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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08B
管理番号 1334212
審判番号 不服2016-11378  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-28 
確定日 2017-11-06 
事件の表示 特願2014- 91109「リグノセルロース系材料及びこれから製造した生成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日出願公開、特開2014-177638〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2006年5月2日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年5月2日(US)米国及び2006年1月19日(US)米国〕を国際出願日とする特願2008-510183号の一部を、平成25年2月12日に特願2013-24462号として新たに特許出願し、その一部をさらに、平成26年4月25日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月26日に手続補正がなされ、
平成27年4月22日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年10月26日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成28年3月24日付けの拒絶査定に対して、平成28年7月28日付けで審判請求と同時に手続補正がなされ、平成29年5月19日付けで上申書の提出がなされたものである。

第2 平成28年7月28日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成28年7月28日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成28年7月28日付け手続補正(以下「第3回目の手続補正」という。)は、
補正前の請求項1における
「クラフト繊維の製造方法であって、
リグノセルロース系クラフトパルプを漂白工程を使用して漂白すること、及び
パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに、または漂白工程の一部として漂白工程の終わりに、酸化剤の存在下に酸性のpH(2.5以下のpHを除く)で触媒を用いてリグノセルロース系クラフトパルプを酸化すること
を含み、
触媒が遷移金属を含み、酸化剤が過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択される、
前記の製造方法。」との記載を、
補正後の請求項1における
「クラフト繊維の製造方法であって、
リグノセルロース系クラフトパルプを漂白工程を使用して漂白すること、及び
パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに、または漂白工程の一部として漂白工程の終わりに、酸化剤の存在下に酸性のpH(3以下のpHを除く)で触媒(ニトロキシドラジカルを除く)を用いてリグノセルロース系クラフトパルプを酸化すること
を含み、
触媒が遷移金属を含み、酸化剤が過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択される、
前記の製造方法。」との記載に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)補正の目的要件
上記請求項1についての補正は、補正前の「酸性のpH(2.5以下のpHを除く)で触媒を用いて」との記載部分を、補正後の「酸性のpH(3以下のpHを除く)で触媒(ニトロキシドラジカルを除く)を用いて」との記載に改めることにより、補正前のpHの範囲と触媒の範囲を限定的に減縮する補正からなるものであって、その補正前後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)新規性及び進歩性
ア.引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開2004-353118号公報(原査定の引用文献4)
刊行物2:特開平8-158248号公報(原査定の引用文献2)
なお、刊行物2は本願優先日時点の技術常識を示すための文献である。

上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1及び5?7
「【請求項1】蒸解処理-酸素脱リグニン処理後の製紙用化学パルプを酸処理する際に、過酸化物および重金属化合物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加することを特徴とする製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法。…
【請求項5】過酸化物が過酸化水素である請求項1記載の除去方法。
【請求項6】オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩が、モリブデン酸化合物またはタングステン酸化合物である請求項1記載の除去方法。
【請求項7】重金属化合物がFe化合物またはCu化合物である請求項1記載の除去方法。」

摘記1b:段落0010及び0013?0014
「【0010】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、製紙用化学パルプの製造で、初段に分子状塩素を用いないECF漂白あるいはTCF漂白において、漂白コストの増大を最小限にとどめ、かつパルプ粘度を維持しながら、パルプ中に残存するHexAを除去する方法を提供することである。…
【0013】【発明の実施の形態】本発明で用いられるパルプは、…より好ましくはクラフトパルプ化法によって得られたパルプである。…また、処理されるパルプは、前処理としてカッパー価20以下になるように公知の酸素脱リグニン処理を行ったものであり、好ましくはカッパー価12以下のものである。
【0014】…酸処理のpH条件は、1.0?4.0、好ましくは2.0?3.5である。」

