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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1333912
審判番号 不服2016-16814  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-09 
確定日 2017-10-26 
事件の表示 特願2013-532509「有機エレクトロルミネッセンス素子、照明装置及び表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月14日国際公開、WO2013/035490〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2012年8月10日を国際出願日(優先権主張 平成23年9月7日)とする出願であって、平成28年1月28日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月23日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年8月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月9日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成28年3月23日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「支持基板上に、カソード、発光層及び該カソードの外側(発光層と反対側)に隣接して隣接層を有し、該カソードは金属を含有する層から成り透明で、かつ膜厚が2nm以上、10nm未満であり、該カソードの主成分が銀であり、該カソードの波長550nmでの光透過率が50%以上であり、該隣接層は屈折率が1.6以上、1.95以下、膜厚が15nm以上、180nm以下で、かつ光散乱粒子を含有しないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」(以下「本願発明」という。)

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし15に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2010-102983号公報
引用文献2.国際公開第2010/089683号
引用文献3.特開2010-98223号公報
引用文献4.特開2001-102175号公報
引用文献5.特開2010-40211号公報

その拒絶の理由の詳細は、概ね、以下のとおりである。
本願発明と引用発明とは、前者は、透明なカソードの膜厚が、2nm以上10nm未満であり、カソードの主成分が銀であり、カソードの波長550nmでの光透過率が50%以上であるのに対して、後者は、陰極層126の膜厚を薄くすることのみ記載されている点で相違し、その余の点は一致する。
上記相違点について検討する。
引用文献2の第3頁第31行目-第4頁第18行目に、対向電極(Ag)を透明にするため(すなわち、波長380nm?780nmの可視光領域の光透過率を高めるため)(また、本願明細書の段落[0039]の「透明とは、波長550nmでの光透過率が50%以上であることをいう。」も参照されたい。)、膜厚を5?15nmとすることが記載されているように、金属(Ag等)よりなる電極を透明にするために、膜厚を2nm以上10nm未満の範囲内とすることは周知の事項である。
そうすると、引用発明の「半透明導電材料よりなる陰極層126」の膜厚を2nm以上10nm未満とし、カソードの主成分が銀、カソードの波長550nmでの光透過率が50%以上の構成とすることは、当業者が容易になし得る事項である。
したがって、請求項1に係る発明は引用文献1-2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 引用例の記載事項
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特開2010-102983号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に形成され、電荷輸送材料を含有し、正孔と電子とを結合させて発光する有機機能層と、
前記支持基板上であって、前記有機機能層と空隙を介して併設される絶縁層と、
前記有機機能層上から前記空隙を介して前記絶縁層上にまで連続して形成され、モル質量が前記電荷輸送材料のモル質量よりも小さい分子性物質を含む有機キャッピング層と、
を備える有機EL素子。
【請求項2】
前記分子性物質のモル質量が429g/mol以下である請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記分子性物質がナフタレン、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴフェニル誘導体、リチウム錯体及び亜鉛錯体、並びにナフタレンにさらに別の環がオルト縮合又はペリ縮合したナフタレン誘導体からなる群より選択される請求項1又は請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記有機キャッピング層が前記分子性物質を25重量%以上含む請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記有機キャッピング層の融点が175℃以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記有機キャッピング層が混合物である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記有機キャッピング層の吸収ピーク波長が321nm以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記有機キャッピング層のエネルギーギャップが3.3eV以上である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記有機キャッピング層が電子輸送性材料からなる請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項10】
支持基板と、
前記支持基板上に形成される第1電極層と、
前記第1電極層上に形成され、電荷輸送材料を含有し、正孔と電子とを結合させて発光する有機機能層と、
前記有機機能層を被覆する第2電極層と、
モル質量が前記有機機能層を構成する電荷輸送材料のモル質量よりも小さい分子性物質を含む有機キャッピング層と、
を備え、
平面視して前記有機機能層と前記第2電極層とが重なる領域に凹部が形成され、前記有機キャッピング層が前記凹部を充填する有機EL素子。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に示すように、一対の電極層で挟まれる発光層を含む有機機能層を支持基板の主面に設け、光の取り出し効率を高めるための有機キャッピング層をさらにその上に重ねて設けた有機EL素子が提案されている。特許文献1,2は、有機キャッピング層をα-NPD、TPD又はm-MTDATAで構成すること、有機キャッピング層の有機材料のガラス転移点Tgを有機機能層を構成する各層の有機材料よりも低くし、有機キャッピング層の有機材料を蒸着した後に有機機能層を流動化させずに有機キャッピング層を流動化させることに言及している。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<1 有機EL素子102の構造>
(1.1)有機EL素子102の概略;
図1及び図2は、本発明の実施形態の有機EL素子102の模式図である。図1は、有機EL素子102の平面図、図2は、有機EL素子102の断面図となっている。図1及び図2に示す有機EL素子102は、画像を表示する画像表示装置に用いられる。
【0020】
図1及び図2に示すように、有機EL素子102は、支持基板104の上面に複数の層を備える積層体106を設け、積層体106が設けられていない周辺部において支持基板104の上面と封止基板108の下面とをシール体110で接合し、支持基板104の上面と封止基板108の下面との間隙に積層体106を収容した構造を有する。
・・・略・・・
【0024】
<2 積層体106>
(2.1)積層体106の概略;
図3は、支持基板104及び積層体106を拡大した模式図である。図3は、支持基板104及び積層体106の断面図となっている。なお、図3に示す積層体106の積層構造は一例に過ぎず、必要に応じて変形される。特に、後述する有機キャッピング層128と支持基板104との間の積層構造は、有機電界発光装置102の仕様に応じて変形される。
【0025】
図3に示すように、積層体106は、駆動信号を伝達する回路層112と、回路層112を保護する絶縁保護膜114と、回路層112及び絶縁保護膜114による凹凸を緩和する平坦化層116と、正孔を供給する陽極層118と、正孔を輸送する正孔輸送層120と、正孔と電子とを結合させて光を発する発光層122と、電子を輸送する電子輸送層124と、電子を供給する陰極層126と、界面における光の反射を抑制し下の層を保護する有機キャッピング層128と、下の層を保護する無機パッシベーション層130と、陽極層118と陰極層126とを絶縁する絶縁層132と、陰極層126と回路層112とを導通させる陰極コンタクト層134と、陰極層126を分割する隔壁136とを備える。」

