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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B41M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B41M
管理番号 1334130
審判番号 不服2016-17548  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-24 
確定日 2017-11-21 
事件の表示 特願2012-235089「印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月12日出願公開、特開2014- 83780、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月24日の出願であって、平成28年3月16日付けで拒絶理由が通知され、同年5月19日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年8月8日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年11月24日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成29年8月25日付けで拒絶理由を通知し、その応答期間中の同年9月22日に意見書の提出とともに手続補正がなされた。


第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、平成29年9月22日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
昇華性染料を内包しており、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子、及び溶媒を含み、上記バインダ樹脂粒子が上記溶媒中に直接分散又は乳濁しているインクを、被記録媒体上に塗布するインク塗布工程と、
被記録媒体上に塗布された上記インクを加熱して、上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させる加熱工程と、
を含み、
上記バインダ樹脂粒子は、上記バインダ樹脂の溶液、モノマー又はオリゴマーと、上記昇華性染料とを混合し、上記バインダ樹脂の溶液、モノマー又はオリゴマーにおける当該バインダ樹脂を重合させて上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子中に内包させたものであることを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
上記バインダ樹脂粒子は、上記昇華性染料により発色可能なポリエステル系樹脂に上記昇華性染料が内包されたものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
上記加熱工程では、被記録媒体上が100℃以上、200℃以下になるように加熱することを特徴とする請求項2に記載の印刷方法。
【請求項4】
上記溶媒は水であり、上記バインダ樹脂粒子は上記溶媒中に乳濁又は懸濁していることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項5】
上記被記録媒体として、上記加熱工程における加熱において上記昇華性染料が当該被記録媒体の中に拡散する材料を用いることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の印刷方法。
【請求項6】
上記被記録媒体がポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の印刷方法。」


第3 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成5年2月19日に公開された刊行物である特開平5-39447号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線部は、発明の認定に用いた箇所を示す。以下同様)

ア 「【0009】また、本発明によって提供されるインクジェット記録方法は、マイクロカプセルの内包物が、水、水溶性有機溶剤、並びにポリエステル樹脂の少なくとも1種に、昇華性分散染料を溶解又は分散させた記録組成物であり、該昇華性分散染料が、イエロー、マゼンタ、シアンの各色相からなり、該マイクロカプセルが、各色相の該昇華性分散染料を別々に内包させたもので、水又は水溶性有機溶剤からなる媒体中に該マイクロカプセルを含有させた各色相のインクジェット記録用インキを用いて、記録媒体にインクジェット記録をした後、加圧処理して該マイクロカプセルを破壊させるか、これに加えて加熱処理させてなるものである。」

イ 「【0018】加うるに、本発明では、無機又は有機顔料と水溶性ポリエステル樹脂からなるインク受理層が塗設された記録媒体を使用するために、吸収された昇華性分散染料がポリエステル樹脂に定着されるという長所も得られる。」

ウ 「【0019】加圧処理のみでマイクロカプセル内包物が放出されない場合、例えばマイクロカプセル内包物が昇華性分散染料とポリエステル樹脂からなる組成物の場合は、加圧処理後に加熱処理することにより内包物を放出させる方法をとるのが好ましい。加熱ロールと金属ロールとのニップ間を通過させるような加圧-加熱処理を同時に実施する方法をとるか、加圧後にヒートラミネーターでラミネートをしながら加熱する方法をとってもよい。」

エ 「【0042】
【作用】本発明のインクジェット記録用インキは、媒体中に水、水溶性有機溶剤、並びにポリエステル樹脂の少なくとも1種に、昇華性分散染料を溶解又は分散させた記録組成物を内包するマイクロカプセルを含有したもので、該昇華性分散染料として、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックからなる各色相の該マイクロカプセルを使用して、フルカラー画像を記録するものである。又、本発明のインクジェット記録用インキを記録媒体に記録し、記録部を加圧処理し、該マイクロカプセルを破壊させるか、これに加えて加熱処理させる記録方法である。従来のインクジェット記録用インキを使用したフルカラー記録画像では、異なる色相の該インキが十分に混じり合わず、微細なインクドットの重なりとして存在するが、本発明のインクジェット記録用インキでは、記録後に複数の該マイクロカプセルを破壊することにより、異なる色相の該インキが記録媒体のインク受理層上で十分に混じり合うことになる。このため、記録画像は、その画像濃度が高く、且つ色彩性に優れたものとなる。更に、加圧後の加熱処理によって、画像のドット境界面を滲ませ、階調性を高めることになるものと考えられる。」

