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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1334809 |
審判番号 | 不服2016-8151 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-02 |
確定日 | 2017-11-22 |
事件の表示 | 特願2013-509148「腫瘍の診断と治療のための組成物と方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月10日国際公開、WO2011/139985、平成25年8月29日国内公表、特表2013-533732〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成23年5月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年5月3日 米国)を国際出願日とする出願であって,手続の経緯は次のとおりである。 平成25年 1月 4日 翻訳文提出 平成27年 5月22日付け 拒絶理由通知書 平成27年12月 2日 意見書・手続補正書 平成28年 1月27日付け 拒絶査定 平成28年 6月 2日 審判請求書 2 本願発明 本願の請求項1?47に係る発明は,平成27年12月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?47に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1?4,38に係る発明(以下,それぞれ,「本願発明1?4,38」という。)は,次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 (a)配列番号10のCDR-L1配列、 (b)配列番号13のCDR-L2配列、 (c)配列番号16のCDR-L3配列、 (d)配列番号19のCDR-H1配列、 (e)配列番号23のCDR-H2配列、及び (f)配列番号27のCDR-H3配列 を含み、配列番号2のアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン配列を含むTAT425に結合する、単離された抗体。」 「【請求項2】 (a)配列番号10のCDR-L1配列、 (b)配列番号13のCDR-L2配列、 (c)配列番号16のCDR-L3配列、 (d)配列番号20のCDR-H1配列、 (e)配列番号24のCDR-H2配列、及び (f)配列番号28のCDR-H3配列 を含み、配列番号2のアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン配列を含むTAT425に結合する、単離された抗体。」 「【請求項3】 (a)配列番号11のCDR-L1配列、 (b)配列番号14のCDR-L2配列、 (c)配列番号17のCDR-L3配列、 (d)配列番号21のCDR-H1配列、 (e)配列番号25のCDR-H2配列、及び (f)配列番号29のCDR-H3配列 を含み、配列番号2のアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン配列を含むTAT425に結合する、単離された抗体。」 「【請求項4】 (a)配列番号12のCDR-L1配列、 (b)配列番号15のCDR-L2配列、 (c)配列番号18のCDR-L3配列、 (d)配列番号22のCDR-H1配列、 (e)配列番号26のCDR-H2配列、及び (f)配列番号30のCDR-H3配列 を含み、配列番号2のアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン配列を含むTAT425に結合する、単離された抗体。」 「【請求項38】 哺乳動物において腫瘍の存在を決定する方法であって、該方法が、該哺乳動物から採取した組織細胞の試験試料、及び同じ組織起源の既知の正常細胞のコントロール試料における、TAT425ポリペプチドをコードする遺伝子の発現レベルを決定することを含み、ここでTAT425ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン配列を含むものであり、コントロール試料と比較して試験試料における該TAT425ポリペプチドの発現レベルがより高いことが、試験試料を採取した哺乳動物における腫瘍の存在を示す、方法。」 3 引用刊行物 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された国際公開第2005/003154号(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は,対応する日本語文献である特表2008-500949号公報を参考に,当審が行った。 (1-a)「発明の概要 A.実施態様 本明細書において、本出願人は、正常な非癌細胞の一又は複数の型の表面と比較して、癌細胞の一又は複数の型の表面でより多く発現される種々の細胞性ポリペプチド(及びそれらのコード核酸又はその断片)の同定を最初に記載する。あるいは、そのようなポリペプチドは癌細胞に増強又は成長亢進効果を有するポリペプチドを産生及び/又は分泌する細胞によって発現される。また別には、そのようなポリペプチドは、同じ組織型の正常な細胞と比較して腫瘍細胞によって過剰発現されることはないが、むしろ単一又は非常に限られた数の組織型(好ましくは生命に必須ではない組織、例えば前立腺等)の正常細胞と腫瘍細胞の双方によって特異的に発現されうる。ここで、上記のポリペプチドは全て、腫瘍関連抗原性標的(Tumor-associated Antigenic Target)ポリペプチド(「TAT」ポリペプチド)と呼ばれ、哺乳動物における癌治療及び診断の効果的な標的となることが予想される。」(第2頁第24?35行) (1-b)「B.更なる実施態様 本発明の他の実施態様は、TATポリペプチドを発現する細胞の成長を阻害する方法に関し、該方法は、細胞を、TATポリペプチドと結合する抗体、オリゴペプチド又は小有機分子と接触させることを含み、ここでTATポリペプチドへの抗体、オリゴペプチド又は有機分子の結合がTATポリペプチドを発現する細胞の成長の阻害を引き起こす。好適な実施態様では、細胞は癌細胞であり、TATポリペプチドへの抗体、オリゴペプチド又は有機分子の結合がTATポリペプチドを発現する細胞の死を引き起こす。」(第6頁第22?28行) (1-c)「本発明の他の実施態様は(a)TATポリペプチド、(b)TATポリペプチドをコードする核酸又はその核酸を含むベクター又は宿主細胞、(c)抗TATポリペプチド抗体、(d)TAT結合オリゴペプチド、又は(e)TAT結合小有機分子の、(i)癌又は腫瘍の治療的処置又は診断的検出、又は(ii)細胞増殖性疾患の治療的処置又は防止に有用な医薬の製造における使用に関する。」(第8頁第3?6行) (1-d)「C.更なる付加的実施態様 更なる実施態様において、発明は本出願の潜在的請求項に関する。 ・・・(途中,省略)・・・ 16.(a)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたアミノ酸配列; (b)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたアミノ酸配列であって、その関連シグナルペプチド配列を欠くもの; (c)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたポリペプチドの細胞外ドメインのアミノ酸配列であって、その関連シグナルペプチド配列を持つもの; (d)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたポリペプチドの細胞外ドメインのアミノ酸配列であって、その関連シグナルペプチド配列を欠くもの; (e)図1-7(配列番号1-7)の何れか一に示されたヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列;又は (f)図1-7(配列番号1-7)の何れか一に示されたヌクレオチド配列の完全長コード化領域によりコードされるアミノ酸配列; を有するポリペプチドに結合する単離された抗体。」(第8頁第33行?第11頁第21行) (1-e)「98.哺乳動物において腫瘍の存在を決定する方法であって、該方法が、該哺乳動物から採取した組織細胞の試験試料、及び同じ組織起源の既知の正常細胞のコントロール試料における、 (a)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたポリペプチド; (b)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたポリペプチドであって、その関連シグナルペプチドを欠くもの; (c)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたポリペプチドの細胞外ドメインであって、その関連シグナルペプチドを持つもの; (d)図8-14(配列番号8-14)の何れか一に示されたポリペプチドの細胞外ドメインであって、その関連シグナルペプチドを欠くもの; (e)図1-7(配列番号1-7)の何れか一に示されたヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチド;又は (f)図1-7(配列番号1-7)の何れか一に示されたヌクレオチド配列の完全長コード化領域によりコードされるポリペプチド; に対して、少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを決定することを含み、コントロール試料と比較して試験試料における該タンパク質の発現レベルがより高いことが、試験試料を採取した哺乳動物における腫瘍の存在を示す、方法。」