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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1333873
審判番号 不服2016-9362  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-23 
確定日 2017-11-14 
事件の表示 特願2013-556738「ユーザ開始動作を監視し、バックエンドオペレーションと相互に関連付けるための方法およびコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月20日国際公開、WO2012/125270、平成26年 5月 1日国内公表、特表2014-510969、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2012年2月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月28日(以下,「優先日」という。),米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 8月27日 :国内書面の提出
平成25年10月17日 :翻訳文の提出
平成27年 2月18日 :出願審査請求書,手続補正書の提出
平成27年 8月19日付け :拒絶理由の通知
平成27年11月25日 :意見書,手続補正書の提出
平成28年 2月23日付け :拒絶査定
平成28年 6月23日 :審判請求書の提出
平成29年 6月 1日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成29年 8月16日 :意見書,手続補正書の提出

第2 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は,平成29年8月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
クライアントシステムのユーザとアプリケーションとの間で,ユーザ対話を監視するための方法であって,
クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップを含み,前記イベントは,前記クライアントシステムにおけるクライアントアプリケーションからバックエンドシステムに対して一次の要求を送信させ,前記一次の意味情報は前記バックエンドシステムに渡され,
前記一次の要求に含まれる少なくとも1つの特別なパラメータを用いるステップと,
前記少なくとも1つの特別なパラメータを用いて,前記一次の意味情報を抽出するステップを含み,前記一次の意味情報は,前記一次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された一次のコンテキスト識別子を介して,前記一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作とリンクされ,前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有しており,
二次の要求と前記二次の要求に関連付けられた二次の意味情報とを受信するステップを含み,前記二次の要求は前記一次のコンテキスト識別子を含み,前記二次の要求は,前記バックエンドシステムが前記一次の要求を処理することに応答して,前記クライアントアプリケーションによって開始され,
前記二次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された二次のコンテキスト識別子を介して,前記二次の意味情報を,前記二次の要求の処理時に前記バックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作にリンクするステップを含み,前記二次のコンテキスト識別子は,前記一次のコンテキスト識別子にさらにリンクされ,
前記意味情報と前記関連付けられた動作とを調べることにより,前記ユーザの前記バックエンドシステムとの対話を監視するステップを含み,前記監視することは,前記一次のコンテキスト識別子を使用するユーザによって開始された対話を識別することを含む,方法。
【請求項2】
バックエンドシステムに対する前記一次の要求に少なくとも1つの特別なパラメータを含めるステップは,さらに,
前記一次の意味情報が現在のウェブページで記憶されていると判断したことに応答して,少なくとも1つの特別なパラメータについての,前記一次の意味情報のうち少なくともいくらかを用いるステップと,
前記一次の意味情報が現在のウェブページで記憶されていないと判断したことに応答して,少なくとも1つの特別なパラメータについての,二次記憶装置に記憶された意味情報のうち少なくともいくらかを用いるステップとを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二次の要求は,当該要求が二次要求であることを示すインジケータを含む,請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ユーザ対話の監視を容易にするための方法であって,
クライアントシステムにおいて開始される少なくとも1つのイベントについての要求およびユーザ作業関連データをバックエンドシステムにおいて受取るステップを含み,前記ユーザ作業関連データは,少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータを用いてバックエンドシステムに伝達され,かつ,コンテキスト識別子を含み,前記ユーザ作業関連データは,要求のクライアント開始時間,部分ターゲット,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含み,前記方法はさらに,
処理されている要求に応答して,処理された要求についての応答に少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータを含めるステップを含み,前記少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータは,要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作を,要求を開始したクライアント開始イベントと関連付けるための少なくとも一意的なコンテキスト識別子を含み,前記少なくとも一意的なコンテキスト識別子は,前記ユーザ作業関連データに含まれるコンテキスト識別子とは異なり,
クライアントシステムにおいて開始された少なくとも1つのイベントについてのユーザ作業関連データは,
要求に関連付けられた第1のユーザ作業関連データと,
以前の要求に関連付けられた第2のユーザ作業関連データとのうち少なくとも1つを含み,
前記方法は,
前記コンテキスト識別子を介して,前記第1のユーザ作業関連データと,前記第2のユーザ作業関連データとを関連付けるステップをさらに含む,方法。
【請求項5】
クライアント開始イベントはユーザ開始動作に対する二次要求であり,少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータはさらに,応答が二次要求に対する二次応答であることの表示を含む,請求項4に記載の方法。
【請求項6】
クライアントシステムのユーザとアプリケーションとの間で,ユーザ対話を監視するためのシステムであって,
クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するための手段を含み,前記イベントは,前記クライアントシステムにおけるクライアントアプリケーションからバックエンドシステムに対して一次の要求を送信させ,前記一次の意味情報は,前記一次の要求に含まれる少なくとも一つの特別なパラメータを用いて記バックエンドシステムに渡され,
前記少なくとも1つの特別なパラメータを用いて,前記一次の意味情報を抽出するための手段を含み,前記一次の意味情報は,前記一次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された一次のコンテキスト識別子を介して,前記一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作とリンクされ,前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有しており,
二次の要求と前記二次の要求に関連付けられた二次の意味情報とを受信するための手段を含み,前記二次の要求は前記一次のコンテキスト識別子を含み,前記二次の要求は,前記バックエンドシステムが前記一次の要求を処理することに応答して,前記クライアントアプリケーションによって開始され,
前記二次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された二次のコンテキスト識別子を介して,前記二次の意味情報を,前記二次の要求の処理時に前記バックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作にリンクするための手段を含み,前記二次のコンテキスト識別子は,前記一次のコンテキスト識別子にさらにリンクされ,
前記意味情報と前記関連付けられた動作とを調べることにより,前記ユーザの前記バックエンドシステムとの対話を監視するための手段を含み,前記監視することは,前記一次のコンテキスト識別子を使用するユーザによって開始された対話を識別することを含む,システム。
【請求項7】
ユーザ対話を監視するためのシステムであって,
クライアントシステムにおいて開始される少なくとも1つのイベントについての要求およびユーザ作業関連データをバックエンドシステムにおいて受取るための手段を含み,前記ユーザ作業関連データは,少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータを用いてバックエンドシステムに伝達され,かつ,コンテキスト識別子を含み,前記ユーザ作業関連データは,要求のクライアント開始時間,部分ターゲット,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含み,前記システムはさらに,
処理されている要求に応答して,処理された要求についての応答に少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータを含めるための手段を含み,前記少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータは,要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作を,要求を開始したクライアント開始イベントと関連付けるための少なくとも一意的なコンテキスト識別子を含み,前記少なくとも一意的なコンテキスト識別子は,前記ユーザ作業関連データに含まれるコンテキスト識別子とは異なり,
クライアントシステムにおいて開始された少なくとも1つのイベントについてのユーザ作業関連データは,
要求に関連付けられた第1のユーザ作業関連データと,
以前の要求に関連付けられた第2のユーザ作業関連データとのうち少なくとも1つを含み,
前記システムは,
前記第1のユーザ作業関連データに含まれるコンテキスト識別子と,前記第2のユーザ作業関連データに含まれるコンテキスト識別子とを関連付けるための手段をさらに含む,システム。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。」

