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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21D
管理番号 1334137
審判番号 不服2015-21990  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-11 
確定日 2017-10-31 
事件の表示 特願2014-41668「ワークを切削加工および/または成形加工により加工するための方法および工作機械」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月29日出願公開,特開2014-97533〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2009年(平成21年)10月20日(パリ条約による優先権主張,2008年(平成20年)10月20日 欧州特許庁)に出願した特願2009-241301号の一部を平成26年3月4日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 3月 4日 :手続補正書の提出
平成27年 3月19日付け:拒絶理由の通知
平成27年 6月16日 :意見書の提出
平成27年 9月 2日付け:拒絶査定
平成27年12月11日 :審判請求書の提出,同時に手続補正書の提出
平成28年 3月24日 :上申書の提出

第2 平成27年12月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年12月11日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「工作機械(1)に設けられたワーク載置部(3)に支承されたプレート状のワーク(4)を,切削加工および/または成形加工により加工するための方法であって,昇降軸線(15)に沿って,切削加工および/または成形加工のためのツール(12)を形成しているツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを運動させることによって前記ワーク(4)を加工する形式の方法において,
前記工作機械として,前記ワーク(4)を載置平面(5)内で移動させるための座標ガイド(6)を有しており,前記ワーク載置部(3)は剛毛カーペット(3a)を有し,該剛毛カーペット(3a)の上面が,前記ワーク(4)の載置平面(5)を形成しており,
剛毛カーペット(3a)の剛毛は,前記ワーク(4)が載置平面(5)内で座標ガイド(6)によって移動させられる際に,該ワーク(4)に形成された下方へ向かって載置平面(5)を越えて突出する成形加工部(22)のための所要の自由空間を提供するために下方へ向かって折り曲げられるように構成されている,工作機械を用い,
先行するステップにおいて,前記ワーク載置部(3)に載置された前記プレート状のワーク(4)に成形加工ツールを用いた成形加工によって前記成形加工部(22)を形成し,該成形加工部(22)における前記ワーク(4)の加工の前に前記成形加工ツールを前記ツール(12)と交換し,
前記ワーク(4)を,載置平面(5)を下方に向かって越えて突出した前記成形加工部(22)においてさらに加工するために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ワーク載置部(3)における載置平面(5)の下方の加工位置(B)にまで運動させ,
ワーク載置部(3)に沿って前記ワーク(4)を運動させるために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ツールダイス(11)が上方に向かって載置平面(5)を越えて突出しておらずかつツールポンチ(9)が下方へ向かって載置平面(5)を越えて突出していない休止位置(R)へ移動させ,
ツールダイス(11)がツールダイス収容部(10)内に支承されており,ツールポンチ(9)がツールポンチ収容部(8)内に支承されており,前記ワーク(4)を前記成形加工部(22)において加工するためにツールダイス収容部(10)とツールポンチ収容部(8)とを,互いに別個に独立して昇降軸線(15)に沿って互いに向かって運動させ,ツールポンチ収容部(8)ならびにツールダイス収容部(10)は,選択的に種々異なるツール(12)を位置固定することのできるツール収容部として形成されており,
ツールポンチ(9)および/またはツールダイス(11)による加工位置(B)への到達を検出することを特徴とする,ワークを切削加工および/または成形加工により加工するための方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成26年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「工作機械(1)に設けられたワーク載置部(3)に支承されたプレート状のワーク(4)を,切削加工および/または成形加工により加工するための方法であって,昇降軸線(15)に沿って,切削加工および/または成形加工のためのツール(12)を形成しているツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを運動させることによってワーク(4)を加工する形式の方法において,
前記工作機械として,ワーク(4)を載置平面(5)内で移動させるための座標ガイド(6)を有しており,ワークテーブル(3)は剛毛カーペット(3a)を有し,該剛毛カーペット(3a)の上面が,ワーク(4)の載置平面(5)を形成しており,成形加工部(22)は下方へ向かって載置平面(5)を越えて突出しており,剛毛カーペット(3a)の剛毛は,ワーク(4)が載置平面(5)内で座標ガイド(6)によって移動させられる際に成形加工部(22)のための所要の自由空間を提供するために下方へ向かって折り曲げられる,工作機械を用い,
ワーク(4)を,載置平面(5)を上方または下方に向かって越えて突出した成形加工部(22)において加工するために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ワーク載置部(3)における載置平面(5)の上方または下方の加工位置(B)にまで運動させ,
先行したステップにおいて,ワーク載置部(3)に載置されたワーク(4)に成形加工ツールを用いた成形加工によって成形加工部(22)を形成し,該成形加工部(22)におけるワーク(4)の加工の前に前記成形加工ツールを前記ツール(12)と交換し,
ワーク載置部(3)に沿ってワーク(4)を運動させるために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ツールダイス(11)が上方に向かって載置平面(5)を越えて突出しておらずかつツールポンチ(9)が下方へ向かって載置平面(5)を越えて突出していない休止位置(R)へ移動させ,
ツールダイス(11)がツールダイス収容部(10)内に支承されており,ツールポンチ(9)がツールポンチ収容部(8)内に支承されており,ワーク(4)を加工するためにツールダイス収容部(10)とツールポンチ収容部(8)とを,互いに別個に独立して昇降軸線(15)に沿って互いに向かって運動させ,ツールポンチ収容部(8)ならびにツールダイス収容部(10)は,選択的に種々異なるツール(12)を位置固定することのできるツール収容部として形成されており,
ツールポンチ(9)および/またはツールダイス(11)による加工位置(B)への到達を検出することを特徴とする,ワークを切削加工および/または成形加工により加工するための方法。」