(第17頁第35行?第18頁第12行) (1-f)「実施例1:GeneExpress(登録商標)を用いた組織発現プロファイリング 他の腫瘍及び/又は正常組織に比べて対象となる特定の腫瘍組織において発現が顕著に上方制御されるポリペプチド(及びそれをコードする核酸)を同定するために、遺伝子発現情報を含む専有データベース(GeneExpress(登録商標)、Gene Logic Inc.、米国メリーランド州ゲイサーズバーグ)を分析した。具体的に言うと、GeneExpress(登録商標)データベースの分析は、Gene Logic Inc.(米国メリーランド州ゲイサーズバーグ)から入手できるGeneExpress(登録商標)データベースで使用するソフトウェア、またはGeneExpress(登録商標)データベースで使用する、ジェネンテック社で作成され、開発された専有ソフトウェアを用いて行った。分析のポジティブヒットの評価は、例えば、正常基本組織及び/又は正常増殖性組織における組織特異性、腫瘍特異性及び発現レベルなどを含むいくつかの基準に基づく。GeneExpress(登録商標)データベースの分析により決定される組織発現プロファイルが、他の腫瘍組織及び/又は正常組織に比べて特定の腫瘍組織または腫瘍組織において高い組織発現及び顕著な発現の上方制御を示し、状況に応じて正常基本組織及び/又は正常増殖性組織において比較的低い発現を示す分子のリストは以下の通りである。このように、以下のリストの分子は、哺乳動物の癌の診断及び治療のための優れたポリペプチド標的である。 分子 発現上昇が見られる腫瘍 比較対象 ・・・(途中,省略)・・・ DNA340411(TAT425) 腎臓腫瘍 正常腎臓組織 DNA340411(TAT425) 前立腺腫瘍 正常前立腺組織 ・・・(途中,省略)・・・」(第111頁第33行?第112頁第34行) (1-g)「実施例3:インサイツハイブリダイゼーション インサイツハイブリダイゼーションは、細胞又は組織調製物内での核酸配列の検出及び局在化のための強力で多用途の技術である。それは、例えば、遺伝子発現部位の同定、転写物の組織分布の分析、ウイルス感染の同定と局在化、特定のmRNA合成における変化の追跡及び染色体マッピングにおける補助に有用である。 ・・・(途中,省略)・・・ G.結果 ここに開示した様々なDNA配列についてインサイツ分析を実施した。これらの分析の結果は次の通りである: (1)DNA340411(TAT425) 正常な前立腺上皮に弱?中程度の発現が観察されたが、試験したそれ以外の正常組織に発現が陽性であったものは無かった。対照的に、64例中46例の原発性前立腺癌において発現が陽性であり、14例中6例の転移性前立腺癌において発現が陽性であった。」(第113頁第29行?第115頁第20行) (1-h)「実施例11:TATに結合する抗体の調製 この実施例は、TATに特異的に結合できるモノクローナル抗体の調製を例示する。 モノクローナル抗体の生産のための技術は、この分野で知られており、例えば、上掲のGodingに記載されている。使用することができる免疫原には、精製TAT、TATを含む融合タンパク質、及び細胞表面上に組換えTATを発現する細胞が含まれる。免疫原の選択は、当業者が過度の実験をすることなくなすことができる。 Balb/c等のマウスを、完全フロイントアジュバントに乳化して皮下又は腹腔内に1-100マイクログラムで注入したTAT免疫原で免疫化する。あるいは、免疫原をMPL-TDMアジュバント(Ribi Immunochemical Researh, Hamilton, MT)に乳化し、動物の後足蹠に注入してもよい。免疫化したマウスは、次いで10から12日後に、選択したアジュバント中に乳化した付加的免疫源で追加免疫する。その後、数週間、マウスをさらなる免疫化注射で追加免疫する。抗TAT抗体の検出のためのELISAアッセイで試験するために、レトロオービタル出血からの血清試料をマウスから周期的に採取してもよい。 適当な抗体力価が検出された後、抗体に「ポジティブ(陽性)」な動物に、TATの静脈内注射の最後の注入をすることができる。3から4日後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を取り出した。次いで脾臓細胞を(35%ポリエチレングリコールを用いて)、ATCCから番号CRL1597で入手可能なP3X63AgU.1等の選択されたマウス骨髄腫株化細胞に融合させた。