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-104267号公報)には,図面とともに次のA-Cの事項が記載されている。

A 「【0030】
図4と図5は,本発明によるウェブアプリケーションの処理記録方法における,クライアントの処理の記録を行う方法を示したシーケンス図と処理フロー図である。
【0031】
まず,ウェブブラウザでウェブページへのリクエストを生成する際に,リクエストを生成するウェブページに含まれるスクリプトコードにより,サーバ装置との間で少量のデータのやり取りを可能とするcookieに,リクエストを生成したウェブページの識別子(図中ではID)を設定する(ステップ502)。この識別子は,後述するサーバ装置での処理の記録であるトレースの識別子もしくは,それと一対一対応する値である。ウェブブラウザにウェブページが表示されておらず,リクエスト先のウェブページのURLを直接入力してリクエストを生成した場合は,cookieには値が設定されない。また,リクエスト元のウェブページが本発明によるクライアントの処理の記録を行うウェブページでない場合や,図4で説明するクライアントの処理の記録を行うためのスクリプトコードをサーバ装置からのレスポンスに挿入する機能が稼動する前にクライアント装置に送信されたウェブページである場合には,cookieには値が設定されない。その後リクエストをサーバ装置に送信する(ステップ303)。
【0032】
サーバ装置では,クライアント装置からリクエストを受信する(ステップ322)と,ウェブサーバのサーブレットフィルタで,クライアント装置より送信されたリクエストのcookieからリクエスト発行元のウェブページの識別子を読み出し,一時的にメモリ上に記録する(ステップ521)。続いてサーブレットフィルタがリクエストに対する前処理を実行し(ステップ323),ウェブアプリケーションでは必要に応じてデータベースサーバとの通信を行いリクエストされたウェブページのレスポンスを生成する(ステップ330)。この際にウェブサーバではサーバ装置での処理の記録をトレースとして記録し,このトレースに識別子(図中ではID)を付加する。トレースの識別子は,ウェブページのリクエスト毎に異なるユニークな値である。識別子に関しては図9でも説明する。次にサーブレットフィルタは,トレース記録からこのレスポンスを生成した際のサーバの処理の記録であるトレースの識別子を受信する。そして,レスポンスにクライアント装置で処理の記録を行うモニタリング用スクリプトコードと,一時的にメモリ上に記録していたリクエスト発行元のウェブページの識別子と,このレスポンスを生成した際のサーバの処理の記録であるトレースの識別子とを挿入する。なおこのサーバ処理のトレースの識別子に代えて,その識別子と一対一対応する値をリクエストされたウェブページの識別子として挿入してもよい(ステップ522)。」