エ 「【0029】
(2.3)陽極層118及び陰極コンタクト層134;
第1電極層としての陽極層118は、平坦化層116の上面に設けられる。陰極コンタクト層134は、陰極コンタクトホール1160の底に露出している回路層112から陰極コンタクトホール1160の内壁を経て平坦化層116の上面の陰極コンタクトホール1160を囲む領域までの範囲に延在する。陽極層118と陰極コンタクト層134との間には間隙がある。このため、陽極層118と陰極コンタクト層134とは絶縁される。
【0030】
陽極層118及び陰極コンタクト層134は、例えば、Al(アルミニウム)、Ag(銀)又はRh(ロジウム)等の金属を主成分とする合金等の導電材料で構成される。陽極層118の可視光に対する光反射率は、例えば30%以上100%以下となるように設定されている。」

オ 「【0032】
(2.5)正孔輸送層120、発光層122及び電子輸送層124(有機機能層138);
正孔輸送層120、発光層122及び電子輸送層124は、陽極層118の上面にこの順序で下側から上側へ向かって重ねて設けられる。陽極層118から供給された正孔は、正孔輸送材料によって構成された正孔輸送層120によって発光層122へ輸送され、陰極層126から供給された電子は、電子輸送材料によって構成された電子輸送層124によって発光層122へ輸送される。これにより、発光層122において正孔と電子とが再結合し、光を発する。
【0033】
正孔輸送層120、発光層122及び電子輸送層124からなり電子及び正孔を輸送及び再結合させる機能を有する有機機能層138は、開口1320上に形成される。理想的な状態においては、有機機能層138の両端は開口1320の内壁の上にある。これにより、陰極層126を設ける面の段差が小さくなり、陰極層126並びにその上面に重ねて設けられる領域において、有機キャッピング層128及び無機パッシベーション層130が段切れすることなく連続して成膜される。
【0034】
正孔輸送層120は、例えば、α-NPD(4,4′-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル)等の芳香族ジアミン化合物、又はポリエチレンジオキシチオフェン等の正孔輸送性の材料で構成される。
【0035】
電子輸送層124は、例えば、Alq_(3)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)-4-(フェニルフェノラト)アルミニウム、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、テトラヒドロイミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、スチルベン誘導体又はピラゾリン誘導体等の電子輸送性の材料で構成される。」

