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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A62C
管理番号 1334204
審判番号 不服2017-1316  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-30 
確定日 2017-11-20 
事件の表示 特願2011-239834号「切り替え式流体ノズル」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月20日出願公開、特開2013-94426号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月31日に出願されたものであって、平成28年1月26日付けで拒絶理由が通知され、平成28年9月21日付けで拒絶査定がされ、それに対して平成29年1月30日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は次のとおりである。

1.理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項1ないし4
・刊行物1及び2
・備考
刊行物1には、弁体36と、可動弁38と、リブ32と、筒型ホルダー31を備えた内筒22と、外筒25と切換え弁座43を備え、切換え弁座43を弁体36と可動弁38の途中で前後の開弁位置を選ぶことにより放水を変化させる消火ノズル21であって、内筒22は消火ホースを接続する雄ねじ24と、円筒体47と、ステー49と、弁座体45をも備え、吐水管29の後端位置に開弁可能に構成することが記載され(段落【0009】ないし【0038】、図1ないし図6を参照)、図2及び図3(a)には矢羽根片を設けることが開示されており、ノズル軸を設けること、内筒22を切換え弁座43と弁座体45用に別々に構成すること、可動弁を取り外し可能とすることは適宜設計変更しうる事項にすぎない。
また、弁座体45の吐水管29側に突起を設けること(刊行物2の第1図を参照)は当業者が容易になし得たことである。

2.理由2(特許法第36条第6項第2号)について
・請求項1ないし4
(1)請求項1には、複数の「保持アーム」が定義されているから、当該構成がどのような技術を表現したものであるか明確でない。
(2)請求項4には、「第一軸コマ」、「第二軸コマ」と記載されているが、これらの構成が本願請求項1の「第一ノズルコマ」、「第二ノズルコマ」と同じ構成を示すのか、異なる構成を示すのか明らかでないから、上記構成がどのような技術を表現したものであるか明確でない。

よって、請求項1及び4及び請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明は明確でない。

<刊行物一覧>
1.登録実用新案第3154707号公報
2.実願昭61-124944号(実開昭63-29554号)のマイクロフィルム

第3 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成29年1月30日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)。

「 【請求項1】
軸中心に沿って軸孔が貫通形成されたノズル軸と、ノズル軸先端に拡径固定された第一ノズルコマと、ノズル軸先端近傍に拡径固定された第二ノズルコマと、第二ノズルコマより軸方向後方にてノズル軸の周部外方に張り出す基体保持アームと、基体保持アームの外端が筒内面に固定されることでノズル軸を内挿保持する基部枠とを具備してなるノズル基体と、筒状先端を噴出口としてノズル基体の前部側に軸方向移動可能に外嵌された外枠と、外枠の枠内から軸中心側へ張り出し形成された閉塞前板とを具備してなり、
外枠のノズル基体に対する軸方向位置によって、閉塞前板と第一ノズルコマ、閉塞前板と第二ノズルコマの各組を選択して接触状態とし、又は前記各組共に非接触状態とし得る前枠体と、筒状基端を接続口としてノズル基体の後部側に軸方向移動可能に内嵌された内枠と、内枠の枠内から軸中心方向へ張り出す枠体保持アームと、前記枠体保持アームによって内枠の軸方向前部に中央固定された後ろコマとを具備してなり、
内枠のノズル基体に対する軸方向位置によって、後ろコマとノズル軸の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る後枠体と、から構成される流体ノズルであって、
ノズル基体と前枠体の軸方向位置関係に応じて、閉塞前板と第一ノズルコマ、閉塞前板と第二ノズルコマの各組の接触状態/非接触状態を切り替えることで、噴出口周縁からの流体噴出を調節し得るものであり、かつ、ノズル基体と後枠体の軸方向位置関係に応じて、後ろコマと軸孔後端の接触状態/非接触状態を切り替えることで、ノズル軸の軸孔からの流体噴出を調節し得ることを特徴とする切り替え式流体ノズル。
【請求項2】
軸孔内に、複数の矢羽根片を有した整流体が収容されてなる請求項1記載の切り替え式流体ノズル。
【請求項3】
後ろコマの前面中央に、軸中心にて前方突起を有する中央突板が設けられてなる請求項1又は2記載の切り替え式流体ノズル。
【請求項4】
第一ノズルコマ、第二ノズルコマのいずれかがノズル軸から取り外し可能に固定される請求項1、2又は3のいずれか記載の切り替え式流体ノズル。」

