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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1334615
審判番号 不服2016-16225  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-31 
確定日 2017-11-15 
事件の表示 特願2012- 97145「化合物および液晶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月15日出願公開、特開2012-224632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2012年4月20日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年4月21日(DE)ドイツ及び2011年6月1日(DE)ドイツ〕を国際出願日とする出願であって、
平成27年11月25日付けの拒絶理由通知に対して、平成28年5月27日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成28年6月28日付けの拒絶査定に対して、平成28年10月31日付けで審判請求と同時に手続補正がなされ、平成29年1月10日付けで審判請求書を補正する手続補正書が提出され、平成29年6月1日付けで上申書の提出がなされたものである。

第2 平成28年10月31日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成28年10月31日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成28年10月31日付け手続補正(以下「第2回目の手続補正」という。)は、補正前の請求項1における
「a)式I

式中、
nは、2、3または4を示し、
mは、(4-n)を示し、

は、4個の結合部位を有する有機基を示し、
Z^(11)およびZ^(12)は、互いに独立して、-O-、-(C=O)-、-(NR^(14))-または単結合を示すが、両方が同時に-O-を示さず、
rおよびsは、互いに独立して、0または1を示し、
Y^(11)?Y^(14)は、各々互いに独立して、1?4個のC原子を有するアルキルを示し、あるいは代替的に、互いに独立して、2個の対である(Y^(11)およびY^(12))および(Y^(13)およびY^(14))は、3?6個のC原子を有する2価の基を一緒に形成する結合により連結していてもよく、
R^(11)は、O・を示し、
R^(12)は、各々存在する場合には、互いに独立して、H、F、OR^(14)、NR^(14)R^(15)を示すか、または、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、
R^(13)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、およびここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、

(1,4-シクロへキシレン)であり得、ここで、1個または2個以上の-CH_(2)-基は、-O-、-CO-または-NR^(14)-により置き換えられていてもよく、あるいは、アセトフェニル、イソプロピルまたは3-ヘプチル基であり、
R^(14)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、
R^(15)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、
R^(16)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならない、
で表される1種または2種以上の化合物を含むことを特徴とする、液晶媒体。」との記載を、補正後の請求項1における
「a)式I

式中、
nは、2、3または4を示し、
mは、(4-n)を示し、

は、4個の結合部位を有する有機基を示し、
[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)は、各出現において、互いに独立して、-O-、-(C=O)-O-、または、-O-(C=O)-を示し、
Y^(11)?Y^(14)は、各々互いに独立して、1?4個のC原子を有するアルキルを示し、あるいは代替的に、互いに独立して、2個の対である(Y^(11)およびY^(12))および(Y^(13)およびY^(14))は、3?6個のC原子を有する2価の基を一緒に形成する結合により連結していてもよく、
R^(11)は、O・を示し、
R^(12)は、各々存在する場合には、互いに独立して、H、F、OR^(14)、NR^(14)R^(15)を示すか、または、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、
R^(13)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、およびここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、

(1,4-シクロへキシレン)であり得、ここで、1個または2個以上の-CH_(2)-基は、-O-、-CO-または-NR^(14)-により置き換えられていてもよく、あるいは、アセトフェニル、イソプロピルまたは3-ヘプチル基であり、
R^(14)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、
R^(15)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、
R^(16)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならない、
で表される1種または2種以上の化合物、
b)式II

式中、
R^(21)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキル基または2?7個のC原子を有する非置換のアルケニル基を示し、および
R^(22)は、2?7個のC原子を有する非置換のアルケニル基を示す、
で表される1種または2種以上の化合物、
および
c)式III-1?III-4

式中、
R^(31)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキル基を示し、
R^(32)は、1?7個のC原子を有する非置換のアルキル基または1?6個のC原子を有する非置換のアルコキシ基を示し、および
m、nおよびoは、各々互いに独立して、0または1を示す、
で表される化合物の群から選択される1種または2種以上の化合物
を含むことを特徴とする、液晶媒体。」との記載に改める補正、並びに補正前の請求項24における
「請求項1?10のいずれか一項において定義された式Iで表される化合物の調製方法であって、用いる出発物質が、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルであることを特徴とする、前記方法。」との記載を、補正後の請求項22における
「請求項1?9のいずれか一項において定義された式Iで表される化合物の調製方法であって、用いる出発物質が、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルであることを特徴とする、前記方法。」との記載に改める補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的要件
上記請求項1についての補正は、補正前の「Z^(11)およびZ^(12)は、互いに独立して、-O-、-(C=O)-、-(NR^(14))-または単結合を示すが、両方が同時に-O-を示さず、rおよびsは、互いに独立して、0または1を示し、」との記載部分を、補正後の「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)は、各出現において、互いに独立して、-O-、-(C=O)-O-、または、-O-(C=O)-を示し、」との記載に改めることにより、式Iの「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」という連結基部分の化学構造を「-O-」と「-(C=O)-O-」と「-O-(C=O)-」の3種類のもののみに限定的に減縮する補正を含むものであって、その補正前後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
また、補正前の請求項1?10を引用する請求項24の記載を、補正後の請求項1?9を引用する請求項22の記載に改める補正は、補正後の請求項1の式Iの「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」という連結基部分の化学構造が上述のように「-O-」と「-(C=O)-O-」と「-O-(C=O)-」の3種類のもののみに限定的に減縮されたことにともない、その「式Iで表される化合物」の範囲が限定的に減縮されるものであって、その補正前の請求項24に記載される発明と補正後の請求項22に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下「補1発明」という。)及び補正後の請求項22に記載された発明(以下「補2発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)サポート要件
ア はじめに
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