オ 「【0049】実施例2
1.マイクロカプセルの製造
有色色素を内包するメラミン-ホルムアルデヒド壁材のマイクロカプセルを次のとおり製造した。軟化点90℃のポリエステル樹脂90部を加熱溶融させた中に、ナフトキノン系色素からなるシアンの昇華性分散染料として、1,4-ビス(メチルアミノ)-5,8-ナフトキノンを10部添加して均一になるまで分散させ、マイクロカプセル内包物(芯物質)を用意した。これを、スチレン-無水マレイン酸共重合体を少量の水酸化ナトリウムと共に溶解したpH4.0の5%水溶液120部中に加え、80℃の温度で分散、乳化した。ここで、乳化粒子は、平均粒径10μmであった。別に、膜材として、メラミン-ホルムアルデヒド初期縮物を用意しておく。メラミン-ホルムアルデヒド初期縮物は、メラミン10部、37%ホルムアルデヒド水溶液25部、水65部を水酸化ナトリウムでpH9に調製し、60℃に加熱して溶解させ透明状態にしたものである。先に乳化した乳化液にメラミン-ホルムアルデヒド初期縮物を加え、攪拌下、液温を60℃に保持してマイクロカプセル化を行った。マイクロカプセルの平均粒径は、乳化粒子の平均粒径とほぼ同じ10μmであった。製造したマイクロカプセル分散液の固形分濃度は、約40%であった。
【0050】シアンの昇華性分散染料に代え、イエローの昇華性分散染料として、3-シアノ-6-ヒドロキシ-1-ヒドロキシメチル-4-メチル-5-フェニルアゾ-2-ピリドンからなるピリドン系色素、又、マゼンタの昇華性分散染料として、p-(1,2,2-トリシアノビニル)-N,N-ジメチルアニリンからなるスチリル系色素を使用した以外は同様にして、上記の方法でマイクロカプセルを製造した。
【0051】2.インクジェット記録用インキの調製
上記1で得たイエロー、マゼンタ、シアンの各マイクロカプセル分散液320部に対して、ジエチレングリコール80部を加えてインクジェット記録用インキとした。
【0052】3.印字評価
実施例1で使用した記録媒体と印字装置により、スキャナーで入力したフルカラー画像を記録媒体上に印字し、これをスーパーカレンダーに通し、画像部のマイクロカプセルを破壊させ、続いて100℃に設定した熱ロールに通して印字を終了した。印字画像は、各色相のマイクロカプセル内包物が熱溶融し、インク受理層に浸透、接着し、定着性のあるものであった。実施例1の光学顕微鏡観察と同様の結果を得ることができ、高い印字濃度、且つ濃度階調性のある画像を得ることができた。」

カ 「【0054】
【発明の効果】本発明は、水又は水溶性有機溶剤からなる媒体中に、昇華性分散染料を内包するマイクロカプセルを含有したインクジェット記録用インキ及びその記録方法に関するものであり、これを用いた記録では、高い印字濃度、且つフルカラー画像の階調性に優れた印字画像を得ることができる。」

(2)上記記載から、引用文献1には次の技術事項が示されている。

ア 記載事項オの「軟化点90℃のポリエステル樹脂90部を加熱溶融させた中に、ナフトキノン系色素からなるシアンの昇華性分散染料として、1,4-ビス(メチルアミノ)-5,8-ナフトキノンを10部添加して均一になるまで分散させ、マイクロカプセル内包物(芯物質)を用意した。」との記載に基づけば、引用文献1には、「ポリエステル樹脂を加熱溶融させた中に、昇華性分散染料を添加して均一になるまで分散させ、マイクロカプセル内包物(芯物質)を用意」したことが示されているといえる。

イ 記載事項オの「有色色素を内包するメラミン-ホルムアルデヒド壁材のマイクロカプセルを次のとおり製造した。」との記載および「先に乳化した乳化液にメラミン-ホルムアルデヒド初期縮物を加え、攪拌下、液温を60℃に保持してマイクロカプセル化を行った。」との記載に基づけば、引用文献1には、「マイクロカプセル化を行って有色色素を内包するメラミン-ホルムアルデヒド壁材のマイクロカプセルを製造」したことが示されているといえる。

ウ 記載事項オの「上記1で得たイエロー、マゼンタ、シアンの各マイクロカプセル分散液320部に対して、ジエチレングリコール80部を加えてインクジェット記録用インキとした。」との記載に基づけば、引用文献1には、「マイクロカプセル分散液に対して、ジエチレングリコールを加えてインクジェット記録用インキとし」たことが示されているといえる。

エ 記載事項オの「実施例1で使用した記録媒体と印字装置により、スキャナーで入力したフルカラー画像を記録媒体上に印字し、これをスーパーカレンダーに通し、画像部のマイクロカプセルを破壊させ、続いて100℃に設定した熱ロールに通して印字を終了した。印字画像は、各色相のマイクロカプセル内包物が熱溶融し、インク受理層に浸透、接着し、定着性のあるものであった。」との記載に基づけば、引用文献1には、「スキャナーで入力したフルカラー画像を記録媒体上に印字し、これをスーパーカレンダーに通し、画像部のマイクロカプセルを破壊させ、続いて100℃に設定した熱ロールに通して各色相のマイクロカプセル内包物を熱溶融させ、インク受理層に浸透、接着させて印字を終了」したことが示されているといえる。