カ 「【0043】
(2.7)陰極層126、有機キャッピング層128及び無機パッシベーション層130;
第2電極層としての陰極層126、有機キャッピング層128及び無機パッシベーション層130は、上述した支持基板104、回路層112、絶縁保護膜114、平坦化層116、陽極層118、陰極コンタクト層134、絶縁層132、隔壁136及び有機機能層138からなる構造体の上面にこの順序で下側から上側に重ねて設けられる。ただし、隔壁136の側面及びその根元付近以外には陰極層126、有機キャッピング層128及び無機パッシベーション層130が重ねて設けられる。
【0044】
陰極層126は、発光領域182において有機機能層138の上面に接触する。これにより、有機機能層138を挟んで陽極層118と陰極層126とが対向する発光体が形成される。また、陰極層126は、陰極コンタクト位置183において陰極コンタクト層134の上面に接触する。これにより、回路層112から陰極コンタクト層134を経て陰極層126へ駆動電流が供給される。
【0045】
陰極層126は、例えば、酸化亜鉛含有酸化インジウム又はITO(酸化スズドープ酸化インジウム)等の透明導電材料で構成される。又は、Mg(マグネシウム)等のアルカリ土類金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は希土類金属を含む合金等の仕事関数が小さい半透明導電材料で構成される。無機パッシベーション層130は、例えば、SiN_(x)(窒化ケイ素)、SiO_(x)(酸化ケイ素)又はSiO_(x)N_(y)(酸化窒化ケイ素)等の無機材料で構成される。なお、無機パッシベーション層130の厚みは、例えば0.5μm以上10μm以下に設定されている。
【0046】
半透明導電材料で陰極層126を構成する場合、陰極層126の膜厚は、光を透過しやすくするために薄くすることが望ましく、例えば、10nm以上200nm以下に設定されている。有機キャッピング層128の層厚は、概ね、50nm以上500nm以下に設定されている。」

キ 「【0047】
(2.8)有機キャッピング層128を構成する有機材料;
・・・略・・・
【0057】
(e)導電型;
有機キャッピング層128は、電子輸送層と同様の電子輸送性の物質からなる有機材料で構成することが望ましい。これにより、有機キャッピング層128の有機材料が電子輸送層124へ拡散しても電子輸送層124の電子移動度を低下させたり正孔の陰極への漏洩を助長したりすることがないので、有機EL素子102の発光効率の低下及び駆動電圧の上昇が抑制される。このような電子輸送性の物質は、共役電子系を有する分子からなる物質に多く存在する。
【0058】
なお、有機機能層138が電子輸送層を備えない層構造を採用したとしても、発光層の陰極層寄りの部分は電子輸送性を有していなければならない。このため、有機機能層138が電子輸送層を備えない層構造を採用したとしても、電子輸送性の物質からなる有機材料で有機キャッピング層128を構成すれば、有機キャッピング層の有機材料が電子輸送性を有する部分へ拡散しても、有機EL素子102の発光効率の低下及び駆動電圧の上昇が抑制される。
【0059】
有機キャッピング層128を電子輸送性の物質からなる有機材料で構成することは、陰極層126の光透過性を向上するために陰極層126を非常に薄く、例えば、陰極層126の層厚を15nm以上20nm以下にした場合に特に意義を有する。陰極層126を薄くすると、有機キャッピング層の有機材料が電子輸送層124へ拡散しやすくなるからである。
・・・略・・・
【0064】
(g)有機キャッピング層128の有機材料に含まれる分子性物質の望ましい例;
有機キャッピング層128の有機材料に含まれるモル質量が429g/mol以下、融点Tmが175℃以下で電子輸送性の分子性物質の望ましい例を説明する。
【0065】
当該分子性物質の第1の例は、オキサジアゾール誘導体である。望ましいオキサジアゾール誘導体には、化学式(1)に示す融点Tmが168℃、モル質量が298.3g/molの2-(4-ビフェニル)-5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール、化学式(2)に示す融点Tmが150℃、モル質量が364.4g/molの2,5-ビス(4′-ジエチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、化学式(3)に示す融点Tmが139℃、モル質量が222.2g/mol、吸収ピーク波長282nmの2,5-ジフェニル-1,3,4-オキサジアゾール、化学式(4)に示す融点Tmが139℃、モル質量が354.4g/mol、吸収ピーク波長305nmの2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(ブチルPBD)等がある。
・・・略・・・
【0076】
当該分子性物質の第5の例は、リチウム錯体である。望ましいリチウム錯体には、化学式(8)に示すモル質量が151.1g/mol、吸収ピーク波長261nmの(8-ヒドロキシキノリナト)リチウム等がある。
【0077】
【化8】

・・・略・・・
【0081】
(h)結晶化しやすさ;
有機キャッピング層128の有機材料は、結晶化しにくい有機材料であることが望ましい。有機キャッピング層128の内に大きな結晶が生じると、かかる結晶中を物質が通過しやすくなるので、有機キャッピング層128の封止性能が低下する傾向が見られるからである。有機キャッピング層128の封止性能が低下すると、CVD法で用いられるプラズマに含まれる化学的反応性の高いラジカル種又は原料ガスが、陰極層126、電子輸送層124、発光層122、正孔輸送層120又は陽極層118の少なくとも一部に侵入し、これらの層の機能を損なう可能性がある。また、有機EL素子102の使用時に、有機EL素子102を構成する部材からのアウトガス、水分又は酸素等が、陰極層126から陽極層118の少なくとも一部に侵入し、これらの層の機能を損なう可能性がある。また、有機キャッピング層128の中に大きな結晶が生じると、結晶で光が散乱し、有機キャッピング層128の光の透過性が低下する傾向が見られるからである。したがって、有機キャッピング層128の有機材料は、結晶が小さい微結晶となりやすい有機材料であることが望ましく、結晶がない非晶質となりやすい有機材料であることが望ましい。」

