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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1334749
審判番号 不服2016-1302  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-29 
確定日 2017-11-13 
事件の表示 特願2012-288580「グラビアシリンダーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月10日出願公開、特開2014-130267〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2012-288580号(以下、「本件出願」という。)は、平成24年12月28日の特許出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。

平成27年 5月19日付け:拒絶理由通知
平成27年 7月10日提出:意見書
平成27年 7月10日提出:手続補正書
平成27年11月 4日付け:拒絶査定
平成28年 1月29日請求:審判請求書
平成28年 1月29日提出:手続補正書
平成29年 1月25日付け:拒絶理由通知
平成29年 3月24日提出:意見書
平成29年 3月24日提出:手続補正書
平成29年 6月 9日付け:拒絶理由通知
平成29年 8月10日提出:手続補正書
平成29年 8月10日提出:意見書

第2 本件発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、平成29年8月10日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「版母材上にDLC層を形成し、前記DLC層上に、エッチング可能な材料でDLC被覆層を形成し、前記DLC被覆層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層を露光・現像せしめてレジストパターン層を形成する工程と、前記DLC被覆層をエッチングせしめてDLC被覆パターン層を形成する工程と、前記レジストパターン層を剥離する工程と、前記DLC層をドライエッチングせしめて前記DLC層にグラビアセルを形成する工程と、前記DLC被覆層を剥離する工程と、を含み、上記各工程をその記載順に行い、かつ前記DLC被覆層が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成されることを特徴とするグラビアシリンダーの製造方法。」

第3 当審の拒絶理由
当審において平成29年6月9日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、概略、以下のとおりである。

「本件出願の請求項1?4に係る発明は、本件出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2002-178653号公報
引用例2:特開平11-327124号公報
引用例3:特開2003-338091号公報
引用例4:特開2002-110657号公報
引用例5:MATERIALS SCIENCE Vol.13 No.4(2007) p.282-285
引用例6:特開2004-20783号公報
引用例7:特開2012-91380号公報
引用例8:特開2003-90907号公報
引用例9:特開2003-174030号公報
引用例10:特開平8-265098号公報
引用例11:特開平11-321141号公報

備考

(引用例1を主引用例とした場合)
・請求項1?4
・引用例1,3?11

(引用例2を主引用例とした場合)
・請求項1?4
・引用例2?11

(引用例5を主引用例とした場合)
・請求項1?4
・引用例5,1,2,11 」

第4 当合議体の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
当審拒絶理由で引用された引用例1には、次の記載がある。(下線は、後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、印刷版及びその製造方法に係わり、特に、印刷パターン溝内に印刷インクを導入し、この印刷インクを被印刷物に接触させて被印刷物に印刷を行う印刷版及びその製造方法に関する。」

イ 「【0002】
【従来の技術】以下、従来の印刷版の一例である印刷用シリンダーについて説明する。印刷用シリンダーは、内部が中空の円柱形状からなる印刷版用基材と、この印刷版用基材上に形成された表面が鏡面の銅膜と、この銅膜に形成された印刷パターン溝と、銅膜上に形成されたクロム膜と、から構成されている。このクロム膜は印刷パターン溝が転写されている。
【0003】次に、印刷用シリンダーの製造方法について説明する。まず、Al又はFeなどからなる印刷版用基材を準備する。この印刷版用基材は、その内部が中空の円柱形状を有するものである。
【0004】次いで、この印刷版用基材の外表面上にメッキ法により厚さ100μm程度の銅膜を形成する。この後、この銅膜の表面を研磨することにより、該銅膜の表面を表面粗度(Rmax)が0.1?0.2μm程度の鏡面とする。
【0005】その後、銅膜上にレジストを塗布し、このレジストをレーザーで露光した後、現像することにより、銅膜上には印刷パターンと同じ開口パターンを有するレジストパターンが形成される。
【0006】次いで、このレジストパターンをマスクとして銅膜をエッチングすることにより、銅膜には印刷パターン溝が形成される。この後、レジストパターンを剥離する。 次に、銅膜上にメッキ法によりクロム膜を形成する。このクロム膜には印刷パターン溝が転写される。
【0007】次に、上記印刷用シリンダーを用いて印刷する方法について説明する。まず、印刷インクの満たされた容器を準備し、その容器の印刷インクに印刷用シリンダーの外表面を浸漬する。次に、紙又はビニールなどの被印刷物を印刷用シリンダーの外表面に接触させると共に、ドクターブレードを印刷用シリンダーの外表面に接触させる。
【0008】次に、印刷用シリンダーを回転させて、印刷用シリンダーの外表面に印刷インクを供給する。これにより、印刷用シリンダーの印刷パターン溝に印刷インクが導入される。そして、印刷用シリンダーの外表面に付着した余分な印刷インク及び印刷パターン溝からインクの表面張力で盛り上がった印刷インクを、ドクターブレードでかき落とす。これにより、印刷パターン溝内のみに印刷インクが導入される。この状態で、印刷用シリンダーの回転に合わせて被印刷物を送り、被印刷物の表面に印刷パターンが印刷される。」

ウ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の印刷版(印刷用シリンダー)では、レジストパターンをマスクとして銅膜をエッチングして銅膜に印刷パターン溝を形成するため、大変細かい高精細な印刷パターン溝を形成するにも限界がある。つまり、より高精細な印刷パターン溝を形成できる印刷版が求められている。
【0010】本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、より高精細な印刷パターン溝を形成できる印刷版及びその製造方法を提供することにある。」

エ 「【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明に係る印刷版は、印刷パターン溝内に印刷インクを導入し、この印刷インクを被印刷物に接触させることにより被印刷物に印刷を行うための印刷版であって、印刷版用基材と、この印刷版用基材上に形成されたDLC膜と、このDLC膜に形成された印刷パターン溝と、を具備することを特徴とする。
・・・(中略)・・・
【0014】本発明に係る印刷版の製造方法は、印刷パターン溝内に印刷インクを導入し、この印刷インクを被印刷物に接触させることにより被印刷物に印刷を行うための印刷版を製造する方法であって、印刷版用基材上にDLC膜を成膜する工程と、このDLC膜上にレジスト膜を塗布し、このレジスト膜を露光、現像することにより、DLC膜上に印刷パターンを開口したレジストパターンを形成する工程と、このレジストパターンをマスクとしてDLC膜をイオンエッチングすることにより、DLC膜に印刷パターン溝を形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0015】上記印刷版の製造方法によれば、DLC膜に印刷パターン溝をイオンエッチングにより形成している。このため、銅膜に印刷パターン溝を形成する従来の印刷版に比べて、より細かくより高精細な印刷パターン溝を形成することが可能となる。」

