテンツ配信装置1は,NVODのように,所定のコンテンツ(例えば,マルチメディアコンテンツ)を,複数のストリーム(ただし,ストリーム間では,コンテンツの配信開始時刻に所定の間隔が設けられる。)で配信するサーバ装置である。所定のコンテンツは,例えば,映像コンテンツ(音声を伴うものを含む)や音声コンテンツなどのマルチメディアコンテンツである。コンテンツ配信装置1は,例えば,コンテンツ配信サービスを提供するサービス提供事業者(例えば,通信事業者)により運営される。
【0022】
コンテンツ配信装置1は,ネットワーク8に直接接続するものであっても構わないし,(例えば上記事業者に係る企業内LAN等の内部にあって)他のルータ等の装置を介してネットワーク8に接続するものであっても構わない。
【0023】
コンテンツ受信装置2は,コンテンツ配信装置1により配信される上記所定のコンテンツを受信するクライアント装置。コンテンツ受信装置2は,具体的には,例えば,デジタルTVあるいはビデオレコーダなどである。
【0024】
本実施形態においては,コンテンツ配信装置1が上記のようにNVODのようなコンテンツ配信を行うのに対して,コンテンツ受信装置2に,例えばVODクライアントが備えるようなストリーム視聴制御インタフェース(図4参照)を設けることができ,ユーザは,このストリーム視聴制御インタフェースを介してコンテンツに対する所定の種類の視聴制御(例えば,再生,一時停止,停止,早送り,早戻し(或いは巻き戻し)など)を行うことができるようにしている。なお,本実施形態は,これを実現するための制御を主としてコンテンツ受信装置2側で行うものであり,後述する第2の実施形態は,主としてコンテンツ配信装置1側で行うものであり,後述する第3の実施形態は,主としてエッジルータ装置9側で行うものである。

【0044】
図4に,コンテンツ受信装置2のストリーム視聴制御インタフェース21の一例(ストリーム視聴制御インタフェースをGUIにより実現する場合のインタフェース画面の一例)を示す。この例では,コンテンツ再生画面211,タイムバー212,再生・一時停止ボタン213,早送りボタン214,早戻し(或いは巻き戻し)ボタン215,停止ボタン216が設けられている。ユーザは,このストリーム視聴制御インタフェース21を介してコンテンツの視聴制御を行うことができる。なお,図4のGUIは一例であり,様々なバリエーションが可能である。また,ストリーム視聴制御インタフェース21は,GUIにより実現するのに加えて又はこれに代えて,現実の装置(例えば,装置本体又はリモコンの操作パネルなど)によって実現することも可能である。また,図4に例示された視聴制御は一例であり,この他にも,種々の視聴制御が可能である。

【0054】
コンテンツ受信装置2は,図5のいずれかのストリームによる受信を開始した後に,受信するストリームを切り換えることによって,コンテンツ中の任意の部分に移ることができるので,受信するストリームを所望のストリームに切り換え,あるいは,受信するストリームの切り換え方を変えることによって,詳しくは後述するように,一時停止,早送り,早戻し(或いは巻き戻し)などのような各種の視聴制御(トリックプレイ)が可能になる。

【0113】
また,例えば図4のタイムバー212をスライドさせるなどして,任意の時刻が指示されたような場合には,c5やc6のように,直接,他のストリームに移ることによって,その任意の時刻からの再生を行わせることが可能になる。

【0142】
以下,MPEGに特化した例を説明する。
【0143】
例えば,MPEGでは,30フレーム/秒のもと,GOP(Group Of Picture)という15フレームのかたまりを1単位として,画像データの圧縮・伸張を行う。MPEGでは,Iフレーム,Pフレーム,Bフレームという3種類のフレームが存在し,GOPは,I・B・B・P・B・B・P・B・B・P・B・B・P・B・Bで構成される。ここで,Iフレームは,画像を圧縮した基本フレーム,Pフレームは,前のIフレームまたはPフレームからの差分を利用した時間型圧縮したフレーム,Bフレームは,前後フレームとの差分情報を利用した双方向予測的圧縮したフレームである。
【0144】
コンテンツ受信装置2は,このGOPの構成を利用して,早送りの場合は,I,Pフレームのみを利用し,早戻しの場合は,Iフレームのみを利用するなどの方法が考えられる。

図14


(1-2)引用文献1に記載された発明
ア.
上記の段落0019には,コンテンツ配信装置は,複数のコンテンツ受信装置にコンテンツ配信サービスを提供することが開示されている。そして,コンテンツ受信装置はユーザによって用いられるものであるから,コンテンツ配信装置は,複数のユーザにコンテンツを配信するものといえる。
また,上記の段落0021には,コンテンツ配信装置は,サーバであって,コンテンツのストリームを配信する,すなわち,コンテンツをストリーミングするサーバであることが開示されている。そして,サーバは,一般的にコンピュータとして実現されるものであるので,コンテンツ配信装置は,コンピュータであるといえる。
よって,引用文献1には,『複数のユーザにコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行する方法』が開示されているといえる。

イ.
上記のア.における検討を踏まえれば,引用文献1には,コンテンツ配信装置は,コンテンツのストリームをユーザにストリーミングすることが開示されている。
ここで,コンテンツのストリームを再生するユーザは任意のユーザといえるから,これを第1のユーザと称することができる。さらに,第1のユーザに対してストリーミングするコンテンツ内の位置はコンテンツ内の任意の位置といえるから,これを第1の位置と称することができる。
よって,引用文献1には,『コンテンツのストリームをコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすること』が開示されているといえる。

