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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  G03F
管理番号 1334383
異議申立番号 異議2017-700729  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-25 
確定日 2017-10-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6065596号発明「感放射線性着色組成物、着色硬化膜及び表示素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6065596号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6065596号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年1月16日に特許出願され、平成29年1月6日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人内山信一により特許異議の申立てがされたものである。


2 本件発明
特許第6065596号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)着色剤、(B)バインダー樹脂、(C)重合性化合物及び(D)光重合開始剤を含有する感放射線性着色組成物であって、
前記(D)光重合開始剤が、下記式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種を含有するものである、感放射線性着色組成物〔但し、(A)着色剤、(B)バインダー樹脂、(C)重合性化合物及び(D)光重合開始剤の組み合わせが下記の(i)又は(ii)である場合を除く。
(i)(A)着色剤がカーボンブラックであり、(B)バインダー樹脂がカルド樹脂であり、(C)重合性化合物がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであり、(D)光重合開始剤が下記の化合物群αから選択されるいずれか一のフルオレン系化合物である場合
(ii)(A)着色剤がカーボンブラック又はPigment Red177であり、(B)バインダー樹脂がメタアクリル酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ジシクロペンタニルをそれぞれ20:20:40:20のモル比で添加し重合してなるアクリルポリマーであり、(C)重合性化合物がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであり、(D)光重合開始剤が下記の化合物9である場合〕。
【化1】

〔式(1)において、
R^(1)及びR^(2)は、相互に独立に、炭素数1?20のアルキル基、炭素数4?20の脂環式炭化水素基、炭素数6?30のアリール基、炭素数7?30のアリールアルキル基を示すか、又はR^(1)とR^(2)とが互いに結合してフルオレン基を示し、
R^(3)及びR^(4)は、相互に独立に、水素原子、炭素数1?20のアルキル基、炭素数6?30のアリール基、炭素数7?30のアリールアルキル基、または炭素数4?20の複素環基を示し、
Xは、直接結合またはカルボニル基を示す。〕
【化2】

〔式(2)において、
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、式(1)におけるR^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)と同義であり、
R^(5)は、-R^(6) 、-OR^(6)、-SR^(6)、-COR^(6)、-CONR^(6)R^(6)、-NR^(6)COR^(6)、-OCOR^(6)、-COOR^(6)、-SCOR^(6)、-OCSR^(6)、-COSR^(6)、-CSOR^(6)、-CN、ハロゲン、水酸基を示し、
R^(6)は、炭素数1?20のアルキル基、炭素数6?30のアリール基、炭素数7?30のアリールアルキル基、または炭素数4?20の複素環基を示し、
Xは、直接結合またはカルボニル基を示し、
aは0?4の整数を示す。〕
【化3】

【化4】

【請求項2】
更に分散剤を含有する、請求項1に記載の感放射線性着色組成物。
【請求項3】
前記(B)バインダー樹脂が、側鎖に重合性不飽和結合とカルボキシ基とを有するものである、請求項1又は2に記載の感放射線性着色組成物。
【請求項4】
前記(B)バインダー樹脂が、2以上のオキシラニル基を有する樹脂に不飽和カルボン酸を反応させて得られる反応生成物に対して、更に多塩基酸無水物を反応させることにより得られる樹脂である、請求項1?3のいずれか1項に記載の感放射線性着色組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに1項に記載の感放射線性着色組成物を用いて形成された着色硬化膜。
【請求項6】
請求項5に記載の着色硬化膜を具備する表示素子。」(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)


3 申立理由の概要
特許異議申立人内山信一は、証拠として甲第1号証(特表2015-523318号公報)及び甲第2号証(国際公開第2014/050738号)を提出し、本件特許発明1?6は、いずれも、甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明と実質的に同一の発明に過ぎないものであり、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、本件特許発明1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、特許法第29条の2の規定は、特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるときは、その発明については、特許を受けることができないというものであるから、甲第1号証に係る国際特許出願(特願2015-510191号)を「先願1」とし、甲第2号証に係る特許出願(特願2012-217856号)を「先願2」として、先願1及び先願2の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された発明と本件特許発明1ないし6との同一性について検討する。


