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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01N
管理番号 1334187
審判番号 不服2016-5626  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-15 
確定日 2017-11-08 
事件の表示 特願2013-524425「排ガス処理装置の作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月23日国際公開、WO2012/022687、平成25年 9月 2日国内公表、特表2013-534291〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年8月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年8月18日、ドイツ連邦共和国、2010年10月20日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月15日に国内書面が提出され、平成25年4月15日に明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成27年4月15日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年7月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月22日付けで拒絶査定がされ、平成28年4月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成29年2月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年4月25日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、願書に最初に添付された明細書及び図面並びに平成28年4月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「 【請求項1】
排ガスフローのライン上に配置される還元剤を保存するための少なくとも1つの貯留部(11)、排ガスフローのラインへ還元剤を送給するための少なくとも1つの送給装置(4)、および排ガスフローのライン上に配置され少なくとも排ガスフロー又は還元剤を加熱する少なくとも1つのヒータ(3)を有する排ガス処理装置(1)を作動する方法であって:
(a)少なくとも1つの前記貯留部(11)に保存される還元剤の充填レベル(21)が最小限の保存量(12)を下回るか否かを点検するステップ;
(b)現在の排ガスの質量流量(9)が内燃機関の低負荷範囲(10)にあるか否かを点検するステップ;
(c)前記排ガス処理装置(1)内の温度(7)が所定温度よりも大きいか否かを点検するステップ;
(d)前記(a)および(b)の条件は満たされるが、前記(c)の条件が満たされない場合に、前記ヒータ(3)による加熱プロセス(26)を実行するステップ;
(e)前記(a)、(b)および(c)の条件がすべて満たされる場合に、少なくとも1つの前記送給装置(4)により還元剤を排ガスフローのラインへ送給するステップ;
を少なくとも含む方法。」

第3 引用文献
1 引用文献1
1-1 引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に国内において頒布された刊行物である特開2010-116858号公報(平成22年5月27日公開。以下、「引用文献1」という。)には、「排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

ア 「【要約】
【課題】エンジンスタートの排気ガス低温時において、尿素からのアンモニア生成率を向上し、NOx浄化率を向上することができる排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法を提供する。
【解決手段】エンジンの排気通路上に、上流側から順に排気ガス中のNOの酸化活性を高める前段酸化触媒と、排気ガス中のNOxをアンモニアで還元するSCR触媒と、アンモニアを除去する後段酸化触媒とを有し、前記前段酸化触媒とSCR触媒との間に尿素水を添加する排気ガス処理装置において、前記エンジンのスタート時に、前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度未満且つ尿素水の蒸発温度以上の温度で所定量の尿素水を添加するとともに、前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度に達するまで排気ガス温度を昇温する制御を行う制御手段を設ける。」(第1ページ左下欄の【要約】)

イ 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路上に、上流側から順に排気ガス中のNOの酸化活性を高める前段酸化触媒と、排気ガス中のNOxをアンモニアで還元するSCR触媒と、アンモニアを除去する後段酸化触媒とを有し、前記前段酸化触媒とSCR触媒との間に尿素水を添加する排気ガス処理装置において、
前記エンジンの通常運転時に、前記排気ガスの温度が第1の所定温度以上で尿素水を添加し、前記エンジンのスタート時に、前記第1の所定温度より低い第2の所定温度未満で尿素水を添加する制御手段を設けたことを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項2】
前記第2の所定温度が尿素の加水分解温度であることを特徴とする請求項1記載の排気ガス処理装置。
【請求項3】
前記第2の所定温度が尿素水の蒸発温度以上であることを特徴とする請求項2記載の排気ガス処理装置。
【請求項4】
前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度に達するまで排気ガス温度を昇温する制御を行う第2の制御手段を設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の排気ガス処理装置。
【請求項5】
前記所定量の尿素水の噴射を、前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度に達する前に終了させるように前記制御手段にて制御を行うことを特徴とする請求項2?4何れかに記載の排気ガス処理装置。
【請求項6】
前記エンジンの排気通路上且つ前記前段酸化触媒よりも上流側に、排気ガスの流量を調整可能な排気絞り弁を設け、該排気絞り弁の開度を調整することで前記排気ガス温度の昇温を行うことを特徴とする請求項1?5何れかに記載の排気ガス処理装置。
【請求項7】
前記SCR触媒へのアンモニア吸着可能量と温度の関係を表したマップを用意し、
該マップを用い、排気ガス温度に応じて前記尿素水の添加量を決定することを特徴とする請求項1?6何れかに記載の排気ガス処理装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】)

ウ 「【0001】
本発明は、排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法に関するものであり、特に排気ガス中のNOxをアンモニアで還元して浄化するSCR触媒を備えた排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガスを処理装置として、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を浄化するために尿素を用いたSCR(Selectve Catalytic Reduction)触媒を使用することが種々提案されている。このような排気ガス処理装置では、排気ガス中のNOxを選択的にSCR触媒に吸着させ、SCR触媒上流側の排気通路中に尿素水を噴射し、該尿素水中の尿素を加水分解して還元剤であるアンモニア(NH_(3))をSCR触媒に供給し、前記SCR触媒に吸着したNOxを還元して窒素と水に分解して排出させている。
【0003】
しかしながら、このようなエンジンの排気ガスの処理装置においては、エンジン始動時の排気ガスが低温であるときには、前記SCR触媒上流側の排気通路中に噴射された尿素水が気化せず排気通路中に堆積してしまう可能性がある。さらに、尿素が加水分解温度(130?180℃)以下では、排気通路中で尿素が分解してアンモニアになるアンモニア生成率が極端に低くなり、NOxの浄化率が極端に低くなってしまうことに加えて、未分解の尿素がSCR触媒を素通りして大気中に放出されてしまう可能性がある。
【0004】
前述のエンジン始動時の排気ガスの低温時にアンモニア生成率が低いことを解決するために、排気ガスの低温時には尿素水の噴射を行わず、排気ガス温度が、尿素の加水分解温度以上に設定したある閾値を越えたときに尿素水を短時間で目標量だけ噴射することで、アンモニア生成率の低下を防止しているが、この場合、排気ガス温度が前記閾値以下であるときにはNOxの浄化が行われないという課題が残る。
【0005】
また、エンジンを停止する前にアンモニアをSCR触媒に事前に吸着させておく事前吸着が有効であるが、エンジン停止時の状態によりアンモニア吸着量が左右されるため、条件によっては効果が不十分となることがある。
【0006】
また、尿素水に代えて、アンモニア水や液体アンモニアを使用することも考えられるが、これらは毒性が強く、取り扱いが難しい。SCR触媒を使用する排ガス処理装置を搭載した車両の使用者の中には、アンモニア水や液体アンモニア水の取り扱いに深い知見を有さない使用者も少なくないため、アンモニア水や液体アンモニアを使用することは現実的ではない。
【0007】
そこで、低温における尿素からのアンモニア生成率を向上させるために、SCR触媒の上流側に加水分解触媒を設けることが提案されており、その一例として例えば特許文献1には、排気ガス通路に、上流側から順に尿素供給ノズルと尿素加水分解触媒とSCR触媒を配設した排気ガス浄化システムにおいて、前記尿素加水分解触媒の排気ガスとの接触面に窒化ケイ素面を形成した排気ガス浄化システムが開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2006-212591号公報」(段落【0001】ないし【0008】)

エ 「【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されているような尿素の加水分解触媒を設ける技術においては、加水分解触媒を設けることにより排気ガス処理装置全体が大型化して重量増となる、排気ガス処理装置を製造する際のコスト高となるという問題がある。
さらに、加水分解触媒を設けることで、尿素の分解は促進されるものの、十分なアンモニア生成率は得られず従来の課題を解決することは困難である。
【0010】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、エンジンスタートの排気ガス低温時において、尿素からのアンモニア生成率を向上し、NOx浄化率を向上することができる排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法を提供することを目的とする。」(段落【0009】及び【0010】)

