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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1334614
審判番号 不服2016-15091  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-06 
確定日 2017-11-15 
事件の表示 特願2014-191676「シクロプロパン誘導体の生成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月29日出願公開、特開2015- 17115〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2009年11月12日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年11月14日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2011-536017号の一部を平成26年9月19日に新たな特許出願としたものであって、平成27年9月14日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月29日に意見書が提出され、同年5月30日付けで拒絶査定がされ、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同年11月16日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「式(I)のシクロプロパン誘導体
【化1】

の調製方法であって、式(II)のオレフィン
【化2】

と、式:CR^(1)R^(2)のカルベンとをマイクロリアクター中、銅金属または銅酸化物の存在下、場合によっては溶媒の存在下で、反応させるステップを含み、式中、
R^(1)およびR^(2)はそれぞれ独立に、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、-C(O)R^(7)、または-NR^(8)_(2)であり;
R^(3)、R^(4)、R^(5)、およびR^(6)はそれぞれ独立に、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、-C(O)R^(9)、-NR^(10)_(2)、-SR^(11)、-S(O)R^(11)、または-SO_(2)R^(11)であり、あるいは
R^(3)およびR^(6)は上記に定義された通りであり、かつR^(4)とR^(5)は一緒になって環を形成し、その環はカルボシクリル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族であり;
R^(7)は、水素、ヒドロキシ、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、または-NR^(10)_(2)であり;
R^(8)は、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、またはヘテロシクリルであり;
R^(9)は、水素、ヒドロキシ、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、アリール、アリールオキシ、またはヘテロアリールであり;
R^(10)は、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、ヘテロシクリル、またはC(O)R^(12)であり;
R^(11)は、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、またはヘテロシクリルであり;
R^(12)は、水素、ヒドロキシ、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、アリール、またはアリールオキシであり、連続プロセスである方法。」

第3 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、平成27年9月14日付け拒絶理由通知における理由1であり、その理由1の概要は、この出願の請求項1?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:中国特許出願公開第1376538号明細書
引用文献2:特開2008-68241号公報
引用文献3:国際公開第2004/009231号
引用文献4:特開2007-90324号公報
引用文献5:特開2004-188258号公報

第4 当審の判断
当審は、拒絶理由のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?7に記載された技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:中国特許出願公開第1376538号明細書(原審における引用文献1)
刊行物2:.特開2008-68241号公報(原審における引用文献2)
刊行物3:国際公開第2004/009231号(原審における引用文献3)
刊行物4:特開2007-90324号公報(原審における引用文献4)
刊行物5:.特開2004-188258号公報(原審における引用文献5)
(刊行物2?5は、マイクロリアクターについて、本願優先日時点の技術常識を示す文献である。)
刊行物6:吉田潤一監修、マイクロリアクターの開発と応用、株式会社シーエムシー出版、2008年9月24日、普及版第1刷,第99?105、117?120頁(原審において拒絶査定時に引用された本願優先日時点の技術常識を示す文献である。)
刊行物7:奈良坂紘一 他2名監訳、ジョーンズ有機化学(上)第3版、株式会社東京化学同人、2006年3月1日、第427?428頁
刊行物8:岡田功 外1名著、化学工学入門、株式会社オーム社、昭和60年12月20日 第1版16刷発行、第204頁
(刊行物7及び8は、新たに引用した本願優先日時点の技術常識を示す文献である。)

2 刊行物の記載事項
(1)刊行物1
刊行物1には、以下の事項が記載されている。(以下、訳文で示す。訳文は当審で作成した。)
(1a)「アルケンとジアゾ化合物からシクロプロパン化にあたり、銅触媒を用いる。触媒は、担体として、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、TiO_(2)、CeO_(2)から選択される1種を用い、活性成分としてのCu化合物を1?60重量%用い含浸担持法により製造される。シクロプロパン誘導体は、合成ピレスロイド殺虫化合物に用いることができる。本発明により提供される触媒は、低コスト、高い触媒活性及び単純な製造方法により生産でき、工業生産に適した製造方法である。」(第1頁下段、要約)

