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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1334030
審判番号 不服2016-13963  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-16 
確定日 2017-11-21 
事件の表示 特願2015- 11588「表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタと、表面弾性波(SAW)フィルタ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月26日出願公開、特開2016- 96529、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月23日(パリ条約による優先権主張2014年11月13日 韓国)の出願であって、平成27年8月28日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日付けで意見書が提出され、平成28年1月8日付けで拒絶理由が通知され、同年4月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月13日付けで拒絶査定されたところ、同年9月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成28年5月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2、4-8、10、11に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、また、本願請求項3、9に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平11-041055号公報
2.特開平6-244235号公報
3.特開2001-189421号公報


第3 本願発明
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえないから、本願請求項1-11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明11」という。)は、平成28年9月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明と認める。

「 【請求項1】
基板上に形成される第1の金属層と、
前記第1の金属層の上部に形成される絶縁層と、
前記絶縁層の上部に前記第1の金属層と一部又は全部が重なり合うように形成される第2の金属層と、を有し、
前記絶縁層は、前記基板上に形成される櫛形電極(IDT)の上部まで延設され、
前記絶縁層の上部に前記第2の金属層と重なり合わないように形成されて前記櫛形電極(IDT)を外部と接続するためのパッドをさらに有し、
前記第2の金属層は、前記パッドと同じ金属物質により形成され、
前記第1の金属層及び前記櫛形電極(IDT)は第1の同一形成層から成り、前記第2の金属層及び前記パッドは第2の同一形成層から成ることを特徴とする表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ。
【請求項2】
前記第1の金属層は、前記櫛形電極(IDT)と同じ物質により形成されることを特徴とする請求項1に記載の表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ。
【請求項3】
前記第1の金属層は、銅(Cu)により形成されることを特徴とする請求項1に記載の表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ。
【請求項4】
前記第2の金属層は、前記第1の金属層とは異なる金属物質により形成されることを特徴とする請求項1に記載の表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ。
【請求項5】
前記第2の金属層は、アルミニウム(Al)又は金(Au)により形成されることを特徴とする請求項4に記載の表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ。
【請求項6】
基板上に形成される櫛形電極(IDT)と、
前記基板上に形成される第1の金属層と、
前記櫛形電極(IDT)及び前記第1の金属層の上部に形成される絶縁層と、
前記絶縁層の上部に形成されて前記第1の金属層と全部又は一部が重なり合う第2の金属層と、
前記櫛形電極(IDT)を外部と接続するためのパッドと、を有し、
前記パッドは、前記絶縁層の上部に前記第2の金属層と重なり合わないように形成され、
前記第2の金属層は、前記パッドと同じ金属物質により形成され、
前記第1の金属層及び前記櫛形電極(IDT)は第1の同一形成層から成り、前記第2の金属層及び前記パッドは第2の同一形成層から成ることを特徴とする表面弾性波(SAW)フィルタ。
【請求項7】
基板の上部に櫛形電極(IDT)及びキャパシタの第1の金属層を形成するステップと、
前記櫛形電極(IDT)及び前記第1の金属層の上部に絶縁層を形成するステップと、
前記絶縁層の上部にパッド及び第2の金属層を形成するステップと、
を含み、
前記第2の金属層は、前記第1の金属層と一部又は全部が重なり合い、前記パッドとは重なり合わないように形成され、
前記パッド及び前記第2の金属層は、同じ金属物質により形成され、
前記櫛形電極(IDT)及び前記第1の金属層は同時に形成され、前記パッド及び前記第2の金属層は同時に形成されることを特徴とする表面弾性波(SAW)フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記櫛形電極(IDT)及び前記第1の金属層は、同じ金属物質により形成されることを特徴とする請求項7に記載の表面弾性波(SAW)フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記櫛形電極(IDT)及び前記第1の金属層は、銅(Cu)により形成されることを特徴とする請求項8に記載の表面弾性波(SAW)フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記パッド及び前記第2の金属層を形成する金属物質は、前記櫛形電極(IDT)及び前記第1の金属層を形成する金属物質とは異なることを特徴とする請求項7に記載の表面弾性波(SAW)フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記パッド及び前記第2の金属層は、アルミニウム(Al)又は金(Au)により形成されることを特徴とする請求項7に記載の表面弾性波(SAW)フィルタの製造方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平11-041055号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、携帯電話等に用いられる弾性表面波(SAW)チップに形成されるSAWフィルタに係り、特に、そのSAWフィルタの薄膜構造に関するものである。
・・・・・・
【0007】本発明は、上記問題点を除去し、チップ内のSAWフィルタに薄膜コンデンサを組み込み、特性の向上、小形化及びコストの低減化を図ることができる弾性表面波フィルタを提供することを目的とする。」