2 補正の適否
上記補正は,「前記」を加えることや,記載の順序を入れ替える等の誤記の訂正や不明瞭な記載の釈明もあるところ,上記補正のうち「前記ワーク(4)を,載置平面(5)を下方に向かって越えて突出した前記成形加工部(22)においてさらに加工」は,補正前の「ワーク(4)を,載置平面(5)を上方または下方に向かって越えて突出した成形加工部(22)において加工」について,「成形加工部」が「上方または下方」に向かって越えて突出していたことを「下方」に限定するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2001-121219号公報(平成13年5月8日出願公開。以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

a「【請求項1】上下動自在に設けたパンチ金型(31)と,パンチ金型(31)に対向して,かつパンチ金型(31)の移動と同一方向に移動自在に設けたダイ金型(33)と,両金型(31,33)の間に搬送されるワークWをパスラインに沿って略水平2軸方向に移動し位置決めすると共に,この位置決め完了後にパンチ金型(31)及びダイ金型(33)の上下動を制御し,ワークWをパンチ加工する制御器とを備えたパンチプレスの制御装置において,
制御器(40)は,加工種別毎に対応するパンチ金型(31)及びダイ金型(33)をセットとしたそれぞれの金型毎に,パンチ金型(31)移動のパンチ軸及びダイ金型(33)移動の下ダイ軸の動作パターンの中にパンチ動作完了後に下ダイ軸が下降して下ダイ軸待機位置に待機するパターンを予め記憶すると共に,このパンチ動作完了後の下ダイ軸待機位置を設定可能とする設定手段を有することを特徴とするパンチプレスの制御装置。」

b「【請求項4】上下動自在に設けたパンチ金型(31)と,パンチ金型(31)に対向して,かつパンチ金型(31)の移動と同一方向に移動自在に設けたダイ金型(33)との間でのパスラインに沿ってのワークWの移動,及びパンチ金型(31)とダイ金型(33)の上下動のパンチ動作を交互に実行し,ワークWをパンチ加工するパンチプレスの制御方法において,
ワークWの成形加工部位に打抜き加工を行った後,前記成形加工部位の成形高さに応じてダイ金型(33)を待機位置まで下降させて待機させることを特徴とするパンチプレスの制御方法。」

c「【0002】
【従来の技術】パンチプレスは,互いに対向して上下動自在に設けられたパンチ金型(上型)とダイ金型(下型)とにより,両者の間に搬入したワーク(板材)の成形及び打抜き等のパンチ加工を連続的に行うものであり,成形及び打ち抜き等の加工種別や成形条件に対応して複数の金型(パンチ金型31とダイ金型33)を図示しないマガジン内に有している。そして,加工目的や加工形状等に応じて,金型を自動金型交換装置(いわゆるATC装置)により順次交換するようになっている。例えば図9に示すように,パンチプレスのプレス部には,互いに対向して,かつ上下動自在にパンチ金型31とダイ金型33が設けられている。ワークWは水平2軸方向に移動自在なXYテーブル(図示せず)によりパンチ金型31とダイ金型33との間に搬入され,パスラインP上を移動し,位置決めされる。パンチ加工後にワークWをXYテーブルで略水平方向に移動し,加工位置に位置決めして連続的に加工している。パンチ金型31を上下動するパンチ軸とダイ金型33を上下動する下ダイ軸の駆動,及びXYテーブルの水平駆動の制御は,通常,予め設定された加工プログラムに従ってNC制御装置等により行われている。
【0003】パンチ加工後のワークWがXYテーブルにより移動する際の高さ位置は一般的にパスラインPと呼ばれ,NC制御装置等の加工プログラムの中に予め設定されている。通常,パスラインPに沿ってパンチ加工後のワークWを移動する時には,ワークWの下面に傷が付かないように,ダイ金型33はワークWと接触しない高さ位置まで一定設定量だけ退避するようになっている。また,図9に示すように例えばワークWを下向き成形した場合に,ワークWを移動する時にダイ金型33がワークWの成形部に干渉しないように,下向きの成形高さh1に基づいてダイ金型33が退避する機能がある。この下ダイ軸の退避機能は,個々の金型(ここではパンチ金型31とダイ金型33のセット)に対して設定する機能ではなく,1つのワークWの全ての金型に対して設定されるようになっており,この退避機能が設定されると,全ての金型によるパンチ加工の後にはパスラインPより所定距離だけ離れた高さ位置に下ダイ軸が退避して,ワークWとの干渉を防止することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記の従来の下ダイ軸の退避機能には次のような問題がある。いま,例えば図10に示すような形状のワークWを加工する場合を考える。同図において,ワークWは上向き(上方に凸形状)に成形した成形部15に打抜き加工が行われる。このためのダイ金型33は,図11に示すように,ダイ本体11の上面12に上方に突出した突出部13が形成され,ワークWに要する上方凸部の成形高さh2に合わせて前記突出部13の高さh2が設定されている。上記ワークWの成形部15に打抜きを行う場合,第1の方法としてダイ本体11の上面12をパスラインPに合わせると,上面12をワークWの下面に合わせ,かつ突出部13の上面を成形部15の下面に当接させて打ち抜きした後に,下ダイ軸の高さ位置をそのままにしてワークWを移動することになるので,ワークWとダイ金型33の突出部13とが干渉するという問題がある。これを解消するために,第2の方法として,前述の下ダイ軸の退避機能を用い,ダイ金型33をワークWから所定距離だけ下降させて,ダイ金型33の突出部13がワークWと干渉しないようにすることはできる。しかしながら,この従来の退避機能は全ての金型に対して実行されるので,他の金型での加工時には必要以上の退避(下降)動作を行うことになり,各加工位置での加工に要する時間が長くなって生産性が低下するという問題がある。
【0005】本発明は,上記の問題点に着目してなされたものであり,ワークの成形部位に打ち抜き加工を行う際に,パンチ動作完了後のワーク移動時にダイ金型とワークとの干渉が無く,かつ金型種別に適した待機位置に下ダイ軸を待機させることができるパンチプレスの制御装置及びその制御方法を提供することを目的としている。」

