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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
管理番号 1334348
異議申立番号 異議2016-700687  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-05 
確定日 2017-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5854248号発明「導電性接着剤、ならびにそれを用いた導電性接着シートおよび電磁波シールドシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5854248号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第5854248号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5854248号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成27年5月27日の出願であり、同年12月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人鈴木アサ子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年11月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月6日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年2月22日付けで異議申立人より意見書が提出され、同年4月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年6月16日に付けで特許権者より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成29年1月6日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であること」とあるのを、
「該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であり、該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合していること」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2ないし8も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2

本件明細書の段落【0008】に「該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であること」とあるのを、
「該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であり、該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合していること」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 上記訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有して」いること、及び「導電性複合微粒子が銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え」ることは限定されていたものの、熱硬化性樹脂の「カルボキシル基」と、「導電性複合微粒子の表面の銅」がどの様な関係にあるかについて限定がなされていなかったのを、訂正後の請求項1において、その関係を「該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合している」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記訂正事項1に係る「該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合している」ことは、願書に添付した明細書の段落【0020】の「熱硬化性樹脂は、カルボキシル基を有することを特徴とする。カルボキシル基は加熱により硬化剤と反応して導電性接着剤層を硬化し、接着させる役割を持つ。さらに、導電性複合微粒子の表面に存在する銅原子とキレート結合して導電性接着剤中の導電性複合微粒子を分散安定化させる役割を持つと同時に、導電性接着剤中における導電性微粒子の沈降を抑制し塗工スジなどの塗工欠点の発生を抑制する効果がある。」及び同じく段落【0039】の「これら表面に存在する銅は、前述した熱硬化性樹脂のカルボキシル基とキレート結合することで導電性接着剤中における導電性複合微粒子の分散安定化に寄与する。また、導電性接着剤層を熱硬化させる際にこのキレート結合が熱硬化性樹脂との熱架橋剤として働き、硬化後の架橋密度を上げるため、導電層の湿熱経時後の接続信頼性や折り曲げ後の接続信頼性を向上させる。」との記載に基づくものであるから、上記訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。

ウ 上記訂正事項1は、熱硬化性樹脂の「カルボキシル基」と、「導電性複合微粒子の表面の銅」の関係を、「該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合している」と限定するものであるから、該訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記訂正事項1は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

オ よって、上記訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(2)訂正事項2について

上記訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に起因する特許請求の範囲(請求項1)の記載内容と明細書の記載内容との不一致を整合するように明細書の記載内容を正すものである。また、上記訂正事項2は、請求項1?8からなる一群の請求項の全てについて行うものである。
よって、この訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし8〕について訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし8に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に対応する特許を「本件特許1」などどいい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
熱硬化性樹脂、硬化剤、および導電性複合微粒子を含む導電性接着剤であって、
熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有しており、
さらに、熱硬化性樹脂の酸価が3?100mgKOH/gであり、
導電性複合微粒子が銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ
該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であり、該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合していることを特徴とする導電性接着剤。

【請求項2】
導電性複合微粒子表面の、銅に対する銀の被覆量が、導電性複合微粒子全体に対して1?15重量%であることを特徴とする請求項1記載の導電性接着剤。

【請求項3】
熱硬化性樹脂のガラス転移温度が、-30?30℃であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性接着剤。

【請求項4】
請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤から形成されてなる導電性接着剤層を備えた、導電性接着シート。

【請求項5】
絶縁層と、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤から形成されてなる導電性接着剤層とを備えた、電磁波シールドシート。

【請求項6】
絶縁層と、金属層と、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤から形成されてなる導電性接着剤層とを備えた、電磁波シールドシート。

【請求項7】
請求項4記載の導電性接着シートと、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するプリント配線板。

【請求項8】
請求項5または6記載の電磁波シールドシートと、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するプリント配線板。」

第4 平成29年4月12日付けで通知した取消理由(決定の予告)、及びこの取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由の概要

1 取消理由(決定の予告)の概要(特許法第29条第2項)

訂正後の請求項1、2に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明、及び下記刊行物2ないし4に記載された周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項3ないし8に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明、下記刊行物5に記載された事項及び下記刊行物2ないし4に記載された周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1ないし8は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由」という。)。



刊行物1:国際公開第2014/010524号(甲第3号証)
刊行物2:特開2014-141628号公報(甲第1号証)
刊行物3:特開平7-73730号公報(甲第2号証)
刊行物4:特開2009-245938号公報(甲第4号証)
刊行物5:特開2005-244138号公報(甲第5号証)

2 取消理由(決定の予告)通知において採用しなかった申立理由の概要

(1)特許法第29条第1項第3号・同法同条第2項

ア 本件発明1、4及び5は、上記刊行物2(甲第1号証)に記載された発明であり、本件発明1、4及び5は、上記刊行物2(甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1、4及び5は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、本件特許1、4及び5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(異議申立書第33頁第21行?第34頁第1行、以下、「申立理由1」という。)。

イ 本件発明1は、上記刊行物3(甲第2号証)に記載された発明であり、本件発明1は、上記刊行物3(甲第2号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(異議申立書第33頁第21行?第34頁第1行、以下、「申立理由2」という。)。

(2)特許法第36条第4項第1号

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には下記の点で不備があり、本件特許1?8は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(異議申立書第33頁第1行?18行、以下、「申立理由3」という。)。



「本件特許に係る明細書の表2には、表面銅濃度が7?29%の導電性微粒子が記載されている。また、これらの導電性粒子は、置換メッキ被覆法によって作製されたと記載されている。
しかし、本件特許に係る明細書には、置換メッキ被覆法の条件が記載されていない。そのため、どのようにすれば導電性微粒子の表面銅濃度を上下させることができるのか、本件特許に係る明細書から把握することができない。
つまり、本件特許に係る明細書には、導電性微粒子の表面銅濃度を制御する方法が記載されていない。そのため、当業者は、本件特許に係る明細書に基づき、『導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%である』とすることができない。
すなわち、本件の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。」

第5 当審の判断

1 刊行物に記載の事項

(1)刊行物1(国際公開第2014/010524号)
刊行物1には、次の記載がある。

(1-1)
「請求の範囲
[請求項1]カルボキシル基並びに水酸基、炭素-炭素不飽和結合及びアルコキシシリル基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するポリウレタン樹脂(A)と、
一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)と、
架橋剤、重合開始剤及び錫系金属触媒からなる群から選択される少なくとも1の添加剤C)と、
導電性フィラー(D)と
を含有することを特徴とする硬化性導電性接着剤組成物。
[請求項2]カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A´)と、
一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)と、
イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1の添加剤(C´)と、
導電性フィラー(D)と
を含有することを特徴とする硬化性導電性接着剤組成物。
[請求項3]ポリウレタン樹脂(A)及びポリウレタン樹脂(A´)の少なくともいずれか1つは、酸価が3?100mgKOH/gであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物。
・・・(略)・・・
[請求項7]導電性フィラー(D)は、銀粉、銀コート銅粉及び銅粉からなる群から選択される少なくとも1であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物。
[請求項8]導電性フィラー(D)は、平均粒子径が3?50μmであることを特徴とする請求項1?7のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物。
[請求項9]請求項1?8のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物を用いた導電性接着剤層と、保護層を積層したことを特徴とする電磁波シールドフィルム。
[請求項10]請求項1?8のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物を用いた導電性接着剤層と、金属層と、保護層をこの順に積層したことを特徴とする電磁波シールドフィルム。
・・・(略)・・・
[請求項13]請求項1?8のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物を用いて得られた導電性接着剤層を有することを特徴とする導電性接着フィルム。
・・・(略)・・・」

(1-2)
「[0101](接着方法)
本発明の導電性接着フィルムは、例えば、補強板と回路基板本体とを接着するのに使用することができる。特に、補強板が金属製のものであるとき、この金属製補強板を接着させるだけでなく、回路基板本体におけるグランド電極と電気的に導通させる目的で使用される。このような用途に使用する場合の接着方法について、以下詳述する。
[0102]回路基板本体の材料としては、絶縁性を有し、絶縁層を形成することができる材料であればどのようなものでもよいが、その代表例としてポリイミド樹脂が挙げられる。」

(1-3)
「[0120]上記のようにして得られるポリウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)は1,000?1,000,000であることが好ましく、更には2,000?1,000,000であることが、ポリウレタンの柔軟性、密着性、耐熱性、及び塗工性能などの特性がより有効に発揮されるためにより好ましい。なお、本明細書における「重量平均分子量(Mw)」及び「数平均分子量(Mn)」とは、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値を意味する。
[0121]ウレタン樹脂は、酸価が高いほど架橋点が増加し、耐熱性が高まる。しかしながら、酸価が高すぎるウレタン樹脂は、硬くなりすぎて柔軟性が低下したり、エポキシ樹脂や硬化剤などと反応しきれずに耐久性が低下したりするおそれがある。このため、ウレタン樹脂の酸価は、3?100mgKOH/gであることが好ましく、3?50mgKOH/gであることがさらに好ましい。」

(1-4)
「[0125](添加剤(C´))
本実施形態の添加剤(C´)は、上述したポリウレタン樹脂(A´)やエポキシ樹脂(B)に該当しない化合物であって、本実施形態の硬化性導電性接着剤組成物の硬化反応に関与する官能基を有する化合物を指す。特に、ポリウレタン樹脂(A´)中のカルボキシル基やエポキシ樹脂(B)中の水酸基と反応可能なものであることが耐熱性向上や密着性向上という点で好ましい。」

(2)刊行物2(特開2014-141628号公報)
刊行物2には、次の記載がある。

(2-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価5?90mgKOH/gの熱硬化性樹脂と、
導電性の金属核体を、前記金属核体とは異なる導電性物質で被覆してなる導電性微粒子と、
下記化学式(1)で表す単位を有する化合物とを含む、導電性樹脂組成物。
化学式(1)
【化1】

【請求項2】
前記導電性微粒子100重量部に対して、化学式(1)で表す単位を有する化合物を0.5?10重量部含む、請求項1記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の導電性樹脂組成物から形成してなる導電層を備えた、導電性シート。」

(2-2)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の導電性樹脂組成物は、配合される銀コート銅微粒子が、球状の銀コート銅微粒子を潰してフレーク状微粒子に加工しているため銅の一部が露出する場合があった。また、フレーク状の銅微粒子を銀メッキした場合も微粒子の表面に銅が部分的に露出する場合があった。このような銀コート銅微粒子を使用すると、導電性樹脂組成物の粘度が経時で変動する(溶液安定性)ことで塗工の際不具合が生じ、例えば導電性接着シート等の歩留まりが低下する問題があった。また、導電性樹脂組成物を導電性シート等に加工した場合、経時で導電性および接着性が低下する問題があった。
【0006】
本発明は、溶液安定性が良好であり、例えば、導電性シート等に加工して使用したときに、長期間、導電性の低下の抑制および接着性の低下を抑制ができる導電性樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱硬化性樹脂と、導電性の金属核体を、前記金属核体とは異なる導電性物質で被覆してなる導電性微粒子と、下記化学式(1)で表す単位を有する化合物とを含む導電性樹脂組成物である。
【化1】(省略)
【発明の効果】
【0008】
上記構成の本発明によれば、特定構造の単位を有する化合物を配合したことで、熱硬化性樹脂の架橋性官能基と、導電性の金属核体イオンとの反応を抑制することができたことで溶液安定性が向上した。さらに経時での導電性低下の抑制および接着性低下の抑制をすることができた。
【0009】
本発明により、溶液安定性が良好であり、例えば、導電性シートに加工して使用したときに、長期間、導電性の低下の抑制および接着性の低下を抑制ができる導電性樹脂組成物を提供できる。」

(2-3)
「【0011】
本発明の導電性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、導電性の金属核体を、前記金属核体とは異なる導電性物質で被覆してなる導電性微粒子と、下記化学式(1)で表す単位を有する化合物を含むものである。本発明の導電性樹脂組成物は、導電性インキ、または導電性ペーストとして使用することが出来る。具体的には、RFIDなどの導電性チップ・アンテナ回路の形成、または、多層プリント配線板等で層間接続用のビアに充填して導通を取ることが出来る。また、例えば、導電性樹脂組成物を剥離性シート上に塗工して導電層を形成した導電性接着シートとして使用できる。または、導電性接着シートに絶縁層を形成することで電磁波シールドシートとして使用することもできる。
【0012】
本発明の導電性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を配合することが好ましい。この熱硬化性樹脂は、硬化剤と反応する架橋性官能基を有するものである。前記架橋性官能基は、例えば、水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、オキサゾリン基、オキサジン基、シラノール基、アルコキシシラン基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、ブロック化カルボキシル基、アジリジン基、チオール基、シクロカーボネート基、ビニルエーテル基、ビニルチオエーテル基、アミノメチロール基、アルキル化アミノメチロール基、アセタール基及びケタール基など等が挙げられる。これらの中でも耐熱性を考慮するとカルボキシル基、酸無水物基が好ましい。具体的には、熱硬化性樹脂の酸価は5?90mgKOH/gが好ましく、10?70mgKOH/gがより好ましい。酸価が5mgKOH/g以上であることで、導電性微粒子の分散性、および耐熱性が得易くなる。酸価が5mgKOH/g未満の場合、導電性微粒子の分散性が悪化するとともに、架橋が不十分で塗膜の強度が弱くなり耐熱性が得られなくなる。また、酸価が90mgKOH/g以下であることでシート化したときの柔軟性がより向上する。酸価が90mgKOH/gを超える場合、架橋点が多くなり塗膜の柔軟性が失われる問題が生じる。なお熱硬化性樹脂は、架橋性官能基を2種以上有することができる。
【0013】
前記熱硬化性樹脂は、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、側鎖変性フェノキシ樹脂、ポリアクリル樹脂などが挙げられる。
これらの中でも接着力と耐久性の面からウレタンまたはエポキシエステル樹脂、側鎖変性フェノキシ樹脂が好ましい。これらの樹脂は、1種または2種以上使用できる。
【0014】
熱硬化性樹脂は、硬化剤を使用して硬化することが好ましい。前記硬化剤は、熱硬化性樹脂の架橋性官能基と反応できる官能基を1つ以上有する化合物であれば良く、限定されない。架橋性官能基がカルボキシル基の場合、硬化剤は、エポキシ化合物、アリジリン化合物、イソシアネート化合物、ポリオール化合物、アミン化合物、メラミン化合物、シラン系、カルボジイミド系化合物、金属キレート化合物等が好ましい。
また、架橋性官能基が水酸基の場合、硬化剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物が好ましい。また、架橋性官能基がアミノ基の場合、硬化剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物が好ましい。
これらの硬化剤は、1種または2種以上使用できる。」

(2-4)
「【0017】
本発明において導電性微粒子は、導電性の金属核体を、前記金属核体とは異なる導電性物質で被覆した微粒子である。この導電性微粒子を使用することで、導電性樹脂組成物のコストダウンが可能になる。前記導電性の金属核体は、導電性微粒子を別種の導電性物質で被覆するための核になるものである。
・・・(略)・・・
【0019】
導電性物質は、導電性の金属核体100重量部に対して、1?40重量部の割合で被覆することが好ましく、5?20重量部がより好ましい。前記範囲の導電性物質で核体を被覆すると、例えば銀で銅核体を被覆した場合、導電性を維持しながら導電性微粒子の価格をより低減できる。
【0020】
導電性微粒子は、導電性の金属核体を導電性物質で完全に覆うことが好ましい。しかし、実際には、導電性の金属核体の一部が微粒子表面に露出する場合がある。このような場合でも導電性の核体表面の70%以上を導電性物質が覆っていれば(被覆率という)、導電性を維持しやすい。なお被覆率は90%以上がより好ましい。前記被覆率の測定方法は、後述する実施例に記載した。」

