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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
管理番号 1334309
異議申立番号 異議2017-700191  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-27 
確定日 2017-09-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5980472号発明「二酸化チタン、二酸化チタンの製造方法、リチウムイオン電池、及びリチウムイオン電池用電極」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5980472号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第5980472号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5980472号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成22年5月14日に特許出願され、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人平居博美(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年4月26日付けで取消理由が通知され、同年7月6日に特許権者から意見書及び訂正請求書の提出があり、同年8月21日に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正事項
請求項1の「0.4≦S/L≦1」を「0.55<S/L≦1」に訂正する。
(請求項1の訂正に伴い、請求項1を引用する請求項2?9も同様に訂正される。)

2 訂正の目的の適否
上記訂正事項は、ブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタンについて、一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において「0.4≦S/L≦1」の範囲から「0.55<S/L≦1」の範囲に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

3 新規事項の有無
(1)本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、発明が解決しようとする課題として、
「【0013】
そこで、本発明の課題は、リチウムイオン電池の電極材料として用いたときに初期放電容量及び初期充放電効率に優れるTiO_(2)(B)、その製造方法、それを用いたリチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用電極を提供することにある。」と記載され、発明の効果として、
「【0024】
本発明によれば、リチウムイオン電池の電極材料として用いたときに優れた初期放電容量及び初期充放電効率を示すTiO_(2)(B)を提供することができる。」と記載され、一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比について、
「【0027】
(平均アスペクト比)
本発明のTiO_(2)(B)は、SEM写真像により測定される一次粒子の長径Lに対する短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、0.37≦S/L≦1の範囲にあり、0.4≦S/L≦1の範囲にあることがより好ましく、0.5≦S/L≦1の範囲にあることが更に好ましい。平均アスペクト比が0.37未満の場合には、リチウムイオン電池用電極の活物質として使用したときに、初期放電容量及び初期充放電効率が低下してしまう。」と記載されており、そして、TiO_(2)(B)の合成例、実施例及び比較例の結果として、以下の【表1】及び【表2】が記載されている。



上記訂正事項により、一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において「0.4≦S/L≦1」から「0.55<S/L≦1」の範囲に訂正されたことにより、上記表1におけるTiO_(2)(B)の合成例1は平均アスペクト比が0.48であるから、合成例1が訂正された上記範囲から外れることになり、その合成例1のTiO_(2)(B)を電極材料として用いたリチウム電池の例である実施例1、4及び5は、訂正された上記範囲のTiO_(2)(B)から作成されたものとはいえないことになるものの、訂正された上記範囲を満たす合成例2及び3のTiO_(2)(B)を電極材料として用いたリチウム電池の例である実施例2及び3において、初期放電容量、初期充放電効率とも、比較例と比較して十分高い値となっており、それらの効果を確認できることには変わりはない。
そして、上記【0027】の記載には、「本発明のTiO_(2)(B)は、SEM写真像により測定される一次粒子の長径Lに対する短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、0.37≦S/L≦1の範囲にあり、0.4≦S/L≦1の範囲にあることがより好ましく、0.5≦S/L≦1の範囲にあることが更に好ましい。」と記載されており、下限値が大きい方が好ましいことも理解できる。
してみれば、一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において「0.55<S/L≦1」の範囲とすることによって、発明が解決しようとする課題が変わるものでもなく、発明の効果に変更や追加があるものでもない。
したがって、上記訂正事項は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

(2)申立人の主張について
上記訂正事項について、申立人は、平成29年年8月21日付け意見書で「S/Lが今回の訂正で変更され、かつ本件明細書の表1、2において、合成例1(平均アスペクト比0.48)およびこれを用いた実施例1、4および5が本件特許発明外となった。その結果、本件明細書の表2で最も高い容量維持率74%の実施例1が本件特許発明外となり、本件特許発明の容量維持率は比較例4レベルにまで低下した。また、本件明細書の表2で最も高い初期充放電効率87.7%の実施例1および実施例5が本件特許発明外となった。つまり上記除くクレームとする訂正により効果の低下が生じている。このことから、除くクレームとする前後で、発明の最大の特徴や効果が変更しており、除くクレームとする訂正は新たな技術的事項を導入するものである。」、「0.55超とする根拠は、本件明細書のどこにも存在しない。」と記載したうえで、上記訂正事項は、「新規事項の追加に該当し、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされた訂正ではない。」旨主張している。
上記主張について検討するに、上記(1)で説示したように、合成例1のTiO_(2)(B)を電極材料として用いたリチウム電池の例である実施例1、4及び5が本件特許発明外となったからといって、発明が解決しようとする課題が変わるものでもなく、発明の効果に変更や追加があるものでもない。そして、下限を「0.4」から「0.55超」とすることにおいても、発明が解決しようとする課題が変わるものでもなく、発明の効果に変更や追加があるものでもない。
してみれば、申立人の主張は、上記訂正事項が、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとの判断を覆すものではない。