d「【0017】パンチ金型31及びストリッパ32と,ダイ金型33との間の高さには,ワークWの搬送高さを表すパスラインPが設定されている。パスラインP上には,ワークWを支持し,かつ搬送を容易とするブラシやローラ等の支持部材30が配設されており,ワークWは図示しないXYテーブルによってパスラインPに沿って支持部材30上を移動可能となっている。
【0018】また,パンチ金型31,ストリッパ32及びダイ金型33を備えたプレス部の近傍には,金型交換装置(以後,ATC装置と呼ぶ)25及び金型マガジン23が配設されている。パンチプレス60は加工種別,加工形状及び加工条件等に応じてパンチ金型31,ストリッパ32及びダイ金型33が1つの金型セットとして交換可能となっており,この金型セットは金型マガジン23内に出し入れ自在に配置されている。金型マガジン23は,詳細は後述する制御器40からの制御指令に基づいて各金型の出し入れを制御している。またATC装置25は,制御器40からの金型交換指令に基づいてプレス部に取付けられている金型と金型マガジン23内にストアされている金型とを交換する。」

e「【0022】金型管理情報記憶部42は,データ設定手段41により設定された金型管理情報を,例えば図3に示すように各金型毎に記憶する。例えば,各金型の金型番号に対応して,加工種別,その加工形状,パンチ金型高さ,ダイ高さ,ストリッパ厚さ,ストリッパ圧力,金型耐圧等の金型データを記憶している。プレス動作パターン記憶部43は,データ設定手段41により設定されたプレス動作パターンを,例えば図4に示すように各動作パターン毎に記憶する。例えば,各動作パターン番号に対応して,加工種別,各プレス軸の移動速度,待機位置等のデータを記憶している。尚,加工種別に応じて制御に要するデータの種類及び数が変わるので,データの種類とその順番をデータ管理情報として予め記憶してあり,このデータ管理情報に基づいてデータの記憶,読み出しが行われる。このとき,各プレス軸の動作パターンは,例えば打抜きの場合には図5に示すようなモーションを設定しており,各プレス軸の速度及びパンチ動作の各プレス軸シーケンス(つまり時間的な関係)と共に,待機位置データがそれぞれ設定されているものである。
【0023】加工プログラムMPは各ワーク毎に予め設定された加工プログラムであって,パンチ加工のための各種の制御指令及び制御データが所定の加工プログラム言語で記述されている。この加工プログラム言語は例えばNC指令コード,及びPLC言語等の制御プログラム言語などにより記述されており,本実施形態の以下の説明ではNC指令コードを用いた例を示している。いま,同加工プログラムが例えば図6に示すようなNC指令コードで記述されていると仮定する。同図において,(T)コードは加工対象ワークWの板厚設定指令を表し,(P)コードは待機位置設定指令を表し,Tコードは使用金型選択指令を表し,G00コードはXYテーブルのXY軸移動完了後のパンチ加工指令を表し,またXコード及びYコードはXYテーブルのX軸及びY軸の移動目標位置への移動指令をそれぞれ表している。さらに,M72コードは,パラメータとして記述された金型番号(同図では,T215)の金型データを参照して,各プレス軸によるワークの加工時の高さ位置を規定する加工基準位置を変更する加工基準位置変更指令を表しており,M73コードはこの加工基準位置を元のパスラインに戻すための加工基準位置変更キャンセル指令を表す。
【0024】加工指令部44は,加工プログラムMPを読み込んで所定のメモリエリアに記憶し,加工プログラムMPに記載された各指令に基づいて各種テーブル類の作成やシーケンス制御のための前処理を行なう。使用金型情報設定部45は,加工プログラムMP内の使用金型選択指令に基づいて,プログラム実行順番に金型番号を読み出し,この金型番号に対応する金型管理情報を金型管理情報記憶部42から読み出す。次に,読み出した金型管理情報を,図7に示すように,金型使用順番に金型番号に対応したテーブルデータとして設定し記憶する。」

