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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1333909
審判番号 不服2016-13405  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-07 
確定日 2017-10-26 
事件の表示 特願2012- 81035「エンボスクリアシートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開、特開2013-208831〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24(2012)年3月30日の出願であって、平成27年11月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月31日付けで拒絶査定がされたところ、同年9月7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、同年10月17日付けで同法第164条第3項所定の報告がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定における拒絶の理由は次の理由を含むものである。

この出願の請求項1、5及び6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物:特開2011-143717号公報(引用文献1)


第3 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成28年9月7日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

平成28年9月7日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであるところ、その内容として、主に下記ア?ウに示される補正を行うものである。
ア 本件補正前の請求項1について、冷却ロール表面における凹陥形状に関する発明特定事項であった「深度hが10?100μmであり、凹陥部間口寸法wが15?300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50?1000μmであり、凸部の点密度が1?300点/mm^(2)である」という記載を削除した上で、本件補正前の請求項5と6におけるメルトフローレートと押出溶融温度に関する発明特定事項を組み込んで本件補正後の請求項1とし、それに伴って当該本件補正前の請求項5と6を削除する。
イ 上記のアで本件補正前の請求項1から削除した「深度hが10?100μmであり、凹陥部間口寸法wが15?300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50?1000μmであり、凸部の点密度が1?300点/mm^(2)である」という発明特定事項を含む、本件補正後の請求項2を新たに設ける。
ウ 本件補正前の請求項2において、熱溶融樹脂を冷却ロールに落とす位置に関する発明特定事項であった「2?100mmずらした」という記載に代えて、「移動可能とした」という記載とし、本件補正後の請求項3とする。

したがって、本件補正前の請求項1?6と本件補正後の請求項1?5の記載は次のとおりである。

補正前:
「【請求項1】
Tダイ付押出機と冷却ロールとニップロールと剥離ロールと巻き取り機とを有する押出製膜装置を用いたエンボスクリアシートの製造方法において、溶融混練した熱溶融樹脂をTダイ付押出機で冷却ロール上に落とし、シート形状に冷却固化すると同時に、表面に深度hが10?100μmであり、凹陥部間口寸法wが15?300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50?1000μmであり、凸部の点密度が1?300点/mm^(2)である凹陥形状を設けた冷却ロールとニップロールとで加圧してシート表面に凸部形状を設けることを特徴とするエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項2】
前記熱溶融樹脂を冷却ロール上へ落とす位置が、前記冷却ロールとニップロールの接触位置から冷却ロール側に2?100mmずらしたことを特徴とする、請求項1記載のエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項3】
前記ニップロールの表面に、凹陥及び/または突起形状を設けたことを特徴とする、請求項1または2に記載のエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項4】
前記冷却ロールの表面にサンドブラスト処理を施してなることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載のエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項5】
前記熱溶融樹脂が、JIS K7210:1999にて規定されるメルトフローレートが2?40であるポリプロピレン樹脂を主原料とすることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載のエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項6】
前記熱溶融樹脂の押出溶融温度が180?290℃であることを特徴とする、請求項5に記載のエンボスクリアシートの製造方法。」

補正後:
「【請求項1】
Tダイ付押出機と冷却ロールとニップロールと剥離ロールと巻き取り機とを有する押出製膜装置を用いたエンボスクリアシートの製造方法において、溶融混練したJIS K7210:1999にて規定されるメルトフローレートが2?40であるポリプロピレン樹脂を主原料とする熱溶融樹脂を押出溶融温度が180?290℃の範囲で、Tダイ付押出機から冷却ロール上に落とし、シート形状に冷却固化すると同時に、表面に凹陥形状を設けた冷却ロールとニップロールとで加圧してシート表面に凸部形状を設けることを特徴とするエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項2】
前記冷却ロール表面の凹陥形状が、深度hが10?100μmであり、凹陥部間口寸法wが15?300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50?1000μmであり、凸部の点密度が1?300点/mm2であることを特徴とする、請求項1に記載のエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項3】
前記熱溶融樹脂を冷却ロール上へ落とす位置が、前記冷却ロールと前記ニップロールの接触位置から冷却ロール側に移動可能としたことを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載のエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項4】
前記ニップロールの表面に、凹陥及び/または突起形状を設けたことを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載のエンボスクリアシートの製造方法。
【請求項5】
前記冷却ロールの表面にサンドブラスト処理を施してなることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載のエンボスクリアシートの製造方法。」

2 補正の適否
本件補正は、特許法第17条の2第1項第4号に基づき、拒絶査定不服審判の請求と同時にされたものであるところ、同条第5項において、同条第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は、同条第5項各号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明)を目的とするものに限るとされているので、本件補正が、その規定を満たすかについて検討する。

本件補正前の唯一の独立請求項である請求項1には、冷却ロール表面における凹陥形状に関する発明特定事項が記載されていたため、少なくとも当該冷却ロール表面における凹陥形状に関する発明特定事項が無い発明は、本件補正前の特許請求の範囲のいずれの請求項にも記載されていない。
そして、本件補正前の請求項1から冷却ロール表面における凹陥形状の特定部分が削除されたところ、かかる特定を削除することによって、本件補正後の請求項1における冷却ロール表面ついての凹陥形状は、いかなる形状をも包含するものとなった。すなわち、冷却ロール表面についての凹陥形状の特定の観点において、本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項1に係る発明に対して概念上拡張されたものとなった。
なお、本件補正後の請求項1におけるメルトフローレートと押出溶融温度に関する発明特定事項は、本件補正前の請求項5と6に記載されていたものであり、これらの特定を新たに追加したことによって、本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項1に係る発明からみて減縮されたものとみることも一応できる。そして、本件補正前の当該請求項5と6を削除する補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものと認めることができる。
しかしながら、かかるメルトフローレートと押出溶融温度に関する発明特定事項は、冷却ロール表面の凹陥形状の発明特定事項とは全く別の観点であるから、上記したとおり冷却ロール表面における凹陥形状の特定の観点において本件補正後の請求項1に係る発明が拡張されたことには変わりはない。
よって、本件補正後の請求項1においてされた補正は全体として、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。そして、かかる補正が、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないことは明らかである。