第4 刊行物
1.刊行物1(登録実用新案第3154707号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された上記刊行物1には、「消火ノズル」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)。

(1)刊行物1の記載事項
1a)「【請求項1】
後端に消火ホースを接続する内筒と、
この内筒の外側に外嵌し、内筒から突出する先端部の内周が放水の噴射口となり、内筒に対して回転することによって軸方向に移動する外筒と、
前記内筒の内側にこの内筒の内周との間に流体通路を形成した状態で納まり、軸心に沿って通水孔が貫通し、その先端部の内周が棒状直射放水孔となって開口する吐水管と、
前記吐水管の先端部外周に設けられた弁体と、
この弁体に対して軸方向に沿って所定の間隔を保つ前進停止位置から軸方向に沿って後端側に移動可能となるよう吐水管に外嵌し、ばねで常時前進停止位置に向けての移動弾性が付勢された可動弁と、
前記流体通路と内筒内の後端側の連通を常時維持した状態で、吐水管の通水孔をこの吐水管の後端部で開閉するよう内筒内に軸方向に沿って前後に移動可能となるよう組み込まれ、ばねで常時通水孔を閉鎖する前進位置に向けての移動弾性が付勢された弁座体と、
前記吐水管の外側に位置し、可動弁の軸方向の移動を弁座体に伝える伝達部材と、
前記外筒の先端部内周に位置し、外筒の前進位置への移動時に弁体に当接し、後方への移動途中で可動弁に当接し、流体通路からの放水をそれぞれ停止する切換え弁座とからなり、
この切換え弁座が、前記可動弁に当接した状態で外筒が後端側に移動するとこの可動弁を後方に押して移動させ、伝達部材を介して弁座体を前記通水孔の後端開放位置に移動させ、この通水孔からの放水に切り換えるようになっている消火ノズル。」(【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】)

1b)「【0012】
この考案によると、外筒の切換え弁座を弁体と可動弁の間で移動させることにより、シャットとジェット放水、噴霧放水の選択を可能とし、切換え弁座が可動弁に当接したシャット状態で後端側に移動すると、この可動弁を後方に押すことで伝達部材を介して弁座体を通水孔の後端開放位置に移動させ、通水孔からの棒状直射放水に切り換えるようにしたので、従来の棒形消火ノズルと同様の形態で、放水距離の長い棒状直射放水が得られることになり、しかも、外筒の回動操作だけでシャット、ジェット放水、噴霧放水、棒状直射放水に変化させることができ、従来の棒形消火ノズルの、構造が簡単でシンプル、小型で故障が少なく低価格であるという利点を生かしながら、棒形消火ノズルで棒状直射放水を実現することができる。」(段落【0012】)

