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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1333672
審判番号 不服2017-5173  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-11 
確定日 2017-11-07 
事件の表示 特願2013- 1777「半導体装置及び半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月24日出願公開,特開2014-135347,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年1月9日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年12月 4日 審査請求
平成28年 9月12日 拒絶理由通知
平成28年11月 8日 意見書・補正書
平成29年 2月 7日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年 4月10日 補正書(平成29年4月12日付け通知書により本補正書は返戻)
平成29年 4月11日 審判請求・補正書・上申書
平成29年 8月24日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)
平成29年 9月26日 意見書・補正書

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1,5,11
・引用文献 1,2
引用文献1(特に,段落[0010],[0013]-[0020],[0027]-[0029],図4)には,基板1上に形成された窒化物半導体からなるバッファ層2と,バッファ層2上に形成されたGaNからなる電子走行層4と,電子走行層4上に形成されたAlGaNやAlInGaN等からなる電子供給層5aと,電子供給層5a上に形成されたシリコン酸化物からなる第1の絶縁膜9と,電子供給層5a上に形成されたソース電極6及びドレイン電極7と,第1の絶縁膜9に形成された開口部を介して形成された凹部(リセス)15a(本願発明の「溝」に相当。)と,第1の絶縁膜9及び凹部15a上に形成されたシリコン窒化物からなる第2の絶縁膜10(本願発明の「ゲート絶縁膜」に相当。)と,第2の絶縁膜10上に形成されたゲート電極11と,を備えた構成のヘテロ接合型電界効果半導体装置及びその製造方法の発明が記載されている。又,電子供給層はキャップ層を有してもよい旨の記載があり,AlGaNからなるキャップ層も例示されている(段落[0010],[0033])。
補正後の請求項1,5,11に係る発明と引用文献1に記載の発明を比較すると,本願発明は,キャップ層の開口部により露出した露出面に酸化膜を,ウェット処理により形成する工程を含むのに対し,引用文献1には,その旨の明示的な記載がない点で相違する。
一方,引用文献2(特に,段落[0005],[0024],[0028]-[0042],[0046]-[0047],[0050],図2-4)には,GaNを含む半導体層を用いた半導体装置の製造方法であって,半導体層の表面を水素ガスにより処理し,表面層から窒素を除去することで半導体層の表面をGa表面とする表面処理工程と,表面処理工程後の表面においてGa_(2)O_(3)からなる均一な絶縁膜を形成することができるように半導体層表面を酸化する酸化工程を含む半導体装置の製造方法の発明が記載されており,酸化工程として,過酸化水素を含む溶液により半導体層の表面を酸化工程とすることができ,過酸化水素水を含む溶液として過酸化水素と硫酸の混合液が例示されている(段落[0024])。
してみると,引用文献1及び引用文献2に記載の発明は,窒化物半導体からなる半導体装置におけるリーク電流の抑制及び耐圧改善という共通の課題を有するものであるから,引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の発明を適用して,凹部15aにおけるキャップ層及び電子供給層5aの露出面に過酸化水素と硫酸の混合溶液による酸化工程を行って処理表面にGa_(2)O_(3)からなる均一な絶縁膜を形成することは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,先の拒絶理由通知書に記載した理由により,本願発明は,引用文献1及び2に基づき当業者が容易に発明することが出来たものであるから,依然として,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

尚,出願人は平成28年11月8日付けの意見書にて,「引用文献2は,酸化工程により形成した酸化膜10の一部をエッチングして開口を形成し,この開口内にショットキー電極13を直接形成するものである(段落0035?0042及び図5?8)。引用文献2を参照した当業者は,引用文献1記載の方法において,電子供給層5aに凹部15を形成した後に,第2の絶縁膜10(ゲート絶縁膜)を形成する前に,凹部15aの露出面にウェット処理により酸化膜を形成する理由はなく,さらに,酸化膜上にゲート絶縁膜を形成する理由がない。」と主張している。
しかしながら,引用文献2に記載の発明における課題は,酸化工程においてGaN表面に部分的に発生する窒素抜けを抑制することで,Ga2O3からなる絶縁膜におけるリークを改善することであり(段落[0003]),引用文献2に記載の発明は当該課題を解決するために上記の表面処理工程及び酸化工程を行うものであり,実施の形態1として記載されたショットキーバリアダイオードはあくまで上記の二工程を含む製造方法を適用した一例として記載されたものである。したがって,引用文献2に記載の発明は必ずしもショットキー電極にのみ適用可能なものではなく,段落[0050]においても「本発明は,半導体層の表面に絶縁膜(酸化膜)が形成された構成を備える半導体装置であれば任意の半導体装置に適用することができる。」と記載されており,さらに,絶縁膜上にゲート電極を形成した半導体装置であるMIS-FETの製造方法に適用できる旨も併せて記載されている。
よって,出願人の主張は採用できない。

