• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02M
管理番号 1334069
審判番号 不服2017-3581  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-10 
確定日 2017-11-21 
事件の表示 特願2012-52521「蒸発燃料処理装置の診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月19日出願公開、特開2013-185527、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年3月9日の出願であって、平成28年3月2日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月27日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成28年8月8日付けで拒絶理由(最後)が通知され、平成28年9月20日に意見書が提出され、平成29年2月6日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年3月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成29年2月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

●理由(特許法第29条第2項)について
出願人は意見書において下記2つの相違点を挙げている。しかしながら、下記に説明するよう本願発明の請求項1に係る発明は引用文献1、2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
1.「相違点1)本願発明では、キャニスタ側のリーク診断に際して、封鎖弁を開いて燃料タンク内の圧力を診断対象領域内に導入してから、診断対象領域内の圧力が、正圧側および負圧側にそれぞれ設定された所定の診断圧力に達したときに、封鎖弁を閉じ、この所定の診断圧力の下で診断対象領域のリーク診断を開始する、のに対し、引用文献1では、タイミングT2からタイミングT3までの間、吸着ベーパ通路弁21を開弁し、第1の領域と第2の領域の全体を「平衡圧力」とする(【0030】)点。」
(判断)
本願発明の請求項1には、リーク診断の圧力について「所定の診断圧力」と記載されているだけで、格別に限定されているものではない。そして、リーク診断をするには所定の圧力が必要であることは引用文献1に記載された発明にも開示されており、リーク診断が可能な最低限の圧力に設定すること、また、その圧力をどの程度に設定するかは、当業者が実験等に基づき適宜設定する設計的事項である。
2.「相違点2)本願発明では、リーク診断要求に基づき封鎖弁を開いてから所定時間が経過しても、診断対象領域内の圧力が、正圧側および負圧側にそれぞれ設定された所定の診断圧力に達しない場合は、診断を終了する、のに対し、引用文献1では、このような処理が存在せず、燃料タンク1内にあるレベル(±3kPa)の圧力が存在すれば無条件に診断を実行する点。」
(判断)
引用文献2には、封鎖弁に開弁指令をした後、開弁が確実に行われた際の圧力状態とならない場合に封鎖弁の閉故障と判断するという技術思想が記載されており、引用文献1に記載された発明において、封鎖弁に開弁指令をした際に閉故障を診断することは、当業者であれば容易になし得ることである。
なお、請求項2-4についても、依然として拒絶の理由を解消していない。詳細は平成28年8月8日付拒絶理由通知書を参照のこと。

引用文献等一覧
1.特開2012-002138号公報
2.特開2004-156494号公報
3.特開2001-294052号公報

第3 本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成28年4月27日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載、並びに、出願当初の図面からみて、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
給油時に燃料タンク内で発生した蒸発燃料をキャニスタで吸着し、内燃機関の運転中に該内燃機関の吸気系に導入して処理する蒸発燃料処理装置において、
上記燃料タンクから上記キャニスタに至る蒸発燃料通路に設けられた封鎖弁と、
上記キャニスタから上記内燃機関の吸気系に至るパージ通路に設けられたパージ制御バルブと、
上記キャニスタのドレン通路に設けられたドレンカットバルブと、
上記封鎖弁と上記パージ制御バルブと上記ドレンカットバルブとで区画された上記キャニスタを含む診断対象領域内に設けられた圧力センサと、
を備え、
リーク診断要求時に、上記診断対象領域を密閉状態とするとともに、上記封鎖弁を開いて上記燃料タンク内の正圧側もしくは負圧側の圧力を上記診断対象領域内に導入し、かつ上記封鎖弁を閉じた後の圧力変化に基づきリークの有無を診断するようにした蒸発燃料処理装置の診断装置であって、
上記封鎖弁を開いた後、上記診断対象領域内の圧力が、正圧側および負圧側にそれぞれ設定された所定の診断圧力に達したときに、上記封鎖弁を閉じるように構成され、
かつ、所定時間が経過しても上記診断圧力に到達しない場合は診断を終了する、
ことを特徴とする蒸発燃料処理装置の診断装置。
【請求項2】
上記リーク診断要求時に、上記診断対象領域内の圧力と上記燃料タンク内の圧力との相対的な圧力差が所定値以上であることを条件として上記封鎖弁を開くことを特徴とする請求項1に記載の蒸発燃料処理装置の診断装置。
【請求項3】
上記リーク診断要求時に、上記診断対象領域内の圧力と上記燃料タンク内の圧力との相対的な圧力差が所定値未満であるときには、内燃機関が運転中であることを条件として、内燃機関の吸入負圧を上記パージ制御バルブを介して導入し、該吸入負圧を用いたリーク診断を行うことを特徴とする請求項2に記載の蒸発燃料処理装置の診断装置。
【請求項4】
上記燃料タンク内が正圧であることを条件として上記封鎖弁を開くことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の蒸発燃料処理装置の診断装置。
【請求項5】
上記燃料タンク内が負圧であることを条件として封鎖弁を開くことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の蒸発燃料処理装置の診断装置。」

