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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1334793 |
審判番号 | 不服2016-18187 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-05 |
確定日 | 2017-12-12 |
事件の表示 | 特願2012-156812「近接場光を用いたエッチング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 3日出願公開,特開2014- 22411,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成24年7月12日の出願であって,平成28年1月15日付けで拒絶理由通知がされ,同年3月18日に意見書と手続補正書が提出され,同年8月29日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され,平成29年8月7日付けで当審から拒絶理由(当審拒絶理由)を通知し,同年10月2日に意見書と手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1,2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」という。)は,平成29年10月2日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1,本願発明2は以下のとおりである。 「【請求項1】 GaNからなる基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なるSiO_(2)よりなる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,前記薄膜の一部が残存したナノオーダーの凸部を前記凸部の素材に基づき選択的に除去する表面平坦化方法であって, チャンバ内に前記基板積層体を載置する載置工程と, 前記チャンバ内に,活性種となった場合に前記凸部の素材に基づき前記凸部と選択的に反応する反応性ガスを導入する導入工程と, 前記凸部に近接場光を発生しうる波長の光を,前記基板積層体に照射する照射工程と, 前記光の照射により前記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づく非共鳴過程を経て,前記反応性ガスを解離させて前記活性種を生成させる活性種生成工程と, 生成された前記活性種と前記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることにより,前記凸部のみを前記凸部の素材に基づき選択的に除去する除去工程と, を有することを特徴とする表面平坦化方法。 【請求項2】 前記反応性ガスがハロゲン系ガスよりなる請求項1の表面平坦化方法。」 第3 引用文献,引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-094345号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審付与。以下同様。) ・「【0017】 本発明の対象となる基板11は,図1に模式的に示すような,凸部21や,凹部22がその表面に形成されている。この凸部21や凹部22は,図1において基板11に対して視認できる程度の大きさであるが,実際は,例えば数nm程度の大きさ,即ち,ナノオーダの大きさや,数μmの大きさから構成されている。 【0018】 本発明において,平坦化の対象となる基板11は,例えば,シリコンウェハ(Si)等によって具体化される。また,平坦化の対象は,基板11上に積層されてなる薄膜,例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等も含まれる。以下において,単に「基板」とのみ記載した場合は,薄膜も含まれるものとする。 <途中省略> 【0027】 本発明においては,上述のようなガス分子に対して共鳴光を照射して,ガス分子を励起準位にまで直接的に励起させてから解離させる共鳴過程ではなく,ガス分子の吸収端波長よりも長波長である光(以下,この光を非共鳴光という。)を,近接場光として当該ガス分子に対して照射した場合に発生する非共鳴過程を利用して,基板表面の平坦化を行なう。 <途中省略> 【0031】 なお,ここでいう近接場光とは,約1μm以下の大きさからなる物体の表面に伝搬光を照射した場合に,その物体の表面にまとわりついて局在する非伝搬光のことをいう。この近接場光は,非常に強い電場成分を有しているが,物体の表面から遠ざかるにつれてその電場成分が急激に減少する性質をもっている。この非常に強い電場成分が見られる物体表面からの厚みは,その物体の寸法に依存しており,その物体の寸法と同程度の厚みからなる。本発明における局所領域とは,このような非常に強い電場成分が見られる物体表面の局所的な領域のことをいうものとする。この局所領域とは,例えば図1(a)における凸部21外周面近傍の領域や,図1(b)における凹部22内周面近傍の領域のことをいう。 【0032】 このような本発明の原理的な説明を踏まえて,本発明を適用した表面平坦化方法を含む工程について説明する。 【0033】 まず,表面に凸部21が形成されている基板12を平坦化する場合について説明する。平坦化の対象が凸部21を有する基板12の場合は,チャンバ11内に反応性ガスを導入し,エッチングを利用して平坦化を行なう。 