・請求項 2,6
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献1には,半導体層表面を酸化する酸化工程の前に,半導体層の表面を水素ガスにより処理し,表面層から窒素を除去することで半導体層の表面をGa表面とする表面処理工程(本願発明の「露出面を洗浄する工程」に相当。)を行うことが記載されている(段落[0031])。

・請求項 3,7
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献2には,酸化工程として,過酸化水素を含む溶液により半導体層の表面を酸化工程とすることができ,過酸化水素水を含む溶液として過酸化水素と硫酸の混合液が例示されている(段落[0024])。

・請求項 4,8,12
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献2には,表面処理工程後の表面においてGa2O3からなる均一な絶縁膜を形成する酸化工程についての記載がある(段落[0032])。

・請求項 9,10
・引用文献等 1,2
・備考
引用文献1(特に,段落[0032]-[0033],図7)には,ゲート電極8が第2の半導体層である電子供給層5bの表面上に第2絶縁膜10を介して配置されている構成のヘテロ接合型電界効果半導体装置の発明が実施例4として記載されている。さらに,第2の半導体層はキャップ層を含む積層体でもよい旨の記載(段落[0010],[0033])もある。
してみれば,引用文献1に記載の発明である電子供給層5a上に新たにキャップ層を設けた構成に,引用文献2に記載の発明を適用して,当該新たなキャップ層がシリコン酸化物からなる第1の絶縁膜9との界面にGa2O3からなる酸化物を有する構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

<引用文献等一覧>
1.特開2009-054807号公報
2.特開2009-267019号公報

第3 当審拒絶理由の概要

1(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

2(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・理由 2(進歩性)
・請求項 1,2,4
・引用文献 1?3
・備考
引用文献1の,特に,【0005】,【0009】,【0011】,【0029】,【0030】及び図1,2には,「GaAs基板1(請求項1において「半導体基板」に相当)上にバッファ層2を介してチャネル層3(請求項1において「電子走行層」に相当)を形成する工程と,チャネル層3上にスペーサ層4を介して電子供給層5を形成する工程と,電子供給層5上にバリア層6を介してキャップ層7を形成する工程を有し,開口部に露出したキャップ層7の側面上を含み,酸及びアルカリを含まない過酸化水素水に浸漬させることにより酸化膜6’’,7’’を形成する工程(請求項1において「露出したキャップ層の露出面に酸化膜を,ウエット処理による形成する工程」に相当)を有するHEMT(請求項1において「半導体装置」に相当)の製造方法。」
が開示されている(以下,「引用製造方法発明1」という。)
引用製造方法発明1において,「開口部に露出したキャップ層7の側面上を含み酸及びアルカリを含まない過酸化水素水に浸漬させることにより酸化膜6’’,7’’を形成する工程」は,酸化膜6’’,7’’が連続的に形成され,特に,酸化膜形成当初の酸化膜6’’はキャップ層の露出面に形成され,その後に,連続的にゲート絶縁膜として利用する酸化膜6’’,7’’が形成される工程を含むから,請求項1に係る発明において,「開口部により露出したキャップ層の露出面にウエット処理により酸化膜を形成する工程と,前記酸化膜上にゲート絶縁膜を形成する工程」に相当するので,請求項1に係る発明と引用製造方法発明1とを対比すると以下の各点で相違する。
(相違点)
相違点(1)
請求項1に係る発明では,GaAs基板1上にチャネル層3を形成する工程と,チャネル層3上に電子供給層5を形成する工程と,電子供給層5上にキャップ層7を形成する工程を有するの対して,引用製造方法発明1では,GaAs基板1上にバッファ層2を介してチャネル層3を形成する工程と,チャネル層3上にを介して電子供給層5を形成する工程と,電子供給層5上にバリア層6を介してキャップ層7を形成する工程を有する点。
相違点(2)
請求項1に係る発明では,キャップ層上にキャップ層の一部が露出する開口部を有する保護層を形成する工程を有するのに対して,引用製造方法発明1では,キャップ層上にキャップ層の一部が露出する開口部を有するレジスト11を形成する工程を有する点。
以下,前記各相違点について検討する。
相違点(1)について
HEMTにおいて,バッファ層2,スペーサ層4,バリア層6という各層は,結晶成長やキャリア制御の改善等を図るために当業者が選択的に採用し得る半導体層であり,例えばプロセスの簡略化等を考慮して,当該半導体層を省略する構造を採用することは,当業者が容易に想到し得たものと認められる(特に,請求項1)。
相違点(2)について
引用文献2の,特に,【0031】及び図1(c)には,ゲート電極部を画定するためのパターニング用のマスクとして,表面層5(請求項1において「キャップ層」に相当)上に,表面層5の一部が露出する開口部を有する保護絶縁膜8(請求項1において「保護膜」に相当)を用いる技術が開示されており,引用製造方法発明1において,ゲート電極のパターニングの際,エッチング耐性等の半導体プロセスの一般的な技術的課題に配慮して,引用文献2に開示された技術を採用する事は,当業者が容易に想到し得たものと認められる(特に,請求項1)。