1c)「【0014】
図1乃至図5は、この考案に係る消火ノズル21を示し、円筒状に形成された内筒22は、内部が通水路23となりその後端部内周に消火ホースを接続する雌ねじ24が設けられている。
【0015】
この内筒22の外側に外嵌する円筒状の外筒25は、内筒22と外筒25の嵌合面の一方に設けた雄ねじとこれに螺合するよう他方に設けた雌ねじからなる送りねじ機構26により、回動操作で内筒22に対して軸方向に移動するようになっていると共に、前記嵌合面間はOリング27で止水されている。なお、外筒25には、その外周にゴム等を用いた回動操作用のカバー28が外嵌してある。
【0016】
上記内筒22の内部に設けた吐水管29は、内筒22の内径よりも小径の外径で軸心に沿って通水孔30が貫通する円筒状に形成され、図2のように、内筒22の内周で先端寄りの位置に設けた筒状ホルダー31へ挿入して固定することにより、内筒22の内部で前後方向の中間部から先端側の位置に同軸心の配置で組み込まれている。
【0017】
上記筒状ホルダー31は、図3(a)のように、内筒22の内周から内側に突出する複数のリブ32で内筒22と同軸心の配置となり、この筒状ホルダー31で保持された吐水管29の外周面と内筒22の内周面の間に、圧力消火水が通る流体通路33が形成されている。
【0018】
この吐水管29は、その先端が内筒22の先端から少し前方に突出する配置となり、吐水管29の先端には、円筒状で内径が吐水管29の内径よりも少し小径の棒状直射放水孔34となる吐水口35が同軸心の延長状に突設されている。
【0019】
上記吐水口35の先端部外周に断面L字状の弁体36が軸方向に移動しないように固定され、この弁体36は、吐水口35に水密状態で外嵌する円筒部36aと、この円筒部36aの先端外周に内筒22の内径と同程度の外径を有するフランジ弁36bを連成して断面L字状に形成され、この弁体36の円筒部36aの外径とフランジ弁36bの後面に断面L形のパッキン37が重なるように取付けられている。
【0020】
上記吐水管29において、内筒22の先端から前方に突出する先端部の外周に、内筒22の内径に納まる外径のリング状となる可動弁38が、軸方向に移動自在となるようOリングで水密状に取付けられ、吐水管29の外側でこの可動弁38の後端と上記筒状ホルダー31の間に縮設したばね39によって常時前進位置に移動する弾性が付勢されている。
【0021】
この可動弁38の前進位置は、吐水口35の外周で弁体36の後端位置に外嵌したパッキン40に先端面が当接することによって決定され、可動弁38の先端面には、上記弁体36のパッキン37の外周面に重なったとき、この重なり部分の水密を保つ筒状の舌片41が突設されている。」(段落【0014】ないし【0021】)

1d)「【0022】
上記外筒25は、前進位置にあるとき、内筒22の先端から前方に突出する先端側が、上記した弁体36の外側を覆う長さに形成され、その先端部内周の開口が放水の噴射口42となり、更に、先端から少し後方の内周面に切換え弁座43が設けられている。
【0023】
この切換え弁座43は、外筒25の内周面から内側に突出する環状の鍔によって形成され、その内径は、上記した弁体36や可動弁38の外径よりも少し小径となり、弁体36と可動弁38の対向面間に収まる配置となる。
【0024】
上記弁体36と可動弁38は、軸方向に所定の間隔を設けて対向する配置となり、この対向面間に収まる切換え弁座43は、外筒25の回動により外筒25と一体に軸方向へ移動したとき、弁体36に当接する前進位置と可動弁38に当接する後退途中の二箇所の位置が、外筒25の噴射口42からの放水のシャット位置となり、切換え弁座43を弁体36と可動弁38の途中で前後の開弁位置を選ぶことにより、噴射口42からの放水がジェット放水と噴霧放水に変化することになる。
【0025】
上記吐水管29の外側に、円筒状の伝達部材44が軸方向に移動可能に外嵌され、内筒22内で吐水管29の後端位置に、吐水管29の通水孔30の後端開口を開閉する弁座体45が組み込まれている。
【0026】
上記伝達部材44は、前進位置にある可動弁38の後端に先端が当接し、閉弁位置にある弁座体45に後端が当接する長さと、その外周面と内筒22の内周面との間に上記流体通路33を確保する外径を有し、前記ホルダー31の外側に外嵌する内径で、リブ32を逃がすための複数の切れ目46が先端から後部途中の位置に達するまで設けられた構造になっており、上記した可動弁38と一体に軸方向にスライド移動することになる。」(段落【0022】ないし【0026】)