イ 特許請求の範囲の記載
補正後の特許請求の範囲の請求項1及び22の記載は、上記『第2 1.補正の内容』の項に示したとおりである。

ウ 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

摘示A:技術分野と背景技術
「【技術分野】【0001】本発明は、特に液晶媒体において使用する新規化合物に関すると同時に、液晶ディスプレイにおけるこれらの液晶媒体の使用に関し、およびこれらの液晶ディスプレイに関し、特にホメオトロピック初期配向(alignment)での誘電的に負の液晶を用いたECB(electrically controlled birefringence;電気制御複屈折)効果を使用した液晶ディスプレイに関する。本発明の液晶媒体は、高電圧保持率(VHR、または単に短縮して、HRともいう)に加え、本発明のディスプレイにおける特に短い応答時間により区別される。
【背景技術】…【0017】液晶ディスプレイにおける多くの実用的な用途には、既知の液晶媒体は十分に安定ではない。特に、UVでの照射および慣用のバックライトでの照射に対するそれらの安定性により、特に電気的特性の損傷をもたらす。よって、例えば、導電性が顕著に増加する。いわゆる「ヒンダードアミン系光安定剤」、短縮して「HALS」の使用は、既に液晶混合物の安定化のために提案されてきた。
【0018】少量の式【化1】

で表される化合物である、TINUVIN(登録商標)770を安定剤として含む負の誘電異方性を有するネマチック液晶混合物が、例えば特許文献1などに提案されている。しかしながら、対応する液晶混合物は、実用的用途によっては十分な特性を有していない。とりわけ、それらは典型的なCCFL(冷陰極蛍光ランプ)バックライトを使用した照射に十分に安定ではない。」

摘示B:発明が解決しようとする課題と解決手段
「【発明が解決しようとする課題】【0029】本発明は、モニターおよびTV用途のみならず、携帯電話およびナビゲーションシステムのためのMLCディスプレイを提供する目的を有し、前記MLCディスプレイは、ECBまたはIPS効果に基づき、上記に示した欠点を有しないか、またはより少ない程度のみであって、同時に極めて高い比抵抗値を有する。特に、極度な高温および極度な低温においても作動する携帯電話およびナビゲーションシステムを確保しなければならない。
【課題を解決するための手段】【0030】驚くべきことに、式Iで表される少なくとも1種の化合物、ならびに各場合において、式IIで表される少なくとも1種の化合物、好ましくは従属式II-1で表される少なくとも1種の化合物および/または式III-1?III-4で表される、好ましくは式III-2で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含むネマチック液晶混合物を、これらのディスプレイ素子において利用する場合には、特にECBディスプレイにおいて、十分に広範なネマチック相、有益で相対的に低い複屈折性(Δn)、加熱によるおよびUV曝露による分解への良好な安定性ならびに安定で高いVHRと同時に、低い電圧閾値を有し、応答時間が短い液晶ディスプレイを達成することが可能であることが見出された。
【発明の効果】【0031】このタイプの媒体は、特に、ECB効果に基づいたアクティブ-マトリックスアドレス指定を有する電気光学ディスプレイおよびIPS(in-plane switching;平面内スイッチング)ディスプレイに使用することができる。よって、本発明は、式Iで表される少なくとも1種の化合物および式IIで表される1種または2種以上の化合物、ならびに好ましくはさらに式III-1?III-4で表される化合物からなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含む、極性化合物の混合物をベースとする液晶混合物に関する。
【0032】本発明の混合物は、-20℃および-30℃での良好な低温安定性に加え、極めて低い回転粘度と同様に、透明点が≧70℃である極めて広範なネマチック相範囲、極めて有益な容量閾値、相対的に高い保持比を示す。本発明の混合物は、さらに、透明点および回転粘度の比により、および高い負の誘電異方性により区別される。
【0033】驚くべきことに、従来技術の材料の欠点を有さないか、またはかなり減少した程度を有するのみである、好適な高いΔε、好適な相範囲およびΔnを有する液晶混合物を達成することが可能であることが見出された。
【0034】驚くべきことに、式Iで表される化合物により、熱安定剤を添加せずに単独で使用された場合であっても、UV曝露にもまた加熱にも、液晶混合物の、かなりの、多くの場合においては十分な、安定化がもたらされることが見出された。これは、特に、多くの場合において、使用した式Iで表される化合物におけるパラメータR^(11)がO・(酸素ラジカル)を示す場合である。したがって、式中、R^(11)がO・を示す式Iで表される化合物が、特に好ましく、液晶混合物におけるこれらの化合物の精密な使用が、特に好ましい。
【0035】しかしながら、特に、さらに1種または2種以上の化合物が、好ましくは、フェノール性安定剤が、式Iで表される1種の化合物または式Iで表される2種以上の化合物に加えて、液晶混合物中に存在する場合に、UV曝露に対しても、および加熱に対しても、液晶混合物の十分な安定化を達成することができる。これらのさらなる化合物は、熱安定剤として好適である。」