摘記1c:段落0020及び0023
「【0020】実施例1、2
クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプAに過酸化水素0.2%,モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとしてそれぞれ0.001%または0.003%を過酸化水素→モリブデン酸ソーダ→硫酸鉄の順序で添加し、次いで、パルプスラリーのpHが3となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%、温度70℃の条件で180分処理した。反応終了後、冷水にてパルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%まで脱水して酸処理パルプを得た。…
【0023】比較例3
実施例1において、モリブデン酸ソーダを添加しない以外は同様に行った。」

摘記1d:段落0037?0038
「【0037】実施例12?16
実施例1において、パルプスラリーのpHをそれぞれ0.5、1、2、4、5とする以外は同様に行った。結果を表5に示す。
【0038】【表5】

以上のように、パルプスラリーのpHが1以下では、K価、HexAはより低い値を示すが、パルプ粘度の低下も著しい。一方pH4を越えると、パルプ粘度は保持されるものの、K価、HexAは高い値を示す。」

上記刊行物2には、次の記載がある。
摘記2a:段落0001、0009?0010
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、製紙用化学パルプの脱リグニンおよび漂白方法における改良された方法に関するものである。…
【0009】本発明法においては、蒸解した化学パルプに対し、まず、高温高圧下での酸素漂白処理(以下、OまたはO段と称することがある)を行う。O段におけるパルプ濃度、温度、時間、アルカリ量、酸素量、操作圧力は、酸素脱リグニン(漂白)として一般的に行われている条件に準じて行うことができる。…
【0010】O段処理後のパルプは、洗浄・脱水を行い、次いで触媒存在下にて酸性過酸化物処理(以下、この触媒存在下の酸性過酸化物処理をAp(cat)またはAp(cat)段と称することがある)を行う。」

摘記2b:段落0015?0016及び0022
「【0015】本発明は、Ap(cat)段において反応触媒を使用する点が特徴である。Ap(cat)段に使用する反応触媒としては、IV・V・VI族元素の酸素酸またはその塩、および、IV・V・VI族元素のヘテロポリ酸またはその塩が使用される。代表的な酸素酸またはその塩としては、タングステン、モリブデン、バナジウム、セレン、チタン等の酸素酸またはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニア塩からなる塩類が挙げられ、それらの中の少なくとも一種が使用される。
【0016】…モリブデン酸およびその塩としては、H_(2)MoO_(4)、H_(2)Mo_(2)O_(7)、H_(6)Mo_(7)O_(24)並びにそれらのソーダ塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩等…が挙げられる。…
【0022】本発明のAp(cat)段における反応触媒は、過酸化物が酸性条件でパルプに含まれるリグニンまたは色素を分解または変性させる反応を助長し、後続のアルカリ性媒体中で過酸化物による処理における脱リグニンまたは漂白効果を向上させるという作用を発揮する。」

摘記2c:段落0044及び0055?0056
「【0044】実施例1…Ap(cat)(酸+過酸化物+触媒)
クラフト蒸解後、酸素漂白を行ったL材パルプに硫酸水溶液を添加し、Na_(2)MoO_(4)を0.05%、H_(2)O_(2)を0.5%順に添加し、パルプ濃度10%、pH2.0、温度75℃の条件で60分間処理した。…
【0055】実施例8?10…実施例1のAp(cat)段の反応触媒をNa_(2)WO_(4) 0.05%に、温度を90℃に、処理pHを1.0、2.0または3.0とした以外は実施例1と同様な漂白を行った。
【0056】比較例7?8…実施例8のAp(cat)段の処理pHを5.0または6.0とした以外は実施例8と同様な漂白を行った。」