1e)「【0027】
上記弁座体45は、内筒22の内径に対して軸方向に移動可能に嵌合する外径の円筒体47と、この円筒体47の内径よりも小径で円筒体の内側中心部に位置し、その後面が後方に突出する円錐体48と、前記円筒体47と円錐体48を結合する半径方向の複数のステー49を有し、円筒体47と円錐体48の間に、円錐体48の頂点から半径方向前方に徐々に深くなり、外周部寄りの位置で軸方向に貫通する通水路50がステー49で区切られた環状に形成されている。
【0028】
上記弁座体45における円錐体48は吐水管29の外径に見合う外径を有し、その前面側は、円筒体47の先端よりも後方に位置し、前記円錐体48の前面中心に突設した螺軸51に、吐水管29の外径に見合う外径の円板状に形成されたパッキン52が外嵌し、このパッキン52が前記円錐体48の前面に重なる状態で、螺軸51に螺合したパッキン押え53で固定されている。
【0029】
上記弁座体45は、内筒22の後端部との間に縮設したばね54で常時先端側に向けて移動する弾性が付勢され、前進位置にあるとき、図2のように、パッキン52の外周部が吐水管29の後端に当接し、通水孔30の後端開口を閉鎖したシャット位相となり、前面の外周寄りで開口する通水路50は上記流体通路33と連通し、この状態で上記伝達部材44の後端が弁座体45の前面に当接している。
【0030】
この考案の消火ノズル21は、上記のような構成であり、内筒22の後端に消防ホースAを接続した状態で、放水をしないときは、図2のように、内筒22に対して外筒25が前進位置にあり、切換え弁座43は弁体36にパッキン37を介して当接し、流体通路33の先端を閉鎖したシャットの位相になり、また、弁座体45も前進位置にあり、吐水管29の後端開口を閉鎖したシャット位相になっている。
【0031】
この状態から外筒25を回動させ、内筒22に対して後方に移動させると、外筒25と一体に切換え弁座43が後方に移動することで弁体36から離れた開弁となり、図5(a)に矢印で示すように、圧力消火水は内筒22から流体通路33を通って外筒25の先端噴射口42から放水され、このとき、外筒25の回動量を調整し、切換え弁座43の移動を少なく設定すれば、ジェット放水となり、切換え弁座43の移動を多く設定すれば噴霧放水となる。
【0032】
即ち、弁体36の外周と外筒25の噴射口42の間隔が変化することで、この間隔から流出する放水の形態に変化が生じ、間隔が狭ければジェット放水となり、間隔が広くなると噴霧放水になる。」(段落【0027】ないし【0032】)

1f)「【0033】
なお、上記のような、ジェット放水や噴霧放水を行うための外筒25の移動時には、弁座体45に運動は伝わらず、弁座体45は前進位置にあって吐水管29の後端開口を閉鎖したシャット位相のままであるので、吐水管29からの放水の発生はない。
【0034】
上記のような、噴霧放水の状態で外筒25を回動して更に後方へ移動させると、図5(b)のように、切換え弁座43が可動弁38の先端面に当接し、外筒25の先端噴射口42からの放水を遮断したシャット位相になる。
【0035】
このように、切換え弁座43が可動弁38の先端面に当接したシャット位相の状態で、外筒25を回動して更に後方へ移動させると、図5(c)のように、切換え弁座43が可動弁38の先端面に当接した先端噴射口42のシャット位相を維持したままで、切換え弁座43が可動弁38を後方に押し、ばね39を圧縮して可動弁38が後方に移動すると、この可動弁38で押された伝達部材44が後方に移動して弁座体45を後方に押す。
【0036】
押された弁座体45は、ばね54を圧縮して後方に移動し、吐水管29の後端開口を開放する開弁位置になり、この弁座体45に設けた通水路50が吐水管29の通水孔30と連通し、外筒25の先端噴射口42からの放水はシャットされているので、図5(c)に矢印で示すように、吐水管29の通水孔30に流れた圧力消火水の全量が先端部の放水孔34から棒状直射放水となって放水される。
【0037】
このように、この考案の消火ノズル21は、外筒25を回動操作して軸方向後方への移動量を選択するだけで、ジェット放水と噴霧放水及び放水距離の長い棒状直射放水の三段切換えが行えることになる。
【0038】
なお、棒状直射放水を停止するときは、外筒25を逆に回動させて前進移動させ、図5(b)のように、切換え弁座43での押し込みを解いて可動弁38を前進停止位置に戻せば、弁座体45はばね54の押圧で前進位置に戻り、吐水管29の後端開口を閉鎖したシャット位相になる。」(段落【0033】ないし【0038】)

