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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1333675
審判番号 不服2016-15360  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-13 
確定日 2017-10-18 
事件の表示 特願2014-180345「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-122940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成26年9月4日(優先権主張2013年12月20日、大韓民国)の出願であって、平成27年10月9日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月8日に意見書が提出されたが、同年6月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年10月13日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年10月13日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、請求項1を、以下のように補正する補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所を示す。)
「【請求項1】
第1及び2バッテリーを充電させる電力変換装置であって、
外部から供給される常用交流電源を直流電源に変換して出力する入力部と、
前記入力部を介して変換された直流電源を交流電源に変換して出力する第1電力変換部と、
第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第1バッテリーを充電させ、第2動作モードにおける前記第1バッテリーを介して出力される直流電源を交流電源に変換する第2電力変換部と、
第2動作モードにおいて、前記第2電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第2バッテリーを充電させる第3電力変換部と、
外部から供給される制御信号に応じて前記第1動作モードでは、前記第1電力変換部と第2電力変換部との間を互いに接続し、前記第2動作モードでは、前記第2電力変換部と第3電力変換部との間を互いに接続する切り替えスイッチ部と、
を備え、
前記第2電力変換部は、前記第1動作モード及び前記第2動作モードの両方で動作する第1共用回路部及び第2共用回路部を備え、
前記第1共用回路部は、前記第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して出力される交流電源を整流して直流電源に変換し、前記第2動作モードにおいて、前記第2共用回路部を介して出力される直流電源を交流電源に変換し、
前記第3電力変換部は、前記第2動作モードにおいて前記第1共用回路部から出力される前記交流電源を直流電源に整流する整流部及び前記整流部から出力された前記直流電源をフィルタリングして前記第2バッテリーに充電する出力フィルタ部を備える、電力変換装置。」

(2)補正の適否
本件補正の上記補正事項は、補正前の請求項4(請求項1を引用する請求項3を引用している)を独立記載形式とし、さらに「第3電力変換部」について「前記第3電力変換部は、前記第2動作モードにおいて前記第1共用回路部から出力される前記交流電源を直流電源に整流する整流部及び前記整流部から出力された前記直流電源をフィルタリングして前記第2バッテリーに充電する出力フィルタ部を備える」と限定するものであって、補正前の請求項4に記載した発明と補正後の請求項1に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア.引用文献
(1)引用文献・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された2011-244523号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の記載がある。(下線は、当審で注目する箇所を示す。以下同様。)
「【0044】
ECU300は、いずれも図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、記憶装置および入出力バッファを含む。ECU300は、イグニッションがオンにされたこと、または充電ケーブル400が車両100に接続されたことにより起動され、各センサ等からの信号の入力および各機器への制御信号の出力を行なうとともに、車両100および各機器の制御を行なう。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。」

「【0046】
車両100は、外部電源500からの電力によって蓄電装置110を充電するための構成として、トランス200と、入力回路201と、出力回路202,203と、電圧センサ230と、充電リレーCHR250と、接続部280と、スイッチSW1?SW3とを含む。なお、トランス200、入力回路201、出力回路202,203およびスイッチSW1?SW3によって、本発明における「電力変換回路」が形成される。
【0047】
接続部280は、外部電源500からの交流電力を受けるために、車両100のボディに設けられる。接続部280には、充電ケーブル400の充電コネクタ430が接続される。そして、充電ケーブル400のプラグ410が、(たとえば、商用電源のような)外部電源500のコンセント510に接続されることによって、外部電源500からの交流電力が、充電ケーブル400の電線部420を介して車両100に伝達される。充電ケーブル400の電線部420には、外部電源500から車両100への電力の供給と遮断とを切替えるための、充電回路遮断装置(以下「CCID(Charging Circuit Interrupt Device)」とも称する。)440が介挿される。
【0048】
トランス200は、入力巻線N1と、出力巻線N2,N3とを含む。入力巻線N1および出力巻線N2,N3は共通のコアに巻回される。そして、トランス200は、外部電源500から供給される交流電力とトランス500の出力とが磁気的に絶縁されるように構成される。入力巻線N1から入力される交流電圧は、巻線比に応じた交流電圧に変換されて出力巻線N2,N3から出力される。
【0049】
入力回路201は、外部電源500から伝達された商用電力を高周波の交流電力に変換して、トランス200へ供給するための回路である。
【0050】
入力回路201は、インバータ210と、力率改善回路(以下、PFC(Power Factor Correction)とも称する。)220とを含む。
【0051】
PFC220は、電力線ACL1,ACL2により接続部280に接続される。PFC220は、外部電源500から伝達された交流電力を直流電力に変換して電力線PL3および接地線NL3へ出力する。」

