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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1334337 |
異議申立番号 | 異議2016-701140 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-12-14 |
確定日 | 2017-09-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5934483号発明「リン脂質結合型DHA増加剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5934483号の特許請求の範囲を、平成29年5月15日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5?6〕について訂正することを認める。 特許第5934483号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5934483号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成23年9月5日に特許出願としたものであって、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 伊藤礼子(以下、「申立人」ということがある。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年4月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月15日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)のとおりである。 (1)請求項5?6からなる一群の請求項に係る訂正 (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項5に「オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項3に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」と記載されているのを、「オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項4に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)のとおりである。 (1)請求項5?6からなる一群の請求項に係る訂正について (ア)訂正事項1について 訂正事項1に係る訂正は、請求項5における「・・・請求項3に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」なる記載を「・・・請求項4に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」に訂正するものであり、引用する請求項番号を請求項3から請求項4に訂正するものである。 ここで、請求項5は、平成28年1月18日付けの手続補正書により、新たに(新)請求項3が加入されたことに伴い、(旧)請求項4から(新)請求項5へと請求項番号を繰り下げる補正がされたものであることが認められる。当該補正の前においては、(旧)請求項4は(旧)請求項3を引用していたところ、補正後は、当該(旧)請求項3も(新)請求項4へと請求項番号を繰り下げる補正がされたため、併せて、補正後の(新)請求項5が引用する請求項の番号も、(旧)請求項3から(新)請求項4へと繰り下げる補正がなされるべきであったことが明らかであるが、当該補正がなされることなく、上記のとおりの「請求項3に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」のまま設定登録を受けたことが認められる。 したがって、この訂正事項1は、当該誤記である「請求項3」を「請求項4」へと訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。 この訂正事項1は、上述のとおりの誤記を訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 また、この訂正事項1は、上述のとおりの誤記を訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 本件においては、訂正前の全ての請求項1?6について特許異議申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 この訂正事項1に係る訂正前の請求項5及び6は、この訂正事項1を含む請求項5の記載を、請求項6が引用しているものであるから、当該訂正前の請求項5及び6は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[5-6]について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記のとおり本件訂正請求による訂正が認められるから、本件特許の請求項1?6に係る発明は、平成29年5月15日付け訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1?6の特許に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等ということがある。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)。 「【請求項1】 1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHA増加剤。 【請求項2】 オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項1に記載のリン脂質結合型DHA増加剤。 【請求項3】 前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が50?100%である、請求項1又は2に記載のリン脂質結合型DHA増加剤。 【請求項4】 1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHAを上昇させる増加用飲食品。 【請求項5】 オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項4に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。 【請求項6】 前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が50?100%である、請求項4又は5に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」 第4 取消理由の概要 本件訂正前の請求項5、6に係る特許に対して平成29年4月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 1.(明確性)本件特許の下記の請求項は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その請求項に係る特許は取り消すべきものである。 記 ・理由 1 ・請求項 5 ・備考 本件特許の請求項5には、「オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項3に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」なる記載がなされているが、この請求項5が引用する請求項3には、「リン脂質結合型DHA増加用飲食品」に係る記載は何らなされていない。 そのため、この請求項5が引用する「請求項3に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品」がどのようなものであるかを理解することができず、その結果、請求項5に記載の「オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項3に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」についても、それがどのようなものであるかを理解することができない。 したがって、請求項5は、特許を受けようとする発明が不明確である。 ・理由 1 ・請求項 6 ・備考 本件特許の請求項6には、「前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が50?100%である、請求項4又は5に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。」なる記載がなされており、この請求項6は、上記請求項5を引用しているが、請求項5は、上記のとおり、特許を受けようとする発明が不明確なものであるため、この請求項5を引用する請求項6も、同様に、特許を受けようとする発明が不明確となっている。 第5 取消理由についての合議体の判断 本件訂正請求による訂正後の本件特許発明5の記載では、本件特許発明5が引用する請求項は請求項4に訂正され、本件特許発明5は、請求項4に係る「リン脂質結合型DHAを上昇させる増加用飲食品。」の発明を引用するものとなっているから、上記「第4 取消理由の概要」に記載の特許法第36条第6項第2号に係る取消理由は解消している。 この点は、請求項5を引用する請求項6についても同様である。 したがって、上記取消理由によっては、本件特許の請求項5及び6に係る特許を取り消すことはできない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要及び提出した証拠 1 申立理由の概要 上記取消理由で通知した理由のほかに、特許異議申立人は、甲第1?13号証を提出し、本件特許は、以下の理由1?4により、取り消されるべきものである旨主張している。 (1)申立理由1 本件特許発明1、2、4、5は、 甲第1?3のいずれかに記載された発明と甲第8に記載された発明とに基づいて、 甲第1?3号証のいずれかに記載された発明と甲第4、5号証に記載された周知技術又は甲第6、7号証に記載された公知技術とに基づいて、あるいは、 甲第1?3のいずれかに記載された発明と甲第4、5号証に記載された周知技術又は甲第6、7号証に記載された公知技術と、甲第8号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法113条第2号に該当する。 (2)申立理由2 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1、2、4、5に記載の発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。 (3)申立理由3 本件特許発明1、2、4、5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。 (4)申立理由4 本件特許発明1、3、4、6に記載の「%」が質量%か重量%か体積%か不明であるため、請求項1、3、4、6、及び当該請求項1、4をそれぞれ引用する請求項2、5に記載された発明は明確ではなく、また、 本件特許発明4の「上昇させる増加用飲食品」の記載が、増加するのが何かが特定されておらず不明確であるため、 本件特許発明1?6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法113条第4号に該当する。 2 証拠方法 (1)甲第1号証:特開2009-173556号公報 (2)甲第2号証:国際公開第2010/035750号公報(申立人は、再公表公報(再公表WO2010/035750号公報)を証拠として提出しているが、申立人の主張からみて、国際公開公報の内容を示すものとして再公表公報を提出したことが明らかであるため、国際公開公報を甲第2号証として取り扱う。) (3)甲第3号証:特表2009-538366号公報 (4)甲第4号証:Nutrition Research 29,2009,p.609-615 (5)甲第5号証:Lipids(2011)46:p.37-46 (6)甲第6号証:オレオサイエンス 第2巻第2号第67?74頁(2002) (7)甲第7号証:脂質栄養学 Vo.4(1995)No.2 124頁 (8)甲第8号証:Lipids in Health and Disease 2011,10:145,p.1-7 (9)甲第9号証:Alternative Medicine Review,vol.15,no.1(2010)p.84-86 (10)甲第10号証:健康食品新聞 2011年7月6日 「南極オキアミオイル展開へ 日本水産 脳機能など研究も推進」の記事 (11)甲第11号証:生化学辞典 第4版 株式会社東京化学同人(2007) (12)甲第12号証:Lipids(2011)46:p.25-36 (13)甲第13号証:The EFSA Journal(2009)938,p.1-16 (以下、「甲第1号証」ないし「甲第13号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲13」という。) 第7 甲号証の記載事項 甲1?甲14には、それぞれ以下の記載がある。 1 甲1 (1-1) 「イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質抽出物およびアミエビリン脂質抽出物からなる群から選択されるリン脂質抽出物を含有する、EP4関連疾患の予防または治療のための、薬学的組成物。」(【請求項1】) (1-2) 「かかる油分の分画物を得るためには、有効成分の溶剤に対する溶解性の差異を利用する液-液分離法が簡便かつ実用的である。例えば、エタノールを用いて調製された抽出物にアセトン沈殿処理を施してリン脂質含量をさらに高めた分画物を得ることができ。また、エタノール抽出物を、シリカゲル、アルミナ等の吸着剤を充填したカラムクロマトグラフィー処理に供することにより、リン脂質含量が90重量%以上の分画物を得ることもできる。」(【0026】段落) (1-3) 「本発明の薬学的組成物および飲食用組成物は、前記リン脂質またはこれを含む油分を有効成分として含有する。本発明の薬学的組成物および飲食用組成物は、望ましくはリン脂質の含有量が10重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上である。」(【0028】段落の第1?第3行) (1-4) 「(実施例5:アミエビリン脂質抽出物および南極オキアミリン脂質抽出物の調製) 冷凍されたアミエビおよび南極オキアミを購入し、凍結乾燥により水分を除去した。乾燥したアミエビおよび南極オキアミ5kgにそれぞれ99%(v/v)エタノール20Lを加え、60℃で2時間、適宜ゆるやかに攪拌して抽出した。ろ過し、抽出液を得た後、それぞれの残渣に99%(v/v)エタノール20Lを加え、同様に抽出した。ろ過し、抽出液を得、それぞれ1回目の抽出液と合わせてエタノールを減圧留去しペースト状の抽出物を得た。これらに、それぞれ20倍量(v/w)のアセトンを加えて5℃にて12時間静置し、生じた沈殿物を濾別した。アミエビおよび南極オキアミの沈殿物をそれぞれクロロホルム2Lとメタノール1Lの混合溶媒に溶解した後0.75Lの水を加えた。適宜な攪拌の後静置し、溶液が2層に分離した後、下層のクロロホルム層を回収した。クロロホルムを減圧留去してペースト状の精製物をそれぞれ得た。精製物重量は、南極オキアミは450g、アミエビは250gであった。これらのペースト状物について、HPLC、GLC、TLC、を用いて分析した。アミエビより調製したペースト状物のグリセロリン脂質含量は83.5重量%(内訳はホスファチジルコリン:62.2%、リゾホスファチジルコリン:5.2%、ホスファチジルエタノールアミン:14.2%、リゾホスファチジルエタノールアミン:2.3%、その他:16.1%)であり、総脂肪酸中のDHA含量は5.7重量%、EPA含量は14.8重量%であり、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量は8.2重量%、EPA含量は18.9重量%であった。南極オキアミのグリセロリン脂質含量は85.2重量%(内訳はホスファチジルコリン:68.1%、リゾホスファチジルコリン:1.2%、ホスファチジルエタノールアミン:18.5%、リゾホスファチジルエタノールアミン:0.5%、その他:11.7%)であり、総脂肪酸中のDHA含量は7.7重量%、EPA含量は16.8重量%であり、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量は10.2重量%、EPA含量は23.9重量%であった。」(【0058】段落) 2 甲2 (2-1) 「本発明によれば、甲殻類からリン脂質を豊富に含む脂質を簡便且つ安価に製造することができる。特に、悪臭がせず、灰分が少なく腐食を起しにくい脂質を製造することができる。」([0012]段落) (2-2) 「・・・本発明の原料である甲殻類は、軟甲綱(エビ綱)に属するものであれば特に限定されないが、特にオキアミ目あるいは十脚目に属するものが用いられる。具体的には、オキアミ、エビ、カニ等が挙げられ、またその部分であるエビ頭胸部、エビガラミール、オキアミミール等も用いることができる。この時、オキアミの種類は特に限定されないが、特に好ましくはナンキョクオキアミ(Euphausia superba)が用いられる。・・・」([0014]段落) (2-3) 「・・・脂質の抽出方法としては、一般に用いられる方法であれば特に限定されないが、溶媒抽出、pH調整あるいはプロテアーゼ又はリパーゼ等の酵素処理等によるタンパク質成分の分離除去、超臨界抽出等、あるいはこれらを組み合わせた方法が用いられ、好ましくは有機溶媒による抽出、酵素処理した後有機溶媒により抽出、又は超臨界二酸化炭素抽出が用いられる。・・・」([0016]段落) (2-4) 「実施例3 オキアミから圧搾液の取得(採肉機)と加熱処理 2006年7月中旬に南極海にて漁獲した全長45mm以上のナンキョクオキアミ10tを漁獲直後に採肉機(バーダー社製、型式BAADER605)にて圧搾し、圧搾液3tを得、直ちに冷凍した。この冷凍圧搾液を蒸気式加熱釜中加熱し、95℃達温を確認して加熱を停止した。加熱物全量を200メッシュの濾布を用いて遠心脱水機(大栄製作所製型式DT-1)に投入し、エキス(濾液)を分離し熱凝固物(脂質含有固形分)を得た。・・・ この結果、本発明方法により甲殻類より脂質が効率良く濃縮されていることが確認された。また、得られた熱凝固物(脂質含有固形分)の脂質について、実施例1と同様に分析した。結果を表7に示す。 」([0035]?[0038]段落) (2-5) 「実施例8 熱凝固物の超臨界二酸化炭素による脂質の抽出 実施例3において製造した熱凝固物(脂質を含有する固形分;水分61.2重量%のもの)またはこれから得た乾燥物(水分2.0重量%)を用い、34.3MPa、40℃の条件にて超臨界二酸化炭素による脂質成分の抽出を実施し、抽出物と抽出残渣とを得た。 結果を表12に示す。 得られた抽出物と抽出残渣中の脂質について、実施例1と同様にして脂質組成を分析した。結果を表13に示す。 この結果、熱凝固物(脂質を含有する固形分)の乾燥状態に因らず、本抽出法ではトリグリセリドが優先的に抽出され、抽出残渣にはリン脂質が優先的に濃縮することが確認された。」([0051]?[0055]段落) (2-6) 「本発明は、リン脂質を豊富に含む脂質を簡便且つ安価に製造する方法として有用である。又、該方法により抽出した脂質、甲殻類を由来とする有用な脂質を豊富に含む組成物は、医薬原料、食品素材、あるいは飼料原料等として有用である。」([0091]段落) 3 甲3 (3-1) 「・・・複合脂質の1種類以上が、・・・典型的にはリン脂質である。該リン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、カルジオリピン、プラズマローゲン、アルキルアシルリン脂質、ホスホノ脂質、リゾリン脂質、セラミド・アミノエチルホスホネート、及びホスファチジン酸のいずれか1つ以上を含むことができる。・・・」(【0026】段落) (3-2) 「本発明はさらに、高度不飽和脂肪酸を含有する複合脂質が本発明の方法によって抽出されている植物又は動物材料の、ニュートラシューティカル(nutraceutical)、食品サプルメントとして、又は酵素供給源としての使用を提供する。」(【0031】段落) (3-3) 「ニュートラシューティカルとは、食物から単離若しくは精製され、通常、食物とは関係しない医薬品形態で販売され、生理的利益を有し、慢性疾患に対する保護を与えることが実証された製品を意味する。」