ク 「【0092】
<3 有機EL素子102の製造>
図9は、有機EL素子102の製造の流れを示すフローチャートである。なお、以下で説明する各層の形成は、公知のPVD(Physical Vapor Deposition)法・CVD法・スピンコート法・インクジェット法等の成膜技術及びフォトリソグラフィ法等のパターニング技術を材料に応じて適宜採用して行う。
【0093】
図9に示すように、有機EL素子102の製造にあたっては、まず、有機機能層138を挟んで陽極層118と陰極層126とが対向する積層構造体を支持基板104の上に作製する。
【0094】
当該積層構造体の作製にあたっては、まず、回路層112、絶縁保護膜114及び平坦化層116を順次形成する(ステップS101?S103)。続いて、陽極層118及び陰極コンタクト層134を形成する(ステップS104)。陽極層118及び陰極コンタクト層134を別々に形成してもよい。さらに続いて、絶縁層132及び隔壁136を順次形成する(ステップS105,S106)。最後に、有機機能層138及び陰極層126を順次形成する(ステップS107,108)。
【0095】
このようにして作製した積層構造体の上面に有機キャッピング層128の有機材料を蒸着する(ステップS109)。有機キャッピング層128の有機材料の融点Tmが低い場合、有機材料を蒸着源から飛散させるときに有機材料を融解させることは容易である。また、有機キャッピング層128の有機材料の融点Tmが低い場合、有機材料の飛散が固体からの昇華ではなく液体からの蒸発により行われるので、有機材料を収容するルツボの内部の温度が均一になって有機材料の突沸が抑制される。有機材料の突沸が抑制されることには、蒸着膜の膜厚にバラツキが生じることや蒸着膜にピンホールが生じることが抑制されるという利点がある。さらに、有機キャッピング層128の有機材料の融点Tmが低い場合、有機材料の飛散が液体からの蒸発により行われるので、有機材料を収容するルツボの内部の材料の分布が均一になって、長時間連続で蒸着を行っても蒸着レートが不安定にならない。蒸着レートが安定していることには、蒸着膜の膜厚が設計からずれたり膜厚にバラツキが生じることが抑制されるという利点がある。
【0096】
続いて、このようにして得られた蒸着膜を流動化又は融解させる(ステップS110)。蒸着膜を流動化又は融解させるときには、有機機能層138を構成する各層を流動化及び融解させないようにする。すなわち、仕掛品を、有機キャッピング層128の有機材料の融点Tm又はガラス転移点Tg以上の温度であって、有機機能層138を構成する各層の有機材料の融点Tm及びガラス転移点Tgより低い温度に加熱する。これにより、有機機能層138を熱で損傷することなく、異物の包理や層間応力の緩和を行うことができる。このことは、有機機能層138の周辺にある積層構造の乱れを緩和し、発光体の内部に残留する酸素で発光体を構成する物質が酸化されて発光体を劣化することに役立つ。
【0097】
さらに続いて、蒸着膜を再び固化して有機キャッピング層128を完成する(ステップS111)。」

ケ 「【図1】

【図2】

【図3】



コ 上記アないしケからみて、引用例には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「支持基板104の上面に複数の層を備える積層体106を設けた有機EL素子102であって、
積層体106は、駆動信号を伝達する回路層112と、回路層112を保護する絶縁保護膜114と、回路層112及び絶縁保護膜114による凹凸を緩和する平坦化層116と、正孔を供給する陽極層118と、正孔を輸送する正孔輸送層120と、正孔と電子とを結合させて光を発する発光層122と、電子を輸送する電子輸送層124と、電子を供給する陰極層126と、界面における光の反射を抑制し下の層を保護する有機キャッピング層128と、下の層を保護する無機パッシベーション層130と、陽極層118と陰極層126とを絶縁する絶縁層132と、陰極層126と回路層112とを導通させる陰極コンタクト層134と、陰極層126を分割する隔壁136とを備え、
有機機能層138を構成する正孔輸送層120、発光層122及び電子輸送層124は、陽極層118の上面にこの順序で下側から上側へ向かって重ねて設けられ、
陰極層126、有機キャッピング層128及び無機パッシベーション層130は、支持基板104、回路層112、絶縁保護膜114、平坦化層116、陽極層118、陰極コンタクト層134、絶縁層132、隔壁136及び有機機能層138からなる構造体の上面にこの順序で下側から上側に重ねて設けられ、
陰極層126は、仕事関数が小さい半透明導電材料で構成され、半透明導電材料で陰極層126を構成する場合、陰極層126の膜厚は、光を透過しやすくするために薄くすることが望ましく、例えば、10nm以上200nm以下に設定され、有機キャッピング層128の層厚は、概ね、50nm以上500nm以下に設定され、
有機キャッピング層128の有機材料に含まれる分子性物質は、下記化学式(8)に示す(8-ヒドロキシキノリナト)リチウムである、
有機EL素子102。