「【0062】
なお、PFC220の構成は、図3および図4の構成には限らない。
再び図1を参照して、インバータ210は、スイッチング素子Q11?Q14およびダイオードD11?D14を含む。
【0063】
直列接続されたスイッチング素子Q11,Q12、および直列接続されたスイッチング素子Q13,Q14は、電力線PL3と接地線NL3との間に並列に接続される。スイッチング素子Q11?Q14には、ダイオードD11?D14がそれぞれ逆並列に接続される。
【0064】
スイッチング素子Q11およびスイッチング素子Q12の接続ノードには、入力巻線N1の一方端が接続され、スイッチング素子Q13およびスイッチング素子Q14の接続ノードには、入力巻線N1の他方端が接続される。
【0065】
そして、スイッチング素子Q11?Q14は、ECU300からの制御信号PWFによって駆動され、PFC220からの直流電力を高周波の交流電力に変換してトランス200の入力巻線N1に供給する。
【0066】
また、インバータ210と入力巻線N1とを結ぶ経路上には、ECU300からの制御信号SE3によって制御されるスイッチSW1が設けられる。このスイッチSW1によって、入力回路201を入力巻線N1から電気的に切り離すことができる。
【0067】
出力回路202は、出力巻線N2から供給される交流電力を、蓄電装置110の充電電力に変換するための回路である。
【0068】
出力回路202は、スイッチング素子Q1?Q4およびダイオードD1?D4を含むAC/DCコンバータ240と、コンデンサC3とを含む。
【0069】
直列接続されたスイッチング素子Q1,Q2、および直列接続されたスイッチング素子Q3,Q4は、電力線PL2と接地線NL2との間に並列に接続される。スイッチング素子Q1?Q4には、ダイオードD1?D4がそれぞれ逆並列に接続される。
【0070】
スイッチング素子Q1およびスイッチング素子Q2の接続ノードには、出力巻線N2の一方端が接続され、スイッチング素子Q3およびスイッチング素子Q4の接続ノードには、出力巻線N2の他方端が接続される。
【0071】
そして、スイッチング素子Q1?Q4は、ECU300からの制御信号PWEによって駆動され、出力巻線N2から供給される交流電力を直流電力に変換して電力線PL2および接地線NL2に出力する。
【0072】
また、出力回路202は、蓄電装置101(当審注:「蓄電装置110」の誤記と認められる。)からの直流電力を交流電力に変換して、出力巻線N2を介してトランス200に供給することも可能である。
【0073】
コンデンサC3は電力線PL2と接地線NL2との間に接続され、電力線PL2と接地線NL2との間の電圧変動を低減する。
【0074】
CHR250に含まれるリレーの一方端は、電力線PL2および接地線NL2にそれぞれ接続される。また、CHR250に含まれるリレーの他方端は、蓄電装置110の正極端および負極端にそれぞれ接続される。
【0075】
CHR250は、ECU300からの制御信号SE2に基づいて、蓄電装置110と出力回路202との間での電力の供給と遮断とを切替える。CHR250は、出力回路202からの電力を用いて蓄電装置110を充電する場合に閉成される。
【0076】
また、AC/DCコンバータ240と出力巻線N2とを結ぶ経路上には、ECU300からの制御信号SE4によって制御されるスイッチSW2が設けられる。このスイッチSW2によって、出力回路202を出力巻線N2から電気的に切り離すことができる。」