(【0040】段落) (3-4) 「出願人は、中性脂質と複合脂質から成る脂質抽出物中の残留DME(液体ジメチルエーテル)が、複合脂質含有ガム状相と中性脂質含有液体相の形成を生じる・・・ことを発見している。該ガム相は、該中性脂質含有液体相よりも高い密度の半固溶体(semi-solid liquid)である。DMEが、水とリン脂質との間に形成される結合と同様に、複合脂質(特に、リン脂質)との弱い結合を形成しうることが前提とされる。ガム状相中のいわゆるDME水和複合脂質(DME-hydrated complex lipids)は、中性脂質から容易に分離することができる。」(【0045】段落) (3-5) 「植物又は動物材料を、液体DMEによる抽出の前に、近臨界二酸化炭素によって抽出して、中性脂質を取り出すことができる。処理工程のこの順序は、複合脂質に富んだ抽出物を得ることも可能にする。」(【0048】段落) (3-6) 「実施例13:超臨界CO_(2)とその後のDME(液体ジメチルエーテル)による凍結乾燥オキアミの抽出と、DME抽出に続いての超臨界CO_(2)再抽出による、HUFA(高度不飽和脂肪酸)に富んだ複合脂質からの中性脂質の分離 この実施例は、高度不飽和脂肪酸を含有する脂質が凍結乾燥オキアミから、最初にCO_(2)による抽出によって中性脂質を抽出し、次にDMEによる抽出によって、HUFAに富んだ複合脂質を抽出することによって、又はDMEを用いてオキアミから総脂質を抽出し、次に、総脂質抽出物を超臨界CO_(2)によって再抽出して、中性脂質を取り出すことによって抽出されうることを示す。12.2%脂質を含有する凍結乾燥オキアミ粉末180.12gを超臨界CO_(2)によって300bar及び314Kにおいて抽出して、脂質11.28gを得た。次に、残留オキアミ粉末をDMEによって40bar及び332Kにおいて抽出して、EPA20%、DHA15.6%及び総HUFA38%を含有する、リン脂質に富んだ脂質3.30gを得た。脂質21.4%を含有する第2オキアミ粉末3.0603kgをパイロット規模でDME17.271kgを用いて、40bar及び357Kにおいて抽出して、脂質富化抽出物652.1gを得た、これは、存在する総脂肪酸のうちEPA14.0%及びDHA9.0%を含有した。次に、この脂質富化抽出物100.32gを超臨界CO_(2)26.21kgを用いて300bar及び314Kにおいて再抽出して、リン脂質に非常に富んだ(76.6%)(EPA28.8%、DHA21.9%及び総HUFA55.6%を含有する)非抽出脂質残渣33.04gを得た。」(【0090】段落) 4 甲4 甲4は英語であるため、日本語訳文を記載する。 (4-1) 「Euphausia superbaとして知られている南極オキアミはエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)に富んだ海洋甲殻類である。我々はオキアミオイルが安全性、耐性、又は選択された代謝パラメータの指標に悪影響を及ぼすことなくEPA及びDHAの血清濃度を増大させるだろうという仮説について試験した。この無作為化した二重盲検パラレル群試験において、過体重及び肥満の男女(N=76)を無作為化して、2g/dのオキアミオイル、ニシンオイル、又は対照(オリーブ)油を含む二重盲検カプセルを4週間受け取るように割り当てた。結果は、血清EPA及びDHA濃度がオキアミオイル群(それぞれ178.4+/-38.7及び90.2+/-40.3μmol/L)及びニシンオイル群(それぞれ131.8+/-28.0及び149.9+/-30.4μmol/L)では対照群(それぞれ2.9+/-13.8及び-1.1+/-32.4μmol/L)と比較して有意に増大した(p<0.001)ことを示した。」(第609頁Abstract欄第1?10行) (4-2) 「Euphausia superbaとしても知られる南極オキアミはEPAとDHAに富んだ海洋甲殻類である。オキアミオイルは、それがリン脂質由来のω-3脂肪酸を比較的多量に含んでいる点で他のω-3の食事源とは異なっている。魚油のサプリメントは一般にトリグリセリド型又は脂肪酸エチルエステルとしてω-3脂肪酸を含む。」(第610頁左欄第13?19行目) (4-3) 「本研究において、オキアミオイルサプリメントで提供されるEPAの日用量(216mg)とニシンオイルサプリメントで提供されるEPAの目用量(212mg)は同等であったが、オキアミオイル中に存在するDHA(90mg/日)はニシンオイル中に提供されるDHA(178mg/日)の約半分であった。処理期間の最後に、オキアミオイル群における平均血清EPA濃度はニシンオイル群と比較していくぶん高く(377vs293μmol/L)、平均血清DHA濃度は同等であった(476vs478μmol/L)。これらの結果は、オキアミオイル由来のEPA及びDPAはニシンオイルと同程度以上に吸収されることを示唆している。」(第614頁 左欄第6?16行目) 5 甲5 甲5は英語であるため、日本語訳文を記載する。 (5-1) 「本研究の目的は、オキアミオイル及び魚油の血清脂質・・・に対する影響と、及びω-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)の異なる分子型であるトリアシルグリセロール及びリン脂質がEPA及びDHAの血漿レベルに異なる影響を及ぼすか否かについて調べることである。総血中コレステロール及び/又はトリグリセリド濃度が正常であるかわずかに上昇している113人の被験者を無作為化して3群に分け、オキアミオイルの6つのカプセル(N=36;3.0g/日 EPA+DPA=543mg)又は魚油の3つのカプセル(N=40;1.8g/日 EPA+DHA=864mg)を7日間与えた。第3の群は何もサプリメントを受けず、対照群の役割をした(N=37)。対照群に比べてn-3 PUFAを補給された群では血漿EPA、DHA及びDPAの有意な上昇が観察されたが、魚油群とオキアミオイル群の間ではいずれのn-3 PUFAの変化にも有意差はなかった。・・・したがってオキアミオイル及び魚油は、オキアミオイルのEPA+DPA量が魚油のそれの62.8%であっても、同等なn-3 PUFAの食事源を表している。」(第37頁Abstract欄) (5-2) 「魚類では、脂肪酸は主にトリグリセリド(TG)として貯蓄され、オキアミでは、脂肪酸の30?65%がリン脂質(PL)に組み込まれている。」(第38頁左欄第34?36行目) 6 甲6 (6-1) 「TGおよびリン脂質を摂取した時の消化吸収は同じではなく、TGは種々のリパーゼによりモノグリセリドと脂肪酸に分解され吸収された後、小腸上皮細胞でTGの再合成が起こるのに対し、リン脂質はホスホリパーゼによりリゾリン脂質と脂肪酸に分解され小腸上皮細胞で再合成されるが、・・・リン脂質は分解されにくく直接体内に吸収されていることが明らかである。」(第67頁右欄第8?16行) (6-2) 「増沢らは卵黄リン脂質とDHAを多く含むイカリン脂質及びDHAを含むTGを5%、又は2.5%添加し自然発症高血圧ラット(SHR)に2週間与えた時の血漿、血小板、肝などに含まれる脂肪酸組成を分析している。結果としてDHAを含むTGとリン脂質の差は血漿リン脂質と赤血球中のPEのDHAを増加させ、肝リン脂質のアラキドン酸(AA)を低下させたとの結論を得ている。」(第69頁右欄末行?第70頁左欄第第6行) 7 甲7 (7-1) 「食餌として与えたイカ由来リン脂質によるラット血漿、血小板、肝臓の脂肪酸組成の変化を、・・・n-3脂肪酸含有トリグリセリド(=TG型n-3脂肪酸)を与えた場合と比較し、食餌性n-3脂肪酸含有リン脂質(=リン脂質型n-3脂肪酸)が生体脂肪酸組成に与える影響を評価する。」(【目的】欄) (7-2) 「一方、イカリン脂質は、5%添加飼料において、ほとんどの血漿・組織中脂質クラスのDHA・EPAを1.5?5倍に増加させたが、・・・DHAの増加が顕著であった。」(【結果】欄第3?5行) (7-3) 「とくに5%添加飼料、2.5%添加飼料ともにリン脂質型n-3脂肪酸は、TG型に比べ、血漿リン脂質、赤血球PEのn-3脂肪酸(特にDHA)をより大きく増加させ・・・。」 (【結果】欄第10行?末行) (7-4) 「リン脂質型n-3脂肪酸の摂取は、血漿や組織の脂肪酸組成を変動させ得る。」(【結論】欄第1?2行) 8 甲8 甲8は英語であるため、日本語訳文を記載する。 (8-1) 「背景:ω-3脂肪酸(FA)のバイオアベイラビリティはその化学型によって決まる。オキアミオイルのリン脂質(PL)結合型ω-3脂肪酸についての優れたバイオアベイラビリティが示唆された・・・。 方法:二重盲検交差試験で、我々は魚油(再エステル化トリアシルグリセリド[rTAG]、エチルエステル[EE]」)及びオキアミオイル(主にリン脂質(PL)のEPA+DHA調合物の取り込みを比較した。血清リン脂質における脂肪酸の変化をバイオアベイラビリティの指標として用いた。12人の健常な若い男性(平均年齢31歳)を無作為化し、rTAG、EE、またはオキアミオイルのいずれかとして1680mgのEPA+DHAを与えた。血情リン脂質の脂肪酸レベルを投与前及びカプセル摂取の2、4、6、8、24、48、72時間後に分析した・・・。 結果:オキアミオイルにより血清リン脂質への最も高いEPA+DHAの取り込みが引き起こされ(平均AUC_(0-72h) 80.03+/-34.71%^(*)h)、続いて魚油rTAG(平均AUC_(0-72h) 59.78+/-36.75%^(*)h)及びEE(AUC_(0-72h) 47.53+/-38.42%^(*)h)であった。」(第1頁Abstract欄第1?12行) (8-2) 「表1 3つのサプリメントで投与したカプセルの用量及び組成 」(第3頁のTable 1) (8-3) 「ベースライン及び異なる海のn-3脂肪酸調合物を摂取した24時間後の血清リン脂質中のEPA及びDHAならびに総n-3脂肪酸の量(平均±標準偏差)を表2に示す。血清リン脂質中のn-3脂肪酸濃度は24時間後に最も高かった。rTAG、EE、及びオキアミオイル間の血清リン脂質レベルの差は表3に示されており、表3ではEPA、DHA、及び総n-3脂肪酸勾配をAUC_(0-72h)、c_(max)及びt_(max)として示している。 AUC_(0-72h)の値の比較は、血清リン脂質中のEPA、DHA、EPA+DHA及び総n-3脂肪酸レベルがrTAG及びEEと比較してオキアミオイル処理後で高いことを示している」(第4頁左欄第5?17行) (8-4) 「表2 ベースライン及びサプリメントを摂取した24時間後の血清リン脂質中のEPA、DHA、及び総n-3脂肪酸のレベル(平均±標準偏差) 」(第4頁のTable 2) (8-5) 「図1はベースラインから摂取72時間後までの血清リン脂質中のEPA、DHA、EPA+DHA及び総n-3脂肪酸レベルの平均パーセント変化の時間依存的経過を示す。