さらに,上記の段落0044には,ストリーム視聴制御インタフェースを用いて,コンテンツの再生を行うことが開示されている。そして,ストリーム視聴制御インタフェースが,ユーザインタフェースであることは,明らかである。
よって,引用文献1には,『コンテンツのストリームはユーザインタフェースで再生されること』が開示されているといえる。

ウ.
上記の段落0113には,コンテンツ受信装置のユーザインタフェースであるタイムバーを用いて指示した時刻からコンテンツの再生を行わせることが開示されている。
そして,コンテンツの再生の時刻を指示することは,コンテンツの再生の位置を指示することといえる。また,この指示は,コンテンツの再生中に,第1のユーザによって行われるものであることは明らかである。
よって,引用文献1には,『コンテンツの再生中に,指定した位置からコンテンツの再生を行わせることを第1のユーザから指示されること』が開示されているといえる。

エ.
上記の段落0054には,コンテンツ中の任意の部分に移ることは,受信するストリームを切り換えることによって行われることが開示されている。
そして,上記のウ.における検討を踏まえれば,コンテンツ中の任意の部分は,第1のユーザが指定した位置の再生を行わせることを指示することによって定められるものといえるから,引用文献1には,指定した位置から再生を行わせることを第1のユーザから指示されることに応じて,ストリームを切り換えることが開示されているといえる。
また,上記の段落0021には,コンテンツ配信装置は,所定のコンテンツを配信開始時刻の異なる複数のストリームとして配信することが開示されている。そして,それぞれ配信開始時刻の異なる複数のストリームについて,ストリーミング中の特定の時点からみれば,これらをコンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる複数のストリームと表現することができる。
そして,上記の指示に応じたストリームの切り換えは,これらのコンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる複数のストリームの内から,切り換え先のストリームを選択することによって行われるといえる。
さらに,下記のオ.で言及するように,移動先の位置は,指定した位置によって定められるものであるが,移動先の位置を有するストリームが切り換え先のストリームとなることから,切り換え先のストリームは,指定した位置および切り換え先のストリームの移動先の位置に基づいて選択されるものと表現することができる。
以上より,引用文献1には,『指定した位置から再生を行わせることを指示されることに応じて,切り換え先のストリームを,コンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる複数のストリームの内から選択すること』及び『切り換え先のストリームは,指定した位置および切り換え先のストリームの移動先の位置に基づいて選択されること』が開示されているといえる。

オ.
上記ウ.で言及したように,第1のユーザが指定する位置は,ユーザインタフェースを用いて指定されるものであるが,指定の際には何ら制限がないため,指定する位置は,任意の位置である。
一方,図14をみれば,ストリームの切り換えによるコンテンツ内の位置の移動は,コンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる複数のストリームの内のいずれかのストリームのストリーミングの位置に移動するものであるから,任意の位置へ移動するものではない。
このため,ストリームの切り換えによる移動先の位置は,第1のユーザが指定した位置とは異なる位置となり得るものの,指定した位置の近くの位置として決定されるものといえる。
そして,段落0144の記載によれば,ストリームの切り換えによる移動先の位置は,切り換え先のストリームのIフレームの位置でもある。
以上より,引用文献1には,『移動先の位置は,指定した位置の近くであるように決定され,切り換え先のストリームのIフレームの位置であること』が開示されているといえる。

カ.
上記のエ.及びオ.における検討を踏まえれば,引用文献1には,移動先の位置の決定に基づいて切り換え先のストリームが選択されることが開示されている。
また,上記の段落0113には,他のストリームに移った後に,再生が行われること,すなわち,ストリーミングが行われることが開示されている。
よって,引用文献1には,『移動先の位置の決定に基づいて,切り換え先のストリームを第1のユーザにストリーミングすること』が開示されているといえる。

キ.
以上より,引用文献1に開示された発明を方法の発明として認定すると,引用文献1には,次の引用発明1が記載されている。なお,説明のために1a?1fの記号を当審で付与した。以下,それぞれ,「構成1a」?「構成1f」という。

(引用発明1)
1a 複数のユーザにコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法であって,
1b コンテンツのストリームをコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすることと,
コンテンツのストリームはユーザインタフェースで再生されることと,
1c コンテンツの再生中に,指定した位置からコンテンツの再生を行わせることを第1のユーザから指示されることと,
1d 指定した位置から再生を行わせることを指示されることに応じて,切り換え先のストリームを,コンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる複数のストリームの内から選択することと,
切り換え先のストリームは,指定した位置および切り換え先のストリームの移動先の位置に基づいて選択されることと,
1e 移動先の位置は,指定した位置の近くであるように決定され,
切り換え先のストリームのIフレームの位置であることと,
1f 移動先の位置の決定に基づいて,切り換え先のストリームを第1のユーザにストリーミングすることと,
1a を備えるコンピュータにより実行される方法。

(2)引用文献2
(2-1)引用文献2の記載
当審の拒絶の理由に引用された引用文献2には,「情報提供システム」(発明の名称)に関し,図面とともに次の事項が記載されている。なお,強調のために下線を当審で付与した。

