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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1333592
審判番号 不服2017-3234  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-03 
確定日 2017-10-31 
事件の表示 特願2012-104226「炭化珪素半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日出願公開、特開2013-232559、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年4月27日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 3月29日 審査請求
平成27年 9月18日 拒絶理由通知
平成27年11月30日 意見書・補正書
平成28年 6月10日 拒絶理由通知
平成28年 8月15日 意見書・補正書
平成28年11月30日 拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成29年 3月 3日 審判請求
平成29年 6月28日 拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)
平成29年 9月 4日 意見書・補正書

第2 本願発明
本願請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」という。)は、平成29年9月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2記載された事項により特定される発明であり、本願発明1、2は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
結晶型が4H-SiCの炭化珪素基板の第一の主面にエピタキシャル層を成長させる工程と、
前記炭化珪素基板の前記エピタキシャル層とは反対側の第二の主面に金属膜を形成する工程と、
前記第二の主面に金属膜を形成する工程の前に、前記第二の主面にイオン種濃度1×10^(18)atms/cm^(3)?1×10^(20)atms/cm^(3)でイオン注入を行い活性化させる工程と、
1500℃?1800℃の活性化熱処理を行い、3C-SiCと4H-SiCの混晶状態を形成させる工程と、を含み、
前記イオン注入は窒素がドーピングされた前記炭化珪素基板に、リンを加熱を行わずに500nmまでボックスプロファイルの濃度となるよう30keV?350keVの範囲で全面に注入し、前記炭化珪素基板の前記第二の主面と、当該第二の主面にオーミック電極として形成される前記金属膜の間に、前記炭化珪素基板よりバンドギャップの小さい3C-SiCを含む層が熱処理により形成されるオーミック電極形成によってオーミック電極と合金化され、合金化されずに残る3C-SiCと4H-SiCの混晶状態の層が50nm?200nmである、
ことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。

【請求項2】
前記第二の主面の表面の前記炭化珪素基板中の3C-SiCの比率が10%?90%であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。」

第3 原査定の概要及び原査定についての判断
1 原査定の概要
(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1、2に係る発明について検討する。
出願人は意見書において、「今般の補正により、本願発明の請求項1について、「前記第二の主に金属膜を形成する工程の前に、前記第二の主面にイオン注入を行い活性化させる工程と、を含み、前記イオン注入は窒素がドーピングされた前記炭化珪素基板に、リンを加熱を行わずに500nmまでボックスプロファイルの濃度となるよう30keV?350keVの範囲で全面に注入し、前記炭化珪素基板の前記第二の主面と、当該第二の主面にオーミック電極として形成される前記金属膜の間に、前記炭化珪素基板よりバンドギャップの小さい3C-SiCを含む層が熱処理により形成されるオーミック電極形成によってオーミック電極と合金化され、合金化されずに残る3C-SiCの層が50nm?200nmである」構成であることを明確にしました。上記構成によれば、合金化されずに残る3C-SiCの層が50nm?200nmであることが明確となり、かつこの膜厚を得るための各種数値等の条件が明確になったものと存じます。」と主張している。
以下、出願人の主張について検討する。
平成28年6月10日付け拒絶理由通知書の理由3(サポート要件)で述べたように、本願明細書の段落[0019]等には、3C-SiCの層厚は、好ましくは50nm?200nmと記載されている。
しかしながら、段落[0027]-[0037]の第一の実施例には、3C-SiCについて、3C-SiCが面積比で20%存在していることが記載されているのみであり、3C-SiCの膜厚について記載も示唆もない。
すなわち、前記拒絶理由通知書で述べたように、3C-SiCの膜厚が50nm?200nmの場合に課題を解決できるかどうか、依然として不明である。
よって、出願人の主張は採用できない。
請求項2については、旧請求項2と同様であるから、平成28年6月10日付け拒絶理由通知書を参照されたい。
したがって、請求項1、2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に適合しないので特許を受けることができない。

2 原査定に対する当審の判断
原査定においては、請求項1に係る発明の「3C-SiCの層厚」について明細書に記載も示唆もされていないことから、特許法第36条第6項第1号の要件に違反し、特許を受けることができないというものである。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0025】、【0041】には、3C-SiCの膜厚が「50nm?200nm」であることは記載されており、この記載箇所が(第一の実施例)ではないものの、実施例を包括的に説明している(実施の形態)に記載されており、(第一の実施例)において、特段、3C-SiCの膜厚を変更する事情がない以上、(第一の実施例)においても、同様の膜厚であると解するのが妥当である。
とすれば、請求項1、2に係る発明に対する発明について本願明細書の記載は十分な説明がなされているので、特許法第36条第6項第1号のサポート要件は満たしている。
したがって、原査定を維持することはできない。

第4 当審拒絶理由について
当審では、明細書について、以下の点で当業者が十分な実施可能な程度の開示がなされていないことから、特許法第36条第4項1号の拒絶理由がなされた。
(1)低温処理を目的とする発明において高温熱処理を加えている点。
(2)合金化されずに残る炭化珪素側の3C-SiCの層の厚さの測定方法に関する記載が無い点。
以下、各点について検討する。
(1)について
平成29年9月4日付けの意見書において、請求項1に係る発明は、「第二の主面に金属膜を形成する工程の前に、前記第二の主面にイオン種濃度1×10^(18)atms/cm^(3)?1×10^(20)atms/cm^(3)でイオン注入を行い活性化させる工程と、1500℃?1800℃の活性化熱処理を行い、3C-SiCと4H-SiCの混晶状態を形成させる工程」と2つの工程が存在する点について説明がなされた。この説明から、高温による熱処理が行われる工程は、イオン注入とは異なる「3C-SiCと4H-SiCの混晶状態を形成させる工程」であり、本願発明は、これまで高温処理であることが通常であった「イオン注入を行う工程」を低温処理で行うという本願の特徴について、当業者が十分な実施可能な程度の開示がなされた。
(2)について
平成29年9月4日付けの意見書において、参考文献1(「INVESTIGATION OF 4H AND 6H-SiC THIN FILMS AND SCHOTTKY DIODES USING DEPTH-DEPENDENT CATHODOLUMINESCENCE SPECTROSCOPY」、The Ohio State University 2006)の表紙、および73頁、74頁を示し、4H-SiC中の3C-SiCの断面状態をTEMで評価できることを示した。同文献の、73頁、74頁の「FIG.19(a),(b)」には、層状になっている4H-SiC中の3C-SiCの断面状態を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で評価しており、2μmの厚さと2μmの厚さの中で3C-SiCと4H-SiCの複数の層が示されており、TEMにより3C-SiCと4H-SiCの混晶状態について、当業者が十分に実施可能な程度の開示がなされた。
したがって、本願明細書の内容について意見書により説明がなされた結果、当審の拒絶の理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1、2は、原査定及び当審の理由によっては、拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-16 
出願番号 特願2012-104226(P2012-104226)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 溝本 安展佐藤 靖史小山 満右田 勝則  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 大嶋 洋一
加藤 浩一
発明の名称 炭化珪素半導体装置の製造方法  
代理人 酒井 昭徳  
代理人 酒井 昭徳  

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