オ 「【0011】
上記課題を解決するため本発明においては、エンジンの排気通路上に、上流側から順に排気ガス中のNOの酸化活性を高める前段酸化触媒と、排気ガス中のNOxをアンモニアで還元するSCR触媒と、アンモニアを除去する後段酸化触媒とを有し、前記前段酸化触媒とSCR触媒との間に尿素水を添加する排気ガス処理装置において、前記エンジンの通常運転時に、前記排気ガスの温度が第1の所定温度以上で尿素水を添加し、前記エンジンのスタート時に、前記第1の所定温度より低い第2の所定温度未満で尿素水を添加する制御手段を設けたことを特徴とする。
また、前記第2の所定温度が尿素の加水分解温度であることを特徴とする。
通常運転時に尿素水を添加する第1の所定温度よりも低い第2の所定温度未満で尿素水を添加する制御手段を設けることで、エンジンをスタートしてから早期に尿素水を添加することができ、NOxの浄化率を向上することができる。
【0012】
また、前記第2の所定温度が尿素水の蒸発温度以上であることを特徴とする。
これにより、通常制御の約2倍のNOx浄化率が得られる。
さらに、エンジンスタートから排気ガス温度が尿素水の蒸発温度に達するまでは尿素水を添加しないため、尿素水の一部が気化せずに排気通路中に堆積し尿素の一部が排気通路内に付着してしまうことを防ぐことができる。
【0013】
また、前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度に達するまで排気ガス温度を昇温する制御を行う第2の制御手段を設けたことを特徴とする。
尿素の加水分解温度までは、排気ガス温度を昇温する制御を行うため、エンジンスタートから尿素水を添加し、該尿素水が分解してアンモニアをSCR触媒に安定して供給できるまでの時間、即ちエンジンスタートからNOxを安定して浄化することができるまでの時間を短縮化することができる。
これにより、SCR触媒に供給された尿素水がSCR触媒本来の還元剤であるアンモニアに速やかに分解し、エンジンスタート後早期に尿素水を添加することと組み合わせることで通常制御の約3倍のNOx浄化率が得られる。
このような制御手段を用いることにより、エンジンスタートから早い段階でアンモニアを供給することができ、高いNOx浄化率でエンジンの排気ガスの処理を行うことができる。
【0014】
また、前記所定量の尿素水の噴射を、前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度に達する前に終了させるように前記制御手段にて制御を行うことを特徴とする。
これにより、排気ガス温度が尿素の加水分解温度に達したときには尿素水の添加が終了しているため、アンモニア生成率が向上し、添加した尿素水がより有効に使用される。
【0015】
また、前記エンジンの排気通路上且つ前記前段酸化触媒よりも上流側に、排気ガスの流量を調整可能な排気絞り弁を設け、該排気絞り弁の開度を調整することで前記排気ガス温度の昇温を行うことを特徴とする。
一般的なエンジンの排気通路上には排気絞り弁が設けられていることが多い。そのため、前記排気絞り弁の開度を調整して排気ガスの昇温制御を行うことで、既存のシステムを大きく変更することなく、本発明を実施することができる。
【0016】
また、前記SCR触媒へのアンモニア吸着可能量と温度の関係を表したマップを用意し、該マップを用い、排気ガス温度に応じて前記尿素水の添加量を決定することを特徴とする。
これにより、適正な量の尿素水添加量を決定することができ、尿素が加水分解して生成されるアンモニアがSCR触媒を素通りして大気に放出されてしまう所謂アンモニアスリップが発生せず、しかもNOxの浄化に有効なアンモニア量を確保することができる。
【0017】
さらに、課題を実現するための方法の発明として、前段酸化触媒によって排気ガス中のNOの酸化活性を高め、SCR触媒によって排気ガス中のNOxをアンモニアで還元し、尿素水を添加してから、後段酸化触媒によってアンモニアを除去する排気ガス処理方法において、前記エンジンのスタート時に、前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度未満且つ尿素水の蒸発温度以上の温度で所定量の尿素水を噴射するとともに、前記排気ガスの温度が尿素の加水分解温度に達するまで排気ガス温度を昇温する制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上記載のごとく本発明によれば、エンジンスタートの排気ガス低温時においても、尿素からのアンモニア生成率を向上し、NOx浄化率を向上することができる排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法を提供することができる。」(段落【0011】ないし【0018】)