【0113】データの早送りを実行して後しばらくしてユーザ端末がビデオ・オン・デマンドデータ(映画C)のフレーム番号154番を受信し,放送データ(映画C)のフレーム番号114番を受信した時に,ユーザが今度はビデオ・オン・デマンドから放送への切替え要求をしたとする。この時データ情報蓄積部56にはデータ名(映画C)と受信しているビデオ・オン・デマンドデータのフレーム番号154番と放送データのフレーム番号114番が蓄積されている。
【0114】ユーザ要求受付部59は放送への切替え要求を受け付け,ユーザ要求送信部57は,データ情報蓄積部56からデータ受信部55が現在受信しているデータのデータ名(映画C)とビデオ・オン・デマンドデータのフレーム番号154番と放送データのフレーム番号114を読みだして送出データ指示部53へ切替え要求と共に送信する。
【0115】送出データ指示部53は,受信したビデオ・オン・デマンドデータのフレーム番号154番と放送データのフレーム番号114からビデオ・オン・デマンドデータの方が進んでいると判断して,フレーム番号の差40(154-114)を時間に換算し,ビデオ・オン・デマンドデータ送出部54へユーザに対する汎用データ例えば宣伝用のコマーシャルデータをフレーム番号の差から計算された時間だけ送出するように要求する。ビデオ・オン・デマンドデータ送出部54は汎用データ例えば宣伝用のコマーシャルデータを指定された時間だけ送出する。
【0116】データ受信部55は,ビデオ・オン・デマンドデータ送出部54からのデータ送出が終了すると,データ表示部58へ送信するデータを放送データ送出部51より送出されている放送データに切り替える。ユーザ端末のデータ表示部58には,ビデオ・オン・デマンドデータが放送データより進んでいた時間だけ汎用データ例えば宣伝用のコマーシャルデータが表示された後に,放送データが表示される。

(2-2)引用文献2に記載された技術事項
上記(2-1)の記載によると,引用文献2には,「ビデオ・オン・デマンドから放送への切替え時に,ビデオ・オン・デマンドデータと放送データとのフレーム番号の差から計算されたコマーシャルデータを送出すること」という技術事項が記載されている。

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。

ア 構成Aについて
引用発明1の構成1aの「複数のユーザにコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法」は,明らかに,本件発明1の構成Aの「複数のユーザにメディアコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法」に一致する。
よって,本件発明1の構成Aと,引用発明1の構成1aは一致する。

イ 構成Bについて
引用発明1の構成1bの「コンテンツのストリームをコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすること」及び「コンテンツのストリームはユーザインタフェースで再生されること」は,明らかに,本件発明1の構成Bの「前記メディアコンテンツに対する第1のストリームを前記メディアコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすることと,ここで,メディアコンテンツに対する前記第1のストリームはユーザインタフェースで再生される」ことに一致する。
よって,本件発明1の構成Bと,引用発明1の構成1bは一致する。

ウ 構成Cについて
引用発明1の構成1cの「コンテンツの再生中に,指定した位置からコンテンツの再生を行わせることを第1のユーザから指示されること」は,メディアコンテンツ内の再生中の位置とは異なる位置である,メディアコンテンツ内の指定した位置からメディアコンテンツを再生させることについて,第1のユーザから指示されることであるから,本件発明1の構成Cの「前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求を前記第1のユーザから受信することと,ここで,シークする前記要求は,前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する」ことに一致する。
よって,本件発明1の構成Cと,引用発明1の構成1cは一致する。

エ 構成Dについて
上記ウ.での検討を踏まえると,引用発明1の構成1dの「指定した位置」及び「指定した位置から再生を行わせることを指示されること」は,本件発明1の構成Dの「第2の位置」及び「前記第2の位置までシークする要求を受信すること」に一致する。
構成1dの「切り換え先のストリーム」は,下記のカ.で言及するように,第1のユーザにストリーミングされるストリームであるから,構成Dの「前記メディアコンテンツに対する第2のストリーム」に一致する。
構成1dの「コンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる複数のストリーム」は,メディアコンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームである点で,構成Dの「前記メディアコンテンツ内の異なる位置において複数の第2のユーザにストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」と共通する。
構成1dの「移動先の位置」は,メディアコンテンツ内を移動した後のメディアコンテンツ内の位置であるので,構成Dの「第3の位置」に一致する。
構成1dの「切り換え先のストリームは,指定した位置及び切り換え先のストリームの移動先の位置に基づいて選択されること」は,第1のユーザにストリーミングされるストリームである第2のストリームを,第1のユーザが指定した位置及びその第2のストリーム内の移動先の位置に基づいて選択することである点で,構成Dの「第2のストリームは,前記第2の位置および1人または複数の第2のユーザにストリーミングされる前記選択された第2のストリーム内の第3の位置に基づいて選択され」ることと,共通する。

よって,本件発明1の構成Dと引用発明1の構成1dとは,「前記第2の位置までシークする要求を受信することに応答して,前記メディアコンテンツに対する第2のストリームを,前記メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームの内から選択することと,ここで,第2のストリームは,前記第2の位置および前記選択された第2のストリーム内の第3の位置に基づいて選択され」る点で,共通する。
しかし,「メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」に関して,本件発明1は,複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明1は,複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。
また,「(第2のストリームの選択による)選択された第2のストリーム」に関して,本件発明1は,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明1は,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。