イ.「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施例を示すSAWフィルタの構成図、図2は図1のA-A′断面図、図3は図1のB-B′断面図、図4は図1のC-C′断面図である。これらの図において、10は圧電基板、11はIDT、12はGND導体パターン膜電極、13は入力導体パターン膜、14はGND導体パターン膜、15は酸化シリコン(SiO2 )膜、16は入力導体パターン膜電極である。
【0011】この実施例のSAWフィルタは、圧電基板10上に形成されるIDT11と、このIDT11上に形成される薄膜酸化シリコン膜15と、前記IDT11の一方に接続される入力導体パターン膜13と、この入力導体パターン膜13に接続されるとともに、前記薄膜酸化シリコン膜15の上部に接続される入力導体パターン膜電極16と、前記IDT11のもう一方に接続されるGND導体パターン膜14と、このGND導体パターン膜14に接続されるとともに、前記薄膜酸化シリコン膜16の下部であって、前記入力導体パターン膜電極16と少なくとも一部が対向するように配置されるGND導体パターン膜電極14(当審注:「GND導体パターン膜電極12」の誤記であると認められる。)とを具備する。
【0012】ここで、GND導体パターン膜電極12と入力導体パターン膜電極16とによって挟まれる対向部分には薄膜コンデンサ形成部17が構成される。ここで、入力導体パターン膜13、GND導体パターン膜電極12、IDT11、GND導体パターン膜電極16は、それぞれ薄膜Alで形成され、入力導体パターン膜電極16は薄膜Auで形成される。
【0013】また、上記薄膜コンデンサ形成部17の容量は、対向する入力導体パターン膜電極16とGND導体パターン膜電極12との対向面積又は酸化シリコン(SiO2 )膜15の膜厚で調整することができる。このように、酸化シリコン(SiO2 )膜15は、IDT11を覆い、また、薄膜コンデンサ形成のためGND導体パターン膜電極16を覆うように形成される。また、入力導体パターン膜13、GND導体パターン膜14はこれに必要な範囲で覆われる。」

ウ.図1-図4として以下の図面が記載されている。


したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 圧電基板10上に形成されるGND導体パターン膜電極12と、
前記GND導体パターン膜電極12上に形成される薄膜酸化シリコン膜15と、
前記薄膜酸化シリコン膜15に前記GND導体パターン膜電極12と少なくとも一部が対向するように配置される入力導体パターン膜電極16とを有し、
前記圧電基板10上に形成されるIDT11上に前記薄膜酸化シリコン膜15が延在する、
SAWフィルタ用薄膜コンデンサ。」