(2-5)
「【実施例】
【0043】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の「部」及び「%」は、それぞれ重量部及び「重量%」に基づく値である。
【0044】
実施例で使用した導電性微粒子を表1に示す。導電性微粒子1、3、5の球状または、樹枝状の金属粉は三井金属鉱業社製の製品を使用した。
【0045】
<平均粒子径(D50)>
導電性微粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LS 13320(ベックマン・コールター社製)により求めた。
【0046】
<被覆率>
測定台上に両面粘着テープを貼り、両面粘着テープ上に導電性微粒子を落とした後エアーで余分な前記導電性微粒子を飛ばした。そして、X線光電子分光分析装置(ESCA AXIS-HS、島津製作所社製)を使用して導電性微粒子の異なる場所(5箇所)を測定した。そして、解析ソフト(Kratos社製)により被覆層原子、金属核体原子および他の原子のピーク面積の合計から算出した被覆層原子の質量濃度%の平均値を被覆率とした。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例で使用した熱硬化性樹脂を以下に示す。
ウレタン樹脂a:熱硬化性ウレタン樹脂(トーヨーケム社製/酸価=10mgKOH/g)
ウレタン樹脂b:熱硬化性ウレタン樹脂(トーヨーケム社製/酸価=0mgKOH/g)
エポキシエステル樹脂a:熱硬化性エポキシエステル樹脂(トーヨーケム社製/酸価=30mgKOH/g)
エポキシエステル樹脂b:熱硬化性エポキシエステル樹脂(トーヨーケム社製/酸価=2mgKOH/g)、
アクリル樹脂:熱硬化性アクリル樹脂(トーヨーケム社製/酸価=50mgKOH/g)」

(2-6)
「【0052】
<実施例1>
ウレタン樹脂aを100部、導電性微粒子1を300部、化学式(1)で表す単位を有する化合物(デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド)を4.5部、容器に仕込み、不揮発分が40%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(=2:1)の混合溶剤を加えた。この混合物をディスパーで5分間攪拌を行うことで導電性樹脂組成物を得た。
【0053】
得られた導電性樹脂組成物の100部に、硬化剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「JER828」、エポキシ当量=189g/eq)10部、を加えディスパーで10分攪拌した後、ポリエチレンテレフタレートの剥離性シートに、乾燥厚みが5μmになるようにバーコーターを使用して塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで導電層を有する導電性シートを得た。
【0054】
別途、ウレタン樹脂aを100部、硬化剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂10部を加えディスパーで10分攪拌した後、ポリエチレンテレフタレートの剥離性シートに、乾燥厚みが5μmになるようにバーコーターを使用して塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで絶縁層を得た。そして得られた導電性シートの導電層に絶縁層を重ね、80℃、2MPaの条件で熱圧着することで電磁波シールドシートを得た。
【0055】
<実施例2?13、比較例1?3>
導電性樹脂組成物の作成を表2の配合で行った以外は実施例1と同様に行うことで、導電性樹脂組成物、導電性シート、および電磁波シールドシートをそれぞれ得た。」
【0056】
【表2】



(3)刊行物3(特開平7-73730号公報)
刊行物3には、以下の記載がある。

(3-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式Ag_(x)Cu_(1-x)(ただし、0.001≦x≦0.4、xは原子比)で表され、且つ下記(1)、(2)の構造を有する導電粉末。
(1)粒子表面の銀濃度が平均の銀濃度より高く、且つ表面近傍で銀濃度が表面に向かって増加する領域を有する。
(2)粒子がチタン、シリコン成分から選ばれた1種以上の成分を0.1?10000ppm含有する。
【請求項2】 ・・・(略)・・・
【請求項3】 請求項1または2記載の導電粉末1重量部に対して、有機バインダー0.03?200重量部含有することを特徴とする導電ペースト(異方導電性組成物を除く。)。
【請求項4】 請求項3記載の有機バインダーが熱硬化性、熱可塑性、光硬化性、電子線硬化性、光熱硬化性樹脂から選ばれた1種類以上含有してなる導電ペースト(異方導電性組成物を除く。)。」

(3-2)
「【0005】
【発明が解決しようとするための課題】導電粉末を有機バインダー、溶剤を用いてペースト、あるいは有機バインダー中に分散したフィルム状として用いられるが、分散性が大きな問題となっている。
すなわち、銅粉末やニッケル粉末はペーストとして用いる場合には、導電性の耐環境性が悪いのみならず銅粉表面の酸化に伴って、有機バインダーとの濡れ性が変わり、凝集、粘度上昇などの問題が起こる。銀粉末では、導電性ペーストとしてはマイグレーションの問題があるのみならず、ペースト保存中にわずかな水分の吸収で銀のイオンが発生し、ペースト中の有機バインダーやペースト化剤と容易に結合してペーストの粘度変化、凝集や着色の問題が生じる。特にプリント基板上にファインな回路を形成しようとすると、凝集などの問題でエッジが欠けたり、一部回路で抵抗値増大が起こったりして好ましくない。」

(3-3)
「【0016】これらチタン、シリコン成分を含有することで、導電粉末の酸化防止効果(チタン、シリコン成分が水分の導電粉末表面に到達するのをブロックするあるいは酸素を捕捉する。)及び有機バインダーとの馴染みが良くなり、凝集、沈降の防止になる。チタン、シリコン成分は導電粉末の表面に存在するのが、より効果を高めることができる。
【0017】このとき、チタン、シリコンより選ばれた1種類以上の成分が0.1?10000ppm含有することが必要である。0.1ppm未満であると、有機バインダー中での導電粉末の分散性が悪く、凝集が生じるのみならず、銅成分が水分等で酸化され、チタン、シリコン成分の酸化防止効果が劣る。10000ppmを超える場合にはチタン、あるいはシリコン成分の酸化物が生成し、導電性が悪くなる。好ましくは、0.1?1000ppmであり、0.1?500ppmがさらに好ましい。
【0018】本発明の導電粉末は、例えば、前記有機チタン、有機シリコンを用いる場合には、有機チタン、有機シリコンを有機溶剤に溶解あるいは分散させて得られた溶液中に、前記不活性ガスアトマイズ法で得られた粉末を浸漬し、充分撹拌して固液分離し、さらに乾燥して作製されるのが好ましい。チタン、シリコンの無機塩を用いる場合には、無機塩を溶解する水溶液、有機溶剤中に分散させて同様にして固液分離、乾燥して作製される方法をとることができる。」

(3-4)
「【0023】また、本発明の導電粉末の形状は、球状あるいは球状に近い形状のものが好ましい。ただし、不定形で粉末も用いることもできる。例えば、鱗片状粉末や樹枝状粉末も用いることができる。
本発明は、さらに導電粉末1重量部に対して、有機バインダーを0.03?200重量部含有してなる導電性ペーストを提供するものであるが、本発明で用いることのできる有機バインダーとしては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光熱硬化性樹脂から選ばれた1種類以上の樹脂を用いることができる。有機バインダー量としては、0.03?100重量部が好ましく、さらに0.03?10重量部が最も好ましい。
【0024】熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型アクリル樹脂などが挙げられる。
エポキシ樹脂としては・・・(略)・・・必要に応じて、公知の硬化剤を用いることもできる。例えば、脂肪族ジアミン(エポキシと脂肪族ポリアミン付加重合物等)、ポリアミン、芳香族ジアミン(メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルサルフォン等)、酸無水物(メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロ酸無水物、ピロメリット酸無水物、ルイス酸錯化合物等)、コリア、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フェノール、三級アミン、アミン塩、イミダゾール系化合物、アミン系硬化剤、カルボン酸化合物などの公知材料が挙げられる。
【0025】フェノール樹脂としては・・・(略)・・・などがある。
【0026】ポリイミド樹脂としては、例えば縮合型ポリイミドやビスマレイド系樹脂や分子末端にアセチレン基などを有する付加型ポリイミドが挙げられる。
アクリル樹脂としては、官能基として(-COOH)10?80mg/g、水酸基価(-OH)40?250mg/gのもので、特に50?200の水酸基が好ましく、酸価は20?75が好ましい。また、耐水性を向上するためにヒドロキシブチル基を有するアクリル樹脂の使用が好ましい。分子量としては2400以上が使用できるが、4500?16000が好ましい。ポリエステル樹脂またはアルキッド樹脂としては、平均分子量4000以上が好ましく、7000以上がさらに好ましい。」

(3-5)
「【0042】
【実施例】
<粉末作製例>
表1に本発明の導電粉末を作製する前段階の粉末作製のアトマイズ条件を示す。先ず、所定に配合の銅、銀あるいは銅銀合金粒子を黒鉛るつぼに入れ、1500℃以上の温度に高周波誘導加熱を用いて溶解し、不活性雰囲気中、高圧の不活性ガスをるつぼ先端より噴出し、かかる組成の融液に向かって噴出し、微粉末を作製した。作製条件と平均銀、銅濃度及び粉末表面の銀濃度、銅濃度についての結果を表1に示す。
【0043】
【実施例1?8】表1で得られた微粉末を気流分級機を用いて所定の大きさで分級し、さらにチタン、あるいはシリコンを含有する化合物で処理した本発明の導電粉末の含有Si、Ti成分濃度、平均粒子径、平均粒子径±2μmの範囲の粉末の体積存在率、含有酸素濃度を表2に示す。また、その時の用いたチタン化合物、シリコン化合物を表3及び表4に示す。チタン、シリコン化合物のトルエン溶液中に粉末を浸漬し、1昼夜室温で放置後、ろ過で固液分離し、50℃で30分間乾燥して得られたものである。」

(3-6)
「【0048】
【表1】



(3-7)
「【0049】
【表2】



(4)刊行物4(特開2009-245938号公報)
刊行物4には、以下の記載がある。

(4-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とイミダゾール誘導体を含有するバインダ成分(A)、銅粉又は銅合金粉の表面が部分的に銀で被覆された金属粉(B)及び単官能のアルカンチオール(C)を含む導電性接着ペーストであって、前記単官能のアルカンチオール(C)を金属粉(B)に対し0.0001?5重量%含むことを特徴とする導電性接着ペースト。
【請求項2】
前記金属粉(B)は、その表面が前記単官能のアルカンチオール(C)で被覆されてなるものである請求項1記載の導電性接着ペースト。」

(4-2)
「【0003】
しかしながら、銀を用いた導電性接着ペーストは、導電成分である銀が高価であること、マイグレーションと称する銀の電析が生じて絶縁不良が発生し易い等の欠点がある。そこで、マイグレーションを改善でき、銀より安価な銅を主導電成分とし、銅の表面酸化を抑制した導電性接着ペーストが種々提案されている。銅の酸化防止剤としては、脂肪酸アミド、アントラセン又はその誘導体、ハイドロキノンの誘導体、フェニレンジアミン誘導体、高級脂肪酸アミン、不飽和脂肪酸等があるが、高湿度下における導電性変化が大きいという欠点があった。
【0004】
そこで、特許文献1に記載されているように、イミダゾール誘導体を金属粉に塗布し高湿度下における導電性変化を抑制する方法が考えられた。イミダゾール誘導体は金属粉の表面に塗布することにより、金属の表面でキレート化合物を作って銅と酸素の接触を妨げ銅の酸化を防止する。しかしながら、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体を含む熱硬化性樹脂を使用した導電性接着ペーストでは、大気雰囲気下での加熱硬化過程において、銅表面に生成されたイミダゾール誘導体とのキレート化合物により導通が阻害され、さらにキレート化合物の生成により硬化促進剤が不足し、硬化が阻害されるという欠点があった。」

(4-3)
「【0026】
金属粉(B)
本発明で用いられる金属粉(B)は、銅粉又は銅合金粉の表面が部分的に銀で被覆された金属粉(銀被覆銅粉又は銀被覆銅合金粉)である。言い換えれば、銅粉又は銅合金粉の一部を露出して、表面が大略銀で被覆された状態の金属粉である。銅粉又は銅合金粉の一部を露出させないで全面に銀を被覆した金属粉を用いると耐マイグレーション性が悪くなる。なお、銅粉又は銅合金粉の表面の露出面積が大きすぎると、銅粉の酸化により導電性が低下する傾向がある。
【0027】
そのため、銅粉又は銅合金粉の表面の露出面積は、耐マイグレーション性、露出部の酸化、導電性等の点から、銅粉又は銅合金粉の全表面の1?70%の範囲であることが好ましく、10?60%の範囲であることがより好ましく、10?55%の範囲であることがさらに好ましい。ここでいう、銅粉又は銅合金粉の表面の露出面積は、銅粉又は銅合金粉を軽く圧縮して上面を平らにならした銅粉又は銅合金粉の凝集物を作製し、その表面をXPS(X線光電子分光分析装置)で元素分析を行い銅の割合を求めることにより測定することができる。
【0028】
銅粉又は銅合金粉としては、アトマイズ法で作製された粉体を用いることが好ましく、銅粉又は銅合金粉の粒径は小さいほど金属粉の接触確率が高くなり高導電性が得られるために好ましい。例えば、銅粉又は銅合金粉の平均粒径は、1?20μmの範囲であることが好ましく、1?10μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0029】
銅粉又は銅合金粉の表面に銀を被覆する方法としては、置換めっき、電気めっき、無電解めっき等の方法があり、銅粉又は銅合金粉と銀との付着力が高いこと及びランニングコストが安価であることから、置換めっきで被覆することが好ましい。銅粉又は銅合金粉の表面を部分的に銀で被覆する手法としては、銀めっき銅粉又は銀めっき銅合金粉をボールミル中で一定時間撹拌し、表面の一部に銅を露出させる方法が挙げられる。
【0030】
銅粉又は銅合金粉の表面への銀の被覆量が多すぎるとコストが高くなるとともに、耐マイグレーション性が低下し、少なすぎると導電性が低下する傾向がある。そのため、銀の被覆量は、銅粉又は銅合金粉に対して(銅粉又は銅合金粉と銀との合計重量を基準としたときの銀の重量として)5?25重量%の範囲であることが好ましく、10?23重量%の範囲であることがさらに好ましい。」

(4-4)
「【0049】
単官能アルカンチオール(C)
本発明では単官能のアルカンチオール(C)を前記金属粉(B)に対し0.0001?5重量%含むことが重要である。単官能のアルカンチオールを含有することにより、銅粉又は銅合金粉の露出表面を単官能のアルカンチオールが保護し、銅とイミダゾール誘導体の接触を妨げキレート化合物の生成を防止し、その結果、導電性接着ペーストの接着性及び導電性が低下するのを防ぐのである。前記単官能のアルカルチオール(C)の含有量が0.0001重量%未満では、銅粉又は銅合金粉の露出表面を十分に保護することが出来ないため、導電性の低下を抑えることが出来ず、また5重量%を超えると、導電性接着ペーストのポットライフや接着力が低下する。前記単官能のアルカルチオール(C)の含有量は金属粉の平均粒径、金属粉の形状、金属粉表面の露出面積、単官能のアルカンチオールの種類などに応じて適宜選択されるが、好ましくは0.001?5重量%、より好ましくは0.01?5重量%、特に好ましくは0.1?5重量%である。」

(4-5)
「【0070】
実施例1
YDF-170(東都化成株式会社製商品名、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:170)70重量部と、PP-101(東都化成株式会社製商品名、アルキルフェニルグリシジルエーテル、エポキシ当量:230)20重量部と、2PZ-CN(四国化成工業株式会社製商品名、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール)10重量部とを混合し、3本ロールを3回通してバインダ成分を調製した。
【0071】
次に、アトマイズ法で作製した平均粒径が5.1μmの球状銅粉(日本アトマイズ加工株式会社製、商品名SFR-Cu)を希塩酸及び純水で洗浄した後、水1リットルあたりAgCN80g及びNaCN75gを含むめっき溶液で球状銅粉に対して銀の被覆量が18重量%(球状銅粉及び銀の合計重量を基準としたときの銀の重量が18重量%)になるように置換めっきを行い、水洗、乾燥して銀めっき銅粉を得た。
【0072】
この後、2リットルのボールミル容器内に上記で得た銀めっき銅粉750g及び直径が5mmのジルコニアボール3kgを投入し、40分間回転させて、1000回のタッピングによるタップ密度が5.93g/cm3、相対密度が93%、比表面積が0.26m2/g、アスペクト比が平均1.3及び長径の平均粒径が5.5μmの、球状銅粉の表面が部分的に銀で被覆された(球状銅粉の表面の一部が露出した)略球状銀被覆銅粉である金属粉(b1)を得た。なお、このとき球状銅粉の表面の露出面積の割合を、走査型オージェ電子分光分析装置により測定したところ、銀めっき銅粉の表面の全面積を基準として20%であった。」

