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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02B
管理番号 1333936
審判番号 不服2017-4220  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-24 
確定日 2017-11-14 
事件の表示 特願2014-543514号「排気ガスターボチャージャの軸受ハウジング」拒絶査定不服審判事件〔平成25年5月30日国際公開、WO2013/078117、平成26年12月18日国内公表、特表2014-534377号、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年11月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年11月24日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成26年5月1日に国内書面が、明細書の翻訳文、請求の範囲の翻訳文及び要約書の翻訳文とともに提出され、平成28年4月12日付けで拒絶理由が通知され、平成28年7月15日に意見書が提出されたが、平成28年11月22日付けで拒絶査定がされ、それに対して平成29年3月24日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定(平成28年11月22日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。

●理由(特許法第29条第2項)について
(1)請求項1、2及び9
・刊行物1
・備考
刊行物1記載の発明において、推力軸受35と軸受ハウジング31とを一体の軸受ハウジングとみなして、本願請求項1、2及び9に係る発明とすることは、当業者にとって容易である。
したがって、本願請求項1、2及び9に係る発明は、刊行物1に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)請求項3ないし5及び8
・刊行物1及び2
・備考
オイルガイドを、第1ないし第3のダクトから構成すること自体は、刊行物2の図3に記載されている。
そして、刊行物1記載の発明に、刊行物2の上記事項を適用して、所定のダクト構成とすることは、当業者にとって容易である。なお、第1のダクトを、軸受箇所の中心軸線に対して偏心させることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって、本願請求項3ないし5及び8に係る発明は、刊行物1及び2に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

(3)請求項6及び7
・刊行物1
・備考
穿孔部分にプラグを設けること及び潤滑油の加熱を行うこと自体は、機械分野において、例示するまでもない周知の事項であり、刊行物1記載の発明にプラグを付加するにあたって、プラグに加熱要素を設けることは、当業者であれば容易になし得ることである。
したがって、本願請求項6及び7に係る発明は、刊行物1に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

<刊行物一覧>
1.特開平6-212990号公報
2.特開2005-69284号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、明細書の翻訳文及び平成29年3月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)。

「 【請求項1】
軸受ハウジング(1)内の少なくとも1つの軸受箇所(5)へのオイルガイドを有する排気ガスターボチャージャ(7)の軸受ハウジング(1)であって、
前記オイルガイドが前記軸受ハウジング(1)の孔及び/又は切欠きによって形成され、
前記軸受ハウジング(1)に一体化されるサイホン(10)が前記オイルガイドに形成され、
前記オイルガイドが、第1の孔として形成されかつオイルを供給するために使用される第1のダクト(6)と、第2の孔として形成される第2のダクト(7)とを備え、前記第1及び第2のダクト(6、7)が前記サイホンを形成するように交差し、
前記第2のダクト(7)がプラグ(9)によって閉鎖される、
軸受ハウジング(1)。
【請求項2】
前記オイルガイドが、複数の軸受箇所(5)に前記オイルを分配するための第3の孔として形成された第3のダクト(8)を備え、前記第2のダクト(7)が前記第3のダクト(8)内に開口する請求項1に記載の軸受ハウジング。
【請求項3】
前記第3のダクト(8)が、前記第1のダクト(6)と前記第2のダクト(7)との間の交差箇所よりも高く配置される請求項1又は2に記載の軸受ハウジング。
【請求項4】
前記第1のダクト(6)が、前記軸受箇所(5)の中心軸線(3)に対して偏心して配置される請求項1?3のいずれか一項に記載の軸受ハウジング。
【請求項5】
前記プラグ(9)が加熱要素(15)の形態である請求項1に記載の軸受ハウジング。
【請求項6】
前記第3のダクト(8)が前記軸受箇所(5)の中心軸線(3)に対して平行に延びる請求項2に記載の軸受ハウジング。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか一項に記載の少なくとも1つの軸受ハウジング(1)を有する排気ガスターボチャージャ(2)であって、前記軸受箇所(5)が、前記排気ガスターボチャージャ(2)のコンプレッサホイール(12)にタービンホイール(11)を接続するシャフト(4)を取り付けるために設計される排気ガスターボチャージャ(2)。」

