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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1334332
異議申立番号 異議2016-701135  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-13 
確定日 2017-09-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5935792号発明「フェライト系ステンレス鋼」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5935792号の特許請求の範囲を平成29年 6月15日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5935792号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5935792号(以下、「本件特許」という。)は、その出願が、平成25年12月27日にされ、その設定の登録が、平成28年 5月20日にされ、平成28年 6月15日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、本件特許の請求項1?2に係る特許に対して、平成28年12月13日に、特許異議申立人千且和也(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、平成29年 2月21日付けで当審から取消理由が通知され、同年 4月18日受付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年 5月23日付けで当審から訂正拒絶理由が通知され、同年 6月16日受付けで特許権者から意見書及び手続補正書が提出され、これに対して申立人から同年 7月31日受付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年 6月16日受付けの手続補正書によって補正された本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項2に「Ti:0.5%以下、Cu:1.0%以下、Zr:0.6%以下、W:3.0%以下、Co:1.0%以下、REM:0.1%以下、B:0.1%以下のいずれか一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。」と記載されているのを「Ti:0.5%以下、Cu:1.0%以下、Zr:0.6%以下、W:3.0%以下、Co:1.0%以下(Co含有量が0.103%の場合および0.126%の場合を除く)、REM:0.1%以下、B:0.1%以下のいずれか一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件
(1)一群の請求項について
本件訂正請求の対象となる請求項は、訂正事項1に係る本件訂正前の請求項2のみであるところ、本件訂正の前後において、この請求項2を引用する関係にある他の請求項は存在しないから、特許法第120条の5第4項にいう「一群の請求項」はない(請求項2単独ではあるが、形式的に、「請求項〔2〕と表す。)。
よって、本件訂正については、同項の適用はなく、「請求項ごと」の訂正として、特許法第120条の5第3項の要件に適合するものである。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項2に「(Co含有量が0.103%の場合および0.126%の場合を除く)」という発明特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同第126条第5項?第6項に適合する。

(3)独立特許要件について
訂正事項1は、特許異議の申立てがされている本件訂正前の請求項2を訂正するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同第126条第7項に規定する要件の適用はない。

(4)小括
以上によれば、本件訂正の訂正事項1は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同第3項に適合し、かつ、同第9項において準用する特許法第126条第5項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔2〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりであり、また、上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、訂正請求により訂正された請求項2に係る発明(以下、「本件訂正発明2」という。)は、平成29年 6月16日付けの手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりである。これらを明示すると本件発明1?2は、次のとおりである。

【請求項1】
質量%で、C:0.020%以下、Si:0.05?0.50%、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Cr:20.0%超?28.0%、Ni:0.6%以下、Al:0.03?0.15%、N:0.020%以下、O:0.0020%未満、Mo:0.3?1.5%、Nb:0.005?0.60%、V:0.005?0.50%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
25≦Cr+3.3×Mo≦30 (1)
0.10≦Si+Al≦0.50 (2)
0.1≦(4×V)/Nb≦20.0 (3)
式(1)?(3)における元素記号は、それらの元素の含有量を質量%で示したときの数値を意味する。
【請求項2】
Ti:0.5%以下、Cu:1.0%以下、Zr:0.6%以下、W:3.0%以下、Co:1.0%以下(Co含有量が0.103%の場合および0.126%の場合を除く)、REM:0.1%以下、B:0.1%以下のいずれか一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。

第4 申立理由、取消理由の概要
1 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた理由は、特許異議申立書の記載によれば、以下のものであると認められる。
(申立理由1)
本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2?4号証に記載された発明とに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2013-209705号公報
甲第2号証:特開2008-179885号公報
甲第3号証:特開2008-190035号公報
甲第4号証:特開2002-285288号公報

2 取消理由の概要
平成29年 2月21日付けの取消理由通知書において、本件訂正前の請求項2に係る特許に対して、当審より特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(取消理由1)
本件訂正前の請求項2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物(当審注:前記甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

第5 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証について
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(1-ア) 「【0026】
Si:0.30%超0.80%以下
Siは脱酸に有用な元素であり、溶接によって形成されるテンパーカラーに濃縮して酸化皮膜の保護性を向上させ、溶接部の耐食性を良好なものとする元素である。その効果は0.30%超の含有で得られる。しかし、Si量が0.80%を超えると、加工性の低下が顕著となり、成型加工が困難となる。よって、Si量は0.30%超0.80%以下の範囲とする。好ましくは、0.33%?0.50%の範囲である。」