オ 「【0016】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1(a)は、本発明の実施の形態による印刷版の一例としての印刷用シリンダーを示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す印刷用シリンダーの断面図である。
【0017】図1(a)に示すように、印刷用シリンダー10は円柱形状を有している。印刷用シリンダーの長さ(面長)10aは、400?2000mm程度であり、好ましくは1000mm程度である。印刷用シリンダーの円柱の円周長は400?1500mm程度であり、好ましくは600mm程度である。印刷用シリンダー10の外表面には印刷パターン溝11が形成されている。
【0018】図1(b)に示すように、印刷用シリンダー10は、その内部が中空形状を有しており、その両端には内部の中空部分12に繋がる穴12aが設けられている。
【0019】図2(a)は、図1(a)に示す印刷用シリンダーの印刷パターン溝を部分的に拡大した平面図であり、図2(b)は、図2(a)に示す2b-2b線に沿った断面図である。
【0020】この印刷用シリンダー10は、Al又はFeなどからなる内部が中空の円柱形状の印刷版用基材1を有している。この印刷版用基材1上にはDLC(DiamondLike Carbon)膜3が形成されており、このDLC膜3には印刷パターン溝11が形成されている。ここでのDLC膜3は、炭素を主成分とする非晶質炭素系薄膜であって、種々の硬質炭素膜を含むものである。
【0021】次に、印刷用シリンダーの製造方法について説明する。まず、Al又はFeなどからなる印刷版用基材1を準備する。この印刷版用基材1は、その内部が中空の円柱形状を有するものである。次いで、この印刷版用基材1の外表面を研磨することにより、該基材1の表面を表面粗度(Rmax)が0.1?0.2μm程度の鏡面とする。
【0022】その後、印刷版用基材1上にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さ0.1?10μm程度のDLC膜3を成膜する。この際の成膜方法は、例えば、高周波電源に接続された電極上に印刷版用基材1を固定し、この電極に高周波電力を印加し、プラズマCVD法により印刷版用基材1上にDLC膜を成膜するものであり、この際の成膜条件は、使用ガスが少なくとも炭素と水素を含む炭化水素系ガス、ガス圧が例えば0.5mTorr以上500mTorr以下、RF出力が例えば30W以上3000W以下である。なお、下地である印刷版用基材1の外表面が鏡面であるため、成膜されたDLC膜3の表面も鏡面となる。
【0023】次に、このDLC膜3上にレジスト(図示せず)を塗布し、このレジストをレーザーで露光した後、現像することにより、DLC膜3上には印刷パターンと同じ開口パターンを有するレジストパターンが形成される。
【0024】この後、このレジストパターンをマスクとしてDLC膜3をイオンエッチングすることにより、DLC膜3には印刷パターン溝11が形成される。この際のイオンエッチング条件は、例えばジフロロメタンCH_(2)F_(2)と酸素の混合ガスを用い、CH_(2)F_(2)の流量を10sccm、酸素の流量を30sccmとして、ガス圧力を0.02Torrとすることが好ましい。
【0025】次に、レジストパターンをアッシングにより剥離する。このようにして印刷用シリンダー(印刷版)10が製作される。
【0026】図3は、図1に示す印刷用シリンダー10を用いて印刷する方法を説明するための模式図である。
【0027】まず、図3に示すように、印刷インク22の満たされた容器21を準備し、その容器21の印刷インク22に印刷用シリンダー10の外表面を浸漬する。次に、紙又はビニールなどの被印刷物23を印刷用シリンダー10の外表面に接触させると共に、ドクターブレード24を印刷用シリンダー10の外表面に接触させる。
【0028】次に、印刷用シリンダー10を矢印のように回転させることにより、印刷用シリンダー10の外表面に印刷インク22を供給する。この際、印刷用シリンダー10の印刷パターン溝11に印刷インク22が導入される。そして、印刷用シリンダー10の外表面に付着した余分な印刷インク22及び印刷パターン溝11からインクの表面張力で盛り上がった印刷インク22を、ドクターブレード24でかき落とす。これにより、印刷パターン溝11内のみに印刷インク22が導入される。この状態で、印刷用シリンダー10の回転に合わせて、被印刷物23を矢印のように送る。これにより、被印刷物23の表面に印刷パターンが印刷される。
【0029】上記実施の形態によれば、DLC膜3に印刷パターン溝11をイオンエッチングにより形成している。このため、銅膜に印刷パターン溝を形成する従来の印刷版に比べて、より細かくより高精細な印刷パターン溝を形成することが可能となる。
【0030】また、本実施の形態では、被印刷物23と直接接触する印刷用シリンダー10の表面膜にDLC膜3を用いており、このDLC膜3は従来の印刷用シリンダー表面のクロム膜に比べて耐磨耗性に大変優れている。このため、印刷用シリンダー10の耐久性を従来品より向上させることができ、印刷用シリンダー10の交換頻度を1/5程度まで減らすことができると期待される。具体的には、従来の印刷用シリンダーでは、印刷時にシリンダーを回した距離が10万メートル程度に達すると、印刷用シリンダーが寿命となり、交換しなければならなくなる。これに対して、本実施の形態による印刷用シリンダー10では、印刷時にシリンダーを50万メートル程度まで回すことが可能となる。
【0031】尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、印刷版用基材1上にDLC膜3を直接成膜しているが、この印刷版用基材1とDLC膜3との間に、両者の密着性を向上させるための中間層を形成することも可能である。中間層としては、例えばSi系の層を用いることも可能である。」

カ 「【0035】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、DLC膜に印刷パターン溝を形成している。したがって、より高精細な印刷パターン溝を形成できる印刷版及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態による印刷版の一例としての印刷用シリンダーを示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す印刷用シリンダーの断面図である。
【図2】(a)は、図1(a)に示す印刷用シリンダーの印刷パターン溝を部分的に拡大した平面図であり、(b)は、(a)に示す2b-2b線に沿った断面図である。
【図3】図1に示す印刷用シリンダーを用いて印刷する方法を説明するための模式図である。」

キ 「【図1】



ク 「【図2】



ケ 「【図3】



(2) 引用例1発明
引用例1の段落【0014】(上記(1)エ参照。)には、「印刷版の製造方法」として、次の発明が記載されている(以下、「引用例1発明」という。)。
「印刷パターン溝内に印刷インクを導入し、この印刷インクを被印刷物に接触させることにより被印刷物に印刷を行うための印刷版を製造する方法であって、
印刷版用基材上にDLC膜を成膜する工程と、
このDLC膜上にレジスト膜を塗布し、このレジスト膜を露光、現像することにより、DLC膜上に印刷パターンを開口したレジストパターンを形成する工程と、
このレジストパターンをマスクとしてDLC膜をイオンエッチングすることにより、DLC膜に印刷パターン溝を形成する工程と、を具備する、
印刷版の製造方法。」

(3) 引用例3の記載
当審拒絶理由で引用された引用例3には、次の記載がある(下線は、審決にて付した。以下、同じ。)。
ア 「【0021】[第1の製造方法] 低散乱層3としてDLCを使用した場合、図2の(a)に示すように、平坦なNi基板2の洗浄を行い、(b)に示すように、基板2の表面にDLCをプラズマCVD法により0.5μmの厚さで蒸着して低散乱層3を形成する。この低散乱層3の表面に、(c)に示すように電子ビーム用レジスト層5を2μmの厚さで形成する。この電子ビーム用レジスト層5は、例えば日本ゼオン(株)製の電子ビーム用レジストZEP-520等のポジ型電子線レジストを使用する。このレジスト層5の表面に加速電圧30KeVの電子を照射し、所定のパターンで露光して現像し、(d)に示すように、レジスト層5の露光した部分を除去してレジストパターン6を形成する。このレジスト層5を電子ビームで露光するとき、低散乱層3を形成するDLCは炭素原子から構成されているので、電子を後方散乱する割合が小さくてすむ。また、照射した電子は基板2で後方散乱が発生するが、レジスト層5と基板2の間に低散乱層3があるので基板2の後方散乱がレジスト層5に及ぼす影響を小さくすることができる。したがってレジスト層5に形成されるパターン形状は、基板2にレジスト層5を直接形成したときよりも微細で逆テーパの小さいパターンを形成することができる。
【0022】その後、(e)に示すように、レジストパターン6をマスクにして低散乱層3をRIEでドライエッチングを酸素ガスにより20nm?30nm行う。この酸素ガスによるRIEは、低散乱層3を形成するDLCだけでなくレジストもエッチングするが、レジストの膜厚は2μmあるので、低散乱層3を20?30nmエッチングしてもレジストは残っていてマスクとしての機能を果たしている。次に、レジストパターン6の全面に紫外線を照射し、DMAC(Dimethylacetamide)液あるいはNMP(1-Methlyl-2-pyrrolidinone)液でリンスして、レジストパターン6を除去し、最終的に内径および外径を所定の寸法にカットして、(f)に示すように、低散乱層3に微細な凹凸パターン4を有する光ディスク用のスタンパ1を作製する。」