「【0077】
出力回路203は、外部充電時に、出力巻線N3から供給される交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力を補機系の電力線PL5に供給するための回路である。
【0078】
出力回路203は、ダイオードD21?D24を含むダイオードブリッジ260と、DC/DCコンバータ270とを含む。
【0079】
直列接続されたダイオードD21,D22は、直列接続されたダイオードD23,D24と並列に接続される。ダイオードD21およびD23のカソード、ならびに、ダイオードD22およびD24のアノードは、DC/DCコンバータ270へ接続される。
【0080】
ダイオードD21およびダイオードD22の接続ノードには、出力巻線N3の一方端が接続され、ダイオードD23およびダイオードD24の接続ノードには、出力巻線N3の他方端が接続される。
【0081】
そして、ダイオードブリッジ260は、出力巻線N3から供給される交流電力を整流してDC/DCコンバータ270へ供給する。
【0082】
DC/DCコンバータ270は、たとえばチョッパ回路を含んで構成され、ECU300からの制御信号PWGによって制御されることによって、ダイオードブリッジ260で整流された直流電圧を所定の電圧に昇圧または降圧して電力線PL4に出力する。電力線PL4は、補機系の電力線PL5に接続される。ここで、DC/DCコンバータ270を昇圧回路とするか降圧回路とするかは、入力巻線N1と出力巻線N3との巻線比に依存する。なお、DC/DCコンバータ270は、DC/DCコンバータ170と比較して小容量のものが採用される。また、出力回路203は、出力回路202のような、フルブリッジ型のAC/DCコンバータとしてもよい。
【0083】
ダイオードブリッジ260と出力巻線N3とを結ぶ経路上には、ECU300からの制御信号SE5によって制御されるスイッチSW3が設けられる。このスイッチSW3によって、出力回路203を出力巻線N3から電気的に切り離すことができる。
【0084】
電圧センサ230は、電力線ACL1とACL2との間に接続される。電圧センサ230は、外部電源500から伝達された交流電圧VACを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0085】
車両100において、通常の車両走行時には、上述のようにDC/DCコンバータ170によって、補機系に電力が供給される。このDC/DCコンバータ170は、車両走行時に補機負荷190を駆動する必要があるので、比較的大容量のものが備えられる場合が多い。ところが、外部充電中には補機負荷190による消費電力は車両走行時に比べて非常に少ないため、このように必要電力が少ないときに大容量のDC/DCコンバータ170を使用すると、運転効率が悪くなるおそれがある。
【0086】
そのため、図1のように、多出力が可能なトランス200の出力巻線N3に接続された、小容量のDC/DCコンバータ270を含む出力回路203からの電力を用いて補機系に電力を供給する構成とすることで、外部充電時に、大容量のDC/DCコンバータ170を駆動することなく、ECU300の駆動および補機バッテリ180の充電を行なうことができる。
【0087】
このような、多出力の電力変換装置を用いて、外部充電時に蓄電装置110および補機バッテリ180の充電が可能な構成とすることで、蓄電装置110および補機バッテリ180にそれぞれ対応する充電装置を有する構成の場合と比較して、部品の共有化によるコスト低減や、機器の小型化による省スペース化が期待できる。」