第4 引用文献

1 引用文献1の記載事項

原査定に引用され、本願の出願前に頒布された特開2012-2138号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(なお、下線は、理解の一助のために当審で付与した。以下同様。)。

(1)「【0020】
(実施形態1)
まず、機関吸気を利用したエバポパージシステムを採用した蒸発燃料処理装置に、本発明の漏れ診断装置を適用した実施形態について説明する。蒸発燃料処理装置は、図1に示すように、内部に燃料Fを貯留する燃料タンク1、燃料タンク1内の燃料Fを図外の内燃機関(エンジン)へ圧送供給する燃料ポンプ2、および燃料タンク1内で発生した蒸発燃料(ベーパ)を吸着捕捉するキャニスタ3などを有する。符号31は、エンジンへ空気を吸入する吸気通路である。符号32は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量に応じて吸入空気量を制御するストッロルバルブである。符号33は、エアフィルタである。吸気通路31の先端(エンジンと反対側)は大気開放されている。」(段落【0020】)

(2)「【0022】
燃料タンク1とキャニスタ3とは、吸着ベーパ通路11を介して連通されている。吸着ベーパ通路11上には、当該吸着ベーパ通路11の連通状態と遮断状態とを切り替える開閉手段として、吸着ベーパ通路弁21が設けられている。また、吸着ベーパ通路11上には、キャニスタ3内のガスを燃料タンク1内へ導入するポンプ手段として、真空ポンプ6が設けられている。詳細は後述するが、真空ポンプ6が本発明の圧力印加手段にも相当する。キャニスタ3には、その先端が大気開放された大気通路12が連結されている。大気通路12上にも、当該大気通路12の連通状態と遮断状態とを切り替える開閉手段として、大気通路弁22が設けられている。キャニスタ3と吸気通路31とは、パージ通路13を介して連通されている。パージ通路13上には、当該パージ通路13の連通状態と遮断状態とを切り替える開閉手段として、パージ通路弁23が設けられている。
【0023】
吸着ベーパ通路弁21が閉弁されると、蒸発燃料処理装置における処理系内が、燃料タンク1を含む第1の領域と、キャニスタ3を含む第2の領域とに区分けされる。したがって、吸着ベーパ通路弁21が、本発明の開閉弁に相当する。第1の領域は、燃料タンク1、及び吸着ベーパ通路11の燃料タンク1から吸着ベーパ通路弁21までの領域によって構成される。第2の領域は、キャニスタ3、吸着ベーパ通路11の吸着ベーパ通路弁21からキャニスタ3まで、大気通路12のキャニスタ3から大気通路弁22まで、及びパージ通路13のキャニスタ3からパージ通路弁23までの領域によって構成される。そのうえで、燃料タンク1には、燃料タンク1周りの第1の領域の内圧を検知する第1の内圧検知手段として、第1の圧力センサ8が設けられている。一方、大気通路12上の大気通路弁22より下流(大気通路弁22とキャニスタ3との間)には、キャニスタ3周りの第2の領域の内圧を検知する第2の内圧検知手段として、第2の圧力センサ9が設けられている。」(段落【0022】及び【0023】)

