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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1334272
審判番号 不服2016-16432  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-02 
確定日 2017-11-09 
事件の表示 特願2014- 89715「ガイドワイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-208362〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成26年4月24日の出願であって、平成28年3月1日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月10日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年6月30日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月2日に意見書が提出されたが、同年10月24日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成28年11月2日に当該査定の取消を求めて本件審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、前置審査(特許法162条)において、同年12月7日付けで最後の拒絶の理由が通知され、その後、同年12月16日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年12月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年12月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成28年12月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、同年11月2日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正し、それに関連して明細書について補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1) <補正前>
「【請求項1】
シャフトと、
シャフトの先端部に巻回されてなる外側コイル体と、その外側コイル体の内側に設けられている内側コイル体と、を備えるガイドワイヤであって、
前記外側コイル体は、複数の素線を撚り合わせた第1の撚線が螺旋状に複数本巻回されてなり、
前記内側コイル体は、複数の素線を撚り合わせた第2の撚線が螺旋状に複数本巻回されてなり、
前記外側コイル体は、その外径が縮小するように回転された場合には、前記内側コイル体は、その外径が増大するように構成されていることを特徴とするガイドワイヤ。」

(2) <補正後>
「【請求項1】
シャフトと、
そのシャフトの先端部に巻回された外側コイル体と、その外側コイル体の内側に設けられ、前記シャフトの先端部に巻回された内側コイル体と、を備えるガイドワイヤであって、
前記外側コイル体は、複数の素線を撚り合わせた第1の撚線が螺旋状に複数本巻回されてなり、
前記内側コイル体は、複数の素線を撚り合わせた第2の撚線が螺旋状に複数本巻回されてなり、
前記第1の撚線の巻回方向と前記第2の撚線の巻回方向とは逆方向をなすことを特徴とするガイドワイヤ。」

2 補正の適否
(1) 本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「外側コイル体」及び「内側コイル体」に関する「前記外側コイル体は、その外径が縮小するように回転された場合には、前記内側コイル体は、その外径が増大するように構成されている」という記載を、「第1の撚線」及び「第2の撚線」に関する「前記第1の撚線の巻回方向と前記第2の撚線の巻回方向とは逆方向をなす」という記載に変更するものである。

(2) そこで、この補正に係る事項について、「当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである」(知的財産高等裁判所 平成18年(行ケ)第10563号 審決取消請求事件 平成20年5月30日判決言渡)か否かについて、以下に検討する。

(3) 本願発明には「コイル」や「撚線」等、らせんに関する技術的事項が含まれるため、ここで、らせんの方向に関する技術用語を確認する。

ア まず、「コイル」について、「右巻」とは「右ねじと同じような・・・巻き方向」((財)日本規格協会 JIS工業用語大辞典[第4版]。以下「JIS大辞典」という。)であり、「左巻」とは「左ねじと同じような・・・巻き方向」(JIS大辞典)であり、それぞれ次図(JIS大辞典より引用)に示すように定義されている。


イ 次に、「撚線」について、「Sより」とは「より方向がS字形に一致するより方。右よりともいう。より方向が左ねじの方向のより。」(JIS大辞典)であり、「Zより」とは「より方向がZ字形に一致するより方。左よりともいう。より方向が右ねじ方向のより。」(JIS大辞典)であり、それぞれ次図(JIS大辞典より引用)に示すように定義されている。


(4) 本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。

ア 「特許請求の範囲
【請求項1】
シャフトと、シャフトの先端部に巻回されてなる外側コイル体と、その外側コイル体の内側に設けられている内側コイル体と、を備えるガイドワイヤであって、
前記外側コイル体は、複数の素線を撚り合わせた撚線が螺旋状に複数本巻回されてなり、
その外側コイル体の巻き方向と前記内側コイル体の巻き方向とは逆方向をなすことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記内側コイル体は、複数の素線を撚り合わせた撚線からなることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項2に記載のガイドワイヤであって、
前記内側コイル体は、前記撚線を螺旋状に複数本巻回してなることを特徴とするガイドワイヤ。」