(5)刊行物5(特開2005-244138号公報)
刊行物5には、以下の記載がある。

(5-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム層、導体層、接着剤層およびカバーフィルム層を含むフレキシブルプリント配線基板であって、
該接着剤が、エポキシ樹脂で架橋されたポリエステルポリウレタン樹脂を含み、そして該ポリエステルポリウレタン樹脂が以下の(1)、(2)、(3)の条件を満たす、フレキシブルプリント配線基板:
(1)ポリエステル成分の酸成分100モル%のうち、テレフタル酸の含有量およびイソフタル酸の含有量の合計が70モル%?100モル%であり
(2)イソシアネート成分がヘキサメチレンジイソシアネートを含み、
(3)数平均分子量が8000?100000である。」

(5-2)
「【0131】
(ガラス転移温度)
接着剤に用いるポリエステルポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、好ましくは-20℃以上であり、より好ましくは-10℃以上であり、さらに好ましくは0℃以上である。また、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは35℃以下であり、特に好ましくは、30℃以下である。ガラス転移温度が低すぎる場合には、耐熱性が充分に得られにくい。ガラス転移温度が高すぎる場合には、接着力が充分に得られにくい。」

2 取消理由(決定の予告)について

(1)刊行物1発明

刊行物1の上記(1-1)の[請求項2]、[請求項3]及び[請求項7]を直列的に引用する[請求項8]には、「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A´)と、
一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)と、
イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1の添加剤(C´)と、
導電性フィラー(D)とを含有し、
前記ポリウレタン樹脂(A´)の酸価が3?100mgKOH/gであり、
前記導電性フィラー(D)は、平均粒子径が3?50μmである銀粉、銀コート銅粉及び銅粉からなる群から選択される少なくとも1である硬化性導電性接着剤組成物。」が記載されているといえる。
ここで、上記「イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1の添加剤(C´)」に関する上記(1-4)の記載によれば、上記「添加剤(C´)」は、「硬化性導電性接着剤組成物の硬化反応に関与する官能基を有する化合物」であるといえる。
そうすると、刊行物1には、

「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A´)と、
一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)と、
硬化性導電性接着剤組成物の硬化反応に関与する官能基を有する化合物と、
導電性フィラー(D)とを含有し、
ポリウレタン樹脂(A´)の酸価が3?100mgKOH/gであり、
導電性フィラー(D)は、平均粒子径が3?50μmである銀粉、銀コート銅粉及び銅粉からなる群から選択される少なくとも1である硬化性導電性接着剤組成物。」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)刊行物2?4に記載の事項

取消理由(決定の予告)で、『導電性微粒子を含む導電性の組成物において、導電性微粒子として、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ表面の銅原子濃度が、本件発明1の範囲に重複する導電性微粒子を用いることは、周知の技術的な事項である』ことを示すために引用した刊行物2?4には、以下のことが記載されているといえる。

(刊行物2について)
刊行物2には、従来の導電性樹脂組成物では、配合される銀コート銅微粒子が、球状の銀コート銅微粒子を潰してフレーク状微粒子に加工しているため銅の一部が露出する場合があり、また、フレーク状の銅微粒子を銀メッキした場合も微粒子の表面に銅が部分的に露出する場合があり、このような銀コート銅微粒子を使用すると、導電性樹脂組成物の粘度が経時で変動する(溶液安定性)ことで塗工の際不具合が生じる等の問題(上記(2-2)の段落【0005】)があったのに対し、熱硬化性樹脂と、導電性の金属核体を前記金属核体とは異なる導電性物質で被覆してなる導電性微粒子を含有する導電性樹脂組成物に、化学式(1)で表す単位を有する化合物を配合することにより、熱硬化性樹脂の架橋性官能基と、導電性の金属核体イオンとの反応を抑制することができ溶液安定性を向上し、さらに経時での導電性低下の抑制および接着性低下の抑制をすることができた(上記(2-2)の段落【0008】)ことが記載されている。
ここで、化学式(1)で表す単位を有する化合物を配合することにより、熱硬化性樹脂の架橋性官能基と、導電性の金属核体イオンとの反応を抑制することができるということは、化学式(1)で表す単位を有する化合物は、熱硬化性樹脂の架橋性官能基に優先して導電性微粒子の金属核体と結合(キレート結合)しているといえる。
また、刊行物2には、導電性微粒子に関し、導電性の金属核体の表面の70%以上を導電性物質が覆っていれば(被覆率という)導電性を維持しやすいこと(上記(2-4)の段落【0020】)が記載されているところ、金属核体の銅の表面の銀の被覆率が少なくとも70%ということは、逆に、銅の被覆率は30%以下であるといえ、上記(2-5)の段落【0046】の記載によれば、上記被覆率は、被覆層原子の質量濃度%の平均値であるから、銅の「質量濃度%の平均値」を、銅の原子量が約「63.5」、銀の原子量が約「108」であることを考慮して、導電性微粒子表面の銅の原子濃度に換算すると、「約42%」以下(換算式:100×30/63.5/(70/108+30/63.5))となる。

(刊行物3について)
刊行物3には、上記(3-1)で【請求項1】を直接引用する【請求項3】の「一般式Ag_(x)Cu_(1-x)(ただし、0.001≦x≦0.4、xは原子比)で表され、且つ下記(1)、(2)の構造を有する導電粉末1重量部に対して、有機バインダー0.03?200重量部含有することを特徴とする導電ペースト(異方導電性組成物を除く。)。
(1)粒子表面の銀濃度が平均の銀濃度より高く、且つ表面近傍で銀濃度が表面に向かって増加する領域を有する。
(2)粒子がチタン、シリコン成分から選ばれた1種以上の成分を0.1?10000ppm含有する。」の導電粉末として、上記(3-5)の段落【0042】に記載される<粉末作製例>によって作製された上記(3-6)の【表1】に示される導電粉末を、上記(3-5)の段落【0043】に記載される【実施例1?8】に従って処理した上記(3-7)の【表2】に示された導電粉末を用いることが記載されているといえる。
ここで、上記導電粉末の(2)の構造は、<粉末作製例>によって作製された上記(3-6)の【表1】に表される導電粉末を、チタン、シリコン化合物のトルエン溶液中に浸漬し、放置後、固液分離し、乾燥して得られたものである(上記(3-5)の段落【0043】)。
そして、例えば、上記導電粉末に関し、上記(3-7)の【表2】には、「表面銀濃度が0.8(原子比)、平均銀濃度が0.1(原子比)」の「粉末実施例1-A」等が記載されている。
また、有機バインダーとして、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光熱硬化性樹脂から選ばれた1種類以上の樹脂を用いることができ(上記(3-4)の段落【0023】)、その中の熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型アクリル樹脂などが挙げられ((上記(3-4)の段落【0024】)、その中のアクリル樹脂(熱硬化型アクリル樹脂)としては、官能基として(-COOH)10?80mg/g、水酸基価(-OH)40?250mg/gのもの((上記(3-4)の段落【0026】)が記載されている。

(刊行物4について)
刊行物4には、銅を主導電成分とし、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体を含む熱硬化性樹脂を使用した導電性接着ペーストでは、大気雰囲気下での加熱硬化過程において、銅表面に生成されたイミダゾール誘導体とのキレート化合物により導通が阻害され、さらにキレート化合物の生成により硬化促進剤が不足し、硬化が阻害されるという欠点があった(上記(4-2)の段落【0004】)のに対し、エポキシ樹脂とイミダゾール誘導体を含有するバインダ成分(A)及び銅粉又は銅合金粉の表面が部分的に銀で被覆された金属粉(B)を含む導電性接着ペーストに、単官能のアルカンチオール(C)を金属粉(B)に対し0.0001?5重量%添加することにより、前記金属粉(B)を、その表面が前記単官能のアルカンチオール(C)で被覆されたものとし(上記(4-1)の【請求項1】【請求項2】)、金属粉(B)の銅の露出表面を単官能のアルカンチオール(C)が保護し、銅とイミダゾール誘導体の接触を妨げキレート化合物の生成を防止し、その結果、導電性接着ペーストの接着性及び導電性が低下するのを防ぐ(上記(4-4))ことが記載されている。
また、刊行物4には、銅粉又は銅合金粉の表面の露出面積が、全表面の1?70%の範囲である部分的に銀で被覆された金属粉(上記(4-3)の段落【0027】)や、銅粉の表面の露出面積が、全表面の20%である金属粉(上記(4-5)の段落【0072】)を用いることが記載されている。
そして、銅の露出面積と銀の被覆面積の割合と、金属粉(導電性微粒子)表面での銀と銅の割合(原子濃度)が大きく異なるものであるということはできず、刊行物4に記載される金属粉では、1?70%という広い範囲の銅粉の表面の範囲を許容していること、また、20%という値は、本件発明1の銅原子濃度の5?30%の範囲の中央部付近の値であることを踏まえると、刊行物4の金属粉の表面の銅原子濃度は、本件発明1の範囲に重複している蓋然性が高いといえる。

(3)対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)本件発明1と刊行物1発明との一致点・相違点

本件発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「硬化性導電性接着剤組成物の硬化反応に関与する官能基を有する化合物」及び「導電性接着剤組成物」は、それぞれ、本件発明1の「硬化剤」及び「導電性接着剤」に相当する。
また、本件明細書の段落【0020】の「熱硬化性樹脂は、例えば、アクリル樹脂・・・ポリウレタン樹脂・・・フッ素樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらの中でも分散安定性と接着強度の点から、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、付加型エステル樹脂、エポキシ化合物、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ピペラジンポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が好ましい。」との記載によれば、本件発明1の「熱硬化性樹脂」は、「ポリウレタン樹脂」を含むとされていると共に、「ポリウレタン樹脂」において、「熱硬化」の形態はごく一般的なものであるから、刊行物1発明の「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A´)」は、本件発明1の「カルボキシル基を有」する「熱硬化性樹脂」に含まれるものであり、その酸価は、本件発明1の「熱硬化性樹脂」の酸価と、一致している。
また、刊行物1発明の「平均粒子径が3?50μmである」「導電性フィラー(D)」が、「微粒子」といえることは、技術的な常識であるから、刊行物1発明の「平均粒子径が3?50μmである銀粉、銀コート銅粉及び銅粉からなる群から選択される少なくとも1である導電性フィラー(D)」は、本件発明1の「導電性複合微粒子」と、「導電性微粒子」という点で共通している。

そうすると、本件発明1と刊行物1発明は、
「熱硬化性樹脂、硬化剤、および導電性微粒子を含む導電性接着剤であって、
熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有しており、
さらに、熱硬化性樹脂の酸価が3?100mgKOH/gである導電性接着剤。」の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
導電性微粒子について、本件発明1では、導電性微粒子が、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備える導電性複合微粒子であり、該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であるのに対し、刊行物1発明では、導電性フィラー(D)(導電性微粒子)として、銀コート銅粉を用いる場合が含まれるものの、銀コート銅粉の表面の銅原子・銀原子濃度は不明な点。

(相違点2)
導電性微粒子と熱硬化性樹脂のカルボキシル基との結合について、本件発明1では、熱硬化性樹脂のカルボキシル基が、導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合しているのに対し、刊行物1発明では、導電性フィラー(D)(導電性微粒子)として、銀コート銅粉を用いる場合が含まれるものの、銀コート銅粉の表面の銅原子・銀原子濃度や、ポリウレタン樹脂(A´)(熱硬化性樹脂)のカルボキシル基が、銀コート銅粉の表面とキレート結合しているか不明な点。

(イ)相違点に関する判断

事案に鑑み、最初に、上記(相違点2)について検討することとし、まず、取消理由通知(決定の予告)での周知の技術的な事項の認定の根拠となった引用例2ないし4に記載された事項について、検討する。

刊行物2には、導電性微粒子表面の銅原子濃度が、本件発明1の範囲に重複する、銅粒子及び前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備える導電性微粒子、すなわち、所定の割合で表面に銅が存在している導電性微粒子そのものは記載されているとしても、刊行物2には、この導電性微粒子そのものを導電性樹脂組成物に添加しては、導電性樹脂組成物の粘度が経時で変動する(溶液安定性)ことで塗工の際不具合が生じる等の問題あることも記載され、導電性樹脂組成物には、熱硬化性樹脂の架橋性官能基と、導電性の金属核体イオンとの反応を抑制する、金属核体イオンと結合(キレート結合)する化学式(1)で表す単位を有する化合物も添加されている。

また、刊行物3において、平均銀濃度が0.1であるのに対し、表面銀濃度が0.8(表面銅濃度は0.2)(原子比)ということは、導電粉末の表面に銀が偏在する一方、導電粉末中心側には銅が偏在していることになる。しかしながら、上記(3-5)の段落【0042】の<粉末作製例>によれば、刊行物3の導電粉末は、「先ず、所定に配合の銅、銀あるいは銅銀合金粒子を黒鉛るつぼに入れ、1500℃以上の温度に高周波誘導加熱を用いて溶解し、不活性雰囲気中、高圧の不活性ガスをるつぼ先端より噴出し、かかる組成の融液に向かって噴出し、微粉末を作製した。」という製法により作製され、導電粉末表面に「被覆層」が形成されるものではないから、刊行物3には、本件発明1の「銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%である」導電性複合微粒子は記載されていない。

さらに、刊行物4には、所定の割合で表面に銅が存在している金属粉が記載されているとしても、刊行物4には、上記(4-2)に、銅を主導電成分とする導電性接着ペーストでは、銅の表面酸化が生じることも記載され、これを防ぐため、刊行物4の導電性接着ペーストには、単官能のアルカンチオールで被覆された金属粉が添加されている。

そうすると、刊行物2及び4から認識できるのは、「導電性微粒子を含む導電性の組成物において、導電性微粒子として、表面の銅がキレート結合しているか、又は被覆されている、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ表面の銅原子濃度が、本件発明1の範囲に重複する導電性微粒子を用いる」ことまでであり、刊行物3には、上述のとおり、そもそも、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ表面の銅原子濃度が、本件発明1の範囲に重複する導電性微粒子は記載されていないから、取消理由通知(決定の予告)で周知の技術的な事項と認定した、「導電性微粒子を含む導電性の組成物において、導電性微粒子として、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ表面の銅原子濃度が、本件発明1の範囲に重複する(表面の銅が露出したままの)導電性微粒子を用いる」ことは、刊行物2ないし4には、記載されているということはできず、上記の事項は、周知の技術的事項であるとはいえない。

そして、刊行物1発明における導電性フィラー(D)として、「表面の銅がキレート結合しているか、又は被覆されている、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ表面の銅原子濃度が、本件発明1の範囲に重複する導電性微粒子」という特定の導電性微粒子を採用する動機付けとなる記載は、刊行物1にはなく、本件発明1は、本件明細書の段落【0020】に記載されるように、導電性接着剤のカルボキシル基と、導電性複合微粒子の表面に存在する銅原子とキレート結合して導電性接着剤中の導電性複合微粒子を分散安定化することにより、同段落【0016】に記載される「導電性微粒子が十分に分散安定化され、塗工生産性が良好であり、例えば塗工によって形成した導電性接着シートおよび電磁波シールドシートが、湿熱経時処理や折り曲げた後でも高い接続信頼性を有する導電性接着剤の提供を可能とすることができる」、及び同段落【0130】に記載される「実施例1?22の導電性接着剤は、分散安定性、沈降性が良好であるため導電性接着シート及び電磁波シールドシートの塗工において、スジや膜厚ムラの少ない塗膜が得られるため高い生産収率を維持することができていた」という格別の効果を奏するものである。

そうすると、上記(相違点2)は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ)まとめ

よって、上記(相違点1)について判断するまでもなく、上記(相違点2)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載の周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2ないし8について

本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載の周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、また、本件発明3及び本件発明3を引用する本件発明4ないし8に対して、ガラス転移温度が本件発明3の範囲に含まれる熱硬化性樹脂が、既に知られているものであることを示すために引用した刊行物5を考慮したとしても、本件発明3ないし8は、いずれも刊行物1発明、刊行物5に記載の事項及び刊行物2ないし4に記載の周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 申立理由1について