摘示C:合成例1?3及び8
「【0219】合成例1:ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-N,N’-ジオキシルスクシナートの合成(物質例1)

【0220】2.15g(12.26mmol)の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、40mg(0.33mmol)の4-(ジメチルアミノ)ピリジンおよび1ml(12.4mmol)の乾燥ピリジンを、初めに20mlのジクロロメタン中に導入する。4オングストロームの活性分子ふるいを続いて加え、混合物を室温(短縮してRT;約22℃)で90分間撹拌する。反応溶液を7?10℃の範囲の温度まで冷却し0.71ml(6.13mmol)の二塩化スクシニルをゆっくりと添加し、混合物をRTで18時間撹拌する。
【0221】十分な飽和NaHCO_(3)溶液およびジクロロメタンを、反応溶液に加え、有機相を分離し、水および飽和NaCl溶液で洗浄し、Na_(2)SO_(4)で乾燥し、留去する。粗生成物を、シリカゲル上でジクロロメタン/メチルt-ブチルエーテル(95:5)で精製し、>99.5%の純度を有する白色固体として生成物を得る。
【0222】合成例2:ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル-4-イル)デカンジオアートの合成(物質例4)

【0223】28.5g(166mmol)の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(フリーラジカル)および250mg(2.05mmol)の4-(ジメチルアミノ)ピリジンを、300mlの脱気したジクロロメタン中に溶解し、50.0ml(361mmol)のトリエチルアミンを加える。混合物を、続いて脱気し、0℃まで冷却し、100mlの脱気したジクロロメタン中に溶解した10g(41.1mmol)塩化セバコイルを、0?5℃で滴加し、混合物を室温で18時間撹拌する。反応が完了したところで、水およびHCl(pH=4?5)を氷冷しながら加え、混合物をさらに30分間撹拌する。
【0224】有機相を分離し、水相を続いてジクロロメタンで抽出し、合わせた相を飽和NaCl溶液で洗浄し、Na_(2)SO_(4)で乾燥し、ろ過し、留去し、ジクロロメタン/メチルtert-ブチルエーテル(95/5)とのフリット上の100gの塩基性Al_(2)O_(3)および500gのシリカゲルを一緒に通過する24.4gの赤色液体を得て、50℃で脱気したアセトニトリルに溶解し、-25℃で結晶化する橙色結晶を得て、HPLC純度99.9%を有する橙色結晶として生成物を得る。
【0225】合成例3:ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-N,N’-ジオキシルブタンジオールの合成(物質例7)

【0226】十分なペンタンを、15.0g(鉱油中で60%、375mmol)のNaHに、保護ガス下で加え、混合物を沈殿させる。ペンタン上澄み液をピペットで除き(pipetted off)、注意深くイソプロパノールで冷却しながらクエンチする。100mlのTHFを、次いで注意深く洗浄したNaHに加える。反応混合物を、55℃まで加熱し、400mlのTHF中の50.0g(284mmol)の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル溶液を、注意深く滴加する。生成した水素を直接排出する。溶液の添加が完了したところで、撹拌を60℃で一晩続ける(16時間)。
【0227】反応混合物を、続いて5℃まで冷却し、1,4-ブタンジオールジメチルスルホナートを分割して加える。混合物を、次いで、ゆっくりと60℃まで加熱し、混合物をRTまで冷却し、200mlの6%アンモニア水溶液を冷却しながら加え、混合物を1時間撹拌する。有機相を、次いで、分離し、水相をメチルtert-ブチルエーテルで洗い流し、合わせた有機相を飽和NaCl溶液で洗浄し、乾燥し、留去する。粗生成物をシリカゲル上でジクロロメタン/メチルtert-ブチルエーテル(8:2)で精製し、-20℃でアセトニトリルから結晶化させ、>99.5%の純度を有するピンク色結晶性固体として生成物を得る。…
【0240】合成例8:1,10-ビス(1-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)デカンジオアートの合成(物質例50)

【0241】使用する全ての溶媒を、予めアルゴン流を用いて十分に脱気する。ワークアップ(work-up)の間、褐色ガラス器具を用いなければならない。1.70g(3.32mmol)の物質例4(合成例2)からのフリーラジカルを60mlのジオキサン中に溶解する。30mlの水に溶解した3.6g(20mmol)のアスコルビン酸を、続いて室温にて溶液に滴加する。
【0242】反応溶液は、この滴加の間に無色になり始め、反応は、室温で1時間撹拌した後に完了する。混合物を100mlのジクロロメタンで抽出し、有機相を水で洗浄し、Na_(2)SO_(4)で乾燥し、ろ過し、留去する。黄色結晶は、160℃および10^(-2)mbarで5分間乾燥し、粘性を有し、油状のものをゆっくり結晶化して得られる。」

