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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 E04H 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E04H |
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管理番号 | 1334389 |
異議申立番号 | 異議2017-700735 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-07-26 |
確定日 | 2017-11-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6084920号発明「変形フレームの矯正装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6084920号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6084920号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年12月27日に特許出願され、平成29年2月3日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人岡林茂(以下「申立人」という。)より請求項1?4に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 特許異議の申立てについて 1 請求項1?4に係る発明 請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された、以下のとおりのものである。 本件発明1 「【請求項1】 構造物において残留変形が生じている柱・梁からなるフレームの上階側に接合される上部剛性要素と、この上部剛性要素との間に水平方向に距離を置いて前記フレームの下階側に接合される下部剛性要素と、前記上部剛性要素と前記下部剛性要素との間に架設され、前記上部剛性要素と前記下部剛性要素に両者が対向する方向の付加力を付与するアクチュエータと、このアクチュエータに接続され、前記アクチュエータにエネルギを供給するエネルギ源とを備え、 前記アクチュエータが前記エネルギ源からのエネルギを用いて前記残留変形の発生の向きと逆向きの前記付加力を前記フレームに付与することを特徴とする変形フレームの矯正装置。」 本件発明2 「【請求項2】 前記アクチュエータは、両側の油圧室に区画され、圧油が充填されたシリンダと、前記油圧室を区画し、前記シリンダ内を往復動するピストンを有する油圧シリンダであり、前記エネルギ源は油圧ポンプであることを特徴とする請求項1に記載の変形フレームの矯正装置。」 本件発明3 「【請求項3】 前記付加力の発生前の状態で、前記ピストンの中心は前記シリンダの中立位置から前記フレームの残留変形量分、前記シリンダの端部側へ寄った位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の変形フレームの矯正装置。」 本件発明4 「【請求項4】 前記両油圧室間に、前記ピストンのいずれか一方の油圧室への移動時に、その移動した側の油圧室内に、前記ピストンと前記シリンダ間の相対速度に対応した大きさの圧力を発生させる調圧弁が接続され、この調圧弁の前記両油圧室側に、前記アクチュエータに前記エネルギ源が接続した状態と解除された状態とを切り替える切替弁が接続されていることを特徴とする請求項2、もしくは請求項3に記載の変形フレームの矯正装置。」 2 特許異議申立て理由の概要 請求項1?4に係る特許に対しての特許異議申立て理由の要旨は、次のとおりである。 (1)特許法第29条第2項について(同法113条第2号) 本件発明1?4は、甲第1号証?甲第7号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲第1号証:特開2002-70357号公報 甲第2号証:「地震後の免震層ズレも修正「多機能オイルダンパー(汎用型)」を開発」、[online]、2012年5月10日、株式会社竹中工務店、インターネット<http://www.takenaka.co.jp/news/2012/05/02/index.html> 甲第3号証:高橋泰彦、外2名、「阪神・淡路大震災で被害を受けた鋼構造建築物の復旧技術および補修例」、1996、大林組技術研究所報特別号、p.156-163 甲第4号証:青木徹彦、外2名、「地震時破損後に補修した橋脚モデルの耐震載荷実験と耐震設計の考え方」、1997年3月31日受付、鋼製橋脚の非線形数値解析と耐震設計に関する論文集、土木学会、p.101-106 甲第5号証:「建築物の震災復旧技術マニュアル(案)」、昭和62年5月30日発行、(社)建築研究振興協会、p.484-485 甲第6号証:「平成7年兵庫県南部地震 被害調査最終報告書 第I編中間報告書以降の調査分析結果」、平成8年3月、建設省建築研究所、p.149 甲第7号証:特開2004-346950号公報 (2)特許法第36条第6項第1号について(同法113条第4号) 本件発明は、地震後に、構造物のフレームに取付けた油圧ダンパに、フレームに生じた残留変形を解消させる能力を付与し、その後、構造物に入力される振動エネルギを吸収させることが課題と認められるところ、請求項1では、残留変形を生じているフレームに取付けられたアクチュエータが、地震等に構造物に入力する振動エネルギを吸収するダンパとして機能することまでは特定されていない。 