(1)刊行物2発明

刊行物2の上記(2-1)の【請求項1】を直接引用する【請求項3】には、「酸価5?90mgKOH/gの熱硬化性樹脂と、導電性の金属核体を、前記金属核体とは異なる導電性物質で被覆してなる導電性微粒子と、下記化学式(1)(省略)で表す単位を有する化合物とを含む、導電性樹脂組成物から形成してなる導電層を備えた、導電性シート。」が記載されているといえるところ、上記「導電性シート」について、上記(2-6)の段落【0052】、【0053】に、具体例である「実施例1」の「導電性シート」が記載されている。
そして、上記(2-6)の段落【0055】には、実施例2?13、比較例1?3に関し、「導電性樹脂組成物の作成を表2の配合で行った以外は実施例1と同様に行うことで、導電性樹脂組成物、導電性シート、および電磁波シールドシートをそれぞれ得た。」とされ、上記(2-6)の段落【0056】【表2】によれば、「実施例6」は、「ウレタン樹脂a」を100.0(部:段落【0052】、【0053】参照)、「導電性微粉末6」を300.0(部)、「デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド」を4.5(部)の配合を行うものであるから、同号証には、「実施例6」の「導電性シート」に関し、「実施例1」の「導電性シート」で、「実施例6」の上記「配合」を行った、「ウレタン樹脂aを100.0部、導電性微粒子6を300.0部、化学式(1)で表す単位を有する化合物(デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド)を4.5部、容器に仕込み、不揮発分が40%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(=2:1)の混合溶剤を加えた。この混合物をディスパーで5分間攪拌を行うことで導電性樹脂組成物を得た。
得られた導電性樹脂組成物の100部に、硬化剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「JER828」、エポキシ当量=189g/eq)10部、を加えディスパーで10分攪拌した後、ポリエチレンテレフタレートの剥離性シートに、乾燥厚みが5μmになるようにバーコーターを使用して塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで導電層を有する導電性シート」が記載されているといえる。
ここで、上記「導電性シート」は、例えば、上記(2-3)の段落【0011】の記載によれば、例えば、「導電性接着シート」として使用されるものであるから、上記剥離性シートに塗工され、100℃の電気オーブンで2分間乾燥する前の導電層を形成する組成物は、「接着剤」といえる。
また、上記(2-5)の段落【0048】の記載によれば、「ウレタン樹脂a」とは、「熱硬化性ウレタン樹脂(トーヨーケム社製/酸価=10mgKOH/g)」であり、「導電性微粒子6」とは、上記(2-5)の段落【0047】の【表1】によれば、「微粒子の構成」が「銀コート銅」で、「被覆層」の銀が「10重量部」、被覆率が「95.6%」であり、上記(2-5)の段落【0046】の記載によれば、この「被覆率」は、「被覆層原子の質量濃度%の平均値」である。
さらに、上記(2-4)の段落【0019】の記載によれば、被覆層の銀の「10重量部」とは、金属核体である銅を「100重量部」としたときの値であるといえる。

そうすると、刊行物2の「実施例6」には、「熱硬化性ウレタン樹脂(トーヨーケム社製/酸価=10mgKOH/g)を100.0部、微粒子の構成が銀コート銅で、被覆層の銀が銅100重量部に対し10重量部であり、被覆層の銀の質量濃度%の平均値が95.6%である導電性微粒子6を300.0部、化学式(1)で表す単位を有する化合物(デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド)を4.5部、不揮発分が40%になるようなトルエン:イソプロピルアルコール(=2:1)の混合溶剤を含む導電性樹脂組成物の100部に、硬化剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「JER828」、エポキシ当量=189g/eq)10部を含む導電層を形成する接着剤」という発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)本件発明1と刊行物2発明との一致点・相違点

本件発明1と刊行物2発明を対比すると、刊行物2発明の「熱硬化性ウレタン樹脂(トーヨーケム社製/酸価=10mgKOH/g)」、「(硬化剤として)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「JER828」、エポキシ当量=189g/eq)」、及び「導電層を形成する接着剤」は、それぞれ、本件発明1の「熱硬化性樹脂」、「硬化剤」、及び「導電性接着剤」に相当する。
また、刊行物2発明の「微粒子の構成が銀コート銅(で、被覆層の銀が銅100重量部に対し10重量部、質量濃度%の平均値が95.6%)である導電性微粒子6」は、本件発明1の「導電性複合微粒子」に相当するとともに、本件発明1に特定されるように「銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え」るものである。
さらに、刊行物2発明の「熱硬化性ウレタン樹脂」の「酸価」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂」の「酸価」に含まれる。

そうすると、本件発明1と刊行物2発明は、
「熱硬化性樹脂、硬化剤、および導電性複合微粒子を含む導電性接着剤であって、
さらに、熱硬化性樹脂の酸価が3?100mgKOH/gであり、
導電性複合微粒子が銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備えている導電性接着剤。」という点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点3)
熱硬化性樹脂について、本件発明1では、熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有するものであるのに対し、刊行物2発明では、熱硬化性樹脂が酸価を有するもののカルボキシル基を有することまでは不明な点。

(相違点4)
導電性複合微粒子について、本件発明1では、導電性複合微粒子が、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備える導電性複合微粒子であり、該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であるのに対し、刊行物2発明では、導電性複合微粒子の銀の被覆層における銀の質量濃度%の平均値が95.6%であるものの、銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%の範囲にあるのか不明な点。

(相違点5)
導電性複合微粒子と熱硬化性樹脂のカルボキシル基との結合について、本件発明1では、熱硬化性樹脂のカルボキシル基が、上記導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合しているのに対し、刊行物2発明では、導電性微粒子の表面の銅にカルボキシル基によるキレート結合が生じているのか不明な点。

(イ)相違点に関する判断

事案に鑑み上記(相違点5)について検討する。
上記「2 取消理由(決定の予告)について」(2)及び(3)ア(イ)で刊行物2に関して述べたように、刊行物2発明の化学式(1)で表す単位を有する化合物は、熱硬化性樹脂の例えばカルボキシル基等の架橋性官能基と、導電性の金属核体イオンとの反応を抑制するするもので、熱硬化性樹脂の架橋性官能基に優先して導電性微粒子表面の金属核体イオンと結合(キレート結合)しているといえるから、刊行物2発明は、熱硬化性樹脂のカルボキシル基が、導電性微粒子の表面の銅とキレート結合しているとはいえない。
さらに、刊行物2発明において、熱硬化性樹脂のカルボキシル基を、導電性微粒子の表面の銅との間にキレート結合を生じさせるには、刊行物2発明の接着剤から、化学式(1)で表す単位を有する化合物を除かなければならないが、刊行物2発明は、上記(2-2)の段落【0006】に記載されるように、刊行物2発明の課題である溶液安定性を良好にするために、刊行物2発明の接着剤に、化学式(1)で表す単位を有する化合物を加えているのだから、溶液安定性を損なってまで、刊行物2発明の接着剤から化学式(1)で表す単位を有する化合物を除いて、熱硬化性樹脂のカルボキシル基が、導電性微粒子の表面の銅と反応(キレート結合)するようにすることには、阻害要因があるといえる。

そうすると、上記(相違点5)は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ)まとめ

よって、上記(相違点3)及び上記(相違点4)を判断するまでもなく、上記(相違点5)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、刊行物2発明ではないし、刊行物2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明4及び5について

本件発明4及び5は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明4及び5は、いずれも刊行物2発明ではないし、刊行物2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 申立理由2について

(1)刊行物3発明

刊行物3の上記(3-1)の【請求項1】を引用する【請求項3】をさらに引用する【請求項4】には、「一般式Ag_(x)Cu_(1-x)(ただし、0.001≦x≦0.4、xは原子比)で表され、且つ下記(1)、(2)の構造を有する導電粉末1重量部に対して、熱硬化性、熱可塑性、光硬化性、電子線硬化性、光熱硬化性樹脂から選ばれた1種類以上の有機バインダー0.03?200重量部含有する導電ペースト(異方導電性組成物を除く。)。」(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断

ア 本件発明1と刊行物3発明との一致点・相違点

本件発明1と刊行物3発明とを対比すると、刊行物3発明の「熱硬化性、熱可塑性、光硬化性、電子線硬化性、光熱硬化性樹脂から選ばれた1種類以上の有機バインダー」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂」と、「熱硬化性樹脂」という点で共通する。
また、刊行物3発明の導電性ペーストに用いられる導電粉末が、「微粒子」であることは技術的な常識であるから、刊行物3発明の「一般式Ag_(x)Cu_(1-x)(ただし、0.001≦x≦0.4、xは原子比)で表され、且つ下記(1)、(2)(省略)の構造を有する導電粉末」は、本件発明1の「導電性複合微粒子」と「導電性微粒子」という点で共通している。
さらに、刊行物3発明の「導電ペースト(異方導電性組成物を除く。)」は、本件発明1の「導電性接着剤」と、「導電性材料」という点で共通している。

そうすると、本件発明1と刊行物3発明は、
「熱硬化性樹脂および導電性微粒子を含む導電性材料。」の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点6)
熱硬化性樹脂について、本件発明1では、熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有するものであるのに対し、刊行物3発明では、熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有するのか不明な点。

(相違点7)
導電性微粒子について、本件発明1では、導電性複合微粒子が、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備える導電性複合微粒子であり、該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であるのに対し、刊行物3発明では、一般式Ag_(x)Cu_(1-x)(ただし、0.001≦x≦0.4、xは原子比)で表され、且つ下記(1)、(2)(省略)の構造を有する導電粉末であって、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備えるものではない点。

(相違点8)
導電性微粒子と熱硬化性樹脂のカルボキシル基との結合について、本件発明1では、熱硬化性樹脂のカルボキシル基が、導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合しているのに対し、刊行物3発明では、導電粉末の銅にカルボキシル基によるキレート結合が生じているのか不明な点。

(相違点9)
導電性材料に関し、本件発明1は、「導電性接着剤」であると共に「硬化剤」を含んでいるのに対し、刊行物3発明は、「導電性接着剤」であるのか、また「硬化剤」を含んでいるのか不明な点。

イ 相違点に関する判断

事案に鑑み、まず、上記(相違点7)について検討する。
刊行物3発明の導電粉末を、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備える導電性複合微粒子に替える動機付けとなる記載は、刊行物3にはない。

そして、本件発明1は、本件明細書の段落【0020】に記載されるように、導電性接着剤のカルボキシル基と、導電性複合微粒子の表面に存在する銅原子とキレート結合して導電性接着剤中の導電性複合微粒子を分散安定化することにより、同段落【0016】に記載される「導電性微粒子が十分に分散安定化され、塗工生産性が良好であり、例えば塗工によって形成した導電性接着シートおよび電磁波シールドシートが、湿熱経時処理や折り曲げた後でも高い接続信頼性を有する導電性接着剤の提供を可能とすることができる」、及び同段落【0130】に記載される「実施例1?22の導電性接着剤は、分散安定性、沈降性が良好であるため導電性接着シート及び電磁波シールドシートの塗工において、スジや膜厚ムラの少ない塗膜が得られるため高い生産収率を維持することができていた」という格別の効果を奏するものである。

そうすると、上記(相違点7)は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

ウ まとめ

よって、上記(相違点6)、(相違点8)及び(相違点9)を検討するまでもなく、上記(相違点7)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、刊行物3発明ではないし、刊行物3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 申立理由3について

本件発明1?8に対して申し立てられた申立理由3は、前記「第4」2(2)のとおりである。

しかしながら、本件明細書の段落【0111】には、本件発明の導電性複合微粒子を置換メッキ被覆法により作製することが記載され、同段落【0112】【表2】には、置換メッキ被覆法により作製された種々の表面銅濃度の導電性複合微粒子が記載されている。
ここで、本件発明における置換メッキ被覆法とは、核体表面の銅原子を銀原子に置換して銀の被覆を行うものであるから、置換メッキ被覆の進行に相関して、核体表面の銅の原子濃度が減少し、銀原子濃度が増加することは明らかである。
そして、この相関により、本件明細書に具体的な置換メッキ被覆法の条件が記載されていなくとも、当業者であれば、メッキ液中の銀原子の濃度を含めたメッキ液の組成やメッキ時間等、置換メッキ被覆の進行の程度に影響を与える既知の因子を調整することにより、導電性微粒子の表面銅濃度を制御することができるといえる。

そうすると、当業者は、本件特許に係る明細書に基づき、「導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%である」とすることができないとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできない。

よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があるとはいえないから、本件特許1ないし8は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

6 異議申立人の平成29年2月22日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)における主張について

上記意見書における主張のうち、上記「2」?「5」で検討していない点につき、以下検討する。

(1)熱硬化性樹脂のカルボキシル基と、導電性複合微粒子表面の銅とのキレート結合に関して

異議申立人は、刊行物1に記載される硬化性導電性接着剤組成物に含まれる導電性フィラー(D)として、刊行物4に記載の表面に銅が存在している銀被覆銅粉を使用することは、当業者にとり容易に想到できるものであり、さらに、刊行物1に記載される硬化性導電性接着剤組成物に含まれる導電性フィラー(D)として、刊行物4に記載の表面に銅が存在している銀被覆銅粉を使用すれば、硬化性導電性接着剤組成物のポリウレタン樹脂(A´)のカルボキシル基と銀被覆銅粉表面の銅が自然にキレート結合することになると主張し、硬化性導電性接着剤組成物のポリウレタン樹脂(A´)のカルボキシル基と銀被覆銅粉表面の銅が自然にキレート結合することになる証拠として、参考資料1(特開2001-254067号公報)提出している(意見書の第3頁第25行?第6頁第20行)。

ここで、参考資料1には、バインダ樹脂と金属フィラーを主成分とし、接着後の前記バインダ樹脂が電極金属と多座配位結合を形成する官能基を分子鎖に含む導電性接着剤が記載され(【請求項1】)、該官能基はカルボキシル基であっても良いこと(【請求項5】、段落【0032】)、電極金属として銅が使用できること(段落【0020】、【0050】、【0090】)が記載されている。そして、前記導電性接着剤が電極金属に接触すると、バインダ樹脂の多座配位結合を形成する官能基(配位子)は、金属と非常に反応しやすいため、電極金属に速やかに配位して、キレート結合を形成することが記載されている(段落【0037】)と認められる。

しかしながら、上記「2 取消理由(決定の予告)について」(2)及び(3)ア(イ)で刊行物4に関して述べたように、刊行物4の「表面に銅が存在している銀被覆銅粉」は、参考資料1の表面に銅が露出している「電極金属」とは異なり、表面が単官能のアルカンチオール(C)で被覆されていて、表面に銅が露出しているものではなく、刊行物1のポリウレタン樹脂(A´)のカルボキシル基は、参考資料1の電極金属と多座配位結合を形成する官能基(カルボキシル基)とは異なり、多座配位結合を形成する官能基ではなく、参考資料1は、刊行物1及び4と前提とする内容が異なるものであるから、参考資料1に接した当業者が、刊行物1の硬化性導電性接着剤組成物のポリウレタン樹脂(A´)のカルボキシル基と、刊行物4の表面が単官能アルカンチオール化合物(C)で被覆されている表面に銅が存在している銀被覆銅粉の表面の銅とが自然にキレート結合することになると解することができるとはいえない。
そうすると、異議申立人の上記の主張は、採用できない。

(2)本件発明1の導電性接着剤の熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅がキレート結合することに関する実施可能要件について

異議申立人は、上記(1)に関連して、刊行物1の硬化性導電性接着剤組成物の導電性フィラー(D)を刊行物4の表面に銅が存在している銀被覆銅粉に替えた場合、仮に、ポリウレタン樹脂(A´)のカルボキシル基と、銀被覆銅粉の表面の銅との間に自然にキレート結合が生じないのであれば、本件発明1での熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅との間にキレート結合を生じさせるには特別な操作が必要になるが、本件明細書には、例えば、段落【0114】?【0120】に記載される導電性接着剤の製造方法を見ても、熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅とをキレート結合させるための特別な操作が記載されていないため、本件明細書における発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないことを主張している(意見書第6頁第21行?第7頁第12行)。