摘示D:表2と表11の試験結果
「【0251】さらに、4種の混合物のイオン密度を決定する。結果を以下の表(表2)にまとめる。

注記: I^(*): 合成例1からの化合物
T770: TINUVIN(登録商標)770
【0252】合成例1からの化合物は、相対的に低濃度であっても、出発混合物および比較混合物の両方の安定化特性よりもはっきりと優れている安定化特性を、はっきりと示すことは、ここで直ちに明らかである。加えて、イオン密度は、実質的にドープしていない基準と比較して変化していない。TINUVIN(登録商標)770は、一方、4倍高いイオン密度を示し、これはポリアミドとのより強い相互作用を示唆する。よって、TINUVIN(登録商標)770は、配向材料との著しくより強い相互作用を示す。合成例1からの化合物についての挙動は、著しく有益であると考えられる。…
【0279】混合物M-6を、複数の部分に分割し、各場合において、250ppmの異なる化合物、すなわち、TINUVIN(登録商標)770、合成例1からの化合物、合成例2(物質例4)からの化合物または合成例8(物質例50)からの化合物を、混合物M-6の種々の部分に加え、それぞれの混合物を、テストセル中でLCDバックライトを用いた照明へのそれらの安定性について実験する。
【0280】

注記: I^(*): 合成例1からの化合物
II^(*): 合成例2からの化合物
VIII^(*): 合成例8からの化合物
T770: TINUVIN(登録商標)770
t.b.d.: 未決定」

エ 発明の解決しようとする課題
補1発明及び補2発明の「解決しようとする課題」は、本願明細書の段落0030の記載を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて『十分に広範なネマチック相、有益で相対的に低い複屈折性(Δn)、加熱によるおよびUV曝露による分解への良好な安定性ならびに安定で高いVHR(高電圧保持率)と同時に、低い電圧閾値を有し、応答時間が短い液晶ディスプレイを達成することが可能な液晶媒体及び式Iで表される化合物の調製方法の提供』にあるものと認められる。

オ 補2発明についての対比・判断
補2発明について、補正後の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比する。
特許請求の範囲の記載にあるように、補2発明は「請求項1?9のいずれか一項において定義された式Iで表される化合物の調製方法」において「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いるものであって、補正後の請求項1の「式Iで表される化合物」の範囲には、その式Iの「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」という連結基部分(以下「連結基部分Z」ともいう。)の化学構造の選択肢として「-O-」と「-(C=O)-O-」と「-O-(C=O)-」の3種類が含まれている。
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、その段落0219?0242(摘示C)に合成例1?8の具体例が記載されているところ、当該合成例1?8の化合物の連結基部分Zは、合成例1及び2の化合物が「-(C=O)-O-」の化学構造を有し、合成例3の化合物が「-O-」の化学構造を有しているものの、その連結基部分Zが「-O-(C=O)-」の化学構造を有する化合物(式Iの「Z^(12)」が「-(C=O)-」である場合の化合物)については、これを実際に合成した具体例が発明の詳細な説明に記載されていない。
そして、平成27年11月25日付けの拒絶理由通知書において引用文献5として引用された特公昭49-20974号公報には、その第12頁の(67)の化合物(本願の合成例1に合致する化合物)などを、その第18頁の「参考例7」に示される「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いることにより調製できることが記載されているところ、当該「参考例7」の反応式の記載を参酌すると、補2発明の「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」の「4-ヒドロキシ」を構成する酸素原子(O)が本願の式Iの「Z^(12)」部分の「-O-」を構成することになると解されるため、補2発明の「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いた場合に本願の式Iの「Z^(12)」部分が「-(C=O)-」を構成する場合の化合物を調製できると直ちに解することができない。
また、平成29年1月10日付けの手続補正により補正された審判請求書の「5.理由3(特許法36条4項1号)および4(同条6項1号)について」の項における主張、並びに平成29年6月1日付けの上申書の主張を精査しても、補2発明の上記「連結基部分Z」が「-O-(C=O)-」である場合の化合物(式Iの「Z^(12)」が「-(C=O)-」である場合の化合物)の調製が、補2発明の「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いることにより達成できるといえる具体的な根拠が見当たらず、補2発明の出発物質を用いて式Iの「Z^(12)」が「-(C=O)-」である場合の化合物の調製を達成できると当業者が認識できる本願出願時の技術常識の存在も見当たらない。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明及び本願出願時の技術常識に照らして、補2発明の「式Iで表される化合物」の「連結基部分Z」が「-O-(C=O)-」である場合の化合物(式Iの「Z^(12)」が「-(C=O)-」である場合の化合物)については、補2発明の上記『式Iで表される化合物の調製方法の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認めることができない。
したがって、補2発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、補正後の請求項22の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、補2発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