融合によりハイブリドーマ細胞が生成され、次いで、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン)培地を含む96ウェル組織培養プレートに蒔き、非融合細胞、骨髄腫ハイブリッド、及び脾臓細胞ハイブリッドの増殖を阻害した。 ハイブリドーマ細胞は、TATに対する反応性についてのELISAでスクリーニングされる。TATに対する所望のモノクローナル抗体を分泌する「ポジティブ(陽性)」ハイブリドーマ細胞の決定は、技術常識の範囲内である。 陽性ハイブリドーマ細胞を同系のBalb/cマウスに腹腔内注入し、抗TATモノクローナル抗体を含む腹水を生成させる。あるいは、ハイブリドーマ細胞を、組織培養フラスコ又はローラーボトルで成長させることもできる。腹水中に生成されたモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム沈降、それに続くゲル排除クロマトグラフィ-を用いて行うことができる。あるいは、抗体のプロテインA又はプロテインGへの親和性に基づくアフィニティクロマトグラフィーを用いることもできる。 本明細書に記載したTATポリペプチドの一部を目的とする抗体が、この技術を用いて成功裏に生成された。具体的には、TATタンパク質を認識してそれに結合できる(標準ELISA、FACS分析及び/又は免疫組織学的分析により測定)機能的モノクローナル抗体が、本明細書に記載する多数のTATタンパク質、例えばTAT430(DNA226961)に対して成功裏に生成された。」(第123頁第5?35行) (1-i)「図面の簡単な説明 図3は,TAT425cDNAのヌクレオチド配列(配列番号3)を示し,ここで,配列番号3は本明細書において「DNA340411」と命名されたクローンである。 ・・・(途中,省略)・・・ 図10は,図3に示される配列番号3のコード配列に由来するアミノ酸配列(配列番号10)を示す。」(第24頁第36行?第25頁第17行) (1-j)「 」(第10図) (2)引用例2 原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された「Ho LL1,et al.,Androgen regulation of multidrug resistance-associated protein 4 (MRP4/ABCC4) in prostate cancer,Prostate,2008年7月9日,68(13),p.1421-9」(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。 (2-a)「背景。MRP4/ABCC4は,正常な前立腺に発現するATP結合カセット輸送体である。本研究は,前立腺の正常組織および悪性組織におけるMRP4/ABCC4の発現パターン,および,MRP4/ABCC4の発現とアンドロゲン・シグナルへの応答機能との関連性を明らかにすることを目的とする。」(第1421頁「BACKGROUND」) (2-b)「MRP4/ABCC4は,他のMRPと交差反応しないモノクローナル抗体MI4-10を用いて検出された。」(第1422頁右欄第35?37行) (3)引用例3 原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用された「Norris MD. et al.,Expression of multidrug transporter MRP4/ABCC4 is a marker of poor prognosis in neuroblastoma and confers resistance to irinotecan in vitro,Mol Cancer Ther. ,2005年4月,4(4),p.547-53」(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。 (3-a)「要約 輸送体の多剤耐性関連タンパク質(MRP)のファミリーのメンバーは,細胞毒性の薬剤耐性および化学療法の障害に対して貢献すると信じられている。我々が以前にMRPが予測指標となることを示した疾病である活性状態の原発性神経芽細胞腫において,頻繁にMRP4が過剰発現していることを観察した。MRP4の高発現は,MYCN癌遺伝子の増幅と相互関連性があり,不十分な臨床成果と有意な関連性があった。MRP4は,いくつかのヌクレオシド類似体の輸送を行うものとして知られているが,これまで,固形癌の治療に用いられる薬剤に対する耐性とは関連性がなかった。我々は,ここで,MRP4が,トポイソメラーゼI毒性のイリノテカン/CPT11およびその活性代謝産物であるSN-38に対して,体外での実質的な耐性を介在することを示す。これらの結果は,MRP4が神経芽細胞腫のための有用な診断マーカーとなること,および,神経芽細胞腫の治療としてイリノテカンの臨床試験は,MRP4の発現を監視すべきであることを示唆する。