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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C
管理番号 1334746
審判番号 不服2016-12140  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-10 
確定日 2017-12-05 
事件の表示 特願2011-267707「深みぞ玉軸受および軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月17日出願公開、特開2013-119896、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月7日の出願であって、平成27年9月11日付けで拒絶理由が通知され、同年11月16日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年4月22日付け(発送日:同年5月10日)で拒絶査定(以下、「原審拒絶査定」という。)がなされ、これに対し、同年8月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判請求と同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成29年5月17日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年7月21日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに同年8月10日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年10月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原審拒絶査定の概要
原審拒絶査定の概要は、次のとおりである。

本願の請求項1ないし8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ア 特開2011-7286号公報(以下、「引用文献1」という。)
イ 特開2009-14205号公報(以下、「引用文献2」という。)
ウ 特開2009-58007号公報(以下、「引用文献3」という。)
エ 特開平11-108065号公報(以下、「引用文献4」という。)
オ 特開2008-69868号公報(以下、「引用文献5」という。)

第3 当審拒絶理由1及び2の概要
1 当審拒絶理由1
当審拒絶理由1の概要は、次のとおりである。
<理由1>
本願の請求項1ないし8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ア 特開2011-7286号公報(引用文献1)
イ 特開2001-280352号公報(以下、「引用文献6」という。)
ウ 特開2009-58007号公報(引用文献3)
<理由2>
本願は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で不備であるから、本願は特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
A 第36条第6項第1号について
請求項1に(径方向溝が)「一定の溝深さと一定の溝幅を有する」と特定されているが、本願明細書には、径方向溝が「一定の溝深さと一定の溝幅を有する」ことについて記載はなく、当該「一定の溝深さと一定も溝幅を有する」径方向溝を特定事項とする本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
B 第36条第6項第2号
請求項1の記載「径方向溝が、各分割保持器の外径面から内径面に至る一定の溝深さと一定の溝幅を有する」について、「一定の溝深さと一定の溝幅」という特定事項の意味するところが不明であるから、請求項1及び請求項1を引用するは請求項2ないし8は明確でない。

2 当審拒絶理由2
当審拒絶理由2の概要は、次のとおりである。
請求項1の記載中「前記内輪軌道溝の他側の肩の肩高さH_(1)は、前記第1分割保持器の内径よりも小さく」に関し、本願の図1には内輪軌道溝22の底に対する肩23bの肩高さとして「H_(1)」が示されているところ、該H_(1)と第1分割保持器の内径とを比較することの技術的意義が不明確であるため、請求項1に係る発明は不明確である。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、平成29年10月5日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
外輪の内径面に形成された軌道溝と、内輪の外径面に形成された軌道溝間にボールを組み込み、そのボールを保持器で保持し、前記外輪軌道溝の両側に形成された一対の肩および内輪軌道溝の両側に形成された一対の肩の合計4つの肩のうち、外輪軌道溝の一側の肩および内輪軌道溝の他側の肩の肩高さを、外輪軌道溝の他側の肩および内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くし、その高さの高い肩の肩高さをH_(1)、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さH_(1)の比率H_(1)/dを0.25?0.50の範囲とし、前記保持器が、ボール保持用の半球状ポケットを軸方向の一側部に有する第1分割保持器と、その第1分割保持器の内側に嵌合され、ボール保持用の半球状ポケットを軸方向の他側部に有する第2分割保持器とで形成され、その第1分割保持器と第2分割保持器とを連結手段により連結して軸方向に非分離とし、油浴に一部が浸かっている深みぞ玉軸受において、
前記第1分割保持器および第2分割保持器のそれぞれに形成されたポケットの内周面が前記ボールの外周に沿う球状であるとともに、前記第1分割保持器および前記第2分割保持器のそれぞれに、前記ボールの外周に沿うように、前記ポケットの内周面に径方向溝が形成されており、前記径方向溝が、各分割保持器の外径面から内径面に至っており、
前記第1分割保持器の内径は、ボールのピッチ円径に等しく、前記内輪軌道溝の他側の肩の外径は、前記第1分割保持器の内径よりも小さく、
前記第1分割保持器に形成された前記径方向溝は、前記第2分割保持器と径方向に重ならないように配置されていることを特徴とする深みぞ玉軸受。」