イ.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘記1aの「蒸解処理-酸素脱リグニン処理後の製紙用化学パルプを酸処理する際に、過酸化物および重金属化合物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加することを特徴とする製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法。」との記載、及び
摘記1bの「本発明の目的は…漂白コストの増大を最小限にとどめ、かつパルプ粘度を維持しながら、パルプ中に残存するHexAを除去する方法を提供することである。…本発明で用いられるパルプは…クラフトパルプ化法によって得られたパルプである。…また、処理されるパルプは、前処理として…公知の酸素脱リグニン処理を行ったもの…である。…酸処理のpH条件は、1.0?4.0…である。」との記載がある。
また、その具体例の記載として、摘記1cの「実施例1…クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプAに過酸化水素0.2%,モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとして…0.001%…を過酸化水素→モリブデン酸ソーダ→硫酸鉄の順序で添加し、次いで、パルプスラリーのpHが3となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%、温度70℃の条件で180分処理した。反応終了後、冷水にてパルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%まで脱水して酸処理パルプを得た。」との記載がある。
さらに、摘記1dの「実施例1」の「パルプスラリーのpH」を「4」とする以外は「同様に行った」という「実施例15」の記載があることからみて、刊行物1には、漂白コストの増大を最小限にとどめる方法として、
『クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプAに、過酸化水素0.2%、モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとして0.001%を添加し、次いで、パルプスラリーのpHが4となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%の条件で180分処理する酸処理パルプの製造方法。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されている。

ウ.対比
補正発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」のうちの「蒸解-酸素脱リグニン後の」という工程は、刊行物2の段落0009(摘記2a)に示される「蒸解した化学パルプに対し、…酸素脱リグニン(漂白)…を行う。」との記載にある「蒸解した化学パルプ」に対する「酸素漂白処理」に対応する工程であって、一般に「漂白」工程として認識されている工程に相当することが理解され、補正発明の「パルプを漂白工程を使用して漂白」する工程に相当する。
また、刊1発明の「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」のうちの「クラフト…L材パルプA」は、本願明細書の段落0013の「リグノセルロース系材料…広葉樹材…クラフトパルプ」との説明にある「リグノセルロース系クラフトパルプ」に相当する。
してみると、刊1発明の「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」は、補正発明の「リグノセルロース系クラフトパルプを漂白工程を使用して漂白すること」に相当する。

刊1発明の「過酸化水素0.2%」は、補正発明の「過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択」される「酸化剤」のうちの「過酸化水素」に合致する。
してみると、刊1発明の「過酸化水素0.2%」は、補正発明の「酸化剤が過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択される」に相当する。

刊1発明の「モリブデン酸ソーダ0.005%」は、刊行物2の段落0015及び0022(摘記2b)に示される「パルプに含まれる…色素を分解…させる反応を助長し、…漂白効果を向上させるという作用を発揮」する「反応触媒」としての『モリブデンの酸素酸のアルカリ金属塩』に対応する遷移金属(モリブデン)を含む触媒であることが理解される。
また、刊1発明の「硫酸鉄をFeとして0.001%」は、本願明細書の段落0015の「遷移金属触媒は…Fe、…Mo、…好ましい金属塩は…硫酸塩」との説明にある『Feの硫酸塩』に対応する遷移金属(鉄)を含む触媒に該当する。
そして、刊1発明の「モリブデン酸ソーダ」というモリブデン(Mo)の金属塩、及び刊1発明の「硫酸鉄」という鉄(Fe)の金属塩は、いずれもニトロキシドラジカルの触媒ではない。
してみると、刊1発明の「モリブデン酸ソーダ0.005%」及び「硫酸鉄をFeとして0.001%」は、補正発明の「触媒(ニトロキシドラジカルを除く)」及び「触媒が遷移金属を含み」に相当する。

刊1発明の「過酸化水素0.2%、モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとして0.001%を添加し、次いで、パルプスラリーのpHが4となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%…で180分処理する」は、その「過酸化水素」を「添加」してから「pHが4」となるようにして「モリブデン酸ソーダ」と「硫酸鉄」の触媒を用いて「パルプ」を「処理」するものであるから、補正発明の「酸化剤の存在下に酸性のpH(3以下のpHを除く)で触媒(ニトロキシドラジカルを除く)を用いてリグノセルロース系クラフトパルプを酸化する」に相当する。