また,引用文献3の,特に,【0076】には,酸化膜層を形成する前に,キャップ層の露出面を洗浄する技術が開示されており,引用製造方法発明1に記載された発明において,表面の清浄化という薄膜形成時の一般的な技術的課題に配慮して,引用文献3に開示された技術を採用する事は,当業者が容易に想到し得たものと認められる(特に,請求項2)。

さらに,引用文献2の,特に,【0027】には,HEMTにおけるキャップ層の典型的な材料としてGaN,AlGaN等,ガリウムを含む材料が開示されており,ガリウムを含む材料を酸化する際,酸化ガリウムが形成されることは通常予想される酸化物であるから,引用製造方法発明1において,キャップ層及び酸化物の具体的かつ典型的な材料として,引用文献2に開示及び示唆された材料を採用することに格別な困難性は認められない(特に,請求項4)

・理由 1(新規性),2(進歩性)
・請求項 5,6
・引用文献 1?3
<引用文献1を主引例とした場合>
引用文献1の,特に【0005】,【0009】,【0011】,【0029】,【0030】及び図1,2には,
「GaAs基板1(請求項5において「半導体基板」に相当),と,GaAs基板1上に,形成されたチャネル層3(請求項5において「電子走行層」に相当)と,チャネル層3上に形成された電子供給層5と,電子供給層5上に形成されたキャップ層7を有し,キャップ層7の側面上を含みゲート絶縁膜を構成する酸化膜6’’,7’’を有するHEMT(請求項5において「半導体装置」に相当)。」が開示されている(以下,「引用装置発明1」という。)
ここで,引用装置発明1において酸化膜6’’,7’’は,連続的に形成され,特に,酸化膜形成当初の酸化膜6’’はキャップ層との界面における絶縁膜であり,その後連続的に形成される,酸化膜6’’,7’’はゲート絶縁膜として機能するから,請求項5における「キャップ層上に形成されたゲート絶縁膜を備え,前記キャップ層は,前記ゲート絶縁膜との界面に酸化膜を有すること」に相当し,請求項5に係る発明と引用装置発明1との間に実質的な差異は認められず,仮に差異があったとしても,その差異は,当業者が容易に想到し得た範囲と認められる(特に,請求項5)。
また,引用文献2の,【0027】には,HEMTにおけるキャップ層の典型的な材料としてGaN,AlGaN等,ガリウムを含む材料が開示されており,ガリウムを含む材料を酸化する際,酸化ガリウムが形成されることは通常予想される酸化物であるから,引用装置発明1において,キャップ層及び酸化膜の具体的かつ典型的な材料として,引用文献2に開示及び示唆された材料を構成することに格別な困難性は認められない(特に,請求項6)。