【0034】 まず,図2,図5(a)に示すように,チャンバ11内のステージ13上に基板12を配置する。この場合において,チャンバ11内にガス供給部17から予め反応性ガスが導入されていてもよいし,基板12の配置後に反応性ガスを導入してもよい。 【0035】 この次に,図5(b)に示すように,光源14から,反射ミラー15等を介して基板12に対して光を照射する。これによって,凸部21の局所領域において,近接場光が発生する。この場合,照射する光が非共鳴光であるため,反応性ガスは,近接場光の発生しない基板12表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部21の局所領域においてのみ反応する。 【0036】 この場合,図6に示すように,反応性ガスG10は,上述したような非共鳴過程を経て解離されて,活性種G11を生成し,この活性種G11と凸部21の原子,分子21aとが化学反応し,これによって,揮発性を有する反応生成物G12が生成される。この反応生成物G12は,排気口19に接続された,図示しない真空ポンプによってチャンバ11外に排出される。 【0037】 ここで,反応の進行に伴って凸部21の寸法は,徐々に微小化されるため,凸部21周囲に発生している近接場光の厚みも小さくなる。最終的には,凸部21周囲の基板12を構成する原子層と略同一レベルになった時点,即ち,凸部21がほぼ完全に除去された時点で,近接場光の発生する領域も消滅し,エッチング反応が発生しなくなる。このように,本発明を適用した平坦化方法では,他からの特別の制御をすることなしに自己組織的に凸部のエッチング反応が進行し,最終的に,図7(c)に示すような,基板12表面が原子レベルになるまで平坦化が施されて,平坦化の工程が終了する。 <途中省略> 【0043】 このように,本発明は,表面に凸部21が形成されている基板12を平坦化する場合,凸部21に対してエッチングを施すことによって,表面に凹部22が形成されている基板12を平坦化する場合は,凹部22内に反応性ガスを解離させて生成される分解生成物を,凹部22内に堆積させることによって,基板12の平坦化を実現する。 【0044】 本発明を適用した表面平坦化方法によって,従来におけるCMPによっては研磨不可能であった,数nmサイズの凹凸部に対しても平坦化を施すことができ,原子レベルにまで平坦な表面性状を得る事ができる。また,本発明においては,非共鳴光を用いて平坦化を行なっていることから,基板12表面での数nmサイズの凹凸部でのみ反応が進行することになり,これによって,基板12表面の平坦な箇所に対して引っ掻き疵等を形成すること無く,平坦化を行なうことが可能となる。 【0045】 また,本発明を適用した表面平坦化方法によれば,反応の進行に伴い,近接場光の発生する基板表面の凹凸が除去され,自動的に平坦化の工程が終了することになる。このため,他からの特別の制御をすることなしに自己組織的に平坦化が施されることになり,その平坦化における工程が非常に簡便なものとなる。 <途中省略> 【0048】 また,例えば,基板12としてシリコンウェハを適用し,この凹部に対して平坦化を施す場合,吸収端波長が160nmのシラン系ガスを原料ガスとして導入し,波長が325nm程度の光を照射することによって,凹部の平坦化が可能となる。 【0049】 また,例えば,基板12として基板上に積層されてなるCr薄膜を適用し,この凹部に対して平坦化を施す場合,クロモセンやヘキサカルボニルクロムを原料ガスとして導入し,波長が488?688nm程度の光を照射することによって,凹部の平坦化が可能となる。 【0050】 このように,凹部を有する基板に対して平坦化を施す場合,基板の構成元素からなる分子,化合物を含有する原料ガスを用いるのが望ましいが,基板の構成元素以外の分子等を含有する原料ガスを適用しても平坦化するうえでは特に問題ない。」 したがって,上記引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「例えば,シリコンウェハ(Si)等によって具体化される基板,または,基板上に積層されてなる,例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等の薄膜に形成されている,ナノオーダの大きさから構成されている凸部を除去する,基板,または,薄膜の表面を平坦化する方法であって, チャンバ内のステージ上に,表面に凸部が形成されている基板(以下において,単に「基板」とのみ記載した場合は,薄膜も含まれるものとする)を配置する工程と, チャンバ内にガス供給部から反応性ガスを導入する工程であって,前記反応性ガスは,近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応するものである工程と, 光源から,反射ミラー等を介して基板に対して光を照射する工程であって,前記光は,前記反応性ガスを構成する分子の吸収端波長よりも長波長である光(以下,この光を非共鳴光という。)である工程と, 凸部の局所領域において,近接場光が発生し,照射する光が非共鳴光であるため,反応性ガスは,近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応する工程であって,前記反応性ガスは,非共鳴過程を経て解離されて,活性種を生成し,この活性種と凸部の原子,分子とが化学反応し,これによって,揮発性を有する反応生成物が生成され,この反応生成物が,排気口に接続された真空ポンプによってチャンバ外に排出される工程と, を含む,基板,または,薄膜の表面を平坦化する方法。」 