また、本件補正前の請求項2において、熱溶融樹脂を冷却ロールに落とす位置に関する発明特定事項であった「2?100mmずらした」という記載が、本件補正後の請求項3において「移動可能とした」という記載に補正されたが、一定の数値範囲で「ずれた」状態の発明と、装置の機能として「移動可能とした」という機能を表現する記載を有する発明とは、そもそも発明としての概念が異なるものといえる。そして、本件補正前の請求項2においてずれる範囲として定められていた「2?100mm」という数値範囲自体が、本件補正後の請求項3には無いことから、いかなる移動範囲でもよいものとなった。すなわち、本件補正前の請求項2に係る発明からみて、本件補正後の請求項3に係る発明は、熱溶融樹脂を冷却ロールに落とす位置に関して、発明の概念が異なるものとなったことに加え、その数値範囲についても拡張されたことになる。
よって、本件補正後の請求項3においてされた補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。そして、かかる補正が、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないことは明らかである。

以上のことから、本件補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものに当たらないのであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第4 本願発明について

1 本願発明
平成28年9月7日提出の手続補正書による手続補正は上記第3のとおり却下されたので、本願請求項1?6に係る発明は、平成28年1月28日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

本願発明1:
「Tダイ付押出機と冷却ロールとニップロールと剥離ロールと巻き取り機とを有する押出製膜装置を用いたエンボスクリアシートの製造方法において、溶融混練した熱溶融樹脂をTダイ付押出機で冷却ロール上に落とし、シート形状に冷却固化すると同時に、表面に深度hが10?100μmであり、凹陥部間口寸法wが15?300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50?1000μmであり、凸部の点密度が1?300点/mm^(2)である凹陥形状を設けた冷却ロールとニップロールとで加圧してシート表面に凸部形状を設けることを特徴とするエンボスクリアシートの製造方法。」

また、本願請求項1を直接引用する請求項5をさらに引用する請求項6に係る発明について、当該請求項1及び請求項5の記載を請求項6の中で書き下して整理すると、以下のとおりのものである(以下、「本願発明6」という。)

本願発明6:
「Tダイ付押出機と冷却ロールとニップロールと剥離ロールと巻き取り機とを有する押出製膜装置を用いたエンボスクリアシートの製造方法において、溶融混練した熱溶融樹脂をTダイ付押出機で冷却ロール上に落とし、シート形状に冷却固化すると同時に、表面に深度hが10?100μmであり、凹陥部間口寸法wが15?300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50?1000μmであり、凸部の点密度が1?300点/mm^(2)である凹陥形状を設けた冷却ロールとニップロールとで加圧してシート表面に凸部形状を設けることを特徴とするエンボスクリアシートの製造方法であって、
前記熱溶融樹脂が、JIS K7210:1999にて規定されるメルトフローレートが2?40であるポリプロピレン樹脂を主原料とするものであり、
前記熱溶融樹脂の押出溶融温度が180?290℃である、
前記エンボスクリアシートの製造方法。」


2 引用例の記載
原査定における拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開2011-143717号公報(以下、「引用例」という)には、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂を溶融混練する溶融工程と、
溶融ポリプロピレン系樹脂をTダイから吐出してシート状に成形する成形工程と、
シート状溶融ポリプロピレン系樹脂を、弾性ロールと、表面に転写型を備えた金属ロールとで挟圧することによって、前記シート状溶融ポリプロピレン系樹脂の表面に前記転写型を転写しつつ、前記シート状溶融樹脂を冷却固化する転写工程とを含み、
前記金属ロールの表面温度が0?95℃であり、
前記弾性ロールと、前記金属ロールとによってシート状溶融ポリプロピレン系樹脂を挟圧する際の線圧が1?300N/mmであり、
挟圧する距離が1?30mmであることを特徴とするポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂製シートの厚さが50?500μmである請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。
【請求項3】
前記弾性ロールおよび/または前記金属ロールの表面温度が0?60℃である請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。
【請求項4】
前記転写型が、互いに略平行に配された複数の溝を有し、溝の間隔が10?250μmであり、溝の深さが3?500μmである請求項1?3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1?4)


「【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法に関し、詳しくは転写型の表面形状を転写型どおりに精度よく転写することができ、かつ透明性に優れるポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転写型の形状が表面に転写された樹脂製シート(表面形状転写シート)としては、プリズムシート、レンズシートなどが知られており、これらは液晶表示装置のバックライトの部材として有用である。表面形状転写シートの製造方法としては、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂を溶融混練してTダイから吐出し、吐出した溶融状シートを、転写型を備えた金属ロールとタッチロールの間で挟圧することで転写型の表面形状を転写する方法が知られている(例えば特許文献1、2参照)。
一方、近年では結晶性熱可塑性樹脂を用いて表面形状転写シートを製造する試みもなされている。しかしながら、結晶性熱可塑性樹脂を用いた場合、透明性に劣るという問題があった。」


「【0004】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、転写型の表面形状を転写型どおりに精度よく転写することができ、かつ透明性に優れるポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法を提供することを目的とする。」


「【0013】
本実施形態において用いられるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に従い測定される値(試験温度、公称荷重は、JIS K 7210の附属書B表1による)で、通常0.1g/10分?50g/10分程度であり、0.5g/10分?20g/10分程度であると好ましい。MFRがこのような範囲のポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、均一なシートを成形することができる。」


「【0023】
(シート製造システムの構成)
図1を参照して、本実施形態に係る表面形状転写シートの製造方法に用いられるシート製造システム1の構成について説明する。シート製造システム1は、押出機10、Tダイ12、弾性ロール14、表面に転写型を備えた金属ロール16、冷却ロール18を備える。」