<引用文献3を主引例とした場合>
引用文献3の,特に,【0071】?【0082】及び図4(A)?(H)には,
「Si-SiC基板1(請求項5において「半導体基板」に相当)と,Si-SiC基板1上に形成されたi-GaN電子走行層2,i-GaN電子走行層2上に形成されたn-AlGaN電子供給層3,n-AlGaN電子供給層3上に形成されたn-GaNキャップ層12を有し当該キャップ層12上にゲート絶縁膜を構成する酸化膜TaO膜5CXを有するHEMT)」が開示されている(以下,「引用装置発明3」という。)。
引用装置発明3において形成された酸化膜TaO膜5CXは,キャップ層上に形成されゲート酸化膜として機能すると共に,キャップ層との界面における絶縁膜であるから,請求項5における「キャップ層上に形成されたゲート絶縁膜を備え,前記キャップ層は,前記ゲート絶縁膜との界面に酸化膜を有すること」に相当し,両者に実質的な差異は認められず,仮に差異があったとしても,その差異は,当業者が容易に想到し得た範囲と認められる(特に,請求項5)。
また,n-GaNキャップ層12上に酸化膜TaO膜5CXを形成する際,当該キャップ層12のうちガリウムを含む層が表面に露出している箇所には,酸化ガリウムが形成され得ることは通常予想される範囲の技術的事項である(特に,請求項6)。

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項(3)に係る発明については,現時点では,拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2011-49314号公報
2.特開2008-198947号公報
3.特開2011-187728号公報

第4 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は,平成29年9月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし本願発明3は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
半導体基板上に電子走行層を形成する工程と,
前記電子走行層上に電子供給層を形成する工程と,
前記電子供給層上にキャップ層を形成する工程と,
前記キャップ層上に,前記キャップ層の一部が露出する開口部を有する保護層を形成する工程と, 前記開口部により露出した前記キャップ層の露出面に酸化膜を,ウェット処理により形成する工程と,
前記酸化膜上にゲート絶縁膜を形成する工程と,
を備え,
前記ウェット処理は,アンモニア過酸化水素水,硫酸過酸化水素水,塩酸過酸化水素水及びリン酸の何れか一つを用いて行われることを特徴とする,半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記酸化膜を形成する工程の前に,前記キャップ層の前記露出面を洗浄する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記キャップ層は,ガリウムを含み,
前記酸化膜は,酸化ガリウム膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。」

第5 引用文献,引用発明等
1 原審の引用文献1について
(1)原審の引用文献1の記載事項
原審で引用された特開2009-54807号公報(以下,「原審引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は,当審で追加した。以下,同じ。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ノーマリオフ型のHEMT( High Electron Mobility Transistor)又はこれに類似のヘテロ接合型電界効果半導体装置に関する。」

イ 「【0010】
なお,請求項2に示すように,前記凹部の深さを,前記凹部に隣接して前記第2の半導体層の残存部が生じるように前記第2の半導体層の厚みよりも浅く設定することができる。この場合には,前記第2の半導体層の残存部及び前記第2の絶縁膜の厚みを,電流通路として機能する2次元キャリアガス層が前記第1の半導体層に生じないように決定する。
また,請求項3に示すように,前記第2の半導体層に凹部(リセス)を設けない構成にすることもできる。この場合には,前記第2の半導体層及び前記第2の絶縁膜の厚みを,電流通路として機能する2次元キャリアガス層が前記第1の半導体層に生じないように決定する。
また,請求項4に示すように,前記第2の絶縁膜は,更に,前記ゲート電極の下から前記第1の絶縁膜の上に延在している部分を有していることが望ましい。
また,請求項5に示すように,更に,ゲートフィールドプレートを有し,該ゲートフィールドプレートは前記第2の絶縁膜の上に配置され且つ前記ゲート電極に接続されていることが望ましい。
また,請求項6に示すように,前記第1の絶縁膜は前記ゲート電極側に傾斜側面を有し,前記第2の絶縁膜は前記第1の絶縁膜の前記傾斜側面を覆っており,前記ゲートフィールドプレートは前記第2の絶縁膜を介して前記第1の絶縁膜の前記傾斜側面を覆っていることが望ましい。
なお,本願において,前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層のそれぞれは単一層のみでなく,複数の層の積層体をも意味している。例えば前記第2の半導体層は電子供給層のみでも良いし,スペーサ層と電子供給層との積層体,又はスペーサ層と電子供給層とキャップ層との積層体でも良い。」

