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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1333633
審判番号 不服2016-17523  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-24 
確定日 2017-10-31 
事件の表示 特願2013-538848「肥満治療用の医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月18日国際公開、WO2012/064838、平成25年12月 9日国内公表、特表2013-543867、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月9日(パリ条約による優先権主張 2010年11月9日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成26年10月31日付けで手続補正がされ、平成27年8月10日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年2月15日付けで手続補正がされ、平成28年7月26日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年7月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?4及び周知技術(引用文献5,6)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.国際公開第1999/059986号
2.塩路雄作著,固形製剤の製造技術,シーエムシー出版,2003年 1月27日,普及版,第9、12及び13頁
3.仲井由宣ほか編,新製剤学,南山堂,1982年11月25日,第1版,第102及び103頁
4.松本光雄編,薬剤学マニュアル,株式会社南山堂発行,1989年,第1版,第28頁、76頁
5.国際公開第2005/082349号
6.伊賀 立二 Tatsuji IGA,注射剤型DDSと植込み型DDS Injectable and implantable drug delivery systems,日本臨牀 The Japanese Journal of Clinical Medicine,47巻6号,P.1261-1267

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正によって、請求項1の「薬学的に許容される担体において結晶形の懸濁液であり」が「薬学的に許容される担体中での前記遊離塩基の懸濁液であり」に変更された。そして、前記補正前の記載については、拒絶査定において日本語として不明確である旨指摘されているところ、前記補正前の請求項1の「結晶形を有する6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基」の記載からみて、補正前の「結晶形の懸濁液」の「結晶形」が「遊離塩基」を意図していたことは明らかであって、前記補正は、不明確であると指摘された部分を明確にしたものといえる。
そうすると、前記補正は明りょうでない記載の釈明を目的としたものであって、新規事項を追加するものではない。

第4 本願発明
本願請求項1?5係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、平成28年11月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
結晶形を有する6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基を含む医薬組成物であって、
該医薬組成物は、薬学的に許容される担体中での前記遊離塩基の懸濁液であり、
前記結晶形は、2θ度で7.1、13.3、16.3、17.4、18.6、19.4及び19.9のピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられ、
該粉末X線回折パターンが、Cu Kα放射線を使用して得られたものである肥満治療用の医薬組成物。
【請求項2】
6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基が、2θ度で5.2、7.1、10.4、13.3、14.2、16.3、17.4、18.6、19.4及び19.9のピークを有する粉末X線回折パターンで特徴付けられる結晶形
を有する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基が、図1に示される粉末X線回折パターンを有する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記薬学的に許容される担体は水性の担体である請求項1から3のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物が皮下注射用の懸濁製剤である請求項1?4のいずれか1つに記載の医薬組成物。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(なお、引用文献1は英文なので、当審による訳文を記載する。)。

「技術分野
本発明は優れた血管新生阻害活性を示す新規のフマジロール誘導体又は薬剤学的に許容可能なその塩、その製造方法及び有効成分としてこれを含む医薬組成物に関する。」(1頁4?9行)

「実施例18:O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマジロール
(1)フマジロール(190mg)のテトラヒドロフラン(10ml)溶液に水素化ナトリウム(80mg)を加え、1時間攪拌した。
(2)4-ジメチルアミノエトキシケイ皮酸(240mg)のベンゼン(20ml)溶液に、塩化チオニル(240mg)を室温で加えて1時間加熱還流した。溶媒を減圧留去し、残査にテトラヒドロフラン(10ml)を加えた。この溶液をで得られた溶液に滴下混合し1時間攪拌した。この反応混合液に水(20ml)を加え、酢酸エチル(100ml)で希釈した。有機層を水(20ml)、塩水(40ml)で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させてろ過した。残査をカラムクロマトグラフィー(溶離剤:メタノール/クロロホルム=1/6)で精製して白色粉末の標題化合物60mgを得た。
^(1)H-NMR(CDCl_(3))δ:7.62(d,1H,J=15.9Hz)7.46(d,2H,J=8.7Hz)6.91(d,2H,J=8.7Hz)6.36(d,1H,J=15.9Hz)5.73(m,1H)5.22(brt,1H,J=7.3Hz)4.12(t,2H,J=5.6Hz)3.71(dd,1H,J=2.8,11.1Hz)3.45(s,3H)3.01(d,1H,J=4.3Hz)2.79(t,2H,J=5.6Hz)2.58(t,1H,J=6.4Hz)2.56(d,1H,J=4.3Hz)2.37(s,6H)2.20-1.81(m,6H)1.75(s,3H)1.66(s,3H)1.24(s,3H)1.18-1.06(m,1H)」(16頁10?31行;括弧で括られた数字は、原文では丸で囲まれた数字である。)