4 先願1?2の記載及び先願1?2に記載された発明
(1)先願1
ア 先願1は、本件特許の出願の日前の2012年5月3日に韓国特許庁に出願された韓国特許出願(以下、「基礎出願」という。)に基づくパリ条約による優先権主張を伴っており、本件特許の出願の日より後に国際公開がされた外国語特許出願であるところ、特許法第184条の13の規定により特許法第29条の2の規定における「他の特許出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲」とみなされる「先願1の国際出願日における国際出願の明細書及び請求の範囲」(以下、「先願1の当初明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。また、当該事項は、基礎出願の当初明細書等にも記載されている。なお、先願1の当初明細書等の段落番号とともに日本語訳のみ摘記し原文は省略する。(下線部は、発明の認定に用いた箇所を示す。以下同様)

(ア) 特許請求の範囲
「【請求項1】
下記化学式1で表される、オキシムエステルフルオレン誘導体化合物。
【化1】

前記化学式1中、
R_(1)?R_(3)は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、(C_(1)‐C_(20))アルキル、(C_(6)‐C_(20))アリール、(C_(1)‐C_(20))アルコキシ、(C_(6)‐C_(20))アリール(C_(1)‐C_(20))アルキル、ヒドロキシ(C_(1)‐C_(20))アルキル、ヒドロキシ(C_(1)‐C_(20))アルコキシ(C_(1)‐C_(20))アルキルまたは(C_(3)‐C_(20))シクロアルキルであり;
Aは、水素、(C_(1)‐C_(20))アルキル、(C_(6)‐C_(20))アリール、(C_(1)‐C_(20))アルコキシ、(C_(6)‐C_(20))アリール(C_(1)‐C_(20))アルキル、ヒドロキシ(C_(1)‐C_(20))アルキル、ヒドロキシ(C_(1)‐C_(20))アルコキシ(C_(1)‐C_(20))アルキル、(C_(3)‐C_(10))シクロアルキル、アミノ、ニトロ、シアノまたはヒドロキシである。
【請求項2】
前記R_(1)?R_(3)は、それぞれ独立して、水素、ブロモ、クロロ、ヨード、メチル、エチル、n‐プロピル、i‐プロピル、n‐ブチル、i‐ブチル、t‐ブチル、n‐ペンチル、i‐ペンチル、n‐ヘキシル、i‐ヘキシル、フェニル、ナフチル、ビフェニル、テルフェニル、アントリル、インデニル、フェナントリル、メトキシ、エトキシ、n‐プロピルオキシ、i‐プロピルオキシ、n‐ブトキシ、i‐ブトキシ、t‐ブトキシ、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシn‐プロピル、ヒドロキシn‐ブチル、ヒドロキシi‐ブチル、ヒドロキシn‐ペンチル、ヒドロキシi‐ペンチル、ヒドロキシn‐ヘキシル、ヒドロキシi‐ヘキシル、ヒドロキシメトキシメチル、ヒドロキシメトキシエチル、ヒドロキシメトキシプロピル、ヒドロキシメトキシブチル、ヒドロキシエトキシメチル、ヒドロキシエトキシエチル、ヒドロキシエトキシプロピル、ヒドロキシエトキシブチル、ヒドロキシエトキシペンチルまたはヒドロキシエトキシヘキシルであり;
Aは、水素、メチル、エチル、n‐プロピル、i‐プロピル、n‐ブチル、i‐ブチル、t‐ブチル、フェニル、ナフチル、ビフェニル、テルフェニル、アントリル、インデニル、フェナントリル、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ブトキシ、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシメトキシメチル、ヒドロキシメトキシエチル、ヒドロキシメトキシプロピル、ヒドロキシメトキシブチル、ヒドロキシエトキシメチル、ヒドロキシエトキシエチル、ヒドロキシエトキシプロピル、ヒドロキシエトキシブチル、アミノ、ニトロ、シアノまたはヒドロキシであることを特徴とする、請求項1に記載のオキシムエステルフルオレン誘導体化合物。
【請求項3】
前記R_(1)は、水素またはn‐ブチルであり;
R_(2)は、メチルであり;
R_(3)は、メチル、n‐ブチルまたはフェニルであることを特徴とする、請求項1に記載のオキシムエステルフルオレン誘導体化合物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のオキシムエステルフルオレン誘導体化合物を含む、光重合開始剤。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のオキシムエステルフルオレン誘導体化合物を含む、フォトレジスト組成物。
【請求項6】
前記オキシムエステルフルオレン誘導体化合物は、フォトレジスト組成物に対して0.01?10重量%含まれることを特徴とする、請求項5に記載のフォトレジスト組成物。
【請求項7】
請求項5に記載のフォトレジスト組成物にカーボンブラックをさらに含む、ブラックマトリックス用フォトレジスト組成物。
【請求項8】
請求項5に記載のフォトレジスト組成物に着色顔料分散液をさらに含む、カラーマトリックス用フォトレジスト組成物。」