そして、この主張は、本件発明1の訂正によって生じた理由であると認めることができるので、以下検討すると、本件明細書の段落【0114】には、
「<実施例1>
[導電性接着剤の作製]
熱硬化性樹脂2を100部、導電性複合微粒子5を400部、硬化剤としてエポキシ化合物30部およびアジリジン化合物2.0部、銅害防止剤1.0部を容器に仕込み、不揮発分濃度が45重量%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(重量比2:1)の混合溶剤を加えディスパーで10分攪拌することで導電性接着剤を得た。」と記載されているところ、この実施例1で用いる導電性複合微粒子5は、同段落【0112】【表2】に記載される表面銅濃度が17[%]の導電性複合微粒子であって、既に他の物質とキレート結合していたり、また他の物質により被覆されているものではないから、段落【0114】に記載されるように、カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂2と表面に銅が存在している導電性複合微粒子を攪拌により直接接触させれば、熱硬化性樹脂2のカルボキシル基と導電性複合微粒子の銅との間でキレート結合が生じるであろうことは、当業者であれば、上記の明細書の記載から十分理解できることであるといえる。

また、異議申立人は、本件発明1の熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅とのキレート結合に関し、熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅との間にキレート結合が生じるには導電性複合微粒子の銀被覆層にピンホールが形成されている必要があるが、本件明細書の記載や技術常識を考慮しても、どのようにすれば導電性複合微粒子の銀被覆層にピンホールを形成できるのか不明であることも主張している(意見書第9頁第2行?8行)。

しかしながら、上記ピンホールの形成が必要かどうかは明らかでないし、仮に、必要だとしても、上記「5 申立理由3について」で述べたように、メッキ液中の銀原子の濃度を含めたメッキ液の組成やメッキ時間等、置換メッキ被覆の進行の程度に影響を与える既知の因子を調整することにより、核体表面に、ピンホールに対応する未被覆部分を形成することは、当業者にとりそれ程困難なことではないと認められる。
また、本件明細書の段落【0039】の「核体の銅と被覆層の銀の界面はマイグレーションにより合金化し、銅/銅と銀の合金層/銀の層構成となっているが、銀表面に銅が一部移行している箇所もある。また銅粉を電解メッキする過程において銀被膜の一部にピンホールが形成され銅が露出している。」との記載によれば、導電性複合微粒子表面の銅は、ピンホールとして露出していなくとも、銅原子として導電性複合微粒子表面に存在していれば良いといえる。
そうすると、どのようにすれば導電性複合微粒子の銀被覆層にピンホールを形成できるのか不明であるということはないし、また、銅原子はピンホールとして導電性複合微粒子表面に存在していなければならないというものでもないから、異議申立人の上記の主張は、採用できない。

(3)本件発明1の導電性接着剤の熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅がキレート結合することに関するサポート要件について

異議申立人は、本件明細書には、熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅とがキレート結合していることを確認するための手段が記載されておらず、本件明細書に記載された実施例において、熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅とがキレート結合しているかは不明であるため、本件発明1は、本件明細書における発明の詳細な説明に記載したものではないことを主張している(意見書第9頁第20行?28行)。

そして、この主張は、本件発明1の訂正によって生じた理由であると認めることができるので、以下検討すると、本件明細書の段落【0020】の「熱硬化性樹脂は、カルボキシル基を有することを特徴とする。カルボキシル基は加熱により硬化剤と反応して導電性接着剤層を硬化し、接着させる役割を持つ。さらに、導電性複合微粒子の表面に存在する銅原子とキレート結合して導電性接着剤中の導電性複合微粒子を分散安定化させる役割を持つと同時に、導電性接着剤中における導電性微粒子の沈降を抑制し塗工スジなどの塗工欠点の発生を抑制する効果がある。カルボキシル基を有さない熱硬化性樹脂では上記の効果を得ることができない。」との記載によれば、本件明細書には、熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子の表面に存在する銅原子とがキレート結合することにより、導電性接着剤中の導電性複合微粒子が分散安定化すると共に、沈降が抑制されることが記載され、カルボキシル基を有さない熱硬化性樹脂(少なくとも導電性複合微粒子との間にキレート結合は生じない)では、上記の効果を得ることができないことが記載されている。そして、カルボキシル基が銅原子とキレート結合することは技術常識である(参考文献1)ところ、同段落【0128】【表3】及び同段落【0129】【表4】に記載されるカルボキシル基のない熱硬化性樹脂1(段落【0110】【表1】)及び本件発明1の導電性複合微粒子に含まれる導電性微粒子7(段落【0112】【表2】)を含む導電性接着剤である「比較例5」は、導電性接着剤の分散安定性及び導電性微粒子の沈降性の結果が共に「×」(実用不可)となっているのに対し、カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂2?13(段落【0110】【表1】)及び本件発明1の導電性複合微粒子に含まれる導電性微粒子2?8、10、11(段落【0112】【表2】)を含む導電性接着剤である「実施例1」?「実施例22」は、導電性接着剤の分散安定性及び導電性微粒子の沈降性の結果が共に「◎」(良好)又は「○」(実用上問題ない)となる結果が、示されているから、技術常識に照らせば、実施例の熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性微粒子表面の銅とがキレート結合していることは、本件明細書に示されているといえる。

そうすると、熱硬化性樹脂のカルボキシル基と導電性複合微粒子表面の銅とがキレート結合していることを確認するための手段が明らかでないとしても、本件明細書に接した当業者は、該キレート結合が生じていることを実施例において認識できる、というべきである。
したがって、異議申立人の上記の主張は、採用できない。

(4)特許権者が提出した平成29年1月6日付け意見書に添付の乙第1号証(実験成績証明書)について

特許権者は、甲第1号証(刊行物2)の段落【0051】に記載された導電性微粒子6について、「導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%」の範囲外であることを示すために乙第1号証(実験成績証明書)を提出しているのに対し、異議申立人は、この証拠に対する意見を平成29年2月22日付け意見書の第10頁第2行?第11頁第5行目に亘って、「参考試料2」(特開2008-150230号公報)等も引用しながら述べている。

しかしながら、上記「実験成績証明書」は、上記「3 申立理由1について」(2)ア(ア)の上記(相違点4)に関するものであるから、上記「実

験成績証明書」は、刊行物2発明に対する本件発明1の新規性及び進歩性の判断の結論を左右しない。
そうすると、この証拠に対する異議申立人の意見も、本件発明1の新規性及び進歩性の判断の結論に影響を与えるものではないから採用できない。