イ 「【0029】図3に示すように、内側コイル体40の巻き方向は、図面上右に向かって反時計回り方向となっている。すなわち、外側コイル体20の巻き方向と内側コイル体40の巻き方向とは逆方向をなす。」

ウ 図3


エ 「【0031】しかしながら、本発明においては、外側コイル体20の巻き方向と内側コイル体40の巻き方向とが逆方向をなすため、外側コイル体20が締め付けられて縮径するように内方へと変形する際には、内側コイル体40は素線41同士の密着が緩められて外径が拡げられる。その結果、双方のコイル体20,40同士が干渉することにより、外側コイル体20の内方への過剰な変形が抑制され、上述したような、隣接する素線21(撚線22)において一方の素線21(撚線22)が他方の素線21(撚線22)に乗り上げるといった不具合を回避することが可能となる。」

オ 「【0037】図7及び図8に示すように、本実施形態のガイドワイヤ200における内側コイル体240は、複数の素線241を撚り合わせた撚線242を螺旋状に複数本(本実施形態では8本)巻回してなる。より詳しくは、図8に示すように、内側コイル体240は、芯線242aと芯線242aの外周を覆うように巻回されてなる6本の側線242bとから構成される撚線242が螺旋状に8本巻回されてなる。」

カ 図7


キ 図8


ク 「【0040】すなわち、仮に、外側コイル体20が締め付けられて縮径するように内方へと変形する際には、上述した第2実施形態の内側コイル体と比較して内側コイル体240の外径が大幅に拡げられるようになる。その結果、双方のコイル体20,240同士がより確実に干渉することにより、外側コイル体20の内方への過剰な変形が抑制され、上述したような、隣接する素線21(撚線22)において一方の素線21(撚線22)が他方の素線21(撚線22)に乗り上げるといった不具合をより確実に回避することが可能となる。」

(5) 前記(4)ア?クによれば、当初明細書等には、外側コイル体(20)の巻き方向と、内側コイル体(40、240)の巻き方向とが逆方向であることが記載されていると認められる。また、図3によれば、外側コイル体(20)は“右巻”であり、内側コイル体(40)は“左巻”であり、外側コイル体(20)を形成する撚線(22)は“Sより”であることがうかがえる。一方、図7、8をみても、内側コイル体(240)を形成する撚線(242)の“より方向”を特定することはできない。

(6) これに対し、本件補正による補正後の請求項1には、「前記第1の撚線の巻回方向と前記第2の撚線の巻回方向とは逆方向をなす」との記載があり、当該記載は、外側コイル体を形成する第1の撚線と、内側コイル体を形成する第2の撚線について、これら撚線の“より方向”が逆方向であることを特定しようとするものであると認められる。
しかしながら、前記(5)に示したとおり、第1の撚線である撚線(22)については“Sより”であることがうかがえるとしても、第2の撚線である撚線(242)については、当初明細書等に基づいて、その“より方向”を特定することはできない。

(7) してみると、当初明細書等では撚線(242)の“より方向”が不明であるところ、本件補正により“Sより”の撚線(22)とは逆方向である、すなわち撚線(242)の“より方向”は“Zより”であることが新たに追加されることとなり、このことは当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項ではないから、本件補正が新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。

(8) また、平成28年12月16日付け意見書において、審判請求人は「4.補正の根拠 (1)『前記第1の撚線の巻回方向と前記第2の撚線の巻回方向とは逆方向をなす点』は、【0040】段落の・・・記載、図7、図8、【0031】段落の・・・記載及び図3に基づく。」旨、主張するが、第2の撚線の巻回方向、すなわち第2の撚線の“より方向”については、前記(5)?(7)に示したとおり、当初明細書等の段落【0031】、【0040】、図3、7、8をみても特定することができないため、前記主張の前提が成立しておらず、当該主張を採用することはできない。