(3)以上の技術事項ア?エに基づけば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリエステル樹脂を加熱溶融させた中に、昇華性分散染料を添加して均一になるまで分散させ、マイクロカプセル内包物(芯物質)を用意し、膜材として、メラミン-ホルムアルデヒド初期縮物を用意し、マイクロカプセル化を行って有色色素を内包するメラミン-ホルムアルデヒド壁材のマイクロカプセルを製造し、マイクロカプセル分散液に対して、ジエチレングリコールを加えてインクジェット記録用インキとし、スキャナーで入力したフルカラー画像を記録媒体上に印字し、これをスーパーカレンダーに通し、画像部のマイクロカプセルを破壊させ、続いて100℃に設定した熱ロールに通して各色相のマイクロカプセル内包物を熱溶融させ、インク受理層に浸透、接着させて印字を終了するインクジェット記録方法。」(以下、「引用発明1」という。)


2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の昭和50年6月3日に公開された刊行物である特開昭50-65678号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「2.特許請求の範囲
蛋白質、植物ガム、合成ポリマー或は半合成ポリマーからなる微粒子或はマイクロカプセルを色素溶液中に浸漬して色素を該粒子内部に浸透させて得た色素含有微粒子或はマイクロカプセルを使用することを特徴とする点描着色法。」(第1頁左下欄第4?9行)

イ 「 即ち本発明の方法によれば蛋白質、植物ガム、又は合成あるいは半合成ポリマーからなる微粒子或はマイクロカプセルを予め製造しておきこれを色素溶液に浸漬するだけで好みの色相、濃度、粒度の色素含有微粒子或はマイクロカプセルを容易につくることができる。本発明の微粒子或はマイクロカプセルはゼラチン、カゼイン、ポリアミノ酸などの蛋白質、アラビアゴム、アルギン酸ソーダなどの植物ガム又はナイロン、テトロン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニール、ポリ酢酸ビニール、サラン、ポリビニールアルコール、酢酸セルロース、CMC、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂などの合成ポリマー或は半合成ポリマーからなる材質を有し夫々の材質に応じ次のようにして製造される。先づマイクロカプセルを得るには、蛋白質や植物ガムの場合は通常のマイクロカプセル化法と同じようにコアセルベーションを利用して製造するのが好ましい。ナイロン、テトロン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニールなどの様な溶媒溶解性のポリマー類はコアセルベーションを利用するか、ポリマー溶解液と混和しない一種の非溶媒に分散させて後液中にて溶媒を除去する所謂液中乾燥法などでマイクロカプセルの型として製造することができる。
微粒子は合成ポリマー或は半合成ポリマーの塊状品を粉砕して製造することができる。又不飽和ポリエステルは重合前に水中油型のエマルジョンを作りこれを重合させれば微粒子状の不飽和ポリエステル樹脂が得られる。
またこれらのマイクロカプセルは色素を保持しやすくするために内部にベンジルアルコール、フェネチルアルコール、アルキルセロソルブなどの油状物、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機塩を含んでいてもよい。本発明の色素溶液を構成する色素としては水、水溶液、有機溶媒又はこれらの混合物に可溶なものなら何れでも使用可能である。具体的には直接染料、酸性染料、分散染料反応性染料、塩基性染料などが挙げられる。普通マイクロカプセル化が比較的容易く出来るのは分散染料であるが、本発明はこのように多くの種類の染料に容易く適用できることは大きな技術的特徴と云える。色素溶液の溶媒としては色素をよく溶解させるものが好ましく色素の性質に応じて適宜選択して使用することができる。具体的には直接染料、酸性染料、塩基性染料には水、水に酸やアルカリなどを添加した水溶液を用い、分散染料、塩基性染料にはメタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素あるいはハロゲン化炭化水素溶媒などが適宜使用される。色素溶液の色素濃度は目的或は適用法に応じて自由に変化させ得るが普通は1%?50%(重量%)程度が好ましい。色素溶液にマイクロカプセル或は微粒子を浸漬して色素を該粒子内部に浸透させるには水溶液の場合は蛋白質、植物ガム、半合成ポリマー等に対する直接染料、酸性染料水溶液などがあるが普通30℃から90℃ぐらいに加温してマイクロカプセル或は微粒子内部への浸透を速めるのが好ましい。有機溶媒溶液の場合は該溶媒に不溶性の合成ポリマーに対する分散染料溶液あるいは其の他の染料の溶液などであるが、これらはポリマーのガラス転移点、溶媒浸透性、溶媒の染料溶解度、ポリマーと溶媒の染料分配傾向など夫々の場合に応じて加温領域を定めねばならない。又ポリエステル系樹脂に対する分散染料水溶液の様に温度による相変化を利用する場合等があるので上記の適用性は特に限定すべきものでなく染料、溶媒、ポリマー、マイクロカプセルの状態、微粒子の大きさ等に対応して適宜選択しなければならない。この様にして作られたマイクロカプセル或は微粒子は色素の保持のため、ホルマリン,酸,アルコール塩類などで硬化処理を行うことができる。
この様にして得られた色素含有マイクロカプセル或は微粒子を用いて点描着色を行うには被染物の上にこのマイクロカプセル或は微粒子を置き、乾熱或はスチーミングなどの処理を施せばマイクロカプセル或は微粒子の内部から色素が滲出して布帛の上に霜降り様の模様を現出する。
このマイクロカプセル或は微粒子を多種類使用すれば当然のこと乍ら一度の処理により多色霜降り模様となる。
被染物としては木綿、麻、ビスコース等のセルロース系繊維、アセテート、トリアセテート、羊毛、絹、ポリエステル、ナイロン、ポリアクリロニトリルなどの各種繊維からなるものが使用される。
また本発明法の着色方法を応用して紙などの中間担体に施せば転写捺染用原紙を製造することもできる。」(第1頁右下欄第15行?第3頁左上欄第4行)