B 「【0041】
ウェブブラウザ用永続的データファイルに保存されるウェブページ毎のクライアントの処理の記録の内容の例は,図8に示すとおりである。つまり,処理の記録を行ったウェブページのURL,識別子(ID),このウェブページのリクエスト元のウェブページの識別子(ID),このウェブページで行われた処理の時刻とその内容などである。2つの識別子を処理の記録に含めるのは,クライアント装置のウェブページへのアクセス履歴を記録するためである。つまり,あるウェブページでのクライアントの処理の記録を見れば,そのウェブページに対するリクエストを発行した1つ前のウェブページの識別子を取得できるので,その1つ前のウェブページの識別子をアクセスキーとして利用してウェブブラウザ用永続的データファイルにアクセスすれば,1つ前のウェブページでのクライアントの処理の記録が得られる。これを繰り返すことで,順次1つ前のウェブページでのクライアントの処理の記録をたどることが可能となる。
【0042】
処理の記録に保存されている,ウェブページで行われた処理とは,例えばこのウェブページのactivateイベントが発生した時などである。図8の802に示す例について,具体的に説明する。
【0043】
activateイベントとは,ウェブページ上のオブジェクトがアクティブになった際に発生するイベントである。ここでは,ウェブページの表示内容が記述されているHTML文章のデータ構造を表すオブジェクト階層構造で最上位にあるdocumentオブジェクトのactiveイベントを記録することで,このウェブページを受信したことが分かる。loadイベントとは,ウェブブラウザ上にオブジェクトが表示されたもしくはウェブブラウザ上でオブジェクトが利用可能になった際に発生するイベントである。ここでもdocumentオブジェクトのloadイベントを記録することで,このウェブページのウェブブラウザ上にウェブページが表示されたことが分かる。
…(中略)…
【0045】
イベントの発生時刻だけでなく,例えばclickイベントの発生回数なども処理の記録とすることが可能である。clickイベントは,ウェブページ上でマウスをクリックすると発生するイベントで,ラジオボタンやチェックボックスのクリックやボタンなどのクリック時に発生する。通常バブリングと呼ばれる仕組みにより,ウェブページ内にあるボタンなどのオブジェクトをクリックした際に発生するclickイベントは,ウェブページのオブジェクト階層構造で上位にあるdocumentオブジェクトでこれらのclickイベントを記録することができる。つまり,documentオブジェクトでclickイベントの発生回数を数えれば,このウェブページ内でマウスをクリックした回数を取得できる。この他にも,マウスポインタの動きに合わせて発生するmousemoveイベントで,マウスポインタのウェブブラウザ上での位置座標を取得すれば,マウスが動いた距離を測定することなどもできる。図8に示した処理の記録以外にも,ウェブブラウザ上で発生するさまざまなイベントの発生時刻や,内容などを処理の記録とすることができる。」

C 「【0048】
まずクライアント装置101からウェブページ(1)のリクエストをサーバ装置111に送信する。図9では,ウェブブラウザにウェブページがロードされておらず,ウェブページ(1)のURLを直接ウェブブラウザのアドレスバーに直接入力してリクエストを発行した場合を示している。そのため,ウェブページ(1)のリクエストの発行元は「なし」となる。サーバ装置111では,クライアント装置101からリクエストを受信すると,まずcookieからリクエスト発行元のウェブページ,つまりリクエストされたウェブページの前のページの識別子(ID)を取得する。しかし,この場合は「なし」となる。その後,サーバ装置111ではウェブページ(1)を生成するが,その時のサーバ装置での処理の記録であるトレース901には,このトレースの識別子“ID(1)”が与えられる。サーバ装置111は,ウェブページ(1)のレスポンスをクライアント装置101に送信する前に,このウェブページへのリクエストを受信した際に取得した前のページの識別子と,今回このページを生成する際に記録されたトレースの識別子を,このウェブページの識別子としてレスポンスに挿入する。クライアント装置101では,ウェブページ(1)のレスポンスに含まれるモニタリング用コードにより,ウェブページ(1)でのクライアントの処理の記録701がクライアント装置101のローカルディスクに保存される。ウェブページ(1)でのクライアントの処理の記録701には,レスポンスに含まれる,1つ前のウェブページの識別子(ID)と,このウェブページの識別子(ID)が保存される。図9の例では,ウェブページ(1)の1つ前のウェブページはないので,識別子としても「なし」が保存される。一方,ウェブページ(1)生成時のトレース記録の識別子は“ID(1)”で,この識別子がレスポンスに挿入されているので,ウェブページ(1)の処理の記録701には,このウェブページの識別子(ID)として,“ID(1)”が保存される。
【0049】
次にウェブページ(1)がウェブページ(2)をリクエストする場合について説明する。ウェブページ(1)では,ウェブページ(2)へのリクエストをサーバ装置111に送信する前に,cookieにウェブページ(1)の識別子(“ID(1)”)を設定する。サーバ装置111は,クライアント装置101からウェブページ(2)のリクエストを受信すると,まずcookieからリクエスト発行元であるウェブページ(1)の識別子を取得する。図9の例では,“ID(1)”をcookieから取得し,一時的に記憶する。続いてウェブページ(1)を生成するときと同様にして,トレース記録902を生成し,その識別子(ID)として“ID(2)”が与えられる。よって,ウェブページ(2)のレスポンスには,1つ前のページの識別子(ID)として“ID(1)”が,このページの識別子(ID)として“ID(2)”が挿入される。同様にウェブページ(2)がウェブページ(3)をリクエストする場合,cookieにウェブページ(2)の識別子(“ID(2)”)を設定し,サーバ装置111は,ウェブページ(3)のレスポンスに,1つ前のウェブページの識別子“ID(2)”と,ウェブページ(3)を生成する際のトレース記録903の識別子“ID(3)”を挿入してクライアント装置101にレスポンスを送信する。そして,ウェブページ(3)でのクライアントの処理の記録703には1つ前のウェブページの識別子(ID)として“ID(2)”が,このウェブページの識別子として“ID(3)”が保存される。以下同様にウェブページの識別子を処理の記録に保存していくことで,ウェブページのアクセスの履歴を順次たどることができる。また,各ウェブページでのクライアントの処理の記録には,そのウェブページの識別子として,サーバ装置111での処理の記録であるトレース記録の識別子が保存されているので,クライアント装置101とサーバ装置111の両方の処理の記録を順次たどることが可能である。
以上から,ウェブページでのクライアントの処理の記録の識別子として,サーバ装置での処理の記録であるトレースの識別子と一対一対応した値を利用し,これをクライアント装置の処理の記録と共に保存することで,クライアント装置の処理の記録と,サーバ装置の処理の記録を関連付けることができ,ウェブシステム全体での処理の記録を行える効果がある。さらに,クライアント装置での処理の記録に,処理の記録を行うウェブページのリクエスト元のウェブページの識別子も記録することで,ウェブページのアクセスの履歴を保存することができ,ウェブシステムでの一連の処理の記録を行える効果がある。」