したがって、請求項1?4に記載の発明は、発明の詳細に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない。 3 判断 (1)特許法第29条第2項について(進歩性欠如違反) ア 刊行物の記載 (ア)甲第1号証 甲第1号証には、申立人が主張するとおり、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている(申立書8頁22行?末行)。 「柱・梁からなるフレームの上階側に接合される上部伝達部材24。 この上部伝達部材24との間に水平方向に距離を置いて前記フレームの下階側に接合される下部伝達部材22。 前記上部伝達部材24と前記下部伝達部材22との間に架設され、前記上部伝達部材24と前記下部伝達部材22に両者が対向する方向の付加力を付与する油圧ダンパ13。」 (イ)甲第2号証 甲第2号証には、申立人が主張するとおり、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている(申立書10頁14行?15行)。 「オイルダンパーに油圧ユニットからオイルを供給しジャッキとして機能させ、地震後の免震層の残留変形をなくす。」 イ 判断 (ア)本件発明1について a 本件発明1と甲1発明の対比 (a)甲1発明の「上部伝達部材24」、「下部伝達部材22」が、それぞれ本件発明1の「上部剛性要素」、「下部剛性要素」に相当する。 (b)甲1発明の「油圧ダンパ13」は、「前記上部伝達部材24と前記下部伝達部材22に両者が対向する方向の付加力を付与する」ことから、本件発明1の「アクチュエータ」と、「付加力を付与する部材」である点で共通する。 (c)甲1発明は「油圧ダンパ13」により、実質的に「フレーム」の変位を調整していることから、本件発明1の「変形フレームの矯正装置」と、「フレームの変位を調整する装置」である点で共通する。 (d)上記(a)?(c)を踏まえつつ、本件発明1と甲1発明を対比すると、以下の一致点で一致し、相違点1、2で相違する。 <一致点> 「柱・梁からなるフレームの上階側に接合される上部剛性要素と、この上部剛性要素との間に水平方向に距離を置いて前記フレームの下階側に接合される下部剛性要素と、前記上部剛性要素と前記下部剛性要素との間に架設され、前記上部剛性要素と前記下部剛性要素に両者が対向する方向の付加力を付与する部材、 を有するフレームの変位を調整する装置。」 <相違点1> 柱・梁からなるフレームについて、本件発明1が「残留変形が生じている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。 <相違点2> 「付加力を付与する部材」に関して、本件発明1が「アクチュエータと、このアクチュエータに接続され、前記アクチュエータにエネルギを供給するエネルギ源とを備え」、「前記アクチュエータが前記エネルギ源からのエネルギを用いて前記残留変形の発生の向きと逆向きの前記付加力を前記フレームに付与」し、「変形フレームの矯正」を行うのに対し、甲1発明が「油圧ダンパ」を用いて「前記上部伝達部材24と前記下部伝達部材22に両者が対向する方向の付加力を付与」している点。 b 相違点について 相違点2に関して、甲第2号証には、オイルダンパーにジャッキ機能を付与し、免震層の残留変形をなくすことが開示されている。 ここで、一般的にダンパ(ダンパー、damper)とは「運動物体や振動体を停止させ、あるいは振動を緩和するため、その運動エネルギーを吸収する装置」(広辞苑第三版第八刷)であるところ、甲第1号証において「油圧ダンパ13は、・・・下部伝達部材22と上部伝達部材24との相対変位に伴う水平方向(A,B方向)の振動を減衰することができる。」(【0016】)と記載されていることから見て、甲1発明の「油圧ダンパ13」は上記のような一般的な意味のダンパであることは明らかである。 したがって、甲1発明において、柱梁等の残留変形を矯正することはそもそも想定しておらず、「油圧ダンパ13」は制震のための部材であるから、そのような制震用の「油圧ダンパ13」に対して、甲2発明のような残留変形を矯正するためのジャッキ機能を適用することは、阻害要因があるというべきである。 また、甲第3号証?