なお、本願発明2ないし8の概要は、以下のとおりである。

本願発明2ない7は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明8は、ヘリカルギヤが設けられたシャフトを一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、前記一対の転がり軸受が、本願発明1ないし7のいずれかに係る深みぞ玉軸受からなる軸受装置である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載事項
本願の出願前に頒布され、原審拒絶査定及び当審拒絶理由1で引用された特開2011-7286号公報(引用文献1)には、「深みぞ玉軸受およびギヤ支持装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
内径面に軌道溝が形成された外輪と、外径面に軌道溝が形成された内輪と、外輪の軌道溝と内輪の軌道溝間に組込まれたボールと、そのボールを保持する保持器とからなり、前記外輪の軌道溝および内輪の軌道溝のそれぞれ両側に位置する合計4つの肩のうち、外輪軌道溝の一側の肩および内輪軌道溝の他側の肩の高さを、外輪軌道溝の他側の肩および内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くした深みぞ玉軸受において、
前記保持器が、合成樹脂からなる円筒形の第1分割保持器と、その第1分割保持器の内側に嵌合された合成樹脂製の円筒形の第2分割保持器とからなり、第1分割保持器および第2分割保持器のそれぞれが、環状体を有し、その環状体の軸方向一側面に対向一対のポケット爪を等間隔に形成し、その各対向一対のポケット爪間に前記環状体を刳り抜く2分の1円を超える大きさのボール保持用ポケットを設けた冠形とされ、第1分割保持器は外輪の肩高さの低い肩側から軸受内に挿入され、第2分割保持器は内輪の肩高さの低い側から軸受内に挿入されてポケットの開口端が反対方向に向く組み合わせとされ、前記第1分割保持器と第2分割保持器の相互間に、その両保持器の嵌合により係合して両保持器を軸方向に非分離とする連結手段を設けたことを特徴とする深みぞ玉軸受。
【請求項8】
前記高さの高い肩の肩高さをH_(1)、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さH_(1)の比率H_(1)/dを0.25?0.50の範囲とした請求項1乃至7のいずれかの項に記載の深みぞ玉軸受。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項8】)

(イ)「【0016】
上記のような深みぞ玉軸受の組立てにおいて、第1分割保持器のポケットおよび第2分割保持器のポケットは開口端にボールを抱き込む対向一対のポケット爪を有し、上記第1分割保持器に形成された対向一対のポケット爪と第2分割保持器に設けられた対向一対のポケット爪は相反する方向に向く組み合わせとされ、その組み合わせ状態において、第1分割保持器と第2分割保持器は、連結手段によって軸方向に非分離の結合状態とされる。このため、大きなモーメント荷重が負荷されてボールに遅れや進みが生じても、保持器は脱落するようなことはない。
【0017】
また、ボールを保持するポケットは、第1分割保持器に形成された2分の1円を超える大きさのポケットと第2分割保持器に形成された2分の1円を超える大きさのポケットの2つのポケットにより形成されているため、ボール案内面は広く、強度の高い保持器を得ることができる。
【0018】
ここで、連結手段として、第1分割保持器の隣接するポケットのポケット爪間に内向きの係合爪を設け、第2分割保持器の隣接するポケットのポケット爪間に外向きの係合爪を設け、第1分割保持器の係合爪を第2分割保持器の外径面に形成された係合凹部に係合し、第2分割保持器の係合爪を第1分割保持器の内径面に形成された係合凹部に係合した構成から成るものを採用することができる。
【0019】
上記のような連結手段の採用において、係合爪と係合凹部の係合部の数を3つ以上とすることにより、第1分割保持器と第2分割保持器とをより確実に結合することができる。
【0020】
また、係合爪と係合凹部間に形成される周方向すきまをボールとポケット間に形成される周方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、大きなモーメント荷重が負荷されてボールに遅れ進みが生じ、第1分割保持器と第2分割保持器とが相対的に回転しても、係合爪が係合凹部の周方向で対向する側面に当接することはなく、係合爪の損傷防止に効果を挙げることができる。
【0021】
さらに、係合爪と係合凹部間に形成される軸方向すきまをボールとポケット間に形成される軸方向のポケットすきまより大きくしておくことにより、第1分割保持器と第2分割保持器に離反する方向の軸方向力が作用した際に、対向一対のポケット爪の内面がボールの外周面に当接して、係合爪が係合凹部の軸方向端面に当接するというようなことはなく、係合爪の損傷防止に効果を挙げることができる。」(段落【0016】ないし【0021】)