(2)引用発明
上記(1)及び図面からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「軸中心に沿って軸孔が貫通形成された吐水管29と、吐水管29の先端に突設された吐水口35に外嵌する円筒部36aの先端外周に形成された弁体36と、吐水管29の先端部外周に軸方向移動自在に取り付けられた可動弁38と、可動弁38より軸方向後方にて吐水管29の周部外方に張り出すリブ32及び筒状ホルダー31と、リブ32及び筒状ホルダ-31の外端が筒内面に固定されることで吐水管29を内挿保持する部分を備える内筒22と、筒状先端を噴出口として内筒22の前部側に軸方向移動可能に外装された外筒25と、外筒25の枠内から軸中心側へ張り出し形成された切換え弁座43とを具備してなり、
外筒25の内筒22に対する軸方向位置によって、切換え弁座43と弁体36、切換え弁座43と可動弁38の各組を選択して接触状態とし、又は各組共に非接触状態とし得る外筒25と、
内筒22の内径に対して軸方向に移動可能に嵌合する外径の円筒体47と、この円筒体47の内径よりも小径で円筒体の内側中心部に位置し、その後面が後方に突出する円錐体48と、前記円筒体47と円錐体48を結合する半径方向の複数のステー49を有する弁座体45とを具備してなり、
弁座体45と吐出管29の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る可動弁38とともに軸方向にスライド移動する伝達部材44と、から構成される消火ノズルであって、
内筒22と外筒25の軸方向位置関係に応じて、切換え弁座43と弁体36、切換え弁座43と可動弁38の各組の接触状態/非接触状態を切り替えることで、噴出口周縁からの流体噴出を調節し得るものであり、さらに外筒25に形成された切換え弁座43により後方へ押して可動弁38を移動させると、伝達部材44が軸方向後方に移動することにより弁座体45が移動して吐水管29の後端より離れることにより通水孔30からの放水を行う消火ノズル。」

2.刊行物2(実願昭61-124944号(実開昭63-29554号)のマイクロフィルム)について
原査定の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された上記刊行物2には、「消火用ノズル」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)刊行物2の記載事項
2a)「筒状に形成したノズル本体と、前記ノズル本体の外側に先端側へ突出するよう外嵌螺合し、回動によつて軸方向に移動する調整筒と、前記ノズル本体の内部にこの本体の内周面との間に通水路を形成するように組込まれ、外周面で開口する通路が先端に達する固定筒と、前記固定筒の先端に通路と連通するよう取付けられ、先端部外周の鍔壁に複数の散水孔が設けられた筒先と、前記固定筒の外側に摺動自在となるよう外嵌して通水路と通路の連通を遮断し、調整筒と一体に軸方向へ移動するよう先端側を移動筒と結合した移動筒とで構成され、移動筒の先端と筒先の先端側とに、移動筒の前進位置で通水路と散水孔の連通を遮断する止水部を形成し、前記移動筒の周壁に後退動位置で通水路と通路を連通させる通水孔を設けた消火用ノズル。」(明細書第1ページ第5ないし20行)

