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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1333867
審判番号 不服2016-12946  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-29 
確定日 2017-11-20 
事件の表示 特願2011-135967「定着部材、定着装置及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 3419、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月20日付けの特許出願であって、原審において、平成27年5月12日付け、及び同年12月24日付けで手続補正書が提出され、平成28年5月30日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。原査定の謄本の送達(発送)日 同年6月1日。)がされ、これに対して、同年8月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されて、明細書、及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成29年4月25日付けで拒絶理由が通知され、指定期間内の同年6月22日付けで手続補正がされ、更に当審において同年7月31日付けで拒絶理由が通知され、指定期間内の同年9月20日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定に係る拒絶理由の概要は、次のとおりである
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された、下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
<引用文献等一覧>
A.特開2010-140003号公報(引用文献A)
B.特開2006-133304号公報(引用文献B)
C.特開2004-309908号公報(引用文献C)

原査定時における本願の請求項1ないし6、8、9に係る発明は、引用文献A、Bに記載された発明、または引用文献AないしCに記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

第3 当審で通知した1回目の拒絶理由の概要
当審において、平成29年4月25日付けで通知した1回目の拒絶理由の概要は、次のとおりである。
1.本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記(引用文献については引用文献一覧参照)
(引用文献一覧)
1.特開2006-133304公報(拒絶査定時の引用文献Bであって、以下「引用例1」という。」)
2.特開2006-47960号公報(当審において新たに引用した文献であって、以下「引用例2」という。)
3.特開2006-133624号公報(当審において新たに引用した文献であって、以下「引用例3」という。)
4.特開昭63-165888号公報(当審において新たに引用した文献であって、以下「引用例4」という。)
5.特開2004-309908号公報(拒絶査定時の引用文献Cであって、以下「引用例5」という。)
6.特開2003-237048号公報(当審において新たに引用した文献であって、以下「引用例6」という。)

[理由1について]
・請求項1ないし7
・引用文献等 引用例1?6
・備考
・請求項1に係る発明について
引用例1には、「電子写真画像形成装置に利用する、フッ素ゴムとシリコーンゴムの複合材からなる表層を有する定着用弾性部材であって、表層のタック力が100kN/m^(2)以下であり、シリコーンゴムポリマーとしてジメチルポリシロキサン骨格のものを使用した定着用弾性部材。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている(段落【0001】、【0009】、【0019】参照。)。
上記の、「タック力が100kN/m^(2)」とは、「剥離応力が(20N/cm^(2)以下である)10N/cm^(2)」であることを意味し、同様に「シリコーンゴムポリマーとしてジメチルポリシロキサン骨格のもの」を使用したシリコーンゴムとは、「弾性体がシロキサン結合を主鎖とするゴム」であることを意味する。
したがって、本願請求項1に係る発明と引用発明1とは、次の点で相違する。

(相違点)
本願請求項1に係る発明では「ユニバーサル硬度が0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満」とするのに対し、引用発明1ではユニバーサル硬度について言及していない点。

上記の相違点について検討する。
引用例2には、「転写定着部材の温度が定着時における加圧部材とのニップ部の温度である定着設定温度の時に、押し込み深さ20μmにおける該転写定着部材のユニバーサル硬さHUが、0.2<HU≦0.6(N/mm^(2))という関係を満たす、画像を記録媒体上に定着させる転写定着装置。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている(段落【0017】、【0021】?【0023】参照。)。
また、引用例3には、「定着部材表面のユニバーサル硬度が、120?200℃の温度で0.11?0.45N/mm^(2)の範囲にあるカラー画像形成装置に用いる定着装置。」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている(段落【0009】、【0017】?【0020】、【0023】参照。)。
引用発明2における「転写定着部材」、引用発明3における「定着部材」は、いずれも引用発明1に係る「定着用弾性部材」と同様に、本願請求項1に係る発明でいう「記録媒体上のトナー像を加熱して当該記録媒体に定着させるプロセスに用いられる定着部材」に相当するものである。このように引用発明1ないし3は、それらが属する技術分野と基本的な構成や機能において共通しており、しかも、引用発明2及び3に係る数値範囲の上限値と下限値は、引用発明1に係る上限値と下限値に近接している。
してみれば、引用発明1において、引用発明2、3に係る上記の数値範囲を参酌した実験等に基づいて、上記相違点に係る本願請求項1に係る発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になしうる程度の事項といえる。
よって、本願請求項1に係る発明は、引用例1ないし3に記載されている発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・本願請求項2ないし7に係る発明について
本願請求項2に係る発明は、「前記ゴムがフロロシリコーンゴムであること」を発明特定事項とするものであるが、引用例4には上記の発明特定事項が実質的に開示されている。
本願請求項3に係る発明は、「前記最表層が改質されていること」を発明特定事項とし、本願請求項4に係る発明は、「弾性体の表面をプラズマ処理、電子線架橋処理及びUVオゾン処理のうちのいずれかによって改質処理すること」を発明特定事項とするものであるが、これらの発明特定事項は、実質上、引用例5に開示されている。
本願請求項5に係る発明は「前記改質処理した表面を更にカップリング剤で処理すること」を発明特定事項とするものであるが、引用例6に記載されているように、カップリング剤による定着部材の表面処理は周知の技術事項であり、当該発明特定事項は格別のものではない。
本願請求項6に係る発明は、定着部材を有する「定着装置」に係る発明であり、本願請求項7に係る発明は、定着装置を有する「電子写真方式の画像形成装置」に係る発明であるが、このような定着装置や画像形成装置は、引用例1ないし6にも、実質上の開示があるといえる。
したがって、本願請求項2ないし7に係る発明は、引用例1ないし3に記載されている発明、あるいはこれに加えて、引用例4ないし6に記載されている周知慣用の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[理由2について]
1.発明の詳細な説明の段落【0032】?【0036】の記載によれば、実施例1ないし5では、「オプツールDSX」の希釈溶液、あるいは「オルトケイ酸テトラエチル」が弾性層に塗布されており、このような実施例のものでは当該塗布によって形成される層が最表層になると解されるから、請求項1の「最表層が弾性体を含む弾性層であり」という記載は明確なものとはいえない。