(1-イ) 「【0030】
Cr:20.0%超28.0%以下
Crはステンレス鋼の耐食性を確保するために最も重要な元素である。20.0%以下では溶接による酸化で表層のCrが減少する溶接ビードやその周辺において十分な耐食性が得られない。一方、28.0%を超えると、加工性、製造性が低下するため、Cr量は20.0%超28.0%以下の範囲とする。好ましくは、21.0?26.0%の範囲である。

(1-ウ) 「【0032】
Mo:0.2?3.0%
Moは不動態皮膜の再不動態化を促進し、ステンレス鋼の耐食性を向上する元素である。Crとともに含有することによってその効果はより顕著となる。Moによる耐食性向上効果は0.2%以上の含有で得られる。しかし、3.0%を超えると強度が増加し、圧延負荷が大きくなるため製造性が低下する。よって、Mo量は0.2?3.0%の範囲とする。好ましくは、0.6?2.4%の範囲である。
【0033】
Al:0.02?1.2%
Alは脱酸に有用な元素であり、本発明では、AlNを形成してTiNの粗大化を抑制し、良好な低温靭性を得るために必要な元素である。この効果は、Alの含有量が0.02%以上で得られる。しかし、1.2%を超えるとフェライト結晶粒径が増大し、溶接部の低温靭性が低下する。よって、Al量は0.02?1.2%の範囲とする。好ましくは、0.05?0.8%の範囲である。
【0034】
Ti:0.05?0.35%
TiはC、Nと優先的に結合してCr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素であり、SUS316Lとの溶接部において必要な耐食性を得るために必要な元素である。また、本発明では、溶接部に析出したTi(C、N)が結晶粒の粗大化を抑制し、溶接部の低温靭性を向上させる効果もある。その効果は、含有量が0.05%以上で得られる。しかし、0.35%を超えると溶接ビードに粗大なTiNが析出し、溶接部の低温靭性が低下する。よって、Ti量は0.05?0.35%の範囲とした。好ましくは、0.08?0.28%の範囲である。」

(1-エ) 「【0036】
Co:0.001?0.3%
Coは溶接部の低温靭性を向上させる重要な元素である。その効果は0.001%以上の含有で得られるが、0.3%を超えると製造性を低下させる。よってCo量は0.001?0.3%の範囲とする。好ましくは、0.01?0.25%の範囲である。」

(1-オ) 「【0039】
Nb:0.01%以上、Nb≦Ti
Nbは、C、Nと優先的に結合してCr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制し、SUS316LとのTIG溶接部の耐食性を向上させる元素である。その効果は0.01%以上の含有で得られる。加えて、本発明では、Nb>TiとなるNbが含有されると、溶接ビード中に結晶粒の粗大化を抑制するTi(C、N)が形成されにくくなるため、結晶粒が粗大化し、溶接部の低温靭性が低下することが明らかとなった。よって、Nb量は0.01%以上、Nb≦Tiとすることが好ましい。より好ましくは、Nb量は0.03%以上、Nb≦Tiとする。
【0040】
Cu:0.1%未満
Cuは本発明のCr含有量、Mo含有量を有する耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼では不動態維持電流を増加させて不動態皮膜を不安定とし、耐食性を低下させる作用がある。そのため、Cu含有する場合は、Cu量は0.1%未満とすることが好ましい。」

(1-カ) 「【0054】
【表1】



(2)甲第2号証について
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様。)
(2-ア) 「【0020】
Si:0.15?0.60%
Siは、溶接部の耐食性を高めるのに有効なだけでなく、フェライト-オーステナイト二相域でオーステナイト中にCを濃縮させる働きがある。しかしながら、含有量0.15%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.60%を超えると鋼の硬質化を招くので、Siは0.15?0.60%の範囲に限定した。好ましくは0.2?0.4%の範囲である。

