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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B01J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B01J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B01J 審判 全部申し立て 2項進歩性 B01J |
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管理番号 | 1334372 |
異議申立番号 | 異議2016-700820 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-05 |
確定日 | 2017-10-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5879029号発明「アンモニア酸化・分解触媒」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5879029号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5879029号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第5879029号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第5879029号は、平成22年11月9日に出願された特願2010-250538号について、平成28年2月5日に設定登録がされ、その後、その請求項1-4に係る特許に対し、特許異議申立人 伊藤 範子により特許異議の申立てがなされ、平成28年10月28日付けで取消理由が通知され、平成28年12月28日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成29年2月9日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされ、平成29年2月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年4月19日付けで特許権者より意見書の提出がなされ、平成29年5月18日付けで取消理由が通知され、平成29年7月21日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がなされたものである。 なお、当該訂正の請求に対しては、特許異議申立人より意見書の提出はなかった。 第2.訂正の請求 1.訂正の内容 平成29年7月21日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1-3よりなる。 (平成28年12月28日付けの訂正請求は、みなし取下げとなった。) (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が10?90%である」とあるのを、「前記触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が50%である」に訂正する。 (イ)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、訂正事項1の記載に続いて「該触媒が常温起動性を有するように、触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部が還元型のCeO_(2-x)(0<x<2)になっている」との記載を追加する。 (ウ)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 2.訂正の適否 (ア)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1において、触媒担体に含まれる「酸化ジルコニウムのモル濃度」の数値を、訂正前の「10?90%」から「50%」に限定するものだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正事項1において限定した事項は、本件特許明細書の段落【0030】の「触媒担体として、ZrO_(2)のモル濃度が10、20、50、80%である4種の市販のCeO_(2)-ZrO_(2)(第一稀元素化学工業(株)製)を用いた。」との記載、及び、段落【0042】【表1】の記載に基づくものであるから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 さらに、当該訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (イ)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1において、「触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部が還元型のCeO_(2-x)(0<x<2)になっている」ことに限定するとともに、「該触媒が常温起動性を有する」ことに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正事項2において限定した事項は、本件特許明細書の段落【0024】の「本発明によるアンモニア酸化・分解触媒は、水素気流中若しくはアンモニア気流中で200?400℃で加熱処理することにより、以下の反応により触媒担体を構成する金属酸化物の一部または全部が還元される。」との記載、段落【0025】の「CeO_(2)+xH_(2)→CeO_(2-x)+xH_(2)O (0<x<2) CeO_(2)+2x/3NH_(3)→CeO_(2-x)+xH_(2)O+x/3N_(2)(0<x<2)」との記載、及び、段落【0027】の「触媒が常温起動性を有するようにするために必要な担体の還元温度を低減させることができ」との記載に基づくものであるから、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 さらに、当該訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (ウ)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項2の削除を行うことで特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.