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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29D
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B29D
管理番号 1334107
審判番号 不服2016-13197  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-02 
確定日 2017-11-02 
事件の表示 特願2011-280792号「タイヤのグルービング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日出願公開、特開2013-129136号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月22日を出願日とする特許出願であって、平成27年11月10日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年5月30日付けで拒絶査定がされた。
これに対して、同年9月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年9月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年9月2日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである(以下「請求項1の補正」という。)。
なお、下線部は補正箇所を示す。
(1)本件補正前の請求項1
〔請求項1〕
「タイヤを該タイヤの中心軸回りに回転させるタイヤ回転手段と、
前記タイヤ回転手段により回転される前記タイヤの外周面をカッタにより切削することにより前記外周面の周方向に延在する縦溝を形成するタイヤ切削手段とを備えるタイヤのグルービング装置であって、
前記タイヤ切削手段は、
前記カッタを保持するアームと、
前記アームに設けられ、前記カッタで切削される前記縦溝の近傍の箇所に当接可能で前記外周面に当接することで前記カッタにより切削される前記縦溝の深さを決定する当接部と、
前記カッタが前記外周面に対して離間接近する方向に移動できるように前記アームを揺動可能に支持する揺動支持部とを備え、
前記当接部は、前記アーム側で回転可能に支持され、前記カッタで切削される前記縦溝を挟んだ前記外周面の箇所に当接可能な一対のローラを含んで構成され、
前記タイヤの軸心方向から見て、前記一対のローラが前記外周面上に位置する箇所と、前記カッタが前記外周面上に位置する箇所との前記外周面の周方向に沿った間隔は、前記ローラの支軸の直径の寸法以内である、
ことを特徴とするタイヤのグルービング装置。」

(2)本件補正後の請求項1
〔請求項1〕
「タイヤを該タイヤの中心軸回りに回転させるタイヤ回転手段と、
前記タイヤ回転手段により回転される前記タイヤの外周面をカッタにより切削することにより前記外周面の周方向に延在する縦溝を形成するタイヤ切削手段とを備えるタイヤのグルービング装置であって、
前記タイヤ切削手段は、
前記カッタを保持するアームと、
前記アームに設けられ、前記カッタで切削される前記縦溝の近傍の箇所に当接可能で前記外周面に当接することで前記カッタにより切削される前記縦溝の深さを決定する当接部と、
前記カッタが前記外周面に対して離間接近する方向に移動できるように前記アームを揺動可能に支持する揺動支持部とを備え、
前記当接部は、前記アームから突設された支軸を介して回転可能に支持され、前記カッタで切削される前記縦溝を挟んだ前記外周面の箇所に当接する一対のローラを含んで構成され、
前記カッタは、前記アームから突設され前記タイヤの外周面を切削する方向に対して直交する平面で切断した断面形状がU字状あるいはV字状を呈する刃部を有し、
前記刃部により前記タイヤの外周面を切削している状態で、前記タイヤの軸心方向から見て、前記一対のローラが前記外周面上に位置する箇所と、前記タイヤの外周面を切削する方向に対して最も先頭に位置する前記刃部の刃先が前記外周面上に位置する箇所とは、ほぼ一致している、
ことを特徴とするタイヤのグルービング装置。」