ウ 「【実施例2】
【0027】
次に,図4に示す実施例2に従うヘテロ接合型電界効果半導体装置を説明する。但し,図4及び後述する図5において図1と実質的に同一の部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0028】
図4に示すヘテロ接合型電界効果半導体装置の主半導体領域3aは変形された凹部(リセス)15aを有する電子供給層5aを備えている他は,図1の主半導体領域3と同一に形成されている。図4の凹部(リセス)15aは電子走行層4に到達しないように形成されている。従って,図4の電子供給層5aの凹部15aが設けられている部分の厚みは電子供給層5aの凹部(リセス)15aが設けられていない部分の厚みよりも小さく,凹部(リセス)15aの底面16と電子走行層4との間に電子供給層5aの薄い残存部19が存在している。この電子供給層5aの残存部19の厚みは0nmよりも大きく,且つ20nmよりも小さいことが望ましい。電子供給層5aの薄い残存部19の上にシリコン窒化物から成る第2の絶縁膜10が配置されているので,シリコン窒化物から成る第2の絶縁膜10の引っ張り応力が電子供給層5aの薄い残存部19に作用し,電子供給層5aの薄い残存部19におけるピエゾ分極に起因する電荷が消失する。また,電子供給層5aの残存部19は薄いので,この残存部19の自発分極に起因する電荷は少ない。このため,凹部(リセス)15aの下に2DEG層が形成されず,ノーマリオフ特性が得られる。
【0029】
図4に示す実施例2のヘテロ接合型電界効果半導体装置は,凹部(リセス)15aの下に電子供給層5aの薄い部分が残存している点を除いて,図1に示す実施例1のヘテロ接合型電界効果半導体装置と同一に構成されているので,実施例1と同様な効果を有する。」

エ 図4には,以下の事項が記載されている。

基板1上に形成されたバッファ層2と,バッファ層2上に形成された電子走行層4と,電子走行層4上に形成された電子供給層5aと,電子供給層5a上に形成された第1の絶縁膜9と,第1の絶縁膜9に形成された開口部を介して電子走行層4に到達しないように形成された凹部(リセス)15aと,第1の絶縁膜9及び凹部15a上に形成された第2の絶縁膜10と,第2の絶縁膜10上に形成されたゲート電極8と,を備えた構成のヘテロ接合型電界効果半導体装置。

(2)原審引用製造方法発明1
前記(1)の記載から,原審引用文献1には,以下の事項が記載されている。

GaAs基板上にバッファ層を介して電子走行層を形成する工程と,電子走行層の上にスペーサ層を介して電子供給層を形成する工程と,電子供給層上にキャップ層を形成する工程と,キャップ層の上に第1の絶縁膜を形成する工程と,第1の絶縁膜に形成された開口部を介して電子走行層に到達しないように凹部(リセス)を形成する工程と,第1の絶縁膜9及び前記凹部上に第2の絶縁膜10を形成する工程と,第2の絶縁膜上にゲート電極を形成する工程を有するHEMTの製造方法。

2 原審の引用文献2について
(1)原審の引用文献2に記載された事項
原審で引用された特開2009-267019号公報(以下,「原審引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は,当審で追加した。以下,同じ。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置の製造方法に関する。」