(9) さらに、同意見書において、審判請求人は「4.補正の根拠 (1)・・・一方、第1の撚線22の巻回方向と、第2の撚線242の巻回方向とが同一であるとするならば、本願明細書【0040】段落の『外側コイル体20が締め付けられて縮径するように内方へと変形する際には、上述した第2実施形態の内側コイル体と比較して内側コイル体240の外径が大幅に拡げられるようになる。』現象を呈することはない。」旨、主張するが、当初明細書等から把握できるのは、段落【0040】に記載されている前記現象が、外側コイル体(20)の巻き方向と、内側コイル体(240)の巻き方向とが逆方向であることによって奏される作用効果であって、第1の撚線(22)の“より方向”と、第2の撚線(242)の“より方向”との関係に基づく作用効果ではないから、前記主張の前提が成立しておらず、当該主張も採用することはできない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、前記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記のとおり却下されたところ、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成28年11月2日付けの手続補正書により補正された前記第2 1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「ガイドワイヤ」であると認める。

2 通知された拒絶の理由
(1)理由1(進歩性)及び理由2(明確性)
平成28年12月7日付けの拒絶理由通知で通知した理由は、以下のとおりである。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」

(2)理由2の概要
前記理由2の「下記の点」として、平成28年12月7日付けの拒絶理由通知で指摘した内容は、以下のとおりである。

「●理由2(明確性)について
・請求項 1
請求項1の『外側コイル体』及び『内側コイル体』に関し、請求項1においては、『外側コイル体』と『内側コイル体』との構造的関係は機能的にしか規定されておらず、明細書及び図面の記載並びに医療用ガイドワイヤの技術分野においては部材の技術的意味に応じて他の部材との構造的関係が異なるという出願時の技術常識を考慮しても、『外側コイル体』及び『内側コイル体』の具体的な構造(すなわち、『外側コイル体』及び『内側コイル体』の巻き方向とが逆方向である構造)を理解することができない。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。」

3 当審の判断
(1) 本願発明の具体的構造
前記理由2(明確性)に関連する請求項1の記載は、「前記外側コイル体は、その外径が縮小するように回転された場合には、前記内側コイル体は、その外径が増大するように構成されている」という記載である。
当該記載は、「外側コイル体」と「内側コイル体」の作用効果に基づいて機能的に表現したものであるが、この作用効果については平成28年11月2日付けの手続補正書により補正された明細書の段落【0027】、【0031】、【0036】にも記載されている。
また、この段落【0027】には、当該作用効果を奏するための具体的な解決手段として、外側コイル体の巻き方向と内側コイル体の巻き方向とを逆方向とした構成が挙げられているから、前記請求項1における「前記外側コイル体は、その外径が縮小するように回転された場合には、前記内側コイル体は、その外径が増大するように構成されている」という発明特定事項には、少なくとも外側コイル体の巻き方向と内側コイル体の巻き方向とを逆方向とした構成が含まれるものと解釈することができる。
そこで、この解釈を前提として、前記理由1(進歩性)について以下に検討する。

(2) 刊行物
平成28年12月7日付け拒絶の理由に引用された、本件の出願日前に頒布された刊行物1?4には、それぞれ以下の発明又は技術的事項が記載されていると認められる。

刊行物1:特開2009-337号公報
刊行物2:米国特許出願公開第2011/0060316号明細書
刊行物3:米国特許第4932419号明細書
刊行物4:特開2008-155052号公報

ア 刊行物1
(ア) 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「医療用ガイドワイヤ」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア-1) 「【0001】本発明は、血管、尿管、器官等へのカテーテルの挿入や、血管の動脈瘤形成部への体内留置具の挿入の際にガイドとして用いられる医療用の分野等の用途に好適な医療用ガイドワイヤに関する。」

(ア-2) 「【0003】しかし、従来の医療用ガイドワイヤでは、柔軟性を向上させようとコアシャフトの先端部を細くすると、逆にトルク伝達性が低下し、基端側での操作が先端側へ伝達しにくくなるという問題があった。」

(ア-3) 「【0004】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、十分なトルク伝達性を確保しつつ、先端コイルの柔軟性を向上させることにある。」