(3)小括
したがって、訂正事項は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

4 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

5 一群の請求項について
訂正前の請求項1?9は、上記訂正事項に係る請求項1の記載を請求項2?9がそれぞれ引用しているものであるから一群の請求項であり、上記訂正事項は、この一群の請求項について訂正を請求するものと認められ、これらの訂正は、特許法120条の5第4項に適合する。

6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正を認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?9係る発明(以下「本件訂正発明1」?「本件訂正発明9」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
BET比表面積が6?100m^(2)/gであり、一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において0.55<S/L≦1の範囲にあり、X線回折パターンにおける(401)面のピーク強度に対する(002)面のピーク強度の比(I(002)/I(401))が0.7以上であるブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン。
【請求項2】
SEMで観察される一次粒子の平均長径が1μm以下である請求項1に記載のブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン。
【請求項3】
平均粒子径(メジアン粒子径)が、0.3μm?50μmである請求項1又は請求項2に記載の二酸化チタン。
【請求項4】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の二酸化チタンを含むリチウムイオン電池用電極。
【請求項5】
正極電極と、負極電極と、電解質とを有し、
前記正極電極又は負極電極として、請求項4に記載のリチウムイオン電池用電極を備えるリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記電解質の溶媒としてγ-ブチロラクトンを含む請求項5に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
チタン化合物とナトリウム化合物又はカリウム化合物の混合物を焼成してチタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末を調製する工程と、
前記チタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末を塩酸水溶液に含浸した後、250℃?400℃で焼成する工程と、
を有する請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の二酸化チタンの製造方法。
【請求項8】
前記チタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末のBET比表面積が、3m^(2)/g?50m^(2)/gである請求項7に記載の二酸化チタンの製造方法。
【請求項9】
前記チタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末のBET比表面積が、5m^(2)/g?30m^(2)/gである請求項7又は請求項8に記載の二酸化チタンの製造方法。」

第4 取消理由の概要について
平成29年4月26日付け取消理由通知では、下記の取消理由及び審尋を通知している。なお、本件訂正請求書による訂正前の本件特許の請求項1?9に係る発明を、以下「本件特許発明1」?「本件特許発明9」という。
1 取消理由について
甲1号証:特開2010-55855号公報(以下「甲1」という。)
甲2号証:特開2008-117625号公報(以下「甲2」という。)
(1)特許法第29条第1項第3号について
本件特許発明1?7は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、同項の規定に違反して特許されたものである。

(2)特許法第29条第2項について
本件特許発明8及び9は、甲1に記載された発明及び甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

2 審尋について
(1)本件特許発明1における「(002)面のピーク」、「(401)面のピーク」は、本件特許明細書の「<粉末X線回折>図1に、得られたTiO_(2)(B)の粉末X線回折パターンを示す、TiO_(2)(B)の単一相であることを確認した。また、2θ=29°の(002)面のピーク強度と2θ=30°の(401)面のピーク強度比(I(002)/I(401))は1.3であった。」(【0095】)と記載されているが、一般にTiO_(2)(B)の粉末X線回折パターンにおけるピークは、下記の甲1の摘記(甲1ア)に記載されているように2θが14.2°、15.2°、24.9°、28.6°付近に回折ピークを有するものであり、 通常、TiO_(2)(B)の粉末X線回折パターンにおいては、2θ=30°のピークより、2θ=28.6°のピークの方が強く現れるものである。
してみると、下記の甲1の図面における粉末X線回折パターンは、本件特許発明1で規定する粉末X線回折パターンを満たしていると当審では判断するが、本件特許発明1の(002)面のピークを表す2θ=29°が、一般にピークが現れる28.6°と異なるということであれば、そのことを明確に示した粉末X線回折パターンを提示すると同時に、そのことについて釈明する必要がある。