オ 構成Eについて
上記のウ.及びエ.での検討を踏まえると,引用発明1の構成1eの「移動先の位置」及び「指定した位置」は,本件発明1の構成Eの「第3の位置」及び「第2の位置」に一致する。
構成1eの「(指定した位置の)近くであるように決定」することは,特定の関係にあるように決定されることであるから,構成Eの「(第2の位置と)適合するように決定」することに一致する。

ここで,構成Eにおける,「前記メディアコンテンツ内において前記複数のユーザを誘導するための特定の地点」の技術的な意味について本件出願の明細書の記載を参酌すると,本件出願の明細書の段落0064には,「このような複数の性能を提供するために,複数のユーザは,ランダムな地点ではなく,メディアプログラム内の特定の複数の地点に誘導される。特定の複数の地点は,シーンの最初,ショット,フレーム,Iフレームなどとすることができる。」と記載されているから,構成Eにおける「前記メディアコンテンツ内において前記複数のユーザを誘導するための特定の地点」は,コンテンツのストリームのIフレームを含むものである。
よって,構成1eの「切り換え先のストリームのIフレームの位置」は,Iフレームの位置であるから,構成Eの「前記メディアコンテンツ内において前記複数のユーザを誘導するための特定の地点」に一致する。
よって,本件発明1の構成Eと,引用発明1の構成1eは一致する。

カ 構成Fについて
引用発明1の構成1fの「移動先の位置」は,本件発明1の構成Fの「第3の位置」に一致する。
構成1fの「切り換え先のストリーム」は,第1のユーザにストリーミングされるストリームである点で,構成Fの「選択された第2のストリーム」と共通する。
よって,本件発明1の構成Fと引用発明1の構成1fとは,「前記第3の位置の前記決定に基づいて,前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザにストリーミングする」点で,共通する。
しかし,上記のエ.で言及したように,決定された後の第2のストリームである,構成Fの「選択された第2のストリーム」は,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるストリームであるから,第1のユーザおよび1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,構成1fの「切り換え先のストリーム」は,第1のユーザにストリーミングされるものの,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。

キ 以上より,本件発明1と引用発明1との一致点,相違点は,次のとおりである。

(一致点)
複数のユーザにメディアコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法であって,
前記メディアコンテンツに対する第1のストリームを前記メディアコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすることと,
ここで,メディアコンテンツに対する前記第1のストリームはユーザインタフェースで再生される,
前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求を前記第1のユーザから受信することと,
ここで,シークする前記要求は,前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する,
前記第2の位置までシークする要求を受信することに応答して,前記メディアコンテンツに対する第2のストリームを,前記メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームの内から選択することと,
ここで,第2のストリームは,前記第2の位置および前記選択された第2のストリーム内の第3の位置に基づいて選択され,
ここで,前記第3の位置は,前記第2の位置とは異なるが,前記第2の位置と適合するように決定され,
前記第3の位置は,前記メディアコンテンツ内において前記複数のユーザを誘導するための特定の地点であり,
前記第3の位置の前記決定に基づいて,前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザにストリーミングすることと,
を備えるコンピュータにより実行される方法。

(相違点)
「メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」に関して,本件発明1は,複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明1は,複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。
これに起因し,上記の複数の第2のストリームから選択される「選択された第2のストリーム」に関して,本件発明1は,第1のユーザおよび1人又は複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明1は,第1のユーザにストリーミングされるものの,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。

(2)相違点についての判断
相違点について検討する。
引用文献1には,「メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」について,複数の第2のユーザにストリーミングされるストリームとすること,及び,上記の複数の第2のストリームから選択される「選択された第2のストリーム」を,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるストリームとすることについては,記載も示唆もされておらず,また,このことは,当該技術分野の当業者において,自明の事項ともいえない。
また,引用文献2に記載された技術事項は,相違点に係る構成に関するものではなく,引用文献2にも,相違点に係る構成については,記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明1に,引用文献2に記載された技術事項を適用しても,相違点に係る構成を備えるようにすることは,当業者であっても,容易に想到することはできない。
よって,本件発明1は,当業者であっても,引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本件発明2?20について
本件発明2?9は,請求項1の記載を引用する発明であるから,本件発明1と同じ理由で,当業者であっても,引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
本件発明10は,本件発明1のカテゴリの異なる発明であって,上記相違点1と同様の構成を有しているから,本件発明1と同様な理由により,当業者であっても,引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。また,本件発明11?20は,請求項10の記載を引用する発明であるから,本件発明10と同じ理由で,当業者であっても,引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1 引用文献,引用発明
(1)引用文献A
(1-1)引用文献Aの記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Aには,「同期グループを用いるマルチキャストデジタルビデオデータサーバ」(発明の名称)に関し,図面とともに次の事項が記載されている。なお,強調のために下線を当審で付与した。

(ア)
多くの視聴者が同じプログラムを見ることができる環境で視聴者へのビデオデータの提供を独立して制御できるようにするためには,各視聴者に,共通の源からの別々のデータストリームを与えなければならない。この場合,視聴者は,リクエストしたビデオデータストリームを開始,停止,一時停止,または巻戻しすることができる。これらの動作は,他の視聴者に分配されているデータには影響を及ぼさない。アプリケーション56からビデオサーバSW60へのコマンドは,ビデオデータストリームの配達の開始,ビデオデータストリームの配達の終了,ビデオデータストリームの配達の一時停止,およびビデオデータストリームの巻戻しまたはリセットを含む。これらの視聴者リクエストの実現により,ディスクI/O64,IOP68,およびCA70によってビデオライブラリ10から読出されているデータの検索およびその後の伝送が制御される。好ましい実施例では,これらのリクエストは,図1に示されるように視聴者の電話および電話応答設備を介してビデオサーバに入力される。代替的には,視聴者のリクエストを送るために,視聴者とビデオサーバとの他の対話方法も用いることができる。たとえば,視聴者リクエストは,副チャネルを介してビデオサーバに入力され得る。(第34頁第29行目?第35頁第16行目)