(5)まとめ

よって、上記(1)?(4)で述べたように、異議申立人の平成29年2月22日付け意見書における主張は、いずれも採用することができない。

第6 むすび

上記「第5」で検討したとおり、本件特許1ないし8は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由、及び上記申立理由1ないし3によっては、本件特許1ないし8を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1ないし8を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
導電性接着剤、ならびにそれを用いた導電性接着シートおよび電磁波シールドシート
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等に好適に使用できる導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、小型化・薄型化が急速に進む携帯電話、ビデオカメラ、ノートパソコンなどの電子機器において、柔軟で可撓性のあるフレキシブルプリント配線板(以下、FPCという)が必要不可欠となっている。さらに電子機器の高性能化に伴い、内蔵される信号配線の狭ピッチ化・高周波化が進むため、電磁波ノイズに対する対策が重要度を増している。そのためFPCには、信号配線や電子モジュールから発生する電磁波ノイズを遮蔽もしくは吸収する電磁波シールド材を組み込むことが一般的になっている。
FPCのコネクタ部や電子部品実装部位は、電磁波シールド性と機械的強度を付与するために導電性接着シートに補強板(例えばステンレス板、アルミ板、銅板、鉄板等)を貼り付けて使用することが多い。また、FPCに貼付して使用する電磁波シールドシートは、FPCのグランド部と、導電性接着剤から形成した導電層とを接続することで電磁波シールド性能を高めている。この導電性接着剤は導電性微粒子、バインダー樹脂及び硬化剤を混合攪拌して作製することで得られており、導電性接着剤に用いる材料や配合比率、導電性微粒子の分散状態が導電性接着シートや電磁波シールドシートの性能を大きく左右する。
【0003】
そこで、特許文献1には、バインダー樹脂、金属粉及び低融点金属粉を含む等方導電性接着剤層が開示されている。
また、特許文献2には、バインダー樹脂、樹枝状金属粉及び薄片状金属粉を含む導電層、ならびに絶縁層を備えた電磁波シールドシートが開示されている。
また、特許文献3には、デンドライト状の銀被覆銅粉の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-189091号公報
【特許文献2】特開2011-187895号公報
【特許文献3】特開2013-001917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電性接着シート及び電磁波シールドシートは、導電性接着剤を塗工して形成するが、導電性微粒子の分散安定性が不十分であったり、沈降しやすい場合、塗工ムラや塗工スジが発生し生産の収率が悪化する問題があった。
また、分散安定性が不十分な導電性接着剤によって得られる導電性接着シートや電磁波シールドシートをFPCに張り付けた場合、湿熱経時試験(例えば85℃85%)後や、折り曲げ等の応力を加えると、導電性接着剤層の導通パスが容易に壊れ接続信頼性が悪化するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、導電性微粒子が十分に分散安定化され塗工生産性が良好であり、例えば塗工によって形成した導電性接着シートおよび電磁波シールドシートが、湿熱経時処理や折り曲げた後でも高い接続信頼性を有する導電性接着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂と、表面の銅原子濃度が特定の範囲にある、銀被覆層を有する銅粒子である導電性複合微粒子とを有することで、上記した課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明は、熱硬化性樹脂、硬化剤、および導電性複合微粒子を含む導電性接着剤であって、熱硬化性樹脂が、カルボキシル基を有しており、導電性複合微粒子が、銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であり、該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合していることを特徴とする導電性接着剤に関する。
【0009】
また、本発明は、熱硬化性樹脂の酸価が、3?100mgKOH/gであることを特徴とする前記導電性接着剤に関する。
【0010】
また、本発明は、熱硬化性樹脂のガラス転移温度が、-30?30℃であることを特徴とする前記導電性接着剤に関する。
【0011】
また、本発明は、前記導電性接着剤から形成されてなる導電性接着剤層を備えた、導電性接着シートに関する。
【0012】
また、本発明は、絶縁層と、前記導電性接着剤から形成されてなる導電層とを備えた、電磁波シールドシートに関する。
【0013】
また、本発明は、絶縁層と、金属層と、前記導電性接着剤から形成されてなる導電層とを備えた、電磁波シールドシートに関する。
【0014】
また、本発明は、前記導電性接着シートと、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するプリント配線板に関する。
【0015】
また、本発明は、前記電磁波シールドシートと、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するプリント配線板に関する。
【発明の効果】
【0016】
上記構成の本発明によれば、導電性微粒子が十分に分散安定化され、塗工生産性が良好であり、例えば塗工によって形成した導電性接着シートおよび電磁波シールドシートが、湿熱経時処理や折り曲げた後でも高い接続信頼性を有する導電性接着剤の提供を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電磁波シールドシートの層構成を示す断面図。
【図2】プリント配線板の断面図。
【図3】プリント配線板の断面図。
【図4】導電性接着シート及び電磁波シールドシートの接続信頼性試験の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明で用いる用語を説明する。シートは、フィルムおよびテープと同義語である。被着体は、シートを貼り付ける相手方をいう。
【0019】
本発明の導電性接着剤は、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、導電性複合微粒子(単に「導電性微粒子」ということがある)とを含有する。導電性接着剤は、例えば、剥離シート上に塗工することで、導電性接着剤層(単に「導電層」ということがある)を形成し、導電性接着シートとして使用することができる。導電性接着シートは、さらに絶縁層を備えることで電磁波シールドシートとして使用することができる。
【0020】
<導電性接着剤>
《熱硬化性樹脂》
熱硬化性樹脂は、カルボキシル基を有することを特徴とする。カルボキシル基は加熱により硬化剤と反応して導電性接着剤層を硬化し、接着させる役割を持つ。さらに、導電性複合微粒子の表面に存在する銅原子とキレート結合して導電性接着剤中の導電性複合微粒子を分散安定化させる役割を持つと同時に、導電性接着剤中における導電性微粒子の沈降を抑制し塗工スジなどの塗工欠点の発生を抑制する効果がある。カルボキシル基を有さない熱硬化性樹脂では上記の効果を得ることができない。
熱硬化性樹脂は、カルボキシル基の他に硬化剤と反応可能な他の官能基を複数有することができる。官能基は、例えば、水酸基、フェノール性水酸基、メトキシメチル基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、オキサジン基、アジリジン基、チオール基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、シラノール基等が挙げられる。
熱硬化性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、エポキシ化合物、オキセタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ピペラジンポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール系樹脂、付加型エステル樹脂、縮合型エステル樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸樹脂、オキサゾリン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の公知の樹脂が挙げられる。これらの中でも分散安定性と接着強度の点から、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、付加型エステル樹脂、エポキシ化合物、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ピペラジンポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂は、単独または2種類以上併用できる。
【0021】
熱硬化性樹脂の酸価は、3?100mgKOH/gが好ましく、5?70mgKOH/gがより好ましい。特に好ましくは、3?40mgKOH/gである。熱硬化性樹脂の酸価を3?100mgKOH/gの範囲にすることで導電性微粒子の分散安定性と、湿熱経時後の接続信頼性がより向上する。
【0022】
熱硬化性樹脂のガラス転移温度は-30?30℃が好ましく、-20?20℃がより好ましい。ガラス転移温度を-30?30℃の範囲にすることで、折り曲げ後の接続信頼性および接着強度がより向上する。
【0023】
熱硬化性樹脂の重量平均分子量は、20,000?100,000が好ましい。重量平均分子量は、20,000?100,000とすることで、折り曲げ後の接続信頼性および接着強度がより向上する
【0024】
本発明では熱硬化性樹脂に加え、熱可塑性樹脂を併用できる。
熱可塑性樹脂としては、前記硬化性官能基を有しないポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ジエン系樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、α-オレフィン化合物などのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレンプロピレンゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、α-オレフィンポリマー等が挙げられる。
ビニル系樹脂は、酢酸ビニルなどのビニルエステルの重合により得られるポリマーおよびビニルエステルとエチレンなどのオレフィン化合物とのコポリマーが好ましい。具体的には、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、部分ケン化ポリビニルアルコール等が挙げられる。
スチレン・アクリル系樹脂は、スチレンや(メタ)アクリロニトリル、アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド類などからなるホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。具体的には、例えば、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリルコポリマー、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。ジエン系樹脂は、ブタジエンやイソプレン等の共役ジエン化合物のホモポリマーまたはコポリマーおよびそれらの水素添加物が好ましい。具体的には、例えば、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンブロックコポリマー等が挙げられる。テルペン樹脂は、テルペン類からなるポリマーまたはその水素添加物が好ましい。具体的には、例えば、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂が挙げられる。
石油系樹脂は、ジシクロペンタジエン型石油樹脂、水添石油樹脂が好ましい。セルロース系樹脂は、セルロースアセテートブチレート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAポリカーボネートが好ましい。ポリイミド系樹脂は、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミック酸型ポリイミド樹脂が好ましい。
【0025】
《硬化剤》
硬化剤は、熱硬化性樹脂の官能基と反応可能な官能基を複数有している。硬化剤は、例えばエポキシ化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、アジリジン化合物、有機金属化合物、酸無水物基含有化合物、フェノール化合物等の公知の化合物が挙げられる。
好ましくは、エポキシ化合物、またはアジリジン化合物である。
硬化剤は、単独または2種類以上併用できる。
【0026】
エポキシ化合物としては、例えば、グリジシルエーテル型エポキシ化合物、グリジシルアミン型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、環状脂肪族(脂環型)エポキシ化合物等が好ましい。
【0027】
前記グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、α-ナフトールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型ノボラック型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化フェノールノボラック型エポキシ化合物、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン等が挙げられる。
【0028】
前記グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0029】
前記グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート等が挙げられる。
【0030】
前記環状脂肪族(脂環型)エポキシ化合物としては、例えば、エポキシシクロヘキシルメチル-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(エポキシシクロヘキシル)アジペート等が挙げられる。
これらの中でも、エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、およびテトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンが好ましい。これらのエポキシ化合物を用いることにより、導電性接着剤の湿熱経時後の抵抗値と接着力がより向上する。
【0031】
イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
アミン化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メチレンビス(2-クロロアニリン)、メチレンビス(2-メチル-6-メチルアニリン)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、n-ブチルベンジルフタル酸等が挙げられる。
【0033】
アジリジン化合物としては、例えば、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、N,N’-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)等が挙げられる。
【0034】
有機金属化合物は、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物などが挙げられる。
【0035】
前記有機アルミニウム化合物はアルミニウムキレート化合物が好ましい。アルミニウムキレート化合物は、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジ-n-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジイソブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジ-sec-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムイソプロピレート、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム-sec-ブチレート、アルミニウムエチレート等が挙げられる。
【0036】
前記有機チタン化合物はチタンキレート化合物が好ましい。チタンキレート化合物は、例えば、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタン-1.3-プロパンジオキシビス(エチルアセトアセテート)、ポリチタンアセチルアセチルアセトナート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、ダーシャリーアミルチタネート、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラステアリルチタネート、チタンイソステアレート、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジステアレート、チタニウムステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジイソステアレート、(2-n-ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等が挙げられる。
【0037】
前記有機ジルコニウム化合物はジルコニウムキレート化合物が好ましい。ジルコニウムキレート化合物は、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート、ステアリン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも有機チタン化合物が熱硬化反応性と硬化後の耐熱性の点から好ましい。
【0038】
硬化剤は、熱硬化性樹脂100重量部に対して1?50重量部含むことが好ましく、3?30重量部がより好ましく、3?20重量部がさらに好ましい。
【0039】
《導電性複合微粒子》
導電性複合微粒子は、導電性接着シートおよび電磁波シールドシートの導電層に導電性を付与する機能を有する。導電性複合微粒子は、核体の表面を被覆した被覆層を有する導電性微粒子である。ここで核体は、安価で導電性が高い銅であり、被覆層は、導電性が高く酸価による抵抗値の劣化が少ない銀である。銀は、例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、マンガン、錫、およびインジウム等との合金であってもよい。
核体の銅と被覆層の銀の界面はマイグレーションにより合金化し、銅/銅と銀の合金層/銀の層構成となっているが、銀表面に銅が一部移行している箇所もある。また銅粉を電解メッキする過程において銀被膜の一部にピンホールが形成され銅が露出している。
これら表面に存在する銅は、前述した熱硬化性樹脂のカルボキシル基とキレート結合することで導電性接着剤中における導電性複合微粒子の分散安定化に寄与する。また、導電性接着剤層を熱硬化させる際にこのキレート結合が熱硬化性樹脂との熱架橋剤として働き、硬化後の架橋密度を上げるため、導電層の湿熱経時後の接続信頼性や折り曲げ後の接続信頼性を向上させる。
【0040】
上記導電性複合微粒子表面の銅原子濃度、および銀原子濃度の定量は、ESCAによる微粒子の測定により求めることができる。詳細な条件は後述する。
【0041】
導電性複合微粒子表面の銅原子濃度は、銅原子濃度および銀原子濃度の合計を100%としたときに占める銅原子濃度の割合である。(以下、表面銅濃度と呼ぶ)。
この導電性複合微粒子の表面銅濃度は、5?30%が好ましく、6?25%がより好ましい。表面銅濃度を5%以上にすることで導電性接着剤中の導電性複合微粒子の分散安定性と沈降性を向上することが出来る。30%以下であることにより、粘度安定性に優れた導電性接着剤とすることが出来る。
このように、導電性複合微粒子の表面の銅原子濃度を特定の範囲とすることで、カルボキシル基を有する熱硬化性樹脂とともに用いた場合に、分散安定性だけでなく、導電性接着剤層としたときの湿熱経時試験後や、折り曲げ後の高い接続信頼性を有することができるものとなる。
【0042】
導電性複合微粒子表面の、銅に対する銀の被覆量(銀コート量)は、導電性複合微粒子全体に対して1?15重量%が好ましく、3?10重量%がより好ましい。銀の被覆量を上記の範囲にすることでコストを抑えつつ表面銅濃度が5?30%である導電性微粒子を作製することが容易となる。
【0043】
導電性複合微粒子の形状は、所望の導電性が得られればよく形状は限定されない。具体的には、例えば、球状、フレーク状、葉状、樹枝状、プレート状、針状、棒状、ブドウ状が好ましい。また、これらの異なる形状の導電性複合微粒子を2種類混合しても良い。
導電性複合微粒子は、単独または2種類以上併用できる。
【0044】
導電性複合微粒子の平均粒子径は、D50平均粒子径が、1?100μmであることが好ましく、3?50μmがより好ましく、5?15μmがより好ましい。平均粒子径がこの範囲にあることで沈降性と接着強度に優れたものとすることが出来る。なお、D50平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置によって求めることが出来る。
【0045】
導電性複合微粒子の製造方法は例えば、還元メッキ被覆法、置換メッキ被覆法によって作成することができる。
還元メッキ被覆法は、銅粒子の表面に、還元剤で還元された銀微粒子を緻密に被覆させていく方法であり、例えば、還元剤溶存した水溶液中で金属銅粉と硝酸銀を反応させる方法である(参考文献:特開2000-248303号公報)。
置換メッキ被覆法は、銅粉微粒子の界面で、銀イオンが金属の銅と電子の授受を行い、銀イオンが金属の銀に還元され、代わりに金属の銅が酸化され銅イオンになることで、銅粉微粒子の表面層を銀層とする方法である(参考文献:特開2006-161081号公報)。また、銅粉を水に分散させ、キレート剤を添加した後、水に可溶な銀塩を加えて置換反応させて銅粉粒子の表面層を銀に置換させた後、得られた複合微粒子を溶液から取り出してキレート剤を用いて洗浄することを特徴とする方法もある(参考文献:特開2013-1917号公報等)。
本発明においては、置換メッキ被覆法が製造コストの点から好ましい。
【0046】
本発明において導電層は、等方導電性または異方導電性を有することが好ましい。等方導電性とは、導電性接着シート及び電磁波シールドシートを水平に置いたときに垂直方向(縦方向)と水平方向(面方向)に導電することをいう。また、異方導電とは、導電性接着シート及び電磁波シールドシートを水平に置いたときに垂直方向(縦方向)に導電することをいう。等方導電性は、フレーク状、または樹枝状の導電性微粒子を使用する方法等公知の方法で得られる。また、異方導電性は、球状または樹枝状の導電性微粒子を使用する方法等で得られる。なお、導電層が樹枝状の導電性微粒子を大量に含む場合、等方導電性が得られる。また導電層が樹枝状の導電性微粒子を少量含む場合、異方導電性が得られる。
【0047】
導電性複合微粒子の配合量は、例えば異方導電層を形成する場合、熱硬化性樹脂100重量部に対して、10?200重量部を配合することが好ましく、20?100重量部がより好ましい。また、等方導電層を形成する場合、熱硬化性樹脂100重量部に対して、100?1500重量部を配合することが好ましく、100?1000重量部がより好ましい。
【0048】
導電性接着剤は、他に任意成分としてシランカップリング剤、防錆剤、還元剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング調整剤、充填剤、難燃剤などを配合できる。
【0049】
導電性接着剤は、これまで説明した材料を混合し攪拌して得ることができる。攪拌は、例えばディスパーマット、ホモジナイザー等の公知の攪拌装置を使用できる。
【0050】
本発明の導電性接着剤は、導電性が必要な種々の用途に制限なく使用できる。
主な用途としては、ビアホール用導電ペースト、回路形成用導電ペースト、導電性接着剤等が挙げられる。
また、導電性接着剤を用い、導電性接着シート、または電磁波シールドシートを形成することに適している。
【0051】
<導電性接着シート>
本発明の導電性接着シートは、上述の導電性接着剤から形成してなる導電性接着剤層を備えたものである。導電性接着シートは、導電性接着剤を剥離性シート上に塗工して乾燥することで導電性接着剤層を形成する。また、導電性接着剤層のほかに他の機能層を積層することもできる。機能層とはハードコート性、水蒸気バリア性、酸素バリア性、低誘電率、高誘電率性、耐熱性等を有する層のことである。
【0052】
塗工方法は、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレード方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式等の公知の塗工方法を使用できる。塗工に際して、乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥工程は、例えば、熱風乾燥機、赤外線ヒーター等の公知の乾燥装置を使用できる。
【0053】
導電性接着剤層の厚みは、1?100μmが好ましく、3?50μmがより好ましい。厚みが1?100μmの範囲にあることで導電性と、その他の物性を両立しやすくなる。
【0054】
導電性接着シートの用途としては、異方導電性シート、静電除去シート、グランド接続用シート、メンブレン回路用、導電性ボンディングシート、熱伝導性シート、ジャンパー回路用導電シート等が、好適な例として挙げられる。
【0055】
導電性接着シートを用いてFPCと金属補強板を接着して、FPCを補強しさらに電磁波シールド性を付与する使い方もある。これは、FPCのグランド回路と金属補強板を導電性接着シートによって電気的な接続を取り、その金属補強板をシールド層として機能させるものである。
【0056】
前記FPCは少なくとも絶縁性基材上に配線回路が形成され、その上部にカバーコート層を備えている。前記配線回路はグランド回路を備えグランド回路上のカバーコート層にはグランド接続用のスルーホールが形成されている。前記絶縁性基材は耐熱性の点から、ポリイミドおよび液晶ポリマーが一般的である。
【0057】
前記補強板は、導電性の金属およびその合金が好ましい。具体的にはスレンレス、銅箔、アルミニウムなどが挙げられる。
【0058】
<電磁波シールドシート>
本発明の電磁波シールドシートは、上述の導電性接着剤から形成してなる導電性接着剤層、および絶縁層を備えたものであり、次の2つの態様が好ましい。第一の態様は、図1の(a)に示す通り絶縁層1、および導電性接着剤層2を備えている。また、第二の態様は、図1の(b)に示す通り絶縁層1、金属層3、および導電層2を備えている。
【0059】
金属層を使用すると電磁波をさらに高いレベルでシールドできるところ、特に高周波(例えば、1GHz?100GHz)の信号を伝送する配線板でノイズ等をより抑制できるため、金属層の厚みは、10nm?20μmが好ましい。
【0060】
金属層は、例えば金属箔、金属蒸着膜、金属スパッタ膜を使用できる。
金属箔に使用する金属は、例えばアルミニウム、銅、銀、金等の導電性金属が好ましく、シールド性、接続信頼性およびコストの面から銅、銀、アルミニウムがより好ましく、銅がさらに好ましい。銅は、例えば、圧延銅箔または電解銅箔を使用することが好ましく、電解銅箔がより好ましい。電解銅箔を使用すると金属層の厚さをより薄くできる。また、金属箔はメッキで形成してもよい。金属箔の厚みは0.1?10μmが好ましく、0.5?5μmがより好ましい。
金属蒸着膜に使用する金属は、例えばアルミニウム、銅、銀、金が好ましく、銅、銀がより好ましい。金属蒸着膜の厚みは、0.1?3μmが好ましい。
金属スパッタ膜に使用する金属は、例えばアルミニウム、銅、銀、クロム、金、鉄、パラジウム、ニッケル、白金、銀、亜鉛、酸化インジウム、アンチモンドープ酸価錫が好ましく、銅、銀がより好ましい。金属スパッタ膜の厚みは、10?1000nmが好ましい。
電磁波シールドシートは第二の態様を採用するとシールド効果がさらに向上する。
【0061】
絶縁層は、絶縁性樹脂組成物を使用して導電性接着剤層と同様の方法で作成することができる。または、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の絶縁性樹脂を成形したフィルムを使用することもできる。
【0062】
絶縁層の厚みは、通常2?10μm程度である。
【0063】
電磁波シールドシートの第一の態様の作製方法を説明する。具体的には、導電性接着剤層と絶縁層とを貼り合わせて作製できる。また、導電性接着剤層に絶縁性樹脂組成物を塗工することで絶縁層を形成することもできる。
【0064】
電磁波シールドシートの第二の態様の作製方法を説明する。具体的には、剥離性シート上に導電性接着剤層を形成し、銅キャリア付電解銅箔の電解銅箔面側に導電性接着剤層を重ねてラミネートした後に、銅キャリアを剥がす。そして、銅キャリアを剥がした面と、別途剥離性シート上に形成した絶縁層とを重ねてラミネートする方法がある。また、剥離性シート上に導電性接着剤層を形成し、その表面に無電解メッキ処理により金属層を形成し、別途剥離性シート上に形成した絶縁層と前記金属層とを重ねてラミネートする方法等が挙げられる。
【0065】
電磁波シールドシートは、導電性接着剤層に含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤が未硬化状態で存在し、配線板と加熱圧着により硬化することで、所望の接着強度を得ることが出来る。なお、前記未硬化状態は、硬化剤の一部が硬化した半硬化状態を含む。
【0066】
剥離性シートは、紙やプラスチック等の基材に、公知の剥離処理を行ったシートである。
【0067】
なお電磁波シールドシートは、異物の付着を防止するため、導電性接着剤層および絶縁層に剥離性シートを貼り付けた状態で保存することが一般的である。
【0068】
電磁波シールドシートは、導電性接着剤層および絶縁層のほかに、他の機能層を備えることができる。他の機能層とは、ハードコート性、水蒸気バリア性、酸素バリア性、熱伝導性、低誘電率、高誘電率性または耐熱性等の機能を有する層である。
【0069】
本発明の電磁波シールドシートは、電磁波をシールドする必要がある様々な用途に使用できる。例えば、フレキシブルプリント配線板は元より、リジッドプリント配線板、COF(Chip On Film)、TAB(Tape Automated Bonding)、フレキシブルコネクタ、液晶ディスプレイ、タッチパネル等に使用できる。また、パソコンのケース、建材の壁および窓ガラス等の建材、車両、船舶、航空機等の電磁波を遮蔽する部材としても使用できる。
【0070】
<プリント配線板>
本発明のプリント配線板は、導電性接着シートまたは電磁波シールドシートと、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するものであることが好ましい。
また、電磁波シールドシートと、絶縁層(カバーコート層)と、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するものであっても良い。
【0071】
本発明のプリント配線板は、液晶ディスプレイ、タッチパネル等のほか、ノートPC、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の電子機器に搭載されることが好ましい。
【0072】
導電性接着シートを備えた態様(A態様)、および電磁波シールドシートを備えた態様(B態様)について詳述する。
【0073】
《導電性接着シートを備えた態様(A態様)》
A態様であるプリント配線板4は、図2に示す通り、配線板7と、金属補強板6と導電性接着シート5を備えている。また、導電性接着シート5は、配線板7の絶縁層(カバーコート層)8aおよび8b、ならびにグランド配線11と接着できる。また、導電性接着シートを備えたプリント配線板の態様が、図2に限定されないことは言うまでも無い。
【0074】
プリント配線板4の実施態様をさらに説明する。配線板7は、絶縁性基材10と接する面であって金属補強板6と対向する面に電子部品13を実装することで、プリント配線板4に必要な強度が得られる。金属補強板6を備えることで、プリント配線板4に曲げ等の力が加わった際の半田接着部位、ないし絶縁性基材10に対するダメージを防止できる。また、導電性接着シート5は、プリント配線板4の上方向から下方向に対する電磁波をシールドすることができる。
【0075】
金属補強板6の金属板6aは、例えば金、銀、銅、鉄およびステンレス等の導電性金属が挙げられる。これらの中で補強板としての強度、コストおよび化学的安定性の面でステンレスが好ましい。金属補強板6の厚みは、一般的に0.04?1mm程度である。
金属補強板6は、その表面に、金、ニッケル、パラジウム等のメッキ層6bを備えることもできる。メッキ層6bを備えることで、金属補強板6の酸化や腐食を防ぎ、より高い導電安定性が得られる。なお、図示しないが金属補強板6は、メッキ層6bを有しなくとも良い。
【0076】
配線板7は、絶縁層(カバーコート層)8aおよび8b、接着剤層9aおよび9b、ならびにグランド配線11、ならびに信号配線12、ならびに絶縁性基材10を備えている。また配線板7は、ビア14(Via)といわれる円柱状ないしすり鉢状の穴を備えている。なおグランド配線および信号配線を総称して配線回路という。
【0077】
絶縁層8aおよび8bは、カバーコート層ともいい、少なくとも樹脂を含む。樹脂は、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、イレタンウレア樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アミドイミド樹脂およびフェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および紫外線硬化性樹脂から適宜選択して使用できるが、耐熱性の面で熱硬化性樹脂が好ましい。これらの樹脂は、単独または2種類以上を併用できる。絶縁層(カバーコート層)8aおよび8bの厚みは、通常5?50μm程度である。