「【0025】
Tダイ12は、押出機10と接続されており、押出機10から搬送された溶融ポリプロピレン系樹脂をシート状に広げるためのマニホールド(図示せず)をその内部に有している。また、Tダイ12には、マニホールドと連通すると共にマニホールドによってシート状に広げられた溶融ポリプロピレン系樹脂を吐出する吐出口12aがその下部に設けられている。そのため、Tダイ12の吐出口12aから吐出された溶融ポリプロピレン系樹脂は、シート状である。
吐出されるシート状溶融ポリプロピレン系樹脂の温度は、180℃以上300℃以下であることが好ましい。この溶融樹脂の温度は、Tダイ12の吐出口12a部分において樹脂温度計を用いて測定される。
【0026】
Tダイ12としては、溶融ポリプロピレン系樹脂の流路の壁面に微小な段差や傷のないものが好ましい。Tダイ12の吐出口12a部分(リップ部分)は、溶融ポリプロピレン系樹脂との摩擦係数が小さい材料であり、且つ、硬い材料で、めっき、コーティング等(例えば、タングステンカーバイド系、フッ素系の特殊めっき)がされていることが好ましい。このようなTダイは、吐出口12aの先端部分の曲率半径を小さくすること(吐出口12aの先端部分をいわゆるシャープエッジと呼ばれる形状とすること)が可能である。
【0027】
Tダイ12の吐出口12aの先端部分は、溶融ポリプロピレン系樹脂の流路の壁面の、吐出口12aにおける曲率半径が0.1mm以下とされたシャープエッジと呼ばれる形状のものであることが好ましく、当該曲率半径が0.05mm以下であることがより好ましく、当該曲率半径が0.03mm以下であることがより一層好ましい。このようなTダイ12を用いることで、吐出口12aにおける目やにの発生を抑制することができ、同時にダイラインを抑制する効果も見られ、製造される表面形状転写シートの外観の均一性をより優れたものにできる。曲率半径は、0.01mm以上であることが好ましい。」


「【0030】
弾性変形可能な金属ロールの例としては、特許第3422798号公報に記載されている成形ロールや、特開平7-040370号公報に記載されている成形ベルト手段、特開平11-235747号公報に記載されている押さえロール等が挙げられる。本発明のポリプロピレン系樹脂製シートの転写面と反対側の面の平滑性が優れるという観点から、弾性ロールは、弾性変形可能な金属ロールを用いることが、好ましい。弾性変形可能な金属ロールの表面は、鏡面状態であることが好ましい。
【0031】
特許第3422798号公報に記載されている成形ロールとは、具体的には図1に示すように、筒状の金属製の帯状体(無端ベルトともいう)14aと、帯状体14aの内部に配置されたゴム製ロール14b(本実施形態においては1本)と、帯状体14aとゴム製ロール14bとの間の空間を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する弾性ロール14である。
帯状体14aは、ばね鋼、ステンレス鋼、ニッケル鋼等の弾性変形が可能な金属薄膜によって筒状に形成されており、その表面に継ぎ目が存在していない。帯状体14aの両側は、図示しない閉塞部材によって閉塞されている。帯状体14aとしては例えば、その厚みが100μm?1500μmで、その直径が200mm?600mmで、表面粗度が0.5S以下のものを用いることができ、好ましくは表面粗度が0.2S以下である。なお、帯状体14aの直径は、表面形状転写シートSの加工速度に応じて適切な大きさに設定されるが、帯状体14aの直径が上記の範囲である場合には、表面形状転写シートSの加工速度は数m/分?百数十m/分となる。
ゴム製ロール14bは、円柱形状を呈しており、帯状体14aの内部において弾性変形及び回転可能である。ゴム製ロール14bは、硬度が30?90程度のEPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)、ネオプレン又はシリコーンによって形成することができる。また、ゴム製ロール14bとしては、通常その直径が100mm?250mmのものを用いることができる。
液体Lは、例えば水、エチレングリコール、油を用いることができる。図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に帯状体14aの表面温度が調節されることとなる。」


「【0045】
表面に転写型を備えた金属ロールは、高剛性の金属外筒16aと、金属外筒16aの内側に配置された流体軸筒16bと、金属外筒16aと流体軸筒16bとの間の空間及び流体軸筒16b内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する。前記金属ロール16としては、その直径が200mm?600mmのものを用いることが好ましい。なお、表面に転写型を備えた金属ロールを転写ロールともいう。
冷却ロール18は、高剛性の金属外筒18aと、金属外筒18aの内側に配置された流体軸筒18bと、金属外筒18aと流体軸筒18bとの間の空間及び流体軸筒18b内を満たす液体Lと、液体Lの温度を調節するための温度調節手段(図示せず)とを有する。前記冷却ロール18としては、その直径が200mm?600mmで、表面粗度が0.2S以下の鏡面のものを用いることが好ましい。
転写ロール16、冷却ロール18においては、弾性ロール14と同様、図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に金属外筒16a,18aの表面温度が調節され、弾性ロール14と共にTダイ12の吐出口12aから吐出されたシート状溶融ポリプロピレン系樹脂を冷却して固化させる。」


「【0046】
前記転写型は、前記転写ロール表面に備えられ、シート状溶融ポリプロピレン系樹脂の表面に押し当てられ、その表面形状を逆型として前記シート状溶融ポリプロピレン系樹脂に転写するものである。転写型は、互いに略平行に配された複数の溝を有する。溝の間隔は10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。溝の間隔は、通常500μm以下であり、250μm以下であることが好ましい。溝の深さは3?500μmであることが好ましい。
図4および図5に、転写型表面の例を示す。これらは、転写ロールをロールの軸と平行に切断したときのロール表面部分の拡大図である。図4は、断面形状がV字溝(三角形)の転写型の場合の断面図である。図4に示すように、転写型には複数の溝が設けられている。溝の間隔(P)とは、隣接する各溝の最深部の距離をいう。溝の深さ(h)とは、転写ロール表面から溝の最深部までの垂直距離をいう。断面形状がV字溝(三角形)である場合、該三角形の凹部の頂角θは40°?160°とすることが好ましい。
【0047】
また、図5には、各溝が略半円弧状であり、溝と溝との間に平坦な尾根部がある形状を示した。図5において、ピッチ間隔(P)は図4と同様に、隣接する各溝の最深部間の距離をいい、溝の深さ(h)とは転写ロール表面から溝の最深部までの垂直距離をいう。上記略半円弧とは、図5に示すように、断面が半円弧状である形状に限定されるものではなく、円柱体をその軸線に平行であって、該軸線を含まない平面で切断した場合のいずれかの弧状である形状であってもよいし、或いは半楕円弧状や、該半楕円弧状の一部である扁平湾曲状等の形状であってもよい。また、尾根部は平坦でなくても構わない。
【0048】
転写型における溝は、図4に示されるように連続して略平行に設けてもよいし、図5に示すように間隔dをあけて略平行に設けてもよい。溝の間隔や深さ、形状は、製造するシートの用途により選択する。なお、本発明において上記転写型における溝の間隔(P)および深さ(h)は、転写型全体で必ずしも一定ではなく、部分的に隣接する凹部間で異なる形状である場合も含まれるものとする。」