カ 「【0020】
図1は、実施例1における排気ガス処理装置の概要図である。図1を用いて排ガス処理装置の概略について説明する。本発明の排気処理装置1は、図1に示したように前段酸化触媒2及びフィルタ4からなるDPFシステム10と、SCR触媒6及び後段酸化触媒8からなるSCRシステム12とから構成される。
【0021】
このようなDPFシステム10とSCRシステム12を組み合わせた排ガス処理装置においては、エンジン30で発生した排ガスは、まず前段酸化触媒2及びフィルタ4からなるDPFシステム10に送り込まれ、フィルタ4でPM(Particulate Matter)を捕集されて排出される。
【0022】
前記フィルタ4でPMを捕集された後の排ガスは、中間通路14を通り、SCRシステム12を構成するSCR触媒6に送り込まれる。また、中間通路14中に設けた尿素噴射ノズル16より尿素水を噴射し、該尿素水中の尿素が分解することによってNH3が生成される。なお前記尿素噴射ノズル16より噴射される尿素水の噴射量は、後述する制御装置32により制御される。
【0023】
前記尿素水が分解して生成されたNH3は一旦SCR触媒6上に吸着した後、排気ガス中のNOxと以下の(1)?(3)の反応式によって反応し、有害なNOxを無害なN2へと転換させる。
2NO+2NO_(2)+4NH_(3)→4N_(2)+6H_(2)O ・・・(1)
4NO+4NH_(3)+O_(2)→4N_(2)+6H_(2)O ・・・(2)
6NO_(2)+8NH_(3)→7N_(2)+12H_(2)O ・・・(3)
【0024】
さらに、SCR触媒6で反応できなかったNH_(3)は、同様にSCR触媒6で反応できなかったNOxと後段酸化触媒8でSCR触媒6と同様の(1)?(3)の反応式によって反応し、NOxを無害なN2へと転換させる。また、SCR触媒6上に吸着したNH_(3)は、温度上昇によりSCR触媒6より脱離し、後段酸化触媒で(4)の反応式によりN_(2)へと転化される。
12NH_(3)+9O_(2)→6N_(2)+18H_(2)O ・・・(4)
【0025】
次に、前記制御装置32による制御について、図1を参照しながら、図2を用いて説明する。
図2は実施例1におけるエンジンスタート時の制御装置32による制御のフローチャートである。
【0026】
ステップS1でエンジン30がスタートすると、エンジン30からエンジンスタートの信号が制御装置32に送られる。
【0027】
ステップS1でエンジンスタートの信号が送られると、制御装置32は、DPFシステム10の下流側且つSCRシステム12の上流側の位置する中間通路14内の温度を検出する温度計18で検出される温度T1を取得し、該温度T1によりコールドスタートか否かを判断する。コールドスタートとは、低温でのスタートのことであり、これは前記温度T1が尿素の分解温度以下であるか否かで判断する。つまり、T1が尿素の分解温度以下であればコールドスタート、T1が尿素の分解温度よりも高ければコールドスタートではないということである。
【0028】
ステップS2でNo、即ちコールドスタートではないと判断されると、ステップS3に進み通常制御を行う。
【0029】
ステップS2でYes、即ちコールドスタートと判断されると、図2において点線Aで囲った尿素水噴射制御と、点線Bで囲った昇温制御を同時に行う。前記尿素水噴射制御と昇温制御は同時に平行して行うが、ここでは点線Aで囲った尿素水噴射制御から説明する。
【0030】
ステップS2でYesと判断されると、尿素水噴射制御では、ステップS11で温度計11で検出される温度T1が尿素水の蒸発温度Ta以上であるか否か判断する。前記尿素水蒸発温度Taは、尿素水が蒸発する温度のことであり、尿素水の尿素濃度、尿素の噴射速度、量などによって異なるが80?120℃程度である。
【0031】
ステップS11でNoと判断されると、温度T1が後述する後述する昇温制御により上昇し、尿素水の蒸発温度Ta以上になるまでステップS11を繰り返す。
【0032】
ステップS11でYesと判断されると、ステップS12で、尿素噴射ノズル16の開度を調整し尿素水の中間通路14中への噴射を開始する。
【0033】
ステップS12で尿素水の噴射が開始されると、アンモニアマップを参照し、ステップS13で必要量の尿素水が噴射されたか否かを判断する。
図4にアンモニアマップの一例を示す。図4のアンモニアマップにおいて、縦軸はSCR触媒6へのアンモニア吸着可能量、横軸は温度である。図4に示したとおり、アンモニアは温度が低いほどSCR触媒6に多く吸着する。そこで、前回のエンジン停止時の温度計18における検出値をT_(E)とすると、SCR触媒6にはA_(E)だけアンモニアが既に吸着していると考えられる。また、現行の排気ガス温度T1におけるアンモニアのSCR触媒6への吸着可能量はA1である。そのため、A1-A_(E)=Aだけ新たにアンモニアを吸着させることができ、該Aに対応する尿素水を噴射すればよく、この値をステップS13における尿素水の必要量とする。
【0034】
ステップS13でNoと判断されると、必要量の尿素水が噴射されるまで尿素の噴射を続ける。
ステップS13でYesと判断されると、ステップS3に進み、尿素噴射に関しては通常の制御を行う。
【0035】
次に、点線Bで囲った昇温制御について説明する。
ステップS2でYesと判断されると、昇温制御では、ステップS21でエンジンの排気出口の設けた排気絞り弁34の弁開度を小さくなるように調整し、排気ガスを強制的に昇温する。
なお、本実施例においては排気絞り弁34の開度調整により排気ガスの昇温を行うが、ステップS21においては、排気ガスを昇温することができれば他の方法を用いてもよく、例えばエンジンの吸気を絞ったり、排気ラインにヒーターを設けて排気ガスを昇温することもできる。
【0036】
ステップS21で昇温が開始されると、ステップS22で温度計11で検出される温度T1が尿素の分解温度Tb以上であるか否か判断する。前記尿素分解温度Tbは、尿素が加水分解してアンモニアとなる温度のことであり、SCRの尿素分解性能によって異なるが130?180℃程度である。
【0037】
ステップS22でNoと判断されると、温度T1が上昇し、尿素分解温度Tb以上になるまで昇温を続ける。
【0038】
ステップS22でYesと判断されると、ステップS23で強制昇温を停止してステップS3に進み、昇温に関しては通常の制御を行う。
【0039】
図2のフローチャートも用いて説明した制御装置32における制御時の尿素水噴射量及び排ガス温度T1の時間変化の一例を図3に示した。
図3は実施例1におけるエンジンスタート時の排気ガス温度及び尿素水噴射量の時間変化を表すグラフであり、縦軸は尿素水噴射量及び温度を表し、横軸は時間を表す。
【0040】
図3を用い、図2のフローチャートを用いて説明した制御の一例について時間軸に沿って再度説明する。
図3に示したように、時間0でエンジンがコールドスタートすると、昇温制御が開始される。該昇温制御により排気ガス温度T1が上昇し、時間t_(a)で尿素水蒸発温度Taに達すると、尿素水の噴射を開始し、時間t_(c)で目標量の尿素水が噴射されたら尿素水の噴射を停止する。その後、時間t_(b)で排気ガス温度T1が尿素分解温度Tbに達する、つまりSCR温度が低温で吸着性尿素を分解してアンモニアにすると昇温制御を停止し、以降は通常制御を行う。
なお、図3の例と逆に、排気ガス温度が尿素分解温度T1が尿素分解温度Tbに達する時間t_(b)よりも、尿素水の噴射が終わる時間t_(c)の方が後であってもよいが、その場合アンモニア生成率の面で劣るため、図3に示したように時間t_(b)よりも時間t_(c)の方が先となるようにすることが好ましい。
【0041】
通常制御、及び以下の条件2?7の6条件で、図2、図3で説明した制御を行い、SCR触媒6におけるエンジンスタート時のNOx浄化率を調べた。
条件1.通常制御
条件2.尿素早期添加温度:25℃
条件3.尿素早期添加温度:100℃
条件4.尿素早期添加温度:130℃
条件5.尿素早期添加温度:130℃、昇温制御:180℃まで
条件6.尿素早期添加温度:130℃、昇温制御:200℃まで
条件7.尿素装置添加温度:130℃、昇温制御:130℃まで
条件2?4は昇温制御を行わず、尿素の早期添加開始タイミング(温度)を変更した。
条件5?7は昇温制御の終了タイミング以外は同じ条件とした。
結果を図5に示す。
図5において、縦軸はNOx浄化率、横軸は条件名である。
図5に示すようにSCR触媒6のNOx浄化率は制御により大きく向上し、尿素早期添加だけで、通常制御の約2培の40%の浄化率が得られ、昇温制御と組み合わせると何れの条件においても50%以上、最大60%近いNOx浄化率が得られた。
【0042】
(比較例)
図6は、比較例におけるエンジンスタート時の排気ガス温度及び尿素水噴射量の時間変化を表すグラフであり、縦軸は尿素水噴射量及び温度を表し、横軸は時間を表す。
比較例においては、エンジンがコールドスタートしてから排気ガスの強制昇温は行わなかった。また、尿素分解温度よりも高温に設定した尿素水噴射閾値に排ガス温度が達すると目標量の尿素水を添加した。これは従来の制御である。
このとき、エンジンスタート時におけるNOxの浄化率は20?30%程度であった。
【0043】
本発明によれば、エンジンスタートから排気ガス温度が尿素水の蒸発温度に達するまでは尿素水を添加しないため、尿素水が気化せずに排気通路中に堆積することなく、しかも、尿素の加水分解温度までは、排気ガス温度を昇温する制御を行うために、エンジンスタートから尿素水を添加し、該尿素水が分解してアンモニアをSCR触媒に安定して供給できるまでの時間、即ちエンジンスタートからNOxを安定して浄化することができるまでの時間を短縮化することができる。
従って、エンジンスタートから早い段階でSCR触媒にアンモニアを供給することができ、高いNOx浄化率でエンジンの排気ガスの処理を行うことができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、エンジンスタートの排気ガス低温時において、尿素からのアンモニア生成率を向上し、NOx浄化率を向上することができる排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法として利用することができる。」(段落【0020】ないし【0044】)

1-2 引用文献1の記載から分かること
上記1-1及び図面の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

サ 上記1-1 アないしカ及び図面の記載から、引用文献1には、排気ガス中のNOxをアンモニアで還元するSCR触媒6を含む、排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法が記載されていることが分かる。

シ 上記1-1 ア、イ及びオ並びに図面の記載から、引用文献1に記載された排気ガス処理方法は、エンジンの排気通路上に配置されるSCR触媒6、排気通路へ尿素水を送給するための少なくとも1つの尿素水噴射ノズル16等を有する排気ガス処理装置を作動する方法であることが分かる。

ス 上記1-1 カ(特に段落【0035】)及び図面の記載から、引用文献1に記載された排気ガス処理方法は、排気ガスの昇温のために、排気通路上にヒーターを設けて排気ガスを昇温することもできることが分かる。

セ 上記1-1 カ(特に段落【0033】)の「図4に示したとおり、アンモニアは温度が低いほどSCR触媒6に多く吸着する。そこで、前回のエンジン停止時の温度計18における検出値をT_(E)とすると、SCR触媒6にはA_(E)だけアンモニアが既に吸着していると考えられる。また、現行の排気ガス温度T1におけるアンモニアのSCR触媒6への吸着可能量はA1である。そのため、A1-A_(E)=Aだけ新たにアンモニアを吸着させることができ、該Aに対応する尿素水を噴射すればよく、この値をステップS13における尿素水の必要量とする。」という記載から、尿素水の噴射前に、SCR触媒6には(吸着可能量A1よりも少ない吸着量である)A_(E)だけアンモニアが既に吸着していると判断しているといえる。

