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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1333690
審判番号 不服2016-17398  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-22 
確定日 2017-11-07 
事件の表示 特願2016-106073「キャリア芯材」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月 7日出願公開、特開2017-156737、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月27日(優先権主張平成28年2月26日)の出願であって、平成28年7月5日付けで拒絶理由が通知され、同年8月18日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年9月5日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年11月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成28年8月18日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載の事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」といい、本願発明1ないし7を総称して「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
フェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
前記フェライト粒子の粒子本体の表面がカップリング剤で被覆されており、
前記フェライト粒子の粒子本体の最大高さRzが1.3μm以上3.0μm以下の範囲であり、
炭素含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下である
ことを特徴とするキャリア芯材。
【請求項2】
アクリル樹脂又はアクリル/スチレン混合樹脂によって被覆されるキャリア芯材として用いられ、
前記カップリング剤がアミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基、アルキル基の少なくとも1種を有するシランカップリング剤である請求項1記載のキャリア芯材。
【請求項3】
前記フェライト粒子が、Mnと、Feと、Srとを少なくとも含有するものである請求項1又は2に記載のキャリア芯材。
【請求項4】
前記フェライト粒子が、Mgをさらに含有するものである請求項3記載のキャリア芯材。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載のキャリア芯材の表面が樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項6】
前記樹脂がアクリル樹脂又はアクリル/スチレン混合樹脂である請求項5記載の電子写真現像用キャリア。
【請求項7】
請求項5又は6記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする電子写真用現像剤。」

第3 原査定の理由の概要
1 理由1
(進歩性)この出願の平成28年8月18日になされた手続補正によって補正された請求項1ないし5、7に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2 理由2
(進歩性)この出願の平成28年8月18日になされた手続補正によって補正された請求項1ないし7に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2012-189880号公報
引用文献2.特開2008-304771号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2000-162828号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開昭62-121463号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開2011-137867号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開2013-250455号公報(周知技術を示す文献)
参考文献A.国際公開第2010/140677号
参考文献B.特開2014-197133号公報

・請求項1-5、7について
引用文献1に記載の芯材は、本願明細書に記載の実施例と同程度のSrを含有し、同程度の温度で焼成され、本願明細書【0028】の記載を参照すると、その最大高さは1.3μm以上3.0μm以下程度である蓋然性が高い。
また、本願請求項2に記載の「アクリル樹脂又はアクリル/スチレン混合樹脂によって被覆されるキャリア芯材として用いられ」という用途限定は、キャリア芯材自体に物としての差異を生じさせるものではない。
さらに、引用文献1に記載の芯材は、炭素を含有するシランカップリング剤を本願明細書に記載の実施例と同程度含有することから、その炭素含有量
05質量%以上2.0質量%以下程度であると認められる。
したがって、本願請求項1-5,7に係る発明は、引用文献1に記載された発明である。

・請求項2について
エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基、アルキル基の少なくとも1種を有するシランカップリング剤は、引用文献2-4に記載されているように、キャリアの表面処理に用いるシランカップリング剤として周知である。
したがって、引用文献1に記載の発明において、上記周知のシランカップリング剤を採用することは、当業者が容易に想到することである。

・請求項6について
アクリル樹脂又はアクリル/スチレン混合樹脂は、引用文献5-6に記載されているように、キャリア芯材を被覆する樹脂として周知である。
したがって、引用文献1に記載の発明において、上記周知の芯材を被覆する樹脂を採用することは、当業者が容易に想到することである。