(1b)「1.アルケンのシクロプロパン化に用いる担体担持銅系触媒であり、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、TiO_(2)、CeO_(2)から選択される1種又は2種以上を担体として用い、活性成分として、銅又は銅化合物を1?60重量%を使用する触媒。
2.活性成分として、銅又は銅化合物を5?20重量%使用する請求項1に記載の触媒。
3.活性成分の銅化合物が、銅酸化物、銅ヒドロクロリド、塩化第一銅である請求項1に記載の触媒。
4.第2の活性成分を含み、第2の活性成分が5%よりも少ない請求項1に記載の触媒。
5.第2の活性成分が、Co、Ru又はAgである請求項4に記載の触媒。」(特許請求の範囲の請求項1?5)

(1c)「本発明の目的は、アルケンのシクロプロパン化反応に用いた担体担持銅系触媒を提供することにあり、その触媒のシクロプロパン化反応活性は高く、選択性に高く、特にジアザ化合物でピレスロイド類化合物を合成することに適する。
上記の目的を達成するため、本願発明者たちは全力の研究を行って、シクロプロパン化反応に対して、もし固定床反応器を用いれば、反応を流動状態で、爆発危険を低下させ、同じく収率を高めることができる。固定床反応器を用いたキーポイントは高活性を発見し、不均一系触媒を形成しやすいことである。このため、本発明はアルケンシクロプロパン化反応に高活性を有する担体担持銅系触媒及びこの触媒を調製する方法を提供し、固定床方法がピレスロイド化合物を生産する必須条件を提供したことを実現することである。」(第2頁第4?11行)

(1d)「実施例1
初めに担体の細孔容積を測定し、金属塩を適量の水に溶解して浸漬液を作成し、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、TiO_(2)又はCeO_(2)を添加し、2?3時間十分に浸漬・撹拌し、撹拌条件下、110℃のオーブンで一晩水を蒸発させ乾固した。450℃で3時間焼成した。担体が異なる触媒を作成し、これらを表1、表2、表3及び表8に示す。」(第2頁第25?30行)

(1e)「実施例4
実施例1?3の触媒を一定量(20mg)秤取し、反応釜中に載置し、真空としアルゴンを通気させ、アルケン(3mmol)と一定量のジクロロメタンを添加し、撹拌下70℃に予熱し、0.5mlのジアゾ酢酸エチルのジクロロメタン溶液を添加して反応させた。40℃に温度を下げ、継続してジアゾ酢酸エチルを2時間ゆっくり滴下した(1.5mmol)。滴下後、30分撹拌した後、反応を停止し、ガスクロマトグラフィーで分析してFIDを検出した。」(第3頁第10?15行)

(1f)「実施例7
反応時間の影響を考察するため、実施例1と実施例4の条件で同じ触媒を用いた反応時間の結果
表3 12%CuO/Al_(2)O_(3)触媒の活性変化が時間的に変化する対比(アルケン:スチレン)
|-------------------------------|
|原料を添加|反応を継続|2量体の|シクロ |・・・ 選択性|
|した時間 |した時間 | 収率 |プロパン | |
|(h) | (h) | (%)|の収率(%)| (%)|
|-------------------------------|
| 2 | 0.5 | 23 | 65 | 74 |
|-------------------------------|
| 4 | 1 | 2 | 90 | 98 |
|-------------------------------|
上記表から、ジアゾ酢酸エチルの滴下速度は、反応収率に比較的大きな影響があることをみて取ることができる。反応時間を長くするにつれて、反応の選択性と収率は著しく高くなることがある。」(第4頁下から3行?第5頁表3の下2行)

(2)刊行物2
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】
触媒金属を含有するアルミナよりなる厚さ0.5?10μmの触媒層が内壁に形成された、内径10?1000μmの親水性キャピラリーよりなることを特徴とするマイクロリアクター。」

(2b)「【0010】
従って、本発明の目的は、キャピラリータイプのマイクロリアクターにおいて、金属触媒の担体としてアルミナを使用し、しかも、キャピラリー内に反応物含有流体を通過せしめる際の圧損が低く、これにより高い反応物流速を達成すると共に、高活性を達成できる、高性能なマイクロリアクターを提供することにある。」