一群の請求項について 訂正前の請求項2-4は、訂正前の請求項1を引用する請求項であるから、請求項1-4は一群の請求項であるところ、上記の訂正は、一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第4項、及び同条第9項の規定によって準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。 第3.本件発明 上記「第2.」のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1,3,4に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明4」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1,3,4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 アンモニアを分解して水素を製造する反応に使用されるアンモニア酸化・分解触媒であって、 酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体に、触媒活性金属として第6A族、第7A族、第8族、および第1B族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を担持させたアンモニア酸化・分解触媒であって、 前記触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が50%であり、 該触媒が常温起動性を有するように、触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部が還元型のCeO_(2-x)(0<x<2)になっていることを特徴とするアンモニア酸化・分解触媒。 【請求項3】 ハニカム形状を有する、請求項1に記載のアンモニア酸化・分解触媒。 【請求項4】 ペレットもしくはラッシヒリング状を有する、請求項1に記載のアンモニア酸化・分解触媒。」 第4.取消理由についての当審の判断 1.取消理由の概要 本件訂正前の請求項1-4に係る特許に対して平成28年10月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 1)本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2)本件特許の請求項1-4に係る発明は、本件特許の出願前に発行された下記甲第1号証(以下、「甲1」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、又は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 甲1:特開2010-240644号公報 2.取消理由1)について (1)触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度について 触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度について通知した取消理由に対し、平成29年7月21日付けで行われた訂正の請求により、本件発明1,3,4の酸化ジルコニウムのモル濃度は「50%」に訂正され、同日付で提出された意見書において、実施例で用いた酸化ジルコニウムのモル濃度が「50%」である「市販のCeO_(2)-ZrO_(2)」が、第一稀元素化学工業社製の型番「Z-1014」であり、測定方法が蛍光X線分析装置である旨の釈明がなされた。 よって、本件特許明細書は、本件発明1,3,4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、また、本件発明1,3,4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとともに、明確なものであるといえる。 (2)触媒担体を構成する酸化セリウムの構造について 触媒担体を構成する酸化セリウムの構造について通知した取消理由に対し、平成28年12月28日付けで提出された意見書にて、本件特許の出願時の技術常識を示す文献である特開平8-141399号公報(特に段落【0012】参照。)、特開2002-102700号公報(特に段落【0021】、【0022】参照。)、特開2002-102701号公報(特に段落【0021】、【0022】参照。)、特開2004-344513号公報(特に段落【0067】参照。)が提示され、酸化セリウムを還元処理することで酸素が欠損した、還元状態となることが周知であることが示された。 よって、本件特許明細書は、本件発明1を引用する本件発明3,4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、また、本件発明1を引用する本件発明3,4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとともに、明確なものであるといえる。 (3)取消理由1)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。 3.取消理由2)について (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 甲1には、「水素製造触媒およびそれを用いた水素製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。 (ア)「【請求項1】 アンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを分解して水素を製造するための水素製造用触媒であって、当該触媒が、コバルト、ニッケル、鉄およびモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を触媒成分として含むことを特徴とする水素製造用触媒。 ・・・ 【請求項3】 前記触媒は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、酸化ランタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウムおよび酸化ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含有するものである請求項1または2記載の水素製造用触媒。」 (イ)「【0024】 (実施例1) 硝酸コバルト六水和物34.92g、硝酸セリウム六水和物5.21gおよびジルコゾール(登録商標)ZN(第一稀元素化学工業株式会社製のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液:酸化ジルコニウムとして25質量%含有)5.91gを蒸留水500mLに添加、混合し、均一水溶液を調製した。当該溶液を、攪拌している500mLの蒸留水に水酸化カリウム88.6gを溶解させた溶液に、滴下して沈殿物を生成させた。