(イ)
好ましい実施例では,各プログラムに関するビデオデータの多数のストリームは,それぞれわずかに異なる時間に開始され,必要に応じてストリーム全体を繰返しながら,終了するまで再生することが可能にされる。たとえば,120分のプログラムのビデオデータストリームは毎秒1回開始され,120の異なるストリームを与え得る。各ビデオデータストリームはディスク上のビデオデータの複製物から生じたものであり,そのプログラムの他のすべてのストリームと内容的には同一である。各ビデオデータストリームは,そのストリームの表示を要求する立場にある視聴者がいる限り,そのストリームが終了すると繰返される。(第38頁第11行目?第18行目)

(ウ)
巻戻し(REWIND)および早送り(FORWARD)リクエストが実現される場合も,リクエストを出している視聴者が割当てられる同期グループは変わる。
(第40頁第19行目?第23行目)

(エ)
図8は,視聴者リクエストがいかに同期グループに関連するかを示すフロー図である。処理は開始ステップ100から始まる。ビデオライブラリ10はステップ102で発生される。視聴者のサービスリクエストはステップ104で受取られる。テストステップ106では,どのような種類のリクエストが視聴者によって出されたかを判断する。リクエストがサービスの開始(すなわち,プログラムの再生(PLAY))であれば,PLAY処理108が行なわれる。ステップ110で,視聴者は,リクエストされたプログラムとそのプログラムのその次の開始時間とに対応する同期グループに割当てられる。ステップ112で,同期グループの開始時間に,ビデオライブラリから,リクエストされたプログラムのフレームが得られる。ステップ114で,この同期グループのすべての視聴者にこのフレームの複製物が送られる。(第41頁第26行目?第42頁第8行目)

(オ)
視聴者のリクエストがREWINDまたはFORWARD132であれば,ステップ134が行なわれ,視聴者を異なる同期グループに移動させる。その視聴者に対する処理は,新しい視聴者リクエストが受取られると継続される。(第42頁第18行目?第20行目)

(1-2)引用文献Aに記載された発明
ア.
上記の(ア)には,多くの視聴者がプログラムを見ること,及び,ビデオサーバは,ビデオデータストリームの配達を行うことが開示されている。そして,サーバは,一般的にコンピュータとして実現されるものであるので,ビデオサーバは,コンピュータであるといえる。
よって,引用文献Aには,『複数の視聴者にプログラムを配達するためのコンピュータにより実行する方法』が開示されているといえる。

イ.
上記のア.における検討を踏まえれば,引用文献Aには,ビデオサーバは,ビデオデータストリームを視聴者に配達することが開示されている。
なお,視聴者によるビデオデータストリームの再生等の制御を,ユーザインタフェースを用いて行うことは,通常行われることである。
そして,ビデオデータストリームを再生する視聴者は任意の視聴者といえるから,これを第1の視聴者と称することができる。さらに,第1の視聴者に対して配達されるビデオデータストリームの位置はビデオデータストリーム内の任意の位置といえるから,これを第1の位置と称することができる。
よって,引用文献Aには,『ビデオデータストリームをプログラム内の第1の位置から第1の視聴者に配達すること』及び『ビデオデータストリームはユーザインタフェースで再生されること』が開示されているといえる。

ウ.
上記の(ウ)には,視聴者のリクエストにより,巻戻し及び早送りが実現されることが開示されている。また,巻戻し及び早送りが,プログラムの再生中に,視聴者によって行われることは,明らかである。
よって,引用文献Aには,『プログラムの再生中に,ビデオデータストリームの巻戻し又は早送りを行わせることを第1の視聴者から指示されること』が開示されているといえる。

エ.
上記の(エ)には,視聴者はプログラムの開始時間に対応する同期グループに割り当てられることが開示されており,これは,同期グループは,プログラムの開始時間に対応するものであることを示している。
上記の(イ)には,各プログラムに関するビデオデータの多数のストリームは,それぞれ異なる時間に開始されることが開示されている。そして,これらのそれぞれ異なる時間に開始される複数のビデオデータストリームについて,配達中の特定の時点からみれば,これらをプログラム内の異なる位置で配達される複数のビデオデータストリームと表現することができる。
以上より,各同期グループのそれぞれは,プログラム内の異なる位置で配達されるビデオデータストリームに対応するものであるといえる。

上記の(オ)には,巻戻し又は早送りリクエストを出している視聴者に割り当てられる同期グループが変わることが開示されており,上記の同期グループとビデオデータストリームとの関係についての検討を踏まえると,同期グループが変わると,これに対応してビデオデータストリームも変わることとなる。そして,ビデオデータストリームを変えるときには,配達されている複数のビデオデータストリームの内から,対象となるビデオデータストリームが選択されることは明らかである。
よって,引用文献Aには,『巻戻し又は早送りを行わせることを指示されることに応答して,巻戻し又は早送りリクエストを出している視聴者が割り当てられるビデオデータストリームを,プログラム内の異なる位置で配達される複数のビデオデータストリームの内から選択すること』が開示されているといえる。