「製剤例
(中略)
3.注射剤の調製
有効成分 100 g/ml
希塩酸 pH 3.5になるまで
注射用生理食塩水BP 最大 1 ml
適当な容量の注射用生理食塩水BP中に有効成分を溶解させた。得られた溶液を希塩酸BPでpH 3.5に調整した後、注射用生理食塩水BPで容量を調節した。この溶液を完全に混合して溶液をガラス製の5-mlタイプ1アンプル中に充填した。アンプル上部を溶融して封をした。アンプル中に含まれた溶液を120℃で15分間オートクレーブにかけて殺菌し、注射剤を得た。」(20頁1?30行)

「血管新生に対する阻害活性試験(in vitro)
化合物サンプルをDMSOに溶解し、FBS(Fetal Bovine Serum:ウシ胎児血清)が添加されていないMEM培地(CPAE cellの場合)及びRPMI 1640培地(EL-4及びP388D1細胞の場合)を用いて10倍に希釈し、この溶液を20μlずつ96ウェルプレートの各ウェルに各濃度勾配についてトリプリケイトになるように分注した。その後、各細胞懸濁液を調製して分注し、血管新生に対する阻害活性を調べた。
CPAE(Calf Pulmonary Artery Endothelial:仔ウシ肺動脈内皮)細胞(2-3回継代培養後に使用)の場合は、MEM(+10%FBS+50μg/mlECGS)培地で7×10^(3)細胞/ml濃度の細胞懸濁液を調製し、この懸濁液(180μl)を96ウェルプレートの各ウェルに分注した後、CO_(2)インキュベーター(5%CO_(2)、加湿)で4日間培養した。血管新生に対する阻害活性をSRB法により測定して、その結果を表1に示す。
EL-4(リンパ腫、ネズミ)及びP388DI(白血病、マウス)細胞の場合は、RPMI1640(+10%FBS)培地で1×10^(4)細胞/ml濃度の細胞懸濁液を調製し、96ウェルプレートの各ウェルにこの懸濁液(180μl)を分注した後、CO_(2)インキュベーター(5%CO_(2)、加湿)で3日間培養した。血管新生に対する阻害活性をMTT法により測定して、その結果を表1に示す。


表1の結果からわかるように、本発明の化合物及びその塩は血管内皮細胞の増殖を強力に抑制し、血管新生を阻害する。」(20頁31行?22頁4行)

「1.下記化学式1のフジマロール誘導体又は薬学的な許容可能なその塩;

(式中、Xはヒドロキシ基を表し、Yはハロゲンを表すか、又はXとYはオキシラン環を形成してもよく、Bは酸素又は水素を表し、R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)及びR_(5)は、各々独立に水素、ヒドロキシ、アセトキシ、置換若しくは非置換のアミノ、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアミノアルコキシ、C_(1)?C_(6)アルコキシ、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、ニトロ、アルキレンジオキシ、ホルミル、アセトアミド又はメチレンオキシカルボキシルを表すが、但し、R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(4)及びR_(5)が同時に水素を表すことはない)。
(中略)
3.O-(3,4-ジメトキシシンナモイル)フマジロール、(中略)O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマジロール、(中略)及び4-(4-ジメチルアミノシンナモイル)オキシ-2-(1,2-エポキシ-1,5-ジメチル-4-ヘキセニル)-3-メトキシ-1-クロロメチル-1-シクロヘキサノールからなる群から選択される、請求項1記載のフマジロール誘導体。」(請求の範囲)

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマジロールを含む医薬組成物であって、
該医薬組成物は、生理食塩水中でのO-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマジロール又はその塩の溶液である血管新生阻害用の医薬組成物。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