第4 原査定の理由についての当審の判断
1 引用文献1の記載事項
原査定の理由に引用文献1として引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2012-189880号公報には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の表面をシランカップリング剤によって被覆した後、導電性微粒子を含むシリコーン樹脂を含むコート樹脂層により被覆するキャリアであって、前記芯材の算術平均粗さRaは0.6?0.9μmであり、前記算術平均粗さRaは、前記コート樹脂層の平均厚み以上であるキャリア。
【請求項2】
前記導電性微粒子は、平均粒径が0.15?0.5μmである、請求項1に記載のキャリア。
【請求項3】
前記導電性微粒子は、基体と導電性被膜層を有し、前記基体はアルミナを含み、前記導電性被膜層は二酸化スズを含む、請求項1又は2に記載のキャリア。
【請求項4】
前記コート樹脂は、平均膜厚が0.1μm?0.3μmである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のキャリア。
【請求項5】
前記シランカップリング剤はアミノ基を含有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のキャリア。
【請求項6】
前記シリコーン樹脂は、
・・・略・・・
の繰り返し単位を含む共重合体を加熱処理して得られた樹脂を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のキャリア。
【請求項7】
前記導電性微粒子は、前記芯材に対して2?8質量%である請求項1乃至請求項6に記載のキャリア。
【請求項8】
前記芯材は、重量平均粒径が20?50μmである請求項1乃至請求項7に記載のキャリア。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のキャリアとトナーを含む二成分現像剤。
【請求項10】
静電潜像担持体、該感光体の表面を帯電させる帯電部材と、前記静電潜像担持体上に形成された静電潜像を請求項9に記載の現像剤を用いて現像する現像部と、前記静電潜像担持体をクリーニングするクリーニング部材を有する、プロセスカートリッジ。
【請求項11】
感光体上に静電潜像を形成する工程と、前記静電潜像を請求項9に記載の現像剤を用いて現像してトナー像を形成する工程と、前記トナー像を記録媒体に転写する工程と、前記記録媒体に転写されたトナー像を定着させる工程と、を有する画像形成方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のキャリアとトナーを含む補給用現像剤。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア、現像剤、プロセスカートリッジ及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成方法では、感光体上に形成される静電潜像が、トナーを含む現像剤により現像され、転写、定着工程を経て可視化される。現像に使用される現像剤には、トナーとキャリアから成る二成分現像剤と、磁性トナー等のような一成分現像剤がある。
【0003】
二成分現像剤においては、キャリアが現像剤の攪拌、搬送、帯電などの機能を分担する。中でも、フッ素樹脂やシリコーン樹脂などのコート樹脂により被覆されたキャリアは、帯電制御性やキャリアの寿命などに優れ、広く用いられている。
【0004】
近年、高画質化、高速化の要求に伴い、トナーの粒径を小さくし、プリンタ速度を速くする傾向にあり、トナースペントが生じ易くなっている。また、トナースペントの問題に加え、コート樹脂の剥がれが起こると、キャリア抵抗や現像剤の汲み上げ量が変化する。それにより、画像濃度が変化や色汚れが発生するという問題があった。
【0005】
これらの問題点に対し、特許文献1では、キャリアの表面に凹凸を形成し、キャリア表面のスペント物を掻き取り、トナースペントを防止する試みが開示されている。また、特許文献2では、凹凸の大きい芯材表面に2種類以上のコート樹脂を被覆し、コート樹脂の酸価の差を小さくすることでコート樹脂同士の接着力を高め、耐剥離性を高める試みが開示されている。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、摩擦や衝撃が集中する凸部の破損、凸部コート膜の剥離、凸部と凹部でのコート層厚みの差の発生、といった課題に対策がなされていない。また、特許文献2では、樹脂間の接着力を高めているが、芯材と樹脂との間の接着力は低い。
【0007】
そこで、本発明は、安定した帯電付与能を有し、膜の耐摩耗性に優れ、キャリア抵抗や現像剤の汲み上げ量の変化が少なく、トナースペントを抑制し、画像濃度変動が少なく、地肌汚れ、トナー飛散及びキャリア付着による汚染が生じない、キャリアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば芯材の表面をシランカップリング剤によって被覆した後、導電性微粒子を含むシリコーン樹脂を含むコート樹脂層により被覆するキャリアであって、前記芯材の算術平均粗さRaは0.6?0.9μmであり、前記算術平均粗さRaは、前記コート樹脂層の平均厚み以上であるキャリアが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定した帯電付与能を有し、膜の耐摩耗性に優れ、キャリア抵抗や現像剤の汲み上げ量の変化が少なく、トナースペントを抑制し、画像濃度変動が少なく、地肌汚れ、トナー飛散及びキャリア付着による汚染が生じない、キャリアを提供できる。」