(ア-4) 「【0017】〔実施例1の構成〕実施例1の医療用ガイドワイヤ1の構成を、図1及び図2を用いて説明する。図1及び図2において、図示右側が先端側、左側が後端側である(実施例1以降の実施例の図でも、図示右側が先端側、左側が後端側である)。ガイドワイヤ1は、コアシャフト2と、コイルスプリング体3とを備え、コアシャフト2の先端部21をコイルスプリング体内に貫挿し、コアシャフト2とコイルスプリング体3とを固着してなる。」


(ア-5) 「【0019】先端コイル4は、2本の撚線41、42によりコイルスプリング形態に形成されている。すなわち、撚線41と撚線42とを隣接させて螺旋巻きして形成されている。撚線41、42は、それぞれ、7本の線材、すなわち、1本の芯線43と芯線43の周囲に配される6本の側線44を撚合してなり、芯線43はステンレス線であり、側線44は放射線不透過線材(例えば、Pt-Ni線)である。」

(ア-6) 「【0023】〔実施例1の作用効果〕本実施例のガイドワイヤ1では、先端コイル4が、7本の線材を撚合してなる撚線41、42により形成されている。先端コイル4を撚線41、42により形成することにより、単線により同程度の外径に先端コイル4を形成する場合に比べ、先端コイル4の柔軟性を増すことができるとともに、十分なトルク伝達性を確保することができる。このため、血管を傷つけるリスクを低減させることができ、医療処置を安全に行うことができる。また、捩りに対する破断強度も、先端コイル4を撚線41、42により形成した場合の方が、単線により形成した場合よりも大きくなるため、ガイドワイヤ1の安全性が向上する。」

(ア-7) 「【0028】実施例3の医療用ガイドワイヤ1の構成を、図4を用いて説明する。本実施例のガイドワイヤ1は、コアシャフト2と、コイルスプリング体3と、先端コイル4の後端及び基端コイル5の先端の内径よりもわずかに小さい外径の接続コイル6とを備え、接続コイル6に、先端コイル4の後端及び基端コイル5の先端がそれぞれ外装されている。そして、ロー材c、dにより、先端コイル4と基端コイル5と接続コイル6、および、接続コイル6とコアシャフト2とが固着されている。」


(イ) 刊行物1発明
前記記載事項(ア-1)?(ア-7)を、技術常識を踏まえ本願発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。

「コアシャフト(2)と、
コアシャフト(2)の先端部に巻回されてなる先端コイル(4)と、先端コイル(4)の内側に設けられている接続コイル(6)と、を備えるガイドワイヤ(1)であって、
先端コイル(4)は、7本の線材(43、44)を撚り合わせた撚線(41、42)が2本螺旋巻きされてなる、
ガイドワイヤ。」

イ 刊行物2
段落[0001]、[0016]、[0017]、Fig.1、2の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下「刊行物2事項」という。)。

「医療用ガイドワイヤ(100)を外側コイル(112)及び内側コイル(108)により構成し、これら外側コイル(112)及び内側コイル(108)の巻き方向を反対にすることで、医療従事者が医療用ガイドワイヤ(100)を使用する際の正確性及び操縦性を向上させること。」

ウ 刊行物3
請求項1、第1欄第6行?第8行、第1欄第37行?第56行、第2欄第62行?第3欄第18行、Fig.1の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下「刊行物3事項」という。)。

「カテーテルのようなガイドワイヤ装置(10)を外側コイル(18)及び内側コイル(16)により構成し、これら外側コイル(18)及び内側コイル(16)の巻き方向を反対にすることで、ガイドワイヤ装置(10)を使用する際のトルク応答性及び操縦性を向上させること。」

エ 刊行物4
段落【0032】、【0033】、【0036】?【0041】、図4の記載からみて、以下の技術的事項が記載されていると認められる(以下「刊行物4事項」という。)。