甲第5号証には、申立人が主張するとおり、「甲第3号証には、ワイヤやテンションジャッキを利用して建起して、架構の残留変形の修正方法が開示されており、また、甲第4号証には、地震後、橋脚の残留変形を、H型鋼などによりトラスを形成してジャッキでもとの位置まで戻して補修する方法が記載されており、さらに、甲第5号証には、隣接する柱の柱頭と柱脚との間にオイルジャッキ等を設置して建て起す方法が記載されている」(申立書16頁14行?19行)が、上記甲2発明の場合と同様に、甲1発明に適用することには阻害要因がある。 また、その他の証拠である甲第6号証、甲7号証には、相違点2に係る構成は開示されていない。 よって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 c 小括 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)本件発明2?4について 本件発明2?4は、本件発明1に直接的又は間接的に従属するものであって、本件発明1のすべての発明特定事項を含むものであるから、上記(ア)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)まとめ したがって、本件発明1?4は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (2)特許法第36条第6項第1号について(記載要件違反) ア 記載不備について 請求項1には、アクチュエータによって、「構造物において残留変形が生じている柱・梁からなるフレーム」の「残留変形の発生の向きと逆向きの前記付加力を前記フレームに付与する」「変形フレームの矯正装置」が記載されている。 一方、発明の詳細な説明には「【0013】本発明は上記背景より、フレームに地震時等の減衰力発生の目的で設置される油圧ダンパに、構造物のフレームに生じた残留変形を解消させる能力を付与することを可能にする変形フレームの矯正装置を提案するものである。」、「【0016】アクチュエータは残留変形の矯正時にフレームの層間変形を解消する方向に力を発生し 、平常時の使用状態ではフレームに作用する水平力に対して減衰力を発生することから、・・・【0017】アクチュエータは残留変形が生じている柱・梁のフレームの変形を矯正し、変形前の状態に復帰させるための付加力をフレームに付与するが、フレームの変形を矯正(解消)した後には地震時等にフレームに層間変形が生じたときに構造物に入力する振動エネルギを吸収するダンパとして機能する。この関係で、アクチュエータは残留変形矯正後に想定される地震時にフレームに作用する水平力を負担しながら減衰力を発生し、フレームが負担すべき水平力を低減させる能力を持てばよい。但し、フレームの残留変形は塑性変形であるから、残留変形を矯正するには変形量の程度に応じ、フレームに残留変形を与えた荷重(外力)以上の力(付加力)を発生する必要があり、この力はダンパとしての使用中のフレームの変形時に発生する減衰力以上になることがある。残留変形量が小さければ、フレームの残留変形を矯正するために要する付加力はダンパとしての機能時に発生する減衰力を下回ることがある。」(下線は当決定で付与)と記載されており、特に下線部の記載を踏まえると、請求項1記載の「アクチュエータにより残留変形を矯正すること」が、発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。 そして、上記の発明の詳細な説明の記載等から見て、本件発明の解決しようとする課題は、地震時に構造物に入力する振動エネルギを吸収する(減衰させる)ことと、構造物のフレームに生じた残留変形を解消させることがあると解され、後者の課題を解決するための構成は、請求項1に開示されていることから、ダンパとしての機能が請求項1に明示されていないことをもって、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているとまではいえない。 また、請求項2?4は請求項1を引用する請求項であるので、請求項2?4についても、上記請求項1の場合と同様の理由で、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているとまではいえない。 イ 小括 したがって、本件請求項1?4に記載の発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。 第3 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-10-26 |
出願番号 | 特願2013-271558(P2013-271558) |
審決分類 |
P
1
652・
537-
Y
(E04H)
P 1 652・ 121- Y (E04H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 新井 夕起子 |
特許庁審判長 |
小野 忠悦 |
特許庁審判官 |
井上 博之 西田 秀彦 |
登録日 | 2017-02-03 |
登録番号 | 特許第6084920号(P6084920) |
権利者 | 鹿島建設株式会社 |
発明の名称 | 変形フレームの矯正装置 |
代理人 | 塩田 康弘 |