ウ 「実施例12
不飽和ポリエステル樹脂15gを乳化剤を加えて水に乳化させo/w型エマルジョンとなし樹脂硬化剤ナフテン酸コバルトにて攪拌化にゲル化させた。生成した固型物は破砕して真円球状微小粒子を得た。これにKAYALON POLYESTEL Pink 2BL-E(日本化薬(株)製分散染料)5%水分散液を加え、加熱処理したところ微小球状色素含有粒子を得た。本品をインダルカPA-3糊剤にて色糊となし和紙上に均一にコーティングし乾燥した。この中間担体紙とテトロン布とを重ね合せ熱板にて200℃1分間5kg/cm^(2)にて加圧した。得られたテトロン布は鮮明な点描効果をもつ着色布となった。」(第5頁右上欄第10行?同頁左下欄第2行)

(2)上記記載から、引用文献2には次の技術事項が示されている。

ア 記載事項イの「本発明の微粒子或はマイクロカプセルはゼラチン、カゼイン、ポリアミノ酸などの蛋白質、アラビアゴム、アルギン酸ソーダなどの植物ガム又はナイロン、テトロン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニール、ポリ酢酸ビニール、サラン、ポリビニールアルコール、酢酸セルロース、CMC、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂などの合成ポリマー或は半合成ポリマーからなる材質を有し夫々の材質に応じ次のようにして製造される。」との記載に基づけば、引用文献2には、「不飽和ポリエステル樹脂からなる材質を有する微粒子或はマイクロカプセル」が示されているといえる。

イ 記載事項イの「この様にして得られた色素含有マイクロカプセル或は微粒子を用いて点描着色を行うには被染物の上にこのマイクロカプセル或は微粒子を置き、乾熱或はスチーミングなどの処理を施せばマイクロカプセル或は微粒子の内部から色素が滲出して布帛の上に霜降り様の模様を現出する。」との記載に基づけば、引用文献2には、色素含有微粒子或はマイクロカプセルを使用することが、「被染物の上にこのマイクロカプセル或は微粒子を置き、乾熱或はスチーミングなどの処理を施してマイクロカプセル或は微粒子の内部から色素が滲出して布帛の上に霜降り様の模様を現出する」ことが示されているといえる。

ウ 記載事項ウの「不飽和ポリエステル樹脂15gを乳化剤を加えて水に乳化させo/w型エマルジョンとなし樹脂硬化剤ナフテン酸コバルトにて攪拌化にゲル化させた。生成した固型物は破砕して真円球状微小粒子を得た。これにKAYALON POLYESTEL Pink 2BL-E(日本化薬(株)製分散染料)5%水分散液を加え、加熱処理したところ微小球状色素含有粒子を得た。本品をインダルカPA-3糊剤にて色糊となし和紙上に均一にコーティングし乾燥した。この中間担体紙とテトロン布とを重ね合せ熱板にて200℃1分間5kg/cm^(2)にて加圧した。得られたテトロン布は鮮明な点描効果をもつ着色布となった。」との記載に基づけば、引用文献2には、「不飽和ポリエステル樹脂のo/w型エマルジョンを樹脂硬化剤ナフテン酸コバルトにてゲル化させて得た真円球状微小粒子にKAYALON POLYESTEL Pink 2BL-E(日本化薬(株)製分散染料)5%水分散液を加え、加熱処理して微小球状色素含有粒子を得て、本品をインダルカPA-3糊剤にて色糊となし和紙上に均一にコーティングし乾燥し、この中間担体紙とテトロン布とを重ね合せ熱板にて200℃1分間5kg/cm^(2)にて加圧し、テトロン布を着色布」としたことが示されているといえる。