【0078】
接着剤層9aおよび9bは、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、およびアミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化樹脂に使用する硬化剤は、エポキシ硬化剤、イソシアネート硬化剤、およびアリジリン硬化剤等が挙げられる。接着剤層9aおよび9bは、絶縁層(カバーコート層)8aおよび8bと、グランド配線11および配線回路12を備えた絶縁性基材9とを接着するために使用し、絶縁性を有する。接着剤層9aおよび9bの厚みは、通常1?20μm程度である。
【0079】
グランド配線11および信号配線12は、銅等の金属箔をエッチングして形成する方法、ないし導電性ペーストを印刷することで形成する方法が一般的である。図示はしないが配線板7は、グランド配線および信号配線を複数有することができる。グランド配線は、グランド電位を保つ回路であり、信号配線は、電子部品等に電気信号を送信する回路である。グランド配線11および信号配線12の厚みは、それぞれ通常5?50μm程度である。
【0080】
絶縁性基材10は、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレート等の絶縁性を有するフィルムであり、配線板7のベース材である。絶縁性基材10は、リフロー工程を行なう場合、ポリフェレンサルファイドおよびポリイミドが好ましく、リフロー工程を行なわない場合、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。絶縁性基材10の厚みは、通常5?100μm程度である。また、プリント配線板がリジッド配線板の場合、絶縁性基材10は、ガラスエポキシが好ましい。
【0081】
ビア14は、グランド配線11および信号配線12から適宜選択した回路パターンの一部を露出するためにエッチングやレーザー等により形成される。図2によるとビア14によりグランド配線11の一部が露出しており導電性接着剤層5を介してグランド配線11と金属補強板6とが電気的に接続されている。ビア14の直径は、通常0.5?2mm程度である。
【0082】
本発明のプリント配線板の製造方法は、少なくとも配線板7、導電性接着シート5、および金属補強板6を圧着する工程を備えていることが必要である。圧着は、例えば、配線板7と導電性接着シート5および金属補強板6を重ね圧着を行い、次いで電子部品を実装する方法が挙げられるが、圧着の順序は限定されない。
本発明では配線板7、導電性接着シート5、および金属補強板6を圧着する工程を備えていれば良く、他の工程は、プリント配線板の構成ないし使用態様に応じて適宜変更できる。
前記圧着は、導電性接着シート5が熱硬化型樹脂を含むため、硬化促進の観点から同時に加熱することが特に好ましい。導電性接着シート5が、さらに熱可塑性樹脂を含む場合であっても密着が強固になり易いため加熱することが好ましい。加熱は130?210℃が好ましく、140?200℃がより好ましい。また、圧着は、2?120kg/cm^(2)が好ましく、3?40kg/cm^(2)がより好ましい。
圧着装置は、平板圧着機またはロール圧着機を使用できるが、平板圧着機を使用する場合、一定の圧力を一定の時間かけることができるため好ましい。圧着時間は、配線回路基板6、導電性接着剤層5、および金属補強板6が十分密着すればよいので特に限定されないが、通常30分?2時間程度である。
【0083】
《電磁波シールドシートを備えた態様(B態様)》
B態様であるプリント配線板15は、図3に示す通り、配線板7と、電磁波シールドシートである導電性接着剤層2、金属層3、および絶縁層1とを備えている。なお、図示しないが、電磁波シールドシートは、絶縁層1、および導電性接着剤層2を含む構成も好ましい。
また、電磁波シールドシートを備えたプリント配線板の態様が、図3に限定されないことは言うまでも無い。
【0084】
絶縁層(カバーコート層)8aおよび8bは、配線板の信号配線を覆い外部環境から保護する絶縁材料である。絶縁層(カバーコート層)8aおよび8bは、熱硬化性樹脂付きポリイミドフィルム、熱硬化型または紫外線硬化型のソルダーレジスト、感光性カバーレイフィルムが好ましく、微細加工をするためには感光性カバーレイフィルムがより好ましい。
【0085】
信号配線は、アースを取るグランド配線11、電子部品に電気信号を送る信号配線12を有する。両者は銅箔をエッチング処理することで形成することが一般的である。
絶縁性基材10は、配線板がフレキシブルプリント配線板(FPC)である場合、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の屈曲可能なプラスチックが好ましく、ポリイミドがより好ましい。また、配線板がリジッド配線板の場合、絶縁性基材10の構成材料は、ガラスエポキシが好ましい。これらのような絶縁性基材10を備えることで配線板は高い耐熱性が得られる。
【0086】
電磁波シールドシートと、配線板7との加熱圧着は、温度150?190℃程度、圧力1?3MPa程度、時間1?60分程度の条件で行うことが一般的である。加熱圧着により導電性接着剤層2と絶縁層(カバーコート層)8aおよび8bが密着するとともに、導電性接着剤層2が流動してビア14を埋めることでグランド配線11との間で導通が取れる。さらに加熱圧着により熱硬化性樹脂と硬化剤が反応する。なお、硬化を促進させるため、加熱圧着後に150?190℃で30?90分間ポストキュアを行う場合もある。なお、電磁波シールドシートは、加熱圧着後に電磁波シールド層ということがある。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、部は重量部、%は重量%を意味する。また、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量をあらわす。
【0088】
樹脂の酸価、樹脂のガラス転移温度(Tg)、樹脂の重量平均分子量、導電性複合微粒子の表面銅濃度、および導電性複合微粒子の平均粒子径は以下の方法で測定した。
【0089】
<樹脂の酸価測定>
酸価はJIS K0070に準じて測定した。共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、テトラヒドロフラン/エタノール(容量比:テトラヒドロフラン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、指示薬が淡紅色を30秒間保持した時を終点とした。酸価は次式により求めた固形分酸価である(単位:mgKOH/g)。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価」
【0090】
<樹脂のガラス転移温度(Tg)>
Tgの測定は、示差走査熱量測定(メトラー・トレド社製「DSC-1」)によって測定した。
【0091】
<樹脂の重量平均分子量(Mw)>
Mwの測定は東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC-8020」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「LF-604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6ml/min、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。
【0092】
<導電性複合微粒子の表面銅濃度>
導電性複合微粒子の表面銅濃度は、X線光電子分光分析(ESCA)で測定した。専用台座に両面粘着テープを貼り、導電性複合微粒子を均一に付着させ、余分をエアーで除去したものを測定試料とした。測定試料を下記条件で、3箇所場所を変えて測定した。
装置:AXIS-HS(島津製作所社製/Kratos)
試料チャンバー内真空度:1×10^(-8)Torr以下
X線源:Dual(Mg)15kV,5mA Pass energy 80eV
Step:0.1 eV/Step
Speed:120秒/元素
Dell:300、積算回数:5
光電子取り出し角:試料表面に対して90度
結合エネルギー:C1s主ピークを284.6eVとしてシフト補正
Cu(2p)ピーク領域:926?936eV
Ag(3d)ピーク領域:376?362eV
【0093】
上記ピーク領域に出現したピークをスムージング処理し、直線法にてベースラインを引き、銀と銅の原子濃度「Atomic Conc」を求めた。
得られた銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中の銅原子濃度について、3箇所の値の平均値を求め、導電性複合微粒子の表面銅濃度[Cu]とした。
【0094】
<導電性複合微粒子の平均粒子径>
平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LS13320(ベックマン・コールター社製)を使用し、トルネードドライパウダーサンプルモジュールにて、導電性複合微粒子を測定して得たD50平均粒子径の数値であり、粒子径累積分布における累積値が50%の粒子径である。屈折率の設定は1.6とした。
【0095】
以下、実施例で使用した材料を示す。
【0096】
<熱硬化性樹脂の合成>
[合成例1]
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、アジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンカーボネートジオールとから得られるMn=981であるジオール432部、イソホロンジイソシアネート137部、及びトルエン40部を仕込み、窒素雰囲気下90℃で3時間反応させた。これに、トルエン300部を加えて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの溶液を得た。次に、イソホロンジアミン25部、ジ-n-ブチルアミン3部、2-プロパノール342部、及びトルエン576部を混合したものに、得られたウレタンプレポリマーの溶液818部を添加し、70℃で3時間反応させポリウレタンポリウレア樹脂の溶液を得た。これに、トルエン144部、2-プロパノール72部を加えて、固形分30%であるポリウレタン樹脂(熱硬化性樹脂1)溶液を得た。重量平均分子量は48,000、Tgは-20℃、酸価は0mgKOH/gであった。
【0097】
[合成例2]
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、アジピン酸とテレフタル酸及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールから得られる数平均分子量(以下、「Mn」という)=1006であるジオール414部、ジメチロールブタン酸8部、イソホロンジイソシアネート145部、及びトルエン40部を仕込み、窒素雰囲気下90℃で3時間反応させた。これに、トルエン300部を加えて、末端にイソシアネート基を
有するウレタンプレポリマーの溶液を得た。次に、イソホロンジアミン27部、ジ-n-ブチルアミン3部、2-プロパノール342部、及びトルエン576部を混合したものに、得られたウレタンプレポリマーの溶液816部を添加し、70℃で3時間反応させ、ポリウレタン樹脂の溶液を得た。これに、トルエン144部、2-プロパノール72部を加えて、固形分30%であるポリウレタン樹脂(熱硬化性樹脂2)溶液を得た。重量平均分子量は54,000、Tgは-7℃、酸価は2mgKOH/gであった。
【0098】
[合成例3]
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、アジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンカーボネートジオールとから得られるMn=981であるジオール390部、ジメチロールブタン酸16部、イソホロンジイソシアネート158部、及びトルエン40部を仕込み、窒素雰囲気下90℃で3時間反応させた。これに、トルエン300部を加えて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの溶液を得た。次に、イソホロンジアミン29部、ジ-n-ブチルアミン3部、2-プロノール342部、及びトルエン576部を混合したものに、得られたウレタンプレポリマーの溶液814部を添加し、70℃で3時間反応させ、ポリウレタン樹脂の溶液を得た。これに、トルエン144部、2-プロパノール72部を加えて、固形分30%であるポリウレタン樹脂(熱硬化性樹脂3)溶液を得た。重量平均分子量は43,000、Tgは-5℃、酸価は5mgKOH/gであった。
【0099】
[合成例4]
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、アジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールとから得られるMn=1002であるジオール352部、ジメチロールブタン酸32部、イソホロンジイソシアネート176部、及びトルエン40部を仕込み、窒素雰囲気下90℃で3時間反応させた。これに、トルエン300部を加えて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの溶液を得た。次に、イソホロンジアミン32部、ジ-n-ブチルアミン4部、2-プロパノール342部、及びトルエン576部を混合したものに、得られたウレタンプレポリマーの溶液810部を添加し、70℃で3時間反応させ、ポリウレタンポリウレア樹脂の溶液を得た。これに、トルエン144部、2-プロパノール72部を加えて、固形分30%であるポリウレタン樹脂(熱硬化性樹脂4)溶液を得た。重量平均分子量は35,000、Tgは-1℃、酸価は21mgKOH/gであった。
【0100】
[合成例5]
攪拌機、温度計、滴下装置、還流冷却器、ガス導入管を備えた反応容器に、水酸基価110mgKOH/gのポリテトラメチレングリコール101.1部、ジメチロールブタン酸21.9部、溶剤としてメチルエチルケトン60部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら60℃まで加熱し、均一になるまで溶解した。続いてこの反応容器に、イソホロンジイソシアネート52.1部を投入し、80℃で8時間反応を行った。室温に冷却後、メチルエチルケトンで希釈することで固形分50%のカルボキシル基を含有するポリウレタン樹脂(熱硬化性樹脂5)溶液を得た。重量平均分子量は28,000、Tgは-10℃、酸価は47mgKOH/gであった。
【0101】
[合成例6]
攪拌機、温度計、滴下装置、還流冷却器、ガス導入管を備えた反応容器にメチルエチルケトン50部を入れ、容器に窒素ガスを注入しながら80℃に加熱して、同温度でメタクリル酸3部、nーブチルメタクリレート32部、ラウリルメタクリレート65部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル4部の混合物を1時間かけて滴下して重合反応を行った。滴下終了後、さらに80℃で3時間反応させた後、アゾビスイソブチロニトリル1部をメチルエチルケトン50部に溶解させたものを添加し、さらに80℃で1時間反応を継続した後、室温まで冷却した。次いでメチルエチルケトンで希釈することで固形分30%のカルボキシル基を含有するアクリル樹脂(熱硬化性樹脂6)溶液を得た。重量平均分子量は27,000、Tgは-11℃、酸価は20mgKOH/gであった。
【0102】
[合成例7]
攪拌機、温度計、滴下装置、還流冷却器、ガス導入管を備えた反応容器にメチルエチルケトン50部を入れ、容器に窒素ガスを注入しながら80℃に加熱して、同温度でメタクリル酸3部、nーブチルメタクリレート72部、ラウリルメタクリレート25部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル4部の混合物を1時間かけて滴下して重合反応を行った。滴下終了後、さらに80℃で3時間反応させた後、アゾビスイソブチロニトリル1部をメチルエチルケトン50部に溶解させたものを添加し、さらに80℃で1時間反応を継続した後、室温まで冷却した。次いでメチルエチルケトンで希釈することで固形分30%のカルボキシル基を含有するアクリル樹脂(熱硬化性樹脂7)を得た。重量平均分子量は24,000、Tgは-40℃、酸価は20mgKOH/gであった。
【0103】
[合成例8]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、ポリカーボネートジオ-ル(クラレポリオールC-2020)193.8部、主鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸(リカシッドTH:新日本理化株式会社製)29.2部、溶剤としてトルエン350部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いてこのフラスコを110℃に昇温し、3時間反応させた。その後、40℃に冷却後、ビスフェノールA型エポキシ化合物(YD-8125:新日鐵化学株式会社製:エポキシ当量=175g/eq)34.2部、触媒としてトリフェニルホスフィン4部を添加して110℃に昇温し、8時間反応させた。室温まで冷却後、側鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸15.21部を添加し、110℃で3時間反応させた。室温まで冷却後、トルエンで固形分30%になるよう調整し、付加型ポリエステル樹脂溶液(熱硬化性樹脂8)を得た。重量平均分子量は50,000、Tgは22℃、酸価は19mgKOH/gであった。
【0104】
[合成例9]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、ポリカーボネートジオ-ル(クラレポリオールC-2041)191.3部、主鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸(リカシッドHNA-100:新日本理化株式会社製)34.6部、溶剤としてトルエン350部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いてこのフラスコを110℃に昇温し、3時間反応させた。その後、40℃に冷却後、ビスフェノールA型エポキシ化合物(YD-8125:新日鐵化学株式会社製:エポキシ当量=175g/eq)31.9部、触媒としてトリフェニルホスフィン4部を添加して110℃に昇温し、8時間反応させた。室温まで冷却後、側鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸16.78部を添加し、110℃で3時間反応させた。室温まで冷却後、トルエンで固形分30%になるよう調整し、付加型ポリエステル樹脂(熱硬化性樹脂9)溶液を得た。重量平均分子量は132,000、Tgは-15℃、酸価は20mgKOH/gであった。
【0105】
[合成例10]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、ポリカーボネートジオ-ル(クラレポリオールC-2090)195.1部、主鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸(リカシッドTH:新日本理化株式会社製)29.2部、溶剤としてトルエン350部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いてこのフラスコを110℃に昇温し、3時間反応させた。その後、40℃に冷却後、ビスフェノールA型エポキシ化合物(YD-8125:新日鐵化学株式会社製:エポキシ当量=175g/eq)26部、触媒としてトリフェニルホスフィン4部を添加して110℃に昇温し、8時間反応させた。室温まで冷却後、側鎖用の酸無水物基含有化合物としてテトラヒドロ無水フタル酸11.56部を添加し、110℃で3時間反応させた。室温まで冷却後、トルエンで固形分30%になるよう調整し、付加型ポリエステル樹脂溶液(熱硬化性樹脂10)を得た。重量平均分子量は15,000、Tgは-25℃、酸価は25mgKOH/gであった。
【0106】
[合成例11]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、プリポール1009を173.5部、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン「ビスアニリンM」(三井化学ファイン株式会社製)95.7部、イオン交換水を100部仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2KPaの真空下で、1時間保持した。その後、温度を低下し、シクロヘキサノン219部で希釈して、ポリアミド樹脂(熱硬化性樹脂11)溶液を得た。重量平均分子量は28,000、Tgは40℃、酸価は8mgKOH/gであった。
【0107】
[合成例12]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、セバシン酸54.5部、5-ヒドロキシイソフタル酸5.5部、ダイマージアミン「プリアミン1074」(クローダジャパン株式会社製、アミン価210.0mgKOH/g)148.4部、イオン交換水を100部仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分ごとに10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2KPaの真空下で、1時間保持した。その後、温度を低下し、トルエン146部、2-プロパノール146部で希釈して、ポリアミド樹脂(熱硬化性樹脂12)溶液を得た。重量平均分子量は36000、Tgは5℃、酸価は12mgKOH/gであった。
【0108】
[合成例13]
攪拌機及び還流脱水装置を備えたフラスコに、ジカルボン酸成分としてダイマー酸(クローダージャパン社製、Pripol1009)100重量部、及びジアミン成分としてピペラジン14.89重量部を仕込んだ。115℃/時間の割合で230℃にまで昇温し、6時間反応を継続してポリアミド樹脂(熱硬化性樹脂13)を得た。重量平均分子量は29,000、Tgは15℃、酸価は7mgKOH/gであった。
【0109】
合成例1?13で得られた熱硬化性樹脂を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
<導電性複合微粒子>
導電性微粒子は置換メッキ被覆法によって、銅の核体に銀の被覆層を形成した複合微粒子を用いた。実施例で使用した導電性複合微粒子を表2に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
<硬化剤>
エポキシ化合物:ビスフェノールAタイプエポキシ
(「アデカレジンEP-4100」、エポキシ当量=190g/eq、ADEKA社製)
アジリジン化合物:「ケミタイトPZ-33」日本触媒社製
<その他>
銅害防止剤:デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド
【0114】
<実施例1>
[導電性接着剤の作製]
熱硬化性樹脂2を100部、導電性複合微粒子5を400部、硬化剤としてエポキシ化合物30部およびアジリジン化合物2.0部、銅害防止剤1.0部を容器に仕込み、不揮発分濃度が45重量%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(重量比2:1)の混合溶剤を加えディスパーで10分攪拌することで導電性接着剤を得た。
【0115】
[導電性接着シートの作製]
導電性接着剤を剥離性シート上に、乾燥厚みが60μmになるようにドクターブレードを使用して塗工し、さらに100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで等方導電性を有する導電性接着シートを得た。
【0116】
[電磁波シールドシートの作製]
導電性接着剤を剥離性シート上に、乾燥厚みが10μmになるようにドクターブレードを使用して塗工し、さらに100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで等方導電性を有する導電性接着剤層を得た。
別途、熱硬化性樹脂3を100部、エポキシ化合物10部およびアジリジン化合物10部を加えディスパーで10分攪拌して絶縁性樹脂組成物を得た。得られた絶縁性樹脂組成物をバーコーターを使用して乾燥厚みが10μmになるように剥離性シート上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで絶縁層を得た。さらに導電接着剤層に絶縁層を貼り合わせることで電磁波シールドシートを得た。
ただし、実施例1は参考例である。
【0117】
<実施例2?19、比較例1?2>
実施例1の導電性接着剤の組成、および配合量(固形分重量)を表3、4記載のものに変更した以外は実施例1と同様にして、導電性接着剤、導電性接着シートおよび電磁波シールドシートを得た。
【0118】
<実施例20>
[導電性接着剤の作製]
熱硬化性樹脂3を100部、導電性複合微粒子5を60部、硬化剤としてエポキシ化合物30部およびアジリジン化合物2.0部、銅害防止剤1.0部を容器に仕込み、不揮発分濃度が45重量%になるようトルエン:イソプロピルアルコール(重量比2:1)の混合溶剤を加えディスパーで10分攪拌することで導電性接着剤を得た。
【0119】
[電磁波シールドシートの作製]
得られた導電性接着剤をバーコーターを使用して乾燥厚みが10μmになるように剥離性シート上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで異方導電性を有する導電性接着剤層を得た。
別途、熱硬化性樹脂3を100部、エポキシ化合物10部およびアジリジン硬化剤10部を加えディスパーで10分攪拌することで絶縁性樹脂組成物を得た。次いで得られた絶縁性樹脂組成物をバーコーターを使用して乾燥厚みが5μmになるように剥離性シート上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで絶縁層を得た。次いで、厚さ3μmの電解銅箔の一方の面に前述した導電性接着層を貼り合わせた後、電解銅箔の他方の面に絶縁層を貼り合わせることで剥離性シート/絶縁層/電解銅箔/導電性接着層/剥離性シートの構成の電磁波シールドシートを得た。
【0120】
<実施例21?22、比較例3?4>
実施例20の導電性接着剤の組成、および配合量(固形分重量)を、表4のように変更した以外は実施例20と同様にして、導電性接着剤、および電磁波シールドシートを得た。
【0121】
<評価方法>
実施例および比較例で得られた導電性接着剤、導電性シート、および電磁波シールドシートの評価を下記の方法で行なった。表3、4に評価結果を示す。
【0122】
[導電性接着剤]
《分散安定性の評価》
導電性接着シート及び電磁波シールドシートは、導電性接着剤を塗工して形成するが、導電性接着剤の分散安定性が不十分である場合、導電性微粒子が凝集し塗工スジや欠点が発生し導電性接着シートや電磁波シールドシートの生産収率を下げてしまう。
作製直後と室温40度のオーブンにて24時間静置した導電性接着剤を粒ゲージを用いて粒度を測定した。測定前処理としてミックスローターで30分攪拌した。また、測定基準はJIS規格K5600-2-5に準拠した。下記式にて粒度の変化率を算出した。
粒度の変化率(%)=40度24時間後の粒度/初期粒度×100
評価基準は以下の通りである。
◎:粒度の変化率が110%未満。良好な結果である。
○:粒度の変化率が110%以上、150%未満。実用上問題ない。
×:粒度の変化率が150%以上。実用不可。
【0123】
《沈降性の評価》
導電性接着シート及び電磁波シールドシートは、導電性接着剤を塗工して形成するが、導電性接着剤の導電性微粒子の分散状態が不安定であると、導電性微粒子の沈降が早く塗工液が不均一となり塗工ムラが発生してしまい、生産の収率が悪化する。
作製直後の導電性接着剤を140mlマヨビンに仕込み、室温25度の恒温環境にて24時間静置し、導電性微粒子の沈降状態を評価した。
評価基準は以下の通りである。
◎:外観の変化なく、導電性接着剤にヘラを刺しても立たない。良好な結果である。
○:沈降層と上澄みの2層に分離しているが導電性接着剤にヘラを指しても立たず、攪拌すると1層へ均一に戻る。実用上問題ない。
×:沈降層と上澄みの2層に分離しており、導電性接着剤にヘラを突き刺すとヘラが立つ程のハードケーキ状態。攪拌しても1層へ均一に戻らない。実用不可。
【0124】
[導電性接着シート]
《初期接続信頼性》
金属補強板が電磁波シールド性を発現するためには金属補強板が導電性接着シートを介してグランド回路に接続し導通パスが確保されていることが重要である。グランド回路上に設置されたカバーレイ層のスルーホールから導電性接着剤が充填され接着することで導通が確保されるが、スルーホールへの埋め込み性と接着性が十分でないと、電磁波シールド性、つまり初期の接続信頼性が悪化してしまう。
幅15mm・長さ20mmの導電性接着シートと、幅20mm・長さ20mmのSUS板(厚さ0.2mmの市販のSUS304板の表面に厚さ2μmのニッケル層を形成したもの)を重ねて、ロールラミネーターで90℃、3Kgf/cm^(2)、1M/minの条件で貼り付けて試料を得た。
図4(1)?(6)の平面図を示して説明すると試料から剥離性フィルムを剥がし、露出した面を別に作製したフレキシブルプリント配線板(厚み25μmのポリイミドフィルム21上に、互いに電気的に接続されていない厚み18μmの銅箔回路22A、および銅箔回路22Bが形成されており、銅箔回路22A上に、接着剤付きの、厚み37.5μm、直径1.2mmのスルーホール24を有するカバーフィルム23が積層された配線板)にロールラミネーターで90℃、3Kgf/cm^(2)、1M/minの条件で貼り付けた。
そして、これらを170℃、2MPa、5分の条件で圧着をした後、160℃の電気オーブンで60分間加熱を行なうことで測定試料を得た。
次いで、図4(4)の平面図に示す22A-22B間の初期接続信頼性を、抵抗値測定器とBSPプローブを用いて接続抵抗値を測定することにより評価した。なお、図4(2)は、図4(1)のD-D’断面図、図4(3)は図4(1)のC-C’断面図である。
同様に図4(5)は、図4(4)のD-D’断面図、図4(6)は図4(4)のC-C’断面図である。
評価基準は以下の通りである。
◎:接続抵抗値が20mΩ/□未満。良好な結果である。
○:接続抵抗値が20mΩ/□以上、300mΩ/□未満。実用上問題ない。
×:接続抵抗値が300mΩ/□以上。実用不可。
【0125】
《湿熱経時後の接続信頼性》
FPCが組み込まれた電子部品は多様な環境下で使用される。耐湿熱経時後の接続信頼性が十分でないと、たとえば高温多湿な環境で長時間使用された際に、電磁波シールド性が悪化し、貼り付けた信号回路の周波数特性が悪化してしまう。
初期接続信頼性の試験で作成した測定試料を85℃85%のオーブンに500時間投入した。その後、図4(4)の平面図に示す22A-22B間の接続信頼性(湿熱経時後の接続信頼性)を、抵抗値測定器とBSPプローブを用いて抵抗値を測定することにより湿熱経時後の接続信頼性を評価した。
評価基準は以下の通りである。
◎:接続抵抗値が20mΩ/□未満。良好な結果である。
○:接続抵抗値が20mΩ/□以上、300mΩ/□未満。実用上問題ない。
×:接続抵抗値が300mΩ/□以上。実用不可
【0126】
[電磁波シールドシート]
《折り曲げ後の接続信頼性》
FPCに張り付けられた電磁波シールドシートは、通常折り曲げた状態で電子部品に組み込まれる。折り曲げ後の電磁波シールド性、つまり接続信頼性が十分でないと、信号回路から発生するノイズをシールドできないため周辺の電子機器の誤作動を招いてしまう。
電磁波シールドシートを幅20mm、長さ50mmの大きさに準備し試料とした。図4(1)?(3)および(7)?(9)の平面図を示して説明すると試料から剥離性フィルムを剥がし、露出した導電性接着剤層26bを、別に作製したフレキシブルプリント配線板(厚み25μmのポリイミドフィルム21上に、互いに電気的に接続されていない厚み18μmの銅箔回路22A、および銅箔回路22Bが形成されており、銅箔回路22A上に、接着剤付きの、厚み37.5μm、直径1.2mmのスルーホール24を有するカバーフィルム23が積層された配線板に150℃、2MPa、30minの条件で圧着し、導電性接着剤層26bおよび絶縁層26aを硬化させることで試料を得た。次いで、試料の絶縁層26a側の剥離性フィルムを除去し、図4(7)の平面図に示す22A-22B間の「初期接続抵抗値」を、三菱化学製「ロレスターGP」のBSPプローブを用いて測定した。次に図4(7)のG-G’のラインを中心に山折り-谷折りを1セットとし30セット繰り返した後、再度22A-22B間の「折り曲げ後の接続抵抗値」を測定した。
なお、図4(8)は、図4(7)のE-E’断面図、図4(9)は図4(7)のF-F’断面図である。
下記式にて接続抵抗値の上昇率を算出し、折り曲げ後の接続信頼性を評価した。
接続抵抗値の上昇率=「折り曲げ後の接続抵抗値」/「初期接続抵抗値」×100
評価基準は以下の通りである。
◎:接続抵抗値の上昇率が300%未満 良好な結果である。
○:接続抵抗値の上昇率が300%以上、1000%未満 実用上問題ない。
×:接続抵抗値の上昇率が1000%以上 実用不可。
【0127】
《接着強度》
電磁波シールドシートを幅25mm・長さ70mmに準備し試料とした。導電性接着剤層上に設けられた剥離性シートを剥がし、露出した接着剤層に厚さ50μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン200EN」)を150℃、2.0MPa、30分の条件で圧着し、熱硬化させた。次いで接着力測定のために試料を補強する目的で絶縁層側の剥離性シートを剥がし、露出した絶縁層に、トーヨーケム社製の接着シートを用い、厚さ50μmのポリイミドフィルムを、150℃、1MPa、30分の条件で圧着することで「ポリイミドフィルム/接着シート/電磁波シールドシート/ポリイミドフィルム」の構成の積層体を得た。この積層体を、引張試験機(島津製作所社製)を使用して23℃、50%RHの雰囲気下、剥離速度50mm/分、剥離角度90°で、電磁波シールドシートの導電性接着剤層とポリイミドフィルムとの界面を剥離することで接着力を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:接着強度が6N/25mm以上。 良好な結果である。
○:接着強度が4N/25mm以上、6N/25mm未満 実用上問題ない。
×:接着強度が4N/25mm未満。 実用不可。
【0128】
【表3】

