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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1333907
審判番号 不服2016-12148  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-10 
確定日 2017-10-26 
事件の表示 特願2014-253992「変圧器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開、特開2016-115836〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成26年12月16日の出願であって、平成28年2月26日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年4月20日付けで手続補正がなされたが、同年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月10日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされた。
その後、当審の平成29年5月17日付け拒絶理由通知に対し、請求人からは何らの応答もなされなかったものである。

2.本願特許請求の範囲について
本願の特許請求の範囲は、平成28年8月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
略U字型を呈する2個の鉄心半部が接合部において付き合わされることにより構成され、中心に窓部を有し、略矩形を呈する巻鉄心と、
前記巻鉄心に組み付けられた複数の巻線と、を有し、
前記2個の鉄心半部が付き合わされる接合部において、厚さ0.1mmのアラミド紙により構成される絶縁シートが挟在しており、
商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する変圧器。
【請求項2】
さらに、前記巻鉄心の周囲に巻きつけられた締付けバンドが設けられており、
前記巻鉄心の熱膨張係数は、前記締付けバンドの熱膨張係数よりも大きい請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
さらに、前記巻鉄心の周囲に巻きつけられた締付けバンドが設けられており、
前記巻鉄心の熱膨張係数は、前記締付けバンドの熱膨張係数よりも小さい請求項1に記載の変圧器。
【請求項4】
前記巻鉄心は、アモルファス薄帯により形成されている請求項1に記載の変圧器。
【請求項5】
前記高周波領域は、500Hz?10kHzである請求項1に記載の変圧器。
【請求項6】
前記高周波領域は、1kHz?10kHzである請求項1に記載の変圧器。」

3.当審の拒絶の理由
当審において平成29年5月17日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

3-1.理由1(特許法第29条第2項)
本件出願の請求項1、4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、また、本件出願の請求項2、3、5、6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2000-164428号公報
2.特開平7-240322号公報

3-2.理由2(特許法第36条第6項第2号違反)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1において、「・・接合部において、厚さ0.1mmのアラミド紙により構成される絶縁シートが挟在しており、商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する・・」とあるが、
(a)発明の詳細な説明を参照しても、絶縁シートとして「厚さ0.1mmのアラミド紙」を用いたことと、「商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する」こととの技術的関係が明らかでない(下記<<注>>を参照)。
(b)また、上記(a)にも関連して、そもそも「商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する」と特定することの技術的意味が明らかでない〔図3に示される、接合部に絶縁シートが挟在していないものであっても、十分に時間が経てば(図3の250minを十分に超えた時間)、いずれは温度上昇曲線は飽和するものといえ、このようなものとの何ら違いがないと解される点に注意されたい。〕。
(c)巻鉄心の温度上昇曲線の傾きがどの程度であれば、「飽和する傾向を有する」といえるのかが明らかでない。
これらの点において請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?6に係る発明は技術的にみて明確なものでない。

<<注>>
上記(1)(a)に関して、
・発明の詳細な説明によれば、どのような材料の絶縁シートであっても、また、絶縁シートがどのような厚さであっても、「商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する」となり得るものと解される。もし、絶縁シートとして「厚さ0.1mmのアラミド紙」を用いたことによってはじめて「商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する」というのであれば、意見書においてその根拠を、アラミド紙とは異なる材料の絶縁シートを用いた場合や、厚さの異なるアラミド紙を用いた場合の比較データを示すなどして詳細に説明をされたい。
・さらに付言しておくと、図4に示されるものは、接合部に絶縁シートが挟在しているものであることは理解できるものの、かかる絶縁シートが「アラミド紙」であり、しかもその厚さが「0.1mm」であることまでは確認できない点にも注意されたい。

4.当審の判断
4-1.理由1(特許法第29条第2項)について
(1)引用例
当審の拒絶の理由に引用された特開2000-164428号公報(以下、「引用例」という。)には、「磁心」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】 磁路に磁気的なギャップを設け、該ギャップ部にスペーサを挿入してなるギャップ付き磁心において、前記スペーサとしてアラミド紙を用いたことを特徴とする磁心。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載された前記磁心に巻線を施して構成されることを特徴とするトランス又はチョークコイル。」

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ギャップ付き磁心に関し、又それを用いたトランス、チョークコイルに関する。」

ウ.「【0002】
【従来の技術】従来より、磁心の磁路にギャップを設け、ギャップにスペーサを配置して磁心と接着したギャップ付磁心が用いられている。この従来例を図1に示す。この従来例は、2つのU型磁心21の突き合わせ面にスペーサ22を配置して、接着剤で固定したものである。」

エ.「【0012】以下実施例について詳細に説明する。尚、この実施例の磁心の外観は図1と同一である。
【0013】磁心として、Feを主成分とし結晶粒径50nm以下の微細な結晶粒がその組織の体積全体の50%以上を占めるナノ結晶軟磁性合金薄帯の巻磁心を用いた。この巻磁心は、ナノ結晶軟磁性合金薄帯を巻回した後に、エポキシ等の合成樹脂を含浸・被覆させて一定の形状に硬化させ、それを切断して分離している。
【0014】この磁心に対し、スペーサ及び接着剤を変えて騒音をレベルを評価した。この結果を表1に示す。表1において、アラミド紙には、デュポン製ノーメックスを用い、厚さ0.5mmとした。またPETフィルムは、東レ製ルミラーを用い、厚さ0.5mmとした。またアクリル系接着剤は、ロックタイト製352を用い、エポキシ系接着剤は、セメダイン製EP-331を用いた。また、測定条件は、チョークコイルに1kHz、20Ap-pの信号を入力し、コイルから100mm離れた位置で計測した。」