カ 補1発明についての対比・判断
補1発明について、補正後の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比する。
特許請求の範囲の記載にあるように、補1発明は、その「式I」で表される「1種または2種以上の化合物」を含む「液晶媒体」に関するものであって、その「式I」で表される化合物は、その「ZG」が「4個の結合部位を有する有機基」を示し、その「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」が「各出現において、互いに独立して、-O-、-(C=O)-O-、または、-O-(C=O)-」を示し、その「R^(12)」が「各々存在する場合には、互いに独立して、H、F、OR^(14)、NR^(14)R^(15)を示すか、または、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく」として定義されるものである。
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、補1発明の「式I」に該当する化合物として、合成例1?3の3つの具体例が記載されているにすぎず、当該合成例1?3の化合物は、その「ZG」が炭素数2又は8のアルキレン鎖から2個の水素原子を除いた残基であり、その「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」が「-O-」又は「-(C=O)-O-」であり、その「R^(12)」がH原子である場合のものに限られている。
そして、一般に『化学物質の発明の成立のために必要な有用性があるというためには,用途発明で必要とされるような用途についての厳密な有用性が証明されることまでは必要としないが,一般に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。したがって,化学物質の発明の有用性を知るには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要とする。』とされているところ〔平成20(行ケ)10483号判決参照。〕、
例えば、本願明細書の段落0279(摘示D)の「表11」において、その「相対的安定性S_(rel)(500時間)」の試験結果が、本願の式Iの「ZG」が炭素数2のアルキレン鎖の残基であり、R^(12)がH原子である安定剤を配合した「B6.1」の液晶媒体で「8.5」となっているのに対して、同じく「ZG」が炭素数8のアルキレン鎖の残基であり、R^(12)がH原子である安定剤を配合した「B6.2」の液晶媒体で「5.1」となっており、安定剤とした配合された化合物の「ZG」の化学構造の僅かな違いだけでも液晶媒体の「安定性」の性能評価に大きな差異が生じている。してみると、安定剤として配合される化合物の「ZG」や「R^(12)」における化学構造の違いが、液晶媒体の安定性などの各種の有用性に与える影響は、実際に試験してみなければ判明しないものと解さざるを得ない。このため、その「ZG」が「アルキレン鎖の残基」以外の「4個の結合部位を有する有機基」である場合や、その「R^(12)」が「H原子」以外の例えば「OR^(14)」や「NR^(14)R^(15)」である場合の化合物の有用性については、当業者といえども実際に試験することなく予測できるとはいえない。
また、本願明細書の段落0032(摘示B)に記載された応答時間の短さに反映される「極めて低い回転粘度」や、広範なネマチック相という液晶域の広さに反映される「透明点が≧70℃」等の有用性について、その「ZG」が「4個の結合部位を有する有機基」であるのもの全てが同等の有用性を与えることや、その「R^(12)」が「H原子」以外の「OR^(14)」や「NR^(14)R^(15)」等であるもの全てが同等の有用性を与えることについては、発明の詳細な説明に試験結果をともなった裏付けがなく、そのような技術常識の存在も見当たらない。
このため、本願の式Iの「ZG」がアルキレン鎖から2個の水素原子を除いた残基以外の「4個の結合部位を有する有機基」であるもの全て、並びに本願の式Iの「R^(12)」が「F、OR^(14)、NR^(14)R^(15)を示すか、または、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく」というもの全てが、補1発明の「十分に広範なネマチック相」、「有益で相対的に低い複屈折性(Δn)」、「加熱によるおよびUV曝露による分解への良好な安定性」、「安定で高いVHR」、「低い電圧閾値」及び「応答時間が短い」という有用性を示す範囲にあると直ちに解することはできない。
加えて、補1発明の式Iの「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」という連結基部分の選択肢が「-O-(C=O)-」である場合については、上記「補2発明」について検討した理由と同様な理由により、発明の詳細な説明に記載された発明で、補1発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。
したがって、補1発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、補正後の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、補1発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)実施可能要件
ア 補2発明について
補2発明は「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いる「請求項1?9のいずれか一項において定義された式Iで表される化合物の調製方法」に関するものであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「式I」の連結基部分Zが「-O-(C=O)-」である場合の化合物(式Iの「Z^(12)」が「-(C=O)-」である場合の化合物)を実際に合成した具体例についての記載がない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載の全てを精査しても、当該「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いて、当該「式I」の連結基部分Zが「-O-(C=O)-」である場合の化合物を調製するための合成スキームや反応条件(反応に使用する触媒や溶媒などの種類と使用量及び反応温度や反応時間などの各種の条件)についての記載が見当たらず、当業者が補2発明の実施を普通にできるといえる本願出願時の技術常識の存在も見当たらない。
このため、補2発明の調製方法により、その式Iの「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」という連結基部分Zが「-O-(C=O)-」である場合の化合物を調製するためには「当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等」を行う必要があるものと認められる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が補2発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、補2発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