「【0056】
また、挟圧する際の転写ロールの表面温度は、0?95℃であり、透明性に優れる表面形状転写シートを製造する観点から、弾性ロールと転写ロールによって挟圧する際に、急速に冷却することが必要であるため、弾性ロールおよび/または金属ロールの表面温度を0?60℃とすることが好ましく、弾性ロールの表面温度を0?40℃とすることがより好ましく、弾性ロールの表面温度を0?30℃とすることがさらに好ましい。」


「【0059】
得られた表面形状転写シートは、通常、さらに冷却されたのち、必要に応じて耳部がスリット(切断)され、巻取機にて巻き取られるか、または、枚葉に切断されて、例えば液晶表示装置を構成するプリズムシートなどとして用いられる。なお、表面形状転写シートの耳部をスリット(切断)する前、又はスリット(切断)した後に、表面形状転写シートの片面又は両面に保護フィルムを積層してもよい。また、樹脂として光拡散剤が添加されたものを用いた場合には、表面に形状が転写された光拡散板として好適に用いることができる。」


「【0061】
(1)転写型
3種類の転写型A?Dを用いた。いずれの転写型もプリズムレンズ(角柱レンズ)形状であり、図4に示すように各溝部が平行に等間隔(溝の間隔P)で構成されている。溝はいずれもロールの周方向に平行である。下記表1において、P、h、θは、図4に示す転写型に施されているV字の溝の断面形状の各距離または角度を示し、「溝の間隔P」は隣接する溝の距離、「溝深さh」は溝の最深(頂角)部までの垂直距離、「θ」はV字凹みの頂点の角度(頂角)を示す。
【0062】
(2)表面形状転写樹脂シートの転写率
得られた表面形状転写樹脂シートを切断し、断面を鏡面仕上げしたのち、超深度形状測定顕微鏡(KEYENCE社製「VK-8500」)で観察して、以下の式(1)で定義される形状転写率T(%)を算出した。
形状転写率T(%)=シートの断面形状の凹部溝深さ/転写型の断面形状の溝深さh×100・・・(1)
【0063】
【表1】

【0064】
(2)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
プロピレン系重合体のメルトフローレートは、JIS K7210に従い、温度230℃、荷重21.18Nで測定した。
【0065】
(3)融点(Tm、単位:℃)
ポリプロピレン系樹脂を熱プレス成形して、厚さ0.5mmのシートを作成した。前記熱プレス成形では、熱プレス機内でポリプロピレン系樹脂を230℃で5分間予熱後、3分間かけて50kgf/cm^(2)まで昇圧し2分間保圧した後、30℃、30kgf/cm^(2)で5分間冷却するようにプレスした。作製したプレスシートの切片10mgについて、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC-7型)を用い、窒素雰囲気下で下記[1]?[5]の熱履歴を加えた後、50℃から180℃まで昇温速度5℃/分で加熱して融解曲線を作成した。この融解曲線において、最高吸熱ピークを示す温度(℃)を求め、これを該ポリプロピレン系樹脂の融点(Tm)とした。
[1]220℃で5分間加熱する;
[2]降温速度300℃/分で220℃から150℃まで冷却する;
[3]150℃において1分間保温する;
[4]降温速度5℃/分で150℃から50℃まで冷却する;
[5]50℃において1分間保温する。
【0066】
(4)面内位相差Re
シートの複屈折の大きさは面内位相差Reで評価した。面内位相差Reは位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA-WPR)を用いて測定した。
【0067】
(5)内部ヘイズ
内部ヘイズは、フィルムを石英ガラス製の容器(セル)に、ポリプロピレン系樹脂とほぼ同じ屈折率を有する液体であるフタル酸ジメチルと、測定するフィルムを入れた状態で、JIS K-7136に準じた方法で測定した。
【0068】
(6)挟圧距離
弾性ロールと転写ロールとの間で挟圧する距離は、以下の方法で測定した。弾性ロールと転写ロールとの間に感圧紙(富士フィルムビジネスサプライ(株)製プレスケールLLW)を挟み、感圧紙の発色部分のMD方向の距離を測定し、挟圧距離とした。
【0069】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体、MFR=7、Tm=164℃)を、270℃に加熱した50mmφ押出機10(スクリュー:L/D=32、フルフライトスクリュー)にて溶融混練し、押出機10から、押出機10に続いて設置されるギヤポンプ、アダプタ及びTダイ12(すべて270℃に設定)へとこの順にフィードし、Tダイ12の吐出口(リップ口)12aからシート状溶融ポリプロピレン系樹脂を吐出した。Tダイ12の吐出口12a部分における溶融樹脂の温度は270℃であった。そして、当該溶融樹脂を、図2に示される弾性ロール20と、転写ロール16とによって挟圧長さ4mm、線圧150N/mmで挟圧すると共に、弾性ロール20、転写ロール16及び冷却ロール18によって冷却して固化させることで、厚みが100μmの表面形状転写シートを得た。表面形状転写シートの製造条件、シート厚み、形状転写率T、内部ヘイズ、面内位相差を表2に示す。
【0070】
ここで、弾性ロール20の帯状体22は、円筒状としたときのその直径が280mm、その厚みが300μm、その表面粗度が0.2Sであった。弾性ロール20中のロール24はシリコーンによって形成され、ロール26は金属ロールであり、その直径がそれぞれ160mm、ロール24の硬度が60であった。転写ロール16と冷却ロール18は、その直径が300mmであった。冷却ロール18の表面粗度は0.1Sであり、表面は鏡面であった。弾性ロール20の回転速度を5m/分、転写ロール16及び冷却ロール18の回転速度を5m/分、エアギャップHを150mm、転写ロール16の表面温度を20℃、弾性ロール20の帯状体22の表面温度を20℃にそれぞれ設定した。また、前記転写ロールの表面には、表面形状が表1に示すV字凹み溝Aである転写型が設けられていた。
【0071】
(実施例2)
転写ロールの表面に、表面形状が表1に示すV字凹み溝Bである転写型を設けた以外は、実施例1と同様の方法により、表面形状転写シートを得た。結果を表2に示す。」