2.請求項1では、「剥離応力が20N/cm^(2)以下であり、ユニバーサル硬度が0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満」とされているが、ユニバーサル硬度と、剥離応力あるいは「転写紙の分離性の向上」(段落【0008】参照。)とがどのように関係するのかが不明であるし、剥離応力とユニバーサル硬度の両者について、同時に数値範囲の限定をすることの技術的な意義も不明であって、この点において、本願の発明が明確であるとはいえない。

第4 当審で通知した2回目の拒絶理由の概要
当審では、平成29年7月31日付けで2回目の拒絶理由を通知したが、その概要は次のとおりである。
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


1.請求項1の記載は次のとおりである。
「記録媒体上のトナー像を加熱して当該記録媒体に定着させるプロセスに用いられる定着部材であって、最表層が弾性体を含む弾性層であり、剥離応力が20N/cm^(2)以下であり、ユニバーサル硬度(押し込み深さ5μm、測定温度25±2℃)が0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満であり、前記弾性体がシロキサン結合を主鎖とするゴムであることを特徴とする定着部材。」
上記のとおり、請求項1では最表層の改質について言及されておらず、本願請求項1に係る発明は、「最表層が改質されていない」定着部材に係るものも含むことになる。

2.これに対して、発明の詳細な説明(特に、段落【0019】、【0020】、【0031】?【0041】、【0044】参照。)において、「実施例(1ないし10)」として記載されている定着部材は、いずれも弾性体の表面をプラズマ処理等により改質処理した「最表層が改質されている」ものだけであって、「最表層が改質されていない」定着部材は、比較例1、2を除いて発明の詳細な説明に記載されていない。

3.したがって、本願請求項1に係る発明、及びこれを直接または間接的に引用する請求項2、6、7に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

第5 本願の発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成29年9月20日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(上記の補正によって、補正前の請求項3は削除されて、請求項の数は6となった。)
「【請求項1】
記録媒体上のトナー像を加熱して当該記録媒体に定着させるプロセスに用いられる定着部材であって、最表層が改質されている弾性体を含む弾性層であり、剥離応力が20N/cm^(2)以下であり、ユニバーサル硬度(押し込み深さ5μm、測定温度25±2℃)が0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満であり、前記弾性体がシロキサン結合を主鎖とするゴムであることを特徴とする定着部材。
【請求項2】
前記ゴムがフロロシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
弾性体の表面をプラズマ処理、電子線架橋処理及びUVオゾン処理のうちのいずれかによって改質処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の定着部材の製造方法。
【請求項4】
前記改質処理した表面を更にカップリング剤で処理することを特徴とする請求項3に記載の定着部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の定着部材を有することを特徴とする定着部材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の定着装置を有することを特徴とする電子写真方式の画像形成装置。」