イ 補1発明について
補1発明は、その「式I」で表される「1種または2種以上の化合物」を含む「液晶媒体」に関するものであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「式I」で表される化合物の「R^(12)」が『F、OR^(14)、NR^(14)R^(15)を示すか、または、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、…R^(14)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、R^(15)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、R^(16)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならない』という場合の化合物を「製造」及び「使用」する具体例についての記載がない。
そして、例えば、当該「R^(12)」が「アルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基」であって、その「複数の-CH_(2)-基」の全てが「-(C=O)-により置き換えられて」いる場合の化合物を、当業者が過度の試行錯誤を要することなく「製造」できるといえる本願出願時の技術常識の存在も見当たらない。
また、一般に化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところ、補1発明の「4個の結合部位を有する有機基」として定義される「ZG」の全て、並びに「R^(12)」の全てが、配向材料との好ましくない相互作用を生じることなく、実用上のネマチック相範囲や回転粘度を有する液晶媒体として「使用」できるといえる本願出願時の技術常識の存在も見当たらない。
このため、補1発明の式Iの範囲にある化合物を「製造」し、これを含む液晶媒体を「使用」するためには「当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等」を行う必要があるものと認められる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が補1発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、補1発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 まとめ
以上総括するに、第2回目の手続補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、第2回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定〕の結論のとおり決定する。

第3 本願発明
第2回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?24に係る発明は、平成28年5月27日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
そして、本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」という。)及び同請求項24に係る発明(以下「本2発明」という。)は、上記『第2 1.補正の内容』の項に記載されたとおりのものである。

第4 原査定の理由
原査定の理由は『この出願については、平成27年11月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-4によって、拒絶をすべきものです。』というものである。

そして、平成27年11月25日付けの拒絶理由通知書には、理由1として「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」との理由が示され、その「記」には、当該「下記の請求項」として「請求項1-18」が指摘され、当該「下記の刊行物」として「特開昭60-067587号公報」が「引用文献2」として引用され、原査定の備考欄では「請求項1-8,16-22に係る発明は引用文献2に記載されている。」との指摘がなされている。

また、平成27年11月25日付けの拒絶理由通知書には、理由3として「3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由と、理由4として「4.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由が示され、その「記」には、当該「下記の点」として「請求項1,2,4-18」について「式I等で表される化合物のうち、発明の詳細な説明中に、合成例1-8のごくわずかなものが具体的に記載されているにすぎず、他の広範な無数のものは記載されておらず、そのようなものは具体的に記載されたものから当業者にとって自明であるともいえない。」との指摘がなされ、原査定の備考欄では「請求項1-5,9-24」について、記載不備が解消されていない旨の指摘がなされている。

なお、本願請求項1及び24(原査定時)は、出願当初の請求項1及び18(拒絶理由通知時)に対応する。

第5 当審の判断
1 理由1(新規性)について
(1)引用文献及びその記載事項
ア 引用文献2(特開昭60-67587号公報)
本願優先日前に頒布された刊行物である原査定の引用文献2には、次の記載がある。
摘記2a:特許請求の範囲
「二色性色素の少なくとも一種及び次の一般式(I)で表される基を有する化合物の少なくとも一種を含有せしめてなる液晶組成物。

(式中、Rはオキシル(-O・)又はアルキル基を示す。)」

摘記2b:第2頁左上欄第6行?右上欄第17行
「本発明者等はかかる現状に鑑み、二色性色素を含有する液晶の劣化を防止する添加剤を見いだすべく鋭意検討を重ねた結果、次の一般式(I)で表される基を有する化合物が上記目的を達成することを見いだし本発明に到達した。…
本発明においては、液晶物質としては一般に用いられるネマチック液晶、カイラルネマチック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶のいずれも用いることができ、これらの例としてはシクロヘキシルシクロヘキサン系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニル系、ターフェニル系…等が挙げられる。」

摘記2c:第3頁左上欄第6行?左下欄第6行
「前記一般式(I)で表される基を有する化合物は、…その具体的な例としては次に示すものが挙げられる。…
No.6 ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)セバケート…
No.13 テトラ(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート」

摘記2d:第4頁左下欄第6行?右下欄表-1
「実施例1
混合液晶ZLI-1132(メルク社製)に対し、アゾ系色素4-(4-ジメチルアミノフェニルアゾ)-4′-エトキシアゾベンゼン1.5重量%及び試料化合物1.0%を添加溶解し、ギャップ20μの素子に封入した。
この素子を高圧水銀灯で100時間照射し、吸光度の変化をみた。
尚、吸光度の変化は〔照射後の吸光度/初期の吸光度〕で表した。
その結果を表-1に示す。