(4)「【0013】
[芯材の算術平均粗さRa及びコート樹脂層の厚み]
本発明に係るキャリアでは、算術平均粗さRaが0.6μm以上0.9μm以下である、凹凸度合いが大きい芯材を用いてキャリアを形成させることにより、スペントトナーの掻き取り作用が働く。その結果、前述のトナースペントの発生を抑制することができる。
【0014】
しかしながら、凸部と凹部とでは、後のコート樹脂層の塗布の容易さが異なる。そのため、平滑な芯材に較べて、樹脂膜厚が不均一になることがある。凸部では、摩擦力や衝撃力が集中するため、膜削れや芯材露出が起こる。さらに、芯材露出が進行する場合、電気的な導通路ができるためキャリア抵抗が急激に低下する。それにより、画像形成時にキャリア付着が発生する等の不具合が発生することがある。Raが0.6μm未満の場合、上記のような凹凸の存在による効果が現れにくい。また、Raが0.9μmより大きい場合、表面の不均一さが顕著となり、流動性が悪化することがある。
【0015】
さらに、一般的に、Raをコート樹脂層の平均厚み以上となるようにすると、スペントトナーの掻き取り作用はより大きくなるが、コート膜厚が薄いため上述の凸部の膜剥がれが大きくなる。つまり、耐スペント性と耐膜削れ性の両立は困難である。
【0016】
なお、ここで言う算術平均粗さRaとは、JIS B 0601(1994年度版)に準じて測定されるものである。概略を述べると、キャリア50個について、超深度カラー3D形状測定顕微鏡(VK-9500、キーエンス社製)を用い、倍率3000倍で粒子表面12×12μmの範囲を観察する。観察したコア表面の3次元形状から、粗さ曲線を求め、該粗さ曲線の測定値と平均線までの偏差の絶対値を合計し、平均することで求める。この時、算術平均粗さRaを求める際の基準長さは10μmであり、カットオフ値は、0.08mmである。
【0017】
[芯材へのシランカップリング剤塗布]
本発明のキャリアにおいては、芯材表面にシランカップリング剤を被覆することで、凸部の膜剥がれが抑制される。一般的に、凹凸部表面にコート樹脂を塗布する場合、塗布ムラが生じやすい。しかしながら、芯材表面にシランカップリング剤を被覆することで、凹凸部表面にコート樹脂が均一かつムラなく塗布される。そのため、後述する導電性微粒子もコート樹脂中に均一に分散される。そのため、コート樹脂と導電性微粒子が剥がれること(フィラー剥離)を防止することができる。
・・・略・・・
【0021】
[まとめ]
コート樹脂層の耐磨耗性は、主として、コート樹脂層の硬度や弾性などの力学特性に依存する。つまり、コート膜が削れて薄くなると、キャリア抵抗が低下し、キャリア付着などの不具合を生じることがある。本発明のキャリアにおいては、導電性微粒子を含有するシリコーン樹脂を含有するコート樹脂層を形成し、芯材と樹脂と微粒子を強固に接着することでもコート樹脂層のコスレによる摩耗を防止し、耐摩耗性を確保している。また、凸部での芯材露出面積の拡大防止に対して、シランカップリング剤の塗布による均一コートと大粒径フィラーによるスペーサー効果、フィラー効果による摩耗防止、芯材と樹脂の密着性向上による剥離防止により、芯材露出部の面積が経時で拡大せず、凹凸が大きい芯材が有する固有課題(摩擦衝撃力の集中する凸部の局所的な摩耗・破損防止、凸部芯材露出による急激な抵抗低下、キャリア付着発生など)を防止している。」