2 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「クライアント装置のユーザとサーバ装置との間で,ユーザ対話を監視するための方法であって,
クライアント装置のユーザによって開始された第1のイベントに関する情報を,サーバ装置から受信した第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子とともにクライアント装置上に保存し,
前記クライアント装置は,前記第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子を含むcookieを含む次のウェブページのリクエストをサーバ装置に送信し,
前記サーバ装置は,cookieから第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子を抽出して,リクエストに対するレスポンスを生成する際にトレース記録に保存し,前記トレース記録に対応する第2のトレース識別子を生成して前記トレース記録に付加し,第2のトレース識別子を第1のトレース識別子とともに前記クライアント装置に送信し,
生成したレスポンスに含まれる第2のトレース識別子で特定される次のウェブページに対しても,前記クライアント装置での第2のイベントに関する情報の保存,前記サーバ装置での第2のトレース識別子を用いた次のウェブページの識別子のトレース記録及び新たなトレース識別子の生成と付与を繰り返すことにより,クライアント装置でのイベントに関する情報の記録と,サーバ装置での処理のトレース記録を関連付ける方法。」

3 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特表2004-537097号公報)には,図面とともに次のD-Eの事項が記載されている。

D 「【0064】
ある実施例によると,インスツルメントは,1つまたは複数のウェブページまたはウェブページ要素とともに記載された1つまたは複数のインスツルメントイベントハンドラを含み,クライアント側の性能の測定に繋がる挙動を提供する。
【0065】
次に,変更された項目のコードに含まれるインスツルメンテーションイベントハンドラを図4A,4B,4Cおよび4Dに関して説明する。インスツルメンテーションイベントハンドラの説明に続いて,図5Aおよび5Bを参照してインスツルメンテーションイベントハンドラをウェブページの要素に関連付けるプロセスを説明する。
【0066】
リンクをクリックするか,またはフォームのサブミットボタンをクリックすることで,ユーザはサービスの要求を開始する。これ以降,サブミットイベントは,リンクのクリック,およびフォームのサブミットボタンのクリックの両方を指すのに使用される。ネットワーク上のアプリケーションの応答時間のユーザによる知覚は,ユーザがサービスの要求を開始したときに始まる。図4Aは,一実施例による,クライアントに送られる変更された項目に含まれるサブミットイベントハンドラ400を示すフローチャートである。イベントハンドラ400は,サブミットイベントに関連付けられる。ウェブページ要素をこのイベントハンドラに関連付けるプロセスは,図5Bに関して後述する。ウェブブラウザのユーザがダウンロードしたページの閲覧中にカーソルをリンクに動かしクリックするか,またはフォームのサブミットボタンをクリックすると,ルーチンが呼出され,これが図4Aのステップを行なう。このイベントハンドラの1つの目的は,ユーザがサービスの要求が行なわれたと知覚したときの時間を記録することである。
【0067】
ステップ402では,インスツルメントイベントハンドラを実行するウェブブラウザの種類およびバージョンが判定される。ウェブブラウザの種類を判定するのは,クライアント装置の1つまたは複数のプロセッサに上述のステップを行なわせるステートメントは,ステートメントを実行するウェブブラウザにある程度依存するためである。たとえば,ユーザがカーソルおよび装置キーを操作したときにブラウザによって生成されるイベント名は,ブラウザによってさまざまであり得る。また,ブラウザが新しければ,インスツルメンテーションを実現するコードはそのウェブブラウザでテストされていないことがあり得る。そのような状況では,コードが実行されない方がウェブブラウザのユーザにとって安全である。
【0068】
ステップ403では,コードがテストされたブラウザであるかを判定する。テストされていなければ,制御はステップ410に移り,クリックイベントを取扱うための元々の方法が呼出される。ステップ402および403は,図5Aに関して後述されるように,到着時実行コードがクライアント装置のプロセッサに類似のチェックを行なわせる場合には行なわれない。
【0069】
ステップ404では,現在の時間が判定される。現在の時間は,応答時間の測定の一環として,サービスの要求が開始された時間を規定するために使用される。
【0070】
ステップ406では,サブミットイベントに関連する性能の測定値がメモリのデータ構造または永続的記憶装置に記憶される。たとえば,現在の時間は,サブミット時間としてクッキーに記憶される。
【0071】
ステップ408では,補助的なデータがデータ構造に記憶される。補助的なデータは,性能の問題を診断し,そのような問題の解決策を設計するために後続の分析で使用される。たとえば,ブラウザの種類およびバージョンは補助的なデータとして記憶される。上述のように,応答時間に関連付けられるブラウザの種類およびバージョンについての補助的なデータとともに,サービスプロバイダはブラウザおよびバージョンの特定のセットに限定される項目のレンダリングの問題を識別することができる。別の例では,クライアント装置のプロセッサおよびクロック速度が補助的なデータとして記憶される。」