(ウ)「【0042】
保持器40は、第1分割保持器41と、その第1分割保持器41の内側に嵌合された第2分割保持器42とからなる。
【0043】
図1乃至図4に示すように、第1分割保持器41は、環状体43の軸方向一側面に対向一対のポケット爪44を周方向に等間隔に形成し、各対向一対のポケット爪44間に上記環状体43を刳り抜く2分の1円を超える大きさのポケット45を設けた合成樹脂の成形品からなり、上記環状体43の内径はボール31のピッチ円径(PCD)に略等しく、外径は外輪11の高さが高い肩13aの内径と高さの低い肩13bの内径の範囲内とされて、外輪11の高さの低い肩13b側から軸受内に挿入可能とされている。
【0044】
一方、第2分割保持器42は、環状体48の軸方向他側面に対向一対のポケット爪49を周方向に等間隔に形成し、各対向一対のポケット爪49間に上記環状体48を刳り抜く2分の1円を超える大きさのポケット50を設けた合成樹脂の成形品からなり、上記環状体48の外径はボール31のピッチ円径(PCD)に略等しく、内径は内輪21の高さの高い肩23bの外径と高さの低い肩23aの外径の範囲内とされている。この第2分割保持器42は、高さの低い肩23a側から軸受内に挿入可能とされ、かつ、第1分割保持器41の内側に嵌合可能とされている。
【0045】
第1分割保持器41と第2分割保持器42の相互間には、内外に嵌り合う嵌合状態において軸方向に非分離とする連結手段Xが設けられている。連結手段Xは、第1分割保持器41の隣接するポケット45のポケット爪44間に内向きの係合爪46を設け、かつ、環状体43の内径面に上記係合爪46と同一軸線上に溝状の係合凹部47を形成し、第2分割保持器42の隣接するポケット50のポケット爪49間に外向きの係合爪51を設け、かつ、環状体48の外径面に上記係合爪51と同一軸線上に係合凹部52を形成し、第1分割保持器41の係合爪46と第2分割保持器42の係合凹部52の係合、および、第2分割保持器42の係合爪51と第1分割保持器41の係合凹部47の係合によって、第1分割保持器41と第2分割保持器42とを軸方向に非分離とする構成とされている。
【0046】
ここで、第1分割保持器41および第2分割保持器42は、深みぞ玉軸受を潤滑する潤滑油に曝されるため、耐油性に優れた合成樹脂を用いるようにする。そのような合成樹脂として、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)を挙げることができる。これらの樹脂は、潤滑油の種類に応じて適切なものを選択して使用すればよい。」(段落【0042】ないし【0046】)