イ 引用文献12(特開2007-93807号公報)
本願優先日当時の技術常識を補足するために参照する引用文献12には、次の記載がある。
摘記A1:段落0046




(2)引用文献2に記載された発明
摘記2aの「二色性色素の少なくとも一種及び次の一般式(I)で表される基を有する化合物の少なくとも一種を含有せしめてなる液晶組成物。」との記載、
摘記2cの「No.6 ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)セバケート」との記載、並びに
摘記2dの「実施例1 混合液晶ZLI-1132(メルク社製)に対し、アゾ系色素4-(4-ジメチルアミノフェニルアゾ)-4′-エトキシアゾベンゼン1.5重量%及び試料化合物1.0%を添加溶解し、ギャップ20μの素子に封入した。」との記載、及びその「表-1」の記載からみて、引用文献2には、
『アゾ系色素1.5重量%及びビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)セバケート1.0重量%を含有せしめてなる液晶組成物。』についての発明(以下「引2発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
本1発明と引2発明とを対比する。
引2発明の「ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシル)セバケート」は、摘記A1の(TII-6)で示されるとおりの化学構造を有し、本願明細書の段落0222の「合成例2」の化合物に合致する化合物であって、本1発明の式1において、nが2を示し、mが2を示し、ZGが4個の結合部位を有する有機基(炭素数8の直鎖アルキレン鎖から両末端の2個の水素原子を除いた残基)を示し、Z^(11)が-(C=O)-を示し、Z^(12)が-O-を示し、rが1を示し、sが1を示し、Y^(11)?Y^(14)が1個のC原子を有するアルキルを示し、R^(11)がO・を示し、R^(12)がHを示す化合物に該当する。
引2発明の「を含有せしめてなる液晶組成物」は、本1発明の「を含むことを特徴とする、液晶媒体」に相当する。
なお、引2発明において「アゾ系色素」を「1.5重量%」含むことについては、本1発明の「液晶媒体」が「…からなる液晶媒体」ではなく「…を含む…液晶媒体」として特定され、本願明細書の段落0134に「特には10%までの量で、他の成分もまた存在してもよい。」と記載され、同段落0159に「本発明の液晶媒体は…多色性色素…などの添加剤をさらに含んでもよい。」と記載され、同段落0164に「本発明の液晶相を、好適な添加剤を用いることにより改変することができる」と記載されていることから、本1発明と引2発明との対比において相違点を構成しない。

してみると、本1発明と引2発明は、両者とも『a)式I

式中、
nは、2、3または4を示し、
mは、(4-n)を示し、

は、4個の結合部位を有する有機基を示し、
Z^(11)およびZ^(12)は、互いに独立して、-O-、-(C=O)-、-(NR^(14))-または単結合を示すが、両方が同時に-O-を示さず、
rおよびsは、互いに独立して、0または1を示し、
Y^(11)?Y^(14)は、各々互いに独立して、1?4個のC原子を有するアルキルを示し、あるいは代替的に、互いに独立して、2個の対である(Y^(11)およびY^(12))および(Y^(13)およびY^(14))は、3?6個のC原子を有する2価の基を一緒に形成する結合により連結していてもよく、
R^(11)は、O・を示し、
R^(12)は、各々存在する場合には、互いに独立して、H、F、OR^(14)、NR^(14)R^(15)を示すか、または、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、
R^(13)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、およびここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、

(1,4-シクロへキシレン)であり得、ここで、1個または2個以上の-CH_(2)-基は、-O-、-CO-または-NR^(14)-により置き換えられていてもよく、あるいは、アセトフェニル、イソプロピルまたは3-ヘプチル基であり、
R^(14)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、
R^(15)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、
R^(16)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならない、
で表される1種または2種以上の化合物を含む液晶媒体。』に関するものである点において一致し、両者に相違する点はない。

したがって、本1発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2 理由3(実施可能要件)について
(1)本2発明について
本2発明は「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いる「請求項1?10のいずれか一項において定義された式Iで表される化合物の調製方法」に関するものであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、当該「式I」の「Z^(12)」が「-(C=O)-」又は「-(NR^(14))-」として存在する場合の化合物(並びに「rおよびs」が両方とも0である場合の化合物)を実際に合成した具体例についての記載がない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載の全てを精査しても、当該「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いて、当該「式I」の「Z^(12)」が「-(C=O)-」又は「-(NR^(14))-」として存在する場合の化合物(並びに「rおよびs」が両方とも0である場合の化合物)を調製するための合成スキームや反応条件などについての記載が見当たらず、当業者が本2発明の実施を普通にできるといえる本願出願時の技術常識の存在も見当たらない。
このため、本2発明の調製方法により、その式Iの「Z^(12)」が「-(C=O)-」又は「-(NR^(14))-」として存在する場合の化合物(並びに「rおよびs」が両方とも0である場合の化合物)を調製するためには「当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等」を行う必要があるものと認められる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本2発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(2)本1発明について
本1発明は、補1発明を包含するものであるところ、本1発明を限定的に減縮した補1発明の実施可能要件について、上記『第2 2.(3)イ 補1発明について』の項において検討したのと同様な理由により、本1発明の式Iの範囲にある化合物を「製造」し、これを含む液晶媒体を「使用」するためには「当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等」を行う必要があるものと認められる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本1発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

3 理由4(サポート要件)について
(1)本1発明について
ア 特許請求の範囲の記載
本願請求項1の記載は、上記『第2 1.補正の内容』の項に補正前の請求項1として示したとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記『第2 2.(2)イ 発明の詳細な説明の記載』の項に示したとおりである。