EE処理後のDHAを除き、各n-3脂肪酸調合物は血清リン脂質中のEPA、DHA、EPA+DHA及び総n-3脂肪酸レベルで増加を生じさせた。」(第4頁の左欄の下から第7?下から第2行) (8-6) 「まず、使用されたオキアミオイルが顕著な量のEPA(合計EPA量の22%)とDHA(合計DHA量の21%)を遊離脂肪酸で含むことはかなり驚くべきことであった。オキアミオイルサンプル中の残りのEPA(78%)とDHA(79%)はリン脂質に結合し、ほんの無視し得る量がトリアシルグリセリドに結合していると想定される。」(第6頁左欄第3?9行) (8-7) 「二種類の魚油サプリメント(rTAG+EE)は・・・から提供されたものを用い、オキアミオイルは、カナダ、ケベック州のNeptune Technologies & Bioressources社製の商業的に入手可能なサプリメント(NKO^((R)))を用いた。」(第2頁右欄第31?35行) 9 甲9 甲9は英語であるため、日本語訳文を記載する。 (9-1) 「動物及びヒトの研究は、オキアミオイルに見いだされるようなリン脂質(PL)に結合した長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPFA)が、それらのメチルエステル又はトリグリセリド型の魚油の対応物よりも吸収が良く、より良好に脳に送達されることを示している」(84頁左欄Introductionの節の第11?16行目) 10 甲10 (10-1) 「南極オキアミオイルは、文字通り、南極に生息するオキアミを漁獲し、そのオイルを抽出したもの。・・・他のオキアミオイルと比べて、DHAやEPAの総量は変わらないものの、リン脂質結合のDHA/EPAが多いのが大きな特徴だ。同社の南極オキアミオイルの規格では、リン脂質40%以上、EPA13%以上、DHA5%以上となっており、アスタキサンチンも含有している。」(第2欄第2行?第4欄) 11 甲11 (11-1) 「リン脂質(phospholipid) 生体膜系を構成する主要な脂質。血清脂質(リポタンパク質)や卵などにも含まれる。」(第1464頁左欄第7?9行) (11-2) 「一般のグリセロリン脂質ではグリセロールの1位に飽和アシル、アルケニルあるいは飽和アルキル基が結合し、グリセロールの2位にはアラキドン酸などの不飽和アシル基が結合していることが多い。」(第1464頁の左欄第26?30行) 12 甲12 甲12は英語であるため、日本語訳文を記載する。 (12-1) 「まとめると、7つの異なるアルキルアシルのホスファチジンコリン種が特定された。これらのすべての種に関し、脂肪族アルキル鎖はヘキサデカンまたはオクタデカンであり、飽和であるか、一つの二重結合を有していた。」(第31頁右欄第27?30行目) 13 甲13 (13-1) 「この新たな食品成分は甲殻類のEuphausia superba(南極オキアミ)のアセトンによる抽出により得られたオイルである。ろ過によりタンパク質及び甲殻材料を脂質から除去する。アセトン及び残りの水を次のエバポレーション工程で除去する。提案された名称がネプチューンクリルオイル(NKO^(TM))である。」(第1頁のSUMMARY欄の第4?7行) (13-2) 「NKO^(TM)の主な特徴の一つはトリグリセリドが低含有量で、リン脂質が高含有量であること(38-50g/100g)である。」(第1頁のSUMMARY欄の第8?9行) (13-3) 「NKO^(TM)の主な特徴のーつは、トリグリセリドが低含有量で(約37%)である一方、リン脂質の含有量がかなり高いことである。」(第6頁のSpecification of the novel food(NF)の説の第1?2行) 第8 申立理由についての合議体の判断 1.特許法第36条第6項第2号(申立理由4)について 申立理由4は、本件特許発明の明確性に係る事項であるため、先に当該申立理由4について検討する。 (1)本件特許発明1?6に記載の「%」の記載について 申立人は、本件特許発明1、3、4、6に記載の「%」が質量%か重量%か体積%か不明であるため、請求項1、3、4、6、及び当該請求項1、4をそれぞれ引用する請求項2、5に記載された発明は明確ではないため、本件特許発明1?6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨、主張する。 上述のとおり、本件特許発明1は、「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHA増加剤。」であり、「%」の記載は、 (a)1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量に係る部分と、 (b)DHAのリン脂質への結合に係る部分 の2箇所においてなされている。 (a)このうち、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量における%の記載は、リン脂質結合型DHA増加剤という飲食品や医薬の組成物中の1-アルキルエーテル型リン脂質の含量を示すものであるところ、当該飲食品や医薬の分野の技術常識を考慮すると、組成物中に含まれる成分の含有割合を表す場合には、通常、重量%または質量%(両者は地球上では同義)が用いられると解される。そして実際、本件特許明細書においても、「・・・本発明の飲食品における、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量は、・・・飲食品中0.1?100質量%であることが好ましい。」(【0041】)、「・・・医薬組成物における、本発明のリン脂質結合型DHA増加剤の含有量は、・・・1-アルキルエーテル型リン脂質は医薬組成物中、0.1?100質量%であることが好ましく、0.5?99質量%であることが好ましく、1?80質量%であることが最も好ましい。」(【0047】段落)との記載があることを考慮すると、本件特許発明1における、「1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、」の部分に係る「%」の記載は「質量%」を意味することが当業者に明らかであるといえる。 この点は、同様に、リン脂質結合型DHA増加剤中の1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量を規定する本件特許発明3における「%」の記載や、リン脂質結合型DHAを上昇させる増加用飲食品中の1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量を規定する本件特許発明4及び6における「%」の記載についても同様である。加えて、上記本件特許発明1、4をそれぞれ引用する本件特許発明2、5についても同様である。 したがって、当該「%」の記載が不明であり、その結果、本件特許発明1?6に記載された発明が不明確となっている旨の、申立人の主張は採用できない。 (b)上記DHAのリン脂質への結合に係る部分の、「前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」における「%」の記載については、その「結合している」との文言からも理解されるとおり、「DHAという分子における、リン脂質という別の分子への結合の割合」である「mol%」を意味することが、当該分野において一般的であると解される。そして実際、本件特許明細書の表4(【0064】段落)の左から6列目においても、「DHA結合型/全リン脂質(mol%)」と記載されていることを考慮すると、本件特許発明1における、「前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」における「%」の記載は「mol%」を意味することが当業者に明らかであるといえる。 この点は、同様に、DHAのリン脂質への結合割合について規定する本件特許発明4や、本件特許発明1、4をそれぞれ直接又は間接的に引用する本件特許発明2?3、5?6についても同様である。 したがって、当該「%」の記載が不明であり、その結果、本件特許発明1?6に記載された発明が不明確となっている旨の、申立人の主張は採用できない。 (2)本件特許発明4に記載の「上昇させる増加用飲食品」の記載について 申立人は、本件特許発明4の「上昇させる増加用飲食品」の記載が、増加するのが何かが特定されておらず不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨、主張する。 上述のとおり、本件特許発明4は、「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHAを上昇させる増加用飲食品。」であるところ、申立人が採り上げている「上昇させる増加用飲食品」において「増加」するものは、本件特許発明4の「リン脂質結合型DHAを上昇させる」という記載自体から、「リン脂質結合型DHA」であることが認められる。そして実際、本件特許明細書においても、「・・・本発明の飲食品によれば、前記リン脂質結合型DHA増加剤と同じように、生体内のリン脂質結合型DHAを上昇させることができる。」(【0046】段落)との記載があることを考慮すると、本件特許発明4における、「上昇させる増加用飲食品」において「増加」するものは、生体内の「リン脂質結合型DHA」を意味することが当業者に明らかであるといえる。 したがって、「上昇させる増加用飲食品」の記載が、増加するのが何かが特定されておらず不明確であり、その結果、本件特許発明4に記載された発明が不明確となっている旨の、申立人の主張は採用できない。 (3)小括 よって、本件特許発明1?6が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由4には理由がない。 2.特許法第29第2項(申立理由1)について (1)甲1発明との対比について 甲1には、イカリン脂質抽出物、カツオ心筋リン脂質、アミエビリン脂質を有効成分としてなる飲食用組成物/薬学的組成物が記載され((1-1)、(1-3))、かかるリン脂質を含有する飲食用組成物/薬学的組成物を得るために、エタノールを用いて調製された抽出物にアセトン沈殿処理を施してリン脂質含量をさらに高めた分画物を得ることができることが記載されている((1-2))。