輸送体を高レベルで発現する他の腫瘍タイプに対しても同様であろう。」(第547頁左欄?右欄「ABSTRACT」) (3-b)「溶解物(各レーンにつき20μgのタンパク質)は,SDS-PAGEおよびモノクローナル抗体2E10(12C4と類似;参考文献3)とMI4-10を用いてMRP4をプローブするブロットされたタンパク質によって分析された。」(第548頁右欄第44?47行) (4)引用例4 原査定の拒絶の理由で引用文献7として引用された国際公開第00/58471号(以下,「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。 (4-a)「請求項10.単離されたMRP4タンパク質またはその断片。 ・・・(途中,省略)・・・ 請求項14.抗体結合を許容する環境下において非MRP4タンパク質またはそのホモログに対して実質的に交差反応せず,請求項10のタンパク質に特異的に結合することができる抗体。」(第79頁第30行?第80頁第13行) (4-b)「抗MRP4モノクローナル抗体を製造する方法もまたよく知られている。・・・(途中,省略)・・・典型的には,抗MRP4モノクローナル抗体を製造するための前記した方法において免疫源として,本発明のMRP4またはペプチドの類似体が,単独で,または,免疫源キャリアと結合して用いられる。MRP4のペプチド類似体および本MRP4と免疫反応する抗MRP4抗体を生産する能力のために,ハイブリドーマがスクリーニングされる。」(第24頁第30行?第25頁第5行) (5)引用例5 原査定の拒絶の理由で引用文献8として引用された「Leggas M. et al.,Mrp4 confers resistance to topotecan and protects the brain from chemotherapy,Molecular and Cellular Biology,2004年9月,Vol. 24,No. 17,p.7612-21」(以下,「引用例5」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。 (5-a)「抗体の産生,免疫ブロット,および,免疫組織化学。ネズミののMRP4/ABCC4配列のカルボキシ末端由来のキーホールリンペットヘモシアニンに結合した17残基のペプチド(NTS NGQ PSA LTI FET AL)を用いてウサギを免疫することによって,ポリクローナルの抗マウスMRP4抗血清(MRP4-mp)を生成した。我々は,また,マウスのMRP4の一致領域に交差反応する抗ヒトMRP4抗体(MRP4-hp)を用いた。 ・・・(途中,省略)・・・ 更なる分析のため,M_(4)I-10およびM_(4)I-80の2つの抗体を選択した。それらのアイソタイプは,アイソタイプ特異的な2段階試薬(Nordic,Tilburg,オランダ)を用いることによって決定された。約180000kDaの全長のMRP4に対するこれらのモノクローナル抗体の活性は,MRP4を過剰発現するHEK細胞の断片と共にウェスタン・ブロット分析を行うことによって示された。これらのモノクローナル抗体は,野生型およびMRP^(-/-)のマウス由来の腎臓のタンパク質断片のウェスタン・ブロット分析において,マウスのオルソログのMRP4にも反応した。」(第7613頁左欄第30?55行) (6)引用例6 原査定の拒絶の理由で引用文献9として引用された「Wielinga PR. et al.,Thiopurine metabolism and identification of the thiopurine metabolites transported by MRP4 and MRP5 overexpressed in human embryonic kidney cells,Molecular Pharmacology,2002年12月,Vol. 62,No. 6,p.1321-31」(以下,「引用例6」という。)には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。 (6-a)「モノクローナル抗体。抗MRP5モノクローナル抗体(mAb)であるNKI-12C5は,マウスNRP5のアミノ末端と融合する大腸菌のマルトース結合タンパク質を構成する融合タンパク質を製造するため,アミノ酸1?38をコードするマウスMRP4のcDNAの断片をpMAL-cベクター(New England Biolabs,Beverly,MA)へクローニングすることによって生成された。本質的には前述したとおり(HarlowおよびLane,1988年),アフィニティ精製したタンパク質をラットに投与して,MRP5に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を生成した。