(3)以上の記載事項ア及び技術事項ア,イに基づけば、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。
ア 記載事項ア及びイに基づけば、引用文献2には以下の発明が記載されていると認められる。
「不飽和ポリエステル樹脂からなる材質を有する微粒子或はマイクロカプセルを分散染料などの色素溶液中に浸漬して色素を該粒子内部に浸透させて得た色素含有微粒子或はマイクロカプセルを使用し、被染物の上にこのマイクロカプセル或は微粒子を置き、乾熱或はスチーミングなどの処理を施してマイクロカプセル或は微粒子の内部から色素が滲出して布帛の上に霜降り様の模様を現出する点描着色法。」(以下、「引用発明2-1」という。)

イ 記載事項ア及び技術事項ウに基づけば、引用文献2には以下の発明が記載されていると認められる。
「不飽和ポリエステル樹脂のo/w型エマルジョンを樹脂硬化剤ナフテン酸コバルトにてゲル化させて得た真円球状微小粒子にKAYALON POLYESTEL Pink 2BL-E(日本化薬(株)製分散染料)5%水分散液を加え、加熱処理して微小球状色素含有粒子を得て、本品をインダルカPA-3糊剤にて色糊となし和紙上に均一にコーティングし乾燥し、この中間担体紙とテトロン布とを重ね合せ熱板にて200℃1分間5kg/cm^(2)にて加圧し、テトロン布を着色布とする点描着色法。」(以下、「引用発明2-2」という。)

3 引用文献3
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成14年5月14日に公開された刊行物である特開2002-138231号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0111】(実施例54)温度計、攪拌機を供えたフラスコに、得られたポリエステル樹脂(A1)100重量部、メチルエチルケトンを80重量部、テトラヒドロフランを40重量部、油性染料C.I.Solvent Black3(オイルブラック860[オリエント化学製]30重量部を仕込み、還流させながら沸点にて混合溶解した。次いで、別途用意しておいた70℃の温水250重量部を、激しい攪拌下に緩やかに添加し、転相自己乳化させた後、留分温度が100℃に達するまで蒸留してメチルエチルケトン、テトラヒドロフランを除き、室温まで冷却、不揮発分濃度を確認し脱イオン水を所定量加えて濃度調整し、不揮発分30重量%の黒色共重合ポリエステル樹脂の水分散体(K1)を得た。なお、不揮発分は、水分散体を120℃のドライオーブンにて乾燥させた前後の質量比より求めた。
黒色ポリエステル水分散体(K1) 20.0 重量部
防菌防黴剤含有水分散体(B1) 3.0 重量部、
グリセリン 4.5 重量部、
トリエタノールアミン 0.5 重量部
脱イオン水 82.0 重量部、
なる配合で水性インクジェット記録液を調整し、以下同様に評価した。結果を表3及び表4に示す。ここに配合量は固形分換算値である。」

イ 「【0114】[評価]得られたインクをインクジェトプリンター(SHARP社製IO-735X)に仕込み、綿100%のシャツ用生地に5cm×5cmのベタ画像をプリントし、ドライオーブンにて100℃20分間加熱定着した。得られたプリント物を
(1)無処理、(2)流水洗浄10分間、(3)市販の全自動洗濯機、および洗剤にて洗濯
洗濯-脱水-すすぎ-脱水(総時間54分)
3条件で処理した後、プリント部に菌1:Aspergillus nigerの菌胞子懸濁液を接種(最終胞子濃度:約10E+6 個/ml)し、1ヶ月間静置して菌の生育を観察した。結果、いずれの試料においてもプリント部には菌の生育は見られなかった。」

(2)上記記載から、引用文献3には次の技術事項が示されている。

ア 記載事項アの「温度計、攪拌機を供えたフラスコに、得られたポリエステル樹脂(A1)100重量部、メチルエチルケトンを80重量部、テトラヒドロフランを40重量部、油性染料C.I.Solvent Black3(オイルブラック860[オリエント化学製]30重量部を仕込み、還流させながら沸点にて混合溶解した。次いで、別途用意しておいた70℃の温水250重量部を、激しい攪拌下に緩やかに添加し、転相自己乳化させた後、留分温度が100℃に達するまで蒸留してメチルエチルケトン、テトラヒドロフランを除き、室温まで冷却、不揮発分濃度を確認し脱イオン水を所定量加えて濃度調整し、不揮発分30重量%の黒色共重合ポリエステル樹脂の水分散体(K1)を得た。」との記載に基づけば、引用文献3には、「ポリエステル樹脂(A1)、油性染料C.I.Solvent Black3等を仕込み混合融解して得た黒色ポリエステル水分散体(K1)」が示されているといえる。

イ 記載事項アの
「 黒色ポリエステル水分散体(K1) 20.0 重量部
防菌防黴剤含有水分散体(B1) 3.0 重量部、
グリセリン 4.5 重量部、
トリエタノールアミン 0.5 重量部
脱イオン水 82.0 重量部、
なる配合で水性インクジェット記録液を調整し、以下同様に評価した。」との記載に基づけば、引用文献3には、「黒色ポリエステル水分散体(K1)、防菌防黴剤含有水分散体(B1)、グリセリン、トリエタノールアミン、脱イオン水なる配合で水性インクジェット記録液を調整」したことが示されているといえる。