(イ) 段落<88>?<91>
「[実施例3]1‐(9,9‐ジ‐n‐ブチル‐7‐ニトロフルオレン‐2‐イル)‐エタノンオキシム‐O‐バレレートの製造

1‐(9,9‐ジ‐n‐ブチル‐7‐ニトロフルオレン‐2‐イル)‐エタノンオキシム(7)1.50g(39.5mmol)をエチルアセテート30mlに分散させて無水吉草酸0.88g(4.7mmol)を加えた後、反応溶液を徐々に昇温して3時間還流反応した。反応物を室温に冷却して飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mlと蒸留水100mlで順次洗浄した後、回収した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒を減圧蒸留して得た生成物をメタノール20mlで再結晶し、淡黄色の1‐(9,9‐ジ‐n‐ブチル‐7‐ニトロフルオレン‐2‐イル)‐エタノンオキシム‐O‐バレレート(9)0.91g(49.7%)を得た。
^(1)H NMR(δ ppm; CDCl_(3)) : 0.49-0.61(4H, m), 0.68(6H, t), 0.96(3H, t), 1.05(4H, sex), 1.45(2H, sex), 1.74(2H,quint), 2.03-2.11(4H, m), 2.46(3H, s), 2.55(2H, t), 7.78-7.86(4H, m), 8.22(1H, d), 8.28(1H, dd)
UV(λmax):345nm
MS(m/e):464」

(ウ) 段落<117>?<119>
「[実施例6]バインダー樹脂の製造
a)バインダー樹脂1の製造
500mlの重合反応器にプロピレングリコールメチルエーテルアセテート200mlとAIBN1.5gを添加した後、メタアクリル酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸ジシクロペンタニルをそれぞれ20:20:40:20のモル比で添加し、この際、アクリルモノマーの固形分は40重量%であった。窒素雰囲気下で70℃で5時間攪拌して重合させてアクリルポリマーであるバインダー樹脂1を製造した。このように製造されたコポリマーの平均分子量は25,000、分散度は2.0と確認された。」

(エ) 段落<124>?<128>
「[実施例17]ブラックマトリックス(Black Matrix)のフォトレジスト組成物の製造
紫外線遮断膜と攪拌機が設置されている反応混合槽にバインダー樹脂1を20重量%、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10重量%、化合物9を0.5重量%、固形分25重量%でプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate(PGMEA)に分散されたカーボンブラック50重量%およびFC‐430(3M社製のレベリング剤、0.1重量%を順次添加して、常温で攪拌した後、全体が100重量%になるように溶媒としてPGMEAを加えてブラックマトリックス(Black Matrix)のフォトレジスト組成物を製造した。
[実施例18]レッド(Red)フォトレジスト組成物の製造
前記実施例17でカーボンブラックの代りに固形分25重量%のPigment Red177(P.R.177)分散液を50重量%を使用した以外は、同じ方法でレッド(Red)フォトレジスト組成物を製造した。
【表1】



(オ) 段落<145>?<158>
「[実験例]フォトレジスト組成物の評価
前記実施例7?18および比較例1?4で製造したフォトレジスト組成物の評価はガラス基板上で実施しており、フォトレジスト組成物の感度、残膜率、パターン安定性、耐化学性および弾性などの性能を測定して、その評価結果を下記表2に示した。
1)感度
ガラス基板上にフォトレジストをスピンコーティングして100℃で1分間ホットプレートで乾燥してからステップマスクを用いて露光した後、0.04%のKOH水溶液で現像した。ステップマスクパターンが初期の厚さに対して80%の厚さを維持する露光量を感度として評価した。
2)残膜率
フォトレジスト組成物を基板上にスピンコータを用いて塗布した後、100℃で1分間プリベーク(prebake)し、365nmで露光させた後、230℃で20分間ポストベーク(postbake)を実施してフォトレジスト膜のポストベーク前後の厚さの割合(%)を測定した。
3)パターン安定性
フォトレジストパターンを形成したシリコンウェハをホール(Hole)パターンの垂直方向に切断し、パターンの断面方向で電子顕微鏡で観察した結果を示した。パターンの側壁(side wall)が基板に対して55度以上の角度で立っており、膜が減少しないことを「良好」とし、膜の減少が認められたことを「膜減」と判定した。
4)耐化学性
フォトレジスト組成物を基板上にスピンコータを用いて塗布した後、プリベーク(prebake)およびポストベーク(postbake)などの工程を経て形成されたフォトレジスト膜をストリッパー(Stripper)溶液に40℃で10分間浸漬した後、フォトレジスト膜の透過率および厚さの変化があるか否かを観察した。透過率および厚さの変化が2%以下の場合には「良好」とし、透過率および厚さの変化が2%以上の場合には「不良」と判定した。
5)弾性
フォトレジスト組成物を基板上にスピンコータを用いて塗布した後、100℃で1分間プリベーク(prebake)を実施し、フォトレジストの感度で露光させた後、KOH水溶液で現像して20μm×20μmのパターンを形成した。形成されたパターンを230℃で20分間ポストベーク(postbake)を実施して架橋させて、このパターンをナノインデンター(Nano indentor)を用いて弾性を測定した。ナノインデンター(Nano indentor)の測定は、5g.fローディングで総変異量が500nm以上の場合には「良好」とし、500nm以下の場合には「不良」と判定した。
【表2】