刊1発明の「酸処理パルプの製造方法」は、その「酸処理パルプ」が「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」を酸処理して得られる「パルプ」であって、当該「パルプ」が、本願明細書の段落0038の「実施例1」で最終的に得られた「処理済みパルプ」に対応し、かつ、酸処理されたパルプが同段落0036の「処理済みクラフトパルプ繊維」との記載にあるような「繊維」を含む材料であることが明らかであるから、補正発明の「クラフト繊維の製造方法」に相当する。

してみると、補正発明と刊1発明は、両者とも『クラフト繊維の製造方法であって、
リグノセルロース系クラフトパルプを漂白工程を使用して漂白すること、及び
酸化剤の存在下に酸性のpH(3以下のpHを除く)で触媒(ニトロキシドラジカルを除く)を用いてリグノセルロース系クラフトパルプを酸化すること
を含み、
触媒が遷移金属を含み、酸化剤が過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択される、
前記の製造方法。』に関するものである点において一致し、
酸化が、補正発明においては「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに、または漂白工程の一部として漂白工程の終わりに、」おいて実施されるのに対して、刊1発明においては「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに」又は「漂白工程の一部として漂白工程の終わりに」おいて実施されるものとして明確に特定されていない点において一応相違する。

エ.判断
上記一応の相違点について検討する。
刊1発明の「180分処理する酸処理」は、クラフトパルプを「蒸解-酸素脱リグニン」した漂白済みクラフトパルプに「過酸化水素」と「モリブデン酸ソーダ」と「硫酸鉄」とを添加して「pHが4」の条件で「180分処理」するものであって、本願明細書の段落0038の「実施例1 漂白済みサザンパインクラフトパルプを、パルプ表面に適用した1%の過酸化水素及び0.03%の硫酸第一鉄を用いて、pH4及び温度75℃で1時間処理した。処理済みパルプを次に脱イオン水を用いて洗浄し、紙シートにし、乾燥した。」との記載(註:下線は当審が付した。)にある『漂白済みクラフトパルプ』に「過酸化水素」と「硫酸第一鉄」とを添加して「pH4」の条件で「1時間処理」する具体例と同じ酸処理を行うものである。

また、補正発明の方法は、本願明細書の段落0023の「方法を、連続的にまたは半連続的にバッチ式で行うことができる。本発明の方法をまた、機械、セミケミカル若しくは化学パルプ化方法の終りに方法工程としてパルプ化方法の一部として、または、漂白方法の終りに方法工程として漂白方法の一部として実施することができる。例えば、市販の製紙パルプまたはフラッフパルプをハイドロパルパーまたは同様な装置中で再スラッシュすることによって、方法をまた、市販の製紙パルプまたはフラッフパルプを処理するために使用できる。ハイドロパルパーまたは同様な装置中での処理は、条件を調節するという柔軟性を有する。例えば、処理を酸性pHで開始し、ある適切な時間の後にカセイを加えることによってアルカリ性pHに調節し、反応をより高いpHで続けた。この組み合わせた酸性-アルカリ性処理を使用して、処理済みリグノセルロース系材料におけるカルボキシル対カルボニル基の比を変えることができる。」との記載(註:下線は当審が付した。)にあるように、酸化剤と触媒の存在下で酸化する工程(酸処理工程)をパルプ化工程に続く終盤の段階で行う一連の方法としての「パルプ化方法」の一部として、又は酸処理工程を漂白工程に続く終わりの段階で行う一連の方法としての「漂白方法」の一部として、その方法を実施するものである。

してみると、刊1発明の酸処理が本願明細書の実施例1の具体例と同じ手順でなされていること、並びに刊1発明の「酸処理パルプの製造方法」が、その「パルプ化工程」や「漂白工程」を含む「酸処理パルプの製造方法」という一連の方法の一部として「酸処理」を行い、なおかつ、その終盤において「酸処理」をしていることから、刊1発明の酸処理の手順は、補正発明の「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに、または漂白工程の一部として漂白工程の終わりに…酸化する」に相当する手順でなされているものと認められ、上記一応の相違点について実質的な差異があるとは認められない。