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否について
ア 上記請求項1の補正は、本件補正前に「前記タイヤの軸心方向から見て、前記一対のローラが前記外周面上に位置する箇所と、前記カッタが前記外周面上に位置する箇所との前記外周面の周方向に沿った間隔は、前記ローラの支軸の直径の寸法以内である」という発明特定事項(以下「補正前事項」という。)を「前記刃部により前記タイヤの外周面を切削している状態で、前記タイヤの軸心方向から見て、前記一対のローラが前記外周面上に位置する箇所と、前記タイヤの外周面を切削する方向に対して最も先頭に位置する前記刃部の刃先が前記外周面上に位置する箇所とは、ほぼ一致している」という発明特定事項(以下「補正後事項」という。)に補正することを含むものであるところ、請求人は当該補正について、文言をさらに減縮したものである旨主張するので、かかる補正が減縮を目的とするものに該当するかについて以下検討する。
イ 補正前事項は、タイヤの軸心方向から見て、一対のローラがタイヤの外周面上に位置する箇所と、カッタがタイヤの外周面上に位置する箇所とのタイヤの外周面の周方向に沿った間隔が、ローラの支軸の直径の寸法以内であることを特定するものである。
ウ ここで、本願明細書の段落【0019】には、「カッタ44は、タイヤTの外周面に縦溝Gを切削するものであり、図4、図5に示すように、タイヤTの外周面を切削する方向に対して直交する平面で切断した断面形状がU字状あるいはV字状を呈する刃部4402を有している。タイヤTの外周面を切削する方向に対して最も先頭に位置する刃部4402の箇所が刃先4404となっている。」と記載されていること及び図面の記載からみて、前記カッタは刃部を有するものであり、当該刃部はタイヤの外周面を切削する方向に対して最も先端に位置する箇所である刃先を含むとともに、当該方向に対して所定の幅を有するものであると理解することができる。
エ 上記イのとおり、補正前事項は、タイヤの軸心方向から見て、一対のローラがタイヤの外周面上に位置する箇所と、カッタがタイヤの外周面上に位置する箇所とのタイヤの外周面の周方向に沿った間隔が、ローラの支軸の直径の寸法以内であることを特定するものであるところ、上記ウのとおり、当該カッタは、その刃部がタイヤの外周面を切削する方向に対して所定の幅を有するものであることを考慮すると、当該カッタがタイヤの外周面上に位置する箇所は、前記所定の幅内においてタイヤの外周面上の最も後端に位置する箇所をも含むということができるから、上記補正前事項は、タイヤの軸心方向から見て、一対のローラがタイヤの外周面上に位置する箇所と、カッタの刃部における、タイヤの外周面を切削する方向に対してタイヤの外周面上の最も先端に位置する箇所(刃先)から最も後端に位置する箇所までの幅内のいずれの箇所とのタイヤの外周面の周方向に沿った間隔が、ローラの支軸の直径の寸法以内であることを特定するものであると解することができる。
オ これに対して、補正後事項は、タイヤの軸心方向から見て、一対のローラがタイヤの外周面上に位置する箇所と、前記タイヤの外周面を切削する方向に対して最も先頭に位置するカッタの刃部の刃先がタイヤの外周面上に位置する箇所とは、ほぼ一致していることを特定するものであるところ、一対のローラがタイヤの外周面上に位置する箇所と、カッタの刃部の刃先が位置する箇所との間隔についてみると、前記間隔がローラの支軸の直径の寸法内であると特定される補正前事項に対しては減縮されているということはできそうであるものの、補正後事項は、一対のローラがタイヤ外周面上に位置する箇所と、刃先以外のカッタの刃部のタイヤの外周面上に位置する箇所との間隔についての特定がされていないことから、補正後事項は、補正前事項の発明特定事項を限定するものでないばかりか、補正前事項の一部の事項について実質的に拡張するものということができる。
カ したがって、請求項1の補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、請求項1の補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものということもできない、
以上より、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし4号に掲げられたいずれの事項を目的とするものに該当しないから、却下すべきものである。
キ なお、補正前事項の解釈については上述のとおりとするのが相当であるところ、本件補正前の請求項1の「前記カッタで切削される前記縦溝」との記載事項を勘案すると、補正前事項の「前記カッタが前記外周面上に位置する箇所」とは、カッタの縦溝の切削に関与する部分、すなわち刃先が前記外周面上に位置する箇所を意味すると解する余地もないとはいえず、そのように解した場合には、上記オでも述べたとおり、補正後事項は補正前事項に対し減縮されているということもできそうであるので、念のために、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下検討する。