イ 「【0023】[第2の製造方法] 図3の(a)に示すように、平坦なNi基板2の洗浄を行い、(b)に示すように、基板2の表面にDLCをプラズマCVD法により0.5μmの厚さで蒸着して低散乱層3を形成する。この低散乱層3の表面に、(c)に示すように、スパッタ法により10nmの厚さでAl層7を形成し、Al層7の表面に、(d)に示すように、ポジ型電子線レジストにより電子ビーム用レジスト層5を0.5μmの厚さで形成する。このレジスト層5の表面に加速電圧30KeVの電子を照射し、所定のパターンで露光して現像し、(e)に示すように、レジスト層5の露光した部分を除去してレジストパターン6を形成する。このレジスト層5を電子ビームで露光するとき、低散乱層3を形成するDLCは炭素原子から構成されているので、電子を後方散乱する割合が小さくてすみ、Al層7を構成するAlもSiよりも原子番号が小さいので、電子を後方散乱する割合が小さくてすむ。また、照射した電子は基板2で後方散乱が発生するが、レジスト層5と基板2の間に低散乱層3とAl層75あるので基板2の後方散乱がレジスト層5に及ぼす影響を小さくすることができ、レジスト層5に微細で逆テーパの小さいレジストパターン6を形成することができる。また、Al層7を設けることにより、電子ビームを連続して照射することによるレジスト面のチャージアップを防止することができる。このチャージアップがあると、照射する電子ビームがレジスト面の電荷からクーロン力を受けて偏位してしまい、目標の位置に電子ビームを照射することができなくなるがこれを防ぐことができる。
【0024】次に(f)に示すように、レジストパターン6をマスクにしてAl層7をドライエッチングする。このドライエッチングにより異方性エッチングが可能になり、等方的にエッチングすることによってAl層7の全てがなくなるといった現象を防止することができる。このドライエッチングを平行平板電極型のRIEで、反応ガスをCCl4とCl2の条件で行う。CCl4でエッチング反応が進行し、Cl2でエッチング残留物を低減している。次に、レジストパターン6の全面に紫外線を照射し、DMAC(Dimethylacetamide)液あるいはNMP(1-Methlyl-2-pyrrolidinone)液でリンスして、(g)に示すようにレジストパターン6を除去する。その後、(h)に示すように、エッチングしたAl層7をマスクとして、低散乱層3をRIEでドライエッチングを酸素ガスにより20nm?30nm行う。この低散乱層3をドライエッチングするとき、第1の製造方法で示すようにレジストパターン6をマスクとしてエッチングすると、低散乱層3をドライエッチング中にレジストもエッチングされるため、あらかじめレジスト層5を厚くするが、このようにレジスト層5を厚くすると、微細なパターンを形成するためにアスペクト比が大きくなるような露光条件を設定することが必要になる。これに対してAl層7をマスクとしてエッチングしているから、第1の製造方法で示すようにレジストパターン6をマスクとして低散乱層3をドライエッチングすることにより、レジスト層5を薄くすることができ、アスペクト比が小さい露光条件でも容易に微細なパターンを形成することができる。また、Alは酸素ガスでのRIEではドライエッチングすることができず、逆に表面がドライエッチングされにくいAl_(2)O_(3)に変質するので、膜厚が10nmでも低散乱層3をドライエッチングするときのマスクとして機能することができる。次に、Al層7をH_(3)PO_(4)液でリンスして除去し、最終的に内径および外径を所定の寸法にカットして、(i)に示すように、低散乱層3に微細な凹凸パターン4を有する光ディスク用のスタンパ1を完成する。」

ウ 「【図3】



(4) 引用例4の記載
当審拒絶理由で引用された引用例4には、次の記載がある。
ア 「【0007】接触パッド22には、一般に、ダイヤモンドライクカーボン(以下、これを「DLC」という。)が用いられるが、このようなテーパ断面を有する接触パッド22bは、具体的には、図4に示す手順により作製することができる。すなわち、まず、所定の薄膜が所定の順序で積層されたウエハ40の表面に、ポールチップ20を形成し、その上にさらにDLC膜42を積層する。次いで、DLC膜42の表面を平坦化し、ポールチップ20先端を露出させる(図4(a))。なお、図4においては、ポールチップ20のみが図示され、ポールチップ20につながる磁気回路は、図示が省略されている。
【0008】次に、平坦化させたDLC膜42の上に、さらにテーパ形成用マスクとしてのDLC膜44を積層する(図4(b))。次いで、DLC膜44の上にTi膜46を形成し、その上にフォトレジスト48を塗布する(図4(c))。さらに、塗布されたフォトレジスト48を露光・現像し、Ti膜46の上にレジストマスク48aを形成する(図4(d))。
【0009】次に、イオンビームエッチング(IBE)により、レジストマスク48aで覆われていない部分のTi膜46を除去する。その後、レジストマスク48aを除去すれば、DLC膜44の上に、Tiマスク46aが形成される(図4(e))。次に、反応性イオンエッチング(RIE)により、DLC膜44及びDLC膜42をエッチングする。これにより、Tiマスク46aで覆われていない部分のDLC膜44及びDLC膜42がエッチングされ、DLC膜42に達するステップが形成される(図4(f))。
【0010】次に、Tiマスク46aを取り除き(図4(g))、次いで、IBEによりDLC膜44及びDLC膜42をエッチングする。この時、ウエハ40を回転させながらイオンビームを垂直に照射すると、DLC膜44の上面及びDLC膜42の平坦部がウエハ40に対してほぼ平行にエッチングされると同時に、ステップの垂直部分が斜めにエッチングされる。」

イ 「【図4】



(5) 引用例5の記載
当審拒絶理由で引用された引用例5には、次の記載がある。
ア 282頁左欄1行?右欄8行
「Introduction
Diamond like carbon(DLC)films remain at the top of the interest due to their very interesting properties [1]. High hardness and wear resistance, low friction, corrosion resistance, hydrophobicity, high thermal conductivity, high optical transmission in near ultraviolet, visible light and near infrared range can be mentioned. Therefore, various applications of the diamond like carbon films are considered [1]. Particularly, use of the diamond like carbon films for novel lithographic technologies applications as well as a material for fabrication of the different microstructures and micromechanical devices have been already considered [2-7]. In the first case mechanical and hydrophobic (antisticking) properties of DLC can be used to solve one of the important problems of the nanoimprint lithography - fabrication of the stamps with anti-sticking surface. Thick DLC layers were reported as an efficient mould material, when being used in the imprint technology [2, 3]. The imprint stamp pattern can be formed directly in the CVD deposited polycrystalline diamond [8-10]. The fabrication of diamond like carbon based imprint stamps using focused ion beam CVD was reported as well [2, 3]. In the second case application of the DLC for fabrication of the microfluidic devices [4], micromachine components [5], different MEMS [6], piezoresistive sensors [7] were already studied. As it was mentioned above, diamond like carbon films are resistant to the "wet" chemical etching. Therefore, different plasma and ion etching techniques should be used for fabrication of DLC microstructure of the necessary pattern. However, there are few studies on RIE or ion beam etching of the diamond like carbon films.
In present study etching of both hydrogenated DLC films and doped hydrogenated DLC films by oxygen ion beam were investigated. Effects of the doping on etching rate were studied. Hydrophobic properties and surface morphology of the films were studied before and after the etching.」
(日本語訳)
「 序論
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜はそれらの大変興味深い特性のため最上位の関心を維持している[1]。高硬度、耐摩耗性、低摩擦性、耐腐食性、疎水性、高熱伝導性、近紫外、可視光、近赤外領域の高光透過性が言及される。それゆえ、ダイヤモンドライクカーボン膜の様々な応用が検討されている[1]。特に、異なる微細構造及び微小機械デバイスの製造のための材料と同様、新規なリソグラフィ技術への応用のためのダイヤモンドライクカーボンの利用が既にいくつか考えられている[2-7]。最初のケースにおいては、DLCの機械的及び疎水性(固着防止性)特性がインプリントリソグラフィーの重要な問題の一つ-固着防止性の表面を備えたスタンプの製造を解決するために用いることができる。厚いDLC層が、インプリント技術において用いられる時、優れたモールド材料として報告されている[2,3]。インプリントスタンプパターンは、CVDで堆積された多結晶ダイヤモンド中に直接形成される[8-10]。フォーカスされたイオンビームCVDを用いたインプリントスタンプに基づいたダイヤモンドライクカーボンの製造が同様に報告されている[2,3]。ミクロ流体[4]、微小機械構成要素[5]、異なったMEMS[6]、ピエゾ抵抗性センサ[7]の製造のためのDLCへの2番目のケースの応用が既に研究されている。上に述べたように、ダイヤモンドライクカーボン膜は、”ウェット”化学エッチングに対して抵抗性である。従って、異なるプラズマ及びイオンエッチング技術が必要なパターンのDLC微小構造の製造のために用いられるべきである。しかしながら、ダイヤモンドライクカーボン膜のRIEあるいはイオンビームエッチングに関する研究は数少ない。
この研究においては、水素化DLCフィルムやドープ水素化DLC膜のイオンビームによるエッチングが調べられた。ドーピングのエッチングレートへの影響が研究された。エッチング前後においてフィルムの疎水性特性や表面構造が研究された。」