「【0083】
【表2】




「【0084】
1 シート製造システム
10 押出機
12 Tダイ
12a 樹脂吐出口
14 弾性ロール
14a 帯状体
14b ゴム製ロール
16 表面に転写型を備えた金属ロール(転写ロール)
16a 金属外筒
16b 流体軸筒
18 冷却ロール
18a 金属外筒
18b 流体軸筒
20 弾性ロール
22 帯状体
24 ゴム製ロール
26 金属製ロール
30 弾性ロール
30a 金属内筒
30b 薄肉金属外筒
30c 流体軸筒
30d 貫通孔
L 液体
H エアギャップ
S ポリプロピレン系樹脂製シート
P 溝の間隔
h 溝の深さ
θ V字溝の凹部の頂角
d 尾根部の間隔」


「【図1】




「【図4】

【図5】



3 引用発明
引用例は、摘示イ及びウによれば、ポリプロピレン系樹脂製シートを製造するに当たり、転写型の表面形状を転写型どおりに精度よく転写することができ、かつ透明性に優れるポリプロピレン系樹脂製シートを製造する方法を提供することを課題とした、ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法を開示する文献である。
かかる課題のもと、引用例の摘示アには、当該ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法の発明が記載されており、特にその請求項1を直接引用する請求項3をさらに引用する請求項4に着目し、金属ロールの表面温度について整理して記載すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

引用発明:
「ポリプロピレン系樹脂を溶融混練する溶融工程と、
溶融ポリプロピレン系樹脂をTダイから吐出してシート状に成形する成形工程と、
シート状溶融ポリプロピレン系樹脂を、弾性ロールと、表面に転写型を備えた金属ロールとで挟圧することによって、前記シート状溶融ポリプロピレン系樹脂の表面に前記転写型を転写しつつ、前記シート状溶融樹脂を冷却固化する転写工程とを含み、
前記弾性ロールおよび/または前記金属ロールの表面温度が0?60℃であり、
前記弾性ロールと、前記金属ロールとによってシート状溶融ポリプロピレン系樹脂を挟圧する際の線圧が1?300N/mmであり、
挟圧する距離が1?30mmであり、
前記転写型が、互いに略平行に配された複数の溝を有し、溝の間隔が10?250μmであり、溝の深さが3?500μmである、
ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。」

4 対比・判断
(1)本願発明1についての対比
引用発明の「Tダイから吐出してシート状に成形する成形工程」について検討するに、引用例の摘示カによれば、「Tダイ12は、押出機10と接続されており」と記載されていることから、引用発明は押出機とTダイが互いに接続された装置を用いることによって実施されるものと認められる。そうすると、引用発明の「Tダイから吐出してシート状に成形する成形工程」は、本願発明1でいうところの「Tダイ付押出機」を用いて実施されているものと認められる。

引用発明の「金属ロール」について検討するに、当該「金属ロール」は、「表面に転写型を備え」ており、これと弾性ロールとの間で溶融ポリプロピレン系樹脂シートを挟圧することで、当該樹脂シートの「表面に前記転写型を転写」する機能を有するものである。そして、その転写型とは、「互いに略平行に配された複数の溝」を有するものである。さらに、引用例の摘示キには、「金属ロール」として温度調節手段を備えた成形ロールを用いることが記載されており、また摘示クにおいて
「転写ロール16、冷却ロール18においては、弾性ロール14と同様、図示しない温度調節手段によって液体Lの温度を調節することにより、間接的に金属外筒16a,18aの表面温度が調節され、弾性ロール14と共にTダイ12の吐出口12aから吐出されたシート状溶融ポリプロピレン系樹脂を冷却して固化させる」
と記載されており、また摘示コにおいて
「挟圧する際の転写ロールの表面温度は、0?95℃であり、透明性に優れる表面形状転写シートを製造する観点から、弾性ロールと転写ロールによって挟圧する際に、急速に冷却することが必要であるため、弾性ロールおよび/または金属ロールの表面温度を0?60℃とすることが好ましく、弾性ロールの表面温度を0?40℃とすることがより好ましく、弾性ロールの表面温度を0?30℃とすることがさらに好ましい」
と記載されていることからみて、引用発明における「金属ロール」は、温度調節手段を有し、シート状溶融ポリプロピレン系樹脂を急速に冷却するという機能を有するものである。一方、本願発明1の「冷却ロール」については、エンボスクリアシートを冷却する機能を有するものであることは明らかであり、かつ当該「冷却ロール」は、凹陥形状を設けたものである。そうすると、引用発明の「金属ロール」は、その表面に付された転写型が複数の溝を有しているのであるから、一定の凹陥形状となっていることは明らかであり、かつシート状溶融プロピレン系樹脂を冷却する機能も有しているものであるから、本願発明1の「冷却ロール」に相当する。
なお、本願発明1の「冷却ロール」における特定の凹陥形状について、引用発明との相違点及びその判断は、後に別途検討する。

引用発明の「弾性ロール」は、その機能からみて、転写型を備えた「金属ロール」との間に溶融ポリプロピレン系樹脂シートを挟圧するためのものである。そして、本願発明1の「ニップロール」については、本願図面の図2を参照すると、「冷却ロール」との間にシート状の熱溶融樹脂を挟圧するという機能を有していると認められる。したがって、引用発明の「弾性ロール」は、本願発明1の「ニップロール」に相当するものである。