イ 「【0024】
また,本発明における酸化工程としては,過酸化水素を含む溶液により半導体層の表面を酸化する工程とすることもできる。この場合,上記表面処理工程によりその表面が脱窒素処理されGaとなった半導体層を,過酸化水素を含む溶液に浸漬することにより,半導体層表面にGa_(2)O_(3)を形成することができる。浸漬時間は特に限定されず,1時間?2時間浸漬すればよいが,これ以上の時間浸漬してもよい。過酸化水素を含む溶液は,たとえば市販の30%過酸化水素水や,SPM(sulfuric acid hydrogen peroxide mixture)(たとえば過酸化水素(濃度30%)と硫酸(含有率96%)とを体積比で1:5として調整した溶液)などを例示することができる。このように,過酸化水素を含む溶液により半導体層の表面を酸化する場合は,常温または加熱条件下での処理が可能となる。このような過酸化水素を含む溶液により酸化工程を実施すれば,半導体層の当該溶液に対する浸漬時間や温度条件を制御することで,半導体層の表面に形成される酸化膜(絶縁膜)の膜厚を正確に制御することができる。」

(2)原審引用製造方法発明2
前記(1)の記載から,前記原審引用文献2には次の発明(以下,「原審引用製造方法発明2」という。)が記載されていると認められる。

「半導体層の表面を過酸化水素を含む溶液により酸化する技術。」

3 当審の拒絶理由で引用された引用文献1について
(1)当審で引用された引用文献1に記載されていた事項
当審で引用された特開2011-49314号公報(以下,「当審引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は,当審で追加した。以下,同じ。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体装置およびその製造方法に関する。」

イ 「【0004】
図1(a)?(o)を参照して,基板材料としてGaAsを用いたHEMTの従来の製造方法を説明する。チャネル層3をInGaAsとした場合,用いられる基板1はGaAs基板の他に,InP基板,GaP基板,表面に単結晶のGaAsを成長させたSi基板,サファイア基板等が好適である。以下,GaAs基板を例に説明する。
【0005】
まず,分子線エピタキシー法(MBE法),有機金属気相成長法(MOCVD法)等を用いて,GaAs基板1上に,バッファ層2,チャネル層3,スペーサー層4,電子供給層5,バリア層6,キャップ層7を積層した多層膜構造を作製する(図1(a))。以下,この積層構造を有する半導体基板を「HEMT構造基板」と呼ぶ。
【0006】
次に,HEMT構造基板の表面全体にレジスト8を塗布した後,メサ分離のためのパターニングを施してメサエッチングを行う(図1(b),(c))。バッファ層2が半絶縁性であるため,バッファ層2が露出すれば素子の絶縁性は保たれる。また,メサエッチングに用いるエッチング溶液は,過酸化水素水と酸の混合液で,酸としてはリン酸,塩酸,硫酸等が一般的に用いられる。これによって,HEMT構造基板は順テーパー形状の積層構造となる。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前述のように,酸を用いた半導体のウェットエッチング処理は,過酸化水素水等の酸化剤による酸化反応と,酸またはアルカリ溶液による溶解が同時に起こることでエッチングが進行する。従来技術の場合,リセスエッチング後のレジスト開口部においてバリア層6及びキャップ層7の露出部分が酸化して酸化膜6’及び7’となっているが(図1(j)),バリア層6とその酸化膜6’との膜厚の和はプロセスバッチ間で安定しない。エッチングは,リセスエッチャントの混合比や水洗槽中の溶存酸素に依存し,酸化は,リセスエッチングから蒸着までの間の搬送における大気暴露等に依存するからである。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0021】
このような目的を達成するために,本発明の第1の態様は,ゲート電極を備える半導体装置の製造方法であって,チャネル層と前記チャネル層の上方のバリア層と前記バリア層に隣接して形成されたキャップ層とを有する多層膜構造の前記キャップ層表面の一部を,酸化剤を含む酸またはアルカリ性溶液によって前記バリア層が露出するまでエッチングしてリセスを形成するリセスエッチング工程と,前記リセスエッチング工程とは独立の工程であり,前記リセスの表面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と,前記酸化膜の表面に前記ゲート電極を形成するゲート電極形成工程と,前記ゲート電極を構成する金属を,加熱により前記酸化膜および前記バリア層中に拡散させる拡散工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
また,本発明の第2の態様は,第1の態様において,前記酸化膜形成工程が,前記多層膜構造を酸およびアルカリを含まない過酸化水素水に浸漬させることにより酸化膜を形成する工程を含むことを特徴とする。」