(エ)図1から、内輪軌道溝の他側方の肩23bの外径は、第1分割保持器41の内径よりも小さいことが看取される。

(2) 引用発明
上記(1)の記載事項及び図1ないし7の図示事項を総合し、本願の請求項1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「内径面に軌道溝12が形成された外輪11と、外径面に軌道溝22が形成された内輪21と、外輪11の軌道溝と内輪21の軌道溝間に組込まれたボール31と、そのボール31を保持する保持器40とからなり、前記外輪11の軌道溝および内輪21の軌道溝のそれぞれ両側に位置する合計4つの肩のうち、外輪軌道溝の一側方の肩13aおよび内輪軌道溝の他側方の肩23bの高さを、外輪軌道溝の他側方の肩13bおよび内輪軌道溝の一側方の肩23aの高さより高くし、前記高さの高い肩の肩高さをH_(1)、ボール31の球径をdとしたとき、ボール31の球径dに対する肩高さH_(1)の比率H_(1)/dを0.25?0.50の範囲とし、
前記保持器40が、合成樹脂からなる円筒形の第1分割保持器41と、その第1分割保持器の内側に嵌合される合成樹脂製の円筒形の第2分割保持器42とからなり、第1分割保持器41および第2分割保持器42のそれぞれが環状体43,48を有し、その環状体43,48の軸方向一側面に対向一対のポケット爪44,49を等間隔に形成し、その各対向一対のポケット爪44,49間に前記環状体43,48を刳り抜く2分の1円を超える大きさのボール保持用ポケット45,50を設け、
前記第1分割保持器41と第2分割保持器42の相互間に、その両保持器の嵌合により係合して両保持器を軸方向に非分離とする連結手段を設けた深みぞ玉軸受Aにおいて、
前記第1分割保持器41および第2分割保持器42のそれぞれに形成された対向一対のポケット爪44,49の内面が前記ボール31の外周面に当接する形状であって、
環状体43の内径はボール31のピッチ円径(PCD)に略等しく、内輪軌道溝の他側方の肩23bの外径は、前記第1分割保持器41の内径よりも小さい深みぞ玉軸受A。」

2 引用文献6
(1) 引用文献6の記載事項
本願の出願前に頒布され、当審拒絶理由1で引用された特開2001-280352号公報(引用文献6)には、「玉軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 内輪と外輪の間に介在した複数のボールをリング状の保持器に設けられたポケット内に保持し、上記保持器が、各ポケット毎に一対の爪を対向して突設した樹脂製で冠形のものであり、上記ポケットの内面を球面状とした玉軸受において、上記保持器のポケットの内面に、保持器の内径面から外径面まで貫通する半径方向の溝を設け、この溝の溝底縦断面形状を球面状のポケット内面と同心の円弧状とし、この溝の横断面形状を円弧状とし、上記溝の幅を、ボール直径の34%以上で最大が上記爪の開放側先端の手前までとした玉軸受。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、HDD用スピンドルモータ,各種ファンモータ,汎用モータ,自動車用電装補機などを代表とする、潤滑条件が厳しい条件で使用される玉軸受に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0016】この半径方向の溝4は、横断面形状が円弧状であって、溝幅の中央が深く、両側縁が浅くなっているために、ポケット2内で溝4から効果的にグリ-スがボール5へ供給される。そのため、軌道面6a,7aへのグリ-スの供給量を増加させることができ、密封グリース封入玉軸受の潤滑寿命を延長させることができる。また、半径方向の溝4は、縦断面形状がポケット内面と同心の円弧状とされているため、溝深さを適宜の深さに設計することで、ボール5の表面に付着して移動するグリース量を、必要な量だけ確保することができる。」(段落【0016】)

(エ)上記(ア)から、半径方向の溝は、ボールの外周に沿うように形成されていることは明らかである。また、該半径方向の溝の深さは、保持器の内径面から外径面に至るまで同じであること、及び上記半径方向の溝は、一定の溝深さと一定の溝幅を有していることが、図3及び4から看取される。

(2) 引用文献6記載技術
上記(1)の記載事項及び認定事項並びに図示事項を総合し、本願の請求項1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献6には、次の技術(以下、「引用文献6記載技術」という。)が記載されている。