2 引用文献2について また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開昭57-089474号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「特許請求の範囲 1.金属マスク膜を有するマスク原板を所定のパターン形状にエッチングするエッチング方法において,前記マスク原板に光を照射するとともに,この照射光が前記マスク原板から正規に反射した光の光量と,同じ照射光がマスク原板から乱反射した光の光量との比に基づいてエッチングの終了を検出することを特徴とするエッチング終点検出方法。」 すなわち,引用文献2には,基板処理工程において,反射光を受光して終点検出を行う方法が記載されている。 3 引用文献3について また,原査定の理由に引用された引用文献3(特開平05-175164号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 ドライエッチングにより被エッチング物をエッチングする際のエッチングの終点検出を,該被エッチング物に光を照射しその反射光を用いて行なう方法において, 反射光のうちの互いに波長が異なる少なくとも2つの光の強度の時間微分の絶対値を加算した信号の変化に基づいて,被エッチング物の終点を検出することを特徴とするドライエッチングにおける終点検出方法。」 すなわち,引用文献3には,基板処理工程において,反射光を受光して終点検出を行う方法が記載されている。 4 引用文献4について また,原査定に引用された引用文献4(特開平08-181387号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・「【請求項2】半導体基板上に少なくとも,前記半導体基板と屈折率の異なる半導体エッチング終点検出層,前記半導体エッチング終点検出層と屈折率の異なる半導体層を順次積層する工程と, フォトリソグラフィ工程によりマスクを形成する工程と, 前記マスクに覆われた部分以外をエッチングにより除去する工程とを含み, 前記エッチングにより除去する工程が,波長λのレーザ光を入射し,その反射光をモニタしながらエッチングを行う工程であることを特徴とする半導体光素子構造のエッチング方法。」 すなわち,引用文献4には,観測した屈折率の変化に基づいてエッチング終点を検出する技術が記載されている。 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明の「『基板上に積層されてなる,例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等の薄膜』における『基板』」と,本願発明1の「GaNからなる基板」とは,「基体」である点で一致する。 イ 引用発明の「基板上に積層されてなる,例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等の薄膜」と,本願発明1の「前記基板の表面に積層された前記基板と異なるSiO_(2)よりなる薄膜」とは,「前記基板の表面に積層された前記基板と異なる薄膜」である点で一致する。 ウ 引用発明の「反応性ガス」は,「近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応する」ものであって,「前記反応性ガスは,非共鳴過程を経て解離されて,活性種を生成し,この活性種と凸部の原子,分子とが化学反応し,これによって,揮発性を有する反応生成物が生成され,この反応生成物が,排気口に接続された真空ポンプによってチャンバ外に排出される」ものである。 また,引用発明において,「単に『基板』とのみ記載した場合は,薄膜も含まれるものとする」とされている。 そうすると,引用発明の「基板上に積層されてなる,例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等の薄膜に形成されている,ナノオーダの大きさから構成されている凸部を除去する,基板,または,薄膜の表面を平坦化する方法」とは,Cr等からなる薄膜の表面のうち,近接場光の発生しない平坦な表面はエッチング除去せず,前記Cr等からなる薄膜の表面に形成されているCr等からなる凸部のみを,非共鳴過程を経て解離した反応性ガスを用いて除去すること,すなわち,「薄膜に形成されている,ナノオーダの大きさから構成されている凸部」を「『反応性ガス』が『近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応する』」という特性に基づいて,前記Cr等からなる薄膜の平坦な表面に対して選択的に除去する平坦化方法であると理解される。 エ してみれば,引用発明の「基板上に積層されてなる,例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等の薄膜に形成されている,ナノオーダの大きさから構成されている凸部を除去する,基板,または,薄膜の表面を平坦化する方法」と,本願発明1の「GaNからなる基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なるSiO_(2)よりなる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,前記薄膜の一部が残存したナノオーダーの凸部を前記凸部の素材に基づき選択的に除去する表面平坦化方法」とは,以下の相違点1,2を除いて,「基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,ナノオーダーの凸部を選択的に除去する表面平坦化方法」である点で一致するといえる。 