引用発明の「ポリプロピレン系樹脂製シート」は、転写型によって溝の形状が当該シートに転写されていることから、エンボス形状を有するものである。また、引用例の摘示イやス等によると透明性に優れるものであるから、引用発明の「ポリプロピレン系樹脂製シート」は、本願発明1の「エンボスクリアシート」に相当するものである。

引用発明の転写工程においては、「シート状溶融ポリプロピレン系樹脂を、弾性ロールと、表面に転写型を備えた金属ロールとで挟圧することによって、前記シート状溶融ポリプロピレン系樹脂の表面に前記転写型を転写しつつ、前記シート状溶融樹脂を冷却固化する」となっていることから、シート形状になった溶融樹脂が二つのロールで挟圧されて冷却して固化されると同時に転写型である溝形状をシートに転写するものであり、本願発明1において「シート形状に冷却固化すると同時に」、当該シートの表面に「凹陥形状を設けた冷却ロールとニップロールとで加圧してシート表面に凸部形状を設けること」と同じ工程である。

以上の検討に基づくと、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致している。
(一致点)
「Tダイ付押出機と冷却ロールとニップロールと有する押出製膜装置を用いたエンボスクリアシートの製造方法において、溶融混練した熱溶融樹脂をTダイ付押出機で落とし、シート形状に冷却固化すると同時に、表面に一定の凹陥形状を設けた冷却ロールとニップロールとで加圧してシート表面に凸部形状を設けることを特徴とするエンボスクリアシートの製造方法。」

そして、本願発明1と引用発明とは次の点で相違している。
(相違点1)
本願発明1は、「剥離ロール」と「巻き取り機」をさらに有しているのに対し、引用発明は、そうであるか不明な点。

(相違点2)
Tダイ付押出機から熱溶融樹脂を落とす位置について、本願発明1では、「冷却ロール上に落と」すものであるのに対し、引用発明では、そうであるか不明な点。

(相違点3)
エンボスを形成するための冷却ロール表面の形状について、本願発明1では、「深度hが10?100μmであり、凹陥部間口寸法wが15?300μmであり、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離dが50?1000μmであり、凸部の点密度が1?300点/mm^(2)」であるのに対し、引用発明では、「互いに略平行に配された複数の溝を有し、溝の間隔が10?250μmであり、溝の深さが3?500μm」である点。

(2)本願発明1についての判断
相違点1について:
引用例の摘示ソにおける図1を参照すると、シート状樹脂は、「金属ロール」16の後に「冷却ロール」18に移動していることが看取される。ここで引用例の摘示クにより、当該「冷却ロール」はシート状樹脂を冷却するためのものであると解されるが、その引用例の図1に示された位置関係からみて、転写型を備えた「金属ロール」からシート状樹脂を剥離させる機能も同時に有していると解される。
また、引用例の摘示サには、シート状樹脂が冷却されたのちに、巻取機にて巻き取られる旨記載されている。
これらの引用例の記載事項を踏まえると、引用発明において、冷却機能も有する剥離ロールや巻き取り機をさらに設置することは、当業者であれば容易になし得たことである。

相違点2について:
まず、本願発明1における「冷却ロール上に落とし」という発明特定事項について検討する。当該発明特定事項の文言からみると、「冷却ロール」の上に落とすことが特定されているだけであるから、熱溶融樹脂が最初に「冷却ロール」上のみに落とされるものとは必ずしも解されず、「冷却ロール」と「ニップロール」の上に略同時に落とされる態様も含まれると解される。このことは、本願明細書の記載とも矛盾しない。すなわち、実施例1及び2の記載(段落【0031】?【0033】)を参照すると、まず実施例1では、Tダイからの溶融樹脂の落とし位置を冷却ロール側に移動させずに、すなわち移動距離0mmで実施したことが記載され、続いて実施例2において、当該移動距離が冷却ロール側に0mmから始まり120mmまでの幅でそれぞれシートを作成し、エンボス形状の再現性を評価したことが記載されている。これら実施例1及び実施例2はいずれも、本願発明1の具体的な実施態様として記載されているものと認められる以上、本願発明1には、溶融樹脂の落とし位置が冷却ロール側に移動していない、すなわち「冷却ロール」と「ニップロール」の上に略同時に落とされる態様も含まれると解される。なお、本願明細書の段落【0026】には、
「位置については熱溶融樹脂を冷却ロール上へ落とす位置が、前記冷却ロールとニップロールの接触位置から冷却ロール側に2?100mmずらすことで冷却ロールの凹陥形状に対して溶融樹脂が入り込みやすくなる為に、エンボス形状の再現性が高まる。この効果は特に高速生産において顕著に現れるので好適であるが、これら位置の調整が可能なものが好ましい。」
との記載があり、先にも述べたとおり本願明細書の実施例2では、溶融樹脂の落とし位置を一定の距離だけ冷却ロール側に移動させたほうが、好ましい評価結果となることは読み取れる。しかしながら、本願発明1における発明特定事項の記載及び実施例1と実施例2の記載からみて、「冷却ロール」と「ニップロール」の上に略同時に落とされる態様が、本願発明1から排除されているものとは認められない。また、本願明細書の図2を参照しても、Tダイ付押出機から熱溶融樹脂を落とす位置が冷却ロール側に移動している態様や、「ニップロール」ではなく「冷却ロール」上に当該熱溶融樹脂が先に落とされる態様を専ら表しているとまでは読み取れない。
そこで、引用発明について検討するに、引用例の摘示ソにおける図1を参照すると、Tダイから吐出されたシート状溶融樹脂は、弾性ロール14と冷却ロール16の略中間に落ちるように配置されており、それら二つのロール上に略同時に落ちるように配置されていることが看取される。したがって、引用発明1におけるシート状溶融樹脂の落とし方も、本願発明1でいうところの「冷却ロール上に落とし」という態様に包含されていると認められる。
よって、相違点2については実質的には相違していない。