・上記引用例に記載の「磁心」は、上記「ア.」の【請求項1】の記載事項によれば、磁路に磁気的なギャップを設け、該ギャップ部にスペーサを挿入してなるギャップ付き磁心において、前記スペーサとしてアラミド紙を用いた磁心に関するものである。
・上記「ウ.」、「エ.」の段落【0012】?【0013】の記載事項、及び図1によれば、当該磁心(ギャップ付き磁心)は、具体的には、2つのU型磁心21を突き合わせることにより構成された巻磁心である。
・上記「エ.」の段落【0014】の記載事項によれば、スペーサ22として用いられるアラミド紙は、厚さ0.5mmである。
・そして、上記「ア.」の【請求項4】、「イ.」の記載事項によれば、当該磁心(ギャップ付き磁心)に巻線を施すことによってトランスが構成されてなるものである。

したがって、当該磁心(ギャップ付き磁心)を用いたトランスに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「2つのU型磁心を突き合わせることにより構成された巻磁心と、
前記巻磁心に施された巻線と、を有し、
前記2つのU型磁心の突き合わせ面に、厚さ0.5mmのアラミド紙よりなるスペーサが配置されてなる、トランス。」

(2)対比
そこで、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「2つのU型磁心を突き合わせることにより構成された巻磁心と」によれば、
引用発明における、2つの「U型磁心」、「巻磁心」は、それぞれ本願発明でいう、略U字型を呈する2個の「鉄心半部」、「巻鉄心」に相当し、
引用発明における「巻磁心」にあっても、2つのU型磁心を突き合わせることにより構成されるのであるから、当然、接合部を有し、また、中心に窓部を有し、全体として略矩形を呈するといえるものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「略U字型を呈する2個の鉄心半部が接合部において付き合わされることにより構成され、中心に窓部を有し、略矩形を呈する巻鉄心と」を有するものである点で一致する。

イ.引用発明における「前記巻磁心に施された巻線と」によれば、
引用発明における「巻線」は、本願発明における「巻線」に相当し、
引用発明は「トランス」に係るものであるから、当然、「複数」の巻線を有するものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記巻鉄心に組み付けられた複数の巻線と」を有するものである点で一致する。

ウ.引用発明における「前記2つのU型磁心の突き合わせ面に、厚さ0.5mmのアラミド紙よりなるスペーサが配置されてなる・・」によれば、
(a)引用発明における「アラミド紙よりなるスペーサ」は、本願発明でいう「アラミド紙により構成される絶縁シート」に相当し、
本願発明と引用発明とは、「前記2個の鉄心半部が付き合わされる接合部において、所定の厚さのアラミド紙により構成される絶縁シートが挟在」している点で共通するといえる。
ただし、アラミド紙の所定の厚さについて、本願発明では、「0.1mm」と特定するのに対し、引用発明では、0.5mmである点で相違している。
(b)そして、本願明細書の段落【0014】?【0017】、及び図3、図4には、接合部に「絶縁シート」を挟在させると、鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する旨説明されていることや、段落【0031】には「絶縁シート16としては、アラミド紙を例示して説明したが、これに限らず、例えばPETフィルムなど、他の絶縁材料を用いてもよい。」と記載されていることからすれば、引用発明にあっても、2つのU型磁心の突き合わせ面にスペーサとしてアラミド紙からなる「絶縁シート」が挟在していることから、当然、本願発明と同様、「商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する」ものであるということができる〔なお付言しておくと、「理由2」の(1)(b)でも指摘(上記「3-2.」を参照)したように、絶縁シートを挟在していない場合であっても、十分に時間が経てば、温度上昇曲線は飽和する温度の程度により異なるとしてもいずれは飽和するものと解される。〕。

エ.そして、引用発明における「トランス」は、本願発明でいう「変圧器」に相当するものである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「略U字型を呈する2個の鉄心半部が接合部において付き合わされることにより構成され、中心に窓部を有し、略矩形を呈する巻鉄心と、
前記巻鉄心に組み付けられた複数の巻線と、を有し、
前記2個の鉄心半部が付き合わされる接合部において、所定の厚さのアラミド紙により構成される絶縁シートが挟在しており、
商用周波数を超える高周波領域において運転された場合に前記巻鉄心の温度上昇曲線が飽和する傾向を有する変圧器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
アラミド紙の所定の厚さについて、本願発明では、「0.1mm」と特定するのに対し、引用発明では、0.5mmである点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
スペーサであるアラミド紙の厚さについて、引用発明においては0.5mmとした実施例のみが記載されているが、かかる厚みは具体例の一つにすぎず、トランスとして所望する磁気特性等を考慮して適宜変更(選択)し得るものであるといえ、引用発明において、0.5mmに代えて例えば0.1mmとすることも当業者であれば適宜なし得ることである。なお、本願発明にあっても、本願明細書の段落【0012】に「例えば厚さ0.1mm」のアラミド紙を用いることができる旨が単に記載されているのみであって、図3及び図4で説明された効果を参照しても、厚さ「0.1mm」に特定したことに格別の技術的意味(意義)を見出すことはできない。

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-2.理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について
上記「3-2.」の(1)(a)?(c)のとおりの記載不備に関する指摘に対して、請求人は特許請求の範囲について何ら補正することなく、また、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが提出されず、何ら反論もなされていない。
よって依然として、上記(1)(a)?(c)の指摘事項に関する記載不備は解消しておらず、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?6に係る発明は明確なものでない。

したがって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-22 
結審通知日 2017-08-29 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2014-253992(P2014-253992)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01F)
P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 変圧器  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

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