(3)「【0025】
<蒸発燃料の処理>
次に、蒸発燃料処理装置による蒸発燃料の処理機構について説明する。なお、以下の説明において、各制御は全てECU35によって行われる。通常、大気通路弁22は開弁していることに対し、吸着ベーパ通路弁21及びパージ通路弁23は閉弁している。給油時には、吸着ベーパ通路弁21が開弁される。また、駐車中に外気温等によって燃温が上昇し、燃料タンク1の内圧が所定値(例えば5kPa)を超えたことが第1の圧力センサ8によって検知された場合や走行中も、吸着ベーパ通路弁21が開弁される。これに伴い、燃料タンク1内の蒸発燃料含有ガスが吸着ベーパ通路11を通してキャニスタ3内に流入する。すると、キャニスタ3内の吸着材Cによって蒸発燃料が選択的に吸着捕捉される。残余の空気は吸着材Cを透過し、キャニスタ3から大気通路12を通して大気中に放散される。これにより、大気汚染を回避しながら燃料タンク1が圧力開放され、燃料タンク1の破損が防止される。燃料タンク1の内圧が所定値以下(例えば大気圧程度)に低下したことが第1の圧力センサ8によって検知された場合やキーOFFされると、吸着ベーパ通路弁21は再度閉弁される。」(段落【0025】)

(4)「【0026】
また、エンジンが駆動されると、パージ通路弁23が開弁される。すると、機関吸気による負圧が、パージ通路13を介してキャニスタ3内へ作用する。これにより、キャニスタ3内に吸着されていた蒸発燃料が脱離され、パージ通路13を通して吸気通路31へパージされる。このとき、大気通路12を通してキャニスタ3内に大気が吸引され、脱離ガスとして作用する。また、パージ通路弁23の開弁と同時に、ヒータ5も稼動する。これにより、ヒータ5によって吸着材Cが加熱されることで、蒸発燃料の脱離回収が促進される。」(段落【0026】)