ソ 上記1-1 カ(特に段落【0025】ないし【0027】)及び図2の記載から、ステップS1でエンジンスタートの信号が送られると、制御装置32は、DPFシステム10の下流側且つSCRシステム12の上流側の位置する中間通路14内の温度を検出する温度計18で検出される温度T1を取得し、該温度T1によりコールドスタート、つまり低温でのスタートか否かを判断することが分かる。
そして、コールドスタート時(始動及びそれに続くアイドル運転時)には、排ガスの質量流量が通常運転時よりも少ない(すなわち、内燃機関の低負荷範囲である)ことは、技術常識であるから、このとき、制御装置32は、実質的に、「排ガスの質量流量が内燃機関の低負荷範囲にあるか否か」ということと、「排ガス処理装置内の温度が所定温度よりも大きいか否か」ということを判断していることが分かる。

タ 上記1-1 カ(特に段落【0035】)及び図2の記載から、ステップS2でYes(エンジンがコールドスタートである)と判断されると、ステップS21で(例えば段落【0035】に記載されたヒーターにより)強制昇温することが分かる。
すなわち、排ガスの質量流量が内燃機関の低負荷範囲にあり、排気温度T1が所定温度以下のときにはヒーター等により加熱されることが分かる。

チ 上記1-1 カ(特に段落【0033】)及び図2の記載から、尿素水の噴射時には、ステップS13で必要量の尿素水が噴射されたか否かを判断していることが分かる。このとき、「前回のエンジン停止時の温度計18における検出値をT_(E)とすると、SCR触媒6にはA_(E)だけアンモニアが既に吸着していると考えられる。また、現行の排気ガス温度T1におけるアンモニアのSCR触媒6への吸着可能量はA1である。そのため、A1-A_(E)=Aだけ新たにアンモニアを吸着させることができ、該Aに対応する尿素水を噴射すればよく、この値をステップS13における尿素水の必要量とする。」(段落【0033】)という記載から、尿素水の噴射前のアンモニア吸着量A_(E)が、吸着可能量A1よりも小さいと判断していることが分かる。(アンモニア吸着量A_(E)が、吸着可能量A1以上であれば、当然、噴射しない。)
すなわち、尿素水の噴射前に、アンモニア吸着量A_(E)が所定の吸着量を下回るか否かを判断しているといえる。

1-3 引用発明
上記1-1及び1-2から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「排気通路上に配置されるSCR触媒6、排気通路へ尿素水を噴射するための少なくとも1つの尿素水噴射ノズル16、および排気通路上に配置され少なくとも排気を加熱する少なくとも1つのヒーターを有する排気ガス処理装置を作動する方法であって:
(a)少なくとも1つの前記SCR触媒6に吸着される尿素水の吸着量が所定の吸着量を下回るか否かを点検するステップ;
(b)エンジンスタート時か否かを点検するステップ;
(c)前記排気ガス処理装置内の温度T1が所定温度よりも高いか否かを点検するステップ;
(d)前記(a)および(b)の条件は満たされるが、前記(c)の条件が満たされない場合に、前記ヒーターによる排気ガスの昇温を実行するステップ;
(e)前記(a)、(b)および(c)の条件がすべて満たされる場合に、少なくとも1つの前記尿素水噴射ノズル16により尿素水を排気通路へ噴射するステップ;
を少なくとも含む方法。」

2 引用文献2
2-1 引用文献2の記載
当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に国内において頒布された刊行物である特開2010-90723号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「車両の運転制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関排気通路内に配置されたNO_(X)選択還元触媒と、該NO_(X)選択還元触媒にアンモニアを供給するためのアンモニア供給手段とを具備しており、該NO_(X)選択還元触媒に吸着されたアンモニアによって排気ガス中のNO_(X)を還元するようにした車両において、上記NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときには該NO_(X)選択還元触媒に単位時間当り流入するNO_(X)量を低下させるようにした車両の運転制御装置。
【請求項2】
上記NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときには機関の出力を要求出力よりも低下させることによって該NO_(X)選択還元触媒に単位時間当り流入するNO_(X)量を低下させるようにした請求項1に記載の車両の運転制御装置。
【請求項3】
機関による車両駆動力とは別個に車両駆動力を発生可能でかつ機関により発電可能な電動装置と、電動装置に車両駆動用電力を供給しかつ電動装置による発電電力により充電されるバッテリとを具備しており、上記NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下することにより機関の出力が要求出力よりも低下せしめられたときには機関出力の低下分を電動装置による車両駆動力によって補填するようにした請求項2に記載の車両の運転制御装置。
【請求項4】
上記NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときには機関が停止され、電動装置によって車両が駆動される請求項3に記載の車両の運転制御装置。
【請求項5】
電動装置によって車両が駆動されているときにバッテリの充電量が予め定められた下限値まで低下して電動装置による車両の駆動から機関による車両の駆動に切換えられたときには機関から排出されるNO_(X)量が低下するように機関の運転制御パラメータが制御される請求項4に記載の車両の運転制御装置。
【請求項6】
上記NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下することにより機関の出力が要求出力よりも低下せしめられたときには機関出力の低下中又は機関出力の低下後に上記アンモニア供給手段からNO_(X)選択還元触媒にアンモニアを供給するようにした請求項3に記載の車両の運転制御装置。
【請求項7】
上記NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときには機関が停止されると共に機関が停止するまでの機関出力の低下時に上記アンモニア供給手段からNO_(X)選択還元触媒にアンモニアが供給され、機関が停止されたときには電動装置によって車両が駆動される請求項6に記載の車両の運転制御装置。
【請求項8】
上記アンモニア供給手段がNO_(X)選択還元触媒上流の機関排気通路内に尿素水を供給するための尿素水供給装置からなる請求項6に記載の車両の運転制御装置。
【請求項9】
NO_(X)選択還元触媒上流の機関排気通路内に上記バッテリからの供給電力により発熱せしめられるヒータを配置して上記尿素水供給装置から供給された尿素水を該ヒータにより加熱するようにした請求項8に記載の車両の運転制御装置。
【請求項10】
上記NO_(X)選択還元触媒上流の機関排気通路内に、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中に含まれるNO_(X)を吸蔵し流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比又はリッチになると吸蔵したNO_(X)を放出するNO_(X)吸蔵触媒が配置されており、該NO_(X)吸蔵触媒に流入する排気ガスの空燃比がリッチにされると該NO_(X)吸蔵触媒から放出されたNO_(X)によりアンモニアが生成され、上記アンモニア供給手段が該NO_(X)吸蔵触媒と、該NO_(X)吸蔵触媒に流入する排気ガスの空燃比をリッチにする空燃比制御手段とにより構成される請求項6に記載の車両の運転制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項10】)

イ 「【0001】
本発明は車両の運転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関による車両の走行と電気モータによる車両の走行とが可能なハイブリッド車両において、内燃機関の排気通路内に配置された触媒の温度が活性化温度以下に低下しそうなときには触媒の温度を活性化温度以上に維持するために電気モータによる車両の走行、或いは電気モータと内燃機関による車両の走行を行うべきときであっても内燃機関のみによって車両の走行を行うようにした車両が公知である(特許文献1を参照)。一方、従来より吸着したアンモニアによって排気ガス中のNO_(X)を選択的に還元可能なNO_(X)選択還元触媒が公知であり、触媒としてこのようなNO_(X)選択還元触媒を用いた場合でも触媒の温度は活性化温度以上に維持する必要がある。
【特許文献1】特開2001-115869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながらこのNO_(X)選択還元触媒を用いた場合には触媒の温度が活性化温度以上に維持されていたとしてもNO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が少なくなると排気ガス中のNO_(X)を良好に還元できなくなり、斯くしてNO_(X)浄化率が低下するという問題を生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するために本発明によれば、機関排気通路内に配置されたNO_(X)選択還元触媒と、NO_(X)選択還元触媒にアンモニアを供給するためのアンモニア供給手段とを具備しており、NO_(X)選択還元触媒に吸着されたアンモニアによって排気ガス中のNO_(X)を還元するようにした車両において、NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときにはNO_(X)選択還元触媒に単位時間当り流入するNO_(X)量を低下させるようにしている。
【発明の効果】
【0005】
NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したとしてもNO_(X)選択還元触媒に単位時間当り流入するNO_(X)量が低下せしめられるのでNO_(X)を良好に浄化することができる。」(段落【0001】ないし【0005】)