【0129】
【表4】

【0130】
表3、4の結果から、実施例1?22の導電性接着剤は、分散安定性、沈降性が良好であるため導電性接着シート及び電磁波シールドシートの塗工において、スジや膜厚ムラの少ない塗膜が得られるため高い生産収率を維持することができていた。さらに湿熱経時後や折り曲げ後の接続信頼性が良好で、接着強度も高いため、高温多湿な環境下や折り曲げて使用した場合においても、良好な電磁波シールド性を保持したFPCを提供できる。
【符号の説明】
【0131】
1 絶縁層
2 導電性接着剤層
3 金属層
4 プリント配線板
5 導電性接着シート
6 金属補強板
6a 金属板
6b メッキ層
7 配線板
8a 8b 絶縁層(カバーコート層)
9a 9b 接着剤層
10 絶縁性基材
11 グランド配線
12 信号配線
13 電子部品
14 ビア
15 プリント配線板
21 ポリイミドフィルム
22A、22B 銅箔回路
23 カバーフィルム
24 スルーホール
25a 金属補強板
25b 導電性接着シート
26a 絶縁層
26b 導電性接着剤層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、硬化剤、および導電性複合微粒子を含む導電性接着剤であって、
熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有しており、
さらに、熱硬化性樹脂の酸価が3?100mgKOH/gであり、
導電性複合微粒子が銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ
該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5?30%であり、該カルボキシル基が、該導電性複合微粒子表面の銅とキレート結合していることを特徴とする導電性接着剤。
【請求項2】
導電性複合微粒子表面の、銅に対する銀の被覆量が、導電性複合微粒子全体に対して1?15重量%であることを特徴とする請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項3】
熱硬化性樹脂のガラス転移温度が、-30?30℃であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性接着剤。
【請求項4】
請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤から形成されてなる導電性接着剤層を備えた、導電性接着シート。
【請求項5】
絶縁層と、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤から形成されてなる導電性接着剤層とを備えた、電磁波シールドシート。
【請求項6】
絶縁層と、金属層と、請求項1?3いずれか1項記載の導電性接着剤から形成されてなる導電性接着剤層とを備えた、電磁波シールドシート。
【請求項7】
請求項4記載の導電性接着シートと、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するプリント配線板。
【請求項8】
請求項5または6記載の電磁波シールドシートと、信号配線および絶縁性基材を備えた配線板とを有するプリント配線板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-15 
出願番号 特願2015-107080(P2015-107080)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 國島 明弘
原 賢一
登録日 2015-12-18 
登録番号 特許第5854248号(P5854248)
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社 トーヨーケム株式会社
発明の名称 導電性接着剤、ならびにそれを用いた導電性接着シートおよび電磁波シールドシート  
代理人 家入 健  
代理人 田村 良介  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  

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