E 「【0138】
時間t7では,フレームセットS1の第2のフレーム内のページF2がロードされ,表1の「ページ」欄のS1.F1,F2で示される。ウェブブラウザはページS1.F2に対してページロードイベントを発行し,図5Bに示されるページロードイベントに対するインスツルメンテーションハンドラ520が実行される。ステップ522では,元々のページイベントハンドラがないと判定されるため,制御はステップ526,528および530に移り,ページ上のさまざまなウェブ要素のリンクのクリックイベント,サブミットイベント,フォーカスおよび変更イベントに対してイベントハンドラを登録する。この例では,ウェブブラウザはウインドウレベルロードイベントも発行するため,制御はステップ420に移る。ウェブブラウザがウインドウレベルロードイベントを発行しない場合,制御は,ページロードイベントハンドラ520内からステップ420に移る。
【0139】
ステップ424では,フレームセット内のすべてのページがロードされたと判定される。なぜなら,ページカウンタ(現在のページは含まず)に現在のページのための1を加えると変数NPagesに保存されるフレームセットのページ数と等しいためである。ステップ426では,現在の時間がt7であると判定される。ステップ428では,クッキーは,ロード時間としてのt7で更新される。表1は,サブミット時間のt3,ロード時間のt7および時間t7でのカーソル計数の0を含むことを示す。実施例によっては,差t7-t3も応答時間として記憶される。この例では,ステップ430および432は含まれず,制御はステップ434に直接移る。
【0140】
時間t8では,ステップ434で,Dummy.gifと呼ばれる画像ファイルに対する要求が生成され,サーバに送られる。ウェブブラウザは,自動的に要求にクッキーを含めるため,時間サブミット時間,ロード時間およびt8でのカーソル計数の値はサーバに送られ,サーバのクッキーのログに記憶される。Dummy.gifファイルはデータを含まないため,表示装置上には何の変化も示されない。次に,クッキーの値はゼロにリセットされる。怠惰な報告を用いる実施例では,ステップ434は省略され,クッキーは,ブラウザがサーバ上のアプリケーションからページを次に要求したときに報告される。」

したがって,上記引用文献2には,
「クライアントに表示されたウェブページ上のサブミットイベントに応じて記録したサブミット時間をクッキーに記憶してサーバへ送信してサーバ上でログに記憶する」
旨の発明(以下,「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

4 引用文献3-6について
下記の引用文献3-6が,原査定の拒絶の理由で引用された。(引用箇所の摘記は省略。)

引用文献3: 特開2008-117093号公報
引用文献4: 特開平11 -346238号公報
引用文献5: 特開2000-330822号公報
引用文献6: 特開2009-245374号公報

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明は,「クライアント装置のユーザとサーバ装置との間で,ユーザ対話を監視するための方法」であるところ,引用発明の「クライアント装置」,「サーバ装置」はそれぞれ,本願発明1の「クライアントシステム」,「バックエンドシステム」に相当し,「ユーザ」は直接的には「クライアント装置」で動作する“アプリケーション”と対話することは明らかである。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,“クライアントシステムのユーザとアプリケーションとの間で,ユーザ対話を監視するための方法”である点で一致する。

イ 引用発明では,「前記クライアント装置は,前記第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子を含むcookieを含む次のウェブページのリクエストをサーバ装置に送信」するところ,「次のウェブページのリクエスト」は,「第1のイベント」に応じて「クライアント装置」から「サーバ装置」に送信する最初の要求であるから,本願発明1の「一次の要求」に相当する。そして,引用発明の「第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子」は「一次の要求」に関連して付加された“一次の要求付加情報”とみることができ,「クライアント装置」が送信した「次のウェブページのリクエスト」は,「サーバ装置」が受信することが明らかであるから,引用発明では,“クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の要求と,前記一次の要求に関連付けられた一次の要求付加情報をバックエンドシステムにおいて受信する”といえる。
一方,本願発明1では,「クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップを含」むところ,「一次の意味情報」は,「一次の要求」に関連して付加された情報であるから,“一次の要求付加情報”とみることができる。
そうすると,引用発明の「前記クライアント装置は,前記第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子を含むcookieを含む次のウェブページのリクエストをサーバ装置に送信」することと,
本願発明1の「クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップを含み,前記イベントは,前記クライアントシステムにおけるクライアントアプリケーションからバックエンドシステムに対して一次の要求を送信させ,前記一次の意味情報は前記バックエンドシステムに渡され」ることとは,後記する点で相違するものの,
“クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の要求と,前記一次の要求に関連付けられた一次の要求付加情報をバックエンドシステムにおいて受信し,前記イベントは,前記クライアントシステムにおけるクライアントアプリケーションからバックエンドシステムに対して一次の要求を送信させ,前記一次の要求付加情報は前記バックエンドシステムに渡されるステップ”である点で共通しているといえる。