MRP4に特異的な抗体であるNKI-12C4は,ヒトのMRP4由来の内部エピトープ(アミノ酸372-432)を含むマルトース結合タンパク質の融合タンパク質を用いる同様の方法によって生成された。」(第1322頁右欄第40?59行) (7)引用例7 「MRP4(多剤耐性関連タンパク質4)」の配列を確認するため,当審において新たに引用する「Database Protein, [online], Database Protein, [online],〈https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/157502201?sat=13&satkey=12582444〉19-APR-2010 uploaded. [retrieved on 09-JUN-2017],Definition: Multidrug resistance-associated protein 4 isoform 1 [Homo sapiens]」(以下,「引用例7」という。)には,以下の事項が記載されている。 (7-a)「ORIGIN 1 mlpvyqevkp nplqdanlcs rvffwwlnpl fkighkrrle eddmysvlpe drsqhlgeel 61 qgfwdkevlr aendaqkpsl traiikcywk sylvlgiftl ieesakviqp iflgkiinyf 121 enydpmdsva lntayayatv ltfctlilai lhhlyfyhvq cagmrlrvam chmiyrkalr 181 lsnmamgktt tgqivnllsn dvnkfdqvtv flhflwagpl qaiavtallw meigisclag 241 mavliillpl qscfgklfss lrsktatftd arirtmnevi tgiriikmya weksfsnlit 301 nlrkkeiski lrssclrgmn lasffsaski ivfvtfttyv llgsvitasr vfvavtlyga 361 vrltvtlffp saiervseai vsirriqtfl lldeisqrnr qlpsdgkkmv hvqdftafwd 421 kasetptlqg lsftvrpgel lavvgpvgag kssllsavlg elapshglvs vhgriayvsq 481 qpwvfsgtlr snilfgkkye keryekvika calkkdlqll edgdltvigd rgttlsggqk 541 arvnlaravy qdadiylldd plsavdaevs rhlfelcicq ilhekitilv thqlqylkaa 601 sqililkdgk mvqkgtytef lksgidfgsl lkkdneeseq ppvpgtptlr nrtfsessvw 661 sqqssrpslk dgalesqdte nvpvtlseen rsegkvgfqa yknyfragah wivfiflill 721 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「哺乳動物において腫瘍の存在を決定する方法であって、該方法が、該哺乳動物から採取した組織細胞の試験試料、及び同じ組織起源の既知の正常細胞のコントロール試料における、図10(配列番号10)のTAT425ポリペプチドに対して、少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の発現レベルを決定することを含み、コントロール試料と比較して試験試料における該タンパク質の発現レベルがより高いことが、試験試料を採取した哺乳動物における腫瘍の存在を示す、方法。」 (以下,「引用発明B」という。) (2)引用例1の図10に記載のアミノ酸配列は,本願発明1?4の配列番号2のアミノ酸配列と完全に一致している。したがって,本願発明1?4と引用発明Aとを対比すると,両者は, 「配列番号2のアミノ酸配列を含むTAT425に結合する、単離された抗体。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 相違点1:本願発明1?4においては,それぞれ,抗体のCDR-L1?CDR-L3,および,CDR-H1?CDR-H3のアミノ酸配列が特定されているのに対し,引用発明Aにおいては,抗体のそれぞれのCDRのアミノ酸配列が特定されていない点。 (3)引用例1の図10に記載のアミノ酸配列は,本願発明38の配列番号2のアミノ酸配列と完全に一致している。