ウ 記載事項イの「得られたインクをインクジェトプリンター(SHARP社製IO-735X)に仕込み、綿100%のシャツ用生地に5cm×5cmのベタ画像をプリントし、ドライオーブンにて100℃20分間加熱定着した。」との記載に基づけば、引用文献3には、「得られたインクをインクジェトプリンターに仕込み、シャツ用生地にベタ画像をプリントし、ドライオーブンにて100℃20分間加熱定着するプリント方法」が示されているといえる。

(3)以上の技術事項ア?ウに基づけば、引用文献3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリエステル樹脂(A1)、油性染料C.I.Solvent Black3等を仕込み混合融解して得た黒色ポリエステル水分散体(K1)、防菌防黴剤含有水分散体(B1)、グリセリン、トリエタノールアミン、脱イオン水なる配合で水性インクジェット記録液を調整し、得られたインクをインクジェトプリンターに仕込み、シャツ用生地にベタ画像をプリントし、ドライオーブンにて100℃20分間加熱定着するプリント方法。」(以下、「引用発明3」という。)


第4 対比・判断
1 引用発明1
(1)本願発明1
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「マイクロカプセル」は、「ポリエステル樹脂を加熱溶融させた中に、昇華性分散染料を添加して均一になるまで分散させ、マイクロカプセル内包物(芯物質)を用意」していることから、「昇華性染料を内包」しているといえる。また、引用発明1の「マイクロカプセル」は、「メラミン-ホルムアルデヒド壁材のマイクロカプセル」であるから、「樹脂粒子」であるといえる。したがって、引用発明1の「マイクロカプセル」と本願発明1の「昇華性染料を内包しており、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子」とは、「昇華性染料を内包している樹脂粒子」である点で共通する。
そして、引用発明1の「インクジェット記録用インキ」は、「ジエチレングリコールを加えて」いることから、「溶媒」を含むものであり、「マイクロカプセル分散液」からなるものであるから、「樹脂粒子が上記溶媒中に直接分散又は乳濁している」といえる。したがって、引用発明1の「インクジェット記録用インキ」と本願発明1の「昇華性染料を内包しており、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子、及び溶媒を含み、上記バインダ樹脂粒子が上記溶媒中に直接分散又は乳濁しているインク」とは、「昇華性染料を内包している樹脂粒子、及び溶媒を含み、上記バインダ樹脂粒子が上記溶媒中に直接分散又は乳濁しているインク」である点で共通する。

(イ)引用発明1の「スキャナーで入力したフルカラー画像を記録媒体上に印字」する工程は、本願発明1の「被記録媒体上に塗布するインク塗布工程」に相当する。

(ウ)引用発明1の「100℃に設定した熱ロールに通して各色相のマイクロカプセル内包物を熱溶融させ、インク受理層に浸透、接着させて印字を終了する」工程と本願発明1の「被記録媒体上に塗布された上記インクを加熱して、上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させる加熱工程」とは、「被記録媒体上に塗布された上記インクを加熱する加熱工程」である点で共通する。

(エ)引用発明1の「インクジェット記録方法」は、本願発明1の「印刷方法」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1とは、
「昇華性染料を内包している樹脂粒子、及び溶媒を含み、上記バインダ樹脂粒子が上記溶媒中に直接分散又は乳濁しているインクを、被記録媒体上に塗布するインク塗布工程と、被記録媒体上に塗布された上記インクを加熱する加熱工程と、を含む印刷方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本願発明1は、樹脂粒子が、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子であって、加熱工程で昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させ、バインダ樹脂粒子は、バインダ樹脂の溶液、モノマー又はオリゴマーと、昇華性染料とを混合し、バインダ樹脂の溶液、モノマー又はオリゴマーにおける当該バインダ樹脂を重合させて昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子中に内包させたものであるのに対し、引用発明1は、マイクロカプセルが、メラミン-ホルムアルデヒド壁材を有するものであって、100℃に設定した熱ロールに通して印字を終了する工程でマイクロカプセル内包物を熱溶融させインク受理層に浸透、接着させ、マイクロカプセルは、ポリエステル樹脂を加熱溶融させた中に、昇華性分散染料を添加して均一になるまで分散させたマイクロカプセル内包物を用意し、膜材として、メラミン-ホルムアルデヒド初期縮物を用意し、マイクロカプセル化を行って有色色素を内包するメラミン-ホルムアルデヒド壁材のマイクロカプセルを製造したものである点。