イ 282頁右欄9行?283頁下から5行
「EXPERIMENTAL
Commercially available crystalline n-Si <111> wafers have been used as substrates for deposition of the DLC films. Diamond like carbon films were deposited by direction beam synthesis using a closed drift ion source. "Conventional" hydrogenated diamond like carbon films were synthesized using acetylene gas as a hydrocarbon source. Silicon oxide and silicon doped DLC have been synthesized using mixtures of the hexamethyldisiloxane vapor with hydrogen (HMDSO + H_(2)) or acetylene (HMDSO + C_(2)H_(2)) as hydrocarbon, silicon and oxygen gas sources. Hydrogen or acetylene has been used as a feed gas. Technological parameters of the deposition process are presented in Table 1.
DLC microstructures (surface relief gratings) were fabricated by combination of the microlithographic techniques and oxygen ion beam etching by closed drift ion source.
Ion beam etching rate of the diamond like carbon films was established by measuring of the DLC grating step height using an atomic force microscope NANOTOP-206. V-shaped "ULTRASHARP" Si cantilevers (force constant 1.5 N/m) have been used. Surface morphology of the DLC films before and after the ion beam treatment was investigated by AFM as well. Wettability of the synthesized films before and after the ion beam treatment was evaluated by measuring surface contact angle with water. Contact angle goniometer has been used for those measurements.」
(日本語訳)
「実験
商業的に利用可能なn-Si<111>結晶構造のウェーハがDLC膜の堆積のための基板として使用された。ダイヤモンドライクカーボン膜は近接してドリフトされるイオン源を用いた直接ビーム合成によって堆積された。”通常の”水素化されたダイヤモンドライクカーボン膜が炭化水素源としてアセチレンガスを用いて合成された。シリコン酸化物及びシリコンがドープされたDLが、ヘキサメチルジシロキサン蒸気と水素との混合物(HMDSO + H_(2))あるいはアセチレンとの混合物(HMDSO + C_(2)H_(2))を炭化水素、シリコン及び酸素ガス原として用いて合成された。水素あるいはアセチレンがフィードガスとして用いられた。堆積プロセスにおける技術的なパラメータはテーブル1に示されている。
DLC微小構造(表面レリーフ格子)が微小リソグラフィック技術と近接ドリフトイオン源による酸素イオンビームエッチングとの組み合わせにより製造された。
ダイヤモンドライクカーボン膜のイオンビームエッチングレートは、原子間力顕微鏡NANOTOP-206を用いてDLC格子の段差の高さを測定することにより確かめられた。V形状の”ULTRASHAR”'シリコンカンチレバー(力定数1.5N/m)が用いられた。イオンビーム処理の前後のDLC膜の表面構造が同様にAFMにより調べられた。イオンビーム処理の前後の合成膜の濡れ性が、水との接触角を測定することにより評価された。接触角ゴニオメータがそれらの測定のために用いられた。」

ウ 283頁左欄下から2行?右欄4行
「Fig.1 illustrates main steps of fabrication of microstructures in diamond like carbon films. The steps 1-6 show typical procedures that are usually used during formation of pattern. The step 7 was analyzed systematically in terms of rate of etching, wettability, roughness etc. versus type of the used DLC.」
(日本語訳)
「図1は、ダイヤモンドライクカーボン膜中に微細構造を製造する主要なステップを示す。ステップ1-6は、パターン形成の間に普通に用いられる典型的な手順を示す。ステップ7は、用いられるDLCの種類に対して、エッチングレート、湿潤性、粗さ等に関して系統的に解析された。」

エ 283頁のFig.1




オ 283頁のFig.1の説明
「Fig.1. Fabrication of the diamond like carbon film microstructure:1-DLC synthesis, 2-e-beam evaporation of Al onto DLC, 3-spin-coating of the photoresist, 4-fabrication of the pattern in photoresist by conventional optical lithography techniques, 5-transfer of the pattern through the photoresist mask to the Al(Al grating fabrication), 6-removal of the photoresist, 7-Oxygen ion beam etching of DLC through the Al mask, 8-removal of Al by wet chemical etching」
(日本語訳)
「図1 ダイヤモンドライクカーボン膜微細構造の製造:1-DLC合成,2-DLC上へのAlの電子ビーム蒸着,3-フォトレジストのスピンコーティング,4-通常の光リソグラフィ技術によるフォトレジストのパターン作製,5-フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写(Al格子の作製),6-フォトレジストの除去,7-Alマスクを通してのDLCの酸素イオンビームエッチング,8-ウェット化学エッチングによるAlマスクの除去」

(6) 引用例5発明
引用例5の283頁のFig.1及び説明(上記(5)ウ?オ)には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜微細構造の製造方法として、次の発明が記載されている(以下、「引用例5発明」という。)。
「1-Si基板上へのDLC膜合成、
2-DLC膜上へのAlの電子ビーム蒸着、
3-フォトレジストのスピンコーティング、
4-通常の光リソグラフィ技術によるフォトレジストのパターン作製、
5-フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写、
6-フォトレジストの除去、
7-Alマスクを通してのDLC膜の酸素イオンビームエッチング、
8-ウェット化学エッチングによるAlマスクの除去をこの記載順に行う、
DLC膜微細構造の製造方法。」