(2c)「【0027】
上記触媒層において、触媒金属は、反応に応じて、公知のものが制限なく使用される。代表的なものを例示すれば、白金、ロジウム、パラジウム、銅、ニッケル、亜鉛等が挙げられる。これらの触媒金属は、単独、或いは、二種以上を組み合わせて使用される。そのうち、例えば、エチレンの水素化反応においては、銅が好ましく、また、メタノール合成の反応、メタノールのスチームリフォーミングによる水素生成反応においては、銅-亜鉛の組合せが好ましい。」

(3)刊行物3
刊行物3には、以下の事項が記載されている。
(3a)「請求の範囲
・・・
17.流路となるチューブ状の反応器を備え、該反応器中にて、反応種を反応させるマイクロ反応装置であって、
上記反応器の内壁に粒子からなる粒子層を備えることを特徴とするマイク口反応装置。
・・・
22.上記粒子は、触媒であることを特徴とする請求項17?21のいずれか1項に記載のマイクロ反応装置。」(請求の範囲第17項及び第22項)

(3b)「背景技術
マイクロ反応装置は、例えば、径の小さいチューブ状の反応器を備え、この反応器を流路として種々の反応種を通過させることにより、物質生成、触媒反応等の種々の反応を進行させるものである。このマイクロ反応装置では、反応容積に対する反応器における壁(器壁)の表面積が大きく、さらにこの反応容器内を通過する反応種の器壁までの拡散距離が短くなつている。そのため、例えば触媒を上記器壁に担持させることにより、反応種と触媒との接触面積が高くすることができ、高効率の触媒反応が可能となる。したがって、上記マイクロ反応装置は、触媒反応装置として有望視されている。」(第1頁第8?17行)

(3c)「上記粒子自体は、触媒であってもよい。また、上記のような粒子層に、触媒等の機能性材料を担持してもよい。これにより、上記マイクロ反応装置は触媒反応装置とすることができる。この場合、粒子層では、粒子間に空隙があり、上記反応器を反応種が通過した場合、この反応種と触媒との接触面積が大きくなっているため、触媒反応を高効率化することができる。それにより、例えば非常に反応時間が短い部分酸化などの反応においても、反応種の触媒中への拡散時間、触媒との接触時間のばらつきを抑えることができるため、反応生成物の種類のばらつきを抑えることができる。この場合、反応種の拡散時間のばらつきも抑えられるために、空隙の構造が規則的であるほうが望ましい。つまり、上記粒子層では、均一粒径の粒子を規則的に配列することが望ましい。」(第3頁第12?22行)

(3d)「この微粒子2aには、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、酸化スズ、酸化亜鉛、硫化亜鉛、セレン化カドミウム等のセラミック材料、ニッケル、白金、金、銀、銅などの金属材料、ポリメチルメタクリル酸、ポリスチレン、タンパク質等の高分子材料を用いることができる。」(第10頁第16?19行)

(4)刊行物4
刊行物4には、以下の事項が記載されている。
(4a)「【請求項1】
ナノ細孔を有する多孔質シリカにより構成された、直径0.1?100μmの中空貫通孔を有する筒状多孔質シリカの該中空貫通孔の少なくとも内壁表面に触媒金属を担持したことを特徴とするマイクロリアクター。」

(4b)「【0008】
従って、本発明の目的は、従来のマイクロリアクターに比べて、反応域と成る流路の形成が極めて容易で、しかも、高い反応物流速が得られると共に、有効な触媒活性を有する高性能なマイクロリアクターを提供することにある。」

(4c)「【0031】
本発明のマイクロリアクターにおいて、金属触媒は、対象とする反応に対して、公知のものを特に制限なく使用することができる。代表的な金属触媒を例示すれば、白金、ロジウム、パラジウム等白金族元素、銅、ニッケルなどが挙げられる。」

(5)刊行物5
刊行物5には、以下の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】
内周面に触媒を担持する多孔質セラミックス中空糸膜を、触媒反応に供される物質を含む流体の通路途中に備え、前記多孔質セラミックス中空膜の内周面に沿って前記流体の流路が形成されることを特徴とする微小リアクタ。」