したがって、補正発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

さらに、仮に上記一応の相違点に実質的な差異があるとしても、刊1発明の「pHが4」で「180分処理」する酸処理のタイミングを「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに」又は「漂白工程の一部として漂白工程の終わりに」おいて実施するようにすることは、酸処理のタイミングとして、工程の区切りとの関係で生じる違いにすぎず、当業者にとって適宜なし得る設計事項であって、そのタイミングを「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに」又は「漂白工程の一部として漂白工程の終わりに」おいて実施することによって、格別の効果が得られるとの事情も見当たらない。
したがって、補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

オ.審判請求人の主張について
平成28年9月8日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由(手続補正書の第11頁)において、審判請求人は『引用文献4の特開2004-353118号公報には、「蒸解処理-酸素脱リグニン処理後の製紙用化学パルプを酸処理する際に、過酸化物および重金属化合物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加することを特徴とする製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法。」(公報請求項1)について開示されている。したがって、この引用文献記載の方法は、酸化剤が本発明の方法と明確に異なる。本発明の方法で使用する酸化剤は、「酸化剤が過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択される」と記載されるとおり、これら3種に限定されるから、「オキソ酸塩」または「ポリオキソ酸塩」を必須の酸化剤として使用する引用文献4の方法が本発明と異なることは明白である。』と主張している。
しかしながら、刊1発明の「モリブデン酸ソーダ0.005%」は、刊行物2の段落0015(摘記2b)に記載された「反応触媒」としての『モリブデンの酸素酸のアルカリ金属塩』に対応するオキソ酸塩(酸素酸塩)として普通に知られたものであって、本願明細書の段落0015の「遷移金属触媒は…任意の遷移金属を使用でき…金属の例示は…Mo…である」との記載にあるモリブデン(Mo)を遷移金属として含む触媒に相当することが明らかであるから、上記主張は採用できない。

3.まとめ
以上総括するに、第3回目の手続補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、第3回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定〕の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第3回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?22に係る発明は、平成27年10月26日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
そして、本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)は、上記『第2 1.補正の内容』の項に記載されたとおりのものである。

2.原査定の理由
原査定の理由は『この出願については、平成27年4月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由4,5によって、拒絶をすべきものです。』というものである。
そして、平成27年4月22日付けの拒絶理由通知書には、理由4として「4.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」との理由と、
理由5として「5.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示され、
その「記」には、当該「下記の刊行物」として上記『第2 2.(2)ア.引用刊行物及びその記載事項』の項に刊行物1として示した「特開2004-353118号公報」が「引用文献4」として提示され、その「・引用文献等 4」の「・備考」には「本願請求項1-20、35及び36に係る発明は引用文献4に記載された発明である。」との指摘がなされている。

第4 当審の判断
1.引用文献4及び2並びにその記載事項
引用文献4(特開2004-353118号公報)及び本願優先日当時の技術常識を示すための引用文献2(特開平8-158248号公報)並びにその記載事項は、上記『第2 2.(2)ア.引用刊行物及びその記載事項』の項に示したとおりである。

2.引用文献4に記載された発明
摘記1aの「蒸解処理-酸素脱リグニン処理後の製紙用化学パルプを酸処理する際に、過酸化物および重金属化合物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加することを特徴とする製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法。」との記載、
摘記1bの「本発明の目的は…漂白コストの増大を最小限にとどめ、かつパルプ粘度を維持しながら、パルプ中に残存するHexAを除去する方法を提供することである。…本発明で用いられるパルプは…クラフトパルプ化法によって得られたパルプである。…また、処理されるパルプは、前処理として…公知の酸素脱リグニン処理を行ったもの…である。…酸処理のpH条件は、1.0?4.0…である。」との記載、及び
摘記1cの「実施例1…クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプAに過酸化水素0.2%,モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとして…0.001%…を過酸化水素→モリブデン酸ソーダ→硫酸鉄の順序で添加し、次いで、パルプスラリーのpHが3となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%、温度70℃の条件で180分処理した。反応終了後、冷水にてパルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%まで脱水して酸処理パルプを得た。」との記載(及び「比較例3」の記載)からみて、
刊行物1には、漂白コストの増大を最小限にとどめる方法として、
『クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプAに、過酸化水素0.2%、モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとして0.001%を添加し、次いで、パルプスラリーのpHが3となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%の条件で180分処理する酸処理パルプの製造方法。』についての発明(以下「引4発明」という。)が記載されている。