オ 引用発明の「チャンバ内のステージ上に,表面に凸部が形成されている基板(以下において,単に「基板」とのみ記載した場合は,薄膜も含まれるものとする)を配置する工程」は,本願発明1の「チャンバ内に前記基板積層体を載置する載置工程」に相当する。 カ 引用発明の「チャンバ内にガス供給部から反応性ガスを導入する工程であって,前記反応性ガスは,近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応するものである工程」は,本願発明1の「前記チャンバ内に,活性種となった場合に前記凸部の素材に基づき前記凸部と選択的に反応する反応性ガスを導入する導入工程」に相当する。 キ 引用発明の「光源から,反射ミラー等を介して基板に対して光を照射する工程であって,前記光は,前記反応性ガスを構成する分子の吸収端波長よりも長波長である光(以下,この光を非共鳴光という。)である工程」は,本願発明1の「前記凸部に近接場光を発生しうる波長の光を,前記基板積層体に照射する照射工程」に相当する。 ク 引用発明の「凸部の局所領域において,近接場光が発生し,照射する光が非共鳴光であるため,反応性ガスは,近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応する工程」は,本願発明1の「前記光の照射により前記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づく非共鳴過程を経て,前記反応性ガスを解離させて前記活性種を生成させる活性種生成工程」に相当する。 ケ 引用発明の「前記反応性ガスは,非共鳴過程を経て解離されて,活性種を生成し,この活性種と凸部の原子,分子とが化学反応し,これによって,揮発性を有する反応生成物が生成され,この反応生成物が,排気口に接続された真空ポンプによってチャンバ外に排出される工程」は,本願発明1の「生成された前記活性種と前記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることにより,前記凸部のみを前記凸部の素材に基づき選択的に除去する除去工程」に相当する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,ナノオーダーの凸部を選択的に除去する表面平坦化方法であって, チャンバ内に前記基板積層体を載置する載置工程と, 前記チャンバ内に,活性種となった場合に前記凸部の素材に基づき前記凸部と選択的に反応する反応性ガスを導入する導入工程と, 前記凸部に近接場光を発生しうる波長の光を,前記基板積層体に照射する照射工程と, 前記光の照射により前記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づく非共鳴過程を経て,前記反応性ガスを解離させて前記活性種を生成させる活性種生成工程と, 生成された前記活性種と前記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることにより,前記凸部のみを前記凸部の素材に基づき選択的に除去する除去工程と, を有することを特徴とする表面平坦化方法。」 (相違点) ・相違点1:一致点に係る「基板」及び「前記基板の表面に積層された前記基板と異なる薄膜」が,本願発明1では,「GaN」及び「SiO_(2)」であるのに対して,引用発明では,「例えば,シリコンウェハ(Si)等」及び「例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等」である点。 ・相違点2:一致点に係る「基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,ナノオーダーの凸部を選択的に除去する表面平坦化方法」が,本願発明1では,「GaNからなる基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なるSiO_(2)よりなる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,前記薄膜の一部が残存したナノオーダーの凸部を前記凸部の素材に基づき選択的に除去する表面平坦化方法」であるのに対して,引用発明は,「例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等の薄膜に形成されている,ナノオーダの大きさから構成されている凸部」を,「反応性ガス」が「近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応する」という特性に基づいて,前記「Cr薄膜等の薄膜」の平坦な表面に対して,選択的に除去することで,前記Cr薄膜等の薄膜を平坦化するものである点。 (2)相違点についての判断 事案にかんがみ,相違点2について先に検討する。 ア 本願発明1の「GaNからなる基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なるSiO_(2)よりなる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,前記薄膜の一部が残存したナノオーダーの凸部を前記凸部の素材に基づき選択的に除去する表面平坦化方法」は,文理上,「『GaNからなる基板』『と異なるSiO_(2)よりなる薄膜』『の一部が残存したナノオーダーの凸部』」を,「前記凸部の素材に基づき」,前記「SiO_(2)よりなる薄膜」が「残存」していない「GaNからなる基板」の表面に対して選択的に除去する表面平坦化方法であると理解される。 イ さらに,本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 ・「【背景技術】 【0002】 近年,半導体デバイスの微細化,高集積化に伴って,高度に微細化,多層化された薄膜構造を製造する技術が要求されている。