ウ 「【0006】
図1に圧縮着火式内燃機関の全体図を示す。
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内に夫々燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドを夫々示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口は吸入空気量検出器8を介してエアクリーナ9に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁10が配置され、更に吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置11が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置11内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。
【0007】
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結され、排気タービン7bの出口は酸化触媒12の入口に連結される。酸化触媒12の下流には酸化触媒12に隣接して排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するためのパティキュレートフィルタ13が配置され、このパティキュレートフィルタ13の出口は排気管14を介してNO_(X)選択還元触媒15の入口に連結される。このNO_(X)選択還元触媒15は例えばFeゼオライトからなる。
【0008】
また、NO_(X)選択還元触媒15にアンモニアを供給するためのアンモニア供給手段が設けられており、図1に示される実施例ではこのアンモニア供給手段はNO_(X)選択還元触媒15上流の機関排気通路内に尿素水を供給するための尿素水供給装置16からなる。この尿素水供給装置16は排気管14内に配置された尿素水供給弁17を具備しており、この尿素水供給弁17から排気管14内に尿素水が供給される。
【0009】
尿素水供給弁17から供給された尿素水からはアンモニアNH_(3)が発生し((NH_(2))_(2)CO+H_(2)O→2NH_(3)+CO_(2))、このアンモニアNH_(3)はNO_(X)選択還元触媒15に吸着される。排気ガス中に含まれるNO_(X)はNO_(X)選択還元触媒15に吸着されているアンモニアによって還元され、それによって排気ガス中のNO_(X)が浄化される。
なお、図1に示されるようにNO_(X)選択還元触媒15にはNO_(X)選択還元触媒15の温度を検出するための温度センサ18が配置されており、またNO_(X)選択還元触媒15の入口および出口には夫々排気ガス中のNO_(X)温度を検出するためのNO_(X)センサ19,20が配置されている。
【0010】
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路21を介して互いに連結され、EGR通路21内には電子制御式EGR制御弁22が配置される。また、EGR通路21周りにはEGR通路21内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置23が配置される。図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置23内に導かれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管24を介してコモンレール25に連結され、このコモンレール25内へは電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ26から燃料が供給される。コモンレール25内に供給された燃料は各燃料供給管24を介して燃料噴射弁3に供給される。」(段落【0006】ないし【0010】)

エ 「【0012】
電子制御ユニット40はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス41によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)42、RAM(ランダムアクセスメモリ)43、CPU(マイクロプロセッサ)44、入力ポート45および出力ポート46を具備する。温度センサ18、NO_(X)センサ19,20および吸入空気量検出器8の出力信号は夫々対応するAD変換器47を介して入力ポート35に入力される。また、入力ポート45には変速機33の変速段を表わす信号が入力される。
【0013】
一方、アクセルペダル50にはアクセルペダル50の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ51が接続され、負荷センサ51の出力電圧は対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。更に入力ポート45にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ52が接続される。一方、出力ポート46は対応する駆動回路48を介して燃料噴射弁3、スロットル弁10の駆動用ステップモータ、尿素水供給弁17、EGR制御弁22、燃料ポンプ26、変速機33およびモータ駆動制御回路36に接続される。」(段落【0012】及び【0013】)

オ 「【0018】
さて、排気ガス中のNO_(X)を良好に還元するためには常時十分な量のアンモニアNH_(3)をNO_(X)選択還元触媒15に吸着させておく必要がある。しかしながら排気ガス温や排気ガス量が変化するとそれに伴なってNO_(X)選択還元触媒15に吸着されるアンモニア量が大きく変化するので実際にはどのようなタイミングで尿素水を供給したとしても十分な量のアンモニアを常時NO_(X)選択還元触媒15に吸着させておくのは困難である。従って実際にはNO_(X)選択還元触媒15への吸着アンモニア量がかなり低下することもあり、この場合機関から多量のNO_(X)が排出されるとNO_(X)を良好に還元しえなくなるという問題を生ずる。
【0019】
この場合、機関から最も多くのNO_(X)が排出されたときでもNO_(X)を十分に還元することのできるアンモニア吸着量の最小値を許容限界量と称すると、アンモニア吸着量が許容限界量よりも少なくなった場合には機関から排出されるNO_(X)量によっては機関から排出される全NO_(X)を良好に還元できない場合が生ずる。このようにアンモニア吸着量が許容限界量よりも少なくなった場合でも機関から排出されるNO_(X)を良好に還元するには機関からのNO_(X)の排出量を低下させればよいことになる。
【0020】
そこで本発明では、NO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときにはNO_(X)選択還元触媒15に単位時間当り流入するNO_(X)量を低下させるようにしている。このようにNO_(X)選択還元触媒15に単位時間当り流入するNO_(X)量を低下させるとアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したとしてもNO_(X)選択還元触媒15に流入する全てのNO_(X)を良好に還元することができる。
【0021】
なお、機関から単位時間当り排出されるNO_(X)量は機関の出力が増大するほど多くなり、従って機関の出力を低下させれば機関から単位時間当り排出されるNO_(X)量を低下させることができる。従って本発明による実施例では、NO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときには機関の出力を要求出力よりも低下させることによってNO_(X)選択還元触媒15に単位時間当り流入するNO_(X)量を低下させるようにしている。
【0022】
一方、このように機関の出力を要求出力よりも低下させると車両の運転性が悪化する。そこで本発明による実施例では、NO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下することにより機関の出力が要求出力よりも低下せしめられたときには機関出力の低下分を電動装置、即ち電気モータ30による車両駆動力によって補填するようにしている。
【0023】
次にこのことについて図2および図3を参照しつつ説明する。図2には尿素水の供給作用と、NO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量ΣQの変化と、機関による駆動トルクTeの変化と、電気モータ30による駆動トルクTmの変化とが示されている。また、図3には車両が機関によって駆動されているときの機関の要求トルクTrと、機関回転数Nと、アクセルペダル50の踏込み量(0%,25%,50%,75%,100%はアクセルペダル50の等踏込み量曲線を示す)との関係が示されている。
【0024】
図2は車両が機関によって駆動されている場合を示しており、このとき図2に示される例では尿素水が尿素水供給弁17から間欠的に供給されている。次いで例えば機関運転中に機関から多量のNO_(X)が排出されると図2に示されるようにアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXまで低下する。このときこの実施例では図2に示されるように機関の駆動トルクTeはΔTeだけ減少せしめられ、一方電気モータ30が駆動せしめられて電気モータ30の駆動トルクTmがΔTeだけ増大せしめられる。」(段落【0018】ないし【0024】)

カ 「【0026】
図4に、この実施例を実行するためのアンモニア吸着量の算出ルーチンを示す。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図4を参照するとまず初めにステップ60においてNO_(X)センサ19,20の出力信号からNO_(X)選択還元触媒15の入口および出口における排気ガス中のNO_(X)濃度が検出される。次いでステップ61では排気ガス量を代表する吸入空気量Gaが算出される。次いでステップ62ではNO_(X)センサ19,20の出力信号および吸入空気量GaからNO_(X)選択還元触媒15でのアンモニア消費量Qnが算出される。
【0027】
即ち、NO_(X)選択還元触媒15の入口と出口におけるNO_(X)濃度の差に排気ガス量、即ち吸入空気量Gaを乗算すると単位時間当りNO_(X)選択還元触媒15において還元されたNO_(X)量が算出でき、NO_(X)選択還元触媒15において単位時間当り還元されたNO_(X)量が算出できるとNO_(X)選択還元触媒15においてNO_(X)を還元するために単位時間当り消費されたアンモニア量Qnを算出することができる。従ってNO_(X)センサ19,20の出力信号および吸入空気量Gaからアンモニア消費量Qnを算出できることになる。
【0028】
次いでステップ63では尿素水供給弁17から供給される尿素水の量からNO_(X)選択還元触媒15に単位時間当り供給されるアンモニア供給量Qsが算出される。次いでステップ64ではΣQにアンモニア供給量Qsを加算しかつΣQからアンモニア消費量Qnを減算することによってNO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量ΣQが算出される。次いでステップ65ではアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXよりも低下したか否かが判別される。ΣQ≧QXのときにはステップ67に進んでNO_(X)処理限界フラグがリセットされ、ΣQ<QXになるとステップ66に進んでNO_(X)処理限界フラグがセットされる。」(段落【0026】ないし【0028】)