(2)本件特許発明1の「一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比」、本件特許発明2の「SEMで観察される一次粒子の平均長径」の定義、求め方について、当審では、本件特許出願に添付されている【図2】のSEM像を見ると、凝集粒子を形成している1つ1つの一次粒子が六角板状または円板状粒子のような形状ともいえることから、SEM像における粒子の粒径を求める一般的な方法を考慮して、本件特許発明1においても、そのSEM像における1つ1つの一次粒子の短径(最小直径または最小対角線長)、長径(最大直径または最大対角線長)を測り、それらの比をとって一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表されるアスペクト比としただけのことであると理解しており、そして、本件特許発明1の「平均アスペクト比」は、本件特許明細書に記載されているとおり、300個以上の粒子のアスペクト比をこの方法で求め、その個数平均として算出したものであると理解している。また、「SEMで観察される一次粒子の平均長径」についても、SEM像における1つ1つの一次粒子の長径(最大直径または最大対角線長)を測り、そのSEM像の拡大率により長径を求めただけであると理解しており、そして、本件特許発明2の「平均長径」は、本件特許明細書に記載されているとおり、300個以上の粒子の長径をこの方法で求め、その個数平均として算出したものであると理解している。
上記当審の理解であるSEM像における一般的な粒径の求め方と違いがあるというなら、それを詳細に説明する必要がある。

第5 甲号証の記載事項について
1 甲1について
本件特許に係る出願前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、当審において以下の甲1発明の認定に関連する箇所に下線を付した。
(1)甲1の記載事項
(甲1ア)「【0033】
<TiO_(2)(B)>
本発明における「TiO_(2)(B)」とは、空間群C2/mに属する結晶構造を持つTiO_(2)のことを意味し、TiO_(2)(B)は、層状構造を有するTiO_(2)の一種である。また、β-TiO_(2)と呼ばれることもある。TiO_(2)(B)は、CuKαのX線回折パターンにおいて、14.2°、15.2°、24.9°、28.6°付近に回折ピークを有する。」

(甲1イ)「【0049】
TiO_(2)(B)又はその元素置換体は、異方的な粒子形状を有することが、電極の厚み方向に対する配向性が強いために、本発明の前記効果をより奏することになるために好ましい。ここで、「異方的な粒子形状」とは、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と略記する)で観察して、球状ではなく細長い形状をいい、細長い形状の長い方の長さを短い方の長さで割った値Qが、1.8以上のものをいう。Qは、配向性の点から、好ましくは2.5以上、特に好ましくは4以上である。」

(甲1ウ)「【0052】
[その他の物性]
<BET比表面積>
本発明の電極材のBET比表面積は、特に制限されないが、通常は0.5m^(2)/g以上、好ましくは1m^(2)/g以上、更に好ましくは2m^(2)/g以上、また、通常は300m^(2)/g以下、好ましくは280m^(2)/g以下、更に好ましくは260m^(2)/g以下の範囲である。BET比表面積の値がこの範囲であれば、電池の高速充放電においてリチウムの出し入れが速く、レート特性に優れるので好ましい。」

(甲1エ)【0054】
<体積基準平均粒径>
本発明の電極材の体積基準平均粒径は、特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、更に好ましくは3μm以上、また通常50μm以下、好ましくは40μm以下、更に好ましくは30μm以下である。電極材の体積基準平均粒径がこの範囲を下回ると、粒径が小さすぎるため、電極材粉末間の導電パスや、電極材粉末と後述の導電剤等との間の導電パスが取り難くなり、サイクル特性が悪化する場合もある。一方、この範囲を上回ると、後述の如く塗布により集電体上に電極活物質層を製造する時にむらが生じ易い場合もある。
【0055】
体積基準平均粒径は、測定対象に界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの2体積%水溶液(約1mL)を混合し、イオン交換水を分散媒としてレーザー回折式粒度分布計(例えば、堀場製作所社製「LA-920」)にて、体積基準の平均粒径(メジアン径)を測定した値を用いる。後述の実施例では、この方法により体積基準平均粒径を求めた。
【0056】
<一次粒子の平均粒径>
本発明の電極材の一次粒子の平均粒径は、特に制限されないが、通常は5nm以上、好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上、また、通常は20μm以下、好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下の範囲である。一次粒子の平均粒径の値がこの範囲であれば、電池の高速充放電においてリチウムの出し入れが早く、レート特性に優れるので好ましい。