(5b)「【0002】
【従来の技術】
従来、生化学反応や化学反応を行うための微小リアクタ(マイクロリアクタ又はミリリアクタ)が開発されている。このような微小リアクタでは、流路径が数十μm?数mmと小さいことから流路体積に対する表面積の割合(比表面積)が非常に大きい特徴がある。このため、伝熱特性に優れ、且つ、流路壁との相互作用が大きいことから、触媒反応に適した反応場である。また、使用する触媒量や反応物質量も少なくてよく、また、滞留時間の正確な制御が可能であり、供給流体の逆混合を最小限にできるという利点を有している。」

(5c)「【0008】
多孔質セラミックス中空糸膜は、その外径や内径を精密に設定すること、また、表面に触媒を担持することが容易な基質である。同構成によれば、多孔質セラミックス中空糸膜の表面に触媒を担持するは容易であるため、その内周面に触媒を担持し、この中空糸膜を流体の通路途中に設置するといった簡易な工程に基づき、微量の試料に触媒反応をさせる場として、精密な流路構造を構築することができる。」

(5d)「【0013】
(4)また、前記多孔質セラミック中空糸膜の内周面に担持される触媒は、Cu、ZnO及びAl_(2)O_(3)を含むものであるのが好ましい。」

(6)刊行物6
刊行物6には、以下の事項が記載されている。
(6a)「2 有機合成におけるマイクロリアクターの特長
有機合成の立場からみたとき、マイクロリアクターはどんな特長をもっているのだろうか。また、その特長を有機合成にどのように生かせばよいのだろうか。まず、マイクロリアクターを有機合成で用いる場合の一般的な特長について、以下に簡単にまとめてみよう。
1(原文は○の中に1) 微少量での合成が可能となる
反応容器として、マイクロリアクターはフラスコに比べて格段にサイズが小さいので、使用する出発物質、反応剤、溶媒等の量が元々少なくて済む。さらに、分析機器の能力の限界まで反応スケールを小さくすることにより、時間やコストだけでなく環境への負荷もかなり小さくすることができる。そのため、今後の実験室的合成は、ある程度の量が必要な原料合成やサンプル合成の場合を除いては、できるだけマイクロ化する方向に進んでいくであろう。
2(原文は○の中に2) 温度制御が効率よく行える
マイクロリアクターは装置全体が小さく、反応溝の単位体積あたりの表面積が大きいために熱交換の効率が極めて高く、温度制御が容易に行える。この特長は精密な温度制御を必要とする反応や、急激な加熱または冷却を必要とする反応でも、マイクロリアクターを用いれば比較的容易に行える可能性を示唆している。たとえば、通常のフラスコ中では部分的な発熱により暴走する可能性のある反応でもマイクロリアクターを用いると制御して行えるようになるであろう。このような特長はマイクロリアクターを用いて工業的生産を行う場合にもあてはまる。
3(原文は○の中に3) 界面での反応が効率よく起こる
単位体積あたりの表面積が格段に大きいというマイクロリアクターの特長は、また、気-液、液-液、固-液反応のような界面での効率的な反応や、相を利用した反応後の生成物の分離・精製にも有効であると考えられる。
4(原文は○の中に4) 効率的な混合が行える
混合は、最終的には分子拡散に依存する。分子拡散による混合では、混合に要する時間は拡散距離の二乗に比例する。
t?d^(2)/D
t:混合に要する時間、d:拡散距離、D:拡散係数
従って、マイクロ流路を利用して拡散距離を格段に小さくすることにより、通常の混合器では実現できないような高速かつ効率的な混合が行える。」(第99頁第10行?第100頁第16行)

(7)刊行物7
刊行物7には、以下の事項が記載されている。
(7a)「10・4d カルベン カルベン(・・・)とよばれる中間体がアルケンに付加すると、シクロプロパンが生成する。カルベンは中性の二価炭素であり、しばしばジアゾ化合物(・・・)とよばれる含窒素分子から生成される。・・・