オ 「【0029】
以下,図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
実施例1
本発明による半導体装置の製造方法は,図1を参照して説明した従来の製造方法と,リセスエッチング工程(図1(h)?(j))後に酸化膜形成工程を行う点が相違する。本発明による製造方法では,リセスエッチングを行った後に,HEMT構造基板を過酸化水素に浸漬させることで化学的な反応によって強制的に酸化膜6’’及び7’’を形成し(図2),それからPt/Ti/Pt/Auのゲート電極12を形成した。このような酸化膜6’’及び7’’は,面内均一性に優れ,かつ,ある厚さで安定するため,大気中に暴露してもそれ以上酸化は進まない。つまり,大気に暴露しても酸化が進まないような酸化膜が表面に存在すれば,酸化膜厚の経時変化および面内分布を抑えることができ,ウェハ面内およびプロセスバッチ間の特性ばらつきは低減する。」

(2)当審引用製造方法発明1
前記(1)の記載から,前記当審引用文献1には次の発明(以下,「当審引用製造方法発明1」という。)が記載されていると認められる。

「GaAs基板上にバッファ層を介してチャネル層を形成する工程と,チャネル層上にスペーサ層を介して電子供給層を形成する工程と,電子供給層上にバリア層を介してキャップ層を形成する工程と,キャップ層に開口部を形成する工程と,開口部に露出したキャップ層の側面上を含み,酸およびアルカリを含まない過酸化水素水に浸漬させることにより酸化膜を形成する工程,を有するHEMTの製造方法。」

4 当審の拒絶理由で引用された引用文献2について
(1)当審で引用された引用文献2に記載されていた事項
当審で引用された特開2008-198947号公報(以下,「当審引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は,当審で追加した。以下,同じ。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,III-V族窒化物半導体からなる窒化物半導体層に形成された半導体装置及びその製造方法に関するものである。」

イ 「【0031】
続いて,図1(c)に示すように,保護絶縁膜8を形成した後,保護絶縁膜8に当該保護絶縁膜8を開口する貫通溝8aを形成する。
詳細には,先ず,SiC基板1の全面に絶縁材料,例えばSi_(3)N_(4)をCVD法等により膜厚100nm程度に堆積し,保護絶縁膜8を形成する。Si_(3)N_(4)は,GaN等と相性に優れており,GaNに悪影響を与えることがなく,従って保護絶縁膜8は表面層5の十分な保護機能を果たす。」

(2)当審引用製造方法発明2
前記(1)の記載から,前記当審引用文献2には次の発明(以下,「当審引用製造方法発明2」という。)が記載されていると認められる。

「ゲート電極部を画定するためのパターニング用のマスクとして,表面層上に,表面層5の一部が露出する開口部を有する保護絶縁膜を用いるパターニング技術。」

5 当審の拒絶理由で引用された引用文献3について
(1)当審で引用された引用文献3に記載されていた事項
当審で引用された特開2011-187728号公報(以下,「当審引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は,当審で追加した。以下,同じ。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,化合物半導体装置及びその製造方法に関する。」

イ 「【0076】
次いで,図4(C)に示すように,リセス13A,13Bを含むGaN系半導体積層構造4の表面,即ち,GaNキャップ層12及びAlGaN電子供給層3の表面を,例えば有機溶剤や酸を用いて充分に洗浄する。本実施形態では,GaNキャップ層12上のドライエッチング残渣を取り除くために,例えば硫酸と過酸化水素水の混合物を用いた酸処理(SPM)によって充分に洗浄する。」

(2)当審引用製造方法発明3
前記(1)の記載から,前記当審引用文献3には次の発明(以下,「当審引用製造方法発明3」という。)が記載されていると認められる。

「酸化膜層を形成する前に,キャップ層の露出面を洗浄する洗浄技術。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と当審引用製造法発明1の対比

ア 当審引用製造方法発明1の「GaAs基板」は,本願発明1の「半導体基板」に相当する。

イ 当審引用製造方法発明1の「チャネル層」は,キャリアである電子が走行する層であるから,本願発明1の「電子走行層」に相当する。

ウ 当審引用製造方法発明1の「開口部に露出したキャップ層の側面上を含み,酸およびアルカリを含まない過酸化水素水に浸漬させることにより酸化膜を形成する工程」は,「開口部により露出したキャップ層の露出面にウエット処理により酸化膜を形成する工程」という点で本願発明1と共通する。