オ.
上記エ.における検討を踏まえれば,巻戻し又は早送りの後に,視聴者は他の同期グループに移動することにより視聴者のビデオストリームが変えられるものであるが,この後に,変えられたビデオデータストリームが配達されることは明らかである。
よって,引用文献Aには,『巻戻し又は早送りリクエストを出している視聴者が割り当てられるビデオデータストリームを第1の視聴者に配達すること』が開示されているといえる。

カ.
以上より,引用文献Aに開示された発明を方法の発明として認定すると,引用文献Aには,次の引用発明Aが記載されている。なお,説明のためにAa?Afの記号を当審で付与した。以下,それぞれ,「構成Aa」?「構成Af」という。

Aa 複数の視聴者にプログラムを配達するためのコンピュータにより実行する方法であって,
Ab ビデオデータストリームをプログラム内の第1の位置から第1の視聴者に配達することと,
ビデオデータストリームはユーザインタフェースで再生されることと,
Ac プログラムの再生中に,ビデオデータストリームの巻戻し又は早送りを行わせることを第1の視聴者から指示されることと,
Ad 巻戻し又は早送りを行わせることを指示されることに応答して,巻戻し又は早送りリクエストを出している視聴者が割り当てられるビデオデータストリームを,プログラム内の異なる位置で配達される複数のビデオデータストリームの内から選択することと,
Af 巻戻し又は早送りリクエストを出している視聴者が割り当てられるビデオデータストリームを第1の視聴者に配達することと,
Aa を備えるコンピュータにより実行される方法。

(2)引用文献B
(2-1)引用文献Bの記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Bには,「映像表示端末装置,表示切替方法およびプログラム」(発明の名称)に関し,図面とともに次の事項が記載されている。なお,強調のために下線を当審で付与した。

【0037】
図5は,携帯型映像表示端末2や大画面映像表示端末3などの映像表示端末における動作状態の遷移例を示している。ここでは,例えば大画面映像表示端末3を例にとり説明する。
【0038】
機器管理ユニット304は,アクション要求パケットを受信すると,その内容に応じた動作を行う。初期起動時は,メディア情報が何も設定されていない状態(S1)である。このとき,携帯型映像表示端末2から,映像コンテンツのリソース識別子を,アクション要求パケットを用いて受け取ると,停止状態(S2)に遷移する。その後,再生を開始するためのアクション要求パケットを受信すると,指定されたリソース識別子の情報を基に,映像コンテンツ供給装置1にアクセスを行い,ストリーミング再生を開始する。一般に圧縮された映像コンテンツの再生時は,アンダーフローを防ぐ目的で一定時間バッファリングを行う。そのため,停止状態から再生状態には直接遷移せず,準備段階であることを意味する遷移状態(S3)に移行する。その後,映像情報の再生表示が開始した時点で,再生状態(S4)へと移行する。これらの動作状態は,動作状態記憶ユニット310にて記憶,管理される。
【0039】
また,所定の位置から再生を開始するシークを行う際も,停止状態(S2)から遷移状態(S3)を経た上で,停止状態(S2)もしくは(既に再生中の場合には)再生状態(S4)へと遷移する。

(2-2)引用文献Bに記載された技術事項
上記(2-1)の記載によると,引用文献Bには,「映像コンテンツのストリーミング再生を行う機器管理ユニットが,所定の位置から再生を開始するシークを行うこと」という技術事項が記載されている。

(3)引用文献C
(3-1)引用文献Cの記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Cには,「グループコンテンツプレゼンテーション,およびグループコンテンツプレゼンテーション中のグループ通信を編成するためのシステムおよび方法」(発明の名称)に関し,図面とともに次の事項が記載されている。なお,強調のために下線を当審で付与した。

【0039】
<視聴イベントの編成>
開始者,つまり,開始する参加者が,参加者のシステム上に,視聴イベントアプリケーションのコピーが既に存在するのではない場合,そのコピーをダウンロードすることから始める(ステップ42)。視聴イベントアプリケーションは,参加者のシステム上に常駐することが可能であり,あるいはこのアプリケーションが全く,または一部分だけしか,参加者のシステム上に常駐していない,完全にサーバベースのアプリケーションであることが可能である。次に,開始者は,視聴イベントに関するコンテンツアイテムおよび開始時間を選択することができる(ステップ44)。コンテンツアイテムの選択は,参加者自身のシステム上(ステップ46),別の参加者のシステム上(ステップ47),またはファイルサーバ上(ステップ48)の利用可能なコンテンツのリストからの選択を介することが可能である。したがって,コンテンツアイテムは,クライアントサーバモデルを介して,またはピアツーピアモデル(例えば,直接ダウンロードまたはセグメント化されたダウンロード)を介して,またはその両方の組み合わせによって提供されることが可能である。

(3-2)引用文献Cに記載された技術事項
上記(3-1)の記載によると,引用文献Cには,「コンテンツアイテムを,ピアツーピアモデルを介して提供すること」という技術事項が記載されている。