イ 判断
(ア)まず、[相違点1]が実質的な相違点といえるかについて検討する。
引用発明1では、100℃に設定した熱ロールに通して各色相のマイクロカプセル内包物を熱溶融させ、インク受理層に浸透、接着するのであるから、バインダー樹脂として機能するのは、マイクロカプセル内包物中のポリエステル樹脂である。マイクロカプセルの壁材として用いられるメラミン-ホルムアルデヒド壁材は、印字された状態ではマイクロカプセルとしての形状を保っており、また、加圧処理により破壊されるものであるから、バインダーとしての作用を有するとはいえない。また、メラミン-ホルムアルデヒドからなる化合物は、一般に熱硬化性樹脂を形成するものであるから、熱ロールに通した際にバインダーとして作用するともいえない。
したがって、上記[相違点1]は実質的な相違点である。

(イ)次に、引用発明1において[相違点1]を本願発明1に係る構成とすることが当業者にとって容易であったかについて検討する。
引用文献1の記載事項イには、「昇華性分散染料がポリエステル樹脂に定着される」ことも記載されているものの、当該ポリエステル樹脂は、マイクロカプセル内包物を形成するものであり、マイクロカプセルの表面に露出していない。そして、本願発明1の効果は、本件明細書の段落【0016】の記載によれば、「本発明によれば、より多くの種類の被記録媒体を採用可能であり、昇華性染料を用いてより高精彩な印刷物を得ることができるという効果を奏する。」というものであるが、より多くの種類の被記録媒体を採用可能という効果は、バインダ樹脂が表面に露出していることによってもたらされる効果といえる。したがって、マイクロカプセルの壁材をポリエステル樹脂とすると、その作用効果が異なるものであるから、マイクロカプセルの壁材をマイクロカプセル内包物を形成していたポリエステル樹脂とすることは、単なる設計変更とはいえない。
そして、昇華染料を内包し、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子を含むインクが、本願の出願前に知られていたとする根拠も見いだせないことから、引用発明1において、[相違点1]を本願発明1に係る構成とすることが、当業者が容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明1との間に実質的な相違点があるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(2)本願発明2?6
本願発明2?6は、いずれも、本願発明1の構成要件にさらに限定を加えたものである。
そうすると、本願発明2?6と引用発明1とを対比した場合、何れの場合も、上記[相違点1]において相違するといえる。そして、[相違点1]は、すでに検討したとおり、実質的な相違点であり、当業者が容易になし得たものということもできない。
したがって、本願発明2?6も、本願発明1と同様の理由により、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないものであり、かつ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。

2 引用発明2-1
(1)本願発明1
ア 対比
本願発明1と引用発明2-1とを対比すると、少なくとも、両者は以下の点で相違している。
[相違点2-1]本願発明1では、被記録媒体上に塗布された上記インクを加熱して、上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させる加熱工程を含むのに対し、引用発明2-1では、乾熱或はスチーミングなどの処理を施してマイクロカプセル或は微粒子の内部から色素が滲出して布帛の上に霜降り様の模様を現出する点。

イ 判断
(ア)まず、[相違点2-1]が実質的な相違点といえるかについて検討する。
引用発明2-1では、「乾熱或はスチーミングなどの処理」により「マイクロカプセル或は微粒子の内部から色素が滲出」していることから、「不飽和ポリエステル樹脂」がバインダ樹脂として作用するものであったとしても、色素が微粒子或はマイクロカプセルを構成する「不飽和ポリエステル樹脂」中に拡散して発色しているとはいえない。
したがって、上記[相違点2-1]は実質的な相違点である。
よって、本願発明1と引用発明2-1との間には実質的な相違点があるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(イ)次に、引用発明2-1において[相違点2-1]を本願発明1に係る構成とすることが当業者にとって容易であったかについて検討する。
昇華染料を内包し、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子を含むインクを用い、加熱工程において昇華染料をバインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させることが、本願の出願前に知られていたとする根拠を見いだせないことから、引用発明2-1において、[相違点2-1]を本願発明1に係る構成とすることが、当業者が容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明2-1との間に実質的な相違点があるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(2)本願発明2?6
本願発明2?6は、いずれも、本願発明1の構成要件にさらに限定を加えたものである。
そうすると、本願発明2?6と引用発明2-1とを対比した場合、何れの場合も、上記[相違点2-1]において相違するといえる。そして、[相違点2-1]は、すでに検討したとおり、実質的な相違点であり、当業者が容易になし得たものということもできない。
したがって、本願発明2?6も、本願発明1と同様の理由により、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないものであり、かつ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。

3 引用発明2-2
(1)本願発明1
ア 対比
本願発明1と引用発明2-2とを対比すると、少なくとも、両者は以下の点で相違している。
[相違点2-2]本願発明1では、被記録媒体上に塗布された上記インクを加熱して、上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させる加熱工程を含むのに対し、引用発明2-2では、中間担体紙とテトロン布とを重ね合せ熱板にて200℃1分間5kg/cm^(2)にて加圧し、テトロン布を着色布とする点。