キ 「【0041】
ところで、NO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXまで低下したときには尿素水供給弁17から尿素水を供給してアンモニア吸着量ΣQを増大させることが好ましい。しかしながらこの場合、排気ガスの流速が速いときに尿素水を供給すると尿素水および尿素水から生成されたアンモニアがNO_(X)選択還元触媒15をすり抜けてしまい、斯くしてアンモニア吸着量Qを適切に増大させることができない。
【0042】
この場合、アンモニア吸着量Qを適切に増大させるためには、供給されたアンモニアがNO_(X)選択還元触媒15をすり抜けないように排気ガスの流速が遅いときにアンモニアを供給する必要がある。そこで本発明による別の実施例では、NO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXまで低下することにより機関の出力が要求出力よりも低下せしめられたときには機関出力の低下中又は機関出力の低下後にNO_(X)選択還元触媒15にアンモニアを供給するようにしている。図2には機関出力の低下後にアンモニアを供給するようにした場合の一例が示されている。
【0043】
一方、機関出力の低下中にアンモニアを供給するようにした場合の一例が図11に示されている。なお、この図11は図2或いは図6と同様な図を示している。図11に示されるようにこの例では、NO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXまで低下したときには機関が停止されると共に機関が停止するまでの機関出力の低下時に尿素水を供給することによってNO_(X)選択還元触媒15にアンモニアが供給され、機関が停止されたときには電動装置、即ち電気モータ30によって車両が駆動される。
【0044】
具体的に言うと、機関を停止するために燃料噴射弁3からの燃料噴射停止命令が発せられた後、吸入空気量Gaが予め定められた量GX以下になったときに尿素水の供給が開始され、吸入空気量Gaが零になったとき、又は零になるまでに尿素水の供給が停止される。このように尿素水を供給することによって供給された全アンモニアをNOX選択還元触媒15に吸着させることができる。
【0045】
図12に、図11に示す例を実行するためのアンモニア吸着量の算出ルーチンを示す。このルーチンも一定時間毎の割込みによって実行される。
図12を参照するとまず初めにステップ100においてNO_(X)センサ19,20の出力信号からNO_(X)選択還元触媒15の入口および出口における排気ガス中のNOX濃度が検出される。次いでステップ101では排気ガス量を代表する吸入空気量Gaが算出される。次いでステップ102ではNO_(X)センサ19,20の出力信号および吸入空気量GaからNO_(X)選択還元触媒15でのアンモニア消費量Qnが算出される。
【0046】
次いでステップ103では尿素水供給弁17から供給される尿素水の量からNO_(X)選択還元触媒15に単位時間当り供給されるアンモニア供給量Qsが算出される。次いでステップ104ではΣQにアンモニア供給量Qsを加算しかつΣQからアンモニア消費量Qnを減算することによってNO_(X)選択還元触媒15へのアンモニア吸着量ΣQが算出される。次いでステップ105ではアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXよりも低下したか否かが判別される。ΣQ≧QXのときには処理サイクルを完了し、ΣQ<QXになるとステップ106に進んでNO_(X)処理限界フラグがセットされる。
【0047】
図13に車両の駆動制御ルーチンを示す。このルーチンも一定時間毎の割込みによって実行される。
図13を参照すると、まず初めにステップ110において図7に示される関係に基づいて機関回転数Nとアクセルペダル50の踏込み量から機関の要求トルクTrが算出される。次いでステップ111ではNO_(X)処理限界フラグがセットされているか否かが判別される。NO_(X)処理限界フラグがセットされていないときにはステップ112に進んで機関の駆動トルクTeが要求トルクTrとされ、次いでステップ113において要求トルクTrを発生するのに必要な量の燃料が燃料噴射弁3から噴射される。次いでステップ114では電気モータ30の駆動トルクTmが零とされる。
【0048】
一方、ステップ111においてNO_(X)処理限界フラグがセットされていると判別されたときにはステップ115に進んで機関の駆動トルクTeが零とされ、次いでステップ116に進んで燃料噴射弁3からの燃料噴射の停止命令、即ち機関の停止命令が出される。次いでステップ117では電気モータ30の駆動トルクTmが要求トルクTrとされ、次いでステップ118では機関の駆動トルクTeの低下に伴い電気モータ30の駆動トルクTmが要求トルクTrまで上昇せしめられる。
【0049】
次いでステップ119では吸入空気量Gaが零であるか否か、即ち機関が完全に停止したか否かが判別される。吸入空気量Gが零でないときにはステップ120に進んで吸入空気量Gaが予め定められた量GXよりも低下したか否かが判別される。Ga<GXになるとステップ121に進んで供給すべき尿素水の量が算出され、次いでステップ122において尿素水が供給される。なおNO_(X)選択還元触媒15が吸着しうるアンモニア量はNO_(X)選択還元触媒15の温度が高くなるほど減少する。従ってこのとき供給される尿素水の量は温度センサ18により検出されたNO_(X)選択還元触媒15の温度を考慮に入れて決定される。
【0050】
一方、ステップ119において吸入空気量Gaが零であると判別されたときには、即ち機関が完全に停止したときにはステップ123に進む。このとき依然として尿素水の供給作用が行われているときには尿素水の供給作用が停止される。ステップ123では吸入空気量Gaが零になった後、予め定められているΔt時間が経過したか否かが判別され、Δt時間経過したときにはステップ124に進んでNO_(X)処理限界フラグがリセットされる。NO_(X)処理限界フラグがリセットされると電気モータ30による車両の駆動から機関による車両の駆動に切換えられる。」(段落【0041】ないし【0050】)

ク 「【0051】
図14に更に別の実施例を示す。この実施例では、図11から図13に示される実施例において機関の停止命令の発生時に供給される尿素水を加熱するために、NO_(X)選択還元触媒15上流の機関排気通路内にバッテリ37からの供給電力により発熱せしめられるヒータ53が配置されている。このヒータ53上には例えば白金PtやパラジウムPdからなる加水分解触媒が担持されている。
【0052】
この実施例ではNO_(X)処理限界フラグがセットされたとき、即ち機関の停止命令が出されるときにバッテリ37の充電量SOCが十分であればヒータ53が加熱される。ヒータ53が加熱されると供給された尿素水はヒータ53により加熱されてアンモニアガスにされ、それによりアンモニアがNO_(X)選択還元触媒15の全体に吸着される。
【0053】
図15にヒータの制御ルーチンを示す。このルーチンも一定時間毎の割込みによって実行される。
図15を参照すると、まず初めにステップ200においてNO_(X)処理限界フラグがセットされているか否かが判別される。NO_(X)処理限界フラグがセットされていないときにはステップ204に進んでヒータ53がオフとされる。これに対し、NO_(X)処理限界フラグがセットされているときにはステップ201に進んでバッテリ37の充電量SOCが下限値SXよりも大きいか否かが判別される。SOC≦SXのときにはステップ204に進み、SOC>SXのときにはステップ202に進む。
【0054】
ステップ202では吸入空気量Gaが正であるか否か、即ち機関が完全に停止していないか否かが判別される。Ga>0のときにはステップ203に進んでヒータ53がオンとされる。即ち、ヒータ53がオンとされるのは、NO_(X)処理限界フラグがセットされ、即ち機関の停止命令が出され、充電量SOCが下限値SX以上でかつ機関が完全に停止していないときである。機関が完全に停止するとステップ202からステップ204に進んでヒータ53がオフとされる。」(段落【0051】ないし【0054】)

2-2 引用文献2の記載から分かること
上記2-1及び図面の記載から、引用文献2には、次の事項が記載されていることが分かる。

サ 上記2-1 アないしク及び図面の記載から、引用文献2には、機関排気通路内に配置されたNO_(X)選択還元触媒と、該NO_(X)選択還元触媒にアンモニアを供給するためのアンモニア供給手段とを具備しており、該NO_(X)選択還元触媒に吸着されたアンモニアによって排気ガス中のNO_(X)を還元するようにした車両において、上記NO_(X)選択還元触媒へのアンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときには該NO_(X)選択還元触媒に単位時間当り流入するNO_(X)量を低下させるようにした車両の運転制御装置が記載されていることが分かる。