「1.2.4 結晶多形
薬物には,2つ以上の結晶形を有するものが多く,無晶形をも含めて結晶形が異なると,溶解速度,融点,密度,硬さ,結晶形状,光学的および電気的性質,蒸気圧,安定性などの物性が異なってくることが知られている。結晶多形に関しては,幾多の文献に報告されており,とくに溶解速度が異なることによるバイオアベイラビリティに差のある例として,クロラムフェニコールパルミテートが有名である2)。
薬物に結晶多形が存在するかどうかを検知することは、Preformulationのこの段階における重要な課題である。」(12頁18?26行)

「結晶多形が存在することがわかれば,異なった多形結晶を同定し,分離するための方法が必要になってくる。以下にいくつかの方法をあげたが,単独でも用いるよりも,2つ以上の方法を併用するとがすすめられる。
(中略)
(3)粉末X線回折
(後略)」(13頁10?18行;「(3)」は、実際には3を丸で囲ったものである。)

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。

「2.多形
多形とは同じ化学組成を持ちながら結晶構造が異なり,別の結晶形を示す現象またはその現象を示すものをいう.
(中略)
多形を示す物質としては無機物では(中略)多くのものが知られている.医薬品では酢酸コルチゾン,プロゲステロン,プレドニゾロン,バルビタール,フェノバルビタールなどがあり,とくに最近では多くの薬品に多形の存在が見出されている.
多形は結晶中での分子や原子の配列が異なるので,その存在は、X線回折法,(中略)により知ることができる.また熱力学的に多形は別の相として考えられ,各多形はそれぞれの融点や溶解度をもつ.
(中略)
製剤上で多形が問題となるのは,それによって異なる溶解度が与えられるからである.パルミチン酸クロラムフェニコールの例のように安定形と準安定形との間に著しい溶解速度に差がみられる.パルミチン酸クロラムフェニコールの安定形の結晶は非常にとけにくく製剤の原料として使用することはできない.」(102頁14行?103頁22行)

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。



」(28頁)


」(76頁)

5.引用文献5について
原査定において新たに引用された上記引用文献5には、次の事項が記載されている(なお、引用文献5は英文であるので、当審による訳文を記載する。)。

「技術分野
本発明は、下記化学式1?3に示されるO-(4-メトキシシンナモイル)フマギロール、O-(3,4,5-トリメトキシシンナモイル)フマギロール及びO-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマギロールとその塩から成る群から選択される化合物と、薬学的に許容される担体とを含む、肥満の治療のための組成物に関する。
(中略)
化学式3

」(1頁)

「本発明の組成物は、固形製剤(錠剤およびカプセル剤)と(経口および非経口投与のための)液体製剤として剤形に製剤化することができます。本発明の組成物中に含めることができる薬学的に許容される担体の例としては、一般的である、等の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、安定化剤、吸収助剤、注射用水、等張剤を含みます当該技術分野で使用されます。」(6頁1?9行)