また、実施例5では、南極オキアミの凍結乾燥物をアセトン等で処理して、生じた沈殿物を濾別し、グリセロリン脂質含量が85.2重量%で、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量が10.2重量%である南極オキアミリン脂質抽出物を製造したことが記載されている((1-4))。 甲1記載の組成物に含まれるDHAは、有効成分であるリン脂質の構成脂肪酸の一つとして記載されているところ、当該DHAも有効成分と解することができるので、甲1には、「グリセロリン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記グリセロリン脂質の含有量が85.2重量%であり、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量が10.2重量%である飲食用もしくは薬学的組成物」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 ここで、本件特許発明1と上記甲1発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。 (相違点1)本件特許発明1では、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100(質量)%であるのに対し、甲1発明では、グリセロリン脂質の含有量が85.2重量%であり、甲1発明においては、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が不明である点、 (相違点2)本件特許発明1では、DHAの70?100(mol)%がリン脂質に結合しているのに対し、甲1発明では、グリセロリン脂質の構成脂肪酸中のDHA含量が10.2重量%であり、甲1発明においては、DHAのリン脂質に対する結合割合であるmol%が不明である点、 (相違点3)本件特許発明1では、組成物は、「リン脂質結合型DHA増加剤」であるのに対し、後者では、そのような用途に用いるものではない点。 相違点1及び相違点2について、申立人は、 (a)甲1記載の抽出方法は、本件特許明細書の製造例2の抽出方法と同様であるとの見解のもとに、当該本件特許明細書の製造例2の抽出物における「リン脂質中の1-アルキルエーテル型リン脂質の割合」を甲1発明の組成物にそのまま適用して、甲1発明の組成物における1-アルキルエーテル型リン脂質の割合は6.75%であると推定し、 (b)甲4、5、8、9、10の記載に基づき、オキアミ油ではDHAがリン脂質に優勢に結合することが技術常識であるとの見解を述べ((4-2)、(5-2)、(8-1)、(9-1)、(10-1))、 (c)そのほか、甲11に基づき、動物中にリン脂質が存在し、リン脂質中のグリセロリン脂質が、グリセロールの1位に飽和アルキル基が結合し、グリセロールの2位にはアラキドン酸などの不飽和アシル基が結合していることが多いことが技術常識であるとの見解を述べ((11-1)、(11-2))、甲12には南極オキアミのオキアミオイル中に7つの異なるアルキルアシルのホスファチジンコリン種があることが記載されていること((12-1))を挙げた上で、 これらのことから、甲1に記載された抽出物は「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物である蓋然性が高く、本件特許発明1の組成物と区別することができない旨、述べている。 (a)しかしながら、甲1に記載された南極オキアミリン脂質抽出物は、(1-4)に記載のとおりの、 (i)凍結乾燥して水分を除去した南極オキアミ5kgに99%(v/v)エタノール20Lを加え、60℃で2時間、適宜ゆるやかに攪拌して抽出後、ろ過し、抽出液を得、残渣に99%(v/v)エタノール20Lを加え、同様に抽出、ろ過し、抽出物を得、上記1回目の抽出液と合わせてエタノールを減圧留去してペースト状の抽出物を得た後、 (ii)当該ペースト状抽出液に、20倍量(v/w)のアセトンを加えて5℃にて12時間静置し、生じた沈殿物を濾別し、 (iii)当該濾別した沈殿物をクロロホルム2Lとメタノール1Lの混合溶媒に溶解した後0.75Lの水を加え、適宜な攪拌の後静置し、溶液が2層に分離した後、下層のクロロホルム層を回収し、クロロホルムを減圧留去してペースト状の精製物を得ることにより製造されるものであり、 他方、本件特許明細書の製造例2の組成物は、本件特許明細書の【0054】?【0055】段落に記載のとおりの (i)冷凍ボイルオキアミの捏練品60kg(水分含有量87質量%)に、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒216Lを加え、10分間攪拌後、吸引濾過により得たろ液上層であるヘキサン層を回収。続いてろ液下層とろ過残渣を合わせ、それに新たにヘキサン130Lを加え、10分間攪拌して脂質画分を抽出後、ろ液上層であるヘキサン層を回収。更に、ろ液下層とろ過残渣に同一の操作をもう一度繰り返し、回収した合計3回分の抽出液を併せ、エバポレーターを使用して抽出液から混合溶媒を除去し、残渣としてエーテル型リン脂質含有脂質である2.2kgのオキアミ油を取得後、 (ii)上記(i)の方法で得られたオキアミ油200gにアセトン2.5Lを添加し、4℃で1時間静置後、上清を除去し、更にアセトン2.5Lを添加し、同様に処理し、残った沈殿物を乾固し、中性脂質を除去し、1-アルキルエーテル型リン脂質含有リン脂質画分である、87gのオキアミ油リン脂質画分を得ることによって製造されるものである。 両者を比較すると、原料オキアミの水分量や、(i)の工程において用いられる抽出溶媒の種類や抽出方法、(ii)の工程における抽出溶媒の量や抽出時間、(iii)の工程の有無など、その製造方法には数多くの相違点があることが認められ、また、これらの相違点、特に溶媒の種類や(iii)の工程の有無などは、製造される最終組成物の組成に相当程度大きな影響を与えるものであると解さざるを得ない。 そうであってみると、甲1記載の抽出方法が、本件特許明細書の製造例2の抽出方法と同様であるとする旨の申立人の見解を採用することはできず、また、当該見解を前提とした、甲1発明の組成物における1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量に係る、申立人の推定についても採用することはできない。 (b)(c)そして、申立人が挙げる甲4、5、8、9、10、11、12の記載から理解できることは、(南極)オキアミ油にはEPAやDHAなどのω-3脂肪酸が、魚油と比較して多量に含まれ、それらのω-3脂肪酸の多くがリン脂質に結合していること、また、(南極)オキアミ油に含まれるリン脂質中には1-アルキルエーテル型リン脂質も含まれていることまでに留まり、それらの甲号証を組み合わせてみても、甲1発明の組成物が「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物であると解することは困難である。また、それらの甲号証のいずれにも、「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物を得ることについては記載されておらず、また、そのような組成物を得ることについての示唆がなされているものとも認められない。 したがって、甲4、5、8、9、10、11、12に記載の事項を参酌しても、甲1に記載された抽出物が「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物であると認めることはできない。 相違点3について、申立人は、甲1に「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物が記載されていることを前提として、甲1発明と甲8に記載された発明とに基づいて、甲1発明と甲第4、5に記載された周知技術又は甲6、7に記載された公知技術とに基づいて、あるいは、甲1発明と甲4、5に記載された周知技術又は甲6、7に記載された公知技術と、甲8に記載された発明と、に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、本件特許発明1は進歩性を有しない旨、主張するが、上記のとおり、甲1にそのような組成物の記載があるとは認めることができないのであるから、当該申立人の主張は、その前提において成り立たない。 また、甲4、5には、オキアミ油を摂取すると魚油と比較して血中のDHAやEPAの濃度が上昇する旨が、甲6、7には、リン脂質に結合するDHAやEPAを多く含む飼料の方が、トリグリセリドに結合するDHAやEPAと比較して血漿リン脂質のDHAやEPAを増大させる旨が、また、甲8には、商品名NKOというオキアミオイルを用いたとき((8-7))、魚油と比較して、血清リン脂質中のDHAレベルが高くなる旨、そして甲13には、商品名NKOというオキアミオイルのトリグリセリド含有量が約37%でリン脂質含有量が38-50g/100gである旨の記載があるに留まり、それらの甲号証の記載を組み合わせてみても、「1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、含有されるDHAの70?100%がリン脂質に結合している」という、特定の組成を有する組成物を用いることについては記載も示唆もされておらず、当該特定の組成を有する組成物を「リン脂質結合型DHA増加剤」として用いることが、当業者に容易に想到できたとは認められない。 したがって、本件特許発明1は、甲9?13に記載の事項を参酌しても、甲1発明、及び、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2についても同様である。 また、本件特許発明4は、本件特許発明1のリン脂質結合型DHA増加剤の適用対象が食品であることが規定されている発明であり、本件特許発明1における「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHA増加剤」に対応する構成を備えるものであるから、本件特許発明4、及び、本件特許発明4をさらに限定した発明である本件特許発明5についても同様である。 (2)甲2発明との対比について 甲2には、オキアミ等の甲殻類からリン脂質を豊富に含む脂質を簡便且つ安価に製造する方法が記載されており((2-1)、(2-2))、当該製造方法により得られる脂質を医薬原料、食品素材、飼料原料等に使用することが記載されている((2-6))。