(7) 引用例6の記載
当審拒絶理由で引用された引用例6には、次の記載がある。
ア 「【0014】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
図1から図6において、本発明の実施形態1による光導波路の形成方法が、模式的な断面図で図解されている。なお、本願の各図において、長さ、幅、厚さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わしてはいない。また、各図において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わしている。
【0015】
図1において、たとえば石英ガラスの基板1上にダイヤモンド状カーボン(DLC)層2がCVD法によって堆積される。DLCは、光通信においておもに利用される波長1.0μm?1.5μmの光に対して良好な透過性を有し得る。DLC層2をCVD法で堆積する場合、シリコン酸化物層をFHD法で堆積する場合のように火炎トーチを走査する必要がなく、大きな面積の基板上においても均一な質と厚さのDLC層を堆積することができる。純粋の石英ガラスは1.44の屈折率を有するのに対して、DLC層は遥かに大きな1.50の屈折率を有し得るので、石英ガラス基板1は下部クラッド層として利用でき、DLC層2はコア層として利用し得る。
【0016】
DLC層2上には、後でDLC層2をドライエッチングするときのマスクを形成するために利用されるマスク層3が堆積される。このようなマスク層3は、たとえばAl層で形成することができ、Al層はたとえば真空蒸着によって容易に堆積させることができる。
【0017】
図2においては、マスク層3上に、フォトレジストパターン4がフォトリソグラフィを利用して形成される。そして、このレジストパターン4をマスクとしてAl層3をエッチングし、図3に示されているように、Alマスクパターン3aが形成される。この場合、Alマスク3aは、図3の紙面に直交する方向に延びている。
【0018】
図4において、Alマスク3aを利用しながら、DLC層2をドライエッチングし、パターン化されたコア部2aが形成される。このとき、エッチングガスとしては、たとえば酸素ガスを用いることができる。当然ながら、酸素ガスは、従来技術のたとえばCF_(4)エッチングガスように地球温暖化作用を有さず、また腐食性が強くかつ有害なフッ素を含んでもいない。したがって、ドライエッチング装置が高い耐腐食性を有する必要がなく、高コストの排ガス処理装置を備えることをも必要としない。ドライエッチングによってコア部2aが形成された後には、図5に示されているように、Alマスク3aが除去される。」

イ 「【図1】



ウ 「【図2】



エ 「【図3】



オ 「【図4】



カ 「【図5】



(8) 引用例7の記載
当審拒絶理由で引用された引用例7には、次の記載がある。
ア「【0067】
<ノズルプレートの製造方法>
[第1実施形態]
図4?図5は本発明の液滴吐出ヘッドに用いられるノズルプレートの製造方法である。
【0068】
(工程1):図4を用いてF-DLC膜の製膜、構造化について説明する。まず、図4(a)に示すように、基板10上にF-DLC膜20を形成する。基板10としては、Si、SiO_(2)、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料を用いることができる。本実施形態においては、基板10として、6inchのSiウエハーを用いた。
【0069】
F-DLC膜20は、基板10(Siウエハーの鏡面)上にスパッタ法にて形成する。形成に用いるスパッタ装置としては、従来から使用している装置を用いることができる。材料物質(ターゲット)は、フッ素含有炭素を用い、水素供給源としてメタン(CH_(4))ガスをアルゴン(Ar)ガスに混合した気体を注入しながら行なう。
【0070】
F-DLC膜20の形成は、Arガスにより基板10表面にクリーニングを行なった後に行なう。基板10の温度は、室温?500℃、真空度は、0.1?1Paとすることが好ましい。また、F-DLC膜20中の水素含有量の制御は、(Ar+CH_(4))ガスに対するCH_(4)ガスの流量比を0?50%の範囲で制御することで、膜中の水素含有量を0?40at%に制御することができる。本実施形態においては、水素含有量が20at%となるように制御を行なった。また、フッ素量はF/(F+C)が0at%を越え40at%の範囲とすることが好ましい。また、F-DLC膜20の膜厚は、100nm?2μmの範囲とすることが好ましい。本実施形態においては、膜厚は500nmとした。
【0071】
(工程2):次に図4(b)に示すように、F-DLC膜20上にマスク材30をパターニングする。マスク材30に用いる材料にとしては、Cr、W、Pt、Ir、さらには有機レジストを用いることができる。本実施形態においては、Crを用いて行なった。
【0072】
マスク材30は、まず、蒸着により膜厚500nmの膜を形成した。その後、F-DLC膜20に工程3で形成される凹凸構造40のパターンに対応するように、フォトレジストによるリソグラフィーにより、パターンマスクを形成した。パターンの形状は、ドット形状のパターンであり、ドットサイズは200nm?1μm角であることが好ましく、ドット間距離は200nm?1μmであることが好ましい。本実施形態においては、ドットサイズ200nm、ドット間距離200nmとした。
【0073】
マスク材30をパターニングする方法としては、ステッパーを含むレジスト露光によるリソグラフィー手法の他、電子線直接描画方式やナノインプリントなどにより行なうこともできる。
【0074】
(工程3):次に図4(c)に示すように、F-DLC膜20のパターン加工を行なう。F-DLC膜20のパターン加工は、ドライエッチングにより行なうことができる。エッチングガスとしては、CF_(4)、O_(2)、Arの混合ガスを用い、14MHz、650Wの高周波電界を印加することでプラズマを発生させ、F-DLC膜20と、CF_(4)ガス、O_(2)ガスとを反応させることで、エッチングを行なう。F-DLC膜20の加工深さは、エッチング時間により制御することができ、好ましくは、50nm?500nmである。本実施形態ではm250nmとした。
【0075】
(工程4):次に、図4(d)に示すように、マスク材30の除去を行なう。マスク材30の除去は、エッチング液に浸漬することで除去を行なう。本実施形態においては、マスク材30として、Crを用いているので、硝酸セリウムアンモニウムに浸漬することでマスク材30の除去を行なった。
【0076】
このようにして得られたF-DLC構造体50は、ドットサイズ200nm?1μm角、ドット間距離200nm?1μm、深さ50nm?500nmの凹凸構造40を備えるF-DLC膜20を有する。本実施形態においては、ドットサイズ200nm、ドット間距離200nm、深さ250nmであった。」

イ 「【図4】



(9) 引用例8の記載
当審拒絶理由で引用された引用例8には、次の記載がある。
ア 「【0022】(分光部30の製造工程)次に分光部30の製造工程を説明する。図5は、分光部30の製造工程を表すフロー図であり、図6?13は、各工程における分光部30の状態を表す断面図である。
(1)シリコン基板100に導体層たるTi層101を1μm,透明保護層たるSi_(3)N_(4)層102を0.2μm順に成膜する(図6およびステップ11)。ここでシリコン基板100にはアルミナをドープしたものを用い、成膜にはスパッタリング法を用いる。なお、シリコン基板100の抵抗が0.2Ω以下のときにはシリコン基板100自体で電気伝導性が充分であるため、Ti層101の成膜は不要である。
【0023】(2)LPCVD(減圧Chemical Vapor Deposition)法等で接続層および犠牲層たるポリシリコン層103を成膜し(図7およびステップS12)、さらに光学層たるDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)層104を25μm以上成膜する(図8およびステップS13)。
(3)さらにAl層105を0.8μm程度成膜し(図9およびステップS14)、これをフォトリソグラフィ等でパターニングしマスクを形成知る(図10およびステップS15)。このパターニングにはウエットエッチングを利用することができる。
【0024】(4)Al層105をマスクとして、DLC層104のイオンビームエッチングを行う(図11(A)?(C)およびステップS16)。イオンビームエッチングには酸素イオンのビームを用い、酸素イオンを3方向から順に照射することで、プリズム部33の三角柱の形状がほぼ形成される。但し、この時点では、プリズム部33は基板部31とポリシリコン層103で接続されている。
【0025】(5)ポリシリコン層103をKOH等によるウエットエッチングに行うことにより、プリズム部33(DLC層104)と基板部31(Si_(3)N_(4)層102)とが切り離される(図12およびステップS16)。即ち、ポリシリコン層103は、基板部31の上面から切り離されたプリズム部33を形成するための犠牲層であると共に、基板部31と支持部32とを接続する接続層として機能する。
(6)さらに透明導電層たるITO層106を成膜する(図13およびステップS17)。この成膜は、例えばスパッタリング法によって行い、膜厚500nm程度のITO層106が形成される。
以上のようにして分光部30が形成される。さらに分光部30に受光部40を接続することで、分光部30と受光部40が一体となった一体構造が形成される。」