(2)独立特許要件について
ア 刊行物
(ア)刊行物1の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭53-45386号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付与したものである。以下同様。
(1a)「本発明は、タイヤ外皮の製造機械の改良に関するものであり、更に詳しくは、新しいタイヤまたは補修されたタイヤのトレッドの製造機械に関する。」(2頁右上欄12-15行)
(1b)「タイヤ外皮のトレッドの中に周方向溝を切り出すための本発明による装置は、作られるべき溝の放射断面形状の刃をもつナイフと、前記ナイフを連結しこのナイフを処理されるタイヤ外皮に対して案内する支承体とから成る少なくとも1個の組立体を備え、前記ナイフ支承体そのものはタイヤ外皮を担持するフレームに連結される様にする。」(2頁右下欄6-12行)
(1c)「本発明による装置は相当の時間の節約を可能にし、またナイフの侵入深さを案内するフイーラを用いるので、一定深さの溝をうる事ができる。」(3頁左上欄14-16行)
(1d)「第1図乃至第4図に示す機械はベース1の上に柱2を備えこの柱2の中にナイフ把持装置3が固着され、またこの機械は、Aで示されるタイヤ(部分図)を受ける為の柱20を備えている。
ナイフ把持装置3は、2本のアームを備えたレバー4を有し、一方のアームはフイーラ5を担持し、他方のアームはナイフ6を担持している。このレバー4は、ナイフ6の切り込み深さをコントロールする制御部材であるフイーラ5とナイフ6との間において水平軸7に枢着され、この水平軸は2本のアーム8,8′の中間に載置され、これらのアーム8,8′は、柱2の中において、図示されない装置によって垂直方向往復運動を成しうる様に保持されている。この運動を可能にする為、柱2は開口9を備えている。
フイーラ5がタイヤAのトレッドに当接保持される様にするため、レバー4のフイーラを担持するアームと柱2との間に介在されたコイルバネ10がレバー4を左回りに(第1図を見て)枢転させる傾向を持つ。
タイヤに当接させられるツイーン50部分は好ましくはホール/ソケット組立体(当審注:「ホール」は「ボール」の誤記と認める。)から成る事が好ましい。
切込を開始する前にナイフ6をレバー4の中において移動させる事により、タイヤAの中へのナイフ6の平均切込み深さBを調節する事ができ、ナイフをレバー4の中において、固定ネジ11によって選ばれた位置に固定する事ができる。
この機械の中に受けられるタイヤの直径の差違を考慮する為、ナイフ把持装置3とタイヤAの把持柱20との間の距離Dを調節する事ができる。
柱20の上に固定されたタイヤのトレッドの中に1本または複数の周方向直線溝を切り出そうとする場合、この柱を(図示されない駆動機構によって)回転させ、所望の切込み深さを決定し調節したのちに、1本または複数のナイフ6をトレッドの中に係合させる。」(3頁右下欄11行-4頁右上欄6行)
(1e)図面には次のFig.1とFig.2が図示されている。

以上の記載事項によると、刊行物1には、「タイヤのトレッドの製造機械」に関し、
特に摘示(1a)(1d)より、タイヤのトレッドの製造機械はベース1の上に柱2を備えこの柱2の中にナイフ把持装置3が固着され、またこの機械は、Aで示されるタイヤを受ける為の柱20を備え、
ナイフ把持装置3は、2本のアームを備えたレバー4を有し、一方のアームはフイーラ5を担持し、他方のアームはナイフ6を担持しており、
このレバー4は、ナイフ6の切り込み深さをコントロールする制御部材であるフイーラ5とナイフ6との間において水平軸7に枢着され、
フイーラ5が、タイヤAのトレッドに当接保持される様にするため、レバー4のフイーラを担持するアームと柱2との間に介在されたコイルバネ10がレバー4を左回りに枢転させる傾向を持つこと、
特に摘示(1d)より、柱20の上に固定されたタイヤのトレッドの中に周方向直線溝を切り出そうとする場合、この柱20を駆動機械によって回転させ、所望の切込み深さを決定し調節したのちに、ナイフ6をトレッドの中に係合させること、
特に摘示(1b)より、ナイフ6は、作られるべき溝の放射断面形状の刃をもつこと、が明らかである。