ウ 発明の解決しようとする課題
本1発明の「解決しようとする課題」は、本願明細書の段落0030の記載を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて『十分に広範なネマチック相、有益で相対的に低い複屈折性(Δn)、加熱によるおよびUV曝露による分解への良好な安定性ならびに安定で高いVHRと同時に、低い電圧閾値を有し、応答時間が短い液晶ディスプレイを達成することが可能な液晶媒体の提供』にあるものと認められる。

エ 対比・判断
本1発明について、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比する。
特許請求の範囲の記載にあるように、本1発明は、その「式I」で表される「1種または2種以上の化合物」を含む「液晶媒体」に関するものであって、その「式I」で表される化合物は、その「ZG」が「4個の結合部位を有する有機基」を示し、その「Z^(11)およびZ^(12)」が「互いに独立して、-O-、-(C=O)-、-(NR^(14))-または単結合を示すが、両方が同時に-O-を示さず」として定義され、その「R^(12)」が「各々存在する場合には、互いに独立して、H、F、OR^(14)、NR^(14)R^(15)を示すか、または、1?20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル鎖を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、あるいは、シクロアルキルまたはアルキルシクロアルキル単位を含有する炭化水素基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならず、およびここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、あるいは、芳香族または複素芳香族炭化水素基を示し、ここで、1個のH原子または複数のH原子は、OR^(14)、N(R^(14))(R^(15))またはR^(16)により置き換えられていてもよく、…R^(14)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、R^(15)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルあるいはアシル基、あるいは6?12個のC原子を有する芳香族炭化水素またはカルボキシル基を示し、R^(16)は、各々存在する場合には、互いに独立して、1?10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基を示し、ここで、1個の-CH_(2)-基または複数の-CH_(2)-基は、-O-または-(C=O)-により置き換えられていてもよいが、隣接した2個の-CH_(2)-基は、-O-により置き換えられていてはならない」として定義されるものである。
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、本1発明の「式I」に該当する化合物として、合成例1?3の3つの具体例が記載されているにすぎず、当該合成例1?3の化合物は、その「ZG」が炭素数2又は8のアルキレン鎖から2個の水素原子を除いた残基であり、その「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」が「-O-」又は「-(C=O)-O-」であり、その「R^(12)」がH原子である場合のものに限られている。
そして、一般に『化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。したがって,化学物質の発明の有用性を知るには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要とする。』とされているところ〔平成20(行ケ)10483号判決参照。〕、本願の式Iの「ZG」がアルキレン鎖の残基以外の「4個の結合部位を有する有機基」であるもの全て、本願の式Iの「[Z^(11)]_(r)-[Z^(12)]_(s)」という連結基部分が「-O-」と「-(C=O)-O-」以外の選択肢のもの全て、並びに本願の式Iの「R^(12)」が「H」以外の選択肢のもの全てが、本1発明の『十分に広範なネマチック相、有益で相対的に低い複屈折性(Δn)、加熱によるおよびUV曝露による分解への良好な安定性ならびに安定で高いVHRと同時に、低い電圧閾値を有し、応答時間が短い液晶ディスプレイを達成することが可能な液晶媒体の提供』という課題を解決できると当業者が認識できるといえる発明の詳細な説明の記載又は本願出願時の技術常識の存在は見当たらない。
してみると、本1発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、本願請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

(2)本2発明について
ア 特許請求の範囲の記載
本願請求項1の記載は、上記『第2 1.補正の内容』の項に補正前の請求項1として示したとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記『第2 2.(2)イ 発明の詳細な説明の記載』の項に示したとおりである。

ウ 発明の解決使用とする課題
本2発明の「解決しようとする課題」は、本願明細書の段落0030の記載を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて『式Iで表される化合物の調製方法の提供』にあるものと認められる。

エ 対比・判断
本2発明について、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比する。
特許請求の範囲の記載にあるように、本2発明は「請求項1?10のいずれか一項において定義された式Iで表される化合物の調製方法」において「4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル」を出発物質として用いるものであって、その「式Iで表される化合物」の範囲には、その請求項1に記載されるとおりの「広範なピペリジル-1-オキシル誘導体」が含まれるものである。
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載があるのは「2つの2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1-オキシルがジオール又はビスカルボン酸を介して連結」した合成例1?3の3つの誘導体にすぎず、他の広範な誘導体は発明の詳細な説明に具体的に記載されていない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明及び本願出願時の技術常識を参酌しても、当該「他の広範な誘導体」を合成例1?3の具体例と同様に合成できるとはいえないから、本願請求項24の記載の全てにわたって、本2発明の上記『式Iで表される化合物の調製方法の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであると認めることができない。
してみると、本2発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、本願請求項24の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本1発明は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本願は特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-20 
結審通知日 2017-06-21 
審決日 2017-07-05 
出願番号 特願2012-97145(P2012-97145)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07D)
P 1 8・ 537- Z (C07D)
P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 113- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一杉江 渉  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
榎本 佳予子
発明の名称 化合物および液晶媒体  
代理人 葛和 清司  

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