しかし、ジアゾ化合物には毒性や爆発性があり、またおそらくは発がん性もある。したがって、ジアゾ化合物を用いてカルベンの実験を行うには、十分な注意に加えて勇気と若干の狂気が必要である。
・・・
カルベンは興味深い反応性を有する化学種である。このため、ジアゾ化合物は取扱いが難しいが、しばしばカルベン源として利用される。ジアゾ化合物は熱(Δ)あるいは光(hv)により窒素を放出し、対応するカルベンを発生する。そして、通常カルベンは溶媒として用いるアルケンと速やかに反応して、シクロプロパンを与える。」(第427頁第9行?428頁第10行)

(8)刊行物8
刊行物8には、以下の事項が記載されている。
(8a)「(b)管形連続反応装置 第8・3図に略図を示す。細長い直管またはコイル管を用いて気相反応や液相反応を行わせるもので、反応速度の速い場合に適する。伝熱面積も十分にとれるので、激しい発熱反応でも温度調節が容易である。
例:エタンの熱分解によるエチレンの製造、石油の熱分解など。

」(第204頁第4?8行、第8・3図、第8・4図)

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1の特許請求の範囲の請求項1には、「アルケンのシクロプロパン化に用いる担体担持銅系触媒であり、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、TiO_(2)、CeO_(2)から選択される1種又は2種以上を担体として用い、活性成分として、銅又は銅化合物を1?60重量%を使用する触媒。」が記載され(摘記(1b))、そして、実施例7には、刊行物1の請求項1に記載された触媒の具体例を用いてアルケンをシクロプロパン化した方法であって、実施例1と実施例4の条件で行われたことが記載されている(摘記(1f))から、実施例7には、「12%CuO/Al_(2)O_(3)触媒」を「一定量(20mg)秤取し、反応釜中に載置し、真空としアルゴンを通気させ、アルケン(3mmol)」である「スチレン」と「一定量のジクロロメタンを添加し、撹拌下70℃に予熱し、0.5mlのジアゾ酢酸エチルのジクロロメタン溶液を添加して反応させた。40℃に温度を下げ、継続してジアゾ酢酸エチルを2時間ゆっくり滴下した(1.5mmol)。滴下後、30分撹拌した」方法が記載され、表3には、シクロプロパンが製造されたことが記載されている(摘記(1e)(1f))。

そうすると、刊行物1には、「12%CuO/Al_(2)O_(3)触媒を一定量(20mg)秤取し、反応釜中に載置し、真空としアルゴンを通気させ、アルケン(3mmol)であるスチレンと一定量のジクロロメタンを添加し、撹拌下70℃に予熱し、0.5mlのジアゾ酢酸エチルのジクロロメタン溶液を添加して反応させ、40℃に温度を下げ、継続してジアゾ酢酸エチルを2時間ゆっくり滴下し(1.5mmol)、滴下後、30分撹拌し、シクロプロパンを製造する方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明のアルケンであるスチレンは、本願発明の式(II)のオレフィンにおいて、R^(3)、R^(4)及びR^(5)が水素であり、R^(6)がアリールである場合に相当する。
また、引用発明のシクロプロパンは、本願発明のシクロプロパン誘導体に相当し、そして、引用発明の「シクロプロパンを製造する方法」は、本願発明の「シクロプロパン誘導体の調製方法」相当することは明らかである。

そうすると、本願発明と引用発明とでは、
「シクロプロパン誘導体の調製方法であって、式(II)のオレフィン
【化2】

と、銅金属または銅酸化物の存在下、反応させるステップを含み、式中、
R^(3)、R^(4)、R^(5)、およびR^(6)はそれぞれ独立に、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、-C(O)R^(9)、-NR^(10)_(2)、-SR^(11)、-S(O)R^(11)、または-SO_(2)R^(11)であり、あるいは
R^(3)およびR^(6)は上記に定義された通りであり、かつR^(4)とR^(5)は一緒になって環を形成し、その環はカルボシクリル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族であり;
R^(9)は、水素、ヒドロキシ、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、アリール、アリールオキシ、またはヘテロアリールであり;
R^(10)は、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、ヘテロシクリル、またはC(O)R^(12)であり;
R^(11)は、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、またはヘテロシクリルであり;
R^(12)は、水素、ヒドロキシ、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、アリール、またはアリールオキシである方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本願発明では、式(II)のオレフィンと、CR^(1)R^(2)のカルベン(R^(1)とR^(2)は、以下に示したとおりの置換基である。)とを反応させているのに対して、引用発明では、スチレンとジアゾ酢酸エチルとを反応させている点
R^(1)およびR^(2)はそれぞれ独立に、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(2)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、カルボシクリル、-C(O)R^(7)、または-NR^(8)_(2)であり;
R^(7)は、水素、ヒドロキシ、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、または-NR^(10)_(2)であり;
R^(8)は、水素、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、またはヘテロシクリルである