イ 「【図6】



ウ 「【図7】



エ 「【図8】



オ 「【図9】



カ 「【図10】



キ 「【図11】



ク 「【図12】



ケ 「【図13】



(10) 引用例10の記載
当審拒絶理由で引用された引用例10には、次の記載がある。
ア 「【0024】(ダイヤモンド状硬質材料)本発明の複合体基材を構成するダイヤモンド状硬質材料としては、炭素からなるビッカース硬さHv(Vickers hardness)が約1, 000以上の材料が好適に使用可能である。本発明においては、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素のいずれを用いることも可能であるが、化学的安定性の点からは、ダイヤモンドを用いることが好ましい。」

イ 「【0028】(ダイヤモンド状炭素)一方、上記ダイヤモンド状炭素(Diamond-like carbon ;ないしDLC)は、硬度の高いアモルファス物質であり、安定性に優れ、しかもダイヤモンドと同様の炭素原子からなるため、ダイヤモンドとともに用いた際にも該ダイヤモンドへの元素的拡散や反応について実質的に考慮する必要がない等の特徴を有している。」

ウ 「【0058】(図3の複合体の形成方法)一方、図3の態様の複合体を形成する方法としては、例えば、以下の方法を用いることが可能である。
【0059】(1)図11?12の模式斜視図を参照して、図11(a)に示すように、他の基板(例えばSi基材)4上に、所望の厚みを有するダイヤモンド状硬質材料の膜7を、気相堆積法等により形成する。必要に応じて、このダイヤモンド状硬質材料膜7の表面を研磨してもよい。例えば、気相堆積により形成したダイヤモンド状硬質材料膜7の厚さを25μm程度とした場合、研磨により約20μm程度の厚さとすることが好ましい。
【0060】(2)次いで、図11(b)を参照して、上記ダイヤモンド状硬質材料膜7の上に、金属(例えばAl)の膜6をスパッタリング法等の気相堆積法で形成する。このAl膜6の厚さは、例えば1μm程度が好ましい。
【0061】(3)図11(c)を参照して、このAl膜6を、例えばフォトリソグラフィ工程およびRIE工程に供することにより、後述する所望のダイヤモンド状硬質材料層の幅、所望の該材料の層間間隔等に対応するAlの表面パタ-ン6aを形成する。
【0062】(4)図11(d)を参照して、このようにして得たAlパタ-ン6aをマスクとして、RIE法によりダイヤモンド状硬質材料層7をエッチングして、該ダイヤモンド状硬質材料層7に、所望の深さ(例えば、10μm)を有する層状の溝7aを形成する。その後、上記Alパタ-ンを除去する。」

エ 「【図11】



2 引用例1を主引用例とした場合の対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用例1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用例1全体の記載(引用例1の【従来技術】の段落【0002】?【0003】、【0007】?【0008】、【発明が解決しようとする課題】の段落【0009】、【発明の実施の形態】の段落【0016】?【0031】の「印刷用シリンダー」についての記載、図1(特に、「10・・・印刷用シリンダー」)、図3(印刷用シリンダーを用いて印刷する方法)等)及び技術常識を勘案すると、引用例1発明の「印刷版」は、「グラビアシリンダー」といえる(仮に、相違点として抽出するとしても、進歩性の判断の結論に影響しない範囲内の収まる相違点にすぎない。)。

イ 引用例1発明の「印刷版用基材」及び「DLC膜」は、それぞれ本願発明の「版母材」及び「DLC層」に相当する。
してみると、引用例1発明の「印刷版用基材上にDLC膜を成膜する工程」は、本願発明の「版母材上にDLC膜を成膜する工程」に相当する。

ウ 引用例1発明の「このレジストパターンをマスクとしてDLC膜をイオンエッチングすることにより、DLC膜に印刷パターン溝を形成する工程」における「イオンエッチング」は、技術常識によれば、「ドライエッチング」に分類される方法である。
また、引用例1発明の「印刷版用基材」上に成膜された「DLC膜」に形成される「印刷パターン溝」は、本願発明の「グラビアセル」に相当する。
してみると、上記イより、引用例1発明の「DLC膜をイオンエッチングすることにより、DLC膜に印刷パターン溝を形成する工程」は、「DLC層をドライエッチングせしめて前記DLC層にグラビアセルを形成する工程」に相当する。

エ 上記ア?ウより、引用例1発明の「印刷版の製造方法」は、本願発明の「グラビアシリンダーの製造方法」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用例1発明とは、以下の点で一致する。
(一致点)
「版母材上にDLC層を形成する工程と、前記DLC層をドライエッチングせしめて前記DLC層にグラビアセルを形成する工程とを、含む、グラビアシリンダーの製造方法。」

イ 相違点
本願発明と引用例1発明とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の「グラビアシリンダーの製造方法」は、版母材上にDLC層を形成する工程の後に、「前記DLC層上に、エッチング可能な材料でDLC被覆層を形成し、前記DLC被覆層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層を露光・現像せしめてレジストパターン層を形成する工程と、前記DLC被覆層をエッチングせしめてDLC被覆パターン層を形成する工程と、前記レジストパターン層を剥離する工程」を、この記載順に行うものであり、かつ、「前記DLC被覆層が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成される」のに対して、引用例1発明は、これらの工程をこの記載順に行い、かつ、「前記DLC被覆層が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成される」ものと特定されていない点。
また、本願発明は、前記DLC層をドライエッチングせしめて前記DLC層にグラビアセルを形成する工程の後に、「前記DLC被覆層を剥離する工程」を具備するのに対して、引用例1発明は、この工程を具備するものとは特定されていない点。

(3) 判断
上記相違点1について検討する。
ア イオンエッチング,プラズマエッチング等のドライエッチングによりDLC層にパターニングを行うパターン形成方法として、「DLC層を形成し、前記DLC層上に、エッチング可能な材料でDLC被覆層を形成し、前記DLC被覆層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層を露光・現像せしめてレジストパターン層を形成する工程と、前記DLC被覆層をエッチングせしめてDLC被覆パターン層を形成する工程と、前記レジストパターン層を剥離する工程と、前記DLC層をドライエッチングせしめて前記DLC層のパターニングを行う工程と、前記DLC被覆層を剥離する工程と、を含み、上記各工程をその記載順に行う」ことは、引用例3?5等の記載からみて、本件出願の出願前における周知技術と解するのが相当である(以下、「周知技術1」という。)。
すなわち、例えば、引用例3(【0023】?【0024】,【図3】(a)?(i)等)には、「基板2の表面にDLCをプラズマCVD法により0.5μmの厚さで蒸着して低散乱層3を形成する・・・この低散乱層3の表面に、・・・Al層7を形成し、Al層7の表面に、・・・ポジ型電子線レジストにより電子ビーム用レジスト層5を0.5μmの厚さで形成する」工程、「このレジスト層5の表面に・・・電子を照射し、所定のパターンで露光して現像し、・・・レジスト層5の露光した部分を除去してレジストパターン6を形成する」工程、「次に・・・レジストパターン6をマスクにしてAl層7をドライエッチングする」工程、「次に、レジストパターン6の全面に紫外線を照射し、DMAC(Dimethylacetamide)液あるいはNMP(1-Methlyl-2-pyrrolidinone)液でリンスして、・・・レジストパターン6を除去する」工程、「その後、・・・エッチングしたAl層7をマスクとして、低散乱層3をRIEでドライエッチングを・・・行う」工程、「次に、Al層7をH_(3)PO_(4)液でリンスして除去」する工程を記載の順に順次行うことが記載されている。
また、引用例4(【0008】?【0010】,【図4】(b)?(g)等)には、「平坦化させたDLC膜42の上に、さらにテーパ形成用マスクとしてのDLC膜44を積層・・・次いで、DLC膜44の上にTi膜46を形成し、その上にフォトレジスト48を塗布する」工程、「さらに、塗布されたフォトレジスト48を露光・現像し、Ti膜46の上にレジストマスク48aを形成する」工程、「次に、イオンビームエッチング(IBE)により、レジストマスク48aで覆われていない部分のTi膜46を除去する」工程、「その後、レジストマスク48aを除去す」る工程、「次に、反応性イオンエッチング(RIE)により、DLC膜44及びDLC膜42をエッチングする」工程、「次に、Tiマスク46aを取り除」く工程を記載の順に順次行うことが記載されている。
そして、引用例5には、引用例5発明として、「1-Si基板上へのDLC膜合成」、「2-DLC膜上へのAlの電子ビーム蒸着」、「3-フォトレジストのスピンコーティング」、「4-通常の光リソグラフィ技術によるフォトレジストのパターン作製」、「5-フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写」、「6-フォトレジストの除去」、「7-Alマスクを通してのDLC膜の酸素イオンビームエッチング」、「8-ウェット化学エッチングによるAlマスクの除去」を記載の順に順次行うことが記載されている。