(4)引用文献D
(4-1)引用文献Dの記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献Dには,「配信管理方法,情報提供方法,情報提供装置,配信管理装置,情報受信端末,及び配信管理システム」(発明の名称)に関し,図面とともに次の事項が記載されている。なお,強調のために下線を当審で付与した。

【0052】
そして,この情報受信端末20は,情報提供装置40に,情報受信端末20に向けてのストリーミング配信の開始を依頼(第二の開始依頼の送信)する(S120)。これにより,情報提供装置40は,第二の開始依頼を受信し(S121,第二の開始依頼受信ステップ),この第二の開始依頼に基づいて,開始を依頼された配信を行う(S122,第二の配信実行ステップ)。この結果,情報受信端末20は,この配信を受信する(S123,第二の情報受信ステップ)。このようにして,ユーザが配信を希望した番組に関連する番組(例えばコマーシャル映像等のお知らせ番組)のストリーミング配信が,情報提供装置40によって行われる。すなわち,情報受信端末20に対して新たにストリーミング配信を行う情報提供装置40へのセッション切り替えが,強制的に行われる。なお,情報提供装置40は,一般的に,コマーシャル映像配信事業者が利用する装置である。

(4-2)引用文献Dに記載された技術事項
上記(4-1)の記載によると,引用文献Dには,「ユーザが配信を希望した番組に関連するコマーシャル映像のストリーミング配信を行うこと」という技術事項が記載されている。

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明Aとを対比する。

ア 構成Aについて
引用発明Aの構成Aaの「複数の視聴者にプログラムを配達するためのコンピュータにより実行する方法」は,明らかに,本件発明1の構成Aの「複数のユーザにメディアコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法」に一致する。
よって,本件発明1の構成Aと,引用発明Aの構成Aaは一致する。

イ 構成Bについて
引用発明Aの構成Abの「ビデオデータストリームをプログラム内の第1の位置から第1の視聴者に配達すること」及び「ビデオデータストリームはユーザインタフェースで再生されること」は,明らかに,本件発明1の構成Bの「前記メディアコンテンツに対する第1のストリームを前記メディアコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすることと,ここで,メディアコンテンツに対する前記第1のストリームはユーザインタフェースで再生される」ことに一致する。
よって,本件発明1の構成Bと,引用発明Aの構成Abは一致する。

ウ 構成Cについて
引用発明Aの構成Acの「プログラムの再生中に,ビデオデータストリームの巻戻し又は早送りを行わせることを第1の視聴者から指示されること」は,メディアコンテンツのストリームの再生位置に係る要求をユーザから指示されることである点で,本件発明1の構成Cの「前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求を前記第1のユーザから受信することと,ここで,シークする前記要求は,前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する」ことと共通する。
しかし,メディアコンテンツのストリームの再生位置に係る要求に関し,本件発明1は,「シークする要求」であって,「前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求」であり,「前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する」ものであるのに対し,引用発明Aは,「ビデオデータストリームの巻戻し又は早送りを行わせること」である点で,相違する。
また,これに起因し,本件発明1には,「第2の位置」があるのに対し,引用発明Aには,「第2の位置」に相当する位置が存在しない点で,相違する。

エ 構成Dについて
上記ウ.での検討を踏まえると,引用発明Aの構成Adの「巻戻し又は早送りを行わせることを指示されること」は,本件発明1の構成Dの「前記第2の位置までシークする要求を受信すること」と,上記ウ.で言及した点で共通し,また,相違する。
構成Adの「巻戻し又は早送りリクエストを出している視聴者が割り当てられるビデオデータストリーム」は,下記のカ.で言及するように,第1のユーザにストリーミングされるストリームである点で,構成Dの「前記メディアコンテンツに対する第2のストリーム」と共通する。
構成Adの「プログラム内の異なる位置で配達される多数のビデオデータストリーム」は,メディアコンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームである点で,構成Dの「前記メディアコンテンツ内の異なる位置において複数の第2のユーザにストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」と共通する。

よって,本件発明1の構成Dと引用発明Aの構成Adとは,「メディアコンテンツのストリームの再生位置に係る要求を受信することに応答して,前記メディアコンテンツに対する第2のストリームを,前記メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム内から選択すること」の点で,共通する。
しかし,「メディアコンテンツ内の異なる位置でストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」に関して,本件発明1は,複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明Aは,複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。
また,「選択された第2のストリーム」に関して,本件発明1は,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明1は,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。
さらに,「(第2のストリームの)選択」に関して,本件発明1は,「第2の位置」及び「第3の位置」に基づいて選択しているのに対し,上記のウ.で言及したように,引用発明Aでは「第2の位置」に相当する位置がなく,また,下記のオ.で言及するように,及び「第3の位置」に相当する位置がないことから,引用発明Aでは,「第2の位置」及び「第3の位置」に基づいて選択を行わない点で,相違する。

オ 構成Eについて
本件発明1の構成Eでは,「第3の位置」は,第2の位置とは異なるが第2の位置と適合するように決定されるものであり,さらに,メディアコンテンツ内において複数のユーザを誘導するための特定の地点であるが,引用発明Aには,「第3の位置」に相当する位置が存在しない点で,相違する。