以上を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「タイヤのトレッドの製造機械はベース1の上に柱2を備えこの柱2の中にナイフ把持装置3が固着され、またこの機械は、Aで示されるタイヤを受ける為の柱20を備え、
ナイフ把持装置3は、2本のアームを備えたレバー4を有し、一方のアームはフイーラ5を担持し、他方のアームはナイフ6を担持しており、
このレバー4は、ナイフ6の切り込み深さをコントロールする制御部材であるフイーラ5とナイフ6との間において水平軸7に枢着され、
フイーラ5が、タイヤAのトレッドに当接保持される様にするため、レバー4のフイーラを担持するアームと柱2との間に介在されたコイルバネ10がレバー4を左回りに枢転させる傾向を持ち、
柱20の上に固定されたタイヤのトレッドの中に周方向直線溝を切り出そうとする場合、この柱20を駆動機械によって回転させ、所望の切込み深さを決定し調節したのちに、ナイフ6をトレッドの中に係合させ、
ナイフ6は、作られるべき溝の放射断面形状の刃をもつ、
タイヤのトレッドの製造機械」

イ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「タイヤ」は本願補正発明の「タイヤ」に相当し、引用発明の「Aで示されるタイヤを受ける為の」「柱20」は、そ「の上にタイヤを固定」するものであるとともに、「駆動機械によって回転させ」られるものであるから、当該「柱20」と当該「駆動機械」を併せて、本願補正発明の「タイヤを該タイヤの中心軸回りに回転させる」「タイヤ回転手段」に相当するといえる。
(b)引用発明の「周方向直線溝」は、「タイヤのトレッドの中」に「切り出そうと」されるものであること、かかる「タイヤのトレッド」は、タイヤの外周面に存在することが明らかであることから、前記「周方向直線溝」は、本願補正発明の「タイヤ」の「外周面の周方向に延在する縦溝」に相当するといえる。
(c)引用発明の「ナイフ把持装置3」は、「2本のアームを備えたレバー4を有し」、「他方のアームはナイフ6を担持して」構成されるものである。そして、当該「ナイフ6」は、「周方向直線溝を切り出そうとする場合」に「所望の切込み深さを決定し調節したのちに」、「トレッドの中に係合させ」られるものであり、タイヤが固定された「柱20」は「駆動機械によって回転させ」られるものであるから、前記ナイフ6により、回転するタイヤのトレッドを切削することは明らかであり、加えて、切削することにより周方向直線溝が形成されることも明らかである。
そうすると、引用発明の「ナイフ6」は、本願補正発明の「カッタ」に相当し、引用発明の「ナイフ把持装置3」は、本願補正発明の「前記タイヤ回転手段により回転される前記タイヤの外周面をカッタにより切削することにより前記外周面の周方向に延在する縦溝を形成する」「タイヤ切削手段」に相当するといえる。
(d)引用発明の「タイヤのトレッドの製造機械」は、「ベース1の上に柱2を備えこの柱2の中にナイフ把持装置3が固着され」るものであって、「Aで示されるタイヤを受ける為の柱20」を備えるものであるから、上記(a)?(c)での対比をも踏まえると、本願補正発明の「タイヤ回転手段」と「タイヤ切削手段」とを備える「タイヤのグルービング装置」に相当するといえる。
(e)引用発明の「ナイフ把持装置3」は、「2本のアームを備えたレバー4を有し」、当該「レバー4」の「他方のアームはナイフ6を担持して」いるものであるから、当該「レバー4」は、本願補正発明の「前記カッタを保持するアーム」に相当するといえる。