イ 判断
(ア)まず、[相違点2-2]が実質的な相違点といえるかについて検討する。
引用発明2-2は、微小球状色素含有粒子を、和紙上にコーティングしており、分散染料のみテトロン布に昇華転写されていることから、仮に不飽和ポリエステル樹脂がバインダ樹脂として作用するものであったとしても、分散染料を不飽和ポリエステル樹脂中に拡散させて発色させているとはいえない。
したがって、上記[相違点2-2]は実質的な相違点である。
よって、本願発明1と引用発明2-2との間には実質的な相違点があるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(イ)次に、引用発明2-2において[相違点2-2]を本願発明1に係る構成とすることが当業者にとって容易であったかについて検討する。
昇華染料を内包し、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子を含むインクを用い、加熱工程において昇華染料をバインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させることが、本願の出願前に知られていたとする根拠を見いだせないことから、引用発明2-2において、[相違点2-2]を本願発明1に係る構成とすることが、当業者が容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明2-2との間に実質的な相違点があるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(2)本願発明2?6
本願発明2?6は、いずれも、本願発明1の構成要件にさらに限定を加えたものである。
そうすると、本願発明2?6と引用発明2とを対比した場合、何れの場合も、上記[相違点2]において相違するといえる。そして、[相違点2]は、すでに検討したとおり、実質的な相違点であり、当業者が容易になし得たものということもできない。
したがって、本願発明2?6も、本願発明1と同様の理由により、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないものであり、かつ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。


4 引用発明3
(1)本願発明1
ア 対比
本願発明1と引用発明3とを対比すると、少なくとも、両者は以下の点で相違している。
[相違点3]本願発明1では、加熱工程において、被記録媒体上に塗布された上記インクを加熱して、上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させるのに対し、引用発明3では黒色ポリエステル水分散体がポリエステル樹脂(A1)、油性染料C.I.Solvent Black3等を仕込み混合融解して得たものであり、ドライオーブンにて100℃20分間加熱定着する工程において、油性染料をバインダ樹脂中に拡散させて発色させていない点。

イ 判断
昇華染料を内包し、バインダ樹脂が表面に露出しているバインダ樹脂粒子を含むインクを用い、加熱工程において昇華染料をバインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させることが、本願の出願前に知られていたとする根拠を見いだせないことから、引用発明3において、[相違点3]を本願発明1に係る構成とすることが、当業者が容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明3との間に実質的な相違点があることは明らかであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
また、引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(2)本願発明2?6
本願発明2?6は、いずれも、本願発明1の構成要件にさらに限定を加えたものである。
そうすると、本願発明2?6と引用発明3とを対比した場合、何れの場合も、上記[相違点3]において相違するといえる。そして、[相違点3]は、すでに検討したとおり、実質的な相違点であり、当業者が容易になし得たものということもできない。
したがって、本願発明2?6も、本願発明1と同様の理由により、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないものであり、かつ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりのものである。
引用文献1に記載のマイクロカプセルは本願発明のバインダ樹脂粒子に相当し、水中に直接乳濁しているから、本願請求項1?6に係る発明は、引用文献1に記載された発明である。引用文献2に記載のマイクロカプセルは水中に直接乳濁していると認められるから、本願請求項1?6に係る発明は、引用文献2に記載された発明である。引用文献3に記載の油性染料はポリエステル樹脂の粒子に含まれると認められるから、本願請求項1?5に係る発明は、引用文献3に記載された発明である。したがって、特許法第29条第1項第3号に該当または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献3に記載の発明において、シャツ用生地としてポリエステル系繊維からなるものを採用することは、当業者にとって設計的事項の変更に過ぎない。したがって、本願請求項6に係る発明は、引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

平成28年11月24日付けの手続補正により、補正後の請求項1?6に係る発明は、バインダ樹脂粒子が「バインダ樹脂が表面に露出している」ことが必須の要件となった。引用文献1に記載された発明の「ポリエステル樹脂」は当該要件を満たさないものであり、引用文献1に記載された発明の「メラミン-ホルムアルデヒド壁材」も、既に検討したとおり、バインダ樹脂とはいえないものである。また、引用文献2及び引用文献3にも、補正後の請求項1?6に係る発明のバインダ樹脂粒子の要件を満たす部材が開示されていない。そして当該技術が、本願出願前における周知技術であるともいえない。したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
当審では、請求項1?6に係る発明の「上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子中に拡散させて発色させる」加熱工程が、本件の発明の詳細な説明に記載されていたとはいえないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの拒絶理由を通知している。
この点について、平成29年9月22日付けの手続補正によって、「上記昇華性染料を上記バインダ樹脂粒子が溶解したバインダ樹脂中に拡散させて発色させる」加熱工程と補正された結果、上記拒絶理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?6は、引用文献1?3に記載されていた発明であるとはいえず、当業者が引用文献1?3の記載に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2012-235089(P2012-235089)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41M)
P 1 8・ 113- WY (B41M)
P 1 8・ 537- WY (B41M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 樋口 祐介野田 定文  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
宮澤 浩
発明の名称 印刷方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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