相違点3について:
まず、本願発明1と引用発明における「転写ロール」の表面形状について検討する。引用発明の転写型は「略平行に配された複数の溝」で構成され、引用例の摘示シにも「いずれの転写型もプリズムレンズ(角柱レンズ)形状であり、図4に示すように各溝部が平行に等間隔(溝の間隔P)で構成されている。溝はいずれもロール周方向に平行である」と記載されていることからみて、ロール周方向に平行な線状形状の溝を意味していると解される。一方、本願発明1については、「点密度」についての発明特定事項が存在し、かつ本願の図1に示された冷却ロール表面の凹陥形状の説明図等も併せて考慮すると、当該凹陥形状によってシート上に頂点を有する突起が形成され得るものである。したがって、引用発明における転写型の溝の形状は、本願発明1における「点密度」で表現されるような頂点を形成し得る凹陥形状とは異なるものと認められる。
しかしながら、樹脂シートにエンボスを形成するに当たり、どのような形状のエンボスとするかは、製造コスト及び消費者の用途や嗜好等に応じて決定すべきものであり、原査定において引用文献3として提示された刊行物である特開平9-164592号公報の図5等にも記載されるとおり、突起状のエンボスを形成し得る転写ロール表面の凹陥形状も当該技術分野において周知であること(以下、「周知技術」という。)を考慮すると、引用発明の転写型の形状として、平行に配された溝の形状に代えて、突起状のエンボスを形成できる凹陥形状を有する転写型とすることは当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。また、上記特開平9-164592号公報のみならず、本願出願前に頒布されたことが明らかな特開2010-17878号の図1や特開2003-39545号公報の図4等の記載にあるとおり、本願出願前において、突起状のエンボスが形成された樹脂シートを製造することは当業者によく知られたものであったから、そのような形状を実現することに格別の技術的な困難性があったとも認められない。
また、当該凹陥形状によって形成されるシート上の突起の単位面積当たりの数についても、当業者が製造コストや消費者の用途、嗜好等に応じて適宜設定する事項にすぎないと認められる。そして、本願発明1において凸部の点密度を「1?300点/mm^(2)」の数値範囲とした点については、1mm^(2)当たり突起が1個のものから300個のものまで極めて広い範囲の数値範囲が定められているだけであり、かつ本願明細書の実施例1及び図1を参照しても、点密度として「1?300点/mm^(2)」という上限値と下限値に臨界的な意義があるとも認められない。
次に、本願発明1における凹陥部の深度は「10?100μm」であるところ、引用発明における溝の深さは「3?500μm」である、凹陥部と溝は一定の深さを有するものとしては共通するものであり、両者の数値範囲は「10?100μm」の範囲で重複一致しているから、この点は実質的には相違しておらず、また相違するとしても、深さをさらに変更することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
次に、本願発明1における「任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離」については、引用発明には直接記載されていないものの、両発明における型がいずれも凸部と凹部の規則的配列であるという点においては共通しているから、最短距離にある凸部間の距離は、当該凸部に対応した凹部を形成している溝の間隔であるとも解することができる。そうすると、両者の数値範囲は「50?250μm」の範囲で重複一致しているから、この点は実質的には相違しておらず、また相違するとしても、溝の間隔をさらに変更することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

さらに、本願発明1における「凹陥部間口寸法」については、引用例の摘示タにおいては、おおよそ溝の間隔Pと同程度の長さで描画されており、また、摘示シにおける表1をみると、溝の角度θが65?68度であることも考慮すると、引用発明における溝の間口寸法は、溝の間隔と同程度の長さにすることが引用例中に示唆されているといえる。かかる示唆に基づくと、当業者であれば、引用発明の溝の間口寸法を、溝の間隔と同程度の「10?250μm」とすることは容易になし得たことであり、これは、本願発明1における凹陥部間口寸法「15?300μm」と対比して「15?250μm」の範囲で重複一致するものである。また、これをさらに変更することも当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
そして、本願発明1において凹陥形状の深度を「10?100μm」の数値範囲とした点、凹陥部間口寸法を「15?300μm」の数値範囲とした点、任意の凸部の1点から最短距離にある他の凸部の1点までの距離を「50?1000μm」の数値範囲とした点については、本願明細書の段落【0028】や実施例等のすべての記載を参照しても、かかる数値範囲の上限値と下限値が臨界的な意義を有しているものとは認められない。
よって、相違点3については、引用例の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得た事項である。

(3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成28年9月7日提出の審判請求書の3.(4)において、本件補正後の請求項2に係る発明についての意見として次のとおり主張している。
「しかしながら、引用文献1に記載の発明は、段落0002、0046?0049,図4および図5に記載されますように、製造されるものは、平行な溝を形成するプリズムシートやレンズシートであり、一方、本願発明は、防滑性能、歩行時のスリップを防止でき、特に屋内において床材に使用される意匠性の高い複数の凸部からなるエンボスクリアシートであります。このように形成される凹凸構造が相違するのは、その目的が、引用文献1の光学的な透明性と精密性に対して、本願発明の歩行時の防滑性と生産性であり、本願発明の課題が防滑性を有する構造を正確に転写形成し、かつその生産性を高くすることができる製造方法を提供することあるからであります。
従いまして、本願の新請求項2に記載の発明は、引用文献1に記載の発明に基づき、容易になし得ないことは明らかであります。」