(2-イ) 「【0022】
Al:0.010%以下
Alは、本発明において最も重要な元素の一つである。Alが0.010%を超えて含有されると、溶接金属のフェライト分率を高め、オーステナイト系ステンレス鋼との異材溶接部の耐食性が劣化する。このため、本発明では、Alは0.010%以下に限定した。
【0023】
Cr:20.5?22.5%
Crは、本発明において、最も重要な元素の一つである。Crは、耐食性を向上させる元素であり、フェライト系ステンレス鋼では不可欠の元素である。SUS304相当の耐食性を得るためには、20.5%以上のCrを含有させる必要があるが、22.5%を超えて含有させると、溶接金属のフェライト分率を高めて、溶接金属の耐食性を劣化させる。このため、Crは20.5?22.5%の範囲に限定した。」

(2-ウ) 「【0026】
Nb:0.30?0.70%
Nbは、本発明において、最も重要な元素の一つである。Nbは、Crよりも優先的に炭窒化物を形成する。従って、オーステナイト系ステンレス鋼との異材溶接時、溶接熱影響部および溶接金属においてCr炭窒化物が析出するのを防いで粒界腐食を抑制する。この効果を得るには0.30%以上含有させる必要があるが、0.70%を超えると逆に耐食性を低下させる。よって、本発明では、Nbは0.30?0.70%の範囲に限定した。好ましくは0.35?0.50%の範囲である。
なお、Nbと同様に、CとNを固定する元素であるTiは、溶接時、溶接熱影響部および溶接金属においてCとNを固定する能力が、同一化学当量で比較した場合、Nbより著しく劣り、オーステナイト系ステンレス鋼との溶接時、Cr炭窒化物が析出するのを防いで粒界腐食を抑制することが困難である。従って、本発明では、Tiは0.01%以下に抑制することが望ましい。」

(2-エ) 「【0030】
・・・
V:1.00%以下
Vは、Nbと同様に炭窒化物を形成し、CとNを固定する元素であるが、Nbと比べてその効果は小さい。しかしながら、Vは、表面性状を劣化させるおそれがなく、また、1.00%以下の範囲であれば機械的性質への影響も小さいので、本発明では、1.00%以下の範囲で含有できるものとした。」

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3-ア) 「【0015】
Si:0.30?1.00%
Siは、溶接部の耐食性に有効な元素であり、本発明において重要な元素である。特に、溶接時に熱影響部で酸化されて緻密な皮膜(Si酸化物)を作った場合は、母材の耐食性の劣化を食い止める働きがある。例えば、温水器用缶体素材として本発明のフェライト系ステンレス鋼板を用いた場合、残留塩素が存在する溶液中では、0.30%以上添加することで緻密な皮膜が生成し、かつ、Crの酸化を最小限にし、酸化被膜とその直下の地鉄Cr濃度の低下を防ぎ、母材の耐食性の劣化を食い止める働きを生じ、溶接部の酸化皮膜での効果が得られる。よって、Siは0.30%以上、好ましくは0.40%以上とする。一方、Siは熱延板および冷延板の酸洗性を劣化させ生産性を低下させる。また、添加しすぎると材質が硬くなり、加工性が劣化する。よって、上限は1.00%とする。好ましくは、上限は0.80%である。」

(3-イ) 「【0019】
Cr:20.0?28.0%
上述したように、温水器缶体を製造する場合、溶接部表面に酸化皮膜がなるべく形成されないような条件で溶接を行うことが好ましい。しかし、前述の通り、実際の工程では、溶接部の表面や裏面のガスシールドは十分でなく、空気中の酸素がわずかに混入し、溶接部の表面のビードや裏面のビードなどにテンパーカラーと呼ばれる酸化皮膜が生成する。この酸化皮膜は、母材のCrを消費し、酸化皮膜と酸化皮膜直下の母材のCr濃度を下げ、耐食性を悪化させる主因になる。特に、1000℃以上で生成する酸化皮膜にはCrが選択的に多量に含まれ、母材Cr濃度が低いとMo量を高くしてもこの温度域での耐食性は極端に劣化する。特に1000℃超え域でのCr量が20.0%以下となると、Moやその他の元素の添加量にかかわらず、溶接部の耐食性は不安定となり、特に隙間部などでは孔食の原因となる。よって、Crの下限値は20.0%以上とする。一方、28.0%を超えて含有すると、加工性が顕著に低下する。以上より、Crは20.0%以上28.0%以下とする。好ましくは、22.0%超え25.5%以下である。」