【化8】

」(以下「引用発明」という。)

(2)周知の事項
ア 国際公開第2010/089683号
原査定で引用文献2として引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2010/089683号(以下、「周知例1」という。)には次の記載がある。
(ア)「FIELD OF THE INVENTION

This invention relates to an electroluminescent device according to the preamble of the claim 1, comprising a substrate and on top of the substrate a substrate electrode, a counter electrode and an electroluminescent layer stack with at least one organic electroluminescent layer arranged between the substrate electrode and the counter electrode, and an encapsulation means encapsulating at least the electroluminescent layer stack, the electroluminescent device comprises at least one contact means, for electrically contacting the counter electrode to an electrical source. Furthermore, the invention relates to a method for protecting a substrate electrode of an electroluminescent device according to claim 10.」(1頁9行ないし18行、なお、行数は左欄の表示された行数から数えている。以下同様。)
(日本語訳)
「技術分野

本発明は、エレクトロルミネッセンス装置に関する。該装置は基板と前記基板上の基板電極と、対向電極及び前記基板電極と前記対向電極の間に設けられる少なくともひとつの有機エレクトロルミネッセンス層を持つエレクトロルミネッセンス層スタック、及び前記エレクトロルミネッセンス層スタックを少なくとも被包する被包手段を含み、かつ該装置が、前記対向電極を電源に接続するための少なくともひとつの接触手段を含む。さらに本発明は、エレクトロルミネッセンス装置の基板電極を保護する方法に関する。」
(イ)「In the context of the invention the notion counter electrode denotes an electrode away from the substrate. It is usually non-transparent and made of Al or Ag layers of sufficient thickness such that the electrode is reflecting (typically 100 nm for Al and 100-200 nm for Ag). It is usually the cathode, but it can also be biased as the anode. For top-emitting or transparent electroluminescent devices the counter electrode has to be transparent. Transparent counter electrodes are made of thin Ag or Al layers (5-15 nm) or of ITO layers deposited on top of the other previously deposited layers.
In the context of the invention an electroluminescent device with a combination of a transparent substrate, a transparent substrate electrode and a non- transparent counter electrode (usually reflective), emitting the light through the substrate is called "bottom-emitting". In case of electroluminescent device comprising further electrodes, in certain embodiments both substrate and counter electrodes could be either both anodes or both cathodes, when the inner electrodes as driven as cathodes or anodes. Furthermore, in the context of the invention an electroluminescent device with a combination of a non-transparent substrate electrode and a transparent counter electrode, emitting the light through the counter electrode is called "top-emitting".
In the context of the invention the notion transparent electroluminescent device denotes an electroluminescent device, where the substrate, the substrate electrode, the counter electrode and the encapsulation means are transparent. Here the electroluminescent device is both, bottom and top-emitting. In the context of the invention a layer, substrate or electrode is called transparent if the transmission of light in the visible range is more than 50%; the rest being absorbed or reflected. Furthermore, in the context of the invention a layer, substrate or electrode is called semi-transparent if the transmission of light in the visible range is between 10% and 50%; the rest being absorbed or reflected. In addition, in the context of the invention light is called visible light, when it possesses a wavelength between 450 nm and 650 nm. In the context of the invention light is called artificial light, when it is emitted by the organic electroluminescent layer of the electroluminescent device.」(4頁12行ないし5頁8行)
(日本語訳)
「本発明において、対向電極とは、基板から離れた電極を意味する。通常は非透明であり、Al又はAg層で十分な厚み(通常、Alについて100nm、Agについて100?200nm)を有し、該電極は反射性である。通常はカソードであるが、またアノードとしてバイアスされることもできる。上部発光又は透明エレクトロルミネッセンス装置については、対向電極は透明である必要がある。透明対向電極は、Ag又はAl層(5?15nm)又はITO層からなり、他の既に堆積された層の上に堆積される。
本発明において、透明基板、透明基板電極及び非透明対向電極(通常反射性)を持つエレクトロルミネッセンス装置は、基板を通じて発光し、かかる基板は「ボトム発光」といわれる。さらなる電極を含むエレクトロルミネッセンス装置の場合において、ひとつの実施態様では、当該内部電極がカソード又はアノードとして駆動される場合には基板及び対向電極ともアノード又はカソードになり得る。さらに、本発明において、非透明基板及び透明対向電極を持つエレクトロルミネッセンス装置は対向電極を通じて発光し、「トップ発光」といわれる。
本発明において、透明エレクトロルミネッセンス装置とは、エレクトロルミネッセンス装置であって、基板、基板電極、対向電極及び被包手段が透明であるものを意味する。ここで、エレクトロルミネッセンス装置は、ボトム発光でもあり、トップ発光でもある。本発明において、層、基板又は電極は、可視領域の光の透過度が50%よりも高いものを意味し、残りは吸収されるか反射される。さらに、本発明において、層、基板又は電極が半透明であるとは、可視領域の光の透過度が10%?50%の範囲であるものを意味し、残りは吸収されるか反射される。さらに、本発明において、光は可視光を意味し、450nm?650nmの波長を持つ。本発明において、光が、エレクトロルミネッセンス装置の有機エレクトロルミネッセンス層から発光される場合には人工光と呼ばれる。」