第4 刊行物
1.刊行物1(特開平6-212990号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物1には、「ターボチャージャ用軸受装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物1の記載事項
1a)「【0017】圧縮機ハウジングからタービンハウジング内に軸受ハウジングの中心を通って軸36が延長して、ターボチャージャ軸受(スリーブ軸受)37、38により支持される。保持リング39がターボチャージャ軸受の位置を軸方向に固定し、スリーブ40が油制御スリーブとして作用する。
【0018】軸受ハウジングには油入口43と、主油溝44と、油通路45、46とが機械加工により形成されている。油通路45はタービン軸受37に指向され、油通路46は圧縮機回転軸受38に指向される。主軸受入口43に送られた油は3つの軸受それぞれに導かれてエンジンおよびターボチャージャの運転時に連続的に軸受を潤滑する。」(段落【0017】及び【0018】)

1b)「【0023】エンジンが運転中で油が油通路に充満しているときはターボチャージャ21の軸受ハウジング31も油で充満されている。油はタービンの回転軸受37と圧縮機の回転軸受38と推力軸受35の主油溝44とに、油入口から配送される。図2に示すように主油溝44は前面50に接しており、主油溝の開口が貯油槽53の下方縁に整合している。この結果、油は貯油槽に配送され、推力カラーと推力軸受との界面に間隙57を経て供給される。間隙57から油は4つのV字形溝62を経て外方に流れ、推力パッド63を潤滑する。」(段落【0023】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
1c)上記(1)1a)段落【0018】及び図2の記載から、軸受ハウジングに設けられた油入口43と、主油溝44と、油通路45、46は機械加工による孔であることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図面からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「軸受ハウジング31内の、タービンの回転軸受37、圧縮機の回転軸受38及び推力軸受35への油入口43、油通路45、油通路46及び主油溝44を有するターボチャージャ21の軸受ハウジング31であって、
油入口43、油通路45、油通路46及び主油溝44が軸受ハウジングの孔によって形成される軸受ハウジング31。」

2.刊行物2(特開2005-69284号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物2には、「クランクベアリング」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物2の記載事項
2a)「【0035】
クランクピン42には、コンロッドベアリング45を介してコネクティングロッド32が取り付けられている。
シリンダブロック31及びクランクシャフト4には、クランクジャーナル41の外周面とクランクベアリング1の内周面との間(軸受部)、及びクランクピン42の外周面とコンロッドベアリング45の内周面との間へ潤滑油を供給するための潤滑油供給路が形成されている。この潤滑油通供給路は、以下の各通路から構成されている。
[a]シリンダブロック31に形成されている第1潤滑油通路R1。
[b]クランクジャーナル41に形成されている第2潤滑油通路R2。
[c]クランクジャーナル41からクランクピン42へかけて形成されている第3潤滑油通路R3。
[d]クランクピン42に形成されている第4潤滑油通路R4。
【0036】
第1潤滑油通路R1は、クランクベアリング1の給油孔12と連通している。
第2潤滑油通路R2は、クランクジャーナル41の軸線L1と垂直に交差してクランクジャーナル41を貫通している。
【0037】
第3潤滑油通路R3は、第2潤滑油通路R2と第4潤滑油通路R4とを連通している。
第4潤滑油通路R4は、クランクピン42の軸線L2と垂直に交差してクランクピン42を貫通している。」(段落【0035】ないし【0037】)

(2)刊行物2技術
上記(1)及び図面からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2技術」という。)が記載されている。

「クランクベアリング1とコンロッドベアリング45との潤滑油通路を、
シリンダブロック31に形成されている第1潤滑油通路R1と、
クランクジャーナル41に形成されている第2潤滑油通路R2と、
クランクジャーナル41からクランクピン42へかけて形成されている第3潤滑油通路R3と、
クランクピン42に形成されている第4潤滑油通路R4とから構成し、
第1潤滑油通路R1は、クランクベアリング1の給油孔12と連通し、
第2潤滑油通路R2は、クランクジャーナル41の軸線L1と垂直に交差してクランクジャーナル41を貫通し、
第3潤滑油通路R3は、第2潤滑油通路R2と第4潤滑油通路R4とを連通し、
第4潤滑油通路R4は、クランクピン42の軸線L2と垂直に交差してクランクピン42を貫通する構造とする技術。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「軸受ハウジング31」は、その機能、構造及び技術的意義からみて、本願発明1における「軸受ハウジング」に相当し、以下同様に、「タービンの回転軸受37、圧縮機の回転軸受38及び推力軸受35」は「少なくとも1つの軸受箇所」に、「油入口43、油通路45、油通路46及び主油溝44」は「オイルガイド」に、「ターボチャージャ21」は「排気ガスターボチャージャ」に、それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「軸受ハウジング内の少なくとも1つの軸受箇所へのオイルガイドを有する排気ガスターボチャージャの軸受ハウジングであって、
オイルガイドが軸受ハウジングの孔によって形成される、
軸受ハウジング。」