f「【0031】次に,以上の構成による作動を説明する。加工開始の前に,使用する全ての金型の管理データが金型管理情報記憶部42に記憶されており,また使用する全ての金型のプレス動作パターンがプレス動作パターン記憶部43に記憶されているものとする。ここでは,打ち抜き金型のプレス動作として,動作パターン番号1には,加工面がフラットなダイ金型を使用するデータが記憶されており,下ダイ軸待機位置データは0.00mmが設定されている(図4参照)。また,動作パターン番号2には,加工面がフラットではなく加工部が上方に突出しているダイ金型31(図11参照)を使用するデータが記憶されており,下ダイ軸待機位置データは-2.00mmが設定されている(図4参照)。
【0032】まず,加工指令部44にてあるワークの加工プログラムMPを読み込み,使用金型情報設定部45により,加工プログラムMPに記述してあるTコードを検索して,使用される金型の順番にその金型番号に対応した金型情報を金型管理情報記憶部42から読み込んで使用金型データを作成する(図7参照)。
【0033】次に,加工基準位置データ設定部46により,加工プログラムMPに記述してあるM72コード(加工基準位置変更指令)を検索し,M72コードにパラメータとして記述されている金型番号(図6に示すNCプログラム例では,T215)に対応した金型管理情報の中の「高さ」データを金型管理情報記憶部42から読み込んで,パスライン以外の加工基準位置データとして記憶する。そして,加工プログラムMPに記述してある板厚設定指令の加工材板厚情報データ(図6では(T1.2)コードの「1.2」)を加工板厚情報記憶部47に記憶する。また,加工プログラムMPに記述してある待機位置設定指令の待機位置情報データ(図6では(P5.0)コードの「5.0」)を待機位置情報記憶部48に記憶する。
【0034】この後,加工プログラムMPに記述された順に各指令が順次実行され,実加工が行なわれるが,以下にその実行順序に従って説明する。図6に示す「T150」が加工指令部44より読み込まれると,ATC装置25はプレス部に金型番号T150に対応する打ち抜き角金型を装着する。次に,使用金型情報設定部45の使用順番4の金型データが動作パターン設定部49に転送される。そして,転送された金型データの中の動作パターン番号を参照して,プレス動作パターン記憶部43の動作パターン番号のデータ群を動作パターン設定部49に転送する。(今の場合,動作パターン番号は1である)この後,加工板厚情報記憶部47の板厚データを動作パターン設定部49に,また待機位置情報記憶部48の待機位置データを動作パターン設定部49にそれぞれ転送する。これらの転送されたデータに基づいて,動作パターン設定部49は,次に実行する動作パターン1の各設定データ,即ち各プレス軸の制御指令値を演算してストローク制御部53に転送する。そして,ストローク制御部53は,ATC交換位置にあったパンチ軸及びストリッパ軸を上限位置に,下ダイ軸を下限位置に移動し,位置決めする。
【0035】次に,「G00X1000.Y200.」指令をXYテーブル移動指令検出部54により検出し,このXYテーブル移動指令に基づいてXYテーブルを移動して位置決めする。そして位置決め完了後,パンチ指令検出部52によりストローク制御部53にパンチ指令が送信され,ストローク制御部53はこの時の動作パターンに基づいてプレスのパンチ軸,ストリッパ軸及び下ダイ軸の各軸制御指令を演算して各プレス軸のサーボアンプ9,19,29に出力する。これにより,ワークWに打ち抜き加工が行われる。このパンチ動作完了後,プレス各軸を待機位置に移動させ,位置決めする。このときの下ダイ軸の待機位置は前述のように「0mm」に設定されているので,下ダイ軸はパスラインから移動しない。なお,本実施形態では動作パターン番号1による下ダイ軸の待機位置はパスライン位置に固定されているが,ワークWと下ダイが接触してワークWの下面に傷が付くのを防止するために,XYテーブルを移動する際に,予め設定した下ダイ逃げ量に従って下ダイ軸を退避させてもよい。このようにして同様に,順次,XYテーブル移動指令及びパンチ指令を実行して,ワークWの打ち抜き加工を行う。
【0036】次に,「T215」が加工指令部44より読み込まれると,ATC装置25はプレス部に金型番号T215に対応する上エンボス成形金型を装着する。次に,前記「T150」の場合と同様に,使用金型情報の使用順番5の使用金型情報データの中の動作パターン番号(この場合,動作パターン番号は18である)を参照して,当該動作パターン番号のデータ群を動作パターン設定部49に転送する。この後,「T150」の場合と同様に,前記板厚データ及び前記待機位置データを動作パターン設定部49に転送する。これらの転送されたデータに基づいて動作パターン設定部49は各プレス軸の制御指令値を演算してストローク制御部53に転送し,ストローク制御部53はATC交換位置のパンチ軸及びストリッパ軸を上限位置に,下ダイ軸を下限位置に移動し,位置決めする。
【0037】そして,「G00X150.Y300.」指令に基づいて,XYテーブルが移動して位置決めされ,位置決め完了後,この時の動作パターンに基づいてプレスのパンチ軸,ストリッパ軸及び下ダイ軸の各軸が制御されてワークWに上エンボス成形加工が行われる。そして,このパンチ動作完了後,各プレス軸は待機位置に移動し,位置決めされる。次に「G00X550.Y200.」指令に基づいて,上記同様にしてXYテーブルが移動して位置決めされ,位置決め完了後,この時の動作パターンに基づいてパンチ動作によりワークWに上エンボス成形加工が行われ,パンチ動作完了後,各プレス軸は待機位置に移動し,位置決めされる。
【0038】次に,「T100」(打抜き丸金型選択指令)が加工指令部44より読み込まれると,ATC装置25はプレス部に金型番号T100に対応する打抜き丸金型を装着する。次に,前記同様に,使用金型情報の使用順番6の使用金型情報データの中の動作パターン番号(この場合,動作パターン番号は2である)を参照して,当該動作パターン番号のデータ群を動作パターン設定部49に転送する。さらに,前記と同様に,前記板厚データ及び前記待機位置データを動作パターン設定部49に転送する。これらの転送されたデータに基づいて演算された制御指令に従って,ストローク制御部53により,ATC交換位置のパンチ軸及びストリッパ軸は上限位置に,下ダイ軸は下限位置に移動して位置決めされる。
【0039】次に,「M72(T215)」が加工指令部44より読み込まれ,M72/M73検出部51から動作パターン設定部49にM72指令信号が送信される。これにより,金型番号T100に対応する打抜き丸金型に直前に交換した際にストローク制御部53に転送したデータを,動作パターン設定部49のストローク制御部転送データ記憶部49aに一時的に記憶する。加工基準位置データ設定部46の現在加工金型番号(ここではT100)と参照金型番号(ここではT215)とに該当する加工基準位置データ(ここでは「5.00mm」)を動作パターン設定部49に読み込んで設定し,各プレス軸の加工位置を上記加工基準位置データ値分上下方向にシフトする演算を行い,ストローク制御部53にこの演算したデータを転送する。
【0040】「G00X150.Y300.」の指令に基づいて,XYテーブルが移動して位置決めされた後,パンチ指令がパンチ指令検出部52よりストローク制御部53に出力され,各プレス軸が動作パターンに従って動作し,ワークWに打抜き加工が行われる。この場合には,以前に「T215」の金型で「X150.Y300.」の位置に上エンボス成形加工した部位に,パスラインに対して加工基準位置データ設定部46に設定されている加工基準位置(ここでは,5.00mm)に相当する距離分上下方向にシフトした位置で,パンチ加工が行われる。したがって,上エンボス成形された形状が打抜きによって変形することはない。そして,このパンチ加工が完了すると,各プレス軸は待機位置に移動する。このとき,下ダイ軸は下ダイ待機位置データ(ここでは,動作パターン2の下ダイ待機位置データ「-2.00mm」である)に従って,下ダイ先端位置がパスライン位置よりも2mm下方向に位置決めされる。なお,この場合,下ダイ待機位置データが0mmと設定されていたとしても,パスライン位置まで下ダイ先端が下降して逃げるので,ワークWとの干渉はない。
【0041】次に,「G00X550.Y200.」の指令に基づいて,上記同様に,以前に「T215」の金型で「X550.Y200.」の位置に上エンボス成形加工した部位に,パスラインに対して前記設定した加工基準位置に相当する距離分上下方向にシフトした位置で,パンチ加工が行われる。このとき,「X550.Y200.」の位置にXYテーブルを移動する際に,下ダイ待機位置を「-2.00mm」に設定しているので,下ダイ先端位置がパスラインよりも下側になり,ワークWに干渉することはない。そして上記パンチ加工が完了した後,各プレス軸は待機点に移動するが,この際も下ダイ待機位置データを「-2.00mm」に設定しているので,下ダイ先端位置がパスラインよりも2mm下方に位置決めされ,ワークWに干渉することはない。
【0042】次に,「M73」が読み込まれ,M72/M73検出部51より動作パターン設定部49にM73指令信号が送信されると,先の「M72」指令で動作パターン設定部49のストローク制御部転送データ記憶部49aに一時的に記憶した金型番号T100の金型情報データをストローク制御部53に転送する。この後,「G00X200.Y50.」の指令に基づいてXYテーブルが移動し位置決めされたら,パンチ指令検出部52からストローク制御部53にパンチ指令が送信され,各プレス軸が演算されたこの時の実加工動作パターンに従って動作し,ワークWに丸打抜き加工が行われる。この場合の加工基準位置は,加工基準位置データ設定部46のデータではなく,パスライン位置に設定される。そして,上記パンチ加工が完了すると,各プレス軸は待機位置に移動し,位置決めされる。このとき,下ダイ待機位置が「-2.00mm」と設定されているので,下ダイ先端位置はパスライン位置よりも2mm下方に位置決めされる。このため,下ダイとワークWとの干渉が防止される。
【0043】以上説明したように,上記実施形態によると,予め金型毎に加工種別,成形高さ及び加工条件等の金型データと共に各プレス軸の動作パターンを金型管理情報として設定して記憶し,動作パターンに下ダイ軸の待機動作パターンを設定可能とすると共に,金型管理情報の中に下ダイ軸待機位置データを記憶可能となっている。そして実加工時には,パンチ加工後に,各金型に対応して設定した待機動作パターン及び待機位置データに基づいて各プレス軸が制御される。これにより,使用金型の加工種別や成形高さに適した下ダイ軸の待機動作が行われるので,成形部位に打抜き加工を行う場合でも,成形種別,成形高さ及び成形形状等に適合した下ダイ軸待機動作を行うことができる。したがって,下ダイ軸の待機動作に無駄が無くなるので,各箇所でのパンチ加工に要する時間を短縮化でき,能率的に加工でき,よってパンチ加工の生産性を向上できる。また,様々な形状の金型に対応して下ダイ軸を含む各プレス軸を確実に待機位置に待機させることができ,これによりプレス軸とワークとの干渉がなくなるので,ワーク下面の傷の発生をなくし,製品の外観品質が良い。また,干渉した場合のワークのばたつきによるワークのミクロジョイントの外れをなくすことができるので,外れた場合の後始末作業が不要となる。この結果,パンチ加工の生産性を向上できる。さらに,種々の成形部位への打抜き加工が能率的に実施可能となり,パンチ加工可能領域を拡大できるので,適用範囲が広がって生産性を向上できる。」