(5)「【0027】
≪漏れ診断≫
次に、蒸発燃料処理装置の漏れ診断(リーク診断)について説明する。図2は、漏れ診断時の制御フロー図である。図2に示すように、漏れ診断を行うための条件が成立すると、第1の圧力センサ8によって燃料タンク1周り(第1の領域)の内圧が検知される。なお、本実施形態における漏れ診断は、エンジン駆動に直接影響されないので、漏れ診断を行うための条件は、駐車中、走行中、アイドリング運転中、又はイグニッションスイッチやスタータをONしてから所定時間経過後など、種々の条件を任意に設定することができる。第1の領域の内圧と大気圧との差圧の絶対値が所定値未満、すなわち燃料タンク1周りの内圧が所定範囲内であれば、図2の左ルーチンのように、真空ポンプ6によって第1・第2の領域へ圧力を印加したうえで、漏れ診断が行われる。一方、第1の領域の内圧と大気圧との差圧の絶対値が所定値以上、すなわち、燃料タンク1周りの内圧が所定範囲以外であれば、図2の右ルーチンのように、そのまま第1の領域の漏れを診断した後、当該第1の領域の内圧を第2の領域へ移行させ、続いて第2の領域の漏れが診断される。漏れ診断手順を分ける判定基準(所定値)は、燃料タンク1の圧抜きをする判定基準よりも低く設定しておく。漏れ診断用の判定基準が燃料タンク1の圧抜き用の判定基準より高いと、漏れ診断を行う際に、第1の領域と第2の領域とを区分けする吸着ベーパ通路弁21が開弁されてしまうからである。例えば、燃料タンク1の圧抜き用の判定基準を5kPaとした場合は、漏れ診断用の判定基準を3kPaとする。この場合、第1の領域の内圧と大気圧との差圧の絶対値が所定値未満とは、第1の領域の内圧が大気圧に対して-3kPa?+3kPa内にある。一方、第1の領域の内圧と大気圧との差圧の絶対値が所定値以上とは、第1の領域の内圧が大気圧に対して-3kPa?+3kPa以外にある。以下、第1の領域の内圧と大気圧との差圧の絶対値が所定値以上の場合と、第1の領域の内圧と大気圧との差圧の絶対値が所定値未満の場合とに分けて、漏れ診断について詳しく説明する。なお、以下の説明では、駐車中に伴い漏れ診断が行われる場合を例に挙げて説明するが、これに限られるものではない。
【0028】
<燃料タンク1周りの内圧が所定範囲以外の場合>
図3に、燃料タンク1周りの内圧が所定範囲以外の場合の漏れ診断時における各弁の開閉タイミングと、これに伴う内圧変化を示す。図3に示すように、走行中は吸着ベーパ通路弁21、大気通路弁22、及びパージ通路弁23は全て開弁されている。そして、キーOFFして駐車するに伴い、吸着ベーパ通路弁21及びパージ通路弁23が閉弁される(タイミングT0)。これにより、蒸発燃料処理装置の処理系内は、燃料タンク1周りの第1の領域とキャニスタ3周りの第2の領域と区分けされる。第1の領域は密閉空間となるが、大気通路弁22は開弁されているので第2の領域は開放空間となっている。ここで、燃料Fの温度は、外気温度等の影響によって昇降する。燃温が昇温すると蒸発燃料が発生し易くなるので、燃料タンク1の内圧は高くなる(図3の実線)。一方、燃温が降温すると蒸発燃料の発生が抑えられるので、負圧となることもある(図3の一点鎖線)。
【0029】
そして、漏れ診断の条件が成立した際(タイミングT1)の、第1の領域の内圧と大気圧との差圧の絶対値が所定値以上であることが第1の圧力センサ8によって検知されると、そのまま第1の領域の漏れが診断される。すなわち、第1の領域の密閉状態が所定時間維持され、診断初期の圧力が維持されているとが第1の圧力センサによって検知されることで、漏れ無しと診断される(タイミングT1?T2)。一方、亀裂の発生等によって第1の領域に漏れが有れば、図3の破線で示すように第1の領域の内圧はほぼ大気圧(若干の圧力変動を含む)となっている。しかし、単に燃温変動の幅が小さいために大きな圧力変動が無い場合も含まれる。したがって、この時点では第1の領域において漏れ有りとは診断できない。この場合は、燃料タンク1周りの内圧が所定範囲内にある後述のモードで漏れが診断される。
【0030】
第1の領域の漏れ診断が完了すると、一旦吸着ベーパ通路弁21が開弁されると共に、大気通路弁22が閉弁される(タイミングT2)。すると、第1の領域内の圧力が第2の領域内へ移行し、処理系内が平衡圧力となる。すなわち、第1の領域の内圧によって、第2の領域内へ正圧又は負圧が印加される。第1の領域内の圧力を第2の領域内へ移行させたら、再度吸着ベーパ通路弁21が閉弁されることで、第2の領域も密閉空間となる(タイミングT3)。そして、この密閉状態における第2の領域の内圧挙動が第2の圧力センサ9によって検知され、漏れ診断が行われる。第2の領域に漏れが無ければ、平衡圧力がほぼ維持される。一方、第2の領域に漏れが有れば、図3の破線で示すように、平衡圧力が正圧であれば内圧が下降し、初期圧力が負圧であれば内圧が上昇する。第2の領域の漏れ診断も完了すると、大気通路弁22及び吸着ベーパ通路弁21が開弁されて、圧力開放がされる(タイミングT4)。第1・第2の領域の圧力開放がされると、吸着ベーパ通路弁21が閉弁されて通常の状態に戻る。」(段落【0027】ないし【0030】)