「ボールの外周に沿うように、保持器のポケットの内面に、保持器の内径面から外径面まで貫通する半径方向の溝を設け、該半径方向の溝をボールの外周に沿うように形成し、その深さを保持器の内径面から外径面に至るまで一定の溝深さと一定の溝幅を有するようにする技術。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「外輪11」は、その技術的意義、機能又は構造からみて、本願発明1における「外輪」に相当し、以下同様に、「内径面」は「内径面」に、「軌道溝12」は「軌道溝」に、「内輪21」は「内輪」に、「外径面」は「外径面」に、「ボール31」は「ボール」に、「保持器40」は「保持器」に、「外輪11の軌道溝および内輪21の軌道溝のそれぞれ両側に位置する合計4つの肩」は「外輪軌道溝の両側に形成された一対の肩および内輪軌道溝の両側に形成された一対の肩の合計4つの肩」に、「輪軌道溝の一側方の肩13a」は「外輪軌道溝の一側の肩」に、「内輪軌道溝の他側方の肩23b」は「内輪軌道溝の他側の肩の肩」に、「外輪軌道溝の他側方の肩13b」は「外輪軌道溝の他側の肩」に、「内輪軌道溝の一側方の肩23a」は「内輪軌道溝の一側の肩」に、「ボール31」は「ボール」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「ポケット爪44,49」は、その「内面がボール31の外周面に当接する形状」であるから、ポケット爪44,49間に設けられる「ボール保持用ポケット45,50」の内面はボール31に沿う半球状であり、ポケットの内周面がボール31の外周に沿う球状であると認められる。したがって、引用発明の「ボール保持用ポケット45,50」は、本願発明1の「ボール保持用の半球状ポケット」に相当する。
そして、引用発明における「第1分割保持器41」は、その技術的意義、機能又は構造からみて、本願発明1における「第1分割保持器」に相当し、以下同様に、「第2分割保持器42」は「第2分割保持器」に、「連結手段」は「連結手段」に、「深みぞ玉軸受A」は「深みぞ玉軸受」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「外輪の内径面に形成された軌道溝と、内輪の外径面に形成された軌道溝間にボールを組み込み、そのボールを保持器で保持し、前記外輪軌道溝の両側に形成された一対の肩および内輪軌道溝の両側に形成された一対の肩の合計4つの肩のうち、外輪軌道溝の一側の肩および内輪軌道溝の他側の肩の肩高さを、外輪軌道溝の他側の肩および内輪軌道溝の一側の肩の高さより高くし、その高さの高い肩の肩高さをH_(1)、ボールの球径をdとしたとき、ボールの球径dに対する肩高さH_(1)の比率H_(1)/dを0.25?0.50の範囲とし、前記保持器が、ボール保持用の半球状ポケットを軸方向の一側部に有する第1分割保持器と、その第1分割保持器の内側に嵌合され、ボール保持用の半球状ポケットを軸方向の他側部に有する第2分割保持器とで形成され、その第1分割保持器と第2分割保持器とを連結手段により連結して軸方向に非分離とした深みぞ玉軸受において、
前記第1分割保持器および第2分割保持器のそれぞれに形成されたポケットの内周面が前記ボールの外周に沿う球状であるとともに、
前記第1分割保持器の内径は、ボールのピッチ円径に等しい深みぞ玉軸受。」