「ガイドワイヤ(1)のコイル体(2)を、撚線から成るコイル素線(3)により多条のコイル巻き形態とすることで、破断強度を増大させ、折損を的確に防止すること。」

(3) 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、以下のとおりである。
刊行物1発明の「コアシャフト(2)」は、本願発明の「シャフト」に相当し、以下同様に、「先端コイル(4)」は「外側コイル体」に、「7本の線材(43、44)」は「複数の素線」に、「撚線(41、42)」は「第1の撚線」に、「2本螺旋巻きされ」は「螺旋状に複数本巻回され」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「シャフトと、
シャフトの先端部に巻回されてなる外側コイル体と、その外側コイル体の内側に設けられている内側コイル体と、を備えるガイドワイヤであって、
前記外側コイル体は、複数の素線を撚り合わせた第1の撚線が螺旋状に複数本巻回されてなる、
ガイドワイヤ。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
本願発明では、「前記外側コイル体は、その外径が縮小するように回転された場合には、前記内側コイル体は、その外径が増大する」ように構成されているのに対し、刊行物1発明では、そのように構成されているかどうか、具体的には明らかでない点。

<相違点2>
内側コイル体について、本願発明では、「複数の素線を撚り合わせた第2の撚線が螺旋状に複数本巻回されて」構成されているのに対し、刊行物1発明では、そのように構成されているかどうか、具体的には明らかでない点。

(4) 相違点についての検討
ア 相違点1について
前記(1)において解釈したとおり、「前記外側コイル体は、その外径が縮小するように回転された場合には、前記内側コイル体は、その外径が増大する」という作用効果は、少なくとも外側コイル体の巻き方向と内側コイル体の巻き方向とを逆方向とした構成により奏されるものであるから、前記作用効果を奏するための発明特定事項、つまり、前記構成を当業者が容易に想到し得るかどうかについて、以下に検討する。
ここで、刊行物2事項、刊行物3事項として挙げられるように、当該技術分野において、ガイドワイヤの操縦性等を向上させるため、外側コイル体の巻き方向と内側コイル体の巻き方向とを逆方向とすることは、周知の技術である。
また、刊行物1に「【0002】医療用ガイドワイヤには、一般的に、血管内壁を傷つけないようにするために先端側の柔軟性が要求されるとともに、手元操作が先端側へ伝達しやすくあることが要求されている。」と記載されていることからみれば、刊行物1発明においても、ガイドワイヤの操縦性等を向上させることは、当然に対応すべき課題であるといえる。
してみれば、刊行物1発明において、前記課題に対応し、ガイドワイヤの操縦性等を向上させるため、刊行物1発明の外側コイル体及び内側コイル体について前記周知の技術を適用し、外側コイル体の巻き方向と内側コイル体の巻き方向とを逆方向とした構成により、前記作用効果を奏するものとすること、すなわち、相違点1に係る発明特定事項を充足するものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
刊行物4事項として挙げられるように、強度増大や折損防止のため、コイル体を単線ではなく撚線により構成すること、コイル体を単条ではなく多条の巻き形態とすることは、周知の技術である。
また、前記(2)ア(ア-6)に示したとおり、刊行物1においても、ガイドワイヤの安全性の観点から、単線に対する撚線の優位性、単条に対する多条の優位性が示唆されている。
してみれば、刊行物1発明において、前記示唆に基づき、ガイドワイヤの安全性を高めるべく、コイル体の強度増大や折損防止を目的として、刊行物1発明の内側コイル体について前記周知の技術を適用し、内側コイル体を単線ではなく撚線により構成し、内側コイル体を単条ではなく多条の巻き形態とすることで、内側コイル体を「複数の素線を撚り合わせた第2の撚線が螺旋状に複数本巻回されて」構成すること、すなわち、相違点2に係る発明特定事項を充足するものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(5) 小括
したがって、本願発明は、刊行物1発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-11 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-09-26 
出願番号 特願2014-89715(P2014-89715)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (A61M)
P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 昌司藤田 和英鶴江 陽介家辺 信太郎  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 平瀬 知明
二階堂 恭弘
発明の名称 ガイドワイヤ  

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