第6 引用例の記載事項(以下の下線は、いずれも審決で付した。)
1.引用例1
引用例1には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、複写機、LBP等の電子写真画像形成装置における定着技術の分野において利用され、特にフッ素ゴムとシリコ-ンゴムの複合材からなる表層を有する定着用弾性部材、およびこれを配置した定着装置に関するものである。」
「【0005】
我々は、フッ素ゴムとシリコ-ンゴムの複合材からなる表層を有する定着用弾性部材であって、ゴム表層形成用のコーティング溶液中に配合した架橋剤が、基層のシリコーンゴム層へ移行してしまい、表層中の架橋剤の量が不足し、ゴムが十分に架橋されず、ゴム表面のタック力が高くなり、紙搬送に関する不具合が生じやすいという課題を見いだした。」
「【0009】
(1)フッ素ゴムとシリコ-ンゴムの複合材からなる表層を有する定着用弾性部材であって、表層のタック力が100kN/m^(2)以下であることを特徴とする。フッ素ゴムとシリコ-ンゴムの複合材からなる表層表面のタック力を100kN/m^(2)以下にすることで、表面に紙が付着しにくい定着用弾性部材を得ることができる。」
「【0017】
本発明において、表層のタック力とは、表層表面の粘着性に起因するもので、後述する条件でステンレス製プローブを表層表面に押し付けた後、引き離すときにプローブに働く付着力のことである。タック力が高いと、紙との付着力も大きくなるので、紙が表層表面に付着しやすくなる。表層のフッ素ゴムとシリコーンゴムの複合材とは、フッ素ゴムが海相、シリコーンゴムが平均粒子径20μm程度の島相を形成している海島構造を有する複合材料のことである。
【0018】
本発明で使用するフッ素ゴムポリマー(フルオロポリマー)の種類としては特に限定されるものではないが、・・・エーテル基を有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの三元共重合体のほうが、ゴムの表面エネルギーが比較的低く、トナーが付着しにくくなるので、より好ましい。・・・
【0019】
また、シリコーンゴムポリマーの種類も特に限定されるものではないが、ジメチルポリシロキサン骨格のものが、他のフェニル基などの置換基を有するものよりも表面エネルギーが低く、トナーが付着しにくくなるので、より好ましい。」
「【0032】
次に、本発明の定着装置について説明する。本発明の定着装置は、電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、前述のような本発明の定着用弾性部材が定着ベルトあるいは定着ローラ、および/または加圧ベルトあるいは加圧ローラとして配置されているものである。電子写真画像形成装置としては、感光体、潜像形成手段、形成した潜像をトナーで現像する手段、現像したトナー像を記録材に転写する手段、および、記録材上のトナー像を定着する手段等を有する電子写真画像形成装置が挙げられる。
【0033】
本発明の定着装置の一例について図2に構成図を示す。定着装置には、上ローラである定着ローラ4および下ローラである加圧ローラ5が配置されている。この定着ローラ4と、加圧ローラ5に本発明の定着用弾性部材が用いられる。そして、定着ローラ4と、加圧ローラ5の中心にはハロゲンランプからなるヒータ6がそれぞれ1本組込まれている。
【0034】
定着ローラ4は矢印方向に所定の周速度で回転駆動し、加圧ローラもそれに合わせて矢印方向に回転駆動する。そして、紙などの記録材上に形成されたトナー画像は、ヒーター6からの熱と、定着ローラ4と加圧ローラ5との圧力により定着される。」

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認定できる。
「フッ素ゴムとシリコ-ンゴムの複合材からなる表層を有する定着用弾性部材であって、
記録材上に形成されたトナー画像が、ヒーター6からの熱と、定着ローラ4と加圧ローラ5との圧力により定着される定着装置における、定着ローラ4と加圧ローラ5に用いられ、
シリコーンゴムポリマーの種類はジメチルポリシロキサン骨格のものであり、表層のタック力が100kN/m^(2)以下である、定着用弾性部材。」

2.引用例2
引用例2には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は・・・像担持体上のトナー像を記録媒体上に転写するとともに、その転写の際にトナー像を記録媒体上に定着する転写定着同時方式を採用した画像形成装置と、記録媒体上の未定着トナー像を加熱、加圧することによって記録媒体上に定着させる定着装置に関する。」
「【0017】
請求項1の発明は、粉体により形成した画像を未定着状態で担持する転写定着部材と加圧部材との間に記録媒体を挟んで加熱、加圧することによって前記転写定着部材が担持した未定着状態の前記画像を前記記録媒体上に定着させる転写定着装置において、前記転写定着部材として、該転写定着部材の温度が定着時における前記加圧部材とのニップ部の温度である定着設定温度の時に、押し込み深さ20μmにおける該転写定着部材のユニバーサル硬さHUが圧接部の圧力とニップ時間に応じて1.8(N/mm^(2))以下の予め定めた値以下であるものを用いことを特徴とする転写定着装置である。」
「【0021】
請求項5の発明は、請求項1の転写定着装置において、ニップ部の平均圧力は0.35?1N/mm^(2)であり、ニップ時間は20ms以上であり、前記ユニバーサル硬さHUの値は、前記転写定着部材表面の押し込み深さ20μmにおいて、0.2<HU≦0.6(N/mm^(2))という関係を満たすことを特徴とする。」
「【0041】
図1は本発明の実施対象となる画像形成装置の一例として、カラー複写機の構成を示す。・・・図示のカラー複写機1は、図示しない装置本体中央部に位置する画像形成部1A・・・を有している。画像形成部1Aには、水平方向に延びる転写面を有する・・・中間転写ベルト2が配置してあり、中間転写ベルト2の上面には、色分解色と補色関係にある色の画像を形成するための構成が設けてある。・・・
【0043】
中間転写ベルト2は、駆動ローラ9と、従動ローラ10に掛け回してあって、感光体3Y、3M、3C、3Bとの対峙位置において同方向に移動可能な構成となっている。・・・
【0045】
駆動ローラ9の近傍には、転写定着装置12が設けてある。転写定着装置12は、中間転写ベルト2上の画像としての未定着トナー像を転写する転写定着部材としての転写定着ローラ13と、転写定着ローラ13とニップN(以下、ニップまたは転写ニップという)を形成する加圧部材または対向部材としての加圧ローラ14を備えている。・・・
【0047】
また、転写定着ローラ13の内部には転写定着ローラ13上の画像を加熱する加熱手段としてのハロゲンヒータ15が設けてある。・・・」
「【0056】
転写定着ローラ13の表層が硬すぎる場合は、いくらニップ内で圧力をかけたとしても、記録媒体である用紙Pの微小な凹凸には追従できず、図2(d)に示すような状態は得られない。逆に、転写定着ローラ13の表層をいくら柔らかくしても、圧力が低すぎれば用紙Pの凹凸p、rに追従させることができない。したがって、転写定着ローラ13の表層の硬軟と一定以上の圧力印加とが同時に必要である。」
「【0071】
〔実験条件〕
・転写定着ローラ13:φ50mm、芯金:鉄+表1の弾性層と離型層を有し、表面粗さ:Ra=0.1?1.0μm
・加圧ローラ14:φ50mm、表層:ゴム0.5mm+PFA30μm:AskerC94、芯金:鉄
・総荷重:200N
・平均面圧:0.2N/mm^(2)
より加圧力を大きくすると転写率は向上するが、0.35/mm^(2)以上では転写率の向上はみられなかった。また、加圧力による部材の耐久性や熱容量を考慮するとこれ以下にすることが好ましい。ニップ部の平均面圧はその対象となるニップ部に加わる全荷重(N)を、その荷重によって構成されたニップ部の面積(mm^(2))で除して求められる値である。
・温度:130℃、定着性(描画試験法において評価)を満足する温度
・ニップ時間:40m秒を標準条件としたが、40?100m秒の範囲で転写性において変化がないことを確認している。
【0072】
以上の実験条件で実験を行った結果、転写定着性を許容できるのは、HU1.8[N/mm^(2)]以下で、そうであれば転写定着性を満足する画像を得ることができた。・・・」