(イ)上記記載から,引用例1には,次の技術的事項が記載されている。
a 引用例1に記載された技術は,上下動自在に設けたパンチ金型と,パンチ金型に対向して,かつパンチ金型の移動と同一方向に移動自在に設けたダイ金型との間でのパスラインに沿ってのワークWの移動,及びパンチ金型とダイ金型の上下動のパンチ動作を交互に実行し,ワークWをパンチ加工するパンチプレスの制御方法において,ワークWの成形加工部位に打抜き加工を行った後,前記成形加工部位の成形高さに応じてダイ金型を待機位置まで下降させて待機させることを特徴とするパンチプレスの制御方法である(【請求項4】)。
b パスラインP上には,ワークWを支持し,かつ搬送を容易とするブラシやローラ等の支持部材30が配設されており,ワークWは図示しないXYテーブルによってパスラインPに沿って支持部材30上を移動可能となっている(【0017】)。
c パンチ加工後のワークWがXYテーブルにより移動する際の高さ位置は一般的にパスラインPと呼ばれ,NC制御装置等の加工プログラムの中に予め設定されている。また,図9に示すように例えばワークWを下向き成形した場合に,ワークWを移動する時にダイ金型33がワークWの成形部に干渉しないように,下向きの成形高さh1に基づいてダイ金型33が退避する機能がある(【0003】)。
d 以前に「T215」の金型で「X150.Y300.」の位置に上エンボス成形加工した部位に,パスラインに対して加工基準位置データ設定部46に設定されている加工基準位置(ここでは,5.00mm)に相当する距離分上下方向にシフトした位置で,パンチ加工が行われる。・・・このパンチ加工が完了すると,各プレス軸は待機位置に移動する。・・・パスライン位置まで下ダイ先端が下降して逃げるので,ワークWとの干渉はない。(【0040】)。
e プレス部の近傍には,金型交換装置25及び金型マガジン23が配設されている。パンチプレス60は加工種別,加工形状及び加工条件等に応じてパンチ金型31,ストリッパ32及びダイ金型33が1つの金型セットとして交換可能となっている(【0018】)。
f 図1には,パンチ金型31が,パンチ軸ピストン1に取り付けられ,ダイ金型33が下ダイ軸ピストン21に取り付けられていることが示されている。