前記表2の結果を参照すると、本発明によるオキシムエステルフルオレン誘導体化合物およびこれを光重合開始剤として用いたフォトレジスト組成物は、フルオレン基を含んでいない化合物およびこれを光重合開始剤として用いたフォトレジスト組成物(比較例1?4に比べて感度に著しく優れ、残膜率、パターン安定性、耐化学性および弾性などの物性に優れることが分かり、これにより、TFT‐LCD製造工程中の露光およびポストベーク工程において光開始剤から発生するガス放出を最小化することで汚染を低減することができ、これにより発生しうる不良を最小化することができるという利点がある。」

イ 以上の記載事項に基づけば、先願1の当初明細書等には、実施例17又は18として、以下の発明が記載されていると認められる。
「メタアクリル酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸ジシクロペンタニルをそれぞれ20:20:40:20のモル比で添加し重合させたアクリルポリマーであるバインダー樹脂1、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1‐(9,9‐ジ‐n‐ブチル‐7‐ニトロフルオレン‐2‐イル)‐エタノンオキシム‐O‐バレレート、カーボンブラック又はPigment Red177、およびレベリング剤を順次添加して、常温で攪拌した後、全体が100重量%になるように溶媒としてPGMEAを加えて製造したブラックマトリックスのフォトレジスト組成物。」(以下、「先願1発明」という。)

(2)先願2
ア 本件特許の出願の日前の平成24年9月28日に出願された特許出願であって、本件特許出願後に国際公開(国際公開第2014/050738号,甲第2号証)された「先願2」(特願2012-217856号)の当初明細書等には、以下の事項が記載されている。(以下、括弧内に国際公開における対応箇所の記載段落を記した。)

(ア) (国際公開第2014/050738号の段落[0006])
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来の化合物が有する課題を解決することを目的とするものであり、新規なフルオレン骨格を有する化合物、該化合物を含む光重合開始剤、および、該光重合開始剤を含む活性エネルギー線に対する感度の優れた感光性組成物を提供することにある。」

(イ) (国際公開第2014/050738号の段落[0007]?[0008])
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、新規な2位および7位が置換されたフルオレン骨格を有する化合物を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のフルオレン系化合物は、一般式(1)で表される:
【化1】

一般式(1)中、R^(1)はmが0、かつ、nが0の場合、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1?8のアルキル基で置換されたスルホニルオキシ基、置換されていてもよいフェニルスルホニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1?8のアルキル基で置換されたスルホニル基、置換されていてもよいフェニルスルホニル基、置換されていてもよい複素環式スルホニル基、または、置換されていてもよい縮合環式スルホニル基を表し、mが0、かつ、nが1の場合、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい複素環基、または、置換されていてもよい縮合環基を表し、mが1、かつ、nが1の場合、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1?8のアルキル基で置換されたスルホニルオキシ基、または、置換されていてもよいフェニルスルホニルオキシ基を表し;
R^(2)およびR^(3)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?22の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?10の直鎖状もしくは分岐状のハロゲン化アルキル基、1以上のエーテル結合で中断された炭素数2?9の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、または、炭素数7?11のアラルキル基を表し、R^(2)およびR^(3)は一緒になって環を形成してもよく;
R^(4)は式(2)または式(3)で表される基であって、
【化2】