得られた沈殿物を、ブフナー漏斗を用いてろ過し、純水で水洗後、120℃で一晩乾燥させた。その後、乾燥固体を粉砕し、管状炉に充填して10容量%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で1時間還元し、コバルト含有セリア-ジルコニア触媒を得た。次いで、硝酸セシウムを用いて、乾燥した触媒の吸水量と同じ体積の含浸液がセシウム換算で1質量%になるように水溶液を調製し、触媒に対して均一になるように含浸した。600℃の水素処理を1時間実施し、セシウム修飾コバルト含有セリア-ジルコニア触媒を得た(触媒1)。」 (ウ)「【0029】 (実施例5) 硝酸ニッケル六水和物34.89g、硝酸セリウム六水和物5.21gおよびジルコゾール(登録商標)ZN(第一稀元素化学工業株式会社製のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液:酸化ジルコニウムとして25質量%含有)5.91gを蒸留水500mLに添加、混合し、均一水溶液を調製した。当該溶液を、500mLの蒸留水に水酸化カリウム88.6gを溶解させた溶液中に、攪拌しながら滴下して沈殿物を生成させた。得られた沈殿物をブフナー漏斗を用いてろ過し、純水で水洗後、120℃で一晩乾燥させた。その後、乾燥固体を粉砕し、管状炉に充填して10容量%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で1時間還元し、ニッケル含有セリア-ジルコニア触媒を得た。次いで、硝酸セシウムを用いて、乾燥した触媒の吸水量と同じ体積の含浸液がセシウム換算で1質量%になるように水溶液を調製し、触媒に対して均一になるように含浸した。600℃の水素処理を1時間実施し、セシウム修飾ニッケル含有セリア-ジルコニア触媒を得た(触媒5)。」 (エ)「【0038】 (水素製造反応) 実施例1から7で得られた触媒および比較例で得られた触媒12、13を、99.9容量%以上の純度のアンモニアと空気を用いて、酸素/アンモニアのモル比0.15でアンモニア分解による水素製造反応を行った・・・」 記載事項(ア)、(イ)、(エ)によれば、甲1の実施例1には、 「アンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを分解して水素を製造するための水素製造用触媒であって、硝酸コバルト六水和物34.92g、硝酸セリウム六水和物5.21gおよび、酸化ジルコニウムとして25質量%含有するオキシ硝酸ジルコニウム水溶液5.91gから生成されたコバルト含有セリア-ジルコニア触媒を、10容量%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で1時間還元した後、硝酸セシウムを含浸させ、600℃の水素処理を1時間実施して製造した、セシウム修飾コバルト含有セリア-ジルコニア触媒からなり、コバルトが触媒成分であり、セリア-ジルコニアが担体である、水素製造用触媒。」(以下、「甲1発明A」という。)が記載されていると認められる。 また、記載事項(ア)、(ウ)、(エ)によれば、甲1の実施例5には、 「アンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを分解して水素を製造するための水素製造用触媒であって、硝酸ニッケル六水和物34.89g、硝酸セリウム六水和物5.21gおよび、酸化ジルコニウムとして25質量%含有するオキシ硝酸ジルコニウム水溶液5.91gから生成されたニッケル含有セリア-ジルコニア触媒を、10容量%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で1時間還元した後、硝酸セシウムを含浸させ、600℃の水素処理を1時間実施して製造した、セシウム修飾ニッケル含有セリア-ジルコニア触媒からなり、ニッケルが触媒成分であり、セリア-ジルコニアが担体である、水素製造用触媒。」(以下、「甲1発明B」という。)が記載されていると認められる。 (2)本件発明1と、甲1に記載された発明との対比、判断 (i)対比 本件発明1と甲1発明A、Bを対比する。 甲1発明A、Bの「アンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを分解して水素を製造するための水素製造用触媒」は、本件発明1の「アンモニアを分解して水素を製造する反応に使用されるアンモニア酸化・分解触媒」に相当し、甲1発明A、Bの「セリア-ジルコニア」は、本件発明1の「酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体」に相当する。 甲1発明Aの「コバルト」、甲1発明Bの「ニッケル」は、いずれも「第8族」の「金属」からなる「触媒成分」であるから、いずれも本件発明1の「触媒活性金属」であり、「第6A族、第7A族、第8族、および第1B族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属」である。 甲1発明A、Bでは、担体であるセリア-ジルコニアの原料として、「硝酸セリウム六水和物5.21g」および「酸化ジルコニウムとして25質量%含有するオキシ硝酸ジルコニウム水溶液5.91g」が用いられており、硝酸セリウム六水和物は、化学式が「Ce(NO_(3))_(3)/6H_(2)O」と表される分子量が434の化合物であるから、「5.21g」中のセリウムのモル数は、 5.21/434=0.012モル となる。 一方、酸化ジルコニウム(ZrO_(2))の分子量は123であり、「オキシ硝酸ジルコニウム水溶液5.91g」に含まれる酸化ジルコニウム(ZrO_(2))は25%であるから、ジルコニウムのモル数は、 5.91×0.25/123=0.012モル となる。 そうすると、甲1発明A、Bにおける「セリア-ジルコニア」中の酸化ジルコニウムのモル濃度は、いずれも「50%」であって、本件発明1における「触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度」である「50%」と一致する。 また、甲1発明A、Bでは、「コバルト含有セリア-ジルコニア触媒」、「ニッケル含有セリア-ジルコニア触媒」に対し、「10容量%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で1時間還元」処理を行い、さらに、硝酸セシウムを含浸させた後、還元雰囲気であることが周知な「水素」での処理を、「600℃」「1時間」実施しているから、「セシウム修飾コバルト含有セリア-ジルコニア触媒」、「セシウム修飾ニッケル含有セリア-ジルコニア触媒」中の「セリア」(CeO_(2))は、還元されて「CeO_(2-x)(0<x<2)」の構造となっているといえる。 