その具体的な製造方法としては、超臨界二酸化炭素抽出による方法が挙げられており((2-3))、具体的には、甲殻類原料としてナンキョクオキアミを用いた実施例3には、66%がリン脂質であり、DHAが脂肪酸組成のうちの6.6%である熱凝固物が記載されており((2-4))、当該実施例3の熱凝固物を原料とする実施例8には、オキアミからの熱凝固物の超臨界二酸化炭素抽出によりトリグリセリドが抽出され、その熱凝固物からの抽出残渣には、リン脂質が99%含まれていることが記載されている((2-5))。 実施例8を施す前の実施例3で得られた熱凝固物にはDHAが含まれていることが記載されているが((2-4))、そこから超臨界二酸化炭素抽出をして得られる製造例8の抽出残渣については、DHAに係る記載はなく、当該抽出残渣にDHAが含まれるか否かは不明である。したがって、甲2には、「リン脂質を有効成分として含み、前記リン脂質の含有量が99%である医薬原料、食品素材、飼料原料組成物」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 ここで、本件特許発明1と上記甲2発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。 (相違点1)本件特許発明1では、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100(質量)%であるのに対し、甲2発明では、リン脂質の含有量が99%であり、甲2発明においては、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が不明である点、 (相違点2)本件特許発明1では、DHAを含み、当該DHAの70?100(mol)%がリン脂質に結合しているのに対し、甲2発明においては、DHAの存否が不明であり、仮に存在するとしても、そのリン脂質に対する結合割合が不明である点、 (相違点3)本件特許発明1では、組成物は、「リン脂質結合型DHA増加剤」であるのに対し、後者では、そのような用途に用いるものではない点。 相違点1及び相違点2について、申立人は、甲2の実施例8では酵素処理のような化学反応を行っていないため、当該実施例8の抽出残渣中のリン脂質の成分の割合は、抽出の前後であまり変化しないと考えられ、1-アルキルエーテル型リン脂質及びリン脂質結合型DHAは抽出残渣に濃縮されていると考えられ、甲2の実施例8の抽出残渣中の1-アルキルエーテル型リン脂質は、本件特許明細書の製造例2よりも多く、抽出残渣に対し5%を超えると考えられる旨、また、甲4、5、8等の記載に基づき、オキアミ油ではDHAがリン脂質に優勢に結合することが技術常識であるとの見解を述べ((4-2)、(5-2)、(8-1))、これらのことから、甲2に記載された抽出残渣は「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物である蓋然性が高く、本件特許発明1の組成物と区別することができない旨、述べている。 しかしながら、まず、申立人は、「甲2の実施例8では酵素処理のような化学反応を行っていないため、当該実施例8の抽出残渣中のリン脂質の成分の割合は、抽出の前後であまり変化しないと考えられ、1-アルキルエーテル型リン脂質及びリン脂質結合型DHAは抽出残渣に濃縮されていると考えられる」旨の推定を行っているが、特定の成分である1-アルキルエーテル型リン脂質及びリン脂質結合型DHAが抽出残渣に濃縮されていると推定される具体的な理由も根拠も示しておらず、その真偽は不明である。 加えて申立人は、当該推定のもと、「甲2の実施例8の抽出残渣中の1-アルキルエーテル型リン脂質は、本件特許明細書の製造例2よりも多く、抽出残渣に対し5%を超えると考えられる旨」述べているが、甲2に記載された実施例8のナンキョクオキアミの抽出残渣は、実施例3((2-4))及び実施例8((2-5))に記載のとおりの、 (i)ナンキョクオキアミ10tの圧搾液3tを得、直ちに冷凍し、この冷凍圧搾液を蒸気式加熱釜中加熱し、95℃達温を確認して加熱を停止。加熱物全量を200メッシュの濾布を用いて遠心脱水機に投入し、エキス(濾液)を分離し熱凝固物(脂質含有固形分)を得た後、 (ii)当該熱凝固物を用い、34.3MPa、40℃の条件にて超臨界二酸化炭素による脂質成分の抽出を実施し、抽出残渣を得ることにより製造されるものであり、 他方、本件特許明細書の製造例2の組成物は、本件特許明細書の【0054】?【0055】段落に記載のとおりの (i)冷凍ボイルオキアミの捏練品60kg(水分含有量87質量%)に、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒216Lを加え、10分間攪拌後、吸引濾過により得たろ液上層であるヘキサン層を回収。続いてろ液下層とろ過残渣を合わせ、それに新たにヘキサン130Lを加え、10分間攪拌して脂質画分を抽出後、ろ液上層であるヘキサン層を回収。更に、ろ液下層とろ過残渣に同一の操作をもう一度繰り返し、回収した合計3回分の抽出液を併せ、エバポレーターを使用して抽出液から混合溶媒を除去し、残渣としてエーテル型リン脂質含有脂質である2.2kgのオキアミ油を取得後、 (ii)上記(i)の方法で得られたオキアミ油200gにアセトン2.5Lを添加し、4℃で1時間静置後、上清を除去し、更にアセトン2.5Lを添加し、同様に処理し、残った沈殿物を乾固し、中性脂質を除去し、1-アルキルエーテル型リン脂質含有リン脂質画分である、87gのオキアミ油リン脂質画分を得ることによって製造されるものである。 両者を比較すると、(i)抽出前組成物の製造方法も、また、(ii)抽出方法も、まったく異なる方法が採用されており、これらのまったく異なる方法によって得られる組成物の組成も異なると解される。そうすると、甲2発明の組成物における1-アルキルエーテル型リン脂質やリン脂質結合型DHAの含有量等を、異なる製造方法で得られた本件特許明細書の製造例2の組成物における含有量よりも多いと推定する、上記の申立人の主張は、およそ適切なものと認めることはできず、採用できない。 そして、「2.(1)」において述べたとおり、甲4、5、8?12の甲号証のいずれにも、(南極)オキアミ油から、「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物を得ることについては記載されておらず、また、そのような組成物を得ることについての示唆がなされているものとも認められない。 したがって、甲4、5、8?12に記載の事項を参酌しても、甲2に記載された抽出残渣が「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物であると認めることはできない。 相違点3についての申立人の主張は、上記「2.(1)」において記載したものと同様、甲2に「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物が記載されていることを前提として、甲2発明と甲8に記載された発明とに基づいて、甲2発明と甲第4、5に記載された周知技術又は甲6、7に記載された公知技術とに基づいて、あるいは、甲2発明と甲4、5に記載された周知技術又は甲6、7に記載された公知技術と、甲8に記載された発明と、に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、本件特許発明1は進歩性を有しない旨のものであるが、上述のとおり、甲2にそのような組成物の記載があるとは認めることができないのであるから、当該申立人の主張は、その前提において成り立たない。 また、上記「2.(1)」で述べたとおり、甲4?8、13には、「1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、含有されるDHAの70?100%がリン脂質に結合している」という、特定の組成を有する組成物を用いることについては記載も示唆もされておらず、当該特定の組成を有する組成物を「リン脂質結合型DHA増加剤」として用いることは、当業者が容易に想到できなかったものと解される。 したがって、本件特許発明1は、甲9?13に記載の事項を参酌しても、甲2発明、及び、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2についても同様である。 また、本件特許発明1における「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHA増加剤」に対応する構成を備える本件特許発明4、及び、当該本件特許発明4をさらに限定した発明である本件特許発明5についても同様である。 (3)甲3発明との対比について 甲3には、高度不飽和脂肪酸を含有する、アルキルアシルリン脂質も含みうる複合脂質について、近臨界二酸化炭素抽出法及び液体ジメチルエーテルを用いた当該複合脂質の抽出方法が記載されており((3-1)、(3-4)、(3-5))、当該抽出方法により得られる複合脂質を、ニュートラシューティカル、食品サプリメントとして使用することが記載されている((3-2)、(3-3))。具体的には、オキアミから、超臨界CO_(2)抽出、液体ジメチルエーテルによる抽出、超臨界CO_(2)による再抽出の工程を経て、76.6%のリン脂質(EPA28.8%、DHA21.9%、高度不飽和脂肪酸56.6%を含有する)の非抽出脂質残渣を得たことが実施例13に記載されている((3-6))。 (3-1)には、得られる複合リン脂質の一成分としてアルキルアシルリン脂質も例示されているが、その含有量については記載されておらず、また、実施例13において得られるリン脂質中のDHA含量はリン脂質中に21.9%であることが記載されているのみであり、DHAのリン脂質への結合割合は不明である。したがって、甲3には、「アルキルエーテル型リン脂質も含みうるリン脂質及びDHAを有効成分として含み、リン脂質の含有量が76.6%であり、リン脂質中のDHA含量が21.9%であるニュートラシューティカル、食品サプリメント組成物」(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。 ここで、本件特許発明1と上記甲3発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違する。 (相違点1)本件特許発明1では、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100(質量)%であるのに対し、甲3発明では、リン脂質の含有量が76.6%であり、甲3発明においては、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が不明である点、 (相違点2)本件特許発明1では、DHAの70?100(mol)%がリン脂質に結合しているのに対し、甲3発明においては、リン脂質中のDHA含量が21.9%であり、甲3発明においては、DHAのリン脂質に対する結合割合であるmol%が不明である点、 (相違点3)本件特許発明1では、組成物は、「リン脂質結合型DHA増加剤」であるのに対し、後者では、そのような用途に用いるものではない点。 相違点1及び相違点2について、申立人は、甲3の実施例13では液状ジメチルエーテルと二酸化炭素による抽出を行っているため、当該実施例13の抽出残渣中のリン脂質の成分の割合は、抽出の前後であまり変化しないと考えられ、1-アルキルエーテル型リン脂質及びリン脂質結合型DHAは抽出残渣に濃縮されていると考えられ、甲3の実施例13の抽出残渣中の1-アルキルエーテル型リン脂質は、本件特許明細書の製造例2よりも多く、抽出残渣に対し5%を超えると考えられる旨、また、甲4、5、8等の記載に基づき、オキアミ油ではDHAがリン脂質に優勢に結合することが技術常識であるとの見解を述べ((4-2)、(5-2)、(8-1))、これらのことから、甲3に記載された抽出残渣は「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物である蓋然性が高く、本件特許発明1の組成物と区別することができない旨、述べている。 しかしながら、まず、申立人は、「甲3の実施例13では液状ジメチルエーテルと二酸化炭素による抽出を行っているため、当該実施例13の抽出残渣中のリン脂質の成分の割合は、抽出の前後であまり変化しないと考えられ、1-アルキルエーテル型リン脂質及びリン脂質結合型DHAは抽出残渣に濃縮されていると考えられる」旨の推定を行っているが、特定の成分である1-アルキルエーテル型リン脂質及びリン脂質結合型DHAが抽出残渣に濃縮されていると推定される具体的な理由も根拠も示しておらず、その真偽は不明である。 加えて申立人は、当該推定のもと、「甲3の実施例13の抽出残渣中の1-アルキルエーテル型リン脂質は、本件特許明細書の製造例2よりも多く、抽出残渣に対し5%を超えると考えられる旨」述べているが、甲3に記載された実施例13のオキアミの抽出残渣は、実施例13((3-6))に記載のとおりの、 (i)12.2%の脂質を含有する凍結乾燥オキアミ粉末180.12gを超臨界CO_(2)によって300bar及び314Kにおいて抽出し、脂質11.28gを取得。 (ii)次に、残留オキアミ粉末を液状ジメチルエーテルによって40bar及び332Kにおいて抽出して、EPA20%、DHA15.6%及び総HUFA38%を含有する、リン脂質に富んだ脂質3.30gを取得。 (iii)脂質21.4%を含有する第2オキアミ粉末3.0603kgをパイロット規模で液状ジメチルエーテル17.271kgを用いて、40bar及び357Kにおいて抽出して、脂質富化抽出物652.1gを取得。 (iv)当該脂質富化抽出物100.32gを超臨界CO_(2)26.21kgを用いて300bar及び314Kにおいて再抽出し、リン脂質に富んだ(76.6%)(EPA28.8%、DHA21.9%及び総HUFA55.6%を含有する)非抽出脂質残渣33.04gを取得することによって得られるものであり、 他方、本件特許明細書の製造例2の組成物は、本件特許明細書の【0054】?【0055】段落に記載のとおりの (i)冷凍ボイルオキアミの捏練品60kg(水分含有量87質量%)に、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒216Lを加え、10分間攪拌後、吸引濾過により得たろ液上層であるヘキサン層を回収。続いてろ液下層とろ過残渣を合わせ、それに新たにヘキサン130Lを加え、10分間攪拌して脂質画分を抽出後、ろ液上層であるヘキサン層を回収。更に、ろ液下層とろ過残渣に同一の操作をもう一度繰り返し、回収した合計3回分の抽出液を併せ、エバポレーターを使用して抽出液から混合溶媒を除去し、残渣としてエーテル型リン脂質含有脂質である2.2kgのオキアミ油を取得後、 (ii)上記(i)の方法で得られたオキアミ油200gにアセトン2.5Lを添加し、4℃で1時間静置後、上清を除去し、更にアセトン2.5Lを添加し、同様に処理し、残った沈殿物を乾固し、中性脂質を除去し、1-アルキルエーテル型リン脂質含有リン脂質画分である、87gのオキアミ油リン脂質画分を得ることによって製造されるものである。 両者は、(i)抽出前処理も、また、(ii)?(iV)の抽出方法も、まったく異なる方法が採用されており、これらのまったく異なる方法によって得られる組成物の組成も異なると解される。そうすると、甲3発明の組成物における1-アルキルエーテル型リン脂質やリン脂質結合型DHAの含有量等を、異なる製造方法で得られた本件特許明細書の製造例2の組成物における含有量よりも多いと推定する、上記の申立人の主張は、およそ適切なものと認めることはできず、採用できない。 そして、「2.(1)」において述べたとおり、甲4、5、8?12の甲号証のいずれにも、(南極)オキアミ油から、「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物を得ることについては記載されておらず、また、そのような組成物を得ることについての示唆がなされているものとも認められない。 したがって、甲4、5、8?12に記載の事項を参酌しても、甲3に記載された抽出残渣が「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物であると認めることはできない。 相違点3についての申立人の主張は、上記「2.(1)」において記載したものと同様、甲3に「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合している」組成物が記載されていることを前提として、甲3発明と甲8に記載された発明とに基づいて、甲3発明と甲第4、5に記載された周知技術又は甲6、7に記載された公知技術とに基づいて、あるいは、甲3発明と甲4、5に記載された周知技術又は甲6、7に記載された公知技術と、甲8に記載された発明と、に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから、本件特許発明1は進歩性を有しない旨のものであるが、上述のとおり、甲3にそのような組成物の記載があるとは認めることができないのであるから、当該申立人の主張は、その前提において成り立たない。 また、上記「2.(1)」で述べたとおり、甲4?8、13には、「1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、含有されるDHAの70?100%がリン脂質に結合している」という、特定の組成を有する組成物を用いることについては記載も示唆もされておらず、当該特定の組成を有する組成物を「リン脂質結合型DHA増加剤」として用いることは、当業者が容易に想到できなかったものと解される。 したがって、本件特許発明1は、甲9?13に記載の事項を参酌しても、甲3発明、及び、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2についても同様である。 また、本件特許発明1における「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHA増加剤」に対応する構成を備える本件特許発明4、及び、当該本件特許発明4をさらに限定した発明である本件特許発明5についても同様である。 (4)小括 よって、本件特許発明1、2,4、5は、甲9?13に記載の事項を参酌しても、甲1?3のいずれかに記載の発明、及び、甲4?8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明1、2、4、5が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする申立理由1には理由がない。 3.特許法第36条第4項第1号について 申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、製造例2?5で説明されている、特定の組成のリン脂質結合型DHA増加剤の実施形態を記載するに留まり、本件特許発明1、2、4、5に記載された発明の全体を当業者が特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨、主張する。 具体的には、本件特許発明1は、「1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量がリン脂質結合型DHA増加剤のうちの5?100%であるため、リン脂質結合型DHA増加剤の残りの0?95%は中性脂質であったり、1-アルキルエーテル型リン脂質以外のリン脂質であったり、さらには脂質以外の成分であってもよい記載となっているところ、エーテル型リン脂質のうち、プラスマローゲンの含有量は極めて少ないため、例えばリン脂質結合型DHA増加剤のうち、1-アルキルエーテル型リン脂質が5%で、残り95%が中性脂質であるリン脂質結合型DHA増加剤も本件特許の請求項1に含まれるが、そのようなリン脂質結合型DHA増加剤の場合、中性脂質に結合するDHAの割合が高くなるが、そのような場合でも、全DHA中の70%?100%がリン脂質結合型DHAである剤を製造できることを発明の詳細な説明は記載していない。」旨、主張する。 確かに、本件特許明細書の発明の詳細な説明において具体的に記載されている組成物は、製造例2?5に記載のオキアミ抽出物由来の組成物のみであるが(1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量は、製造例2が7.1%、製造例3が59%、製造例4が56%、製造例が58%であり、DHAのリン脂質結合率は、製造例2?5のいずれも100%である。)、これらの製造例のうちの製造例2は、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が7.1%という、本件特許発明1の1-アルキルエーテル型リン脂質含有量のほぼ下限の組成物について、本件特許発明1における組成物が得られることを具体的に示しており、その具体的な製造方法も、本件特許明細書の【0054】?