(相違点2)本願発明では、シクロプロパン誘導体が、式(I)のシクロプロパン誘導体
【化1】

と特定されている(R^(1)とR^(2)は、上記相違点1で示したとおりの置換基である。また、R^(3)?R^(6)は、上記一致点で示したとおりの置換基である。)のに対して、引用発明では具体的なシクロプロパンが明らかでない点

(相違点3)式(II)のオレフィンとカルベンとを反応させる際、本願発明では、マイクロリアクター中で連続プロセスとして反応させるとしているのに対して、引用発明では反応釜中で反応させており、マイクロリアクター中で連続プロセスとして反応させていない点

(2)判断
これらの相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明では、式(II)のオレフィンに相当するスチレンとジアゾ酢酸エチルとを反応させているところ、刊行物7には、ジアゾ化合物は熱により窒素を放出し対応するカルベンを発生し、アルケンと速やかに反応してシクロプロパンを与えることが記載されており(摘記(7a))、これが本願の優先日時点での技術常識といえるところ、引用発明では、70℃に予熱してジアゾ酢酸エチルをスチレンに添加し、その後、40℃に温度を下げ、継続してジアゾ酢酸エチルを滴下するものであり、ジアゾ酢酸エチルは加熱され、熱により窒素を放出してカルベンを発生している。そして、ジアゾ酢酸エチルから生成するカルベンは、窒素を放出したHC-C(=O)-OC_(2)H_(5)の化学構造を有しているといえ、このカルベンの化学構造は、本願発明のR^(1)が水素であり、R^(2)が-C(=O)R^(7)であって、R^(7)がC_(1)?C_(6)のアルコキシであるカルベンに相当する。
よって、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

イ 相違点2について
引用発明では、スチレンとジアゾ酢酸エチルとを反応させてシクロプロパンを製造しており、上記相違点1において述べたとおり、刊行物7には、ジアゾ化合物は熱により窒素を放出し対応するカルベンを発生し、アルケンと速やかに反応してシクロプロパンを与えることが記載されており(摘記(7a))、これが本願の優先日時点での技術常識といえるから、引用発明のスチレンとジアゾ酢酸エチルとの反応生成物は、本願発明の式(I)の、R^(1)が水素であり、R^(2)が-C(=O)R^(7)であって、R^(7)がC_(1)?C_(6)のアルコキシであり、R^(3)、R^(4)及びR^(5)が水素であり、R^(6)がアリールであるシクロプロパン誘導体であることは明らかである。
よって、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