3.対比
本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)と引4発明とを対比する。

引4発明の「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」のうちの「蒸解-酸素脱リグニン後の」という工程は、刊行物2の段落0009(摘記2a)に示される「蒸解した化学パルプに対し、…酸素脱リグニン(漂白)…を行う。」との記載にある「蒸解した化学パルプ」に対する「酸素漂白処理」に対応する工程であって、一般に「漂白」工程として認識されている工程に相当することが理解され、補正発明の「パルプを漂白工程を使用して漂白」する工程に相当する。
また、引4発明の「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」のうちの「クラフト…L材パルプA」は、本願明細書の段落0013の「リグノセルロース系材料…広葉樹材…クラフトパルプ」との説明にある「リグノセルロース系クラフトパルプ」に相当する。
してみると、引4発明の「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」は、本1発明の「リグノセルロース系クラフトパルプを漂白工程を使用して漂白すること」に相当する。

引4発明の「過酸化水素0.2%」は、本1発明の「過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択」される「酸化剤」のうちの「過酸化水素」に合致する。
してみると、引4発明の「過酸化水素0.2%」は、本1発明の「酸化剤が過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択される」に相当する。

引4発明の「モリブデン酸ソーダ0.005%」は、刊行物2の段落0015及び0022(摘記2b)に示される「パルプに含まれる…色素を分解…させる反応を助長し、…漂白効果を向上させるという作用を発揮」する「反応触媒」としての『モリブデンの酸素酸のアルカリ金属塩』に対応する遷移金属(モリブデン)を含む触媒であることが理解される。
また、引4発明の「硫酸鉄をFeとして0.001%」は、本願明細書の段落0015の「遷移金属触媒は…Fe、…Mo、…好ましい金属塩は…硫酸塩」との説明にある『Feの硫酸塩』に対応する遷移金属(鉄)を含む触媒に該当する。
そして、引4発明の「モリブデン酸ソーダ」というモリブデン(Mo)の金属塩、及び引4発明の「硫酸鉄」という鉄(Fe)の金属塩は、いずれもニトロキシドラジカルの触媒ではない。
してみると、引4発明の「モリブデン酸ソーダ0.005%」及び「硫酸鉄をFeとして0.001%」は、本1発明の「触媒」及び「触媒が遷移金属を含み」に相当する。

引4発明の「過酸化水素0.2%、モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとして0.001%を添加し、次いで、パルプスラリーのpHが3となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%…で180分処理する」は、その「過酸化水素」を「添加」してから「pHが3」となるようにして「モリブデン酸ソーダ」と「硫酸鉄」の触媒を用いて「パルプ」を「処理」するものであるから、本1発明の「酸化剤の存在下に酸性のpH(2.5以下のpHを除く)で触媒を用いてリグノセルロース系クラフトパルプを酸化する」に相当する。

引4発明の「酸処理パルプの製造方法」は、その「酸処理パルプ」が「クラフト蒸解-酸素脱リグニン後のL材パルプA」を酸処理して得られる「パルプ」であって、当該「パルプ」が、本願明細書の段落0038の「実施例1」で最終的に得られた「処理済みパルプ」に対応し、かつ、酸処理されたパルプが同段落0036の「処理済みクラフトパルプ繊維」との記載にあるような「繊維」を含む材料であることが明らかであるから、本1発明の「クラフト繊維の製造方法」に相当する。