ウ 引用発明では,「サーバ装置は,cookieから第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子を抽出して,リクエストに対するレスポンスを生成する際にトレース記録に保存し,前記トレース記録に対応する第2のトレース識別子を生成して前記トレース記録に付加」するところ,上記イでの検討より,「次のウェブページのリクエスト」は本願発明1の「一次の要求」に相当し,「第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子」は“一次の要求”に関連して付加された“一次の要求付加情報”とみることができることから,「現在のウェブページの識別子を含むcookie」は本願発明1の「一次の要求に含まれる少なくとも1つの特別なパラメータ」に相当し,「リクエストに対するレスポンスを生成する」ことは本願発明1の「一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作」に相当するといえる。
また,引用発明では,「第2のトレース識別子」が「リクエストに対するレスポンスを生成する際に」,「サーバ装置」で生成され,「トレース記録に付加」されることから,“一次の要求”について“バックエンドシステム”によって生成された“一次の識別子”とみることができる。
そうすると,引用発明では,“前記一次の要求に含まれる少なくとも1つの特別なパラメータを用いるステップと,前記少なくとも1つの特別なパラメータを用いて,前記一次の要求付加情報を抽出するステップを含み,前記一次の要求付加情報は,前記一次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された一次の識別子を介して,前記一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作とリンクされる”といえる。
一方,上記イでの検討より,本願発明1の「一次の意味情報」は,「一次の要求」に関連して付加された情報であるから,“一次の要求付加情報”とみることができ,「一次のコンテキスト識別子」は「一次の要求」について「バックエンドシステム」によって生成された“一次の識別子”とみることができる。
してみると,引用発明の「前記サーバ装置は,cookieから第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子を抽出して,リクエストに対するレスポンスを生成する際にトレース記録に保存し,前記トレース記録に対応する第2のトレース識別子を生成して前記トレース記録に付加し,第2のトレース識別子を第1のトレース識別子とともに前記クライアント装置に送信」することと,
本願発明1の「前記一次の要求に含まれる少なくとも1つの特別なパラメータを用いるステップと,
前記少なくとも1つの特別なパラメータを用いて,前記一次の意味情報を抽出するステップを含み,前記一次の意味情報は,前記一次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された一次のコンテキスト識別子を介して,前記一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作とリンクされ,前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」することとは,後記する点で相違するものの,
“前記一次の要求に含まれる少なくとも1つの特別なパラメータを用いるステップと,
前記少なくとも1つの特別なパラメータを用いて,前記一次の要求付加情報を抽出するステップを含み,
前記一次の要求付加情報は,前記一次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された一次の識別子を介して,前記一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作とリンクされ”る点で共通しているといえる。

エ 引用発明では,「生成したレスポンスに含まれる第2のトレース識別子で特定される次のウェブページに対しても,前記クライアント装置での第2のイベントに関する情報の保存,前記サーバ装置でのトレース記録及びトレース識別子の生成と付与を繰り返す」ところ,上記イでの検討及び「サーバ装置でのトレース記録及びトレース識別子の生成と付与を繰り返す」ことから,「クライアント装置」が「第2のイベント」に関する“二次の要求”を「サーバ装置」に送信すること,“二次の要求”に対しても,“一次の識別子”(「第2のトレース識別子」)を含む“二次の要求付加情報”が関連付けられていること,上記ウでの検討より,「サーバ装置」で新たに生成された“二次の識別子”を介して,“二次の要求”に対するレスポンスとリンクされることは明らかである。
そうすると,引用発明では,“次に,クライアントシステムから送信される二次の要求に対しても,前記バックエンドシステムで,一次の識別子を含む二次の要求付加情報と関連付けられ,新たに生成された二次の識別子を介して,前記二次の要求の処理時に実行される1つ以上の動作とリンクされ”るといえる。
一方,上記イ,ウでの検討より,本願発明1の「二次の意味情報」は,「二次の要求」に関連して付加された情報であるから,“二次の要求付加情報”とみることができ,「二次のコンテキスト識別子」は「二次の要求」について「バックエンドシステム」によって生成された“二次の識別子”とみることができる。
そうすると,引用発明の「生成したレスポンスに含まれる第2のトレース識別子で特定される次のウェブページに対しても,前記クライアント装置での第2のイベントに関する情報の保存,前記サーバ装置での第2のトレース識別子を用いた次のウェブページの識別子のトレース記録及び新たなトレース識別子の生成と付与を繰り返すこと」と,
本願発明1の「二次の要求と前記二次の要求に関連付けられた二次の意味情報とを受信するステップを含み,前記二次の要求は前記一次のコンテキスト識別子を含み,前記二次の要求は,前記バックエンドシステムが前記一次の要求を処理することに応答して,前記クライアントアプリケーションによって開始され,
前記二次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された二次のコンテキスト識別子を介して,前記二次の意味情報を,前記二次の要求の処理時に前記バックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作にリンクするステップを含み,前記二次のコンテキスト識別子は,前記一次のコンテキスト識別子にさらにリンクされ」ることとは,後記する点で相違するものの,
“次に,クライアントシステムから送信される二次の要求に対しても,前記バックエンドシステムで,一次の識別子を含む二次の要求付加情報と関連付けられ,新たに生成された二次の識別子を介して,前記二次の要求の処理時に実行される1つ以上の動作とリンクされ”る点で共通しているといえる。