「肥満に対する本発明の組成物の治療効果試験
本発明による組成物の肥満治療効果を評価するため、体重減少効果、食欲抑制効果、脂肪組織中の静脈内皮細胞の増殖の阻害効果、内皮細胞に対するアポトーシス増加、脾臓毒性、皮下組織における血管拡張毒性、血液学的毒性をは、肥満動物(ob/obマウス)において測定した。本発明の組成物の薬理学的効果を評価するための正の基準材料として、本発明の組成物に使用されるフマギロール誘導体と同じファミリーに属する、TNP-470が使用された。
(中略)
<試験用量及び手順>
本発明の組成物に使用されるフマギロール誘導体のそれぞれは、5つの用量、すなわち0.05mg/kgで、0.1mg/kgで、0.3mg/kgを、1mg/kgおよび3mg/kgで投与しました。陽性標準物質であるTNP-470は、薬理効果を本発明のフマギロール誘導体と厳格に比較するために、4つの高用量、すなわち1mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kgおよび7.5mg/kgで投与された。
O-(4-メトキシシンナモイル)フマギロール、O-(3,4,5-トリメトキシシンナモイル)フマギロール及びO-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマギロールおよびTNP-470は、マイクロエマルションの形態で使用された。マイクロエマルジョンは、薬物を溶解する自己マイクロ乳化薬物送達システム(SMEDDS、トリグリセリド油の混合物を含有する可溶化剤およびクレモフォア界面活性剤)に対応する薬剤を供給し、蒸留水の適量を添加することによって調製された。一方、O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマギロールは、リン酸緩衝生理食塩水で希釈して使用した。各々の薬物は、一日一回皮下注射により、21日間与えられた。
(中略)
試験例3 O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマギロールシュウ酸塩の投与による体重減少効果評価試験
O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマギロールシュウ酸塩を5種の用量(0.05mg/kg、0.1mg/kg、0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg)で投与し、試験例1と同様の方法により動物の体重を測定した。21日の投与により、最も高用量(3mg/kg)を投与された動物(ob/obマウス)の平均体重は34.4±1.3g、中用量(0.3mg/kg)を投与されたマウスの平均体重は38.6±1.5g、最小用量(0.05mg/kg)を投与されたマウスの平均体重は44.5±1.4gであった。つまり、減量効果は用量依存的であった。比較のために、TNP-470は、異なる用量で実験動物に投与された。この結果(N=5)最高用量(7.5mg/kg)でTNP-470を投与したマウスは、41.8±1.5gの平均体重を有し、最低用量(1mg/kg)でTNP-470を投与したマウスは、48.1±1.5gの平均体重を有していました。しかしながら、TNP-470の体重減少効果は、表題化合物のそれよりも小さかった。一方、単独で生理食塩水を投与した対照群では56.3±1.1gの平均体重を有していました 最高用量で、表題化合物を投与したマウスは、対照群と比較して、体重の37.1%の減少を示しました。これらの実験結果を図1及び表1に示します。
表1:実験動物におけるfumagiUol誘導体の減量効果

a)各薬物は、一日一回皮下注射された。
b)体重の値は、21日間の投与後に測定:平均値(n=5)±標準偏差、0.01未満の有意水準による。

」(9頁11行?14頁5行)



」(図1)

これらの記載から引用文献5には、次の発明が記載されているといえる。
「O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマギロールを、当該成分を溶解する自己マイクロ乳化薬物送達によってマイクロエマルションとした肥満治療用の皮下注射用医薬組成物」(以下「引用発明5」という。)

6.引用文献6について
原査定において新たに引用された上記引用文献6には、次の事項が記載されている。

「1.持続型注射剤
注射剤の効力を持続させる試みは古くよりなされており,緒言の述べたように持続型注射剤としてすでに実用化されている.DDSとしてこの剤形を応用するためには,投与部位から一定時間,一定速度での薬物の放出あるいは吸収が制御されなければならず,現在まだこのような条件を満たす注射剤は実用化されていない.ここでは,従来の持続型注射剤を広義のDDSとして解説する.注射剤の中では,懸濁性注射剤,乳濁性注射剤,油性注射剤が現在DDSとして応用されている.
1)懸濁性注射剤
懸濁性注射剤は水や植物油などに溶解しない医薬品を微粒子として懸濁または乳濁したもので,粒子は痛みや刺激を抑えるために,局方では150μmとされている.懸濁剤の徐放性は固形医薬品の溶解度を変えることによって行われる.通例は,塩形成あるいは誘導体形成により持続化が図られており,結晶形が重要な因子となる.」(1261頁右欄4?24行)

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1を主引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

引用文献1の【化1】や、本願明細書【0003】に記載された【化1】から、引用発明1における「O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマジロール」が、本願発明1における「6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロール」に相当することは明らかである。

そうすると、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールを含む医薬組成物。」

(相違点)
(相違点1-1)本願発明1は、結晶形を有する6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基を含む医薬組成物であって、該医薬組成物は、薬学的に許容される担体中での前記遊離塩基の懸濁液であり、前記結晶形は、2θ度で7.1、13.3、16.3、17.4、18.6、19.4及び19.9のピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられ、該粉末X線回折パターンが、Cu Kα放射線を使用して得られたものであるのに対し、引用発明1は、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの溶液であって、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールについて、塩と遊離塩基のどちらであるかが特定されておらず、結晶形も特定されていない点。

(相違点1-2)本願発明1は、肥満治療用の医薬組成物であるのに対して、引用発明1は血管新生阻害用の医薬組成物である点。

イ 相違点についての判断
まず、相違点1-2について検討する。
引用文献5には、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールを肥満治療用の有効成分として用いることが開示されているといえる。
そうすると、引用発明1について、肥満治療効果を期待し、肥満治療用の医薬組成物として用いることは、当業者が容易に為し得たことである。