(3-ウ) 「【0021】
Al:0.03?0.15%
AlもSiと同じく、800℃未満での生成する酸化被膜に関して、本発明において、重要な元素である。Alを0.03%以上含有させることで耐食性を向上させる。一方、Alは熱延板、および冷延板の酸化皮膜直下に酸化物を形成し、酸化皮膜を強固にするため、酸洗を困難にし、生産性を低下させる。よって、本発明ではAlは0.03%以上0.15%以下とする。好ましくは、0.06%以上0.12%以下である。」

(3-エ) 「【0024】
Mo:0.3?1.5%
Moは、耐食性を顕著に向上させる元素である。このような効果は0.3%以上の含有で顕著となる。一方、1.5%を超えて含有すると、本発明のCrの濃度範囲内では靭性が顕著に低下し、また、冷延板での加工性も劣化する。よって、0.3%以上1.5%以下とする。好ましくは、0.7%以上1.2%以下である。
【0025】
Nb:0.25?0.60%
Nbは、Crよりも優先的に炭窒化物を形成する。従って、熱延後にCr炭窒化物が形成されるのを防ぎ、靭性の劣化を抑制できる。よって、Nbは、0.25%以上添加する。一方、0.60%を超えると逆に熱延板の靭性は劣化し、また溶接部での耐食性を低下させる。よって、Nbは0.25%以上0.60%以下とする。好ましくは、0.30%以上0.50%以下である。」

(3-オ) 「【0027】
さらに、本発明では溶接部の耐食性を向上させるため以下の式(1)、及び式(2)の関係も併せて満足する必要がある。
25≦Cr+3.3Mo≦30・・・・(1)
0.35≦Si+Al≦0.85・・・・・(2)
上記式(1)の下限は、温水中の残留塩素濃度が高い場合でも、母材部及び溶接部の耐食性を得るために必要な条件である。一方、母材の耐食性と溶接の酸化皮膜の生成によって劣化した溶接部の耐食性の差が大きくなると、溶解が優先的に酸化皮膜が生成した部分で起るようになり、かえって隙間腐食などを助長するようになる。そのため、上記式(1)において、上限は30とする。好ましくは、26?29である。
上記式(2)は、溶接部の耐食性を得るために必要な条件である。SiとAlが共存する場合、Si酸化物およびAl酸化物が十分な保護性皮膜になり、耐食性劣化を抑制する。この効果を十分に得るためには上記式(2)において、Si+Alは0.35以上必要である。本発明者らが、詳細に調査検討した結果、Si、Alといった元素は酸化皮膜生成時に酸化皮膜直下に濃化することにより、耐食性の劣化を妨げることを知見した。また、上記式(2)の上限を超えてしまうと、Siおよび/またはAlが互いに成長しすぎてかえって、緻密な保護皮膜(ピンホールの無い皮膜)にならなくなる。よって、上記式(2)において、上限は0.85とする。好ましくは、0.40?0.75である。」

(3-カ) 「【0031】
V:0.005?0.50%(好適元素)
Vは耐食性を向上させる元素である。母材の耐食性を向上させることで、間接的に溶接部の耐食性を向上させることができる。加えて、Nbと共存することにより耐酸化性を向上させる元素であることが明らかとなった。その機構についてはあまりよくわかっていないが、1100℃以上の温度で酸化試験を行うと、酸化皮膜の直下の鋼板表面にNbとVが共存して酸化物を形成することが確認された。NbとVが鋼板表面に共存して酸化物を形成することで、よりいっそう鋼板から外部に向かうFeやCrの拡散を抑制し、鋼板の酸化量を低減していると考えられる。この効果によって、溶接直後の酸化皮膜の生成の時に、1100℃以上の高温域においても鋼板中のFeやCrの酸化を抑制し、脱Cr層の形成を防止するとともに、酸化皮膜の直下にAlやSiといった酸化皮膜を強固にする元素による緻密な酸化皮膜の形成を促進して、溶接部の耐食性を向上させると考えられる。母材の耐食性向上効果、および、酸化皮膜の強化の効果を得るためには、Vは添加する場合は0.005%以上が必要である。しかし、過剰の添加を行うと、熱間圧延時に潤滑剤として作用する酸化皮膜の生成を抑制し、鋼帯と圧延ロールとの金属接触により、数mm程度の大きさの凹凸が多数形成される表面欠陥が発生する。この表面欠陥は溶接部および母材の耐食性を劣化させる。表面性状を良好とするためには、Vは0.50%以下とする必要がある。よって、本発明では、添加する場合は、Vは0.005%以上0.50%以下とする。好ましくは、0.01%以上0.20%以下である。」