(6)上記(2)、(5)及び図面の記載から分かること

ア 上記(2)及び図1の記載から、第2の圧力センサ9は、第2の領域内に設けられていることが分かる。

イ 上記(5)の記載から、第2の領域の漏れ診断を開始するに際して、吸着ベーパ通路弁21及びパージ通路弁23が閉弁されており、ここで、大気通路弁22を閉弁することによって、第2の領域を密閉状態にすること、第2の領域を密閉状態にするともに、吸着ベーパ通路弁21を開弁して燃料タンク1内の正圧又は負圧を第2の領域内へ印加すること、及び、吸着ベーパ通路弁21を閉弁した後の第2の領域の内圧挙動に基づいて漏れ診断を行うことが分かる。

(7)引用発明1

上記(1)ないし(6)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

<引用発明1>

「給油時に燃料タンク1内で発生した蒸発燃料をキャニスタ3で吸着捕捉し、エンジンの駆動中に吸気通路31にパージする蒸気燃料処理装置において、
燃料タンク1とキャニスタ3とを連通する吸着ベーパ通路11に設けられた吸着ベーパ通路弁21と、
キャニスタ3と吸気通路31とを連通するパージ通路13に設けられたパージ通路弁23と、
キャニスタ3に連結された大気通路12に設けられた大気通路弁22と、
キャニスタ3、吸着ベーパ通路11の吸着ベーパ通路弁21からキャニスタ3まで、大気通路12のキャニスタ3から大気通路弁22まで、及びパージ通路13のキャニスタ3からパージ通路弁23までの領域によって構成される第2の領域に設けられた第2の圧力センサ9と、
を有し、
第2の領域の漏れ診断を開始するに際して、第2の領域を密閉状態にするとともに、吸着ベーパ通路弁21を開弁して燃料タンク1内の正圧又は負圧を第2の領域内へ印加し、かつ、吸着ベーパ通路弁21を閉弁した後の第2の領域の内圧挙動に基づき漏れ診断を行うようにした蒸気燃料処理装置の漏れ診断装置。」

2 引用文献2の記載事項

原査定に引用され、本願の出願前に頒布された特開2004-156494号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

(1)「【0023】
実施の形態1.
[装置の構成の説明]
図1(A)は、本発明の実施の形態1の蒸発燃料処理装置の構成を説明するための図である。図1(A)に示すように、本実施形態の装置は、燃料タンク10を備えている。燃料タンク10には、タンク内圧Ptnkを測定するためのタンク内圧センサ12が設けられている。タンク内圧センサ12は、大気圧に対する相対圧としてタンク内圧Ptnkを検出し、その検出値に応じた出力を発生するセンサである。また、燃料タンク10の内部には、燃料の液面を検出するための液面センサ14が配置されている。
【0024】
燃料タンク10には、ROV(Roll Over Valve)16,18を介してベーパ通路20が接続されている。ベーパ通路20は、その途中に封鎖弁ユニット24を備えており、その端部においてキャニスタ26に連通している。封鎖弁ユニット24は、封鎖弁28と圧力調整弁30を備えている。封鎖弁28は、無通電の状態で閉弁し、外部から駆動信号が供給されることにより開弁状態となる常時閉タイプの電磁弁である。圧力調整弁30は、燃料タンク10側の圧力がキャニスタ26側の圧力に比して十分に高圧となった場合に開弁する正方向リリーフ弁と、その逆の場合に開弁する逆方向リリーフ弁とからなる機械式の双方向逆止弁である。圧力調整弁30の開弁圧は、例えば、正方向が20kPa、逆方向が15kPa程度に設定されている。」(段落【0023】及び【0024】)

(2)「【0027】
図1(A)に示すように、本実施形態の蒸発燃料処理装置は、ECU60を備えている。ECU60は、車両の駐車中において経過時間を計数するためのソークタイマを内蔵している。ECU60には、上述したタンク内圧センサ12や封鎖弁28、或いは負圧ポンプモジュール52と共に、リッドスイッチ62、およびリッドオープナー開閉スイッチ64が接続されている。また、リッドオープナー開閉スイッチ64には、ワイヤーによりリッド手動開閉装置66が連結されている。」(段落【0027】)