(ウ)これらのことから,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「パンチプレスに設けられたブラシやローラ等の支持部材30に支持されたワークWを,エンボス成形加工およびパンチ加工により加工するための方法であって,パンチ金型31及びダイ金型33によってワークWを加工する形式の方法において,
前記パンチプレスとして,前記ワークWをパスラインP上で移動させるためのXYテーブルを有しており,前記支持部材30はブラシを有し,該ブラシの上面が,前記ワークWのパスラインPを形成しており,
以前に金型で上エンボス成形加工した部位に,パスラインに対して加工基準位置データ設定部46に設定されている加工基準位置に相当する距離分上下方向にシフトした位置で,パンチ加工が行われ,
支持部材30に沿って前記ワークWを運動させるために,パンチ金型31及びダイ金型33とを,ワークWと干渉しない待機位置に移動させ,
ダイ金型33が下ダイ軸ピストン21に支承されており,パンチ金型31がパンチ軸ピストン1に支承されており,前記ワークWを上エンボス成形加工した部位において加工するために下ダイ軸ピストン21とパンチ軸ピストン1とを,互いに向かって運動させ,下ダイ軸ピストン21ならびにパンチ軸ピストン1は,選択的に種々異なる金型を位置固定することのできるように形成されている,加工するための方法。」