2b)第1図から、固定筒7の移動筒16側に吐出側に向かって軸中心の突起が設けられていることが図示されている。

(2)刊行物2技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2技術」という。)が記載されている。

「筒状に形成したノズル本体1と、ノズル本体1の外側に先端側へ突出するよう外嵌螺合し、回動によつて軸方向に移動する調整筒4と、ノズル本体1の内部にこの本体の内周面との間に通水路8を形成するように組込まれ、外周面で開口する通路11が先端に達する固定筒7と、固定筒7の先端に通路と連通するよう取付けられ、先端部外周の鍔壁13に複数の散水孔15が設けられた筒先9と、固定筒7の外側に摺動自在となるよう外嵌して通水路8と通路11の連通を遮断し、調整筒4と一体に軸方向へ移動するよう先端側を調整筒4と結合した移動筒16とで構成され、移動筒16の先端と筒先9の先端側とに、移動筒16の前進位置で通水路8と散水孔15の連通を遮断する止水部19を形成し、移動筒16の周壁に後退動位置で通水路8と通路11を連通させる通水孔22を設けた消火用ノズルにおいて、固定筒7の移動筒16側に吐出側に向かって軸中心の突起を設ける技術。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「吐水管29」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「ノズル軸」に相当し、以下同様に、「弁体36」は「第一ノズルコマ」に、「可動弁38」は「第二ノズルコマ」に、「リブ32及び筒状ホルダー31」は「基体保持アーム」に、「吐水管29を内挿保持する部分」は「ノズル軸を内挿保持する基部枠」に、「内筒22」は「ノズル基体」に、「外筒25」は「外枠」または「前枠体」に、「切替え弁座43」は「閉塞前板」に、「弁座体45」は「後ろコマ」に、「消火ノズル」は「流体ノズル」あるいは「切り替え式流体ノズル」に、「通水孔30」は「ノズル軸の軸孔」に、それぞれ相当する。
さらに、引用発明における「弁座体45が移動して吐水管29の後端より離れることにより通水孔30からの放水を行う」は、弁座体45が吐水管29の後端に接している時は通水口30が閉鎖されており、弁座体45と吐水管29の後端が接触/非接触の切り替えにより通水口30からの水の流れを調節可能であることは明らかであるから、「後ろコマと軸孔後端の接触状態/非接触状態を切り替えることで、ノズル軸の軸孔からの流体噴出を調節し得る」に相当する。
そして、引用発明における「弁座体45と吐出管29の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る可動弁38とともに軸方向にスライド移動する伝達部材」と、本願発明1における「内枠のノズル基体に対する軸方向位置によって、後ろコマとノズル軸の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る後枠体」とは、「後ろコマとノズル軸の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る部材」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「軸中心に沿って軸孔が貫通形成されたノズル軸と、第一ノズルコマと、第二ノズルコマと、第二ノズルコマより軸方向後方にてノズル軸の周部外方に張り出す基体保持アームと、基体保持アームの外端が筒内面に固定されることでノズル軸を内挿保持する基部枠とを具備してなるノズル基体と、筒状先端を噴出口としてノズル基体の前部側に軸方向移動可能に外嵌された外枠と、外枠の枠内から軸中心側へ張り出し形成された閉塞前板とを具備してなり、
外枠のノズル基体に対する軸方向位置によって、閉塞前板と第一ノズルコマ、閉塞前板と第二ノズルコマの各組を選択して接触状態とし、又は前記各組共に非接触状態とし得る前枠体と、後ろコマとを具備してなり、
後ろコマとノズル軸の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る部材と、から構成される流体ノズルであって、
ノズル基体と前枠体の軸方向位置関係に応じて、閉塞前板と第一ノズルコマ、閉塞前板と第二ノズルコマの各組の接触状態/非接触状態を切り替えることで、噴出口周縁からの流体噴出を調節し得るものであり、かつ、後ろコマと軸孔後端の接触状態/非接触状態を切り替えることで、ノズル軸の軸孔からの流体噴出を調節し得る切り替え式流体ノズル。」

[相違点1]
本願発明1においては、「第一ノズルコマ」が「ノズル軸先端に拡径固定され」るとともに、「第二ノズルコマ」が「ノズル軸先端近傍に拡径固定され」るのに対して、引用発明においては、「弁体36」が「吐水管29の先端に突設された吐水口35に外嵌する円筒部36aの先端外周に形成され」るとともに、「可動弁38」が「吐水管29の先端部外周に軸方向移動自在に取り付けられ」るものである点。