(3)「【0040】
[異常検出動作の説明]
蒸発燃料処理装置には、系内の洩れの発生や、封鎖弁28の異常など、エミッション特性の悪化につながる異常を速やかに検出するための機能が要求される。以下、図2をおよび図3参照して、本実施形態の装置が封鎖弁28の閉故障を検出するために実行する異常検出処理の内容を説明する。
【0041】
図2は、本実施形態の装置が封鎖弁28の閉故障を検出するために実行する異常検出処理の内容を説明するためのタイミングチャートである。より具体的には、図2(A)は封鎖弁28の状態を示し、図2(B)はタンク内圧Ptnk(タンク内圧センサ12の出力)の変化を示し、また、図2(C)は車両のイグニッションスイッチ(IGスイッチ)の状態を示している。尚、本実施形態において、異常検出処理は、種々の外乱の影響をできるだけ小さくする観点より、車両の駐車中において実行される。
【0042】
既述した通り、封鎖弁28は、車両の駐車中、すなわち、内燃機関の停止中は原則として閉状態とされる。このため、図2に示すように、時刻t0においてIGスイッチがOFFされると、これに同期して封鎖弁28は閉弁状態となる。
【0043】
ECU60は、既述した通りソークタイマを内蔵している。ソークタイマにより所定時間T1が計数されると、異常検出処理を開始するためECU60が起動される(時刻t1)。
【0044】
所定時間T1が経過する間は、封鎖弁28が閉じられて燃料タンク10が密閉状態とされる。内燃機関が停止された後、燃料タンク10の内部では、余熱により蒸発燃料の発生が継続されることがある。この場合、タンク内圧Ptnkは、時刻t0の後、図2(B)中に実線で示すように正圧となる。また、内燃機関が停止された後、燃料タンク10の内部では、温度の低下に伴って蒸発燃料が液化されることがある。この場合、タンク内圧Ptnkは、時刻t0の後、図2(B)中に一点鎖線で示すように負圧となる。
【0045】
本実施形態において、ECU60は、時刻t1において異常検出処理のために起動されると、封鎖弁28を閉状態から開状態に変化させる。車両の駐車中は、切り替え弁80が非通電状態(通常状態)とされているため、キャニスタ26の内部は大気に開放されている。このため、その状態で封鎖弁28が開かれると、燃料タンク10の内部が大気に開放され、タンク内圧Ptnkは、その後大気圧に向かって変化する。
【0046】
一方、時刻t1において、ECU60から封鎖弁28に対して開弁指令が発せられたにも関わらず、封鎖弁28が正常に開弁しない場合、つまり、封鎖弁28が閉故障のために開弁できない場合は、図2(B)中に破線で示すように、タンク内圧Ptnkは、時刻t1の後も引き続き正圧または負圧を維持する。このため、ECU60は、時刻t1の後、タンク内圧Ptnkに正常な変化が表れるか否かを見ることで、封鎖弁28に閉故障が生じているか否かを正確に判断することができる。」(段落【0040】ないし【0046】)

(4)「【0047】
[ECUが実行する処理の内容]
図3は、上記の原理に従って封鎖弁28の閉故障を検知するためにECU60が実行する制御ルーチンのフローチャートである。尚、本ルーチンが実行される前提として、ECU60は、車両が駐車状態に移行すると、その時点からソークタイマのカウントアップを開始するものとする。
【0048】
図3に示すルーチンでは、先ず、ソークタイマの計数値に基づいて、IGスイッチがOFFされた後の経過時間が、所定時間T1を超えているか否かが判別される(ステップ100)。
所定時間T1は、IGスイッチがOFFされた後、余熱による燃料の気化、或いは冷却による蒸発燃料の液化により、タンク内圧Ptnkが大気圧Paから十分に乖離するのに必要な時間として、予め設定された値である。
【0049】
上記ステップ100において、IGスイッチOFF後の経過時間がT1を超えていないと判別された場合は、以後速やかに今回の処理サイクルが終了される。一方、上記の条件が成立すると判別された場合は、異常検出処理を開始すべく、スタンバイ状態にあったECU60が本格的に起動される(ステップ102)。」(段落【0047】ないし【0049】)