「【0091】
図5を参照して、外部充電が行なわれる前の蓄電装置110および補機バッテリ180の各充電状態が、それぞれ図5中のS10(β1<S10<β2)およびS20(α2<S20<α3)であったとする。ここで、β1およびβ2は、蓄電装置110のSOC1の上下限値を示すしきい値である。また、α1およびα3は、補機バッテリ180のSOC2の上下限値を示すしきい値であり、α2は補機バッテリ180の充電が必要か否かを判定するためのしきい値である。
【0092】
時刻t1において外部充電が開始されるが、補機バッテリ180のSOC2は、上述のようにしきい値α2よりも大きいのでこの時点では充電が開始されず、蓄電装置110のみの充電が開始される。そのため、スイッチSW1,SW2が閉成(オン)され、スイッチSW3は開放されたままとされる。以下、このような状態を「メインバッテリ充電モード」と称する(図5中の状態(1))。
【0093】
これによって、蓄電装置110の充電が開始される。その一方で、ECU300の駆動およびその他の補機負荷190による電力消費によって、補機バッテリ180のSOC2は低下する。
【0094】
そして、時刻t2において、SOC2がしきい値α2まで低下すると、スイッチSW3がさらに閉成されて、外部電源500からの電力によって、蓄電装置110および補機バッテリ180の両方が充電される。以下、このような状態を「同時充電モード」と称する(図5中の状態(2))。なお、このときは、蓄電装置110が優先的に充電されるように、出力回路202,203への電力分配が行なわれる。
【0095】
時刻t3において、SOC2が満充電を示す上限のしきい値α3に到達すると、スイッチSW3が開放されて、再び蓄電装置110のみを充電する「メインバッテリ充電モード」となる。」

「【0111】
また、充電ケーブル400が車両100に接続されていないときに、補機バッテリ180の充電が必要となった場合には、出力回路202を用いてトランス200へ蓄電装置110の電力を供給し、出力回路203によって補機バッテリ180を充電することも可能である。この場合は、スイッチSW1が開放され、スイッチSW2、SW3が閉成される。」

上記下線部の記載、関連箇所の記載及び図1によれば、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「トランス200、入力回路201、出力回路202,203およびスイッチSW1?SW3によって、形成される電力変換回路であって、
ECU300は、各センサ等からの信号の入力および各機器への制御信号の出力を行なうとともに、各機器の制御を行なうものであり、
トランス200は、入力巻線N1と、出力巻線N2,N3とを含み、
入力回路201は、外部電源500から伝達された商用電力を高周波の交流電力に変換して、トランス200へ供給するための回路であり、インバータ210と、力率改善回路(PFC)220とを含み、PFC220は、外部電源500から伝達された交流電力を直流電力に変換し、
インバータ210は、PFC220からの直流電力を高周波の交流電力に変換してトランス200の入力巻線N1に供給し、インバータ210と入力巻線N1とを結ぶ経路上には、ECU300からの制御信号SE3によって制御されるスイッチSW1が設けられ、このスイッチSW1によって、入力回路201を入力巻線N1から電気的に切り離すことができ、
出力回路202は、出力巻線N2から供給される交流電力を、蓄電装置110の充電電力に変換するための回路であり、AC/DCコンバータ240と、コンデンサC3とを含み、AC/DCコンバータ240は、出力巻線N2から供給される交流電力を直流電力に変換して出力し、コンデンサC3は、電力線PL2と接地線NL2との間の電圧変動を低減し、AC/DCコンバータ240と出力巻線N2とを結ぶ経路上には、ECU300からの制御信号SE4によって制御されるスイッチSW2が設けられ、出力回路202を出力巻線N2から電気的に切り離すことができ、出力回路202は、蓄電装置110からの直流電力を交流電力に変換して、出力巻線N2を介してトランス200に供給することも可能であり、
出力回路203は、外部充電時に、出力巻線N3から供給される交流電力を直流電流に変換し、変換した直流電力を補機系の電力線PL5に供給し、補機バッテリ180の充電が可能な構成とするための回路であり、ダイオードD21?D24を含むダイオードブリッジ260と、DC/DCコンバータ270とを含み、ダイオードブリッジ260は、出力巻線N3から供給される交流電力を整流してDC/DCコンバータ270へ供給するものであり、ダイオードブリッジ260と出力巻線N3とを結ぶ経路上には、ECU300からの制御信号SE5によって制御されるスイッチSW3が設けられ、このスイッチSW3によって、出力回路203を出力巻線N3から電気的に切り離すことができ、出力回路203は、出力回路202のような、フルブリッジ型のAC/DCコンバータとしてもよく、
「メインバッテリ充電モード」では、スイッチSW1,SW2が閉成(オン)され、スイッチSW3は開放されたままとされ、蓄電装置110の充電が開始され、「同時充電モード」では、スイッチSW3がさらに閉成されて、蓄電装置110および補機バッテリ180の両方が充電され、
充電ケーブル400が車両100に接続されていないときに、補機バッテリ180の充電が必要となった場合には、出力回路202を用いてトランス200へ蓄電装置110の電力を供給し、出力回路203によって補機バッテリ180を充電することも可能であり、この場合は、スイッチSW1が開放され、スイッチSW2、SW3が閉成される、電力変換回路。」