(3-キ)「【0038】
【表1】



(4)甲第4号証について
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4-ア) 「【0028】
Si:1.0%以下
Siは、1.0%を超えて含有させると鋼の加工性が低下する。したがって、その含有量は、1.0%以下とする。Si含有量の下限は特に限定しないが、Siは脱酸および耐孔食性向上に有効な元素であり、これらの効果を発揮させるため0.05%以上含有させるのが好ましい。」

(4-イ) 「【0033】
Cr:12?16%
鋼の耐食性を確保するために、Crは12%以上含有させることが必要であり、Cr含有量が増加するほど耐食性は良好となる。しかし、Cr含有量が増加するにともない、溶接熱影響部に適量のマルテンサイト相を析出させて溶接部の強度低下を補うために必要なNi、Cu等の含有量が増加し、コストアップの要因になる。したがって、Cr含有量は、12?16%とする。望ましくは12?15%、より望ましくは13?15%である。」

(4-ウ) 「【0042】
Mo:0.2?1.5%
Moは、鋼の強度および耐食性を高める作用効果を有しており、この効果を得るためには、0.2%以上含有させることが必要である。一方、過剰に添加すると加工性の劣化を招く。したがって、Moを添加する場合、その含有量は、0.2?1.5%とする。
【0043】
Nb:0.005?0.1%
Nbは、鋼の強度と、耐食性、特に溶接部の耐食性を高める作用効果を有する元素で、この効果を得るためには、0.005%以上含有させることが必要である。しかし、過剰の添加はコストの増加を招くので、Nbを添加する場合、その含有量は、0.005?0.1%とする。
【0044】
V:0.05?0.5%
Vは、Nbと同様に、鋼の強度と、耐食性、特に溶接部の耐食性を高める作用効果を有する。この効果を得るためには、0.05%以上含有させることが必要である。一方、過剰に添加すると靱性の劣化を招く。したがって、Vを添加する場合、その含有量は、0.05?0.5%とする。
【0045】
Al:0.001?0.1%、Mg:0.0001?0.003%、Ca:0.0001?0.003%
Al、MgおよびCaはいずれも脱酸に有効な元素であり、その効果を得るためには、Alについては0.001%以上、MgおよびCaについてはいずれも0.0001%以上含有させることが必要である。一方、これらの元素を過剰に添加すると、鋼の靱性が劣化する。したがって、これらの元素を添加する場合、その含有量は、Alについては0.001?0.1%、Mgについては0.0001?0.003%、Caについては0.0001?0.003%とする。」

第6 当審の判断
1 申立理由及び取消理由について
申立理由及び取消理由の概要は、前記第4のとおりであるから、申立理由1(取消理由1を包含する)について検討する。

2 申立理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、摘記(1-カ)の【表1】No.6およびNo.16によれば、以下の甲1発明および甲2発明が記載されている。

<甲1発明>
「質量%で、C:0.004%、Si:0.37%、Mn:0.14%、P:0.017%、S:0.001%、Cr:23.2%、Ni:0.09%、Al:0.12%、N:0.010%、Mo:0.64%、Nb:0.04%、V:0.10%、Ti:0.25%、Cu:0.02%およびCo:0.103%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。」

<甲2発明>
「質量%で、C:0.006%、Si:0.38%、Mn:0.12%、P:0.017%、S:0.001%、Cr:22.8%、Ni:0.08%、Al:0.08%、N:0.010%、Mo:1.04%、Nb:0.39%、V:0.10%、Ti:0.09%およびCo:0.126%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。」

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
両者は、
「質量%で、C:0.004%、Si:0.37%、Mn:0.14%、P:0.017%、S:0.001%、Cr:23.2%、Ni:0.09%、Al:0.12%、N:0.010%、Mo:0.64%、Nb:0.04%、V:0.10%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件発明1では、「O:0.002%未満」とするのに対し、甲1発明では、酸素の含有量が明らかではない点。