ウ 相違点3について
刊行物8には、管形連続反応装置は、反応速度の速い場合に適し、激しい発熱反応でも温度調節が容易であることが記載されており(摘記(8a))、これは、本願の優先日時点での技術常識であるといえる。
また、刊行物2には、触媒層が内壁に形成されたマイクロリアクターが記載され、高性能で高活性であることが記載されており(摘記(2a)(2b))、刊行物3には、チューブ状の反応器中にて、反応種を反応させる反応器の内壁に粒子からなる粒子層を備えるマイクロ反応装置が記載され、マイクロ反応装置は、高効率で触媒反応が可能であることが記載されており(摘記(3a)(3b))、刊行物4には、中空貫通孔の内壁に触媒を担持したマイクロリアクターが記載され、有効な触媒活性で、高性能であることが記載されており(摘記(4a)(4b))、刊行物5には、内周面に触媒をした中空糸膜を備えたマイクロリアクターが記載され、マイクロリアクターは、流路壁との相互作用が大きいから触媒反応に適した反応場であることが記載されており(摘記(5a)(5b))、刊行物6には、有機合成におけるマイクロリアクターの特長として、高速かつ効率的な混合が行え、効率的な反応に有効であることが記載されている(摘記(6a))。
したがって、管形連続反応装置は、反応速度が速い場合に適し、激しい発熱反応でも温度調節が容易であること、及び、管形連続反応装置であるマイクロリアクターは、触媒反応に適した反応場であって高効率で触媒反応が可能であることは、本願の優先日時点において技術常識であったといえる。
ここで、刊行物1には、発明の目的は、アルケンのシクロプロパン化反応に用いた担体担持銅系触媒を提供することにあり、その触媒のシクロプロパン化反応活性は高く、選択性に高く、特にジアザ化合物でピレスロイド類化合物を合成することに適する、と記載され(摘記(1c))、この目的を達成するために固定床反応器を用い、爆発危険を低下させ、収率を高めることができることが記載されている(摘記(1c))。
引用発明は、反応釜中で一定時間反応を行う方法の発明ではあるものの、その反応は、反応活性が高く、爆発の危険性がある担体担持銅系触媒を用いたアルケンのシクロプロパン化反応であることを認識した当業者であれば、そのような課題に対応できる、反応速度が速い場合に適し、激しい発熱反応でも温度調節が容易である管形連続反応装置を用いた方法とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、そのような管形連続反応装置として、マイクロリアクターは、触媒反応に適した反応場であって高効率で触媒反応が可能なものとして当業者に周知のものといえるのであるから、引用発明において、管形連続反応装置を採用して、そして、その管形連続反応装置として、マイクロリアクターを採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
さらに、上記したように、刊行物2?6には、マイクロリアクターは、触媒反応に適した反応場であって高効率で触媒反応が可能であることが、本願の優先日時点において技術常識であったといえる。また、マイクロリアクターを用いることで、連続的な反応でも効率的に混合できる結果、同じ反応条件(温度、時間等)でも、収率が高まることは明らかである。
そして、刊行物1には、シクロプロパン化反応活性が高く、選択性の高い触媒に関して記載され(摘記1c)、引用発明は、その触媒を用いたものである。
したがって、引用発明の方法において、スチレンとジアゾ酢酸エチルとを反応釜中で反応させることに代えて、本願の優先日時点の技術常識に基づき、触媒反応に適した反応場で高効率で触媒反応が可能なマイクロリアクター中で連続プロセスとして反応させることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

イ 効果について
本願の発明の詳細な説明には、マイクロリアクターを用いることにより、実施例1?5、比較例1?3を対比してみると、シクロプロピル誘導体の収率が向上したことが具体的なデータと共に記載され、また、実施例6?10、比較例4及び5を対比してみると、二量体の生成を抑制しつつシクロプロピル誘導体の収率が向上したことが具体的なデータと共に記載されている。

これらの効果について検討するが、刊行物3には、マイクロリアクターを用いれば効率よく反応することができることが記載されており、また、刊行物6には、高速かつ効率的な混合が行え、効率的な反応に有効であることが記載されており(摘記(6a))、これは、本願の優先日時点での技術常識ということができる。
そして、これらの内容は、同じ反応条件(温度、時間等)で収率が高まると解することができ、また効率よく反応することができるということは、反応温度を上げてまで反応効率を向上させる必要はなく、通常の反応温度にて反応させることができることを示唆しているといえ、通常の反応温度での反応であれば、副生成物の生成を抑えることができるといえる。これらのことからすると、本願発明における副生成物である二量体生成を抑制しつつシクロプロピル誘導体の収率が向上した効果については、当業者の予測を超えた効果であるということはいえない。
また、上記した発明の詳細な説明に記載された実施例1?10に示された具体的な効果は、本願発明のうち、特定のオレフィンと特定のカルベンを用いた場合の効果にすぎず、原料のオレフィンとカルベンが本願発明に含まれる他の化合物であったとしても、実施例と同様な効果を奏することは明らかであるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明には、本願発明の全般に渡って、顕著な効果を奏することが示されているともいえない。