(f)引用発明の「フイーラ5」は、「レバー4」の「一方のアーム」に担持され、「ナイフ6の切り込み深さをコントロールする制御部材である」とともに、「タイヤAのトレッドに当接保持される様に」されるものであること、及び上記摘示(1c)の「ナイフの侵入深さを案内するフイーラを用いるので、一定深さの溝をうる事ができる」との記載をも踏まえると、「ナイフ6の切り込み深さをコントロールする」ことは、技術的にみて、周方向直線溝の深さを決定することを意味するといえることから、上記(b)(e)での対比をも踏まえると、引用発明の「フイーラ5」は、本願補正発明の「前記アームに設けられ、前記カッタで切削される前記縦溝の近傍の箇所に当接可能で前記外周面に当接することで前記カッタにより切削される前記縦溝の深さを決定する当接部」との対比において、「前記アームに設けられ、前記カッタで切削される前記外周面に当接可能で前記外周面に当接することで前記カッタにより切削される前記縦溝の深さを決定する当接部」という構成の限度で共通するといえる。
(g)引用発明の「レバー4」は、「フイーラ5とナイフ6との間において水平軸7に枢着され」るものであり、「フイーラ5が、タイヤAのトレッドに当接保持される様にするため、レバー4のフイーラを担持するアームと柱2との間に介在されたコイルバネ10がレバー4を左回りに枢転させる傾向を持ち」ということから、当該「レバー4」は、「水平軸7」によって、ナイフ6がトレッドに対して離間接近する方向に移動できるように揺動可能に支持されるものであるといえる。
そうすると、引用発明の「水平軸7」は、上記(c)(e)の対比をも踏まえると、本願補正発明の「前記カッタが前記外周面に対して離間接近する方向に移動できるように前記アームを揺動可能に支持する揺動支持部」に相当するといえる。
以上によれば、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりといえる。
<一致点>
「タイヤを該タイヤの中心軸回りに回転させるタイヤ回転手段と、
前記タイヤ回転手段により回転される前記タイヤの外周面をカッタにより切削することにより前記外周面の周方向に延在する縦溝を形成するタイヤ切削手段とを備えるタイヤのグルービング装置であって、
前記タイヤ切削手段は、
前記カッタを保持するアームと、
前記アームに設けられ、前記カッタで切削される前記外周面に当接可能で前記外周面に当接することで前記カッタにより切削される前記縦溝の深さを決定する当接部と、
前記カッタが前記外周面に対して離間接近する方向に移動できるように前記アームを揺動可能に支持する揺動支持部とを備える、
タイヤのグルービング装置。」
<相違点1>
当接部の構成に関し、本願補正発明の当接部は、「前記カッタで切削される前記縦溝の近傍の箇所に」当接可能であり、「前記アームから突設された支軸を介して回転可能に支持され、前記カッタで切削される前記縦溝を挟んだ前記外周面の箇所に当接する一対のローラを含んで構成され」るものであるのに対して、引用発明のフイーラは、「レバー4」に担持され、「タイヤAのトレッドに当接保持される様に」構成されるものである点。
<相違点2>
カッタの構成に関し、本願補正発明のカッタは、「前記アームから突設され前記タイヤの外周面を切削する方向に対して直交する平面で切断した断面形状がU字状あるいはV字状を呈する刃部を有し」ているものであるのに対して、引用発明のナイフは、「作られるべき溝の放射断面形状の刃をもつ」ものである点。
<相違点3>
当接部とカッタの位置関係に関し、本願補正発明は、「前記刃部により前記タイヤの外周面を切削している状態で、前記タイヤの軸心方向から見て、前記一対のローラが前記外周面上に位置する箇所と、前記タイヤの外周面を切削する方向に対して最も先頭に位置する前記刃部の刃先が前記外周面上に位置する箇所とは、ほぼ一致している」という位置関係に設定しているのに対して、引用発明は、そのような位置関係に設定されていない点