このように,微細化,多層化された薄膜構造を製造する方法として,フォトリソグラフィやドライエッチングが用いられている(特許文献1参照)。 【0003】 フォトリソグラフィやドライエッチング等を用いて電子デバイスの配線形成や微細構造の加工を行う場合,一般的に,基板上にはフォトレジストや金属薄膜等,複数の異種材料からなる薄層が形成される。こうした基板およびその表面に薄層が形成された構造体を,以下基板積層体と称する。このような基板積層体の加工が進むに従い,異種材料からなる薄層は必要に応じて基板上から除去され,基板上には必要なパターンのみが残される。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開平08-031827号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかし,加工を行う基板上に微細な塵等が付着して,この塵により不必要な層の除去が十分に行われない場合等に,本来除去されるはずであった薄層が,数nmのサイズ(ナノオーダー)の凸部として基板表面上に僅かに残存してしまうことがある。こうして基板上に残存したナノオーダーの凸部を除去するために,更にドライエッチングを行うと,残すべきパターン等の構造部分までもエッチングしてしまう恐れがあった。この問題は特に,残すべき構造部分が不要な凸部と同じくナノオーダーである場合に特に顕著なものとなっていた。 【0006】 そのため,ナノオーダーの不要な凸部のみを選択的に除去することが可能なエッチング方法が強く望まれている。 【0007】 本発明は,上記課題を解決すべく案出されたものであり,その目的とするところは,基板上に残存するナノオーダーの微細な凸部をその材料に応じて選択的に除去することのできる近接場光を用いたエッチング方法を提供するところにある。」 ・「【発明の効果】 【0009】 本願請求項1に係る発明によると,除去したい不要な凸部に近接場光を発生させるとともに,当該凸部にその素材に基づき選択的に反応する反応性ガスの活性種を作用させることにより,残したいナノオーダーのパターン等を損なうことなく,不要な凸部のみを選択的にエッチングし,平坦化することができる。また,反応の進行に伴い,近接場光の発生する基板表面の凸部が除去され,自動的に平坦化の工程が終了することになる。このため,他からの特別の制御をすることなしに自己組織的に平坦化が施されることになり,その平坦化における工程が非常に簡便なものとなる。」 ・「【0043】 こうしてナノオーダーの凸部21および構造部分4のいずれの箇所にも近接場光が発生するが,同時に発生する反応性ガスの活性種は,上記凸部21のみと選択的に反応するものである。そのため,近接場光の発生しない基板積層体10表面の平坦な箇所や,基板2に形成されているナノオーダーの構造部分4(図1参照)周辺では反応は起こらず,凸部21の局所領域においてのみ選択的に反応が進行する。 【0044】 例えば,基板2がGaN,薄膜3が酸化膜SiO_(2)であり,凸部21がこの酸化膜SiO_(2)から形成されている場合,反応性ガスとしてCl_(2)を用い,波長532nmの光を照射する。これにより,SiO_(2)よりなるナノオーダーの凸部21に近接場光を発生させるとともに,SiO_(2)に対して選択的に作用する活性種が生成されるため,SiO_(2)からなる凸部21のみを選択的に除去することができるとともに,GaNからなるナノオーダーの構造部分4は保護することができる。」 ウ そうすると,本願の発明の詳細な説明の記載からも,本願発明1の「GaNからなる基板と,前記基板の表面に積層された前記基板と異なるSiO_(2)よりなる薄膜と,を有する基板積層体の表面において,前記薄膜の一部が残存したナノオーダーの凸部を前記凸部の素材に基づき選択的に除去する表面平坦化方法」は,「『GaNからなる基板』『と異なるSiO_(2)よりなる薄膜』『の一部が残存したナノオーダーの凸部』」を,「前記凸部の素材に基づき」,前記「SiO_(2)よりなる薄膜」が「残存」していない「GaNからなる基板」の表面に対して選択的に除去する表面平坦化方法であると理解することが自然といえる。 エ してみれば,「前記凸部に近接場光を発生しうる波長の光を,前記基板積層体に照射する照射工程と,前記光の照射により前記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づく非共鳴過程を経て,前記反応性ガスを解離させて前記活性種を生成させる活性種生成工程と,生成された前記活性種と前記凸部とを化学反応させて反応生成物を生成させることにより,前記凸部のみを前記凸部の素材に基づき選択的に除去する除去工程」における,当該「選択」が, 本願発明1では,「GaNからなる基板」に対して,「『前記基板と異なる』材質である『SiO_(2)よりなる薄膜』『の一部が残存したナノオーダーの凸部』」を,「前記凸部の素材に基づき選択的に除去する」ものであるのに対して, 引例発明では,「例えば,フォトマスクとして使用されるCr薄膜等の薄膜」に対して,前記薄膜に形成されている前記薄膜と同じ材質からなる「ナノオーダの大きさから構成されている凸部」を,「『反応性ガス』が『近接場光の発生しない基板表面の平坦な箇所では反応せず,近接場光の発生している凸部の局所領域においてのみ反応する』」という特性に基づいて選択的に除去するものである点で相違する。 そして,引用文献1には,「基板」に対して,「『前記基板と異なる』材質である『薄膜』『の一部が残存したナノオーダーの凸部』」を,前記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づく非共鳴過程を経て生成された活性種との前記化学反応によって選択的に除去するという構成は,記載も示唆もされていない。 