カ 構成Fについて
引用発明Aの構成Afの「巻戻し又は早送りリクエストを出している視聴者が割り当てられるビデオデータストリーム」は,第1のユーザにストリーミングされるストリームである点で,本件発明1の構成Fの「選択された第2のストリーム」と共通する。
よって,本件発明1の構成Fと引用発明Aの構成Afとは,「前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザにストリーミングする」点で,共通する。
しかし,「選択された第2のストリームをストリーミングする」ことに関し,本件発明1では,「前記第3の位置の前記決定に基づいて」ストリーミングするのに対し,上記のオ.で言及したように,引用発明Aには,「第3の位置」に相当する位置がなく,「第3の位置」の決定が行われないことから,「第3の位置の決定」に基づくものではない点で,相違する。
また,本件発明1の「選択された第2のストリーム」は,第1のユーザおよび1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明Aの「切り換え先のストリーム」は,第1のユーザにストリーミングされるものの,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。

キ 以上より,本件発明1と引用発明Aとの一致点,相違点は,次のとおりである。

(一致点)
複数のユーザにメディアコンテンツをストリーミングするためのコンピュータにより実行される方法であって,
前記メディアコンテンツに対する第1のストリームを前記メディアコンテンツ内の第1の位置から第1のユーザにストリーミングすることと,
ここで,メディアコンテンツに対する前記第1のストリームはユーザインタフェースで再生される,
メディアコンテンツのストリームの再生位置に係る要求を前記第1のユーザから受信することと,
メディアコンテンツのストリームの再生位置に係る要求を受信することに応答して,前記メディアコンテンツに対する第2のストリームを,前記メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリームの内から選択することと,
前記選択された第2のストリームを前記第1のユーザにストリーミングすることと,
を備えるコンピュータにより実行される方法。

(相違点)
(相違点1)
メディアコンテンツのストリームの再生位置に係る要求に関し,本件発明1は,「シークする要求」であって,「前記第1の位置と,第2の位置との間でメディアコンテンツをスキップする前記ユーザインタフェースで再生される前記メディアコンテンツ内の前記第2の位置までシークする要求」であり,「前記メディアコンテンツが前記第2の位置で再生を開始することを要求する」ものであるのに対し,引用発明Aは,「ビデオデータストリームの巻戻し又は早送りを行わせること」である点で,相違する。また,これに起因し,本件発明1には,「第2の位置」があるのに対し,引用発明Aには,「第2の位置」に相当する位置が存在しない点で,相違する。

(相違点2)
「メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」に関して,本件発明1は,複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明Aは,複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。
これに起因し,上記の複数の第2のストリームから選択される「選択された第2のストリーム」に関して,本件発明1は,第1のユーザおよび1人又は複数の第2のユーザにストリーミングされるのに対し,引用発明Aは,第1のユーザにストリーミングされるものの,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるかが不明な点で,相違する。

(相違点3)
「(第2のストリームの)選択」に関し,本件発明1は,「第2の位置」及び「第3の位置」に基づいて選択しているのに対し,引用発明Aでは,「第2の位置」及び「第3の位置」に基づいて選択を行わない点で,相違する。

(相違点4)
「第3の位置」は,第2の位置とは異なるが第2の位置と適合するように決定されるものであり,さらに,メディアコンテンツ内において複数のユーザを誘導するための特定の地点であるが,引用発明Aには,「第3の位置」に相当する位置が存在しない点で,相違する。

(相違点5)
「選択された第2のストリームをストリーミングする」ことに関し,本件発明1では,「前記第3の位置の前記決定に基づいて」ストリーミングされるのに対し,上記のオ.で言及したように,引用発明Aには「第3の位置」の決定が行われないことから,第3の位置の決定に基づくものではない点で,相違する。

(2)相違点についての判断
まず,相違点2について検討する。
引用文献Aには,「メディアコンテンツ内の異なる位置においてストリーミングされる前記メディアコンテンツに対する複数の第2のストリーム」について,複数の第2のユーザにストリーミングされるストリームとすること,及び,上記の複数の第2のストリームから選択される「選択された第2のストリーム」を,1人または複数の第2のユーザにストリーミングされるストリームとすることについては,記載も示唆もされておらず,また,このことは,当該技術分野の当業者において,自明の事項ともいえない。
また,引用文献B?Dに記載された技術事項は,相違点2に係る構成に関するものではなく,引用文献B?Dのいずれにも,相違点2に係る構成については,記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明Aに,引用文献B?Dに記載された技術事項を適用しても,相違点2に係る構成を備えるようにすることは,当業者であっても,容易に想到することはできない。
よって,本件発明1は,当業者であっても,引用発明A及び引用文献B?Dに記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

よって,相違点1,3?5について検討するまでもなく,本件発明1は,当業者であっても,引用発明A及び引用文献B?Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本件発明2?20について
本件発明2?9は,請求項1の記載を引用する発明であるから,本件発明1と同じ理由で,当業者であっても,引用発明A及び引用文献B?Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
本件発明10は,本件発明1のカテゴリの異なる発明であって,上記相違点2と同様の構成を有しているから,本件発明1と同様な理由により,当業者であっても,引用発明A及び引用文献B?Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。また,本件発明11?20は,請求項10の記載を引用する発明であるから,本件発明10と同じ理由で,当業者であっても,引用発明A及び引用文献B?Dに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

したがって,原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-19 
出願番号 特願2013-527350(P2013-527350)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04N)
P 1 8・ 121- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山▲崎▼ 雄介  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 渡辺 努
冨田 高史
発明の名称 修正されたシーク機能を用いた帯域幅割当の改善  
代理人 井上 正  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 直樹  
代理人 野河 信久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