[相違点2]
本願発明1においては、「後ろコマ」が「筒状基端を接続口としてノズル基体の後部側に軸方向移動可能に内嵌された内枠と、内枠の枠内から軸中心方向へ張り出す枠体保持アームと、枠体保持アームによって内枠の軸方向前部に中央固定され」るものであるのに対して、引用発明においては、「弁座体45」が「内筒22の内径に対して軸方向に移動可能に嵌合する外径の円筒体47と、この円筒体47の内径よりも小径で円筒体の内側中心部に位置し、その後面が後方に突出する円錐体48と、前記円筒体47と円錐体48を結合する半径方向の複数のステー49を有する」ものであるが、そのような「内枠」及び「枠体保持アーム」により中央固定されるものではない点。

[相違点3]
「後ろコマとノズル軸の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る部材」に関して、本願発明1においては、「内枠のノズル基体に対する軸方向位置によって」、後ろコマとノズル軸の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る「後枠体」であるのに対して、引用発明においては、「弁座体45と吐出管29の軸孔後端とを接触または非接触状態とし得る可動弁38とともに軸方向にスライド移動する伝達部材」である点。

[相違点4]
「後ろコマと軸孔後端の接触状態/非接触状態を切り替えることで、ノズル軸の軸孔からの流体噴出を調節」するのを、本願発明1においては、「ノズル基体と後枠体の軸方向位置関係に応じて」行うのに対して、引用発明においては、「外筒25に形成された切換え弁座43により後方へ押して可動弁38を移動させると、伝達部材44が軸方向後方に移動すること」により行うものである点。

事案に鑑み、まず相違点2について検討する。

[相違点2について]
引用発明における「消火ノズル」は「筒状基端を接続口としてノズル基体の後部側に軸方向移動可能に内嵌された内枠」と、「内枠の枠内から軸中心方向へ張り出す枠体保持アーム」を備えるものではなく、「後ろコマ」(弁座体45)が、「円筒体47」及び「ステー49」によって内筒22に対して中央固定されることについての開示はあるものの、「枠体保持アーム」によって上記「内枠」の軸方向前部に中央固定されることについての開示や示唆をするものではない。
また、「消火ノズル」において、そのような「内枠」及び「枠体保持アーム」を設けることが設計事項であるともいえない。
さらに、上記刊行物2技術も、そのような「内枠」及び「枠体保持アーム」の開示や示唆をするものではない。

そして、本願発明1は、ノズル基体と前枠体の軸方向位置によって、噴出口周縁からの流体噴出を調整することに加えて、「内枠」及び「枠体保持アーム」を設けることにより、内枠のノズル基体に対する軸方向位置によって、ノズル軸の軸孔からの流体噴出を調節することを可能とすることにより、2種類の水流を同時に放出することができるという格別な効果を奏するものである。

したがって、相違点1、3及び4について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明または引用発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

2.本願発明2ないし4について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし4は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし4は、本願発明1と同様の理由で、引用発明または引用発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

第6 原査定について
1.理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし4は、「内枠」及び「枠体保持アーム」(下線は、審判請求時の補正において補正された部分を示す。)という事項を有するものであるから、当業者であっても、原査定の理由において引用された刊行物1及び刊行物2に記載された発明又は技術に基いて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

2.理由2(特許法第36条第6項第2号)について
審判請求時の補正により、請求項1の記載における「保持アーム」が「基体保持アーム」あるいは「枠体保持アーム」と補正され、請求項4の記載における「第一軸コマ」、「第二軸コマ」が「第一ノズルコマ」、「第二ノズルコマ」とそれぞれ補正された。
よって、当該補正により請求項1及び4の記載は明確なものとなったから、原査定の理由2を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも引用発明または引用発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-11 
出願番号 特願2011-239834(P2011-239834)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A62C)
P 1 8・ 121- WY (A62C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田村 耕作飯島 尚郎  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 松下 聡
西山 智宏
発明の名称 切り替え式流体ノズル  
代理人 森田 拓生  

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