(5)「【0078】
[芯材粒子]
本発明のキャリアの芯材としては、磁性体であれば、特に限定されないが、例えば、鉄、コバルト等の強磁性金属;マグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の酸化鉄;各種合金や化合物;及び、前記磁性体を樹脂中に分散させた樹脂粒子等が挙げられる。これらの中でも、環境面への配慮から、Mn系フェライト、Mn-Mg系フェライト、Mn-Mg-Sr系フェライト等が好ましい。
【0079】
本発明において、芯材粒子は、重量平均粒径Dwが20?65μmの範囲にあることが好ましく、20?45μmであることがより好ましい。重量平均粒径が65μmよりも大きい場合、潜像に対してトナーが忠実に現像されず、ドット径のバラツキが大きくなり粒状性が低下することがある。また、トナー濃度が高い場合、地汚れしやすくなることがある。」

(6)「【0126】
[芯材製造例3]
MnCO_(3)、Mg(OH)_(2)、Fe_(2)O_(3)粉末及びSrCO_(3)をそれぞれ秤量し、混合して混合粉を得た。得られた混合粉を、850℃に加熱した電気炉内で1時間、大気雰囲気下で仮焼した。得られた仮焼物は、冷却後粉砕して、粒径がおよそ3μm以下の粉体を得た。得られた粉体に、1wt%分散剤と水を加え、スラリーとし、得られたスラリーは、スプレードライヤに供給して造粒し、平均粒径約40μmの造粒物を得た。得られた造粒物を焼成炉に装填し、窒素雰囲気下で1120℃、4時間焼成した。得られた焼成物を解砕機で解砕した後、篩い分けにより粒度調整を行い、体積平均粒径が約35μmの球形粒子を得た。得られた球形粒子を(芯材3)とする。芯材3の成分分析を行ったところ、MnO(40.0mol%)、MgO(10.0mol%)、Fe_(2)O_(3)(50mol%)、SrO(0.4mol%)であった。
【0127】
芯材3の形状係数SF-1は145であり、形状係数SF-2は155であり、算術平均粗さRaは0.85μmであった。
【0128】
[芯材製造例4]
芯材製造例3と同様の方法で、平均粒径約40μmの造粒物を得た。得られた造粒物を焼成炉に装填し、窒素雰囲気下で、1180℃、4時間焼成した。得られた焼成物を解砕機で解砕した後、篩い分けにより粒度調整を行い、体積平均粒径が約35μmの球形粒子を得た。得られた球形粒子を(芯材4)とする。
【0129】
芯材4の形状係数SF-1は135であり、形状係数SF-2は132であり、算術平均粗さRaは0.63μmであった。
・・・略・・・
【0132】
[キャリア製造例1]
3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(東レダウコーニング株式会社製 Z-6020)の0.3質量%水溶液を、流動床型コーティング装置により(芯材4)に噴霧乾燥した。これにより、芯材重量に対して0.1質量%の3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを塗布した(シランカップリング被覆芯材1)を作成した。塗布、乾燥時は、90℃に制御して行った。
【0133】
シリコーン樹脂(SR2411 固形分20wt%、トーレダウコーニングシリコーン社製)100部と(導電性微粒子1)40部とをトルエンで希釈した、固形分10wt%の樹脂溶液を作製した。(シランカップリング被覆芯材1)に対し、得られた樹脂溶液を、芯材表面における平均膜厚が0.3μmになるように、流動床型コーティング装置を使用して塗布、乾燥した。塗布、乾燥は、70℃に制御して行った。
【0134】
得られた個体を、電気炉中にて、230℃/2時間焼成し、(キャリア1)を得た。キャリア1の導電性微粒子量は、芯材重量に対して6wt%であった。」

(7)上記(1)ないし(6)から、引用文献1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「表面がシランカップリング剤によって被覆された、フェライトから成るキャリアに用いられる芯材であって、
算術平均粗さRaは0.6?0.9μmである、
芯材。」(以下「引用発明」という。)

2 本願発明1と引用発明との対比
(1)引用発明の「シランカップリング剤」は、本願発明1の「カップリング剤」に相当する。また、引用発明の「フェライトから成るキャリアに用いられる芯材」は、フェライトが粒子から成ることは技術常識からみて明らかであるから、本願発明1の「フェライト粒子からなるキャリア芯材」に相当する。

