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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04B
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H04B
管理番号 1333694
審判番号 不服2016-12570  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-19 
確定日 2017-11-07 
事件の表示 特願2013- 12164「モジュール基板及びモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日出願公開、特開2014-143643、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月25日の出願であって、平成28年2月24日付けで拒絶理由が通知され、同年3月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年3月23日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年4月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月17日付けで同年4月28日の手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において平成29年8月25日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年5月17日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要
1.平成28年5月17日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。
平成28年4月28日付けの補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるが、当該補正後の本願請求項1-4、6、7、9に係る発明は、引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、独立特許要件を満たさないから、平成28年4月28日付けの補正は却下すべきものである。

引用文献等一覧
1.特開2013-012699号公報
2.特開2008-130612号公報

2.原査定(平成28年5月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
(進歩性)本願請求項1-4、6、7、9に係る発明は、上記引用文献1、2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 本願発明
本願の請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、平成28年8月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であると認められるところ、本願発明1は以下のとおりである。

なお、本願発明1-9は、平成28年5月17日付けで却下された同年4月28日付け手続補正書の手続補正1における特許請求の範囲の請求項1-9に係る発明と同一である。

「【請求項1】
複数の配線層を含む多層配線基板と、
前記多層配線基板に内蔵され、前記配線層と電気的に接続された複数の内蔵デュプレクサと、を備え、
前記複数の内蔵デュプレクサは、バンド1、バンド2、バンド5、バンド8のうち少なくとも2つのバンドに対応するデュプレクサを含み、バンド3、バンド4、バンド7、バンド13、バンド17およびバンド20に対応するデュプレクサをいずれも含まず、
前記複数の配線層のうち、前記多層配線基板の表面に形成された配線層は、バンド3、バンド4、バンド7、バンド13、バンド17およびバンド20のうち少なくとも1つの外付デュプレクサを実装可能な端子部を有し、
バンド1は、1920?1980MHzの送信帯域および2110?2170MHzの受信帯域を有し、
バンド2は、1850?1910MHzの送信帯域および1930?1990MHzの受信帯域を有し、
バンド5は、824MHz?849MHzの送信帯域および869?894MHzの受信帯域を有し、
バンド8は、880MHz?915MHzの送信帯域および925?960MHzの受信帯域を有し、
バンド3は、1710?1785MHzの送信帯域および1805?1880MHzの受信帯域を有し、
バンド4は、1710?1755MHzの送信帯域および2110?2155MHzの受信帯域を有し、
バンド7は、2500?2570MHzの送信帯域および2620?2690MHzの受信帯域を有し、
バンド13は、777?787MHzの送信帯域および746?756MHzの受信帯域を有し、
バンド17は、704?716MHzの送信帯域および734?746MHzの受信帯域を有し、
バンド20は、832?862MHzの送信帯域および791?821MHzの受信帯域を有し、
バンド1、バンド2、バンド5およびバンド8は、複数の地域で使用されるバンドであり、
バンド3、バンド4、バンド7、バンド13、バンド17およびバンド20は、特定の地域のみで使用されるバンドであることを特徴とするモジュール基板。」

本願発明2-4及び6-7は、概略、本願発明1を減縮した発明である。
また、本願発明5及び8は、原査定において拒絶理由の対象となっていない発明である。
本願発明9は、請求項1-8のいずれか1項に記載のモジュール基板を備えたモジュールの発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.原査定の拒絶の理由で引用された特開2013-012699号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審において付したものである。)。

(1)「【背景技術】
【0002】
携帯電話等の通信機器のマルチバンド化が進展している。マルチバンド化に伴い、例えば1台の携帯電話端末には複数のフィルタ、分波器、又はアンプ等の高周波信号に対応した高周波デバイスが搭載されることがある。このような携帯電話端末の小型化のためには、高周波デバイスを集積化した、小型のモジュールが要求されている。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の発明では、GND層の開口部を通じて、信号層と外層との間で信号の干渉が生じることがある。特許文献2記載の発明では、多層基板の薄型化と、信号線路における所望の特性インピーダンスの確保との両立が難しい可能性がある。本発明は上記課題に鑑み、信号の干渉を抑制し、かつ薄型化及び所望の特性インピーダンスを得ることが可能な多層基板を提供することを目的とする。」

(2)「【0020】
実施例の説明の前に、比較例について説明する。比較例1及び比較例2は、金属からなるコアを用いる例である。図1(a)は、比較例1に係る多層基板を例示する平面図である。
【0021】
図1(a)に示すように、比較例1に係る多層基板100Rは、コア110、導体層112?118、絶縁層120?126、及び電子部品130を備える。導体層112は多層基板100Rの上面に位置する。絶縁層120は、導体層112の下に設けられている。導体層114は、絶縁層120の下に設けられている。絶縁層122は、導体層114の下層に設けられている。コア110は、絶縁層122の下側に設けられている。コア110には孔部111が設けられている。電子部品130は、孔部111に収納されている。なお、電子部品130の全体、又は一部が孔部111に収納されればよい。つまり、電子部品130の少なくとも一部が孔部111に収納されればよい。以下同様である。コア110の両側(図中の左右側)は例えば空洞、又は絶縁層であるが、奥にはコア110が位置する(図中の格子斜線の領域)。絶縁層124は、コア110の下に設けられている。導体層116は、絶縁層124の下に設けられている。絶縁層126は、導体層116の下に設けられている。導体層118は、絶縁層126の下に設けられ、多層基板100Rの下面に位置する。このように、多層基板100Rは、コア110を含む複数の導体層と、複数の絶縁層とが積層された多層基板である。
【0022】
コア110、及び導体層112?118は、例えば銅(Cu)等の金属からなる。絶縁層120?126は、例えばガラスエポキシ樹脂等の樹脂、又は樹脂以外の絶縁体からなる。電子部品130は、例えばフィルタ、キャパシタ又はインダクタ等の受動部品でもよいし、トランジスタ等の能動部品でもよい。コア110の厚さは、例えば電子部品130の厚さ以上である。
【0023】
導体層114は、高周波信号を伝送する信号配線、及び接地配線等を含む。コア110及び導体層112は、接地配線として利用される。導体層116及び導体層118は、例えば高周波信号以外の信号を伝送する信号配線、又は接地配線等として利用される。なお、高周波信号とは例えばマイクロ波である。高周波信号は、例えばW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式に対応するGHz帯の周波数、又はGSM(登録商標、Global System for Mobile Communications)方式に対応する数百MHzの周波数を有するRF(Radio Frequency)信号等を含むものである。高周波信号以外の信号とは、例えば数Hz?数十MHz程度の周波数を有する信号、又は直流信号等である。」

(3)「【0044】
実施例2は、モジュール基板の例である。図5は、実施例2に係る多層基板を例示するブロック図である。
【0045】
図5に示すように、多層基板200は、デュプレクサ40a?40f、フィルタ回路50、IC(Integrated Circuit:集積回路)60、パワーアンプ64a?64c、及びスイッチ70?74を備える。多層基板200はRFモジュール210に用いられるモジュール基板である。デュプレクサ40aは、受信フィルタ42、送信フィルタ44、整合回路46及び整合回路48とを含む。受信フィルタ42が備える平衡出力端子は、整合回路46と接続されている。送信フィルタ44が備える不平衡入力端子は、整合回路48と接続されている。デュプレクサ40b?40fの各々も、デュプレクサ40aと同様の構成を有する。フィルタ回路50は、フィルタ52と整合回路54とを含む。フィルタ52が備える平衡出力端子は、整合回路54と接続されている。IC60は、VGA(Variable Gain Amplifier:可変利得アンプ)62a?62jを含む。IC60は、信号の周波数の変換を行う、ダイレクトコンバータとして機能する。

(中略)

【0049】
アンテナ202は、高周波信号等の信号を受信又は送信する。デュプレクサ40a?40fは、例えば異なるバンドに対応している。通信方式及びバンドに応じて、スイッチ70は、デュプレクサ40a?40f、フィルタ回路50、スイッチ72及びスイッチ74のいずれかを選択して、アンテナ202と接続することができる。スイッチ72は、デュプレクサ40b及びデュプレクサ40c、並びにスイッチ70のいずれかを選択して、パワーアンプ64bと接続することができる。スイッチ74は、デュプレクサ40d?40f及びスイッチ70のいずれかを選択して、パワーアンプ64cと接続することができる。

(中略)

【0052】
次に多層基板の層構造について説明する。図6は、実施例2に係る多層基板を例示する斜視図である。図7(a)は、実施例2に係る多層基板を例示する上面図である。図7(b)は、実施例2に係る多層基板を例示する断面図である。なお、図6及び図7(a)においては、多層基板200内部を図示するため、導体層12に含まれる接地配線12dの一部を取り除き、かつ絶縁層20?26を透視した図を示している。また、図7(b)は、図6の矢印の方向から見た断面を図示している。
【0053】
図6から図7(b)に示すように、多層基板200は、コア10、導体層12?18、絶縁層20?26、電子部品30、ビア配線32及びビア配線34、を備える。導体層12は、信号配線12a?12c及び接地配線12dを含む。導体層14は、信号配線14a、接地配線14b及び接地配線14c、並びに信号配線14d?14gを含む。信号配線14aは高周波信号を流すための配線である。信号配線12a?12c、及び信号配線14d?14gは、高周波信号以外の信号を流すための配線である。また、導体層16及び導体層18も、高周波信号以外の信号を流すための配線を含む。実施例1と同様に、コア10の信号配線14aと対向する領域には凹部10aが設けられている。
【0054】
電子部品30にはビア配線32が接続されている。ビア配線32には信号配線14dが接続されている。また、コア10、接地配線14b及び接地配線12dは、ビア配線34を介して互いに接続されている。コア10、接地配線14c及び接地配線12dは、ビア配線34を介して互いに接続されている。ビア配線34は、例えば絶縁層20及び/又は絶縁層22を、積層方向に貫通している。
【0055】
実施例2によれば、実施例1と同様に、信号の干渉を抑制し、かつ薄型化及び所望の特性インピーダンスの確保が可能な多層基板200を実現することができる。図6?図7(b)に示したような多層基板200の構成は、例えば図5中におけるデュプレクサ40a?40f及びフィルタ回路50とIC60との間に適用されることが好ましい。言い換えれば、コア10、信号配線14a、接地配線12d、接地配線14b及び接地配線14c等により形成されるストリップラインが、デュプレクサ40a?40f及びフィルタ回路50とIC60との間を接続することが好ましい。なお、デュプレクサ40a?40f及びフィルタ回路50とIC60との間は、平衡信号または不平衡信号により接続される。不平衡信号による接続の場合、図6に示されるように信号配線14aは一本でよい。平衡信号の場合は、信号配線14aの隣に接地配線を介さず別の信号配線が設けられ、伝送線路は2本1組の差動ストリップライン構造となる。これにより、高周波信号の損失を効果的に低減することができる。またストリップラインは、例えばアンテナ202とスイッチ70との間、スイッチ70とデュプレクサ40a?40f及びフィルタ回路50との間、又はデュプレクサ40a?40f及びフィルタ回路50とパワーアンプ64a?64cとの間を接続してもよい。アンテナ202において送受信する高周波信号の周波数が変換されない領域、すなわちアンテナ202とIC60との間に、多層基板200の構成を適用することで、高周波信号の損失を効果的に低減することができる。
【0056】
多層基板が備えるフィルタ又はデュプレクサは、例えば1つでもよい。ただし、図5のように、複数のデュプレクサ又はフィルタを備えるRFモジュールでは、配線が長くなる。配線が長くなることにより、信号の損失、特に高周波信号の損失は増大する可能性がある。従って、多層基板200が、複数のデュプレクサ又はフィルタを備えるRFモジュールのモジュール基板として用いられ、コア10、信号配線14a、接地配線12d、接地配線14b及び接地配線14c等により形成されるストリップラインが、複数のデュプレクサ又はフィルタと接続されていることが好ましい。これにより、特に効果的に高周波信号の損失を低減することができる。なお、RFモジュール以外のモジュール、又は高周波信号を用いる電子装置等に多層基板を適用してもよい。」

(4)図5及び図7は、以下のとおりである。
図5

図7

上記(1)?(4)及び当業者の技術常識を考慮すると、

ア 上記段落45及び段落53の記載によれば、多層基板200は、デュプレクサ40a?40f、フィルタ回路50、IC(Integrated Circuit:集積回路)60、パワーアンプ64a?64c、及びスイッチ70?74を備える。また、多層基板200はRFモジュール210に用いられるモジュール基板であり、コア10、導体層12?18、絶縁層20?26、電子部品30、ビア配線32及びビア配線34、を備える。ここで、導体層12は、高周波信号以外の信号を流すための配線である信号配線12a?12c及び接地配線12dを含み、導体層14は、高周波信号を流すための配線である信号配線14a及び高周波信号以外の信号を流すための配線である信号配線14d?14gを含む。また、導体層16及び導体層18は、いずれも高周波信号以外の信号を流すための配線である。
そして、段落54?56の記載、図5及び図7によれば、多層基板200の構成は、例えば図5中におけるデュプレクサ40a?40f及びフィルタ回路50とIC60との間に適用され、デュプレクサ40a?40f及びフィルタ回路50とIC60との間は、コア10、信号配線14a、接地配線12d、接地配線14b及び接地配線14c等により形成されるストリップラインによって接続され、信号配線14dは、ビア配線32を介して電子部品30に接続される。ここで、図7(b)を参照すれば、導体層12及び18は、多層基板200の表面に形成された導体層であるといえ、また、電子部品30は、コア10の孔部11に収納されているということができる。
そうすると、引用文献1には、「信号配線12a?12cを含む導体層12、信号配線14a及び信号配線14d?14gを含む導体層14、高周波信号以外の信号を流すための配線である導体層16及び導体層18、コア10並びに絶縁層20?26」と、「高周波信号を流すための配線である信号配線14aと接続された複数のデュプレクサ40a?40f」と、「コア10の孔部11に収納され、高周波信号以外の信号を流すための配線である信号配線14dと接続された電子部品30」とを備え、「高周波信号以外の信号を流すための配線である信号配線12a?12c及び接地配線12dを含む導体層12並びに高周波信号以外の信号を流すための配線である導体層18は、多層基板200の表面に形成された導体層である」、「RFモジュールに用いられるモジュール基板」が記載されているといえる。

イ 上記段落49の記載によれば、デュプレクサ40a?40fは、異なるバンドに対応しており、通信方式及びバンドに応じて、デュプレクサ40a?40fのいずれかが選択される。また、上記段落23の記載によれば、高周波信号は、例えばW-CDMA方式に対応するGHz帯の周波数、又はGSM方式に対応する数百MHzの周波数を有するRF信号等を含む。
そうすると、「デュプレクサ40a?40fは、異なるバンドに対応しており」、「高周波信号は、W-CDMA方式又はGSM方式の周波数帯域のRF信号を含」むといえる。

以上を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「信号配線12a?12cを含む導体層12、信号配線14a及び信号配線14d?14gを含む導体層14、高周波信号以外の信号を流すための配線である導体層16及び導体層18、コア10並びに絶縁層20?26と、
高周波信号を流すための配線である前記信号配線14aと接続された複数のデュプレクサ40a?40fと、
コア10の孔部11に収納され、高周波信号以外の信号を流すための配線である前記信号配線14dと接続された電子部品30と、を備え、
前記複数のデュプレクサ40a?40fは、異なるバンドに対応しており、
高周波信号は、W-CDMA方式又はGSM方式の周波数帯域のRF信号を含み、
高周波信号以外の信号を流すための配線である信号配線12a?12c及び接地配線12dを含む導体層12並びに前記高周波信号以外の信号を流すための配線である導体層18は、多層基板200の表面に形成された導体層である、
RFモジュールに用いられるモジュール基板。」

2.原査定の拒絶の理由で引用された特開2008-130612号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審において付したものである。)。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電子部品を内蔵した多層基板に関しては、その内蔵電子部品を変更することが実質的に不可能であるため、例えば接続される外部回路が異なる場合には、同一基板にて対応できず、基板の汎用性が低いという問題がある。」

(2)「【0035】
ただし、本実施形態による電子部品内蔵型多層基板20aは、図11(a),(b)に示した多層基板20とは異なり、第1センサ1?第3センサ3にそれぞれ接続される電子部品群10a?10c,11a?11c,12a?12cの中の少なくとも1つの電子部品、より具体的には、コネクタ4の端子PIN1?PIN3に直接接続された各々の電子部品10a,11a,12aが、多層基板20aの表面あるいは裏面に実装されるように、構成されている。これにより、それぞれの第1センサ1?第3センサ3に対応して、多層基板20aの表面又は裏面に実装される少なくとも1つの電子部品10a,11a,12aを確保することができる。
【0036】
従って、接続される第1センサ1?第3センサ3の少なくとも1つが、特性の異なるものに変更された場合に、その変更された第1センサ1?第3センサ3に対応する、表面又は裏面に実装された電子部品10a,11a,12aだけを容易に変更することができる。例えば、第1センサ1?第3センサ3の少なくとも1つが、特性の異なるものに変更された場合に、それに対応するように、フィルタ回路における時定数を変更したり、増幅回路における増幅度を変更したりすることが容易になしえる。この結果、異なる特性を持つセンサの入力処理を、同一の電子部品内蔵型多層基板20aを用いて行うことができるようになるので、その電子部品内蔵型多層基板20aを汎用的に使用できるようになる。」

(3)「【0082】
例えば、図10(a),(b)に示すように、電子部品11bがコネクタ4に直接接続されていたとしても、信号線から分岐して接続され、外部回路の変更に対応して、その電子部品11bを変更する必要がない場合には、多層基板20gの内部に内蔵しても良い。」

上記(1)?(3)によれば、引用文献2には次の技術が記載されているといえる。
「接続される外部回路が変更された場合に、それに対応する電子部品を変更する必要がない場合には、当該電子部品を多層基板に内蔵し、変更する必要がある場合には、表面あるいは裏面に実装する技術。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明は、「RFモジュールに用いられるモジュール基板」であるから、本願発明1にいう「モジュール基板」に対応する。

イ 引用発明の導体層12?18は、それぞれ信号配線を含む導体層であるから、「複数の配線層」ということができ、引用発明では、導体層12?18、コア10及び絶縁層20?26によって多層配線基板を構成しているから、引用発明の導体層12?18、コア10及び絶縁層20?26は、本願発明1の「複数の配線層を含む多層配線基板」に相当する。

ウ 引用発明の「複数のデュプレクサ40a?40f」は、多層配線基板に内蔵されたものかどうかは明らかでなく、また、どのバンドに対応するデュプレクサであるかも明らかではないものの、「前記配線層と電気的に接続された複数のデュプレクサ」といえる点で本願発明1と共通する。

エ 引用発明の導体層12及び18は、高周波信号以外の信号を流すための配線又は接地配線であるから、本願発明1のような外付デュプレクサを実装可能な端子部は有していないものの、「前記多層配線基板の表面に形成された配線層」といえる点で本願発明1と共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
複数の配線層を含む多層配線基板と、
前記配線層と電気的に接続された複数のデュプレクサと、を備え、
前記複数の配線層は、前記多層配線基板の表面に形成された配線層を含む、ことを特徴とするモジュール基板。

[相違点]
「複数のデュプレクサ」が、本願発明1では、「前記多層配線基板に内蔵され」た「複数の内蔵デュプレクサ」であって、「バンド1、バンド2、バンド5、バンド8のうち少なくとも2つのバンドに対応するデュプレクサを含み、バンド3、バンド4、バンド7、バンド13、バンド17およびバンド20に対応するデュプレクサをいずれも含まず」、
「前記多層配線基板の表面に形成された配線層」が、本願発明1では、「バンド3、バンド4、バンド7、バンド13、バンド17およびバンド20のうち少なくとも1つの外付デュプレクサを実装可能な端子部を有し」、
本願発明1では、「バンド1は、1920?1980MHzの送信帯域および2110?2170MHzの受信帯域を有し、バンド2は、1850?1910MHzの送信帯域および1930?1990MHzの受信帯域を有し、バンド5は、824MHz?849MHzの送信帯域および869?894MHzの受信帯域を有し、バンド8は、880MHz?915MHzの送信帯域および925?960MHzの受信帯域を有し、バンド3は、1710?1785MHzの送信帯域および1805?1880MHzの受信帯域を有し、バンド4は、1710?1755MHzの送信帯域および2110?2155MHzの受信帯域を有し、バンド7は、2500?2570MHzの送信帯域および2620?2690MHzの受信帯域を有し、バンド13は、777?787MHzの送信帯域および746?756MHzの受信帯域を有し、バンド17は、704?716MHzの送信帯域および734?746MHzの受信帯域を有し、バンド20は、832?862MHzの送信帯域および791?821MHzの受信帯域を有し、バンド1、バンド2、バンド5およびバンド8は、複数の地域で使用されるバンドであり、バンド3、バンド4、バンド7、バンド13、バンド17およびバンド20は、特定の地域のみで使用されるバンドである」のに対し、
引用発明では、そのような特定事項を有するか明らかでない点。

(2)相違点についての判断
本願明細書の段落4には、本願発明1の課題に関し、次の記載がある。
「移動体通信では、使用される周波数の規格が国ごとに異なる場合がある。このため、複数のデュプレクサを備えたモジュールにおいて、小型化のためにデュプレクサを多層配線基板に内蔵する場合、国ごとに搭載すべきデュプレクサが異なることから、電子部品の内蔵工程を国ごとに分けて行う必要がある。このため、製造プロセスが複雑化し、製造コストが増大してしまうという課題があった。」
そして、本願発明1は、上記課題を解決するために、上記相違点に係る構成を採用して、複数の地域で使用されるバンドに対応するデュプレクサについては、多層配線基板に内蔵される内蔵デュプレクサとするとともに、特定の地域のみで使用されるバンドに対応するデュプレクサについては、内蔵せず、多層配線基板の表面に形成された配線層に外付デュプレクサを実装可能な端子部を有する構成としたものである。
一方、引用文献1の段落2及び段落5の記載によれば、引用発明は、通信機器のマルチバンド化に伴い、携帯電話端末に複数のフィルタ、分波器、又はアンプ等の高周波信号に対応した高周波デバイスを集積化してモジュールとする際に、「信号の干渉を抑制し、かつ薄型化及び所望の特性インピーダンスを得ることが可能な多層基板を提供すること」を課題としたものであって、引用文献1には本願発明1の上記課題について記載も示唆もなく、また、上記課題が当該技術分野において周知又は自明の課題であったともいえないから、引用発明において、上記相違点に係る構成を採用する動機付けがあったとはいえない。
また、引用文献2に記載された技術は、接続される外部回路が変更された場合に、それに対応する電子部品を変更する必要があるか否かで、多層基板に内蔵するか否かを決定するものであって、引用発明に当該技術を適用できたとしても、上記相違点に係る構成には至らないことが明らかである。

したがって、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

2.本願発明2-9について
本願発明2-4、6及び7は、本願発明1をさらに限定したものであるから、上記1(2)で判断したのと同様の理由により、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、原査定において拒絶理由の対象となっていない本願発明5及び8も、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本願発明9は、請求項1-8のいずれか1項に記載のモジュール基板を備えたモジュールの発明であるから、同様に、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-4、6、7、9は、上記第5の1.に示した相違点に係る構成を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、2に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について
当審が平成29年8月25日付けで通知した拒絶の理由は、平成28年3月8日付け手続補正による明細書の段落8に係る補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項と関係のない新たな技術的事項を導入するものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものである。
これに対し、平成29年9月13日付けの手続補正において、「上記構成において、前記複数の内蔵デュプレクサは、バンド1及びバンド5、バンド1及びバンド8、バンド2及びバンド5、バンド2及びバンド8のうち、いずれかの組み合わせに対応するデュプレクサを含む構成とすることができる。」(段落8)と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-24 
出願番号 特願2013-12164(P2013-12164)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (H04B)
P 1 8・ 121- WY (H04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 昌敏  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 北岡 浩
山本 章裕
発明の名称 モジュール基板及びモジュール  
代理人 片山 修平  

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