オ 引用発明では,「クライアント装置でのイベントに関する情報の記録と,サーバ装置での処理のトレース記録を関連付ける」ところ,「クライアント装置」のユーザ対話を監視することを目的としているのは明らかであり,上記エでの検討より,“一次の識別子”(「第2のトレース識別子」)を介して関連付けられた「トレース記録」を調べることにより,“一次の識別子”(「第2のトレース識別子」)を使用するユーザによって開始された対話を監視することを含むといえる。
そうすると,引用発明の「クライアント装置でのイベントに関する情報の記録と,サーバ装置での処理のトレース記録を関連付ける」ことと,
本願発明1の「前記意味情報と前記関連付けられた動作とを調べることにより,前記ユーザの前記バックエンドシステムとの対話を監視するステップを含み,前記監視することは,前記一次のコンテキスト識別子を使用するユーザによって開始された対話を識別すること」とは,後記する点で相違するものの,
“前記一次の識別子,前記二次の識別子を介して関連付けられたバックエンドシステムの動作などを調べることにより,前記クライアントシステムのユーザ対話を監視するステップを含み,前記監視することは,前記一次の識別子を使用するユーザによって開始された対話を識別すること”である点で共通しているといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)

「 クライアントシステムのユーザとアプリケーションとの間で,ユーザ対話を監視するための方法であって,
クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の要求と,前記一次の要求に関連付けられた一次の要求付加情報をバックエンドシステムにおいて受信し,前記イベントは,前記クライアントシステムにおけるクライアントアプリケーションからバックエンドシステムに対して一次の要求を送信させ,前記一次の要求付加情報は前記バックエンドシステムに渡されるステップと,
前記一次の要求に含まれる少なくとも1つの特別なパラメータを用いるステップと,
前記少なくとも1つの特別なパラメータを用いて,前記一次の要求付加情報を抽出するステップを含み,
前記一次の要求付加情報は,前記一次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された一次の識別子を介して,前記一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作とリンクされ,
次に,クライアントシステムから送信される二次の要求に対しても,前記バックエンドシステムで,一次の識別子を含む二次の要求付加情報と関連付けられ,新たに生成された二次の識別子を介して,前記二次の要求の処理時に実行される1つ以上の動作とリンクされ,
前記一次の識別子,前記二次の識別子を介して関連付けられたバックエンドシステムの動作などを調べることにより,前記クライアントシステムのユーザ対話を監視するステップを含み,前記監視することは,前記一次の識別子を使用するユーザによって開始された対話を識別することを含む,方法。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1では,「一次の要求」に関連付けられた一次の要求付加情報として,「ユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信」し,「一次の意味情報」は「イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」するのに対して,
引用発明では,一次の要求(次のウェブページのリクエスト)に関連付けられた一次の要求付加情報として,「第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子」をバックエンドシステム(サーバ装置)が受信するものの,「ユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報」を受信することについて言及されていない点。

(相違点2)
一次の要求付加情報とバックエンドシステムによって実行される動作とのリンクに関し,本願発明1では,一次の要求付加情報としての「一次の意味情報」が,「一次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された一次のコンテキスト識別子を介して,前記一次の要求の処理時にバックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作とリンクされ」るのに対して,
引用発明では,一次の要求付加情報としての「第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子」を「cookie」から抽出して,「リクエストに対するレスポンスを生成する際にトレース記録に保存」するとともに,「第2のトレース識別子」が「サーバ装置」で生成され,「トレース記録に付加」される点。

(相違点3)
二次の要求に対するクライアントシステムとバックエンドシステムの動作に関し,本願発明1では,「二次の要求と前記二次の要求に関連付けられた二次の意味情報とを受信するステップを含み,前記二次の要求は前記一次のコンテキスト識別子を含み,前記二次の要求は,前記バックエンドシステムが前記一次の要求を処理することに応答して,前記クライアントアプリケーションによって開始され,
前記二次の要求について前記バックエンドシステムによって生成された二次のコンテキスト識別子を介して,前記二次の意味情報を,前記二次の要求の処理時に前記バックエンドシステムによって実行される1つ以上の動作にリンクするステップを含み,前記二次のコンテキスト識別子は,前記一次のコンテキスト識別子にさらにリンクされ」るのに対して,
引用発明では,「生成したレスポンスに含まれる第2のトレース識別子で特定される次のウェブページに対しても,前記クライアント装置での第2のイベントに関する情報の保存,前記サーバ装置での第2のトレース識別子を用いた次のウェブページの識別子のトレース記録及び新たなトレース識別子の生成と付与を繰り返す」ものの,「サーバ装置」が「二次の意味情報」を,「二次の要求の処理時に」「実行される1つ以上の動作にリンクする」ことについて言及されていない点。

(相違点4)
クライアントシステムのユーザ対話の監視する事項に関し,本願発明1では,「意味情報と前記関連付けられた動作とを調べることにより,前記ユーザの前記バックエンドシステムとの対話を監視」し,「一次のコンテキスト識別子を使用するユーザによって開始された対話を識別すること」であるのに対して,
引用発明では,「クライアント装置でのイベントに関する情報の記録と,サーバ装置での処理のトレース記録を関連付ける」ことであるものの,「意味情報と前記関連付けられた動作とを調べることにより,前記ユーザの前記バックエンドシステムとの対話を監視」するものではない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用発明では,「クライアント装置のユーザによって開始された第1のイベントに関する情報を,サーバ装置から受信した第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子とともにクライアント装置上に保存し,前記クライアント装置は,前記第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子を含むcookieを含む次のウェブページのリクエストをサーバ装置に送信」するところ,「クライアント装置」は「第1のイベントに関する情報」を保存し,「サーバ装置」は「第1のトレース識別子を用いた現在のウェブページの識別子」を受信するものの,「第1のイベントに関する情報」は受信しない。
また,引用発明の「第1のイベントに関する情報」は,本願発明1の「一次の意味情報」のように,「イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」するとの特定はされていない。
一方,クライアント・サーバシステムにおいて,引用文献2発明のような,「クライアントに表示されたウェブページ上のサブミットイベントに応じて記録したサブミット時間をクッキーに記憶してサーバへ送信してサーバ上でログに記憶する」旨の技術が本願優先日前に公知であったものの,サーバが受信するのはサブミットイベントに応じて記録したサブミット時間であり,それをもって,引用発明において,「サーバ装置」において「一次の意味情報」を保存し,「クライアント装置」のユーザによって開始された「イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報」を保存して利用することの動機付けがあるとはいえず,引用文献3-6にも記載も示唆もされていない。
そうすると,引用発明において,サーバ装置が,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有する一次の意味情報を,クライアント装置から受信すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとすることはできない。