イ また、ドライエッチングによりDLC層にパターニングを行うパターン形成方法において、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等エッチングガスに対するエッチングレートがDLCよりも低い適宜の材料からなるDLC被覆層をマスクとして、DLC層のドライエッチングを行うことは、本件出願の出願前における周知技術である(以下、「周知技術2」という。例えば、引用例3の段落【0024】の「Al層7」、引用例4の段落【0009】の「Ti膜46」、引用例5のFig.1のステップ7及びその説明における「Al」、引用例6の段落【0018】の「Alマスク3a」、引用例7の段落【0071】の「マスク材30」としての「Cr」,「W」、引用例8の段落【0024】の「Al層105」、引用例10の段落【0062】の「Alパターン6a」等を参照。)。

ウ 上記の周知技術1におけるDLC被覆層(例えば、引用例3に記載された「Al層7」、引用例4に記載された「Tiマスク46a」、引用例5に記載された「Alマスク」が相当する。)は、ドライエッチングのマスクとして機能するものである。また、ドライエッチングのマスクの性能改善を図ることは、当然のことにすぎない(例えば、引用例3の段落【0024】(7欄29?45行)においては、レジストパターンに比してエッチングレートが低いAl層をマスクにすれば、膜厚が10nmでもマスクとして機能することができることが開示されている。)。
そうしてみると、引用例1発明において、ドライエッチングのマスクの性能改善を図り上記の周知技術1を採用するとともに、上記の周知技術2に基づき、DLC被覆膜がアルミニウム、チタン、クロムあるいはタングステンから構成されるものとして、上記相違点1に係る本願発明の構成を具備するものとすることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。

エ あるいは、引用例3?5のいずれかに記載された技術を公知技術と考えても、同様である。
すなわち、例えば、引用例5(上記(5)ウ?オ)には、引用例5発明として、1-Si基板上へのDLC膜合成、2-DLC膜上へのAlの電子ビーム蒸着、3-フォトレジストのスピンコーティング、4-通常の光リソグラフィ技術によるフォトレジストのパターン作製、5-フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写、6-フォトレジストの除去、7-Alマスクを通してのDLC膜の酸素イオンビームエッチング、8-ウェット化学エッチングによるAlマスクの除去をこの記載順に行うDLC膜微細構造の製造方法が記載されている。
引用例1発明において、DLC膜微細構造を製造するために、引用例5発明を採用することにより、上記相違点1に係る本願発明の構成を具備するものとすることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。
同様に、引用例1発明において、引用例3に記載されたDLC層のパターニングを行う技術(「Al層7」によりドライエッチングを行う点も参照。)、あるいは、引用例4に記載されたDLC層のパターニングを行う技術(「Tiマスク46a」によりドライエッチングを行う点も参照。)を採用することにより、上記相違点1に係る本願発明の構成を具備するものとすることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。

オ さらに、上記イ?エにおいては、引用例1の段落【0014】の記載に基づいて引用例1発明を認定したが、これに替えて、引用例1の段落【0021】?【0025】に記載された、製造方法の実施例を「引用例1発明」として検討したとしても、同様な理由により、引用例1発明において上記の周知技術1及び周知技術2を採用することにより、又は、引用例1発明において、引用例5発明、引用例3、あるいは引用例4に記載された技術を採用することにより、上記相違点1に係る本願発明の構成を具備するものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

カ 平成29年8月10日提出の意見書における、引用例1を主引用例とした拒絶の理由に対する請求人の主張について
(ア)請求人は、引用例1を主引用例とした拒絶の理由に対して、「(iii-9)まとめ 上述したように、本願発明1の(A)?(H)の全ての構成要素を開示していない引用例1の記載内容と印刷版の製造への適用性についての教示も示唆も皆無である引用例3?10の周知技術乃至公知技術とをどのように組み合わせてみても本願発明1に到達することは不可能であり、引用例1及び引用例3?10の組み合わせから本願発明1を想到することは当業者といえども容易になしうることではありません。本願発明1は引用例1及び引用例3?10の組み合わせを超える充分なる進歩性を有するものと思料します。」(意見書17頁3?8行)旨主張している。
しかしながら、引用例1発明の方法を改善することは当然の技術課題であり、例えば、その一つの観点として、ドライエッチングの性能改善を検討することは、当然のことにすぎない。
あるいは、DLC層にパターンを形成する技術として引用例1発明と共通・関連する、周知技術1及び周知技術2、あるいは、引用例3乃至引用例5に記載された技術の採用を検討することは、当業者における通常の創意工夫の範囲内のことにすぎない。

(イ) また、請求人は、本願発明の作用・効果に関して、「本願発明1は、『高アスペクト比のグラビアセルを備えたグラビアシリンダーの製造方
法を提供することができるという著大な効果を有する。』(本願明細書〔0017〕)ものであります。」(意見書3頁12?14行)旨主張している。
しかしながら、請求人が主張する効果は、上述のとおり容易推考する当業者が期待する効果にすぎない。

(ウ) よって、請求人の主張をいずれも採用することはできない。

キ 以上のとおり、本願発明は、引用例1発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。あるいは、本願発明は、引用例1発明、及び、引用例5、引用例3あるいは引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 引用例5を主引用例とした場合の対比及び判断
(1) 対比
ア 引用例5発明の「1-Si基板上へのDLC膜合成」における「DLC膜」は、本願発明の「DLC層」に相当する。
そうすると、引用例5発明の「1-Si基板上へのDLC膜合成」は、DLC層を形成する工程といえる。

イ 引用例5発明の「2」においては、「DLC膜」上に「Al」が電磁ビーム蒸着されるから、「Al」は、DLC膜を覆う層を形成することは明らかである。
引用例5発明のDLC膜上の「Al」は、本願発明の「DLC被覆層」に相当する。
また、引用例5発明の「5」の「フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写」がエッチングによるものであることは技術常識であるから、「Al」はエッチング可能な材料である。
そうすると、上記アより、引用例5発明の「2-DLC膜上へのAlの電子ビーム蒸着」は、DLC層上に、エッチング可能な材料(Al)でDLC被覆層を形成する工程といえる。
また、本願発明においては、「DLC被覆層」を構成する「少なくとも一種の材料」の選択肢として、「アルミニウム」が含まれている。
してみると、引用例5発明は、本願発明の「前記DLC被覆層が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成される」という要件を満たしている。

ウ 引用例5発明においては、「2-DLC膜上へのAlの電子ビーム蒸着」に続き、「3-フォトレジストのスピンコーティング」が行われるから、「3」により、「Al」上に「フォトレジスト」が、「スピンコーティング」され、「フォトレジストの層」が形成されることとなる。
引用例5発明の「フォトレジスト」、「スピンコーティング」及び形成された「フォトレジストの層」は、それぞれ、本願発明の「フォトレジスト」、「塗布」及び「フォトレジスト層」に相当する。
そうすると、上記イより、引用例5発明の「3-フォトレジストのスピンコーティング」は、DLC被覆層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成する工程といえる。