(2)周知技術を示す文献
(a)特開平9-65509号公報(以下、「周知文献1」という。)には、以下の記載がある。
「【0049】
前記トランスTR3の3次巻線cは、第3の整流回路6に接続されている。第3の整流回路6は、4個のダイオードよりなるブリッジ回路にて構成され、その入力端子がトランスTR3の3次巻線cに接続されている。そして、2次側回路からの高周波交流はトランスTR3にて電力変換(降圧)され第3の整流回路6にて整流される。第3の整流回路6のプラス側出力端子は、リレー接点7及びリアクトルL2を介して補機用電池B2のプラス電極に接続されている。第3の整流回路6のマイナス側出力端子は補機用電池B2のマイナス電極に接続されている。又、補機用電池B2の両電極間には平滑用コンデンサC3が接続されている。従って、第3の整流回路6にて整流された直流電圧は、リアクトルL2及びコンデンサC3にて平滑化されて補機用電池B2に印加される。そして、補機用電池B2は充電され、その充電電圧は図示しないランプ、ラジオ、及び、各種電子機器等の駆動電源として使用される。」

「【0117】
2次側回路の第2の整流回路4は、この2次巻線bに誘起された高周波交流を整流する。整流された直流電圧は、リアクトルL12及びコンデンサC2よりなる平滑回路にて平滑化されて288?400ボルトの充電電圧となって主電池B1に印加される。
【0118】
一方、3次側回路の第3の整流回路6は、この3次巻線cに誘起された高周波交流を整流する。整流された直流電圧は、リアクトルL13及びコンデンサC16を介して平滑化され出力調整回路8に出力される。調整回路8は制御回路11からの制御信号X1に基づいて直流電圧を13?14ボルトくらいになるように電圧調整を行う。そして、電圧調整された直流電圧は、リアクトルL2及びコンデンサC3を介して平滑化され補機用電池B2に印加される。従って、この充電時には、主電池B1及び補機用電池B2が同時に商用交流電源ACから充電がなされる。」

(b)特開2008-312395号公報(以下、「周知文献2」という。)には、以下の記載がある。
「【0020】
二次巻線L3は中間タップL3cを備えており、中間タップL3cはコイル33を介して補助バッテリ13のプラス端子に接続されている。コイル33と補助バッテリ13のプラス端子との接続点と、補助バッテリ13のマイナス端子との間にはコンデンサ34が接続されている。二次巻線L3の第1端部L3aはスイッチング素子35を介して補助バッテリ13のマイナス端子に接続されている。スイッチング素子35としてMOSFETが使用されるとともに、そのドレインが二次巻線L3の第1端部L3aに、ソースが補助バッテリ13のマイナス端子にそれぞれ接続されている。二次巻線L3の第2端部L3bはスイッチング素子36を介して補助バッテリ13のマイナス端子に接続されている。スイッチング素子36としてMOSFETが使用されるとともに、そのドレインが二次巻線L3の第2端部L3bに、ソースが補助バッテリ13のマイナス端子にそれぞれ接続されている。
【0021】
第1のブリッジ回路15、トランス14、コイル33、コンデンサ34及びスイッチング素子35,36により、主バッテリ12から出力される直流電圧を補助バッテリ13に充電する直流電圧への変換、あるいは補助バッテリ13から出力される直流電圧を主バッテリ12に充電する直流電圧への変換を行うDC/DC変換器が構成されている。Hブリッジ回路22、トランス14、コイル33、コンデンサ34及びスイッチング素子35,36により、Hブリッジ回路23から出力される直流電圧を補助バッテリ13に充電する直流電圧への変換、あるいは補助バッテリ13から出力される直流電圧をHブリッジ回路23へ出力する直流電圧への変換を行うDC/DC変換器が構成されている。即ち、補助バッテリ13は、主バッテリ12側及び系統電源用接続部20側にDC/DC変換器を介して接続可能に設けられている。また、補助バッテリ13は、トランス14を介して主バッテリ12側及び系統電源用接続部20側に接続可能に設けられている。」