イ 国際公開第2010/113084号
本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2010/113084号(以下、「周知例2」という。)には次の記載がある。
(ア)「FIELD OF THE INVENTION

The invention relates to an OLED comprising a stack of layers, the stack comprising a light emitting layer arranged between a cathode layer and an anode layer, the stack being arranged on a substrate.
The invention further relates to a patterned OLED and to a light source.」(1頁5行ないし9行、なお、行数は左欄に表示された行数から数えている。以下同様。)
(日本語訳)
「技術分野

本発明は、層スタックを含むOLEDに関し、前記スタックは、カソード層及びアノード層間に設けられた発光ダイオードを含み、前記スタックは基板上に設けられる。本発明はさらに、パターン化OLED及び光源に関する。」
(イ)「In a preferred embodiment according to the invention, the cathode layer and the buckling reducing layer are at least partially transparent to visible light. When the cathode layer and the buckling reducing layer are transparent to visible light, the OLED can emit light in the direction of the cathode, possibly in addition to emitting light in the direction of the anode. Moreover, such an OLED can be at least partially transparent to visible light. In the latter case, the stack of layers, the substrate and the buckling-reducing layer are also at least partially transparent to visible light.
The cathode layer in a transparent OLED is typically a thin silver layer, e.g., 10 nm of silver. Such materials are especially sensitive to buckling. Because such materials are thinner they have a lower capacity for absorbing heat-energy. Also thin materials are damaged more easily. By applying a buckling reducing layer which is also transparent to light, the buckling in this type of OLED can be significantly reduced. Transparent buckling reducing layers may be fabricated from known materials, for example, the buckling-reducing layer may comprise at least one material out of the following list of materials: solgel, spin-on glass or epoxy, Aluminum Nitride, Silicium Nitride, SiNx:H, Aluminum Oxide, Aluminum oxynitride, silicon oxide or silicon oxynitride .」(6頁22行ないし7頁3行)
(日本語訳)
「本発明の好ましい実施態様において、前記カソード層及び前記バックリング減少層は少なくとも可視光について少なくとも部分的に透明である。前記カソード層及び前記バックリング減少層は可視光について透明であり、OLEDは前記カソードの方向に発光することができる。また前記アノードの方向にも加えて発光することもできる。さらに、かかるOLEDは可視光について少なくとも部分的に透明である。後者の場合、層スタック、基板及び前記バックリング減少層はまた、少なくとも部分的に可視光について透明である。
透明OLEDの前記カソード層は通常薄い例えば10nmの銀層である。かかる材料は特にバックリングに対し敏感である。かかる材料は薄いことから熱吸収については低い容量を持つ。また薄い材料はより容易に損傷を受ける。光に透明なバックリング減少層を適用することで、このタイプのOLEDのバックリングは大きく減少させることができる。透明バックリング減少層は知られた材料から製造することができる。例えば前記バックリング減少層は、ゾルゲル、スピンオンガラス又はエポキシ、アルミニウム窒化物、珪質窒化物、SiNx:H、アルミニウム酸化物、アルミニウム酸化窒化物、シリコン酸化物又はシリコン酸化窒化物を含む群から選択される少なくともひとつの材料を含む。」