式(2)および(3)中、R^(5)およびR^(5)´は炭素数1?17の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数2?5の直鎖状もしくは分岐状のハロゲン化アルキル基、1以上のエーテル結合もしくはチオエーテル結合で中断された炭素数2?7の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい炭素数7?11のアラルキル基、置換されていてもよい炭素数7?10のフェノキシアルキル基、置換されていてもよい複素環基、または、置換されていてもよい縮合環基を表し;
式(2)中、R^(6)は炭素数1?17の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?7の直鎖状もしくは分岐状のハロゲン化アルキル基、1以上のエーテル結合もしくはチオエーテル結合で中断された炭素数2?7の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換されていてもよい炭素数2?3の直鎖状もしくは分岐状のアミノアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい炭素数7?10のフェノキシアルキル基、置換されていてもよい縮合環基、または、置換されていてもよい複素環基を表し;
式(3)中、R^(7)は炭素数1?16の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状もしくは分岐状のハロゲン化アルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい炭素数7?9のフェノキシアルキル基、置換されていてもよい縮合環基、または、置換されていてもよい複素環基を表し;
mおよびnは0または1を表し、mが1の場合、nは1である。
好ましい実施形態においては、上記R^(5)またはR^(5)´はメチル基である。
好ましい実施形態においては、R^(4)は式(2)で表される基であって、R6は炭素数1?7の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?5の直鎖状もしくは分岐状のハロゲン化アルキル基、置換されていてもよい炭素数2?3の直鎖状または分岐状のアミノアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい縮合環基、または、置換されていてもよい複素環基である。
好ましい実施形態においては、R^(4)は式(3)で表される基であって、R^(7)は炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?4の直鎖状もしくは分岐状のハロゲン化アルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい縮合環基、または、置換されていてもよい複素環基である。
好ましい実施形態においては、mおよびnが0であり、R^(1)がハロゲン原子、もしくは、ニトロ基である、または、mが0、nが1であり、R^(1)が置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい縮合環基、もしくは、置換されていてもよい複素環基である。
本発明の別の局面においては、光重合開始剤が提供される。該光重合開始剤は、上記フルオレン系化合物を少なくとも1種含む。
本発明のさらに別の局面においては、感光性組成物が提供される。該感光性組成物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有する化合物、および、上記光重合開始剤を含む。」

(ウ) (国際公開第2014/050738号の段落[0011],[0012])
「【発明を実施するための形態】
【0011】
[A.フルオレン系化合物]
[A-1.本発明のフルオレン系化合物]
本発明のフルオレン系化合物は、一般式(1)で表される。
【化3】

【0012】
上記一般式(1)において、mが0、かつ、nが0の場合、すなわち、R1がフルオレン骨格に直接結合している場合、R^(1)は水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1?8のアルキル基で置換されたスルホニルオキシ基、置換されていてもよいフェニルスルホニルオキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1?8のアルキル基で置換されたスルホニル基、置換されていてもよいフェニルスルホニル基、置換されていてもよい複素環式スルホニル基、または、置換されていてもよい縮合環式スルホニル基を表す。上記一般式(1)において、mが0、かつ、nが0の場合、好ましくはR^(1)はハロゲン原子、またはニトロ基である。」

(エ) (国際公開第2014/050738号の段落[0065],[0066])
「 【0064】
一般式(1)において、mはフェニレン基の数を表す。上記mは0または1である。また、一般式(1)において、nはカルボニル基の数を表す。上記nは0または1である。一般式(1)において、mおよびnが0、または、mが0であり、かつ、nが1であることが好ましい。
【0065】
上記一般式(1)で表されるフルオレン系化合物としては、具体的には、以下の化合物が挙げられる。
【化27】



(オ) (国際公開第2014/050738号の段落[0118]?[0123])
「 【0101】
[C.感光性組成物]
本発明の感光性組成物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有する化合物、および、上記光重合開始剤を含む。上記の通り、本発明の光重合開始剤は、活性エネルギー線に対する高い感度を有する。そのため、より低コストで、活性エネルギー線に対する高い反応性を有する感光性組成物を提供し得る。

(中略)

【0106】
本発明の感光性組成物は、上記少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有する化合物、および、光重合開始剤以外に、任意の適切な他の添加剤を含み得る。該他の添加剤としては、例えば、界面活性剤、可塑剤、充填剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、触媒、分散助剤、増感剤、架橋剤、顔料、染料、無機化合物、色材、溶媒、重合禁止剤、等が挙げられる。」