イ 引用例2
(ア)同じく引用された,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開平11-323722号公報(以下,「引用例2」という。)には,図1に関連して,次の記載がある。
「【0033】また,制御装置31には,前記パンチガイド33が上記のパンチング加工の際にワークWに接触したことを検出するタッチセンサ回路39(接触検出装置)が設けられている。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は,パンチプレスにおいて,パンチ金型31及びダイ金型33とを,ワークWと干渉しない待機位置に移動させる技術であり,本件補正発明と,技術分野及び課題が共通する。
(イ)引用発明の「パンチプレス」,「支持部材30」,「ワークW」,「パンチ加工」,「エンボス成形加工」,「パンチ金型31」,「ダイ金型33」,「パスラインP」,「XYテーブル」,「ブラシ」,「待機位置」,「下ダイ軸ピストン21」及び「パンチ軸ピストン1」は,本件補正発明の「工作機械(1)」,「ワーク載置部(3)」,「プレート状のワーク(4)」,「切削加工」,「成形加工」,「ツールポンチ(9)」,「ツールダイス(11)
」,「載置平面(5)」,「座標ガイド(6)」,「剛毛カーペット(3a)」,「休止位置(R)」,「ツールダイス収容部(10)」及び「ツールポンチ収容部(8)」にそれぞれ相当する。
(ウ)引用発明は,「パンチプレス」であるのだから,「パンチ金型31」及び「ダイ金型33」の動きを考慮すれば,本件補正発明の「昇降軸線(15)」に相当する構成は当然に有する。
(エ)引用発明は,「金型交換装置25」を有するのであるから,本件補正発明の「成形加工部(22)における前記ワーク(4)の加工の前に前記成形加工ツールを前記ツール(12)と交換」することも,当然に行われていることであり,引用発明において,金型を交換する以上,本件補正発明の「」選択的に種々異なるツール(12)を位置固定することのできるツール収容部として形成され」ている構成に対応する構成も当然に有するものである。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「工作機械(1)に設けられたワーク載置部(3)に支承されたプレート状のワーク(4)を,切削加工および/または成形加工により加工するための方法であって,昇降軸線(15)に沿って,切削加工および/または成形加工のためのツール(12)を形成しているツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを運動させることによって前記ワーク(4)を加工する形式の方法において,
前記工作機械として,前記ワーク(4)を載置平面(5)内で移動させるための座標ガイド(6)を有しており,前記ワーク載置部(3)は剛毛カーペット(3a)を有し,該剛毛カーペット(3a)の上面が,前記ワーク(4)の載置平面(5)を形成している,工作機械を用い,
先行するステップにおいて,前記ワーク載置部(3)に載置された前記プレート状のワーク(4)に成形加工ツールを用いた成形加工によって前記成形加工部(22)を形成し,該成形加工部(22)における前記ワーク(4)の加工の前に前記成形加工ツールを前記ツール(12)と交換し,
前記ワーク(4)を,載置平面(5)を突出した前記成形加工部(22)においてさらに加工するために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ワーク載置部(3)における載置平面(5)の加工位置(B)にまで運動させ,
ワーク載置部(3)に沿って前記ワーク(4)を運動させるために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ツールダイス(11)が上方に向かって載置平面(5)を越えて突出しておらずかつツールポンチ(9)が下方へ向かって載置平面(5)を越えて突出していない休止位置(R)へ移動させ,
ツールダイス(11)がツールダイス収容部(10)内に支承されており,ツールポンチ(9)がツールポンチ収容部(8)内に支承されており,前記ワーク(4)を前記成形加工部(22)において加工するためにツールダイス収容部(10)とツールポンチ収容部(8)とを,互いに別個に独立して昇降軸線(15)に沿って互いに向かって運動させ,ツールポンチ収容部(8)ならびにツールダイス収容部(10)は,選択的に種々異なるツール(12)を位置固定することのできるツール収容部として形成されていることを特徴とする,ワークを切削加工および/または成形加工により加工するための方法。」

【相違点1】「成形加工部」について,本件補正発明は,載置平面を越えて下方へ向かって突出するのに対し,引用発明は,上方へ向かって突出している点。

【相違点2】「剛毛カーペットの剛毛」について,本件補正発明は,「ワークが移動させられる際に,該ワークに形成された下方へ向かって載置平面を越えて突出する成形加工部のための所要の自由空間を提供するために下方へ向かって折り曲げられるように構成されている」いるのに対し,引用発明は,「剛毛カーペットの剛毛」に相当する「ブラシ」について「ワークに形成された下方へ向かって載置平面を越えて突出する成形加工部のための所要の自由空間を提供するために下方へ向かって折り曲げられるように構成されている」かどうか不明である点。

【相違点3】本件補正発明は,「ツールポンチ(9)および/またはツールダイス(11)による加工位置(B)への到達を検出する」という検出する動作を行っているのに対し,引用発明は,検出する動作が示されていない点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。

ア 相違点1について
引用発明においても,段落【0003】に「図9に示すように例えばワークWを下向き成形した場合に,ワークWを移動する時にダイ金型33がワークWの成形部に干渉しないように,下向きの成形高さh1に基づいてダイ金型33が退避する機能がある。」と記載されているように,下方へ向かって突出するような「成形加工部」をワークとして扱うこと自体は,従来周知であり,引用発明も十分に想定したものと考えられる。したがって,「成形加工部」を下方へ向かって突出させるか,上方へ向かって突出させるかは,最終的に作成される加工対象物に応じて適宜選択しうる程度の事項にすぎない。