相違点1-2:本件発明1では、Ti、Cu、Coの含有について特定されていない、すなわち、これらの元素は含まないものであるのに対し、甲1発明では、「Ti:0.25%、Cu:0.02%およびCo:0.103%」含有する点。

相違点1-3:本件発明1では、「下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
25≦Cr+3.3×Mo≦30 (1)
0.10≦Si+Al≦0.50 (2)
0.1≦(4×V)/Nb≦20.0 (3)
式(1)?(3)における元素記号は、それらの元素の含有量を質量%で示したときの数値を意味する。」と、CrとMoの合計含有量、SiとAlの合計含有量、VとNbの含有量比について、式(1)?(3)として、特定するのに対し、甲1発明では、Cr、Mo、Si、Al、V、Nbの含有量を、式(1)?(3)に適用すると、Cr+3.3×Mo=25.3、Si+Al=0.49、(4×V)/Nb=10.0となり、式(1)?(3)を満足するものの、式(1)?(3)のような関係式としては特定されていない点。

イ そこで、これらの相違点について、相違点1-1から検討する。

ウ 相違点1-1について
甲1発明において、Cが0.004%、Sが0.001%といった、小数点以下3桁レベルの百分率でCやSの存在が確認されていることからすると、甲1発明として含有成分として明記されていないOはこれらの含有量よりさらに少なく存在するかまたは含まれていないものと認められる。
そうすると、甲1発明は酸素含有量について、小数点3桁より少ない0.0009%以下であり、「O:0.002%未満」となるため、相違点1-1は実質的な相違点とはいえない。

エ 相違点1-2について
第5(1)の(1-ウ)?(1-オ)によれば、「TiはC、Nと優先的に結合してCr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素であり、SUS316Lとの溶接部において必要な耐食性を得るために必要な元素である。」、「Coは溶接部の低温靭性を向上させる重要な元素である。」、「Cuは本発明のCr含有量、Mo含有量を有する耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼では不動態維持電流を増加させて不動態皮膜を不安定とし、耐食性を低下させる作用がある。」ことから、甲1発明において、フェライト系ステンレス鋼の各種特性を発揮させる必要または重要な元素であるTi、Co、Cuを含有させないものにする動機付けは存在しない。また、甲第2?4号証にも、甲1発明におけるTi、Co、Cuをあえて除く観点の記載については、存在しない。

オ 相違点1-3について
第5の(2)(2-ア)?(2-ウ)、(3)(3?ア)?(3-キ)、(4)(4-ア)?(4-ウ)には、それぞれ、フェライト系ステンレス鋼におけるCr、Mo、Si、Al、V、Nbの配合について記載されている。しかしながら、相違点1-3に係る式(3)のようなVとNbとの含有量比を規定することはおろか、VとNbの含有量比を調整することに関する記載も存在しない。また、出願時のフェライト系ステンレス鋼に関する技術分野において、VとNbとの含有量比を調整し、本件発明1に規定されるような式(3)の含有量比とすることについて、当業者が適宜なし得る事項であったともいえない。
さらに、第5(3)の(3-オ)によれば、甲第3号証には、フェライト系ステンレス鋼の温水中の残留塩素濃度が高い場合でも、母材部及び溶接部の耐食性を得るために必要な条件として、CrとMoの合計含有量に関する「25≦Cr+3.3Mo≦30・・・・(1)」と、溶接部の耐食性を得るために必要な条件として、SiとAlの合計含有量に関する「0.35≦Si+Al≦0.85・・・・・(2)」が記載されているものの、同(3?キ)に示されているように、甲第3号証に記載された発明の解決しようとする課題である、塩素濃度が増加しても溶接部の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼を具体的に示す実施例1、3、5?6、8?11、15、17において、SiとAlの合計含有量についてが、0.52?0.77である態様が多数示されていることから、上記記載されるSiとAlの合計配合量に関する範囲の上限値「0.85」を小さくし、本件発明1の式(2)の上限値のように「0.50」とする動機付けは存在しない。

カ してみると、本件発明1は、甲1発明と対比して、実質的な相違点1-2及び相違点1-3を有するから、甲第1号証に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。また、甲第2号証?甲第4号証に記載された事項を併せてみても、甲1発明において、相違点1-2および相違点1-3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえないから、甲1発明と甲第1号証?甲第4号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