(カ) (国際公開第2014/050738号の段落[0187]?[0193])
「 【0142】
黒色感光性組成物の評価
[実施例10]
合成例1で得られたフルオレン系化合物(化合物1)0.196重量部(0.4mmol)、カルド樹脂(PGMEAを用いて固形分含有量を20重量%に調製したもの)5.9重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート((株)ダイセル社製、商品名「DPHA」)0.4重量部、カーボンブラックのPGMEA分散液(固形分濃度:20重量%)、および、PGMEA 3.5重量部を室温にて30分間混合・攪拌し、5μmメンブレンフィルターにて濾過し、感光性組成物を得た。
【0143】
[実施例11?15]
使用したフルオレン系化合物、および、その使用量を表5に記載の通りにした以外は実施例10と同様にして、感光性組成物を得た。
【0144】
(比較例3)
光重合開始剤およびその使用量を表5に記載のとおりにした以外は実施例10と同様にして、感光性組成物を得た。
【0145】
【表5】

【0146】
[評価3]
実施例10?15および比較例3で得られた感光性組成物をガラス基板上にスピンコーター((株)共和理研製、商品名「K-359SD1」)を用いて、乾燥膜厚が1.0μmとなるように塗布した。塗布後のガラス基板を送風乾燥機を用いて、90℃で10分間乾燥し、塗膜(感光層)を形成した。次いで、この膜にネガマスク(マスク幅:20μm)を介して高圧水銀ランプ(カール・ズース株式会社製、商品名「マスクアライナー」)を用いて10mJ/cm^(2)、20mJ/cm^(2)、40mJ/cm^(2)、60mJ/cm^(2)、80mJ/cm^(2)で露光した。次いで、0.1重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液に浸漬した後、純水でリンスし、残存する硬化膜について、以下の評価を行った。結果を表6に示す。また、実施例10、11、および、比較例3の感光性組成物を用いて得られた黒色硬化膜の顕微鏡写真を図1、2および5に示す。

(20μmパターン線幅)
各露光エネルギー量におけるパターン像を、カラー3Dレーザー顕微鏡(キーエンス社製、商品名「VK-X110」)を用いて拡大観察(×2000)し、パターンの幅を計測した。線幅の値が大きいほど、高感度であることを表す。

(パターンの直進性)
各露光エネルギー量におけるパターン像の外観を目視により評価した。良好な直線状のパターンが形成されたものを良好、パターン像の歪みや端部に凹凸が確認されたものを不良とした。

(パターンの剥がれ)
0.1%TMAH水溶液に浸漬現像後の硬化膜の外観を目視により評価した。外観変化がなく、硬化膜の剥離もなかったものを良好とした。

(残渣)
0.1%TMAH水溶液に浸漬現像後、未露光部分における塗膜の残存有無を目視により評価した。未露光部分における塗膜の残存の無いものをなしとした。

【0147】
【表6】

【0148】
20μmパターン線幅による評価において、実施例10?15の感光性組成物は、いずれの露光エネルギー量においても、パターンを形成することができた。なかでも、実施例10および11は、全ての露光エネルギー量で、従来の光重合開始剤を用いた比較例3よりも高い感度を示した。同様に、パターンの直進性・パターンの剥がれ・残渣の評価においても、実施例10および11は従来の光重合開始剤を用いた比較例3よりも良好な結果を示した。」

イ 以上の記載事項に基づけば、先願2の当初明細書等には、実施例10,11,12,13,14として、以下の発明が記載されていると認められる。
「フルオレン系化合物(化合物1、2、4、6、または8)、カルド樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カーボンブラックを混合・攪拌して得た感光性組成物。

」(以下、「先願2発明」という。)

なお、特許異議申立人は、甲第2号証の記載事項として、実施例2-11?2-20を挙げているが、実施例2-11?2-20は、先願2の当初明細書の記載事項には含まれていない。これらの実施例は、本件特許の出願日後の2013年5月3日の出願であるPCT/KR2013/003847の出願当初の明細書に初めて記載されたものである。


5 対比・判断
(1)先願1
ア 対比
本件特許発明1と先願1発明とを対比すると、先願1発明は、本件特許発明1のいわゆる除くクレームとして規定された「(ii)(A)着色剤がカーボンブラック又はPigment Red177であり、(B)バインダー樹脂がメタアクリル酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ジシクロペンタニルをそれぞれ20:20:40:20のモル比で添加し重合してなるアクリルポリマーであり、(C)重合性化合物がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであり、(D)光重合開始剤が下記の化合物9である場合」に包含されている。
したがって、本件特許発明1は先願1発明と同一であるとはいえない。