(甲1オ)「【0098】
本発明の非水電解質二次電池用電極は、TiO_(2)(B)及び/又はその元素置換体を含む電極材を用いた電極であって、以下の要件(イ)及び/又は(ロ)を満たすことを特徴とする。
・・・
【0101】
このような本発明の電極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備えたリチウム二次電池等の非水電解質二次電池における電極(正極と負極を含む)として極めて有用である。」

(甲1カ)「【0131】
[電解質]
電解質としては、電解液や固体電解質等、任意の電解質を用いることができる。・・・【0132】
電解液としては、例えば、非水系溶媒に溶質を溶解したものを用いることができる。・・・
【0133】
非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル化合物;1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;クラウンエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジメチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル;ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の鎖状カーボネート等を用いることができる。」

(甲1キ)「【0144】
実施例1
(チタン錯体水溶液の調製)
金属チタン粉末を、モル比でTi:NH_(3):H_(2)O_(2):H_(2)O=0.03:0.44:1.1:5.8となるよう調整した氷冷したアンモニア、H_(2)O_(2)混合水溶液中に投入し、溶解後、クエン酸を、モル比でTi:クエン酸=1:1となるように添加した。その混合水溶液を80℃で蒸発乾固後、水中に再溶解することでチタン錯体水溶液を得た。
【0145】(前駆体Na_(2)Ti_(3)O_(7)の合成)
上記で得られたチタン錯体水溶液に、前記で添加したクエン酸量の10倍量のクエン酸と、モル比でNa:Ti=2:3になるように炭酸ナトリウムを投入し溶解させ、ホットプレート上で加熱処理を行うことで水分を蒸発させ、ゲル化させ、更に加熱することで炭化させ、黒色粉末を得た。
【0146】
得られた黒色粉末を陶器製るつぼに入れ、電気炉を用いて大気雰囲気下、500℃で焼成した。更に自然放冷した後、再度、乳鉢中で粉砕・混合を行い、電気炉を用いて大気雰囲気下、800℃で焼成を行い、前駆体であるNa_(2)Ti_(3)O_(7)を得た。
【0147】
(イオン交換処理)
上記で合成されたNa_(2)Ti_(3)O_(7)の粉砕物を塩酸水溶液に浸漬し、イオン交換処理を行った。その後、水洗し、得られたスラリーを、保留粒子0.2μmのろ紙を用いて吸引ろ過し、白色の粉末を得た。
【0148】
(焼成処理)
得られたイオン交換した白色の粉末を、乾燥機を用いて100℃で一晩乾燥後、電気炉を用いて大気雰囲気下、300℃で焼成し電極材の粉末を得た。」

(甲1ク)【図面の簡単な説明】として「【図3】実施例1で得られた電極材のX線回折パターンである。」との説明があり、図面として以下のものが添付されている。

この図面から2θの値が29°付近(上記摘記(甲1ア)の記載から28.6°とも想定される)と30℃付近にピークあることが見てとれる。

(2)甲1発明
上記摘記において、TiO_(2)(B)とは、ブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタンの略記であるから、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「BET比表面積が2m^(2)/g以上260m^(2)/g以下であり、SEMで観察した細長い粒子形状の長い方の長さを短い方の長さで割った値Qが、1.8以上であり、X線回折パターンにおいて2θの値が29°付近及び30°付近にピークがあるブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン。」(以下「甲1発明」という。)

2 甲2について
本件特許に係る出願前に頒布された甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「【実施例2】
【0043】
(出発原料Na_(2)Ti_(3)O_(7)多結晶体の製造)
純度99%以上の炭酸ナトリウム(NaCO_(3))粉末と純度99.99%以上の二酸化チタン(TiO_(2))粉末をモル比でNa:Ti=2:3となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、JIS規格白金製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中、高温条件下で加熱した。焼成温度は、800℃で、焼成時間は20時間とした。その後、電気炉中で自然放冷した後、再度、乳鉢中で粉砕・混合を行い、800℃で20時間再焼成を行い、出発原料であるNa_(2)Ti_(3)O_(7)多結晶体を得た。」