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認定できる。
「記録媒体上の未定着トナー像を加熱、加圧することによって記録媒体上に定着させる定着装置が備える、転写定着ローラ13である転写定着部材であって、
温度:130℃の時の転写定着部材のユニバーサル硬さHUの値は、転写定着部材表面の押し込み深さ20μmにおいて、0.2<HU≦0.6(N/mm^(2))という関係を満たす転写定着部材。」

3.引用例3
引用例3には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、プリンター等の静電複写プロセスによる画像形成後、トナーを熱と圧力とで転写紙上に定着する画像形成装置に関するものである。」
「【0009】
上記課題を解決する手段である本発明の特徴を以下に挙げる。
1.本発明の定着装置では、・・・カラー画像形成装置に用いる定着装置において、前記定着装置は、弾性体の中間層と、フッ素系樹脂の表層からなる定着部材を有し、前記定着部材の表面硬度が120?200℃の温度で0.11?0.45N/mm^(2)の範囲にあって、かつ、フッ素系樹脂にて一体成型された分離爪が当接されていることを特徴とする。」
「【0017】
ここで、定着装置25について詳細に説明する。
図2は、本発明の画像形成装置に用いられる定着装置の構成を示す概略図である。本発明の定着装置25は、図2に示すように、定着ローラ251は、ステンレス、アルミニウム等の金属製の芯金251aの外周に、加圧ローラ252とニップを形成するために、例えば発泡シリコーンゴムや液状シリコーンゴム等の耐熱弾性材料で環状に成型加工された中間弾性層251bを備える。中間弾性層251bの上には、転写紙及びトナーの離型性を良くするために表層251cを設ける。表層251cには、耐熱性があり表面エネルギーの小さい材料が使用され、・・・高分子樹脂からなる耐熱性チューブとして使用される。定着ローラ251の芯金中には定着ローラ251の温度上昇を加速させるためのハロゲンヒータ等の熱源が配設される。」
「【0020】
また、この定着ローラ251は、表面硬度が120?200℃の温度で0.11?0.45N/mm^(2)の範囲にする。ここで、表面硬度とは、「ユニバーサル硬度」のことで、ISO14577やDIN50359に準拠した表面硬さ(記号:HU)であり、具体的には表面皮膜物性試験機(フィッシャーインスツルメンツ社製のフィッシャースコープ(登録商標)H100)を用い、押し込み深さが2?4μmである条件下で測定した。定着ローラ251の表面硬度を0.11?0.45N/mm^(2)の範囲にすることで、フッ素系樹脂製の分離爪253を押圧しても、定着ローラ251を傷を付けることがない。・・・」

上記の記載事項を総合すると、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認定できる。
「静電複写プロセスによる画像形成後、トナーを熱と圧力とで転写紙上に定着する画像形成装置に用いられる定着装置が有する、弾性体の中間層と、フッ素系樹脂の表層からなる定着部材(定着ローラ251)であって、
定着部材の表面硬度(ユニバーサル硬度:HU)が、120?200℃の温度で押し込み深さが2?4μmである条件下で測定して、0.11?0.45N/mm^(2)の範囲にある定着部材。」