(2)引用発明において、「フェライトから成るキャリアに用いられる芯材」(本願発明1の「フェライト粒子からなるキャリア芯材」に相当。以下、「」に続く()内の用語は対応する本願発明1の用語を表す。)は、その表面が「シランカップリング剤」(カップリング剤)によって被覆されたものであるから、引用発明は、本願発明1の「前記フェライト粒子の粒子本体の表面がカップリング剤で被覆されている」との構成を備える。

(3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明1と引用発明とは、
「フェライト粒子からなるキャリア芯材であって、
前記フェライト粒子の粒子本体の表面がカップリング剤で被覆されている、
キャリア芯材。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明1では、「前記フェライト粒子の粒子本体の最大高さRzが1.3μm以上3.0μm以下の範囲であ」るのに対し、
引用発明では、芯材の算術平均粗さRaは0.6?0.9μmであるが、「最大高さRzが1.3μm以上3.0μm以下の範囲」であるかどうかは明らかでない点。

相違点2:
本願発明1では、炭素含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下であるのに対し、
引用発明では、炭素含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下であ
るかどうか明らかでない点。

3 判断
事案に鑑みて、上記相違点1について検討する。
(1)本願発明1の「最大高さ」は、本願の明細書の【0090】ないし【0093】に記載されているように、JIS B0601(2001)に準拠して測定されたものであり、粗さ曲線の中で最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和として求められたものである。他方、引用発明で規定されている「算術平均粗さRa」は、引用例1の【0016】(上記1(4)参照。)に記載されているように、JIS B 0601(1994年度版)に準じて測定されたものであり、粗さ曲線を求め、該粗さ曲線の測定値と平均線までの偏差の絶対値を合計し、平均することで求めたものである。そうすると、算術平均粗さの値が明らかであったとしても、当該算術平均粗さを算出した粗さ曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さが明らかになる訳ではないから、算術平均粗さと最大高さとの間に相関関係はないといえる。してみると、引用発明の「算術平均粗さRa」から、本願発明1の「最大高さRz」を導き出せないものといえる。

(2)原査定で引用された参考文献A([0207][表3]参照。)又は参考文献B(【0093】【表1】)には、各実施例のキャリア芯材について、それぞれの算術平均粗さ及び最大高さが記載され、当該記載より、算術平均粗さと最大高さとの相関関係が見出せるようにも解される。しかしながら、引用例1のキャリアと参考文献A又はBのキャリアとは、原料や製造条件が同じではないから、参考文献A又はBのキャリアの算術平均粗さと最大高さとの相関関係が、引用発明にそのまま適用できるということができない。

(3)そして、本願発明1は、フェライト粒子の粒子本体の最大高さRzを1.3μm以上3.0μm以下の範囲とすることにより、本願の明細書の【0018】に記載されているように、本願発明1のキャリア芯材を高速の画像形成装置に用いた場合であってもエッジ欠陥やゴースト現象が生じないようにすることができるものである。

(4)これに対し、エッジ欠陥やゴースト現象が生じないように、樹脂被覆後にキャリア芯材の一部を露出させるために、キャリア芯材の最大高さを1.3μm以上3.0μm以下の範囲とすることは、引用例1に記載も示唆もなく、周知であったとも認められないから、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明1の構成となすことは当業者が容易になし得たものではない。

(5)このように、本願発明1の奏する効果は、引用発明及び周知技術の奏する効果から当業者が予測することができたものではない。

(6)以上のとおり、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本願発明1は、引用発明と同一ではなく、引用文献1に記載された発明ではない。
また、引用文献1には、上記相違点1に係る事項が記載も示唆もされてなく、しかも、当該事項が想到容易であるともいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものではない。

4 本願発明2ないし7について
本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし7も同様に、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-23 
出願番号 特願2016-106073(P2016-106073)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 樋口 祐介野田 定文  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
鉄 豊郎
発明の名称 キャリア芯材  
代理人 山田 茂樹  
代理人 山田 茂樹  

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