(甲2イ)「【0046】
(前駆体H_(2)Ti_(3)O_(7)多結晶体の製造)
上記で合成されたNa_(2)Ti_(3)O_(7)多結晶体の粉砕物を出発原料として、0.5Nの塩酸溶液に浸漬し、室温条件下で5日間保持して、プロトン交換処理を行った。」

(甲2ウ)「【0049】
(TiO_(2)(B)活物質の製造)
次に、得られた前駆体H_(2)Ti_(3)O_(7)多結晶体を、空気中320℃で20時間処理することによって、目的とするTiO_(2)(B)活物質を得た。」

(甲2エ)「【0051】
このようにして得られたTiO_(2)(B)の粒子形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により調べたところ、出発原料であるNa_(2)Ti_(3)O_(7)、前駆体であるH_(2)Ti_(3)O_(7)の形状が保持され、約1ミクロン角の等方的な形状を有する一次粒子から構成されていることが明らかとなった。」

(甲2オ)実施例2で得られた本発明のTiO_(2)(B)活物質のX線粉末回折図形である【図10】として、以下の図面が記載されている。


3 甲3について
本件特許に係る出願前に頒布された甲第3号証(以下「甲3」という。)である国際公開第2008/114667号は、上記取消理由では通知しなかったものであるが、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「[0010]一次粒子の平均粒子径(電子顕微鏡法による50%メジアン径)は、所望の空隙量を有する二次粒子を形成できるのであれば特に制限を受けないが、通常は、1?500nmの範囲が好ましく、1?100nmの範囲であれば更に好ましい。二次粒子を構成する個々の一次粒子の形状も、二次粒子と同様に、球状、多面体状、不定形状等特に制限は無い。一次粒子を構成するチタン酸化物は、本発明では、チタンと酸素の化合物及びその含水物または水和物を包含する化合物であり、例えば、酸化チタン(TiO_(2))のほか、メタチタン酸(TiO(OH)_(2) またはTiO_(2)・H_(2)O)、オルトチタン酸(Ti(OH)_(4) またはTiO_(2)・2H_(2)O)等の含水酸化チタンが挙げられ、これらから選ばれる1種あるいは2種以上を用いることができる。好ましくはその他の元素を含まない。また、結晶性の化合物であっても、非晶質であってもよく、結晶性の場合は、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、ブロンズ型、ホランダイト型、ラムズデライト型等、結晶形にも特に制限を受けない。」

第5 取消理由についての判断
1 取消理由1について
(1)本件訂正発明1について
ア 甲1発明との対比
甲1発明の「BET比表面積が2m^(2)/g以上260m^(2)/g以下」は、本件発明1の「BET比表面積が6?100m^(2)/g」の発明特定事項を満たしている。

してみれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「BET比表面積が6?100m^(2)/gであるブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において、本件訂正発明1では、「0.55<S/L≦1」の範囲にあるのに対し、甲1発明では、「SEMで観察した細長い粒子形状の長い方の長さを短い方の長さで割った値Qが、1.8以上」である点。

(相違点2)
本件訂正発明1は「X線回折パターンにおける(401)面のピーク強度に対する(002)面のピーク強度の比(I_((002))/I_((401)))が0.7以上」であるのに対し、甲1発明は、「X線回折パターンにおいて2θの値が29°付近及び30°付近にピークがある」点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
a 甲1発明の「SEMで観察した細長い粒子形状の長い方の長さを短い方の長さで割った値Qが、1.8以上」は、一次粒子についてのものであり、本件訂正発明1の「長径Lと短径Sの比(S/L)に合わせて計算すると、長径Lと短径Sの比(S/L)は0.55(=1/1.8)以下となり、本件訂正発明1の「一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において0.55<S/L≦1の範囲」の発明特定事項を満たしているとはいえない。

b 申立人の主張について
本件訂正発明1と甲1発明のアスペクト比(S/L)について、申立人は、平成29年年8月21日付け意見書で「甲1発明におけるS/Lは、1/1.8=0.5555…555が正しい数値である。よって、訂正後の0.55<S/Lと甲1発明とは、S/Lと重複する部分を有しており、依然として特許法第29条第1項第3号が解消されていない。」と主張している。
甲1発明の「SEMで観察した細長い粒子形状の長い方の長さを短い方の長さで割った値Qが、1.8以上」について、上記摘記(甲1イ)には、
「【0049】
TiO_(2)(B)又はその元素置換体は、異方的な粒子形状を有することが、電極の厚み方向に対する配向性が強いために、本発明の前記効果をより奏することになるために好ましい。ここで、「異方的な粒子形状」とは、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と略記する)で観察して、球状ではなく細長い形状をいい、細長い形状の長い方の長さを短い方の長さで割った値Qが、1.8以上のものをいう。Qは、配向性の点から、好ましくは2.5以上、特に好ましくは4以上である。」と記載されているとおり、甲1発明のブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタンにおいては、甲1発明の効果を奏するためにQが大きい方がよく、特に4以上であることが好ましいことが記載されている。してみれば、甲1発明の「1.8以上」は、「数字的」には1.8を含むものの、その技術的に表されている事項は、異方的な粒子形状を有する、より細長い形状の粒子であるブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタンであり、さらに、実施例として甲1にQが1.8となるものが記載されているわけでもない。
そして、特許権者が、「0.55<S/L≦1」の範囲に減縮したのは、平成29年4月26日付け取消理由通知で示した「甲1発明の『SEMで観察した細長い粒子形状の長い方の長さを短い方の長さで割った値Qが、1.8以上』は、一次粒子についてのものであり、本件発明1の長径Lと短径Sの比(S/L)に合わせて計算すると、長径Lと短径Sの比(S/L)は0.55(=1/1.8)以下」(当審注:四捨五入して0.56と記載するとQが1.8未満のものも含むことになるから、有効数字3桁目以降は切り捨てた。)に対応するもので、甲1発明と重複しない範囲(すなわち、1/1.8超の範囲)に訂正したといえる。
してみれば、1/1.8=0.5555…555であるから本件訂正発明1の「0.55<S/L」と重複するとの申立人の主張を受け入れ、上記相違点を一致点とすることはできない。

c 小括
よって、上記相違点1は、実質的な相違点である。

(イ)相違点2について
相違点1が実質的な相違点である以上、本件訂正発明1は甲1発明とはいえないところであるが、一応、相違点2につていも検討する。
平成29年4月26日付け取消理由通知で記載した審尋(上記第4の2「審尋について」の(1)参照)に対する同年7月6日付け意見書で、特許権者は「本件発明1の(002)面のピークを表す2θ=29°は、一般にピークが現れる2θ=28.6°と同義である。」述べていることから、甲1発明の「X線回折パターンにおいて2θの値が29°付近及び30°付近」の「ピーク」は、本件訂正発明1の「X線回折パターンにおける(002)面のピークと(401)面のピーク」に対応するものといえ、上記摘記(甲1ク)の図面を参照すると、30°付近のピーク強度に対する29°付近のピークの強度は0.7以上を満たしているといえる。
してみれば、甲1発明の「X線回折パターンにおいて2θの値が29°付近及び30°付近にピークがある」ことは、本件訂正発明1の「X線回折パターンにおける(401)面のピーク強度に対する(002)面のピーク強度の比(I_((002))/I_((401)))が0.7以上」を満たしているといえることから、当該相違点は実質的な相違点とはならない。

ウ 小括
よって、本件訂正発明1は、上記相違点1の点で、甲1に記載された発明とはいえないことから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(2)本件訂正発明2?7について
本件訂正発明1は、甲1に記載された発明とはいえないことから、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2?7も、甲1に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

2 取消理由2について
本件訂正発明8及び9は、本件訂正発明1を間接的に引用する発明であるから、甲1発明とは、少なくとも上記相違点1の点で相違するものである。
上記相違点1の容易性について検討するに、甲1発明は、上記摘記(甲1イ)に記載されているとおり、電極の厚み方向に対する配向性が強めるために、異方的な粒子形状を有する、球状ではなくより細長い形状の粒子であるブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタンを得ることであるから、それをあえて球状あるいは球状に近づける、すなわち「長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において0.55<S/L≦1」の範囲にすることの動機付けがないといわざるを得ない。
してみれば、本件特許発明8及び9は、甲1に記載された発明及び甲2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要について
上記取消理由通知において採用しなかった申立理由としては、以下の申立理由1?4がある。
1 申立理由1
申立理由1は、本件特許発明7は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、同項の規定に違反して特許されたものである。

2 申立理由2
申立理由2は、本件特許発明2は、甲1発明及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

3 申立理由3
申立理由3は、本件特許発明1の「一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比」と本件特許発明2の「SEMで観察される一次粒子の平均長径」の定義が不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、かつ、それらの求め方が、発明の詳細な説明に当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

4 申立理由4
申立理由4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び審査過程での特許権者の主張を考慮すると、本件特許発明1に係る二酸化チタンを得るには、(i)H_(2)Ti_(3)O_(7)を焼成後は粉砕処理を行うこと、特に「ボールミル粉砕」が必要であること;(ii)Na_(2)Ti_(3)O_(7)調製工程での焼成後の解砕を「ビーズミル」でなく「ボールミル」で行う必要があること;(iii)「焼成温度」を適切な範囲にし、適切な段階で「解砕」すること、詳細には、Na_(2)Ti_(3)O_(7)調製工程での焼成温度の上限を800℃とすること;Na_(2)Ti_(3)O_(7)調製工程で3回の焼成と各焼成後の解砕を行うこと;およびH_(2)Ti_(3)O_(7)を焼成して得られたTiO_(2)(B)の解砕を行う必要があること;(iv)H_(2)Ti_(3)O_(7)の焼成温度を適切な範囲とすること(v)H_(2)Ti_(4)O_(9)の焼成時間が3時間では短く、該焼成時間をより長くする必要があること;を規定しなければならないが、本件特許発明7では、これらの条件のうちの何一つ規定されていないことから、本件特許発明7並びにこれを引用する本件特許発明8及び9の製造方法は、サポート要件を満たさず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
1 申立理由1について
申立人は、特許異議申立書28頁17?18行で「本件特許発明7は、依然として甲第2号証(前置報告書における引用文献1)の製造方法と同一である。」と記載しているように、本件特許発明7は「製造方法」の発明であり、その製造方法が甲2に記載されている方法と同じであるから、本件特許発明7は、甲2に記載された発明である主張している。
しかしながら、本件訂正発明7は本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記第5の2の甲2の記載事項を参照するに、甲2には少なくとも本件特許発明1の「BET比表面積が6?100m^(2)/g」であることが記載されておらず、本件訂正発明1のBET比表面積は、上記第2の3(1)で記載した【表1】の合成例における本件特許明細書の製造方法を参照するに、本件特許発明7の製造工程(必須の工程ではあるが、詳細な製造条件については特定していない)を満たしても、必ずしも、本件訂正発明1の二酸化チタンすなわち「BET比表面積が6?100m^(2)/g」となるとはいえない。なお、この点、申立人も上記第6の申立理由4で、本件特許発明7の製造工程を満たしただけでは、本件訂正発明1の二酸化チタンが得られないことを主張している。
してみれば、本件特許発明7は、甲2に記載された発明と、少なくとも「BET比表面積が6?100m^(2)/g」の点で実質的に相違するものである。
よって、本件特許発明7は、甲2に記載された発明とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

2 申立理由2について
本件特許発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であるから、甲1発明とは、少なくとも上記第5の1(1)アで記載した相違点1の点で相違するものであり、相違点1については、上記第5の2で説示したように、甲1発明は、上記摘記(甲1イ)に記載されているとおり、電極の厚み方向に対する配向性が強めるために、異方的な粒子形状を有する、球状ではなくより細長い形状の粒子であるブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタンを得ることであるから、それをあえて球状あるいは球状に近づける、すなわち「長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において0.55<S/L≦1」の範囲にすることの動機付けがないことであり、この点、上記甲3の記載事項に鑑みても、当業者が容易に発明をすることができたものといえないことから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

3 申立理由3について
申立理由3については、平成29年4月26日付け取消理由通知で記載した審尋(上記第4の2「審尋について」の(2)参照)において当審の見解を示し、それに対して同年7月6日付け意見書で、特許権者は「本件発明1における『一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比』の測定方法は、取消理由通知書に記載される理解のとおりである。・・・『厚み方向から観察した』というのは、SEM画像を紙面として捉えた場合に、X軸、Y軸、Z軸(紙面の上面)から観察したことを説明したにすぎない。」と述べており、申立人もこれについて平成29年年8月21日付け意見書で「本件特許発明の『一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比』の測定方法は、審判官殿が取消理由通知書の第11頁で『SEM像における1つ1つの一次粒子の短径(最小直径または最小対角線長)、長径 (最大直径または最大対角線長)を測り、それらの比をとって一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表されるアスペクト比としただけのこと』と述べた通りと解される。」と述べている。
してみれば、本件特許発明1の「一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比」及び本件特許発明2の「SEMで観察される一次粒子の平均長径」とは、SEM像における粒子の粒径を求める一般的な方法を考慮して、そのSEM像における1つ1つの一次粒子の短径(最小直径または最小対角線長)、長径(最大直径または最大対角線長)を測り、それらの比をとって一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表されるアスペクト比とし、そして、「平均アスペクト比」は、本件特許明細書(【0028】等参照)に記載されているとおり、300個以上の粒子のアスペクト比をこの方法で求め、その個数平均として算出したものであり、また、本件特許発明2の「平均長径」は、本件特許明細書(【0031】等参照)に記載されているとおり、300個以上の粒子の長径をこの方法で求め、その個数平均として算出したものである。
よって、本件特許発明1の「一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比」及び本件特許発明2の「SEMで観察される一次粒子の平均長径」の定義が不明確ではいえず、かつ、それらの求め方が不明確とはいえないことから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとも、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないともいえない。

4 申立理由4について
本件訂正発明7は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、その本件特許発明1は、上記上記第2の3(1)で記載した本件特許明細書の【表1】及び【表2】でサポートされており、そして、上記上記第2の3(1)で記載した本件特許明細書に記載されている「そこで、本発明の課題は、リチウムイオン電池の電極材料として用いたときに初期放電容量及び初期充放電効率に優れるTiO_(2)(B)、その製造方法、それを用いたリチウムイオン電池及びリチウムイオン電池用電極を提供することにある。」との課題を解決できると認識できる範囲のものである。
本件訂正発明7は、本件訂正発明1とカテゴリーが違う製造方法の発明としても、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用していることから、本件訂正発明1と同様に、上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえるものであり、本件訂正発明1の二酸化チタンを得ている本件特許明細書の実施例に記載されている全ての製造工程及び製造条件(上記第6の申立理由4の(i)?(v))を特定しなければ、上記課題を解決できると認識できる範囲のものとはならないとはいえない。
よって、本件特許発明7並びにこれを引用する本件特許発明8及び9は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

5 小括
以上のことより、申立理由1?4によっては、本件訂正発明1?9に係る特許を取り消すことはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が6?100m^(2)/gであり、一次粒子の長径Lと短径Sの比(S/L)で表される平均アスペクト比が、SEM写真像において0.55<S/L≦1の範囲にあり、X線回折パターンにおける(401)面のピーク強度に対する(002)面のピーク強度の比(I_((002))/I_((401)))が0.7以上であるブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン。
【請求項2】
SEMで観察される一次粒子の平均長径が1μm以下である請求項1に記載のブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン。
【請求項3】
平均粒子径(メジアン粒子径)が、0.3μm?50μmである請求項1又は請求項2に記載の二酸化チタン。
【請求項4】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の二酸化チタンを含むリチウムイオン電池用電極。
【請求項5】
正極電極と、負極電極と、電解質とを有し、
前記正極電極又は負極電極として、請求項4に記載のリチウムイオン電池用電極を備えるリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記電解質の溶媒としてγ-ブチロラクトンを含む請求項5に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
チタン化合物とナトリウム化合物又はカリウム化合物の混合物を焼成してチタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末を調製する工程と、
前記チタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末を塩酸水溶液に含浸した後、250℃?400℃で焼成する工程と、
を有する請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の二酸化チタンの製造方法。
【請求項8】
前記チタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末のBET比表面積が、3m^(2)/g?50m^(2)/gである請求項7に記載の二酸化チタンの製造方法。
【請求項9】
前記チタン酸ナトリウム粉末又はチタン酸カリウム粉末のBET比表面積が、5m^(2)/g?30m^(2)/gである請求項7又は請求項8に記載の二酸化チタンの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-06 
出願番号 特願2010-112187(P2010-112187)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C01G)
P 1 651・ 121- YAA (C01G)
P 1 651・ 536- YAA (C01G)
P 1 651・ 537- YAA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 壷内 信吾植前 充司  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 三崎 仁
山本 雄一
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5980472号(P5980472)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 二酸化チタン、二酸化チタンの製造方法、リチウムイオン電池、及びリチウムイオン電池用電極  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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