上記周知文献1、2の記載によれば、次の技術(以下、「周知技術」という。)は、本願優先日前周知の技術と認められる。
「バッテリの充電回路において、整流部から出力された直流電源を平滑してバッテリに充電する平滑回路(フィルタ)を備えること。」

イ.対比
補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「蓄電装置110」、「補機バッテリ180」は、それぞれ、補正発明の「第1バッテリー」、「第2バッテリー」に相当し、引用発明の「電力変換回路」は、蓄電装置110、補機バッテリ180を充電するから、補正発明の「第1及び2バッテリーを充電させる電力変換装置」に相当するといえる。
イ 引用発明の「入力回路201」の「PFC220」は、「外部電源500から伝達された交流電力を直流電力に変換」するから、補正発明の「外部から供給される常用交流電源を直流電源に変換して出力する入力部」に相当するといえる。
ウ 引用発明の「入力回路201」の「インバータ210」は、「PFC220からの直流電力を高周波の交流電力に変換してトランス200の入力巻線N1に供給」するから、補正発明の「前記入力部を介して変換された直流電源を交流電源に変換して出力する第1電力変換部」に相当する。
エ 引用発明の「出力回路202」の「AC/DCコンバータ240」は、「出力巻線N2から供給される交流電力を直流電力に変換して出力」し、引用発明の「出力回路202」は、蓄電装置110を充電するから、補正発明の「前記第1電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第1バッテリーを充電させ」る「第2電力変換部」に相当し、また、引用発明の「蓄電装置110の充電が開始され」る「メインバッテリ充電モード」は、補正発明の「第1動作モード」に相当するといえる。
さらに、引用発明の「充電ケーブル400が車両100に接続されていないときに、補機バッテリ180の充電が必要となった場合には、出力回路202を用いてトランス200へ蓄電装置110の電力を供給」する構成において、「出力回路202」の「AC/DCコンバータ240」は、「蓄電装置110からの直流電力を交流電力に変換」することは明らかであるから、引用発明の「出力回路202」は、補正発明の「前記第1バッテリーを介して出力される直流電源を交流電源に変換する第2電力変換部」に相当し、また、引用発明の「充電ケーブル400が車両100に接続されていないときに、補機バッテリ180の充電が必要となった場合」の構成は、補正発明の「第2動作モード」に相当するといえる。
したがって、引用発明の「出力回路202」は、補正発明の「第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第1バッテリーを充電させ、第2動作モードにおける前記第1バッテリーを介して出力される直流電源を交流電源に変換する第2電力変換部」に相当するといえる
オ 引用発明の「充電ケーブル400が車両100に接続されていないときに、補機バッテリ180の充電が必要となった場合には、出力回路202を用いてトランス200へ蓄電装置110の電力を供給し、出力回路203によって補機バッテリ180を充電する」構成において、「出力回路203」の「ダイオードブリッジ260」は、「出力巻線N3から供給される交流電力を整流してDC/DCコンバータ270へ供給する」から、引用発明の「出力回路203」は、補正発明の「第2動作モードにおいて、前記第2電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第2バッテリーを充電させる第3電力変換部」に相当するといえる。
カ 引用発明において「スイッチSW1?SW3」は、ECU300からの制御信号によって制御され、「「メインバッテリ充電モード」では、スイッチSW1,SW2が閉成(オン)され、スイッチSW3は開放されたままとされ」、「充電ケーブル400が車両100に接続されていないときに、補機バッテリ180の充電が必要となった場合には、」「スイッチSW1が開放され、スイッチSW2、SW3が閉成され」るから、補正発明の「外部から供給される制御信号に応じて前記第1動作モードでは、前記第1電力変換部と第2電力変換部との間を互いに接続し、前記第2動作モードでは、前記第2電力変換部と第3電力変換部との間を互いに接続する切り替えスイッチ部」に相当するといえる。
キ 引用発明において、「メインバッテリ充電モード」では、「出力回路202」の「AC/DCコンバータ240」は、出力巻線N2から供給される交流電力を直流電力に変換し、「コンデンサC3」を介して蓄電装置110を充電し、「充電ケーブル400が車両100に接続されていないときに、補機バッテリ180の充電が必要となった場合には、」「出力回路202」の「AC/DCコンバータ240」は、蓄電装置110から「コンデンサC3」を介した直流電力を交流電力に変換することは明らかであるから、引用発明の「出力回路202」の「AC/DCコンバータ240」は、補正発明の「前記第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して出力される交流電源を整流して直流電源に変換し、前記第2動作モードにおいて、第2共用回路部を介して出力される直流電源を交流電源に変換」する「第1共用回路部」に相当するといえ、引用発明の「出力回路202」の「コンデンサC3」は、補正発明の「第2共用回路部」に相当するといえる。
ク 引用発明の「出力回路203」の「出力巻線N3から供給される交流電力を整流してDC/DCコンバータ270へ供給する」「ダイオードブリッジ260」は、補正発明の「前記第3電力変換部」が備える「前記第2動作モードにおいて前記第1共用回路部から出力される前記交流電源を直流電源に整流する整流部」に相当するといえる。