シ 上記2-1 ア(特に請求項6ないし9)ないしク及び図面の記載から、引用文献2に記載された車両の運転制御装置において、アンモニア吸着量が許容限界量まで低下したときには、機関出力の低下後(すなわち、排気ガスの流速低下後)に、尿素水を噴射してヒータにより加熱することにより、NOx還元触媒にアンモニアを供給することが分かる。

ス 上記2-1 アないしク(特にキの段落【0041】及び【0042】)及び図面の記載から、引用文献2に記載された車両の運転制御装置において、NOx選択還元触媒へのアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXまで低下したときには尿素水供給弁17から尿素水を供給してアンモニア吸着量ΣQを増大させることが好ましいことが分かる。この場合、排気ガスの流速が速いときに尿素水を供給すると尿素水および尿素水から生成されたアンモニアがNO_(X)選択還元触媒15をすり抜けてしまうため、アンモニア吸着量Qを適切に増大させるためには、供給されたアンモニアがNO_(X)選択還元触媒15をすり抜けないように排気ガスの流速が遅いときにアンモニアを供給する必要があることが分かる。

2-3 引用文献2記載の技術
上記2-1及び2-2から、引用文献2には、以下の技術が記載されているといえる。

「NOx選択還元触媒へのアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXまで低下したときに尿素水供給弁17から尿素水を供給する技術。」(以下、「引用文献2記載の技術」という。)

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における「排気通路」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「排ガスフローのライン」に相当し、以下同様に、「SCR触媒6」は「還元剤を保存するための少なくとも1つの貯留部」及び「貯留部」に、「尿素水」は「還元剤」に、「噴射する」は「送給する」に、「尿素水噴射ノズル16」は「送給装置」に、「排気」は「排ガスフロー(又は還元剤)」に、「ヒーター」は「ヒータ」に、「排気ガス処理装置」は「排ガス処理装置」に、「吸着」は「保存」に、「吸着量」は「充填レベル」に、「所定温度」は「所定温度」に、「高い」は「大きい」に、「排気ガスの昇温」は「加熱プロセス」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「所定の吸着量」は、「所定の保存量」という限りにおいて、本願発明における「最小限の保存量」に相当する。
また、引用発明における「エンジンスタート時」は、エンジンの始動及びそれに続くアイドル運転時を意味しているから、本願発明における「現在の排ガスの質量流量(9)が内燃機関の低負荷範囲(10)にある」に相当する。
また、引用発明における「排気ガス処理装置内の温度T1」は、本願発明における「排ガス処理装置内の温度」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「排ガスフローのライン上に配置される還元剤を保存するための少なくとも1つの貯留部、排ガスフローのラインへ還元剤を送給するための少なくとも1つの送給装置、および排ガスフローのライン上に配置され少なくとも排ガスフロー又は還元剤を加熱する少なくとも1つのヒータを有する排ガス処理装置を作動する方法であって:
(a)少なくとも1つの前記貯留部に保存される還元剤の充填レベルが所定の保存量を下回るか否かを点検するステップ;
(b)現在の排ガスの質量流量が内燃機関の低負荷範囲にあるか否かを点検するステップ;
(c)前記排ガス処理装置内の温度が所定温度よりも大きいか否かを点検するステップ;
(d)前記(a)および(b)の条件は満たされるが、前記(c)の条件が満たされない場合に、前記ヒータによる加熱プロセスを実行するステップ;
(e)前記(a)、(b)および(c)の条件がすべて満たされる場合に、少なくとも1つの前記送給装置により還元剤を排ガスフローのラインへ送給するステップ;
を少なくとも含む方法。」

そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
ア 「所定の保存量」に関して、本願発明においては、「少なくとも1つの前記貯留部に保存される還元剤の充填レベルが最小限の保存量を下回るか否かを点検するステップ」を備えるのに対し、引用発明においては、「少なくとも1つの前記SCR触媒6に吸着される尿素水の吸着量が所定の吸着量を下回るか否かを点検するステップ」を備える点(以下、「相違点」という。)。

第5 相違点に対する判断
相違点について、以下に検討する。
(1)本願発明の技術的意義について
本願発明の課題に関して、本願の明細書には、「アンモニアは、例えば、還元剤として用いられてよい。・・・尿素は、例えば、この種の還元剤前駆体として役立ってよい。水性の尿素溶液は、特に好ましい。・・・還元剤は、液体および/または気体の状態で、内燃機関の排ガス処理装置に送給されることができる。自動車において、還元剤は、液体の状態で通常保存される。・・・排ガス処理装置の領域でも、液体還元剤の添加に先行してまたは添加中に、若干の気化が起こることを意味する。この気化については、気化が急速でかつできるだけ完全であり、排ガスおよび排ガス処理装置において一様に分布することは、特に重要である。排ガス管の領域における(特に、流体力学が排ガスのためにほとんど利用できない排気管の領域における)液体の沈着は、不必要な腐食等に至ることができる。さらに、これは、還元剤の全量を酸化窒素の変換に利用することができず、そして、還元剤のより大きい消費も、通常、特徴であることを意味する。・・・これから進んで、本発明の目的は、現状技術と関連して記述されている技術的課題をさらに軽減することである。特に、目的(intention)は、内燃機関の非常に頻繁な負荷サイクルの場合でさえSCR法によって酸化窒素の信頼性の高い変換を可能にする、排ガス処理装置を作動する方法を提案することである。さらなる目的(intention)は、還元剤の添加のための特に有効でかつエネルギー効率の良い(特に、排気システムの中の還元剤の中間貯留部が対応する適度の経費で還元剤を供給される)戦略を特定することである。」(段落【0005】ないし【0007】。下線は当審で付した。)と記載されている。
すなわち、本願の発明の課題は、排気温度が低く液体還元剤(尿素水)が気化しにくいときであっても、排ガス処理に使用される還元剤の前駆体である尿素を完全に気化することにより、腐食等を防止し、還元剤の使用量を減らして、酸化窒素(NOx)の信頼性の高い変換を可能にする排ガス処理装置を作動する方法を提案することであると解される。
それに対し、引用文献1に記載された発明の課題は、段落【0001】ないし【0010】等の記載からみて、「エンジンスタートの排気ガス低温時において、尿素からのアンモニア生成率を向上し、NOx浄化率を向上することができる排気ガス処理装置及び排気ガス処理方法を提供する」ということである。
そうすると、両者は、尿素からアンモニアが生成しにくい排気ガス低温時において、尿素からのアンモニア生成率を向上し、NOx浄化率を向上することを課題としており、技術常識からみて、排気ガスが低温となるのはエンジンスタート時(エンジン始動後しばらくの間)であるから、両者は、課題において軌を一にするものであるといえる。

(2)本願発明における「点検」という用語の意義(技術的意味)について
「点検」という用語は、一般的には、「(人間が)一つ一つ検査すること」という意味で用いられるが、本願発明においては、「点検」という用語が一般的な意味とは異なる意味で用いられているので、「点検」という用語の意義(技術的意味)について、本願の明細書及び特許請求の範囲の記載を参照する。

ア 「内燃機関(2)の前記低負荷範囲は、ステップ(b)のアイドリング検出手段によって検出される、請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項9)という記載から、ステップ(b)の「現在の排ガスの質量流量(9)が内燃機関の低負荷範囲(10)にあるか否かを点検するステップ」は、例えば、アイドリング検出手段によって検出されるものであることが分かる。

イ 「貯留部に現在保存される還元剤の量は、適切なセンサおよび/または計算によって決定されることができる。」(段落【0016】)という記載等から、ステップ(a)の「少なくとも1つの前記貯留部(11)に保存される還元剤の充填レベル(21)が最小限の保存量(12)を下回るか否かを点検するステップ」は、適切なセンサおよび/または計算によって決定されるものであることが分かる。

すなわち、本願発明における「点検」という用語は、「(人間が)一つ一つ検査すること」という意味ではなく、例えば、アイドリング検出手段によって検出されたり、適切なセンサおよび/または計算によって決定されるものであることが分かる。