(イ)判断
(a)相違点1について
タイヤの外周面に溝を加工する装置において、当接部を一対のローラとして構成し、当該ローラの当接位置を前記溝の近傍の位置で、前記溝を挟んだ前記外周面の箇所に設定する技術は、従来周知・慣用の技術事項にすぎない(必要であれば、原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された米国特許第2748859号明細書(以下「刊行物2」ということもある。)の特にwheels26に関する事項及びFig.1?Fig.5、米国特許明細書第2230042号明細書(以下「周知例1」という。)の特にrollers(wheels)30に関する事項及びFig.1?Fig.5、米国特許第1971582号明細書(以下「周知例2」という。)の特にrollers39に関する事項及びFig.1?Fig.3参照)。
本願補正発明や引用発明において採用される加工法は、自己ならい式加工法と称されることもある、加工対象の表面を基準にして加工対象に一定量の除去加工を施す際に使用される加工法に分類されるものであって、かかる加工法は技術常識ともいうことができ、上記周知・慣用の技術事項については、かかる加工法に採用される加工手段の一態様をなすということもできる。
そして、同様な加工法において採用される他の加工手段を参考にすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎず、引用発明において上記周知・慣用の技術事項を参考にする動機付けは十分にあるというべきである。
さらにいうと、刊行物1にはフィーラ5(当接部)の構成として、「ホール/ソケット組立体から成る事が好ましい」(上記摘示(1d)。なお「ホール」は「ボール」の誤記と認める。)との記載もみられ、かかる記載は、当接部として本願補正発明が採用するローラに代表される転動体を設けることを示唆するものということができる。
このことからも、引用発明において上記周知・慣用の技術事項を参考にする動機付けは十分にあるというべきである。
以上によれば、上記相違点1に係る本願補正発明の構成は、上記周知・慣用の技術事項を参考にして当業者が容易に想到しうるものといえる。

(b)相違点2について
タイヤの外周面に溝を加工する装置に採用されるカッタとして、溝の断面形状に依り断面形状がU字状あるいはV字状を呈する刃部を有するものは、従来周知・慣用の技術事項にすぎない(必要であれば、上記周知例1及び2の他、刊行物1の特に2頁左下欄4-6行、特開平1-163050号公報(以下「周知例3」という。)の特にカッタ10に関する事項及び第2、7、10図、原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された特開昭48-25773号公報(以下「刊行物3」ということもある。)の特に鋼刃5に関する事項及びFig.1参照)。
引用発明の「ナイフ6は、作られるべき溝の放射断面形状の刃をもつ」ものであるから、上記相違点2に係る本願補正発明の構成は、上記周知・慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものといえる。