上記審判請求人の主張については、本願発明1における発明特定事項についても当てはまると認められるため、以下検討する。
引用発明は、確かにエンボスの形状として複数の平行な溝が形成された樹脂シートに係るものであるが、摘示アやウの記載をみても、表面形状を精度よく転写し、かつ透明性に優れる樹脂製シートの製造方法を提供するという課題を有するだけであって、樹脂製シートの特段の用途が定められたものとは認められない。なお、摘示イやサの記載は、あくまで用途の例としてプリズムシートを示しているにすぎず、専らそれに用いることが特定されているとは解されない。よって、引用発明が、上記課題によって、その転写型の表面形状が複数の平行な溝に限られなければならない理由はない。なお、仮にプリズムシートに用いるという用途を考慮するとしても、例えば本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開2005-144771号公報の段落【0001】や【0075】に記載されるとおり、プリズムシート等の光学機能を有するシートにおいて表面に立体模様を備えること、及び図3?5に示されるとおり線状の溝の形状のみならず突起が配列された形状のシートとすることは、いずれも本願出願前から当業者に知られた事項であったから、引用発明において突起を有するエンボス形状を形成するような転写型とすることは、依然として容易になし得たものであるという判断は変わらない。
一方、本願発明1の課題については、請求人は「歩行時の防滑性と生産性であり、本願発明の課題が防滑性を有する構造を正確に転写形成し、かつその生産性を高くすることができる製造方法を提供する」ことであると主張するが、当該主張は、請求項の記載に基づかないものであるし、仮に、審判請求人の主張するとおりであるとしても、先にも述べたとおり、引用発明の用途は特に限定されたものではないところ、当該引用発明においても一定の凹凸が存在する以上、それによって凹凸が無いよりは滑りにくいものとなることは、当業者であれば容易に予測できる事項である。そして、本願明細書の実施例を見ても、凹陥形状のパターン「A-1」ないし「D-2」のすべてが、凹凸形状を有しない場合よりも防滑性が高いことが示されているのみであって、本願発明1の構成を採用することによって、引用発明からは予測できない顕著な効果を奏するものとは認められない。
また、本願発明1の「生産性」に関する課題については、上記(2)の相違点2でも述べたとおり、本願発明1は溶融樹脂の落とし位置が「冷却ロール」側にずれていない態様も含むものであると解されるゆえ、そのような場合には、生産性に関する課題は引用発明でもすでに達成されているものと認められ、本願明細書の実施例等の記載を考慮しても、引用発明に比して、生産性の点で格別顕著な効果が奏されるとは認められない。
したがって、上記審判請求人の主張については、上記(2)の判断を覆す理由にはならない。

(4) 本願発明6についての対比
上記(1)?(3)のとおり、本願発明1については、当業者が容易に発明をすることができたものであるが、本件については事案に鑑み、念のため、本願発明6(本件補正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て有し、さらに限定された発明である。)についても検討することとする。
本願発明6と引用発明とを対比したときの一致点については、上記(1)で検討したことと同様の一致点があることに加え、引用発明の「ポリプロピレン系樹脂」は、本願発明6の「ポリプロピレンを主原料とする」樹脂に相当するものである。そうすると、本願発明6と引用発明との一致点は、次の点である。

(一致点)
「Tダイ付押出機と冷却ロールとニップロールと有する押出製膜装置を用いたエンボスクリアシートの製造方法において、溶融混練した熱溶融樹脂をTダイ付押出機で落とし、シート形状に冷却固化すると同時に、表面に一定の凹陥形状を設けた冷却ロールとニップロールとで加圧してシート表面に凸部形状を設けることを特徴とするエンボスクリアシートの製造方法であって、
前記熱溶融樹脂が、ポリプロピレン樹脂を主原料とするものである、
前記エンボスクリアシートの製造方法。」

そして、本願発明6と引用発明とは、上記(1)で述べた相違点1?3に加えて、次の点で相違している。
(相違点4)
ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートについて、本願発明6では、「JIS K7210:1999にて規定されるメルトフローレートが2?40」であるのに対し、引用発明ではメルトフローレートに関する特定がない点。

(相違点5)
熱溶融樹脂の押出溶融温度について、本願発明6では「180?290℃」であるのに対し、引用発明では溶融している旨の記載はあるものの温度についての記載がない点。

(5) 本願発明6についての判断
まず、相違点1?3については、先の(2)で検討したことと同様に、当業者が容易になし得た事項である。そして、相違点4及び5について以下検討する。

相違点4について:
引用例の適示エには、引用発明で用いられるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートに関して、次のとおり記載されている。
「メルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に従い測定される値(試験温度、公称荷重は、JIS K 7210の附属書B表1による)で、通常0.1g/10分?50g/10分程度であり、0.5g/10分?20g/10分程度であると好ましい。MFRがこのような範囲のポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、均一なシートを成形することができる。」
数値範囲に関して、本願発明6では「2?40」となっており、これはJIS K7210に基づき通常「g/10分」の単位で表されるものであるところ、引用例において「通常」の範囲として記載された範囲は0.1?50g/10分となっている。よって、両者は「2?40」の範囲で重複一致しているから、相違点4は実質的な相違点にはならない。また、仮にそれが相違点であるとしても、溶融樹脂のメルトフローレートは当業者が引用例の記載に基づいて適宜設定する事項であり、本願発明6の「2?40」という数値範囲については本願明細書の記載を参照しても、格別の臨界的意義があるものとは認められない。
なお、引用例にはJIS規格が「1999」であるか否かまでは記載されていないものの、引用例の出願年が2010年であることを考慮すると、当該引用例の記載に接した当業者であれば、まずはその当時の最新のJIS規格であったJIS K7210(1999)によってメルトフローレート(MFR)を測定することが自然であるから、当該JIS規格によって測定された値でメルトフローレート(MFR)を特定することは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

相違点5について:
引用例の摘示カには、Tダイから吐出される溶融ポリプロピレン系樹脂の温度は「180℃以上300℃以下であることが好ましい」と記載されている。一方、本願発明6では「180?290℃」であるから、両発明は「180?290℃」の範囲で重複一致していることになり、相違点5は実質的な相違点にはならない。また、仮にそれが相違点であるとしても、押出溶融温度は当業者が引用例の記載に基づいて適宜設定する事項であり、本願発明6の「180?290℃」という数値範囲については本願明細書の記載を参照しても、格別の臨界的意義があるものとは認められない。

(6) 小活
上記(1)、(2)で検討したとおり、本願発明1は、引用発明に基づき、引用例の記載および周知技術を踏まえて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、上記(3)、(4)で検討したとおり、本願発明1を溶融樹脂のメルトフローレートや押出溶融温度の点でさらに限定した本願発明6についても、引用発明に基づき、引用例の記載および周知技術を踏まえて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび

上記第4のとおり、本願発明1すなわち本願請求項1に係る発明、及び本願発明6すなわち本願請求項6に係る発明はいずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-15 
結審通知日 2017-08-22 
審決日 2017-09-07 
出願番号 特願2012-81035(P2012-81035)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (B29C)
P 1 8・ 573- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 574- Z (B29C)
P 1 8・ 572- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 拓也大塚 徹▲高▼橋 理絵  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 佐久 敬
小野寺 務
発明の名称 エンボスクリアシートの製造方法  
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