4.引用例4
引用例4には、図面と共に次の事項が記載されている。
「(産業上の利用分野)
本発明は、電子写真複写装置、プリンタその他種々の画像形成装置において使用される定着装置、特に、未定着材を有するシート状転写材又は記録材を加熱・加圧通過して定着せしめる定着装置に関する。」(第1頁左下欄第17行?同右下欄第2行)
「第1図は本発明に係る定着装置の一実施例を示す説明図である。
図において、トナー像Tが転写されたコピー用紙等の転写材Pは、分離帯電器8によって像担持体lから分離され、搬送ベルト17によって定着装置32まで搬送される。
上記定着装置32は、加熱ローラ3201と加圧ローラ3202を有しており、該加圧ローラ3202は加熱ローラ3201に公知の加圧手段によって少なくとも定着時に圧接する。この加熱ローラ3201は、・・・金属製中空円筒状のローラ芯金の外周面に、シリコンゴム、フッソゴム、フロロシリコンゴム等の耐熱弾性体層を、0.11mm厚以下・・・に設けたものでる。・・・一方、加圧ローラ3202は、・・・金属製中空円筒状のローラ芯金の外周面に、シリコンゴム、フッソゴム、フロロシリコンゴム等の耐熱弾性体層を、2?10mm厚に・・・設けたものよりなっている。」(第3頁右下欄第8行?第4頁左上欄第16行)

上記のとおり、引用例4には、「画像形成装置において使用される定着装置が有する加熱ローラや加圧ローラの外周面に設ける弾性体層の材料として、フロロシリコンゴムを用いる」という技術的事項(以下「引用例4に記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

5.引用例5
引用例5には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、芯金の外周をゴム層で覆い、更に、このゴム層の外周を表層で覆った構成の定着用ローラ、この定着用ローラを備えた定着装置、及び、定着用ローラの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、複写機・プリンタ・ファクシミリ等の画像形成装置において、電子写真方式・静電記録方式・磁気記録方式等の適宜の作像プロセス機構により被記録材(転写材・感光紙・静電記録紙・印刷紙等)に・・・形成担持させた未定着トナー像を、被記録材面に加熱・加圧定着させるための定着装置としては、定着ローラ及び加圧ローラを備えた所謂2ローラ方式の装置構成が広く用いられている。」
「【0021】
また、この発明に係わる定着用ローラの製造方法は、請求項13の記載によれば、芯金の外周にゴム層を形成させる第1の工程と、前記ゴム層を、これの外周面側の架橋密度を部分的に高めた状態で架橋させる第2の工程と、架橋後の前記ゴムローラの外周面にプライマ-を介して表層を形成させる第3の工程とを具備することを特徴としている。
【0022】
また、この発明に係わる定着用ローラの製造方法は、請求項14の記載によれば、前記第2の工程は、前記ゴム層の外周面に架橋剤を塗布する第1のサブ工程と、前記ゴム層の外周面に架橋剤が塗布された前記ゴムローラを加熱する第2のサブ工程とを備えることを特徴としている。」
「【0053】
例えば、上述した実施例において、ゴム層24の表面の架橋密度を上げる手段として、架橋剤を塗布するように説明したが、この発明はこのような塗布に限定されることなく、例えば、紫外線照射、電子線照射、プラズマ放電等の架橋方法が適用可能であり、要は、ゴム層24の表面の架橋密度を部分的に上げることのできるものであれば、何でもよい。」

上記のとおり、引用例5には、「画像形成装置において使用される定着装置が備える定着用ローラのゴム層の外周に紫外線照射、電子線照射、プラズマ放電等の処理を施す」という技術的事項(以下「引用例5に記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

6.引用例6
引用例6には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【請求項1】 加熱手段と加圧手段との間を記録材料と、基材上に少なくとも離型性層を有する定着ベルトの該離型性層を有する面とを対向させながら通過させ、定着を行う定着ベルトにおいて、
該基材が表面処理層を有し、該表面処理層の硬度が鉛筆硬度HB以上であり、且つ、前記離型性層がシリコーン樹脂を含有することを特徴とする定着ベルト。
【請求項2】 表面処理層の膨潤率が5%未満であることを特徴とする請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項3】 表面処理層が表面改質剤を含有し、且つ、該表面改質剤がアルミニウムカップリング剤またはジルコニウムカップリング剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の定着ベルト。
【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の定着ベルトを作製するに当たり、基材上に表面改質剤をディップ塗布することにより表面処理層が設けられる工程を有することを特徴とする定着ベルトの製造方法。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は定着ベルト、定着ローラ、それらの製造方法、加熱定着装置及び画像形成方法に関する。」
「【0039】図1は、本発明で用いられるインクジェット記録装置の一例を示す概略構成図である。図1において、搬送ローラ対21から送り出された記録材料1は記録ヘッド3によりインクジェット記録が行われ、カッタ61により適宜切断され、・・・加熱定着手段4に送られ、内部に発熱体43を有する加熱ローラ41と加圧ローラ42との間に定着ベルト44と共に通過することにより、加熱定着処理が行われる。
【0040】図2は、本発明で用いられるインクジェット記録装置の他の一例を示す概略構成図である。図2において、搬送ローラ対21から送り出された記録材料1は記録ヘッド3によりインクジェット記録が行われ、カッタ61により適宜切断され、・・・加熱定着手段4に送られ、内部に発熱体43を有する加熱ローラ41と加圧ローラ42との間を通過することにより、加熱定着処理が行われる。」
「【0065】本発明の定着ベルト、定着ローラは、基材上に表面処理層、離型性層を有するが、離型性層の膜剥がれを更に効果的に防止する観点からは、下記に記載の接着性改良層を設けることが好ましい。
・・・
【0070】(カップリング剤、イソシアネート化合物)本発明に用いられる接着性改良層は、接着性効果を更に好ましく発揮する観点から、シランカップリング剤、チタンカップリング剤及びイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含有することが好ましいが、更に好ましくは、チタンカップリング剤・・・を含有することであり、特に好ましく用いられるのは、チタンカップリング剤である。」