イ まとめ
上記相違点2-4について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-3について
本願発明2-3は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の「クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップ」を含み,「前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」すること,と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明4-5について
本願発明4-5は,「ユーザ対話の監視を容易にするための方法」であって,「クライアントシステムにおいて開始される少なくとも1つのイベントについての要求およびユーザ作業関連データをバックエンドシステムにおいて受取るステップを含み,前記ユーザ作業関連データは,少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータを用いてバックエンドシステムに伝達され,かつ,コンテキスト識別子を含み,前記ユーザ作業関連データは,要求のクライアント開始時間,部分ターゲット,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含」むところ,本願発明4-5の「ユーザ作業関連データ」と本願発明1の「一次の意味情報」とに実質的な違いはない。
そうすると,本願発明4-5も,本願発明1の「クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップ」を含み,「前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」すること,と実質的に同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明6について
本願発明6は,本願発明1に対応する「システム」の発明であり,本願発明1の「クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップ」を含み,「前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」すること,と対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明7について
本願発明7は,本願発明4に対応する「システム」の発明であり,本願発明1の「クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップ」を含み,「前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」すること,と実質的に同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

6 本願発明8について
本願発明8は,本願発明1-5のいずれかに対応する「プログラム」の発明であり,本願発明1の「クライアントシステムのユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信するステップ」を含み,「前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」すること,と実質的に同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-6に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1-12について上記引用文献1-6に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,平成29年8月16日付け手続補正により補正された請求項1,6,請求項4,7は,それぞれ「ユーザによって開始されたイベントに関する一次の意味情報をバックエンドシステムにおいて受信」し,「一次の意味情報」は「イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有」するという事項,前記事項と実質的に同一の構成を有するものとなっており,上記のとおり,本願発明1-8は,上記引用文献1-6に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
当審では,請求項1-5,10の「クライアントシステムのユーザとバックエンドシステムのユーザとの間で,ユーザ対話を監視するための方法」が発明の詳細な説明に記載したものではないとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年8月16日付けの補正において,「クライアントシステムのユーザとアプリケーションとの間で,ユーザ対話を監視するための方法」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
(1)当審では,請求項1-2,10の「一次の意味情報」が特定する情報の範囲,および,「前記少なくとも1つの特別なパラメータを用いて,前記一次の意味情報を抽出するステップ」の処理内容が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年8月16日付けの補正において,「前記一次の意味情報は,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含むイベント情報を有しており,」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では,請求項1-5,10の「前記二次の要求は,前記バックエンドシステムが前記一次の要求を処理することに応答して,前記クライアントアプリケーションによって開始され」,「前記二次のコンテキスト識別子は,前記一次のコンテキスト識別子にさらにリンクされ」の処理内容が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年8月16日付けの補正において,「二次の要求と前記二次の要求に関連付けられた二次の意味情報とを受信するステップを含み,前記二次の要求は前記一次のコンテキスト識別子を含み,」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(3)当審では,請求項6,11の「ユーザ作業関連データ」が特定する情報の範囲,および,「前記コンテキスト識別子を介して,前記第1のユーザ作業関連データと,前記第2のユーザ作業関連データとを関連付けるステップ」の処理内容が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年8月16日付けの補正において,「前記ユーザ作業関連データは,要求のクライアント開始時間,部分ターゲット,イベントタイプ,コンポーネントタイプ,コンポーネントクライアント識別子,コンポーネントディスプレイ名,領域名および領域ビュー識別子のうち少なくとも1つを含み,」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(4)当審では,請求項6,11の「処理されている要求に応答して,処理された要求についての応答に少なくとも1つの容易に識別可能なパラメータを含めるステップ」の処理内容が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年8月16日付けの補正において,「前記少なくとも一意的なコンテキスト識別子は,前記ユーザ作業関連データに含まれるコンテキスト識別子とは異なり,」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

(5)当審では,請求項6,11の「要求に連付けられた第1のユーザ作業関連データ」が誤記であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年8月16日付けの補正において,「要求に関連付けられた第1のユーザ作業関連データ」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1-8は,当業者が引用発明及び引用文献2-6に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-01 
出願番号 特願2013-556738(P2013-556738)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 多胡 滋  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 須田 勝巳
辻本 泰隆
発明の名称 ユーザ開始動作を監視し、バックエンドオペレーションと相互に関連付けるための方法およびコンピュータプログラム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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