したがって、両者は、以下の一致点、相違点を有するといえる。
(一致点)
「第1及び2バッテリーを充電させる電力変換装置であって、
外部から供給される常用交流電源を直流電源に変換して出力する入力部と、
前記入力部を介して変換された直流電源を交流電源に変換して出力する第1電力変換部と、
第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第1バッテリーを充電させ、第2動作モードにおける前記第1バッテリーを介して出力される直流電源を交流電源に変換する第2電力変換部と、
第2動作モードにおいて、前記第2電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第2バッテリーを充電させる第3電力変換部と、
外部から供給される制御信号に応じて前記第1動作モードでは、前記第1電力変換部と第2電力変換部との間を互いに接続し、前記第2動作モードでは、前記第2電力変換部と第3電力変換部との間を互いに接続する切り替えスイッチ部と、
を備え、
前記第2電力変換部は、前記第1動作モード及び前記第2動作モードの両方で動作する第1共用回路部及び第2共用回路部を備え、
前記第1共用回路部は、前記第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して出力される交流電源を整流して直流電源に変換し、前記第2動作モードにおいて、前記第2共用回路部を介して出力される直流電源を交流電源に変換し、
前記第3電力変換部は、前記第2動作モードにおいて前記第1共用回路部から出力される前記交流電源を直流電源に整流する整流部を備える、電力変換装置。」

(相違点)
「第3電力変換部」が、補正発明では、「整流部から出力された前記直流電源をフィルタリングして前記第2バッテリーに充電する出力フィルタ部」を備えるのに対し、引用発明では、そのようなフィルタ部を備えることは特定されていない点。