(3)相違点について
まず、本願発明における「最小限の保存量」の技術的意義を知るために、本願の明細書を参照する。
本願の明細書には、「本発明による方法の特有の特徴は、上記の通りに決定される充填レベルが最小限の充填レベルを下回るときだけ、還元剤が送給されるということである。還元剤用の貯留部の技術的に適切な設計において、貯留部が常に最大まで満たされることは、必要でない。その代わりに、50%?70%の充填レベルが中期的作動に充分であるように、貯留部は適切に設計される。最小限の充填レベルは、例えば、それから20%であり、または好ましくは30%である。そのため、一方では、貯留部において利用可能な還元剤が常にあることは、確実にされる。そして、他方では、還元剤の送給ステップ間の不必要に短い時間的間隔は、決められる必要がない。最小限の充填レベルのための適切な値は、したがって、濾過される排ガスの量、および排ガス処理装置の文脈における貯留部の設計に依存する。」(段落【0018】)と記載されており、「最小限の保存量」とは、例えば20%、30%の充填レベルであり、当業者が適宜設定する値であることが分かる。
引用発明においても、NOx選択還元触媒(貯留部)のアンモニア吸着量(還元剤の充填レベル)がどの程度になったときに尿素(還元剤)を噴射(送給)するかは、当業者が適宜設定する設計事項(例えば、特開2008-286102号公報の段落【0049】等の記載を参照。)であるといえる。
また、引用文献2には、「NOx選択還元触媒へのアンモニア吸着量ΣQが許容限界量QXまで低下したときに尿素水供給弁17から尿素水を供給する技術。」(上記「引用文献2記載の技術」)が記載されている。
そして、引用発明と、引用文献2記載の技術とは、ともに、内燃機関の排気ガスを処理する方法という技術分野において、NOx選択還元(SCR)触媒への尿素水の供給を制御するという共通の課題を解決するためのものであるから、引用発明に引用文献2記載の技術を適用する動機が存在する。
してみれば、引用発明において、尿素水(還元剤)を噴射(供給)するときのアンモニア吸着量(還元剤の充填レベル)を当業者が適宜決定することにより、又は、引用発明において引用文献2記載の技術を適用することにより、相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。

(4)作用効果について
そして、本願発明を全体としてみても、本願発明は、引用発明からみて、又は、引用発明及び引用文献2記載の技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

(5)請求人の意見について
請求人は、平成29年4月25日提出の意見書において、次のように主張している。
「拒絶理由通知では、本願第1発明の各構成要素と引用文献1のどの構成要素が対応するのか説明されていませんが、引用文献1記載の発明は、エンジンスタート時に尿素水噴射と昇温を同時に行うものであり(段落29)、本願第1発明のように、(a)?(c)の条件が満足された場合に還元剤を送給するものではありません。引用文献1記載の発明は、エンジンスタート時に関する発明であることから、内燃機関が低負荷時であるか否かの点検(b)を行っておらず、充填レベルの点検(a)も行っておらず、条件(a)及び(b)が満足している場合に所定温度に達していないことを条件に加熱プロセスを実行することも行っていません。むしろ、所定温度未満で尿素水を添加しており、本願第1発明とは逆の制御を行っており阻害要因を有します。」(以下、「請求人の主張1」という。)
ここで、請求人は「拒絶理由通知では、本願第1発明の各構成要素と引用文献1のどの構成要素が対応するのか説明されていませんが」と主張するが、当審拒絶理由通知においては、「・・・以下、[ ]内には対応する本願発明1の発明特定事項を記載する。」として、引用発明の発明特定事項と、本願発明の発明特定事項とを対応させて記載している。
また、請求人は「引用文献1記載の発明は、エンジンスタート時に尿素水噴射と昇温を同時に行うものであり」と主張するが、正しくは、「エンジンのコールドスタート時に尿素水噴射制御と昇温制御とを同時に平行して行う」(段落【0029】を参照。なお、下線は当審で付した。)ものであって、本願発明においても加熱の制御と還元剤送給の制御とは同時に平行して行っているのだから、この点で両者は格別相違しない。
また、請求人は「引用文献1記載の発明は、・・・内燃機関が低負荷時であるか否かの点検(b)を行っておらず」と主張するが、引用発明においては、ステップS2においてコールドスタートであるか否かを判断(本願発明の用語では「点検」)しており、コールドスタート時(技術常識及び図3の記載から、低温における始動及びその後のアイドリング時を意味する。)には排ガスの質量流量が内燃機関の低負荷範囲である(つまり、通常運転時よりも排ガスの質量流量が少ない)ことは、技術常識である。
また、請求人は「引用文献1記載の発明は、・・・所定温度未満で尿素水を添加しており」と主張するが、引用文献1の段落【0030】及び図2を参照すると、温度T1がTa(尿素水の蒸発温度)以上となったときに尿素水を噴射しており、本願発明においても、明細書の記載(「排ガスの温度が最小限の温度限界を下回る場合、少なくとも排ガスフローまたは還元剤を少なくとも1つのヒータで加熱するステップ」(段落【0035】)、「特に、最小限の温度限界は、液体還元剤が蒸発することを確実にするために選択される。」(段落【0043】)、「上記のとおり、最小限の温度限界を上回る排ガスの温度を達成するための加熱は、ステップ(c)(換言すれば還元剤の送給)の前に、の間に、の後に、両方とも起こることができる。」(段落【0044】)等の記載)を参照すると、液体還元剤の蒸発温度まで加熱してから液体還元剤を送給していると解されるから、この点で両者は格別相違しない。
また、上記のように、引用発明は、コールドスタート時(エンジン始動及びその後のアイドル運転時)、すなわち、排気温度が所定温度以下であり、排ガスの質量流量が少ないときに尿素水を噴射するものであるから、本願発明と軌を一にするものであり、その際に、NOx選択還元触媒へのアンモニア吸着量がどの程度になったときに尿素水(還元剤)を噴射(送給)するかは、当業者が適宜決定すべき事項であり、刊行物2記載事項でもある。

また、請求人は、上記意見書において、次のように主張している。
「引用文献2記載の発明は、内燃機関と電気モータによるハイブリッド車両を発明の前提とする発明であって、アンモニア吸着量が許容限界量QXまで低下したとき、機関出力を低下・停止させて電気モータ30を利用するものであって、本願発明の条件(b)のように低負荷範囲にあるか否かによって還元剤の送給を制御するものではなく、本願第1発明とは条件と動作が逆になっています。また、引用文献2記載の発明は、充填レベルが最小限の保存量を下回るか否かの点検も、条件(a)及び(b)が満足している場合に温度が所定温度より大きいか否かの点検も行っていません。引用文献2記載の発明は、電気モータを併用する発明であり、引用文献1とは発明の前提構成、課題、制御方法が異なり、引用文献2記載の発明を引用文献1記載の発明に適用する動機付けがありません。」(以下、「請求人の主張2」という。)
しかしながら、引用文献2記載の技術は、アンモニア吸着量が許容限界量QXまで低下したときに機関出力を低下し、それにより排気ガスの流速を低下させて尿素水(アンモニア)を供給するものであるから、「アンモニア吸着量が許容限界量QXまで低下し、排ガスの質量流量が少ないときに、還元剤を供給する」(引用文献2の特許請求の範囲の請求項1ないし8、段落【0041】及び【0042】等の記載を参照。)という点で本願発明と軌を一にするものである。また、引用発明と、引用文献2記載の技術とは、内燃機関の排気ガスを処理する方法という技術分野において、NOx選択還元(SCR)触媒への尿素水の供給を制御するという共通の課題を解決するためのものであるから、引用文献2記載の技術を引用発明に適用する動機が存在する。

以上のように、請求人の主張1及び2は、いずれも失当である。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、又は、引用発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-06 
結審通知日 2017-06-13 
審決日 2017-06-26 
出願番号 特願2013-524425(P2013-524425)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔谷川 啓亮石川 貴志  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 排ガス処理装置の作動方法  
代理人 多田 繁範  
代理人 寺田 雅弘  

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