上記のとおり、引用例6には、「画像形成装置(インクジェット記録装置)において使用される加熱定着装置が備える定着ベルトや定着ローラの基材が表面処理層を有し、表面処理層が、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等を含み、基材上に表面改質剤をディップ塗布することにより表面処理層が設けられる」という技術的事項(以下「引用例6に記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

第7 当審で通知した2回目の拒絶理由についての当審の判断
平成29年9月20日に提出された手続補正書において、上記第5のとおり、請求項1の記載が補正されたことによって、本願請求項1に係る発明、及びこれを直接または間接的に引用する請求項2以下の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであることが明確となり、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものとなった。
したがって、当審で通知した2回目の拒絶理由は解消した。

第8 当審で通知した1回目の拒絶理由についての当審の判断
[理由1について]
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
後者の「定着用弾性部材」は、その機能等からみて、前者の「定着部材」に相当するもので、以下同様に、「記録材」は「記録媒体」に、「トナー画像」は「トナー像」に、「熱(により定着される)」は「加熱(して定着させるプロセス)」に、「フッ素ゴムとシリコーンゴムの複合材からなる表層を有し」は「最表層が弾性体を含む弾性層であり」に、それぞれ相当する。
また、後者の「タック力が100kN/m^(2)以下」とは、「剥離応力が10N/cm^(2)以下」であることを意味し、同様に、「シリコーンゴムポリマーとしてジメチルポリシロキサン骨格のもの」を使用したゴムとは、「弾性体がシロキサン結合を主鎖とするゴム」であることを意味する。

したがって、両者は、
「記録媒体上のトナー像を加熱して当該記録媒体に定着させるプロセスに用いられる定着部材であって、最表層が弾性体を含む弾性層であり、剥離応力が20N/cm^(2)以下であり、前記弾性体がシロキサン結合を主鎖とするゴムである定着部材。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明1は、弾性体の最表層が「改質されている」のに対し、引用発明1は、弾性体最表層を改質するものではない点。
[相違点2]
本願発明1では、弾性層の硬度に関して「ユニバーサル硬度(押し込み深さ5μm、測定温度25±2℃)が0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満」とするのに対し、引用発明1では、弾性層の硬度について言及していない点。

(2)判断
まず、上記の相違点2について検討する。
ここで引用発明2についてみると、引用発明2では、「温度:130℃の時の転写定着部材のユニバーサル硬さHUの値は、転写定着部材表面の押し込み深さ20μmにおいて、0.2<HU≦0.6(N/mm^(2))という関係を満たす転写定着部材」としているが、この「転写定着部材のユニバーサル硬さHU」は、本願発明1における「定着部材の弾性層のユニバーサル硬度」に相当する。そして、引用発明2の「0.2<HU≦0.6(N/mm^(2))」という数値範囲は、本願発明1の「0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満」と形式的には重複する部分を有するものである。
しかしながら、測定条件については、本願発明1が「(押し込み深さ5μm、測定温度25±2℃)」とするのに対し、引用発明2では「温度:130℃、押し込み深さ20μm」と相違し、このような測定条件の相違が測定値に大きな影響を与えることは明らかであるから、上記両者の数値範囲が一致(重複)しているとすることはできない。したがって、引用発明2が、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を開示しているとはいえないし、示唆しているともいえない。
次に引用発明3についてみると、引用発明3は「定着部材の表面硬度(ユニバーサル硬度:HU)が、120?200℃の温度で押し込み深さが2?4μmである条件下で測定して、0.11?0.45N/mm^(2)の範囲にある定着部材」というもので、「定着部材の表面硬度(ユニバーサル硬度:HU)」は、本願発明1における「定着部材の弾性層のユニバーサル硬度」に相当する。そして測定値についてみると、引用発明3の「0.11?0.45N/mm^(2)の範囲」は、本願発明1の「0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満」と形式的には重複する部分を有するものである。
しかしながら、測定条件は、引用発明3の「120?200℃の温度で押し込み深さが2?4μm」に対して、本願発明1の「(押し込み深さ5μm、測定温度25±2℃)」と相違し、このような測定条件の相違が測定値に大きな影響を与えることは明らかであるから、上記両者の数値範囲が一致(重複)しているとすることはできない。したがって、引用発明3が、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を開示しているとはいえないし、示唆しているともいえない。
また、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、引用例4?6や周知の技術事項(カップリング剤による定着部材の表面処理を行うこと)にも開示されていないし、示唆されてもいない。
してみると、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1ないし3、引用例4?6に記載の技術事項、及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2ないし6について
本願発明2は、本願発明1を引用する発明であり、本願発明1と同様の理由により、本願発明2も、引用発明1ないし3、引用例4?6に記載の技術事項、及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明3、4、5は、本願発明1を引用する「定着部材の製造方法」に係る発明であり、本願発明6は、同じく本願発明1を引用する「電子写真方式の画像形成装置」に係る発明であるが、本願発明1と同様の理由により、本願発明3ないし6も、引用発明1ないし3、引用例4?6に記載の技術事項、及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