そして、両者は、次の点で相違する。
本願発明1においては、保持器は「油浴に一部が浸かって」おり、「第1分割保持器および第2分割保持器のそれぞれに、ボールの外周に沿うように、ポケットの内周面に径方向溝が形成されており、前記径方向溝が、各分割保持器の外径面から内径面に至っており、内輪軌道溝の他側の肩の外径は、前記第1分割保持器の内径よりも小さく、前記第1分割保持器に形成された前記径方向溝は、前記第2分割保持器と径方向に重ならないように配置されている」のに対し、引用発明においては、保持器40が油浴に浸かっているか否か不明であり、第1分割保持器41および第2分割保持器42のポケットの内周面に径方向溝は形成されていない点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。
本願発明1は、深みぞ玉軸受において、保持器が油浴に一部が浸かっており、第1分割保持器および第2分割保持器のそれぞれに、ボールの外周に沿うように、ポケットの内周面に径方向溝が形成されており、前記径方向溝が、各分割保持器の外径面から内径面に至っており、内輪軌道溝の他側の肩の外径は、前記第1分割保持器の内径よりも小さく、前記第1分割保持器に形成された前記径方向溝は、前記第2分割保持器と径方向に重ならないように配置すること(以下、「発明特定事項A」という。)により、軸受内部に浸入した潤滑油の一部を、各分割保持器の外径側にスムーズに流動させることができ、損失トルクの低減を図るとともに、軌道溝内に侵入した異物の排出性を高めることができるものであると認められる。
これに対し、引用文献6記載技術は、「ボールの外周に沿うように、保持器のポケットの内面に、保持器の内径面から外径面まで貫通する半径方向の溝を設け、該半径方向の溝をボールの外周に沿うように形成し、その深さを保持器の内径面から外径面に至るまで一定の溝深さと一定の溝幅を有する」ものではあるが、該溝は内輪及び外輪の軌道面へのグリースの供給量を増加させることにより、密封グリース封入玉軸受の潤滑寿命を延長させるものである(上記第6の2(1)(ウ)段落【0016】参照)。
したがって、引用発明において、引用文献6記載技術を適用することが容易であったとしても、それによって形成される溝は、「軸受内部に浸入した潤滑油の一部を、各分割保持器の外径側にスムーズに流動させることができ、損失トルクの低減を図るとともに、軌道溝内に侵入した異物の排出性を高める」との機能を有するものとはならない。また、該機能を有さないということは、引用発明において引用文献6記載技術を適用したときに、「第1分割保持器41に形成された径方向溝は、第2分割保持器42と径方向に重ならないように配置する」ことの動機付けも生じない。
よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献6記載技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7は、上記したように本願発明1を減縮した発明であって、上記発明特定事項Aを備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献6記載技術に基いて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明8について
本願発明8は、上記したようにヘリカルギヤが設けられたシャフトを一対の転がり軸受で回転自在に支持した軸受装置において、前記一対の転がり軸受が、本願発明1ないし7のいずれかに係る深みぞ玉軸受からなる軸受装置であって、上記発明特定事項Aを備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献6記載技術に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原審拒絶査定についての判断
平成29年10月5日の手続補正によって、補正後の請求項1ないし8は、上記発明特定事項Aを有するものとなった。そして、上記発明特定事項Aは、原審拒絶査定で引用された引用文献1ないし5には記載されておらず、本願の出願前における周知技術でもないので、本願発明1ないし8は、当業者であっても、引用文献1ないし5に基いて容易に発明できたものとはいえない。したがって、原審拒絶査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断
1 当審拒絶理由1
平成29年10月5日の手続補正によって、補正後の請求項1ないし8は、上記発明特定事項Aを有するものとなった。そして、上記発明特定事項Aは、当審拒絶理由で引用された引用文献1、3及び6には記載されておらず、本願の出願前における周知技術でもないので、本願発明1ないし8は、当業者であっても、引用文献1、3及び6に基いて容易に発明できたものとはいえない。
また、平成29年10月5日の手続補正によって、(径方向溝が)「一定の溝深さと一定の溝幅を有する」との発明特定事項は削除された。
したがって、当審拒絶理由1は解消した。

2 当審拒絶理由2
平成29年10月5日の手続補正によって、請求項1の「前記内輪軌道溝の他側の肩の外径は、前記第1分割保持器の内径よりも小さく」(下線は、審判請求人が補正箇所を示すために付した。)と補正された結果、当審拒絶理由2は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし8は、当業者が引用文献1ないし5に基いて容易に発明することができたものではない。
したがって、原審拒絶査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-20 
出願番号 特願2011-267707(P2011-267707)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F16C)
P 1 8・ 121- WY (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 中村 達之
内田 博之
発明の名称 深みぞ玉軸受および軸受装置  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鎌田 直也  
代理人 中谷 弥一郎  
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