したがって,本願発明38と引用発明Bとを対比すると,両者は, 「哺乳動物において腫瘍の存在を決定する方法であって、該方法が、該哺乳動物から採取した組織細胞の試験試料、及び同じ組織起源の既知の正常細胞のコントロール試料における、TAT425ポリペプチドと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを決定することを含み、ここでTAT425ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列又はその細胞外ドメイン配列を含むものであり、コントロール試料と比較して試験試料における該TAT425ポリペプチドの発現レベルがより高いことが、試験試料を採取した哺乳動物における腫瘍の存在を示す、方法。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 相違点2:発現レベルを決定するものが,本願発明においては,TAT425ポリペプチドをコードする遺伝子であるのに対し,引用発明においては,図10(配列番号10)のTAT425ポリペプチドに対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードする遺伝子である点。 5 当審の判断 (1)本願発明1?4(相違点1) 引用例1には,TAT425に結合する抗体のアミノ酸配列が具体的に開示されていないものの,上記記載事項(1-h)のとおり,TAT抗体を取得するための具体的な手段が開示されているうえ,本願明細書の段落【0377】に示されるように,本願優先日において,「M4I-80ラット抗TAT425モノクローナル抗体」が既に市販されていたこと,および,引用例2?6に記載されているように,本願優先日において,MRP/ABCC4に結合する複数の種類のモノクローナル抗体が実際に取得されていたことに鑑みれば,TAT425に対する抗体の取得が不可能であった,もしくは,著しく困難であったとする事情は実際上も存在していなかったと考えられ,引用例1に接した当業者であれば,上記記載事項(1-h)に示される手段によって,抗体を取得することに何ら困難性を要するものではなく,さらに取得された抗体のアミノ酸配列や,CDRのアミノ酸配列を常法により特定することにも,格別の困難性はない。 ここで,本願発明1?4に記載の「TAT425」は,技術用語として確立したものではないが,その配列番号2は,引用例7に記載の「MRP4」のアミノ酸配列と完全に一致していることから,また,本願発明1?4の「TAT425」は,引用例2?6に記載の「MRP4/ABCC4」と同一のタンパク質を意味していると認められる。 なお,引用例1の上記記載事項(1-h)に示される手段は,本願明細書の段落【0370】?段落【0374】に開示される「実施例5:TAT425ポリペプチドに結合する抗体の調製」と同様であることを考慮しても,引用例1の記載に基づいて,本願発明1?4と同等の抗体を取得することは当業者にとって容易である。 そして,このように,TAT425に対する抗体を取得しようとする手段が引用例1に開示されていて,その手段を用いればTAT425に特異的に結合する抗体を取得することは当業者にとって容易であるところ,TAT425に特異的に結合する抗体として,様々なアミノ酸配列を有するものが複数取得されると考えられるものの,本願明細書を参酌しても,本願発明1?4の抗体がTAT425に対する特異的結合性以外に優れた効果を発揮することが示されている訳ではない。つまり,本願発明1?4の抗体は,いずれも当業者が容易に取得可能な様々な抗体のうちの1つを選択して,そのCDRのアミノ酸配列を決定したものに過ぎず,しかも,何らかの効果に優れる抗体を選択したと言うこともできない以上,本願発明1?4の進歩性を認めることは相当ではない。 したがって,相違点1は,当業者が容易に想到できたものである。 (2)本願発明38(相違点2) 引用例1には,前記記載事項(1-f)から,「DNA340411(TAT425)」は,正常組織と比較して腫瘍組織において発現上昇が見られることが示されており,また,前記記載事項(1-g)から,原発性前立腺癌および転移性前立腺癌の両方において 「DNA340411(TAT425)」の発現が陽性であったことが示されており,「DNA340411」は,TAT425と100%のアミノ酸同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子に相当すると認められる。 このように,引用例1には,腫瘍組織におけるTAT425そのものをコードする遺伝子の発現上昇が示されているから,TAT425をコードする遺伝子を発現レベルの決定対象とすることは,当業者が容易に想到できたものである。 (3)まとめ 上記(1)及び(2)の検討のとおり,本願発明1?4,38は,引用例1に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 6 審判請求人の主張 審判請求人は,平成28年6月2日付けの審判請求書において,概ね以下の点を主張している。 (1)引用文献4?11は,本明細書に記載の2E4.6.1抗体,4D11.17.2抗体,13H2.28.2抗体,14E7.17.1抗体に対応する6つの全てのCDR又は軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方のアミノ酸配列が特定された抗TAT425抗体を教示も示唆もしていない。 (2)本願明細書の実施例5,7では,本願請求項に係るモノクローナル抗体,2E4.6.1,4D11.17.2,13H2.28.2,及び14E7.17.1が,様々な細胞の表面に発現されたTAT425ポリペプチドに結合することを示すと共に,これら各抗体が,TAT425タンパク質における独立で,重複しない細胞外抗原エピトープにそれぞれ結合することを実証している。 (3)本願明細書の実施例6では,本願請求項に係る抗TAT425抗体が実際に,原発性ヒト前立腺癌試料及びの転移性ヒト前立腺癌試料の両方に結合することを示しており,本願発明に係る抗体が,ヒトの疾患に生理学的に関連性のあるエピトープ/TAT425ドメインを認識できることを実証している。 まず,上記の審判請求人の主張は,抗TAT425抗体の軽鎖及び重鎖可変領域の6つのCDRのアミノ酸配列を特定したことを前提としているのであるところ,本願発明38はそのような特定事項を含まないことから,本願発明38に関する主張としては失当である。 次に,本願発明1?4について,上記の審判請求人の主張を検討する。 審判請求人の主張(1)に関し,本願発明1?4のようなモノクローナル抗体の構造(CDR領域を含む全体のアミノ酸配列)は,抗原を投与された動物の免疫系細胞における遺伝子再編成の結果物であって,発明者は常套手段によりアミノ酸配列を解析したにすぎないから,上述のとおり,抗TAT425モノクローナル抗体を取得することが当業者にとって容易である以上,引用発明Aとのアミノ酸配列の相違に基づいて本願発明1?4の構成の困難性を主張することは失当である。 したがって,審判請求人の主張(1)を採用することはできない。 審判請求人の主張(2)に関し,引用発明の抗体が,TAT425ポリペプチドに結合するものであることは明らかである。また,本願発明1?4は,2E4.6.1,4D11.17.2,13H2.28.2,及び14E7.17.1の4種類の抗体の混合物に関するものではないから,実施例7に基づく主張は,本願発明1?4の特定事項に対応したものではなく,採用することができない。 仮に,検討したとしても,原審審査官が平成28年1月27日付けの原査定で指摘しているように,TAT425は1325アミノ酸を有するポリペプチドであるところ,そのような分子量の大きなポリペプチドについて,結合が競合しない程度に異なるエピトープを有する抗体が複数得られることも当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとは言えない。 したがって,審判請求人の主張(2)を採用することはできない。 審判請求人の主張(3)に関し,引用例1の上記記載事項(1-g)にも,原発性前立腺癌および転移性前立腺癌の両方において「DNA340411(TAT425)」の発現が陽性であったことが示されているから,TAT425に対する結合能を有する引用発明Aの抗体を用いた場合に,原発性ヒト前立腺癌試料および転移性ヒト前立腺癌試料の両方に結合することは,当業者が容易に予測できたことである。 なお,本願明細書の段落【0377】には,「商業的に入手されたM4I-80ラット抗TAT425モノクローナル抗体を用いて免疫組織化学分析を行った。」と記載されていることから,段落【0378】に示される実施例6の結果は,本願発明1?4の抗体に対応したものではなく,本願優先日前に市販されていた「M4I-80ラット抗TAT425モノクローナル抗体」に対応したものであるとの疑念が生じるものの,いずれであっても,上記判断を左右するものではない。 したがって,審判請求人の主張(3)を採用することはできない。 7 むすび 以上のとおりであるから,本願請求項1?4,38に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-16 |
結審通知日 | 2017-06-20 |
審決日 | 2017-07-06 |
出願番号 | 特願2013-509148(P2013-509148) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 匡子 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
長井 啓子 山崎 利直 |
発明の名称 | 腫瘍の診断と治療のための組成物と方法 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |