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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1333810
審判番号 不服2016-18153  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-02 
確定日 2017-11-08 
事件の表示 特願2012-176435「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月24日出願公開、特開2014- 36110、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月8日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 6月 9日 手続補正書の提出
平成28年 3月11日 拒絶理由通知(起案日)
平成28年 4月 1日 意見書及び手続補正書の提出
平成28年 9月 2日 拒絶査定(起案日)
平成28年12月 2日 審判請求及び手続補正書の提出
平成29年 3月27日 上申書の提出
平成29年 7月11日 当審拒絶理由通知(起案日)
平成29年 9月 1日 意見書及び補正書の提出


第2 原査定の概要
1 拒絶理由通知
平成28年9月2日付けの拒絶査定(以下、「原査定」という。)の根拠となった平成28年3月11日付けの拒絶理由通知の概要は次のとおりである。

「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1、2について

・請求項 1
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、表面側(請求項1に係る発明の「第1の面」)にp型ベース領域33及びn+型エミッタ領域34(「半導体素子」)が形成され、半導体30(「半導体基板」)の裏面側であって、ボロンが注入されたp+型のコレクタ層32及びリンが注入されたn+型バッファ層31([0035]、図3、「半導体基板」)に、LDレーザ光源([0033])から出射された不連続部を有する([0020]、[0045]、図9)近赤外レーザ光(「第1のパルス幅を有する第1のレーザパルス」)を入射させる工程([0033]-[0036])と、パルスレーザビームを重複照射する工程(「第2のレーザパルスを、前記第1のレーザパルスの入射領域に重ねて入射させる工程」)とを有する半導体製造方法の発明が記載されている。
また、引用文献1に記載された発明は、パルスレーザビームをパルス幅1200ns、立ち上がり時間308ns、立ち下がり時間92ns、パルス周波数10kHzに設定([0048])する一方、近赤外レーザ光の不連続部を、パルスレーザの一周期に対し、50%以下に設定([0020])していることからみて、引用文献1に記載された発明の「パルスレーザビーム」は、第1のパルス幅の1/10以下の第2のパルス幅を有している。
また、引用文献1に記載された発明は、上記不連続部を設けることで基板の非照射側の温度上昇を更に改善([0028])しているから、当該不連続部を設けた近赤外レーザ光の立上り時刻と、近赤外レーザ光またはパルスレーザビームの立上り時刻と、の時間軸上の相対位置関係を含むすべての構成は、温度の許容上限値を超えないように設定されている。
してみれば、請求項1に係る発明の発明特定事項と文献1に記載された発明の発明特定事項との間に差異はない。

●理由 2について

・請求項 2
・引用文献等 1
・備考
引用文献1に記載された発明は、近赤外レーザ照射後、基板表面温度が定常状態に達したときにパルスレーザビームを照射できるように遅延時間を設けて照射タイミングを制御したり([0021]、[0044])、照射エリアが重ならないように位置をずらして複合レーザビームを走査することで照射タイミングを変えたりしている([0044])から、文献1に記載された発明において、近赤外レーザ光の立上り時刻とパルスレーザビームの立上り時刻を調整することは、当業者にとって容易であり、-4W/5≦t2-t4≦W/2なる関係とすることは、両時刻の適正化であり、両時刻だけを調整することに格別な効果を見いだすこともできない。

●理由1、2について

・請求項 3
・引用文献等 1
・備考
引用文献1の図12には、裏面側の表層には、高濃度でボロンが注入された領域より深い領域にリンが低濃度で注入されていることが記載されている。
また、引用文献1の従来技術には、イオン注入で形成したアモルファス層を溶融活性化する([0005])ことが記載されている。

・請求項 4
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、YAGレーザの第二高調波を用いる([0016]、[0048])ことが記載されている。

・請求項 5
・引用文献等 1
・備考
引用文献1に記載された発明は、パルスレーザよりも光侵入長が大きい近赤外レーザビームの照射によって、深さ方向に10μm程度の光侵入長を得て([0046])、ボロン注入領域32とリン注入領域31より深い位置(図10)にまで温度アシスト領域が形成(「第1のレーザパルスの波長が、半導体基板への光侵入長が、第2の不純物が注入されている領域の底面までの深さよりも長くなるように選択」)している。

・請求項 6
・引用文献等 1
・備考
引用文献1に記載された発明は、厚さ725μmのシリコン基板([0049])に深さ方向に、10μm程度の光侵入長の近赤外レーザビームを照射(「第1のレーザパルスの波長が、半導体基板への光侵入長が半導体基板の厚さよりも短くなるように選択」)している。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2011/065094号」

2 拒絶査定
原査定の概要は次のとおりである。

「この出願については、平成28年 3月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項 1-6
・引用文献等 1-2

備考
補正された本願発明と、引用文献1に記載された発明を比較すると、

引用文献1の「LDレーザ光源から出射された不連続部を有する近赤外レーザ光」が、本願発明の「第1のパルス幅を有する第1のレーザパルス」に相当するものとみとめられるが、引用文献1においては、「近赤外レーザ光」は、深い位置の第2の不純物を活性化させることが可能であると明記されていない点で相違する。

前記相違点について検討するに、特開2005-136218号公報(参考文献)の段落[0086]に
「 図5(C)は、図5(B)を参照して説明した方法の変形例を示す。この例では、連続波レーザビームから切り出したレーザビームLbを照射しながら、パルスレーザビームLaを照射する。パルスレーザビームLaの照射後も、レーザビームLbが照射され続けることにより、パルスレーザビームLaにより上昇した基板表面の温度が高い状態に維持される。この方法でも、1ショットのパルスレーザビームLaのみでは効率的に活性化できないような深い位置に存在する不純物の活性化率を高めることができる。」
とあるように、一方のレーザービームでは活性化できないような、深い位置における不純物の活性化を、2つのレーザービームを用いることにより、活性化を果たし得ていることは、引用文献1についても同様のものと認められる。

しかして、本願発明においても、段落[0032]に「相対的に深い領域、例えば深さが1μmを超える領域に、相対的に低濃度で添加された不純物(リン)は、パルス幅が相対的に長い第1のレーザパルスLP1(図3A)により活性化される。」と記載されているものとしても、単体のレーザーパルス(第1のレーザパルスLP1)のみによる照射によって活性化が果たし得ていることは、本願明細書中に示されているものではない。(図3Aは両者のパルスが照射されている。)

また、引用文献1においても、「近赤外レーザ光」は、深い位置の第2の不純物を活性化させるために補助的に機能しうるものであり、また、「近赤外レーザ光」をパルスレーザーと共に照射することによって、深い位置の第2の不純物を活性化に寄与していることは、引用文献1の段落[0046]-[0047]、図10(a)(b)に「上記パルスレーザと近赤外レーザビームを半導体基板に照射した際の深さ方向での熱拡散の模式図を図10(a)に示す。 半導体基板30には、ボロン注入領域32とリン注入領域31とを有しており、上記パルスレーザよりも光侵入長が大きい近赤外レーザビームの照射によって、半導体基板30の深い位置にまで温度アシスト領域が形成される。例えば波長808nmの近赤外レーザビームでは、深さ方向に10μm程度の光侵入長が得られる。この状態でパルスレーザビームを照射すると、深さ方向(Z軸方向)に熱の流れが生じる。この際の温度アシスト領域が熱の勾配を小さくし、その結果、熱の逃げが小さくなって半導体基板の奥深くにまで、効果的に加熱される。この際には、パルスレーザのエネルギー密度と近赤外レーザのパワー密度や走査速度の調整によって、半導体基板の非照射側の温度上昇を抑えて非溶融または表面のみが溶融した状態にして不純物の活性化を行うことができる。
なお、図10(b)は、パルスレーザのみを半導体基板30に照射した状態を示している。この例では、面方向および深さ方向における温度勾配が大きく、熱の逃げが大きい。このため、深さ方向の加熱効果が限定され、熱容量の大きな厚い半導体基板に対し、不純物を深い位置まで活性化することが困難になる。」
との記載より明らかである。

してみるに、補正された、「前記第1のレーザパルスは、前記第2の不純物を活性化させることが可能な条件で前記第2の面に入射される」という発明特定事項は引用文献1に示されているものと認められるので、本願発明は前記引用文献より当業者が容易に想到し得るものである。

また、引用文献1の図12には、裏面側の表層には、高濃度でボロンが注入された領域より深い領域にリンが低濃度で注入されていることが記載されている。
また、引用文献1の従来技術には、イオン注入で形成したアモルファス層を溶融活性化する([0005])ことが記載されている。

よって、本願出願については、平成28年 3月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものとする。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2011/065094号
2.特開2005-136218号公報(新たに付加した参考文献)」


第3 当審拒絶理由通知の概要
平成29年7月11日付けで当審より通知した拒絶理由通知の概要は次のとおりである。

「この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


……(中略)……
3 検討
(1)本願発明の課題
前記2(2)アのとおり,本願明細書の段落【0007】の記載によれば,本願発明の課題は,「表側に既に半導体素子の表面構造が形成」されている「半導体基板」の「裏面に,不純物の活性化,及び結晶性の回復のためのレーザ照射を行うと,表側の温度も上昇してしま」い,「表側の温度の著しい上昇は,既に形成されている表面構造にダメージを与える」ことから,前記「裏面」に「レーザ照射を行う」際に「反対側の面の温度上昇を抑制することができる半導体装置の製造方法を提供すること」であると認められる。

(2)本願発明1について
ア 前記2(1)のとおり,本願発明1は,
・「第1の面に半導体素子が形成され,第2の面側の表層部の,第1の深さより浅い領域に,相対的に高濃度で第1の不純物が注入されており,前記第1の深さより深い領域に,相対的に低濃度で第2の不純物が注入されている半導体基板の,前記第2の面に,半導体レーザ発振器から出射され,10μs?30μsの範囲内のパルス幅を有する第1のレーザパルスを入射させる工程」と,
・「前記第1のレーザパルスのパルス幅の1/10以下の第2のパルス幅を有する第2のレーザパルスを,前記第1のレーザパルスの入射領域に重ねて入射させる工程」と,
を有する「半導体装置の製造方法」において,
・「前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が,予め決められている許容上限値を超えないように,前記第1のレーザパルスの立下り時刻と,前記第2のレーザパルスの立上り時刻との時間軸上の相対位置関係が設定されて」いるとともに,
・「前記第1のレーザパルスは,前記第2の不純物を活性化させることが可能な条件で前記第2の面に入射される」
ことを発明特定事項とする発明である。
したがって,本願発明1においては,「第2のレーザパルス」について,「前記第1のレーザパルスのパルス幅の1/10以下の第2のパルス幅を有する」とともに「前記第1のレーザパルスの入射領域に重ねて入射させる」ことを特定するだけで,「前記第1のレーザパルスは,前記第2の不純物を活性化させることが可能な条件で前記第2の面に入射される」と特定されているのとは異なり,「半導体基板」のどの「深さ」の「領域」に如何なる処理を施すための「レーザパルス」であるのか,何ら特定されていない。
……(中略)……
エ 一方,本願発明1は,前記3(2)アで指摘したように,「第2のレーザパルス」は,「半導体基板」のどの「深さ」の「領域」に如何なる処理を施すための「レーザパルス」であるのか,何ら特定していない。
そうすると,本願発明1の「第2のレーザパルス」は,たとえば,「アモルファス化」している「半導体基板の前記第2の面側の表層部」を「溶融」して「結晶化」し,及び,これに伴い,前記「表層部」に「高濃度」で「注入され」た「第1の不純物」を「活性化」するのに十分なフルエンスを有していないレーザパルスを包含するといえる。

オ そして,前記3(2)ウ(ウ)から,たとえ「前記第1のレーザパルスは,前記第2の不純物を活性化させることが可能な条件で前記第2の面に入射される」ものであっても,「第2のレーザパルス」が「アモルファス化」している「半導体基板の前記第2の面側の表層部」を「溶融」して「結晶化」し,前記「表層部」に「高濃度」で「注入され」た「第1の不純物」を「活性化」するのに十分なフルエンスを有していない場合は,そもそも,「裏面に……結晶性の回復のためのレーザ照射を行う」ことができないのであるから,前記3(1)の課題を解決できるとは認められない。
すなわち,この場合においては,本願明細書に記載された発明の課題は解決されないといえる。

カ したがって,本願の請求項1の記載には,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,あるいは,請求項1の記載は,発明の詳細な説明において効果があることが示された範囲を超えている。
したがって,本願明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本願出願当時の技術常識に照らしても,請求項1の記載によって特許を請求しようとする範囲の全てにおいて,本願発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないというべきである。
そうすると,本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。

(3)本願発明2ないし6について
以上は,請求項1を引用する請求項2に係る発明,請求項1及び2のみを引用する請求項4ないし6に係る発明についても,同様である。

よって,請求項1及び2,請求項1及び2のみを引用する請求項4ないし6に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。」


第4 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成29年9月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
第1の面に半導体素子が形成され、第2の面側の表層部の、第1の深さより浅い領域に、相対的に高濃度で第1の不純物が注入されて、前記第2の面側の表層部が、前記第1の深さまでアモルファス化しており、前記第1の深さより深い領域に、相対的に低濃度で第2の不純物が注入されている半導体基板の、前記第2の面に、半導体レーザ発振器から出射され、10μs?30μsの範囲内のパルス幅を有する第1のレーザパルスを入射させる工程と、
前記第1のレーザパルスのパルス幅の1/10以下の第2のパルス幅を有する第2のレーザパルスを、前記第1のレーザパルスの入射領域に重ねて入射させる工程と
を有し、
前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が、予め決められている許容上限値を超えないように、前記第1のレーザパルスの立下り時刻と、前記第2のレーザパルスの立上り時刻との時間軸上の相対位置関係が設定されており、
前記第1のレーザパルスは、前記第2の不純物を活性化させることが可能な条件で前記第2の面に入射され、
前記第2のレーザパルスの入射によって、前記アモルファス化した領域の溶融及び結晶化が生じることにより、前記第1の不純物が活性化される半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1のレーザパルスの立下りの時刻をt4、前記第2のレーザパルスの立上り時刻をt2、前記第1のパルス幅をWとしたとき、
-4W/5≦t2-t4≦W/2
を満たす請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第2のパルス幅が、100ns?200nsである請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1のレーザパルスの波長は、前記半導体基板への光侵入長が、前記第2の面から前記第2の不純物が注入されている領域の底面までの深さよりも長くなるように選択されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1のレーザパルスの波長は、前記半導体基板への光侵入長が、前記半導体基板の厚さよりも短くなるように選択されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。」


第5 引用された文献及び引用発明
1 引用文献について
(1)引用文献の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知に引用された刊行物である国際公開第2011/065094号(以下、「引用文献」という。)には、「レーザアニール装置およびレーザアニール方法」(発明の名称)について、図1?図13とともに次の事項が記載されている(下線は参考のため当審において付したもの。以下同様である。)。
ア 「技術分野
[0001] この発明は、パワーデバイスIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の裏面にイオン注入された不純物の活性化やウエハ表層内の結晶欠陥を取り除いて結晶を回復させる処理などに使用されるレーザアニール装置およびレーザアニール方法に関するものである。」

イ 「背景技術
……(中略)……
[0003] 例えば、2波長、すなわち短い波長と長い波長のCW(連続発振)レーザで、浅いイオン注入層と深いイオン注入層の活性化を担わせる活性化技術が提案されている(特許文献1参照)。
この技術では、CW型LD(波長≦900nm)とCW型YAGレーザの高調波レーザ(波長≧370nm)を同じ基板面に同時照射し、各レーザビームの照射時間(ビーム走査速度とビームサイズで決まる)を制御することで深さ方向の温度分布を制御して深い活性化を実現している。不純物注入層の浅い部分は短い波長の固体レーザで活性化し、深い部分は半導体レーザで活性化する。
……(中略)……
[0005] また、2波長のレーザを組み合わせてイオン注入で形成したアモルファス層を溶融状態で活性化する技術が提案されている(非特許文献3参照)。
この技術は、赤外波長1060nm(パルス幅40ns)とグリーン波長530nm(パルス幅30ns)の2波長のレーザを同時に照射して、先ずグリーン波長のパルスレーザでAsイオン(30keV、E+15/cm^(2))を注入したアモルファス層(48nm)の表面を浅く溶融し、次に赤外波長の吸収を高めて、赤外波長のパルスレーザでアモルファス層全体を溶融する溶融活性化方法である。グリーンパルスレーザは赤外パルスレーザの光吸収のトリガー的な役割を担っている。」

ウ 「発明が解決しようとする課題
……(中略)……
[0012] 本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、熱容量の大きな厚いシリコンウエハにおいても光侵入長と熱拡散長を十分に確保して、不純物の活性化処理などの熱処理を効果的に行うことができるレーザアニール装置およびレーザアニール方法を提供することを目的とする。」

エ 「課題を解決するための手段
[0013] すなわち、本発明のレーザアニール装置は、基板表面を熱処理するレーザアニール装置であって、立ち上がり時間が緩やかでパルス幅の長いパルスレーザを発生するパルス発振レーザ光源と、アニールをアシストする近赤外レーザを発生する連続発振レーザ光源と、前記2種類のレーザのビームをそれぞれ整形して前記基板表面に複合照射するべく導く光学系と、前記基板と前記レーザビームを相対的に移動させて前記2種類のレーザビーム照射の走査を可能にする移動装置とを備えることを特徴とする。
[0014] また、本発明のレーザアニール方法は、基板表面を熱処理するレーザアニール方法であって、パルス発振レーザ光源で発生させ整形した立ち上がり時間が緩やかでパルス幅の長いパルスレーザビームを前記基板に繰り返し重複照射するとともに、連続発振レーザ光源で発生させ整形した近赤外レーザビームを前記繰り返し重複照射する前記基板に複合照射して、これらレーザビームを走査しながら、望ましくは該基板の非照射側の温度上昇を抑制しつつ、該基板の熱処理を行うことを特徴とする。
[0015] 本願発明では、パルス発振レーザ光源で発生させて整形した立ち上がり時間が緩やかでパルス幅の長いパルスレーザビームと、連続発振レーザ光源で発生させて整形した近赤外レーザビームとを基板表面に複合照射してアニール処理を行う。近赤外レーザは、アニールをアシストして、深さ方向における熱拡散を十分にして、熱容量の大きな厚いシリコンウエハなどにおいても、不純物の活性化処理などの熱処理を効果的に行うことができる。
[0016] 前記パルスレーザには、好適にはグリーンレーザを用いることができ、パルスレーザ発信器としては例えば、LD励起Yb:YAGレーザの第二高調波を用いることができる。
また、本発明におけるパルスレーザは、一般的なパルスレーザに比べて立ち上がり時間が緩やかなパルス波形を有して基板に照射される。具体的には、例えば、パルス波形の最大強度の10%から90%にまで到達する立ち上がり時間が160ns以上であるパルス波形を有して前記基板に照射されるものが好適例として挙げられる。該立ち上がり時間は、180ns以上であるのがさらに望ましく、300ns以上であるのが一層望ましい。
[0017] 立ち上がりが緩やかなパルスレーザは、基板に照射された際に、照射初期の基板の温度の急激な上昇を抑え、該温度上昇に伴う光侵入長の急減を緩和できる。
本発明としては、立ち上がりが緩やかなレーザパルスを出力するレーザ光源が特定のものに限定されるものではないが、上記したように、LD励起Yb:YAGレーザの第二高調波を搭載するものを好適例として示すことができる。
[0018] 上記レーザパルスは、立ち上がり時間が緩やかだけでなく、パルス幅が長いことが必要とされる。具体的には、半値幅が600ns以上のパルス波形を有して基板に照射されるものが望ましく、1000ns以上であるのが一層望ましい。
パルスレーザのパルス幅をコントロールする(長くする)ことで、光侵入長に見合った熱拡散長を確保でき、low thermal budgetプロセス(低温活性化処理)などを有効に実現できる。
[0019] また、近赤外レーザは、連続発振レーザ光源で発生させたものであり、波長としては、650?1100nmのものを例示することができる。好適には、680?825nmの波長を示すことができる。上記波長域では、基板に用いられる一般的な材料であるシリコンに対する光吸収がよく、上記パルスレーザよりも深い光侵入長が得られる。この結果、基板は、深い領域にまで予備加熱されてアシスト作用が効果的に得られる。
[0020] 上記近赤外レーザは、連続発振レーザ光源で発生させたままで連続性を有する波形のものの他、一部でパワー密度が極小になる不連続部分を有するものであってもよい。この不連続部分は、パルスレーザのパルスと同じ周期で出現するものが望ましい。不連続部分は、連続部分よりも小さいパワー密度を有するものの他、パワー密度が0になるものであってもよい。不連続部分は、基板に与える熱量を調整して、基板全体が過度に加熱されるのを防止する。そして、不連続部分は、パルスレーザの一周期に対し、50%以下に設定するのが望ましい。なお、不連続部分は、半導体レーザの電流制御などの方法によって設けることができる。
また、近赤外レーザによるアシスト温度は、基板表面上の材料融点を超えないように調整するのが望ましい。該調整は、例えば、近赤外レーザのパワー密度と前記走査速度とを制御することによって行うことができる。
[0021] 本発明では、上記パルスレーザビームと、近赤外レーザビームとの複合照射によって、熱の逃げを緩和(小さく)し、活性化温度を増大させて、基板の非照射側の温度上昇を抑制しつつ基板の熱処理を行うことができる。
なお、近赤外レーザ照射後、基板表面温度が定常状態に達したときにパルスレーザビームを照射できるように遅延時間を設けて照射タイミングを制御するのが望ましい。近赤外レーザビームの照射によって基板表面温度が定常状態に達した後にパルスレーザビームを照射することで効果的に温度アシストを活用できる。」

オ 「発明の効果
[0028] すなわち、本発明によれば、以下の効果がある。
1)パルスレーザビームに、温度アシストの近赤外レーザビームを付与することで、熱容量の大きな厚いシリコン基板にイオン注入された不純物を深い位置まで十分に活性化ができる。
2)パルスレーザビームに温度アシストの近赤外レーザビームを付与することで、パルスレーザの熱負荷を軽減でき、活性化に必要なエネルギー密度を軽減してビーム長を長くでき、したがって、照射の掃引速度を大きく取れるのでスループットを改善できる。
3)深い領域まで予備加熱ができるので潜在的に3μmを越える深い活性化が可能である。
4)熱処理の主の役割はパルスレーザであり、近赤外レーザを温度アシストとして副の役割とすることで、基板の非照射側の温度上昇を例えば200℃以下に抑制できる。また、近赤外レーザの一部に不連続部分を設けることで基板の非照射側の温度上昇を更に改善できる。」

カ 「発明を実施するための形態
[0030] 以下に、本発明の一実施形態を説明する。
レーザアニール装置1は、図1に示すように、処理室2を備えており、該処理室2内にX-Y方向に移動可能な移動装置3を備え、その上部に基台4を備えている。基台4上には、被処理体配置台5が設けられている。レーザアニール処理時には、該被処理体配置台5上に半導体基板30が設置される。なお、移動装置3は、図示しないモータなどによって駆動される。
[0031] 処理室2外部には、LD励起Yb:YAGレーザの第二高調波を搭載するパルス発振レーザ光源10が設置されている。パルス発振レーザ光源10から出力されるパルスレーザビーム15は、必要に応じて減衰器11でエネルギー密度が調整され、レンズ、反射ミラー、ホモジナイザーなどによって構成される光学系12でビーム整形や偏向がなされ、処理室2内の半導体基板30に照射される。
[0032] パルス発振レーザ光源10から出力されるパルスレーザビーム15は、立ち上がり時間の緩やかなパルス波形を有しており、好適には、立ち上がり時間(パルス波形の最大強度の10%から90%にまで到達する時間)が160ns以上、半値幅が200ns以上のパルス波形を有している。該レーザビームは、半導体基板30に照射された際に、不純物層が非溶融状態を維持でき、融点付近まで表層を高温にできるエネルギー密度または、表層のみが溶融する状態が得られるエネルギー密度に調整されているのが望ましい。該パルスレーザビーム15は、上記したように、光学系12により例えばラインビーム形状に整形される。
[0033] また、処理室2外部には、近赤外レーザを発生するLDレーザ光源からなる連続発振レーザ光源20が設置されている。連続発振レーザ光源20から出力される近赤外レーザビーム25は、必要に応じて減衰器21でパワー密度が調整され、レンズ、反射ミラー、ホモジナイザーなどによって構成される光学系22でビーム整形や偏向がなされ、処理室2内の半導体基板30に照射される。該レーザビームは、半導体基板30に照射されて走査される際に、半導体基板30が融点に達しないパワー密度に調整されている。該近赤外レーザビーム25は、上記したように、光学系22により例えばラインビーム形状に整形され、そのサイズは、前記パルスレーザビーム15のサイズよりも大きくなるように調整される。
[0034] 図2(a)に示すように、近赤外レーザビーム25が半導体基板30に照射される際の照射エリア25aは、パルスレーザビーム15が半導体基板30に照射される際の照射エリア15aを覆い、かつ、そのエリア全体を越える大きさを有するように、前記光学系12、22により調整される。
ただし、本発明としては、各レーザビームの照射エリアの位置が上記に限定されるものではない。図2(b)(c)(d)は、照射エリア位置の変更例を示すものである。図2(b)は、長手方向および走査方向において照射エリア25aは、照射エリア15aを超える大きさを有している。図2(c)は、照射エリア25aが照射エリア15aを覆うことなく、両者の重なりがないものであり、照射エリア15aの走査方向側に照射エリア25aが位置して、隣接する照射エリアの端縁が互いに接している。図2(d)は、照射エリア25aが照射エリア15aを覆うことなく、両者が重なることなく離反しているものである。ただし、両者は基板上で互いに近傍に照射される。
また、図2(e)は、本発明外の照射状態を示すものであり、半導体基板30に、パルスレーザビーム15のみが照射されて、照射エリア15aによって半導体基板30が処理される状態を示している。
[0035] 図3(a)は、本発明で処理対象とすることができるFS型IGBTの断面構造の一例を示すものである。半導体基板30の表面側にボロンが注入されたp型ベース領域33が形成され、さらに、p型ベース領域33の表面側の一部にリンが注入されたn+型エミッタ領域34が形成されている。半導体基板30の裏面側の表層にボロンが注入されたp+型のコレクタ層32が形成されている。コレクタ層32よりも深い領域に、コレクタ層32に接するようにリンが注入されたn+型バッファ層31が形成され、その内側にn-型基板35が位置している。図中、36はコレクタ電極、37はエミッタ電極、38はゲート酸化膜、39はゲート電極である。
[0036] 上記半導体不純物層へは、図3(b)に示すように、コレクタ電極36の形成前に、裏面側より、パルスレーザビーム15を繰り返し重複して照射するとともに、近赤外レーザビーム25を同時期に照射することで、2μm以上の厚さに亘って不純物層を活性化する。パルスレーザビーム15の重複率(オーバーラップ率)は、必要に応じて適宜選定することができる。この際に、移動装置3による基台4の移動速度を制御することにより、半導体基板30に対し、パルスレーザビーム15および近赤外レーザビーム25を所定速度で走査することができる。
……(中略)……
[0039] 図5は、従来例および本発明におけるLD励起固体レーザの第二高調波のパルス波形の具体例を示す。従来例では、パルス幅(半値幅)83nsに対して立ち上がり時間42nsと立ち下り時間120nsを有している。
本発明例では、パルス幅(半値幅)1200nsに対して立ち上がり時間308nsと立ち下がり時間92nsを有している。
本発明例のパルスレーザは、従来例に比べて明らかに立ち上がり時間が緩やかでパルス幅が長い。
……(中略)……
[0044] 図8は、上記したパルスレーザと同時期に照射される近赤外レーザの照射タイミングを示すものである。
近赤外レーザが照射された基板表面では、照射直後から次第に温度上昇し、定常状態になる。一方、パルスレーザでは、パルスに応じて極めて短時間に温度上昇し、また、パルスに応じて極めて短時間に温度降下する。パルスレーザの照射に際しては、近赤外レーザを照射し、基板表面温度が定常状態になった後に、パルスレーザの照射を行うのが望ましい。照射タイミングは、例えば遅延時間を設定しておき、近赤外レーザビームの照射後、遅延時間にしたがって、パルスレーザを遅れて照射する。或いは、例えば照射エリアが重ならないように位置をずらして複合レーザビームを走査することで照射タイミングを変えることも可能である。
[0045] なお、本発明では、近赤外レーザは連続波形を有するものではなく、図9に示すように、一部に不連続部を有するものであってもよい。
該不連続部は、パルスレーザのパルスと同じ周期で出現するものが望ましい。
[0046] 上記パルスレーザと近赤外レーザビームを半導体基板に照射した際の深さ方向での熱拡散の模式図を図10(a)に示す。
半導体基板30には、ボロン注入領域32とリン注入領域31とを有しており、上記パルスレーザよりも光侵入長が大きい近赤外レーザビームの照射によって、半導体基板30の深い位置にまで温度アシスト領域が形成される。例えば波長808nmの近赤外レーザビームでは、深さ方向に10μm程度の光侵入長が得られる。この状態でパルスレーザビームを照射すると、深さ方向(Z軸方向)に熱の流れが生じる。この際の温度アシスト領域が熱の勾配を小さくし、その結果、熱の逃げが小さくなって半導体基板の奥深くにまで、効果的に加熱される。この際には、パルスレーザのエネルギー密度と近赤外レーザのパワー密度や走査速度の調整によって、半導体基板の非照射側の温度上昇を抑えて非溶融または表面のみが溶融した状態にして不純物の活性化を行うことができる。
[0047] なお、図10(b)は、パルスレーザのみを半導体基板30に照射した状態を示している。この例では、面方向および深さ方向における温度勾配が大きく、熱の逃げが大きい。このため、深さ方向の加熱効果が限定され、熱容量の大きな厚い半導体基板に対し、不純物を深い位置まで活性化することが困難になる。」

キ 「実施例1
[0048] 以下に、本発明の実施例を説明する。
グリーンパルスレーザとして、LD励起固体レーザ(DPSS)第二高調波を用い、パルス発振レーザ光源には、LD励起Yb:YAGを用いた。該レーザ光源から出力されて半導体基板に照射されるパルスレーザビーム(波長515nm)は、パルス幅1200ns、立ち上がり時間308ns、立ち下がり時間92ns、エネルギー密度8J/cm^(2)、パルス周波数10kHzに設定し、前記基板に直上から繰り返し重複照射した。
[0049] 一方、連続発振レーザ光源で発生させた波長808nmの近赤外レーザビームをパワー密度11.3kW/cm 2 ・秒にして45度の角度で前記基板に連続照射した。これらビームは、同時期に半導体基板に照射するものとし、光学系による整形により近赤外レーザビームサイズをパルスレーザビームのサイズ(短軸36μm、長軸300μm)よりも大きくし(短軸400μm、長軸560μm)、半導体基板上で、近赤外レーザビームの照射エリアを楕円ビームにし、パルスレーザビームの照射エリアを細長い楕円ビームにして、パルスレーザビームの照射エリア全体を近赤外レーザビームが覆って越える大きさのものとした。なお、光学系には、長軸シリンドリカルレンズ、短軸シリンドリカルレンズ、球面レンズ、反射ミラーなどを備えており、シリンドリカルレンズの構成によって、ビームの短軸、長軸のサイズを設定することができる。
半導体基板は、厚さ725μmのシリコン基板とし、基台上の被処理体配置台に設置し、移動装置によって80mm/秒の速度で走査するものとした。
図11は、上記パルスレーザビーム15と近赤外パルスレーザ25の半導体基板30上における照射エリア15a、25aを示すものである。照射エリア25aは、照射エリア15a全体を覆ってこれを越える大きさを有している。
[0050] 上記両レーザビームを照射して半導体基板の熱処理を行い、熱処理前の半導体基板におけるSIMS分析による不純物濃度の深さ分布、および熱処理後の半導体基板におけるSRP分析によるキャリア濃度の深さ分布を比較して活性化深さを評価し、その結果を図12に示した。
[0051] 図12から明らかなように、本発明によって照射された半導体基板では、725μmの厚さを有するにも拘わらず、2μmを越える深さにまで効果的に活性化処理がなされていた。
また、上記と同様の照射条件で、厚さ150μmの半導体基板に前記両レーザビームを照射し、非照射側の温度を測定した。その結果、測定温度は200℃以下であり、この結果から、前記試験例においても、熱容量の大きな厚さ725μmの半導体基板の非照射側温度が200℃以下であることが推定される。」

ク 「深さ方向のキャリア濃度分布プロファイル」(段落0029])を示す図12において、「熱処理前の半導体基板におけるSIMS分析による不純物濃度」(段落0050])は、“B-layer”のイオン注入後の不純物濃度のピークは深さ約0.2μmの位置で約6×10^(19)cm^(-3)であり、“P-layer”のイオン注入後の不純物濃度のピークは深さ1.0μmの位置で約2×10^(18)cm^(-3)であることが記載されている。

ケ 「近赤外レーザビームとパルスレーザビームとの照射タイミングの変更例を示す図」(段落0029])を示す図9には、不連続部が設けられてパルス状となった近赤外レーザのパルス幅は、パルスレーザのパルス幅より大きいこと、前記近赤外レーザのパルスの途中で前記パルスレーザが照射されていることが記載されている。

(2)引用発明
したがって、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体基板30の表面側にFS型IGBTが形成され、前記半導体基板30の裏面側の表層にボロンがピーク濃度6×10^(19)cm^(-3)で注入されたp+型のコレクタ層32が形成され、前記コレクタ層32よりも深い領域に、前記コレクタ層32に接するようにリンがピーク濃度が2×10^(18)cm^(-3)で注入されたn+型バッファ層31が形成された前記半導体基板30の裏面側より、基板に与える熱量を調整して基板全体が過度に加熱されるのを防止するため、半導体レーザの電流制御によって不連続部分を設けた近赤外レーザビーム25を照射する工程と、
前記半導体基板30の裏面側より、パルス幅(半値幅)1200nsに対して立ち上がり時間308nsと立ち下がり時間92nsを有しており、前記パルス幅(半値幅)は前記近赤外レーザビーム25のパルス幅より小さいパルスレーザビーム15を照射する工程と、
を有し、
前記近赤外レーザビーム25の照射エリア25aは、前記パルスレーザビーム15の照射エリア15a全体を覆い、かつ、そのエリア全体を越える大きさを有しており、
光侵入長が大きい前記近赤外レーザビーム25の照射によって基板表面温度が定常状態に達した後、極めて短時間に温度上昇するとともに極めて短時間に温度降下するパルスレーザビーム15を照射することで、基板の非照射側の温度上昇を例えば200℃以下に抑制でき、
前記近赤外レーザビーム25は、深さ方向における熱拡散を十分にして、不純物の活性化処理などの熱処理を効果的に行うことができるものであり、
前記パルスレーザビーム15のエネルギー密度と前記近赤外レーザビーム25のパワー密度や走査速度の調整によって、前記半導体基板30の非照射側の温度上昇を抑えて、照射側の表面のみが溶融した状態にして不純物の活性化を行うことを特徴とするレーザアニール方法。」

2 参考文献について
(1)参考文献の記載事項
原査定において「参考文献」として示された刊行物である特開2005-136218号公報(以下、「参考文献」という。)には、「不純物活性化方法及びレーザ照射装置」(発明の名称)について、図1?図7とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0086】
図5(C)は、図5(B)を参照して説明した方法の変形例を示す。この例では、連続波レーザビームから切り出したレーザビームLbを照射しながら、パルスレーザビームLaを照射する。パルスレーザビームLaの照射後も、レーザビームLbが照射され続けることにより、パルスレーザビームLaにより上昇した基板表面の温度が高い状態に維持される。この方法でも、1ショットのパルスレーザビームLaのみでは効率的に活性化できないような深い位置に存在する不純物の活性化率を高めることができる。
【0087】
なお、パルスレーザビームLaの照射の前に、レーザビームLbを照射することにより、基板に予熱が与えられる。この予熱が、パルスLaの照射時の不純物活性化を促進する効果も期待できる。」


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「半導体基板30」、「半導体基板30の表面」及び「FS型のIGBT」は、それぞれ、本願発明1の「半導体基板」、「第1の面」及び「半導体素子」に相当する。したがって、引用発明の「半導体基板30の表面側にFS型IGBTが形成され」ることは、本願発明1の「第1の面に半導体素子が形成され」ることに相当する。
引用発明の「裏面」、「表層」、「p+型のコレクタ層32」と「n+型バッファ層31」が「接する」部分の深さ、「ボロン」及び「リン」は、それぞれ、本願発明1の「第2の面」、「表層部」、「第1の深さ」、「第1の不純物」及び「第2の不純物」に相当する。したがって、引用発明の「前記半導体基板30の裏面側の表層にボロンがピーク濃度6×10^(19)cm^(-3)で注入されたp+型のコレクタ層32が形成され、前記コレクタ層32よりも深い領域に、前記コレクタ層32に接するようにリンがピーク濃度が2×10^(18)cm^(-3)で注入されたn+型バッファ層31が形成された前記半導体基板30」と、本願発明1の「第2の面側の表層部の、第1の深さより浅い領域に、相対的に高濃度で第1の不純物が注入されて、前記第2の面側の表層部が、前記第1の深さまでアモルファス化しており、前記第1の深さより深い領域に、相対的に低濃度で第2の不純物が注入されている半導体基板」とは、「第2の面側の表層部の、第1の深さより浅い領域に、相対的に高濃度で第1の不純物が注入されて」おり「前記第1の深さより深い領域に、相対的に低濃度で第2の不純物が注入されている半導体基板」である点で共通する。
そして、引用発明の「前記半導体基板30の裏面側より、基板に与える熱量を調整して基板全体が過度に加熱されるのを防止するため、半導体レーザの電流制御によって不連続部分を設けた近赤外レーザビーム25を照射する工程」と、本願発明1の「半導体基板の、前記第2の面に、半導体レーザ発振器から出射され、10μs?30μsの範囲内のパルス幅を有する第1のレーザパルスを入射させる工程」とは、「半導体基板の、前記第2の面に、半導体レーザ発振器から出射され」る所定の「パルス幅を有する第1のレーザパルスを入射させる工程」である点で共通する。

イ 引用発明において、「前記近赤外レーザビーム25の照射エリア25aは、前記パルスレーザビーム15の照射エリア15a全体を覆い、かつ、そのエリア全体を越える大きさを有して」いる。
したがって、引用発明の「前記半導体基板30の裏面側より、パルス幅(半値幅)1200nsに対して立ち上がり時間308nsと立ち下がり時間92nsを有しており、前記パルス幅(半値幅)は前記近赤外レーザビーム25のパルス幅より小さいパルスレーザビーム15を照射する工程」と、本願発明1の「前記第1のレーザパルスのパルス幅の1/10以下の第2のパルス幅を有する第2のレーザパルスを、前記第1のレーザパルスの入射領域に重ねて入射させる工程」とは、「前記第1のレーザパルスのパルス幅」より小さい「第2のパルス幅を有する第2のレーザパルスを、前記第1のレーザパルスの入射領域に重ねて入射させる工程」である点で共通する。

ウ 引用発明は「光侵入長が大きい前記近赤外レーザビーム25の照射によって基板表面温度が定常状態に達した後、極めて短時間に温度上昇するとともに極めて短時間に温度降下するパルスレーザビーム15を照射」している。すなわち、引用発明は、「近赤外レーザビーム25の照射」を行い「基板表面温度が定常状態に達した後」に「パルスレーザビーム15を照射」している。この態様は、「近赤外レーザビーム25」と「パルスレーザビーム15」の「時間軸上の相対位置関係」を設定していると言い得るものと解される。
そして、引用発明の「抑制」すべき「基板の非照射側の温度上昇」の上限値である「例えば200℃」の温度は、本願発明1の「第1の面の温度」の「予め決められている許容上限値」に相当する。
したがって、引用発明において「光侵入長が大きい前記近赤外レーザビーム25の照射によって基板表面温度が定常状態に達した後、極めて短時間に温度上昇するとともに極めて短時間に温度降下するパルスレーザビーム15を照射することで、基板の非照射側の温度上昇を例えば200℃以下に抑制でき」ることと、本願発明1において「前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が、予め決められている許容上限値を超えないように、前記第1のレーザパルスの立下り時刻と、前記第2のレーザパルスの立上り時刻との時間軸上の相対位置関係が設定されて」いることとは、「前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が、予め決められている許容上限値を超えないように、前記第1のレーザパルス」と「前記第2のレーザパルス」の「時間軸上の相対位置関係が設定されて」いる点で共通する。

エ 引用発明の「光侵入長が大きい前記近赤外レーザビーム25が照射された基板表面では照射直後から次第に温度上昇して深い位置まで定常状態にな」るから、当該「近赤外レーザビーム25」により「活性化」される「不純物」には、「ピーク濃度が2×10^(18)cm^(-3)で注入」された「リン」が含まれることは明らかである。
したがって、引用発明の「前記近赤外レーザビーム25は、深さ方向における熱拡散を十分にして、不純物の活性化処理などの熱処理を効果的に行うことができるもの」であることは、本願発明1の「前記第1のレーザパルスは、前記第2の不純物を活性化させることが可能な条件で前記第2の面に入射され」ることに相当する。

オ 引用発明の「前記パルスレーザビーム15のエネルギー密度と前記近赤外レーザビーム25のパワー密度や走査速度の調整によって、前記半導体基板30の非照射側の温度上昇を抑えて、照射側の表面のみが溶融した状態にして不純物の活性化を行う」処理において、「照射側の表面のみ」を「溶融した状態」にするのは、「光侵入長」が「近赤外レーザビーム25」より小さい「パルスレーザビーム15」の照射によることは明らかである。
そして、当業者の技術常識を参酌すれば、前記「不純物の活性化」は、前記「パルスレーザビーム15」の照射により「溶融した状態」となった「半導体基板30」が、前記「パルスレーザビーム15」の照射後に冷却されて結晶化する際になされることも明らかである。
したがって、引用発明の「前記パルスレーザビーム15のエネルギー密度と前記近赤外レーザビーム25のパワー密度や走査速度の調整によって、前記半導体基板30の非照射側の温度上昇を抑えて、照射側の表面のみが溶融した状態にして不純物の活性化を行う」ことと、本願発明1の「前記第2のレーザパルスの入射によって、前記アモルファス化した領域の溶融及び結晶化が生じることにより、前記第1の不純物が活性化される」こととは、「前記第2のレーザパルスの入射」によって「溶融及び結晶化が生じることにより、前記第1の不純物が活性化される」点で共通する。

カ 以上から、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「第1の面に半導体素子が形成され、第2の面側の表層部の、第1の深さより浅い領域に、相対的に高濃度で第1の不純物が注入されて、前記第1の深さより深い領域に、相対的に低濃度で第2の不純物が注入されている半導体基板の、前記第2の面に、半導体レーザ発振器から出射される所定のパルス幅を有する第1のレーザパルスを入射させる工程と、
前記第1のレーザパルスのパルス幅より小さい第2のパルス幅を有する第2のレーザパルスを、前記第1のレーザパルスの入射領域に重ねて入射させる工程と
を有し、
前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が、予め決められている許容上限値を超えないように、前記第1のレーザパルスと、前記第2のレーザパルスとの時間軸上の相対位置関係が設定されており、
前記第1のレーザパルスは、前記第2の不純物を活性化させることが可能な条件で前記第2の面に入射され、
前記第2のレーザパルスの入射によって、溶融及び結晶化が生じることにより、前記第1の不純物が活性化される半導体装置の製造方法。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は「前記第2の面側の表層部が、前記第1の深さまでアモルファス化して」いるという構成を備えるのに対し、引用発明の「ボロンがピーク濃度6×10^(19)cm^(-3)で注入」された「前記半導体基板30の裏面側の表層」がアモルファス化しているかどうかは不明である点。
(相違点2)本願発明1の「第1のレーザパルス」は「10μs?30μsの範囲内のパルス幅を有する」という構成を備えるのに対し、引用発明の「近赤外レーザビーム25」のパルス幅は不明である点。
(相違点3)本願発明1の「第2のレーザパルス」の「パルス幅」は「第1のレーザパルスのパルス幅の1/10以下」であるという構成を備えるのに対し、引用発明の「パルスレーザビーム15」の「パルス幅(半値幅)」は「前記近赤外レーザビーム25のパルス幅より小さい」点。
(相違点4)
本願発明1は「前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が、予め決められている許容上限値を超えないように、前記第1のレーザパルスの立下り時刻と、前記第2のレーザパルスの立上り時刻との時間軸上の相対位置関係が設定されて」いるのに対して、引用発明は「光侵入長が大きい前記近赤外レーザビーム25の照射によって基板表面温度が定常状態に達した後、極めて短時間に温度上昇するとともに極めて短時間に温度降下するパルスレーザビーム15を照射する」点。
(相違点5)
本願発明1は「第2のレーザパルスの入射によって、前記アモルファス化した領域の溶融及び結晶化が生じる」のに対して、引用発明の「熔融した状態」となる「照射側の表面」は「ボロンがピーク濃度6×10^(19)cm^(-3)で注入」された「前記半導体基板30の裏面側の表層」と一致するかどうか不明である点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑みて、相違点4について検討する。
引用発明は、相違点4に係る「光侵入長が大きい前記近赤外レーザビーム25の照射によって基板表面温度が定常状態に達した後、極めて短時間に温度上昇するとともに極めて短時間に温度降下するパルスレーザビーム15を照射する」という構成を備えることで「基板の非照射側の温度上昇を例えば200℃以下に抑制でき」るものである。
この近赤外レーザビーム25とパルスレーザビーム15の照射タイミングについて、引用文献には以下の記載がある。
(ア)「[0021]……近赤外レーザ照射後、基板表面温度が定常状態に達したときにパルスレーザビームを照射できるように遅延時間を設けて照射タイミングを制御するのが望ましい。近赤外レーザビームの照射によって基板表面温度が定常状態に達した後にパルスレーザビームを照射することで効果的に温度アシストを活用できる。」
(イ)「[0036] 上記半導体不純物層へは、図3(b)に示すように、コレクタ電極36の形成前に、裏面側より、パルスレーザビーム15を繰り返し重複して照射するとともに、近赤外レーザビーム25を同時期に照射することで、2μm以上の厚さに亘って不純物層を活性化する。」
(ウ)「[0044] 図8は、上記したパルスレーザと同時期に照射される近赤外レーザの照射タイミングを示すものである。……パルスレーザの照射に際しては、近赤外レーザを照射し、基板表面温度が定常状態になった後に、パルスレーザの照射を行うのが望ましい。照射タイミングは、例えば遅延時間を設定しておき、近赤外レーザビームの照射後、遅延時間にしたがって、パルスレーザを遅れて照射する。或いは、例えば照射エリアが重ならないように位置をずらして複合レーザビームを走査することで照射タイミングを変えることも可能である。」
(エ)「[0046] ……半導体基板30には、ボロン注入領域32とリン注入領域31とを有しており、上記パルスレーザよりも光侵入長が大きい近赤外レーザビームの照射によって、半導体基板30の深い位置にまで温度アシスト領域が形成される。例えば波長808nmの近赤外レーザビームでは、深さ方向に10μm程度の光侵入長が得られる。この状態でパルスレーザビームを照射すると、深さ方向(Z軸方向)に熱の流れが生じる。この際の温度アシスト領域が熱の勾配を小さくし、その結果、熱の逃げが小さくなって半導体基板の奥深くにまで、効果的に加熱される。この際には、パルスレーザのエネルギー密度と近赤外レーザのパワー密度や走査速度の調整によって、半導体基板の非照射側の温度上昇を抑えて非溶融または表面のみが溶融した状態にして不純物の活性化を行うことができる。」

イ すなわち、本願明細書には、引用発明の「前記半導体基板30の非照射側の温度上昇を抑えて、照射側の表面のみが溶融した状態にして不純物の活性化を行う」という「レーザアニール方法」を実現するためには、「前記パルスレーザビーム15のエネルギー密度と前記近赤外レーザビーム25のパワー密度や走査速度の調整」を行うことに加えて、引用発明の「光侵入長が大きい前記近赤外レーザビーム25の照射によって基板表面温度が定常状態に達した後、極めて短時間に温度上昇するとともに極めて短時間に温度降下するパルスレーザビーム15を照射する」という「前記近赤外レーザビーム25」による温度アシストを活用するため「近赤外レーザ照射後、基板表面温度が定常状態に達したときにパルスレーザビームを照射できるように遅延時間を設けて照射タイミングを制御する」(段落[0021]及び[0044])ことが必要であることが示唆されていると認められる。
このとき、パルスレーザビーム15と近赤外レーザビーム25を同時期に照射するという記載(段落[0036]及び[0044])、すなわち、近赤外レーザビーム25を照射している間にパルスレーザビーム15を照射するとの記載から、上記の「近赤外レーザ照射後、基板表面温度が定常状態に達したときにパルスレーザビームを照射できるように遅延時間を設けて照射タイミングを制御する」という記載は、近赤外レーザビーム25の照射開始からパルスレーザビーム15の照射開始までの遅延時間を、基板表面温度が定常状態に達したときにパルスレーザビーム15を照射できるように設定するということを意味すると認められる。
そうすると、相違点4に係る本願発明1の「前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が、予め決められている許容上限値を超えないように、前記第1のレーザパルスの立下り時刻と、前記第2のレーザパルスの立上り時刻との時間軸上の相対位置関係が設定され」るという構成は、引用文献には記載も示唆もされていない。

ウ 相違点4に係る本願発明1の構成は、参考文献にも、記載も示唆もされていない。

エ したがって、引用文献に、近赤外レーザビーム25の照射開始からパルスレーザビーム15の照射開始までの遅延時間を、基板表面温度が定常状態に達したときにパルスレーザビーム15を照射できるように設定することが記載されているからといって、引用発明において、「近赤外レーザビーム25」の立ち下がり、すなわち、「近赤外レーザビーム25」の照射終了から、「パルスレーザビーム15」の立ち上がり、すなわち、「パルスレーザビーム15」の照射開始までの遅延時間を「前記半導体基板30の非照射側の温度上昇を抑え」るように設定することが容易に想到し得たとは、参考文献の記載を参酌しても認められない。

オ 一方、本願明細書には、
(ア)「【0048】
図9に、第1のレーザパルスLP1の立下り時刻t4から第2のレーザパルスLP2の立上り時刻t2までの経過時間t2-t4と、シリコンウエハを溶融させるのに必要な第2のレーザパルスLP2のフルエンスとの関係を示す。時刻t4から時刻t2までの遅延時間をtdと表記する。……」
(イ)「【0057】
レーザ照射面において、溶融深さが一定の0.3μmになる条件の下で、背面の到達温度は、遅延時間tdに依存して変化する。IGBTを製造する場合には、背面の到達温度が高くなることは好ましくない。背面の到達温度は、遅延時間td=0の近傍で極小値を示す。遅延時間tdを0よりも長くすると、背面の到達温度は、一旦極大値を示した後、徐々に低下する。ただし、図9に示したように、遅延時間tdが長くなるに従って、シリコンウエハを溶融させるために、第2のレーザパルスLP2のフルエンスを大きくしなければならない。第2のレーザパルスLP2のフルエンスの増大を抑制するために、遅延時間tdは、原点の近傍の極小値を含む範囲から選択することが好ましい。背面の到達温度の許容上限値TAが予め決められている場合、図10において、背面の到達温度が許容上限値TA以下となるように、遅延時間tdを設定すればよい。」
と記載されている。
したがって、本願発明1は、相違点4に係る「前記第1のレーザパルスの立下り時刻と、前記第2のレーザパルスの立上り時刻との時間軸上の相対位置関係が設定され」るという構成を備えることで「前記第1のレーザパルス及び前記第2のレーザパルスの入射によって上昇する前記第1の面の温度が、予め決められている許容上限値を超えない」という効果を奏し、これに加えて、「前記第1の面」の到達温度を極小値にでき得ること、また、シリコンウエハを溶融させるために必要な第2のレーザパルスLP2のフルエンスも抑制でき得るという格別の効果を奏することが、本願明細書には記載されている。

カ したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、参考文献を参照したとしても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし本願発明5について
本願発明2ないし本願発明5は、本願発明1の記載を引用する発明であり、本願発明1をさらに限定した発明である。
したがって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2ないし本願発明5は、当業者であっても、参考文献を参照しても引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定についての判断
平成29年9月1日に提出された手続補正書により補正された請求項1は、相違点4に係る構成を備えており、上記のとおり、本願発明1ないし5は、参考文献を参照したとしても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、もはや原査定を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由について
当審では、平成29年7月11日付けの当審よりの拒絶理由通知で、『エ 一方,本願発明1は,前記3(2)アで指摘したように,「第2のレーザパルス」は,「半導体基板」のどの「深さ」の「領域」に如何なる処理を施すための「レーザパルス」であるのか,何ら特定していない。』ので『「表側に既に半導体素子の表面構造が形成」されている「半導体基板」の「裏面に,不純物の活性化,及び結晶性の回復のためのレーザ照射を行うと,表側の温度も上昇してしま」い,「表側の温度の著しい上昇は,既に形成されている表面構造にダメージを与える」ことから,前記「裏面」に「レーザ照射を行う」際に「反対側の面の温度上昇を抑制することができる半導体装置の製造方法を提供すること」』という本願に係る発明の課題を解決することができず、したがって、『請求項1及び2,請求項1及び2のみを引用する請求項4ないし6に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。』との拒絶の理由を通知した。
これに対して、平成29年9月1日に提出された手続補正書により、本願の請求項1に第1の深さより浅い領域に、相対的に高濃度で第1の不純物が注入されて「前記第2の面側の表層部が、前記第1の深さまでアモルファス化して」いること、及び、「前記第2のレーザパルスの入射によって、前記アモルファス化した領域の溶融及び結晶化が生じることにより、前記第1の不純物が活性化される」こと、という構成が追加された。
したがって、前記の当審拒絶理由は解消した。


第9 むすび
以上のとおり、本願発明1-5は、当業者が引用発明及び参考文献に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-17 
出願番号 特願2012-176435(P2012-176435)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 右田 勝則  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 小島 誠  

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