(c)相違点3について
タイヤの外周面に溝を加工する装置における当接部とカッタの位置関係に関し、タイヤの軸心方向から見て、タイヤの外周面を切削する方向に対してカッタの刃先の位置と当接部の当接位置とを近接させる態様は、従来周知・慣用の技術事項にすぎない(必要であれば、上記周知例1の特にFig.1,5、周知例2の特にFig.1,2、周知例3の特に第1,9図、刊行物3の特にFig.2参照)。
他方、当接部とカッタの位置関係に関し、タイヤの軸心方向から見て、タイヤの外周面を切削する方向に対してカッタの刃先の位置と当接部の当接位置とが、前後に離れて位置させる態様も、引用発明がそうであるように従来周知・慣用の技術事項にすぎない(必要であれば、引用発明の他、上記周知例3の特に第11図、刊行物2の特にFig.3参照)
いずれの周知・慣用の技術事項も、自己ならい式加工法と称される、技術常識ともいうことができる加工法において採用される加工手段の一態様に該当するものであるといえるところ、上記(a)においても述べたように、同様な加工法に採用する他の加工手段を参考にすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎず、引用発明において上記周知例1?3や刊行物3に示される周知・慣用の技術事項を参考にする動機付けは十分にあるというべきである。
さらにいうと、上記周知例3には、その実施の形態として、刃先の位置と当接部の当接位置とを近接させる態様と、前後に離れて位置させる態様の両者が示さており、このことは、各態様が単なる選択的事項であることを示唆するものということもできる。
このことからも、引用発明において上記周知例1?3や刊行物3に示される周知・慣用の技術事項を参考にする動機付けは十分にあるというべきである。
ここで、本願補正発明においては、切削している状態で、一対のローラが外周面上に位置する箇所と、タイヤの外周面を切削する方向に対して最も先頭に位置する刃部の刃先が外周面上に位置する箇所とは、ほぼ一致しているとの構成を採用するものであるところ、かかる構成は、一般に正確な寸法が把握できない特許図面(図2及び3)を根拠として審判請求時の補正で追加された事項であって、本願明細書には、両箇所において切削する方向に対してどの程度のずれが許容されるのか、さらにいうと、作用効果(技術的意義)との関係においてどの程度のずれが許容されるのかについて全く記載がないのであるから、当接部とカッタの刃先との位置関係に関し、本願補正発明と上記周知例1?3や刊行物3に示される周知・慣用の技術事項との間に表現上の差異があるとしても直ちに実質的な差異があるということはできない。
仮に実質的な差異があるということができたとしても、かかる差異に基づき作用効果の点で有意な差があることについて、本願明細書において定量的に根拠を示して説明されているわけではないから、かかる差異は設計上の微差の範疇に留まるものといわざるを得ない。
以上より、上記相違点3に係る本願補正発明の構成は、上記周知例1?3や刊行物3に示される周知・慣用の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到しうるものといえる。
そして、本願補正発明の作用効果についても、引用発明及び周知・慣用の技術事項から予測可能なものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ)まとめ
本願補正発明は、引用発明及び周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号ないし4号に掲げられたいずれの事項を目的とするものに該当しないか、仮に同第2号に掲げられた事項を目的とするものに該当するとしても、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成27年12月25日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)〔請求項1〕」に記載したとおりである。

2 原査定の拒絶の理由
本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1,4に記載の発明及び引用文献5にも記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開昭53-045386号公報
引用文献4:米国特許第2748859号明細書
引用文献5:特開昭48-025773号公報

3 引用文献の記載事項等
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物1の記載事項及び刊行物1に記載された発明(引用発明)は、上記「第2[理由]2(2)ア」に記載したとおりである。
また、引用文献4及び引用文献5は上記刊行物2及び刊行物3と同一文献である。

4 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
上記「第2[理由]2(2)イ(ア)」を参照すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりのものといえる。
<一致点>
「タイヤを該タイヤの中心軸回りに回転させるタイヤ回転手段と、
前記タイヤ回転手段により回転される前記タイヤの外周面をカッタにより切削することにより前記外周面の周方向に延在する縦溝を形成するタイヤ切削手段とを備えるタイヤのグルービング装置であって、
前記タイヤ切削手段は、
前記カッタを保持するアームと、
前記アームに設けられ、前記カッタで切削される前記外周面に当接可能で前記外周面に当接することで前記カッタにより切削される前記縦溝の深さを決定する当接部と、
前記カッタが前記外周面に対して離間接近する方向に移動できるように前記アームを揺動可能に支持する揺動支持部とを備える、
タイヤのグルービング装置。」
<相違点A>
当接部の構成に関し、本願発明の当接部は、「前記カッタで切削される前記縦溝の近傍の箇所に」当接可能であり、「前記アーム側で回転可能に支持され、前記カッタで切削される前記縦溝を挟んだ前記外周面の箇所に当接可能な一対のローラを含んで構成され」るものであるのに対して、引用発明のフイーラは、「レバー4」に担持され、「タイヤAのトレッドに当接保持される様に」構成されるものである点。
<相違点B>
当接部とカッタとの位置関係に関し、本願発明は、「前記タイヤの軸心方向から見て、前記一対のローラが前記外周面上に位置する箇所と、前記カッタが前記外周面上に位置する箇所との前記外周面の周方向に沿った間隔は、前記ローラの支軸の直径の寸法以内である」という位置関係に設定しているのに対して、引用発明は、そのような位置関係に設定されていない点