イ 相違点2について
引用例1の段落【0003】の図9に関する記載からすると,「ワークW」は「パスラインP」に沿って移動するとの前提で記載されているのであるから,「下向き成形した」「ワークWの成形部」であっても,これに干渉しないように「ワークW」が支承されるようになされる技術自体は従来から存在していたことになる。
ここで,引用発明における「ブラシ」について検討すると,ブラシが折り曲げられることは,例えば特許第3311763号公報の図3に関する記載,特表平11-510741号公報の6,9,10,12,15-17図に関する記載から明らかである。
すなわち,当該技術分野においては,「ブラシ」は「ワークW」を「パスラインP」に沿って移動させようとすれば,「ワークW」を把持している「XYテーブル」により折り曲げられるものであることは,当業者であれば当然に認識していたことにすぎない。
そうすると,上記引用例1の段落【0003】の記載において,「下向き成形した」「ワークWの成形部」により,「ブラシ」が折り曲げられて「ワークW」は「パスラインP」に沿って移動することも当業者であれば当然に認識しうる事項である。
したがって,相違点1のワーク形状に関わらず,「ブラシ」を用いて「ワークW」を支承していれば,相違点2は,「ブラシ」そのものが動作を達成する上で当然に有する構成にすぎない。

ウ 相違点3について
加工する以上,「ツールポンチ」及び「ツールダイス」の位置を制御することは当然に行われることであり,そのためには,多くの場合位置を認識することが必要とされることは明らかである。そして,直接検出するようになすことは,引用例2に示されており,相違点3に係る構成とすることに困難性があったものとは認められない。

エ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

オ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年12月11日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成26年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。再掲すれば,次のとおり。
「工作機械(1)に設けられたワーク載置部(3)に支承されたプレート状のワーク(4)を,切削加工および/または成形加工により加工するための方法であって,昇降軸線(15)に沿って,切削加工および/または成形加工のためのツール(12)を形成しているツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを運動させることによってワーク(4)を加工する形式の方法において,
前記工作機械として,ワーク(4)を載置平面(5)内で移動させるための座標ガイド(6)を有しており,ワークテーブル(3)は剛毛カーペット(3a)を有し,該剛毛カーペット(3a)の上面が,ワーク(4)の載置平面(5)を形成しており,成形加工部(22)は下方へ向かって載置平面(5)を越えて突出しており,剛毛カーペット(3a)の剛毛は,ワーク(4)が載置平面(5)内で座標ガイド(6)によって移動させられる際に成形加工部(22)のための所要の自由空間を提供するために下方へ向かって折り曲げられる,工作機械を用い,
ワーク(4)を,載置平面(5)を上方または下方に向かって越えて突出した成形加工部(22)において加工するために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ワーク載置部(3)における載置平面(5)の上方または下方の加工位置(B)にまで運動させ,
先行したステップにおいて,ワーク載置部(3)に載置されたワーク(4)に成形加工ツールを用いた成形加工によって成形加工部(22)を形成し,該成形加工部(22)におけるワーク(4)の加工の前に前記成形加工ツールを前記ツール(12)と交換し,
ワーク載置部(3)に沿ってワーク(4)を運動させるために,ツールポンチ(9)とツールダイス(11)とを,ツールダイス(11)が上方に向かって載置平面(5)を越えて突出しておらずかつツールポンチ(9)が下方へ向かって載置平面(5)を越えて突出していない休止位置(R)へ移動させ,
ツールダイス(11)がツールダイス収容部(10)内に支承されており,ツールポンチ(9)がツールポンチ収容部(8)内に支承されており,ワーク(4)を加工するためにツールダイス収容部(10)とツールポンチ収容部(8)とを,互いに別個に独立して昇降軸線(15)に沿って互いに向かって運動させ,ツールポンチ収容部(8)ならびにツールダイス収容部(10)は,選択的に種々異なるツール(12)を位置固定することのできるツール収容部として形成されており,
ツールポンチ(9)および/またはツールダイス(11)による加工位置(B)への到達を検出することを特徴とする,ワークを切削加工および/または成形加工により加工するための方法。」

2 引用刊行物 原査定の拒絶の理由で引用された引用例1,2及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,誤記の訂正や不明瞭な記載の釈明以外の実質的な部分では,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「下方」の限定を「上方または下方」に拡張したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

4 請求人の主張
請求人は,平成28年3月24日提出の上申書で補正する用意がある旨申し出ているが,実質的な限定を伴う補正ではないので,補正の機会をあえて与えるべき特段の事情とは考えがたく当該申し出は採用しない。

5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-30 
結審通知日 2017-06-05 
審決日 2017-06-16 
出願番号 特願2014-41668(P2014-41668)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦間中 耕治  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 渡邊 真
平岩 正一
発明の名称 ワークを切削加工および/または成形加工により加工するための方法および工作機械  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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