2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平6-244235号公報)の段落【0001】、段落【0010】-段落【0016】及び図1の記載からみて、当該引用文献2には、「複数のアルミ配線を有する半導体集積回路における入出力用パッドの配置と構造に関し、出力パッドを半導体集積回路の上部に前記複数のアルミ配線の内の一つのアルミ配線により構成する。」という技術的事項(以下、「引用技術」という。)が記載されていると認められる。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1を引用発明と対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「圧電基板10」、「GND導体パターン膜電極12」、「薄膜酸化シリコン膜15」、及び「IDT11」は、それぞれ本願発明1における「基板」、「第1の金属層」、「絶縁層」、及び「櫛形電極(IDT)」に相当する。
引用発明における「入力導体パターン膜電極16」は、「前記GND導体パターン膜電極12と少なくとも一部が対向するように配置される」から、本願発明における「絶縁層の上部に前記第1の金属層と一部又は全部が重なり合うように形成される」「第2の金属層」に相当する。
引用発明の「SAWフィルタ用薄膜コンデンサ」は、後述する点で相違するものの、本願発明の「表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ」に対応する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 基板上に形成される第1の金属層と、
前記第1の金属層の上部に形成される絶縁層と、
前記絶縁層の上部に前記第1の金属層と一部又は全部が重なり合うように形成される第2の金属層と、を有し、
前記絶縁層は、前記基板上に形成される櫛形電極(IDT)の上部まで延設されることを特徴とする表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ。」

(相違点)本願発明1は、
「 前記絶縁層の上部に前記第2の金属層と重なり合わないように形成されて前記櫛形電極(IDT)を外部と接続するためのパッドをさらに有し、
前記第2の金属層は、前記パッドと同じ金属物質により形成され、
前記第1の金属層及び前記櫛形電極(IDT)は第1の同一形成層から成り、前記第2の金属層及び前記パッドは第2の同一形成層から成る」のに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。


(2)相違点についての判断
上述したように「複数のアルミ配線を有する半導体集積回路における入出力用パッドの配置と構造に関し、出力パッドを半導体集積回路の上部に前記複数のアルミ配線の内の一つのアルミ配線により構成する。」との技術(引用技術)が公知である。しかしながら、引用技術に係る半導体集積回路は、半導体基板上に拡散層や絶縁層などを積層した構造を有するのに対して、引用発明は積層構造は有するもののSAWフィルタに係るものであり、基板として圧電基板を用い、IDTにより発生する表面波の圧電基板上の伝搬を利用するものである。そうしてみると、引用発明に係るSAWフィルタは、半導体集積回路と基板の素材や動作原理が異なり、また圧電基板上の表面波を取り扱うため、これに影響を与えないような構造が必要であることなどを考慮すると、このような構造上の違いに配慮することなく、積層構造を有する点では類似する半導体集積回路に係る引用技術を、SAWフィルタに係る引用発明に即座に適用可能ということはできない。
また、当該引用技術を引用発明に適用して「薄膜酸化シリコン膜15」(本願発明の「絶縁層」に相当。)上にアルミ配線により出力パッドを設けたとしても、当該アルミ配線と「入力導体パターン膜電極16」(本願発明の「第2の金属層」に相当。)を同一形成層から構成することに関し、引用技術及び引用発明には記載も示唆もされていないことから、当該アルミ配線と入力導体パターン膜電極16を同一形成層から構成することは、当業者が容易に想到できたということはできない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用技術から容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2-5について
本願発明2-5も、上記相違点と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明6について
本願発明6は、「表面弾性波(SAW)フィルタ」に係る発明であり、本願発明1に係る「表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタ」と同一の構成を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明7-11について
本願発明7は、本願発明6の表面弾性波(SAW)フィルタの製造方法に係る発明であるから、相違点に係る構成を製造することが容易とはいえない以上、これを製造する方法も引用発明及び引用技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
また、本願発明8-11も本願発明7の「表面弾性波(SAW)フィルタの製造方法」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明7と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
上記「第5 対比・判断」で検討したように、引用発明に引用技術を適用することはできず、仮に適用できたとしても、審判請求時の補正により、本願発明1-6は「前記第1の金属層及び前記櫛形電極(IDT)は第1の同一形成層から成り、前記第2の金属層及び前記パッドは第2の同一形成層から成る」という事項を、本願発明7-11は「前記櫛形電極(IDT)及び前記第1の金属層は同時に形成され、前記パッド及び前記第2の金属層は同時に形成される」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2015-11588(P2015-11588)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 義昭  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 山本 章裕
松永 稔
発明の名称 表面弾性波(SAW)フィルタ用キャパシタと、表面弾性波(SAW)フィルタ及びその製造方法  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  

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