ウ.判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「出力回路203」の「出力巻線N3から供給される交流電力を整流」する「ダイオードブリッジ260」の出力に対して、上記周知技術を採用することは、当業者が容易に想到し得ることであり、そのようにすれば、引用発明の「出力回路203」は、第2動作モードにおいて前記第1共用回路部から出力される前記交流電源を直流電源に整流する整流部及び前記整流部から出力された直流電源をフィルタリングして補機バッテリ180に充電する出力フィルタ部を備えることになる。

そして、補正発明の奏する作用効果も、引用発明及び周知技術から、当業者であれば予想できる範囲内のものである。

したがって、補正発明は、引用発明および周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない発明である。

エ.結論
以上のとおり、本件補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「本願請求項1に係る発明は、1つのスイッチの動作で第1動作モードと第2動作モードの切り替えを行うのに対し、引用文献1に記載の発明は、2つ以上のスイッチの動作で第1動作モードと第2動作モードの切り替えを行う点で異なります。」と主張しているが、本願の請求項1には、「切り替えスイッチ部」が1つのスイッチで構成され、1つのスイッチで切り替え動作を行うことは何ら特定されておらず、上記主張は、本願の請求項1の記載に基づくものではないから採用できない。

第3 本願発明について
(1)本願発明
以上のとおり、平成28年10月13日付けの手続補正は却下されたので、本願発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項4(請求項1を引用する請求項3を引用する)に記載された以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
第1及び2バッテリーを充電させる電力変換装置であって、
外部から供給される常用交流電源を直流電源に変換して出力する入力部と、
前記入力部を介して変換された直流電源を交流電源に変換して出力する第1電力変換部と、
第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第1バッテリーを充電させ、第2動作モードにおける前記第1バッテリーを介して出力される直流電源を交流電源に変換する第2電力変換部と、
第2動作モードにおいて、前記第2電力変換部を介して変換された交流電源を直流電源に変換して前記第2バッテリーを充電させる第3電力変換部と、
外部から供給される制御信号に応じて前記第1動作モードでは、前記第1電力変換部と第2電力変換部との間を互いに接続し、前記第2動作モードでは、前記第2電力変換部と第3電力変換部との間を互いに接続する切り替えスイッチ部と
を備える電力変換装置。
【請求項3】
前記第2電力変換部は、前記第1動作モード及び前記第2動作モードの両方で動作する第1共用回路部及び第2共用回路部を備える請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1共用回路部は、
第1動作モードにおいて、前記第1電力変換部を介して出力される交流電源を整流して直流電源に変換し、
第2動作モードにおいて、前記第2共用回路部を介して出力される直流電源を交流電源に変換する請求項3に記載の電力変換装置。」

(2)引用文献・引用発明
引用文献・引用発明は、前記「第2 平成28年10月13日付の手続補正についての補正却下の決定」、[補正却下の決定の結論]、「(2)補正の適否」、「(1)引用文献・引用発明」の欄で説明したとおりである。

(3)対比・判断
「本願発明」は、前記「第2 平成28年10月13日付の手続補正についての補正却下の決定」、[補正却下の決定の結論]、「(2)補正の適否」、「ア.対比」の欄で引用発明と対比した「補正発明」から、「前記第3電力変換部は、前記第2動作モードにおいて前記第1共用回路部から出力される前記交流電源を直流電源に整流する整流部及び前記整流部から出力された前記直流電源をフィルタリングして前記第2バッテリーに充電する出力フィルタ部を備える」構成を省いたものである。
したがって、本願発明と引用発明を対比すると、本願発明の構成は、すべて引用発明に示されているものであって、本願発明は引用発明と同一ということになる。
したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明である。

(4) むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-16 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-07 
出願番号 特願2014-180345(P2014-180345)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02M)
P 1 8・ 113- Z (H02M)
P 1 8・ 575- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神山 貴行  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 和田 志郎
山田 正文
発明の名称 電力変換装置  
代理人 中村 健一  
代理人 青木 篤  
代理人 河合 章  
代理人 南山 知広  
代理人 鶴田 準一  

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