(5)「【0066】
上記ステップ124で発せられた開弁指令を受けて封鎖弁28が適正に開弁していれば、開弁後のタンク内圧Ptnk_oと、開弁前のタンク内圧Ptnkとの間には、所定判定値Pth1を超える有意な差圧ΔPtnkが発生するはずである。一方、封鎖弁28が適正に開弁していなければ、所定判定値Pth1を超える差圧ΔPtnkが生ずることはない。
【0067】
このため、上記ステップ130において、ΔPtnk>Pth1が成立すると判別された場合は、封鎖弁28に閉故障は生じていないとの判断がなされる(ステップ132)。
また、上記ステップ130において、ΔPtnk>Pth1が成立しないと判別された場合は、封鎖弁28に閉故障が生じているとの判断がなされる(ステップ134)。」(段落【0066】及び【0067】)

(6)上記(3)、(5)及び図面の記載から分かること

上記(3)の段落【0043】、【0046】、上記(5)、図2及び図3の記載から、封鎖弁28を閉状態から開状態に変化させた後、タンク内圧Ptnkの変化量ΔPtnkが、所定判定値Pth1を超えたとき、封鎖弁24に閉故障が生じていないと判断され、タンク内圧Ptnkの変化量ΔPtnkが、所定判定値Pth1に到達しない場合は封鎖弁24に閉故障が生じていると判断することが分かる。

(7)引用発明2

上記(1)ないし(6)を総合すると、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

<引用発明2>

「燃料タンク10に接続しキャニスタ26に連通するベーパ通路20に備えられた封鎖弁28を閉状態から開状態に変化させた後、タンク内圧Ptnkの変化量ΔPtnkが、所定判定値Pth1を超えたとき、封鎖弁24に閉故障が生じていないと判断され、タンク内圧Ptnkの変化量ΔPtnkが、所定判定値Pth1に到達しない場合は封鎖弁24に閉故障が生じていると判断する蒸発燃料処理装置のECU60。」

第5 対比・判断

1 本願発明1について

本願発明1と引用発明1とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明1における「燃料タンク1」は、本願発明1における「燃料タンク」に相当し、以下同様に、「キャニスタ3」は「キャニスタ」に、「吸着捕捉」することは「吸着」することに、「エンジン」は「内燃機関」に、「駆動中」は「運転中」に、「吸気通路31」は「内燃機関の吸気系」に、「パージする」ことは「導入して処理する」ことに、「燃料タンク1とキャニスタ3とを連通する」ことは「燃料タンクからキャニスタに至る」ことに、「吸着ベーパ通路11」は「蒸発燃料通路」に、「吸着ベーパ通路弁21」は「封鎖弁」に、「キャニスタ3と吸気通路31とを連通する」ことは「キャニスタから内燃機関の吸気系に至る」ことに、「パージ通路13」は「パージ通路」に、「パージ通路弁23」は「パージ制御弁」に、「キャニスタに連結された大気通路12」は「キャニスタのドレン通路」に、「大気通路弁22」は「ドレンカットバルブ」に、「キャニスタ3、吸着ベーパ通路11の吸着ベーパ通路弁21からキャニスタ3まで、大気通路12のキャニスタ3から大気通路弁22まで、及びパージ通路13のキャニスタ3からパージ通路弁23までの領域によって構成される」ことは「封鎖弁とパージ制御バルブとドレンカットバルブとで区画されたキャニスタを含む」ことに、「第2の領域」は「診断対象領域」に、「第2の圧力センサ9」は「圧力センサ」に、「漏れ診断」は「リーク診断」に、「第2の領域の漏れ診断を開始するに際して」は「リーク診断要求時に」に、「正圧又は負圧」は「正圧側もしくは負圧側の圧力」に、「開弁」すること及び「閉弁」することは「開」くこと及び「閉じ」ることに、「印加」することは「導入」することに、「第2の領域の内圧挙動」は「診断対象領域」の「圧力変化」に、「漏れ診断を行う」ことは「リークの有無を診断する」ことに、それぞれ相当する。