ウ 特開2006-332653号公報
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-332653号公報(以下、「周知例3」という。)には次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本開示は、さまざまな例示的実施形態において、薄い(薄層)金属-有機材料混合層(MOML)を備えた表示デバイスに関する。薄い金属-有機材料混合層は、有機マトリックス材料中に金属粒子を含む。薄い金属-有機材料混合層は、特に有機発光デバイス(OLED)に関連して記載されているが、薄い金属-有機材料混合層は、他の同様の用途および表示デバイスに適用できることが理解されるはずである。」
(イ)「【0047】
実質的に透明な陰極は、Mg、Ag、Al、Ca、In、Liなどの、約2eVから約4eVの範囲の仕事関数を有する金属、およびそれらの合金、例えば、約80から95体積%のMgと約20から約5体積%のAgとからなるMg:Ag合金、および、例えば、約90から99体積%のAlと約10から約1体積%のLiとからなるLi:Al合金などの合金を含み、例えば、約10Åから約200Åの、実施形態では、約30Åから約100Åの厚さを有する、非常に薄い実質的に透明な金属層を備えることができる。勿論、この範囲外の厚さも使用することができる。」

エ 特開2006-252843号公報
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-252843号公報(以下、「周知例4」という。)には次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関するものである。」
(イ)「【0004】
Top-Em型有機エレクトロルミネッセンス素子において、上部電極は十分な光透過性を有する必要がある。そのため、一般に、可視光に対して透過率が大きく、かつ大きな電気伝導性を示す物質からなる透明導電性を有する上部電極として使用する。透明導電性を有する陰極には、Au、Ag、Cu、Pt、Ph、Alなどの金属薄膜層(一般に、膜厚は5nm以下)、SnO_(2)、TiO_(2)、CdO、In_(2)O_(3)、ZnOなどの酸化物半導体薄膜およびそれらの複合系であるITO(インジウム-スズ酸化物)、IZO(インジウム-亜鉛酸化物)などの透明導電層を用いている。」

オ 周知例1ないし4から把握される周知技術
上記アないしエからみて、本願の優先日前に、「有機エレクトロルミネッセンス素子において、カソードとして膜厚が3?10nm程度の透明な銀薄膜層を用いること」は周知(以下、「周知技術」という。)であったと認められる。

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「支持基板104」、「陰極層126」、「発光層122」及び「有機EL素子102」は、それぞれ本願発明の「支持基板」、「カソード」、「発光層」及び「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

(2)引用発明において、「支持基板104」(本願発明の「支持基板」に相当。以下「」に続く()は対応する本願発明の用語を表す。)の上面に複数の層を備える積層体106を設け、該積層体106は、「発光層122」(発光層)、「陰極層126」(カソード)、「有機キャッピング層128」をその順に備えており、該「有機キャッピング層128」は、「陰極層126」(カソード)の上側に重ねて、すなわち上側に隣接して設けられている。そうすると、引用発明の「有機キャッピング層」は、本願発明の「カソードの外側(発光層と反対側)に隣接し」た「隣接層」に相当するといえる。してみると、引用発明は、本願発明の「支持基板上に、カソード、発光層及び該カソードの外側(発光層と反対側)に隣接して隣接層を有し」との構成を備える。

(3)ア 本願の明細書の【0404】【表2】には、有機EL素子No.44における隣接層の材料がLiq(「リチウムキノラート」あるいは引用例での呼称である「(8-ヒドロキシキノリナト)リチウム」ともいう。)であり、このLiqからなる隣接層の屈折率が「1.72」であることが記載されている。また、本願の明細書の【0372】及び【0373】には、隣接層がLiqを蒸着することにより形成されていることが記載されている。
イ 引用発明の「有機キャッピング層」(隣接層)は、その有機材料に含まれる分子性物質が化学式(8)に示す(8-ヒドロキシキノリナト)リチウムであり、引用例1の【0092】ないし【0097】(上記4(1)ク)の記載からみて、「有機キャッピング層」(隣接層)が(8-ヒドロキシキノリナト)リチウムを蒸着することにより形成されているといえるから、上記アの事項をも考慮すれば、「有機キャッピング層」(隣接層)の屈折率は1.72といえる。そうすると、引用発明は、本願発明の「隣接層は屈折率が1.6以上、1.95以下」との構成を備える。

(4)引用発明の「有機キャッピング層」(隣接層)は、膜厚が50nm以上500nm以下に設定され、本願発明の「隣接層」は、「膜厚が15nm以上、180nm以下で」あるから、引用発明の「有機キャッピング層」(隣接層)と、本願発明の「隣接層」とは、「膜厚が50nm以上、180nm以下」である点で一致する。

(5)引用例1には、有機キャッピング層に粒子を含有することについての記載はなく、また、【0081】(上記4(1)キ)にも、有機キャッピング層に用いる有機材料として、結晶化しにくい有機材料が好ましいことが明示され、粒子を含有するものとは解されないから、引用発明は、本願発明の「隣接層は」「光散乱粒子を含有しない」との構成を備える。