してみると、本1発明と引4発明は、両者とも『クラフト繊維の製造方法であって、
リグノセルロース系クラフトパルプを漂白工程を使用して漂白すること、及び
酸化剤の存在下に酸性のpH(2.5以下のpHを除く)で触媒を用いてリグノセルロース系クラフトパルプを酸化すること
を含み、
触媒が遷移金属を含み、酸化剤が過酸化水素、次亜塩素酸塩、次亜塩素酸及びこれらの組合せよりなる群から選択される、
前記の製造方法。』に関するものである点において一致し、
酸化が、本1発明においては「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに、または漂白工程の一部として漂白工程の終わりに、」おいて実施されるのに対して、引4発明においては「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに」又は「漂白工程の一部として漂白工程の終わりに」おいて実施されるものとして明確に特定されていない点において一応相違する。

エ.判断
上記一応の相違点について検討する。
引4発明の「180分処理する酸処理」は、クラフトパルプを「蒸解-酸素脱リグニン」した漂白済みクラフトパルプに「過酸化水素」と「モリブデン酸ソーダ」と「硫酸鉄」とを添加して「pHが3」の条件で「180分処理」するものであって、本願明細書の段落0038の「実施例1 漂白済みサザンパインクラフトパルプを、パルプ表面に適用した1%の過酸化水素及び0.03%の硫酸第一鉄を用いて、pH4及び温度75℃で1時間処理した。処理済みパルプを次に脱イオン水を用いて洗浄し、紙シートにし、乾燥した。」との記載にある『漂白済みクラフトパルプ』に「過酸化水素」と「硫酸第一鉄」とを添加して「pH4」の条件で「1時間処理」する具体例と同じ酸処理を行うものである。

また、本1発明の方法は、本願明細書の段落0023の「本発明の方法をまた、機械、セミケミカル若しくは化学パルプ化方法の終りに方法工程としてパルプ化方法の一部として、または、漂白方法の終りに方法工程として漂白方法の一部として実施することができる。」との記載にあるように、酸化剤と触媒の存在下で酸化する工程(酸処理工程)をパルプ化工程に続く終盤の段階で行う一連の方法としての「パルプ化方法」の一部として、又は酸処理工程を漂白工程に続く終わりの段階で行う一連の方法としての「漂白方法」の一部として、その方法を実施するものである。

してみると、引4発明の酸処理が本願明細書の実施例1の具体例と同じ手順でなされていること、並びに引4発明の「酸処理パルプの製造方法」が、その「パルプ化工程」や「漂白工程」を含む「酸処理パルプの製造方法」という一連の方法の一部として「酸処理」を行い、なおかつ、その終盤において「酸処理」をしていることから、引4発明の酸処理の手順は、本1発明の「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに、または漂白工程の一部として漂白工程の終わりに…酸化する」に相当する手順でなされているものと認められ、上記一応の相違点について実質的な差異があるとは認められない。

したがって、本1発明は、引用文献4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

さらに、仮に上記一応の相違点に実質的な差異があるとしても、引4発明の「pHが3」で「180分処理」する酸処理のタイミングを「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに」又は「漂白工程の一部として漂白工程の終わりに」おいて実施するようにすることは、酸処理のタイミングとして、工程の区切りとの関係で生じる違いにすぎず、当業者にとって適宜なし得る設計事項であって、そのタイミングを「パルプ化工程の一部としてパルプ化工程の終わりに」又は「漂白工程の一部として漂白工程の終わりに」おいて実施することによって、格別の効果が得られるとの事情も見当たらない。
したがって、本1発明は、引用文献4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本1発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、若しくは特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-14 
結審通知日 2017-06-15 
審決日 2017-06-27 
出願番号 特願2014-91109(P2014-91109)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08B)
P 1 8・ 113- Z (C08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿川 寛樹中村 勇介  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 加藤 幹
木村 敏康
発明の名称 リグノセルロース系材料及びこれから製造した生成物  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 野矢 宏彰  
代理人 小林 泰  

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