イ 判断
次に、本件特許発明1と先願1発明が実質同一であるといえるかについて検討する。特許異議申立人は、特許異議申立書の第25頁第7行?第27頁第14行に「(1-3-2)本件特許発明1と甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明との実質同一性 (i)甲第1号証に記載された発明との実質同一性」として、「ハ.・・・甲第1号証にもフォトレジスト組成物に着色含量分散液を含めてカラーマトリックス用途とする記載があるように、レジスト組成物に顔料等の着色剤を含めて着色された組成物を得ることは一般に行われることであり、上記のように、例えば実施例7の成分組成に着色剤として顔料等を加えた組成にすることで、着色剤による着色作用を期待するものであり、とりわけ新たな効果を規定して含有されるものでも全くない。」とし、「そうすると、本件特許において『(D)光重合開始剤だけでなく、(A)着色剤、(B)バインダー樹脂及び(C)重合性化合物』の4成分を含有することは、例えば特開2010-15025号公報(例えば段落0092?0098)及びWO2009/081483号(例えば段落0104、0101)等からみても一般的であり、甲第1号証の実施例にも記載されている。そして、甲第1号証においても、既に、複数の効果の両立が図られており、4成分を含有するからこそ甲第1号証に記載の発明に対して奏される新たな効果は何ら存在するものでもないと解するのが適当である。」と述べ、「ニ.以上のとおり、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明との間の相違は、課題解決のための具体化手段における微差である場合に該当し、本件特許発明1と先願1に記載された発明とは実質同一である。」と主張している。
しかし、上記特開2010-15025号公報及び国際公開第2009/081483号において開示される組成物は、光重合開始剤として、本件特許発明1の式(1)又は式(2)で表されないものも含むものである。そして、式(1)又は式(2)で表される化合物から選ばれる光重合開始剤と、着色剤、バインダー樹脂、重合性化合物を含有する感放射線性着色組成物と、式(1)又は式(2)で表される化合物には該当しない光重合開始剤と、着色剤、バインダー樹脂、重合性化合物を含有する感放射線性着色組成物とでは、本件特許の明細書の記載全体からみて、感度、輝度、解像度、耐熱性等の複数の特定を高い水準で両立するという効果に差異が生じるといえる。したがって、重合性化合物、着色剤、バインダー樹脂、重合性化合物の4成分を含有することが周知技術であったとしても、解決しようとする課題が異なるものであることは明らかであり、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は先願1発明と実質同一であるとはいえない。

なお、念のため、上記先願1発明以外の発明であって、先願1の当初明細書等の記載から認定できる発明に基づき、本件特許発明1が先願1の当初明細書等に記載された発明と実質同一であるといえるかについて検討する。前記4(1)ア(ア)の出願当初の特許請求の範囲の請求項7,8に係る発明に基づけば、先願1の当初明細書等には、本件特許発明1の(D)光重合開始剤を包含するオキシムエステルフルオレン誘導体化合物と、本件特許発明1の(A)着色剤に包含されるカーボンブラック又は着色顔料分散液を含むフォトレジスト組成物に関する発明が記載されていたと認められる。しかし、本件特許発明1における(D)光重合開始剤は、上記フォトレジスト組成物に関する発明におけるオキシムエステルフルオレン誘導体化合物の一部(R1が(C_(1)-C_(12))アルキル、(C_(6)-C_(20))アリール、(C_(1)-C_(20))アルコキシ、(C_(6)-C_(20))アリール(C_(1)-C_(20))アルキルであり、Aがニトロである場合のみ)であるから、両者が一致しているとはいえない。そして、本件特許の明細書の記載によれば、感光性組成物において特定の光重合開始剤を採用することにより、感度、輝度、解像度、耐熱性等の複数の特性を高い水準で両立する着色硬化膜を形成することができるという、先願1の当初明細書等には開示されていない効果を奏するものである。そうすると、特定の実施例によらない先願1の「オキシムエステルフルオレン誘導体化合物」から、本件特許発明1の(D)光重合開始剤に含まれる特定の構造を有する化合物を選択することが、課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。したがって、仮に、上記フォトレジスト組成物に、(B)バインダー樹脂及び(C)重合性化合物を含めることが周知慣用技術の付加であって、新たな効果を奏するものではないといえたとしても、先願1の当初明細書等に記載された発明と本願特許発明1が実質同一であるとはいえない。