[相違点]
本願発明1においては、「軸受ハウジングに一体化されるサイホンがオイルガイドに形成され、オイルガイドが、第1の孔として形成されかつオイルを供給するために使用される第1のダクトと、第2の孔として形成される第2のダクトとを備え、第1及び第2のダクトがサイホンを形成するように交差し、第2のダクトがプラグによって閉鎖される」のに対して、
引用発明においては、軸受ハウジングにおいて、油入口43、油通路45、油通路46及び主油溝44のうちの2つが交差して一体化されるサイホンを形成するか、また、サイホンを形成する油路のうちの1つがプラグによって閉鎖されるか不明である点(以下、「相違点」という。)。

以下、相違点について検討する。

[相違点について]
相違点の検討に先立って、本願発明1において特定された「第1及び第2のダクト」が交差することにより形成された「サイホン」の技術的意義について検討すると、「本発明の目的は、簡単な構造のオイル供給装置を有し、特に冷間始動中に軸受ハウジングの軸受箇所への十分なオイル供給を可能とする軸受ハウジングを提供することである。」(段落【0003】)及び「エンジン停止後、オイルは前記サイホンに集まり、従来技術におけるよりもはるかに迅速に後の冷間始動のために利用可能となる。オイルは、エンジンの始動中に発生する圧力変動によってサイホンから軸受箇所に押し出される。」(段落【0005】)の本願明細書の記載によれば、本願発明1において特定される「サイホン」は、エンジン停止後にオイルを溜めておき、後の冷間始動時に軸受ハウジングの軸受箇所へオイルを供給するためのものである。
そして、クランクベアリング1とコンロッドベアリング45との潤滑油通路に関する刊行物2技術は、
「クランクベアリング1とコンロッドベアリング45との潤滑油通路を、
シリンダブロック31に形成されている第1潤滑油通路R1と、
クランクジャーナル41に形成されている第2潤滑油通路R2と、
クランクジャーナル41からクランクピン42へかけて形成されている第3潤滑油通路R3と、
クランクピン42に形成されている第4潤滑油通路R4とから構成し、
第1潤滑油通路R1は、クランクベアリング1の給油孔12と連通し、
第2潤滑油通路R2は、クランクジャーナル41の軸線L1と垂直に交差してクランクジャーナル41を貫通し、
第3潤滑油通路R3は、第2潤滑油通路R2と第4潤滑油通路R4とを連通し、
第4潤滑油通路R4は、クランクピン42の軸線L2と垂直に交差してクランクピン42を貫通する構造とする技術」
であって、第3潤滑油通路R3は、第2潤滑油通路R2と第4潤滑油通路R4とを連通する、これらの潤滑油通路R2ないしR4はクランクシャフトとともに回転するのであるが、そのうちの2つが交差することによりエンジン停止後に潤滑油を溜めるためのサイホンを形成するかは不明である。加えて、潤滑油通路R2ないしR4が、プラグにより閉鎖される構成を含むかも不明である。
さらに、刊行物2技術は、クランクベアリング1とコンロッドベアリング45の潤滑油通路に関するものであって、刊行物2技術における潤滑油通路R2ないしR4を、異なる技術分野である本願発明1の排気ガスターボチャージャの軸受けハウジングに設ける動機付けを見出すことはできない。

よって、本願発明1は、引用発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

2.本願発明2ないし7について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし7は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし7は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし7は、本願発明1と同様の理由で、引用発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

第6 原査定について
1.理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし7は、「オイルガイドが、第1の孔として形成されかつオイルを供給するために使用される第1のダクトと、第2の孔として形成される第2のダクトとを備え、第1及び第2のダクトがサイホンを形成するように交差し、第2のダクトがプラグによって閉鎖される」という発明特定事項を有するものとなったから、当業者であっても、拒絶査定において引用された刊行物1及び2に記載された発明又は技術に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも引用発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-30 
出願番号 特願2014-543514(P2014-543514)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齊藤 公志郎  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 西山 智宏
松下 聡
発明の名称 排気ガスターボチャージャの軸受ハウジング  
代理人 百本 宏之  
代理人 大賀 眞司  

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