5 審判請求人の主張
審判請求人は、刊行物1に記載された反応は液相反応であり、一方、刊行物2?5において具体的に記載された反応は気相反応であり、化学反応自体も刊行物1に記載された反応と全く異なるから、刊行物2?5に記載されたマイクロリアクターを刊行物1に記載された発明に採用しようとはしない旨を主張する(審判請求書の手続補正書(方式)第3頁第33行?第4頁第8行)(以下「主張ア」という。)。また、効果について、本願発明は、高速の反応で熱移動を制御でき、また、短時間で反応できることを主張する(審判請求書の手続補正書第4頁第26?34行)(以下「主張イ」という。)。

(1)主張アについて
刊行物2には、触媒金属を含有するアルミナよりなる厚さ0.5?10μmの触媒層が内壁に形成されたマイクロリアクターが記載され(摘記(2a))、流体の通過させる際の圧力損失が低くすることを目的とした発明が記載されており(摘記(2b)参照)、これらの記載からすると液相反応又は気相反応の特定の反応に用いるためのマイクロリアクターを記載しているものとはいえない。
刊行物3には、チューブ状の反応器の内壁に粒子からなる粒子層を備えるマイクロ反応装置が記載され(摘記(3a))、粒子層は、粒子間に空隙があり、反応種が通過した場合に、反応種と触媒との接触面積が大きくなっているため、触媒反応を効率化することができる発明が記載されており(摘記(3c))、これらの記載からすると液相反応又は気相反応の特定の反応に用いるためのマイクロリアクターを記載しているものとはいえない。
刊行物4には、直径0.1?100μmの中空貫通孔を有する筒状多孔質シリカの内壁表面に触媒金属を担持したマイクロリアクターが記載され(摘記(4a))、高い反応物流速が得られると共に、有効な触媒活性を有することを課題とする発明が記載されており(摘記(4b))、これらの記載からすると液相反応又は気相反応の特定の反応に用いるためのマイクロリアクターを記載しているものとはいえない。
刊行物5には、内周面に触媒を担持し、内周面に沿って前記流体の流路が形成された多孔質セラミックス中空糸膜を、流体の通路途中に備えた微小リアクタが記載され(摘記(5a))、触媒を容易に担持でき、簡単に精密な流路構造を構築することできる発明が記載されており(摘記(5c))、これらの記載からすると液相反応又は気相反応の特定の反応に用いるためのマイクロリアクターを記載しているものとはいえない。
また、刊行物6には、マイクロリアクターは、液-液反応においても有効であることが記載されており、これは本願の優先日時点での技術常識であるといえるから、刊行物2?5に具体的に記載された化学反応が気相反応であるからといって、刊行物2?5に記載されたマイクロリアクターを刊行物1に記載された液相の反応に適用しないとはいえない。
そして、上記4(2)で述べたとおり、引用発明において刊行物2?5に記載された技術的事項を適用する動機付けがあるのであるから、審判請求人の主張アは採用できない。

(2)主張イについて
刊行物5には、マイクロリアクタである微小リアクタは、伝熱特性に優れることが記載され(摘記(5b))、また、刊行物6には、マイクロリアクターの特長として、マイクロリアクターは単位体積当たりの表面積が大きいため、熱交換の効率が極めて高く、急激な加熱または冷却を必要とする反応でも、比較的容易に行えることが記載され(摘記(6a))、高速で効率的な混合が行うことも記載されており(摘記(6a))、これらは本願の優先日時点での技術常識であるといえるから、審判請求人が主張する効果は、当業者が予測できる効果にすぎないものといえる。
よって、審判請求人の主張イは採用できない。

6 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?7に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-14 
結審通知日 2017-06-20 
審決日 2017-07-04 
出願番号 特願2014-191676(P2014-191676)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土橋 敬介  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐藤 健史
齊藤 真由美
発明の名称 シクロプロパン誘導体の生成方法  
代理人 野田 雅一  
代理人 池田 成人  
代理人 山口 和弘  
代理人 清水 義憲  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 阿部 寛  

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