エ 上記ア?ウをまとめると、引用例5発明の製造方法における「1」、「2」及び「3」は、DLC層を形成し、DLC層上に、エッチング可能な材料でDLC被覆層を形成し、DLC被覆層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成する工程ということができる。

オ 引用例5発明の「3」に続く「4-通常の光リソグラフィ技術によるフォトレジストのパターン作製」により、「通常の光リソグラフィ技術」によって、上記ウの「3」で形成された「フォトレジストの層」の「パターン」が作製されることとなる。
引用例5発明の「通常の光リソグラフィ技術」として、露光工程と現像工程が含まれることは技術常識である。
引用例5発明の作製された「フォトレジストの層」の「パターン」は、本願発明の「レジストパターン層」に相当する。
そうすると、上記ウより、引用例5発明の「4-通常の光リソグラフィ技術によるフォトレジストのパターン作製」は、本願発明の「フォトレジスト層を露光・現像せしめてレジストパターン層を形成する工程」に相当する。

カ 引用例5発明の「5-フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写」により、Alのパターンが形成される。
また、このAlのパターン化はエッチングによるものであることは技術常識である。
引用例5発明のAlのパターンは、本願発明の「DLC被覆パターン層」に相当する。
そうすると、上記イより、引用例5発明の「5-フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写」は、本願発明の「DLC被覆層をエッチングせしめてDLC被覆パターン層を形成する工程」に相当する。

キ 引用例5発明の「6-フォトレジストの除去」において除去される「フォトレジスト」は、その前の「3」?「5」を踏まえると、上記オの「4」により作製された「フォトレジストの層」の「パターン」のことである。
引用例5発明の「6-フォトレジストの除去」における「除去」は、技術的にみて、本願発明の「剥離」に相当する。
そうすると、上記オより、引用例5発明の「6-フォトレジストの除去」は、本願発明の「前記レジストパターン層を剥離する工程」に相当する。

ク 引用例5発明の「7-Alマスクを通してのDLC膜の酸素イオンビームエッチング」における「酸素イオンビームエッチング」が、ドライエッチングに分類されるものであることは技術常識である。
そうすると、上記アより、引用例5発明の「7-Alマスクを通してのDLC膜の酸素イオンビームエッチング」は、DLC層をドライエッチングせしめる工程ということができる。

ケ 引用例5発明の「8-ウェット化学エッチングによるAlマスクの除去」において「Alマスク」は、その前の「1」?「7」を踏まえると、上記カの「5」によりパターン化された「Al」である。
引用例5発明の「8」において、パターン化された「Alマスク」を除去することは、結局、「Al」を除去することである。
引用例5発明の「8」における「除去」は、技術的にみて、本願発明の「剥離」に相当する。
そうすると、上記イより、引用例5発明の「8-ウェット化学エッチングによるAlマスクの除去」は、本願発明の「DLC被覆層を剥離する工程」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用例5発明とは、以下の点で一致する。
(一致点)
「DLC層を形成し、前記DLC層上に、エッチング可能な材料でDLC被覆層を形成し、前記DLC被覆層上にフォトレジストを塗布してフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層を露光・現像せしめてレジストパターン層を形成する工程と、前記DLC被覆層をエッチングせしめてDLC被覆パターン層を形成する工程と、前記レジストパターン層を剥離する工程と、前記DLC層をドライエッチングせしめる工程と、前記DLC被覆層を剥離する工程と、を含み、上記各工程をその記載順に行い、かつ前記DLC被覆層が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成される、
製造方法。」

イ 相違点
本願発明と引用例5発明とは、以下の点で相違する。
(相違点2)
本願発明は、「版母材上に」DLC層を形成し、「前記DLC層にグラビアセルを形成する」「グラビアシリンダーの」製造方法であるのに対して、
引用例5発明は、「Si基板上に」形成されたDLC膜(DLC層)に微細構造を形成する「DLC膜微細構造の」製造方法であって、「グラビアシリンダーの」製造方法ではない点。

(3) 判断
上記相違点2について検討する。
ア 版母材上に形成されたDLC層にグラビアセルを形成したグラビアシリンダーは、本件出願前に周知技術である(以下、「周知技術3」という。例えば、当審拒絶理由で引用された引用例1(段落【0024】、【0026】?【0034】)及び引用例2(段落【0001】、【0020】?【0025】、【0026】?【0034】、【0035】?【0038】、【0043】、図1等)や、特開2010-137540号公報(段落【0001】、【0002】【0019】、図1等)等を参照。)。

イ 一方、引用例5には、Fig.1(上記1(5)エ参照)が示されるとともに、「ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜はそれらの大変興味深い特性のため最上位の関心を維持している[1]。高硬度、耐摩耗性、低摩擦性、耐腐食性、疎水性、高熱伝導性、近紫外、可視光、近赤外領域の高光透過性が言及される。それゆえ、ダイヤモンドライクカーボン膜の様々な応用が検討されている[1]。」(上記1(5)ア参照)、「この研究においては、水素化DLCフィルムやドープ水素化DLC膜のイオンビームによるエッチングが調べられた。ドーピングのエッチングレートへの影響が研究された。エッチング前後においてフィルムの疎水性特性や表面構造が研究された。」(上記1(5)ア参照)、「図1は、ダイヤモンドライクカーボン膜中に微細構造を製造する主要なステップを示す。ステップ1-6は、パターン形成の間に普通に用いられる典型的な手順を示す。ステップ7は、用いられるDLCの種類に対して、エッチングレート、湿潤性、粗さ等に関して系統的に解析された。」(上記1(5)ウ参照)、「図1 ダイヤモンドライクカーボン膜微細構造の製造:1-DLC合成,2-DLC上へのAlの電子ビーム蒸着,3-フォトレジストのスピンコーティング,4-通常の光リソグラフィ技術によるフォトレジストのパターン作製,5-フォトレジストマスクを通してのAlへのパターン転写(Al格子の作製),6-フォトレジストの除去,7-Alマスクを通してのDLCの酸素イオンビームエッチング,8-ウェット化学エッチングによるAlマスクの除去」(Fig.1の説明として、上記1(5)オ参照)との記載がある。
Fig.1やこれらの記載に接した当業者であれば、引用例5は、高硬度、耐摩耗性、低摩擦性、耐腐食性、疎水性、高熱伝導性、高光透過性等の大変興味深い特性があるために様々な応用が検討されているDLCにおいて、DLCへのドーピングのエッチングレートへの影響の研究を目的とするものであって、Fig.1に示されるDLC膜微細構造の製造方法であるステップ1-8は、DLC膜へのパターン形成の間に普通に用いられる典型的な手順として示されていると理解することができる。
そうすると、上記引用例5発明は、もっぱらDLC膜に微細構造を製造する方法に技術的特徴を有する発明であって、DLC膜の基板がSiであることに技術的特徴があるとはいえない(引用例5発明においてSi基板は必須ではない。)。したがって、引用例5発明において、DLC膜を形成する対象は限定されるものではなく、また、その用途も限定されていないと解するのが相当である。

ウ してみると、引用例5発明を、上記の周知技術3に基づき、グラビアシリンダーの製造方法として具体化して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、引用例5発明における単なる用途開発にすぎない。

エ 以上のとおり、本願発明は、引用例5発明及び周知技術3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。あるいは、本願発明は、引用例1発明、及び、引用例5、引用例3あるいは引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

また、本願発明は、引用例5発明及び周知技術3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、特許を受けることができないから、請求項2ないし3係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-14 
結審通知日 2017-09-15 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2012-288580(P2012-288580)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石附 直弥  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 中田 誠
河原 正
発明の名称 グラビアシリンダーの製造方法  
代理人 石原 進介  
代理人 石原 詔二  

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