オ さらに,引用文献2ないし4のいずれにも,「基板」に対して,「『前記基板と異なる』材質である『薄膜』『の一部が残存したナノオーダーの凸部』」を,前記凸部の局所領域に発生した近接場光に基づく非共鳴過程を経て生成された活性種との前記化学反応によって選択的に除去するという構成は,記載も示唆もされていない。 カ そして,本願発明1は,上記の構成を備えることによって,本願の発明の詳細な説明に記載した,「加工を行う基板上に微細な塵等が付着して,この塵により不必要な層の除去が十分に行われない場合等に,本来除去されるはずであった薄層が,数nmのサイズ(ナノオーダー)の凸部として基板表面上に僅かに残存してしまうことがある。こうして基板上に残存したナノオーダーの凸部を除去するために,更にドライエッチングを行うと,残すべきパターン等の構造部分までもエッチングしてしまう恐れがあった。この問題は特に,残すべき構造部分が不要な凸部と同じくナノオーダーである場合に特に顕著なものとなっていた。」という課題を解決することができるという格別の効果を奏するものと認められる。 キ したがって,引用発明において,相違点2について本願発明1の構成を採用することは,引用文献1ないし4に記載された技術的事項からは,当業者が容易になし得たこととは認められない。 したがって,他の相違点については判断をするまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は,本願発明1を引用する発明であって,本願発明1の全ての構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は,請求項1-4について上記引用文献1ないし4に基づいて,請求項1,3に係る発明は,引用文献1に記載された発明であり,また,請求項1ないし4に係る発明は,引用文献1ないし4に記載された発明から,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第1項第3号,及び,同条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,平成29年10月2日付けの手続補正書により補正された請求項1,2は,上記「第4 対比・判断」で検討したとおり,上記引用文献1に記載された発明ではなく,また,上記引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 1 特許法第36条第6項第1号について 当審では,「請求項2には,『受光した前記反射光の上記基板に接している大気と前記凸部の素材との屈折率を観測し,観測した屈折率の変化に基づき前記除去工程の終了を検出する検出工程』を含む発明が記載されているが,発明の詳細な説明には,当該工程を含む発明は記載されていない。したがって,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるという要件を満たすものとは認められない。請求項2を引用する請求項3,4も同様である。」との拒絶の理由を通知しているが,平成29年10月2日付けの補正において,補正前の請求項2が削除された結果,この拒絶の理由は解消した。 2 特許法第36条第6項第2号について 当審では,「請求項2の『受光した前記反射光の上記基板に接している大気と前記凸部の素材との屈折率を観測し』は,日本語として不明確であって,その意味を理解することができない。すなわち,前記『・・・の・・・と・・・との・・・を・・・し』の構文の,各要素がどのように関連しているのか,明確に理解することができない。また,請求項2の『受光した前記反射光の上記基板に接している大気と前記凸部の素材との屈折率を観測し,観測した屈折率の変化に基づき前記除去工程の終了を検出する検出工程』が,具体的にどのような工程(操作,作業)を特定しているのか,発明の詳細な説明の記載,及び,技術常識を参酌しても,その技術的な内容を理解することができない。」との拒絶の理由を通知しているが,平成29年10月2日付けの補正において,補正前の請求項2が削除された結果,この拒絶の理由は解消した。 3 特許法第36条第4項第1号について 当審では,請求項2及び請求項4に係る発明について,本願の発明の詳細な説明の記載,及び,技術常識からは,当業者が当該発明を実施することができるとは認められないとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年10月2日付けの補正において,補正前の請求項2及び請求項4が削除された結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明1,2は,引用文献1に記載された発明ではなく,また,当業者が引用発明及び引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-11-28 |
出願番号 | 特願2012-156812(P2012-156812) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L) P 1 8・ 121- WY (H01L) P 1 8・ 537- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小川 将之、杢 哲次 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
深沢 正志 加藤 浩一 |
発明の名称 | 近接場光を用いたエッチング方法 |
代理人 | 安彦 元 |