してみると、本願発明1と引用発明1とは、
「給油時に燃料タンク内で発生した蒸発燃料をキャニスタで吸着し、内燃機関の運転中に該内燃機関の吸気系に導入して処理する蒸発燃料処理装置において、
上記燃料タンクから上記キャニスタに至る蒸発燃料通路に設けられた封鎖弁と、
上記キャニスタから上記内燃機関の吸気系に至るパージ通路に設けられたパージ制御バルブと、
上記キャニスタのドレン通路に設けられたドレンカットバルブと、
上記封鎖弁と上記パージ制御バルブと上記ドレンカットバルブとで区画された上記キャニスタを含む診断対象領域内に設けられた圧力センサと、
を備え、
リーク診断要求時に、上記診断対象領域を密閉状態とするとともに、上記封鎖弁を開いて上記燃料タンク内の正圧側もしくは負圧側の圧力を上記診断対象領域内に導入し、かつ上記封鎖弁を閉じた後の圧力変化に基づきリークの有無を診断するようにした蒸発燃料処理装置の診断装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明1は、「封鎖弁を開いた後、診断対象領域内の圧力が、正圧側および負圧側にそれぞれ設定された所定の診断圧力に達したときに、封鎖弁を閉じるように構成され、かつ、所定時間が経過しても診断圧力に到達しない場合は診断を終了する」のに対し、引用発明1は、かかる構成を有しない点(以下、「相違点」という。)。

ここで、上記相違点について検討する。

本願発明1及び引用発明2は、蒸発燃料処理装置という同一の技術分野に係るものであるから、本願発明1と引用発明2とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明2における「燃料タンク10」は、本願発明1における「燃料タンク」に相当し、以下同様に、「キャニスタ26」は「キャニスタ」に、「燃料タンク10に接続しキャニスタ26に連通する」は「燃料タンクからキャニスタに至る」に、「ベーパ通路20」は「蒸発燃料通路」に、「備えられた」ことは「設けられた」ことに、「封鎖弁24」は「封鎖弁」に、「閉状態から開状態に変化させた」は「開いた」ことに、「ECU60」は「診断装置」に相当する。
また、引用発明2における「タンク内圧Ptnk」と、本願発明1における「診断対象領域内の圧力」とは、「圧力」という限りにおいて一致する。

してみると、引用発明2を本願発明1の用語を用いると、以下のものといえる。

「燃料タンクからキャニスタに至る蒸発燃料通路に設けられた封鎖弁を開いた後、燃料タンク内の圧力の変化量ΔPtnkが所定判定値Pth1を超えたとき、封鎖弁に閉故障が生じていないと判断され、タンク内圧Ptnkの変化量ΔPtnkが所定判定値Pth1に到達しない場合は、封鎖弁に閉故障が生じていると判断する蒸発燃料処理装置の診断装置。」

そうしてみると、引用発明2は、「燃料タンク内の圧力」から封鎖弁の故障を判断するものであって、本願発明1における「診断対象領域内の圧力が、所定の診断圧力に達した」ことを判断するものではない。また、引用発明2は、時刻t1経過後の所定時間を計測するものでもないから、本願発明1における「所定時間が経過しても診断圧力に到達しない場合は診断を終了する」ことも、構成として有していない。

また、原査定で引用され、本願の出願前に頒布された特開2001-294052号公報(以下、「引用文献3」という。)には、相違点に係る本願発明1の発明特定事項について、開示や示唆はない。

また、そもそも、引用発明1は、第2の領域を密閉状態にするために大気通路弁22が閉弁された上で、吸着ペーパ通路21が開弁されるものであるのに対し、引用発明2の切り替え弁80は、通常状態で開状態とされた上で、封鎖弁28を開状態とするものであって、引用発明1とは、弁の開閉状態が整合しないから、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはない。

よって、本願発明1は、引用発明1、引用発明2及び引用文献3に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、それぞれ、本願発明1と同様に、それぞれ、引用発明1、引用発明2及び引用文献3に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、引用発明1、引用発明2及び引用文献3に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2012-52521(P2012-52521)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 八木 誠
西山 智宏
発明の名称 蒸発燃料処理装置の診断装置  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