次に、相違点1-1について検討する。
引用文献2?4の記載から、本願の出願時において、医薬品に用いられる化合物には複数の結晶形を持つ(結晶多形が存在する)ものが多数あり、これらにおいてはそれぞれの結晶形が有する性質の違いに由来する生物学的利用性の違いがみられるため、薬物に結晶多形が存在することを検知することは、重要な課題であったといえる。
また、引用文献6の記載から、本願の出願時において、持続型注射剤においては、塩形成あるいは誘導体形成によって持続化を図った懸濁剤とすることが周知であって、当該持続化においては結晶形が重要な因子となることもよく知られていたといえる。
しかしながら、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの生物学的利用性に問題があることや、当該有効成分の効力の持続化が必要であることは、引用文献1に記載も示唆もされておらず、本願出願時における技術常識であったともいえないから、引用発明1において、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの溶液を遊離塩基の懸濁液とする動機付けは乏しい。ましてや、懸濁される6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基として、いずれの文献にも記載されていない、2θ度で7.1、13.3、16.3、17.4、18.6、19.4及び19.9のピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられ、該粉末X線回折パターンが、Cu Kα放射線を使用して得られたものである結晶形を用いることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そうすると、相違点1-1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ したがって、引用発明1を主引用発明とした場合、本願発明1は、引用発明1と引用文献1?6に記載された技術的事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)引用発明5を主引用発明とした場合
ア 対比
本願発明1と引用発明5とを対比すると、次のことがいえる。

引用文献5の化学式3や、本願明細書【0003】に記載された【化1】から、引用発明5における「O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマジロール」が、本願発明1における「6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロール」に相当することは明らかである。また、引用文献5には、「O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロール」とは別に、「O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールシュウ酸塩」を用いた例も記載されていることを考慮すると、引用発明5における「O-(4-ジメチルアミノエトキシシンナモイル)フマジロール」は遊離塩基の状態であるといえる。

そうすると、本願発明1と引用発明5との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基を含む肥満治療用の医薬組成物。」

(相違点)
(相違点5)本願発明1は、結晶形を有する6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基を含む医薬組成物であって、該医薬組成物は、薬学的に許容される担体中での前記遊離塩基の懸濁液であり、前記結晶形は、2θ度で7.1、13.3、16.3、17.4、18.6、19.4及び19.9のピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられ、該粉末X線回折パターンが、Cu Kα放射線を使用して得られたものであるのに対し、引用発明5は、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールが当該成分を溶解する自己マイクロ乳化薬物送達によってマイクロエマルションとして存在しており、結晶形も特定されていない点。

イ 相違点についての判断
本願出願時における技術常識については、(1)イで説示したとおりである。
一方、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの生物学的利用性に問題があることや、当該有効成分の効力の持続化が必要であることは、引用文献5に記載も示唆もされておらず、本願出願時における技術常識であったともいえない。
そうすると、引用発明5において、6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールのマイクロエマルションを遊離塩基の懸濁液とする動機付けは乏しい。ましてや、懸濁される6-O-(4-ジメチルアミノエトキシ)シンナモイルフマギロールの遊離塩基として、いずれの文献にも記載されていない、2θ度で7.1、13.3、16.3、17.4、18.6、19.4及び19.9のピークを有する粉末X線回折パターンによって特徴づけられ、該粉末X線回折パターンが、Cu Kα放射線を使用して得られたものである結晶形を用いることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そうすると、相違点5は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ したがって、引用発明5を主引用発明とした場合、本願発明1は、引用発明5と引用文献1?6に記載された技術的事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
(1)、(2)で説示したとおり、引用発明1、5のいずれを主引用発明とした場合であっても、本願発明1は、引用発明1または引用発明5と、引用文献1?6に記載された技術的事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1をさらに特定したものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明1または引用発明5と、引用文献1?6に記載された技術的事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
第6で説示したとおり、本願発明1?5は、引用文献1?4及び周知技術(引用文献5,6)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-16 
出願番号 特願2013-538848(P2013-538848)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早川 裕之井上 典之阿久津 江梨子山本 昌広  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 山本 吾一
前田 佳与子
発明の名称 肥満治療用の医薬組成物  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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