とすると,本願発明1と当審引用製造方法発明1は以下のエの点で一致し,以下のオの点で相違する。

エ 一致点
「半導体基板上に電子走行層を形成する工程と,
前記電子走行層上に電子供給層を形成する工程と,
前記電子供給層上にキャップ層を形成する工程と,
前記開口部により露出した前記キャップ層の露出面に酸化膜を,ウェット処理により形成する工程と,
を備えた半導体装置の製造方法。」

オ 相違点
相違点(1)
本願発明1では,アンモニア過酸化水素水,硫酸過酸化水素水,塩酸過酸化水素水及びリンの何れか一つを用いて酸化膜をウエット処理で形成するのに対して,当審引用製造方法発明1では,酸およびアルカリを含まない過酸化水素水に浸漬させることにより酸化膜をウエット処理で形成する点。

相違点(2)
本願発明1では,半導体基板基板上にチャネル層を形成する工程と,チャネル層上に電子供給層を形成する工程と,電子供給層上にキャップ層を形成する工程を有するの対して,当審引用製造方法発明1では,GaAs基板上にバッファ層を介してチャネル層を形成する工程と,チャネル層上にスペーサ層を介して電子供給層を形成する工程と,電子供給層上にバリア層を介してキャップ層を形成する工程を有する点。

相違点(3)
本願発明1では,キャップ層上にキャップ層の一部が露出する開口部を有する保護層を形成する工程を有するのに対して,当審引用製造方法発明1では,キャップ層上にキャップ層の一部が露出する開口部を有するレジストを形成する工程を有する点。

相違点(4)
本願発明1では,開口部により露出したキャップ層の露出面にウエット処理により形成された酸化膜上にゲート絶縁膜を形成する工程を有するのに対して,当審引用製造方法発明1では,当該ゲート絶縁膜を形成する工程を有しない点。

(2)相違点についての判断
以下,相違点(1)について検討する。
前記相違点(1)において,アンモニア過酸化水素水,硫酸過酸化水素水,塩酸過酸化水素水及びリン酸の何れか一つを用いて酸化膜を形成する工程は,当審引用文献1ないし3には記載されておらず,又示唆もされていない。むしろ,当審引用文献1には,従来技術としてその問題を指摘し,採用を否定する理由が記載がされている(前記3(1)ウ参照)。
しかし,本願発明1は,当該工程を有することにより,以下の様な格別な効果を奏する。
すなわち,キャップ層の露出面の洗浄処理が行われることにより,キャップ層の露出面に均一な膜質の酸化膜が形成され,当該酸化膜が形成されることにより,キャップ層とゲート絶縁膜との界面における電子トラップが軽減されることが予測され,その結果,Id-Vg特性におけるヒステリシス(ΔVth)は低減されるという効果を奏する(本願明細書段落【0065】,【0066】参照)。

したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者が当審引用文献1ないし3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
本願発明1は,当審引用文献1ないし3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は,本願発明1の発明特定事項を全て含む従属請求項であることから,本願発明1は,当業者が当審引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2および3も,当業者が当審引用文献1ないし3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとは認められない。

第7 原査定についての判断
平成29年9月26日付けの補正により,補正後の請求項1には,「酸化膜をウエット処理により形成する工程」について,「前記ウェット処理は,アンモニア過酸化水素水,硫酸過酸化水素水,塩酸過酸化水素水及びリン酸の何れか一つを用いて行われることを特徴とする」という技術的事項を有するものとなった。
当該各技術的事項は,原審引用文献1,2には記載されておらず,また示唆もされていない。
以上から,本願発明1は,当業者が,原審引用文献1,2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではない。
また,本願発明2および3は,本願発明1の発明特定事項を全て含む従属請求項であることから,本願発明1と同様に,当業者が,原審引用文献1,2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-25 
出願番号 特願2013-1777(P2013-1777)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 恩田 和彦  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 大嶋 洋一
小田 浩
発明の名称 半導体装置及び半導体装置の製造方法  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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