(6)上記(1)ないし(5)から、本願発明と引用発明とは、
「支持基板上に、カソード、発光層及び該カソードの外側(発光層と反対側)に隣接して隣接層を有し、該隣接層は屈折率が1.6以上、1.95以下であり、膜厚が50nm以上、180nm以下で、かつ光散乱粒子を含有しない、
有機エレクトロルミネッセンス素子。」である点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点1:
本願発明では、「カソードは金属を含有する層から成り透明で、かつ膜厚が2nm以上、10nm未満であり、該カソードの主成分が銀であり、該カソードの波長550nmでの光透過率が50%以上であ」るのに対し、
引用発明では、陰極層126(カソード)は、仕事関数が小さい半透明導電材料で構成され、膜厚が光を透過しやすくするために薄くすることが望ましく、例えば、10nm以上200nm以下に設定されているものの、陰極層が銀を含有するかどうか、また、波長550nmでの光透過率が50%以上であるかどうかは明らかでない点。

相違点2:
本願発明では、「隣接層」の「膜厚が15nm以上、180nm以下である」のに対し、
引用発明では、「有機キャッピング層128」(隣接層)の膜厚は50nm以上500nm以下である点。

6 判断
(1)上記相違点1について検討する。
ア 上記4(2)で示したように、有機エレクトロルミネッセンス素子において、カソードとして膜厚が3?10nm程度の透明な銀薄膜層を用いることは周知技術である。また、周知例1(上記4(2)ア(イ))には、「透明」とは、可視光の透過度が50%より高いものであることが記載されている。
イ 引用例の【0059】(上記4(1)キ)には、「陰極層126の光透過性を向上するために陰極層126を非常に薄く、例えば、陰極層126の層厚を15nm以上20nm以下にした場合に特に意義を有する。陰極層126を薄くすると、有機キャッピング層の有機材料が電子輸送層124へ拡散しやすくなる」と記載されている。これに対し、引用例の【0057】及び【0058】(上記4(1)キ)には、有機キャッピング層128は、電子輸送層と同様の電子輸送性の物質からなる有機材料で構成すると、有機キャッピング層128の有機材料が電子輸送層124へ拡散しても電子輸送層124の電子移動度を低下させたり正孔の陰極への漏洩を助長したりすることがないので、有機EL素子102の発光効率の低下及び駆動電圧の上昇が抑制されることが記載されている。そうすると、引用例において、陰極層126を薄くすると、有機キャッピング層の有機材料が電子輸送層124へ拡散しやすくなるものの、有機キャッピング層128を電子輸送層と同様の電子輸送性の物質からなる有機材料で構成すれば、有機キャッピング層128の有機材料が電子輸送層124へ拡散しても電子輸送層124の電子移動度を低下させたり正孔の陰極への漏洩を助長したりといった不具合が生じにくいといえる。そうすると、引用発明において、陰極層126の膜厚を例示された範囲の下限である10nmよりさらに薄くすることに阻害要因があるとはいえない。
ウ 引用発明の陰極層126(カソード)は光を透過しやすくするために薄くすることが望ましいところ、上記イからみて、引用発明において、陰極層126をさらに薄くするとともに、その材料として銀を採用すること、具体的には、上記アで示した周知技術を適用することは当業者が適宜なし得たことである。そして、カソードの膜厚が10nm未満であることに臨界的意義があるとはいえず、10nmを基準に9.9nmであるか10.1nmであるかで、奏する効果に格別の相違があるともいえないから、カソードの膜厚の上限を「10nm未満」とすることも当業者が適宜なし得たことである。
エ 上記アのように、「透明」とは、可視光の透過度が50%より高いものを意味するともいえ、可視光のうち中心波長範囲内にあるといえる波長550nmにおいて、光透過率を50%以上となすことは当業者であれば適宜なし得た事項である。
オ 以上のとおりであるから、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

(2)上記相違点2について検討する。
引用発明は、有機キャッピング層128の膜厚を上限として500nmまで許容するものであるが、その膜厚は、層の形成容易性、欠陥の発生可能性、あるいは、要求される光学性能等を考慮して適宜決定され得るものであるところ、上限の500nmを薄くして180nmとすることは当業者が適宜なし得た設計的事項にすぎない。してみると、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは当業者が適宜なし得たことである。

(3)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(4)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(5)審判請求人は審判請求書において、概ね、引用文献1(引用例)は、陰極層を薄くすると記載しているものの、15nm未満とすることが好ましくないというものであり、15nm未満とすることが好ましくないとする引用文献1に、それよりも膜厚が薄い引用文献2を組み合わせる根拠や動機付けはなく、組み合わせることは妥当でないと主張する。
しかしながら、上記(1)イで述べたように、引用文献1に引用文献2(周知例1)を組み合わせることに阻害要因があるとはいえない。よって、請求人の主張を採用することができない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-25 
結審通知日 2017-08-29 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2013-532509(P2013-532509)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 鉄 豊郎
佐藤 秀樹
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子、照明装置及び表示装置  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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