ウ 本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6は、本件特許発明1に更なる限定を付したものに相当する。そうすると、本件特許発明1と先願1発明とが実質同一とはいえないのであるから、本件特許発明1に更なる限定を付したものに相当する本件特許発明2?6も、当然、先願1発明と実質同一であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6と先願1発明とは、実質同一であるとはいえないものであるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(2)先願2
ア 対比
本件特許発明1と先願2発明とを対比すると、先願2発明は、本件特許発明1のいわゆる除くクレームとして規定された「(i)(A)着色剤がカーボンブラックであり、(B)バインダー樹脂がカルド樹脂であり、(C)重合性化合物がジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであり、(D)光重合開始剤が下記の化合物群αから選択されるいずれか一のフルオレン系化合物である場合」に包含されている。
したがって、本件特許発明1は先願2発明と同一であるとはいえない。

イ 判断
次に、本件特許発明1と先願2発明が実質同一であるといえるかについて検討する。特許異議申立人は、特許異議申立書の第27頁第15行?第31頁第13行に「(ii)甲第2号証に記載された発明との実質同一性」として、「ト.上記した通り、本件特許において『(D)光重合開始剤だけなく、(A)着色剤、(B)バインダー樹脂及び(C)重合性化合物』の4成分を含有することは、甲第2号証にも示されるように一般的であり、例えば特開2010-15025号公報(例えば段落0092?0098)及びWO2009/081483号(例えば段落0104、0101)等にも記載されている。そして甲第2号証においても、複数の効果の両立が図られており、4成分を含有するからこそ甲第2号証に記載の発明に対して奏される新たな効果は存在しないと解するのが適当と考えられる。」と述べ、「チ.以上の通り、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明との間の相違は、課題解決のための具体化手段における微差である場合に該当し、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とは実質同一である。」と主張している。
しかしながら、既に前記(1)イにおいて記載したとおり、上記特開2010-15025号公報及び国際公開第2009/081483号において開示される組成物は、光重合開始剤として、本件特許発明1の式(1)又は式(2)で表されないものも含むものである。そして、含まれる光重合開始剤が異なることにより組成物の、感度、輝度、解像度、耐熱性等の複数の特定を高い水準で両立するという効果に差異が生じるといえる。したがって、重合性化合物、着色剤、バインダー樹脂、重合性化合物の4成分を含有することが周知技術であったとしても、解決しようとする課題が異なるものであることは明らかであり、課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は先願2発明と実質同一であるとはいえない。

なお、念のため、上記先願2発明以外の発明であって、先願2の当初明細書等の記載から認定できる発明に基づき、本件特許発明1が先願2の当初明細書等に記載された発明と実質同一であるといえるかについて検討する。前記4(2)ア(オ)の記載に基づけば、先願2の当初明細書等には、エチレン性不飽和結合を有する化合物、光重合開始剤、架橋剤、色材等を含む感光性組成物に関する発明も記載されていたといえる。しかし、上記光重合開始剤は、本件特許発明1の(D)に該当しない化合物も含むものであり、両者が一致しているとはいえない。そして、本件特許の明細書の記載によれば、感光性組成物において特定の光重合開始剤を採用することにより、感度、輝度、解像度、耐熱性等の複数の特性を高い水準で両立する着色硬化膜を形成することができるという、先願2の当初明細書等には開示されていない効果を奏するものである。そうすると、特定の実施例によらない先願2の光重合開始剤の中から、本件特許発明1の(D)光重合開始剤に含まれる特定の構造を有する化合物を選択することが、課題解決のための具体化手段における微差にあたるということはできない。したがって、先願2の当初明細書等に記載された発明と本願特許発明1が実質同一であるとはいえない。

ウ 本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6は、本件特許発明1に更なる限定を付したものに相当する。そうすると、本件特許発明1と先願2発明とが実質同一とはいえないのであるから、本件特許発明1に更なる限定を付したものに相当する本件特許発明2?6も、当然、先願2発明と実質同一であるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6と先願2発明とは、実質同一であるとはいえないものであるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

6 むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-10-19 
出願番号 特願2013-5795(P2013-5795)
審決分類 P 1 651・ 16- Y (G03F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 倉本 勝利  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 清水 康司
宮澤 浩
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6065596号(P6065596)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 感放射線性着色組成物、着色硬化膜及び表示素子  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 山本 博人  
代理人 村田 正樹  

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