[理由2について]
1.当審では、実施例1ないし5では、「オプツールDSX」の希釈溶液、あるいは「オルトケイ酸テトラエチル」が弾性層に塗布されており、このような実施例のものでは当該塗布によって形成される層が最表層になると解されるから、請求項1の「最表層が弾性体を含む弾性層であり」という記載は明確なものとはいえない旨を指摘した。
これに対して、請求人は平成29年6月22日付けの意見書で、「本願の実施例1?5において用いられている「オプツールDSX」や「オルトケイ酸テトラエチル」は表面処理剤であり、必ずしも最表層を形成するものではありません。処理層は非常に薄く、処理部分がぽつぽつと点で形成される可能性があります。したがいまして、硬度の特性などは弾性層の特性が支配的であり、本願発明の最表層は弾性層であるということができます。」(6頁下から9?7行)との釈明をしたが、この釈明の内容は妥当なものであって、上記の拒絶理由は解消したものといえる。

2.次に、当審では、ユニバーサル硬度と、剥離応力あるいは「転写紙の分離性の向上」(段落【0008】参照。)とがどのように関係するのかが不明であるし、剥離応力とユニバーサル硬度の両者について、同時に数値範囲の限定をすることの技術的な意義も不明であって、この点において、本願の発明が明確であるとはいえない旨を指摘した。
これに対して、請求人は上記の意見書で、「ユニバーサル硬度は直接「転写紙の分離性の向上」とは関係ありませんが、従来の技術では「転写紙の分離性」を向上させるために剥離応力を下げるとユニバーサル硬度が高くなってしまい、カラー化に対応した高画像を得るのに十分な弾性を維持することができませんでした。
これに対し、本願の実施例で示すような製法で定着部材を作製すると、剥離応力とユニバーサル硬度がともに低め(剥離応力が20N/cm^(2)以下であり、ユニバーサル硬度(押し込み深さ5μm、測定温度25±2℃)が0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満)の定着部材を作製することができます。そして、これにより、転写紙の分離性が向上と、紙繊維の凹凸に対する追従性が高く高画質な画像を得ることを両立できます。」(6頁下から5行?7頁4行)との釈明をしたが、この釈明の内容は妥当なものであって、上記の拒絶理由は解消したものといえる。