【0055】段落に詳細に説明されている上、製造例1?5の具体的な製造方法と、それによって得られる組成物の組成も明記されているから(表1、表2)、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量とDHAのリン脂質結合割合やその他の成分の含有量を比較して、製造例1?5に記載のいかなる製造方法を採用すれば、具体的にどのような成分が増減するかを当業者は把握できると認められるところ、これらの本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件特許発明1に記載の組成物を製造することは、当業者に可能なものであると認められる。 加えて、そもそも本件特許発明1は、「1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHA増加剤。」であり、当該組成物中に含まれる成分の種類と量は明確に規定されているものであるから、当業者は、その成分を特許発明が規定する割合どおりに配合することによっても製造することが可能である。すなわち、本件特許明細書には、オキアミ抽出物から製造する方法が具体的に記載されているが、本件特許発明1に記載の組成物に配合される成分はすべて入手可能な成分であるところ、仮にオキアミ抽出物から製造したのではなんらかの成分が不足するというような場合には、当該不足成分をさらに添加等することによっても本件特許発明1に記載の組成物は製造可能であると認められる。 したがって、本件特許明細書は、本件特許発明1に記載の発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。 本件特許発明2は、「オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項1に記載のリン脂質結合型DHA増加剤。」であり、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAとしてオキアミ抽出物由来のものを必ず含むものであるが、上述のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明において示されている製造例2?5は、すべてオキアミ抽出物から本件特許発明2の組成物を得る方法を具体的に示すものであり、そのうち製造例2は、本件特許発明2の1-アルキルエーテル型リン脂質含有量が7.1%と、本件特許発明2の1-アルキルエーテル型リン脂質含有量のほぼ下限の組成物である上、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている製造例1?5の具体的な組成と製造方法から、いかなる製造方法を採用すれば、具体的にどのような成分が増減するかを把握できると認められるところ、これらの本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、本件特許発明2に記載の組成物を製造することは、当業者に可能なものであると認められる。 そして、本件特許明細書に記載の製造例に基づいてオキアミ抽出物を得た上で、仮に不足する成分があった場合であっても、上述のとおり、当該不足成分をさらに添加等することによっても本件特許発明2に記載の組成物は製造可能なものであると認められる。 したがって、本件特許明細書は、本件特許発明2に記載の発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。 本件特許発明4、5は、それぞれ、本件特許発明1、2のリン脂質結合型DHA増加剤の適用対象が食品であることが規定されている発明であり、含まれる成分の種類と量は、それぞれ、本件特許発明1、2と同じであるから、上述のことは、本件特許発明4、5についても同様である。 したがって、本件特許明細書は、本件特許発明4、5に記載の発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由2には理由がない。 4.特許法第36条第6項第1号について 申立人は、「実施可能要件を満たしていない旨において申立人が示した理由と同様の理由で、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明のうち、脂質のほぼ100%がリン脂質になっている特定の組成のリン脂質結合型DHA増加剤の実施形態が記載されているにとどまり、リン脂質結合型DHA増加剤のうちの1-アルキルエーテル型リン脂質以外の成分が、中性脂質または脂質以外の成分である発明については、実施ができないから、本件特許発明1、2、4、5は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、出願時の技術常識を考慮しても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないものである。」旨、主張している。 しかしながら、本件特許発明の課題は、本件特許明細書の【0010】?【0011】段落、【0017】段落等の記載を考慮すると、生体内のリン脂質結合型DHAを増加させるために、本件特許発明に規定される特定の成分を所定量含む成分を飲食品等の形で経口摂取するための剤を提供することにあると認められるところ、上記「3.」において示したとおり、本件特許発明1、2、4、5に記載の組成物については、その具体的な製造方法が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められ、また、それらの組成物を経口摂取することにより、生体内のリン脂質結合型DHAが増加することは、本件特許明細書の実施例において具体的にその結果が示されているから(【0061】?【0066】等)、本件特許発明1、2、4、5は、発明の詳細な説明において、その発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていると認められる。 上述の、「リン脂質結合型DHA増加剤のうちの1-アルキルエーテル型リン脂質以外の成分が、中性脂質または脂質以外の成分である発明については、実施できない」旨の申立人の主張は、本件特許発明1、2、4、5において規定されている成分である、「1-アルキルエーテル型リン脂質」や「リン脂質に結合しているDHA」以外の成分について述べるものであるが、特許法第36条第6項第1号の規定は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されていることを求める規定であり、特許を受けようとする発明に記載のない事項、すなわち特許発明に記載されていない成分が存在する場合についてまで発明の詳細な説明に記載を求めるものではないから、当該申立人の主張は採用できない。 したがって、本件特許発明1、2、4、5は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものと認められ、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由3には理由がない。 (異議申立書の36頁には、「本件特許発明1?6は、サポート要件を満たしていない。」との記載があるが、異議申立書全体の記載及び申立の趣旨から見て、申立人のサポート要件に係る主張は、本件特許発明1、2、4、5に係るものと認められ、異議申立書36頁の「本件特許発明1?6」の記載は誤記と解される。 したがって、この異議決定では、本件特許発明1、2、4、5を採り上げた。 なお、仮に本件特許発明1?6に係るものであったとしても、本件特許発明3、6は、それぞれ本件特許発明1又は2、本件特許発明4又は5をさらに限定した発明であるから、本件特許発明1、2、4、5と同様、発明の詳細な説明において、その発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていると認められるものである。) 第9 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正を認め、また、上記取消理由によっては、本件特許の請求項5及び6に係る特許を取り消すことはできないし、申立人が主張する申立理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHA増加剤。 【請求項2】 オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項1に記載のリン脂質結合型DHA増加剤。 【請求項3】 前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が50?100%である、請求項1又は2に記載のリン脂質結合型DHA増加剤。 【請求項4】 1-アルキルエーテル型リン脂質及びDHAを有効成分として含み、前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が5?100%であり、そして前記DHAの70?100%がリン脂質に結合していることを特徴とする、リン脂質結合型DHAを上昇させる増加用飲食品。 【請求項5】 オキアミ抽出物由来の、1-アルキルエーテル型リン脂質及び/又はDHAを含む、請求項4に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。 【請求項6】 前記1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量が50?100%である、請求項4又は5に記載のリン脂質結合型DHA増加用飲食品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-13 |
出願番号 | 特願2011-193266(P2011-193266) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K) P 1 651・ 536- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 磯部 洋一郎 |
特許庁審判長 |
關 政立 |
特許庁審判官 |
田村 聖子 清野 千秋 |
登録日 | 2016-05-13 |
登録番号 | 特許第5934483号(P5934483) |
権利者 | 株式会社ADEKA 学校法人帝京大学 国立大学法人北海道大学 |
発明の名称 | リン脂質結合型DHA増加剤 |
代理人 | 山口 健次郎 |
代理人 | 森田 憲一 |
代理人 | 山口 健次郎 |
代理人 | 森田 憲一 |
代理人 | 森田 憲一 |
代理人 | 山口 健次郎 |
代理人 | 森田 憲一 |
代理人 | 山口 健次郎 |