よって、本件発明1と、甲1発明A、Bとは、 「アンモニアを分解して水素を製造する反応に使用されるアンモニア酸化・分解触媒であって、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体に、触媒活性金属として第8族の金属を担持させたアンモニア酸化・分解触媒であって、前記触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が50%であり、触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部が還元型のCeO_(2-x)(0<x<2)になっていることを特徴とするアンモニア酸化・分解触媒。」である点で一致し、下記(相違点1)で相違する。 (相違点1) 本件発明1では、「触媒」が「常温起動性を有する」のに対し、甲1発明A、Bでは、「触媒」が「常温起動性を有する」ことが明らかでない点。 (ii)判断 甲1には、触媒が常温起動性を有することについて、記載も示唆もされていない。 また、本件発明1は、実施例において、酸化セリウムのモル濃度が50%である触媒担体に、触媒活性金属を2重量%担持させ、触媒中に触媒活性金属よりも還元状態となっている酸化セリウムを多量に含有させることで常温起動性を得ているのに対し、甲1発明A、Bは、還元状態となっている酸化セリウムを、触媒活性金属であるコバルトまたはニッケルよりも少量しか触媒中に含んでいないことから、甲1発明A、Bが、本件特許明細書の段落【0026】に「還元状態にある触媒担体が酸素と反応することによって酸化熱が発生し、瞬時に触媒層温度が上昇する」と記載されているような常温起動性を有さないものであることは、明らかである。 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件発明3,4について 本件発明3,4は、本件発明1を引用し、本件発明1をさらに限定する発明であるから、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、「第4.」で検討した取消理由1)、2)に加え、下記甲第2号証(以下、「甲2」という。)を証拠として提出し、下記申立理由3)により、訂正前の請求項1-4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨、主張しているので、以下検討する。 3)本件特許の請求項1-4に係る発明は、本件特許の出願前に発行された下記甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、又は、甲2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 甲2:特開2010-207783号公報 1.申立理由3)について 甲2に記載された発明は、セリアとアルミナとジルコニアを含有する複合酸化物からなる担体と、該担体に担持された長周期型周期表の8族?10族に属する少なくとも1種の金属元素とを含有し、アンモニアを分解して水素を生成させるためのアンモニア分解触媒であるが、甲2には、「触媒担体」が、「酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる」こと、「触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が50%であ」ること、及び、「触媒」が「常温起動性を有するように、触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部が還元型のCeO_(2-x)(0<x<2)になっている」ことのいずれについても記載や示唆がない。 したがって、本件発明1及び、本件発明1を引用する本件発明3,4は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 2.申立理由3)のまとめ 上記のとおり、本件発明1,3,4は、甲2に記載された発明でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1,3,4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1,3,4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項2は削除されたため、本件特許の請求項2に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 アンモニアを分解して水素を製造する反応に使用されるアンモニア酸化・分解触媒であって、 酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体に、触媒活性金属として第6A族、第7A族、第8族、および第1B族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を担持させたアンモニア酸化・分解触媒であって、 前記触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が50%であり、 該触媒が常温起動性を有するように、触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部が還元型のCeO_(2-x)(0<x<2)になっていることを特徴とするアンモニア酸化・分解触媒。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 ハニカム形状を有する、請求項1に記載のアンモニア酸化・分解触媒。 【請求項4】 ペレットもしくはラッシヒリング状を有する、請求項1に記載のアンモニア酸化・分解触媒。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-09-27 |
出願番号 | 特願2010-250538(P2010-250538) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B01J)
P 1 651・ 536- YAA (B01J) P 1 651・ 113- YAA (B01J) P 1 651・ 537- YAA (B01J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西山 義之 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 山崎 直也 |
登録日 | 2016-02-05 |
登録番号 | 特許第5879029号(P5879029) |
権利者 | 日立造船株式会社 |
発明の名称 | アンモニア酸化・分解触媒 |
代理人 | 松村 直都 |
代理人 | 渡邉 彰 |
代理人 | 岸本 瑛之助 |
代理人 | 渡邉 彰 |
代理人 | 松村 直都 |
代理人 | 岸本 瑛之助 |