3.したがって、当審で通知した1回目の拒絶理由の理由2は解消したものといえる。

第9 原査定についての判断
引用文献B(引用例1)、引用文献C(引用例5)の記載事項等については、上記「第6 引用例の記載事項」、「第7 当審で通知した1回目の拒絶理由についての当審の判断」で指摘したとおりであるが、引用文献A(特開2010-140003号公報には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、定着部材及び定着部材の製造方法、並びに該定着部材を用いた定着装置及び画像形成装置に関する」
「【0010】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高速においても記録媒体の確実な分離を促進し、画像不良や紙つまり不良の発生を低減でき、かつ高画質画像を形成できる経時形状変化の少ない定着部材及び定着部材の製造方法、並びに該定着部材を用いた長時間安定した定着を実現できる定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。」
「【0015】
(定着部材)
本発明の定着部材は、現像剤で形成された未定着現像剤像を記録媒体に定着させる部材であり、基材と、該基材の外周に設けられ弾性変形特性を有する弾性層と、該弾性層の外周に設けられ前記記録媒体の分離を促進する離型層とを有してなり、更に必要に応じてその他の層、例えば定着部材の各層の間にプライマー層を設けてもよく、離型層表面には該離型層の表面を改質するための改質層を有していてもよい。」
「【0018】
前記弾性層のユニバーサル硬度が、前記離型層のユニバーサル硬度と同等であるか、又は前記離型層のユニバーサル硬度よりも低いことが好ましく、前記弾性層のユニバーサル硬度が・・・前記離型層のユニバーサル硬度よりも同等を超えて高いと、・・・定着加圧時に平滑面を得られず、定着画像の表面粗さを増加させ、画像不良となることがある。・・・
【0019】
前記弾性層のユニバーサル硬度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、0.05N/mm^(2)?0.8N/mm^(2)(5μm押し込み時)が好ましい。
前記離型層のユニバーサル硬度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、0.8N/mm^(2)?4.0N/mm^(2)(5μm押し込み時)が好ましい。・・・」
「【0057】
(実施例1)
円筒状の長さ320mm、直径60mm、厚み50μmの基材(ポリイミド樹脂製)上にシリコーン用プライマー層を下地として乾燥した後、その上にフロロシリコーンゴム・・・をブレード塗装にて塗布し、150℃で10分間加熱して、厚み200μmの弾性層を形成した。
次に、弾性層上に0.1μm?50μmの粒径に分級・・・されたPFA粒子(粉体化フッ素樹脂、MP102、三井デュポンフロロケミカル株式会社製)を粉体塗装にて10g付着させた。
次に、PFA粒子層上に、フッ素系エラストマー(信越化学工業株式会社製、SIFEL615C)を塗布し、150℃で60分間の乾燥を実施して、厚み5.0μmの離型層を形成した。
次に、離型層上に、該離型層のフッ素表面改質として・・・オプツールHD(ダイキン工業株式会社製)の0.1質量%希釈溶液をディッピング工法で塗布し、・・・厚み0.01μm以下の改質層を形成した。
最後に、離型層表面(改質層を含む)を・・・擦ることでPFA粒子を除去して、離型層に貫通孔を形成した。以上により、実施例1の定着部材を作製した。
【0058】
得られた定着部材の離型層のユニバーサル硬度は0.8N/mm^(2)(5μm押し込み時)、弾性層のユニバーサル硬度は0.2N/mm^(2)(5μm押し込み時)であった。ここで、ユニバーサル硬度は超微小硬度計(WIN-HUD、フィッシャー社製)を用いて、下記条件で所定の押し込み深さまで徐々に圧子を定着部材に押し込んでいき、押し込み深さが所望の深さに達した時点での荷重と圧子の接触面積とから求めた。
-測定条件-
・圧子:対面角度136度の四角錐ダイヤモンド圧子
・初期荷重:0.02mN
・最大荷重:5?400mN
・初期荷重から最大荷重までの荷重増加時間:10?60秒」
「【0061】
(実施例2)
実施例1の弾性層におけるフロロシリコーンゴムの代わりにシリコーンゴム(東レ・ダウコーニング株式会社製、DY35-2083)をブレード塗装にて200μmの厚みに塗装し、・・・実施例2の定着部材を作製した。
得られた実施例2の定着部材の離型層のユニバーサル硬度は0.8N/mm^(2)(5μm押し込み時)、弾性層のユニバーサル硬度は0.4N/mm^(2)(5μm押し込み時)であった。・・・」
「【0062】
(実施例3)
実施例1の離型層におけるフッ素系エラストマーの代わりに、フッ素系炭素化合物(ダイキン工業株式会社製、オプツールHD;1.0質量%希釈溶液)をディッピング工法のみ塗布し・・・実施例3の定着部材を作製した。
得られた実施例3の定着部材の離型層のユニバーサル硬度は0.2N/mm^(2)(5μm押し込み時)、弾性層のユニバーサル硬度は0.2N/mm^(2)(5μm押し込み時)であった。・・・」
「【0063】
(実施例4)
実施例1の弾性層のフロロシリコーンゴム・・・の代わりにシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、X-34-2396)を厚み200μmに形成し、離型層のフッ素系エラストマー・・・の代わりにフロロシリコーンゴム・・・を厚み5μmに形成した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の定着部材を作製した。
得られた実施例4の定着部材の離型層のユニバーサル硬度は0.2N/mm^(2)(5μm押し込み時)、弾性層のユニバーサル硬度は0.7N/mm^(2)(5μm押し込み時)であった。・・・」

上記の記載事項を総合すると、引用文献Aには、次の発明(以下「引用文献A記載の発明」という。)が記載されていると認定できる。
「現像剤で形成された未定着現像剤像を記録媒体に定着させる定着部材であって、定着部材は、弾性層と、その外周に設けられる離型層とを有し、
弾性層のユニバーサル硬度は0.05N/mm^(2)?0.8N/mm^(2)(5μm押し込み時)、離型層のユニバーサル硬度は0.2N/mm^(2)?4.0N/mm^(2)(5μm押し込み時)である、定着部材の弾性層と離型層。」

上記のとおり、引用文献A記載の発明は「弾性層のユニバーサル硬度は0.05N/mm^(2)?0.8N/mm^(2)(5μm押し込み時)、離型層のユニバーサル硬度は0.2N/mm^(2)?4.0N/mm^(2)(5μm押し込み時)」とするものであって、本願発明1と引用文献A記載の発明とは「(5μm押し込み時)」という押し込み深さについては一致するものの、引用文献A記載の発明は測定時の温度条件については言及しておらず、本願発明1の「(弾性層の)ユニバーサル硬度(押し込み深さ5μm、測定温度25±2℃)が0.22N/mm^(2)以上、0.5N/mm^(2)未満」とする発明特定事項を開示するものではないし、示唆するものでもない。
してみれば、本願発明1は、引用文献A、B記載の発明、または引用文献A、B、C記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明1を引用する発明である本願発明2?6についても、本願発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第10 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2011-135967(P2011-135967)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 一佐藤 孝幸  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤本 義仁
黒瀬 雅一
発明の名称 定着部材、定着装置及び画像形成装置  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  

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