キ 本件発明1と甲2発明とを対比する
両者は、
「質量%で、C:0.006%、Si:0.38%、Mn:0.12%、P:0.017%、S:0.001%、Cr:22.8%、Ni:0.08%、Al:0.08%、N:0.010%、Mo:1.04%、Nb:0.39%、V:0.10%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-4:本件発明1では、「O:0.002%未満」とするのに対し、甲2発明では、酸素の含有量が明らかではない点。

相違点1-5:本件発明1では、Ti、Cu、Coの含有について特定されていない、すなわち、これらの元素は含まないものであるのに対し、甲2発明では、「Ti:0.09%およびCo:0.126%」含有する点。

相違点1-6:本件発明1では、「下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
25≦Cr+3.3×Mo≦30 (1)
0.10≦Si+Al≦0.50 (2)
0.1≦(4×V)/Nb≦20.0 (3)
式(1)?(3)における元素記号は、それらの元素の含有量を質量%で示したときの数値を意味する。」と、CrとMoの合計含有量、SiとAlの合計含有量、VとNbの含有量比について、式(1)?(3)として、特定するのに対し、甲2発明では、Cr、Mo、Si、Al、V、Nbの含有量を、式(1)?(3)に適用すると、「Cr+3.3×Mo=26.2、Si+Al=0.46、(4×V)/Nb=1.0」となり、式(1)?(3)は満足するものの、式(1)?(3)のような関係式としては特定されていない点。

ク 上記相違点1-4?1-6について検討するに、上記イ?オで検討したのと同様に、相違点1-4については、実質的な相違点ではないものの、相違点1-5については、甲2発明に動機付けが存在せず、甲第2?4号証には、Ti、Coを除く観点の記載が存在しないこと、そして、相違点1-6については、本件発明1の式(3)のようなVとNbとの含有量比とすることは当業者が適宜なし得る事項ではないし、甲第3号証の記載をもってSiとAlの合計配合量の範囲に関する上限値を本件発明1の式(2)に規定される「0.50」とする動機付けは存在しない。

ケ してみると、本件発明1は、甲2発明と対比して、実質的な相違点1-5及び相違点1-6を有するから、甲第1号証に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。また、甲第2号証?甲第4号証に記載された事項を併せてみても、甲2発明において、相違点1-5および相違点1-6に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえないから、甲2発明と甲第1号証?甲第4号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

(2-2)本件訂正発明2について
コ 本件訂正発明2と甲1発明とを対比する。
両者は、
「質量%で、C:0.004%、Si:0.37%、Mn:0.14%、P:0.017%、S:0.001%、Cr:23.2%、Ni:0.09%、Al:0.12%、N:0.010%、Mo:0.64%、Nb:0.04%、V:0.10%、Ti:0.25%、Cu:0.02%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:本件訂正発明2では、「O:0.002%未満」とするのに対し、甲1発明では、酸素の含有量が明らかではない点。

相違点2-2:本件訂正発明2では、Coの含有量について「Co:1.0%以下(Co含有量が0.103%の場合および0.126%の場合を除く)」であるのに対し、甲1発明では、Coの含有量が0.103%である点。

相違点2-3:本件訂正発明2では、「下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
25≦Cr+3.3×Mo≦30 (1)
0.10≦Si+Al≦0.50 (2)
0.1≦(4×V)/Nb≦20.0 (3)
式(1)?(3)における元素記号は、それらの元素の含有量を質量%で示したときの数値を意味する。」と、CrとMoの合計含有量、SiとAlの合計含有量、VとNbの含有量比について、式(1)?(3)として、特定するのに対し、甲1発明では、Cr、Mo、Si、Al、V、Nbの含有量を、式(1)?(3)に適用すると、Cr+3.3×Mo=25.3、Si+Al=0.49、(4×V)/Nb=10.0となり、式(1)?(3)を満足するものの、式(1)?(3)のような関係式としては特定されていない点。

サ まず、上記2-3について検討すると、上記オで検討したのと同様に、甲1発明において本件訂正発明2の式(3)のようなVとNbとの含有量比とすることは当業者が適宜なし得る事項ではないし、甲第3号証の記載をもってSiとAlの合計配合量の範囲に関する上限値を本件訂正発明2の式(2)に規定される「0.50」とする動機付けは存在しない。

シ してみると、甲1発明において、相違点2-3に係る本件訂正発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

ス したがって、相違点2-1および2-2について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1発明と甲第1号証?甲第4号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。


セ 本件訂正発明2と甲2発明とを対比する。
両者は、
「質量%で、C:0.006%、Si:0.38%、Mn:0.12%、P:0.017%、S:0.001%、Cr:22.8%、Ni:0.08%、Al:0.08%、N:0.010%、Mo:1.04%、Nb:0.39%、V:0.10%、Ti:0.09%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-4:本件訂正発明2では、「O:0.002%未満」とするのに対し、甲2発明では、酸素の含有量が明らかではない点。

相違点2-5:本件訂正発明2では、Coの含有量について「Co:1.0%以下(Co含有量が0.103%の場合および0.126%の場合を除く)」であるのに対し、甲2発明では、Coの含有量が0.126%である点。

相違点2-6:本件訂正発明2では、「下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
25≦Cr+3.3×Mo≦30 (1)
0.10≦Si+Al≦0.50 (2)
0.1≦(4×V)/Nb≦20.0 (3)
式(1)?(3)における元素記号は、それらの元素の含有量を質量%で示したときの数値を意味する。」と、CrとMoの合計含有量、SiとAlの合計含有量、VとNbの含有量比について、式(1)?(3)として、特定するのに対し、甲2発明では、Cr、Mo、Si、Al、V、Nbの含有量を、式(1)?(3)に適用すると、「Cr+3.3×Mo=26.2、Si+Al=0.46、(4×V)/Nb=1.0」となり、式(1)?(3)は満足するものの、式(1)?(3)のような関係式としては特定されていない点。

ソ まず、上記2-6について検討すると、上記ケで検討したのと同様に、甲2発明において本件訂正発明2の式(3)のようなVとNbとの含有量比とすることは当業者が適宜なし得る事項ではないし、甲第3号証の記載をもってSiとAlの合計配合量の範囲に関する上限値を本件訂正発明2の式(2)に規定される「0.50」とする動機付けは存在しない。

タ してみると、甲1発明において、相違点2-6に係る本件訂正発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

チ したがって、相違点2-4および2-5について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2発明と甲第1号証?甲第4号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

ツ なお、異議申立人は、平成29年 7月28日付けの意見書にて、本件訂正発明2と甲1発明および甲2発明との相違点は、相違点2-2および相違点2-5であり、これらの相違点に関しては一定の課題を解決するために甲1発明および甲2発明において数値範囲を最適化または好適化、すなわち、当業者の通常の創作能力を発揮することで容易になし得る事項であると主張している。
しかしながら、本件訂正発明2と甲1発明および甲2発明との相違点は、上記シおよびタに示すとおり、相違点2-1、2-3?2-4、2-6が存在し、相違点2-3および2-6については、上記スおよびチに示したように、当業者が容易に想到し得ることでないので、出願人の上記主張に関わらず、本件訂正発明2は、甲1発明および甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1?2に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.020%以下、Si:0.05?0.50%、Mn:1.00%以下、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Cr:20.0%超?28.0%、Ni:0.6%以下、Al:0.03?0.15%、N:0.020%以下、O:0.0020%未満、Mo:0.3?1.5%、Nb:0.005?0.60%、V:0.005?0.50%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ、下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
25≦Cr+3.3×Mo≦30 (1)
0.10≦Si+Al≦0.50 (2)
0.1≦(4×V)/Nb≦20.0 (3)
式(1)?(3)における元素記号は、それらの元素の含有量を質量%で示したときの数値を意味する。
【請求項2】
Ti:0.5%以下、Cu:1.0%以下、Zr:0.6%以下、W:3.0%以下、Co:1.0%以下(Co含有量が0.103%の場合および0.126%の場合を除く)、REM:0.1%以下、B:0.1%以下のいずれか一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-11 
出願番号 特願2013-270605(P2013-270605)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C22C)
P 1 651・ 113- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 板谷 一弘
宮本 純
登録日 2016-05-20 
登録番号 特許第5935792号(P5935792)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 フェライト系ステンレス鋼  
復代理人 久利 庸平  
代理人 井上 茂  
代理人 井上 茂  
復代理人 久利 庸平  
代理人 森 和弘  
代理人 きさらぎ国際特許業務法人  
代理人 森 和弘  

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