5 判断
(1)相違点Aについて
相違点Aは、上記相違点1と同じ相違点といえるから、上記相違点1について(第2[理由]2(2)イ(イ)(a))で判断したとおり、相違点Aに係る本願発明の構成は、周知・慣用の技術事項ともいえる上記刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到しうるものといえる。

(2)相違点Bについて
相違点Bに係る本願発明の構成の解釈については、上記「第2[理由]2(1)エ及びキ」で述べたとおり、2通りの解釈が考えられるため、以下分けて検討する。
ア 上記「第2[理由]2(1)エ」の解釈をとった場合
本願発明おいては、一対のローラが外周面上に位置する箇所と、カッタが前記外周面上に位置する箇所との前記外周面の周方向に沿った間隔は、前記ローラの支軸の直径の寸法以内であるとの構成を採用するものであるところ、かかる構成は、一般に正確な寸法が把握できない特許図面(図2及び3)を根拠として平成27年12月25日付け手続補正により補正された事項であって、本願明細書には、ローラの支軸の直径の寸法が何ら記載されておらず、両箇所の位置関係に関して、外周面の周方向に沿った間隔が具体的な寸法としてどの程度まで許容されるのか、さらにいうと、作用効果(技術的意義)との関係においてどの程度の間隔までが許容されるのかについて全く記載がないのであるから、当接部とカッタの位置関係に関し、本願発明と上記刊行物3にも記載の周知・慣用の技術事項(上記周知例1?3も参照)との間に表現上の差異があるとしても直ちに実質的な差異があるということはできない。
仮に実質的な差異があるということができたとしても、かかる差異に基づき作用効果の点で有意な差があることについて、本願明細書において定量的に根拠を示して説明されているわけではないから、かかる差異は設計上の微差の範疇に留まるものといわざるを得ない。
以上より、上記相違点Bに係る本願発明の構成は、上記刊行物3にも記載の周知・慣用の技術事項(上記周知例1?3も参照)に基づいて、当業者が容易に想到しうるものといえる。

イ 上記「第2[理由]2(1)キ」の解釈をとった場合
本願明細書には、ローラの支軸の直径の寸法が何ら記載されていないばかりか、カッタの寸法も何ら記載されておらず、一対のローラが外周面上に位置する箇所と、カッタ(刃先)が前記外周面上に位置する箇所との位置関係に関して、外周面の周方向に沿った間隔が具体的な寸法としてどの程度まで許容されるのか、さらにいうと、作用効果(技術的意義)との関係においてどの程度の間隔までが許容されるのかについて全く記載がないのであるから、両箇所の位置関係に関し、本願発明と上記刊行物3にも記載の周知・慣用の技術事項(上記周知例1?3も参照)との間に表現上の差異があるとしても直ちに実質的な差異があるということはできない。
仮に実質的な差異があるということができたとしても、かかる差異に基づき作用効果の点で有意な差があることについて、本願明細書において定量的に根拠を示して説明されているわけではないから、かかる差異は設計上の微差の範疇に留まるものといわざるを得ない。
以上より、上記相違点Bに係る本願発明の構成は、上記刊行物3にも記載の周知・慣用の技術事項(上記周知例1?3も参照)に基づいて、当業者が容易に想到しうるものといえる。

そして、上記ア、イのいずれの解釈をとったとしても、本願発明の作用効果は、引用発明及び周知・慣用の技術事項から予測可能なものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知・慣用の技術事項ともいえる上記刊行物2に記載された事項及び刊行物3にも記載の周知・慣用の技術事項(上記周知例1?3も参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知・慣用の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-30 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2011-280792(P2011-280792)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29D)
P 1 8・ 575- Z (B29D)
P 1 8・ 57- Z (B29D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 和田 雄二
氏原 康宏
発明の名称 タイヤのグルービング装置  
代理人 野田 茂  

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